しかしながら、試料液の屈折率を正確に測定するためには、上述したプリズムの界面温度以外にも、考慮しなければならない事項が多数存在する。
例えば、試料液の屈折率を測定する時点における環境は、試料液の屈折率の精度に対して大きな影響を及ぼす。具体的には、当該環境が湿度の高い環境で、プリズムの温度がプリズム周辺の温度よりも低い場合、プリズムに結露が発生する。プリズムに結露が発生すると、プリズム上の試料液と、結露水とが混合する可能性がある。
例えば、試料液が水溶性である場合、試料液と結露水とが混合して、当該試料液中の成分が容易に変動するため、試料液の屈折率を正確に測定することが出来ないという問題が生じる。
又、試料液が油溶性である場合、試料液と結露水とが混合しないものの、両者が分離することにより、試料載置面に入射した光が、適切な臨界角で全反射しない場合があり、この場合でも、正確な試料の屈折率を測定することが出来ないという問題が生じる。
結露が発生する場合は、微小な結露水であれば、試料液の屈折率を測定しているユーザがその結露の発生を知ることなく測定する場合もある。そのような場合、測定された試料液の屈折率に誤差が含まれていることを知らずに、ユーザが当該屈折率を正確な屈折率であると認識してしまうおそれがあり、正確な屈折率を得ることが出来ないという問題がある。
更に、結露の発生は、結露水が生じてから初めて認識されることが多いため、例えば、試料液の屈折率を測定中に、ユーザが結露の発生を知った場合、それまでの作業等が無駄になるという問題もある。
従って、プリズムに結露が発生する前に、結露が発生する可能性を予測し、結露がプリズムに発生するか否かをユーザに対して知らせることが可能な屈折率測定装置が求められていた。
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、試料液の屈折率を測定する際に、プリズムに結露が発生する前に、その可能性をユーザに警告することが可能な屈折率測定装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、プリズムを用いた全反射法により屈折率を測定する屈折率測定装置を前提とする。
前記屈折率測定装置において、プリズム周辺の温度を検出する温度センサと、前記プリズム周辺の湿度を検出する湿度センサと、前記プリズムの温度を検出するプリズム温度センサとを備える。又、当該屈折率測定装置において、所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとの関係を示すデータを記憶するデータ記憶手段を備える。更に、当該屈折率測定装置は、検出されたプリズム周辺の温度と、プリズムの温度と、前記データ記憶手段のデータとに基づいて、当該プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する結露判定手段と、前記結露判定手段がプリズムに結露発生の可能性があると判定した場合、警告を行う結露警告手段とを備える。
温度センサが検出するプリズム周辺の温度は、プリズムの温度と異なる温度である。当該プリズムの温度は、プリズム内部の温度またはプリズム表面(プリズム側の表面温度に対応する)の温度に対応し、プリズム周辺の温度に対応しない。尚、プリズム周辺の温度は、プリズム周辺の外気(大気)の温度に対応する。
湿度センサが検出するプリズム周辺の湿度は、プリズム周辺の外気(大気)の湿度に対応し、例えば、単位は相対湿度(%)で検出される。
又、プリズム周辺に設置される温度センサと、湿度センサとが同等(同一)の箇所に設置されていると、結露判定手段が、プリズムに結露発生の可能性を適切に判定できるため、好ましい。又、前記温度センサと前記湿度センサとが、温度センサと湿度センサとを兼用する環境センサであっても構わない。
所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとの関係を示すデータは、テーブル形式、グラフ形式として表現されても構わないし、近似式の方程式のデータとして表現されても構わない。
飽和水蒸気量とは、所定の温度(℃)の空間で、当該空間の単位体積(1m3)当たりに存在することが出来る水蒸気の質量(g)のことである。当該飽和水蒸気量に関連するパラメータは、飽和水蒸気量から算出されるパラメータであれば、どのようなパラメータでも構わないが、例えば、飽和水蒸気量を圧力に換算した飽和水蒸気圧、飽和水蒸気量と当該飽和水蒸気量を含む空気(空間)の質量との割合を示す飽和絶対湿度等が該当する。尚、飽和水蒸気圧は、所定の温度T(℃)の外気中(大気中)に、最大で存在し得る水蒸気量の分圧(hPa)と言い換えることができる。
所定の温度と、飽和水蒸気圧との関係を示すデータは、例えば、Tetensの式である所定の温度に対する飽和水蒸気圧の関係式から算出されても構わない。
結露判定手段が、プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する方法は、どのような方法でも構わないが、例えば、以下のような方法が挙げられる。
例えば、所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとして飽和水蒸気圧との関係を示すデータと、プリズム周辺の温度とに基づいて、プリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧を算出する。又、そのプリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧に、単位が相対湿度(%)であるプリズム周辺の湿度を乗算して、現時点のプリズム周辺の水蒸気圧を算出する。現時点のプリズム周辺の水蒸気圧を飽和水蒸気圧とみなして、現時点のプリズム周辺の水蒸気圧と、当該データとに基づいて所定の温度を算出する。算出された所定の温度は、プリズム周辺の温度が冷却された際に、プリズム周辺の外気中に含まれる水蒸気量が飽和水蒸気量に達するプリズム周辺の温度に対応する。この所定の温度を、露点温度、又は霜点温度ともいう。算出された露点温度と、プリズムの温度とを比較して、プリズムの温度が露点温度よりも低いまたは同等である場合、プリズムに結露発生の可能性があると判定する。一方、プリズムの温度が露点温度よりも高い場合、結露判定手段が、プリズムに結露発生の可能性がないと判定する。
尚、結露判定手段が露点温度を算出する際に、検出された相対湿度が100%であれば、検出されたプリズム周辺の温度がそのまま露点温度となる。
又、上述した方法では、プリズムの温度と、露点温度との大小関係により、プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定するよう構成しているが、結露発生の可能性を予測するという観点から、下記の方法を採用しても構わない。
例えば、プリズムの温度が露点温度よりも高くても、露点温度の近傍であれば、結露判定手段が、プリズムに結露発生の可能性があると判定するよう構成しても構わない。尚、プリズムの温度が露点温度の近傍であることは、例えば、プリズムの温度が、露点温度に所定の調整値を加算した値よりも低いまたは同等であることに対応する。所定の調整値は、例えば、3℃、5℃、10℃と、ユーザにより適宜設計変更することが可能な値である。当該構成により、結露が発生する前の段階で、結露発生の可能性を確実に判定することが可能となる。
他方、次のような方法も挙げられる。
例えば、所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとして飽和水蒸気圧との関係を示すデータと、プリズム周辺の温度とに基づいて、プリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧を算出する。次に、当該データと、プリズムの温度とに基づいて、プリズムの温度に対応する飽和水蒸気圧を算出する。このプリズムの温度に対応する飽和水蒸気圧に、前記プリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧を除算した後、その値に100を乗算して百分率表示した値を、プリズムに結露発生の可能性があるプリズム周辺の湿度として算出する。プリズムに結露発生の可能性があるプリズム周辺の湿度を、以下、結露発生湿度とする。この結露発生湿度の単位は、相対湿度%である。更に、結露発生湿度と、湿度センサにより算出されるプリズム周辺の湿度とを比較して、プリズム周辺の湿度が結露発生湿度よりも高いまたは同等である場合、プリズムに結露発生の可能性があると判定する。一方、プリズム周辺の湿度が結露発生湿度よりも低い場合、結露判定手段が、プリズムに結露発生の可能性がないと判定する。
尚、上述した方法では、プリズム周辺の湿度と、結露発生湿度との大小関係により、プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定するよう構成しているが、結露発生の可能性を予測するという観点から、下記の方法を採用しても構わない。
例えば、プリズム周辺の湿度が結露発生湿度よりも低くても、結露発生湿度の近傍であれば、結露判定手段が、プリズムに結露が発生すると判定するよう構成しても構わない。尚、プリズム周辺の湿度が結露発生湿度の近傍であることは、例えば、プリズム周辺の湿度が、結露発生湿度に所定の調整値を減算した値よりも高いまたは同等であることに対応する。所定の調整値は、例えば、5%、10%、15%と、ユーザにより適宜設計変更することが可能な値である。当該構成により、結露が発生する前の段階で、結露発生の可能性を確実に判定することが可能となる。
プリズムに結露発生の可能性があることは、現実にプリズムに結露が発生することはもちろん、所定の環境の変動に応じて、プリズムに結露が容易に発生することも含まれる。所定の環境の変動とは、プリズム周辺の温度の変動、プリズム周辺の湿度の変動を意味する。
例えば、屈折率測定装置が設置された環境の窓が開放されて、湿度の高い外気が当該環境に入り、プリズム周辺の湿度が変動することが挙げられる。
結露判定手段が判定する回数は、一回または複数回でも構わないし、試料液の屈折率の測定が完了するまで、継続的に判定する、又は結露発生を監視するよう構成しても構わない。
結露警告手段が警告を行う方法は、どのような方法でも構わないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
当該結露警告手段が、屈折率測定装置に備えられた操作パネル上にエラー画面を表示させる方法、屈折率測定装置に備えられた赤ランプを点灯させる、または点滅させる方法、屈折率測定装置に備えられた警報手段にブザー音等の警告音を発生させる方法等が該当する。
結露警告手段が警告を行うとともに、ユーザに対して、結露防止のための対応処置を操作パネル上に表示させたり、音声により伝達させたりしても構わない。
本発明の屈折率測定装置によれば、検出されたプリズム周辺の温度と、プリズム周辺の湿度と、プリズムの温度と、データ記憶手段のデータとに基づいて、当該プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する結露判定手段と、前記結露判定手段がプリズムに結露発生の可能性があると判定した場合、警告を行う結露警告手段とを備えるよう構成している。
これにより、試料液の屈折率を測定する際に、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザはプリズムに結露発生の可能性がある環境を認識することが可能となり、その場合に対応して、結露発生に対する対応処理を実行することが可能となる。そのため、結露発生の可能性がある環境であるにも関わらず、それを知らずに、ユーザが試料液の屈折率を測定する可能性を無くし、結露発生により生じる屈折率の誤差を適切に排除することが可能となる。その結果、ユーザは、プリズムに結露が発生する前に、プリズムに対する結露発生の有無を認識し、結露に対応する誤差の含まれない屈折率、つまり、精度の高い屈折率を得ることが可能となる。
又、前記結露警告手段が、屈折率測定装置に備えられた操作パネル上にエラー画面を表示させて警告を行うよう構成することができる。
これにより、ユーザは、プリズムに結露が発生する環境であることを視覚的に確認することが可能となるため、プリズムに結露が発生する前段階で、結露の発生を容易に認識することが可能となる。そのため、ユーザは、結露発生の有無を適切に認識しながら、結露に対応する誤差の含まれない屈折率、つまり、精度の高い屈折率を得ることが可能となる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<屈折率測定装置>
図1は本実施の形態における屈折率測定装置101の概略構成の一例を示す図である。この屈折率測定装置101は、例えば、食品(飲料水、調味料等)、油脂(大豆油、ごま油等)、石油製品(灯油、ガソリン等)、医薬品(シロップ等)のような試料液の屈折率を全反射法により測定するためのプリズム102を有している。
屈折率測定装置101の試料皿103は、プリズム102の上面と接続され、プリズム102の熱が試料皿103に適切に伝達されるよう構成される。さらに、前記試料皿103は碗状に形成され、当該試料皿103の上底には、当該プリズム102の試料載置面104を露出させるための開口部が設けられているとともに、外気に対するプリズム102の露出面積よりも広い露出面積を有するよう構成される。従って、試料皿の温度は、プリズムの温度と実質的に同一である。
当該構成において、ユーザが試料皿103に試料液105を滴下させると、当該試料皿103は試料液105をプリズム102の試料載置面104へ案内し、その開口部を通じて試料載置面104上に載置させる。尚、試料載置面104は、プリズム102と試料液105との界面に対応する。
試料液105とプリズム102との界面である試料載置面104には、例えば、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)からなる光源106からの光が入射し、その試料載置面104で反射された光を受光センサ107が受光する。光源106および受光センサ107は、制御回路108に接続されている。制御回路108は、光源106の点灯または消灯を制御し、受光センサ107の検出値(光量の出力値)に基づいて試料液105に対する入射光の臨界角を検出し、当該試料液105の屈折率を求める。
前記プリズム102は、例えば、銅等の導電体からなる恒温ブロック109の中に固定され、当該恒温ブロック109にはペルチェ素子110が取り付けられている。更に、プリズム102には、内部にプリズム温度センサ111が内蔵されており、当該プリズム温度センサ111の検出温度に基づいて制御回路108が、ペルチェ素子110を制御することにより、恒温ブロック109の温度、プリズム102の温度を一定の温度に制御する。又、プリズム102の上面と、試料皿103の下面は相互に接触しているため、ペルチェ素子110の熱が当該プリズム102を介して試料皿103へ伝達され、結果として、プリズム102の温度と試料皿103の温度とが同等となるよう構成されている。
又、前記ペルチェ素子110には、熱交換面積を増やすために複数の金属板をヒレ状に設けたフィン等の冷却手段(図示せず)が設けられ、ペルチェ素子110の熱を効率的に発散させるよう構成されている。
更に、屈折率測定装置101では、試料皿103の近傍に、プリズム周辺の温度を検出する温度センサ112と、当該プリズム周辺の湿度を検出する湿度センサ113とが備えられている。前記温度センサ112と湿度センサ113は、試料皿103の近傍に設置されていることから、試料皿周辺の温度と、試料皿周辺の湿度とを検出するよう構成されている。前記温度センサ112と湿度センサ113は、後述するインターフェイス回路116を介して制御回路108に接続され、検出されたプリズム周辺の温度およびプリズム周辺の湿度を制御回路108に入力する。尚、検出されたプリズム周辺の湿度は、その単位を相対湿度として制御回路108に入力される。
制御回路108では、バス114を介して、CPU(Central Processing Unit)115、インターフェイス回路116、117、RAM(Random Access Memory)118、ROM(Read Only Memory)119等が接続されている。インターフェイス回路116は、光源106、受光センサ107、ペルチェ素子110、プリズム温度センサ111、温度センサ112、湿度センサ113を制御回路108に接続するために用いられている。
CPU115は、当該インターフェイス回路116を介して、光源106、受光センサ107、ペルチェ素子110、プリズム温度センサ111、温度センサ112、湿度センサ113に対する入出力を行う。インターフェイス回路117は、操作パネル120を制御回路108に接続する。
操作パネル120には、液晶ディスプレイのような表示デバイスや、測定開始ボタン(スタートキー等)、測定温度入力ボタン(テンキー)等の入力デバイスが用意される。CPU115は、インターフェイス回路117を介して、ユーザからの指示を操作パネル120で受け付けたり、測定結果やユーザへのメッセージを表示デバイス等に出力したりする。
ROM119は、制御プログラムのコードなどを格納している。CPU115は、例えば、RAM118を作業領域として利用し、その制御プログラムの指令にしたがって、バス114に接続された回路に対して入出力を行い、屈折率測定装置101の機能を実現する。尚、後述する各手段(図2に示す)についても、上記CPU113が制御プログラムを実行することで当該各手段を実現する。更に、この実施形態において、ROM119には、所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとして飽和水蒸気圧との関係を示すデータが格納されている(後述する)。
<本発明の実施形態>
次に図2乃至図3を参照しながら、本発明の屈折率測定装置101が、試料液105の屈折率を測定する際に、プリズムに結露が発生する前に、その可能性をユーザに警告する手順について説明する。図2は、本発明の屈折率測定装置101の機能ブロック図である。図3は、本発明の実行手順を示すためのフローチャートである。
まず、ユーザが、屈折率測定装置101の電源を投入すると、屈折率測定装置101の表示受付手段201が、操作パネル120に入力画面を表示して、試料液105の屈折率を測定する測定温度、言い換えると、試料液105が滴下されるプリズム102の温度の入力をユーザに問い合わせる(図3:S101)。
更に、表示受付手段201が、結露判定手段202に、プリズム102に結露発生の可能性があるか否かの判定を行う旨の命令Aを送信する。
当該命令Aを受信した結露判定手段202は、プリズム102に結露発生の可能性があるか否かの判定を開始する。尚、結露判定手段202が当該判定を開始する時点は、表示受付手段201が入力画面を表示する時点の他に、例えば、電源の投入を結露判定手段202が検知した時点であっても構わない。
最初に、結露判定手段202が、プリズム102の内部に備えられたプリズム温度センサ111から、命令Aを受信した時点(判定開始時点)のプリズム102の温度(例えば、20.0℃)を取得する(図3:S102)。
次に、結露判定手段202が、プリズム周辺の温度(例えば、20.0℃)と、当該プリズム周辺の湿度(例えば、80.0%)とを、温度センサ112と、湿度センサ113とから取得する(図3:S103)。
前記プリズム102の温度、プリズム周辺の温度、プリズム周辺の湿度を取得すると、結露判定手段202が、データ記憶手段203に記憶された、所定の温度と、飽和水蒸気量に関連するパラメータとして飽和水蒸気圧との関係を示すデータを参照する。更に、結露判定手段202が、検出されたプリズム周辺の温度と、プリズム周辺の湿度と、プリズム102の温度と、当該データとに基づいて、当該プリズム102に結露発生の可能性があるか否かを判定する。
結露判定手段202がプリズム102に結露発生の可能性があるか否かを判定する方法は、どのような方法でも構わないが、例えば、以下の方法によって結露発生を判定する。
まず、結露判定手段202が、検出されたプリズム周辺の温度と、プリズム周辺の湿度と、当該データとに基づいて、プリズム周辺に対する露点温度を算出する(図3:S104)。
所定の温度と、飽和水蒸気圧との関係を示すデータ401には、図4に示すように、所定の温度に対して、その温度における飽和水蒸気圧が関連付けて記憶されている。当該データ401は、実験から算出された測定値であっても、所定の温度に対する飽和水蒸気圧の関係式から算出された値であっても構わない。ここで、所定の温度に対する飽和水蒸気圧の関係式は、飽和水蒸気圧に対する精度に応じて様々に与えられるが、本発明の実施形態における当該関係式は、Tetensの式により、次式のように与えられる。
E=6.11×10^{7.5T/(T+237.3)} ・・・(1)
ここで、Eは飽和水蒸気圧(hPa)、Tは所定の温度(℃)である。
当該データ401は、前記関係式(1)に基づき、グラフ形式でデータ記憶手段203に記憶される。
さて、結露判定手段202が、当該データ401と、プリズム周辺の温度(20.0℃)とに基づいて、プリズム周辺の温度に対する飽和水蒸気圧を決定する。具体的には、結露判定手段202が、当該データ401の所定の温度がプリズム周辺の温度(20.0℃)となる飽和水蒸気圧E0(hPa)を決定する。本発明の実施形態では、プリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧E(hPa)が23.4hPaとなり、図4には、決定点aに対応する。
次に、結露判定手段202が、プリズム周辺の温度に対応する飽和水蒸気圧E0(hPa)に、先ほど取得したプリズム周辺の湿度(80.0%)を乗算して、現時点のプリズム周辺の水蒸気圧E(hPa)を算出する。本発明の実施形態では、現時点のプリズム周辺の水蒸気圧E(hPa)が23.4×80.0/100.0=18.7hPaとなる。
更に、結露判定手段202が、現時点のプリズム周辺の水蒸気圧E(hPa)を飽和水蒸気圧とみなして、当該データ401の飽和水蒸気圧が現時点のプリズム周辺の水蒸気圧E(hPa)となる所定の温度(℃)、言い換えると、露点温度T0(℃)を決定する。本発明の実施形態では、露点温度T0(℃)が16.4℃となり、図4には、決定点bに対応する。
露点温度T0を算出すると、結露判定手段202は、当該露点温度T0(16.4℃)と、取得したプリズムの温度Tp(20℃)とを比較して、プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する(図3:S105)。
ここで、プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する方法は、プリズム102に結露発生の可能性があることを判定するための判定式が採用される。プリズムの温度をTp(℃)、露点温度をT0(℃)、ユーザにより設定された調整値をα(℃)とすると、当該判定式は、次式のように与えられる。
T0+α≧Tp ・・・(2)
当該判定式(2)は結露判定手段202に備えられた所定のメモリに予め記憶されている。当該調整値α(℃)を判定式(2)に採用することにより、プリズムの温度Tp(℃)が露点温度T0(℃)の近傍であることを判定することが可能となり、プリズムに結露が発生する前段階で、結露発生の可能性を予測することが可能となる。
尚、前記調整値αを0.0℃と設定して、単純に、プリズムの温度Tpと、露点温度T0との大小関係に基づいて、プリズム102に結露発生の可能性があることを判定するよう構成しても構わない。
さて、前記判定式(2)と、プリズムの温度Tp(℃)と、露点温度T0(℃)とを用いて、結露判定手段202が判定を実行する(図3:S106)。
例えば、前記調整値αが3.0℃と設定されている場合では、下記のように判定される。
プリズムの温度Tp(20.0℃)が、露点温度T0(16.4℃)と当該調整値α(3.0℃)とを加算した値(19.4℃)よりも大きい場合、前記判定式(2)からプリズム102に結露発生の可能性がないため、結露判定手段202は、結露発生の可能性がないと判定する(図3:S106YES→S107)。
結露発生の可能性がないと判定すると、結露判定手段202は、何の出力を行うことなく、後述するように、試料液105の屈折率の測定が完了するまで、所定の周期毎に結露発生の判定を継続的に実行する(図3:S108NO→S102)。
一方、取得したプリズムの温度Tpが例えば18.0℃である場合、プリズムの温度Tp(18.0℃)が、露点温度T0(16.4℃)と当該調整値α(3℃)とを加算した値(19.4℃)よりも小さくなり、前記判定式(2)からプリズム102に結露発生の可能性があり、結露判定手段202は、結露発生の可能性があると判定する(図3:S106NO→S109)。
尚、プリズムの温度Tp(18.0℃)は露点温度T0(16.4℃)よりも高いにも関わらず、結露発生の可能性があると判定していることから、プリズムに結露が発生する前段階で、後述する警告をユーザに対して行うことが可能となる。
又、例えば、プリズムの温度Tp(19.4℃)と、露点温度T0(16.4℃)と当該調整値α(3.0℃)とを加算した値(19.4℃)とが同等である場合、結露判定手段202は、判定式(2)からプリズム102に結露発生の可能性があると判定することになる(図3:S106NO→S109)。当該判定においても、プリズムに結露が発生する前段階で、警告をユーザに対して行うこととなる。
結露発生の可能性があると判定すると、結露判定手段202は、結露警告手段204に、警告を実行する旨の命令Bを送信する。当該命令Bを受信した結露警告手段204は、ユーザに対して警告を行う(図3:S110)。
当該警告を行う方法は、どのような方法でも構わないが、本発明の実施形態では、以下のような方法が採用される。
結露警告手段204には、所定のメモリが備えられており、当該メモリには、予めユーザ(製造者、管理者)により作成されたエラー画面が記憶されている。前記命令Bを受信した結露警告手段204は、前記メモリからエラー画面を取得して、表示受付手段201に、当該エラー画面を表示させる旨の命令Cを送信する。
当該命令Cを受信した表示受付手段201は、エラー画面を操作パネル120上に表示する。表示受付手段201がエラー画面を表示する形式は、どのような形式でも構わないが、例えば、ユーザに対して容易に視認されるように、操作パネル120の最前面に小さなウィンドウとして表示するポップアップ形式が採用される。
前記エラー画面501は、図5Aに示すように、ユーザに屈折率の測定に関して注意を促す旨のメッセージ502「測定注意」と、プリズム102に結露が発生する旨のメッセージ503「プリズムに結露が発生する可能性があります。」とが表示される。当該エラー画面501をユーザが視認することにより、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザがプリズム102に結露発生の可能性があることを認識することが可能となる。
尚、屈折率測定装置の設計上の都合により、例えば、プリズム102よりも試料皿103が大きく設計された場合、前記エラー画面501に係るメッセージ503の内容を、例えば、「プリズム及び試料皿に結露が発生する可能性があります。」と変更しても構わない。
結露発生の可能性があることを認識したユーザが、所定のキー(例えば、エラー画面確認ボタン)を押下すると、表示受付手段201が、エラー画面501の表示を解除(消去)し、試料液105の屈折率の測定に必要な画面(例えば、入力画面)を表示する。
尚、エラー画面501の表示を解除する方法は、上記の他に、結露判定手段202が結露発生の可能性があると判定した後に、その可能性がないと判定した時点であって、その時点を検知した結露警告手段204が表示受付手段201にエラー画面の表示を解除するよう構成しても構わない。当該構成では、結露発生の可能性がなくなるまで、継続してエラー画面401が操作パネル120上に表示されることになる。
結露発生の可能性があることを認識したユーザは、例えば、結露発生に対して所定の対応処理を実行する。具体的には、屈折率測定装置101の場所を変更したり、屈折率測定装置101が設置された室内の温調機を起動させて、プリズム周辺の湿度(80.0%)を所定の湿度(例えば、60.0%)まで下げたり、プリズム102または試料皿103に発生する結露水を除去したりする。このようなユーザの対応処理により、結露による試料液105の成分の変動を防止したり、結露の発生を防止したりすることになる。
さて、結露発生の可能性がないと判定された場合でも(図3:S107)、エラー画面が表示された場合でも(図3:S110)、結露判定手段202は、表示受付手段201による命令Aを受信した時点(又は、電源の投入を検知した時点)から試料液105の屈折率の測定が完了するまで、結露発生の判定を所定の周期毎に実行する(図3:S108NO→S102)。当該周期は、例えば、10秒、15秒、30秒、1分、5分、10分等であり、ユーザにより適宜設計変更される。
即ち、結露判定手段202以外の手段、例えば、表示受付手段201がユーザからプリズム102の温度の入力(測定温度の入力)とスタートキーの押下とを受け付け、温調手段205が、ペルチェ素子110とプリズム温度センサ111とを用いてプリズム102の温度を測定温度に調整し、屈折率測定手段206が、光源106と受光センサ107とを用いて試料液105の屈折率を算出(測定)している最中であっても、結露判定手段202は、前記周期毎に、プリズム102の温度と、プリズム周辺の温度と、プリズム周辺の湿度とを取得し、プリズム102に結露発生の可能性があるか否かの判定を実行する。言い換えると、試料液105の屈折率の測定が完了するまで、結露判定手段202が、継続的に結露発生を監視することになる。
従って、例えば、温調手段205が、プリズム102の温度を測定温度に調整している最中に、何らかの原因(前記温調機の調整、室内の窓、ドアの開閉、複数のユーザの室内出入り、屈折率測定装置の移動等)により、プリズム周辺の温度、プリズム周辺の湿度が変化して、プリズム102に結露発生の可能性がない環境から結露発生の可能性がある環境に移行したとしても、結露判定手段202が、随時、結露発生の判定処理を実行する。そのため、試料液105の屈折率の測定が完了するまで、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザは結露発生の可能性を随時確認することが可能となる。又、表示受付手段201がユーザからプリズム102の温度の入力(測定温度の入力)とスタートキーの押下とを受け付けている最中であっても、屈折率測定手段206が試料液105の屈折率を測定している最中であっても、同様である。
その後、試料液105の屈折率の測定が完了すると、屈折率測定手段206が、試料液105の屈折率を、表示受付手段201に送信する。表示受付手段201が操作パネル120上に当該試料液105の屈折率と、測定が完了した旨のメッセージと、完了確認ボタンとを表示する。これにより、ユーザは、試料液105の屈折率を得ることができる。
試料液105の屈折率を得たユーザが、例えば、屈折率測定装置101の電源を切断すると、電源の切断を検知した結露判定手段202は、継続していた結露発生の判定処理を完了する(図3:S108YES)。
尚、結露判定手段202が結露発生の判定処理を完了する時点は、屈折率測定装置101の電源の切断を検知した時点の他に、例えば、ユーザにより前記完了確認ボタンの押下を検知した時点等でも構わない。
尚、上述した判定処理は、前記調整値αが3.0℃と設定されている場合であったが、調整値αが5.0℃、7.0℃、10.0℃等に設定された場合であっても同様である。
図6には、試料液の種類毎に、結露が発生しない場合の試料液の屈折率と、結露が発生した場合の試料液の屈折率とを関連付けた測定結果の表を示している。尚、結露が発生しない場合の測定条件は、プリズム周辺の温度が22.0℃であり、プリズム周辺の湿度が40.0%であり、プリズムの温度が20℃である。結露が発生しない場合の露点温度は8.0℃である。又、結露が発生した場合の測定条件は、プリズム周辺の温度が25.0℃であり、プリズム周辺の湿度が90.0%であり、プリズムの温度が20℃である。結露が発生した場合の露点温度は23.0℃である。又、試料液は、シクロヘキサンと、トルエンである。
図6から明らかなように、結露が発生した場合の試料液の屈折率は、結露が発生しない場合の試料液の屈折率(以下、理想値とする)に対して異なる値を示していることが理解される。又、今回の試料液であるシクロヘキサンの屈折率と、トルエンの屈折率は、結露の発生によりそれぞれの理想値から変動し、それぞれの理想値に対して低い値となっている。試料液の種類に応じて変動の程度は異なるものの、特に、トルエンの屈折率は、結露発生により理想値に対する変動の程度が著しく、理想値に対してその測定誤差が(1.49693−1.38690)/1.49693×100=7.35%と著しくなっている。
従って、試料液の屈折率を測定する際に、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザに対してプリズムに結露発生の可能性があることを知らせることは、プリズムに結露が発生することを未然に防止するとともに、結露発生により生じる測定誤差が屈折率に含まれることを防止することとなるから、ユーザは精度の高い屈折率を得ることが可能となるのである。
このように、検出されたプリズム周辺の温度と、プリズム周辺の湿度と、プリズムの温度と、データ記憶手段のデータとに基づいて、当該プリズムに結露発生の可能性があるか否かを判定する結露判定手段と、前記結露判定手段がプリズムに結露発生の可能性があると判定した場合、警告を行う結露警告手段とを備えるよう構成している。
これにより、試料液の屈折率を測定する際に、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザはプリズムに結露発生の可能性がある環境を認識することが可能となり、その場合に対応して、結露発生に対する対応処理を実行することが可能となる。そのため、結露発生の可能性がある環境であるにも関わらず、それを知らずに、ユーザが試料液の屈折率を測定する可能性を無くし、結露発生により生じる屈折率の誤差を適切に排除することが可能となる。その結果、ユーザは、プリズムに結露が発生する前に、プリズムに対する結露発生の有無を認識し、結露に対応する誤差の含まれない屈折率、つまり、精度の高い屈折率を得ることが可能となる。
又、前記結露警告手段が、屈折率測定装置に備えられた操作パネル上にエラー画面を表示させて警告を行うよう構成することができる。
これにより、ユーザは、プリズムに結露が発生する環境であることを視覚的に確認することが可能となるため、プリズムに結露が発生する前段階で、結露の発生を容易に認識することが可能となる。そのため、ユーザは、結露発生の有無を適切に認識しながら、結露に対応する誤差の含まれない屈折率、つまり、精度の高い屈折率を得ることが可能となる。
本発明の実施形態に係る屈折率測定装置は、試料液が、水溶性である場合でも油溶性である場合でも、結露がプリズムに発生する前に、その発生をユーザに警告するよう構成しているため、試料液が結露水に混合する前に、ユーザが結露発生を認識することができ、精度の高い屈折率の測定を実現することが可能となる。
尚、本発明の実施形態では、結露判定手段が、屈折率測定装置に電源が投入されると、プリズムに結露が発生するか否かの判定を開始するよう構成したが、例えば、ユーザにより測定温度が入力された時点や、ユーザによりスタートキーが押下された時点から、結露判定手段が当該判定を開始するよう構成しても構わない。
又、本発明の実施形態では、結露警告手段が、図5Aに示すエラー画面501を採用するよう構成したが、他のエラー画面を用いて警告を行うよう構成しても構わない。例えば、他の第一のエラー画面504では、図5Bに示すように、プリズムと試料皿に結露が発生する旨のメッセージ505「プリズムに結露が発生する可能性があります。」と、結露を発生させないための対応処理506「プリズム上の結露を除去するか測定場所を変更してください。」とが表示される。
又、例えば、他の第二のエラー画面507では、図5Cに示すように、プリズムと試料皿に結露が発生する旨のメッセージ508「プリズムに結露が発生する可能性があります。」と、結露を発生させないためのユーザに対する指示509「湿度を下げてください。」とが表示される。
又、本発明の実施形態では、結露判定手段が、プリズムの温度を利用して、プリズムに結露が発生するか否かを判定するよう構成した。当該構成では、プリズムと試料皿とは物理的に接触し、当該試料皿は、プリズムから熱の伝達を受けているため、当該プリズムの温度は、試料皿の温度と同視されるから、プリズムに結露が発生するか否かの判定は、試料皿に結露が発生するか否かの判定と同視される。
一般的に、外気に対するプリズムの露出面積よりも、試料皿の露出面積の方が広く設計されているため、プリズムに結露が発生するよりも試料皿に結露が発生し易い。そのため、例えば、プリズム温度センサに代えて試料皿の温度を検出する試料皿温度センサを新たに備え、結露判定手段が、当該試料皿の温度を利用して、試料皿に結露が発生するか否かを判定するよう構成しても構わない。当該構成とすると、プリズムまたは試料皿に結露が発生する環境を迅速に判定することが出来るとともに、試料皿の結露発生の可能性をユーザに適切に知らせることが可能となる。
又、本発明の実施形態では、結露判定手段が、プリズムの温度を利用して、プリズムに結露が発生するか否かを判定するよう構成したが、当該プリズムの温度を、ユーザから入力を受け付けた測定温度に代えて、結露判定手段が、当該測定温度を利用して、プリズムに結露が発生するか否かを判定するよう構成しても構わない。温調手段は、プリズムの温度を測定温度に調整するため、当該測定温度は、プリズムの温度と同視し得るからであり、更に、プリズムに結露が発生する前段階で、ユーザは、結露発生の有無を適切に認識することが可能となる。
又、本発明の実施形態に係る結露判定手段が判定する時点は、プリズムに滴下された試料液の屈折率が測定される時点であれば、どのような時点でも構わないが、例えば、屈折率測定装置に電源が投入された時点、ユーザにより測定温度が入力された時点、予め設定されたモードである屈折率測定モードが起動した時点、ユーザにより屈折率の測定の開始が入力された時点(スタートキーが押下された時点)、予め設計された結露判定ボタンがユーザにより押下された時点等が該当する。
又、本発明の実施形態に係る結露警告手段が行う警告は、ユーザの操作により解除したり、結露判定手段が、プリズムに結露が発生しないと判定した際に解除したりするよう構成しても構わない。
又、本発明の実施形態では、屈折率測定装置が各手段を備えるよう構成したが、当該各手段を実現するプログラムを記憶媒体に記憶させ、当該記憶媒体を提供するよう構成しても構わない。当該構成では、上記プログラムを屈折率測定装置に読み出させ、その屈折率測定装置が上記各手段を実現する。その場合、上記記録媒体から読み出されたプログラム自体が本発明の作用効果を奏する。
上述した実施の形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、屈折率を利用して、試料液の糖度を算出する糖度計、試料の塩分濃度を算出する塩分濃度計にも変形・応用することが可能である。