JP2010202798A - 水性インク組成物、インクセット、及び画像形成方法 - Google Patents

水性インク組成物、インクセット、及び画像形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】インク安定性に優れ、画像が形成された記録媒体におけるブロッキングの発生を抑制することができる水性インク組成物を提供する。
【解決手段】水性インク組成物を、水不溶性着色粒子と、2種以上のポリマーを含み、カルボキシル基を有するポリマーの少なくとも1種およびガラス転移温度が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種を含む複合粒子とを含んで構成する。
【選択図】なし

Description

本発明は、水性インク組成物、インクセットならびに画像形成方法に関する。
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに形成された多数のノズルからそれぞれインク滴を打滴することによって記録を行うものであり、記録動作時の騒音が低く、ランニングコストが安く、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録できることなどから幅広く利用されている。
ところで、インクジェット用インクでは、黒色インクにカーボンブラック顔料が使用されているが、カラーインクにおいては水溶性染料が中心的であり、耐候性(例えば、耐光性、耐オゾン性、耐水性)の改良が求められている。特に、印刷分野への応用を考えた場合、耐候性の改善は特に重要である。顔料は、その高い結晶性に起因して本質的に堅牢性が高く、耐光性、耐水性は染料に比べて格段に優れている。しかしながら、ノズル部の目詰まり等による吐出性、凝集沈降などの保存安定性や、さらに粒子が記録媒体表面に留まるために耐擦性や光沢性といった印字物の定着性が悪くなるなど、課題が残されている。
定着性向上技術として、炭素数14〜20の脂肪族炭化水素基を有する不飽和単量体と、メタクリル酸ベンジル系単量体、スチレン系単量体を共重合して得られる自己水分散性共重合体樹脂を、水性インクジェット記録液中にハイドロゾルまたはエマルションの形態で用いる水性インクジェット記録液が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この記録液は、保存安定性が良好で、浸透乾燥による速やかな乾燥性を付与しても高い印字濃度と印字品位を維持し、さらに耐摩擦性、耐水性にも優れるとされている。
また、最低造膜温度(MFT)が60〜100℃である低MFT樹脂エマルジョンと、ガラス転移温度(Tg)が140〜200℃である高Tg樹脂エマルジョンを含むインクジェット記録用インクが知られており、吐出性、定着性等に優れるとされている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、ポリマー粒子分散物(ラテックス)の製造方法として、α,β−不飽和カルボン酸を含む疎水性ビニル系単量体混合物を有機溶媒中で重合し、得られた重合体含有溶液から有機溶媒を除去し、次いで水及び塩基性物質を添加することによって得られるビニル系の水性乳化重合体の存在下に、乳化重合してエマルションとする方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
特開2002−88285号公報 特開平8−283636号公報 特開2006−249282号公報
しかしながら、特許文献1に記載の水分散物含有インクは定着性向上効果が認められるものの、安定な水分散物を得ることが困難になる場合があった。また安定な水分散物が得られた場合であっても、水分散物の粘度が高い場合があり、例えばインクジェットインクへの適用は困難であった。
特許文献2に記載のインクジェット記録用インクにおいては、被記録媒体への付与と同時に加熱することが必須であり、またMFTが60℃未満の低MFT樹脂を含む場合にはブロッキング性が悪化するとされている。また、特許文献2に記載のエマルジョンに関しては製造方法に関して何ら記載がなされておらず、吐出性やインク安定性において劣ることは想像に難くない。
さらに特許文献3に記載の製造法で得られるエマルションでは、インクジェットインクに適用した場合、ポリマー粒子のTgが低く、画像の耐ブロッキング性に劣るという問題点があった。
本発明は、インク安定性に優れ、画像が形成された記録媒体におけるブロッキングの発生を抑制することができる水性インク組成物および該水性インク組成物を含むインクセット、ならびに画像形成方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 着色剤を含む水不溶性着色粒子と、2種以上のポリマーを含み、カルボキシル基を有するポリマーの少なくとも1種およびガラス転移温度が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種を含む複合粒子と、を含有する水性インク組成物。
<2> 前記複合粒子は、pH環境の変化により凝集する特性を有する前記<1>に記載の水性インク組成物。
<3> 前記複合粒子は、ガラス転移温度の差の絶対値が40℃以上である2種のポリマーを含む前記<1>または<2>に記載の水性インク組成物。
<4> 前記複合粒子は、カルボキシル基含有ポリマーの水溶液またはエマルションの存在下で、モノマーの乳化重合により得られる前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
<5> 前記カルボキシル基含有ポリマーの水溶液又はエマルションは、塩基性化合物を更に含む前記<4>に記載の水性インク組成物。
<6> 前記複合粒子は、酸価が30以上500以下の第1のポリマーと、酸価が30未満の第2のポリマーとを含む前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
<7> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の水性インク組成物と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
<8> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の水性インク組成物を、記録媒体に付与する工程と、前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱定着して画像を形成する工程と、を備える画像形成方法。
<9> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体に付与する工程をさらに備える前記<8>に記載の画像形成方法。
本発明によれば、インク安定性に優れ、画像が形成された記録媒体におけるブロッキングの発生を抑制することができる水性インク組成物および該水性インク組成物を含むインクセット、ならびに画像形成方法を提供することができる。
<水性インク組成物>
本発明の水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」ということがある)は、水不溶性着色粒子と、2種以上のポリマーを含む複合粒子とを含有して構成され、前記複合粒子がカルボキシル基を有するポリマーの少なくとも1種と、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種と含む。かかる構成とすることで、インク安定性に優れ、定着性(耐擦性)と耐ブロッキング性に優れた画像を形成することができる。
本発明の水性インク組成物は、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク(例えば無色)等を用いることができる。
本発明の水性インク組成物においては、複合粒子がガラス転移温度(Tg)の高いポリマーを含有することで、例えば、形成された画像インク膜同士の相互作用が弱まり、画像の相互接着力が低下する。その結果、耐ブロッキング性が向上すると考えることができる。
本発明において、複合粒子が含む2種以上のポリマーのうち、少なくとも1種のポリマーのガラス転移温度(Tg)が120℃以上であるが、130℃以上であることが好ましく、130℃以上300℃以下であることがより好ましい。
複合粒子が、ガラス転移温度が120℃以上であるポリマーを含まない場合、形成される画像の耐ブロッキング性が低下する場合がある。
また複合粒子が含む2種以上のポリマーのうち、少なくとも1種はカルボキシル基を有する。複合粒子が、カルボキシル基を有するポリマーを含まない場合、インク組成物の安定性が低下する場合がある。
尚、複合粒子が含むカルボキシル基含有ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であっても良いし、120℃未満であってもよい。
本発明において前記複合粒子は、ガラス転移温度の差の絶対値が40℃以上である2種のポリマーを含むことが好ましく、ガラス転移温度の差の絶対値が40℃以上200℃以下である2種のポリマーを含むことがより好ましく、ガラス転移温度の差の絶対値が50℃以上200℃以下である2種のポリマーを含むことがさらに好ましい。ガラス転移温度の差が40℃以上である2種のポリマーを含むことで、形成される画像の皮膜性が向上し、耐ブロッキング性と耐擦性をより効果的に両立させることが可能となる。
さらに本発明における複合粒子は、少なくとも1種のポリマーのガラス転移温度が130℃以上であって、ガラス転移温度の差の絶対値が40℃以上200℃以下である2種のポリマー含むことが好ましく、少なくとも1種のポリマーのガラス転移温度が130℃以上300℃以下であって、ガラス転移温度の差の絶対値が50℃以上200℃以下である2種のポリマーを含むことがより好ましい。
本発明においてポリマーのガラス転移温度は、通常用いられる方法によって適宜制御することができる。例えば、ポリマーを構成するモノマーの重合性基の種類、モノマー上の置換基の種類やその構成比率、ポリマー粒子を構成するポリマー分子の分子量等を適宜選択することで、ポリマーのガラス転移温度を所望の範囲に制御することができる。
尚、本発明においてガラス転移温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220を用いて通常の測定条件で測定された値(以下、「測定Tg」ということがある)を意味する。本発明においては複合粒子が2種以上のポリマーから構成されるが、それぞれのポリマーのガラス転移温度は、DSC測定で観測される2以上のピークにそれぞれ対応する。
但し、ポリマーが分解する等の場合や、2種以上のポリマーのガラス転移温度が近接していて、それぞれのガラス転移温度Tgを測定することが困難な場合には、以下の方法で算出される計算Tgを本発明におけるガラス転移温度とする。
計算Tgは下記の式で計算される。
(式) 1/Tg=Σ(X/Tg
ここでは、ポリマーはi=1からnまでのn個のモノマー成分が共重合しているとする。Xはi番目のモノマーの重量分率(ΣX=1)、Tgはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。ただしΣはi=1からnまでの和をとる。尚、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tg)は、Polymer Handbook(3rd Edition)(J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley−Interscience、1989))の値を参考にできる。
本発明における複合粒子としては、2種以上のポリマーを含み、カルボキシル基を有するポリマーの少なくとも1種とガラス転移温度が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種とを含んでいれば、特に制限なく任意のポリマーを含むことができる。複合粒子を構成するポリマーは、ビニルポリマーであっても縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)であってもよい。中でも、複合粒子の分散安定性の観点から、少なくとも1種はビニルポリマーであることが好ましく、2種以上がビニルポリマーであることがより好ましい。
本発明においてビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
本発明における複合粒子は、形成される画像のブロッキング性と耐擦性の観点から、環状脂肪族基を有する構成単位の少なくとも1種を含むポリマーを含むことが好ましい。前記環状脂肪族基を有する構成単位は、環状脂肪族基を有するモノマーに由来するものであっても、高分子反応でポリマーに導入されたものであってもよい。本発明における環状脂肪族基を有する構成単位は、環状脂肪族基を有するモノマーに由来するものであることが好ましく、環状脂肪族基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来するものであることがより好ましい。
本発明において環状脂肪族基を有する(メタ)アクリル系モノマー(以下、「脂環式(メタ)アクリレート」ということがある)とは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換または置換された環状脂肪族基を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、前記環状脂肪族基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。
尚、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
環状脂肪族基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。
環状脂肪族基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、およびビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。
前記環状脂肪族基は、更に置換基を有してもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキルまたはアリールカルボニル基、およびシアノ基等が挙げられる。
また環状脂肪族基は、さらに縮合環を形成していてもよい。
本発明における環状脂肪族基としては、粘度や溶解性の観点から、環状脂肪族基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
環状脂肪族基とアルコールに由来する構造部位とを結合する連結基としては、炭素数1から20までの、アルキル基、アルケニル基、アルキレン基、アラルキル基、アルコキシ基、モノまたはオリゴエチレングリコール基、モノまたはオリゴプロピレングリコール基などが好適なものとして挙げられる。
本発明における脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、複合粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、または3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、およびジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
また本発明における複合粒子は、pH環境の変化によって凝集する特性を有することが好ましい。かかる特性を有することで、インク組成物の経時安定性と高速記録性とを両立することができる。例えば、複合粒子が解離性基を有するポリマーの少なくとも1種を含有することで、複合粒子をpH環境の変化によって凝集するように構成することができる。本発明において前記解離性基は、アニオン性基であることが好ましく、カルボキシル基であることがより好ましい。複合粒子がカルボキシル基を有するポリマーを含むことにより早い凝集速度を達成することができ、さらにインク組成物の経時安定性を高くすることができる。
また前記複合粒子は、例えば、凝集時に水不溶性着色粒子を取り込んで凝集物を形成することができる。複合粒子と水不溶性着色粒子を含む凝集物は、例えば、画像形成に好適に用いることができる。
また、本発明のインク組成物に含まれる複合粒子は、酸価(KOHmg/g)が30以上500以下である第1のポリマーの少なくとも1種と、酸価が30未満である第2のポリマーの少なくとも1種とを含むことが好ましい。かかる構成であることで、インク組成物の経時安定性と高速記録性がより効果的に達成される。
前記第1のポリマーは、酸価が30以上500以下となるようにアニオン性基を含んでいれば特に制限はない。アニオン性基としてはカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができるが、安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基であることが好ましい。すなわち前記第1のポリマーはカルボキシル基含有ポリマーであることが好ましい。
<カルボキシル基含有ポリマー>
本発明における複合粒子はカルボキシル基含有ポリマーの少なくとも1種を含む。カルボキシル基含有ポリマーは1種を単独で使用しても、構造、共重合比、分子量などが異なる2種以上を混合して使用してもよい。
前記カルボキシル基含有ポリマーは、カルボキシル基を有するポリマーであれば特に制限はないが、乳化剤成分として機能するものであることが好ましい。乳化剤成分として機能するカルボキシル基含有ポリマーは、複合粒子の構成要素とすることができる後述の水不溶性ポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマーを含有する被乳化成分を液滴としたミセルを形成し、ラジカル重合開始剤をミセルに取り込んだ状態で重合を開始させることができる。つまり、カルボキシル基含有ポリマーは、水に不溶もしくは難溶のエチレン性不飽和モノマーに、水中における重合の場を提供することができることが好ましい。
カルボキシル基含有ポリマーは1種を単独で使用しても、構造、共重合比、分子量などが異なる2種以上を混合して使用してもよい。
一般に、乳化重合における乳化剤は、疎水性成分を水性媒体中で乳化する役割を担う。そのために、親水性の部分構造と疎水性の部分構造とを有することが好ましい。従って、本発明におけるカルボキシル基含有ポリマーは、親水性の部分構造としてカルボキシル基を有するとともに、疎水性の部分構造を更に有することが好ましい。
前記疎水性の部分構造としては、例えば、芳香族基、アラルキル基及びアルキル基等挙げることができる。中でも疎水性部分として、芳香族基、アラルキル基及び炭素数4以上のアルキル基から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
カルボキシル基含有ポリマーの主鎖構造としては、特に制限はなく、例えば、ビニルポリマーであっても、縮合系ポリマーであってもよいが、ビニルポリマーであることが好ましい。
カルボキシル基含有ポリマーは、例えば、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとそれ以外のモノマーとで構成することができる。
カルボキシル基含有ポリマーの共重合成分であるカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸が挙げられる。
また、カルボキシル基含有ポリマーを構成し得るカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー以外のモノマーの例としては、疎水性基を有するエチレン性不飽和モノマー、ノニオン性親水性基を有するエチレン性不飽和モノマー等を挙げることができる。
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン等の芳香族系モノマー;上述した脂環式(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
本発明におけるカルボキシル基含有ポリマーは、乳化重合の安定性、及び、Tg制御の観点から、(メタ)アクリル酸と、脂環式(メタ)アクリレート、芳香族系モノマー、アラルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、及び、アルキル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種とからなることが好ましく、(メタ)アクリル酸と、芳香族系モノマー、脂環式(メタ)アクリレート、およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種とからなることがより好ましく、(メタ)アクリル酸と、アルキル(メタ)アクリレートと、芳香族系モノマーおよび脂環式(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種とからなることがさらに好ましい
本発明におけるカルボキシル基含有ポリマーの酸価(KOHmg/g)は、pH環境の変化(例えば、後述する酸性の処理液との接触)により凝集反応を促進させる観点と、乳化重合の安定化の観点から、30以上500以下であることが好ましい。より好ましくは30以上400以下であり、更に好ましくは30以上300以下である。酸価が30以上であることにより、ラジカル重合における乳化力が向上し乳化重合をより安定に行うことができる。また、酸価が500以下であることにより、凝集反応性をより向上させることができる。
カルボキシル基含有ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で1000〜20万であることが好ましく、2000〜15万であることがより好ましく、3000〜70000であることが更に好ましい。重量平均分子量を1000以上とすることで重合安定性がより向上し、重合中の凝集をより効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量が20万以下であることにより、カルボキシル基含有ポリマーの水溶液又はエマルションの粘度を高くなり過ぎることを抑制することができ、乳化重合体をより均一に行うことができ、また、水性インク組成物を構成したときの吐出性悪化をより効果的に抑制することができる。
尚、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定することができる。
本発明におけるカルボキシル基含有ポリマーは、例えば、溶剤中における溶液重合等の通常の方法で得ることができる、また水性媒体中での重合による合成や、塊状重合による合成も可能である。
溶液重合によって得たカルボキシル基含有ポリマーを乳化剤として用いて乳化重合を行なう場合には、カルボキシル基含有ポリマーを調製した際に用いた有機溶剤を除去しておくことが好ましい。有機溶剤の割合を減少させることで、重合の転化率がより良好になったり、塗膜の物性がより良好になったりする。
有機溶剤を除去する方法としては、例えば、通常の減圧法を用いた脱溶剤の方法を用いることができる。
以下に、カルボキシル基含有ポリマーの具体例として、例示化合物C−01〜C−10を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
・C−01:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 ポリマー(48/27/25)
・C−02:メチルメタクリレート/エチルアクリレート/メタクリル酸 ポリマー(60/30/10)
・C−03:ベンジルメタクリレート/エチルアクリレート/メタクリル酸/ジメチルアミノエチルメタクリレート ポリマー(60/30/4/6)
・C−04:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 ポリマー(55/37/8)
・C−05:スチレン/ブチルメタクリレート/メタクリル酸/ジメチルアミノエチルメタクリレート ポリマー(55/24/15/6)
・C−06:スチレン/t-ブチルメタリレート/アクリル酸 ポリマー(53/27/20)
・C−07:ベンジルメタクリレート/ブチルメタクリレート/メタクリル酸 ポリマー(55/30/15)
・C−08:ベンジルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸/ジメチルアミノエチルアクリレート ポリマー(70/15/10/5)
・C−09:ベンジルメタクリレート/ドデシルメタクリレート/N−ビニルピロリドン ポリマー/アクリル酸(50/25/5/20)
・C−10:ベンジルメタクリレート/メチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸 ポリマー(55/15/10/20)
<水不溶性ポリマー>
本発明における複合粒子は、カルボキシル基含有ポリマーに加えて水不溶性ポリマーの少なくとも1種を含むことが好ましい。水不溶性ポリマーは1種を単独で使用しても、構造、共重合比、分子量などが異なる2種以上を混合して使用してもよい。
水不溶性ポリマーは、ビニルポリマーであっても、縮合系ポリマーであってもよいが、ビニルポリマーであることが好ましい。ビニルポリマーを構成するモノマー、および縮合系ポリマーを構成するモノマーとしては、既述のカルボキシル基含有ポリマーにおけるモノマーを挙げることができる。
本発明における水不溶性ポリマーは、耐ブロッキング性の観点から、環状脂肪族基を有する構成単位の少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。水不溶性ポリマーにおける環状脂肪族基を有する構成単位は、既述のものと同様であり、好ましい態様も同様である。
水不溶性ポリマーにおける環状脂肪族基を有する構成単位の含有率には、特に制限はないが、耐ブロッキング性の観点から、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
前記水不溶性ポリマーは、環状脂肪族基を有する構成単位を含むことが好ましいが、必要に応じてその他の構成単位をさらに含んで構成することができる。水不溶性ポリマーを構成することができるその他の構成単位としては、親水性の構成単位(好ましくは、カルボキシル基を有する構成単位)、芳香族系モノマーに由来する構成単位、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位等を挙げることができる。芳香族系モノマーおよびアルキル(メタ)アクリレートの具体例は、既述のとおりである。
本発明における水不溶性ポリマーの酸価(KOHmg/g)は特に制限はないが、pH環境の変化(例えば、酸性処理液との接触)による凝集反応を促進させる観点から、30未満であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることが特に好ましい。
また水不溶性ポリマーの好ましい分子量範囲は、前記カルボキシル基含有ポリマーの説明において挙げた好適な範囲と同様である。
本発明における水不溶性ポリマーは、耐ブロッキング性と凝集性の観点から、環状脂肪族基を有する構成単位を含み、酸価が30未満であることが好ましく、環状脂肪族基を有する構成単位を30質量%以上含み、酸価が20以下であることがより好ましく、環状脂肪族基を有する構成単位を50質量%以上含み、酸価が10以下であることがさらに好ましい。
また、水不溶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)については特に制限はないが、耐ブロッキング性の観点から、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、130〜300℃であることが更に好ましい。
以下に、水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−06を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
・B−01:イソボルニルメタクリレート ポリマー(100)
・B−02:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート ポリマー(40/60)
・B−03:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ベンジルメタクリレート ポリマー(30/65/5)
・B−04:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 ポリマー(40/50/10)
・B−05:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート ポリマー(20/80)
・B−06:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 ポリマー(30/66/4)
本発明における複合粒子が、カルボキシル基含有ポリマーと水不溶性ポリマーとを含む場合、これらの含有量には特に制限はないが、耐擦性、耐ブロッキング性および分散安定性の観点から、カルボキシル基含有ポリマーの含有率が5〜80質量%であって、水不溶性ポリマーの含有率が20〜95質量%であることが好ましく、カルボキシル基含有ポリマーの含有率が5〜70質量%であって、水不溶性ポリマーの含有率が30〜95質量%であることがより好ましい。また複合粒子中における、水不溶性ポリマーに対するカルボキシル基含有ポリマーの含有比率(カルボキシル基含有ポリマー/水不溶性ポリマー)としては特に制限はないが、耐擦性、耐ブロッキング性および分散安定性の観点から、1/20〜5/1であることが好ましく、1/10〜2/1であることがより好ましい。
−複合粒子の製造方法−
本発明における複合粒子の作製方法としては、公知の方法を特に制限はなく用いることができ、例えば、1)乳化重合、2)乳化分散などを挙げることができる。
本発明においては、耐ブロッキング性と凝集性の観点から、前記カルボキシル基含有ポリマーの水溶液又はエマルションの存在下で、水不溶性ポリマーを構成するモノマーの乳化重合または乳化分散を行うことで、水不溶性ポリマーを含む複合粒子の水性分散物を得る工程を含む製造方法であることが好ましい。
本発明においては、カルボキシル基含有ポリマーを乳化剤または分散剤として用いることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、カルボン酸塩系乳化剤をさらに併用することができる。
本発明に併用することができるカルボン酸塩系乳化剤としては、分子内にカルボキシル基を有する乳化剤であれば特に制限はない。例えば、牛脂系脂肪酸石鹸、ヤシ油系脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、ステアリン酸塩およびオレイン酸塩等の各種精製脂肪酸石鹸、アルケニルコハク酸塩、並びにN−ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン塩等が挙げられる。中でも、せん断力に対する安定性からアルケニルコハク酸塩が好ましい。また、反応性カルボン酸塩系乳化剤の好適な例として、特開平9−302007号公報等に記載されているものを挙げることができる。
−塩基性化合物−
本発明において、前記カルボキシル基含有共重合体の水溶液又はエマルションは、塩基性化合物を更に含有することが好ましい。塩基性化合物を更に含有することにより、カルボキシル基含有共重合体中のカルボキシル基の一部又は全部が中和され、カルボキシル基含有共重合体の水溶液又はエマルションをより安定した状態とすることができ、これを用いた乳化物形成をより効率的に行うことができる。
本発明で用いられる塩基性化合物としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。またアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
これら塩基性化合物は、カルボキシル基含有共重合体中のカルボキシル基100モル%に対して、20〜300モル%使用することが好ましい。
−1)乳化重合−
乳化重合は、例えば、水性媒体(例えば、水など)に水不溶性ポリマーを構成するモノマー、重合開始剤、乳化剤(好ましくは、前記カルボキシル基含有ポリマー)、および、必要に応じて水溶性重合連鎖移動剤などを加えて調製した乳化物を重合させることで行うことができる。
前記重合開始剤は、特に制限されるものではなく、無機過硫酸塩(例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなど)、アゾ系開始剤(例えば2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]など)、有機過酸化物(例えばペルオキシピバル酸−t−ブチル、t−ブチルヒドロペルオキシドなど)等を用いることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらのうち、複合粒子の凝集性の観点から、アゾ系開始剤、有機過酸化物を用いることが好ましい。
本発明における重合開始剤の使用量としては、全モノマーに対して、通常0.01〜2質量%であり、好ましくは0.2〜1質量%である。
本発明における乳化剤としてのカルボキシル基含有ポリマーの使用量としては、複合粒子の凝集性の観点から、全モノマーに対して、2〜300質量%であることが好ましく、5〜100質量%であることがより好ましい。カルボキシル基含有ポリマーの使用量が2質量%以上であることにより、モノマーの乳化をより効率的に行うことができる。また、300質量%以下であることにより、得られる複合粒子の凝集性をより良好にすることができる。
前記水溶性重合連鎖移動剤としては、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマーおよび水溶性連鎖移動剤としてのホスフィン酸ソーダが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
−2)乳化分散−
本発明における乳化分散としては、特に制限なく公知の乳化分散方法を用いることができる。例えば、ポリマー溶液や溶融ポリマーを、乳化剤を含む水性媒体に乳化分散する強制乳化法、ポリマー溶液に乳化剤を溶解し、水性媒体を添加するか、または、ポリマー溶液に乳化剤の水性媒体溶液を徐々に添加して、相反転を行う転相乳化法の何れの方法を用いても良い。
ポリマー溶液および溶融ポリマーにおけるポリマーとしては前記水不溶性ポリマーを用いることができる。また、乳化剤については前記カルボキシル基含有ポリマーを好ましく用いることができ、その添加量も同様である。
本発明においては、複合粒子の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基含有ポリマーの水溶液またはエマルションの存在下で、水不溶性ポリマーを構成するモノマーを乳化重合することにより、複合粒子を構成することが好ましい。
本発明における複合粒子の体積平均粒径は特に制限はないが、1〜400nmの範囲であることが好ましく、3〜200nmがより好ましく、5〜100nmがさらに好ましい。1nm以上の体積平均粒径であることで凝集特性が向上する。また、400nm以下の体積平均粒径とすることでインク打滴性が向上する。
また、複合粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、複合粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、複合粒子の体積平均粒径及び粒径分布は、例えば、動的光散乱法を用いて測定することができる。
本発明の水性インク組成物における複合粒子の含有量としては、画像の光沢性などの観点から、水性インク組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
また、本発明の水性インク組成物における水不溶性着色粒子と複合粒子の含有比率(水不溶性着色粒子/水不溶性粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10であることが好ましく、1/1〜1/4であることがより好ましい。
[水不溶性着色粒子]
本発明における水不溶性着色粒子は、着色剤の少なくとも1種を含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成することができる。着色剤としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である着色剤であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、顔料であることがより好ましい。
本発明においては、水不溶性の顔料自体または分散剤で表面処理された顔料自体を水不溶性着色粒子とすることができる。
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、上記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も勿論使用可能である。上記顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
本発明に用いることができる顔料として具体的には、例えば、特開2007−100071号公報の段落番号[0142]〜[0145]に記載の顔料などが挙げられる。
−分散剤−
本発明における着色剤が顔料である場合、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤の何れでもよい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤(以下、「低分子分散剤」ということがある)は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
前記低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
親水性基としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等を挙げることができる。
アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基またはカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基またはカルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
カチオン性基は、プラスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素またはリンを含むカチオン性基であることがより好ましく、窒素を含むカチオン性基であることが更に好ましい。中でも、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。
ノニオン性基は、マイナスまたはプラスの電荷を有しないものであれば特に制限はない。例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
本発明においては、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、親水性基がアニオン性基であることが好ましい。
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、そのpKaは3以上であることが好ましい。本発明における低分子分散剤のpKaはテトラヒドロフラン−水=3:2(V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/Lに溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。
理論上、低分子分散剤のpKaが3以上であれば、pH3程度の処理液と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この観点から、低分子分散剤が、アニオン性基としてカルボン酸基を有していることが好ましい。
一方、疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等のいずれの構造を有するものであってもよいが、特に、炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性基は、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
本発明におけるポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
また、天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
本発明におけるポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
尚、重量平均分子量は、例えば、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定できる。
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
本発明において着色剤として染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを水不溶性着色粒子として用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶または水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料及びこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
本発明における水不溶性着色粒子は、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。
本発明において、水不溶性着色粒子の平均粒径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。
また、水不溶性着色粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ水不溶性着色粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、水不溶性着色粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
本発明において、上記水不溶性着色粒子は1種単独で、また2種以上を組合わせて使用してもよい。
また、水不溶性着色粒子の含有量としては、画像濃度の観点から、水性インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
−水溶性有機溶媒−
本発明の水性インク組成物は、水を溶媒として含むものであるが、水溶性有機溶媒を更に含むことができる。前記水溶性有機溶剤は、例えば、乾燥防止剤、浸透促進剤として含有することができる。
乾燥防止剤は、特に、本発明の水性インク組成物をインクジェット方式による画像記録方法に適用する場合、インク噴射口におけるインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
乾燥防止剤は、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。乾燥防止剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても、2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤は、インク中に、10〜50質量%含有されることが好ましい。
また、浸透促進剤は、インクを記録媒体(印刷用紙)により良く浸透させる目的で、好適に使用される。浸透促進剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。これらの浸透促進剤は、インク組成物中に、5〜30質量%含有されることで、充分な効果を発揮する。また、浸透促進剤は、印画の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で、使用されることが好ましい。
また、水溶性有機溶媒は、上記以外にも、粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶媒の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。
尚、水溶性有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
−その他の添加剤−
本発明におけるその他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水性インク組成物を調製後に直接添加してもよく、水性インク組成物の調製時に添加してもよい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物も用いることができる。
褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらは水性インク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は水性インク組成物の保存安定性を向上させる目的で、該水性インク組成物がpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
また、表面張力調整剤の添加量は、インクジェット方式で良好に打滴するために、水性インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。一方、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましく、30〜50mN/mの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の表面張力(25℃)は、例えば、プレート法を用いて測定することができる。
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)やオルフィンE1010(日信化学工業(株)製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
本発明の水性インク組成物の粘度としては、インクの付与をインクジェット方式で行う場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
また、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、1〜40mPa・sの範囲が好ましく、5〜20mPa・sの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の粘度(20℃)は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
<インクセット>
本発明のインクセットは、既述の本発明の水性インク組成物の少なくとも1種と、水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液の少なくとも1種とを含んで構成されたものである。
水性インク組成物の詳細については、既述した通りである。
本発明においては、水性インク組成物を構成する複合粒子がカルボキシル基を有するポリマーと、ガラス転移温度が120℃以上であるポリマーとを含むことで、形成される画像の耐ブロッキング性と耐擦性とが良好になる。さらに複合粒子が、酸価が30以上500以下の第1のポリマーと、酸価が30未満の第2のポリマーとを含むことで、処理液との接触による凝集体の形成がより効果的に促進される。
−処理液−
本発明における処理液は、既述の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能なように構成されたものである。具体的には、処理液は、インク組成物中の色材粒子(顔料等)などの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含むことが好ましく、必要に応じて、他の成分を用いて構成することができる。水性インク組成物と共に処理液を用いることで、例えば、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
(凝集成分)
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有することができる。記録媒体に付与された前記水性インク組成物と処理液中の凝集成分とが接触することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃±1℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃)が1.5〜3である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種単独で用いるほか2種以上併用してもよい。
本発明における処理液は、上記酸性化合物等に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
酸性化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、更に好ましくは15〜50質量%であり、特に好ましくは18〜30%である。
また処理液としては、凝集成分として多価金属塩の少なくとも1種を含む処理液が挙げられる。これにより高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)の塩、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタンの塩)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)の塩、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
金属の塩の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
また、処理液は、凝集成分として、カチオン性有機化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。カチオン性有機化合物としては、例えば、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、又はポリアリルアミン及びその誘導体などのカチオン性ポリマーを挙げることができる。
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、1,000〜500,000の範囲が好ましく、1,500〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは2,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、1000以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
さらに、前記カチオン性有機化合物として、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。このアミン塩型の化合物の例として、塩酸塩もしくは酢酸塩等の化合物(例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなど)、第4級アンモニウム塩型化合物(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど)、ピリジニウム塩型化合物(例えば、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど)、イミダゾリン型カチオン性化合物(例えば、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンなど)、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物(例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなど)等のカチオン性の化合物や、例えば、アミノ酸型の両性界面活性剤、R−NH−CHCH−COOH型の化合物(Rはアルキル基等を表す)、カルボン酸塩型両性界面活性剤(例えば、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなど)、硫酸エステル型、スルホン酸型、又は燐酸エステル型等の両性界面活性剤など所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤などを挙げることができる。
中でも、2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
カチオン性有機化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは2〜30質量%である。
上記のうち、凝集成分としては、凝集性及び画像の耐擦過性の点で、2価以上のカルボン酸、又は2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
(その他成分)
本発明における処理液は、凝集成分に加え、一般には水溶性有機溶剤を含むことができ、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の各種添加剤を用いて構成することができる。水溶性有機溶剤の詳細については、既述のインク組成物におけるものと同様である。
前記その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられ、既述のインク組成物に含まれるその他の添加剤の具体的な例に挙げたものが適用できる。
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
なお、粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mであることが好ましく、20〜45mN/mであることがより好ましく、25〜40mN/mであることがさらに好ましい。
なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、前記水性インク組成物を、記録媒体に付与するインク付与工程と、前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱定着して画像を形成する加熱定着工程とを備えるが、必要に応じて、その他の工程をさらに備えて構成することができる。
その他の工程としては、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程、加熱乾燥工程等を挙げることができる。
本発明においては、水性インク組成物が水不溶性着色粒子と複合粒子とを含み、複合粒子がカルボキシル基を含有するポリマーの少なくとも1種と、ガラス転移温度が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種とを含むことで、耐擦性および耐ブロッキング性が両立した画像を形成することができる。
−インク付与工程−
インク付与工程は、既述の本発明の水性インク組成物を記録媒体に付与して画像を形成する。本工程では、記録媒体上に選択的に水性インク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。水性インク組成物の付与方法としては、例えば、インクジェット法、謄写方式、捺転方式等を挙げることができる。中でも、記録装置のコンパクト化と高速記録性の観点から、水性インク組成物をインクジェット法によって付与する工程であることが好ましい。
尚、本発明の水性インク組成物における各成分の詳細及び好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
更には、本発明におけるインク付与工程では、ライン方式による場合に、インク組成物を1種のみ用いるのみならず2種以上のインク組成物を用い、先に吐出するインク組成物(第n色目(n≧1)、例えば第2色目)とそれに続いて吐出するインク組成物(第n+1色目、例えば第3色目)との間の吐出(打滴)間隔を1秒以下にして好適に記録を行なうことができる。本発明においては、ライン方式で1秒以下の吐出間隔として、インク滴間の干渉で生じる滲みや色間混色を防止しつつ、従来以上の高速記録下で耐擦過性に優れ、ブロッキングの発生が抑えられた画像を得ることができる。また、色相及び描画性(画像中の細線や微細部分の再現性)に優れた画像を得ることができる。
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
[加熱定着工程]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インク付与工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する加熱定着工程を有する。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。また、本発明の水性インク組成物を用いることで形成された画像が前記加熱面に転写されることを効果的に抑制することができる。
加熱は、画像中の複合粒子が含むポリマーの少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行なうことが好ましい。Tg以上に加熱されるので、皮膜化して画像が強化される。加熱温度は、好ましくはTg+10℃以上の温度域が好ましい。具体的には、加熱温度は、40〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは50℃〜100℃の範囲であり、更に好ましくは60℃〜90℃の範囲である。
加熱と共に加圧する際の圧力としては、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行う方法が好適に挙げられる。
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1〜10mmである。
前記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒の範囲が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
[処理液付与工程]
本発明の画像形成方法は、高速画像形成の観点から、インク付与工程と加熱定着工程に加えて、処理液付与工程を備えることが好ましい。
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて水不溶性着色粒子を含む凝集体を形成し、これにより画像を形成する。この場合、インク組成物中の複合粒子や水不溶性着色粒子などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の水不溶性着色粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分(例えば、2価以上のカルボン酸又はカチオン性有機化合物)の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
−記録媒体−
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクジェット記録方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msの水の転移量の差から算出されるものである。
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
[カルボキシル基含有ポリマーの調製]
−合成例1−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた5リットル三口フラスコに、イソプロパノール400.0gを仕込んで、窒素気流下75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、スチレン192.0g、n−ブチルアクリレート108.0g、アクリル酸100.0g、イソプロパノール80.0g及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.6gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」1.6g、イソプロパノール80.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.8g、イソプロパノール40.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は48000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は195(mgKOH/g)であった。
次に、トリエチルアミン105.3gを加え、10分間攪拌した後、蒸留水1800gを加えて水分散化せしめた。その後、減圧下、反応容器内温度70℃でイソプロパノールと蒸留水を合計で680g留去し、固形分濃度19.1%のカルボキシル基含有ポリマー(水性アクリル共重合体)(C−01)の水分散物を得た。得られたカルボキシル基含有ポリマー(C−01)の物性を表1に示した。
−合成例2−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、ジョンクリル67(BASF社製スチレンアクリル樹脂)65gを秤量し、メチルエチルケトン65g、イソプロパノール65g、1モル/LのNaOH190.58gを加え、反応容器内温度を87℃に昇温した。次に、蒸留水93gを6ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度87℃で1時間、91℃で1時間、95℃で30分保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で195.5g留去し、固形分濃度22.3%のカルボキシル基含有共重合体(Jcr67)の水性分散物を得た。得られたカルボキシル基含有共重合体(Jcr67)の物性を表1に示す。
−合成例3−
合成例2の(Jcr67)水性分散物の合成において、ジョンクリル67の代わりに、ジョンクリル611、ジョンクリル690(いずれもBASF社製スチレンアクリル樹脂)に変更したこと以外は、化合物例(Jcr67)の合成と同様にして、カルボキシル基含有共重合体(Jcr611)および(Jcr690)の水性分散物を得た。得られたカルボキシル基含有共重合体(Jcr611)および(Jcr690)の物性を表1に示す。
−合成例4−
合成例1の(C−01)の合成において、スチレン192.0g、n−ブチルアクリレート108.0g、アクリル酸100gの代わりに、下記化合物例(C−03)及び(C−04)に示す構造及び重量比になるように、モノマーの種類及び仕込み量をそれぞれ変更し、それに伴って中和度が同じになるようにトリエチルアミンの添加量を変更したこと以外は、化合物例(C−01)の合成と同様にして、カルボキシル基含有共重合体(C−03)および(C−04)の水分散物を得た。得られたカルボキシル基含有ポリマー(C−03)、(C−04)の物性を表1に示した。カルボキシル基含有共重合体(C−03)、(C−04)の重量平均分子量(Mw)はそれぞれ38000、44000であった。なお、下記化合物例の各構成単位の数字は質量比を表す。
Figure 2010202798
[複合粒子の調製]
−合成例5−
攪拌装置、還流冷却管を装着した1リットル三口フラスコに、合成例1で得られたC−1を62.8g、蒸留水12.4g、トリエチルアミン0.5gを入れ、窒素気流下70℃に加熱攪拌した。そこに、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.4g、蒸留水80gからなる水溶液を添加し、30分間攪拌した後、イソボルニルメタクリレート60gからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.2g、蒸留水20gからなる水溶液を添加し、70℃で4時間攪拌した後、85℃に昇温して更に2時間攪拌を続けた。反応液を冷却し、濾過して、カルボキシル基含有ポリマー(C−01)と水不溶性ポリマー(B−01)とを含有する複合粒子(PL−01)の水性分散物を236g得た。得られた水性分散物の固形分濃度は30.5%、複合粒子の体積平均粒子径は56nm(粒子径はマイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)で測定した)、重量平均分子量(Mw)は18.3万であった。得られた水不溶性ポリマー(B−01)ならびに複合粒子(PL−01)の物性を表1に示した。
−合成例6−
合成例5の(B−01)の合成において、カルボキシル基含有共重合体(C−01)、スチレン192.0g、n−ブチルアクリレート108.0g、アクリル酸100gの代わりに、表1に示すカルボキシル基含有ポリマーを用い、下記化合物例(B−02)、(B−04)および(B−06)に示す構造及び重量比になるように、モノマーの種類及び仕込み量をそれぞれ変更し、それに応じて中和度が同じになるようにトリエチルアミンの添加量を変更したこと以外は、化合物例(B−01)の合成と同様にして、カルボキシル基含有ポリマーと水不溶性ポリマーとを含有する複合粒子(PL−02)〜(PL−11)の水性分散物を得た。得られた水不溶性ポリマーと複合粒子の物性を表1に示した。
Figure 2010202798
<比較例1>
特開2006−249282号公報の段落番号[0055]の合成例1に従って、カルボキシル基含有ポリマー(CH−01)を調製し、次いで同公報の段落番号[0061]の実施例1に従って、水不溶性ポリマー(BH−01)を含む複合粒子(PLH−01)を得た。CH−01、BH−01、PLH−01の物性を表1に示す。
Figure 2010202798
<比較例2>
攪拌装置、還流冷却管を装着した1リットル三口フラスコに、パイオニンA−43s(竹本油脂社製)8.1g、蒸留水236.0gを入れ、窒素気流下70℃に加熱攪拌した。イソボルニルメタクリレート10g、過硫酸アンモニウム1.0g、蒸留水40gを添加し、30分間攪拌した後、イソボルニルメタクリレート190gからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、過硫酸アンモニウム0.5g、蒸留水20gからなる水溶液を加え、70℃で4時間攪拌した後、85℃に昇温して更に2時間攪拌を続けた。反応液を冷却し、濾過して、水不溶性ポリマー(B−01)の乳化重合ラテックスPLH−02を505g得た。得られたPLH−02の物性を表1に示した。
<比較例3>
合成例5の(B−01)の合成において、カルボキシル基含有共重合体(C−01)、スチレン192.0g、n−ブチルアクリレート108.0g、アクリル酸100gの代わりに、表1に示すカルボキシル基含有ポリマーを用い、下記化合物例(BH−03)に示す構造及び重量比になるように、モノマーの種類及び仕込み量をそれぞれ変更し、それに応じて中和度が同じになるようにトリエチルアミンの添加量を変更したこと以外は、化合物例(B−01)の合成と同様にして、カルボキシル基含有ポリマーと水不溶性ポリマーとを含有する複合粒子(PLH−03)の水性分散物を得た。得られた水不溶性ポリマーと複合粒子の物性を表1に示した。
Figure 2010202798
Figure 2010202798
尚、表1中の略語は以下の通りである。
Jcr67:ジョンクリル67(BASF社製スチレンアクリル樹脂)
Jcr611:ジョンクリル611(BASF社製スチレンアクリル樹脂)
Jcr690:ジョンクリル690(BASF社製スチレンアクリル樹脂)
また表1中の粒径は、水性分散物を調製して24時間以内に、動的光散乱法を用いて測定した体積平均粒径であり、マイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)を用いて定法により測定した値である。また、酸価は、カルボキシル基含有ポリマーについてはJIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法によって求めた値であり、水不溶性ポリマーについては、複合粒子の酸価(前記JIS規格に記載の方法による)とカルボキシル基含有ポリマーの酸価の差から算出した。また、ガラス転移温度(Tg)は、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によりポリマー固形分を測定した値である。測定条件は、サンプル量5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、以下の温度プロファイルで2回目の昇温時の測定データのDDSCのピークトップの値をそれぞれのポリマーのTgとした。
−温度プロファイル−
30℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→230℃ (20℃/分で昇温)
230℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→230℃ (20℃/分で昇温)
上記で得られた複合粒子の水性分散物について、以下のようにして安定性の評価を行った。
水性分散物10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に密栓して、60℃14日間放置後に、平均粒径を測定した。放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]を算出し、以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示した。
尚、放置前の測定は複合粒子の水性分散物を調製してから室温で24時間以内に行った。
〜評価基準〜
○… 平均粒径の変化率が10%未満であった。
△… 平均粒径の変化率が10%以上50%未満であった。
×… 平均粒径の変化率が50%以上であった。
<実施例3>
[水性インク組成物の調製]
《シアンインクC−1の調製》
(水不溶性着色粒子としてのシアン分散液の調液)
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、メチルエチルケトン24部の混合溶液を調液した。
一方、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部からなる混合溶液を調液し、滴下ロートに入れた。
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
得られたポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1%に希釈し、GPCにて重量平均分子量を測定した。その結果、単離された固形分は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25,000であった。
また、得られたポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料ピグメントブルー15:3(大日精化製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮し、顔料濃度が10%になるまで濃縮し、水不溶性着色粒子としてのシアン分散液C1を調液した。得られたシアン分散液C1の体積平均粒径は77nmであった。
そして、水不溶性着色粒子としてのシアン分散液C1と、複合粒子の水性分散物としてPL−01を用いて、下記のインク組成になるように各成分を混合した後、5μmフィルターで粗大粒子を除去し、水性インク組成物としてシアンインクC−1を調製した。
〈シアンインクC−1のインク組成〉
・シアン顔料(ピグメントブルー15:3、大日精化製) … 4 %
・上記ポリマー分散剤(固形分換算) … 2 %
・PL−01(固形分換算) … 8 %
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル … 10 %
(水溶性溶剤、和光純薬製)
・サンニックスGP250 … 5 %
(水溶性溶剤、三洋化成工業(株)製)
・オルフィンE1010(日信化学) … 1 %
・イオン交換水 … 合計が100%となるように添加
《シアンインクC−2〜C−10、CH−1〜CH−4の調製》
シアンインクC−1における複合粒子の水性分散物PL−01の代わりに、下記表2に示した複合粒子の水性分散物をそれぞれ用いたこと以外はシアンインクC−1と同様の方法で、水性インク組成物のシアンインクC−2〜10、CH−1〜3をそれぞれ調製した。尚、CH−3は複合粒子の水性分散物を用いないでシアンインクを調製した。
上記で得られたシアンインクの調液直後(24時間以内)の物性値を、表2に示す。
Figure 2010202798
なお、表2中、粘度の項は下記評価基準に従って記載した。
〜評価基準〜
○… 6.5mPa・s未満
△… 6.5mPa・s以上10mPa・s未満
×… 10mPa・s以上
[処理液(1)の調製]
下記組成となるように各成分を混合し、処理液(1)を調製した。処理液(1)の物性値は、粘度2.6mPa・s、表面張力37.3mN/m、pH1.6(25℃)であった。
〜処理液(1)の組成〜
・マロン酸 :15.0%
(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製)
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル :20.0%
(和光純薬工業(株)製)
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム :1.0%
(界面活性剤)
・イオン交換水 :64.0%
[評価]
上記の如く調製した各シアンインク(以下、単に「インク」ということがある)についてインクの経時安定性試験ならびに打滴試験および画像の定着性試験を行った。インクの経時安定性試験は、インクを打滴する前、即ちインク貯留槽(あるいはカートリッジ)にインクが収納されているときの粒径や粘度の安定性についての評価であり、安定性が悪いとインクジェット装置の打滴ノズルから吐出する際に、打滴ノズルが詰まる等の問題が生じる。また、打滴試験は、吐出方向性に関する評価であり、インク粘度が高いとノズルに目詰まりが発生して方向性不良が生じる。
(インクの経時安定性試験)
インク10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に密閉して、(1)60℃14日間放置後、及び(2)40℃3ヶ月間放置後に、平均粒径及び粘度をそれぞれ測定した。放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]及び粘度の変化率[(放置後の粘度−放置前の粘度)/放置前の粘度]をそれぞれ算出した。評価基準は、次の通りである。
尚、放置前の測定はインク組成物を調液してから室温で24時間以内に行った。
〜評価基準〜
○…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が5%未満であった。
△…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が5%以上10%未満であった。
×…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が10%以上であった。
そして、×の評価を、使用不可と判断した。結果を表3に示した。
(打滴安定性試験)
打滴安定性試験は次のように行った。特菱両面アートN(三菱製紙(株)製)上に、リコー社製GELJET G717プリンターヘッドを用いて、解像度1200×600dpi、インク打滴量12pLになるように打滴した。連続して打適して5時間後の状態を観察することで、打滴安定性を評価した。表3に打滴安定性試験結果を示した。尚、表3の打滴安定性試験の評価基準は、次の通りである。尚、×の評価を使用不可と判断した。
〜評価基準〜
○… 吐出不良がなく、方向不良もなかった。
○△…吐出不良がなく、方向不良が少し生じた。
△… 吐出不良が殆どなく、方向不良が少し生じた。
×… 吐出不良が多かった。
<画像形成および評価>
GELJET GX5000プリンターヘッド(リコー社製)を用意し、これに繋がる貯留タンクを上記で得たシアンインクに詰め替えた。記録媒体として特菱アート両面N(三菱製紙(株)製)を、500mm/秒で所定の直線方向に移動可能なステージ上に固定し、ステージ温度を30℃で保持し、これに上記で得た処理液(1)をバーコーターで約1.2μmの厚みとなるように塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。
その後、GELJET GX5000プリンターヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と直交する方向に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7度傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量2.4pL、吐出周波数24kHz、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件にてライン方式で吐出し、シアンのベタ画像を印画した。
印画直後、60℃で3秒間乾燥させ、更に60℃に加熱された一対の定着ローラ間を通過させ、ニップ圧0.25MPa、ニップ幅4mmにて加熱定着処理を実施し、評価サンプルを得た。
(耐ブロッキング性評価)
得られた評価サンプルを3.5cm×4cmのサイズに2枚裁断し、10cm×10cmのアクリル板(厚み7mm)の上に印画面同士が向かい合うように評価サンプルを載せ、更にこの評価サンプルの上に重ねて同じサイズに裁断した未印画の特菱アート両面N(三菱製紙(株)製)を10枚載せた上に、更に10cm×10cmのアクリル板(厚み7mm)を載せ、25℃、50%RHの環境条件下で12時間放置した。
放置後、最上部のアクリル板の上に1kgの分銅を載せて更に24時間放置した(加重700kg/mに相当)。
更に、25℃、50%RHの環境条件下で2時間保管した後、評価サンプル上に重ねた未印画の特菱アート(未印画紙)を剥がした。このときの剥がれ易さ及び剥がした後の接着を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
〜評価基準〜
○:印画面に接着しなかった。
×:印画面に接着が生じ、紙の付着が目視で確認できた。
(耐擦性評価)
王子製紙(株)製OKトップコート+(記録媒体)を500mm/秒で稼動するステージ上に固定し、処理液(1)をワイヤーバーコーターで約1.2μmの厚みとなるように、に塗布し、直後に50℃で2秒間乾燥させた。その後、走査方向に対して斜め(75.5度)に配置して固定してあるリコー社製GELJET GX5000プリンターヘッドで解像度1200×1200dpi、打滴量2.4pL、ライン方式でシアンインクをベタ印画した。印画直後、60℃で3秒間乾燥させ、さらに60℃に加熱された一対の定着ローラ間を通過させ、ニップ圧0.25MPa、ニップ幅4mmで加熱定着処理を実施し、印画サンプルを得た。
上記印画サンプルについて、王子製紙(株)製OKトップコート+を文鎮(重量470g、サイズ15mm×30mm×120mm、荷重260kg/mに相当)に巻きつけたもので、印画サンプルを3往復擦って画像はがれを目視で観察し、下記評価基準にしたがって評価した。
尚、3往復で画像はがれが確認できなかった場合には、更に6往復まで擦った。
〜評価基準〜
◎ :6往復擦りでも画像のはがれが視認できなかった。
○ :3往復擦りで印画サンプル面に画像のはがれが視認できなかったが、6往復擦りでは確認できた。
× :3往復擦りで印画サンプル面に画像のはがれが視認できた。
Figure 2010202798
表3からわかるように、本発明のインクは経時安定性に優れている。一方、分散安定性が低く、インク粘度の高いインクであるシアンインクCH−1とCH−2は経時で粘度や粒径が上昇する傾向にあった。また、本発明のインクはいずれもインク粘度が低いことから、吐出不良は起こらず打滴安定性に優れているのに対し、インク粘度が高く分散安定性の低いシアンインクCH−1、CH−2の打滴安定性は低かった。また、インク組成物中に、本発明の複合粒子水性分散物が含有されているシアンインクC−1〜C〜11の定着性が良好であるのに対し、Tgが低く、2種の複合粒子のTgの差が小さいシアンインクCH−1はブロッキング性と耐擦性の両方で劣る。また、カルボキシル基含有ポリマーと複合化されていない粒子の水性分散物が含有されているシアンインクCH−2は、Tgが高いためたいブロッキング性には優れるが、耐擦性で劣る。なお、インク組成物中に水性分散物が含まれていないシアンインクCH−3の定着性は大きく劣る。
以上より、本発明である複合粒子の水分散物を含有するインク組成物を用いることで、従来にない高いインク安定性と、安定した吐出性、良好な耐ブロッキング性と耐擦性を有するインク組成物を提供することができたことが分かる。

Claims (9)

  1. 着色剤を含む水不溶性着色粒子と、
    2種以上のポリマーを含み、カルボキシル基を有するポリマーの少なくとも1種およびガラス転移温度が120℃以上であるポリマーの少なくとも1種を含む複合粒子と、
    を含有する水性インク組成物。
  2. 前記複合粒子は、pH環境の変化により凝集する特性を有する請求項1に記載の水性インク組成物。
  3. 前記複合粒子は、ガラス転移温度の差の絶対値が40℃以上である2種のポリマーを含む請求項1または請求項2に記載の水性インク組成物。
  4. 前記複合粒子は、カルボキシル基含有ポリマーの水溶液またはエマルションの存在下で、モノマーの乳化重合により得られる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
  5. 前記カルボキシル基含有ポリマーの水溶液又はエマルションは、塩基性化合物を更に含む請求項4に記載の水性インク組成物。
  6. 前記複合粒子は、酸価が30以上500以下の第1のポリマーと、酸価が30未満の第2のポリマーとを含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水性インク組成物と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
  8. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水性インク組成物を、記録媒体に付与する工程と、
    前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱定着して画像を形成する工程と、を備える画像形成方法。
  9. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体に付与する工程をさらに備える請求項8に記載の画像形成方法。
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