本発明の一実施形態について説明する。
(1.表示パネル70の構成)
図2は、本実施形態にかかる表示装置60の要部の概略構成を示すブロック図である。また、図3は、本実施形態に表示パネル70における各画素71の周辺の概略構成を示す模式図である。なお、表示パネル(表示素子)70は、駆動回路やデータ信号線、走査信号線、スイッチング素子等とともに表示装置60に備えられる。
図2に示すように、本実施形態の表示装置60は、画素71…がマトリクス状に配され
た表示パネル70と、駆動回路としてのソースドライバ61およびゲートドライバ62と、電源回路63等とを備えている。
各画素71には、図3に示すように、画素容量120およびスイッチング素子50が設けられている。
また、表示パネル70には、複数のデータ信号線SL1〜SLn(nは2以上の任意の整数を示す)と、各データ信号線SL1〜SLnにそれぞれ直交する複数の走査信号線GL1〜GLm(mは2以上の任意の整数を示す)とが設けられ、これらデータ信号線SL1〜SLnおよび走査信号線GL1〜GLmの組み合わせ毎に、画素71…が設けられている。なお、各データ信号線SL1〜SLnと各走査信号線GL1〜GLmとは必ずしも直交している必要はなく、互いに交差していればよい。
電源回路63は、ソースドライバ61およびゲートドライバ62に、表示パネル70にて表示を行うための電圧を供給し、これにより、ソースドライバ61は、表示パネル70のデータ信号線SL1〜SLnを駆動し、ゲートドライバ62は、表示パネル70の走査信号線GL1〜GLmを駆動する。
スイッチング素子50としては、例えばFET(電界効果型トランジスタ)あるいはTFT(薄膜トランジスタ)等が用いられ、スイッチング素子50のゲート電極52が走査信号線GLiに、ドレイン電極53がデータ信号線SLiに、さらに、ソース電極54が、画素容量120に接続されている。また、画素容量120の他端は、全画素71…に共通の共通信号線(共通電極線:ここでは図示せず)に接続されている。これにより、各画素71において、走査信号線GLi(iは1以上の任意の整数を示す)が選択されると、スイッチング素子50が導通し、図示しないコントローラから入力される表示データ信号に基づいて決定される信号電圧が、ソースドライバ61によりデータ信号線SLi(iは1以上の任意の整数を示す)を介して画素容量120に印加される。画素容量120は走査信号線GLiの選択期間が終了してスイッチング素子50が遮断されている間、理想的には、遮断時の電圧を保持し続ける。
図4は、表示パネル70の要部の概略構成を模式的に示す断面図である。この図に示すように、表示パネル70は、対向する2枚の基板(下部基板30および上部基板36)間に、光学変調層である媒質層35が挟持されてなる。
下部基板30および上部基板36は、例えばガラス基板等の透明な基板からなる。なお、ガラス基板の表面には、例えばアルカリイオンの浸透を防止するために保護膜(図示せず)を形成してもよい。また、媒質層35は、下部基板(画素基板)30と上部基板(対向基板)36とを、プラスチックビーズやガラスファイバースペーサ等のスペーサ(図示せず)を介して、画素領域を取り囲むようにシール剤(図示せず)によって貼り合わせ、両基板間の空隙に媒質Aを封入することにより形成される。
媒質Aとしては、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する媒質を用いることができる。本実施形態では、媒質Aとして、下記の化合物を以下に示す分量比で混合した混合物を用いた。
JC−1041xx (50.0wt%)
5CB (38.5wt%)
ZLI−4572 (11.1wt%)
ここで、JC1041xx(チッソ社製)はネマチック液晶混合体、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、アルドリッチ(Aldrich)社製)はネマチック液晶、ZLI−45
72(メルク(Merck)社製)はカイラル剤である。上記組成で調製した試料は約53℃で等方相から光学的等方相に相転移した。5CBの化学構造式を下記に示す。
下部基板30と上部基板36との間隔であるセルギャップはd11である。また、下部基板30における上部基板36との対向面側には、媒質層35に電界を印加するための電界印加手段である対向電極(第1電極)32と画素電極(第2電極)34とが絶縁膜33を介して配置される。また、下部基板30における上部基板36との対向面側には、データ信号線および走査信号線(ここでは図示せず)が形成されている。また、上部基板36における下部基板30との対向面側には、カラーフィルタ39およびブラックマトリクス(図示せず)が形成されている。なお、このブラックマトリクスは、基板面法線方向から見て走査信号線と重畳するように、走査信号線と同じ幅で形成されている。さらに、下部基板30および上部基板36における、両基板の対向面とは反対側には、それぞれ偏光板37および38が備えられている。
図1は、下部基板(第1基板)30を上部基板(第2基板)36側から見たときの、一画素の構成を示す平面図である。この図に示すように、多数の走査信号線41(41a,41b,・・・)が、下部基板30上に一定間隔を有するように互いに略平行に配列されている。また、多数のデータ信号線47(47a,47b・・・)も下部基板30上に一定間隔を有し、各走査信号線41に直交するように配列されている。また、一対の走査信号線41・41と一対のデータ信号線47・47とによって区画される領域ごとに単位画素が設けられている。なお、走査信号線41とデータ信号線47との間には、絶縁膜33(図4参照)が設けられ、走査信号線41とデータ信号線47とは互いを絶縁されている。
また、図1に示したように、スイッチング素子としてのTFT50が、走査信号線41とデータ信号線47とが交差する位置の近傍に形成されている。そして、各画素の蓄積容量(画素容量)は対向電極32と画素電極34との間で発生する。この蓄積容量は一つのフレームにデータ信号を保持させる役割をする。
共通信号線42は、一対の走査信号線41・41の間に位置し、走査信号線41と略平行な方向に延在するように設けられている。なお、走査信号線41、共通信号線42、およびデータ信号線47は、例えば、導電率の高いAl、Mo、Ti,W、Ta,Cr、Nd、Cuのうちいずれか一つの金属、または、これらのうち二つ以上の金属から構成される合金で形成される。本実施形態ではMoW合金を使用している。
また、走査信号線41の幅は、走査信号線41と共通信号線42との間の距離より小さくするよう形成されている。
画素電極34は、下部基板30の単位画素領域にそれぞれ形成される。画素電極34は、透明導電体(例えばITO、IZO、ZnOなど)からなり、角度α(本実施形態ではα=90度、ただしこれに限るものではない)の屈曲角を有するジグザグ形状の櫛歯部分が複数備えられた櫛形電極(櫛歯電極)である。ここでいう「櫛形電極」とは、図1に示すように、複数の電極(櫛歯部分34b)が、1つの電極(櫛根部分34a)から、この1つの電極(櫛根部分34a)の長手方向に対して所定の方向に伸長した電極のことをい
う。
対向電極32は、下部基板30の単位画素領域にそれぞれ形成される。ここで対向電極32は走査信号線41と同一面、すなわち下部基板30表面に、共通信号線42と導通するよう形成されている。対向電極32は、対向電極32と同様、透明導電体からなり、角度αの屈曲角を有するジグザグ形状をしている。
また、対向電極32および画素電極34は、図1に示すように、間に絶縁膜33を介して、互いの櫛歯部分が平行になるように、交互に配置されている。これにより、図1に示すように、基板面法線方向から見て2方向(第1方向49a,第2方向49b)の電界が媒質層35に印加され、媒質Aの光学異方性の方向が互いに異なるドメイン(媒質ドメイン)DM,DM’が形成されるようになっている。
また、対向電極32は、図4に示したように、基板面内方向の幅がP1となるように形成され、画素電極34は、基板面内方向の幅がP2となるように形成されている。なお、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2、および、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1は、従来のIPS方式の液晶表示素子に備えられる電極の幅よりも狭く設定されている。具体的には、従来のIPS方式の液晶表示素子では対向電極および画素電極の幅が10μm〜20μm程度であるのに対して、表示パネル70では、上記の幅P1およびP2を、1μm〜8μm(より好ましくは1μm〜5μm)としている。
また、本実施形態では、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2を、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1よりも狭く形成している。そして、画素電極34の櫛歯部分34bは、両側に隣接する対向電極32の櫛歯部分32bとそれぞれ間隔L1だけ隔たるように形成している。すなわち、櫛歯部分34bと櫛歯部分32bとの最短距離がL1となっている。なお、本実施形態では、上記の間隔L1を、セルギャップd11よりも短く設定している。
また、図1に示したように、本実施形態では、下部基板30に備えられる偏光板37と上部基板36に備えられる偏光板38とを、互いの吸収軸方向が直交し、かつ、偏光板37および38の吸収軸が、データ信号線47(47a,47b)の延在方向、走査信号線41(41a,41b)の延在方向、および、共通信号線42の延在方向に対して、垂直あるいは平行になるように配置した。
また、上部基板36の下部基板30に対向する面にはカラーフィルタ39、ブラックマトリクス40が形成されている。なお、ブラックマトリクス40は、基板面法線方向から見たときに、走査信号線41、共通信号線42、データ信号線47と重畳するように形成されている。また、ブラックマトリクス40の幅は、走査信号線41、共通信号線42、データ信号線47の幅と同じ幅で形成されている。ただし、これに限るものではなく、走査信号線41、共通信号線42、データ信号線47の幅以下であってもよい。なお、各信号線の幅は、100μm以下であることが好ましい。より詳細には、各信号線の幅は、表示パネル70の大きさや、画素71の数により異なるが、例えば、表示パネル70の対角線の長さが10インチ(25.4cm)より小さい場合には、走査信号線41の幅は15μm以下であることがより好ましく、データ信号線47の幅は8μm以下であることがより好ましい。また、表示パネル70の対角線の長さが10インチ(25.4cm)以上で、30インチ(76.2cm)より小さい場合には、走査信号線41の幅は30μm以下であることがより好ましく、データ信号線47の幅は10μm以下であることがより好ましい。また、表示パネル70の対角線の長さが30インチ(76.2cm)以上で、50インチ(127cm)より小さい場合には、走査信号線41の幅は65μm以下であることがより好ましく、データ信号線47の幅は20μm以下であることがより好ましい。
(2.表示パネル70の製造方法)
次に、表示パネル70の製造方法の一例について説明する。まず、下部基板30上に400Å〜1000Åの厚さでITO層を蒸着により形成する。次に、金属層、例えばMoW層を2500Å〜3500Åの厚さでITO層上に形成する。次に、フォトリソグラフィにより金属層の所定部分をパターニングし、走査信号線41および共通信号線42を形成する。その後、ITO層を所定の形状、例えば、図1に示すような櫛歯状にパターニングして対向電極32を形成する。ここで対向電極32の櫛歯部分32bは一定の幅P1を有し、一定の間隔L1を隔てて形成する。また、対向電極32は共通信号線42と導通するよう形成する。なお、本実施形態では上記の順序で対向電極32、共通信号線42および走査信号線41を形成したが、これに限定されるものではなく、適宜変更してもよい。例えば、金属層を形成した後、ITO層を形成してもよい。
次に、絶縁膜(ゲート絶縁膜)33を対向電極32、共通信号線42および走査信号線41上に形成する。ゲート絶縁膜33としては、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜、あるいは金属酸化膜などを用いることができる。なお、本実施形態では、ゲート絶縁膜33の厚さ(対向電極32が形成されていない部分の厚さ)を1000Å〜7500Åとした。本実施形態では、TFT50のゲート絶縁膜と、走査信号線41−データ信号線47間を絶縁する絶縁膜とを共通の絶縁膜で形成しているが、これに限るものではない。
次に、シリコン膜(結晶形態は、アモルファス、ポリシリコン、または単結晶)を蒸着した後に、所定部分をパターニングしてTFT50のチャネル層を形成する。
次に、400Å〜1200Åの厚さでITO層を蒸着により形成し、画素電極34をパターニングする。なお、本実施形態では、ゲート絶縁膜33の厚さ(対向電極32が形成されていない部分の厚さ)を1000Å〜7500Åとし、対向電極32の厚さを400Å〜1000Åとしているので、対向電極32と画素電極34との基板面法線方向の間隔は、0Å〜7100Åになっている。
次に、導電率の高い不透明金属膜を形成する。例えば、Al,Mo,Ti,W、Ta,Cr、Nd、Cuのうちいずれか1つの金属または2つ以上の金属からなる合金で形成する。なお、本実施形態ではMoW合金を使用し、厚みは3500Å〜5500Åにした。
次に、所定部分をパターニングして、データ信号線47、TFT50のドレイン電極およびソース電極を形成する。
そして、上部基板36および下部基板30を所定のセルギャップd11の間隔を保つように貼り合わせ、媒質Aを注入する。なお、媒質Aの粘性が高い場合には、例えば、媒質Aを一方の基板上に滴下等により供給した後、上部基板36および下部基板30を所定のセルギャップd11の間隔を保つように貼り合わせてもよい。
その後、上部基板36および下部基板30における、両基板の対向面とは反対側の面に、偏光板37,38をそれぞれ貼り合わせることで、表示パネル70が完成する。
(3.表示パネル70が奏する効果)
以上のように、本実施形態にかかる表示パネル70では、下部基板30における上部基板36との対向面側に、幅P1の画素電極34と幅P2の対向電極32とが絶縁膜33を介して間隔L1を隔てて設けられている。また、画素電極34および対向電極32は透明電極である。
なお、従来のIPS方式の液晶表示素子では、インプレーン電界を形成するために対向電極と画素電極との間隔をセルギャップに比べて相対的に大きくする必用があった。具体的には、セルギャップが4.5μmの場合、対向電極と画素電極との間隔を20μm程度(セルギャップの約4倍以上)にする必用があった。これに対して、表示パネル70では、セルギャップd11よりも、対向電極32の櫛歯部分32bと画素電極34の櫛歯部分34bとの間隔L1を短くしている。上記の間隔L1は、例えば、単位画素の大きさが330μm×110μmの場合、0.1μm以上5μm以下となるように形成することが好ましい。また、セルギャップd11は2μm以上20μm以下となるように形成することが好ましく、2.5μm以上12μm以下となるように形成することがより好ましい。セルギャップd11が狭くなりすぎると、製造が困難になり良品率が悪くなり製造コストが上昇してしまう。また、セルギャップd11が厚くなりすぎると、媒質Aの量が多くなり製造コストが上昇してしまう。
このような電極配置にすることにより、電極間の間隔L1を短くでき、また、従来に比べて曲率および半径の大きい放射線状のフリンジ電界が形成されるので、各電極上の領域(基板面法線方向から見て各電極と重畳する領域)における媒質Aの光学的異方性の程度の変化を誘起することができる。つまり、電界印加の際に対向電極32と画素電極34との間に形成される等電位線が、対向電極32と画素電極34の上部領域にも形成される。このため、対向電極32および画素電極34上部の媒質Aの光学的異方性の程度の変化を電界印加によって誘起することができる。したがって、表示パネル70の開口率を向上させることができる。
なお、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1および画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2は、対向電極32の櫛歯部分32b上の領域および画素電極34の櫛歯部分34b上の領域における媒質Aの光学的異方性の程度を変化させることができるように適宜設定すればよいが、従来の液晶表示装置における一般的な電極幅よりも狭く設定することが好ましい。
具体的には、従来のIPS方式の液晶表示素子では、表示に必要な電界を得るために、単位画素の大きさが330μm×110μmの場合、対向電極および画素電極の幅を10μm〜20μm程度にする必用があった。これに対して、表示パネル70では、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1、および、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2を、1μm〜8μm(より好ましくは1μm〜5μm)としている。
両電極幅をこのような幅に形成することにより、対向電極32と画素電極34との間に形成される放物線電界によって、対向電極32の櫛歯部分32b上の領域および画素電極34の櫛歯部分34b上の全ての領域(基板面法線方向から見て対向電極32の櫛歯部分32bと重畳する領域および画素電極34の櫛歯部分34bと重畳する領域)における媒質Aの光学的異方性の程度の変化を誘起させることができる。換言すれば、櫛歯部分32bおよび櫛歯部分34bの幅が狭すぎたり広くしすぎたりすると、電極上の領域に印加される電界の強さが弱くなり、電極上における全ての領域(基板面法線方向から見た領域)において、媒質Aの光学的異方性の程度の変化を誘起させることができない。
なお、両電極のそれぞれの上部に存在する全ての媒質Aの光学的異方性の程度の変化を誘起できるとは、両電極間に電界を印加した場合に描かれる図19(c)に示すような電圧透過率曲線において、透過率が最大になる印加電圧Vmaxのときに、上記両電極上の全ての領域において、媒質層35における基板面法線方向の何れかの位置で媒質Aの光学的異方性の程度が電圧無印加時と異なっていることを示す。(つまり、必ずしも、上記両電極上における全ての領域において、媒質層35における基板面法線方向の全ての位置で
光学的異方性の程度が電圧無印加時と異なっている必要はない。)
また、本実施形態では、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2を、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1よりも狭く形成しているが、これに限るものではなく、両電極の櫛歯部分の幅P1とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。ただし、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2が、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1の0.2倍〜4倍であることが好ましい。P1およびP2を上記比率にすることにより、電界印加により対向電極32の櫛歯部分32b上の領域、および、画素電極34の櫛歯部分34b上の領域における媒質Aの光学的異方性の程度を適切に変化させることができる。
また、表示パネル70では、各走査信号線41と各データ信号線47とが互いに直交するように配置され、各共通信号線42が各走査信号線41に平行に配置されている。そして、上部基板36に備えられる偏光板37と下部基板30に備えられる偏光板38とが、互いの吸収軸方向が直交し、かつ、偏光板37および38の吸収軸が、データ信号線47、走査信号線41、共通信号線42の延在方向に対して、垂直または平行になっている。
このため、データ信号線47、走査信号線41、共通信号線42の各信号線と、画素電極34および対向電極32との間に形成される電界が媒質Aにおける光学的異方性の程度の変化を誘起し、その結果、媒質Aが光学的等方性を示さなくなった場合でも、誘起された光学的異方性の方向、つまり屈折率楕円体の長軸の方向が、偏光板37および38の吸収軸と平行または垂直になるので、光漏れを抑制できる。
また、従来は光漏れを防止するために信号線(データ信号線,走査信号線,共通信号線)と電極(画素電極34,対向電極32)との間の領域をブラックマトリクスで覆い隠す必用があったが、本実施形態にかかる表示パネル70では、信号線と電極との間の領域に生じる光漏れを防止できるので、当該領域をブラックマトリクスで覆い隠す必要がない。したがって、ブラックマトリクスの幅を信号線の幅以下にすることができるので、表示パネルの開口率を向上させることができる。
なお、本実施形態では、偏光板37と偏光板38の吸収軸方向が互いに直交し、かつ、偏光板37および38の吸収軸方向が、データ信号線47、走査信号線41、共通信号線42の延在方向に対して、垂直または平行になっているが、これに限るものではない。ただし、偏光板37と偏光板38の吸収軸方向が互いに直交し、かつ、偏光板37および38の吸収軸方向が、走査信号線41,データ信号線47,共通信号線42のうちいずれか1つ以上と垂直または平行になっていることが好ましい。これにより、偏光板37と偏光板38の吸収軸方向に対して、延在方向が平行または垂直となる信号線と電極との間に生じる電界に起因する光漏れを防止できる。
また、従来のIPSモードやFFSモードを利用した液晶表示素子とは異なり、本実施形態にかかる表示パネル70では、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界印加によって光学的異方性を示す媒質を用いている。このため、従来の液晶表示素子のように配向膜によって電界無印加時における液晶分子の配向状態を規定する必要が無い。したがって、本実施形態にかかる表示パネル70では、配向膜を必ずしも必要としない。つまり、従来の液晶表示素子の製造工程において必要であったラビング工程を省略できる。
ラビング工程(ラビング配向処理)を行う場合、ポリイミドなどの高分子からなる配向膜を布などでこするために、微細な埃の発生や高圧静電気による微細放電の発生という問題がある。埃が発生すると、高精細画素電極や、成膜、露光、エッチングの繰り返しによるTFTの形成工程において、大きな障害となる。また、局部的放電が発生すると、配向膜自体の損傷、ITOなどの透明電極やTFTの断線や静電破壊などの原因になる。
これに対して、本実施形態にかかる表示パネル70では、ラビング工程を省略することができるので、埃や局部的放電が発生することがなく、上記のような問題が生じない。また、ラビング工程を省くことにより、製造費用を削減できる。
なお、表示パネル70において、上部基板36および下部基板30における互いの対向面に、配向膜(図示せず)を塗布してもかまわない。この場合、例えば、配向膜に施す配向処理(ラビング処理あるいは光配向処理方向)の方向は、上記偏光板37,38の何れか一方の吸収軸方向と一致させることが好ましい。このような配向処理を施すことにより、基板(配向膜)界面に吸着した分子を、いずれかの偏光板の吸収軸方向に配向させることができるので、黒表示時の光の漏れを軽減でき、高いコントラストを実現することができる。
また、画素電極34および対向電極32による電界印加方向に配向処理を施してもよい。この場合、配向膜近傍の分子が電界印加方向に配向しやすくなる。つまり、電界印加時に、配向処理を行わない場合に比べて配向しやすくなることにより駆動電圧を低下させることができる。ただし、本実施形態に用いる媒質Aは電界無印加時に光学的等方性を示すものであり、従来の液晶表示素子に用いられる媒質に比べて分子の相関距離(分子間での配向規制力が伝搬する距離)が短い。つまり、従来の液晶表示素子では比較的長い距離まで分子の相関があるので、基板に配向膜を形成してラビングなどの配向処理を施すと、その配向処理の影響によって液晶分子が広い範囲にわたって配向した。しかしながら、媒質Aは上記のように、従来の液晶表示素子に用いられる媒質に比べて分子の相関距離が短いので、配向膜の影響は、配向膜近傍の狭い範囲に限定される。このため、配向処理による駆動電圧の低減効果は、従来の液晶表示素子よりも小さいと考えられる。
図1の構成では、対向電極32および画素電極34は、角度(鋸歯角度)αの屈曲角を有するジグザグ形状(鋸歯形状)の櫛歯部分が複数備えられた櫛歯電極である。なお、「鋸歯形状(楔型形状)」とは、図1に示したように、櫛歯部分34bが、櫛根部分34aの長手方向に対して遠ざかる方向に、鋸歯角度αで交互に折れ曲がりながら伸長したような形状をいう。なお、上記の鋸歯は、その形状の構成単位が、「く」の字型形状を有しているとも言える。それゆえ、上記「鋸歯形状」は、鋸歯単位に相当する「く」の字成分が、櫛根部分の長手方向に対して遠ざかる方向に伸長した形状であるともいえる。また、「櫛歯部分が鋸歯形状」とは、櫛歯部分が「く」の字型形状を有するジグザグ線の形状であるともいえる。また、上記の鋸歯は、その形状の構成単位が、「V」の字の形状を有しているとも言える。それゆえ、上記「鋸歯形状」は、鋸歯単位に相当する「V」の字成分が、櫛根部分の長手方向に対して遠ざかる方向に伸長した形状であるともいえる。また、「櫛歯部分が鋸歯形状」とは、櫛歯部分が「V」の字型形状を有するジグザグ線の形状であるともいえる。
また、図1の構成では、対向電極32および画素電極34の櫛歯部分は絶縁膜33を介して互いに平行に配置されている。これにより、基板面法線方向から見て2方向(第1方向49a,第2方向49b)の電界が媒質層35に印加され、媒質Aの光学異方性の方向が互いに異なるドメイン(媒質ドメイン)DM,DM’が形成されるようになっている。
すなわち、本実施形態にかかる表示パネル70は、マトリクス状に配置された複数のデータ信号線47および走査信号線41と、上記データ信号線47と走査信号線41との各交差点に対応して設けられた少なくとも一つのTFT50(スイッチング素子)と、該TFT50に接続された櫛形状の画素電極34と、上記画素電極34の櫛歯部分34b・34b間に挿設され、上記櫛歯部分34bと咬合するように形成された櫛歯部分32bを有する対向電極32とを備え、各櫛歯部分32bと34bとがそれぞれ湾曲角(屈曲角)90度でジグザグ状(楔型形状)に折れ曲がった形状に形成されており、これによって、各
画素71内に、互いに90度の角度をなす2方向以上の電界が印加され、媒質層35に少なくとも2つのドメイン(微小領域)DM・DM’が形成されるようになっている。
このように、電界印加方向が2方向以上になるように両電極を形成することにより、媒質層35において、媒質Aの光学的異方性の方向が異なる複数の媒質ドメインを形成できる。これにより、表示パネル70の視野角特性を向上させることができる。
なお、電界印加方向が2方向以上になるように両電極を形成する場合、少なくとも2方向の電界印加方向が互いに垂直になるようにすることが好ましい。これにより、媒質Aの光学異方性の方向が互いに直交する(90度の角度をなす)媒質ドメインを形成できる。このため、表示パネル70において、各媒質ドメインにおける斜め視角の色つき現象を互いに補償しあうことが可能になる。したがって、透過率を損なうことなく、視野角特性をより向上させることができる。
また、図1に示した構成では、電界印加方向49a,49bが互いに直交しており、かつ、電界印加方向49a,49bと偏光板37,38の吸収軸方向37a,38aとの角度がいずれも45度になっている。これにより、斜め視角の色付き現象の補償度が増し、視野角特性をさらに向上させることができる。
なお、表示パネル70は、電界印加方向に配向秩序度が上昇することにより媒質Aの光学的異方性が発現し、媒質層35の透過率が変化するシャッタ型の表示パネルとして機能し得る。媒質Aの各媒質ドメインの光学的異方性が発現する方向が、両偏光板の吸収軸方向にそれぞれ±θ(度)の角度に存在するとしたときの透過率(P)は、P(%)=Sin2(2θ)より見積もられる。したがって、互いに直交する両偏光板の吸収軸方向に対して、その光学的異方性の方向が45度の角度をなす時に最大透過率が得られえる。
また、上記θが45度の時の透過率を100%とすれば、透過率がほぼ90%以上であれば人間の目には最大輝度を有していると感じられる。このため、上記θが35度<θ<55度であれば、人間の目には最大輝度を有していると感じられる。すなわち、本実施形態に示すように、電界が基板面内方向に印加される表示パネルでは、各電界印加方向49a・49bの電界印加により発生する光学的異方性の方向と、上記偏光板37,38の吸収軸方向37a,38aとがなす角度がそれぞれ約45度(45度±10度未満の範囲内、好適には45度±5度の範囲内、最も好適には45度)であり、かつ、各電界印加方向49a・49bの電界印加により発生する光学的異方性の方向が互いに約90度(90度±20度未満の範囲内、好適には90度±10度の範囲内、最も好適には90度)の角度をなすことが望ましい。
また、光学的異方性の向きが異なる2つのドメインDM・DM’の割合(面積和の割合)が1:9〜1:1(好適には、約1:1)であることが好ましい。上記比率が1:9〜1:1の範囲内である場合、目視上、色付きの改善(補償)効果が大きい。
極角±60度の範囲内での色変化(同じ画像を異なる角度から見たときの色変化(色度座標距離√{△x2+△y2}で示される色度座標変化の範囲)を、測定したところ、ドメイン分割を行わない場合に比べて、光学的異方性の向きが90度異なる2つのドメインDM・DM’の割合(DM:DM’)が1:1になるようにドメイン分割した場合には、色変化をおよそ半分程度に収めることができた。また、色変化は、上記2つのドメインの割合(DM/DM’)が1/9から1/1に向かって大きくなるのにしたがって小さくなり、1/1のときが最も小さくなった。したがって、ドメインDM・DM’の割合は1:1であることがより好ましい。
(4.表示パネル70の変形例)
また、上記した各説明においては、主に、各画素71内に、光学的異方性の方向が同じドメインが2種類設けられている場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、光学的異方性の方向が同じドメインが2種類以上設けられていてもよい。すなわち、上記したように、各ドメインにおける電界印加時における上記光学的異方性の方向と、上記偏光板37・38の吸収軸37a・38aとがなす角度は、約45度(45度±10度の範囲内)であることが好ましく、各ドメインにおける電界印加時または電界無印加時における上記光学的異方性の方向は、互いに約90度(90度±20度の範囲内)の角度をなすことが好ましいが、上記した各角度は、それぞれ独立して、45度あるいは90度からずれていても構わない。
ところで、本願発明者が検討した結果、従来の液晶材料を用いた、基板面内方向において液晶分子の配向方向を変化させて表示を行うモード(例えばIPSモードやFFSモード)において、2方向以上の電界印加方向を設ける電極配置にして、2つ以上のドメインに分割した場合、各ドメインの好適な電界印加方向は本実施形態にかかる表示パネル70とは異なることがわかった。つまり、本実施形態にかかる表示パネル70では、上記したように電界印加方向が90度であることが好ましいが、従来の液晶表示素子では、好適な角度は90度ではなく、むしろ、0度に近い方が好ましいことがわかった。この理由を、図5(a)および図5(b)を参照して以下に説明する。
図5(a)は、上記従来の液晶表示モードにおいてジグザグ形状の電極を、それぞれ湾曲角(屈曲角)90度、つまり、隣接するドメイン同士の電界印加方向が90度の角度をなすように設けた場合における液晶分子の回転を模式的に示す図である。また、図5(b)は、上記従来の液晶表示モードにおいてジグザグ形状の電極を、それぞれ、湾曲角(屈曲角)35度、つまり、隣接するドメイン同士の電界印加方向が35度の角度をなすように設けた場合における液晶分子の回転を模式的に示す図である。
前記したように透過率が最大になるためには、各ドメインにおける液晶分子は、電界の印加により45度回転する必要があり、これら液晶分子は、電界印加方向に向こうとして回転する。図5(a)に示す場合、電界印加方向と液晶分子の方向とが完全に一致しなければならず、大きな電界印加が必要となる。一方、図5(b)の場合は、45度の回転は、電界無印加時の配向方向から電界印加方向までの通過点であるため、45度までの回転にはさほど大きな電圧を必要としない。
すなわち、従来の液晶材料を用いた、面内において液晶分子の配向方向を変化させて表示を行うモード(例えばIPSモードやFFSモード)において行うドメイン分割は、互いの電界印加方向が異なってさえいればよく、90度よりもむしろ0度に近い方が有利になる。
なお、従来の液晶表示モード(例えばIPSモードの一種であるSIPS(Super In Plane Switching)モード)で配向方向と電界印加方向とを0度から少しずらしておくのは、電界印加によって液晶分子が回転する方向を2通り(時計回りまたは反時計回り)のうちのどちらかに規定するためのものであり、典型的には数度〜20度程度ずらしておけば十分である。
このように、本実施形態にかかる表示パネル70は、従来の液晶表示素子とは表示原理が全く異なっており、従来の液晶表示モード(例えばSIPSモード)における電極の最適形状は本実施形態では逆に好ましくない。
なお、対向電極32および画素電極34によって印加される電界の方向は、3方向以上
であってもよく、1方向であってもかまわない。例えば、各櫛歯部分32b・34bが、それぞれ、互いに90度の角度をなす屈曲部(鋸歯成分)32b1,32b2,…,32br・34b1.34b2,…,34br(rは電界が印加されることで、各画素71内に、電界の印加により発生する光学的異方性の方向の数を示す任意の整数)からなり、互いにほぼ直交する方向を含む3方向以上の電界が印加される構成としてもよい。
このような構成とする場合にも、偏光板37・38の吸収軸方向37a・38aが互いに直交し、吸収軸方向37a・38aと上記直交する電界印加方向とが45度の角度をなすように形成されていることが好ましい。
本願発明者等の検討によれば、このような構成によっても、透過率を損なうことなく、あらゆる方向について着色現象が抑制された視野角の広い表示パネル70を実現できることが判った。
また、図1に示した構成では、データ信号線47と画素71内においてデータ信号線47に対向するように設けられたの対向電極32との間の領域59の一部に、非表示領域が存在する。
そこで、図6に示すように、データ信号線47を図1のような直線形状とせず、画素71内の対向電極32および画素電極34の折れ曲がり(櫛歯部分)と平行になるように、ジグザグ形状としてもよい。これにより、領域59に生じる非表示領域の面積を大幅に減少させることができる。
ただし、データ信号線47をジグザグ形状にした場合、非表示領域の面積を減少させることができるものの、データ信号線47が偏光板37,38の吸収軸方向37a,38aと平行あるいは垂直ではなくなる。このため、データ信号線47と画素における電極(画素電極34または対向電極32)との間に形成される電界が、媒質Aの光学的異方性の程度の変化を誘起し、その結果、光漏れが生じてしまう。したがって、データ信号線47をジグザグ形状にする場合には、閾値(光学的異方性の程度の変化が生じるときの電圧値)の大きい媒質を用いることが好ましい。閾値が大きいと、媒質Aの光学的異方性の程度の変化に必要な電界強度が大きくなるので、データ信号線47と画素における電極間に発生する電界によって、媒質の光学的異方性の程度の変化が誘起されにくくなり、光漏れが生じにくくなる。
なお、データ信号線47をジグザグ形状にする構成に限らず、走査信号線(ゲート信号線)41や共通信号線42をジグザグ形状としてもよい。
また、本実施形態では、対向電極32および画素電極34がデータ信号線47に沿って設けられているが、これに限るものではない。例えば、対向電極32および画素電極34を走査信号線41に沿って配置してもよい。また、共通信号線42は、データ信号線47と平行になるように配置してもよい。また、走査信号線41を、対向電極32および画素電極34の櫛歯部分の折れ曲がりと平行となるようにジグザグ形状に形成してもよい。なお、走査信号線41をジグザグ形状にする場合、図6に示したデータ信号線47をジグザグ形状にする場合と同様、閾値の大きい媒質Aを用いることが好ましい。
ここで、共通信号線42をデータ信号線47と平行に形成する場合の製造方法の一例について説明する。
まず、導電率の高い金属(例えば、MoW)を下部基板30上に蒸着した後に所定部分をパターニングして走査信号線41を形成する。その後、シリコン窒酸化膜、シリコン窒
化膜、非晶質シリコン層などを蒸着した後に所定部分をパターニングする。その後、ITOを蒸着後、所定部分をパターニングして対向電極32を形成する。
次に、導電率の高いアルミニウムを含む金属膜を蒸着により形成し、所定部分をパターニングしてデータ信号線47および共通信号線42を形成する。このとき、共通信号線42は対向電極32と導通するように形成する。また、データ信号線47と共通信号線42との間隔は、データ信号線47の幅よりも広くなるように形成する。データ信号線47と共通信号線42との間隔をデータ信号線47の幅よりも広くすることにより、両信号線42・47間の導通を抑制することができる。
次に、保護膜を形成後に、ITOを蒸着し、所定部分をパターニングして画素電極34を形成する。
なお、この製造方法では、走査信号線41を表示パネル形成工程における初期に形成している。このため、走査信号線41は、表示パネル形成工程全般において、温度に対する耐久性を満たす必要がある。つまり、走査信号線41を、耐熱性に優れた金属(例えばMoWなど)で形成する必要がある。一方、共通信号線42およびデータ信号線47は表示パネル形成工程の後半工程で形成するので、走査信号線41に用いた金属よりも、耐熱性の劣る金属を用いることができる。このため、共通信号線42およびデータ信号線47の材料として、例えば、走査信号線41の材料に比べて耐熱性には劣るものの、導電性のより優れた金属(例えばアルミニウムなど)を用いることができる。導電率の高い金属で共通信号線42を形成することにより、共通信号線42の線幅をより小さくすることができる。これにより、単位画素あたりの共通信号線42の面積を減少させることができ、透過率を向上させることができる。
また、図1に示した構成では、走査信号線41と共通信号線42との間隔を、走査信号線41の幅よりも大きくなるように形成している。このように、走査信号線41と共通信号線42との間隔を大きくとることにより、走査信号線41と共通信号線42との間の導通を抑制することができる。
また、図1の構成では、対向電極32および画素電極34の櫛歯部分をジグザグ形状にしているが、これに限るものではない。例えば、図7に示すように、対向電極32および画素電極34の櫛歯部分が直線状であってもよい。また、図6に示す構成では、共通信号線42が隣接する走査信号線41・41のほぼ中間の位置に各走査信号線41と略平行に配置されており、対向電極32の櫛歯部分32bが共通信号線42から上記各走査信号線41の方向に延在するように設けられているが、これに限るものではない。
例えば、図8に示すように、共通信号線42が隣接する画素を駆動するための走査信号線41に近い位置に設けられ、対向電極32の櫛歯部分32bが共通信号線42から当該共通信号線42に対応する画素を駆動するための走査信号線41側に延在するように設けられていてもよい。
また、図9に示すように、各櫛歯部分32bの先端部分同士が接続部分32cによって接続され、各櫛歯部分34bの先端部分同士が接続部分34cによって接続されていてもよい。
また、隣接する対向電極32の櫛歯部分32b同士の間隔L2は、画素電極34の櫛歯部分34bの幅P2と同じであっても異なっていてもよい。また、隣接する画素電極34の櫛歯部分34b同士の間隔L3は、対向電極32の櫛歯部分32bの幅P1と同じであってもよく、異なっていてもよい。
また、図4に示した構成では、基板面法線方向から見て画素電極34と対向電極32とが重畳しないように設けられているが、これに限るものではない。例えば、基板面法線方向から見たときに、画素電極34の一部または全部が対向電極32と重畳するように形成してもよい。
つまり、対向電極32は、櫛歯形状でなくてもよい。例えば、図10に示すように、対向電極32を単位画素の面積よりも面積の小さい四角形としてもよい。
図11(a)および図11(b)は、例えば図10の構成のように、基板面法線方向から見たときに、画素電極34を対向電極32とが重畳するように両電極を形成した場合の一例を示す断面図であり、図11(a)は電界無印加時の状態、図11(b)は電界印加時の状態を示している。
図11(b)に示すように、画素電極34を基板面法線方向から見て対向電極32に重畳するように形成した場合にも、従来の両電極を同じ層に配置した構成に比べて、曲率および半径の大きい放射線状のフリンジ電界を形成でき、電極上の領域における媒質Aの配向変化を誘起することができる。つまり、電界印加の際に対向電極32と画素電極34との間に形成される等電位線が、対向電極32と画素電極34の上部領域にも形成される。これにより、対向電極32と画素電極34の上部の領域における媒質Aの光学的異方性の程度の変化を電界印加によって誘起することができる。
なお、対向電極32を図10に示した形状にした場合、表示パネル70の最大透過率は概ね4%程度であり、従来の一般的な表示装置よりも透過率が向上した。このことは、図10に示した構成でも、両電極間に電界を印加することにより、両電極間に電気力線が発生することを示している。つまり、基板面法線方向から見て対向電極32と画素電極34とが重畳するように両電極を配置することで、電界印加の際に画素電極34と対向電極32との間に形成される等電位線が、画素電極34および対向電極32の上部の領域にも形成される。このため、画素電極34および対向電極32の上部の領域における媒質Aの光学的異方性の程度の変化を電界印加により誘起することができる。したがって、対向電極32を櫛歯状に形成した場合とほぼ同様な領域に等電位線が形成されるので、対向電極32を櫛歯状に形成した場合と同様の効果が得られる。
また、図11(a)および図11(b)のように、基板面法線方向から見たときに、画素電極34と対向電極32とが重畳するように両電極を形成する場合にも、走査信号線41と共通信号線42との間の距離を、走査信号線41の幅より大きくすることが好ましい。走査信号線41と共通信号線42との間の距離を大きくとることにより、両信号線間の導通を抑制することができる。
また、対向電極32の形状は、上記四角形や櫛歯形状に限定されるものではなく、対向電極32が備えられる各画素の媒質Aに適切に電界を印加できるように、適宜変更してもよい。
例えば、データ信号線47がジグザグ形状の場合には、図12に示すように、対向電極32におけるデータ信号線47と対向する辺の形状を、データ信号線47の形状に沿った形状としてもよい。また、走査信号線41がジグザグ形状の場合には、図13に示すように、対向電極32における走査信号線41と対向する辺の形状を、走査信号線41の形状に沿った形状としてもよい。
また、図14に示すように、画素電極34の櫛歯部分34bを直線形状とし、対向電極
32を矩形形状としてもよい。また、図15に示すように、図14に示した構成において、画素電極34の櫛歯部分34bの先端同士が接続部分34cによって接続された形状にしてもよい。また、図16に示すように、共通信号線42をデータ信号線47に平行に配置してもよい。
なお、上記した各構成において、画素電極34の配置および形状と対向電極32の配置および形状とを入れ替えた構成としてもよい。
また、本実施形態では、ブラックマトリクス40を上部基板36側に設けているが、これに限るものではなく、下部基板30側に設けてもよい。例えば、データ信号線47の上側(上部基板36側)に絶縁膜を形成し、さらにその上にデータ信号線47を覆うようにしてブラックマトリクス40を形成してもよい。上部基板36側にブラックマトリクスを形成する場合、下部基板30との貼り合わせの精度が低い場合には、ある程度のマージンが必要になり、その分、開口率が低下してしまう。これに対して、下部基板30側にブラックマトリクスを形成する場合には、貼り合わせマージンの部分を無くすことができるので、その分、開口率を向上させることができ、透過率を向上させることができる。
また、本実施形態では、下部基板30に対向電極32および画素電極34を備えているが、これに加えて、上部基板36に基板面を覆うようにシールド電極(第3電極)を形成してもよい。
図17(a)〜図17(e)は、上部基板36にシールド電極31を設ける場合の構成例を示す断面図である。図17(a)に示す例では、図11に示した構成に加えて、上部基板36における下部基板30との対向面側に、カラーフィルタ39を覆うようにシールド電極31が備えられている。図17(b)に示す例では、上部基板36とカラーフィルタ39との間にシールド電極31が備えられている。図17(c)に示す例では、上部基板36における下部基板30との対向面とは反対側の面に、偏光板37を覆うようにシールド電極31が備えられている。図17(d)に示す例では、上部基板36と偏光板37との間にシールド電極31が備えられている。
また、図17(a)〜図17(d)の例では、上部基板36側にのみシールド電極31が設けられているが、これに限らず、下部基板30側にもシールド電極を設けてもよい。例えば、図17(e)に示すように、下部基板30における上部基板36との対向面とは反対側の面にシールド電極31を設けてもよい。シールド電極31を両基板に設けることにより、より一段と顕著なシールド効果を発揮できる。なお、図17(e)の例では、偏光板38を覆うようにシールド電極31を設けているが、これに限らず、例えば下部基板30と偏光板38との間にシールド電極31を備えてもよい。
なお、シールド電極31としては、例えばITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO)等の透明電極材料等の電極材料を用いることが好ましい。図17(a)〜図17(e)の例では、シールド電極31としてITOを用い、厚さを0.3μmとした。ただし、電極材料および厚さは単なる一例であり、これに限定されるものではない。
図17(a)〜図17(e)の構成において、シールド電極31の電位をGND電位、つまり、電界無印加状態における対向電極32および画素電極34と同じ電位にしたところ、輝度の変動を、シールド電極31を設けない構成よりも抑制することができた。
これは、シールド電極31を設けていない表示パネルの場合、静電気がセル内に影響し、静電気に媒質Aが応答してしまって輝度の変動が生じる場合があったが、図17(a)
〜図17(e)のようにシールド電極31を設けることにより、外部からの静電気をシールドし、静電気に起因する上述のような問題を抑制することができたものと考えられる。
実際、表示パネル70にシールド電極31を設けない場合、例えば、静電気を帯びた物体を表示パネル70に接触させると、特に黒表示時に光漏れが発生し、コントラストの低下といった表示不良が発生したが、シールド電極31を設けた場合、上記した問題は生じなかった。
なお、シールド電極31は、必ずしもゼロ電位である必要はなく、一定の電位に固定されている状態にあれば、上記のようなシールド効果が得られる。例えば、表示パネル70に備えられる他の電極や信号線との電気的接続が完全に切断された電気的に完全にフローティングな状態にすればよい。また、シールド電極31を、GND電位に固定(接続)することで、上記のようなシールド効果を増大させることができる。
また、表示パネル70に、シールド電極31を設けることで、温度ムラによる表示不均一についても抑制することができる。以下にこの理由を説明する。
温度ムラが発生してしまう要因としては、外部環境および表示パネルの光源(バックライト)および表示パネルの形状が考えられる。特に、外部環境は表示装置の設計に拘らず変動する要因であるために、特別の対策が必要である。対策としては、表示パネルの外側(最表面)に電気伝導物質を設けることが最も効果的であった。
表示パネル70において、例えば、媒質Aとして5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、アルドリッチ(Aldrich)社製)を用い、媒質Aをネマチック−等方相相転移直上近傍の温度に保ち、表示を行う場合を考える。この場合、少なくとも±0.1Kの範囲に温度制御しなければ、透過率が大きく変動する。
つまり、電界印加による光学的異方性は、
Δn=λ・Bk・E2 …(3)
で表される。なお、λは真空中での入射光の波長(m)、Bkはカー定数(m/V2)、Eは印加電界強度(V/m)である。
カー定数Bkは、温度(T)の上昇とともに1/(T−Tni)に比例する関数で減少することが知られている。このため、カー定数Bkは、表示パネルの温度(T)の影響を受け易い。
したがって、カー効果を用いた表示パネルにおいては、僅かに温度ムラがあっても、媒質層35における媒質Aの光学的異方性(Δn:複屈折)が大きく変化し、結果として透過率が大きく変動するので、表示ムラや、表示の不均一性が生じる恐れがある。
しかしながら、本実施形態にかかる表示パネル70のように、上記媒質層35が熱伝導率の高い物質(シールド電極31)で覆われていると、温度ムラを軽減することができるため、表示特性を向上させることができる。
一般的には、有機物(例えば媒質Aや偏光板37・38)は0.2W/m・K、基板30・36に用いられる例えばガラス基板は0.8W/m・K程度の熱伝導率を有しているが、透明電極として用いることができるITOでは、熱伝導率が8W/m・K程度であり、ガラス基板の10倍となる。通常、電気伝導物質は熱伝導率も大きい。したがって、上記媒質Aが、例えばITO等のような電気伝導物質で覆われていると、温度ムラを抑制する効果を発揮することができる。
なお、上記した効果は、従来の液晶表示素子では得ることができない。つまり、従来の液晶材料は、数Kの温度では殆どその物性値が変動することはない。これに対して、光学的異方性の程度の変化を利用して表示を行う表示パネルでは、温度変動が上述のように原理的に大きいため、温度ムラによる表示不均一が生じる。言い換えれば、数K程度の温度ムラによって表示不均一が生じるのは、本実施形態にかかる表示パネル70のように、光学的異方性の程度の変化を利用する表示パネルに特有の問題であり、本実施形態ではシールド電極31を設けることでそれを解消している。
また、対向電極32と画素電極34との間隔(電極間距離)L1に対して、画素電極34とシールド電極31との間隔diが、di>L1であることが好ましい。これにより、駆動電圧を増大させることなく、シールド効果を得ることができる。ただし、diがSよりも小さい場合においても、駆動電圧は高くなるものの、静電気シールド効果および温度ムラ抑制効果は得ることができる。特に、di>3μmであれば、駆動電圧が高くはなるものの、透過率の低減を小さくできる。典型的には、完全に媒質Aが配向したΔnが0.1程度であるため、透過率を維持するためには、di・Δn=300nm程度(>λ/2)は確保されていることが好ましく、このため、di>3μmであることが望ましい。
図17(a)〜図17(e)に示したように、シールド電極31の位置は特に限定されるものではないが、より媒質層35に近い位置でシールドを行うこと、すなわちシールド電極31を、上部基板36および/または下部基板30の内側(対向面側)に設けることで、よりシールド効果を高めることができる。
本実施形態にかかる表示パネル70では、従来のIPSモードの液晶表示素子と異なり、媒質Aが電界の影響を受け難いことから、シールド電極31を、上記基板30・36のうち少なくとも一方の基板における他方の基板との対向面側(内側)に設けることが可能である。
このように、シールド電極31の形成位置は特に限定されるものではなく、各画素71において、少なくとも表示部(光が透過する領域(表示領域))と重なる位置に存在すれば、効果が認められた。
なお、シールド電極31は、上記したように表示に寄与する領域全域に形成されていることが好ましい。これにより、より顕著なシールド効果を得ることができる。言い換えれば、表示に寄与しない領域にはシールド電極31を設けなくてもよい。つまり、シールド電極31を形成する際、表示に寄与する領域のみを覆うようにパターニングして形成してもよい。表示に寄与しない領域を避けてシールド電極31を形成することで、負荷容量が軽減され、TFT等のスイッチング素子50による充電特性を向上させることができる。
また、シールド電極31は、上記各画素71を連続的に覆うように設けられていてもよい。より具体的には、シールド電極31は、上記一対の基板における少なくとも一方の基板全体(つまり、上記一対の基板の主面(表面および/または裏面)のうち、上記第1の電極および第2の電極が形成されている主面とは異なる主面における該主面全面)に形成されていてもよく、上記少なくとも一方の基板における少なくとも表示画面に対応する領域(上記主面における表示画面に対応する領域(つまり上記表示画面に重なる領域)全体)に形成されていてもよく、各画素71に独立して設けられていてもよい。
また、シールド電極31は、静電気をシールドするシールド電極、温度ムラを軽減するための機能に加えて、媒質層35を加熱する加熱手段としての機能を兼ねていてもよい。これにより、媒質層35の温度ムラによる表示不均一をより好適に抑制または防止できる
。
また、シールド電極31の形状を、基板面法線方向から見たときに、対向電極32および画素電極34と重畳しないような形状にしてもよい。これにより、対向電極32および画素電極34とシールド電極31との間に生じる負荷容量を軽減し、画素の充電特性を向上させることができる。
また、シールド電極31は、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnOなどの透明電極から形成されていることが好ましい。透明電極で形成することにより、透過率を損なうことを抑えるとともに、静電気シールドの効果をえることができ、信頼性の高い表示パネルを実現できる。
また、対向電極32または画素電極34に溝(溝部)を形成してもよい。つまり、対向電極32および対向電極32の少なくとも一方に、基板面法線方向から当該電極を見たときに電極材料が配置されていない領域である溝部を設けてもよい。このような溝部を設けることにより、対向電極32と画素電極34との間の充電容量を大きくできる。また、媒質層35に電界を印加する際、媒質層35への直流電界の印加現象を抑制できるので、媒質の劣化を抑え、表示パネルの信頼性・耐久性を向上させることができる。
例えば、図18(a)に示すように、基板面法線方向から見て画素電極34の櫛歯部分34bと重畳する位置に形成してもよい。この場合、溝48bの幅は、画素電極34の櫛歯部分34bの幅より狭く形成することが好ましく、図18(a)の例では溝48bの幅を1.5μm〜3μmとした。溝43gを形成することにより、シールド電極31と画素電極34との間に生じる容量により懸念される充電不足の問題を軽減することができる。
また、図18(b)のように溝43gを隣り合う画素電極34の櫛歯部分34b・34b間の領域(基板法線方向から見て画素電極34の櫛歯部分34bと重畳しない領域)に設けてもよい。
図18(b)のように溝43gを形成しない場合、媒質Aに電界を印加すると、(+)フレーム状態と(−)フレーム状態における媒質Aの配向状態の違いに起因して、媒質Aに直流電圧が生じ、その直流電圧が媒質Aを劣化させることがある。このような媒質Aの劣化が生じると、画素欠陥が生じる。
これに対して、図18(b)のように溝43gを櫛歯部分34b・34b間の領域に設けると、(+)フレーム状態と(−)フレーム状態における媒質Aの配向状態は、ほぼ同様なために、媒質Aに直流電圧は殆ど生じない。よって、直流電圧による媒質Aの劣化、さらに媒質Aの劣化により画素欠陥発生を抑制できる。
このように、表示パネル70において、対向電極32および画素電極34とは別に、さらにシールド電極31を形成することで、静電気(帯電電位)をアース(シールド)し、表示パネル70を静電気から保護し、媒質Aが静電気に応答することによって生じる輝度の変動並びに温度ムラによる表示不均一を防止することができる。
(5.表示パネル70の表示原理)
次に、本実施形態にかかる表示素子(表示パネル)における表示原理について説明する。なお、以下の説明では、主に、本実施形態にかかる表示パネルとして透過型の表示パネルを使用し、電界無印加時に光学的にはほぼ等方、好適には等方であり、電界印加により光学異方性を用いる場合を例に挙げて説明する。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。
本実施形態に用いられる上記媒質Aは、電界を印加することにより、光学的異方性の程度が変化する媒質である。物質中に外部から電界Ejを加えると、電気変位Dij=εij・Ejを生じるが、そのとき、誘電率(εij)にもわずかな変化が見られる。光の周波数では屈折率(n)の自乗は誘電率と等価であるから、上記媒質Aは、電界の印加により、屈折率が変化する物質と言うこともできる。
このように、本実施形態にかかる表示パネルは、物質の屈折率が外部電界によって変化する現象(電気光学効果)を利用して表示を行うものであり、電界印加により分子(分子の配向方向)が揃って回転することを利用した液晶表示素子とは異なり、光学的異方性の方向は殆ど変化せず、その光学的異方性の程度の変化(主に、電子分極や配向分極)により表示を行うようになっている。
図19(a)は、電界無印加状態(OFF状態)における本実施形態の表示パネルの構成を模式的に示す断面図であり、図19(b)は、電界印加状態(ON状態)における本実施形態の表示パネルの構成を模式的に示す断面図である。また、図19(c)は、本実施形態の表示パネルにおける印加電圧と透過率との関係を示すグラフである。また、図20は、本実施形態にかかる表示パネルと従来の液晶表示素子との表示原理の違いを、電界無印加時(OFF状態)および電界印加時(ON状態)における媒質の平均的な屈折率楕円体の形状(屈折率楕円体の切り口の形状にて示す)およびその主軸方向にて模式的に示す説明図である。なお、図20中に示した(a)〜(h)は、順に、本実施形態にかかる表示パネルの電界無印加時(OFF状態)の断面図、該表示パネルの電界印加時(ON状態)の断面図、TN(Twisted Nematic)方式の液晶表示素子の電界無印加時の断面図、該TN方式の液晶表示素子の電界印加時の断面図、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示素子の電界無印加時の断面図、該VA方式の液晶表示素子の電界印加時の断面図、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示素子の電界無印加時の断面図、該IPS方式の液晶表示素子の電界印加時の断面図を示す。
物質中の屈折率は、一般には等方的でなく方向によって異なっている。この屈折率の異方性(光学的異方性)は、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ電極32・34の対向方向、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ電極32・34の対向方向に垂直な方向、基板面に垂直な方向(基板法線方向)を、それぞれx,y,z方向とすると、任意の直交座標系(X1,X2,X3)を用いて下記関係式(1)
(nji=nij、i,j=1,2,3)
で表される楕円体(屈折率楕円体)で示される。ここで、上記関係式(1)を楕円体の主軸方向の座標系(Y1,Y2,Y3)を使用して書き直すと、下記関係式(2)
Y12/n12+Y22/n22+Y32/n32=1 ・・・(2)
で示される。n1,n2,n3(以下、nx,ny,nzと記す)は主屈折率と称され、楕円体における三本の主軸の長さの半分に相当する。原点からY3=0の面と垂直な方向に進行する光波を考えると、この光波はY1とY2との方向に偏光成分を有し、各成分の屈折率はそれぞれnx,nyである。一般に、任意の方向に進行する光に対しては原点を通り、光波の進行方向に垂直な面が、屈折率楕円体の切り口と考えられ、この楕円の主軸方向が光波の偏光の成分方向であり、主軸の長さの半分がその方向の屈折率に相当する。
ここで、本実施形態にかかる表示パネルと従来の液晶表示素子との表示原理の相違について、従来の液晶表示素子として、TN方式、VA方式、IPS方式を例に挙げて説明する。
図20に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向配置された一対の基板101・102間に液晶層105が挟持され、上記両基板101・102上にそれぞれ透明電極103・104(電極)が設けられている構成を有し、電界無印加時には、液晶層105における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電界印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向するようになっている。この場合における平均的な屈折率楕円体105aは、電界無印加時には、図20に示すように、その主軸方向(長軸方向)が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向き、電界印加時には、その主軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体105aの形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向(主軸方向、屈折率楕円体105aの向き)が変化する。換言すれば、電界印加によって屈折率楕円体105aが回転する。なお、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体105aの形状および大きさは、ほぼ変わらない。
VA方式の液晶表示素子は、図20に示すように、対向配置された一対の基板201・202間に液晶層205が挟持され、上記両基板201・202上にそれぞれ透明電極(電極)203・204が備えられている構成を有し、電界無印加時には、液晶層205における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電界印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体205aは、図20に示すように、電界無印加時には、その主軸方向(長軸方向)が基板面法線方向を向き、電界印加時にはその主軸方向が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向く。すなわち、VA方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式の液晶表示素子と同様、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体205aの形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体205aが回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体205aの形状および大きさは、ほぼ変わらない。
また、IPS方式の液晶表示素子は、図20に示すように、同一の基板301上に、1対の電極302・303が対向配置された構成を有し、図示しない対向基板との間に挟持された液晶層に、上記電極302・303により電圧が印加されることで、上記液晶層における液晶分子の配向方向(屈折率楕円体305aの主軸方向(長軸方向))を変化させ、電界無印加時と電界印加時とで、異なる表示状態を実現することができるようになっている。すなわち、IPS方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式およびVA方式の液晶表示素子と同様、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体305aの形状は変わらずに、その主軸方向が変化する(屈折率楕円体305aが回転する)。
このように、従来の液晶表示素子では、電界無印加時でも液晶分子が何らかの方向(典型的には一方向)に配向している。そして、電界を印加することによって、各液晶分子の配向方向が揃った状態で、その配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状および大きさを保ったまま(つまり楕円形のまま)になっており、屈折率楕円体の主軸(長軸)方向のみが、電界印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。したがって、屈折率楕円体の長軸方向は電界印加方向に対して、垂直あるいは平行とは限らない。つまり、従来の液晶表示素子では、液晶分子の配向秩序度はほぼ一定であり、配向方向を変化させることによって表示(透過率の変調)を行っている。さらに換言すれば、従来の液晶表示素子では、電界印加によって、配向秩序度はほぼ一定のまま、配向容易軸の方向が変化する
。
これに対し、本実施形態にかかる表示パネルは、図20に示すように、電界無印加時における屈折率楕円体35aの形状は球状、すなわち、光学的に等方(nx=ny=nz、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度≒0(ほぼゼロ))であり、電界を印加することによって異方性(nx>ny、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度>0)が発現して、屈折率楕円体35aが楕円になる(光学的異方性を示す)。また、このとき屈折率楕円体35aの長軸方向は、媒質層35の誘電異方性が負の場合は電界方向と垂直になり、正の場合は電界方向と平行になる。つまり、媒質Aの誘電異方性が負(ネガ型液晶)の場合、全ての電圧値において、屈折率楕円体35aの長軸方向は電界方向に垂直(直交状態)になり、誘電異方性が正(ポジ型液晶)の場合、全ての電圧値において、屈折率楕円体35aの長軸方向は電界方向に平行になる。本発明において、電界方向と屈折率楕円体35aの主軸方向の少なくとも一つとは、常に平行もしくは直交である。
なお、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度≒0(配向秩序度が殆ど無い)というのは、可視光より小さいスケールで見た場合には、液晶分子等が、ある方向に並んでいる割合が多い(配向秩序がある)が、可視光より大きいスケールで見ると、配向方向が平均化されていて配向秩序が無いことを意味している。すなわち、配向秩序度が可視光波長域、および、可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さいことを示す。例えば、クロスニコル下で黒表示を実現している状態を示す。一方、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度>0とは、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度が、ほぼゼロの状態よりも大きいことを示し、例えば、クロス二コル下で白表示を実現している状態を示す。(この場合、階調表示であるグレーも含まれる)。
すなわち、本実施形態にかかる表示パネルでは、電界無印加時には、図19(a)に示すように、媒質Aを構成する分子は、領域59を除いて、他の領域ではあらゆる方向を向いている。ただし、これらの分子は、可視光波長スケール未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学的異方性が発現せず(可視光波長以上のスケールでの配向秩序度≒0)、図20に示すように、屈折率楕円体35aの形状が球状となる。しかしながら、図19(b)に示すように、電界印加時には、個々の分子が正の誘電異方性を有しているため基板面内方向(基板面に平行な方向)を向こうとして配向状態が変化する。また、この際、可視光波長未満の秩序構造に歪みが生じて光学的異方性(可視光波長以上のスケールでの配向秩序度>0)が発現する。このように、本実施形態にかかる表示パネルでは、電界無印加時には屈折率楕円体35aの形が等方的(nx=ny=nz)であり、電界印加によって屈折率楕円体35aの形に異方性が発現する。つまり、本実施形態にかかる表示パネルでは、電界印加によって屈折率楕円体35aの形状、大きさが変化する。
また、図21は、本実施形態にかかる表示パネルにおける電界印加時の媒質Aの一分子の屈折率楕円体35aの形状を示す模式図である。このように、上記屈折率楕円体35aの形状は、原点を通り、光波の進行方向に垂直な面を切り口とする、屈折率楕円体(楕円)の切り口の形状にて示され、前記したように、楕円の主軸方向が光波の偏光の成分方向であり、主軸の長さの半分がその方向の屈折率に相当する。
本実施形態かかる上記媒質Aは、上記したように電界無印加時に光学的等方性(等方相)を示し、電界を印加することによって光学的異方性を発現させる。このため、電界無印加時における屈折率楕円体35aの形状は球状、すなわち、光学的に等方であり、電界を印加することによって異方性が発現するようになっている。
そこで、図21に示すように電界方向に平行な方向の屈折率によって示される、光学的
異方性の発現による、電界印加時の楕円の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率、つまり、上記分子9の長軸方向における屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率、つまり、上記分子の短軸方向における屈折率(常光屈折率)をnoとすると、上記屈折率異方性(Δn)(複屈折変化)は、Δn=ne−noで表される。
すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示し、本発明は、上記neおよびnoが変化するのに対し、従来の液晶表示装置は、上記neおよびnoは変化しない。
また、上記電界印加時の屈折率楕円体35aの長軸方向は、電界方向に対して平行(誘電異方性が正の媒質の場合)、または、垂直(誘電異方性が負の媒質を用いる場合)となる。
これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行または垂直になるとは限らない。
このように、本実施形態にかかる表示パネルは、光学的異方性の方向は一定(電界印加方向は変化しない)で例えば可視光波長以上のスケールでの配向秩序度を変調させることによって表示を行うものであり、媒質Aそのものの光学的異方性(例えば可視光波長以上のスケールにおける配向秩序)の程度を変化させている。したがって、従来の液晶表示素子とは表示原理が大きく異なっている。
なお、上記媒質層35に封入される媒質Aは、電界の印加によって、光学的異方性の程度が変化するものであればよく、電界無印加時には光学的に概ね等方(可視光以上のスケールでの配向秩序度≒0)であり、電界印加により光学変調を誘起(つまり、電界印加により光学的異方性を示す)される媒質であってもよい。また、上記媒質Aは、電界印加に伴い、分子9、または分子集合体(クラスタ)の可視光以上のスケールでの配向秩序度が上昇(光学変調が既に誘起されている状態(可視光以上のスケールでの配向秩序度>0)から、可視光以上のスケールでの分子9の配向秩序度がさらに上昇)する物質(媒質)であってもよい。
本発明において、電界の印加により媒質Aの光学異方性の程度が変化するとは、前記したように、電界の印加に伴って屈折率楕円体35aの形状が変化することを示し、上記したように電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する場合、つまり、電界を印加することによって光学的異方性が発現する場合、屈折率楕円体35aの形状は、電界の印加により、球状から楕円に変化する。
本実施形態にかかる表示パネルは、図19(a)に示すように、電極32・34に電界(電圧)を印加していない状態では、領域59を除く領域においては、基板30・36間に封入される媒質Aには電界が印加されないので等方相を示し、光学的にも等方となるので、黒表示になる。また、領域59には、データ信号線47と電極34間に電界が印加されるが、媒質Aに誘起される光学的異方性の方向が、偏光板37,38の吸収軸37a,38aと平行もしくは垂直方向になるために、黒表示になる。
一方、図19(b)に示すように、電極32・電極34間に電界を印加すると、領域59を除く領域において、上記媒質Aの各分子が、その長軸方向が上記電極32・電極34間に形成される電界に沿うように配向されるので、複屈折現象が発現する。この複屈折現
象により、図19(c)に示すように電極32・電極34間の電圧に応じて表示パネルの透過率を変調することが可能になる。
なお、相転移温度(転移点)から十分遠い温度においては表示パネルの透過率を変調させるために必要な電圧は大きくなるが、転移点のすぐ直上の温度では0〜100V前後の電圧で、十分に透過率を変調させることが可能になる。
例えば、非特許文献3によれば、電界方向の屈折率と、電界方向に垂直な方向の屈折率とを、それぞれn//、n⊥とすると、複屈折変化(Δn=n//−n⊥)と、外部電界、すなわち電界E(V/m)との関係は、下記関係式(3)
Δn=λ・Bk・E2 ・・・(3)
で表される。なお、λは真空中での入射光の波長(m)、Bkはカー定数(m/V2)、Eは印加電界強度(V/m)である。
カー定数Bkは、温度(T)の上昇とともに1/(T−Tni)に比例する関数で減少することが知られている。このため、カー定数Bkは、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、転移点から十分遠い温度(転移点よりも十分に高い温度)では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなるが、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができる。
(6.媒質例)
また、本実施形態では、媒質AとしてJC−1041xx(50.0wt%)と5CB(38.5wt%)とZLI−4572(11.1wt%)との混合物を用いたが、これに限るものではなく、媒質Aは、電界無印加時に光学的等方性(巨視的に見て、少なくとも基板面平行方向について等方であればよい)を示し、電界を印加することによって光学的異方性(少なくとも基板面平行方向についての光学的異方性)の程度が変化する媒質であればよい。なお、電界印加により複屈折が上昇する媒質が特に好ましい。
例えば、媒質Aとしては、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質(各種有機材料、無機材料)を用いることができる。ポッケルス効果、カー効果(それ自身は、等方相状態で観察される)は、それぞれ、電界の一次または二次に比例する電気光学効果であり、電界無印加状態では、等方相であるため光学的に等方的であるが、電圧印加状態では、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物の分子の長軸方向が配向し、複屈折が発現することにより透過率を変調することができる。例えば、カー効果を示す物質を用いた表示方式の場合、電界を印加して1つの分子内での電子の偏りを制御することにより、ランダムに配列した個々の分子が各々別個に回転して向きを変えることから、応答速度が非常に速く、また、分子が無秩序に配列していることから、視角制限がないという利点がある。なお、上記媒質Aのうち、大まかに見て電界の一次または二次に比例しているものは、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質として扱うことができる。
ポッケルス効果を示す物質としては、例えば、ヘキサミン等の有機固体材料等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
なお、媒質層35に電界印加時における媒質Aの光学的異方性の程度の変化を促進させるため、あるいは光学的等方相を安定化させるための配向補助材を設けてもよい。例えば、上記の混合物(JC−1041xx(50.0wt%)、5CB(38.5wt%)、ZLI−4572(11.1wt%))を87.1wt%、TMPTA(trimethylolpropane triacrylate、アルドリッチ社製、アクリレートモノマー)を5.4wt%、RM257(メルク社製、ジアクリレートモノマー)を7.1wt%、DMPA(2,2-dimethox
y-2-phenyl-acetophenone、光重合開始剤)を0.4wt%を混合し、コレステリック−光学的等方相の相転移温度近傍において光学的等方相を保ちながら紫外線を照射して、光反応性モノマーを重合してもよい。配向補助材を形成することにより、媒質A(媒質層35)が光学的等方相を示す温度範囲を広げることができる。なお、上記光反応性モノマーを重合させた混合物は正の誘電異方性を示す。
また、カー効果を示す他の物質としては、特に限定されるものではないが、例えば下記構造式(2)〜(4)で示される液晶性物質の混合物等が挙げられる。
構造式(2)で示される液晶性物質は、3HPFF(1,2‐ジフルオロ‐4‐[トランス‐4‐(トランス‐4‐n‐プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)、構造式(3)で示される液晶性物質は、5HPFF(1,2‐ジフルオロ‐4‐[トランス‐4‐(トランス‐4‐n‐ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)、構造式(4)で示される液晶性物質は、7HPFF(1,2‐ジフルオロ‐4‐[トランス‐4‐(トランス‐4‐n‐ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)である。上記混合物は負の誘電異方性を示す。
カー効果は、入射光に対して透明な媒質中で観測される。このため、カー効果を示す物質は、透明媒質として用いられる。通常、液晶性物質は、温度上昇に伴って、短距離秩序を持った液晶相から、分子レベルでランダムな配向を有する等方相に移行する。つまり、液晶性物質のカー効果は、ネマチック相ではなく、液晶相−等方相温度以上の等方相状態の液体に見られる現象であり、上記液晶性物質は、透明な誘電性液体として使用される。
液晶性物質等の誘電性液体は、加熱による使用環境温度(加熱温度)が高いほど、等方相状態となる。よって、上記媒質として液晶性物質等の誘電性液体を使用する場合には、該誘電性液体を透明、すなわち可視光に対して透明な液体状態で使用するために、例えば、(1)媒質層35の周辺に、図示しないヒータ等の加熱手段を設け、該加熱手段により上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよいし、(2)バックライトからの熱輻射や、バックライトおよび/または周辺駆動回路からの熱伝導(この場合、上記バックライトや周辺駆動回路が加熱手段として機能する)等により、上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよい。また、(3)上記基板30および36の少なくとも一
方に、ヒータとしてシート状ヒータ(加熱手段)を貼合し、所定の温度に加熱して用いてもよい。なお、上記したシールド電極を加熱手段として用いてもよい。さらに、上記誘電性液体を透明状態で用いるために、透明点が、上記表示パネルの使用温度範囲下限よりも低い材料を用いてもよい。
上記媒質Aは、液晶性物質を含んでいることが望ましく、上記媒質Aとして液晶性物質を使用する場合には、該液晶性物質は、巨視的には等方相を示す透明な液体であるが、微視的には一定の方向に配列した短距離秩序を有する分子集団であるクラスタを含んでいてもよい。なお、上記液晶性物質は可視光に対して透明な状態で使用されることから、上記クラスタも、可視光に対して透明(光学的に等方)な状態で用いられる。
このために、上記表示パネルは、上述したように、ヒータ等の加熱手段を用いて温度制御を行ってもよいし、特許文献3に記載されているように、媒質層35を、高分子材料等を用いて小区域に分割して用いてもよく、上記液晶性物質の直径を例えば0.1μm以下とする等、上記液晶性物質を、光の波長よりも小さな径を有する微小ドロップレットとし、光の散乱を抑制することにより透明状態とするか、あるいは、使用環境温度(室温)にて透明な等方相を示す液晶性化合物を使用する等してもよい。上記液晶性物質の直径、さらにはクラスタの径(長径)が0.1μm以下、つまり、光の波長(入射光波長)よりも小さい場合の光の散乱は無視することができる。このため、例えば上記クラスタの径が0.1μm以下であれば、上記クラスタもまた可視光に対して透明である。
なお、上記媒質Aは、上述したようにポッケルス効果またはカー効果を示す物質に限定されない。このため、上記媒質Aは、分子の配列が、光の波長以下(例えばナノスケール)のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造を有し、光学的には等方的に見えるキュービック相(非特許文献3、4参照)を有していてもよい。キュービック相は上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、キュービック相を示す液晶性物質としては、例えば、下記構造式(5)
で示されるBABH8等が挙げられる。このような液晶性物質に電界を印加すれば、微細構造に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能となる。
BABH8は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲では、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの秩序構造からなるキュービック相を示す。また、BABH8は、格子定数が約6nmであり、光学波長よりも1桁以上も小さい。そして、BABH8の秩序構造(配向秩序)が光学波長未満であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、該BABH8は、電界無印加時に光学的等方性を示す。したがって、BABH8を本実施形態の表示パネルに適用する場合、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、上記BABH8の温度を、例えば上記した加熱手段等を用いて136.7℃以上、161℃以下に制御しながら、対向電極34・画素電極32間に電圧を印加すると、キュービック対称性を有する構造(秩序構造)に歪みが生じる。すなわち、上記BABH8
は、上記の温度範囲において、電界無印加状態では等方的であり、電界印加により異方性が発現する。
これにより、上記媒質層35において複屈折が発生するので、上記表示パネルは、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電圧印加によって変化する。また、対向電極34・画素電極32間に印加する電圧と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲、すなわち、約20Kという広い温度範囲において安定した曲線となる。このため、上記BABH8を上記媒質Aとして使用した場合、温度制御を極めて容易に行うことができる。すなわち、上記BABH8からなる媒質層35は、熱的に安定な相であるため、急激な温度依存性が発現せず、温度制御が極めて容易である。
また、上記媒質Aとしては、液晶分子が光の波長以下のサイズで放射状に配向した集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を実現することも可能であり、その手法としては非特許文献1に記載の液晶マイクロエマルションや非特許文献2および4に記載の液晶・微粒子分散系(溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系、以下、単に液晶微粒子分散系と記す)の手法を応用することも可能である。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
なお、これら液晶性物質は、何れも、単体で液晶性を示すものであってもよいし、複数の物質が混合されることにより液晶性を示すものであってもよいし、これらの物質に他の非液晶性物質が混入されていてもよい。さらには、非特許文献4に記載されているような高分子・液晶分散系の物質を適用することもできる。また、非特許文献7に記載されているような水素結合体を添加してもよい。水素結合体(水素結合ネットワーク、水素結合性材料)とは、化学結合ではなく水素結合によって形成された結合体を意味する。
このような水素結合体は、例えば、ゲル化剤(水素結合性材料)を媒質層35に封入する媒質に混合することによって得られる。ゲル化剤としては、アミド基を含むゲル化剤が好ましく、1つの分子内にアミド基を少なくとも2つ含むゲル化剤、尿素系、リシン系のゲル化剤がさらに好ましい。例えば、下記の構造式(6)および(7)からなるゲル化剤(ゲル化剤Aまたはゲル化剤B)を用いることができる。
これらのゲル化剤は液晶性物質などの誘電性物質を少量のゲル化剤を混入することでゲル化することができる。
また、例えば、非特許文献7(p.314,Fig.2)に記載されているゲル化材(水素結合性材料)、Lys18(下記構造式(8)参照)を媒質層35に封入する媒質に0.15mol%混合することによって得られる。
すなわち、Lys18を媒質に0.15mol%混合することによって実現される、非特許文献7(p.314、Fig.1)のようなGel(ゲル)状態を示す水素結合ネットワークを、電界印加による光学的異方性の程度の変化を誘起する際に、配向を補助する配向補助材として、あるいは光学的等方相を安定化させるための安定化手段として用いることができる。また、上記光反応性の重合性化合物添加試料の場合、紫外線照射のプロセス増加、紫外線照射による材料の劣化、未反応基による信頼性の低下といった懸念事項があるが、これらはゲル化剤の場合、発生しないという利点がある。
また、上記媒質Aとしては、有極性分子を含有することが望ましく、例えばニトロベンゼン等が媒質Aとして好適である。なお、ニトロベンゼンもカー効果を示す媒質の一種である。
以下に、上記媒質Aとして用いることができる物質もしくは該物質の形態の一例を示すが、本発明は以下の例示にのみ限定されるものではない。
〔スメクチックD相(SmD)〕
スメクチックD相(SmD)は、上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、図22および図23に示すように、三次元格子構造を有し、その格子定数が光の波長以下である。すなわち、スメクチックD相はキュービック対称性を有する。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、非特許文献3に記載の下記一般式(9)
で表されるANBC16等が挙げられる。なお、上記一般式(9)において、mは任意の
整数、具体的には、m=16を示す。
上記ANBC16は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相が発現する。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(商標登録)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数は光学波長以下である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有する。なお、上記ANBC16の格子定数は約6nmである。このため、スメクチックD相は、光学的に等方性を示す。
ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16に電界を印加すれば、ANBC16の分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、ANBC16に光学的異方性が発現する。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして適用することができる。
〔液晶マイクロエマルション〕
液晶マイクロエマルションとは、非特許文献1において提案された、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である。
液晶マイクロエマルションの具体例としては、例えば、非特許文献1に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶であるペンチルシアノビフェニル(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック(ライオトロピック)液晶であるジドデシルアンモニウムブロマイド(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図24および図25に示すような模式図で表される構造を有している。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光の波長より一桁程度小さい。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、この混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、この混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。なお、上記の混合系に限らず、電界無印加時には光学的に等方性を示し、電界印加によって光学的異方性が発現する液晶マイクロエマルションであれば、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして適用することができる。
〔リオトロピック液晶〕
リオトロピック(ライオトロピック)液晶とは、液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味する。また、上記の特定の相とは、電界無印加時に光学的に等方性を示す相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献4に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図26に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液等は球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキング(分子集合体を形成)して球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光の波長以下であるため、異方性を示さず、等方的に見える。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を有するリオトロピック液晶もまた、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして適用することができる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相等を媒質Aとして使用しても、同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基とが入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を媒質Aとして適用することにより、ミセル相を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、前述した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を有するリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤であるペンタエチレングリコール−ドデシルエーテルの水溶液には、図26に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光の波長以下の秩序を有しているので透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電圧を印加すると、配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を有するリオトロピック液晶もまた、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして適用することができる。
〔液晶微粒子分散系〕
また、媒質Aは、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系であってもよい。また、この液晶微粒子分散系の配向秩序(秩序構造)は光学波長未満である。上記液晶微粒子分散系ではスポンジ相が発現するが、本実施形態において用いられる媒質Aとしては、前述したミセル相、キュービック相、逆ミセル相等を発現する液晶微粒子分散系であってもよい。なお、上記ラテックス粒子に代えて上記DDABを使用することによって、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
また、溶媒中に分散させる微粒子(液晶微粒子)は、1種または2種以上のものにより構成されることが好ましい。
また、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、媒質層35内における微粒子の分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり、相が分離したりしない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示パネルに表示ムラが生じることを充分に抑制できる。
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示パネルのコントラストが上昇する。
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長
λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
また、媒質層35における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と媒質層35に封入される媒質との総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。媒質層35における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
なお、媒質層35に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもよい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅、鉄あるいはこれらの金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。また、軽金属を用いる場合には、軽金属の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。例えば、酸化マグネシウムなどがあげられる。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成してもよい。例えば、銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示パネルの特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化が防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで
形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
〔デンドリマー〕
デンドリマーとは、モノマー単位毎に枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光の波長以下の秩序を有しているので透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、デンドリマーもまた、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして適用することができる。また、前述した液晶マイクロエマルションにおいてDDABに代えて上記デンドリマーを使用することにより、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができる。このようにして得られた媒質もまた、上記媒質Aとして適用することができる。
〔コレステリックブルー相〕
また、媒質Aとして、コレステリックブルー相を適用することができる。なお、図27には、コレステリックブルー相の概略構成が示されている。
図27に示すように、コレステリックブルー相は、螺旋軸が3次元的に周期構造を形成しており、その構造は、高い対称性を有していることが知られている(例えば、非特許文献3・8参照)。コレステリックブルー相は、光の波長以下の秩序を有しているのでほぼ透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示パネルの媒質Aとして適用できる。
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、「JC1041」(商品名、チッソ社製混合液晶)を48.2mol%、「5CB」(4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、ネマチック液晶)を47.4mol%、「ZLI−4572」(商品名、メルク社製カイラルドーパント)を4.4mol%の割合で混合してなる組成物が知られている。該組成物は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリッ
クブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示パネルでフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記媒質層35に封入する媒質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記のような呈色を確実に防止することができる。
上記の通りJC1041を50.0wt%、5CBを38.5wt%、ZLI−4572を11.5wt%混合した物質は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域未満にあるために呈色しなかった。
また、電極近傍には配向欠陥は見られなかった。これは、上記媒質の相関距離が従来の液晶に比べて短いためと考えられる。
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル
性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。
カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが、8wt%または4mol%以上であることが好ましい。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上とすることにより、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなった。
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%以上の場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、媒質層35全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電界印加時における光学的異方性の発生度合いの低下に繋がり、表示パネルとしての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。このため、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
また、本実施形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
〔スメクチックブルー相〕
また、媒質Aとして、スメクチックブルー相を適用することができる。スメクチックブルー(BPSm)相は、コステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有し(例えば、非特許文献3、5参照)、光の波長以下の秩序を有しているのでほぼ透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。すなわち、スメクチックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献5に記載されているFH/FH/HH−14BTMHC等が挙げられる。該物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。BPSm相は、非特許文献5に示すように、高い対称性の構造を有するため、概ね光学的等方性が示される。また、物質FH/FH/HH−14BTMHCに電界を印加すると、液晶分子が電界方向に向こうとすることにより格子が歪み、同物質は異方性を発現する。よって、同物質は、本実施形態の表示パネルの媒質Aとして使用することができる。
以上のように、本実施形態の表示パネルにおいて媒質Aとして使用することができる物
質は、電界の印加により光学的異方性(屈折率、配向秩序度)の程度が変化するものでありさえすれば、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質であってもよく、キュービック相、スメクチックD相、コレステリックブルー相、スメクチックブルー相の何れかを示す分子からなるものであってもよく、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相の何れかを示すリオトロピック液晶もしくは液晶微粒子分散系であってもよい。また、上記媒質Aは微粒子、水素結合体、重合性化合物が含まれていてもよい。また、上記媒質Aは、液晶マイクロエマルションやデンドリマー(デンドリマー分子)、両親媒性分子、コポリマー、もしくは、上記以外の有極性分子等であってもよい。
また、上記媒質は、液晶性物質に限らず、電界印加時に光の波長以下の秩序構造(配向秩序)を有することが好ましい。秩序構造が光の波長以下であれば、光学的に等方性を示す。従って、電界印加時に秩序構造が光の波長以下となる媒質を用いることにより、電界無印加時と電界印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
また、上記媒質を本実施形態にかかる表示パネルに用いた場合、電極近傍には表示に影響を与えるような、大きな配向欠陥は見られなかった。これは、上記媒質の相関距離が従来の液晶に比べて短いので、たとえ電極近傍の局所電界により配向乱れが生じても、その配向乱れが従来の液晶のように広がらないためと考えられる。
なお、本実施形態では、主に、透過型の表示パネルを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射型の表示パネルに適用してもよい。
また、本実施形態に示した各部材の材料、単位画素の大きさ、電極幅、電極間距離、各部材の厚み等は、単なる一例であって、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。