以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1.本発明に係るホログラム記録媒体の基本構成 >>>
図1は、本発明の基本的実施形態に係るホログラム記録媒体10の平面図である。図示のとおり、このホログラム記録媒体10は、互いに近傍に配置された第1の窓状領域11および第2の窓状領域12を有する光学的な記録媒体であり、後述するように、各窓状領域11,12には、それぞれホログラムが記録される。ホログラム記録媒体10のサイズは特に限定されないが、たとえば、クレジットカード用の偽造防止シールとして利用される一般的な媒体の場合、縦幅が15mm、横幅が20mm程度の樹脂フィルムによって構成される。
本発明に係るホログラム記録媒体上には、少なくとも2つの窓状領域が隣り合って配置される。ここで、2つの窓状領域11,12は、相互に直接接するような配置をとることも可能であるが、ここに示す実施形態では、図示のとおり、所定の間隙領域を挟んで第1の窓状領域11および第2の窓状領域12が左右に配置されている。しかも、2つの窓状領域11,12の間に位置する間隙領域を含み、第1の窓状領域11の外周と第2の窓状領域12の外周を取り囲むように、枠状領域13(図に斜線ハッチングを施して示す領域)が設けられている。なお、図1において、枠状領域13にハッチングを施して示したのは、当該領域の全体形状を明瞭に示すためであり、ハッチングは断面を示すためのものではない。§7で詳述するとおり、この枠状領域13には、媒体の記録面上の位置に平面画像が観察されるように画像情報が記録されており、この画像情報により窓枠模様が形成されている。
各窓状領域11,12に記録されているホログラムは、媒体の記録面(媒体10の表面)より奥に広がる三次元空間内に立体画像を再生する。したがって、媒体の手前側の観察者から見ると、あたかも窓枠(枠状領域13)で縁取りされた2つの窓(各窓状領域11,12)の奥に、立体画像が配置された三次元空間が広がっているように見える。
図2は、図1に示すホログラム記録媒体10を切断線2−2に沿って切断した横断面およびその背後に再生された立体画像を示す上面図である。ここで、ホログラム記録媒体10は、実在の物理的な媒体であり、図2にはその断面が示されている。一般的な量産品の場合、ホログラム記録媒体10の材質は樹脂フィルムであり、その厚みは30μm程度であるが、本願では、図示の便宜上、厚みの寸法比を無視した図面を示すことにする。また、本願におけるホログラム記録媒体10の断面図では、説明の便宜上、枠状領域13の断面部分にのみ図1の平面図と同じ斜線ハッチングを施すことにする。したがって、図2に示す窓状領域11,12には、断面を示すハッチングは省略されている。
一方、図2において、ホログラム記録媒体10の上方に描かれている2つの立体画像A,Bは、実在の物体ではなく、ホログラムによる再生像である。ここでは、この2つの立体画像A,Bが図面上で明瞭に区別できるように、立体画像Aは上方から見ると星形の立体であり、立体画像Bは球であるものとする。なお、図2の下方には、視点Eが描かれているが、これは媒体10の下方側の面から観察者による観察が行われることを示すものであり、両眼の正確な位置を示すものではない。実際の観察時における、各窓状領域11,12に対する両眼の位置は、観察者が好みに応じて任意に決めるべき事項である。
さて、図2に示すように、ホログラム記録媒体10を視点E側から観察したときに、2つの窓状領域11,12の奥に広がる三次元空間内に、図示のような2つの立体画像A,Bが再生されるようにするには、予め、窓状領域11,12にそれぞれホログラムとして2つの立体画像A,Bを記録しておく必要がある。図3は、このようなホログラムの記録方法の一例を示す図である。図3の上段は、第1の窓状領域11にホログラムH1を記録する方法を示す上面図であり、下段は、第2の窓状領域12にホログラムH2を記録する方法を示す上面図である。いずれの図も、ホログラム記録媒体10の部分は、図1に示すホログラム記録媒体10を切断線2−2に沿って切断した横断面を示しており、立体画像A,Bは上方から見た状態が示されている。
なお、実際には、この図3に示す記録方法は、本発明に係るホログラム記録媒体10を得るための方法ではない。ただ、ここでは、説明の便宜上、まず、この図3に示す記録方法によって得られるホログラム記録媒体の性質を述べた上で、これとの対比により、本発明に係るホログラム記録媒体の特徴を述べることにする。
図3の上段に示すとおり、第1の窓状領域11にホログラムH1を記録するには、立体画像Aの各部分から窓状領域11へ向かう物体光、立体画像Bの各部分から窓状領域11へ向かう物体光、そして参照光R、によって媒体10の記録面(図示の例の場合、媒体10の上側の面)に生じる干渉縞を、窓状領域11に記録すればよい。図では、立体画像A上のサンプル点aからの物体光と、立体画像B上のサンプル点bからの物体光と、参照光Rとが、第1の窓状領域11に向かい、記録面上で干渉縞が形成される様子が示されているが、実際には、窓状領域11から見て、隠面でないすべての面からの物体光と参照光Rとが相互に干渉し合って形成される干渉縞が、ホログラムH1として記録されることになる。
一方、第2の窓状領域12にホログラムH2を記録するには、図3の下段に示すように、立体画像A,Bの各部分から窓状領域12へ向かう物体光と参照光Rとによって記録面に生じる干渉縞を、窓状領域12に記録すればよい。
このようなホログラムを記録する古典的な方法は、光学的な手法によるものである。すなわち、原画像となる立体画像A,Bを、実在の物体として用意し、レーザ光源などから得た単色のコヒーレント光を照射し、各物体表面からの反射光を物体光として記録面上で捉える。このとき、同じコヒーレント光を参照光Rとして、所定の角度で記録面に照射し、記録面上に干渉縞を形成する。たとえば、窓状領域11の記録面を感光性媒体で構成しておけば、形成された干渉縞が感光性媒体上に固定され、ホログラムH1として記録されることになる。
このようにして記録されたホログラムを再生する理想的な環境は、記録時と全く同じコヒーレント光を用いた再生環境である。すなわち、記録時に用いた単色のコヒーレント光を、記録時の参照光Rと同じ角度から再生用照明光として媒体に照射すれば、理想的な再生像を得ることができる。もっとも、偽造防止用シールなどの用途に利用された場合、一般的な日常生活環境での観察が行われることになるので、白色に近い多数の光源からの再生用照明光が様々な方向から照射された状態での観察が行われる。もちろん、このような観察環境では、理想的な再生像を得ることはできないが、真贋を判定する用途に利用するには十分である。
一方、最近では、「計算機合成ホログラム(CGH)」の手法も一般化しつつある。この手法では、上述した光学的な干渉縞の生成プロセスが、コンピュータ上でのシミュレーションとして実行され、干渉縞パターンを生成する過程は、すべてコンピュータ上の演算として行われる。すなわち、記録面上に定義された個々の演算点ごとに、立体画像A,Bの各部分から到達した物体光と参照光Rとの合成波の強度値が計算され、強度値の分布が実際の媒体上に物理的な干渉縞として記録されることになる。具体的には、濃淡パターンや凹凸パターンとして、強度値分布の記録が行われる。
なお、実際のホログラム記録媒体には、視点Eの反対側から再生用照明光を照射し、媒体を透過した光を観察する透過型のタイプと、視点Eと同じ側から再生用照明光を照射し、媒体から反射した光を観察する反射型のタイプとがあるが、本発明はいずれのタイプの媒体にも適用可能である。濃淡パターンや凹凸パターンが実際に形成される記録面の位置は、ホログラム記録媒体10の層構成によって定まる。通常、媒体10の表面もしくは裏側の表層近傍に記録面が形成される場合が多い。したがって、図3に示すホログラムH1,H2は、媒体10に応じた実際の記録面の位置に形成されることになる。
以上、一般的なホログラムの記録手法を簡単に述べたが、これらの手法はいずれも公知の手法であるため、ここでは詳しい説明は省略する。本発明の特徴は、2つの窓状領域11,12に記録する立体画像の相互関係にあり、ホログラムの記録手法それ自体は、従来から公知の手法をそのまま利用すればよい。したがって、本発明では、ホログラムを記録する際に、実在の物体を光学的に撮影する古典的な方法を用いてもかまわないし、「計算機合成ホログラム(CGH)」の手法を用いてもかまわない。また、ホログラフィックステレオグラムの手法を取り入れて立体画像の記録を行ってもかまわない。
さて、図3を見れば明らかなように、媒体10の奥に広がっている三次元空間、すなわち、立体画像A,Bが配置された空間の情報は、窓状領域11内にホログラムH1として記録されるとともに、窓状領域12内にホログラムH2としても記録される。ここで、ホログラムH1とH2とは、別個独立したものなので、いずれか一方だけでも、立体画像A,Bの再生が可能である。
図4の上段は、図3の上段に示す方法で媒体10上に記録されたホログラムH1によって再生される立体画像A1,B1を示す上面図であり、図4の下段は、図3の下段に示す方法で媒体10上に記録されたホログラムH2によって再生される立体画像A2,B2を示す上面図である。いずれの図も、ホログラム記録媒体10の部分は、図1に示すホログラム記録媒体10を切断線2−2に沿って切断した横断面を示しており(枠状領域13の断面部分にのみ斜線ハッチングを施す)、立体画像A,Bは上方から見た状態が示されている。なお、以後、上面図として示す各図は、いずれもホログラム記録媒体の部分は横断面を示し(枠状領域の断面部分にのみ斜線ハッチングを施す)、立体画像は上方から見た状態を示している。
まず、図4の上段に示すように、第1の窓状領域11の手前に視点E1をおき、ホログラムH1を再生した場合を考えよう。この場合、観察者には、第1の窓状領域11の奥に広がる第1の三次元空間S1が観察されることになる。この第1の三次元空間S1には、星形の立体画像A1および球形の立体画像B1が配置されている。次に、図4の下段に示すように、第2の窓状領域12の手前に視点E2をおき、ホログラムH2を再生した場合を考えよう。この場合、観察者には、第2の窓状領域12の奥に広がる第2の三次元空間S2が観察されることになる。この第2の三次元空間S2にも、星形の立体画像A2および球形の立体画像B2が配置されている。
すなわち、観察者が、第1の窓状領域11の奥を覗くと、立体画像A1,B1が配置された第1の三次元空間S1が再現され、第2の窓状領域12の奥を覗くと、立体画像A2,B2が配置された第2の三次元空間S2が再現されることになる。しかも、立体画像A1,B1は、図3上段に示す原画像となる立体画像A,Bの再生像であり、立体画像A2,B2は、図3下段に示す原画像となる立体画像A,Bの再生像であるから、図3の上段および下段に示す記録プロセスにおいて、同一の原画像A,Bを用いるようにすれば、立体画像A1,B1の形状および位置は、立体画像A2,B2の形状および位置に一致する。
要するに、第1の窓状領域11の奥に広がる第1の三次元空間S1の構成は、第2の窓状領域12の奥に広がる第2の三次元空間S2の構成に一致する。したがって、観察者から見れば、いずれの窓状領域から奥を覗いても、同一の三次元空間が広がっているように見える。
前述したように、観察時に、観察者が両眼をどの位置に置いて観察を行うかは任意である。したがって、たとえば、左目を、視点E1に置いて図4上段に示す第1の三次元空間S1を観察し、右目を、視点E2に置いて図4下段に示す第2の三次元空間S2を観察する、という観察態様をとる場合もあろう。あるいは、左右両眼で図4上段に示す第1の三次元空間S1のみを観察したり、左右両眼で図4下段に示す第2の三次元空間S2のみを観察したりする場合もあろう。もちろん、観察者が望めば、片目を閉じて観察することも可能である。ただ、通常、観察者は手にもった媒体10を顔面前方に保持し、両方の窓状領域11,12の奥に広がる空間を何気なく観察するであろう。このとき、手や顔の位置は、ある程度は動くことになるから、媒体10に対する視点位置は多少なりとも変動することになる。したがって、実際には、図4上段に示す第1の三次元空間S1と図4下段に示す第2の三次元空間S2との双方が、両眼によって把握される、といった観察態様が一般的になろう。
いずれにせよ、図3に示す記録方法で作成されたホログラム記録媒体10を観察する限りにおいては、第1の窓状領域11の奥に広がる第1の三次元空間S1の構成と第2の窓状領域12の奥に広がる第2の三次元空間S2の構成とは一致するので、どのような観察態様を採ろうが、観察者は、2つの窓状領域11,12を通して、奥に広がる同一の三次元空間を把握することになる。これは、日常生活において、室内から窓を通して外界の景色を眺めた場合の経験に一致する。隣接する2つの窓から、外の景色を眺めた場合、各窓を通して見える景色は一致しており、相互に整合性が保たれている。この整合性は、視点位置を移動させても変わることはない。
図4に示す例の場合、上段に示す立体画像A1,B1は、ホログラムH1の再生像であり、下段に示す立体画像A2,B2は、ホログラムH2の再生像であるから、本来は別々の再生像ということになる。しかしながら、それぞれが同一サイズ、同一形状の立体であり、媒体10の位置を基準とする絶対座標系を定義したときに、当該絶対座標系における立体画像A1の位置と立体画像A2の位置とは一致し、立体画像B1の位置と立体画像B2の位置とは一致するので、観察者には、第1の窓状領域11の奥に広がる第1の三次元空間S1の構成と第2の窓状領域12の奥に広がる第2の三次元空間S2の構成とが一致して見え、いずれの窓の奥にも、共通の三次元空間が存在するように見えるのである。
本発明の特徴は、このような日常生活における常識に反する形の再生像を提示することにより、観察者に対して、直観的かつ特異な視覚的効果を与える点にある。すなわち、本発明に係るホログラム記録媒体では、互いに近傍に配置された2つの窓状領域について、その奥に広がる各三次元空間内の立体再生画像もしくはその位置が相互に不一致を生じるようなホログラムが記録されている。このような媒体を観察すると、あたかも、左右に隣接する2つの窓がある部屋から外部を眺めたときに、左の窓を通して見える景色と右の窓を通して見える景色とが不一致を生じるような現象が生じることになり、観察者に対して、常識に反する特異な視覚的効果を与えることが可能になる。
すなわち、本発明に係るホログラム記録媒体10では、第1の窓状領域11には、媒体10の記録面より奥に広がる第1の三次元空間S1内の立体画像(図4に示す例の場合は、立体画像A1,B1)を再生するための第1のホログラムH1が記録されており、第2の窓状領域12には、媒体10の記録面より奥に広がる第2の三次元空間内の立体画像(図4に示す例の場合は、立体画像A2,B2)を再生するための第2のホログラムH2が記録されており、しかも、媒体10の位置を基準とする絶対座標系を定義したときに、第1の三次元空間S1内に再生される立体画像もしくはその位置と第2の三次元空間S2内に再生される立体画像もしくはその位置とが不一致を生じるようになっている(図4に示す例は、本発明の実施例ではないので、そのようになっていない)。
ここで、「立体画像」自体を不一致にするためには、その形状、サイズ、色彩といった要素が異なるようにすればよい。また、本願にいう「立体画像の位置」とは、絶対座標系上における座標のみならず、配置角度(向き)も含む概念であり、「立体画像の位置」を不一致にするためには、絶対座標系上における座標値が異なるようにしてもよいし、配置向きが異なるようにしてもよい。
<<< §2.具体的な立体画像の記録態様 >>>
さて、§1では、本発明に係るホログラム記録媒体の基本構成を概念的に説明した。すなわち、その要点は、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって第1の三次元空間S1内に再生される立体画像もしくはその位置と、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって第2の三次元空間S2内に再生される立体画像もしくはその位置とが、不一致を生じるようにすればよい。ここでは、そのような不一致を生じさせる具体的な記録態様を個別に述べることにする。
図5に示す実施形態は、図の上段に示すように、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、星形の立体画像A1を含む第1の三次元空間S1が再生され、図の下段に示すように、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって、球形の立体画像B2を含む第2の三次元空間S2が再生されるようにした例である。媒体10の位置を基準とする絶対座標系を定義すると、星形の立体画像A1も球形の立体画像B2も、その中心点(たとえば、立体図形の重心)が同一の特定位置Qにくるように配置されている。
したがって、2つの窓状領域11,12を通して、全く同一の特定位置Qに立体画像が観察されるものの、当該立体画像自体は、相互に異なったものとなる。すなわち、第1の窓状領域11の奥に形成される第1の三次元空間S1内の特定位置Qに再生される立体画像は星形の立体画像A1であるのに、第2の窓状領域12の奥に形成される第2の三次元空間S2内の特定位置Qに再生される立体画像は球形の立体画像B2になるので、覗く窓によって再生される立体画像が異なることになる。
観察者が両方の窓を漠然と眺めると、窓の向こう側の特定位置Qにおいて、星形の立体画像A1と球形の立体画像B2とが同一空間上で重なっているような光景が見えることになる。ここで、左側の窓状領域11を通して観察すると、特定位置Qに星形の立体画像A1が配置されているように認識できるものの、右側の窓状領域12を通して観察すると、星形の立体画像A1が球形の立体画像B1に変化したように見える。このように、左の窓を通して見える物体の形状と右の窓を通して見える物体の形状とが不一致を生じる現象は、日常は経験することのない特異な現象であり、観察者に対して、常識に反する特異な視覚的効果を与えることになる。
このような視覚的効果を与えるホログラム記録媒体10を作成するには、第1の三次元空間S1内の絶対座標系における特定位置Qに第1の立体画像A1が再生されるように、第1の窓状領域11内に第1のホログラムH1を記録するとともに、第2の三次元空間S2内の絶対座標系における前記特定位置Qに前記第1の立体画像A1とは異なる第2の立体画像B2が再生されるように第2のホログラムH2を記録すればよい。
続く図6に示す実施形態は、図の上段に示すように、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、星形の立体画像A1を含む第1の三次元空間S1が再生され、図の下段に示すように、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって、星形の立体画像A2を含む第2の三次元空間S2が再生されるようにした例である。いずれの場合も、同一(同形同サイズ)の星形の立体画像が再生されるものの、媒体10の位置を基準とする絶対座標系における再生位置は両者で異なっている。すなわち、ホログラムH1による再生像A1は第1の位置Q1(図における第2の窓状領域12の真うしろ)に現れるのに対して、ホログラムH2による再生像A2は第2の位置Q2(図における第1の窓状領域11の真うしろ)に現れる。
したがって、2つの窓状領域11,12を通して観察される立体画像は、同一の星形の立体画像であるものの、その再生位置は相互に異なったものとなる。すなわち、観察者が、左側の窓状領域11を通して観察すると、第1の位置Q1に星形の立体画像A1が配置されているように認識できるが、右側の窓状領域12を通して観察すると、第2の位置Q2に星形の立体画像A2が配置されているように認識でき、あたかも星形の物体が転移したように見える。このような特異な現象は、やはり、観察者に対して特異な視覚的効果を与えることになる。
このような視覚的効果を与えるホログラム記録媒体10を作成するには、第1の三次元空間S1内の絶対座標系における第1の位置Q1に特定の立体画像A1が再生されるように、第1の窓状領域11内に第1のホログラムH1を記録するとともに、第2の三次元空間S2内の絶対座標系における前記第1の位置Q1とは異なる第2の位置Q2に特定の立体画像A2(立体画像A1と同一の立体画像)が再生されるように、第2の窓状領域12内に第2のホログラムH2を記録すればよい。
しかも、図6に示す実施形態の場合、第1のホログラムH1には、第1の窓状領域11を正面から観察する限りは視野に入らない位置(第1の位置Q1)に再生されるように特定の立体画像A1が記録されており、また、第2のホログラムH2には、第2の窓状領域12を正面から観察する限りは視野に入らない位置(第2の位置Q2)に再生されるように特定の立体画像A2が記録されている。
このため、この図6に示す実施形態では、ホログラム記録媒体10を正面から観察すると(視線が記録面に直交するような方向から観察すると)、立体画像A1,A2はいずれも視野外となるため観察できない。
すなわち、図6の上段に示されている立体画像A1は、第2の窓状領域12の真うしろの位置Q1に再生される像であるが、第1のホログラムH1として記録された像であるため、第2の窓状領域12を正面から観察しても見ることはできない。立体画像A1を観察するためには、第1の窓状領域11を通して斜め右奥を覗き込む必要がある。一方、図6の下段に示されている立体画像A2は、第1の窓状領域11の真うしろの位置Q2に再生される像であるが、第2のホログラムH2として記録された像であるため、第1の窓状領域11を正面から観察しても見ることはできない。立体画像A2を観察するためには、第2の窓状領域12を通して斜め左奥を覗き込む必要がある。
結局、この図6に示す実施形態の場合、観察者が媒体10の両方の窓を正面から漠然と眺めても、窓の向こう側には何の立体画像も見えない。ところが、左側の窓(第1の窓状領域11)を斜めから覗き込むと右奥に立体画像A1が観察でき、右側の窓(第2の窓状領域12)を斜めから覗き込むと左奥に立体画像A2が観察できることになる。別言すれば、図6の上段に示すように、左側の窓から覗く限りにおいては、右側の窓の奥に立体画像A1が存在するように見えているのにもかかわらず、右側の窓を正面から覗くと、そこには立体画像A1は存在しないように見える。また、図6の下段に示すように、右側の窓から覗く限りにおいては、左側の窓の奥に立体画像A2が存在するように見えているのにもかかわらず、左側の窓を正面から覗くと、そこには立体画像A2は存在しないように見える。このような現象は、日常は経験することのない極めて特異な現象であり、立体画像A1,A2は、いわば「隠し立体画像」というべき不思議な再生像になる。
一方、図7に示す実施形態は、図5に示す実施形態の特徴と図6に示す実施形態の特徴とを組み合わせたものである。図の上段に示すように、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、星形の立体画像A1と球形の立体画像B1とを含む第1の三次元空間S1が再生され、図の下段に示すように、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって、星形の立体画像A2と球形の立体画像B2とを含む第2の三次元空間S2が再生されるようにした例である。
ここで、立体画像A1とA2とは、同一(同形同サイズ)の星形の立体画像であるものの、その再生位置は両者で異なっている。すなわち、ホログラムH1による再生像A1は第1の位置Q1(第2の窓状領域12の真うしろ)に現れるのに対して、ホログラムH2による再生像A2は第2の位置Q2(第1の窓状領域11の真うしろ)に現れる。同様に、立体画像B1とB2とは、同一(同形同サイズ)の球形の立体画像であるものの、その再生位置は両者で異なっている。すなわち、ホログラムH1による再生像B1は第2の位置Q2(第1の窓状領域11の真うしろ)に現れるのに対して、ホログラムH2による再生像B2は第1の位置Q1(第2の窓状領域12の真うしろ)に現れる。
もっとも、星形の立体画像A1,A2は、いずれも正面から観察した場合には見えない「隠し立体画像」になっている。したがって、観察者が、媒体10の両方の窓を正面から漠然と眺めると、左側の窓(第1の窓状領域11)の奥には球形の立体画像B1が見え、右側の窓(第2の窓状領域12)の奥には球形の立体画像B2が見えるので、あたかも、それぞれの窓の奥に、球形の立体画像が配置されているように見える。
ところが、観察者が、左側の窓状領域11を通して奥に広がる三次元空間S1を覗き込むと、左側(位置Q2)に球形の立体画像B1、右側(位置Q1)に星形の立体画像A1が配置されている状態が認識できる。また、右側の窓状領域12を通して奥に広がる三次元空間S2を覗き込むと、右側(位置Q1)に球形の立体画像B2、左側(位置Q2)に星形の立体画像A2が配置されている状態が認識できる。このように、2つの窓状領域11,12を通して観察される2つの立体画像は、再生位置が相互に入れ替わったように感じられる。また、同じ位置に存在する物体の形状が、星形から球形へもしくは球形から星形へと変化したようにも感じられる。このような特異な現象は、やはり、観察者に対して特異な視覚的効果を与えることになる。
<<< §3.共通立体画像を用いる記録態様 >>>
§2では、第1の窓状領域11の奥に広がる三次元空間S1内のすべての立体画像と、第2の窓状領域12の奥に広がる三次元空間S2内のすべての立体画像とについて、形状、サイズ、もしくは位置のいずれかに関する不一致が生じる例を述べた。ここでは、三次元空間内に複数の立体画像が配置されており、その一部については不一致を生じるが、一部については、形状、サイズ、位置のすべてが一致する例を述べることにする。以下、三次元空間S1およびS2の双方について、形状、サイズ、位置のすべてが一致する立体画像を「共通立体画像」と呼ぶことにする。
図8に示す実施形態は、図の上段に示すように、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、背景となる共通立体画像Cと星形の立体画像A1とを含む第1の三次元空間S1が再生され、図の下段に示すように、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって、背景となる共通立体画像Cと球形の立体画像B2とを含む第2の三次元空間S2が再生されるようにした例である。
共通立体画像Cは、媒体10の記録面に平行な板状面をもった平板状の土台部CBと、底面が土台部CBに接合された左側円錐部CLと、底面が土台部CBに接合された右側円錐部CR(実際には、先端部分が切り落とされた裁頭円錐形をしている)と、によって構成される立体構造体の像である。ここで、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって再生される共通立体画像C(三次元空間S1内に含まれる立体画像)と、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって再生される共通立体画像C(三次元空間S2内に含まれる共通立体画像C)とは、形状、サイズ、位置のすべてが一致しており、媒体10の位置を基準とする絶対座標系において、同一の座標位置QCに配置された同一の立体図形になる。
一方、図の上段に示された星形の立体画像A1は、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって再生される立体画像(三次元空間S1内に含まれる立体画像)であり、図の下段に示された球形の立体画像B2は、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって再生される立体画像(三次元空間S2内に含まれる立体画像)である。ここで、星形の立体画像A1も球形の立体画像B2も、その中心点(たとえば、立体図形の重心)は、媒体10の位置を基準とする絶対座標系において、同一の特定位置Qにくるように配置されている。
したがって、2つの窓状領域11,12を通して媒体10の奥に広がる三次元空間を眺めると、いずれの窓からも、背景として、全く同一の位置QCに、同一の共通立体画像Cが配置されている状態が観察されるが、その手前には、異なる立体画像が観察されることになる。すなわち、第1の窓状領域11の奥に形成される第1の三次元空間S1内には、図の上段に示すように、背景となる共通立体画像Cの手前の特定位置Qに、星形の立体画像A1が観察されるのに対して、第2の窓状領域12の奥に形成される第2の三次元空間S2内には、図の下段に示すように、背景となる共通立体画像Cの手前の特定位置Qに、球形の立体画像B2が観察される。
観察者から見ると、両方の窓の奥には、背景となる共通立体画像Cが観察されるので、背景部分については、日常生活の経験に合致した三次元空間が認識されることになる。すなわち、共通立体画像Cの存在により、観察者には、「両方の窓の奥には、共通の三次元空間が広がっている」との認識を抱かせる効果が得られる。それにもかかわらず、その手前に配置された物体に着目すると、左側の窓状領域11を通して観察した場合には、星形の立体画像A1が観察されるのに、右側の窓状領域12を通して観察した場合には、球形の立体画像B2が観察される、という異様な現象が認識されることになる。
このように、共通立体画像Cを付加すると、観察者に与える特異な視覚的効果は更に顕著になる。左右のいずれの窓を覗いても、同一の共通立体画像Cが観察されるので、そこには「窓から眺めた外界の景色」という日常生活における常識に合致した三次元空間が広がっていることになる。ところが、その手間に配置された物体についてのみ、左の窓を通して見える物体の形状と右の窓を通して見える物体の形状とが一致しない、という不可解な現象が生じるので、観察者に対しては、極めて特異な視覚的効果を与えることが可能になる。
このような視覚的効果を与えるホログラム記録媒体10を作成するには、第1の三次元空間S1内の絶対座標系における共通位置QCに共通立体画像Cが再生され、特定位置Qに第1の立体画像A1が再生されるように、第1の窓状領域11内に第1のホログラムH1を記録するとともに、第2の三次元空間S2内の絶対座標系における前記共通位置QCに前記共通立体画像Cが再生され、前記特定位置Qに第1の立体画像A1とは異なる第2の立体画像B2が再生されるように、第2の窓状領域12内に第2のホログラムH2を記録すればよい。
続く図9に示す実施形態は、図の上段に示すように、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、背景となる共通立体画像Cと星形の立体画像A1とを含む第1の三次元空間S1が再生され、図の下段に示すように、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって、背景となる共通立体画像Cと星形の立体画像A2とを含む第2の三次元空間S2が再生されるようにした例である。
この例でも、共通立体画像Cは、図8の例と同様に、土台部CBと、左側円錐部CLと、右側円錐部CRと、によって構成される立体構造体の像であり、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって再生される共通立体画像C(三次元空間S1内に含まれる立体画像)と、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって再生される共通立体画像C(三次元空間S2内に含まれる共通立体画像C)とは、形状、サイズ、位置のすべてが一致しており、媒体10の位置を基準とする絶対座標系において、同一の座標位置QCに配置された同一の立体図形になる。
一方、この背景となる共通立体画像Cの手前には、いずれの場合も、同一(同形同サイズ)の星形の立体画像が再生されるものの、媒体10の位置を基準とする絶対座標系における再生位置は両者で異なっている。すなわち、ホログラムH1による再生像A1は第1の位置Q1(左側円錐部CLの左側の位置)に現れるのに対して、ホログラムH2による再生像A2は第2の位置Q2(左側円錐部CLと右側円錐部CRとの間の位置)に現れる。
したがって、2つの窓状領域11,12を通して媒体10の奥に広がる三次元空間を眺めると、いずれの窓からも、背景として、全く同一の位置QCに、同一の共通立体画像Cが配置されている状態が観察されるが、その手前に配置された星形の立体画像の再生位置は、覗く窓によって異なることになる。すなわち、観察者が、左側の窓状領域11を通して観察すると、第1の位置Q1に星形の立体画像A1が配置されているように認識できるが、右側の窓状領域12を通して観察すると、第2の位置Q2に星形の立体画像A2が配置されているように認識でき、あたかも星形の物体が転移したように見える。
この実施形態の場合も、共通立体画像Cを付加することにより、観察者に与える特異な視覚的効果を向上させることができる。すなわち、左右のいずれの窓を覗いても、同一の共通立体画像Cが観察されるので、観察者には、日常生活における常識に合致した三次元空間が広がっている印象を抱かせることができる。ところが、その手前に配置された物体についてのみ、左の窓を通して見える物体の位置と右の窓を通して見える物体の位置とが一致しない、という不可解な現象が生じるので、観察者に対しては、極めて特異な視覚的効果を与えることが可能になる。
このような視覚的効果を与えるホログラム記録媒体10を作成するには、第1の三次元空間S1内の絶対座標系における共通位置QCに共通立体画像Cが再生され、第1の位置Q1に特定の立体画像A1が再生されるように、第1の窓状領域11内に第1のホログラムH1を記録するとともに、第2の三次元空間S2内の絶対座標系における前記共通位置QCに前記共通立体画像Cが再生され、前記第1の位置Q1とは異なる第2の位置Q2に特定の立体画像A2(立体画像A1と同一の立体画像)が再生されるように、第2の窓状領域12内に第2のホログラムH2を記録すればよい。
一方、図10に示す実施形態は、図8に示す実施形態の変形例というべき形態である。すなわち、図10の上段の図は、図8の上段の図と全く同じ内容の図であり、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって、背景となる共通立体画像Cと星形の立体画像A1とを含む第1の三次元空間S1が再生される。これに対して、図10の下段の図は、図8の下段の図から、球形の立体画像B2を省略した図になっており、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2では、背景となる共通立体画像Cのみを含む第2の三次元空間S2が再生される。
この図10に示す例でも、共通立体画像Cは、図8の例と同様に、土台部CBと、左側円錐部CLと、右側円錐部CRと、によって構成される立体構造体の像であり、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1によって再生される共通立体画像C(三次元空間S1内に含まれる立体画像)と、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2によって再生される共通立体画像C(三次元空間S2内に含まれる共通立体画像C)とは、形状、サイズ、位置のすべてが一致しており、媒体10の位置を基準とする絶対座標系において、同一の座標位置QCに配置された同一の立体図形になる。
ただ、第1の窓状領域11に記録されたホログラムH1では、図の上段に示すように、背景となる共通立体画像Cとともに、その手前に星形の立体画像A1が再生されることになるが、第2の窓状領域12に記録されたホログラムH2では、図の下段に示すように、背景となる共通立体画像Cのみの再生が行われ、星形の立体画像の再生は行われない。
したがって、2つの窓状領域11,12を通して媒体10の奥に広がる三次元空間を眺めると、いずれの窓からも、背景として、全く同一の位置QCに、同一の共通立体画像Cが配置されている状態が観察されるが、その手前には、覗く窓によって、星形の立体画像が観察されたりされなかったりする。
この実施形態の場合も、共通立体画像Cを付加することにより、観察者に与える特異な視覚的効果を向上させることができる。すなわち、左右のいずれの窓を覗いても、同一の共通立体画像Cが観察されるので、観察者には、日常生活における常識に合致した三次元空間が広がっている印象を抱かせることができる。ところが、その手間に配置された物体については、左の窓を通して観察すると見えるのに、右の窓を通して観察すると見えない、という不可解な現象が生じるので、観察者に対しては、極めて特異な視覚的効果を与えることが可能になる。
このような視覚的効果を与えるホログラム記録媒体10を作成するには、第1の三次元空間S1内の絶対座標系における共通位置QCに共通立体画像Cが再生され、特定位置Qに特定の立体画像A1が再生されるように、第1の窓状領域11内に第1のホログラムH1を記録するとともに、第2の三次元空間S2内の絶対座標系における前記共通位置QCに前記共通立体画像Cが再生され、前記特定位置Qには何も立体画像が再生されないように、第2の窓状領域12内に第2のホログラムH2を記録すればよい。
<<< §4.周期的画像を用いる記録態様 >>>
続いて、ここでは、ホログラムとして記録する立体画像として、空間的な周期形状をもつ周期的画像を利用する実施形態を述べる。
いま、図11の上面図に示すように、三次元空間S0内において、平板状の土台部FBの上にピッチPで円錐部F1〜F5が配置された周期的画像Fを、記録媒体M上にホログラムHとして記録することを考えてみよう。円錐部F1〜F5は、いずれも同じサイズの円錐であり、ピッチPで等間隔に図の横方向に一列に並んでいるものとする。別言すれば、この周期的画像Fは、図の横方向に周期Pの周期的形状をもつ立体図形ということになる。一方、記録媒体Mは、土台部FBの板状面に平行な矩形状の記録面をもった媒体であり、図の横方向の寸法がLであるものとする(ここで、L≦Pとする:L=Pの場合は、隣接窓状領域間に間隙領域(枠状領域)を設けない実施形態になる。)
もちろん、周期的画像Fを、記録媒体M上にホログラムHとして記録する方法としては、古典的な光学的な手法を用いてもよいし、計算機合成ホログラム(CGH)の手法を用いてもかまわない。いずれにしても、周期的画像Fを構成する立体図形表面の各点から記録媒体Mの記録面に向かう物体光と、所定の参照光と、によって生じる干渉縞が記録面上にホログラムHとして記録されることになる。当然、所定の条件で、このホログラムHに再生用照明光を当てて観察すれば、図示のような三次元空間S0が再生され、周期的画像Fの再生像を得ることができる。
次に、図12に示すように、1枚のホログラム記録媒体20上に、5つの窓状領域21〜25を定義する。図示の媒体20は横断面を示すものであり、ハッチングを施して示す各部分は枠状領域26である。この枠状領域26は、各窓状領域21〜25の外周を取り囲む窓枠として機能する。5つの窓状領域21〜25は、いずれも図11に示す記録媒体Mと同じサイズの矩形領域(図の横方向の寸法はL)であり、図の横方向にピッチPで一列に周期的に配列されている。
ここで、5つの窓状領域21〜25のそれぞれに、図11の記録媒体Mに記録したホログラムHと同一のホログラムを記録した場合を考えてみよう。ここでは、各窓状領域21〜25に記録されたホログラムを、それぞれH21〜H25と呼ぶことにする。ホログラムH21〜H25は、それぞれ媒体20上における形成位置は異なるが、互いに同一の干渉縞からなり、いずれも、図11に示す記録媒体Mの位置において再生すると、図11の上段に示すような周期的画像Fを再生する機能を有している。
図13は、このようなホログラム記録媒体20について、視点E3から窓状領域23を観察し、ホログラムH23を再生した状態を示す上面図である。図示のとおり、窓状領域23の奥に広がる三次元空間S23には、周期的画像Fが再生されることになる。図13に示す窓状領域23の位置は、図11に示す記録媒体Mの位置に対応するので、図13に示す三次元空間S23に、図11に示す三次元空間S0と同じ周期的画像Fが再生されるのは当然である。
一方、図14は、このようなホログラム記録媒体20について、視点E4から窓状領域24を観察し、ホログラムH24を再生した状態を示す上面図である。図示のとおり、窓状領域24の奥に広がる三次元空間S24には、やはり周期的画像Fが再生されることになる。但し、絶対座標系上での窓状領域24の位置は、窓状領域23の位置より右方へピッチPだけずれているので、三次元空間S24における周期的画像Fの再生位置は、三次元空間S23における周期的画像Fの再生位置よりもピッチPだけ右方へずれたものになる。また、窓状領域25を観察し、ホログラムH25を再生した場合に観察される周期的画像Fの再生位置は、更に右方へピッチPだけずれたものになる。
更に、図15は、このようなホログラム記録媒体20について、視点E2から窓状領域22を観察し、ホログラムH22を再生した状態を示す上面図である。図示のとおり、窓状領域22の奥に広がる三次元空間S22には、やはり周期的画像Fが再生される。但し、絶対座標系上での窓状領域22の位置は、窓状領域23の位置より左方へピッチPだけずれているので、三次元空間S22における周期的画像Fの再生位置は、三次元空間S23における周期的画像Fの再生位置よりもピッチPだけ左方へずれたものになる。また、窓状領域21を観察し、ホログラムH21を再生した場合に観察される周期的画像Fの再生位置は、更に左方へピッチPだけずれたものになる。
このように、5つの窓状領域21〜25のそれぞれを通して観察される周期的画像Fの再生位置は、互いにピッチPだけずれたものになる。ただ、周期的画像Fは、ピッチPに等しい空間周期Pをもった周期的形状をもつ立体画像であるため、ピッチPだけずれた複数の周期的画像Fは、媒体20の奥に形成される三次元空間上で互いに重なることになる。たとえば、図13に示す円錐部F3と、図14に示す円錐部F2と、図15に示す円錐部F4とは、絶対座標系上で同一の位置を占めるため、観察者から見た場合、同一の円錐図形として把握されることになる。
図示の例の場合、周期的画像Fは、たかだか5つの円錐部F1〜F5を並べた5周期分の周期的画像であるが、これを無限大個の円錐部を並べた周期的画像にすれば、理論的には、どの窓状領域から覗いても、完全に同一の周期的画像Fが観察されることになる。もっとも、有限個の円錐部を並べた周期的画像Fを用いた場合でも、両端部分において周期性が維持されないだけなので、実用上は、図示のような5つの円錐部F1〜F5を並べた5周期分の周期的画像を用いたとしても、観察者には、どの窓から覗いてもほぼ同じ画像が把握できることになる。したがって、この5つの窓状領域21〜25を正面から見た観察者には、各窓の真うしろにそれぞれ1個ずつ円錐が配置されている様子が把握できるであろう。
さて、ここで、周期的画像Fに非周期的画像を加えた原画像を、ホログラムHとして記録する場合を考えてみよう。図16は、図11に示す周期的画像Fに、非周期的立体画像A,Bを付加した状態を示す上面図である。立体画像Aは、周期的画像Fの位置を基準とする相対座標系上の所定位置Qaに配置された星形の立体画像であり、立体画像Bは、同じく相対座標系上の所定位置Qbに配置された球形の立体画像である。周期的画像Fが周期Pの周期的形状をもつ立体画像であるのに対して、立体画像A,Bは、そのような周期性をもたない立体画像である。
このように、三次元空間S0内に配置された周期的画像Fおよび非周期的画像A,Bを、記録媒体M上にホログラムHとして記録することを考えてみよう。ここでも、記録媒体Mは、土台部FBの板状面に平行な矩形状の記録面をもった媒体であり、図の横方向の寸法がLであるものとする(ここで、L≦Pとする)。
次に、図12に示すホログラム記録媒体20上の5つの窓状領域21〜25のそれぞれに、図16の記録媒体Mに記録したホログラムHと同一のホログラムを記録した場合を考えてみよう。この場合も、各窓状領域21〜25に記録されたホログラムを、それぞれH21〜H25と呼ぶことにする。これらのホログラムH21〜H25は、それぞれ媒体20上における形成位置は異なるが、互いに同一の干渉縞からなり、いずれも、図16に示す記録媒体Mの位置において再生すると、図16の上段に示すような周期的画像Fおよび非周期的画像A,Bを再生する機能を有している。
図17は、このようなホログラム記録媒体20について、視点E3から窓状領域23を観察し、ホログラムH23を再生した状態を示す上面図である。図示のとおり、窓状領域23の奥に広がる三次元空間S23には、周期的画像Fおよび非周期的画像A3,B3が再生されることになる。図17に示す窓状領域23の位置は、図16に示す記録媒体Mの位置に対応するので、図17に示す三次元空間S23に、図16に示す三次元空間S0と同じ周期的画像Fが再生されるのは当然である。また、図17に示す非周期的画像A3,B3は、図16に示す非周期的画像A,Bと同一の立体画像であり、媒体20の位置を基準とする絶対座標系上における位置Q1,Q2は、図16に示す相対座標系上における位置Qa,Qbに一致する。
一方、図18は、このようなホログラム記録媒体20について、視点E4から窓状領域24を観察し、ホログラムH24を再生した状態を示す上面図である。図示のとおり、窓状領域24の奥に広がる三次元空間S24には、周期的画像Fおよび非周期的画像A4,B4が再生されることになる。但し、絶対座標系上での窓状領域24の位置は、窓状領域23の位置より右方へピッチPだけずれているので、三次元空間S24における周期的画像Fの再生位置は、三次元空間S23における周期的画像Fの再生位置よりもピッチPだけ右方へずれたものになる。また、図18に示す非周期的画像A4,B4は、図16に示す非周期的画像A,Bと同一の立体画像であり、媒体20の位置を基準とする絶対座標系上における位置Q2,Q3は、図16に示す相対座標系上における位置Qa,Qbに対応するが、これは絶対座標系上では右方へピッチPだけずらした位置になる。
結局、周期的画像Fも非周期的画像A,Bも、5つの窓状領域21〜25による個々の再生位置は、ピッチPだけずれたものになる。ところが、周期的画像Fは、前述したとおり、ピッチPに等しい空間周期Pをもった周期的形状をもつ立体画像であるため、ピッチPだけずれた複数の周期的画像Fは、媒体20の奥に形成される5通りの三次元空間S21〜S25上で互いに重なり、観察者には、どの窓から覗いても同じ立体画像として把握されることになる。これに対して、非周期的画像A,Bは周期性をもたないため、ピッチPだけずれた複数の再生像がそれぞれ別個に観察されることになる。
たとえば、窓状領域23を通して観察される三次元空間S23内では、図17に示すように、位置Q1に星形の立体画像A3が配置され、位置Q2に球形の立体画像B3が配置されているように見えるが、窓状領域24を通して観察される三次元空間S24内では、図18に示すように、位置Q2に星形の立体画像A4が配置され、位置Q3に球形の立体画像B4が配置されているように見える。
これは、§3で述べた「共通立体画像を用いる記録態様」と同等の特異な視覚的効果である。すなわち、観察者から見ると、各窓の奥には、背景となる共通立体画像(周期的画像F)が観察されるので、背景部分については、日常生活の経験に合致した三次元空間が認識されることになる。すなわち、共通立体画像(周期的画像F)の存在により、観察者には、「各窓の奥には、共通の三次元空間が広がっている」との認識を抱かせる効果が得られる。それにもかかわらず、その手前に配置された物体に着目すると、各窓を通して観察した内容が相互に不一致を生じるという異様な現象が認識されることになる。
なお、ここでは、ホログラム記録媒体20上に5つの窓状領域21〜25を形成した例を示したが、ピッチPで並べる窓状領域の数は任意でかまわない。また、ここでは、一次元的に窓状領域を配置した例を述べたが、縦横の二次元マトリックス状に窓状領域を配置することも可能である(§5の実施形態参照)。
原理的には、媒体上に設ける窓状領域の数は最低限2つあれば足りる。2つの窓状領域をもつホログラム記録媒体に適用するには、第1の窓状領域には第1のホログラムを記録し、第2の窓状領域には第2のホログラムを記録するようにし、第1のホログラムと第2のホログラムとは、互いに同一の干渉縞からなるようにし、かつ、周期的画像と非周期的画像とを再生するホログラムであり、前記周期的画像が、第1の窓状領域および第2の窓状領域の配置ピッチPに等しい空間周期をもった周期的形状をもつ立体画像となるようにすればよい。しかも、第1のホログラムによって第1の三次元空間内に再生された周期的画像と、第2のホログラムによって第2の三次元空間内に再生された周期的画像とは、絶対座標系上において重なり合うようにし、第1のホログラムによって第1の三次元空間内に再生された非周期的画像と、第2のホログラムによって第2の三次元空間内に再生された非周期的画像とは、絶対座標系上において重なり合わないようにすればよい。
上述したとおり、この§4で述べた「周期的画像を用いる記録態様」は、§3で述べた「共通立体画像を用いる記録態様」と同等の効果を奏することができるが、それに加えて、製造プロセスを容易にする、という付加的な効果も得られる。すなわち、媒体上に複数の窓状領域(上述の例では5つの窓状領域21〜25)をピッチPで並べ、個々の窓状領域内にそれぞれホログラムを記録する際に、すべての窓状領域に同一のホログラム(同一の干渉縞パターン)を記録すれば足りるので、ホログラムの形成プロセスは単純化される。
特に、電子線描画装置などを用いて、ホログラムを構成する干渉縞パターンを媒体上に描画する場合、電子線描画装置に与える干渉縞パターン形成用の画像データのデータ容量を低減するメリットが得られる。たとえば、§5で述べる例のように、多数の窓状領域を縦横のマトリックス状に配置するような実施形態の場合、どの窓状領域にも同一の画像データを用いて干渉縞パターンの形成を行うことができるメリットは大きい。
<<< §5.窓状領域の数・配置・形状 >>>
これまでの§1〜§3では、ホログラム記録媒体10上に、2つの窓状領域11,12を形成し、それぞれにホログラムH1,H2を記録する例を説明した。また、§4では、ホログラム記録媒体20上に、5つの窓状領域21〜25を形成し、それぞれにホログラムH21〜H25を記録する例を説明した。しかしながら、本発明において、媒体上に形成する窓状領域の数は、2以上であれば任意であり、制作者は、媒体上に所望の数の窓状領域を並べることができる。この場合、隣接する2つの窓状領域にそれぞれ記録する一対のホログラムについて、§1〜§4で述べた隣接ホログラム間の特徴が満たされていればよい。
もちろん、窓状領域は、横方向に並べてもよいし、縦方向に並べてもよい。また、§4では、窓状領域を一次元マトリックス状に配置する例を述べたが、二次元マトリックス状に配置することも可能である。図19は、ホログラム記録媒体30上に、正方形状の窓状領域35を4行4列に並べた例を示す平面図である。各窓状領域35には、(行番号,列番号)の符号を記して示す。16個の窓状領域35は、互いに所定の間隙領域を介して配置されており、これら間隙領域を含み、各窓状領域の外周を取り囲む領域として、枠状領域39が設けられている。図では、この枠状領域39に斜線ハッチングを施して示す(斜線ハッチングは、枠状領域39の形状把握を容易にするためのものであり、断面を示すものではない)。
この16個の窓状領域35には、それぞれ所定のホログラムが記録される。本発明に係るホログラム記録媒体では、この16個の窓状領域のうち、少なくとも一対の隣接窓状領域に記録される一対のホログラムについて、§1〜§4で述べた隣接ホログラム間の特徴が満たされていればよい。たとえば、窓状領域(2,2)を第1の窓状領域11とし、窓状領域(2,3)を第2の窓状領域12として、§1〜§3で述べた方法でそれぞれの領域にホログラムH1およびH2を記録すれば、少なくとも、これら2つの窓状領域の奥に広がる三次元空間内に再生される立体画像もしくはその位置について不一致が生じることになり、観察者に対して、直観的かつ特異な視覚的効果を与える。
もっとも、実用上は、このような視覚的効果を高めるため、できるだけ多くの隣接窓状領域対について、§1〜§4で述べた隣接ホログラム間の特徴が満たされるようにするのが好ましい。たとえば、窓状領域(1,1)と(1,2)との間、窓状領域(1,2)と(1,3)との間、窓状領域(1,3)と(1,4)との間、窓状領域(1,1)と(2,1)との間、というような具合に、上下左右に隣接する窓状領域対について、§1〜§4で述べた隣接ホログラム間の特徴が満たされるようにすればよい。
特に、§3で述べた共通立体画像を利用する実施形態において、図19に示すように、窓状領域を二次元マトリックス状に配置する構成を採ると、縦横に並ぶ多数の窓状領域から共通立体画像を把握することができるので効果的である。観察者は、これら多数の窓の奥に共通立体画像を視認することにより、媒体30の奥に広がる共通の三次元空間を認識することができる。それにもかかわらず、一部の立体画像については、覗く窓によって内容や位置に不一致が生じるという特異な現象が確認できることになる。
また、図19に示す二次元マトリックス状の窓配置は、§4で述べた周期的画像を利用する実施形態への適用にも向いている。この場合、周期的画像としては、二次元的に周期的な形状を有する図形を用いるようにする。たとえば、図16に示す例では、周期的画像Fとして、記録媒体Mの記録面に平行な板状面をもった土台部FB上に、5つの円錐部F1〜F5をピッチPで図の横方向に一列に並べることによって得られる図形を用いたが、その代わりに、たとえば、25個の円錐部F1〜F25をピッチPで図の横方向および図の紙面に垂直な方向に5行5列の二次元マトリックス状に配置してなる周期的画像を用いればよい。一方、非周期的画像としては、図16の例と同様に、立体画像AおよびBを所定位置Qa,Qbに配置しておけばよい。
このように、25個の円錐部を有する周期的画像Fと、非周期的画像A,BとをホログラムHとして記録媒体Mに記録すれば、この記録媒体Mにより、周期的画像Fおよび非周期的画像A,Bを再生することができる。そこで、図19に示す16個の窓状領域(1,1)〜(4,4)のすべてに、記録媒体Mに記録したホログラムHと全く同一のホログラムを記録すれば、16個の窓の奥には、いずれも周期的画像Fと非周期的画像A,Bとが再生されることになる。ただ、再生位置は、横もしくは縦にピッチPだけずれてゆくことになる。このため、横および縦に周期Pをもった周期的画像Fについては、いずれの窓から覗いた場合でも、同一の立体像として把握されることになるが、非周期的画像A,Bについては、各窓の奥に得られる立体像の位置が不一致になり、観察者に特異な視覚的効果を与えることができる。
一方、図20は、2通りのホログラムを横方向および縦方向に関して交互に配置する実施形態を示す平面図である。ここで、ホログラム記録媒体40上に、正方形状の窓状領域45を4行4列に並べ、各窓状領域45の周囲に枠状領域49(斜線ハッチングは、形状把握を容易にするためのものであり、断面を示すものではない)を設けるという配置に関しては、図19に示す例と全く同様である。
図20に示す例の場合、各窓状領域には、丸数字1もしくは丸数字2が記されているが、丸数字1が記された窓状領域を第1の窓状領域、丸数字2が記された窓状領域を第2の窓状領域として、§1〜§3で述べた方法でそれぞれの領域にホログラムH1およびH2を記録すれば、上下もしくは左右に隣接する2つの窓状領域について、奥に広がる三次元空間内に再生される立体画像もしくはその位置についての不一致が必ず生じることになり、観察者に特異な視覚的効果を与えることができる。
もちろん、二次元マトリックス状の窓配置は、図19および図20に例示するような4行4列に限定されるものではない。一般に、M行N列の二次元マトリックスをなすように、互いに所定間隔をおいて配置された(M×N)個の窓状領域を形成すればよい。ここで、図20に示す例のように、2通りのホログラムを横方向および縦方向に関して交互に配置する実施形態を採る場合は、「i+j」が偶数となるような第i行(1≦i≦M)第j列(1≦j≦N)目の窓状領域によって第1の窓状領域(第1のホログラムH1が記録される)を構成し、「i+j」が奇数となるような第i行(1≦i≦M)第j列(1≦j≦N)目の窓状領域によって第2の窓状領域(第2のホログラムH2が記録される)を構成し、これら各窓状領域の間隙部分を含み外周を取り囲む部分によって枠状領域を構成すればよい。
なお、これまでの例では、窓状領域の形状を矩形としているが、本発明を実施する上で、窓状領域の形状は必ずしも矩形にする必要はなく、円形、三角形、六角形など、任意の形状でかまわない。ただ、隣接する一対の窓の奥に広がる三次元空間内の立体画像に不一致が生じていることを観察者に明確に認識させる上では、矩形の窓状領域が最も効果的であると考えられる。
<<< §6.その他の記録態様 >>>
これまで、§2〜§5において、本発明の具体的な実施形態をいくつか述べてきたが、ここでは、本発明の更に別な実施形態をいくつか例示しておく。
(1) 隠し立体画像
§2では、図6および図7に示す星形の立体画像A1,A2が「隠し立体画像」になることを説明した。すなわち、図6および図7に示す星形の立体画像A1,A2は、観察者が媒体10の両方の窓を正面から眺めても見ることはできない画像になっている。立体画像A1を見るためには、左側の窓(第1の窓状領域11)から斜め右奥を覗き込む必要があり、立体画像A2を見るためには、右側の窓(第2の窓状領域12)から斜め左奥を覗き込む必要がある。このような現象は、日常は経験することのない極めて特異な現象であり、このような「隠し立体画像」を記録した媒体は、観察者に対して極めて特異な視覚的効果を与えることができる。
ここでは、この「隠し立体画像」の記録方法をもう少し詳しく説明しよう。図21は、本発明における隠し立体画像の記録方法を示す上面図である。これまで述べてきた例と同様に、横断面を示すホログラム記録媒体10には、第1の窓状領域11と第2の窓状領域12とが形成されており、第1の窓状領域11には第1のホログラムH1が記録されており、第2の窓状領域12には第2のホログラムH2が記録されている。
いま、観察者が視点Eに示す位置に両眼をおいて、媒体10を正面から観察する場合を考える。この場合、枠状領域13の背後に隠れるような位置に再生像が得られるハート形の立体画像Dは、各窓状領域11,12を正面から観察する限りは視野に入らない位置に再生される隠し立体画像になる。図示のとおり、ハート形の立体画像Dは、窓状領域11を通しても、窓状領域12を通しても、正面から観察する限りは、枠状領域13の背後に隠れて見えない。したがって、ハート形の立体画像Dは、第1のホログラムH1に記録した場合も、第2のホログラムH2に記録した場合も、いずれも隠し立体画像になる。
これに対して、星形の立体画像Aは、第1のホログラムH1に記録した場合は隠し立体画像になるが、第2のホログラムH2に記録した場合は、窓状領域12を通して観察すると、正面に見える通常の立体画像になる。
結局、隠し立体画像は、枠状領域13の背後に隠れるような位置に立体画像を配置することによって作成することもできるし、ホログラムの記録対象となる窓状領域とは異なる別な窓状領域の真うしろに立体画像を配置することによって作成することもできる。より具体的に説明すれば、特定の窓状領域を奥方向へ正射影して得られる見通しゾーンの外に配置された隠し立体画像が、当該特定の窓状領域にホログラムとして記録されているようにすればよい。
たとえば、図21に示す例の場合、窓状領域11を奥方向へ正射影して得られる見通しゾーン(窓状領域11を、記録面10に対して垂直な方向へ移動させて得られる空間)は、図において破線で挟まれたゾーンZ1になる。そこで、この見通しゾーンZ1の外に配置された立体画像A,Dを、当該窓状領域11内にホログラムH1として記録すれば、これらは隠し立体画像になる。同様に、窓状領域12を奥方向へ正射影して得られる見通しゾーンZ2の外に配置された立体画像Dを、当該窓状領域12内にホログラムH2として記録すれば、これは隠し立体画像になる。
このように、記録対象となる複数の立体画像のうち、少なくとも一部の立体画像を、各窓状領域を正面から観察する限りは視野に入らない位置に再生される隠し立体画像としておけば、斜め方向から窓の奥を覗き込んだときにのみ隠し立体画像を発見することができるようになり、観察者に対して特異な視覚的効果を与えることができる。
(2) 平面的な立体画像
本発明において、ホログラム記録媒体10に記録する立体画像は、どのような形状のものであってもかまわない。ここで、本発明にいう「立体画像」とは、観察者が三次元空間内に配置された何らかの再生像として把握できるものであれば足り、必ずしも当該像自体が三次元の立体である必要はない。したがって、文字のよう平面的な像であっても、それが三次元空間内に配置された状態がホログラムとして記録されていれば、本発明にいう「立体画像」に含まれる。たとえば、「ABC」のような厚みのない平面的な文字フォントを三次元空間内に配置し、これをホログラムとして記録するような態様でも、本発明は実施可能である。この場合、「ABC」なる文字フォントからなる平面的な画像であっても、本発明にいう「立体画像」になる。
(3) 複数のオブジェクトからなる立体画像
これまで述べてきた実施形態では、いずれも、1つの塊となった図形(幾何学上の連続体)を立体画像として用いていたが、本発明で用いる立体画像は、必ずしもこのような一塊の図形である必要はなく、空間的に離隔配置された複数のオブジェクト(部品)から構成されるものでもかまわない。
図22は、1つの立体画像を、空間的に離隔配置された複数のオブジェクトによって構成した変形例を示す上面図である。図示の例では、立体画像Aは、全体的に星をモチーフとした立体画像であるが、合計6個の独立したオブジェクトの集合体によって構成されている。一方、立体画像Bは、全体的に球をモチーフとした立体画像であるが、2つの半球状のオブジェクトの集合体によって構成されている。また、立体画像Cは、多数の円錐状のオブジェクトを横方向に並べた集合体から構成されている。
このように、複数のオブジェクト(部品)から構成される立体画像A,B,Cを用いた場合でも、これらの立体画像を、記録媒体10上の窓状領域11,12にホログラムとして記録する方法に変わりはない。各オブジェクトからの物体光と参照光とによって形成される干渉縞を記録面に記録すればよい。
(4) マイクロ文字の記録
図1に示す枠状領域13、図19に示す枠状領域39、図20に示す枠状領域49は、いずれも各窓状領域を囲う窓枠として機能する領域であり、ホログラムの記録が必要とされる領域ではない。したがって、この枠状領域に、任意の付加情報を記録しても、ホログラムの再生に支障が生じることはない。
そこで、この枠状領域に、高さが300μm以下のマイクロ文字を記録すると、真贋判定に役立たせることができる。一般に、高さが300μm以下のマイクロ文字は、肉眼による認識が不可能な文字とされている。したがって、枠状領域にマイクロ文字を記録しても、媒体を肉眼観察する限りは文字の認識はできず、たとえば、クレジットカード用の偽造防止シールに利用した場合、一般需用者は、マイクロ文字の存在すら認識できないであろう。しかしながら、ルーペなどの拡大手段を用いて観察すれば、枠状領域に記録したマイクロ文字を文字として認識することができるので、マイクロ文字の存在を知得している者は、真贋判定の一要素として利用することができる。
本願発明の場合、枠状領域には、媒体の記録面上の位置に平面画像が観察されるように画像情報が記録される(具体的な記録方法は、§7参照)。マイクロ文字は、この画像情報の一部として枠状領域に記録されることになるので、記録面上に配置された画像として観察されることになる。このため、マイクロ文字は、高さ300μm以下という微細な文字ではあるが、窓状領域の奥に再生されるホログラム像に比べて、鮮明な再生像として観察される。
一般に、ホログラムの場合、像の再生位置が媒体の記録面から離れれば離れるほど、当該再生像はぼけてしまう。本願発明において窓状領域内に記録されたホログラム像は、記録面よりも奥に再生されることになるので、観察時に若干のボケが生じることは避けられない。したがって、本願発明の場合、文字を窓状領域内にホログラムとして記録した場合、再生される文字の視認性は低下し、特に、高さ300μm以下のマイクロ文字では判読が非常に困難になる。ここで述べた実施形態では、マイクロ文字を枠状領域に記録することにより、このような問題を解決している。枠状領域に記録された平面画像は、記録面上の位置に再生されるので、再生像にボケが生じることがなく、マイクロ文字であっても判読性に支障は生じない。
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既に述べたとおり、図1に示す枠状領域13、図19に示す枠状領域39、図20に示す枠状領域49は、いずれも各窓状領域を囲う窓枠として認識されることになる。特に、図1に示す例のように、第1の窓状領域11および第2の窓状領域12が同じ大きさの矩形をなし、第1の窓状領域11と第2の窓状領域12との間の空隙領域が細長い長方形をなし、枠状領域13がこの細長い長方形を含む複数の矩形を組み合わせることにより得られる図形をなすようにすれば、観察者は、窓状領域11,12と枠状領域13との関係を、日常生活で目にする部屋の窓と窓枠との関係に似た関係として把握するであろう。
もっとも、日常生活で目にする部屋の窓は、外界の景色を眺めることができるように透明な素材からなり、窓枠は、窓の輪郭が明確に把握できるよう不透明な素材からなるのが一般的である。したがって、本発明においても、枠状領域の部分は、窓状領域とは視覚的に明確に区別できるようにするのが好ましい。
枠状領域の部分と、窓状領域の部分とを、視覚的に差別化するひとつの方法は、枠状領域の部分に何らかの印刷を施すことである。たとえば、図1に示す例において、斜線ハッチングを施して示す枠状領域13の部分に、黒色インクによる窓枠模様を印刷すれば、窓状領域11,12の部分は、黒色模様で縁取られた窓の部分として把握されることになろう。
ただ、現在、商用利用されているホログラム記録媒体は、銀色の樹脂シートを構成する複層体の所定層に凹凸パターンとしてホログラム干渉縞を記録するタイプが主流であり、そのような媒体に窓枠模様を印刷すると、ホログラムが記録された窓状領域と印刷が施された枠状領域との質感がミスマッチし、意匠的に違和感が生じてしまう。したがって、実用上は、本発明において媒体上に枠状領域を設ける場合には、以下に述べる3通りの方法のいずれかによって、当該枠状領域に、媒体の記録面上の位置に平面画像が観察されるように画像情報を記録するのが好ましい。
まず、第1の方法は、枠状領域に、平面画像の再生を行うための回折格子を配置する方法である。たとえば、図1に示す例において、斜線ハッチングを施して示す枠状領域13の部分に回折格子を形成すれば、この媒体10を観察する際に、枠状領域13に特有の光学的な効果(観察角度を変えることにより、様々な色の回折光が観察できる効果)が得られる。回折格子によって得られる光学的効果と、ホログラムによって得られる光学的効果とは、必ずしも同じ効果ではないが、いずれも光学的な作用による特有の効果であるため、窓状領域11,12と枠状領域13との質感はマッチし、意匠的にも違和感は生じない。また、窓状領域11,12には、ホログラムによる立体再生像が得られるのに対して、枠状領域13には、媒体の記録面(媒体の表面)の位置に、回折格子による平面画像が得られることになるので、枠状領域の部分と、窓状領域の部分とは、同じ質感を提示しつつ、視覚的に差別化して認識されることになる。
この第1の方法を採る場合は、枠状領域13に、回折格子が形成された多数の画素の集合体によって、平面模様を記録するのが好ましい。図23は、図1に示す基本的実施形態に係るホログラム記録媒体10の部分拡大図である。図の下段に示された円形領域は、図の上段に示された記録媒体10の一部分(窓状領域11の左下隅部)の拡大図に相当する。窓状領域11には、ホログラムが記録されている。このホログラムは、干渉縞パターンを凹凸模様や濃淡模様によって表現したものであり、当該干渉縞パターンそれ自身は肉眼で把握することはできない。図では、便宜上、窓状領域11内にランダムなハッチングパターンを施し、干渉縞パターンが形成されていることを示している。
一方、枠状領域13は、図示のとおり、小さな正方形状の画素Gの集合体によって構成されている。個々の画素Gには、それぞれ所定ピッチ、所定向きで回折格子が形成されている。もちろん、回折格子を構成する格子線のピッチは、光の波長レベルの寸法になるため、個々の画素G内の回折格子を肉眼で把握することはできないが、図では、便宜上、様々な方向を向いた格子線のイメージが描かれている。格子線のピッチは、回折光の波長を左右するパラメータとなり、格子線の向きは、回折光の向かう方向を左右するパラメータとなるので、格子線のピッチや向きを様々に変えた画素を用いることにより、様々な色彩をもった平面模様を表現することができる。
結局、この図23に示すホログラム記録媒体10では、枠状領域13の部分には、回折格子が形成された多数の画素Gの集合体からなる窓枠模様が平面画像として観察され、窓状領域11,12の部分には、奥に広がる三次元空間内に配置された立体画像が観察されることになる。上述したとおり、いずれも光学的な作用によって画像の観察が行われるので、全体的な質感はマッチし、意匠的な違和感は生じない。すなわち、見る角度によって、窓状領域11,12の奥に観察される立体画像の姿勢は変化するが、このとき枠状領域13に観察される窓枠模様の態様も変化することになる。なお、枠状領域13に配置される画素のサイズを十分小さくすれば(たとえば、一辺30μmの正方形にすれば)、§6(4)で述べたマイクロ文字を画素の集合体として形成することが可能である。
第2の方法は、上述した第1の方法における回折格子の代わりに、光散乱要素を用いる方法である。ここで、光散乱要素とは、表面に散乱構造が形成された物理的な媒体である。回折格子が入射した光を回折して回折光を生じる機能を果たすのに対して、光散乱要素は、入射した光を散乱して散乱光を生じる機能を果たす。具体的には、たとえば、媒体の表面にエッチング装置やEB描画装置によって、光の散乱に適した凹凸構造を形成することにより光散乱要素を形成することができる。このような光散乱要素を用いて光学的記録媒体を形成する技術は、たとえば、特開2002−328639号公報や特開2002−333854号公報などに開示されている公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
この第2の方法を採る場合も、枠状領域13に、光散乱要素が形成された多数の画素の集合体によって、平面模様を記録するのが好ましい。図23の下段には、個々の画素G内に回折格子を形成した例が示されているが、その代わりに、個々の画素Gを光散乱要素によって構成すればよい。画素Gを構成する各光散乱要素の散乱特性を種々変えることにより、様々な窓枠模様を表現することが可能である。もちろん、マイクロ文字を画素の集合体として形成することも可能である。
第3の方法は、枠状領域13に、ホログラムとして窓枠模様を記録する方法である。この場合、窓状領域11,12にも、枠状領域13にも、ホログラムが記録されることになる。ただ、窓状領域11,12に記録されるホログラムは、その奥に広がる三次元空間内に配置された立体画像を再生するためのホログラムであるのに対して、枠状領域13に記録されるホログラムは、媒体10の記録面の位置に再生される平面模様のホログラムということになる。すなわち、枠状領域13に記録されたホログラムによる再生像は、平面的な模様の像であり、しかも媒体10の記録面(表面)に位置する像になるので、観察者から見れば、やはり窓の周囲を囲った窓枠として把握されることになる。