以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.概要
2.無電解錫めっき浴及び無電解銅めっき浴
3.錫めっき皮膜の成膜方法
4.まとめ
≪1.概要≫
本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法は、被めっき物である電子工業用部品、回路等の銅又は銅合金部分に、無電解錫めっき浴を用いて所定の膜厚の錫めっき皮膜を形成する錫めっき皮膜の成膜方法であって、3価のチタン化合物を還元剤とする無電解錫めっき浴に被めっき物を浸漬させて錫めっき皮膜を形成する錫めっき皮膜形成工程と、錫めっき皮膜が形成された被めっき物を無電解銅めっき浴に浸漬し、その錫めっき皮膜上に銅めっき皮膜を形成する銅めっき皮膜形成工程と、銅めっき皮膜形成工程にて銅めっき皮膜が形成された被めっき物を無電解錫めっき浴に浸漬して、その銅めっき皮膜上に錫めっき皮膜を形成する厚膜化工程とを有するものである。これにより、所望とする膜厚を有する無電解錫めっき皮膜を成膜する。
また、銅めっき皮膜形成工程と厚膜化工程とを交互に繰り返し実行することによって、被めっき物の膜厚方向に錫めっき皮膜を厚膜化し、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成する。このように、銅めっき皮膜形成工程と厚膜化工程とを交互に繰り返し実行することによって、所望とする十分な膜厚を備え、また良好なはんだ接合特性を有する錫めっき皮膜を形成することができる。
この成膜方法によれば、3価のチタン化合物を還元剤とした還元型の無電解錫めっき浴を用いた場合においても、上記非特許文献1(非特許文献1 p105 「3.4.2 めっき時間と膜厚」参照)に記載されているようなめっき浴の更新を繰り返す処理や、消費分のチタン(Ti3+)をNTA(ニトリロトリ酢酸)錯塩水溶液として注加するといった方法を用いることなく、所望とする膜厚まで錫めっき皮膜を形成させることができる。また、中性環境下において、錫めっき処理を行うことができるので、プリント配線基板等においてソルダーレジスト剥がれや溶出等を起こすことなく、所望とする膜厚を有する錫めっき皮膜を形成することができる。
以下、さらに詳細に本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法について説明する。
≪2.無電解錫めっき浴及び無電解銅めっき浴≫
まず、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法の説明に先立ち、本実施の形態の各めっき処理において用いるめっき浴について説明する。本実施の形態においては、無電解錫めっき浴を用いた無電解錫めっき処理と、無電解銅めっき浴を用いた無電解銅めっき処理とを交互に繰り返して、膜厚方向に錫めっき皮膜を形成させる。
<2−1.無電解錫めっき浴>
無電解錫めっき処理において用いる無電解錫めっき浴は、少なくとも錫イオン源となる水溶性の錫塩と、チタン化合物からなる還元剤と、錯化剤とを含有する。
錫イオン源となる水溶性錫塩としては、錫を供給する水溶性の錫化合物であれば特に限定されないが、錫の無機酸塩、錫のカルボン酸塩、錫のアルカンスルホン酸塩又はアルカノールスルホン酸塩、錫の水酸化物及びメタ錫酸等からなる群から選ばれる錫塩を用いることが好ましい。また、錫の価数が2価の第1錫塩(錫塩(II))又は4価の第2錫塩(IV)のどちらを用いてもよいが、析出速度の点から第1錫塩を用いることが好ましい。
具体的には、第1錫塩(錫塩(II))としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)、ヨウ化錫(II)、酸化錫(II)、硫酸錫(II)、リン酸錫(II)、ピロリン酸錫(II)、酢酸錫(II)、クエン酸錫(II)、グルコン酸錫(II)、酒石酸錫(II)、乳酸錫(II)、コハク酸錫(II)、スルファミン酸錫(II)、ホウフッ化錫(II)、ギ酸錫(II)、ケイフッ化錫(II)、メタンスルホン酸錫(II)、1−エタンスルホン酸錫、2−エタンスルホン酸錫、1−プロパンスルホン酸錫、3−プロパンスルホン酸錫、イセチオン酸錫(II)、メタノールスルホン酸錫、ヒドロキシエタン−1−スルホン酸錫、ヒドロキシエタン−2−スルホン酸錫、1−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸錫、1−ヒドロキシプロパン−3−スルホン酸錫が挙げられる。また、第2錫塩(錫塩(IV))としては、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム等が挙げられる。これらの錫化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
無電解錫めっき浴中での錫化合物の含有量としては、特に限定されないが、金属錫として、0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜30g/Lとすることがより好ましい。無電解錫めっき浴中において、錫含有量が少な過ぎると、錫めっき皮膜の析出速度が遅くなり実用的ではなく、また所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成することができない。一方で、錫含有量が多過ぎると、錫化合物の溶解が困難となる場合が生じ、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成することができなくなるとともに、不経済ともなる。
本実施の形態において用いる無電解錫めっき浴には、還元剤が含有されており、還元剤としてチタン化合物を含有する。還元剤を含有させることにより、その還元作用でめっき浴中の錫化合物から供給された錫イオンを還元して、被めっき物上に金属錫を析出させる。このように、従来のような下地となっている銅又は銅合金の回路等の金属銅との置換反応による皮膜形成ではなく、還元剤による還元作用を利用した析出を可能としているので、下地の金属銅を溶解させることなく錫めっき皮膜を形成させることができ、ソルダーレジスト下へはんだが潜り込む等のはんだ接合特性が低下したり、外観が変色すること等を抑制することができる。また、薄膜化の傾向にある下地の銅又は銅合金等を過度に溶解させることなく、接続信頼性を向上させためっき皮膜を形成することができる。
さらに、このように還元作用によって錫めっき皮膜を形成させているので、無電解錫めっき浴中における、皮膜を形成させるための錫イオン源を補充管理するとともに、後で詳述するように錫めっき処理と銅めっき処理とを交互に繰り返し実行することによって、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができる。すなわち、従来の置換反応に基づく無電解錫めっき処理においては、錫が被めっき物の全体に析出するか、若しくは被めっき物である銅等がすべて溶解したところでめっき成長が止まってしまうため、所望とする膜厚を有しためっき皮膜を形成させるには限界があり厚膜化は困難であった。しかしながら、還元作用によって錫めっき皮膜を形成させる本実施の形態においては、錫イオン源となる錫化合物を補充管理するとともに錫めっき処理と銅めっき処理とを交互に繰り返し実行することによって、反応を止めさせることなく所望とする厚みまで還元反応を進行させて、銅又は銅合金等の被めっき物上に所望とする膜厚を有した錫めっき皮膜を形成させることができる。
またさらに、本実施の形態においては、その還元剤としてチタン化合物を用いることにより、pH条件等、プリント配線基板に適した処理条件で還元作用により金属錫を析出させることができ、プリント配線基板においてソルダーレジスト剥がれや溶出等を起こすことなく良好な錫めっき皮膜を形成することができる。
還元剤であるチタン化合物としては、還元作用を有しているものであれば特に限定されないが、電子を安定的に錫イオンに供給できる3価のチタン化合物であることが好ましい。具体的には、三塩化チタン、三ヨウ化チタン、三臭化チタン等のハロゲン化チタンや硫酸チタン等を用いることができる。これらのチタン化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
無電解錫めっき浴中でのチタン化合物の含有量としては、特に限定されないが、金属チタンとして、0.01〜100g/L程度とすることが好ましく、0.2〜200g/L程度とすることがより好ましい。無電解錫めっき浴中において、チタン含有量が少な過ぎると、錫イオンに対して十分な電子の供給ができず、めっき皮膜の析出速度が遅くなって実用的ではない。一方で、チタン含有量が多過ぎると、還元反応が急速に進行し、めっき浴中に錫が析出されて浴安定性が悪くなり、頻繁にめっき浴の更新を行う必要性が生じて安定的にめっき処理を行うことができなくなる。
本実施の形態において用いる無電解錫めっき浴には、さらに錯化剤を含有させることができる。錯化剤を無電解錫めっき浴に含有させることにより、錫イオン(Sn2+)が錯化剤と安定的な可溶性錯体を形成して錫めっき浴の安定性を向上させることができる。
錯化剤としては、特に限定されないが、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、グリシン、アラニン、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレントリアミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIMDA)、ジヒドロキシエチルイミノ酢酸(DHEIMA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、グリシン、イミノ酢酸、ニトリロトリ酢酸(NTA)、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等を用いることができる。これらの錯化剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
錯化剤の含有量としては、特に限定されないが、1〜500g/L程度とすることが好ましく、10〜300g/L程度とすることがより好ましい。錯化剤の添加量が少な過ぎると、めっき浴中に錫が析出されて浴安定性が悪くなる。一方で、錯化剤の添加量が多過ぎると、Sn2+との錯体形成が過剰に進んで析出速度が低下し、所望とする膜厚のめっき皮膜を形成させることができなくなり、また溶解させることが困難となって不経済にもなる。
なお、本実施の形態において用いる無電解錫めっき浴には、アミノ化合物をさらに含有させることもできる。アミノ化合物を無電解錫めっき浴に含有させることによって、2価の錫イオンが4価の錫イオンに酸化されるのを防止することができ、錫めっき皮膜を形成したときに発生するスラッジの生成を抑制することができる。また、めっき浴の安定性を向上させることが可能であるとともに、錫めっき皮膜の析出速度を向上させることができる。
アミノ化合物としては、特に限定されないが、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、アミルアミン、グリシン、アラニン、アミノ-n-酪酸、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、硫酸ヒドラジニウム、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、尿素等が挙げられ、特にモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンを好適に用いることができる。これらのアミノ化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
アミノ化合物を添加させる場合、その添加量としては、特に限定されないが、1〜100g/L程度とすることが好ましく、10〜50g/L程度とすることがより好ましい。アミノ化合物の添加量が少な過ぎると、酸化防止効果やめっき析出速度の向上等の効果が十分に発揮されない。一方で、アミノ化合物の添加量が多過ぎると、めっき浴中に錫が析出されて浴安定性が悪くなり、頻繁にめっき浴の更新を行う必要性が生じて安定的にめっき処理することができなくなる。
さらに、上述した添加剤の他に、本実施の形態における無電解錫めっき浴には、必要に応じて界面活性剤、酸化防止剤、pH緩衝剤等の各種添加剤を含有させることもできる。
界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤及び両性界面活性剤等のいずれを用いてもよく、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。これらの界面活性剤をめっき浴に含有させることにより、めっき処理の作業効率を向上させることができるとともに、錫めっき皮膜を平滑にして膜厚を均一化することができる。その他、緻密性や密着性等の向上に寄与する。
例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型界面活性剤等を用いることができる。その中でも、アルキレンオキサイド系のものが好適であり、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましく用いられる。
また、カチオン界面活性剤としては、例えばドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルジメチルアンモニウム塩、オクタデセニルジメチルエチルアンモニウム塩、ドデシルジメチルエチルアンモニウムベタイン、オクタデシルジメチルアンモニウムベタイン、ジメチルベンジルドデシルアンモニウム塩、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ドデシルピコリニウム塩、ドデシルイミダゾリニウム塩、オレイルイミダゾリニウム塩、オクタデシルアミンアセテート、ドデシルアミンアセテート等を用いることができる。
また、アニオン界面活性剤としては、例えばラウリル酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12〜18のカルボン酸の塩、炭素数12〜18のN−アシルアミノ酸、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12〜18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩、硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸塩エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等を用いることができる。
また、両性界面活性剤としては、例えばカルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩の他、イミダゾリウムベタイン、レチシン等を用いることができ、またメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール等の炭素数1〜4程度の低級アルコール類等を用いることもできる。
界面活性剤を添加させる場合、その添加量としては、特に限定されないが、0.01〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜20g/Lとすることがより好ましい。界面活性剤の添加量が少な過ぎると、めっき処理の作業効率の向上や錫めっき皮膜の均一化の効果が十分に発揮されなくなる。一方で、添加量が多過ぎると、錫めっき皮膜にムラが生じ易くなり、また作業効率はそれ以上に向上せず不経済となる。
酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、例えばレゾルシン、ピロカテコール、ヒドロキノン、フロログリシノール、ピロガロール、ヒドラジン、アスコルビン酸等を用いることができ、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。これらの酸化防止剤を含有させることにより、Sn2+がSn4+に酸化されるのを防止することができる。
酸化防止剤を添加させる場合、その添加量としては、特に限定されないが、0.1〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜50g/Lとすることがより好ましい。酸化防止剤の添加量が少な過ぎると、Sn2+がSn4+に酸化されるのを効果的に防止することができなくなる。一方で、添加量が多過ぎると、めっき浴中に錫が異常に析出されて浴安定性が悪くなり、頻繁にめっき浴の更新を行う必要性が生じて安定的にめっき処理を行うことができなくなる。
pH緩衝剤としては、特に限定されるものではなく、例えば酢酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、グリコール酸、アジピン酸等の有機酸や、ホウ酸、リン酸塩、亜硫酸塩等の無機化合物を用いることができ、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。これらのpH緩衝剤を含有させることにより、錫めっき浴のpH上昇を防止して、めっき浴の安定性を向上させることができる。
pH緩衝剤を添加させる場合、その添加量としては、特に限定されないが、0.01〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜50g/Lとすることがより好ましい。pH緩衝剤の添加量が少な過ぎると、pH上昇を防止する効果が十分に発揮されなくなる。一方で、添加量が多過ぎると、pH上昇を防止する効果はそれ以上に向上せず不経済となる。
<2−2.無電解銅めっき浴>
次に、錫めっき皮膜上に銅めっき皮膜を形成させる無電解銅めっき処理において用いる無電解銅めっき浴について説明する。本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、上述したように、無電解錫めっき処理によって形成させた錫めっき皮膜上に、金属銅皮膜を形成させる。そして、金属銅皮膜が形成された銅又は銅合金等の被めっき物を再び還元型の無電解錫めっき浴に浸漬して錫めっき皮膜を形成する。このように、錫めっき皮膜の成膜方法は、錫めっき皮膜上に金属銅皮膜を形成して、その金属銅皮膜上に再び錫めっき皮膜を形成して錫めっき皮膜を成膜するものであり、またその金属銅皮膜形成と錫めっき皮膜形成とを交互に繰り返し行うことによって所望とする膜厚を有する錫めっき皮膜を成膜するものである。
この金属銅皮膜の形成にあたっては、特に限定されないが、無電解銅めっき処理により形成することが好ましい。無電解銅めっき処理を行うことにより、処理工程上、円滑に金属銅皮膜を形成することができるとともに、小型化・微細化した電子部品や回路にも良好に金属銅皮膜を形成することができる。
また、この金属銅皮膜の形成においては、特に限定されないが、置換型の無電解銅めっき浴を用いてめっき処理を行うことが好ましい。置換型の無電解銅めっき処理を行うことにより、錫めっき皮膜上に均一な銅めっき皮膜を形成させることができ、以降の無電解錫めっき処理による錫めっき皮膜形成を円滑に行うことができる。また、置換型の無電解銅めっき浴を用いためっき処理は、強酸から中性の処理条件下で行うことができるとともに、めっき浴の管理が容易であるという点においても好ましい。さらに、還元型の銅めっき浴の場合には高アルカリ性のホルマリンを含有させる必要が生じるため、上述のように置換型の銅めっき浴を用いて処理することで、環境にも適した処理を行うことができる。
すなわち、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、錫めっき皮膜を形成した後、その錫めっき皮膜上に金属銅皮膜を形成させ、形成させた金属銅皮膜を触媒として機能させることによって、継続的に錫めっき皮膜を被めっき物の膜厚方向に成長させることを可能にしていると考えられる。このことから、置換型の無電解銅めっき浴を用いて錫めっき皮膜上に金属銅皮膜を均一に形成させることによって、錫めっき成長に対する金属銅皮膜の触媒機能が高まり、均一な金属銅皮膜上に形成させる錫めっき皮膜の成長を促して、より効率的な厚膜化を可能にする。また、均一な錫めっき皮膜の形成を可能にする。
以下では、銅又は銅合金等の被めっき物上に形成させた錫めっき皮膜の金属錫(Sn)との置換反応によって、銅を無電解析出させて金属銅皮膜(銅めっき皮膜)を形成する置換型の無電解銅めっき浴について説明する。
本実施の形態において用いる置換型の無電解銅めっき浴は、特に限定されるものではなく、少なくとも銅イオン源と、錯化剤とを含有し、金属錫と置換反応によって銅を析出させる無電解銅めっき浴を用いることができる。なお、後述するが、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法は、無電解銅めっき処理において、必ずしも連続皮膜を形成させる必要はなく、無電解錫めっき処理によって形成された錫めっき皮膜上に金属銅が所定量吸着していれば、それが触媒となって錫めっきを成長させることができる。
銅イオン源としては、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅等を用いることができ、その含有量は銅イオンとして0.1〜50g/L程度とすることが好ましい。
錯化剤としては、2価の銅イオンの錯化剤であればよく、上述した無電解錫めっき浴に添加する錯化剤と同様の錯化剤を含有させることができ、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を好適に用いることができる。このような錯化剤は、銅イオンと錯体を形成するとともに、置換反応の対象となる錫めっき皮膜のSnとも錯体を形成することができる。これにより、めっき浴の浴安定性を向上させることができ、置換反応によって良好に金属銅を析出させることができる。
特に、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、形成された銅めっき皮膜上にさらに無電解錫めっき処理によって錫めっき皮膜を形成させる。すなわち、形成した銅めっき皮膜を触媒として錫めっきの成長を促すことによって錫めっき皮膜を成膜させているので、置換反応により溶解した錫めっき皮膜のSnと錯体を形成させて良質な銅めっき皮膜を形成させることによって、銅めっき皮膜の触媒機能を高め、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができる。
錯化剤の添加量は、特に限定されないが、1種又は2種以上の合計で0.5〜500g/L程度とすることが好ましく、1〜300g/L程度とすることがより好ましい。錯化剤の添加量が少な過ぎると、めっき浴中に銅や置換反応に伴って溶解した錫が析出されて浴安定性が悪くなる。一方で、錯化剤の添加量が多過ぎると、不経済になる。
また、この無電解銅めっき浴にも、必要に応じて界面活性剤、pH緩衝剤等の各種添加剤を含有させることができる。
≪3.錫めっき皮膜の成膜方法≫
本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法は、被めっき物である電子工業用部品、回路等の銅又は銅合金部分に、上述した無電解錫めっき浴を用いて錫めっき皮膜を形成する錫めっき皮膜形成工程と、形成された錫めっき皮膜上に、上述した無電解銅めっき浴を用いて金属銅皮膜を形成する銅めっき皮膜形成工程と、形成された銅めっき皮膜上に錫めっき皮膜を形成する厚膜化工程とを有する。そして、所望とする膜厚となるまで、銅めっき皮膜形成工程と厚膜化工程とを交互に繰り返し実行して膜厚方向に錫めっき皮膜を形成する。
この本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、無電解錫めっき処理によって形成した錫めっき皮膜上に所定量の金属銅を析出させることによって、析出した金属銅が触媒となり、継続的に錫めっき皮膜の成長を進行させ、厚膜化させることができるものと推測される。
錫めっき皮膜形成工程及び厚膜化工程における無電解錫めっき処理では、上述の3価のチタン化合物を還元剤として含有させた無電解錫めっき浴中に、所定のめっき前処理を施した、例えば銅又は銅合金部分を有する基板等の被めっき物を浸漬させることによって、還元反応を利用した錫めっき皮膜形成を行う。
この無電解錫めっき処理における温度条件としては、30〜90℃に設定することが好ましく、40〜80℃に設定することがより好ましい。
また、この無電解錫めっき皮膜処理において1回に形成させる錫めっき皮膜の膜厚は、0.01μm以上とすることが好ましく、0.1μm以上とすることがより好ましい。0.01μm未満の場合には、所望とする膜厚にするために後述する無電解銅めっき処理を行う回数が多くなり、その結果、形成した錫めっき皮膜中の銅濃度が相対的に大きくなって、融点や延性等のはんだ特性が悪くなる。
一方、1回の無電解錫めっき処理では、錫の析出が停止するまで継続して処理して、錫めっき皮膜を形成させることができる。具体的に、無電解錫めっき処理の処理時間としては、特に限定されないが、約2〜60分とし、約5〜30分とすることが好ましく、約15分程度とすることがより好ましい。処理時間が短過ぎると、所望とする十分な膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができなくなり、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理との繰り返しを何度も実行する必要が生じて処理効率が悪くなる。一方で、処理時間が長過ぎると、錫の析出が途中で停止してしまうため、浸漬時間が無駄となって処理効率が悪くなるとともに、錫めっき浴の安定性を悪くして以降の処理に悪影響をもたらす。
この無電解錫めっき処理にて錫めっき皮膜を形成させると、形成した錫めっき皮膜上に無電解銅めっき浴を用いて銅めっき皮膜を形成する。この無電解銅めっき処理では、上述した無電解銅めっき浴中に、錫めっき皮膜が形成された被めっき物を浸漬させることによって、錫めっき皮膜の錫との置換反応を利用した銅めっき皮膜形成を行う。
銅めっき皮膜形成工程における無電解銅めっき処理の温度条件としては常温程度に設定することが好ましく、また処理時間としては、特に限定されないが、約1〜180秒とすることが好ましく、1〜60秒とすることがより好ましい。処理時間が短過ぎると、所望とする十分な膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができなくなり、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理との繰り返しを何度も実行する必要が生じて処理効率が悪くなる。一方で、処理時間が長過ぎると、所望とする十分な膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができなくなり、また置換反応による銅めっき皮膜の形成が進んで錫めっき皮膜中の銅濃度が相対的に大きくなってはんだ特性が悪くなる。
ここで、上述のように、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、この銅めっき皮膜形成工程にて形成された銅めっき皮膜を触媒として錫めっき皮膜を形成されるものであるが、その触媒となる銅は連続皮膜を形成していなくてもよい。すなわち、無電解錫めっき処理によって形成された錫めっき皮膜上に金属銅が所定量吸着していれば、それが触媒となって錫めっきを成長させることができる。
この銅めっき皮膜形成工程において形成される銅めっき皮膜は、上述しためっき処理時間に応じて変化する。例えば、めっき処理時間が15秒の場合には約0.005μmのめっき皮膜が形成され、処理時間が30秒の場合には約0.02μmのめっき皮膜が形成される。ところが、めっき皮膜が0.005μm(銅置換量445μg/dm2)に満たない場合には“皮膜”として形成されているとはいえない。
しかしながら、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、上述のように、無電解銅めっき処理時間を例えば1〜180秒に設定することにより、形成された金属銅を触媒として、錫めっき皮膜を成長させることができる。
そこで、この無電解銅めっき処理において1回に形成させる銅めっき皮膜は、下地となる錫めっき皮膜への金属銅置換量として、0.8×10−6g/dm2〜0.089g/dm2とすることが好ましく、0.8×10−6g/dm2〜0.01g/dm2とすることがより好ましい。金属銅置換量が0.8×10−6g/dm2未満の場合には、無電解銅めっき処理の後に繰り返し実行される無電解錫めっき処理にて錫めっき皮膜を析出させるための触媒として機能せず、継続的に所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成させる効果を発揮させることができない。一方で、金属銅置換量が0.089g/dm2よりも多い場合には、置換反応による銅めっき皮膜の形成にあたって錫めっき皮膜が溶解するため、所望とする錫めっき皮膜を形成するのに時間がかかってしまう。また、基板に形成された錫めっき皮膜中における銅濃度が相対的に大きくなってしまい、融点や延性等の点ではんだ特性が悪くなる。
このようにして錫めっき皮膜上に無電解銅めっき処理にて銅めっき皮膜を形成させると、再びその銅めっき皮膜上に、上述した無電解錫めっき処理を行って錫めっき皮膜を形成し、被めっき物の膜厚方向に錫めっき皮膜を厚膜化していく。本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法では、このようにして無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理とを交互に繰り返し実行することによって、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成させる。
形成する錫めっき皮膜全体の厚さは、特に制限されるものではないが、良好なはんだ接合特性を得る観点から、1.2μm以上とすることが好ましい。また、より好ましくは1.2〜50μmとするとよい。錫めっき皮膜が1.2μm未満の場合には、良好なはんだ接合特性を得ることができない場合が生じ、まためっき接合性も低下する。さらに、熱処理等の所定の処理を施すこともできなくなるとともに、熱処理においては錫と銅の合金化によって純錫層がなくなってしまいため、はんだ接合特性やはんだ濡れ性が極端に悪化する場合がある。一方で、50μmを超えると、はんだ接合特性はそれ以上に向上せず、また錫めっき皮膜全体の膜厚が厚すぎると小型化・微細化された電子部品や配線パターン外に析出したりする場合がある。ただし、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理との繰り返し回数は特に制限されるものではないことから、任意の回数繰り返し操作を行うことによって所望とする膜厚のめっき皮膜を形成することができる。
なお、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成するにあたり、無電解銅めっき処理のめっき処理時間と、無電解錫めっき処理のめっき処理時間との関係を考慮するとともに、上述したように、無電解銅めっき処理の処理時間が長いと、錫めっき皮膜の錫を置換反応により溶解させることとなるので形成できる錫めっき皮膜の膜厚が相対的に減ってしまう。逆に、無電解銅めっき処理の処理時間が短いと、触媒として機能する金属銅が少なくなるのでめっき成長が停止する可能性を考慮して処理することが好ましい。
以上のように、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法によれば、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理とを交互に実行することによって、3価のチタン化合物を含有した無電解錫めっき浴を用いて所望とする膜厚を有する錫めっき皮膜を成膜することができる。また、この成膜方法によれば、プリント配線基板に適した処理条件で、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成することができる。
≪4.まとめ≫
以上のように、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法は、3価のチタン化合物を還元剤とする無電解錫めっき浴に被めっき物を浸漬させて錫めっき皮膜を形成する錫めっき皮膜形成工程と、錫めっき皮膜が形成された被めっき物を無電解銅めっき浴に浸漬し、その錫めっき皮膜上に銅めっき皮膜を形成する銅めっき皮膜形成工程と、銅めっき皮膜形成工程にて銅めっき皮膜が形成された被めっき物を無電解錫めっき浴に浸漬して、その銅めっき皮膜上に錫めっき皮膜を形成する厚膜化工程とを有するものである。そして、銅めっき皮膜形成工程と厚膜化工程とを交互に繰り返し実行することによって、被めっき物の膜厚方向に所望とする膜厚まで錫めっき皮膜を厚膜化するものである。
このような本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法によれば、還元剤として3価のチタン化合物を含有する還元型無電解錫めっき浴を用いた無電解錫めっき処理によって、所望とする膜厚を有する錫めっき皮膜を形成することができる。
また、中性環境下で処理可能な3価のチタン化合物を還元剤として含有する還元型の無電解錫めっき浴により錫めっき皮膜を形成させることにより、ソルダーレジスト剥がれや溶出等を生じさせることなく処理できる。
また、上述のように、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理とを交互に実行し、析出した金属銅皮膜を触媒として錫めっき皮膜を成長させているので、還元反応による錫めっき皮膜形成を継続させることができる。さらに、このように還元反応を利用して錫めっき皮膜を形成させているので、置換反応により下地の銅又は銅合金を溶解させて錫めっき皮膜を形成した場合のように、銅又は銅合金のエッチングによるソルダーレジストの潜り込み等が生じることもなく、接続信頼性を向上させたプリント配線基板等を形成させることができる。
またさらに、無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理との繰り返し回数を増加させることにより、バンプ形成等、厚膜化が必要となる場合にも、所望とする膜厚を有し、良好なはんだ接合性に備えた錫めっき皮膜を形成させることができる。
なお、本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、上述の説明においては、銅又は銅合金等の基板上に錫めっき皮膜を形成させる例について説明したが、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法を適用することができる基板(被めっき物)の種類は、特に限定されるものではない。具体的に、上述した銅又は銅合金等の導電性材料からなる基板のほか、例えばニッケルめっき皮膜を形成した上に無電解銅めっき浴を用いて銅めっき皮膜を形成し、その上に錫めっき皮膜を形成してもよい。また、銅又は銅合金等の導電性材料とセラミック、ガラス、プラスチック、フェライト等の絶縁性材料とが複合したものであってもよい。具体的には、半導体パッケージ、プリント基板の回路、チップ部品、バンプ、コネクタ、リードフレーム、シリコンウエハ等のあらゆる電子機器構成部品等に錫めっき皮膜を形成させることができる。なお、本実施の形態における被めっき物を含め、これらの基板は、常法に従った脱脂処理や活性化処理等の所定のめっき前処理を施した上で、上述しためっき処理が実行される。
また、上述の説明において記載しためっき浴の組成や、めっき処理等における温度や時間等の処理条件に関しては、その一例を示したものであって当然にそれらに限定されるものではなく、適宜変更してもよいことは言うまでもない。
また、本実施の形態に係る錫めっき皮膜の成膜方法は、プリント配線基板の製造工程にのみ適用されるものではなく、例えばビルドアップ工法による高密度多層配線基板の製造工程、ウエハレベルCSP(Chip SizエポキシPackage又はChip ScaleエポキシPackage)、あるいはTCP(Tape Carrier Package)等における多層配線層の製造工程にも適用することができるものである。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
<錫めっき皮膜の膜厚評価>
BGA基板(上村工業株式会社製)(以下、被めっき物という。)に対して、下記の処理条件からなる実施例1及び2、参照例1〜3によって形成された錫めっき皮膜の膜厚を測定した。なお、被めっき物に対しては常法に従ってめっき前処理を行った。すなわち、めっき前処理工程として、クリーナ処理(50℃、2分:ACL-009 上村工業株式会社製)→酸洗処理(常温、1分:10%硫酸)→エッチング処理(25℃、1分:過硫酸ソーダ100g/L)→プレディップ処理(常温、1分:3%硫酸)を行った後に、無電解錫めっき処理を行った。なお、当該めっき前処理においては適宜、15〜60秒程度複数回の水洗処理を行った。
(実施例1)
実施例1においては、表1に示す三塩化チタンを還元剤として含有する還元型の無電解錫めっき浴を用いて被めっき物に対し無電解錫めっき処理を15分行った後、表2に示す置換型の無電解銅めっき浴を用いて無電解銅めっき処理を60秒行った。そしてその後、形成された銅めっき皮膜上に再び表1に示す無電解錫めっき浴を用いて無電解錫めっき処理を15分行って錫めっき皮膜を形成し、以後同様にして、無電解銅めっき処理1分と無電解錫めっき処理15分を交互に繰り返し、錫めっき皮膜を形成させた。
(実施例2)
実施例2においては、無電解錫めっき処理の処理時間を30分としたこと以外は、実施例1と同様に表1に示す無電解錫めっき浴と表2に示す無電解銅めっき浴を用いて、同様の処理を行った。
(参照例1)
参照例1においては、実施例1において用いた表1に示す還元型の無電解錫めっき浴に浸漬させ無電解錫めっき処理のみ行って錫めっき皮膜を形成させた。なお、めっき浴の交換や浴組成物の補充等は行わなかった。
(参照例2)
参照例2においては、実施例1において用いた表1に示す還元型の無電解錫めっき浴を用い、15分に一度の間隔でめっき浴を新しく交換して、無電解錫めっき処理のみ行って錫めっき皮膜を形成させた。
(参照例3)
参照例3においては、実施例1において用いた表1に示す還元型の無電解錫めっき浴を用い、TiCl3/NTA錯塩水溶液を注加しながら同じめっき浴に浸漬させて、無電解錫めっき処理のみを行って錫めっき皮膜を形成させた。なお、TiCl3/NTA錯塩水溶液は、45分毎にめっき浴に添加し、消費分の三塩化チタンを補給した。
表3及び図1に、これら実施例及び参照例において形成した錫めっき皮膜の膜厚測定結果を示す。なお、錫めっき皮膜の膜厚は、蛍光X線膜厚計(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製 SFT−9550)を用いて測定した(以下の膜厚測定においても同様)
表3及び図1に示されるように、還元型の無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理とを交互に繰り返し実行させた実施例1及び2では、3μm以上もの膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができた。
具体的に、実施例1では、交互に1回繰り返しためっき処理時間30分ですでに1.85μmの膜厚の錫めっき皮膜を形成し、めっき処理時間60分では3.37μm、めっき処理時間120分では5.38μmもの膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができた。また、実施例2では、交互に1回繰り返しためっき処理時間60分で1.75μm、めっき処理時間120分では3.48μmもの膜厚の錫めっき皮膜を形成させることができた。
これに対し、無電解錫めっき処理のみを行った参照例1〜3では、かろうじて参照例1においてめっき処理時間60分で約1μmの膜厚の錫めっき皮膜を形成することができたものの、それ以上に錫めっき皮膜を厚膜化させることはできなかった。
具体的に、参照例1では、めっき処理時間60分まで僅かにめっき皮膜は厚くなったが、その厚膜速度は非常に遅く、めっき時間60分でかろうじて1μmの膜厚のめっき皮膜を形成させただけであった。その後は全くめっき皮膜の膜厚化は進行せず、めっき浴を更新していない影響もあって、めっき処理時間180分では0.9μm程度の膜厚まで減少した。また、参照例2と参照例3では、共に0.85μm程度の膜厚のめっき皮膜しか形成させることができなかった。このことから、めっき浴を新しく交換しても、また還元剤を補給しても、めっき成長は回復せず、還元剤の消費がめっき成長の低下の原因ではないことがわかる。
これらの結果から明確にわかるように、実施例1及び2において処理したように、還元型の無電解錫めっき処理を行った後に、無電解銅めっき浴を用いて無電解銅めっき処理を行う操作を交互に繰り返し実行させることによって、1回の繰り返しのみで1.5μm以上の膜厚を有するめっき皮膜を形成させることができ、さらに処理を継続させることによって、3μm以上に錫めっき皮膜を厚膜化させることができることが判明した。また、実施例1及び2の結果から、錫めっき処理時間を15分とすることによって、より短い処理時間で所望とする膜厚を有する錫めっき皮膜が形成できると結論付けられる。
また、参照例1の結果から、実施例1及び2で行った無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理とを交互に繰り返し実行するめっき処理方法における、1回の無電解錫めっき処理の処理時間としては、5〜30分とすることが好ましいことが結論付けられる。
すなわち、表1に示す無電解錫めっき浴を用いて浴更新せずに浸漬させたままとした参照例1において、0.85μmの皮膜が形成されためっき処理時間15分と、0.95μmの皮膜が形成されためっき処理時間30分との間隔で、0.1μmの皮膜成長が確認された。しかしながら、それ以降はめっき処理時間を長くしても殆んどめっき成長は起こっていないことが分かる。このことから、めっき処理時間を30分より長くすると、錫めっき皮膜の成長がないにも拘らず浸漬させている状態となって処理効率が悪くなり、1回の錫めっき処理時間としては30分以下とすることが好ましいと結論付けられる。
一方で、めっき処理時間30分以下において、めっき処理時間5分の場合には0.39μmしか形成されなかったが、10分では0.79μm、15分では0.85μm、30分では0.95μmのめっき皮膜が形成された。錫めっき処理時間を5分にした場合、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成させるために置換型の銅めっき処理の回数も多くなることも考慮すると、めっき処理時間を10〜30分以上とすることにより、1回の無電解錫めっき処理で約0.8μm以上のめっき皮膜を形成させることができるとともに、無駄なく処理することができることがわかる。
なお、めっき処理時間5〜30分の間において、5〜10分の間では0.4μm、10〜15分の間では0.6μm、そして15〜30分の間では0.1μm(この15〜30分において5分間隔で換算すると約0.33μm)のめっき成長があり、めっき処理時間15〜30分ではめっき析出速度が相対的に低下していることがわかる。このことから、めっき処理時間を15〜30分とすることによって、1回の無電解錫めっき処理によって得られるめっき皮膜の膜厚の変動を少なくすることができ、所望とする膜厚の錫めっき皮膜を形成し易くすることができると判断できる。また、特にめっき処理時間を15分とすることにより、良好な錫の析出速度で、膜厚にばらつきのない錫めっき皮膜を形成することができると判断できる。
<無電解銅めっき処理の処理時間と錫めっき皮膜の膜厚の検討>
次に、下記の処理条件からなる実施例3によって形成された錫めっき皮膜の膜厚を測定し、無電解銅めっき処理の処理時間と形成される錫めっき皮膜の膜厚との関係について検討した。
(実施例3)
実施例3として、上述と同様のめっき前処理を施した被めっき物に対して、実施例1及び2において用いた表1に示す還元型の無電解錫めっき浴によって無電解錫めっき処理を15分行った後、表2に示す無電解錫めっき浴により下記の表4に示される所定のめっき処理時間で無電解銅めっき処理を行った。その後、再び表1に示す還元型の無電解錫めっき浴によって無電解錫めっき処理を15分行った。すなわち、15分の無電解錫めっき処理と所定時間の無電解銅めっき処理との交互の操作を1回ずつ行った場合における錫めっき皮膜の膜厚を測定した。
表4及び図2に、無電解銅めっき処理の処理時間に対する、形成された錫めっき皮膜の膜厚の測定結果を示す。
表4及び図2に示されるように、15分の無電解錫めっき処理と所定時間の無電解銅めっき処理との繰り返しを1回行った実施例3において、無電解銅めっき処理を全く行わなかった場合には0.66μmの錫めっき皮膜しか形成されなかったが、無電解銅めっき処理を1秒以上行うことによって、1μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成できることがわかった。その中でも、無電解銅めっき処理のめっき処理時間を1〜60秒とした場合には、錫めっき皮膜の膜厚を1.2μm以上とすることができ、特に無電解銅めっき処理時間を10秒とした場合においては、形成された錫めっき皮膜の膜厚が1.70μmとなり、最も厚く錫めっき皮膜を形成できることがわかった。
このように、15分の無電解錫めっき処理と、少なくとも1秒以上の無電解銅めっき処理との繰り返しを1回行う合計約30分のめっき処理を行うことによって、1.0μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成でき、特に無電解銅めっき処理時間を1〜60秒とすることによって、1.2μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成できることが判明した。なお、実施例3における無電解銅めっき処理において、めっき処理時間が最も長い180秒としたときでも、形成された銅めっき皮膜は0.11μmであった。
ここで、この検討における比較例として、下記の処理条件からなる比較例1及び2によって形成された錫めっき皮膜の膜厚を測定した。
(比較例1)
比較例1として、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを含有させた表5に示す無電解錫めっき浴(SBH浴)を用いて無電解錫めっき処理を行って錫めっき皮膜を形成させた。
(比較例2)
比較例2として、還元剤を含有しない表6に示す置換型の無電解錫めっき浴(置換浴)を用いて無電解錫めっき処理を行って錫めっき皮膜を形成させた。
表7及び図3に、これらの比較例1及び2において形成された錫めっき皮膜の膜厚の測定結果を示す。
表7及び図3に示されるように、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムとした比較例1では、めっき処理時間を長くすることによって錫めっき皮膜の膜厚が厚くなっており、めっき処理時間60分で1.21μm、120分で2.17μm、180分で3.30μmとなり、以降も錫めっき皮膜を厚くできることがわかる。また、置換型の無電解錫めっき処理を行った比較例2においても、めっき処理時間を長くすることによって錫めっき皮膜の膜厚が厚くなっており、めっき処理時間30分で1.44μm、60分で2.01μm、120分で2.42μmとなった。
しかしながら、上述した実施例3においては15分の無電解錫めっき処理と、少なくとも1秒以上の無電解銅めっき処理との交互の操作を1回ずつ行う合計約30分のめっき処理を行うことによって、1.0μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成できたのに対し、比較例1では1.0μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させるのに60分ものめっき処理を行わなければならないことが明確にわかる。
また、比較例2では、30分のめっき処理を行うことによって1.44μm程度の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させることができたものの、めっき処理時間が120分を過ぎると形成できる錫めっき皮膜の膜厚は2.5μm程度でほとんど変化せず、3.0μm以上の膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させるのは困難であることが明確にわかる。
<錫めっき皮膜の膜厚とはんだ接合性の評価>
次に、下記の実施例4〜6と比較例3〜5により、錫めっき皮膜の膜厚とはんだ接合性との関係について評価した。
(実施例4)
実施例4では、BGA基板(上村工業株式会社製 パット径φ0.5mm)に対し、上記表1に示す三塩化チタンを還元剤として含有する無電解錫めっき浴(Ti浴)を用いて無電解錫めっき処理を15分行った後、上記表2に示す無電解銅めっき浴を用いて無電解銅めっき処理(置換銅)を30秒行い、この操作を交互に5μmの錫めっき皮膜が形成されるまで繰り返し実行した。
(実施例5)
実施例5では、上記表2に示す無電解銅めっき浴を用いた無電解銅めっき処理を60秒行ったこと以外は、実施例4と同様に処理を行った。
(実施例6)
実施例6では、上記表2に示す無電解銅めっき浴を用いた無電解銅めっき処理を180秒行ったこと以外は、実施例4と同様に処理を行った。
(比較例3)
比較例3では、実施例4と同様のBGA基板に対し、無電解銅めっき処理を行わずに、上記表1に示す三塩化チタンを還元剤として含有する無電解錫めっき浴を用いて無電解錫めっき処理のみを行い、錫めっき皮膜を形成させた。
(比較例4)
比較例4では、実施例4と同様のBGA基板に対し、上記5に示す水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として含有する無電解錫めっき浴(SBH浴)を用いて無電解錫めっき処理のみを行い、錫めっき皮膜を形成させた。
(比較例5)
比較例5では、実施例4と同様のBGA基板に対し、上記6に示す還元剤を含まない置換型の無電解錫めっき浴(置換浴)を用いて無電解錫めっき処理のみを行い、錫めっき皮膜を形成させた。
表8に、実施例4〜6及び比較例3〜5によってBGA基板上に形成した、1μmの錫めっき皮膜のはんだ接合特性と、5μmの錫めっき皮膜のはんだ接合特性についての測定結果を示す。なお、はんだ接合特性の評価は以下の測定条件で行った。
〔測定条件〕
測定方式:ボールプルテスト
基板:上村工業(株)製BGA基板(パット径 φ0.5mm)
半田ボール:千住金属製 φ0.6mm Sn−3.0Ag−0.5Cu
リフロー装置:タムラ製作所製 TMR−15−22LH
リフロー条件:Top 240℃
リフロー環境:Air
リフロー回数:1回
フラックス:千住金属製 529D−1(RMAタイプ)
テストスピード:1000μm/秒
リフロー前の熱処理:150℃−8時間。
表8に示されるように、実施例4〜6及び比較例3〜5のいずれにおいても、形成された錫めっき皮膜の膜厚が1μmの場合には、はんだ接合特性が不良であった。このことから、良好なはんだ接合特性を発揮させるためには、少なくとも1μmより厚い膜厚の錫めっき皮膜を形成させることが必要であることがわかる。
無電解錫めっき処理と無電解銅めっき処理(30秒)とを、5μmの錫めっき皮膜が形成されるまで交互に繰り返し実行した実施例4では、8回の繰り返し操作によって5μmの膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させることができた。そして、この実施例4において形成された5μmの錫めっき皮膜のはんだ接合特性は良好であった。また、無電解銅めっき処理時間を60秒として実施例4と同様の繰り返し操作を行った実施例5では、7回の繰り返し操作によって5μmの膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させることができた。そして、この実施例5において形成された5μmの錫めっき皮膜もはんだ接合特性は良好であった。また、無電解銅めっき処理時間を180秒として実施例4と同様の繰り返し操作を行った実施例6では、6回の繰り返し操作によって5μmの膜厚を有する錫めっき皮膜を形成させることができた。そして、この実施例6において形成された5μmの錫めっき皮膜もはんだ接合特性は良好であった。
これに対し、実施例4と同様の無電解錫めっき浴で無電解錫めっき処理のみを行った比較例3では、5μmの膜厚まで錫めっき皮膜を形成することができなかった。また、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として用いて処理した比較例4では、5μmの膜厚の錫めっき皮膜を形成できたものの、ソルダーレジストが剥がれてしまい、はんだ接合特性のテストが不可能となってしまった。また、置換型の無電解錫めっき処理を行った比較例5では、5μmの膜厚の錫めっき皮膜を形成できたものの、その錫めっき皮膜のはんだ接合性は不良なものであった。
このように、三塩化チタンを還元剤として含有する無電解錫めっき浴を用いて無電解錫めっき処理を行った後、無電解銅めっき浴を用いて無電解銅めっき処理を所定時間行い、この操作を交互に繰り返し実行することによって、プリント配線基板等を損傷させることなく、5μmもの膜厚を有する錫めっき皮膜を形成することができるとともに、その錫めっき皮膜のはんだ接合特性は極めて良好なものになることが判明した。