JP2010170941A - プラズマディスプレイ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】PDP装置の消費電力を低減する。
【解決手段】対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有するPDP装置であって、前面板の内面側には、複数の表示電極対、複数の表示電極対を覆う誘電体層、および誘電体層を覆う保護膜3が順次積層される。保護膜3は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および母材に添加される添加元素を有している。添加元素は、1価のイオン価数を有する1価イオン(第1添加元素イオン)32、および3価のイオン価数を有する3価イオン(第2添加元素イオン)33からなり、第1および第2添加元素の6配位イオン半径は、それぞれ、母材を構成するMgイオン(アルカリ土類金属イオン)31のイオン半径±0.1Å以内である。
【選択図】図18

Description

本発明は、プラズマディスプレイパネルなどのプラズマディスプレイ装置の技術に関し、特に、高精細なプラズマディスプレイパネルに適用して有効な技術に関する。
プラズマディスプレイパネル(PDP;Plasma Display Panel)は、例えばHe−Xe、Ne−Xe、He−Ne−Xe等の混合ガスで構成される放電ガスを封入したセルと呼ばれる放電空間内で、気体放電を発生させ、この際に発生する紫外線で蛍光体を励起して、画像を表示する表示パネルである。
PDPには、その構造と駆動方法の違いからDC(直流)型とAC(交流)型に分類される。特に、AC面放電型PDPは、構造の単純さと高信頼性のため、もっとも実用化の進んでいる方式である。
現在、AC面放電型PDPでは、カラー表示のための蛍光体を表示電極対からパネルの厚さ方向に遠ざけて配置することができ、それによって放電時のイオン衝撃(スパッタ)による蛍光体の特性劣化を低減することができる。したがって、面放電型PDPは、対を成す表示電極(X電極およびY電極と呼ばれる)を前面基板と背面基板とに振り分けて配置する対向放電型に比べて、長寿命化に適している。
上記AC面放電型PDPの前面板では、内面側に配置された表示電極対を覆う誘電体層が放電時のイオンの衝撃により劣化することを防ぐため保護膜を設ける。この保護膜は、誘電体層が放電時のイオンの衝撃により劣化する耐スパッタ性(耐イオン衝撃性)が要求される。また、該保護膜にイオンが衝突することにより、2次電子を放出し、放電を成長させる機能も要求される。上記保護膜として、耐スパッタ性や2次電子の放出のしやすさから、酸化マグネシウム(MgO)の薄膜が一般に用いられる。
特に最近は、アドレス放電の高速化のため、放電のトリガとなる種電子を供給するプライミング電子放出性能を向上させるためMgOへの不純物元素添加やMgOの結晶粒散布が行われつつある。例えば、特開平10−334809号公報(特許文献1)では、不純物元素としてSiを用いる構成が記載されている。また、例えば、特開2007-280730号公報(特許文献2)では、保護膜の表面にMgOの結晶粒子を散布して付着させる構成が記載されている。
特開平10−334809号公報 特開2007-280730号公報
地球温暖化防止や資源枯渇など、環境への配慮などから、PDPの消費電力の低減や材料の使用量削減を一層進める必要がある。本発明者らは、PDPの消費電力や材料の使用量低減について検討し、以下の課題を見出した。
消費電力を低減する手段として、PDPの発光効率を向上させる方法がある。例えば、放電ガスに含まれるXeの分圧を高くすると、蛍光体の励起源である紫外線(真空紫外線)の発生効率が向上するので、PDPの発光効率を向上させることができる。
しかしながら、駆動電圧の上昇などの副作用により放電ガスのイオン衝撃による保護膜のスパッタが大きくなるため、保護膜の耐スパッタ性の向上が必要となってくる。またXe分圧上昇に伴う高電圧化を抑制するため、保護膜の2次電子放出係数を高めることにより放電電圧を下げることも必要となる。
また、消費電力を低減する別の手段として、PDPを駆動するドライバICの使用量を低減する方法がある。ドライバICの使用量を低減すれば、ドライバICの消費電力を低減でき、またドライバIC自体やPDPに実装するための材料の使用量も低減することができる。例えば、保護膜のプライミング電子放出性能向上により、アドレス放電時間を短縮すると、PDPの画面の上下に配置したアドレスドライバICを用いて上下2方向から表示画面全体を走査する上下2分割駆動(デュアルスキャン)から、PDPの画面の片側のみに配置したアドレスドライバICを用いて、1方向から表示画面全体を走査するシングルスキャンが可能となる。この結果、PDPに取り付けるアドレスドライバICの数や実装材料を、例えば半減することができる。
しかしながら、特にアドレス放電時間の短縮のため、例えば前記特許文献1あるいは前記特許文献2に記載される構成では、従来のMgO膜に比べ、MgOからなる保護膜の耐スパッタ性が低下するという課題が生じる。
また、放電電圧を下げて低消費電力化するために、MgOよりも高い2次電子放出係数を有するCaOやSrO、BaO、SrxCayOなどを保護膜として用いる構成も考えられる。しかしこれらの材料を用いた場合、放電電圧を下げることはできるが、MgOより耐スパッタ性が劣る、あるいは、プライミング電子放出が不十分でアドレス放電時間が長くなるという課題がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、PDP装置の消費電力を低減することができる技術を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
すなわち、本発明の一つの実施の形態におけるプラズマディスプレイパネルは、対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有している。また、前記前面板の内面側には、複数の表示電極対、前記複数の表示電極対を覆う誘電体層、および前記誘電体層を覆う保護膜が順次積層され、前記保護膜は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および前記母材に添加される添加元素を有している。また、前記添加元素は、1価のイオン価数を有する第1添加元素、および3価乃至5価のイオン価数を有する第2添加元素からなり、前記第1および第2添加元素の6配位イオン半径は、それぞれ、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン半径±0.1Å以内とするものである。
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
すなわち、PDPの消費電力を低減することができる。
本発明の一実施の形態であるPDPの要部を拡大して示す要部拡大組み立て斜視図である。 図1に示すPDPを組み立てた後の放電セルのx−z平面の断面図である。 図1に示すPDPを組み立てた後の放電セルのy−z平面の断面図である。 添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜のバンド構造を示す模式図である。 図4に示す保護膜に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のバンド構造を示す模式図である。 図4に示す保護膜に3価乃至5価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のバンド構造を示す模式図である。 PDPの放電電圧を定量比較するための定義を説明する説明図である。 添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜の放電電圧の比較結果を示す説明図である。 添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のアドレス放電遅れの比較結果を示す説明図である。 添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に3価あるいは4価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜の放電電圧の比較結果を示す説明図である。 添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に3価あるいは4価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のアドレス放電遅れの比較結果を示す説明図である。 母材に添加する添加元素のイオン半径と、添加元素により形成されるトラップ準位の熱発光スペクトルのピーク強度の関係を示す説明図である。 図12に示す熱発光スペクトルの発生機構についてバンド構造を用いて模式的に示す説明図である。 添加元素の添加量(at%)をパラメータとし、保護膜の耐スパッタ性を評価した説明図である。 添加元素の添加量を変化させた場合の放電電圧の変化を示す説明図である。 添加元素の添加量を変化させた場合のアドレス放電遅れの変化を示す説明図である。 保護膜を構成する母材中に、1価あるいは3価の添加元素を添加した場合の結晶中の欠損の状態を模式的に示す説明図である。 保護膜を構成する母材中に、1価および3価の添加元素をそれぞれ等量ずつ添加した場合の結晶中の状態を模式的に示す説明図である。 第1添加元素と第2添加元素を共に添加した場合の放電電圧についての評価結果を示す説明図である。 第1添加元素と第2添加元素を共に添加した場合のアドレス放電遅れの評価結果を示す説明図である。
本願発明を詳細に説明する前に、本願における用語の意味を説明すると次の通りである。
PDPとは、対向配置される一対の基板の間に形成された放電セル内で気体放電を発生させ、この際に発生する励起光で蛍光体を励起させて、所望の画像を形成する略平面板状の表示パネルである。PDPの内部構造や構成材料は、要求性能あるいは駆動方式に応じて種々の構成例があるが、原理的に明らかに適用できない構成を除き、これら全ての構成例を含む。
プラズマディスプレイモジュール(PDPモジュール)は、PDPと、PDPの表示面の反対側に配置されてPDPを支持するシャーシと、シャーシの背面(PDPとの対向面の反対側に位置する面)側に配置され、PDPを駆動、制御する、あるいはPDPに電源を供給するための各種電気回路が形成された回路基板とを備えたモジュールであって、各種電気回路とPDPとが電気的に接続されたものである。なお、PDPモジュールの実施態様としては、上記した各種電気回路が形成された回路基板の一部または全部が取り付けられず、該回路基板の取り付け予定位置に取り付け用治具が形成された構造もある。本願では、このような実施態様もPDPモジュールに含まれる。
プラズマディスプレイセット(PDPセット)は、PDPモジュールを外部筐体でカバーした表示装置である。また、PDPモジュールを例えばスタンドなどの支持構造物に固定した表示装置もこれに含まれる。また、PDPセットをテレビ受像機として用いる場合には、PDPモジュールとチューナとが電気的に接続されるが、このチューナを含むものもPDPセットに含まれる。
プラズマディスプレイ装置(PDP装置)には、上記したPDP、PDPモジュールおよびPDPセットが含まれる。
以下の実施の形態では、本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。また、本実施の形態を説明するための全図においては、各部材の構成をわかりやすくするために、平面図あるいは斜視図であってもハッチングや模様を付す場合がある。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
<PDPの基本構造および製造方法>
まず、本発明者らが検討したPDPの一例としてAC面放電型PDPの基本構造などについて説明する。なお、本実施の形態においてPDPを構成する一対の基板である「前面板」および「背面板」は、両者を組み立ててパネル化した際に、蛍光体による発光が通過して表示面となる側を前面板、表示面の反対側に位置する側を背面板として説明する。また、「前面板」および「背面板」は、それぞれガラス基板からなる前面基板および背面基板を基材とし、基材に後述する各部材を形成した基板構造体として説明する。
図1は本発明者らが検討したいわゆるボックス型のAC面放電型のPDPの要部を模式的に示す分解斜視図である。図2は図1に示すPDPを組み立てた後の放電セルのx−z平面の断面図である。図3は図1に示すPDPを組み立てた後の放電セルのy−z平面の断面図である。
まず、前面板12およびその形成方法について説明する。前面板12の基材となる前面基板1の内面側には、ストライプ状に延在する透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に接合されるバス電極4b、5bとで構成される複数の表示電極対6が配設される。表示電極対6はサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなり、サステイン電極4−スキャン電極5間で、維持放電(表示放電)を行う。つまり、表示電極対6はPDP15における行方向(図1に示すy方向)の表示ラインを構成する。したがって、図1では、2対の表示電極対6を示しているが、表示ライン数に応じた本数の表示電極対6が形成されている。
透明電極4a、5aは透明導電体である酸化インジウムスズ(ITO)からなる膜で形成され、その上に銀の単層膜からなるバス電極4b、5bが付設されている。このバス電極4b、5bは、PDP15を駆動する際の電気抵抗を低減する観点から、銀など、透明電極4a、5aよりも電気伝導率の高い金属材料で構成される。
一方、透明電極4a、5aは、表示電極対6の電極間距離を近づけて維持放電を形成し易くする観点から、バス電極4b、5bよりも広い幅で形成されている。このため、透明電極4a、5aを可視光に対して透明な材料で構成することにより、放電セルCL内で発生した光を効率的に前面基板1側に取り出す構造となっている。なお、表示電極対6の形状や材質には種々の変形例を適用することができる。例えば、透明電極4a、5aとして酸化スズや酸化亜鉛等、バス電極4b、5bとして黒色銀と銀の積層膜、アルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成することができる。
前面基板1上に表示電極対6を形成する工程は例えば以下のように行う。すなわち、スクリーン印刷のような厚膜形成技術、あるいは、蒸着法やスパッタ法などの薄膜形成技術とエッチング技術とを用いることにより、所定の本数、厚さ、幅および間隔で形成することができる。
また、複数の表示電極対6(サステイン電極4、スキャン電極5)は、主にSiOなどの誘電体ガラス材料で構成される誘電体層2で被覆されている。表示電極対6を被覆するように誘電体層2を形成する工程は例えば以下のように行う。すなわち、誘電体層2は、例えば低融点ガラス粉末を主成分とするフリットペーストを、前面基板1上にスクリーン印刷法で塗布し、焼成することにより形成している。他に、いわゆるグリーンシートと呼ばれるシート状の誘電体シートを貼り付けて焼成する方法で形成することもできる。あるいは、プラズマCVD法でSiO膜を成膜することにより形成してもよい。
誘電体層2の内面側には、表示の際の放電(主に維持放電)により生じるイオンの衝突による衝撃から誘電体層2を保護する、保護膜3が形成されている。このため保護膜3は誘電体層2の表面を被覆するように形成されている。この保護膜3の詳細な構造、機能、および誘電体層2の表面に保護膜3を形成する工程の詳細については後述する。
次に、背面板13およびその形成方法について説明する。背面板13は、例えばガラス基板である背面基板11を有している。背面基板11の内面(前面板12と対向する面)側には、表示電極対6と交差(直交)する方向に延在する複数のアドレス電極(A電極)10が配設される。このアドレス電極10と、前面板12に形成されたスキャン電極5は、放電セルCLの点灯/非点灯を選択するための放電であるアドレス放電を行うための電極対を構成する。つまり、スキャン電極5は維持放電用の電極としての機能とアドレス放電用の電極(走査電極)としての機能とを併せ持っている。このようにアドレス電極10と、表示電極対6を交差させることにより、放電セルCL毎に点灯/非点灯を選択することができる。つまり、PDP15は、表示電極対6とアドレス電極10の交差毎に放電セルCLを有している。
アドレス電極10は銀、アルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成される。背面基板11上にアドレス電極10を形成する工程は、前記したバス電極4b、5bを形成する方法と同様であるため、説明は省略する。
アドレス電極10は、誘電体層9で被覆されている。誘電体層9は前面基板1上の誘電体層2と同じ材料、同じ方法を用いて形成することができる。誘電体層9上には背面板13の内面側を複数の放電セルCLに区画する複数の隔壁7が形成されている。この複数の隔壁7は、前面基板1と背面基板11の間に配置され、各放電セルCLにおける放電距離を維持する機能を有している。また、隣り合って配置される放電セルCL間におけるクロストークを防止ないしは抑制する機能を有している。本実施の形態では、隔壁7は、図1に示すX方向(アドレス電極10の延在方向)に沿って延在する隔壁7aと、Y方向(表示電極対6の延在方向)に沿って延在する隔壁7bとを有している。複数の隔壁7a、7bはそれぞれ交差し、背面板13の内面側に形成される放電空間14をマトリクス状(格子状)に区画している。このように各放電セルCLをマトリクス状に区画するように複数の隔壁7を形成した構造は、ボックスリブ構造と呼ばれ、X方向に沿って隣り合う放電セルCLの間に隔壁7bを形成することにより、当該放電セルCL間でのクロストークを効果的に防止ないしは抑制することができるので、PDPの高精細化に好適な構造である。
なお、隔壁7の形成方法は、図1に示す構造に限定されず、例えば、図1に示すX方向(アドレス電極10の延在方向)に沿って延在する複数の隔壁7aをストライプ状に形成し、隔壁7bは形成しない構造(ストライプリブ構造と呼ばれる)とすることもできる。このストライプリブ構造の場合、背面板13に形成される隔壁7の数が少ないので、放電空間14内のガスを給排気する際の排気抵抗を低減することができる。
隔壁7を形成する工程は、サンドブラスト法、フォトエッチング法などにより形成することができる。例えば、サンドブラスト法では、低融点ガラスフリット、バインダー樹脂、溶媒などからなるフリットペーストを誘電体層9上に塗布して乾燥させた後、そのフリットペースト層上に隔壁パターンの開口を有する切削マスクを設けた状態で切削粒子を吹き付けて、マスクの開口部に露出したフリットペースト層を切削し、さらに焼成することにより形成する。また、フォトエッチング法では、切削粒子で切削することに代えて、バインダー樹脂に感光性の樹脂を使用し、マスクを用いた露光および現像の後、焼成することにより形成する。
アドレス電極10上の誘電体層9の上面、および隔壁7の側面には、真空紫外線により励起されて可視光を発光する蛍光体8が形成されている。本実施の形態のPDP15は、カラー表示を行うPDPなので、蛍光体8は、真空紫外線により励起されて赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の可視光を発生する蛍光体8r、8g、8bがそれぞれ所定の放電セルCLに形成されている。R、G、Bの各色を発光する蛍光体の構成材料としては、例えば、蛍光体8rとして(Y,Gd)BO:Eu2+、蛍光体8gとしてZnSiO:Mn2+、蛍光体8bとしてBaMgAl1017:Eu2+を例示することができる。カラー表示PDPにおいては、蛍光体8r、8g、8bが形成された放電セルCLのセットにより画素(ピクセル)が構成される。
隔壁7で区画された領域に蛍光体8r、8g、8bを形成する工程は例えば以下のように行う。まず、各色の発光特性を有する蛍光体粉末とバインダー樹脂と溶媒とを含む蛍光体ペーストをそれぞれ準備する。この蛍光体ペーストを隔壁で区切られた放電空間内にスクリーン印刷またはディスペンサを用いた方法などで塗布し、これを発光色毎に繰り返した後、焼成することにより形成している。
PDP15は、上記した前面板12の表示電極対6を形成した面と、背面板13を、放電空間14を介して対向配置して組み立てることにより得られる。つまり、PDP15は、放電ガスを封入して形成された放電空間14を介して対向する一対の基板構造体である前面板12と背面板13とを有している。この組み立て工程には、前面板12と背面板13の位置合わせ工程、各板(前面板12および背面板13)の外周に配置される非表示領域を例えばシールフリットと呼ばれる低融点ガラス材料からなる封着剤を用いて封着する封着工程、PDP15の内部空間(放電空間14など)に残るガスを排気して、放電ガスを導入する工程が含まれる。
放電空間14に導入する放電ガスとしては、希ガスを含む混合ガス、例えばHe−Xe、Ne−Xe、He−Ne−Xe等の混合ガスで構成することができる。本実施の形態では、放電ガスとしてネオン(Ne)−キセノン(Xe)をガス基体とした混合ガスを例えばXeの分圧比が数%〜数十%に調整して封入している。
PDP15では、蛍光体8を発光させるための励起源として、主に147nmと172nmの波長を有する真空紫外線を用いている。147nmの真空紫外線は、放電によりイオン化されたXeイオンが基底状態に遷移する際に発生する。172nmの紫外線は主にXe2エキシマから発生し、放電ガス中のXeの分圧を高くすることにより紫外線発生効率が高くなり、蛍光体8を励起する紫外線を多く発生させることができるので、PDP15の発光効率を向上させることができる。
なお、図1ではアドレス電極10を背面板13に形成する例について示したが、アドレス電極10を前面板12に形成することもできる。この場合、図1に示す誘電体層2を複数層構造として、第1層目の誘電体層で表示電極対6を被覆し、この第1層目と第2層目の誘電体層の間にアドレス電極10を形成することができる。
<保護膜の詳細構造、機能および形成方法>
次に、図1〜図3に示す保護膜3の詳細構造、機能および形成方法について説明する。図1〜図3において、放電時に電離したイオンが、直接、誘電体層2に衝突すると、誘電体層2が劣化してPDP15は所定の特性が得られなくなる。保護膜3は、誘電体層2の劣化を防止するため、放電時のイオンの衝撃から誘電体層2を保護する機能を有している。したがって、保護膜3自体がイオンの衝撃により削られてしまうと、誘電体層2が露出してしまうこととなるので、保護膜3には、放電時のイオンの衝撃に対する耐スパッタ性が要求される。
また、保護膜3は、放電空間14に露出して形成されるため、保護膜3を放電空間14に電子を放出しやすい材料で構成すると、放電電圧の低減、あるいはアドレス放電の高速化の観点から好ましい。
例えば、放電時に、電離したイオンが保護膜3に衝突することにより、放電空間14に2次電子を放出すると、該2次電子が放電空間14内の放電ガスに衝突してイオン化させ易くなる。つまり、2次電子放出係数が高い程、放電させるために必要な電圧(放電電圧)を低減することができる。
また、例えば、PDP15の周囲温度や駆動時の熱により保護膜3で励起された電子が放電空間14に放出される場合、この放出された電子は放電(アドレス放電)のトリガとなる種電子(プライミング電子)となる。アドレス放電を行う際に、放電空間14内に存在するプライミング電子の量が増加すると、各放電セルCLにおいて、電圧を印加してからアドレス放電が形成されるまでの時間(形成遅れと呼ばれる)を短くすることができる。また、複数の放電セルCLについて、順次スキャンしながらアドレス放電を発生させる場合に、放電セルCL毎のアドレス放電が形成されるまでの時間のばらつき(統計遅れと呼ばれる)を小さくすることができる。つまり、保護膜3のプライミング電子の放出性能を向上させることにより、形成遅れと統計遅れの和として表わされるアドレス放電遅れを低減し、アドレス放電を高速化することができる。
前記した通り、放電電圧の低減、あるいは、アドレス放電の高速化は、PDP15の消費電力や材料の使用量を低減する観点から特に有効な手段である。
本実施の形態では、保護膜3は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および母材に添加される添加元素を有している。また、添加元素は、母材を構成するアルカリ土類金属酸化物と異なるイオン価数を有している。また、添加元素の6配位イオン半径は、それぞれ、母材を構成する金属のイオン半径±0.1Å以内としている。
このように、アルカリ土類金属酸化物からなる母材に母材と異なるイオン価数を有する添加元素を添加することにより、母材の結晶中に不純物準位が形成されるので、添加元素を添加しない場合と比較して保護膜3の2次電子放出係数を向上させることができる。あるいは、放電のトリガとなるプライミング電子の放出性能を向上させることができる。以下、そのメカニズムを説明するが、まず、母材中に、母材を構成するアルカリ土類金属と異なるイオン価数を有する1種類の添加元素を添加した場合について、図4〜図6を用いて説明する。なお、以下の説明において、母材を構成するアルカリ土類金属酸化物の例としてMgOを取り上げて説明する。
図4〜図6は、保護膜のバンド構造を示す模式図であって、図4は、添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜のバンド構造、図5は、図4に示す保護膜に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のバンド構造、図6は図4に示す保護膜に3価乃至5価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のバンド構造を示している。
まず、図4に示すように、母材に添加元素を添加しない場合には、保護膜(母材)のフェルミ準位24の位置はバンドギャップ20の略中央となる。
ここで、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも低いイオン価数、すなわち、1価のイオン価数を有する添加元素を添加した場合、MgOの金属イオンであるMgを添加元素に置換し、かつ、酸素欠損形成による電荷補償がされないと電子が1個不足する。したがって、図5に示すように、2価酸化物であるMgOのバルクのバンドギャップ20中において、価電子帯21側にアクセプタ準位25を形成しやすい。アクセプタ準位25が形成されると、フェルミ準位24がアクセプタ準位25まで低下する。このため、バンドギャップ20の略中央に存在した(図4参照)表面準位26から、アクセプタ準位25に向かって電子が移動するので、母材の表面は正に帯電する。それにより伝導帯22のバンドも湾曲するため、それに引きずられて真空準位28が低下する。この結果、真空準位28とバルク中の伝導帯22底の間の障壁高さ、すなわち、電子親和力29が実質的に図4に示す場合と比較して低下した状態となる(例えば、電子親和力29が負となる場合もある)。この場合に、例えば、放電により発生した紫外線23などの励起源が照射されると、伝導帯22に励起された電子が真空中に放出されやすくなる。つまり、図2および図3に示す保護膜3から放電空間14中に電子が放出されやすくなる。
また、1価の添加元素のうち、特に、アルカリ金属イオンを添加する場合には、表面で電子を放出しやすいアルカリ金属イオンからMgO表面への電子が移動することにより真空側が正でMgO側が負の電気二重層が形成されるので、前記効果に加えて、さらに表面の電子親和力(仕事関数)の低減する効果が得られる。このため、さらに電子放出が容易となる。
そのため、イオン中和やイオン脱励起による2次電子放出を容易にするので、2次電子放出係数が向上し、放電電圧(放電を発生、あるいは維持するために必要な電圧)を低減することができる。また、放電空間中に電子を放出しやすくすることにより、アドレス放電の種電子となる、プライミング電子が増加することとなるので、アドレス放電の高速化(放電遅れの低減)が可能となる。
一方、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも高いイオン価数、すなわち、3価乃至5価のイオン価数を有する添加元素を添加した場合、MgOの金属イオンであるMgを置換し、かつ金属欠損形成による電荷補償がされないと電子が1個以上余る。このため図6に示すように、2価酸化物であるMgOのバンドギャップ中の伝導帯22側にドナー準位27を形成しやすい。このドナー準位27は、それ自身が電子放出源となる。また、放電により発生した紫外線23などの励起源が照射された場合に、価電子帯21から伝導帯22に励起された電子のトラップ源ともなる。
このうちドナー準位(トラップ準位)の伝導帯22底からの深さが1eV以下の浅いドナー準位27aの場合は、熱励起により徐々に電子を放出するため、良好なプライミング電子源となり、アドレス放電の高速化が可能となる。また深さが1eV以上の深いドナー準位27bの場合には、価電子帯よりも高いエネルギー準位からのイオン中和やイオン脱励起が起こるため良好な2次電子放出源となり、放電電圧を低減させることができる。一般に、1種の添加元素を添加した場合であっても複数のトラップ準位深さを形成することができるので、アドレス放電の高速化と放電電圧の低減を両立することができる。
次に図7〜図11を用いて、母材に一種類の添加元素を添加した場合における放電電圧の低減効果、およびアドレス放電の高速化(アドレス放電遅れの短縮化)効果について本発明者が実験的に確認した結果について説明する。図7は、PDPの放電電圧を定量比較するための定義を説明する説明図、図8は、添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜の放電電圧の比較結果を示す説明図、図9は、添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に1価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のアドレス放電遅れの比較結果を示す説明図である。また、図10は、添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に3価あるいは4価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜の放電電圧の比較結果を示す説明図、図11は、添加元素を有しない母材のみで構成される保護膜と、母材に3価あるいは4価のイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜のアドレス放電遅れの比較結果を示す説明図である。
なお、図8〜図11において、母材としては、MgOを用いている。また、図8および図9では、添加物として、LiOを0.01原子量%(以下at%と記す)ドープしたもの、図9および図10では、添加物として、Sc、Ga、In、SnOを0.01at%添加した4種の実験区について示している。保護膜の形成方法としては、電子ビーム蒸着法を用い、ターゲット材(蒸着源)として、粉末状のMgOと添加元素の化合物を混合した後、ペレット状に成形したものを用いた。また、PDPに電圧を印加した際には、電流電圧特性が、図7に示すようなヒステリシス曲線を描くので、図8および図10では、ヒステリシスのマージンセンタVs_cで評価した。また、図9および図11においては、放電後の休止時間を1msとし、休止時間後のアドレス放電遅れ(アドレス放電電圧印加後に放電が発生するまでの時間)を母材のみで構成されるPDP(図9および図11ではpureとして示す)における値で規格化した比で示している。
図8および図10に示す結果より、母材であるMgOに母材と異なるイオン価数を有する添加元素を0.01at%添加した保護膜を形成することにより、放電電圧は7V〜10V程度低減できることが判った。また、図9および図11に示す結果より、母材であるMgOに母材と異なるイオン価数を有する添加元素を0.01at%添加した保護膜を形成することにより、母材のみで保護膜を形成した場合と比較してアドレス放電遅れを1/3〜1/100とすることができる。このように、母材であるMgOに母材と異なるイオン価数を有する添加元素を添加した保護膜を形成することは、放電電圧低減、アドレス放電遅れの低減に有効であることが判った。
しかし、本発明者がさらに検討した結果、添加元素の選択、あるいは、添加量によっては、十分に、放電電圧低減、あるいはアドレス放電遅れの低減の効果が得られない場合があることが判明した。
例えば、母材を構成するアルカリ土類金属であるMgと比較して添加元素のイオン半径が小さすぎる場合、MgO格子間に添加元素が挿入され、得られる保護膜の結晶構造が歪んでしまう原因となる。一方、母材を構成するアルカリ土類金属であるMgと比較して添加元素のイオン半径が大きすぎる場合、母材の結晶に取り込まれず、結晶粒界に析出してしまい、やはり得られる保護膜の結晶構造が乱され、耐スパッタ性の低下を招く。また、このような格子間元素や析出元素は失活してしまうため、MgOのバンドギャップ内に2次電子放出源やプライミング電子放出源となるような有効な不純物準位を形成し難い。
また、添加量については、添加量を過剰に多くすると十分な効果が得られず、逆に性能が低下する場合もある。また、不純物の添加量が増加すると、保護膜の結晶構造が乱され、耐スパッタ性の低下を招く場合もある。
したがって、放電電圧低減、アドレス放電遅れの低減などの効果が十分に得られ、かつ、耐スパッタ性の低下を抑制するためには、母材の結晶をできるだけ歪ませず、有効な不純物準位を形成する観点から、Mgイオンのサイトを置換できる元素の選定が重要である。そこで、本発明者は、この点を鑑み、まず、Mgイオンを効率よく置換できる添加元素イオンの条件を検討した。図12は母材に添加する添加元素のイオン半径と、添加元素により形成されるトラップ準位の熱発光スペクトルのピーク強度の関係を示す説明図、図13は図12に示す熱発光スペクトルの発生機構についてバンド構造を用いて模式的に示す説明図である。
図12では、母材としてMgOを用い、これに様々な元素を一定原子量添加した際のトラップ準位の熱発光スペクトルの強度を純粋なMgOの発光強度を1として縦軸に、添加元素の6配位イオン半径とMgイオン半径の差を横軸にプロットしている。イオン半径は配位数により異なるが、母材のアルカリ土類金属酸化物は岩塩型の結晶構造をしているので、6配位のイオン半径差を横軸にとった。また、熱発光スペクトルは図13に示すように、母材のバンドギャップ中のトラップ準位30から熱励起された電子が緩和する際の発光TLを観察するもので、その強度はトラップ準位密度や発光中心密度等に関係し、母材のバンドギャップ中の不純物準位がどの程度効率よく形成されているかを表す。
図12から分かるように、添加元素の6配位イオン半径を母材であるMgOのMgイオン半径(0.72Å)±0.1Å以内とすると、母材のみで構成される保護膜の10倍以上の高いスペクトル強度が得られることから、効率よく不純物準位を形成していることが分かる。特にSc、Ga、In、Sn、は高いスペクトル強度が得られ、特に好ましい。
このように、添加元素の6配位イオン半径を、母材を構成するアルカリ土類金属の6配位イオン半径と近づけることで、添加元素を効率よく、かつ、母材の結晶構造に発生する歪みを抑制して導入することが可能である。しかし、母材に1種類の添加元素を添加する場合には、添加量が多くなると、スパッタ耐性が低下する。また、放電電圧が上昇する、あるいは、アドレス放電時間が増大し、性能が低下する。以下、図14〜図16を用いて、母材に1種類の添加元素を添加する場合における、添加量の変化に応じた耐スパッタ性、放電電圧、アドレス放電遅れの特性変化について説明する。
図14は添加元素の添加量(at%)をパラメータとし、保護膜の耐スパッタ性を評価した説明図である。評価はRFマグネトロンスパッタ装置を用い、100W/4インチφの投入電力で1PaのAr放電雰囲気で行った。また、保護膜の母材としては、MgOを用い、イオン価数の異なる添加元素を添加した5種類の保護膜を形成し、評価した。各添加元素の6配位イオン半径は、それぞれ、Mgの6配位イオン半径±0.1Å以内のものを用いている。
図14に示すように、添加元素の添加量が一定量を超えると、耐スパッタ性が劣化することが判る。添加元素が1価(Li)や3価(Sc)のイオン価数を有する場合、添加量が1at%を超えると、耐スパッタ性が劣化していくことから、添加量は1at%以下に抑える必要がある。また、添加元素が、4価(Sn)や5価(Ta)のイオン価数を有する場合、1価(Li)や3価(Sc)の場合と比較して母材を構成するMgのイオン価数(2価)との価数差が大きい。したがって、1価(Li)や3価(Sc)の場合と同様に、例えば、1at%の添加元素を添加した場合であっても、欠陥数が増えるため、耐スパッタ性が劣化する。そこで、4価(Sn)や5価(Ta)の場合には、添加元素量は1/(母材と添加元素イオンの価数差)at%の範囲とする必要がある。
図15は、添加元素の添加量を変化させた場合の放電電圧の変化を示す説明図、図16は添加元素の添加量を変化させた場合のアドレス放電遅れの変化を示す説明図である。なお、図15および図16に示す実験において採用した添加元素および母材の種類、放電電圧、アドレス放電遅れの評価方法、および保護膜の形成方法については、図8〜図11に示す実験と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図15および図16においては、LiOの添加量を0.0001at%〜5at%の範囲で、Ga、In、SnOについては0.0001at%〜1at%の範囲で変化させた。
図15において、1価のイオン価数を有するLiを添加した場合、0.001at%〜1at%の範囲では、添加量の増加とともに放電電圧を低減することができる。しかし、添加量が0.0001at%の場合には、母材であるMgOのみで構成される保護膜(pure)と比較して放電電圧の低減効果を確認することができず、5at%の場合には、逆に放電電圧が1at%の場合よりも上昇することが判った。また、3価あるいは4価のイオン価数を有するGa、In、Snを添加した場合には、0.001at%〜0.1%の範囲で放電電圧低減効果が確認され、0.01at%の場合が最も放電電圧が低くなることが判った。しかし、添加量が0.0001at%の場合には、母材であるMgOのみで構成される保護膜(pure)と比較して放電電圧の低減効果を確認することができず、1at%の場合にも、放電電圧が母材のみで構成される保護膜と同程度まで上昇してしまうことが判った。
また、図16に示す結果より、アドレス放電遅れについても、放電電圧の変化と略同様な変化を示すことが判った。すなわち、Liを添加した場合、0.001at%〜1at%の範囲では、アドレス放電遅れを低減する効果が確認できたが、0.0001at%、あるいは5at%の場合には、母材であるMgOのみで構成される保護膜(pure)と比較してアドレス放電遅れを低減する顕著な効果は確認できなかった。また、Ga、In、Snを添加した場合には、0.01at%の場合にアドレス放電遅れが最も低くなり、添加量の増加とともにアドレス放電遅れが増大することが判った。
図14〜図16に示す結果となる理由について図17を用いて説明する。図17は、保護膜を構成する母材中に、1価あるいは3価の添加元素を添加した場合の結晶中の欠損の状態を模式的に示す説明図である。
図17に示すように、保護膜3を構成する母材に含まれるアルカリ土類金属であるMgイオン31と異なるイオン価数を有する添加元素(1価イオン32、あるいは3価イオン33)を添加すると、電荷中性条件を保つために酸素欠損34、あるいは金属欠損35が発生し易くなる、この酸素欠損34、あるいは金属欠損35は、以下の理由により発生し易くなる。すなわち、異なるイオン価数の添加元素を添加すると、電荷中性条件を保とうとする。この電荷中性条件を保つ手段は、単純にMgイオン31を置換して、ホールあるいは電子を放出してアクセプタ準位あるいはドナー準位を形成する方法のみではなく、酸素欠損34、あるいは金属欠損35を形成することにより電荷中性条件を保とうとする場合に発生する。
例えば、母材であるMgOに1価の金属イオン酸化物であるLiOを添加し、ホールの生成がないとすると、
(MgO)1−x+(LiO)x/2=(Mg)1−x(Li)(O)1−x/2
となり、金属イオン(MgイオンおよびLiイオン)の合計量が1−X+X=1であるのに対し、酸素イオン36の合計量は1−x/2となって、X/2だけ不足する。すなわち、ホールの放出がなければ酸素欠損34が発生し易い。
一方、母材であるMgOに3価の金属イオン酸化物であるScを添加し、自由電子の生成がないとすると、
(MgO)1−x+(Scx/2=(Mg)1−x(Sc)(O)1+x/2
となり、金属イオン(MgイオンおよびScイオン)の合計量が1−X+X=1であるのに対し、酸素イオンの合計量は1+x/2となって、金属イオンがx/2だけ不足する。すなわち、電子の放出がなければ金属欠損35が発生しやすい。
このように、母材の金属イオンの価数とは異なる価数のイオンを添加する場合、酸素欠損34や金属欠損35などの欠陥が発生し易く、この結果、保護膜の結晶構造が乱され、耐スパッタ性の低下を招く。また、このような欠陥が増加すると、添加元素によって形成した2次電子放出源、プライミング電子源からの電子が失活しやすくなるため、逆に放電電圧の上昇、放電遅延の増大を招くこととなる。
なお、図14〜図16に示す結果から1価のイオン価数を有するLiを添加する場合、3価あるいは4価のイオン価数を有する元素を添加した場合よりも、多く添加しても性能低下が少ないが、これは以下の理由による。すなわち、第1に、添加量を増加させることにより、表面電子親和力を低減させることができるからである。また、第2に、保護膜3の酸素欠損34は、負に帯電し易いため、正に帯電する金属欠損35と比較して、2次電子放出源、プライミング電子放出源から放出される電子が失活し難いからである。
以上より、保護膜3を母材と、母材に添加する添加元素で構成し、添加元素の6配位イオン半径を母材の金属イオン半径+0.1Å以内とし、かつ、母材を構成するアルカリ土類金属と異なるイオン価数を有する添加元素を添加することにより、放電電圧の低減効果、あるいはアドレス放電遅れの低減効果が得られることが判った。しかし、1種類の添加元素を添加する場合、耐スパッタ性の低下を抑制しつつ、上記効果を得るためには、添加元素の添加量は所定の範囲に限定されることが判った。例えば、添加元素が1価のイオン価数を有するLiである場合には、添加量は0.001at%〜1at%の範囲である。また、例えば、添加元素が3価あるいは4価のイオン価数を有する場合には、0.001〜0.1at%の範囲である。つまり、1種類の添加元素のみを添加する方法では、材料の選択および、添加量を調整することにより、放電電圧やアドレス放電遅れなどの性能向上をさせることができるが、性能向上の程度には限界がある。
そこで、本発明者は、耐スパッタ性の低下を抑制しつつ、放電電圧をさらに低減する、あるいは、アドレス放電遅れをさらに低減することのできる技術について検討した。具体的には、前述の実験結果から、耐スパッタ性を劣化させる要因、および放電電圧やアドレス放電遅れの低減効果の阻害要因である、酸素欠損や金属欠損などの欠陥を減らすことが重要である点に着目し、特に好ましい以下の構成を見出した。すなわち、保護膜3は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および母材に添加される添加元素を有している。また、添加元素は、1価のイオン価数を有する第1添加元素、および3価乃至5価のイオン価数を有する第2添加元素からなる。換言すれば、母材に添加される添加元素は、母材を構成するアルカリ土類金属よりも小さいイオン価数を有する第1添加元素と、母材を構成するアルカリ土類金属よりも大きいイオン価数を有する第2添加元素からなる。
前記した通り、1価のイオン価数を有する第1添加元素は、保護膜3表面の電子親和力を低減する効果が大きく、一方、3価乃至5価のイオン価数を有する第2添加元素は、プライミング電子源あるいは2次電子放出源となるトラップ準位(ドナー準位)を形成し易い。このため、これらを同時に添加することにより、放電電圧、あるいはアドレス放電遅れをさらに低減することができる。
また、第1添加元素と第2添加元素は、母材を構成する2価のイオンに対して電荷を補償し合うため、電荷中性条件を保ちやすくすることができる。この結果、各々を単独で添加する場合と比較して添加量を増やしても欠陥(酸素欠損や金属欠損)の生成を抑制することが可能である。図18は、保護膜を構成する母材中に、1価および3価の添加元素をそれぞれ等量ずつ添加した場合の結晶中の状態を模式的に示す説明図である。図18に示すように1価イオン32と3価イオン33を等量添加した場合、母材の金属イオン(Mgイオン31)も含めた陽イオンの平均価数は2となり、電荷中性条件を完全に保つことができる。
また、第1添加元素と第2添加元素を同時に添加すると、欠陥の発生を抑制することができるが、添加量を増やすと、第1添加元素を添加すると酸素欠損が、第2添加元素を添加すると金属欠損が発生する場合がある。酸素欠損は金属欠損と比較して、2次電子放出源やプライミング電子放出源から放出された電子を失活し難い。したがって、添加量を増やす場合には、第1添加元素の添加量を第2添加元素の添加量よりも多くすることにより、放電電圧やアドレス放電遅れの低減効果に対する阻害要因を抑制することができる。また、この場合、第1添加元素の添加量の方が多いので、金属欠損が相殺されて極めて発生し難くなる。したがって、第2添加元素の添加量を、例えば、1at%程度まで増やした場合であっても、前記したような金属欠損に伴う性能(放電電圧やアドレス放電遅れ)劣化を防止し、さらに多くのトラップ準位が形成されることにより、トラップ準位の高密度化が行われ、放電電圧やアドレス放電遅れを低減することができる。
また、第1添加元素と第2添加元素を異なる添加量で添加する場合には、耐スパッタ性の劣化を防止する観点から、母材を構成する金属イオン(Mgイオン31)を含めた陽イオンの平均イオン価数を、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数(2価)に近づけることが好ましい。本発明者が検討した所、第1添加元素、第2添加元素、および母材を構成するアルカリ土類金属を含めた平均イオン価数が、+1.99〜+2.0の範囲内であれば、少なくとも、図14に示した1価(Li)イオンを1at%添加した場合と同程度の耐スパッタ性が得られることが判った。
次に、図19および図20を用いて、第1添加元素と第2添加元素を共に添加した場合の性能向上について実験的に確認した結果について説明する。図19は、第1添加元素と第2添加元素を共に添加した場合の放電電圧についての評価結果を示す説明図、図20は、第1添加元素と第2添加元素を共に添加した場合のアドレス放電遅れの評価結果を示す説明図である。なお、図19および図20に示す実験において採用した放電電圧、アドレス放電遅れの評価方法、および保護膜の形成方法については、図8〜図11に示す実験と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図19および図20に示す実験において、保護膜を構成する母材にはMgOを用い、第1添加元素としては、Li(LiO)を2at%添加した。また、第2添加元素として、Sc(Sc)、Ga(Ga)、In(In)、を1at%添加したもの、および、Sn(SnO)を0.5at%添加したものをそれぞれ準備した。
図19に示すように、放電電圧については、母材のみで構成した保護膜(pure)に対して、準備した全ての実験区について約20V程度の低減効果を確認した。これは、図8あるいは図9に示す1種類の添加元素を添加した場合と比較しても、2倍以上の低減効果である。したがって、母材中に、第1添加元素と第2添加元素を共に添加することにより、保護膜中の欠陥(酸素欠損や金属欠損)の発生を抑制しつつ、表面電子親和力の低減、およびトラップ準位密度の高密度化が行われたことを実験的に確認できた。
また、図20に示すように、アドレス放電遅れについては、母材のみで構成した保護膜に対して、1/50〜1/200に短縮できる効果を確認した。これは、図10および図11に示す、1種類の添加元素を添加した場合と比較してもさらに低減されており、1種類の添加元素を添加する場合の性能向上の限界を超えて、さらに向上していることがわかる。したがって、図20に示す実験によっても、母材中に、第1添加元素と第2添加元素を共に添加することにより、保護膜中の欠陥(酸素欠損や金属欠損)の発生を抑制しつつ、表面電子親和力の低減、およびトラップ準位密度の高密度化が行われたことを確認した。
また、図19および図20に示す各実験区について保護膜の耐スパッタ性の評価を行った。耐スパッタ性の評価方法は、図14を用いて説明した方法と同様であるので、詳細な説明は省略する。図19および図20に示す各実験区の保護膜は、何れも第1添加元素、第2添加元素、および母材を構成するアルカリ土類金属を含めた平均イオン価数が、+1.99〜+2.0の範囲内となっている。したがって、準備した全ての実験区について、少なくとも、図14に示した1価(Li)イオンを1at%添加した場合と同等以上の耐スパッタ性が確認できた。なお、耐スパッタ性の劣化を抑制する観点からは、前記の通り、添加元素の6配位イオン半径を母材の6配位イオン半径±0.1Å以内とすることが好ましい。母材の結晶構造に発生する歪みを抑制して導入することができるからである。図19および図20に示す各実験区で用いた添加元素は、何れも母材を構成するアルカリ土類金属であるMgの6配位イオン半径(0.72Å)±0.1Å以内となっている。したがって、この点も各実験区の耐スパッタ性の劣化防止に寄与している。
以下に本発明者の検討および各種実験により見出した保護膜の構成およびその効果のうち、代表的なものの概要をまとめる。
すなわち、保護膜を、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および母材に母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数と異なるイオン価数を有する添加元素を添加することにより、PDPの放電電圧、あるいはアドレス放電遅れを低減することができる。
また、添加元素の6配位イオン半径を、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン半径±0.1Å以内とすることにより、保護膜の結晶構造の歪みを抑制することができるので、耐スパッタ性の劣化を抑制することができる。
ただし、母材に1種類の添加元素のみを添加する場合、添加元素の添加量を増やしすぎると保護膜中に酸素欠損や金属欠損などの欠陥が多く発生するため、放電電圧、あるいはアドレス放電遅れが逆に増大してしまう場合もある。また、欠陥が多く発生すると、保護膜の耐スパッタ性も劣化する。したがって、この場合には、添加元素の添加量は限定される。添加元素のイオン価数が母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも小さい場合には、0.001at%以上、1at%以下である。また、添加元素のイオン価数が母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも大きい場合には、0.001at%以上、0.1at%以下である。この結果、母材に1種類の添加元素のみを添加する場合には、放電電圧あるいはアドレス放電遅れを低減する効果の程度に限界がある。
ところが、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも小さい第1添加元素と、母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも小さい第2添加元素とを共に母材に添加した場合には、母材を構成する2価のイオンに対して電荷を補償し合うため、電荷中性条件を保ちやすくすることができる。この結果、添加量を増加させた場合であっても、酸素欠損や金属欠損などの欠陥が発生し難くなり、耐スパッタ性の劣化を抑制することができる。また、欠陥が発生し難い環境下においては、放電電圧あるいはアドレス放電遅れを低減する効果は、添加量増加に伴って増大するので、前記した1種類の添加元素のみを添加する場合の限界を超えて、さらに大幅に低減することができる。
また、第1添加元素を添加することに起因して発生する酸素欠損は、第2添加元素を添加することに起因して発生する金属欠損と比較して、2次電子、あるいはプライミング電子を失活し難いので、放電電圧あるいはアドレス放電遅れを低減に対する阻害要因となり難い。そこで、第1添加元素の添加量を第2添加元素の添加量よりも多くすることで、金属欠損の発生を抑制しつつ、第2添加元素の添加量を増やすことができる。ただし、第2添加元素の添加量が極端に多くなると、保護膜の結晶構造が乱れる場合があるので、第2添加元素の添加量は、1/(前記母材を構成するアルカリ土類金属と前記第2添加元素のイオン価数差)at%以下とすることが好ましい。したがって、第2添加元素として3価のイオン価数を有する元素とした場合、添加量を増やせるという点で好ましい。
また、耐スパッタ性の劣化を抑制するという観点から、保護膜を構成する第1添加元素、第2添加元素、および母材を構成するアルカリ土類金属を含めた陽イオンの平均イオン価数を2に近づけることが好ましい。具体的には、+1.99〜+2.0の範囲内とすることが特に好ましい。なお、第2添加元素の添加量を1/(前記母材を構成するアルカリ土類金属と前記第2添加元素のイオン価数差)at%とした場合に、平均イオン価数を+1.99〜+2.0の範囲内とする場合、第1添加元素の添加量は2at%以下となる。
また、第1および第2添加元素の添加量が極端に少なすぎる場合、2次電子源、あるいはプライミング電子源となるトラップ準位を十分に形成できない場合があるので、第1および第2添加元素の添加量はそれぞれ0.01at%以上とすることが好ましい。
このように、本実施の形態によれば、耐スパッタ性の劣化を抑制しつつ、放電電圧、あるいはアドレス放電遅れを低減することができるので、PDP15は消費電力を低減することができる。
また、消費電力低減の観点からは、放電ガスに含まれるXeの分圧を増やすことも好ましい。Xeガスの分圧を増やすと、放電によって保護膜が削られやすくなるため、PDPの製品寿命の観点から耐スパッタ性が悪いPDPにおいては、十分に増やすことができず、例えば数%程度である。しかし、PDP15では、耐スパッタ性の劣化を抑制することができるので、例えば、Xeの分圧を10%以上とした場合であっても、十分な製品寿命が得られることとなる。また、Xeガスの分圧を増やすと放電電圧が上昇することとなるが、PDP15では、放電電圧を大幅に低減することができるので、Xeの分圧上昇に伴う放電電圧の上昇を軽減することができる。そして、Xeの分圧を10%以上とすることにより、PDP15の発光効率を上昇させることができるので、PDP装置全体の消費電力を大幅に低減することができる。
なお、本実施の形態では、保護膜を構成する各材料について、母材をMgOとし、添加元素として、Li、Sc、Ga、In、Snを例として取り上げて説明したが、本実施の形態で説明した放電電圧やアドレス放電遅れを低減するメカニズム、あるいは耐スパッタ性の劣化を抑制するメカニズムは、他の材料にも適用することができる。
例えば、母材となるアルカリ土類金属酸化物としては、MgOの他、CaO、SrO、BaOなどを用いることができる。MgOは、他のアルカリ土類金属酸化物と比較すると、水分や炭酸ガスなどの不純物を吸着し難い特性を有している。したがって、製造工程中の不純物ガスの吸着を抑制することができるので、PDP装置の信頼性という観点から好ましい。一方、CaOやSrOは、MgOよりも2次電子放出係数がさらに高いので、放電電圧をさらに低減することができる点で好ましい。
また、本実施の形態では、母材を構成するアルカリ土類金属は、1種類のアルカリ土類金属酸化物(MgO)を用いる場合について説明したが、複数種類のアルカリ土類金属酸化物を含む複合酸化物とすることもできる。ただし、保護膜中の金属イオンの6配位イオン半径を揃える観点からは、1種類のアルカリ土類金属酸化物で母材を構成する方がより好ましい。なお、保護膜の母材を1種類のアルカリ土類金属酸化物で構成する、とは、母材に含まれる、主なアルカリ土類金属酸化物が1種類であるという意味である。したがって、例えば、原料由来などで、添加元素の添加量よりも少ない微量の不純物が含まれることを排除するものではない。
次に、添加元素について説明する。本実施の形態では、本発明者が実験を行った結果、放電電圧やアドレス放電遅れを低減する効果が特に高かった材料を示している。しかし、以下に示す材料についても、添加元素を添加しないMgOのみからなる保護膜と比較すると、放電電圧やアドレス放電遅れを低減することができる。
まず、母材がMgOあるいはMgOを含む複合酸化物の場合、1価のイオン価数を有する第1添加元素は、Li、Cuの群から選ばれた1種または複数種の元素である。また、第2添加元素としては、イオン価数が3価であれば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ga、Ru、Rh、In、Sb、4価であれば、Zr、Nb、Mo、Tc、Sn、Tb、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Pb、5価であれば、Nb、Ta、W、Biの群から選ばれた1種または複数種の元素である。
また、母材がCaOあるいはCaOを含む複合酸化物の場合、1価のイオン価数を有する第1添加元素は、Naである。また、また、第2添加元素としては、イオン価数が3価であれば、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Bi、4価であれば、Te、5価であれば、Iの群から選ばれた1種または複数種の元素である。
また、母材がSrOあるいはSrOを含む複合酸化物の場合、1価のイオン価数を有する第1添加元素は、Agである。また、第2添加元素としては、イオン価数が3価であるLa、Biの群から選ばれた1種または複数種の元素である。
また、母材がBaOあるいはBaOを含む複合酸化物の場合、1価のイオン価数を有する第1添加元素は、Kである。ただし、BaOの場合、3価乃至5価のイオン価数を有する添加元素として、母材を構成するBaOのイオン半径±0.1Å以内の条件を満たす材料が見つかっていないため、BaOを用いる場合には、Kを添加することとなる。
最後に、図1〜図3に示す保護膜3の形成方法について母材をMgOとする場合を例に取り上げて説明する。本実施の形態では保護膜3は例えば、電子ビーム蒸着法により成膜することができる。また、得られる保護膜3の膜質を制御するために、酸素ガスや水素ガス、水蒸気等を供給することもできる。また、成膜方法としては、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法等を用いることもできる。ただし、母材に添加する添加元素の添加量を容易に調整する観点から、蒸着源となるターゲット材を気化させて誘電体層2上に堆積させる方法を用いることが特に好ましい。ターゲット材に含まれる添加元素の添加量を予め調整することにより、得られる保護膜3中の添加元素の添加量を容易に調整することができるからである。
蒸着源となるターゲット材は、母材の原料となるアルカリ土類金属酸化物と、添加元素の原料となる化合物(例えば前記した各種添加元素の金属酸化物)を予め混合しておく。ターゲット材の性状は、例えば、粉末状のMgOに添加元素の化合物を混合してペレット状に成形したものを用いることができる。また、ペレット状のMgOとペレット状の添加元素の化合物を混合して用いる方法、あるいはこれらのペレット状に成型したものを焼結した焼結体を用いる方法とすることもできる。
本実施の形態では、上記成膜法により、保護膜3を、例えば300nm〜1000nm程度の厚さで形成する。なお、保護膜3を構成するアルカリ土類金属酸化物は雰囲気中の水分などを吸着しやすい性質を有している。このため、保護膜3を形成する工程は、真空(減圧)雰囲気中で行い、保護膜3への水分の付着を防止ないしは抑制することが好ましい。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、本実施の形態では、PDP装置の例として、PDPを例示して説明したが、例えば図1に示すPDP15にPDP15を支持するシャーシ、およびPDP15を駆動、あるいは制御する回路基板を取り付けて、PDPモジュール、あるいはPDPセットとして適用することもできる。
ここで、PDPモジュールあるいは、PDPセットにおいては、PDPを駆動するための駆動回路が取り付けられる。例えば、アドレス放電を駆動するためのアドレスドライバICなどである。アドレス放電動作では、PDP15の表示ライン(走査線)と交差する方向に、図1に示す表示ライン(スキャン電極5)を順次スキャンしながら、画像情報に従ってアドレス電極10にアドレスパルスを印加し、各放電セルの点灯/非点灯を選択する。しかし、近年、PDP装置の高精細化が進み、例えばHD(High Definition)と呼ばれる規格では、表示ラインが1080本以上となる。このように表示ラインが増加すると、1本の表示ライン当たりのアドレス時間が短くなるため、アドレス放電遅延が長いPDPでは、所定のアドレス時間内にアドレス動作を行うことができないため、点灯/非点灯の選択を失敗し、ちらつきなどの画像不良を起こす。そこで1080本の表示ラインをパネルの上下で2分割してそれぞれ540本ずつの2ブロックとし、それぞれのブロックから1本ずつ、計2本を同時にスキャンしてアドレス時間を2倍確保する必要が生じる(デュアルスキャンと呼ばれる)。この場合、アドレスドライバICは、上下で2分割した表示ライン毎に必要となるため、パネルの上下に配置しなければならず、2倍の数のアドレスドライバが必要となる。そのため、アドレスドライバの消費電力が2倍になる分、PDP装置の消費電力が上昇し、またアドレスドライバやその実装材料等の材料の使用量も増加する。
しかし、本実施の形態で説明したPDP15を組み込んだPDPモジュール、あるいはPDPセットにおいては、アドレス放電時間を短縮することができるので、表示ラインを分割することなく、全ての表示ラインをスキャンすることができる(シングルスキャン)。したがってアドレスドライバICは、パネルの上下いずれか片側にのみ配置すれば良い。したがって、アドレスドライバICの数を、デュアルスキャンの場合と比較して、半減することができるので消費電力を低減し、実装材料等の材料の使用量も半減することができる。
本発明は、プラズマディスプレイ装置、特に、高精細なAC面放電型PDPに適用して有効であり、映像機器産業、宣伝機器産業、プラズマディスプレイ装置の製造業といった産業に幅広く利用することができる。
1 前面基板
2 誘電体層
3 保護膜
4 サステイン電極(X電極)
4a、5a 透明電極
4b、5b バス電極
5 スキャン電極(Y電極)
6 表示電極対
7、7a、7b 隔壁
8、8b、8g、8r 蛍光体
9 誘電体層
10 アドレス電極
11 背面基板
12 前面板
13 背面板
14 放電空間
15 PDP(プラズマディスプレイ装置)
20 バンドギャップ
21 価電子帯
22 伝導帯
23 紫外線
24 フェルミ準位
25 アクセプタ準位
26 表面準位
27 ドナー準位
27a 浅いドナー準位
27b 深いドナー準位
28 真空準位
29 電子親和力
30 トラップ準位
31 Mgイオン(アルカリ土類金属イオン)
32 1価イオン(第1添加元素イオン)
33 3価イオン(第2添加元素イオン)
34 酸素欠損
35 金属欠損
36 酸素イオン
CL 放電セル
TL 発光
Vs_c マージンセンタ

Claims (12)

  1. 対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
    前記前面板の内面側には、複数の表示電極対、前記複数の表示電極対を覆う誘電体層、および前記誘電体層を覆う保護膜が順次積層され、
    前記保護膜は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および前記母材に添加される添加元素を有し、
    前記添加元素は、1価のイオン価数を有する第1添加元素、および3価乃至5価のイオン価数を有する第2添加元素からなり、前記第1および第2添加元素の6配位イオン半径は、それぞれ、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン半径±0.1Å以内であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  2. 請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記第1添加元素は、前記第2添加元素よりも多く添加されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  3. 請求項2に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記保護膜は、前記第1添加元素、前記第2添加元素、および前記母材を構成するアルカリ土類金属を含めた陽イオンの平均イオン価数が、+1.99〜+2.0の範囲内となっていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  4. 請求項3に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記第1および第2添加元素は、それぞれ0.001原子量%以上添加されていることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  5. 請求項4に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記第2添加元素の添加量は、1/(前記母材を構成するアルカリ土類金属と前記第2添加元素のイオン価数差)原子量%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  6. 請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記母材を構成するアルカリ土類金属にはMgが含まれることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  7. 請求項6に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記第1添加元素はLiであって、前記第2添加元素は、Sc、Ga、In、Snの群から選ばれた1種あるいは複数種の元素であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  8. 請求項7に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記アルカリ土類金属酸化物は、MgOであることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  9. 請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記母材を構成するアルカリ土類金属にはSr、Caの群から選ばれた1種あるいは複数種の元素が含まれることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  10. 請求項9に記載のプラズマディスプレイ装置において、
    前記アルカリ土類金属酸化物は、SrO、またはCaOであることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  11. 対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
    前記前面板の内面側には、複数の表示電極対、前記複数の表示電極対を覆う誘電体層、および前記誘電体層を覆う保護膜が順次積層され、
    前記保護膜は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および前記母材に添加される添加元素を有し、
    前記添加元素は、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも小さいイオン価数を有し、前記添加元素の6配位イオン半径は、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン半径±0.1Å以内であって、
    前記添加元素の添加量は、0.001原子量%以上、1原子量%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
  12. 対向配置される前面板および背面板の間に形成され、内部に放電ガスが充填された放電空間を有し、
    前記前面板の内面側には、複数の表示電極対、前記複数の表示電極対を覆う誘電体層、および前記誘電体層を覆う保護膜が順次積層され、
    前記保護膜は、アルカリ土類金属酸化物からなる母材、および前記母材に添加される添加元素を有し、
    前記添加元素は、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン価数よりも大きいイオン価数を有し、前記添加元素の6配位イオン半径は、前記母材を構成するアルカリ土類金属のイオン半径±0.1Å以内であって、
    前記添加元素の添加量は、0.001原子量%以上、0.1原子量%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
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