JP2010207917A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】Ni基合金、Co基合金などの耐熱合金の高速切削条件下で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】工具基体表面に、薄層Aと薄層Bと薄層Cの積層構造からなり、かつ、薄層Bと薄層Cが薄層Aを介して交互に積層されてなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、薄層Aは、(Ti,Al)N層あるいは(Ti,Al,Si)N層のいずれか、薄層Bは、(Cr,Al)N層あるいは(Cr,Al,Si)N層のいずれか、また、上記薄層Cは、(Ti,Si)N層からなる。
【選択図】 なし
【解決手段】工具基体表面に、薄層Aと薄層Bと薄層Cの積層構造からなり、かつ、薄層Bと薄層Cが薄層Aを介して交互に積層されてなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、薄層Aは、(Ti,Al)N層あるいは(Ti,Al,Si)N層のいずれか、薄層Bは、(Cr,Al)N層あるいは(Cr,Al,Si)N層のいずれか、また、上記薄層Cは、(Ti,Si)N層からなる。
【選択図】 なし
Description
この発明は、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の切削加工を、高い発熱を伴う高速切削条件で行った場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、具体的な被覆工具としては、例えば、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金で構成された工具基体の表面に、まず、CrとAl系の複合窒化物層(以下、(Cr,Al)N層という)を形成し、ついで、TiとSi系の複合窒化物層(以下、(Ti,Si)N層という)を形成し、さらに、上記(Cr,Al)N層と上記(Ti,Si)N層との形成を繰り返し行ない、上記各層の交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具(以下、従来被覆工具という)が知られており、この従来被覆工具が、合金鋼、工具鋼、Ti合金等の切削加工においてすぐれた耐チッピング性を示すことも知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、例えば、蒸着形成する硬質被覆層の種類に応じた成分組成を有するCr−Al系合金及びTi−Si系合金からなる複数のカソード電極(蒸発源)を配置したアークイオンプレーティング装置において、装置内に工具基体を装入し、装置内を窒素ガス反応雰囲気とし、また、加熱した状態で、複数のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に、順次、アーク放電を発生させ、上記工具基体には、バイアス電圧を印加した条件で、工具基体の表面に、(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層とを交互に順次蒸着形成することにより製造されることも知られている。
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工はますます高速化の傾向にあり、さらに、各種の被削材に対する切削工具の汎用化も求められているが、上記の従来被覆工具においては、これを、合金鋼、工具鋼、Ti合金等の切削加工に用いた場合には特段の問題は生じないが、例えば、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高熱発生を伴う高速切削加工に用いた場合には、被削材である耐熱合金の熱伝導率が低いため、切削熱によって切削工具の刃先の表面温度が高くなるとともに、高温下における(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の層間付着強度が十分でないために、工具刃先のチッピング等が発生しやすくなり、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高熱発生を伴う高速切削加工に用いたような場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆工具を開発すべく、鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
(a)上記の従来被覆工具の交互積層の一つの層を構成する(Cr,Al)N層におけるAl成分には高温硬さを向上させ、また、Cr成分には、高温安定性を向上させる作用があり、また、交互積層の他の層を構成する(Ti,Si)N層におけるTi成分には高温靭性、高温強度を向上させる作用があり、また、Si成分は耐酸化性を向上させ、酸化による層の硬度低下を抑制するとともに、上記(Cr,Al)N層との交互積層を構成することにより硬さも向上させ、さらに、交互積層構造からなる層構成によって各層の結晶粒の粗大化も防止されるため、(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の交互積層構造からなる硬質被覆層を設けることにより、通常の切削条件では、耐酸化性、耐摩耗性の改善が見られる。
しかし、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削においては、切刃表面温度が高温になり、そして、高温下における(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の層間付着強度は十分でないため、切刃部の欠損、チッピング、剥離等の発生が生じやすく、そのため、充分に満足できる工具寿命は得られなかった。
しかし、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削においては、切刃表面温度が高温になり、そして、高温下における(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の層間付着強度は十分でないため、切刃部の欠損、チッピング、剥離等の発生が生じやすく、そのため、充分に満足できる工具寿命は得られなかった。
(b)そこで、本発明者等は、交互積層を構成する(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の層間に、そのいずれの層に対しても層間付着強度の高い(Ti,Al)N層を介在させた状態で交互積層を構成したところ、介在形成された該(Ti,Al)N層は、切刃表面、工具基体温度が高温になった場合でも、(Cr,Al)N層、(Ti,Si)N層のいずれに対しても層間付着強度の低下を生じることなく、その結果、(Ti,Al)N層を介在して構成された(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層の交互積層からなる硬質被覆層は、すぐれた耐チッピング性を発揮することを見出した。
(c)さらに、本発明者等は、(Cr,Al)N層と(Ti,Si)N層とが、上記(Ti,Al)N層を介して交互に積層された硬質被覆層はすぐれた層間密着強度を有するものの、硬質被覆層全体としてその硬度をさらに高め、耐摩耗性のより一層の改善を図るべく、上記(Ti,Al)N層、(Cr,Al)N層の構成成分の一部をSiで置換したところ、すぐれた耐チッピング性に加え、すぐれた耐摩耗性が発揮されることを見出した。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 工具基体表面に硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、該硬質被覆層は、少なくとも、それぞれ0.003〜0.02μmの層厚を有する薄層Aと薄層Bと薄層Cの積層構造からなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、その層間に薄層Aを介在して交互に積層されており、さらに、
(a)上記薄層Aは、
組成式:[Ti1−XAlX]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70(但し、原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層、
(b)上記薄層Bは、
組成式:[Cr1−PAlP]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75(但し、原子比)を満足するCrとAlの複合窒化物層、
(c)上記薄層Cは、
組成式:[Ti1−USiU]N
で表した場合、Uは0.01〜0.30(但し、原子比)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)に記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Aが、
組成式:[Ti1−X−YAlXSiY]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70かつYは0.01〜0.1(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(1)または(2)のいずれかに記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Bが、
組成式:[Cr1−P−QAlPSiQ]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75かつQは0.01〜0.1(但し、P、Qはいずれも原子比)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
「(1) 工具基体表面に硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、該硬質被覆層は、少なくとも、それぞれ0.003〜0.02μmの層厚を有する薄層Aと薄層Bと薄層Cの積層構造からなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、その層間に薄層Aを介在して交互に積層されており、さらに、
(a)上記薄層Aは、
組成式:[Ti1−XAlX]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70(但し、原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層、
(b)上記薄層Bは、
組成式:[Cr1−PAlP]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75(但し、原子比)を満足するCrとAlの複合窒化物層、
(c)上記薄層Cは、
組成式:[Ti1−USiU]N
で表した場合、Uは0.01〜0.30(但し、原子比)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)に記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Aが、
組成式:[Ti1−X−YAlXSiY]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70かつYは0.01〜0.1(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(1)または(2)のいずれかに記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Bが、
組成式:[Cr1−P−QAlPSiQ]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75かつQは0.01〜0.1(但し、P、Qはいずれも原子比)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
まず、請求項1の発明の被覆工具の硬質被覆層に関し、詳細に説明する。
薄層A:
薄層Bと薄層Cの層間に介在形成される薄層A((Ti,Al)N層)は、強度にすぐれ、かつ、薄層B、薄層Cのいずれとも層間密着性にすぐれることから、薄層A、薄層B、薄層Cの積層構造からなる硬質被覆層全体としての層間密着性、強度を高める。
(Ti,Al)N層からなる薄層Aを、
組成式:[Ti1−XAlX]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70(但し、原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層であり、Alの含有割合を示すXの値(但し、原子比)が、0.40未満であると、薄層Aの有する高温硬さが不十分となり、一方、Xの値が0.70を超えると、薄層Aの高温靭性、高温強度が低下するようになるので、Xの値は、0.40〜0.70(但し、原子比)と定めた。
薄層Bと薄層Cの層間に介在形成される薄層A((Ti,Al)N層)は、強度にすぐれ、かつ、薄層B、薄層Cのいずれとも層間密着性にすぐれることから、薄層A、薄層B、薄層Cの積層構造からなる硬質被覆層全体としての層間密着性、強度を高める。
(Ti,Al)N層からなる薄層Aを、
組成式:[Ti1−XAlX]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70(但し、原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層であり、Alの含有割合を示すXの値(但し、原子比)が、0.40未満であると、薄層Aの有する高温硬さが不十分となり、一方、Xの値が0.70を超えると、薄層Aの高温靭性、高温強度が低下するようになるので、Xの値は、0.40〜0.70(但し、原子比)と定めた。
薄層B:
(Cr,Al)N層からなる薄層Bは、比較的高硬度を有し、かつ、最も高温安定性の高い層であることから、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工時の高温下でも、特に、基体成分であるCoの硬質被覆層中への拡散を抑制し、層の特性劣化を防止する。
(Cr,Al)N層からなる薄層Bを、
組成式:[Cr1−PAlP]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75(但し、原子比)を満足するCrとAlの複合窒化物層であり、Al成分には高温硬さ、同Cr成分には高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で耐酸化性を向上させる作用があるが、Alの含有割合を示すPの値(但し、原子比)が、0.40未満であると、薄層Bの有する高温硬さが不十分となり、一方、Pの値が0.75を超えると、薄層Bの高温靭性、高温強度が低下するようになるので、Pの値は、0.40〜0.75(但し、原子比)と定めた。
(Cr,Al)N層からなる薄層Bは、比較的高硬度を有し、かつ、最も高温安定性の高い層であることから、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工時の高温下でも、特に、基体成分であるCoの硬質被覆層中への拡散を抑制し、層の特性劣化を防止する。
(Cr,Al)N層からなる薄層Bを、
組成式:[Cr1−PAlP]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75(但し、原子比)を満足するCrとAlの複合窒化物層であり、Al成分には高温硬さ、同Cr成分には高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で耐酸化性を向上させる作用があるが、Alの含有割合を示すPの値(但し、原子比)が、0.40未満であると、薄層Bの有する高温硬さが不十分となり、一方、Pの値が0.75を超えると、薄層Bの高温靭性、高温強度が低下するようになるので、Pの値は、0.40〜0.75(但し、原子比)と定めた。
薄層C:
(Ti,Si)N層からなる薄層Cは、Si成分によって、耐酸化性が向上し、その結果、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削における高温下においても、すぐれた高硬度を維持する。
(Ti,Si)N層からなる薄層Cを、
組成式:[Ti1−USiU]N
で表した場合、Uは0.01〜0.30(但し、原子比)を満足するTiとSiの複合窒化物層からなるが、Siの含有割合を示すUの値(但し、原子比)が、0.01未満であると、薄層Cの有する高温硬さが不十分となり、一方、Uの値が0.30を超えると、薄層Cの高温靭性、高温強度が低下するようになることから、Uの値は、0.01〜0.30(但し、原子比)と定めた。
(Ti,Si)N層からなる薄層Cは、Si成分によって、耐酸化性が向上し、その結果、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削における高温下においても、すぐれた高硬度を維持する。
(Ti,Si)N層からなる薄層Cを、
組成式:[Ti1−USiU]N
で表した場合、Uは0.01〜0.30(但し、原子比)を満足するTiとSiの複合窒化物層からなるが、Siの含有割合を示すUの値(但し、原子比)が、0.01未満であると、薄層Cの有する高温硬さが不十分となり、一方、Uの値が0.30を超えると、薄層Cの高温靭性、高温強度が低下するようになることから、Uの値は、0.01〜0.30(但し、原子比)と定めた。
薄層A、薄層B、薄層Cの層厚:
薄層Bと薄層Cの交互積層を構成した場合には、下部層の交互積層の場合と同様、それぞれの層が隣接して組成の異なる層を形成することにより、それぞれの層の粒子の成長の粗大化が防止され、粒子の微細化が図られ、膜強度が向上することで耐欠損性、耐チッピング性が向上するが、層間密着強度が十分でないことから、薄層Aを、薄層Bと薄層Cの層間に介在形成し、層間密着強度の向上を図る。
ただ、薄層A、薄層B及び薄層Cのそれぞれの層厚が0.003μm未満であると、各薄層を所定組成のものとして明確に形成することが困難であるばかりか、各薄層の有する上記のすぐれた特性を発揮することができず、一方、それぞれの層厚が0.02μmを超えると、粒子の粗大化による膜強度の低下により、耐欠損性、耐チッピング性が低下することから、薄層A、薄層Cのそれぞれの層厚を、0.003〜0.02μmと定めた。
また、薄層Aを、薄層Bと薄層Cの層間に介在形成し、交互積層構造として構成される本発明の硬質被覆層は、その合計層厚が1μm未満では、長期の使用に亘る工具寿命の長寿命化を期待することはできず、一方、その合計層厚が8μmを超えると、チッピング、 欠損を発生しやすくなるので、薄層A、薄層B及び薄層Cの積層構造からなる硬質被覆層の合計層厚は1〜8μmとすることが望ましい。
薄層Bと薄層Cの交互積層を構成した場合には、下部層の交互積層の場合と同様、それぞれの層が隣接して組成の異なる層を形成することにより、それぞれの層の粒子の成長の粗大化が防止され、粒子の微細化が図られ、膜強度が向上することで耐欠損性、耐チッピング性が向上するが、層間密着強度が十分でないことから、薄層Aを、薄層Bと薄層Cの層間に介在形成し、層間密着強度の向上を図る。
ただ、薄層A、薄層B及び薄層Cのそれぞれの層厚が0.003μm未満であると、各薄層を所定組成のものとして明確に形成することが困難であるばかりか、各薄層の有する上記のすぐれた特性を発揮することができず、一方、それぞれの層厚が0.02μmを超えると、粒子の粗大化による膜強度の低下により、耐欠損性、耐チッピング性が低下することから、薄層A、薄層Cのそれぞれの層厚を、0.003〜0.02μmと定めた。
また、薄層Aを、薄層Bと薄層Cの層間に介在形成し、交互積層構造として構成される本発明の硬質被覆層は、その合計層厚が1μm未満では、長期の使用に亘る工具寿命の長寿命化を期待することはできず、一方、その合計層厚が8μmを超えると、チッピング、 欠損を発生しやすくなるので、薄層A、薄層B及び薄層Cの積層構造からなる硬質被覆層の合計層厚は1〜8μmとすることが望ましい。
つぎに、請求項2の発明の被覆工具の硬質被覆層について説明する。
(Ti,Al)N層からなる薄層Aは、強度、層間密着性にすぐれる層であるが、薄層Aの構成成分であるTiの一部をSiで置換し、
組成式:[Ti1−X−YAlXSiY]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70かつYは0.01〜0.1(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物層で薄層Aを構成すると、薄層Aは、すぐれた耐酸化性と高硬度を備えるようになるため、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工という高温条件下ですぐれた耐チッピング性とともにすぐれた摩耗性を示す。
Siの含有割合を示すY値(但し、原子比)が0.01未満の場合には、耐酸化性の向上を期待できず、一方、Y値が0.1を超えるような場合には、高温硬さが低下することから、Si成分の含有割合を示すY値を、0.01〜0.1と定めた。
(Ti,Al)N層からなる薄層Aは、強度、層間密着性にすぐれる層であるが、薄層Aの構成成分であるTiの一部をSiで置換し、
組成式:[Ti1−X−YAlXSiY]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70かつYは0.01〜0.1(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物層で薄層Aを構成すると、薄層Aは、すぐれた耐酸化性と高硬度を備えるようになるため、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工という高温条件下ですぐれた耐チッピング性とともにすぐれた摩耗性を示す。
Siの含有割合を示すY値(但し、原子比)が0.01未満の場合には、耐酸化性の向上を期待できず、一方、Y値が0.1を超えるような場合には、高温硬さが低下することから、Si成分の含有割合を示すY値を、0.01〜0.1と定めた。
つぎに、請求項3の発明の被覆工具の硬質被覆層について説明する。
(Cr,Al)N層からなる薄層Bは、前記したとおり、比較的高硬度を有し、かつ、最も高温安定性の高い層であるが、薄層Bの構成成分であるCrの一部をSiで置換し、
組成式:[Cr1−P−QAlPSiQ]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75かつQは0.01〜0.1(但し、P、Qはいずれも原子比)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層で薄層Bを構成すると、Si成分が高温硬さと耐熱塑性変形性を向上させる作用があるため、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工という高温条件下ですぐれた耐チッピング性とともにすぐれた摩耗性を示すようになる。
ただ、Siの含有割合を示すQ値(原子比)が0.01未満では、高温硬さと耐熱塑性変形性の改善による耐摩耗性の向上効果を期待できず、一方、Q値が0.1を越えると、耐摩耗性向上効果に低下傾向がみられるようになることから、Q値を0.01〜0.1と定めた。
(Cr,Al)N層からなる薄層Bは、前記したとおり、比較的高硬度を有し、かつ、最も高温安定性の高い層であるが、薄層Bの構成成分であるCrの一部をSiで置換し、
組成式:[Cr1−P−QAlPSiQ]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75かつQは0.01〜0.1(但し、P、Qはいずれも原子比)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層で薄層Bを構成すると、Si成分が高温硬さと耐熱塑性変形性を向上させる作用があるため、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工という高温条件下ですぐれた耐チッピング性とともにすぐれた摩耗性を示すようになる。
ただ、Siの含有割合を示すQ値(原子比)が0.01未満では、高温硬さと耐熱塑性変形性の改善による耐摩耗性の向上効果を期待できず、一方、Q値が0.1を越えると、耐摩耗性向上効果に低下傾向がみられるようになることから、Q値を0.01〜0.1と定めた。
この発明の表面被覆切削工具は、硬質被覆層が、薄層Aを介して、薄層Bと薄層Cが交互に積層された構造からなり、各層間の密着強度が高められていることから、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮するものである。
また、薄層A、薄層Bの構成成分の一部をSiで置換することによって、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工でも、すぐれた耐チッピング性に加え、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
また、薄層A、薄層Bの構成成分の一部をSiで置換することによって、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工でも、すぐれた耐チッピング性に加え、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.02のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A−1〜A−5を形成した。
(a)ついで、上記の工具基体A−1〜A−5のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、カソード電極(蒸発源)として、それぞれ表2に示される目標組成に対応した成分組成をもった薄層A((Ti,Al)N層あるいは(Ti,Al,Si)N層)形成用のTi−Al(−Si)合金、薄層B((Cr,Al)N層あるいは(Cr,Al,Si)N層)形成用のCr−Al(−Si)合金、薄層C((Ti,Si)N層)形成用のTi−Si合金を前記回転テーブルを挟んで配置する。
なお、Ti−Al(−Si)合金からなるカソード電極(蒸発源)は、工具基体のボンバード洗浄用にも用いる。
(b)まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、例えば、Ti−Al(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄する。
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、Ti−Al(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体の表面に、表2、3に示される目標組成および目標層厚の薄層Aを蒸着形成する。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、Cr−Al(−Si)合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層Aの上に所定層厚の薄層Bを形成し、その後、Ti−Al(−Si)合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成する。
(e)ついで、同じく装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、2Paの反応雰囲気を維持したままで、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層A上に所定層厚の薄層Cを形成し、
上記(c)〜(e)の工程を繰り返し行ない、工具基体の表面に、表2、3に示される目標組成および目標層厚の、薄層A、薄層B、薄層Cの積層からなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、薄層Aを介して交互に積層された交互積層構造の硬質被覆層を蒸着形成することにより、ISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状の本発明被覆工具としての本発明被覆チップ1〜10をそれぞれ製造した。
なお、Ti−Al(−Si)合金からなるカソード電極(蒸発源)は、工具基体のボンバード洗浄用にも用いる。
(b)まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、例えば、Ti−Al(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄する。
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、Ti−Al(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体の表面に、表2、3に示される目標組成および目標層厚の薄層Aを蒸着形成する。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、Cr−Al(−Si)合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層Aの上に所定層厚の薄層Bを形成し、その後、Ti−Al(−Si)合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成する。
(e)ついで、同じく装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、2Paの反応雰囲気を維持したままで、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層A上に所定層厚の薄層Cを形成し、
上記(c)〜(e)の工程を繰り返し行ない、工具基体の表面に、表2、3に示される目標組成および目標層厚の、薄層A、薄層B、薄層Cの積層からなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、薄層Aを介して交互に積層された交互積層構造の硬質被覆層を蒸着形成することにより、ISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状の本発明被覆工具としての本発明被覆チップ1〜10をそれぞれ製造した。
比較の目的で、これら工具基体A−1〜A−5を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として、それぞれ表4に示される目標組成に対応した成分組成をもったTi−Al合金及びTi−Si合金を装着し、
まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金(あるいはTi−Si合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Ti−Al合金(あるいはTi−Si合金)でボンバード洗浄し、
ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を蒸着形成し、
ついで、前記Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Si)N層を蒸着形成し、
上記の(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層の蒸着形成を交互に繰り返すことにより、表4に示される目標組成および目標層厚の交互積層からなる硬質被覆層を有し、ISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状の比較被覆工具としての比較被覆チップ1〜5をそれぞれ製造した。
まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金(あるいはTi−Si合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Ti−Al合金(あるいはTi−Si合金)でボンバード洗浄し、
ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を蒸着形成し、
ついで、前記Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Si)N層を蒸着形成し、
上記の(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層の蒸着形成を交互に繰り返すことにより、表4に示される目標組成および目標層厚の交互積層からなる硬質被覆層を有し、ISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状の比較被覆工具としての比較被覆チップ1〜5をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜10および比較被覆チップ1〜5について、
被削材:質量%で、Ni−19%Cr−18.5%Fe−5.2%Cd−5%Ta−3%Mo−0.9%Ti−0.5%Al−0.3%Si−0.2%Mn−0.05%Cu−0.04%Cの組成を有するNi基合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 100 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)でのNi基合金の乾式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、30m/min.)、
被削材:質量%で、Co−23%Cr−6%Mo−2%Ni−1%Fe−0.6%Si−0.4%Cの組成を有するCo基合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 80 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.20 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)でのCo基合金の乾式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
被削材:質量%で、Ni−19%Cr−18.5%Fe−5.2%Cd−5%Ta−3%Mo−0.9%Ti−0.5%Al−0.3%Si−0.2%Mn−0.05%Cu−0.04%Cの組成を有するNi基合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 100 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)でのNi基合金の乾式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、30m/min.)、
被削材:質量%で、Co−23%Cr−6%Mo−2%Ni−1%Fe−0.6%Si−0.4%Cの組成を有するCo基合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 80 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.20 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)でのCo基合金の乾式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
原料粉末として、平均粒径0.8μmのWC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表6に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角45度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−4をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表7に示される目標組成および目標層厚の薄層A、薄層Bと薄層Cからなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、薄層Aを介して交互に積層された交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明被覆エンドミル1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面に、表8に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層との交互積層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較被覆工具としての比較被覆エンドミル1〜4をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜8および比較被覆エンドミル1〜4について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、質量%で、Ni−19%Cr−14%Co−4.5%Mo−2.5%Ti−2%Fe−1.2%Al−0.7%Mn−0.4%Siの組成を有するNi基合金の板材、
切削速度: 60 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.5 mm、
テーブル送り: 300 mm/分、
の条件でのNi基合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度および溝深さは、それぞれ、25m/min.および1.2mm)、
を行い、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表7、8にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、質量%で、Ni−19%Cr−14%Co−4.5%Mo−2.5%Ti−2%Fe−1.2%Al−0.7%Mn−0.4%Siの組成を有するNi基合金の板材、
切削速度: 60 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.5 mm、
テーブル送り: 300 mm/分、
の条件でのNi基合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度および溝深さは、それぞれ、25m/min.および1.2mm)、
を行い、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表7、8にそれぞれ示した。
上記の実施例2で製造した丸棒焼結体を用い、この丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが8mm×48mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−4をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−4の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表9に示される目標組成および目標層厚の薄層A、薄層Bと薄層Cからなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、薄層Aを介して交互に積層された交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明被覆ドリル1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−1〜D−4の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、工具基体(ドリル)D−1〜D−4の表面に、表10に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層との交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較被覆工具としての比較被覆ドリル1〜4をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および比較被覆ドリル1〜4について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、質量%で、Ni−19%Cr−18.5%Fe−5.2%Cd−5%Ta−3%Mo−0.9%Ti−0.5%Al−0.3%Si−0.2%Mn−0.05%Cu−0.04%Cの組成を有するNi基合金の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.30 mm/rev、
穴深さ: 20 mm、
の条件でのNi基合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、25m/min.および0.12mm/rev)、
を行い(水溶性切削油使用)、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、質量%で、Ni−19%Cr−18.5%Fe−5.2%Cd−5%Ta−3%Mo−0.9%Ti−0.5%Al−0.3%Si−0.2%Mn−0.05%Cu−0.04%Cの組成を有するNi基合金の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.30 mm/rev、
穴深さ: 20 mm、
の条件でのNi基合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、25m/min.および0.12mm/rev)、
を行い(水溶性切削油使用)、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
この結果得られた本発明被覆工具としての本発明被覆チップ1〜10、本発明被覆エンドミル1〜8および本発明被覆ドリル1〜8の硬質被覆層を構成する薄層A、薄層B、薄層C、さらに、比較被覆チップ1〜10、比較被覆エンドミル1〜8および比較被覆ドリル1〜8の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、上記の硬質被覆層の平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表5、7〜10に示される結果から、本発明被覆工具は、その硬質被覆層が薄層A、薄層Bおよび薄層Cからなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、薄層Aを介して交互に積層された交互積層構造を構成していることから、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工において、高温下でもすぐれた層間密着強度を示し、その結果、すぐれた耐チッピング性を長期に亘って発揮する。
これに対して、硬質被覆層が(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層との交互積層で構成された比較被覆工具においては、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工では、特に層間密着強度の不足により、チッピングを発生しやすく、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
これに対して、硬質被覆層が(Ti,Al)N層と(Ti,Si)N層との交互積層で構成された比較被覆工具においては、Ni基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工では、特に層間密着強度の不足により、チッピングを発生しやすく、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、一般鋼や普通鋳鉄などの切削加工は勿論のこと、高い発熱を伴うNi基合金、Co基合金等の耐熱合金の高速切削加工に用いた場合でも、長期に亘ってすぐれた耐チッピング性を発揮し、すぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (3)
- 工具基体表面に硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、該硬質被覆層は、少なくとも、それぞれ0.003〜0.02μmの層厚を有する薄層Aと薄層Bと薄層Cの積層構造からなり、かつ、薄層Bと薄層Cは、その層間に薄層Aを介在して交互に積層されており、さらに、
(a)上記薄層Aは、
組成式:[Ti1−XAlX]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70(但し、原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層、
(b)上記薄層Bは、
組成式:[Cr1−PAlP]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75(但し、原子比)を満足するCrとAlの複合窒化物層、
(c)上記薄層Cは、
組成式:[Ti1−USiU]N
で表した場合、Uは0.01〜0.30(但し、原子比)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 請求項1に記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Aが、
組成式:[Ti1−X−YAlXSiY]N
で表した場合、Xは0.40〜0.70かつYは0.01〜0.1(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。 - 請求項1または2のいずれかに記載の表面被覆切削工具において、
上記薄層Bが、
組成式:[Cr1−P−QAlPSiQ]N
で表した場合、Pは0.40〜0.75かつQは0.01〜0.1(但し、P、Qはいずれも原子比)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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JP2018202505A (ja) * | 2017-05-31 | 2018-12-27 | 住友電気工業株式会社 | 表面被覆切削工具 |
WO2023118345A1 (en) * | 2021-12-22 | 2023-06-29 | Ab Sandvik Coromant | A coated cutting tool |
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-
2009
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