JP2010177113A - プラズマディスプレイパネル及びプラズマディスプレイ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】高精細なプラズマディスプレイパネルにおいて、広い温度範囲にわたってアドレス放電遅れ時間を短縮し、休止期間中の壁電荷の減少を抑えて電圧変動を小さくすることを両立させ、安定したアドレス放電を行うことと、高コントラストを実現する保護層技術を提供する。
【解決手段】本発明では、Scを含むMgOからなる保護層とし、さらに、MgOに対するSc濃度を10質量ppm以上525質量ppm以下とする。この濃度範囲のScを含むMgOで保護層を形成することにより、アドレス放電遅れ時間が短く、且つ、休止期間中の電圧変動が小さくなり、高精細なプラズマディスプレイパネルにおいて安定したアドレス放電を行うことができ、高コントラストのプラズマディスプレイ装置が得られる。
【選択図】図16
【解決手段】本発明では、Scを含むMgOからなる保護層とし、さらに、MgOに対するSc濃度を10質量ppm以上525質量ppm以下とする。この濃度範囲のScを含むMgOで保護層を形成することにより、アドレス放電遅れ時間が短く、且つ、休止期間中の電圧変動が小さくなり、高精細なプラズマディスプレイパネルにおいて安定したアドレス放電を行うことができ、高コントラストのプラズマディスプレイ装置が得られる。
【選択図】図16
Description
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:以下、PDPとも称する)及びプラズマディスプレイ装置に関し、特に、高精細なプラズマディスプレイパネルに適用して有効な技術に関する。
近年、大型かつ厚みの薄いカラー表示装置として、プラズマディスプレイ装置が期待されている。PDPは、その構造と駆動方法の違いからDC(直流)型とAC(交流)型に分類される。このうちAC型のAC面放電型PDPは、構造の単純さと高信頼性のため、もっとも実用化の進んでいる方式である。
一般的なボックス構造を有するAC面放電型PDPの分解斜視図を図1に、図1において破線で囲まれた一つの放電セルの断面構造図を図2、図3に示す。図中のxyz座標軸は図1、図2、図3において共通である。
放電空間14を挟んで前面板12と背面板13が対向配置され、放電空間14には放電ガスが封入されている。放電ガスとして、He−Xe、Ne−Xe、He−Ne−Xe等の混合ガスが用いられる。
背面板13は背面基板11上に形成されたストライプ状のアドレス電極(以下、A電極とも称す)10と、アドレス電極10を覆う誘電体層9と、誘電体層9上に形成されて放電距離維持と隣接セル間のクロストークを防止し放電セルを形成する隔壁7と、各隔壁7間に形成された赤色、緑色と青色の各色に発光する蛍光体層8とでなる。蛍光体層8は放電により発生した紫外線で励起し、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に発光する蛍光体からなる。
前面板12は前面基板1上にアドレス電極10と交差するようにストライプ状のサステイン電極(以下、X電極とも称す)4とスキャン電極(以下、Y電極とも称す)5の対からなる表示電極6が複数形成される。表示電極6は透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される。表示電極6は誘電体層2で覆われ、誘電体層2の表面上には保護層3が形成される。
この保護層には、放電ガスのイオン衝撃による誘電体層の保護と二次電子放出及び壁電荷保持といった特性を有することが要求される。PDPでは、これらの特性を併せ持つ酸化マグネシウム(以下、MgOと記す)を主成分とする材料が広く用いられている。
PDPにおける一般的な画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)がある。ADS方式では、1TVフィールド(1/60s)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割し、それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。さらにサブフィールドは、リセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。リセット期間では、マトリクス配列された全ての放電セル内の壁電圧をほぼ均一に揃えるため、サステイン放電電極対間に放電開始電圧以上のサステイン電圧を印加し、全ての放電セルでリセット放電を行う。アドレス期間では、全ての放電セルのうちの点灯すべき放電セルのみに、適量の壁電荷を生成するアドレス放電を行う。サステイン期間では、その壁電荷を利用して表示データの階調値に応じた回数のサステイン放電(表示放電)を行う。
このPDPを用いたプラズマディスプレイ装置は、デジタル放送等の高品位な画質に対応した画像表示装置としての期待が高まっており、高精細化、高輝度化、高コントラスト化等の高画質化が要求されている。また、黒ノイズの発生率低減といった表示画像の信頼性も要求されている。
PDPの高精細化は画素ピッチ及び放電セルサイズを小さくすることにより達成される。高輝度化は発光効率の増加やサステイン放電の回数を多くすることにより達成される。高コントラスト化には、サステイン放電回数が異なるサブフィールド数を増加させることと、リセット放電等の表示放電に寄与しない放電を低減して黒表示時の輝度を低下させることにより達成される。
各サブフィールドのアドレス期間は、PDPのスキャンライン数とアドレスパルス幅で決定される。アドレスパルス幅は、アドレス電圧を印加してからアドレス放電が起こるまでのアドレス放電遅れ時間td(以下、放電遅れ時間とも記す)を考慮して設定される。このとき、アドレス放電遅れ時間tdに対してアドレスパルス幅が不十分であると、アドレス電圧を印加している間にアドレス放電が起こらない。そのため、その後のサステイン放電が行われないといった誤放電による黒ノイズが発生する。更に高精細化では画素数の増加に伴いスキャンライン数が増加する。これにより、高精細なPDPでは、各TVフィールドにおけるアドレス期間の割合が増加し、高輝度化、高コントラスト化において重要であるサステイン期間の割合が減少する。
アドレス期間を短くするには、大きく2つの方法がある。1つはデータドライバICを増加させる方法である。例えばデータドライバICを2倍にし、パネルの上下でスキャンラインを2分割して同時にスキャンをするデュアルスキャン方式に変えると、見かけ上のアドレス期間が半減する。しかし、デュアルスキャン方式ではデータドライバIC等の駆動に関係する回路数の増加や配線が複雑となり、生産性やコストの点で問題がある。
もう1つはアドレス放電遅れ時間tdを短縮し、アドレスパルス幅を短くする方法である。アドレス放電遅れ時間tdは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間tf、並びに、放電の種火となる電子(プライミング電子)が保護層から放出されるまでの統計遅れ時間(以下、プライミング電子の放出時定数とも記す)tsの和で構成される。保護層のプライミング電子放出特性が良好であるならば、統計遅れ時間ts及びアドレス放電遅れ時間tdを短縮することができ、安定したアドレス放電を行うことができる。
このアドレス放電遅れ時間tdを短縮するために、保護層のMgOに不純物元素を添加する技術の開発が行われている。例えば、特許文献1では不純物元素としてSiが、特許文献2、特許文献3では不純物元素としてScが記載されている。
IDW‘06、PDP2−4 2006年、p359〜362
IDW‘08、PDP3−3 2008年、p1869〜1872
しかしながら、前記従来技術はアドレス放電遅れ時間tdの短縮に特化しており、その他のPDP駆動に対する影響についてはあまり考慮されていない。
特許文献1記載のSiをMgOに添加する技術は、ある程度のアドレス放電遅れ時間tdを短縮することが可能であるが、特許文献4においてPDPの面内においてアドレス放電遅れ時間tdの短縮される割合にバラツキが生じることが記載されている。更に、本発明者らが検討した結果、アドレス放電遅れ時間tdに温度依存性があることも分かっている。PDPに要求される動作保証温度は製造メーカによって異なるが、好ましくは−20〜60℃である。この温度範囲において、Siを添加したMgOを保護層に用いたPDPでは、低温域でアドレス放電遅れ時間tdが著しく増大し、黒ノイズの発生により表示品位が低下することがある。
また、特許文献2及び特許文献3のScをMgOに添加する技術はアドレス放電遅れ時間tdを短縮することが可能であると記載されている。しかし、本発明者らが検討した結果、MgOに対するScの濃度が閾値以上であると、PDPの通常動作中のある時点において、黒ノイズの発生率の増加や不点灯ライン出現といった現象が発生することが明らかになっているこれらの現象は、PDPの温度が高温である場合によくみられる。
この原因の一つとして、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの休止期間ti中に、アドレス電極(A電極)を覆う誘電体層及び保護層の放電空間側表面とスキャン電極(Y電極)を覆う誘電体層及び蛍光体層の放電空間側表面との電圧差(即ち、A−Y電極間の放電空間に印加される電圧)VAYが減少することが挙げられる。以下、休止期間ti中の電圧差VAYの減少量を電圧変動ΔVAYと記す。
この電圧変動ΔVAYにより、アドレス電圧印加時に放電空間に印加される実効的な電圧は減少する。そのため、所定の電圧が放電空間に印加されなくなり、アドレス放電を失敗して誤放電が発生し易くなる。
電圧変動ΔVAYの要因として、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの間に保護層から放出されたプライミング電子が、放電空間側表面の壁電荷を打ち消していると考えられている。非特許文献1によれば、プライミング電子による休止期間ti中の電圧変動ΔVAYは、300〜10000V/sであると記載されている。
このような問題を解決する方法の一つとして、電圧変動ΔVAYを想定してアドレス電圧を予め高めに設定する方法がある。しかし、この方法では使用する駆動回路や制御回路に実装される電子部品を高電圧に対応したものに変更する必要があり、コストの点で問題がある。また、消費電力の増加や、コントラストの低下といった問題も生じる。
したがって、アドレス放電遅れ時間tdを短縮するだけでなく、休止期間ti中の電圧変動ΔVAYを抑制する保護層技術が必要である。
本発明の目的は、広い温度範囲においてアドレス放電遅れ時間tdの短縮と、休止期間ti中の壁電荷の減少及び電圧変動ΔVAYの抑制を両立することにより、安定したアドレス放電と高コントラストなPDPを実現する保護層技術を提供することにある。
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
すなわち、代表的な実施の形態によるプラズマディスプレイ装置は、一対の基板が対向に配置されて放電空間を形成し、一方の基板上に複数の電極と前記電極上に誘電体層と前記誘電体層を覆う保護層が形成され、前記放電空間には放電ガスが充填されたPDPと、前記PDPの表示面全体の帯電状態を揃えるリセット期間、表示放電を行う放電セルを選択するアドレス期間、表示放電を行うサステイン期間からなる駆動方法を実現する駆動装置とを有する。
前記PDPは具体的には、前面板とそれに対向する背面板との間の空間が前記背面板に設けられた隔壁によって区画され、前記空間には放電ガスが充填されている。前記前面板は、第1基板と、前記第1基板上に設けられた表示電極対と、前記表示電極対を覆う第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に保護層を設けている。また、前記背面板は、第2基板と、前記第2基板上に設けられたアドレス電極と、前記アドレス電極を覆う第2誘電体層と、前記第2誘電体層上に設けられた前記隔壁と、前記空間に接し、前記第2誘電体層上に設けられた蛍光体層とを有している。
ここで、前記保護層は、上記課題を解決するために、主成分であるMgOに対して、所定量のScを含んでいる。前記保護層中のMgOに対するScの濃度は、アドレス放電遅れ時間tdを構成する統計遅れ時間tsと、電圧変動ΔVAYを両立する10質量ppm以上740質量ppm以下であり、且つ、下記式(I)を満たすことを特徴とした。
0.22x+12≦y≦1/(8.0×10−4lnx+1.9×10−3)…(I)
但し、式(I)において、yは主成分であるMgOに対して含まれるScの濃度であり、単位は質量ppmで示され、xは駆動方法においての最大リセット間隔で、単位はmsであり、0.5≦x≦50の範囲の値が適当である。
但し、式(I)において、yは主成分であるMgOに対して含まれるScの濃度であり、単位は質量ppmで示され、xは駆動方法においての最大リセット間隔で、単位はmsであり、0.5≦x≦50の範囲の値が適当である。
スキャンライン数が多く高精細なPDP、例えば解像度がフルHD(High Definition)のPDPにおいて、十分なリセット期間とサステイン期間を確保しつつ、全スキャンラインを1つのデータドライバICでスキャンを行うシングルスキャン方式を実現するには、休止期間ti=16msの統計遅れ時間tsを従来品のMgOの1/3以下にする必要がある。そこでSc濃度範囲の下限値は、−20〜60℃の温度範囲における統計遅れ時間tsの最大値が、従来品のMgOの1/3以下となるSc濃度である。
この統計遅れ時間tsは、保護層のプライミング電子放出特性(以下、電子放出特性とも記す)に関係していることから、測定する以外にも保護層中のプライミング電子放出源のエネルギー状態密度からも得ることができる。
エネルギー状態密度は、アドレス放電遅れ時間tdから統計遅れ時間tsを分離し、プライミング電子放出特性の計測条件依存性を解析することにより決定される。解析システム及び解析方法の概略は以下のとおりであり、解析方法は非特許文献2に記載されている。詳細については後で説明する。
(1)休止期間ti、温度Tの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tdの計測データを入力する。
(2)各休止期間tiと温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間td毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率を算出する。
(3)統計遅れ時間tsに関係するプライミング電子の電子放出時定数ts exp(ti,T)を算出する。
(4)電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を設定する。
(5)電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギーに対する重なり積分によりプライミング電子の電子放出時定数ts th(ti,T)を算出する。
(6)休止期間tiと温度Tの計測条件の総数に対して、計測データから求めたts exp(ti,T)と計算から求めたts th(ti,T)の平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を決定する。
これにより、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析することができる。更に、(5)により電子放出源のエネルギー状態密度から各計測条件に対するプライミング電子の電子放出時定数ts th(ti,T)を算出することもできる。
休止期間tiの間の電圧変動ΔVAYは、保護層から放出されるプライミング電子放出量Nemに関係する。単位時間当たりに放出されるプライミング電子放出量Nemは、プライミング電子の放出時定数tsの逆数で与えられる。PDPの温度Tを一定として休止期間ti中のプライミング電子放出量Nemは、
で与えられる。放出される電荷Qemは電気素量qを用いて、
で与えられる。リセット放電により形成される壁電荷が、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面が正で、Y電極側の誘電体層及び保護層表面が負であるとすると、保護層から放出される電荷Qemは、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面に到達すると考える。この結果、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面の壁電荷が−Qemだけ、Y電極側の誘電体層及び保護層表面の壁電荷がQemだけ減少する。
1つの放電セルにおけるA電極側とY電極側の静電容量をCA、CYとすると、プライミング電子放出による壁電荷の変動に伴う電圧変動ΔVAYは、
で表され、プライミング電子放出量Nemに関係する。更に、電圧差VAYが大きければ、放出されたプライミング電子は、放電空間において放電ガスを電離し、保護層から二次電子が放電空間へ放出され、電圧変動ΔVAYを増大させることもある。
プライミング電子放出量Nemは、MgO中のトラップ準位に起因するプライミング電子放出源の実行数Nee,jに依存する。ScはMgOに対してドナーであることから、プライミング電子放出源となるトラップ準位を形成する。そのため、Scを添加したMgOを用いた保護層では、プライミング電子放出源の実行数Nee,jはMgOに対するSc濃度で決定される。
従来品のMgOでは、高温で動作させたときに、1TVフィールドに相当する休止期間ti=16msでは、電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題のない程度である。そこでSc濃度範囲の上限値、休止期間ti=16msにおける電圧変動ΔVAY及びプライミング電子放出量Nemについて従来品のMgOで規格化し、各条件での電圧変動ΔVAYが1以下となるSc濃度である。
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
すなわち、代表的な実施の形態によれば、本願において開示される濃度のScを添加したMgOからなる保護層をPDPに用いることにより、広い温度範囲において統計遅れ時間ts及びアドレス放電遅れ時間tdを短縮し、休止期間ti中の電圧変動ΔVAYを抑制することにより、高精細なPDPにおいて安定したアドレス放電と高コントラストを実現することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
(実施の基本形態)
まず、本発明の理解を容易にするために、本発明者らが検討したPDPの一例としてAC面放電型PDPの基本構造などについて説明する。なお、本願においてPDPを構成する2つの基板の「前面板」と「背面板」は、両者を組み立ててパネル化した際に、蛍光体による発光が通過して表示面となる方を前面板、表示面とならない方を背面板として説明する。また、本願では、「前面板」および「背面板」はそれぞれガラス基板から構成される前面基板および背面基板をベースとして説明する。
まず、本発明の理解を容易にするために、本発明者らが検討したPDPの一例としてAC面放電型PDPの基本構造などについて説明する。なお、本願においてPDPを構成する2つの基板の「前面板」と「背面板」は、両者を組み立ててパネル化した際に、蛍光体による発光が通過して表示面となる方を前面板、表示面とならない方を背面板として説明する。また、本願では、「前面板」および「背面板」はそれぞれガラス基板から構成される前面基板および背面基板をベースとして説明する。
図1は本発明者らが検討したいわゆるボックス型のAC面放電型のPDP15の要部を模式的に示す分解斜視図である。PDP15は、パネルサイズが50インチであり、表示画素数が1920×1080のフルHDで検討しているが、パネルサイズが32インチ以上、表示画素数がHD以上の高精細なPDPであっても構わない。図2は組み立て後の図1の放電セルCLのx−z平面の断面図である。図3は組み立て後の図1の放電セルCLのy−z平面の断面図である。
まず、前面板12およびその形成方法について説明する。前面基板1上にストライプ状の透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される表示電極6が配設され、表示電極6はサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなる。透明電極4a、5aは透明導電体である酸化インジウムスズ(ITO)からなる膜で形成され、その上に銀の単層膜からなるバス電極4b、5bが透明電極4a、5aより狭い幅で付設されている。なお、透明電極4a、5aとして酸化スズや酸化亜鉛等、バス電極4b、5bとしてアルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成しても構わない。
表示電極6を構成する透明電極4a、5aとバス電極4b、5bは誘電体層2により覆われる。誘電体層2は誘電体ガラス膜で形成される。そして誘電体層2の表面上に保護層3が形成される。この保護層3の形成方法の詳細については、後で詳しく説明する。
次に、背面板13およびその形成方法について説明する。背面基板11上に表示電極6と直交したストライプ状のアドレス電極(A電極)10が配設される。背面基板11はガラス基板であり、アドレス電極(A電極)10はアルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成される。
アドレス電極(A電極)10は誘電体層9によって覆われ、その上には放電距離維持と隣接セル間のクロストークを防止する隔壁7が形成される。誘電体層9は誘電体ガラス膜で形成される。隔壁7は前面板12の表示電極6とアドレス電極(A電極)10と平行に配設されており、アドレス電極(A電極)10は隔壁7間に位置する。表示電極6と対向する各隔壁7で囲まれた領域(空間)は放電空間14であり、この放電空間14に接するように誘電体層9上には蛍光体層8が形成される。蛍光体層8は赤色が(Y,Gd)BO4:Eu2+、青色がBaMgAl10O17:Eu2+、緑色がZn2SiO4:Mn2+で形成される。
表示電極6とアドレス電極(A電極)10を直交するように前面板12と背面板13を対向配置させ、両板の非表示領域を封着剤により封着する。これにより外気と隔離された放電空間14が形成される。放電空間14には、放電ガスとしてネオン(Ne)−キセノン(Xe)をガス基体とした混合ガスが所定の圧力及び分圧で封入される。
保護層3の形成方法について説明する。本発明の保護層3の主成分はMgOであり、所定量のScを含んでいる。本発明では、この保護層3を電子ビーム蒸着法により成膜する。このとき、膜質を制御するために、酸素ガスや水素ガス、水蒸気等を供給しても構わない。また、MgOの成膜方法として、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法等を用いても構わない。これらの成膜方法により保護層3は300nmから1000nmの厚さに形成される。
蒸着源には、粉末状のMgOにSc化合物を混合してペレット状に成型したものを用いるか、ペレット状のMgOとペレット状のSc化合物を混合して用いるか、あるいはこれらのペレット状に成型したものの焼結体を用いる。この蒸着源中のSc濃度は、MgOに対して5質量ppm以上5000質量ppm以下である。
これらの蒸着源は、MgOとSc化合物を出発材料として作製されるが、本発明者らが検討した結果、出発材料に用いるMgO中の不純物の濃度は、多くてもMgOに対して200質量ppm以下であることが望ましい。これは、出発材料に用いるMgOの純度が低いと、Scを添加することにより得られる効果が低減するためである。本発明で用いたMgOに含まれる不純物元素とその濃度を表1に示す。表1に示される不純物の濃度は高周波誘導結合プラズマ質量分析(以下、ICP‐MSと記す)による分析結果である。Zn、Mn以外の不純物元素は、検出限界未満であった。
Sc化合物としては、酸化スカンジウム、炭酸スカンジウム、酢酸スカンジウム、硝酸スカンジウム、シュウ酸スカンジウム、ハロゲン化スカンジウム(ScX3;X=F,Cl,Br)等を用いることができ、これらについても、出発材料に用いるMgOと同様に高純度なものが望ましい。
以上の方法により形成される保護層3のMgOに対するSc濃度は、ICP‐MS、または二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて測定することができる。
このPDP15に画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)を適用した場合について説明する。図4は階調表示方式であるADSにおける1TVフィールドとサブフィールドの構成を説明するための図である。図5は図4中のアドレス期間において、放電セルを選択してアドレス放電させる駆動方法を説明するための図である。なお、図5中のGNDは基準電圧(基準電位)である。
図4(I)で示されるように1フィールド(1/60s≒16.67ms)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割している。それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。各サブフィールドは、図4(II)で示されるリセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。
リセット期間では、表示電極間に放電開始電圧以上の電圧が印加され、全ての放電セルでリセット放電が起こる。これにより、全ての放電セル内の壁電圧、即ち帯電状態をほぼ均一に揃えることができる。
アドレス期間では、画像データに基づき選択された放電セルのアドレス電極(A電極)とスキャン電極(Y電極)に電圧が印加される。図5は、3つの連続したスキャン電極(Y電極)であり、(Yi電極)と(Yi+2電極)が選択され、(Yi+1電極)が選択されない時の、各電極に印加される電圧波形である。選択された放電セルの(Yi電極)と(Yi+2電極)には、−Vyのスキャンパルスが印加されるのと同期してアドレス電極(A電極)に電圧Vaのアドレス電圧が印加されてアドレス放電(選択放電)が起こる。選択されアドレス放電が起こった放電セルでは、サステイン期間で行われるサステイン放電(表示放電)を行うのに必要な壁電荷が形成される。一方、選択されない放電セルの(Yi+1電極)では、−Vyのスキャンパルスが印加される時にアドレス電極(A電極)にアドレス電圧が印加されないため、アドレス放電が起こらない。これにより表示放電を行うのに必要な壁電荷が形成されず、サステイン期間でサステイン放電が起こらない。スキャンパルスの幅は、各サブフィールドのアドレス期間を表示電極対数によらず一定とすると、表示電極対数が増加するとスキャンパルス幅が短くなる。そのため、表示電極対数に応じて許容されるアドレス放電遅れ時間tdは異なる。
サステイン期間では、サステイン電極(X電極)とスキャン電極(Y電極)にサステインパルスが交互に印加され、選択された放電セルにおいてサステイン放電が起こる。例えば、2進法に基づく輝度の重みを持った8個のサブフィールドを設けると、赤(R)、緑(G)、青(B)の放電セルはそれぞれ28(=256)階調の輝度表示が得られ、約1678万色の色表示が可能となる。
図6は、PDP15を備えたプラズマディスプレイ装置20の構成を示す説明図である。プラズマディスプレイ装置20は、アドレス電極(A電極)10、スキャン電極(Y電極)5、サステイン電極(X電極)4を有するPDP15と、アドレス電極(A電極)10を駆動するためのアドレス駆動回路21と、スキャン電極(Y電極)5を駆動するためのスキャンパルス出力回路22と、サステイン電極(X電極)4を駆動するためのサステインパルス出力回路23と、これらの出力回路を制御する駆動制御回路24と、入力信号の処理を行う信号処理回路25と、PDP15などに電圧を印加する駆動電源26と映像信号を生成する映像源27からなる駆動装置を備えている。
プラズマディスプレイ装置20は、PDP15が完成した後、PDP15の電極とフレキシブル基板とを異方性導電フィルムによって接合する。その後、PDP15の変形を防ぎ、放熱性を良くするために例えばアルミニウムなどの板が取り付けられ、この板の上に、駆動電源26やアドレス駆動回路21などの駆動装置が組み込まれ、プラズマディスプレイモジュールが完成する。その後、さらに検査などを行い、外装ケースを取り付けることによって、プラズマディスプレイ装置20が完成する。
次に、本発明者らが本発明に至った実験方法と解析手法について説明する。
アドレス放電遅れ時間tdは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間tf、並びに、放電の種火となるプライミング電子が保護層から放出されるまでの統計遅れ時間tsの和で構成される。
保護層からプライミング電子が放電空間に放出されることは統計現象であるため、統計遅れ時間tsには揺らぎが生じる。図7は、同一放電セルにおけるアドレス放電遅れ時間tdを繰り返し計測した計測データを、アドレス放電遅れ時間td毎に累積数(2001)で表示した放電遅れ時間の頻度分布の一例である。なお、2002は既放電確率Gを示す。同一放電セルにもかかわらず、約500nsをピークに、放電時間が早い場合は400ns、放電時間が遅い場合は1000ns以上を示しており、左右非対称な形状を示している。この繰り返し計測した計測データを用いて以下の方法により、統計遅れ時間tsに関係する保護層のプライミング電子放出特性を解析し、プライミング電子の電子放出時定数ts th(ti,T)を算出する。
図8はプライミング電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図、図9はその解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
まず、図8及び図9により、本発明に用いたプライミング電子放出特性の解析システムの構成を説明する。本発明に用いた解析システムは、保護層中の電子放出源に対する電子放出特性の解析システムとされ、パーソナルコンピュータ2200と、計算装置102などから構成されている。パーソナルコンピュータ2200は、記憶装置を含む入力装置101と、画像処理装置を含む出力装置103などから構成される。計算装置102は、CPU装置2201と、記憶装置2202などから構成され、CPU装置2201と記憶装置2202は、データ転送用結合バス2204により接続されている。
なお、図9では、複数の計算装置102が、データ転送用結合バス2205によりマトリクス状に接続される構成となっているが、これに限定されず、計算装置102は1つであってもよく、また、パーソナルコンピュータ2200内に設けてもよい。
次に、図8及び図9により、本発明で用いた電子放出特性の解析システムについて、その動作例を説明する。計算装置102において、記憶装置2202には電子放出特性の解析プログラムが記憶(保持)されており、パーソナルコンピュータ2200からの指示により、CPU装置2201がそのプログラムを読み出して演算処理を行う。その演算処理の結果は、記憶装置2202に保存される。演算処理に必要なデータ類は、パーソナルコンピュータ2200から、データ転送用結合バス2205を介して送信される。また、計算装置102における演算処理の結果は、データ転送用結合バス2205を介して、パーソナルコンピュータ2200に送信される。また、パーソナルコンピュータ2200において、演算処理に必要なデータは入力装置101から入力され、演算処理の結果は出力装置103で出力・表示される。
図8に示すように、計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
まず、ステップS102−1において、PDPに対して計測した、サステイン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止期間tiとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tdの計測データを、入力装置101から計算装置102に入力する。
次に、ステップS102−2において、計算装置102では、各休止期間tiとMgOの温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)を算出する。
図10に、放電確率頻度の最大値を1に規格化した放電確率頻度P(t)201を示した。放電確率頻度P(t)は、短時間側ではガウス関数型であるが、長時間側はテールを引いた非対称な形状である。この放電確率頻度P(t)と式(1)を用いて、既放電確率G(t)を算出する。図10には、既放電確率G(t)202を示した。既放電確率G(t)は、下に凸から上に凸の形状を示し、長時間側で傾きはなだらかになっている。
ステップS102−3において、形成遅れ時間tfの揺らぎを取り除き、プライミング電子の電子放出時定数ts expを求めるために、
を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tを用いる。ここで、tf aveは形成遅れ時間tfの平均値、σtfは形成遅れ時間tfの分散値である。形成遅れ時間の平均値tf aveと形成遅れ時間の分散値σtfは、アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止期間tiの計測データに対して、そのアドレス放電遅れ時間の平均値と分散値から求めることができる。図10に示すように、
の長時間領域203を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数ts expを算出する。
例えば、ti=0.1ms、T=25℃の短い休止期間に対するアドレス放電遅れ時間の計測データでは、形成遅れ時間の平均値tf ave=0.59μs、分散値σtf=0.09μsである。そして、解析対象の計測条件ti=50ms、T=25℃における既放電確率G(t)が63.2%と95%となる時刻t63.2とt95は夫々に0.84μsと1.45μsである。式(2)を用いて得られたts exp(ti=50ms、T=25℃)は0.31μsである。よって、
は0.71μsになることから、
の長時間領域の条件を満たすことが分かる。
同様にして、図11には、ti=1ms、10ms、50msとT=−10℃(263.15K)、10℃(283.15K)、25℃(298.15K)、60℃(333.15K)の12個の計測条件に対する計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数ts expをプロット301で示した。このようにして、休止期間tiとMgOの温度Tにおける電子放出時定数ts expを求めることができる。
次に、電子放出源の種類jのエネルギー状態密度Dj(E)を解析する方法を述べる。計算から求められるプライミング電子の電子放出時定数ts thは、式(3)と(4)によりエネルギー状態密度Dj(E)と関係付けられる。
ここで、Eはプライミング電子放出源のエネルギー深さ(以下、エネルギーとも称する)、fphは電子放出源のフォノン振動数、kBはボルツマン定数である。また、Wj(E,ti,T)は、休止期間tiとMgOの温度Tの計測条件に対して、
を中心に最大値e-1ti -1とエネルギー幅±数kBTを有するウインドウ関数である。計測条件として、休止期間tiを一定、MgOの温度Tを変化させた計測では、ウインドウ関数は、最大値e-1ti -1を一定としてエネルギーEm(ti,T)が推移する。一方、MgOの温度Tを一定、休止期間tiを変化させた計測では、Em(ti,T)が推移しながら、最大値e-1ti -1も変化する。
図12に、休止期間ti=0.01ms、0.1ms、1ms、10ms、100ms、1000msとMgOの温度T=−10℃(263.15K)、0℃(273.15K)、10℃(283.15K)、25℃(298.15K)、40℃(313.15K)、60℃(333.15K)におけるウインドウ関数が最大となるエネルギー
を示した。ここで、電子放出源のフォノン振動数fphは3.1×1013Hzとした。休止期間ti=0.01msとMgOの温度T=−10℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは443meVである。また、休止期間ti=1000msとMgOの温度T=60℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは892meVを表している。
図13に示すように、電子放出時定数ts thの逆数は、未知なる電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)401と計測条件で決定するウインドウ関数Wj(E,ti,T)402のエネルギーに対する重なり積分を計算し、全電子放出源の種類jについて和を取ることに等しいことが分かる。
本発明の実施の形態のScを含むMgOの電子放出源のエネルギー状態密度解析について以下に記す。
図8に示したステップS102−4において、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)として、式(5)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力する探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
第1種の電子放出源のフォノン振動数fph,1を1.26×1013Hzとして、計測条件ti=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは507meV〜780meVの範囲となる。ウインドウ関数のエネルギー幅の3kBTは約75meVなので、エネルギー領域は430meV〜860meVとなる。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するEm(ti,T)の最小値−3kBTからEm(ti,T)の最大値+3kBTを包含する400meV〜900meVとした。活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、Em(ti,T)のエネルギー間隔の平均値以下の5meVとした。
次に、実効数Nee,1は、計測条件の時間オーダー幅が2桁程度なので、実効数の探索範囲はその時間オーダー幅である2桁として、1×10n個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個とした。以上より、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,1に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,1に対する探索範囲は1×104個/セル〜1×106個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×105個のパラメータ値を入力する。
ステップS102−5では、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1と実効数Nee,1の各パラメータ値を設定した式(5)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)とウインドウ関数W1(E,ti,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt1,s th(ti,T)を求めることができる。
ステップS102−6において、休止期間tiとMgOの温度Tの計測条件の総数N=42に対して、式(6)で表された計測データから求めたts exp(ti,T)と計算から求めたt1,s th(ti,T)の平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を求める。
ΣN=42 {ts exp(ti,T)-t1,s th(ti,T)}2 (6)
このようにして、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を出力装置103から出力・表示する。
このようにして、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を出力装置103から出力・表示する。
次に、新しい電子放出源が存在すると考えられる場合は、図8に示したステップS102−7に従って、ステップS102−4に戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D2(E)として、式(7)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
第2種の電子放出源のフォノン振動数fph,2を1.2×1013Hzとして、計測条件ti=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、第1種の電子放出源に対して述べたと同様に、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,2に対する探索範囲は5meV〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,2に対する探索範囲は1×10n個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×105個のパラメータ値を入力する。
ステップS102−5において、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2と実効数Nee,2の各パラメータ値を設定した式(7)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D2(E)とウインドウ関数W2(E,ti,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt2,s th(ti,T)を求めることができる。
ステップS102−6において、休止期間tiとMgOの温度Tの計測条件の総数N=18個に対して、式(8)で表された計測データから求めたts exp(ti、T)と計算から求めたt1,s th(ti,T)とt2,s th(ti,T)の和に対する平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を求める。
ΣN=18 {ts exp(ti,T)-t1,s th(ti,T)-t2,s th(ti,T)}2 (8)
このようにして、第1種と第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)とD2(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1、並びに、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を出力装置103から出力・表示する。
このようにして、第1種と第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D1(E)とD2(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1、並びに、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を出力装置103から出力・表示する。
MgOの温度TをPDPの温度として、以上の実験方法と解析手法により得られた、本発明によるScを含むMgOからなる保護層のエネルギー状態密度D1(E)501とD2(E)502を図15に示す。図15の破線503内は、PDPに要求される前記の動作保証温度範囲−20〜60℃と休止期間ti=0.5〜50msにおけるウインドウ関数のエネルギー領域430〜860meVである。つまり、このウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度が広く分布していることが望ましい。
本発明の実施の形態のScを含むMgOでは、ウインドウ関数のエネルギー領域に少なくとも2つの電子放出源が存在している。1つはウインドウ関数のエネルギー領域の中心付近である伝導帯底部から660meVの深さを中心に分布しており、エネルギー状態密度が非常に大きい。もう一つはウインドウ関数のエネルギー領域の高エネルギー側の785meVを中心に分布している。
図16は本発明の実施の基本形態のプラズマディスプレイ装置について、前記の動作保証温度範囲−20〜60℃と最大リセット間隔x、即ち休止期間ti=0.5〜50msにおいて、良好なアドレス放電を行うことができるSc濃度範囲をハッチングで表している。このハッチングした部分は、評価及び解析結果に加え、保護層の結晶性等に起因したプライミング電子放出源の生成率によるSc濃度に対する特性の分布も加味している。
Sc濃度範囲は10質量ppm以上740質量ppm以下であり、且つ、下記式(I)を満たすことで良好なアドレス放電を行うことができる。
0.22x+12≦y≦1/(8.0×10−4lnx+1.9×10−3)(I)
但し、式(I)において、yは主成分であるMgOに対して含まれるScの濃度であり単位は質量ppmで示され、最大リセット間隔xの単位はmsであり0.5≦x≦50の範囲の値が適当である。従って、MgOに対するSc濃度を調製し、所定量以上のエネルギー状態密度とすれば、−20〜60℃という広い温度範囲と休止期間ti=50msという3TVフィールド以上黒表示を行ったとしても安定したアドレス放電を行うことができ、高精細で高コントラストなPDPを得ることができる。
但し、式(I)において、yは主成分であるMgOに対して含まれるScの濃度であり単位は質量ppmで示され、最大リセット間隔xの単位はmsであり0.5≦x≦50の範囲の値が適当である。従って、MgOに対するSc濃度を調製し、所定量以上のエネルギー状態密度とすれば、−20〜60℃という広い温度範囲と休止期間ti=50msという3TVフィールド以上黒表示を行ったとしても安定したアドレス放電を行うことができ、高精細で高コントラストなPDPを得ることができる。
以下において、前記実施の基本形態に基づいた、各実施の形態を具体的に説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1におけるPDP及びプラズマディスプレイ装置において、保護層とPDPの駆動方法について説明する。
実施の形態1におけるPDP及びプラズマディスプレイ装置において、保護層とPDPの駆動方法について説明する。
本実施の形態のPDPの駆動方法は図4のADSに対応している。各サブフィールドのリセット期間では全放電セルで必ずリセット放電を行う。また、アドレスパルス幅とスキャンライン数で決定されるアドレス期間は、1ms以内としている。即ち、最後のスキャンラインの休止期間tiは1msであり、本実施の形態での休止期間tiの最大値である。
以上の駆動方法を用いて、休止期間tiの最大値である1msでの−20〜60℃の温度範囲におけるアドレス放電遅れ時間td及び統計遅れ時間tsを評価した。統計遅れ時間tsはアドレス放電遅れ時間tdの複数回計測結果及び式(2)か、図15のエネルギー状態密度D1(E)501とD2(E)502を基にして、休止期間tiと温度Tの計測条件より式(3)から得られる。
図17に、−20〜60℃での統計遅れ時間tsの最大値と保護層のMgOに対するSc濃度の関係を示す。図17での統計遅れ時間tsは、シングルスキャン方式を実現するために必要な休止期間ti=16msでの従来品のMgOの統計遅れ時間tsの1/3で規格化した相対値で表している。
図17から、MgOに対するSc濃度が10質量ppm以上において、統計遅れ時間tsが本実施の形態の駆動方法に対応可能であることがわかる。
一方、高温で動作させたときにおいて、休止期間ti=1msでの壁電荷の減少に伴う電圧変動ΔVAYと保護層のMgOに対するSc濃度の関係を図18に示す。図18では高温で休止期間ti=16msにおいて、黒ノイズが実用上問題のない従来品のMgOの電圧変動ΔVAYで規格化しており、電圧変動ΔVAYが1以下であれば黒ノイズの発生が実用上問題ない。
図18から、MgOに対するSc濃度が525質量ppm以下であれば、本実施の形態の駆動方法では黒ノイズが実用上問題にならないことがわかる。
以上から、本実施の形態の駆動方法において、保護層のMgOに対するSc濃度が10質量ppm以上525質量ppm以下では、広い温度範囲で、高精細なPDPをシングルスキャン方式で駆動することができ、高温で動作させても電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題ない。
(実施の形態2)
実施の形態2では、前記実施の形態1に対して、保護層とPDPの駆動方法が異なるPDP及びプラズマディスプレイ装置について説明する。本実施の形態のPDPの駆動方法も図4のADSに対応しており、アドレスパルス幅とスキャンライン数で決定されるアドレス期間も1ms以内である。
実施の形態2では、前記実施の形態1に対して、保護層とPDPの駆動方法が異なるPDP及びプラズマディスプレイ装置について説明する。本実施の形態のPDPの駆動方法も図4のADSに対応しており、アドレスパルス幅とスキャンライン数で決定されるアドレス期間も1ms以内である。
本実施の形態のPDPでは、コントラスト向上のためにリセット回数を減らしており、黒表示時における放電セルのリセット回数が1TVフィールド(1/60s)に1回である。即ち、本実施の形態では、リセット期間の最大間隔が1/60sであり、休止期間tiは最大でも16ms以内である。
以上の駆動方法を用いて、休止期間tiの最大値である16msでの−20〜60℃の温度範囲におけるアドレス放電遅れ時間td及び統計遅れ時間tsを評価した。統計遅れ時間tsはアドレス放電遅れ時間tdの計測結果と前記実施の形態1と同様に式(2)か、図15のエネルギー状態密度D1(E)501とD2(E)502を基にして、休止期間tiと温度Tの計測条件より式(3)から得られる。
図19に、−20〜60℃での統計遅れ時間tsの最大値と保護層のMgOに対するSc濃度の関係を示す。図19での統計遅れ時間tsは、シングルスキャン方式を実現するために必要な休止期間ti=16msでの従来品のMgOの統計遅れ時間tsの1/3で規格化した相対値で表している。
図19から、MgOに対するSc濃度が15質量ppm以上において、統計遅れ時間tsが本実施の形態の駆動方法に対応可能であることがわかる。
一方、高温で動作させたときにおいて、休止期間ti=16msでの壁電荷の減少に伴う電圧変動ΔVAYと保護層のMgOに対するSc濃度の関係を図20に示す。図20では、黒ノイズが発生しない電圧変動ΔVAYで規格化しており、電圧変動ΔVAYが1以下であれば黒ノイズが発生しない。また、図20では高温で休止期間ti=16msにおいて、黒ノイズが実用上問題のない従来品のMgOの電圧変動ΔVAYで規格化しており、電圧変動ΔVAYが1以下であれば黒ノイズの発生が実用上問題ない。
図20から、MgOに対するSc濃度が240質量ppm以下であれば、本実施の形態の駆動方法では黒ノイズが実用上問題にならないことがわかる。
以上から、本実施の形態の駆動方法では、保護層のMgOに対するSc濃度が15質量ppm以上240質量ppm以下で、広い温度範囲において、高精細なPDPをシングルスキャン方式で駆動することができ、高温で動作させても電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題ない。また、前記実施の形態1よりも単位時間当たりのリセット放電回数が少なくなるため、前記実施の形態1よりも高コントラストなプラズマディスプレイ装置が得られる。
(実施の形態3)
実施の形態3では、前記実施の形態1及び2に対して、保護層とPDPの駆動方法が異なるPDP及びプラズマディスプレイ装置について説明する。本実施の形態のPDPの駆動方法も図4のADSに対応しており、アドレスパルス幅とスキャンライン数で決定されるアドレス期間も1ms以内である。
実施の形態3では、前記実施の形態1及び2に対して、保護層とPDPの駆動方法が異なるPDP及びプラズマディスプレイ装置について説明する。本実施の形態のPDPの駆動方法も図4のADSに対応しており、アドレスパルス幅とスキャンライン数で決定されるアドレス期間も1ms以内である。
本実施の形態のPDPでは、前記実施の形態2と同様にコントラスト向上のためにリセット回数を減らしており、黒表示時における放電セルのリセット回数が3TVフィールド(1/20s)に最少で1回となる。即ち、本実施の形態では、リセット期間の最大間隔が1/20sであり、休止期間tiは最大でも50ms以内である。
以上の駆動方法を用いて、休止期間tiの最大値である50msでの−20〜60℃の温度範囲におけるアドレス放電遅れ時間td及び統計遅れ時間tsを評価した。統計遅れ時間tsはアドレス放電遅れ時間tdの計測結果と前記実施の形態1、2と同様に式(2)か、図15のエネルギー状態密度D1(E)501とD2(E)502を基にして、休止期間tiと温度Tの計測条件より式(3)から得られる。
図21に、−20〜60℃での統計遅れ時間tsの最大値と保護層のMgOに対するSc濃度の関係を示す。図21での統計遅れ時間tsは、シングルスキャン方式を実現するために必要な休止期間ti=16msでの従来品のMgOの統計遅れ時間tsの1/3で規格化した相対値で表している。
図21から、MgOに対するSc濃度が25質量ppm以上において、統計遅れ時間tsが本実施の形態の駆動方法に対応可能であることがわかる。
一方、高温で動作させたときにおいて、休止期間ti=50msでの壁電荷の減少に伴う電圧変動ΔVAYと保護層のMgOに対するSc濃度の関係を図22に示す。図22では、高温で休止期間ti=16msにおいて、黒ノイズが実用上問題のない従来品のMgOの電圧変動ΔVAYで規格化しており、電圧変動ΔVAYが1以下であれば実用可能である。
図22から、MgOに対するSc濃度が200質量ppm以下であれば、本実施の形態の駆動方法では黒ノイズが実用上問題にならないことがわかる。
以上から、本実施の形態の駆動方法では、保護層のMgOに対するSc濃度が25質量ppm以上200質量ppm以下では、広い温度範囲で、高精細なPDPをシングルスキャン方式で駆動することができ、高温で動作させても電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題ない。また、前記実施の形態1、2よりも単位時間当たりのリセット放電回数が少なくなるため、前記実施の形態1、2よりも更に高コントラストなプラズマディスプレイ装置が得られる。
以上、本発明者によってなされた発明を、実施の基本形態、実施の形態1〜3に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の基本形態および実施の形態1〜3に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
本発明は、プラズマディスプレイ装置、特に、高精細なAC面放電型PDPに有効で、映像機器産業、宣伝機器産業、医療機器産業、プラズマディスプレイ装置の製造業といった産業に幅広く利用されるものである。
1 前面基板
2 誘電体層
3 保護層
4 サステイン電極(X)
4a 透明電極
4b バス電極
5 スキャン電極(Y)
5a 透明電極
5b バス電極
6 表示電極
7 隔壁
8 蛍光体層
9 誘電体層
10 アドレス電極(A)
11 背面基板
12 前面板
13 背面板
14 放電空間
15 PDP
20 プラズマディスプレイ装置
21 アドレス駆動回路
22 スキャンパルス出力回路
23 サステインパルス出力回路
24 駆動制御回路
25 信号処理回路
26 駆動電源
27 映像源
101 入力装置
102 計算装置
103 出力装置
2200 パーソナルコンピュータ
2201 CPU装置
2202 記憶装置
2204 データ転送用結合バス
2205 データ転送用結合バス
CL 放電セル
2 誘電体層
3 保護層
4 サステイン電極(X)
4a 透明電極
4b バス電極
5 スキャン電極(Y)
5a 透明電極
5b バス電極
6 表示電極
7 隔壁
8 蛍光体層
9 誘電体層
10 アドレス電極(A)
11 背面基板
12 前面板
13 背面板
14 放電空間
15 PDP
20 プラズマディスプレイ装置
21 アドレス駆動回路
22 スキャンパルス出力回路
23 サステインパルス出力回路
24 駆動制御回路
25 信号処理回路
26 駆動電源
27 映像源
101 入力装置
102 計算装置
103 出力装置
2200 パーソナルコンピュータ
2201 CPU装置
2202 記憶装置
2204 データ転送用結合バス
2205 データ転送用結合バス
CL 放電セル
Claims (5)
- 一対の基板が対向に配置されて放電空間を形成し、一方の基板上に複数の電極と前記電極上に誘電体層と前記誘電体層を覆う保護層が形成され、前記放電空間には放電ガスが充填されたプラズマディスプレイパネルと、
前記プラズマディスプレイパネルの表示面全体の帯電状態を揃えるリセット期間、表示放電を行う放電セルを選択するアドレス期間、表示放電を行うサステイン期間からなる駆動方法を実現する駆動装置とを有し、
前記保護層は、MgOを主成分とし、不純物元素としてScを含み、前記MgOに対する前記Scの濃度が10質量ppm以上740質量ppm以下であり、且つ、0.22x+12≦y≦1/(8.0×10−4lnx+1.9×10−3)…(I)、(但し、式(I)において、yは前記MgOに対して含まれる前記Scの濃度であり、単位は質量ppmで示され、xは前記駆動方法においての最大リセット間隔で、単位はmsであり、0.5≦x≦50の範囲の値である)、を満たすことを特徴とするプラズマディスプレイ装置。 - 一対の基板が対向に配置されて放電空間を形成し、一方の基板上に複数の電極と前記電極上に誘電体層と前記誘電体層を覆う保護層が形成され、前記放電空間には放電ガスが充填されたプラズマディスプレイパネルであって、
前記保護層は、MgOを主成分とし、不純物元素としてScを含み、前記MgOに対する前記Scの濃度は、10質量ppm以上525質量ppm以下であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。 - 請求項2記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、MgOを主成分とし、不純物元素としてScを含み、前記MgOに対する前記Scの濃度は、15質量ppm以上240質量ppm以下であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。 - 請求項2記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、MgOを主成分とし、不純物元素としてScを含み、前記MgOに対する前記Scの濃度は、25質量ppm以上200質量ppm以下であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。 - 請求項2から4のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイパネルと、前記プラズマディスプレイパネルを駆動する駆動装置とからなることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
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