本発明は超音波液面計に関する。
特許3378231号公報
特許4083038号公報
従来、容器底部下面に超音波トランスジューサ(超音波送受信部)を取り付け、容器底部を介して液面に向け測定用超音波を送出し、該測定用超音波が液面位置で反射して戻ってくるまでの時間を計測することにより液面レベルを知ることができるようにした超音波液面計が知られている(特許文献1、2)。超音波トランスジューサを容器に取り付ける方式には、大きく分けて2つある。その第一は、測定用超音波の容器底部に対する透過効率の最適化条件を探りやすくするため、シリコン系シート等の柔軟な弾性材料を介在させることにより、容器底部と超音波トランスジューサとを音響的に分離する方式である。また、その第二は、特許文献1のように、測定用超音波の伝達効率を高めるため、超音波トランスジューサの音響整合層と容器との間に液状グリスやカプラント等の液状物質を介在させ、超音波トランスジューサと容器とを積極的に音響結合する方式である。
上記超音波液面計においては、超音波発生のためにトランスジューサをパルス状にバースト駆動すると、そのバースト駆動による強制振動と、トランスジューサ/容器境界、あるいは容器/液体境界で生ずる反射超音波振動とが、時間的に重なり合いながら徐々に減衰してゆく。しかし、液面レベルが低い場合には、その減衰が十分に進まない上記強制振動ないし境界反射振動の残響継続期間に、液本来検出すべき液面での反射波が埋もれてしまい、液面検出精度が十分に確保できなくなる問題がある。
周知のごとく、超音波の容器底部透過効率は、超音波の周波数が容器底部の板厚固有周波数と一致している場合に最も良好となり、逆に、互いに隣りあう異次数の板厚固有周波数(隣接板厚固有周波数)の中間に超音波の周波数が位置するときに境界反射の影響が最も大となって、液面検知のS/N比を悪化させることになる。圧電セラミックなどの電気機械変換素子にて構成された超音波トランスジューサの出力はセンサ共振点で駆動されるとき出力が最大となる。そのセンサ共振点が、不幸にして隣接板厚固有周波数の中間に入る形になると、超音波トランスジューサの出力が上がる分だけ残響の影響も大きくなり、S/N比の悪化は著しくなるのである。
この場合、超音波トランスジューサの駆動周波数をセンサ共振点からシフトさせ、隣接板厚固有周波数のいずれかに一致させれば、上記残響の影響は一見問題なく解消されるように思われる。しかし、図4に示すように、上記のような測定系において残響レベルは、1対の隣接板厚固有周波数間の中央の周波数(つまり、容器底部の板厚方向の機械的反共振点:以下、板厚反共振点ともいう)で局所的に高くなるのではなく、例えば多重反射波の干渉状態、板厚の不均一や屈曲形状、塗装皮膜の形成状態、容器全体の共振特性などによって、高残響レベルとなりやすい周波数域(以下、残響懸念帯域という)が上記板厚反共振点の周囲に比較的大きく広がっている。そのため、超音波トランスジューサを前述した2つの方式のいずれで取り付けても、次のような事情により、残響によるS/N比低下が懸念されるのである。
まず、第一の方式では、容器底部と超音波トランスジューサとの音響結合に由来した、超音波トランスジューサの共振点のシフトやスプリアスは発生しにくいが、容器底部の板厚が一定以上に増大した場合、板厚固有周波数の隣接間隔が縮小し、超音波トランスジューサの共振点を挟む2つの隣接板厚固有周波数の双方が、上記の残響懸念帯域内に入ってしまう。その結果、センサ駆動点を2つの隣接板厚固有周波数のいずれに一致させても、残響によるS/N比低下が避けがたくなる。
また、第二の方式においては、容器底部の板厚に由来した固有周波数(板厚固有周波数)以外に、容器底部と超音波トランスジューサとの音響結合に由来したスプリアス特性による新たな共振点が出現する。こうしたスプリアスによる副次的な共振点と容器毎にユニークな板厚固有周波数との周波数間隔が詰まり、ここにセンサ共振点が入ると、残響懸念帯域内に上記隣接する板厚固有周波数とスプリアス周波数との双方が入ってしまい、センサ駆動点を板厚固有周波数に一致させても残響によるS/N比低下が避けがたくなる。この問題は、容器底部の板厚が増大すればやはり著しくなる。
また、容器底部近傍の溶接箇所からの副次振動や、容器内部配置物による反射波(あるいはそれに起因した容器底部板厚方向の多重反射波)が不要残響成分となってS/N比を低下させる懸念もある。
本発明の課題は、容器底部の板厚固有振動周波数がセンサ共振点に近接して位置するような測定系においても、液面検出にかかるS/N比の残響による低下を効果的に防止ないし抑制できる超音波液面計を提供することにある。
課題を解決するための手段及び発明の効果
上記の課題を解決するために、本発明の超音波液面計は、
液体を収容した容器からなる被測定系において容器底部に取り付けられるとともに、予め定められた周波数にて駆動されることにより該容器底部を介して液面に向け測定用超音波を送出し、該測定用超音波の液面反射波を受信する電気機械変換素子からなる超音波送受信部と、
超音波送受信部の素子共振周波数を包含する阻止域を有して超音波送受信部の受信回路に設けられ、該超音波送受信部の受信信号から阻止域に対応する周波数成分を減衰させる帯域阻止フィルタと、
該帯域阻止フィルタを通過後の受信信号に基づいて容器内の液面レベルを算出する液面レベル算出手段と、
液面レベル情報を出力する液面レベル情報出力手段と、
を備えたことを特徴とする。
上記本発明の構成によると、超音波送受信部の受信信号に素子共振周波数近傍の残響成分が過剰に含まれている場合も、超音波送受信部の素子共振周波数を包含する阻止域を有した帯域阻止フィルタを超音波送受信部の受信回路に設けることで該残響成分を効果的に減衰でき、液面反射波の信号が該残響成分に埋もれてS/N比が悪化する不具合を効果的に防止することができる。該効果は、容器底部の板厚が大きくなって板厚固有周波数解が素子共振周波数の近傍に密集している場合や、液面レベルが低く残響があまり減衰しないうちに反射波が超音波送受信部に返ってくるような状況下において特に顕著なものとなる。
超音波送受信部は、例えば、予め定められた駆動周波数にて測定用超音波がバースト矩形波として送出されるように駆動することができ、液面レベル算出手段は、バースト矩形波の送出から反射波が受信されるまでの伝播時間を計測し、計測された該伝播時間に基づいて液面レベルを算出するように構成できる。
また、超音波送受信部の受信信号を、上記帯域阻止フィルタを通過させるフィルタリングモードと、該帯域阻止フィルタを非通過となる非フィルタリングモードとのいずれかに切り替えるモード切り替えスイッチを設けておくことができる。帯域阻止フィルタの阻止域に対応する周波数成分が液面反射波に少なからず含まれている場合には、液面測定上有効となる液面反射波が帯域阻止フィルタの通過により却って減衰してしまい、液面レベルの検出精度を必ずしも改善できない場合がありえる。この場合、上記のようなモード切り替えスイッチを設けておくことにより、受信信号を、帯域阻止フィルタを通過させるか否かを適宜選択することができる。例えば、容器底部の板厚が所定レベルを超える場合や、容器内の液面レベルが所定レベル未満の場合など、液面反射波の信号が特に残響成分に埋もれやすくなる状況において、上記モード切り替えスイッチによりフィルタリングモードに切り替えるようにすると好都合である。
容器底部の板厚が所定レベルを超えるかどうかは、例えば外部からの入力や、あるいは、事前にメモリ登録された底部板厚を、前記所定レベルとして定められた閾値と直接比較することにより判定することができる。また、フィルタリングモードを採用するか否かを判定するための容器内の概略液面レベルは、前回の液面測定結果を記憶しておき、その値から推測したり、後述の仮液面測定により知ることができる。
次に、本発明の超音波液面計には、容器底部の板厚に固有の一連の板厚固有周波数を特定する板厚固有周波数特定手段と、一連の板厚固有周波数のうち、超音波送受信部の素子共振周波数を挟む形でこれに隣接する1対の隣接板厚固有周波数を特定する隣接板厚固有周波数特定手段と、1対の隣接板厚固有周波数を両端とする帯域を駆動回避帯域として定め、容器底部の板厚が所定レベルを超える場合に、該駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定する駆動周波数設定手段と、設定された駆動周波数にて超音波送受信部を駆動する素子駆動手段と、を設けることができる。
容器底部の板厚が大きくなれば、板厚固有周波数の隣接周波数間隔が縮小する結果、素子共振周波数(センサ共振点)を挟む1対の隣接板厚固有周波数の双方が、該素子共振周波数と関連して残響懸念帯域内に入り、液面反射信号が残響に埋もれて液面検知精度の低下につながる。しかし、上記本発明では、容器底部の板厚が大きい場合に、該残響懸念帯域内にすっぽり入る可能性のある、素子共振周波数を挟む隣接板厚固有周波数間の帯域を駆動回避帯域として定め、超音波送受信部の駆動周波数をその駆動回避帯域外に設定するようにしたから、残響レベルを低減でき、ひいては液面反射信号の残響信号に対するS/N比を向上できるので、液面検知精度を高めることができる。
本発明においては、前述の帯域阻止フィルタにより素子共振周波数近傍の残響成分が減衰し、それのみで一定のS/N比改善効果が期待できる。従って、容器内の液面レベルが十分に高く、反射波が超音波送受信部に返ってくるまでに残響がある程度減衰することが期待できる場合、つまり、液面レベルが所定レベルを超える場合は、1対の隣接板厚固有周波数のいずれかに駆動周波数を設定することで、容器底部を経て液面へ向かう超音波の透過率を高めることができ、S/N比の向上に寄与する。一方、容器内の液面レベルが低く、残響があまり減衰しないうちに反射波が超音波送受信部に返ってくることが懸念される場合、つまり、液面への所定レベル未満の場合には、超音波の透過率が多少下がっても、駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定することがS/N比の向上を図る上で有効となる。
なお、前述のモード切り替えスイッチを設ける場合は、液面レベルが所定レベル未満の場合にフィルタリングモードに切り替え、液面レベルが該所定レベルを超える場合に非フィルタリングモードに切り替えるように構成することもできる。つまり、液面レベルが高く、液面反射信号の到来時までに残響信号成分の減衰がある程度期待できる場合には、フィルタリングによる液面反射信号自体の減衰を抑制するため非フィルタリングモードを採用し、液面レベルが低く残響があまり減衰しないうちに反射波が超音波送受信部に返ってくるような場合においてのみフィルタリングモードに切り替えることで、液面反射信号に対するS/N比を液面の高低に応じてより最適化することができる。
本発明は、前述の第一の方式、すなわち、音波送受信部を、音響整合層と鋼板とのいずれよりも柔軟な高分子材料からなり圧電セラミックと容器底部との音響共振結合を抑制する共振結合抑制層(シリコーンシート等)とを介して取り付ける方式にも、また、前述の第二の方式、すなわち、超音波送受信部(トランスジューサ)の音響整合層と容器との間に液状グリスやカプラント等の液状物質を介在させ、超音波送受信部と容器とを積極的に音響結合する方式にも、いずれにも適用可能である。しかし、特に、超音波送受信部の共振点(センサ共振点)を、容器底部との音響結合によりシフトすることができない第一の方式において、容器底部の板厚が大きい場合により顕著に効果が発揮される。
この場合、駆動周波数設定手段は、底部板厚が閾値未満の場合に、駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定するように構成できる。また、上記1対の隣接板厚固有周波数と素子共振周波数との各差分のうち大きい方の値が(該差分の)閾値未満にあるかどうかにより、底部板厚が閾値未満か否かを判定することもできる。この場合は、駆動周波数設定手段は、1対の隣接板厚固有周波数と素子共振周波数との各差分のうち大きい方の値が閾値未満の場合に、駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定するものとなる。
容器底部の板厚が大きくなり、残響懸念帯域の高域側及び低域側の端が対応する隣接板厚固有周波数に及ぶと、前述のごとく、隣接板厚固有周波数のいずれかに位置するように駆動周波数を設定しても、残響による液面検出精度の低下は避けがたくなる。従って、残響の影響を低減するには、駆動周波数を隣接板厚固有周波数よりもなるべく遠ざけて設定することが有効となる。この場合、測定用超音波は、駆動回避帯域の外側にて各隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対の第二隣接板厚固有周波数のいずれか近づくと、基本周波数成分の超音波は容器底部の透過条件を充足し、残響レベルを効果的に低減できる。従って、駆動周波数設定手段は、一連の板厚固有周波数のうち、駆動回避帯域の外側にて各隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対の第二隣接板厚固有周波数のいずれかに対応する帯域に駆動周波数を設定することが望ましいといえる。なお、「第二隣接板厚固有周波数のいずれかに対応する帯域」とは、各第二隣接板厚固有周波数をそれぞれ中心周波数として、当該中心周波数の±5%の幅をなす帯域のことをいう。
駆動周波数設定手段により、実際に駆動周波数を決定するには、具体的には次のような仮測定を行なう方式を採用できる。まず、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とにより超音波送受信部をそれぞれ仮駆動することにより仮測定用超音波を送出し、それら仮測定用超音波の受信波形に現れる液面反射波の受信信号レベルの高いほうの仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する。この方式によれば、各第二隣接板厚固有周波数に対応する仮駆動周波数のうち、液面反射波の受信信号レベルの高いものが本測定用の駆動周波数として採用されるので、液面検出に直接使用する液面反射波の信号レベルを、ノイズレベルに対して引き上げることができ、S/N比の向上を図ることができる。
他方、液面検出のS/N比を向上するためには、ノイズレベルすなわち、残響レベルの低減を図ることも有効である。この場合は、次のような方式を採用することもできる。すなわち、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とのいずれかにて超音波送受信部を仮駆動することにより仮測定用超音波を送出する。その仮測定用超音波の受信波形にも液面反射波が現れるので、液面レベル算出手段により、該受信信号に基づき液面レベルを仮算出する。そして、該仮算出された液面レベルが予め定められた閾液面レベルよりも大であれば低域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定し、小であれば高域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する。すなわち、液面が比較的高い場合には超音波の減衰が少ない低域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数とし、逆に液面が低い場合には共振周波数による板厚境界での反射残響の影響が多少残っても問題ないよう、超音波の減衰の大きい高域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数とすることにより、液面検出の精度をより高めることができる。
この場合、駆動周波数設定手段は、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とのそれぞれにより超音波送受信部を仮駆動することにより仮測定用超音波を送出し、仮測定用超音波の受信波形に現れる残響信号のレベルを検出するとともに、低域側仮駆動周波数と高域側仮駆動周波数とのうち、受信波形に現れる残響信号のレベルの低いものを、液面レベルを仮算出するための仮駆動周波数として設定するように構成することができる。すなわち、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応した低域側仮駆動周波数と高域側仮駆動周波数とにより、超音波送受信部を交互に仮駆動し、その受信波形に現れる残響信号のレベルの低い方(例えば、素子共振周波数から遠い方の仮駆動周波数)を用いて再度仮駆動を行い、液面レベルを仮算出することで、本測定用の駆動周波数の決定をより妥当に行なうことができる。
また、上記の仮測定時に得られる受信信号から液面レベルを仮算出し、液面レベルの該仮算出値が所定レベル未満の場合に、前述のモード切り替えスイッチによりフィルタリングモードに切り替えるようにするとよい。
なお、駆動周波数設定手段は、容器底部の板厚が所定レベル未満の場合には、隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち素子共振周波数に近い側に位置するものに超音波送受信部の駆動周波数を設定するとよい。つまり、板厚が十分小さければ素子共振周波数を挟む隣接板厚固有周波数の間隔も広まり、隣接板厚固有周波数を残響懸念帯域の外に位置させることができるので、素子共振周波数に近い隣接板厚固有周波数の近傍に駆動周波数を設定することで、液面検出のS/N比を高めることができる。また、このとき、モード切り替えスイッチによりフィルタリングモードに切り替えるようにするとよい。
また、超音波送受信部に対して変更設定可能な駆動周波数の全帯域を複数の副帯域に分割し、超音波送受信部の受信側回路に、副帯域毎に当該副帯域に対応する通過帯域を有した複数の帯域通過フィルタが組み込んでおくこともできる。この場合、駆動周波数設定手段が設定する駆動周波数に応じて、複数の帯域通過フィルタのうち、設定された駆動周波数が属する通過帯域を有したものを切替選択するフィルタ切替手を設けておく。上記副帯域毎に帯域通過フィルタを設け、設定した駆動周波数に応じて帯域通過フィルタを対応するものに切り替え、受信信号を通過させることにより、不要な残響波や、多重反射干渉ないし倍音振動あるいは部材間の望まざる共振結合等に由来したスプリアスやノイズの影響を効果的に軽減でき、液面検知のS/N比をさらに高めることができる。
板厚固有周波数の特定方法については、容器底部の板厚が比較的正確に知れている場合は、板厚固有周波数と容器の板厚との関係を記憶する板厚/周波数関係記憶手段(例えば、種々の板厚での一連の板厚固有周波数をテーブル化し、メモリに記憶したもの)を設け、与えられた板厚に対応する板厚固有周波数を随時読み出すことで特定するようにしてもよい。他方、駆動周波数をスイープしつつ液面に向け測定用超音波板を入射したとき、受信波形に現れる残響信号が個々の板厚固有周波数にて極小化されることを利用し、板厚固有周波数特定手段を次のように構成することができる。すなわち、一連の板厚固有周波数のうち、駆動回避帯域の外側にて各隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対のものを第二隣接板厚固有周波数として、当該1対の第二隣接板厚固有周波数を包含するスイープ対象帯域を設定するとともに、駆動周波数をスイープ対象帯域内にてスイープしつつ超音波送受信部を仮駆動して種々の設定周波数の仮測定用超音波を送出し、それぞれ受信波形に現れる残響信号のレベルを検出するとともに、当該スイープ対象帯域内にて残響信号が極小化される複数の周波数を板厚固有周波数として特定する。これにより、容器底部の板厚が正確に知れていない場合にあっても、周波数スイープしたときの残響信号レベルに基づいて、素子共振周波数近傍の一連の板厚固有周波数を正確に特定することが可能となる。
また、容器底部の板厚の概略値が知れている場合、板厚固有周波数と容器の板厚との関係を記憶する前述の板厚/周波数関係記憶手段を設けておくことで、容器底部の上記概略板厚値に対応する一連の板厚固有周波数の記憶値を読み出すことで、複数の板厚固有周波数の概略位置を決定できる。この場合、板厚固有周波数特定手段は、読み出された板厚固有周波数に個々に対応する複数のスイープ実行帯域をスイープ対象帯域内に不連続に設定し、駆動周波数をそれらスイープ実行帯域毎に個別にスイープすることにより、残響信号が極小化される周波数をスイープ実行帯域毎に板厚固有周波数として特定するように構成すれば、変更設定可能な駆動周波数の全帯域をスイープせずとも一連の板厚固有周波数を正確に決定でき、測定時間の短縮を図ることができる。
本発明に係る超音波液面計の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、容器30はLPGやLNG等の液化ガスや灯油等の液体を収容するものであり、超音波液面計1は、収容された液体の液面31の容器内底面からの高さ(ひいては、液体貯蔵量)を測定するためのものである。超音波液面計1は制御回路10と超音波送受信部2とを要部とし、超音波送受信部2は容器30の底部下面に図示しないマグネット等により設置され、ケーブルCを介して制御回路10に接続されている。超音波送受信部2は、容器底部を介して液面31に向け測定用超音波PWを送出し、該測定用超音波の液面反射波RWを受信する。
容器30は鋼鉄製のタンクであり、図2に示すように、その底面に圧電素子にて構成された超音波送受信部2が、音響整合層3及びシリコーンシートからなる共振結合抑制層4を介して取り付けられている。超音波液面計1は、上記超音波送受信部2により、容器30内の液面31の高さを、容器外から測定できるように構成されている。図2には、制御回路10の電気的構成をブロック図の形で示している。超音波送受信部2は、板厚方向に分極処理された板状の圧電セラミック素子2Pと、該圧電セラミック素子2Pの各主表面を覆う形で該圧電セラミック素子2Pを挟んで対向形成された電極対2e,2eとを備える。この電極対2e,2eは、測定用超音波ビームの送信駆動時には該圧電セラミック素子2Pを超音波振動させるための駆動電圧が印加される駆動電極となり、反射超音波の受信時には圧電セラミック素子2Pの振動に伴う電気信号を出力する出力電極となる。
音響整合層3は、圧電セラミック素子(ペロブスカイト型酸化物:例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛など)よりも大きい音響インピーダンス密度を有する材料で構成することが望ましい。音響インピーダンスは材料の密度ρと音速Cとの積に音波通過断面積Sを乗じた値S・ρ・Cとして定義され、特に密度ρと音速Cとの積ρ・Cを固有音響インピーダンスないし音響インピーダンス密度と称する。このような音響整合層の構成材料としては、アルミニウムないしその合金(例えばAl−Mg系合金、Al−Mg−Cu系合金、Al−Zn−Mg系、Al−Li系合金など)、マグネシウムないしその合金(例えば、Mg−Zn系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Zr系合金など)、チタンないしその合金、ベリリウム、ステンレス鋼などの金属系材料や、共振結合抑制層よりも硬質の樹脂材料、例えばABS樹脂等を採用するのが特に好適である。これらのうち、特に、音響インピーダンス密度の値において音速Cの寄与が大きい材料(具体的には、C/(ρ・C)1/2の値が1を超える材料)を採用することが望ましい。C/(ρ・C)1/2の値は、より望ましくは1.3以上であり、これに該当する材料としてアルミニウム(1.54)、マグネシウム(1.58)、ABS樹脂(1.46)、ガラス(1.46)、ベリリウム(2.62)を例示できる。
制御回路10はマイコン100を有し、超音波送受信部2の電極対2e,2eは、切替スイッチ104及び反射超音波計測部103を介してマイコン100の入出力部99に接続されている。マイコン100は、該入出力部99と、処理主体となるCPU98、その作業エリアとなるRAM96及び制御プログラム97(超音波送受信部2の駆動制御(切替スイッチ104によるモード切替処理を含む)及び液面レベルの算出処理制御とを行なう)を格納したROM97とを有する。入出力部99には、測定された液面レベルを表示出力するモニタ94と、容器底部の板厚値の入力等に使用するキーボード95(入力部)が接続されている。なお、ROM97は、前回測定時の液面高さを記憶するための領域が設けられており、少なくともこの領域は、記憶内容が電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ(例えばEEPROMやフラッシュメモリ)で構成されている。
超音波送受信部2には、マイコン100からの指令により動作する切替スイッチ104を介して、駆動回路105と受信回路103とが接続されている。駆動回路105は、マイコン100からの制御パルス信号を受けてバーストパルス駆動信号を発生し、切替スイッチ104を介して超音波送受信部2へ出力する。駆動周波数は、マイコン100による制御パルス信号の周波数設定値に応じて変更可能である。
受信回路103は、受信信号から不要残響波等をフィルタリングするフィルタ103a、フィルタリング後の受信信号を増幅するアンプ103b、受信振動波形を包絡線検波する検波回路103c、及び、検波後の受信信号を解析し、残響信号レベルや液面反射信号レベルを特定するとともに、超音波送受信部2へのバースト矩形波の出力タイミングに対応してマイコン100から出力されるトリガ信号を受けて起動し、液面反射信号を受信するまでの伝播時間を計測する信号処理部103dを有する。
測定に際しては、マイコン100からのスイッチ制御信号により、切替スイッチ104が超音波送受信部2をバースト矩形波駆動回路105に接続し、予め定められた駆動周波数にて測定用超音波がバースト矩形波として送出されるように駆動される。駆動動作の詳細は、特許文献1,2により周知なので詳細な説明は省略する。測定用超音波の送出後は、マイコン100からのスイッチ制御信号により、切替スイッチ104が超音波送受信部2の接続状態を受信回路103側に切り替える。これにより、測定用超音波PWの液面での反射波が超音波送受信部2により受信される。
受信回路103は、受信信号から不要残響波等をフィルタリングするフィルタ103a、フィルタリング後の受信信号を増幅するアンプ103b、受信振動波形を包絡線検波する検波回路103c、及び、検波後の受信信号を解析し、残響信号レベルや液面反射信号レベルを特定するとともに、超音波送受信部2へのバースト矩形波の出力タイミングに対応してマイコン100から出力されるトリガ信号を受けて起動し、液面反射信号を受信するまでの往復伝播時間を計測する信号処理部103dを有する。計測された往復伝播時間をts、液体中の音速をCとすれば、液面レベルhは、
h=(ts/2)・C ‥ (7)
としてマイコン100により算出される。
図3は、受信回路103の構成例を示す回路図である。 超音波送受信部2に対して変更設定可能な駆動周波数の全帯域が複数、ここでは3つの副帯域に分割され、フィルタ103aは、それら各副帯域に対応する通過帯域を有した複数の帯域通過フィルタA,B,C(ここでは、各々LC型パッシブフィルタとして構成されている)を有する。そして、設定される駆動周波数に応じて、それら複数の帯域通過フィルタA,B,Cのうち、設定された駆動周波数が属する通過帯域を有したものが、マイコン98からの指令に基づき、切り換え部をなすスイッチS1,S2,S3及びトランジスタスイッチ(ここでは、フォトMOSPM1〜PM3)により切替選択されるようになっている。具体的には、フィルタ103aは、板厚約6mm〜20mmに対応した駆動周波数帯域が、550〜900kHz(フィルタC)、800〜1200kHz(フィルタB)、1100〜1500kHz(フィルタA)の3つの副帯域に割り振られ、適宜切り換えて使用される。また、増幅回路103bは、フィルタ103aを通過した周波数成分に応じた信号を所定の増幅率で増幅する。具体的には、入力信号の増幅率が、超音波送受信部2の駆動時を起点として時間に応じて大きくなるように変化させることにより、液面31の位置に応じて増幅率が調整されるように構成されている。該回路の詳細は特許文献2の図4に開示されているものとほぼ同じであるため、共通の回路素子には特許文献2と同一の符号を付与し、詳細な説明は略する。
超音波送受信部2を構成する圧電セラミック素子2Pは、駆動電圧が一定の場合、素子共振点に駆動周波数が一致しているとき、超音波送信出力が最大化されるので、超音波伝播経路上に音響インピーダンスの不連続面が存在しなければ、減衰の少ない高エネルギーの測定用超音波を発生させる観点においては、当該素子共振点近傍にて超音波を駆動することが有効である。しかし、本実施形態の超音波液面計においては、図2に示すように、超音波送受信部2がシリコーンシート等の共振結合抑制層4を介して、液体Lを収容する容器の外部に取り付けられるため、測定用超音波PWの容器底部Wの透過条件を考慮する必要がある。
容器底部の固有周波数(板厚固有周波数)fmは、容器底部を構成する板材(ここでは鋼板である)を最も効率良く超音波が透過する周波数であり、容器底部を透過する縦波音波の波長をλ、容器底部の板厚をtとすると、
t=m・λ/2 ‥(1)
あるいは、
λ=2t/m ‥(1)’
である。縦波の音速をCとすると、
fm=C/λ ‥(2)
なので、(1)’(2)より、
fm=m・C/2t ‥(3)
ここに、mは固有振動の次数を示す整数である。
板厚固有周波数は振動の次数m=1(基本振動),2(2次振動),‥,N(N次振動)にそれぞれ対応して、f1=1・C/2t,f2=2・C/2t,‥,fN=N・C/2tと周期的に出現する。従って、受信振幅の極大点も、これら板厚固有周波数に対応して周期的に出現する。板厚tが変化すれば、各次数の板厚固有周波数も(3)式に従って双曲線状に変化する。これを各次数mの値毎にt(板厚)−f(周波数)平面上に描画すれば図4のようになる。板厚固有周波数列は、(3)式に容器底部材質に応じた音速Cと次数mを代入して得られる曲線となる。板厚固有周波数のデータは、(3)式を充足する(t,fm)の組のマップとして図2のROM97内に記憶されている((3)式そのものを関数として記憶しておいてもよい)。
他方、圧電セラミック素子2Pにて構成された超音波送受信部(トランスジューサ)の出力は、センサ共振点(素子共振周波数)fRで駆動されるとき出力が最大となる。センサ共振点fRは超音波送受信部固有の既知定数であり、図2においてROM97に記憶しておくことができる。図4において、隣接する1対の板厚固有周波のちょうど中央に位置する周波数、つまり、容器底部の板厚反共振点に超音波の駆動周波数が一致するとき、容器底部と液体Lとの境界面での超音波反射が著しくなる。具体的には、測定用超音波の駆動周波数が板厚固有周波数と一致するとき超音波の反射率は最小となり、板厚反共振点と一致するときは逆に最大となる。
この境界反射波は超音波送受信部2により残響信号として検出され、該残響信号のレベルが大きいと、検出するべき液面31(図1)の反射信号を埋没させることになり、液面検知のS/N比が低下する。なお、残響レベルは、板厚反共振点のみで局所的に高くなるのではなく、例えば多重反射波の干渉状態、板厚の不均一や屈曲形状、塗装皮膜の形成状態、容器全体の共振特性などによって、高残響レベルとなりやすい周波数域(以下、残響懸念帯域という)が、図4中に破線で示すように、上記板厚反共振点の周囲に比較的大きく広がっている。
センサ共振点fRを挟んで隣接する1対の板厚固有周波数の組fk,fk+1を隣接板厚固有周波数としたとき、センサ共振点fRが、それら隣接板厚固有周波数fk,fk+1の中央に位置する板厚反共振点に一致すると、当該周波数で超音波トランスジューサの出力と境界面での超音波反射率との双方が最大化されるので、残響により液面反射信号のS/N比が大幅に悪化する。また、センサ共振点fRが板厚反共振点から若干ずれていたとしても、前述の残響懸念帯域内では、センサ共振点fRで超音波送受信部を駆動したときの残響レベルは依然高く、S/N比悪化の懸念は大きい。この場合、図4に示すように、センサ出力と超音波反射率との兼ね合いにより、センサ共振点fRと板厚反共振点とのいずれとも異なる位置で残響レベルが最大化されることもあり、注意が必要である。
この問題に対応するために、上記受信回路103には、超音波送受信部2の素子共振周波数fRを包含する阻止域を有し、該超音波送受信部2の受信信号から阻止域に対応する周波数成分を減衰させる帯域阻止フィルタ110が設けられている。本実施形態では、帯域阻止フィルタ110は、増幅回路103bの出力段に設けられており、具体的には、出力トランジスタQ3のコレクタ上の入力抵抗R15と並列に挿入されたコイルL4及びコンデンサC11からなるLC型ノッチフィルタとして構成されている。また、信号出力は出力トランジスタQ3のエミッタ側から取り出されている。該ノッチフィルタのコイルL4及びコンデンサC11の各回路定数は、その直列共振周波数(=1/{2π(LC)1/2})が素子共振周波数fRと±2%の範囲で一致するように定められている。超音波送受信部2からの増幅受信信号のコレクタ入力波形は、該ノッチフィルタを通過しつつ出力トランジスタQ3のベースに分配入力され、検波回路103cへの出力トランジスタQ3の出力信号(超音波送受信部2の増幅後の受信信号)から、素子共振周波数fRを中心周波数として、例えば該中心周波数の±5%程度の幅の帯域の信号成分を3〜5dB程度減衰させる。
また、ノッチフィルタと直列にモード切り替えスイッチS11が挿入されており、マイコン100からのスイッチ制御信号により開閉駆動される。モード切り替えスイッチS11が閉状態になるとコレクタ入力波形がノッチフィルタを通過してベース入力に分配されフィルタリングモードとなる。また、モード切り替えスイッチS11が開状態になると、ノッチフィルタ及びベース側への入力分配経路がオープンとなり、非フィルタリングモードとなる。液面レベルが低く残響があまり減衰しないうちに反射波が超音波送受信部2に返ってくるような状況下においては、フィルタリングモードを採用することにより、素子共振周波数fRを包含する一定の帯域の残響信号が上記ノッチフィルタにより減衰され、S/N比の向上に寄与する。本実施形態では、前回測定時の液面レベルを記憶しておき、該液面レベルが閾値以下に小さくなっていた場合は残響レベルの更なる低減のため前述のフィルタリングモードとなり、前回測定時の液面レベルが閾値を越えていた場合は非フィルタリングモードとなるよう、図3のモード切替スイッチS11の開閉制御を行なうようにする。
なお、図17は、帯域阻止フィルタの別実施例を採用した場合の回路図である。この回路構成では、信号出力が出力トランジスタQ3のコレクタ側から取り出され、その出力経路上に帯域阻止フィルタ110が挿入されている。該帯域阻止フィルタ110は、抵抗R21,R22と接地側に分岐するコンデンサC13とからなるT形ローパスフィルタ部と、コンデンサC11,C12と接地側に分岐する抵抗R23とからなるT形ハイパスフィルタ部とを、伝送路上に互いに並列に挿入したものであり、カットオフ周波数をローパスフィルタ部とハイパスフィルタ部とで独立に設定でき、阻止帯域の幅も比較的柔軟に設計できる利点がある。モード切替スイッチS11は該帯域阻止フィルタ110と並列なバイパス経路上に設けられており、モード切替スイッチS11が開のときフィルタリングモードとなり、閉のとき非フィルタリングモードとなる。
次に(3)式からも明らかなごとく、板厚tが比較的小さい場合(例えば、9mm以下)は、隣接板厚固有周波数fk,fk+1の周波数間隔が比較的広く、いずれの隣接板厚固有周波数fk,fk+1も残響懸念帯域の外に位置させることができる。従って、測定用超音波の駆動周波数を、隣接板厚固有周波数fk,fk+1のどちらかに一致するように設定すれば残響レベルを低減でき、液面反射信号のS/N比を良好に確保できる。しかし、板厚tが大きくなると隣接板厚固有周波数fk,fk+1が互いに接近し、残響懸念帯域内に位置するようになる。図4では、板厚tが13.3mm、センサ共振点が970kHzの場合を示しており、残響懸念帯域は、1対の隣接板厚固有周波数(fk=880kHz,fk+1=1110kHz)の各々外側に大きく広がって現れている。この場合、駆動周波数を隣接板厚固有周波数fk,fk+1のどちらかに一致させても、依然、残響懸念帯域内での駆動となるため残響レベルは十分低減されず、液面反射信号のS/N比を確保できなくなる。
そこで、隣接板厚固有周波数fk,fk+1に挟まれた周波数帯域を駆動回避帯域とし、測定用超音波の駆動周波数を、この駆動回避帯域[fk,fk+1]の外、望ましくは、隣接板厚固有周波数fk,fk+1の外にはみ出した残響懸念帯域のさらに外側に設定することで、残響レベルの低減ひいては液面反射信号のS/N比のさらなる向上を図ることができる。この場合、図5に示すように、駆動回避帯域[fk,fk+1]の外で超音波の反射率が再び極小化する第二隣接板厚固有周波数fk−1(≡fL)及びfk+2(≡fU)のいずれかに測定用超音波の駆動周波数を設定することが、液面反射信号のS/N比向上を図る上でより有効である。
図10は、図4に示す板厚t=13.3mm、センサ共振点970kHzの場合の波形測定例を示しており、左は、測定用超音波の駆動周波数をfkに設定したときの結果(上は横軸(時間)フルスケールが400μsでの表示であり、下は同じく200μsでの拡大表示である)を示す。残響レベルが大きく、液面反射信号が埋没していることがわかる。一方、図10の右は、測定用超音波の駆動周波数をfk−1に設定した場合の結果を示し、残響レベルが低減され、液面での第一反射及び第二反射の双方の信号が明確に波形に現れていることがわかる。
以下、制御プログラム(図2)による具体的な液面測定の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。まず、図11のS1において容器底部の板厚tを取得する。板厚tの値が知れていれば、これを図2のキーボード95から入力することで取得できる。また、S2では、センサ共振点fRを取得する。S3では、取得した板厚tに対応する板厚固有周波数解f1(t)、f2(t)、f3(t)、‥を板厚固有周波数テーブルから読み出すとともに、センサ共振点fRを挟む板厚固有周波数解、すなわち、隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)を特定する。
S5では、取得した板厚tが閾値t0よりも大きいかどうかを判定する。板厚tを閾値t0と直接比較して判定を行なう以外に、板厚tが大きくなるほど隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)がセンサ共振点fRに接近することを利用し、図12のS51のごとく、センサ共振点fRと各隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)との周波数差;
Δfa≡fk+1(t)−fR
Δfa≡fR−fk(t)
のうち、値の小さいものΔfuが閾値Δf0よりも小さい場合に、板厚tが閾値t0よりも大きいと判定するようにしてもよい。
板厚tが閾値t0よりも小さい場合はS7に進み、図9に示すように、隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)のうち、センサ共振点fRに近いものを駆動周波数として選択する。このとき、フィルタ103aに含まれる複数の帯域通過型フィルタA〜Cのうち、設定した駆動周波数に対応するものがスイッチ切替により選択される。一方、板厚tが閾値t0よりも大きい場合はS6に進み、本発明に特有の大板厚時駆動周波数決定処理となる。
次に、S11に進み、前回測定時の液面高さdを読み出すとともに、その値をS12で閾値d0と比較する。d<d0であればS13に進み、図3のモード切り替えスイッチS11を閉状態として、受信信号を帯域阻止フィルタ110でフィルタリングするフィルタリングモードとする。他方、S12でd>d0であれば、図3のモード切り替えスイッチS11を開状態とし、非フィルタリングモードとする。
駆動周波数が設定されればS8に進み、図6ないし図7に示すように、その受信超音波の波形に基づいて、特許文献2等にて周知の手法により液面レベルが算出される。超音波送受信素子2から送出された測定用超音波が、液面で反射されて超音波送受信部2に戻ってくる最初の受信波形ピークが第一反射エコーであり、その反射波が容器底面でもう一度反射され、さらに液面で反射されて戻ってくる2番目の受信波形ピークが第二反射エコーである。
図13は、大板厚時駆動周波数決定処理の一例を示すフローチャートである。まず、S61では、第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)のうち低域側のものを低域側仮駆動周波数fLとして、高域側のものを高域側仮駆動周波数fUとしてそれぞれ設定する(低域側仮駆動周波数fLと高域側仮駆動周波数fUとは、fk−1(t),fk+2(t)に対し、それぞれ±(fU−fL)×2%(kHz)の範囲内に収まっていれば、fk−1(t),fk+2(t)に必ずしも一致している必要はない)。S62では低域側仮駆動周波数fLにて超音波送受信部を仮駆動し仮測定用超音波を送出するとともに、該仮測定用超音波の受信波形(検波後)に現れる液面反射波の受信信号レベル(信号高さ)HLを算定する。同様に、S63では高域側仮駆動周波数fUにて超音波送受信部を仮駆動し、液面反射波の受信信号レベル(信号高さ)HUを算定する。S64,65で両者を比較し、液面反射波の受信信号レベルの高いほうの仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する(S66,S67)。いずれのステップにおいても、受信時に選択する帯域阻止フィルタを、駆動周波数に対応するものにその都度切り替える。第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)のうちに対応する仮駆動周波数fL,fUのうち、液面反射波の受信信号レベルの高いものが本測定用の駆動周波数として採用されるので、液面検出に直接使用する液面反射波の信号レベルをノイズレベルに対して引き上げることができ、S/N比の向上を図ることができる。なお、S8において算出された液面レベルにより、図3のROM97に記憶されている前回液面レベルの値を更新する。
前回測定時の液面レベルdが閾値d0よりも低い場合、今回測定時までに容器内への液体補充がなされていない限り、現在の液面レベルdも閾値d0より低い状態を継続しており、残響が十分減衰しないうちに液面反射信号が受信され、S/N比低下の要因となりうる。しかし、図11の処理の流れではd<d0のときフィルタリングモードとなり、素子共振点fR近傍の残響成分に減衰がかかるので、当該要因によるS/N比低下も効果的に防止できる。
次に、別の方式について説明する。図15は、図3の帯域阻止フィルタ110を液面レベルとは無関係に常時接続とした場合に採用可能な処理の流れを示すものである(この実施形態ではS0で帯域阻止フィルタ110を接続し、フィルタリングモードを選択する処理となっているが、モード切替スイッチS11を廃止し、フィルタリングモードがハードウェア的に固定されるようにしてもよい)。S1〜S5は図11と同じ処理流れである。S5にてt<t0のときは図11と同様にS7に進み、隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)のうち、センサ共振点fRに近いものを駆動周波数として選択する。また、S5にてt>t0のときはS11にて前回液面レベルdを読み出し、d<d0のとき、図11と同様のS6に進んで大板厚時駆動周波数決定処理となる。他方、d>d0のときは、常時フィルタリングモードとなることで素子共振点近傍の残響レベルが予め低減されていることと、液面レベルが高いため液面反射信号を受信するまでに時間がかかり、その間に一定の残響減衰が見込めることにより、この場合もS7に進み、隣接板厚固有周波数fk(t)、fk+1(t)のうち、センサ共振点fRに近いものを駆動周波数として選択する。
次に、図14は大板厚時駆動周波数決定処理の変形例を示すフローチャートである。図6は容器内の液面が比較的低い場合の、図7は同じく液面が比較的高い場合の液面反射波の受信波形を示している。液面が低い場合は当然、超音波送受信部を駆動してから液面反射信号(反射エコー)が返ってくるまでの時間t1,t2が、液面が高い場合よりも短くなる。従って、低液面の場合は、残響減衰がそれほど進まないうちに液面反射信号が返ってくることになり、仮駆動時の液面反射信号高さを正確に特定できないこともありえる。一方、別の問題として、液面が高い場合は、液体中の超音波の伝播距離が長くなり、伝播中の超音波減衰により液面反射信号レベルが低くなる問題がある。他方、液体ないし容器底部中を伝播する超音波は、超音波の波長が短くなるほど、つまり、周波数が高くなるほど減衰率が高くなることが知られている。
そこで、図14では次のように処理を行なう。まず、S601では、低域側仮駆動周波数fLと高域側仮駆動周波数fUとを同様に設定する。そして、S602及びS603では、低域側仮駆動周波数fLと高域側仮駆動周波数fUとでそれぞれ第一の仮駆動を行い、その受信波形から各残響レベルrVL及びrVUを特定するとともに、S604では、残響レベルの低いほうの仮駆動周波数を採用して第二の仮駆動を実施し、その受信波形に液面反射信号が検出されるまでの時間t1から仮液面レベルHtを算出する。S605では、該仮液面レベルHtを閾値H0と比較する。そして、仮液面レベルHtが閾値H0未満の場合は、容器底部内での残響減衰を優先し、低域側仮駆動周波数fLを本測定用の駆動周波数として設定する。他方、仮液面レベルHtが閾値H0を超える場合は、液体中での超音波の減衰がなるべく小さくなるよう、高域側仮駆動周波数fUを本測定用の駆動周波数として設定する。
なお、図11及び図15のフローチャートにおいては、。S11及びS12の処理に代え、図14のS604で決定された仮液面レベルHtが、予め定められた閾レベルH0よりも小さいか否かを判定し、Ht<H0のときS13に進んでフィルタリングモードとし、Ht>H0のとき非フィルタリングモードとするようにしてもよい。この方法であれば、今回測定時までに容器内への液体補充がなされている場合であっても、現在の概略液面レベルを確実に知った上で的確にモード切替を実施できる利点がある。
次に、板厚入力値から決定した板厚固有周波数解は、入力値が真の板厚値からずれていたり、あるいは板の屈曲や厚さ不均一の影響を受けたりして、真の板厚固有周波数解との間にずれを生じている可能性もある。そこで、駆動周波数をスイープしつつ液面に向け測定用超音波板を入射したとき、受信波形に現れる残響信号が個々の板厚固有周波数にて極小化されることを利用し、図16に示すような処理流れにより、必要な板厚固有周波数解をより精密に決定することができる。
まず、S101にて、入力された板厚値tに対応する隣接板厚固有周波数fk(t),fk+1(t)及び第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)を読み出し、図8に示すように、それらを仮固有周波数値として、周波数の高い側から順にf1,f2,f3,f4とする。そして、それら仮固有周波数値毎にスイープ範囲を、例えば個々の仮固有周波数値を中心として10〜30kHz程度の幅に設定する。f1〜f4に至る広い周波数帯域がスイープ対象帯域であり、個々の仮固有周波数値を中心とする上記各範囲がスイープ実行帯域である。なお、周波数スイープによりf1,f2,f3,f4のいずれか1つを確定した後、残余のものを板厚固有周波数テーブルを参照して決定してもよい。
そして、最初の仮固有周波数値を選択し、S102で駆動周波数を上記スイープ範囲の末端をなす初期値に設定し、S103で該駆動周波数により超音波送受信素子を駆動して残響レベルを測定する。S105で駆動周波数を1ステップ分(例えば1kHz)だけ変更し、S103に戻って残響レベルを測定する処理を繰り返す。S014で、駆動周波数の上記範囲でのスイープが干渉していればS106に進み、残響レベルが最小となる周波数を最終的な板厚固有周波数値として決定する。S108では次の仮固有周波数値を選択し、S102に戻って以下同様の処理を繰り返す。そして、S107にて、全ての板厚固有周波数値が決定されれば処理を終了する。
なお、板厚値が全く不明な場合は、センサ共振点近傍の4つの板厚固有周波数値を包含しうる適当な周波数範囲(例えば、スイープが可能な全周波数範囲でもよい)にて、第一の周波数幅(例えば10〜30kHz)にて第一の周波数スイープを行ない、残響レベルが極小となる周波数点を仮固有周波数値として決定し、個々の仮固有周波数値毎に図15と同様の方法により最終的な板厚固有周波数値決定するようにしてもよい。このとき、板厚固有周波数値の配列間隔と、音速値とから板厚値を逆算することも可能である。
本発明の超音波液面計の取り付け形態を例示する模式図。
図1の超音波液面計の電気的構成を示すブロック図。
信号処理回路の具体的構成例を示す詳細回路図。
板厚固有周波数解と板厚値との関係を示すダイアグラム。
第二隣接板厚固有周波数の概念を説明する図。
低液面レベル時の測定波形の一例を示す図。
高液面レベル時の測定波形の一例を示す図。
板厚固有周波数を精密に決定するための周波数スイープの概念図。
容器底部の板厚が比較的小さい場合の駆動周波数設定例を示す図。
本発明の作用説明図。
本発明の超音波液面計の主制御処理に係る第一例の流れを示すフローチャート。
図11の一部を置き換える変形例ステップの内容を示す図。
図11の大板厚時駆動周波数決定処理の第一例を示すフローチャート。
同じく第二例を示すフローチャート。
主制御処理に係る第二例の流れを示すフローチャート。
板厚固有周波数解を精密決定する処理の流れを示すフローチャート。
図3の信号処理回路の帯域阻止フィルタを別構成のものに置き換えた例を示す詳細回路図。
符号の説明
1 超音波液面計
2 超音波送受信部
94 モニタ(液面レベル情報出力手段)
95 キーボード(板厚固有周波数特定手段)
97 ROM(板厚/周波数関係記憶手段)
100 マイコン(板厚固有周波数特定手段、隣接板厚固有周波数特定手段、駆動周波数設定手段、液面レベル算出手段)
110 帯域阻止フィルタ
S11 モード切替スイッチ
103 モニタ(液面レベル情報出力手段)
105 駆動回路(素子駆動手段)
200 容器
L 液体
PM1,PM2,PM3 フォトMOS(フィルタ切替手段)
S1,S2,S3 スイッチ(フィルタ切替手段)