上記特許文献1に記載のように層別マッチングを行う場合、相互に組み込まれる1組の軸および軸受はそれぞれ寸法別に分けられたグループの中からランダムに選択される。この場合、各々のグループに含まれる軸もしくは軸受には所定の寸法のばらつきがあることから、選択した軸あるいは軸受の径寸法によっては、ラジアル軸受隙間の大きさが狙い寸法から大きく外れるおそれがある。
以上の事情に鑑み、本発明では、ラジアル軸受隙間が高精度に管理された流体動圧軸受装置とその製造方法、およびその製造装置を提供することを技術的課題とする。
前記課題の解決は、本発明の一の側面に係る流体動圧軸受装置により達成される。すなわち、この流体動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置において、軸部材の外周面には、軸受部材の内径寸法に対応した外径寸法を有する仕上げ加工面が設けられ、この仕上げ加工面が、軸受部材の内周面との間にラジアル軸受隙間を形成する点をもって特徴づけられる。なお、ここでいう「仕上げ加工面」は、軸部材の外周面の中で最も精密な加工(加工の前後における加工面の変化量は小さい反面、加工精度は非常に高い加工)を受けた面を意味している。もちろん、軸受部材との間にラジアル軸受隙間を形成しない外周面の他の領域が、上記ラジアル軸受隙間の形成領域(仕上げ加工面)と同程度の精密な加工を受けた面を含んでいてもよい。
上記構成に係る流体動圧軸受装置であれば、軸受部材の内径寸法に応じて、この軸受部材に組み込まれる個々の軸部材の仕上げ加工面の外径寸法が定まる。そのため、仕上げ加工面とこの面に対向する軸受部材の内周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさをばらつきを小さくして管理することができる。
この場合、仕上げ加工面は、軸受部材の内径実測値に応じて、軸部材の外周面に仕上げ加工を施すことで得られたものであってもよい。実際に組み込まれる軸受部材の内径実測値に応じて仕上げ加工面を形成することで、各流体動圧軸受装置ごとのラジアル軸受隙間の大きさを揃えて、かつ、この隙間の大きさを高精度に管理することができる。
また、前記課題の解決は、本発明の一の側面に係る流体動圧軸受装置の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置の製造方法において、軸受部材の内径寸法を実測し、この実測値に対応した外径寸法に軸部材を加工する点をもって特徴づけられる。
上記製造方法によれば、軸部材の外径寸法を、相互に組み込まれる軸受部材の内径寸法の実測値に応じて加工し仕上げることができる。そのため、これらの間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさを高精度に管理することができる。また、この方法によれば、製作した全ての軸部材と軸受部材とを流体動圧軸受装置の組立に使用することができる。そのため、製作した軸部材や軸受部材が余る事態を避けて、組立効率を高めることができる。
ここで、上記加工を行うに際し、軸部材の加工狙い寸法を、軸受部材の内径実測値に応じて個別に定めることもできる。このようにすれば、個々の軸受部材ごとに最も適した加工条件が軸部材に対して設定される。そのため、全ての軸部材を相互に組み込まれる軸受部材に合せて高精度に加工でき、この結果として得られるラジアル軸受隙間を、その狙い寸法に非常に近い大きさにすることができる。
あるいは、上記加工を行うに際し、軸受部材をその内径実測値に基づき複数の群に分類し、各群の内径実測値の分布に応じて軸部材の加工狙い寸法を群単位で定めることもできる。このようにすれば、同一の群から選択された軸受部材の内径実測値に応じて軸部材の加工を行う場合、何れも同一の加工条件で、すなわち、同一の加工狙い寸法でもって軸部材を加工することができる。そのため、個々の軸部材の外径寸法を高精度に仕上げつつも、上記加工に際し管理もしくは処理すべきデータ量を減らして、加工時間や加工コストの低減化を図ることができる。
また、以上に述べた軸部材に対する加工は、例えば研削により実施することができ、この場合、軸素材の外径実測値が加工狙い寸法に達するまで軸部材に対する研削を継続する方法を採ることができる。この方法によれば、予め軸部材の加工量(削り代)を設定して所定量だけ研削する場合に比べて高精度な加工が可能であり、これにより、狙いとする外径寸法に極めて近い大きさに軸部材を仕上げることができる。
また、前記課題の解決は、本発明の他の側面に係る流体動圧軸受装置により達成される。すなわち、この流体動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置において、軸受部材の内周面には、軸部材の外径寸法に対応した内径寸法を有する仕上げ加工面が設けられ、この仕上げ加工面が、軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成する点をもって特徴づけられる。なお、ここでいう「仕上げ加工面」は、軸部材と同様、軸受部材の内周面の中で最も精密な加工を受けた面を意味している。もちろん、軸部材との間にラジアル軸受隙間を形成しない内周面の他の領域が、上記ラジアル軸受隙間の形成領域(仕上げ加工面)と同程度の精密な加工を受けた面を含んでいてもよい。
上記構成に係る流体動圧軸受装置であれば、軸部材の外径寸法に応じて、この軸部材を組み込む個々の軸受部材の仕上げ加工面の内径寸法が定まる。そのため、仕上げ加工面とこの面に対向する軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさをばらつきを小さくして管理することができる。
この場合、仕上げ加工面は、軸部材の外径実測値に応じて、軸受部材の内周面に仕上げ加工を施すことで得られたものであってもよい。実際に組み込む軸部材の外径実測値に応じて仕上げ加工面を形成することで、各流体動圧軸受装置ごとのラジアル軸受隙間の大きさを揃えて、かつ、この隙間の大きさを高精度に管理することができる。
また、前記課題の解決は、本発明の他の側面に係る流体動圧軸受装置の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置の製造方法において、軸部材の外径寸法を実測し、この実測値に対応した内径寸法に軸受部材を加工する点をもって特徴づけられる。
上記製造方法によれば、軸受部材の内径寸法を、相互に組み込みがなされる軸部材の外径寸法の実測値に応じて加工し仕上げることができる。そのため、これらの間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさを高精度に管理することができる。また、この方法によれば、製作した全ての軸部材と軸受部材とを流体動圧軸受装置の組立に使用することができる。そのため、製作した軸部材や軸受部材が余る事態を避けて、組立効率を高めることができる。
そして、このような製造方法によっても、既に述べた対応する方法についての作用効果と同様の作用効果を得るために、軸受部材の加工狙い寸法を、軸部材の外径実測値に応じて個別に定め、もしくは、軸部材をその外径実測値に基づき複数の群に分類し、各群の外径実測値の分布に応じて軸受部材の加工狙い寸法を群単位で定めることができる。
また、以上に述べた軸受部材に対する加工は、例えば塑性加工により実施することができる。この場合、具体的には、軸受部材の加工狙い寸法に対応する外径寸法を有するピンで、軸受部材の内径寸法を矯正することができる。
このようにすれば、一般に研削等の加工が困難な軸受部材の内周面についても、比較的容易に加工を施すことができる。特に、軸受部材が焼結金属など、その内部に多数の気孔部を有する構造材料で形成される場合、上記矯正等の圧迫変形を伴う加工は有効である。
さらに、前記課題の解決は、本発明の一の側面に係る流体動圧軸受装置の製造装置によっても達成される。すなわち、この製造装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置の製造装置において、少なくとも軸受部材の内径寸法を実測する実測手段と、内径実測値に対応した外径寸法に軸部材を加工する加工手段とを備える点をもって特徴づけられる。
上記構成の製造装置によれば、軸部材の外径寸法を、相互に組み込まれる軸受部材の内径寸法の実測値に応じて加工し仕上げることができる。そのため、これらの間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさを高精度に管理することができる。また、この方法によれば、製作した全ての軸部材と軸受部材とを流体動圧軸受装置の組立に使用することができる。そのため、製作した軸部材や軸受部材が余る事態を避けて、組立効率を高めることができる。
ここで、上記製造装置は、軸受部材の内径実測値に応じて軸部材の加工狙い寸法を個別に設定する設定手段をさらに備えるものであってもよい。あるいは、軸受部材をその内径実測値に基づき複数の群に分類し、各群の内径実測値の分布に応じて軸部材の加工狙い寸法を群単位で設定する設定手段をさらに備えるものであってもよい。個別に加工狙い寸法を設定することで、軸受部材ごとに最も適した加工条件が軸部材に対して設定される。そのため、全ての軸部材を軸受部材に合せて高精度に加工でき、この結果として得られるラジアル軸受隙間をその狙い寸法に非常に近い大きさにすることができる。また、群単位で加工狙い寸法を設定することで、同一の群から選択された軸受部材の内径実測値に応じて軸部材の加工を行う場合、何れも同一の加工狙い寸法で軸部材を加工することができる。そのため、個々の軸部材の外径寸法を高精度に仕上げつつも、上記加工に際し管理もしくは処理すべきデータ量を減らして、加工時間や加工コストの低減化を図ることができる。
さらに、前記課題の解決は、本発明の他の側面に係る流体動圧軸受装置の製造装置によっても達成される。すなわち、この製造装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に配設される軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備えた流体動圧軸受装置の製造装置において、少なくとも軸部材の外径寸法を実測する実測手段と、外径実測値に対応した内径寸法に軸受部材を加工する加工手段とを備える点をもって特徴付けられる。
上記構成の製造装置によれば、軸受部材の内径寸法を、相互に組み込まれる軸部材の外径寸法の実測値に応じて加工し仕上げることができる。そのため、これらの間に形成されるラジアル軸受隙間の大きさを高精度に管理することができる。また、この方法によれば、製作した全ての軸部材と軸受部材とを流体動圧軸受装置の組立に使用することができる。そのため、製作した軸部材や軸受部材が余る事態を避けて、組立効率を高めることができる。
そして、このような製造装置においても、既に述べた対応する装置についての作用効果と同様の作用効果を得るために、軸部材の外径実測値に応じて軸受部材の加工狙い寸法を個別に設定する設定手段をさらに備えたものとすることができる。あるいは、軸部材をその外径実測値に基づき複数の群に分類し、各群の外径実測値の分布に応じて軸受部材の加工狙い寸法を群単位で設定する設定手段をさらに備えたものとすることができる。
以上のように、本発明によれば、ラジアル軸受隙間を高精度に管理した流体動圧軸受装置を提供することができる。
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図6に基づき説明する。なお、以下の説明における『上下』方向は、単に各図における構成要素間の位置関係を容易に理解するために規定したものに過ぎず、流体動圧軸受装置の設置方向や使用態様、製造方法等を特定するものではない。後述する他の実施形態に関しても同様である。
図2は、本発明の第1実施形態に係るスピンドルモータの断面図を示す。このスピンドルモータは、例えばHDDのディスク駆動モータとして用いられるもので、ハブ3を取り付けた軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4aおよびロータマグネット4bからなる駆動部4と、ブラケット5とを備えている。ステータコイル4aはブラケット5に固定され、ロータマグネット4bはハブ3に固定される。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット5の内周に固定される。また、同図に示すように、ハブ3にはディスク6(図2では2枚)が保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4aに通電すると、ステータコイル4aとロータマグネット4bとの間に発生する励磁力でロータマグネット4bが回転し、これに伴って、ハブ3に保持されたディスク6が軸部材2と一体に回転する。
図3は、流体動圧軸受装置1の断面図を示している。この流体動圧軸受装置1は、後述する本発明の第1実施形態に係る方法により製造されるもので、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7に固定され、内周に軸部材2を配設した軸受スリーブ8と、ハウジング7の一端を閉塞する蓋部材9と、ハウジングの他端開口側に配設されるシール部材10とを備える。
ハウジング7は、例えば真ちゅう等の金属材料や樹脂材料で筒状に形成され、その軸方向両端を開口した形態をなす。ハウジング7の内周面7aには、軸受スリーブ8の外周面8cが、例えば接着(ルーズ接着や圧入接着を含む)、圧入、溶着(超音波溶着やレーザ溶着を含む)など適宜の手段で固定される。また、内周面7aの下端側には、内周面7aよりも大径であって、後述する蓋部材9を固定するための固定面7bが形成される。
軸受スリーブ8は、例えば焼結金属からなる多孔質体であって円筒状に形成される。この実施形態では、軸受スリーブ8は、銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7aに接着固定される。軸受スリーブ8は、樹脂やセラミック等の非金属材料からなる多孔質体で形成することもできる。また、焼結金属等の多孔質体以外にも、内部空孔を持たない、もしくは、潤滑油の出入りができない程度の大きさの空孔を有する構造体で形成することもできる。
軸受スリーブ8の内周面8aの全面又は一部の領域には、ラジアル動圧発生部として複数の動圧溝を配列した領域が形成される。この実施形態では、例えば図4に示すように、互いに傾斜角の異なる複数の動圧溝8a1,8a2をヘリングボーン形状に配列した領域が、軸方向に離隔して2ヶ所に形成される。この実施形態では、軸受内部における潤滑油の循環を意図的に作り出す目的で、一方側(ここでは上側)の動圧溝8a1,8a2配列領域を軸方向非対称に形成している。図4に例示の形態で説明すると、軸方向中心mより上側(シール部材10側)の動圧溝8a1配列領域の軸方向寸法X1が、下側の動圧溝8a2配列領域の軸方向寸法X2よりも大きくなるように形成されている。また、図4に示すように、動圧溝8a1,8a2は、内周面8aのうち動圧溝8a1,8a2配列領域を除く部分(例えば中間領域)と同一平面上にあり、故に、互いに円周方向に隣接する動圧溝8a1,8a1間の領域や動圧溝8a2,8a2間の領域(いわゆる丘部)や、軸方向に隣接する動圧溝8a1,8a2間の領域(いわゆる帯部)が最も小径となる。
軸受スリーブ8の下端面8bの全面または一部の領域には、例えば図5に示すように、スラスト動圧発生部として、複数の動圧溝8b1をスパイラル形状に配列した領域が形成される。この動圧溝8b1配列領域は、完成品の状態では後述するフランジ部2bの上端面2b1と対向し、軸部材2の回転時、上端面2b1との間に後述する第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する(図3を参照)。
軸受スリーブ8の外周面8cには、軸方向に向けて伸びる複数の軸方向溝8c1が形成されている。これら軸方向溝8c1は、主に流体動圧軸受装置1の使用時、軸受内部空間内で潤滑油の過不足が生じた場合などに、この過不足状態を早急に適正な状態に回復する役割を果たす。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとで構成される。軸部2aの外周には、図3に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに設けられた動圧溝8a1,8a2配列領域とラジアル方向に対向するラジアル軸受面2a1が仕上げ加工面として形成されている。この図示例では、ラジアル軸受面2a1は軸方向に離隔して2ヶ所に設けられている。そして、軸部2aを軸受スリーブ8の内周に挿通した状態では、これらラジアル軸受面2a1,2a1は、内周面8aの動圧溝8a1,8a1間の領域(丘部)や、動圧溝8a1,8a2間の領域(帯部)との間にラジアル軸受隙間を形成する(図3を参照)。また、これらラジアル軸受面2a1,2a1の間には、ラジアル軸受面2a1より小径のヌスミ部2a2が設けられている。なお、上記構造の軸部材2は、種々の金属材料で形成可能であり、例えば、強度や剛性、耐摩耗性等を考慮すればステンレス鋼などの鉄鋼材料で形成したものが好ましい。
ハウジング7の下端側を閉塞する蓋部材9は、例えば金属材料あるいは樹脂材料で形成され、ハウジング7の内周下端に設けられた固定面7bに固定される。この際、蓋部材9の固定には、接着、圧入、溶着、溶接、加締めなどの既知の固定手段を用いることができる。
蓋部材9の上端面9aの全面又は一部の領域には、例えば図5と同様の配列態様(スパイラルの方向は逆)をなす動圧溝配列領域が形成される。この動圧溝配列領域(スラスト動圧発生部)は、完成品の状態ではフランジ部2bの下端面2b2と対向し、軸部材2の回転時、下端面2b2との間に後述する第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する(図3を参照)。
シール手段としてのシール部材10は、この実施形態ではハウジング7と別体に形成され、ハウジング7の上端内周に圧入、接着、溶着、溶接等任意の手段で固定される。なお、シール部材10の材質は特に問わず、多孔質材のように油漏れが生じるおそれのある材料でない限り、種々の金属材料もしくは樹脂材料等を使用することができる。
シール部材10の内周にはテーパ形状をなすシール面10aが形成されており、このシール面10aと、軸部2aの上部外周面との間にシール空間Sが形成される。潤滑油を流体動圧軸受装置1の内部に充填した状態では、潤滑油の油面は常にシール空間Sの内部に維持される。
上述の構成部品を、所定の手順および形態に組立てた後、軸受内部空間(図3中、散点模様で示す領域)に潤滑油を充填することで、完成品としての流体動圧軸受装置1を得る。流体動圧軸受装置1の内部に充満される潤滑油としては、種々の油が使用可能であるが、HDD等のディスク駆動装置用の動圧軸受装置に提供される潤滑油には、その使用時あるいは輸送時における温度変化を考慮して、低蒸発率及び低粘度性に優れたエステル系潤滑油、例えばジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)等が好適に使用可能である。
上記構成の流体動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の双方の動圧溝8a1,8a2配列領域は、軸部2aのラジアル軸受面2a1,2a1とラジアル方向に対向する。そして、上下何れの動圧溝8a1,8a2配列領域においても潤滑油が動圧溝8a1,8a2の軸方向中心mに向けて押し込まれ、その圧力が上昇する。このような動圧溝8a1,8a2の動圧作用によって、軸部材2を回転自在にラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とがそれぞれ軸方向に離隔して2ヶ所に構成される。
これと同時に、軸受スリーブ8の下端面8bに設けた動圧溝8b1配列領域とこれに対向するフランジ部2bの上端面2b1との間のスラスト軸受隙間、および蓋部材9の上端面9aに設けた動圧溝配列領域とこれに対向するフランジ部2bの下端面2b2との間のスラスト軸受隙間に、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜がそれぞれ形成される。そして、これら油膜の圧力によって、軸部材2をスラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とがそれぞれ構成される。
以下、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1の製造方法を説明する。
図1は、流体動圧軸受装置1の製造方法の特徴部分におけるフローチャートを示している。図1に示すように、この製造方法は、上記した流体動圧軸受装置1の構成部品のうち、軸部材2の製作工程に特徴を有し、軸部材2の製作工程は、軸素材形成工程S1と、軸素材12の外径仕上げ加工工程S5とを有する。このうち、外径仕上げ加工工程S5は、軸受スリーブ製作工程S2、同工程S2で製作された軸受スリーブ8の内径測定工程S3、および、この工程S3で測定された軸受スリーブ8の内径実測値に基づいて軸素材12の仕上げ加工条件、すなわち、完成品としての軸部材2の外径狙い寸法を設定する外径狙い寸法設定工程S4を経た上で実施される。以下、各工程S1〜S5を説明する。
まず、軸素材形成工程S1にて、完成品となる軸部材2に即した形状の軸素材12を形成する。軸素材12の形成手段としては種々の方法が採用でき、例えば上記材料に応じて、旋削等で軸素材12を粗成形したり、あるいは、鍛造等の塑性加工を利用して軸素材12を粗成形することもできる。上記切削加工と塑性加工とを組み合わせて軸素材12を粗成形しても構わない。あるいは、粗成形した軸素材12の外表面に対して予備的な研削加工(後述する仕上げ研削に比べて粗研削となる)を施しておいてもよい。
そして、外径仕上げ加工工程S5では、上述のようにして得た軸素材12に対して外径仕上げ加工を施すことになるが、この仕上げ加工に際しては、以下の工程S2〜S4を前もって実施しておく。
まず、軸受スリーブ製作工程S2にて、完成品としての軸受スリーブ8を製作する。ここでは、例えば軸受スリーブ8を焼結金属で形成した後、その内周面8aに、動圧溝8a1,8a2に倣った外周面形状を有するロッド状の成形型を押し付ける、いわゆる動圧溝サイジングにより、図4に示す動圧溝8a1,8a2配列領域を内周面8aに形成する。もちろん、焼結金属以外の材料で形成する場合には、切削加工や塑性加工を用いて軸受スリーブ8を形成することも可能である。
次に、工程S2にて製作された軸受スリーブ8の内径寸法を、適当な測定機器(内径測定手段)を用いて測定する(内径測定工程S3)。ここで、内径測定手段として、エアーマイクロメータやボアゲージなどを例示することができる。図3や図4に示すように、内周面8aに動圧溝8a1,8a2が形成されている場合には、円周方向に隣接する動圧溝8a1,8a1間の領域(丘部)や、軸方向に隣接する動圧溝8a1,8a2間の領域(帯部)の内径寸法を上記測定手段により測定する。
このようにして内径寸法の測定が完了した後、内径実測値は軸外径の仕上げ加工条件設定手段へと送られると共に、上記実測値に基づいて、これから外径仕上げ加工を行う軸素材12の仕上げ加工条件、ここでは軸部材2のラジアル軸受面2a1となる領域の外径狙い寸法を設定する(外径狙い寸法設定工程S4)。詳細には、仕上げ加工条件設定手段の演算処理部において、軸受スリーブ8の内径実測値から、予め設定したラジアル軸受隙間の狙い寸法を差し引いた値を軸部材2の外径狙い寸法として、対応する軸素材12の仕上げ加工条件を設定する。設定した外径狙い寸法は、後述する制御手段19に送られ、対応する軸素材12の仕上げ研削の停止基準として利用される。なお、仕上げ加工条件設定手段は、制御手段19に組み込まれていてもよく、その場合には、上記内径測定手段により実測された内径実測値が直接制御手段19に送られ、制御手段19にて、外径狙い寸法の設定がなされるように構成される。
このようにして仕上げ加工条件(外径狙い寸法)を取得した後、軸素材12に対する外径仕上げ加工を実施する(外径仕上げ加工工程S5)。この場合、外径仕上げ加工は、例えば下記の研削装置11を用いて行う。すなわち、この研削装置11は、例えば図6に示すように、軸素材12を軸方向両側から挟持し、この軸素材12を回転自在に支持するバッキングプレート13とプレッシャプレート14、軸素材12の外周面を回転自在に支持するシュー15、軸素材12を研削する砥石16、および、砥石16に連結され、砥石16を回転駆動させつつ軸素材12に対して移動させるための駆動手段17を備える。
また、研削装置11に取り付けられた軸素材12の外周面には外径測定ゲージ18が配設され、この測定ゲージ18にはゲージアンプなどの制御手段19が接続されている。これにより、制御手段19には、測定ゲージ18で測定された軸素材12の外径データが逐一送られる。また、制御手段19は、この外径データが予め外径狙い寸法設定工程S4で設定した外径狙い寸法に一致した時点で駆動手段17に向けて砥石16による研削を停止するための信号を送るように構成されている。
上記構成の研削装置11における研削加工(外径仕上げ加工)は以下の手順で行われる。まず、軸素材12および砥石16を回転させた状態で砥石16を軸素材12に接近(図6中の矢印の方向)させて軸素材12の外周面に砥石16を押し当て、主として軸部2aの外周面のうちラジアル軸受面2a1を含む領域を研削する。この際、ラジアル軸受面2a1となる領域のみを仕上げ研削するようにしても構わないし、軸部2aの全外周面を仕上げ研削するようにしても構わない。また、この際、外径測定ゲージ18により研削中の軸素材12の軸部の外径寸法(ラジアル軸受面2a1となる領域のみを仕上げ研削する場合には当該領域の外径寸法)が継続的に測定される。測定された外径データは逐一制御手段19へと送られ、制御手段19にて、先の工程S4にて設定された外径狙い寸法との大小関係が判定される。ここで、外径データが、外径狙い寸法と一致もしくは狙い寸法を僅かでも下回った時点で駆動手段17へ上記停止信号が送られ、砥石16による軸素材12の研削加工が終了する。これにより、軸部材2の少なくとも仕上げ加工面を有する領域の外径寸法が、対応する軸受スリーブ8の内径寸法に応じた大きさに仕上げられる。
上述のようにして、1個の軸受スリーブ8と、この軸受スリーブ8の内径寸法の実測値に対応した外径寸法を有する軸部材2とが得られる。よって、これら対応する軸受スリーブ8に軸部材2を組み込むことで、これらを構成部品とする流体動圧軸受装置1の組立がなされる。このようにして得られた流体動圧軸受装置1の、軸受スリーブ8の内径寸法と軸部材2の外径寸法との差は、ラジアル軸受隙間の狙い寸法もしくは当該狙い寸法に非常に近い値となる。なお、この実施形態では、軸受スリーブ8の内周面8aに図4に示す動圧溝8a1,8a2が形成されているので、実際のラジアル軸受隙間の大きさは、動圧溝8a1,8a1間の領域(丘部)の内径寸法から軸部2aのラジアル軸受面2a1の外径寸法を差し引いた値となる。
次に、本発明の第2実施形態を図7および図8に基づき説明する。
図7は、第2実施形態に係る流体動圧軸受装置1の製造方法の特徴部分におけるフローチャートを示している。図7に示すように、この製造方法は、流体動圧軸受装置1の構成部品のうち、軸受スリーブ8の製作工程に特徴を有し、軸受スリーブ8の製作工程は、軸受素材形成工程S11と、軸受素材の内径仕上げ加工工程S15とを有する。このうち、内径仕上げ加工工程S15は、軸部材製作工程S12、同工程S12で製作された軸部材2の外径測定工程S13、および、この工程S13で測定された軸部材2の外径実測値に基づいて軸受素材22の仕上げ加工条件、すなわち、完成品としての軸受スリーブ8の内径狙い寸法を設定する内径狙い寸法設定工程S14を経た上で実施される。以下、各工程S11〜S15を説明する。
まず、軸受素材形成工程S11にて、完成品としての軸受スリーブ8に即した形状の軸受素材22を製作する。この場合、軸受素材22を焼結金属で形成した後、上述した動圧溝サイジングにより、動圧溝8a1,8a2配列領域(図4を参照)を軸受素材22の内周面に形成する。なお、この動圧溝サイジングの前に、焼結体(軸受素材22)の全体形状や寸法を矯正するためのサイジングを軸受素材22に対して施しておいてもよい。
そして、内径仕上げ加工工程S15では、上述のようにして得た軸受素材22に対して仕上げ加工を施すことになるが、この仕上げ加工に際しては、以下の工程S12〜S14を前もって実施しておく。
軸部材製作工程S12では、図3に示す完成品としての軸部材2を形成する。軸部材2は、既述のように種々の方法で形成することができ、例えば、旋削等で軸素材12を粗成形した後、仕上げ研削を施すことで形成することができる。あるいは、鍛造等の塑性加工で粗成形した軸素材12に対して仕上げ研削を施すことでも形成することができる。もちろん、鋳造等の型成形により軸素材12を形成した後、仕上げ研削を施すことによっても軸部材2を形成することができる。
次に、工程S12にて製作された軸部材2の外径寸法を、適当な測定機器(外径測定手段)を用いて測定する(外径測定工程S13)。ここで、外径測定手段として、エアーマイクロメータ、レーザマイクロゲージなどを例示することができる。図3に示す形態の場合、軸部2aの外周面で最も大径となるラジアル軸受面2a1,2a1の外径寸法を上記測定手段で測定する。
このようにして外径寸法の測定が完了した後、外径実測値は軸受スリーブ内径の仕上げ加工条件設定手段へと送られると共に、上記実測値に基づいて、これから内径仕上げ加工を行う軸受素材22の仕上げ加工条件、ここでは軸受スリーブ8の内径狙い寸法を設定する(内径狙い寸法設定工程S14)。詳細には、上記仕上げ加工条件設定手段の演算処理部において、選択した軸部材2の外径実測値にラジアル軸受隙間の狙い寸法を加えた値を軸受スリーブ8の内径狙い寸法として、対応する軸受素材22の仕上げ加工条件を設定する。このようにして設定された内径狙い寸法は、後述する内径仕上げ加工工程S15にて使用するピン26の外径寸法に反映される。具体的には、例えば僅かずつ外径寸法の異なる複数のピン26を用意しておき、上記工程S14で設定された内径狙い寸法に最も近い大きさの外径寸法を有するピン26を選択して下記の仕上げ加工工程S15に使用する。あるいは、上記設定手段にて設定された加工条件(内径狙い寸法)に最も対応する外径のピン26を自動選択できるように構成するようにしてもよい。
このようにして仕上げ加工条件を取得した後、軸受素材22に対する仕上げ加工を実施する(内径仕上げ加工工程S15)。この場合、仕上げ加工は、下記のサイジング装置21を用いて行う。この仕上げ加工に用いるサイジング装置21は、例えば図8に示すように、ダイ23と、ダイ23の内側に配した軸受素材22を上下から拘束する下パンチ24と上パンチ25、および、軸受素材22の内周に配置されるピン26とを備える。
ここで、下パンチ24と上パンチ25は共にダイ23に対して挿通可能に構成されている。一方、ダイ23の内径寸法は、軸受素材22の外径寸法よりも小さく設定されており、後述のように、ダイ23を軸受素材22の外側に配した状態では、軸受素材22がダイ23に所定の締め代をもって圧入されるようになっている。
ピン26には、断面真円状をなし、かつ、その外径寸法が上記工程S14で設定された軸受スリーブ8の内径狙い寸法に等しい大きさを有するもの、もしくは、上述の如く内径狙い寸法に最も近い大きさの外径寸法を有するものが用いられる。
上記構成のサイジング装置21を用いる場合、まず、下パンチ24の上に軸受素材22を載置すると共に、上パンチ25を下降させ、下パンチ24とで軸受素材22を軸方向に挟持し拘束する。そして、軸受素材22の軸方向下方に待機させていたダイ23を上昇させ、ダイ23を軸受素材22の外周に所定の締め代をもって押し込む。これにより、軸受素材22が半径方向内側に向けて圧縮されると共に、軸受素材22の内周面がその内側に配置したピン26に押し付けられる。この結果、軸受素材22の仕上げ加工面となる領域(ここでは、図4に示す軸受スリーブ8の内周面8aに形成された動圧溝8a1,8a1間の丘部の外周面、あるいは、動圧溝8a1,8a2間の帯部の外周面)の内径寸法がピン26の外径寸法に略等しい大きさに矯正され、軸受素材22の仕上げ加工が完了する。
なお、この場合、動圧溝8a1,8a2の成形精度を優先して、先にダイ23を下降させて半径方向の拘束を解除することもでき、内径精度を優先して、先に上下パンチ24,25による拘束を解除することもできる。
上述のようにして、1個の軸部材2と、この軸部材2の外径寸法の実測値に対応した内径寸法を有する軸受スリーブ8とが得られる。よって、これら対応する軸受スリーブ8に軸部材2を組み込むことで、これらを構成部品とする流体動圧軸受装置1の組立がなされる。このようにして得られた流体動圧軸受装置1の、軸受スリーブ8の内径寸法と軸部材2の外径寸法との差は、ラジアル軸受隙間の狙い寸法もしくは当該狙い寸法に非常に近い値となる。
なお、以上の実施形態(第1および第2実施形態)では、共に1個の軸部材2もしくは軸受スリーブ8を製作する場合を説明したが、例えばこれら構成部品の製作をロット単位で行う場合に本発明を適用することも可能である。以下、その一例を第3実施形態として図9に基づき説明する。
図9は、第3実施形態に係る流体動圧軸受装置1の製造方法の特徴部分におけるフローチャートを示している。同図に示すように、この製造方法は、ロット単位で軸素材12を形成する工程S21および軸受スリーブ8を製作する工程S22と、工程S22で製作した全数の軸受スリーブ8の内径測定工程S23と、同工程S23を経た軸受スリーブ8をその内径実測値に基づき複数のグループに分類する工程S24と、この工程S24で形成された内径寸法別のグループごとに対応する軸部材2の外径狙い寸法を設定する工程S25、および、軸部材2の外径仕上げ加工工程S26を主たる工程とし、特に工程S24と工程S25を独自に有する点で、既述の第1実施形態に係る製造方法と相異する。以下、当該相異点を中心に各工程S21〜S26を説明する。
まず、軸素材形成工程S21にて、所定数の(ロット単位の数の)軸素材12を形成すると共に、軸受けスリーブ製作工程S22にて、軸素材12に対応する個数の(ロット単位の数の)軸受スリーブ8を製作する。
続いて、内径測定工程S23にて製作した全数の軸受スリーブ8の内径寸法を測定した後、この際の内径実測値に基づき、軸受スリーブ8を所定の内径幅(例えば2μm)ごとに複数のグループに分類する(寸法別グループ分け工程S24)。
そして、次工程S25にて、グループごとの内径実測値の分布に基づき、対応する軸素材12の仕上げ加工条件、ここでは軸部材2の外径狙い寸法を設定する(外径狙い寸法設定工程S25)。この場合、例えば各グループごとの内径実測値の分布に基づき内径平均値を算出し、これらグループごとに定まる内径平均値からラジアル軸受隙間の狙い寸法を差し引いた値を、グループごとの外径狙い寸法とする処理を行うための外径狙い寸法設定手段が設けられ、この設定手段によりグループごとの外径狙い寸法が設定される。なお、ここでは、グループごとの内径平均値に基づきグループごとに外径狙い寸法を定めるようにしたが、特にこの値に限ることはない。例えば中央値や最頻値など、グループごとの内径実測値の分布に基づき定まる限りにおいて、任意の統計量を外径狙い寸法の設定基準値に用いることができる。
このようにしてグループごとに外径狙い寸法を取得した後、グループを任意に選択し、選択したグループごとに定まる外径狙い寸法に応じて、軸素材12に外径仕上げ加工を施す(外径仕上げ加工工程S26)。この場合、外径仕上げ加工は、第1実施形態と同様、図6に示す研削装置11を用いて行う。よって、この場合、上記工程S25で取得した外径狙い寸法に関する情報は外径狙い寸法設定手段から制御手段19に送られると共に、研削開始に伴い、外径測定ゲージ18により測定された軸素材12の外径データは逐一制御手段19へと送られ、外径狙い寸法との大小関係が判定される。ここで、外径データが、外径狙い寸法と一致もしくは僅かでも当該狙い寸法を下回った時点で駆動手段17へ停止信号が送られる。これにより、砥石16による軸素材12の研削加工が終了し、軸部材2の外径寸法が所定の大きさに仕上げられる。
上述の工程S26を、先に選択した1のグループに含まれる軸受スリーブ8の数だけ実施することで、当該グループに含まれる数の軸受スリーブ8と、これら軸受スリーブ8と同数でかつこれらの内径寸法の実測値に対応した外径寸法を有する軸部材2とが得られる。よって、これら対応する軸受スリーブ8に軸部材2を組み込むことで、これらを構成部品とする流体動圧軸受装置1の組立がなされる。このようにして得られた流体動圧軸受装置1の、軸受スリーブ8の内径寸法と軸部材2の外径寸法との差は、ラジアル軸受隙間の狙い寸法もしくは当該狙い寸法に近い値となる。残りのグループについても同様の手順を踏むことにより、製作した全ての軸受スリーブ8と、これら軸受スリーブと同数でかつこれらの内径寸法の実測値に間接的に対応した外径寸法を有する軸部材2とが得られる。
このようにすれば、全数の軸受スリーブ8の内径測定データを管理し軸素材12の仕上げ加工にその都度使用しなくてもよいので、管理すべきデータ量が少なくて済む。また、軸受スリーブ8と軸素材12とを完全に1対1に対応させて仕上げ加工しなくても済むので、これらの部品をバッチ処理できる工程が多くなり、各部品の搬送上の取り扱いが容易となる。
また、上記第3実施形態に係る製造方法は、第2実施形態に係る製造工程に対しても同様に適用することができる。すなわち、図示は省略するが、外径測定工程S13で、製作した全数の軸部材2の外径寸法を測定した後、この際の外径実測値に基づき、軸部材2を所定の外径幅ごとに複数のグループに分類する(寸法別グループ分け工程)。そして、次の工程で、各グループごとに内径狙い寸法を設定した後、グループを選択し、選択したグループごとに設定した内径狙い寸法に応じて、軸受素材22に内径仕上げ加工を施す。この場合、内径仕上げ加工は、第2実施形態と同様、図8に示すサイジング装置21を用いて行う。
このようにすれば、上記工程を第1実施形態に係る製造方法に適用した場合と同様の作用効果を得ることができる。また、軸受素材22の内径仕上げ加工を上記サイジング装置21を用いて行う場合には、使用する(製作する)ピン26の本数がグループの数だけで済むので、ピン26の製作コストを下げることができる。
もちろん、外径狙い寸法設定工程S4,S25や内径狙い寸法設定工程S14までの全ての工程をロット単位で実施する必要はなく、例えば第1実施形態でいえば、工程S1〜S3をそれぞれロット単位で実施し、残りの工程S4,S5を単品単位で繰り返し実施するようにしてもよいし、工程S1,S2をそれぞれロット単位で実施し、残りの工程S3〜S5を単品単位で繰り返し実施するようにしてもよい。第2および第3実施形態についても同様である。また、ロット単位で内径測定工程S3を実施するのであれば、当該測定をインラインで実施することも可能である。以後の工程におけるワークの取扱い、もしくはデータ管理の簡易化のためである。
以上、本発明の第1〜第3実施形態を説明したが、本発明に係る製造方法はこれらの実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意に構成の変更が可能である。
例えば、第1実施形態に関し、研削開始前もしくは開始時に軸素材12の外径を測定し、この外径実測値と工程S4で設定した外径狙い寸法との差を加工量(削り代)として、研削を実行することもできる。この方法によれば、軸素材12の外径測定が1回で済むため、簡便な測定ゲージを用いることができる。第3実施形態についても同様の研削態様が実施可能である。
また、第2実施形態における内径仕上げ加工工程S15では、先にピン26を軸受素材22の内周に挿入しておき、然る後、ダイ23を軸受素材22に圧入する形態を採るようにしたが、特にこの形態に限る必要はない。例えば、軸受素材22の外周にダイ23を、内周にピン26をそれぞれ配置した状態で、上パンチ25を下降させ軸受素材22を軸方向に圧縮する形態を採るようにしてもよい。あるいは、ダイ23の内周に軸受素材22を配置し、然る後、ピン26を軸受素材22に圧入する形態を採るようにしてもよい。前者は内径狙い寸法よりも軸受素材22の実際の内径寸法が大きい場合に採用可能であり、後者は内径狙い寸法よりも実際の内径寸法が小さい場合にそれぞれ採用可能である。
あるいは、第2実施形態に関し、軸受素材22の内径寸法をサイジング以外の方法で矯正してもよい。特に軸受素材22を中実金属で形成する場合には、切削等による仕上げ加工が採用し易く、より高精度な内径仕上げ加工が可能となる。
また、第3実施形態のように、軸受スリーブ8を寸法別にグループ分けする場合、仕上げ加工前の軸素材12に対して外径測定を実施し、この外径実測値に基づき軸素材12を寸法別にグループ分けしてもよい。この場合、径寸法の分布が互いに近いグループの組合せを選択し、各々の組合せにおいて外径仕上げ加工工程S26を実施するようにしてもよい。これにより、軸素材12の研削量を減らして加工時間の短縮を図ることができる。
なお、以上の実施形態では、軸受スリーブ8の側に動圧溝8a1,8a2を設け、これとラジアル方向に対向する軸部材2の外周面(ラジアル軸受面2a1,2a1)を真円筒状とした場合を例示したが、軸部材2の外周面の側に動圧溝を設けることもできる。この場合、第2実施形態に準じる方法で軸受素材22に対して仕上げ加工を施すのがよい。動圧溝は必須ではなく、互いに対向する軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の外周面を共に真円筒状に形成することも可能である。この場合、軸部材2と軸受スリーブ8との間には真円流体軸受部が形成される。
また、以上の説明では、軸受スリーブ8をハウジング7等の他の構成部品と分けて形成した場合を説明したが、これらを一体に形成したものに対しても本発明を適用することはもちろん可能である。この実施態様は、第1および第3実施形態のように、軸受スリーブ8の内径実測値に応じて外径仕上げ加工を行う場合に好適である。
また、以上の説明では、軸部材2としてフランジ部2bを一体に有するものを例示したが、このことは、特にこの形態に限るとの趣旨ではない。すなわち、軸部2aの一端を半球状とし、被支持体(蓋部材9や有底筒状ハウジングの底部など)との間にいわゆるピボット軸受を構成する型の流体動圧軸受装置についても本発明を適用可能である。また、軸部材2にハブ3等を固定したもの、もしくは一体化したものに対して外径仕上げ加工を実施するようにしてもよい。この実施態様は、第2実施形態のように、軸部材2の外径寸法に基づき内径仕上げ加工を行う場合に好適である。