JP2010189301A - 新型インフルエンザ感染症に対する医薬組成物およびその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】新型インフルエンザ感染症に有効な治療技術の提供。
【解決手段】抗プラスミン剤を有効成分として含有している医薬組成物を、新型インフルエンザ感染症の処置に用いる。活性化した肺胞マクロファージに起因して発現する呼吸不全の初期段階において抗プラスミン剤を吸入することにより、十分な治療効果を奏する。本剤は、経口吸入または鼻腔吸入により下気道表面に送達されればよい。抗プラスミン剤としては、例えばトラネキサム酸やε−アミノカプロン酸等が用いられる。
【選択図】なし
【解決手段】抗プラスミン剤を有効成分として含有している医薬組成物を、新型インフルエンザ感染症の処置に用いる。活性化した肺胞マクロファージに起因して発現する呼吸不全の初期段階において抗プラスミン剤を吸入することにより、十分な治療効果を奏する。本剤は、経口吸入または鼻腔吸入により下気道表面に送達されればよい。抗プラスミン剤としては、例えばトラネキサム酸やε−アミノカプロン酸等が用いられる。
【選択図】なし
Description
本発明は、新型インフルエンザ感染症を処置するための医薬組成物およびその利用に関する。
H5N1型の鳥インフルエンザウイルスは、家禽に対して高い病原性を示すとともに、近年ヒトへの感染が問題視されている。鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染症は、弱毒型ウイルスによる従来のインフルエンザ感染症と全く異なる症状および病態を示し、「新型インフルエンザ感染症」とも称されている。新型インフルエンザに関しては、世界保健機構(WHO)によれば、2003年以降に400例近くの感染例が報告されている。
従来の季節性インフルエンザ感染症では、ウイルス感染部位が主に上気道に限局しており、高齢者での発症が多く、そして死亡例も少ない。しかし、新型インフルエンザ感染症では、ウイルス感染部位が肺胞領域であり、その患者の90%以上が小児〜若年成人であり、一旦感染するとほぼ全ての感染者が重篤な症状を呈し、未治療の場合には致死率が100%に及ぶ。
また、新型インフルエンザ感染症においては、感染に起因するサイトカインおよびケモカインの産生が異常なレベルにまで亢進しており、いわゆるサイトカインストームと称される病態を呈する。新型インフルエンザ感染症は、発症の初期段階では通常のインフルエンザ感染症と区別されにくいが、急激にウイルス性肺炎が進行するために呼吸困難に陥り、その多くは急性呼吸促迫症候群(ARDS)となる。ARDS治療には一般にステロイド剤が用いられているが、新型インフルエンザ感染症におけるステロイド剤の長期使用は二次感染を招くだけでなく、ウイルスを増殖させ、その結果としてサイトカインストームを悪化させている。
従来のインフルエンザ感染症に対する対策と同様に、鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンの開発もまた試みられている。しかし、鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンとして、鳥用ワクチンが開発されているが、ヒト用ワクチンは存在していない。
新型インフルエンザ感染症に対する標準的な治療がWHOによって推奨されている(非特許文献1参照)。また、その治療/予防について、これまでに多くの研究がなされている。例えば、特許文献1には、インターフェロンの利用が開示されており、特許文献2には、α−インターフェロンと、他の抗ウイルス剤との組合せが開示されている。特に、ウイルス増殖を抑制するノイラミニダーゼ阻害薬の効果が期待されている。
http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/clinicalmanage07/en/index.html
Etoh, T. et al., Lung (1984) 162: 49-58
上述したように、新型インフルエンザ感染症および従来のインフルエンザ感染症は、全く異なる別の疾患である。特許文献1等の技術は従来のインフルエンザ感染症に対する治療法またはその組合せに過ぎず、新型インフルエンザ感染症に対する治療法として有効なものといいがたい。また、ノイラミニダーゼ阻害薬は使用が制限されており、特に、新型インフルエンザ感染症に罹患しやすい小児〜若年成人に対する使用が控えられている。このように、新型インフルエンザ感染症に有効な治療法はこれまでに確立されておらず、治療法の確立は今もなお重大な課題となっている。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新型インフルエンザ感染症に有効な治療技術を提供することにある。
本発明者は、独自の観点に基づいて、サイトカインストームの改善に着目し、独特な疾患である新型インフルエンザ感染症の治療法を鋭意検討した。その結果、本発明者は、活性化した肺胞マクロファージに起因して発現する呼吸不全の初期段階における抗プラスミン剤の吸入が、十分な治療効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明に係る医薬組成物は、新型インフルエンザ感染症を処置するために、抗プラスミン剤を有効成分として含有していることを特徴としている。
本発明に係る医薬組成物は、下気道に適用されることが好ましい。
本発明に係る医薬組成物は、液体、懸濁液または微細粉末の形態であることが好ましい。
本発明に係る医薬組成物は、新型インフルエンザ感染症による呼吸不全の初期段階を処置するための組成物であることが好ましい。
本発明に係る医薬組成物は、ウイルス性肺炎の症状を呈する前に下気道に適用されることが好ましい。
本発明に係るキットは、抗プラスミン剤を備えていることを特徴としており、経口吸入または鼻腔吸入のための器具をさらに備えていることが好ましい。
本発明に係る方法は、新型インフルエンザ感染症を処置するための抗プラスミン剤の使用方法であることを特徴としている。本発明にかかる使用方法は、新型インフルエンザ感染症を処置するための医薬を製造するために用いられることが好ましい。
本発明に係るさらなる方法は、新型インフルエンザ感染症を処置するために、新型インフルエンザ感染症に罹患した被験体の下気道に抗プラスミン剤を送達する工程を包含することを特徴としている。
本発明を用いれば、独特な疾患である新型インフルエンザ感染症を処置し得る。
本発明は、医薬組成物を提供する。本発明に係る医薬組成物は、新型インフルエンザ感染症を処置するために、抗プラスミン剤を有効成分として含有していることを特徴としている。
本明細書中で使用される場合、用語「新型インフルエンザ感染症」は、鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染症が意図され、感染部位や病態が従来のインフルエンザ感染症と全く異なる疾患が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「鳥インフルエンザウイルス」は、トリ型インフルエンザレセプターと結合し得るものであれば特に限定されない。すなわち、用語「鳥インフルエンザウイルス」には、家禽に対して高い病原性を示すH5N1型ウイルスだけでなく、H5N1型ウイルスに由来した変異型ウイルスや、HAタイプ/NAタイプが異なる亜型ウイルスもまた包含される。
本明細書中で使用される場合、用語「処置」は、症状の軽減または排除が意図され、予防的(発症前)または治療的(発症後)に行われ得るもののいずれもが包含される。
一実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、下気道に適用されることが好ましい。プラスミン剤に関する技術として、止血剤以外に、例えば、特許文献3等には、抗炎症作用を有する皮膚外用品である抗プラスミン剤が開示されている。また、特許文献4には、抗プラスミン剤を含有するアレルギー性鼻炎予防用の経口投与製剤が開示されている。しかし、これまでに知られている抗プラスミン剤は止血剤または抗炎症剤であり、その適用形態も、外用剤、経口投与用の固形製剤、あるいは上気道を標的とした点鼻剤または鼻腔内軟膏である。下気道を標的として抗プラスミン剤を適用することによって新型インフルエンザ感染症を処置し得るということは、当業者が予測し得るものではない。
本発明者は、ラットにエンドトキシンを腹腔内投与することによって、(1)エンドトキシン投与後6時間以内に、肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の開大および血漿タンパク質の肺胞内への漏出が観察されること、(2)エンドトキシン投与後3時間以内に、活性化した肺胞マクロファージ(AM)が放出するプラスミノーゲンアクチベータ(PA)の量および気管支肺胞洗浄液(BAL fluid)の線溶活性が増加すること、(3)BAL fluidの線溶活性が、AM放出PAおよびAaDO2と正相関すること、ならびに、(4)エンドトキシン投与1時間後のラットにトラネキサム酸を吸入させることによって、エンドトキシン投与に起因してラットにて併発していた全身播種性血液凝固(DIC)に影響することなく、血液ガスが改善され、肺胞内への血漿タンパク質の漏出が抑制されることを、これまでに見出している(非特許文献2参照)。
上記(4)は、抗プラスミン剤の吸入が、全身の線溶系に影響することなく、局所における抗線溶作用によって肺胞レベルでの線溶亢進状態の発現を未然に防止したことを示唆している。ARDSの初期像が上記(1)および(2)に近似している点に鑑みて、本発明者は、活性化した肺胞マクロファージに起因して発現する呼吸不全の初期段階における抗プラスミン剤の治療効果を検証し、その顕著な有効性を確認した。このように、本発明に係る医薬組成物は、新型インフルエンザ感染症による呼吸不全の初期段階を処置するために用いられることがより好ましい。なお、本発明に係る医薬組成物は、抗プラスミン剤の抗炎症活性を利用するものではない。よって、ウイルス性肺炎の症状を呈する前に下気道に適用されてもよい。
呼吸不全は、肺におけるガス交換の機能が、生体における必要レベルを下回った状態であり、低酸素血症または二酸化炭素血症でもあり得る。動脈血酸素分圧値によって規定される呼吸不全の診断は、医師によって容易になされ得る。
本明細書中で使用される場合、抗プラスミン剤は、プラスミンの血餅溶解作用に拮抗し得る薬剤が意図される。抗プラスミン剤としては、トラネキサム酸(t−AMCHA)、ε−アミノカプロン酸(EACA)などの化学合成された化合物であっても、天然物から抽出された化合物であってもよい。
本発明に係る医薬組成物は、経口吸入または鼻腔吸入により下気道表面に送達されればよい。このような送達には、公知の種々の吸入方法が利用可能であり、例えば、噴霧器、噴霧吸入器、乾燥粉末吸入器などが好適に用いられる。すなわち、本発明に係る医薬組成物は、溶液、懸濁液、または溶液等と一緒に吸入し得る微細粉末の形態であることが好ましい。
なお、本発明に係る医療組成物は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。本明細書中において使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」は、組成物を受容した個体において有害な抗体の産生を誘導しない任意のキャリアが意図される。
本発明はキット形態で提供されてもよい。すなわち、本発明に係るキットは、抗プラスミン剤を備えていることを特徴としている。
本明細書中で使用される場合、「組成物」は各種成分が一物質中に含有されている形態であることが意図され、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。
本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは各材料を使用するための指示書を備える。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装でもあり得、溶液形態の場合は容器中に内包されていてもよい。本発明に係るキットは、異なる物質を同一の容器に混合して備えていても別々の容器に備えていてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明に係るキットは、新型インフルエンザ感染症の処置に適用するために必要な器具をあわせて備えていてもよい。すなわち、本発明に係るキットは、経口吸入または鼻腔吸入のための器具をさらに備えていてもよい。また、抗プラスミン剤を経口吸入または鼻腔吸入するために必要な溶液をさらに備えていてもよい。
このような本発明は、新型インフルエンザ感染症を処置するための、抗プラスミン剤の使用方法でもあり得る。このような使用方法が、新型インフルエンザ感染症を処置するための医薬を製造するために好適に用いられることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
本発明はまた、新型インフルエンザ感染症を処置するための方法を提供する。本発明に係る方法は、新型インフルエンザ感染症を処置するために、新型インフルエンザ感染症に罹患した被験体の下気道に抗プラスミン剤を送達する工程を包含することを特徴としている。
本発明は、以下のように実施されかつ検証され得るが、手順はこれに限定されない。
抗プラスミン剤(例えば市販のトラネキサム酸)を含む10ml生理食塩水を超音波ネブライザー(オムロンNE−U11)にて霧状にし、これを、鳥インフルエンザウイルスを感染させたラットを入れたチャンバー内へ200ml/分の流速にて流入させ、ラットに、20分間吸入させる。この条件下で用いるトラネキサム酸は、500mg/kgラットが好ましい。コントロールとして、生理食塩水10mlのみを吸入させたものを用いればよい。また、抗プラスミン剤を腹腔内投与したものをコントロールとして用いてもよい。所定の時間が経過した後に、腹部大動脈から虚血したラットについて、採取血液の動脈血ガス分析を行う。呼吸不全の指標として、肺胞気道脈血酸素分圧較差を計算する。本発明を適用した場合、コントロールと比較して呼吸不全の顕著な改善が観察される。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明によって、新型インフルエンザ感染症を処置することができるので、医薬の開発に大いに貢献することができる。
Claims (8)
- 抗プラスミン剤を有効成分として含有している、新型インフルエンザ感染症を処置するための医薬組成物。
- 下気道に適用される、請求項1に記載の医薬組成物。
- 液体、懸濁液または微細粉末の形態である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
- 新型インフルエンザ感染症による呼吸不全の初期段階を処置するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- ウイルス性肺炎の症状を呈する前に下気道に適用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 抗プラスミン剤を備えている、新型インフルエンザ感染症を処置するためのキット。
- 経口吸入または鼻腔吸入のための器具をさらに備えている、請求項6に記載のキット。
- 新型インフルエンザ感染症を処置するための、抗プラスミン剤の使用方法。
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JP2009034518A JP2010189301A (ja) | 2009-02-17 | 2009-02-17 | 新型インフルエンザ感染症に対する医薬組成物およびその利用 |
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JP2013237666A (ja) * | 2012-04-16 | 2013-11-28 | Daiichi Sankyo Healthcare Co Ltd | 過労又は慢性疲労に伴う疾患の治療及び/又は予防剤 |
CN111150723A (zh) * | 2020-02-06 | 2020-05-15 | 北京佳诚医药有限公司 | 氨甲环酸注射液作为治疗肺炎药物的应用 |
CN111315374A (zh) * | 2017-08-27 | 2020-06-19 | 抗病毒科技有限责任公司 | 合成的赖氨酸类似物和模拟物的用于抗病毒用途的方法和组合物 |
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