JP2010111791A - 有機多孔体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】環境・食品・生体・医療系の分野に好適に使用することができる多孔体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】リビングラジカル重合のための触媒を用いる可逆移動触媒重合系により調製された三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体を提供する。また、重合溶媒を選定することにより、有機高分子を含まなくともモノリス型多孔体が調製でき、洗浄作業や使用中に有機高分子が出てこない多孔体を提供する。本発明のモノリス型多孔体の調製に使用するリビングラジカル重合のために用いる可逆移動触媒は、高い活性、低毒性である、反応後に高溶解性であるという様々な利点を有し、そのため、配位子を添加して錯体とする必要もない。従って、重合反応に高温を必要とすることもなく、そして触媒の使用量を低減することができる。また、らに、成形時に着色したり臭いがついたりすることを除去できる利点を有する多孔体を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明は、可逆移動触媒重合により調製された有機系高分子からなる三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体及びその製造方法であり、特に、クロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜あるいは酵素担体及び触媒担体用多孔質体等に適した多孔体及びその製造方法に関するものである。
三次元網目構造の連続した骨格と空隙とを有する多孔体は一般的にモノリス型カラムと呼ばれており、主にクロマトグラフィー分野でカラムと呼ばれる分離媒体として用いられている。このような分離媒体としては、無機材料から形成されるシリカゲル等と、有機材料から形成される有機ポリマーに大別される。
シリカゲルの分離媒体は、溶媒による材料の膨潤が少なく、物質移動による拡散の影響が小さいことに特徴があるため、主に高性能分離媒体として用いられているが、反面、酸・アルカリ等のpH耐久性が悪いことや生体系試料の非特異的吸着が起こることから、これらに対して優位な有機ポリマーの分離媒体が環境や生体試料の分離に好適に用いられており、これらのモノリス型の有機ポリマーの研究・開発は様々になされ、また各々にクロマトグラフィー用分離媒体として用いることも提案されている。
従来から、ビニル系の官能基を有したモノマーを重合してビニルポリマーを得る方法として、ラジカル重合法が周知であったが、ラジカル重合法は一般に、得られるポリマーの分子量を制御することが困難であるという欠点があった。また、得られるポリマーが、様々な分子量を有する化合物の混合物になってしまい、分子量分布の狭いポリマーを得ることが困難であるという欠点があった。具体的には、反応を制御しても、重量分子平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)として、2〜3程度までにしか減少させることができなかった。
例えば、特許文献1に記載の一般的なラジカル重合法によって調製されるモノリス型有機ポリマーが開示されているが、基本的に、微粒子の確率的な凝集、接合に基づいて骨格が形成されるため、核生成−成長過程により生成した微粒子凝集型の構造になりやすい。そのため、多孔体としての強度などの機械的特性に課題を有する。また、フリーラジカル重合では、重合系における希釈剤の量を変化させることにより得られる多孔体の気孔率や平均孔径、ならびに、得られる多孔体の骨格径を変化させることができるものの、基本的に、微粒子の確率的な凝集、結合に基づいて骨格が形成されるため、各々を独立して制御することが難しい。このため、分離媒体として要求される様々な用途、あるいは、分離媒体以外の用途に対応した多孔体の設計、製造は困難である。
また、特許文献2および3には、エポキシ樹脂の三次元網目状骨格と連通する空隙を有する多孔体が開示されており、クロマトグラフィー分離媒体としての応用例も開示されているが、多孔体材料がエポキシ樹脂であり、比較的親水性が高いことから、疎水性試料に対する保持が小さく、また、高分子材料の原料の大きな範囲を占めるビニル系官能基を含む低分子化合物による多孔体の調製には対応していない。
また、特許文献4には、モノマーを重合開始剤存在下で重量平均分子量が少なくとも10万であり、分子量分布Mw/Mnが1.5以下であるポリマーをモノマーに対する良溶媒に溶解した溶液をポロゲンとして重合反応させる三次元網目構造の多孔体の調製方法が開示されている。しかしながら、従来のフリーラジカル重合による調製過程では、分子量の制御に加え、重合速度の制御も困難であるため、骨格径および細孔径を独立して制御することが難しくなる。
また、特許文献5には、リビングラジカル重合法をモノリス型ポリマーの調製に用いることにより、分子量の制御が可能となり、同時に相分離有機成分である有機高分子を添加して調製することで、三次元網目構造の連続した骨格と空隙とを有する多孔体の調製が開示されている。しかしながら、これらの方法においては、安定ラジカルとして用いられている特殊な保護基をポリマー成長鎖に導入する必要があり、この保護基が非常に高価であるという欠点がある。また、重合反応に高温(例えば、110℃以上)が必要であるという欠点がある。さらに、生成するポリマーが好ましくない性能を有しやすいという欠点がある。すなわち、生成するポリマーがその高分子本来の色と異なる色に着色されたものになりやすく、また、生成するポリマーが臭気を有するものになりやすいという欠点がある。
また、他にリビングラジカル重合法に現在用いられる触媒としては、遷移金属錯体系触媒が知られており、例えば、Cu,Ni,Re、Rh、Ruなどを中心金属とする化合物に配位子を配位させた錯体が使用されている。しかしながら、このような遷移金属錯体触媒を用いる場合には、使用量として多量の遷移金属錯体触媒が必要であり、反応後に使用された大量の触媒を製品から完全に除去することが容易でないという欠点があった。また不要となった触媒を廃棄する際に環境上の問題が発生し得るという欠点があった。さらに、遷移金属には毒性の高いものが多く、製品中に残存する触媒の毒性が環境上問題となる場合があり、遷移金属を食品包装材、生体・医療材料などに使用することは困難であった。また、反応後に製品から除去された触媒の毒性が環境上問題となる場合もあった。さらに、導電性の遷移金属がポリマーに残存するとそのポリマーに導電性が付与されてしまって、レジストや有機ELなどの電子材料に使用することが困難であるという問題もあった。また、錯体を形成させないと反応液に溶解しないため、配位子となる化合物を用いなければならず、このために、コストが高くなり、かつ、使用される触媒の総重量がさらに多くなってしまうという問題があった。さらに、配位子は、通常、高価であり、あるいは煩雑な合成を要するという問題もあった。
さらに、特許文献6には、これらの問題を解決するリビングラジカル重合方法のための触媒として、ゲルマニウム、スズ、またはアンチモンから選択される中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つのハロゲン原子とを含む触媒を使用することで、触媒の低毒性、低使用性、高溶解性、温和な反応条件、無着色、無臭などの利点を有し、従来のリビングラジカル重合方法に比べて格段に環境に優しく経済性に優れる重合方法が開示されているが、これらの触媒を用いてのモノリス型多孔体としての応用やクロマトグラフィー用分離分析媒体としての最適化を行った例はない。
特表平07−501140号公報(特許第3168006号公報) 国際公開WO2006/073173A1 国際公開WO2007/083348A1 国際公開WO2006/126387A1 国際公開WO2007/043485A1 特開2007−92014号公報
従来技術の多孔体では、リビングラジカル重合に用いられている触媒および保護基が非常に高価である点、重合反応には高温が必要である点、反応後に使用された触媒を除去することが容易でない点、それに伴い、生成するポリマーの末端に触媒等が残存することによって、本来の性質と異なる性能を示すことや毒性による問題が生じることにより、環境測定や生体系試料、血液試料などの医療用分離媒体としては使用しにくいという問題があった。
また、従来技術のリビングラジカル重合により作成された多孔体の分離媒体(例えば、クロマトグラフィー用カラム)では、製造方法において高温(例えば、95℃で90分後に125℃で48時間重合)が必要であるため、多孔体を重合する鋳型の内側と外側において温度差が大きいことが考えられ、カラム性能の高い分離媒体を製造することが困難であった。これはキャピラリーチューブ内に調製した場合であっても、温度上昇による多孔体構造の微細な歪さが問題となった。
本発明のモノリス型多孔体は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来よりもさらに三次元網目構造の連続した骨格と空隙とを有する多孔体の調製を容易にすることや、生成ポリマー末端の触媒を簡易に除去できることによってモノリス型多孔体の本来の性能を示し、さらに、環境・食品・生体・医療系の分野に好適に使用することができる多孔体およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明の請求項1に係る多孔体は、ラジカル重合性を持つ有機系低分子化合物を重合する過程において、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒、重合開始剤および重合溶媒を含む系により調製された、有機系高分子化合物からなる三次元網目構造の骨格と空隙を有することを特徴とするものである。
本発明の請求項2に係る多孔体は、請求項1において、リビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、リン、窒素、酸素または炭素原子から選択される少なくとも一つの中心元素と、中心元素に結合した少なくとも一つのハロゲン原子とを含み、さらに、触媒と同時に用いる保護基として、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用されることを特徴とするものである。
本発明の請求項3に係る多孔体は、請求項1又は2において、有機系低分子化合物を重合する過程において、相分離誘起剤として有機高分子を含むことを特徴とするものである。
本発明の請求項4に係る多孔体は、請求項1乃至3のいずれか1項において、三次元網目構造を形成する骨格内に、三次元網目構造を構成する空隙サイズより小さい孔径の細孔が形成されていることを特徴とするものである。
本発明の請求項5に係る多孔体は、請求項1乃至4のいずれか1項において、クロマトグラフィー用分離分析媒体として使用することを特徴とするものである。
本発明の請求項6に係る多孔体の製造方法は、有機系低分子化合物の重合からなる三次元網目構造の骨格と空隙を有することを特徴とする多孔体を作成する方法において、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒、重合開始剤および重合溶媒を含む系の下で行われることを特徴とするものである。
本発明の請求項7に係る多孔体の製造方法は、請求項6において、有機系低分子化合物の重合する方法において、相分離誘起剤として有機高分子を含むことを特徴とするものである。
本発明の請求項8に係る多孔体の製造方法は、請求項6又は7において、ビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、リン、窒素、酸素または炭素原子から選択される少なくとも一つの中心元素と、中心元素に結合した少なくとも一つのハロゲン原子とを含むことを特徴とするものである。
本発明の請求項9に係る多孔体の製造方法は、請求項6又は7において、リビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ラジカル開始剤から生じたラジカルと反応して活性化ラジカルを生成させることができる炭素または酸素を中心元素とした触媒前駆体化合物からなることを特徴とするものである。
本発明の請求項10に係る多孔体の製造方法は、請求項8又は9において、リビングラジカル重合のための可逆移動触媒の中心元素に結合したハロゲンが、ヨウ素であることを特徴とするものである。
本発明の請求項11に係る多孔体の製造方法は、請求項6乃至10のいずれか1項において、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒と同時に用いる保護基として、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用されることを特徴とするものである。
本発明の請求項12に係る多孔体の製造方法は、請求項11において、保護基として用いる有機ハロゲン化物のハロゲンがヨウ素であることを特徴とするものである。
本発明の請求項13に係る多孔体の製造方法は、請求項6乃至12のいずれか1項において、アゾ系ラジカル開始剤とハロゲン分子とを反応溶液中に混合して、反応溶液中でアゾ系ラジカル開始剤を分解して有機ハロゲン化物を生成させる工程を含むこと特徴とするものである。
本発明の請求項14に係る多孔体の製造方法は、請求項6乃至13のいずれか1項において、リビングラジカル重合を行う重合温度が、20〜100℃であること特徴とするものである。
本発明の請求項15に係る多孔体の製造方法は、請求項6乃至14のいずれか1項において、該多孔体を調製した後に、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒または有機ハロゲン化物のハロゲンとして用いたヨウ素を昇華、分解または抽出により多孔体から除去することを特徴とするものである。
本発明によれば、リビングラジカル重合のための触媒を用いる可逆移動触媒重合系により調製された三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体が提供される。
まず、従来技術のリビングラジカル重合による多孔体の製造方法では、相分離誘起剤として有機高分子が重合溶液に含まれていたが、重合溶媒を選定することにより、有機高分子を含まなくともモノリス型多孔体が調製でき、洗浄作業や使用中に有機高分子が出てこない多孔体を提供するものである。
また、リビングラジカル重合のために用いる可逆移動触媒は、高い活性、低毒性である、反応後に高溶解性であるという様々な利点を有し、そのため、配位子を添加して錯体とする必要もない。従って、この触媒は、高い活性を有することからも、従来技術のように重合反応に高温を必要とすることもなく、そして触媒の使用量を低減することができる。また、従来技術のようにポリマー成長鎖を反応中に保護するために高価な特殊な保護基を必要とすることもない。さらに、成形時に着色したり臭いがついたりすることを除去できる利点を有する多孔体を提供するものである。
また、相分離誘起剤として有機高分子を系に含めて調製される多孔体は、骨格サイズ、空隙サイズまたは骨格サイズ/空隙サイズの比を広い範囲での調整が可能であり、任意の骨格および空隙サイズを有する多孔体を提供するものである。
さらに、三次元網目構造を形成する骨格内に小さい孔径の細孔(メソポア)を有していることにより、表面積を拡大することができ、分離性能や吸着性能の高い分離媒体を形成することができるものである。高性能な分離媒体としては、相互作用により分離される溶質の保持のためにメソポアを有されることが必要であるため、より優れる分離メディアを提供するものである。
本発明の製造方法によれば、リビングラジカル重合のための触媒を用いる可逆移動触媒重合系により調製された三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体の容易な製造方法が提供される。
まず、上記の触媒の優位点による低温での重合、安価な触媒、安全性が高い、モノマー汎用性が高いということが挙げられ、また、ハロゲンとしてヨウ素を用いることで末端のハロゲンを昇華、分解または抽出による除去や別の官能基に変換して、新たな機能を引き出すことも容易となる多孔体の製造方法を提供するものである。これについては、触媒と同時に用いる保護基としての有機ハロゲン化物についても同様の利点を提供するものである。
また、従来技術では高温での重合を必要としていたが、本発明の製造方法により、100℃以下での重合が可能で構造の歪さが少なく、かつ、触媒等に使用したハロゲンを除去することで、分離分析用媒体(例えば、クロマトグラフィー用カラム)としての高性能カラムを提供するものである。
以下に本明細書において特に使用される用語を説明する。
本明細書において「モノリス型多孔体」とは、骨格相および溶媒相のからなる三次元網目構造の骨格と空隙を有する多孔体をいう。モノリスとは、一体型という意味であり、モノリス型多孔体とは、一体型の多孔体で骨格と空隙が三次元網目構造を有しているものをいう。クロマトグラフィー分野では、モノリスとは上記の意味を慣用名称として用いている。本発明では、有機系高分子化合物からなるモノリス型多孔体を記している。
本明細書において「マクロ孔」とは、上記モノリス型多孔体の空隙部分を意味し、三次元網目構造を構成しているものをいう。マクロ孔はクロマトグラフィー分野においてカラムの流路部分を称しているが、本発明においても当該多孔体の用途としてカラムへの適用を明細書に記しており、カラムの説明部分で用いている。
本明細書において「メソポア」とは、上記モノリス型多孔体の骨格内に形成する小さい細孔を意味している。メソポアは当該モノリス多孔体の三次元網目構造の構成部でないため、空隙サイズより小さい孔径である。メソポアはクロマトグラフィー分野において一般にカラム内に充填して使用する粒子内の微細孔を示しており、本発明の骨格内のメソポアも同等の働きをするためメソポアと称している。
本明細書において「可逆移動触媒重合」(Reversible Chain Transfer Catalyzed Polymerization (RTCP))とは、開始剤から生じた成長ラジカルが、触媒(連鎖移動剤)のハロゲン(例えば、ヨウ素)を引き抜き、中心元素のラジカルがin Situで(休眠種とともに)生成した後に、中心元素ラジカルは休眠種の活性主剤として作用し、成長ラジカルとヨウ素が結合した触媒が生成する。この過程は触媒への可逆的連鎖移動であり、休眠種はこの可逆的連鎖移動により触媒的に活性化される。この活性化機構による重合を可逆移動触媒重合と称している。
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。好ましくは、臭素またはヨウ素であり、より好ましくはヨウ素である。
本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において連鎖移動反応および停止反応が実質的に起こらず、単量体が反応しつくした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。リビングラジカル重合の特徴としては、モノマーと重合開始剤の濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができること、また、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いこと、ブロック共重合体へ応用できること、などが挙げられる。なお、リビングラジカル重合は「LRP」と略される場合もある。
本明細書において「中心元素」とは、触媒となる化合物を構成する原子のうち、ハロゲン原子と結合して主に触媒作用を担う原子を意味する。従来技術において使用される「中心金属」との用語と同じ意味であるが、本発明において用いられるゲルマニウムは一般に半導体であって金属に分類されないことが多く、窒素、リン、酸素および炭素は一般には金属に分類されないから、誤解を避けるために、従来技術における用語「中心金属」の代わりに、「中心元素」との用語を用いる。
本明細書において「キャピラリー」とは、内径1mmφ以下の石英チューブを示している。キャピラリーは有機合成、生体分野、分析分野、質量分析計のスプレー部品など幅広く用いられているが、本発明のモノリス型多孔体をキャピラリーチューブ内に調製し、分析用カラムとして用いたものをキャピラリーカラムと称している。キャピラリーをクロマトグラフィー用カラムに用いることで、分析に用いる溶媒(移動相)を約1/1000量にできることから、次世代の分離分析用カラムとして注目されている。
以下、本発明を詳細に説明する。
(モノリス型多孔体)
骨格相および溶媒相のからなる三次元網目構造の骨格と空隙を有するモノリス型多孔体(以下、単に「モノリス型多孔体」という)は、場合によって使用させる相分離誘起成分である有機高分子により、低分子化合物の重合体の濃度が相対的に高く、当該重合体に富む濃厚相、および、上記濃度が相対的に低く、重合溶媒に富む希薄相への相分離(代表的には、スピノーダル分解型の相分離)が誘起されて形成される。骨格相および溶媒相は、それぞれ連続した三次元の網目構造を有しており、お互いに絡み合っている。
このとき、低分子化合物(モノマー)の重合体が、リビングラジカル重合により形成されることが重要であり、例えば、従来の有機系多孔体の製造方法であるフリーラジカル重合では、核生成−成長過程により重合系中に複数の重合体粒子が形成された後、これらの粒子が確率的に凝集して沈殿しながら多孔体構造が形成されるため、共連続構造を有するゲルを形成できない。
本発明であるモノリス型多孔体のモノマーの重合による骨格および溶媒相からなる空隙(以下、「空隙」のことを「マクロ孔」ともいう)は、ゲルの骨格相および溶媒相の構造に対応して、それぞれ、連続した三次元網目構造を有しており、互いに絡み合っている。
本発明のモノリス型多孔体は、従来のフリーラジカル重合技術で調製された複数の重合粒子の確率的な凝集、接合により形成された従来の多孔体に比べて、骨格の構造がより均一であり、強度などの機械的特性に優れており、また、重合前の調製溶液中に加える触媒は、従来の遷移金属錯体系触媒やニトロキシル系触媒またはジチオエステル系触媒を用いていない新たなリビングラジカル重合触媒であるため、上述した調製過程での重合温度の制限や得られた高分子体の性質は高く、外観、臭気、洗浄工程の制限、触媒の毒性や環境上への問題もなく、調製されたモノリス型多孔体は物質的特性に優れている。
本明細書に記載する触媒を用いたリビングラジカル重合では、重合系を制御することで、得られる重合体の分子量および分子量分布の制御が可能であり、例えば、狭い分子量分布を有する重合体を形成できる。これにより、重合系の時間的な制御が可能となり、重合体の重合度に対する相分離のタイミングの制御が可能である。
「重合系を制御する」とは、例えば、重合温度や重合時間を変化させたり、用いる低分子化合物、必要に応じて使用する有機高分子、重合開始剤、触媒および重合溶媒の種類やその比率などを変化させたりすることをいう。
このため、本発明のモノリス型多孔体は骨格サイズと空隙サイズ、さらに、骨格サイズ/空隙サイズの比を独立して制御できるため、例えば、希望する骨格サイズや空隙サイズを有する多孔体を形成したり、骨格サイズや空隙サイズのサイズ分布が狭い多孔体を形成したりすることができる。即ち、本発明のモノリス型多孔体の製造方法によれば、従来のフリーラジカル重合による多孔体に比べて、骨格および空隙の構造がより精密に制御された多孔体を形成できる。
(リビングラジカル重合)
リビングラジカル重合は、重合方法として一般的に用いられる方法に基づいて行えばよい。例えば、重合溶媒に、必要に応じて使用する相分離誘起成分である有機高分子を溶解させて溶液を調製し、調製した溶液と低分子化合物、重合開始剤、本明細書で規定する触媒および保護基とを混合する。この調製した溶液を重合条件において当該低分子化合物を重合すればよい。実際の重合にあたっては、必要に応じて、重合開始剤、重合溶媒、相分離誘起成分、触媒および低分子化合物(モノマー)の種類、量を選択して、重合温度、重合時間などを制御することにより、任意な骨格サイズと空隙サイズを有したモノリス型多孔体の作成が可能となる。
(モノマー)
低分子化合物(モノマー)としては、ラジカル重合性モノマーを用いる。ラジカル重合性モノマーとは、有機ラジカルの存在下にラジカル重合を起こり得る不飽和結合を有するモノマーをいう。このような不飽和結合は二重結合であってもよく、三重結合であってもよい。すなわち、本発明の重合方法には、従来からリビングラジカル重合を行うことが可能な公知の任意のモノマーを用いることができる。
例えば、メタクリレート系モノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ2− ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等が挙げられる。また、メタクリル酸も用いることができる。
例えば、アクリレート系モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−( ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルア
ミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。また、アクリル酸も使用可能
である。
例えば、スチレン誘導体としては、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン等、ビニルモノマーとしては、アルキレンが挙げられる。
また、本発明には、2つ以上のビニル基を有するモノマーも使用可能である。例えば、ジエン系化合物(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、アリル系を2つ有する化合物(例えば、ジアリルフタレートなど)、アルキレンジメタクリレートやヒドロキシアルキレンジメタクリレートなどのジオール化合物のジメタクリレート、ジオール化合物のジアクリレートなどである。
さらに、本発明には、上述した以外のビニルモノマーも使用可能である。例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール)、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、アクリル酸、メタアクリル酸などである。
上述したモノマーの種類と、本発明の触媒の種類との組み合わせは特に限定されず、任意に選択されたモノマーに対して任意に選択された可逆移動触媒を用いることが可能である。ただし、メタクリレート系モノマーについては、芳香環を有する置換基を有する触媒、より具体的にはアリールまたは置換アリールを有する触媒を使用することが、反応性の点で、それ以外の触媒よりも好ましい。
上記の中でも、好ましくは、分子内に不飽和結合が二つ以上有する低分子化合物である。また、低分子化合物は、単量体(モノマー)であってもよく、ある程度モノマーが重合した状態(オリゴマーなどで分子量1000程度以下が好ましい)であってもよい。さらに、低分子化合物分子内に重合に用いる官能基以外の機能的な官能基、例えば、疎水性や親水性、イオン性を有している部位を導入ことにより機能性を備えることも可能である。
本発明の製造方法では、重合系において2種類以上の低分子化合物を重合させてもよく、この場合、上記2種類以上の低分子化合物における少なくとも1種が、炭素間の多重結合(二重結合や三重結合など)を2以上有する多官能性化合物(いわゆるクロスリンカー)を用いることが、重合時に三次元網目構造を形成するのに大きな役割を果たし、モノリス型多孔体を形成しやすくなる。本発明の製造方法では、フリーラジカル重合を用いた従来の多孔体の製造方法に比べ、低分子化合物におけるクロスリンカーの割合を多くすることができる。
このように、本発明のモノリス型多孔体は、クロスリンカーを多く含む重合体を骨格基材であるため、従来の多孔体に比べて、強度など、より機械的特性に優れる多孔体を形成できる。
(相分離誘起成分である有機高分子)
必要に応じて用いられる相分離誘起成分である有機高分子としては、重合溶媒に溶解するなど、重合系に均一な状態で加えることができる有機高分子である限り特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリエチレングルコール、ポリエチレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート等のビニル系ポリマー、及び、これらの共重合体等が挙げられる。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。有機高分子を重合溶液に溶解する時、均一な溶液に調製する必要がある。
相分離誘起成分である有機高分子としては、例えば、重量平均分子量2000以上の固形のポリエチレンオキシドを用いてもよいし、例えば、重量平均分子量600以上2000までの蝋質(半固形)のポリエチレンオキシドを用いてもよいし、例えば、重量平均分子量600以下の液状のポリエチレングリコールを用いてもよい。
重合系にこのような有機高分子を加えることにより、共連続構造を形成する相分離が誘起される原因は明確ではないが、低分子化合物の重合が進行するに従って有機高分子との相溶性が低下し、このとき、低分子化合物の重合体の分子量分布がある範囲に収まる(分子量分布が狭い)などの条件が揃うことにより、スピノーダル分解による相分離が誘起されるなどの理由が考えられる。
重合系に加える有機高分子の量は、低分子化合物の種類など、重合系により異なるが、例えば、低分子化合物100重量部に対して、1重量部〜100重量部の範囲であり、5重量部〜20重量部の範囲が好ましい。
(相分離誘起成分を用いないモノリス型多孔体)
また、上記のような相分離誘起成分を用いずにモノリス型多孔体を調製することも可能である。従来技術であるニトロキシル系触媒を用いるリビングラジカル重合と相分離誘起成分を並存させた重合により作成されるモノリス型多孔体の場合は、多孔体調製後に洗浄により相分離誘起成分を多孔体から取り除く必要があり、これを怠ると、例えばクロマトグラフィー用カラムとして使用した場合に、分析装置に用いる溶媒(移動相)や分析物(試料)もしくは分取物によって抽出される恐れがあるからである。
相分離誘起成分を加えない調製方法は、下記の実施例でも紹介するが、溶媒の種類をモノマーに対して適切に選択する必要があり、これらの選択はモノリス型多孔体の調製を試みるモノマーに対しての溶媒、開始剤および触媒の種類や量、重合の温度や重合時間の調節を各々に実験的に複数行い、最適な溶媒を探索する必要がある。溶媒としては、モノマーの官能基に対して相互作用をもたらし、粘度の高い溶媒を選定することが好ましい。好ましくは、粘度が1.5cP以上の溶媒である。例えば、ホルムアミド、n−メチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール類などが挙げられる。これらの溶媒を第2の溶媒として下記の重合溶媒に加えることが必要である。
このように、液状の有機高分子や相分子誘起成分を用いない系で調製されたモノリス型多孔体は、調製後の洗浄工程や実際の使用用途時において、溶媒による有機高分子の析出がなく、洗浄工程が著しく容易で、かつ、簡易な設備での調製が可能となるため、調製コスト削減にも繋がる。
(重合溶媒)
重合溶媒としては、低分子化合物および有機高分子が溶解する溶媒であれば特に限定されず、リビングラジカル重合に一般的に用いる溶媒を用いればよい。例えば、トルエン等のアルキルベンゼン、クロロベンゼンやジクロロベンゼン等のハロゲン置換ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン(メシチレン)、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、メタノールやエタノール等のアルコール、アセトンやテトラヒドロフラン等のケトン、ベンゼン、水などが挙げられる。
溶媒の使用量は、そのままモノリス型多孔体の空隙量となるため、仕込みモノマーが全てモノリス型多孔体の骨格となる場合、溶媒の体積がそのまま空隙率となる。好ましくは空隙率20〜95%にコントロールすることであり、より好ましくは50〜95%である。さらに、モノリス型多孔体をクロマトグラフィー用カラムとして用いる場合は、好ましくは75〜95%である。50%未満では分離媒体として使用する場合、低空隙率による圧力の上昇がある。高空隙率であるほど低圧で高性能なクロマトグラフィー用カラムが調製可能であるが、ゲル強度に問題が生じる。これに対しては、モノマーに多官能性モノマーを使用することで解決できる。
(重合開始剤)
重合開始剤としては、低分子化合物をリビングラジカル重合できる限り、特に限定されず、リビングラジカル重合に一般に用いる重合開始剤を用いればよい。例えば、アゾ系のラジカル開始剤および過酸化物系のラジカル開始剤などが使用可能である。アゾ系ラジカル反応性開始剤の具体例としては、例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系のラジカル開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、過酸化二硫酸カリウムが挙げられる。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
(触媒)
可逆的移動触媒(以下、「触媒」という)としては、中心元素がゲルマニウム、スズ、アンチモン、窒素、リン、酸素または炭素である化合物を用いる。
中心元素が結合する原子は隣接する原子(例えば、炭素)との間に二重結合または三重結合を有することが好ましい。すなわち、中心元素が結合する原子は、アルケニル基(例えば、ビニル基)、アルキニル基、またはアリール基(例えば、フェニル基)もしくはヘテロアリール基のいずれかの基の不飽和結合を有する炭素であることが好ましい。また、アルケニル基またはアルキニル基の場合には、その末端に二重結合または三重結合が存在することが好ましく、その末端炭素に中心元素が結合することが特に好ましい。なお、このような構造が好ましいことは、後述する触媒前駆体化合物でも同様である。
上述したような二重結合または三重結合の炭素に中心元素が結合した触媒または触媒前駆体化合物のラジカル(例えば、酸素ラジカルや炭素ラジカル)になった場合は、共鳴安定化により、ラジカル(例えば、酸素ラジカルや炭素ラジカル)が安定になり、リビングラジカル重合触媒としての性能が良好になると考えられる。
本発明のモノリス型多孔体の作成に用いる触媒は、ドーマント種の一種である使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と組み合わせて使用することができる。触媒は、リビングラジカル重合の際に、この有機ハロゲン化物からハロゲンを引き抜いて、ラジカルを生成させる。従って、本発明において、触媒は、ドーマント種として使用される化合物の、成長反応を抑制している基をはずして活性種に変換し成長反応をコントロールする。なお、ドーマント種は有機ハロゲンに限定されない。
触媒化合物は、少なくとも1つの中心元素を有する。1つの好ましい実施形態では、1つの中心元素を有するが、2つ以上の中心元素を有してもよい。
(触媒中のハロゲン原子)
上記触媒の化合物中には、少なくとも1つのハロゲン原子が中心元素に結合している。上記触媒の化合物が2つ以上の中心元素を有する場合、それぞれの中心元素に対して少なくとも1つのハロゲン原子が結合している。このハロゲン原子は、好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素である。より好ましくは、ヨウ素である。ハロゲン原子は1分子中に2原子以上存在してもよい。例えば、2原子、3原子、または4原子存在してもよく、それ以上存在してもよい。好ましくは、2〜4個である。ハロゲン原子が1分子中に2原子以上存在する場合、その複数のハロゲン原子は同一であってもよく、異なる種類であってもよい。
(触媒中のハロゲン以外の基)
触媒化合物は、必要に応じて、ハロゲン以外の基を有していてもよい。例えば、中心元素に、任意の有機基または無機基を結合させることが可能である。
このような基は、有機基であってもよく、無機基であってもよい。有機基としては、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換へテロアリール、アルケニル基(例えは、ビニル基)、アルキニル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)、エステル基(脂肪族カルボン酸エステルなど)、アルキルカルボニル基(メチルカルボニル基など)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基など)などが挙げられる。1つの好ましい実施形態では、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換へテロアリール、アルケニル基(例えば、ビニル基)、またはアルキニル基である。また、無機基としては、水酸基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。
有機基として、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、または置換ヘテロアリールを有する触媒化合物は、ラジカルの活性がより高くなる傾向にあり、好ましい。
置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおいてアリールまたはヘテロアリールに結合する置換基としては、例えば、アルキルまたはアルキルオキシ、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。アルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C1〜C5
アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜C3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。アルキルオキシにおけるアルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C1〜C5アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜C3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。すなわち、1つの実施形態において、中心元素に結合する有機基は、フェニル、低級アルキルフェニルまたは低級アルキルオキシフェニルである。
上記有機基および無機基の数は特に限定されないが、好ましくは、3以下であり、より好ましくは、1である。
なお、置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおける当該置換基の数は、特に限定されないが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは、1である。
置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおける当該置換基の位置は、任意に選択される。アリールがフェニルである場合(すなわち、置換アリールが置換フェニルである場合)、置換基の位置は中心元素に対してオルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。好ましくはパラの位置である。
(炭素を中心元素とする触媒化合物)
炭素を中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。中心元素の炭素に水素やメチル基が結合していない化合物が好ましい。炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、例えば、後述する実施例に用いられているような化合物である。
該中心元素には、さらに、電子吸引性置換基または中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が1つから3つ、好ましくは2つ〜3つ結合している。すなわち、好ましくは、電子吸引性置換基が2つ〜3つけつごうしているか、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ〜3つ結合しているか、または、電子吸引性置換基と中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基とが合わせて2つ〜3つ結合している。電子吸引性置換基が2つ〜3つ結合しているか、または中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ〜3つ結合していることがより好ましい。
炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化炭素(例えば、Cl 4)、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリール(例えば、R1 3CX、R1 2CX2、またはR1CX3、例えば、ヨウ化ジフェニルメタン(Ph2Cl2)もしくはハロゲン化ヘテロアリールなどが挙げられる。
なお、本願明細書中では、上記電子吸引性置換基、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基および電子供与性置換基を総称して「ラジカル安定化用置換基」ともいう。
該中心元素に結合したラジカル安定化用置換基により、該中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルが安定化される。炭素ラジカルの安定化により、触媒の活性が非常に高くなり、少量の触媒でリビングラジカル重合を制御することが可能となる。
なお、中心元素の炭素には、上記ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つまたは2つ結合していてもよい。ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基としては、例えば、水素が挙げられる。ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基は、1つ以下であることが好ましく、存在しないことがより好ましい。
1つの実施形態において、該中心元素に電子供与性置換基が結合していない化合物を用いることができる。
別の実施形態において、中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルを安定化させることのできる電子供与性置換基を本発明に用いることも可能である。例えば、中心元素に、中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルを安定化させることのできる電子供与性置換基を1つ〜3つ、好ましくは2つ〜3つ結合させた化合物を触媒化合物として用いてもよい。
上記電子吸引性置換基、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基または電子供与性置換基を有する化合物のそれぞれに関し、中心元素に結合するラジカル安定化用置換基が2つ存在する場合、2つのラジカル安定化用置換基は、互いに連結されていてもよい。すなわち、それら2つのラジカル安定化用置換基と中心元素とで環を形成する構造であってもよい。また、上記ラジカル安定化用置換基が3つ存在する場合、3つのラジカル安定化用置換基のうちの2つが互いに連結されていてもよく、3つのラジカル安定化用置換基が互いに連結されていてもよい。すなわち、2つのラジカル安定化用置換基と中心元素とで環を形成する構造であってもよく、3つのラジカル安定化用置換基が環を形成する構造であってもよい。
なお、2つのラジカル安定化用置換基が互いに連結された構造は、全体として1つの2価の大きいラジカル安定化用置換基と考えることも可能であるが、便宜上、本明細書中では、2つのラジカル安定化用置換基が存在してそれらが連結されていると記載する。すなわち、本発明のメカニズムを考える上では、全体として1つの2価の大きいラジカル安定化用置換基を考えることは重要ではなく、むしろ、中心元素の炭素原子に2つの原子が結合しており、炭素原子の電子状態がその2つの原子から影響を受けているということが重要である。
例えば、フルオレンは、ビフェニルの2箇所がメチレン基に結合した構造を有しているが、本明細書中では、メチレン基に2つのフェニル基が結合し、そのフェニル基が互いに連結された構造として記載する。そして、フルオレンにおいては、2つのフェニル基から中心元素の電子状態が影響を受けている。
また、3つのラジカル安定化用置換基が互いに連結された構造は、全体として1つの3価の大きいラジカル安定化用置換基と考えることも可能であるが、便宜上、本明細書中では、3つのラジカル安定化用置換基が存在してそれらが連結されていると記載する。
(電子吸引性置換基)
電子吸引性置換基とは、中心元素の炭素に結合して、中心元素の炭素から電子を吸引する置換基である。好ましい電子吸引性置換基はハロゲンであり、具体的にはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。ハロゲン以外の電子吸引性置換基であっても、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)と同程度に中心元素の炭素から電子を吸引する置換基は好ましく使用できる。このような置換基としては、例えば、カルボニルの酸素(=O)、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
(電子供与性置換基)
電子供与性置換基とは、中心元素の炭素に結合して、中心元素の炭素に電子を供与する置換基である。このような置換基としては、例えば、アルコキシ基等が挙げられる。
(共鳴構造を形成する置換基)
中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基とは、二重結合または三重結合を有する置換基であり、その二重結合または三重結合を構成する原子が中心元素に結合する構造を有する。すなわち、中心元素と、二重結合または三重結合を構成する原子との3つの原子が、
「C−M1=M2」(式IIIa)または
「C−M3≡M4」(式IIIb)
という構造になるように結合している。すなわち、中心元素が二重結合または三重結合に隣接した構造である。
上記式IIIaおよびIIIbにおいて、M1は、二重結合を構成し、かつ中心元素に結合する原子である。M2は、二重結合を構成する原子である。M3は、三重結合を構成し、かつ中心元素に結合する原子である。M4は、三重結合を構成する原子である。このような構造をとることにより、中心元素が炭素ラジカルとなった際に、炭素ラジカルと、二重結合または三重結合の電子との共鳴効果により、その炭素ラジカルが安定化されて、触媒として高い活性を示すことになる。
1の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素などである。好ましくは炭素である。M1が4価の原子の場合には、M1はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M1が5価の原子の場合には、M1はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
2の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素、酸素などである。好ましくは炭素である。M2が3価の原子の場合には、M2はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M2が4価の原子の場合には、M2はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M2が5価の原子の場合には、M2はさらに3価の基を1つ、2価の基を1つおよび1価の基を1つ、または1価の基を3つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
3の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リンなどである。好ましくは炭素である。M3が5価の原子の場合には、M3はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
4の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素などである。好ましくは炭素である。M4が4価の原子の場合には、M4はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M4が5価の原子の場合には、M4はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
1つの好ましい実施態様では、M1およびM2が共に炭素である。中心元素が、2つの炭素原子間の二重結合を有する置換基を有する場合、すなわち,M1およびM2が炭素である場合、当該炭素原子間の二重結合は、芳香族性の二重結合であってもよく、エチレン性二重結合であってもよい。例えば、中心元素にアルケニル基もしくはアルキニル基が結合した構造、または中心元素にアリール、ヘテロアリール、置換アリール、もしくは置換ヘテロアリールが結合した構造が好ましい。ただし、触媒はラジカル反応の際に重合しないことが好ましいので、中心元素にアリール、ヘテロアリール、置換アリールまたはヘテロアリールが結合した構造が非常に好ましい。また、エチレン性二重結合の場合には、そのラジカル重合反応性が低いものが好ましい。
好ましくは、中心元素は、上述した二重結合または三重結合を有する置換基を2つまたは3つ有する。すなわち、2つまたは3つの二重結合または三重結合に中心元素が挟まれた構造を有することが好ましい。
例えば、2つの二重結合に中心元素が挟まれた構造の場合には、以下の構造になる。
「M6=M5−C−M7=M8」(式IIIc)
ここでM5およびM7は上記M1と同様の原子であり、M6およびM8は上記M2と同様の原子である。このような構造を有する化合物においては、リビングラジカル重合の際に中心元素の炭素原子が安定な炭素ラジカルとなり、触媒として高い活性を示す。
中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ存在する場合、その2つの置換基と中心元素とが全体として1つの共鳴構造を構成することが好ましい。例えば、2つの置換基と中心元素とが全体として芳香族環構造を構成することが好ましい。より具体的な例としては、例えば、ヨードベンゼンは、2位、3位および4位の炭化水素からなる置換基と、5位、6位の炭化水素からなる置換基が1位の炭素原子に結合しており、そして4位の炭素と5位の炭素の間で、2つの置換基が連結された構造を有していると考えることが可能である。そしてその2つの置換基と中心元素との全体として構成されるベンゼン環が、1つの共鳴構造を構成しており、その共鳴構造により、中心元素におけるラジカルが安定化される。
1つの好ましい実施形態において、触媒化合物は、以下の一般式Ieで示される。
(Ie)
ここで、M11は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M12は、M11に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。M11とM12との間の結合は二重結合または三重結合である。R10およびR11は,M11の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R12およびR13は,M12の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
21は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M22は、M21に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。M21とM22との間の結合は二重結合または三重結合である。R20およびR21は,M21の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R22およびR23は、M22の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。また、R13は、R23と連結されていてもよい。
1つの好ましい実施形態において、触媒化合物は、以下の一般式Ifで示される。
(If)
ここで、M41は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M42は、M41に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。R40およびR41は,M41の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R42およびR43は,M42の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
51は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M52は、M51に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。R50およびR51は,M51の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R52およびR53は,M52の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
また、R43は、R53と連結されていてもよい。さらに、R53が存在しない場合、R43は、M52に直接連結されていてもよい。この場合の構造式を以下に示す。
(Ig)
この場合、R43を構成する原子のうち、M42と結合する原子がM52とも結合すれば、安定な6員環を形成することができるので好ましい。1つの好ましい実施態様では、R43はCHまたはNであり、M42とR43との間の結合は単結合であり、R53が存在せず、R43が直接M52に結合しており、R43とM52との間の結合は二重結合である。この場合、6員環において極めて安定な共鳴構造が形成されることになる。
さらに、R43およびR53がともに存在しない場合、M42が、M52に直接結合していてもよい。この場合、中心元素の炭素原子と、M41、M42、M51およびM52が5員環を形成する。
なお、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基は、電子吸引性の置換基であってもよく、電子供与性の置換基であってもよい。
(炭素を中心元素とする触媒化合物の具体例)
また、炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化炭素(例えば、CI4)、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリール(例えば、R1 3CX、R1 2CX2、またはR1CX3、例えば、ヨウ化ジフェニルメタン(Ph2CI2))もしくはハロゲン化ヘテロアリールなどが挙げられる。後述するPE−IおよびCP−Iなどは、ドーマント種としてのみ作用するものであり、触媒としては作用しない。PE−IおよびCP−Iのように、ハロゲンが結合する炭素に水素が1つ以上かつメチル基が1つ以上結合したもの、あるいはハロゲンが結合する炭素にメチル基が2つ以上結合したものは、触媒としては作用しない。
従来、有機ハロゲン化物は、後述するドーマント種として使用されることが知られていた。ドーマント種は、リビングラジカル重合触媒と組み合わせて用いられ、ドーマント種から、触媒の作用により、ハロゲンが離脱して、ラジカル(重合の成長種)が発生し、重合が進行する。本発明においても、PE−IやCP−Iなどのハロゲン化アルキルをドーマント種として、触媒の種類によらず、常に用いる。本発明において、触媒として、炭素を中心元素とする化合物を用いる場合は、PE−IやCP−Iなどのドーマント種となるハロゲン化アルキルとともに、ドーマント種とは構造も反応性も異なるハロゲン化アルキルを触媒として、あわせて用いる。触媒となるハロゲン化アルキルは、ハロゲンとの親和性が強く(ハロゲンをドーマント種から引き抜く力が強く)、モノマーとは反応しない(重合の成長種にならない)必要があり、一般に、PE−IやCP−Iに比べて、電子的にやや不安定で(高活性で)、モノマーとの反応を避けるべくやや嵩高いハロゲン化アルキルが好ましい。すなわち、触媒は、炭素−ハロゲン結合が弱く、ハロゲンを放出して炭素ラジカルになりやすく、その炭素ラジカルはドーマント種からハロゲンを引き抜く力が強いものが好ましい。
これらのハロゲン化アルキルなどの有機ハロゲン化物が触媒として作用できるとは従来考えられていなかった。そのため、ハロゲン化アルキルを触媒として用いた従来技術はない。
しかしながら、本発明者らの研究により、有機ハロゲン化物がすべてドーマント種としてのみ作用できるという従来の技術常識に誤りがあることがわかった。すなわち、p軌道またはs軌道とp軌道の混成軌道(例えば、sp3混成軌道)の電子に基づくラジカルが触媒として有効となり得ることがわかったので、上記有機ハロゲン化アルキルなどの有機ハロゲン化物におけるp軌道またはs軌道とp軌道の混成軌道の電子に基づくラジカルも触媒として作用できることがわかった。
このような、触媒として作用できる有機ハロゲン化物は、ラジカル反応の実験を行うことにより、容易に確認することができる。具体的には、有機ハロゲン化物と、代表的なドーマント種(例えば、PE−I)とを組み合わせてリビングラジカル重合反応の実験を行い、狭い分子量分布が得られれば、その有機ハロゲン化物が触媒として作用したことが確認される。触媒化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。
炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例を以下に記載する。
(1)芳香族環に直接ハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
(2)共役脂肪族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素にヨウ素が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
(3)芳香族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
また、3つの芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物も使用可能である。例えば、ハロゲン化トリフェニルメタンなどが使用可能である。
(4)エステル結合などの二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
(5)C−I(炭素−ヨウ素)構造またはC−Br(炭素−シュウ素)構造を有する化 合物であって、その炭素がさらに3つのハロゲン原子と結合している化合物が使用可能 である。すなわち、少なくとも1つのヨウ素またはシュウ素を有する四ハロゲン化メチ ルが使用可能である。好ましくは、ヨウ素を有する化合物である。例えば、以下の構造 を有する化合物が使用可能である。
CI4 CF3I CF22
ただし、四ハロゲン化メチルが、IまたはBrのいずれも有さない場合(例えば、CCl4)は、触媒としての活性が非常に低いため好ましくない。
(酸素を中心元素とする触媒化合物)
酸素を中心元素とする触媒化合物の具体例としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。酸素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化酸素(例えば、ヨウ化酸素)、アルコキシハライドあるいはカルボキシルハライド(R1OX、例えば、ヨウ化安息香酸(PhCOOI))、フェノール系化合物中のフェノール性水酸基のHをハロゲンに置換した化合物(例えば、ヨウ化チモール)などが挙げられる。触媒化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。
(リンを中心元素とする触媒化合物)
リンを中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。
例えば、R1 nh1 m(=Z)kにおいて、Pがリンである化合物を使用することができる。ここで、R1は好ましくは、アルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールである。X1はハロゲンであり、Zは酸素、窒素であって、Pに結合していており、ZとMの結合は二重結合だけでなく、三重結合であってもよい。
リンを中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化リン(例えば、3ヨウ化リン、5ヨウ化リン)、ハロゲン化ホスフォン(R1 2PXまたはR1PX2、例えば、ヨウ化ジフェニルホスフォン(Ph2PI))、ハロゲン化亜リン酸誘導体(R1 2PX(=O)、R1PX2(=O)、またはPX3(=O)、例えば、ヨウ化亜リン酸ジエステル((C25O)2(=O),エチルフェニルホスフィネート(Ph(C25O)2PI(=O))ジフェニルホスフィンオキサイド(Ph2PI(=O))などが挙げられる。
(窒素を中心元素とする触媒化合物)
窒素を中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。
例えば、R1 nh1 m(=Z)kにおいて、Mが窒素である化合物を使用することができる。ここで、R1はアルキル、アルキルカルボキシル、アルキルカルボニル、ハロアルキル、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、好ましくは、アルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールである。X1はハロゲンであり、Zは酸素、窒素または硫黄であって、Mに結合していており、ZとMの結合は二重結合だけでなく、三重結合であってもよい。Zが酸素または硫黄の場合には、二重結合が好ましい。Zが窒素である場合には、三重結合が好ましい。
ここで、nは好ましくは0〜3であり、より好ましくは0〜2である。hは好ましくは1であり、mは好ましくは1〜3である。kは好ましくは0である。また、上記において、Mが窒素である場合、2つのR1が結合してMと一緒になって環を形成してもよい。この場合、2つのR1は共にアルキルカルボニル、ビニルカルボニル、あるいはフェニルカルボニルであることが好ましい。
窒素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化窒素(例えば、3ヨウ化窒素)、ハロゲン化アミンあるいはハロゲン化イミド(R1 2NXまたはR1NX2)、例えば、ヨウ化ジフェニルアミン(Ph2NI)や、ヨウ化コハク酸イミド((CH22(C=O)2NI)(NIS)、ヨウ化マレイミド((CH)2(C=O)2NI)、ヨウ化フタルイミド(C64(C=O)2NI)、あるいは、これらの誘導体(これらに1つあるいは複数の置換基の結合した化合物)などが挙げられる。
(炭素を中心元素とする触媒前駆体化合物)
炭素を中心元素とする触媒の前駆体となる化合物は、上記触媒化合物中の炭素原子に結合したハロゲンを水素に置換した化合物であり、ハロゲンを水素に置換すること以外は、上述した触媒化合物についての説明が、基本的にはそのまま触媒前駆体化合物にもあてはまる。
従って、例えば、中心元素の炭素に、1つまたは1つの水素原子と、2つまたは3つのラジカル安定化用置換基が結合している化合物が好ましく使用できる。ここで、ラジカル安定化用置換基としては、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が好ましい。中心元素の炭素には、水素原子およびラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つ結合していてもよいが、水素原子およびラジカル安定化用置換基以外の置換基が中心元素の炭素に結合していないことが好ましい。
上記触媒化合物中の炭素原子に結合したハロゲンを水素に置換した化合物としては、例えば、炭素、ケイ素、窒素またはリンにC−H基が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
触媒前駆体化合物は、好ましくは、メチレンに2つの芳香族環が結合した構造を有する化合物などである。
前駆体化合物の中心元素の炭素が結合した原子(以下、便宜上、「1位原子」という)は、好ましくは、炭素、窒素またはリンであり、より好ましくは炭素である。1位原子には、当該炭素以外には、炭素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子に隣接する原子(以下、便宜上、「2位原子」という)は好ましくは、炭素である。2位原子には、炭素、酸素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との間に二重結合が存在することが好ましい。好ましい実施形態では、2つの2位原子が存在し、そのうちの1つの2位原子と1位原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。例えば、1位原子が炭素であり、2位原子として2つの炭素原子が存在し、そのうちの1つの炭素と1位原子の炭素との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。また、2つ以上の2位原子が存在することが好ましく、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位炭素と1位炭素との間の短結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。例えば、1位原子が炭素であり、2つの炭素が2位原子として存在し、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位原子と1位原子との間の短結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
従って、前駆体化合物としては、芳香族環に炭化水素基が結合した構造を有する炭化水素化合物が好ましく、例えば、アリール、ヘテロアリール、置換アリールまたは置換ヘテロアリールに炭化水素基が結合した化合物が好ましい。例えば、メチレン基に2つの芳香族置換基が結合した化合物が好ましい。ここで、アリールとしては、フェニルまたはビフェニルが好ましい。ここで、置換アリールまたは置換ヘテロアリール中の置換基は、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基などが好ましい。低級アルキル基および低級アルコキシル基がより好ましい。
触媒前駆体化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。芳香族二重結合(例えば、ベンゼン環の二重結合)のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合を触媒前駆体化合物が有しても良い。脂肪族二重結合であっても、ラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒前駆体として使用することに支障がない。
他方、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物(すなわち、1位炭素が二重結合または三重結合を有さず、2位炭素またはそれ以上に離れた炭素が二重結合または三重結合を有する化合物)は、触媒前駆体化合物としての性能が比較的高くない傾向にある。従って、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物以外の化合物を触媒前駆体化合物として選択することが好ましい。
また、1つの実施形態においては、前駆体化合物として、ケイ素、窒素またはリンに結合した炭化水素基(すなわち、Si−CH、N−CH、P−CH)を有する化合物を用いることもできる。
本発明のモノリス型多孔体の調製に用いる前駆体化合物として好ましい化合物の構造を例示する。
(1)脂肪族二重結合に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの脂肪族二重結合の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの脂肪族二重結合の間に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物(1,4−シクロヘキサジエン)が使用可能である。
なお、1,4−シクロヘキサジエンに類似した構造を有する化合物として、1,3−シクロヘキサジエンがあるが、1,3−シクロヘキサジエンにおいては、二重結合と二重結合との間に1つのメチレン基が挟まれる構造ではないために、メチレン基の炭素ラジカルの安定化効果が低く、触媒としては適切ではない。
(2)芳香族環に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの芳香族環の間に挟まれたメチレンを有する化合物。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
1つの実施形態では、3つの芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、トリフェニルメタンが使用可能である。
(3)エステル結合などの二重結合に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの二重結合の間に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
(酸素を中心元素とする触媒前駆体化合物)
酸素を中心元素とする触媒の前駆体となる化合物は、上記触媒化合物中の酸素原子に結合したハロゲンを水素に置換した化合物であり、ハロゲンを水素に置換すること以外は、上述した触媒化合物についての説明が、そのまま触媒前駆体化合物にもあてはまる。
酸素を中心元素とする触媒の前駆体となる化合物としては、上記触媒化合物中の酸素原子に結合したハロゲンを水素に置換した任意の化合物が使用可能である。すなわち、炭素、ケイ素、窒素またはリンに水酸基が結合した構造を有する任意の化合物が使用可能である。
触媒前駆体化合物は、好ましくは、芳香族環にOHが結合した構造を有するフェノール系化合物、または脂肪族基の炭素にOHが結合した構造を有する脂肪族アルコール系化合物である。
前駆体化合物の中心元素の水酸基が結合した原子(以下、便宜上、「1位原子」という)は、好ましくは、炭素、窒素またはリンであり、より好ましくは炭素である。1位原子には、当該水酸基以外には、炭素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子に隣接する原子(以下、便宜上、「2位原子」という)は好ましくは、炭素である。2位原子には、炭素、酸素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との間に二重結合が存在することが好ましい。好ましい実施形態では、2つの2位原子が存在し、そのうちの1つの2位原子と1位原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。例えば、1位原子が炭素であり、2位原子として2つの炭素原子が存在し、そのうちの1つの炭素と1位原子の炭素との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。また、2つ以上の2位原子が存在することが好ましく、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位炭素と1位炭素との間の短結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。例えば、1位原子が炭素であり、2つの炭素が2位原子として存在し、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位原子と1位原子との間の短結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
従って、前駆体化合物としては、芳香族環に水酸基が結合した構造を有するフェノール系化合物が好ましく、例えば、アリールまたは置換アリールに水酸基が結合した化合物が好ましい。ここで、アリールとしては、フェニルまたはビフェニルが好ましい。ここで、置換アリール中の置換基は、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基などが好ましい。低級アルキル基および低級アルコキシル基がより好ましい。
触媒前駆体化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。芳香族二重結合(例えば、ベンゼン環の二重結合)のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合を触媒前駆体化合物が有しても良い。脂肪族二重結合であっても、ビタミンC中の二重結合のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒前駆体として使用することに支障がない。従って、ビタミンCは、触媒前駆体として使用できる。一般に、水酸基と結合した二重結合は、ラジカルとの反応性は無い。例えば、ビニルアルコール(CH2=CH−OH)は、ラジカル重合性モノマーではない。水酸基と結合した三重結合も同様に、ラジカル反応性はなく、そのような化合物は、ラジカル重合性モノマーではない。
他方、水酸基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物(すなわち、1位炭素が二重結合または三重結合を有さず、2位炭素またはそれ以上に離れた炭素が二重結合または三重結合を有する化合物)は、触媒前駆体化合物としての性能が比較的高くない傾向にある。従って、水酸基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物以外の化合物を触媒前駆体化合物として選択することが好ましい。
また、本発明の1つの実施形態においては、前駆体化合物として、ケイ素、窒素またはリンに結合した水酸基(すなわち、Si−OH、N−OH、P−OH)を有する化合物を用いることもできる。
(触媒の製造方法)
本発明のモノリス型多孔体の作成に用いる触媒として使用される化合物は、その多くは公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されているものをそのまま用いることが可能であり、あるいは、公知の方法により合成することが可能である。また、天然物中に存在する化合物は、その天然物から抽出するなどの方法により入手することもできる。
触媒として、炭素、酸素、窒素、リン、ゲルマニウム、スズまたはアンチモンに有機基R1(例えば、アルキル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、置換アリールまたは置換ヘテロアリール)が結合したものを用いる場合、このような化合物としては市販されているものを用いることができる。またはこのような化合物は公知の方法により合成することができる。
例えば、R1 3CHにN-ヨードコハク酸イミドを反応させる方法やR1 3COHにヨウ素あるいはP24を反応させる方法により、R1 3CIが合成させるなど、炭素にハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
例えば、R1OHにIClを反応させる方法により、ROIが合成されるなど、酸素にハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
例えば、R1 2PH(=O)にヨードホルム、ヨウ素、あるいはN−ヨードコハク酸イミドを反応させる方法により、R1 2PI(=O)が合成されるなど、リンにハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
例えば、R1 2NHにAg2Oを触媒としてヨウ素を反応させる方法により、R1 2NIが合成させるなど、窒素にハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
例えば、有機基R1のヨウ化物R1Iにヨウ化ゲルマニウムを反応させる方法によって、R1Gel3を合成することができる。
例えば、(R14SnにSnI4を反応させる方法によって、(R1nSnIm(n+m=4かつn=1,2または3)を合成することができる。
例えば、アンチモンについても、上記ゲルマニウムまたはスズの場合と同様の方法によって、合成することができる。
(触媒の使用量)
本発明のモノリス型多孔体の作成に用いる触媒は、極めて活性が高く、少量でリビングラジカル重合を触媒とすることが可能である。以下に、触媒の使用量について説明するが、触媒前駆体を使用する場合の量も触媒の量と同じである。
本発明の製造方法において、触媒または触媒前駆体として使用される化合物は、理論上溶媒として使用され得る液体の化合物である場合もある。しかし、溶媒または触媒前駆体として使用するにあたっては、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、触媒または触媒前駆体の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、触媒または触媒前駆体は、上述した通り、リビングラジカル重合を触媒とするのに充分な量で使用されればよく、それ以上に添加する必要はない。
具体的には、例えば、好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を10ミリモル(mM)以下とすることが可能である。さらに好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を5ミリモル以下とすることが可能であり、2ミリモル以下とすることも可能である。さらには、1ミリモル以下とすることも可能であり、0.5ミリモル以下とすることも可能である。重量標準では、触媒使用量を反応溶液のうちの1重量%以下とすることも可能である。好ましい実施形態では、0.75重量%以下とすることが可能であり、また0.70重量%以下とすることも可能であり、さらに好ましい実施形態では、0.5重量%以下とすることが可能であり、0.2重量%以下とすることも可能であり、さらには0.1重量%以下とすることも可能であり、0.05重量%以下とすることも可能である。すなわち、溶媒として効果を奏するよりも「格段に」少ない量とすることが可能である。
また、触媒の使用量は、好ましくは、反応溶液1リットルに対して、0.02ミリモル以上であり、より好ましくは、0.1ミリモル以上であり、さらに好ましくは、0.5ミリモル以上である。重量基準では、触媒使用量を反応溶液のうちの0.001重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは、0.005重量%以上であり、さらに好ましくは、0.02重量%以上である。触媒の使用量が少なすぎる場合には、分子量分布は広くなり易い。
1つの実施形態において、本発明のリビングラジカル重合方法においては、例えば炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物以外のリビングラジカル重合触媒または触媒前駆体化合物(以下、「多種触媒または多種触媒前駆体化合物」)を併用しなくても、十分にリビングラジカル重合を行うことは可能である。しかし、必要に応じて、多種触媒または多種触媒前駆体化合物を併用することも可能である。その場合、例えば炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物の使用量を多く、かつ、多種触媒または多種触媒前駆体化合物の使用量を少なくすることが好ましい。そのような場合、多種触媒または多種触媒前駆体化合物の使用量は、例えば炭素原子と中心とする触媒または触媒前駆体化合物100重量部に対して、100重量部以下とすることが可能であり、50重量部以下とするとこも可能であり、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下、2重量部以下、1重量部以下、0.5重量部以下、0.2重量部以下または0.1重量部以下とすることも可能である。すなわち、例えば炭素原子を中心元素とする触媒以外の触媒を実質的に含まない反応溶液においてリビングラジカル反応を行うことが可能である。
(保護基)
本発明のモノリス型多孔体の製造方法には、リビングラジカル重合の反応途中の成長鎖を保護する保護基を用いる。このような保護基としては、従来からリビングラジカル重合に用いる保護基として公知の各種保護基を用いることが可能である。ここで、保護基としてハロゲンを用いることが好ましい。従来技術に関して上述したとおり、特殊な保護基を用いる場合には、その保護基が非常に高価であることなどの欠点がある。
(有機ハロゲン化物(ドーマント種))
本発明のモノリス型多孔体の製造方法においては、好ましくは、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を反応材料に添加し、この有機ハロゲン化物から成長鎖に与えられるハロゲンを保護基として用いる。このような有機ハロゲン化物は比較的安価であるので、リビングラジカル重合に用いられる保護基のために用いられる耕地の他の化合物に比べて有利である。また、必要に応じて、炭素以外の元素にハロゲンが結合したドーマント種を用いることも可能である。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、分子中に少なくとも1個の炭素−ハロゲン結合を有してドーマント種として作用するものであればよく特に限定されるものではない。しかし、一般的には有機ハロゲン化物の1分子中にハロゲン原子が1個または2個含まれているものが好ましい。
ここで、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルが不安定であることが好ましい。従って、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルを安定化させる置換基が2つ以上当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものは適さない。ただし、炭素ラジカルを安定化させる置換基が1つ当該炭素ラジカルをなる炭素原子に結合しているものは、適度なラジカル安定性を示すことが多く、ドーマント種として使用可能である。
すなわち、本発明のリビングラジカル重合法においては、炭素ラジカルが安定となる触媒化合物と、炭素ラジカルがあまり安定にはならないが適度な安定性となるドーマント種とを組み合わせることが好ましく、その組み合わせにより、高い効率で、リビングラジカル重合反応を行うことができる。例えば、炭素ラジカルを安定化させる置換基が2つ以上当該炭素ラジカルをなる炭素原子に結合しているものを触媒として用い、炭素ラジカルを安定化させる置換基が1つ当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものをドーマントとして用いることによって、その触媒とドーマントとの組み合わせにより、リビングラジカル重合において高い反応活性が示される。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲンが結合した炭素(以下、便宜上、「有機ハロゲン化物の1位炭素」という)が有する水素は、2つ以下であることが好ましく、1つ以下であることがより好ましく、水素を有さないことがさらに好ましい。また、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンの数は、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることがさらに好ましい。特に、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンが塩素である場合には、その塩素の数は、3つ以下であることが非常に好ましく、2つ以下であることがいっそう好ましく、1つであることがとりわけ好ましい。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の1位炭素には、炭素が1つ以上結合していることが好ましく、炭素が2つまたは3つ結合していることが特に好ましい。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子は、触媒中のハロゲン原子と同一であってもよく、異なってもよい。異種のハロゲン原子であっても、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間で、ハロゲン原子を交換することが可能であるからである。ただし、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子と、触媒中のハロゲン原子とが同一であれば、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間でのハロゲン原子の交換がより容易であるので、好ましい。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の好ましい具体例としては、例えば、以下の、CH(CH3)(Ph)I、およびC(CH32(CN)Iなどである。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の別の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t−ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2−ヨード−2−ポリエチレンブリコシルプロパン、2−ヨード−2−アミジノプロパン、2−ヨード−2−シアノブタン、2−ヨード−2−シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−シアノ4−メチル−4−メトキシペンタン、4−ヨード−4−シアノ−ペンタン酸、メチル−2−ヨードイソブチレート、2−ヨード−2−メチルプロパンアミド、2−ヨード−2,4−ジメチルペンタン、2−ヨード−2−シアノブタノール、4−メチルペンタン、シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−(2−イミダソリン−2−イル)プロパン、2−ヨード−2−(2−(5−メチル−2−イミダソリン−2−イル)プロパン等が挙げられる。これらのハロゲン化物は単独で用いてもよく、また組合せてもよい。
本発明のモノリス型多孔体の製造方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、溶媒として使用されるものではないので、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、上述した通り、成長鎖にハロゲンを保護基として提供するために使用されるので、反応系中の成長鎖に十分な量のハロゲンを提供できれば十分である。具体的には、例えば、本発明の方法においてドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の使用量は、重合反応系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり0.05モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル以上であり、さらに好ましくは1モル以上である。また、重合系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり100モル以下であることが好ましく、より好ましくは30モル以下であり、さらに好ましくは5モル以下である。さらに、ビニル系単量体(モノマー)の1モル当たり0.001モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.005モル以上である。また、ビニル系単量体の1モル当たり0.5モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.4モル以下であり、さらに好ましくは0.3モル以下であり、特に好ましくは0.2モル以下であり、最も好ましくは0.1モル以下である。さらに、必要に応じて、ビニル系単量体の1モル当たり0.07モル以下、0.05モル以下、0.03モル以下、0.02モル以下もしくは0.01モル以下とすることも可能である。
上記ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その多くの化合物が公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されている試薬などをそのまま用いることが可能である。あるいは、従来公知の合成方法を用いて合成してもよい。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その原料を仕込み、有機ハロゲン化物を重合中にin situすなわち反応溶液中で生成させ、それをこの重合法の有機ハロゲン化物として使用することもできる。例えば、アゾ系ラジカル開始剤(例えば、アゾビス(イソブチロニトリル))とハロゲン単体の分子(例えば、ヨウ素)を原料として仕込み、その両者の反応により有機ハロゲン化物(例えば、ヨウ化アルキルであるC(CH32(CN)I)を重合中にin situで生成させ、それをこの重合法のドーマント種として使用することができる。
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、無機または有機固体表面や、無機または有機分子表面などの表面に固定化したものを使用することができる。例えば、シリコン基板表面、高分子膜表面、無機または有機微粒子表面、顔料表面などに固定化した有機ハロゲン化物を使用することができる。固定化には、例えば、化学結合や物理結合などが利用できる。
(反応温度)
本発明の方法における反応温度は特に限定されない。好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、20℃以上であり、さらに好ましくは、30℃以上であり、いっそう好ましくは、40℃以上であり、特に好ましくは、50℃以上である。また、好ましくは、130℃以下であり、より好ましくは、120℃以下であり、さらに好ましくは、110℃以下であり、いっそう好ましくは、105℃以下であり、特に好ましくは、100℃以下である。
温度が高すぎる場合には、加熱のための設備等にコストがかかるという欠点がある。温度が室温以下の場合には、冷却のための設備等にコストがかかるという欠点がある。また、室温以下で重合するように反応混合物を調製すると、その反応混合物が室温では不安定で反応してしまうために、反応混合物の保管が困難になるという欠点がある。したがって、上記の、室温より少し高く、かつ過度に高すぎない温度範囲(例えば、50℃から100℃)は、実用的な意味において非常に好適である。
(反応時間)
本発明の方法における反応時間は特に限定されない。好ましくは、15分間以上であり、より好ましくは、30分間以上であり、さらに好ましくは、1時間以上である。また、好ましくは、3日以下であり、より好ましくは、2日以下であり、さらに好ましくは、1日以下である。
反応時間が短すぎる場合には、充分な分子量(あるいは重合率(モノマー転化率))を得ることが難しい。反応時間が長すぎる場合には、プロセス全体としての効率が悪い。適切な反応時間とすることにより、優れた性能(適度な重合速度と副反応の軽減)が達成され得る。
(雰囲気)
本発明の方法における重合反応は、反応容器中に空気が存在する条件下で行ってもよい。また、必要に応じて窒素やアルゴンなどの不活性ガスで空気を置換しても良い。
(前駆体)
本発明の重合方法においては、上述した触媒を直接的に用いて(すなわち、触媒を重合容器に投入して)反応を行ってもよいが、また、触媒を直接用いることなく、触媒の前駆体を用いて反応を行ってもよい。ここで、触媒の前駆体とは、その化合物は反応容器に投入する際の状態では上記触媒の定義に該当しないが、反応容器中において化学変化して触媒として作用できる状態になる化合物をいう。ここで、上記「触媒として作用できる状態になる」とは、好ましくは、前駆体が上記触媒化合物に変換されることである。
上記触媒化合物から重合反応の際に発生する活性化ラジカルと同様の活性化ラジカルを生成させることができる化合物は、前駆体に該当する。例えば、炭素の水素化物は前駆体に該当する。すなわち、ラジカル開始剤が分解して生成したラジカルや、それに由来するポリマーラジカルが、炭素の水素化物の水素を引き抜けば炭素化合物の活性化ラジカルを発生させることができ、リビングラジカル重合を行うことができる。
従って、本発明の重合方法の1つの実施形態においては、上述した触媒を直接用いて反応を行うことができるが、別の実施形態においては、上述した触媒を直接用いることなく、触媒化合物の前駆体を用いることができる。この場合、重合反応を行う工程の前に前駆体を化学変化させる工程が行われる。この前駆体の化学変化工程は、重合反応を行う容器内で行ってもよく、重合反応容器と別の容器で行っても良い。重合反応を行う容器内で重合反応工程と同時に行うことが全体のプロセスが簡略になる点で有利である。
前駆体の使用量としては、上述した触媒の使用量と同様の量が使用できる。前駆体から得られる活性化ラジカルの量が、上述した量の触媒を使用した場合の活性化ラジカルの量と同様になるようにすることが好ましい。
本発明のリビングラジカル重合方法は、単独重合、すなわち、ホモポリマーの製造に応用することが可能であるが、共重合に本発明の方法を用いてコポリマーを製造することも可能である。共重合としては、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよい。
ブロック共重合体は、2種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよく、3種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよい。
2種類のブロックからなるブロック共重合の場合、例えば、第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程とを包含する方法によりブロック共重合体を得ることができる。この場合、第1のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよく、第2のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよい。第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程の両方に本発明の方法を用いることが好ましい。
より具体的には例えば、第1のブロックを重合した後、得られた第1のポリマーの存在下に、第2のブロックの重合を行うことにより、ブロック共重合体を得ることができる。第1のポリマーは、単離精製した後に、第2のブロックの重合に供することもできるし、第1ポリマーを単離精製せず、第1のポリマーの重合の途中または完結時に、第1の重合に第2のモノマーを添加することにより、ブロックの重合を行うこともできる。
3種類のブロックを有するブロック共重合体を製造する場合も、2種類以上のブロックが結合した共重合体を製造する場合と同様に、それぞれのブロックを重合する工程を行って、所望の共重合体を得ることができる。そして、すべてのブロックの重合において本発明の方法を用いることが好ましい。
(反応メカニズム)
本発明は特に理論に束縛されないが、その推定されるメカニズムを説明する。
リビングラジカル重合法の基本概念はドーマント種(polymer−X)の成長ラジカル(polymer・)への可逆的活性化反応にあり、保護基Xにハロゲンを、活性化の触媒として遷移金属錯体を用いた系は、有用なリビングラジカル重合法の一つである。本発明によれば、炭素化合物を用いて、高い反応性で、有機ハロゲン化物のハロゲンを引き抜くことが可能であり、ラジカルを可逆的に生成させることができる(スキーム1)。
従来から、一般に、遷移金属はその電子が様々な遷移状態にあり得るため、各種化学反応を触媒する作用に優れることが知られている。このため、リビングラジカル重合の触媒としても、遷移金属が優れていると考えられていた。逆に、典型元素はこのような触媒には不利であると考えられていた。
しかしながら、予期せぬことに、本発明によれば、炭素を中心元素とする触媒を用いることにより、図3の模式図に示すように、触媒化合物と反応中間体との間でハロゲンを交換しながら、極めて効率よく重合反応が進行する。これは、中心元素とハロゲンとの結合が、反応中間体とのハロゲンの交換を行う上で適切であることによると考えられる。従って、基本的には、この中心元素とハロゲンとの結合を有する化合物であれば、中心元素およびハロゲン以外の置換基を有する化合物であっても、良好にリビングラジカル重合を触媒できると考えられる。
以下のスキーム1に、本発明の触媒を用いた場合の反応式を示す。
(スキーム1)
また、前駆体(R−CH(炭化水素))を用いる場合には、上述したメカニズムに基づく反応の前に、あるいはその反応と同時に、前駆体から活性化ラジカル(R−C・)を生じさせる工程が行われる。具体的には、ラジカル開始剤(例えば、過酸化物)の分解により生じたラジカル、あるいはそれから生成した成長ラジカル(いずれもR’・で表記する)が前駆体の水素原子を引き抜くことにより、活性化ラジカルを得ることができる(スキーム2(a))。
(スキーム2)
(末端に結合するハロゲンの除去)
本発明のモノリス型多孔体は、末端にハロゲン(例えば、ヨウ素)を有する。この多孔体を使用する際には、必要があれば、末端のハロゲンを昇華、分解または抽出により除去することもできる。また、末端のハロゲンを積極的に利用し、これを別の官能基に変換して、新たな機能を引き出すこともできる。末端のハロゲンの反応性は、一般に高く、非常に様々な反応により、その除去や変換ができる。本発明のモノリス型多孔体の場合、クロスリンカーをモノマーとして用いているため、分子構造としては、分岐構造の高分子体を形成していることで、骨格部分の内側部のハロゲンまで除去することは困難である。しかしながら、除去方法によって洗浄されている比較的表面部分によって、通常の用途としては問題なく使用することができる。本発明のモノリス型多孔体の洗浄にはアセトンやTHFなどの溶媒を用いて、好ましくは少し熱を加えたり、洗浄時間を長くしたりするなどの工程が必要となる。より好ましくは、多孔体をより膨潤できるTHFを用いることである。また、可能であれば、モノリス型多孔体を調製する際のモノマー比率でクロスリンカーの量を減らすことなどで、架橋密度を下げて、膨潤しやすくすればより洗浄が容易となる。
(スキーム3)
(骨格および空隙サイズの測定)
本発明のモノリス型多孔体における骨格サイズとは、例えば、骨格の平均骨格径(骨格における、その伸張方向に垂直な断面の径を骨格径とする)により評価でき、平均骨格径は、例えば、電子顕微鏡写真で確認することが最も簡略な方法である。より具体的には、例えば、多孔体の断面を電子顕微鏡、レーザー共焦点顕微鏡などの顕微鏡により観察し、得られた写真を画像処理して求めればよい。なお、顕微鏡観察時には、当該多孔体断面を研磨などにより平滑化することが好ましい。
本発明のモノリス型多孔体における空隙サイズとは、例えば、空隙の平均孔径により評価でき、例えば、電子顕微鏡写真で確認することが最も簡略な方法である。孔径分布は、多孔体に対する細孔分布測定、例えば、水銀圧入法あるいは窒素吸着法により測定でき、水銀圧入法および窒素吸着法は、一般的な手法に従えばよい。
(空隙サイズ)
本発明のモノリス型多孔体における空隙サイズ(マクロ孔)は特に限定されないが、相分離の誘起に基づいて共連続構造を有する多孔体が形成されていることから、通常、その平均孔径にして、100nmを越え100μm以下程度の範囲である。本発明の多孔体をLCカラムの分離媒体として用いる場合、マクロ孔の平均孔径は、分離媒体としての分離能と圧力損失との両立を図る観点から、500nm以上5μm以下程度の範囲が好ましく、800nm以上3μm以下程度の範囲が好ましい。
(骨格サイズ)
本発明のモノリス型多孔体における骨格サイズは特に限定されないが、相分離の誘起に基づいて共連続構造を有する多孔体が形成させることから、通常、その平均骨格径にして、100nm以上50μm以下程度の範囲である。
(洗浄)
相分離により形成した重合溶媒を除去する方法は特に限定されず、例えば、骨格相の基材である重合体を溶解しない溶媒による溶媒置換を行い、その後、全体を乾燥させればよい。
本発明のモノリス型多孔体の製造方法では、得られた多孔体に残留する有機高分子を除去する工程をさらに含んでもよい。相分離誘起成分として重合系に加えた有機高分子は、その全部または一部が、多孔体の骨格に残留する場合があり、特に相分離に伴い、多孔体の骨格部に有機高分子が移動する場合に、その残存量が増える傾向にある。例えば、得られた多孔体をHPLC用分離分析媒体として用いる場合、残留する有機高分子は分離媒体としての分離能を低下させる可能性がある。そこで、このような場合には、必要に応じ、多孔体に残留する有機高分子を除去すればよい。
有機高分子の除去方法は特に限定されず、例えば、骨格を溶解せず、有機高分子を溶解する溶媒を多孔体の内部に満たした後に、当該溶媒を除去すればよい。相分離により形成したゲルから重合溶媒を除去する際に、当該溶媒による溶媒置換を行うことで、重合溶媒および有機高分子の除去を同時に行ってもよい。
本発明の相分離誘起成分である有機高分子を用いないモノリス型多孔体の製造方法では、得られた多孔体の溶媒成分を洗浄するなどの簡易な洗浄方法によりモノリス型多孔体を得ることが可能である。この場合、分離分析用媒体に使用する場合の使用中に、継続して残存した有機高分子が抽出されることがなくなる。
(メソポア)
本発明のモノリス型多孔体は、重合系を制御することにより、骨格の表面に空隙(マクロ孔)より孔径の小さい細孔(メソポア)を形成しており、さらに、このメソポアの孔径や、孔径の分布を制御することも可能である。例えば、低分子化合物を当該リビングラジカル重合する場合、重合系に含まれる重合開始剤と触媒との濃度比率を変化させることにより、これらの制御が可能である。重合開始剤に対する触媒濃度の上昇に伴い、骨格の表面に形成されるメソポアの量が増加する傾向を示す。
本発明のモノリス型多孔体の製造方法によれば、所定のメソポア径を有する分離媒体、および、メソ孔径の分布が狭い分離媒体を得ることができる。尚、本明細書における「メソポア」とは、クロマトグラフィー分野において、一般的に用いられる用語である「メソポア」を意味している。
本発明のモノリス型多孔体におけるメソポアのサイズは特に限定されないが、通常、その平均径にして2nm以上100nm以下の範囲である。メソポアが形成された本発明の多孔体を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用分析カラムとして用いる場合、HPLC測定の対象となる物質により異なるが、メソポアの平均孔径は、分析対象が低分子物質の場合は10nm程度が好ましく、また、分析対象が高分子物質の場合は20nm以上30nm以下程度の範囲が好ましい。さらに、タンパク質やペプチドなどの生体試料を分析する場合は、80〜120nm程度のメソポアを必要とする場合もある。メソポアの平均孔径は、孔径の分布から求めればよく、当該分布は、モノリス型多孔体に対する細孔分布測定(水銀圧入法あるいは窒素吸着法)により測定できる。
(形状)
本発明のモノリス型多孔体は、必要に応じ、それらの形状を変化させてもよく、例えば、切削、切断などによる形成や、触媒担体用多孔体とする場合などには、粉砕等を行なってもよい。本発明の多孔体をLC用分離媒体に用いる場合、円柱状あるいは円盤状に形成すればよい。
(用途)
本発明のモノリス型多孔体は、分離分析用分離媒体(特にクロマトグラフィー用分離媒体)の他、血液分離用多孔体、環境分析などに用いる試薬濃縮媒体、吸湿用多孔質体、消臭などに用いる低分子吸着用多孔体、酵素担体、触媒担体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、化学的機械研磨法等の研磨スラリーの分離精製、半導体などの電子機器部品の冷却等に用いられている作動流体の蒸発潜熱として熱輸送するヒートパイプのウィックなどの幅広い用途への応用が可能である。
(分離分析用カラム)
本発明のモノリス型多孔体は、分離分析用媒体として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラムの分離材として用いることができ、この場合、空隙が移動相の流路であるマクロ孔となる。即ち、本発明の製造方法によれば、所定のマクロ孔径を有する分離媒体および/または、マクロ孔径の分布が狭い分離媒体を得ることができる。なお、本明細書における「マクロ孔」とは、LCカラムの分野において一般的に使用される用語である「マクロ孔」を意味する。
クロマトグラフィーは、天然、合成有機化合物、医薬品、生体関連物質などの精密分離、分析ならびに分取、精製に広く利用されている化学分析法である。クロマトグラフィーの系は2つの相により構成されている。1つの相は一定速度で移動している溶媒(移動相)ともう1つの相は固定されている媒体(固定相)である。モノリス型多孔体はこの固定相の媒体(以下「カラム」ともいう)として利用することができる。クロマトグラフィー分析装置で、このカラムに注入された溶質(試料)は、移動相である溶媒に溶解した状態では移動相と同じ速度でカラム内を移動し、固定相と会合した状態では固定相上にとどまる。溶質はこれらの相を行き来しながら移動相とともに流れ、カラムを通過し、検出器によって検出され、クロマトグラム(パソコン画面上のチャート)上にピークとして描かれる。カラム中では、溶質は固定相と移動相間での溶質の分配係数の差によって各溶質成分の移動相中に存在する確立が異なることにより、混合試料の分離が達成される。
従って、カラムの固定相として用いるこのできるモノリス型多孔体に触媒が残存していると分離効率が悪化したり、本来の性能と違った分離パターンを示すことになったり、触媒が溶媒(移動相)や溶質(試料)の影響によって抽出されたりすることが考えられる。従来技術の遷移金属錯体系、ニトロキシル系またはジチオエステル系を触媒として用いた場合、これらの末端に存在する触媒を容易に当該多孔体から除くことができなかったが、本発明のモノリス型多孔体は末端の触媒(例えば、ヨウ素などのハロゲン)を簡易な方法でも取り除くことが可能であるため、クロマトグラフィー用途のカラムとしては、用途の範囲が広がることになる。
クロマトグラフィー用のカラムの性能は上記に記した要素だけでなく、カラム内を溶質(試料)が通過する際の溶質の拡散によってカラム本来の性能は大きく左右される。すなわち、カラム内での拡散を小さくすることによって、検出されるピークの幅が狭くなり、クロマトグラム上では似通った溶質ピークを分離することが可能となり、分離性能が向上することになる。カラム内での拡散の寄与は、大きく3つに分けることができ、<1>移動相中での寄与の拡散の寄与、<2>溶質のカラム軸方向の拡散の寄与、<3>移動相ならびに固定相中での物質移動に対する抵抗の寄与、に分けられる。これらの拡散の寄与は、モノリス型カラムを作成する際の空隙サイズや骨格サイズによっても影響を受けるため、カラム負荷圧との兼ね合いによって調節が必要である。さらに、多孔体の構成サイズ以外に、多孔体構造の均一性によっても影響が大きいとされている。
従って、構造の歪さが小さいカラムは、カラム内での移動相の流速や流路の乱れが小さく、結果的に溶質の拡散の小さく、クロマトグラム上ではシャープかつ対称的なピークを得ることが可能となる。従来技術を用いてのクロマトグラフィー用カラムでは、高温での重合が必要であったため(特許文献5)、モノリス型カラムを作成する鋳型の外側と内側の温度差が生じることにより、電子顕微鏡では確認できないミクロのスケールで構造の均一性が失われていると考えられる。本発明のモノリス型多孔体の製造方法においては、100℃以下での調製が可能であるため、鋳型内での温度差が小さく非常に均一性の高い多孔体が調製される。よって、図11に示したように、クロマトグラム上でシャープかつ対象性の高いピークが得られ、カラム性能の高いモノリス型多孔体を作成できる。
(キャピラリーカラム)
クロマトグラフィー用分離分析用媒体として用いる場合、例えば、本発明のモノリス型多孔体を耐圧性プラスチック(例えば、ポリエーテルエーテルケトン)、ガラス繊維、炭素繊維、繊維強化プラスチックなどによって被覆し、ハウジングなどに収容や接続部品などを取り付けてカラムとすればよい。また、キャピラリー内に直接モノリス型多孔体を調製しキャピラリーカラムすることも可能である。モノリス型多孔体の原料の大半は液体であり、固体を含んでいても調製溶液とするため、キャピラリーに送液が可能である。ここでは、重合過程において多孔体の収縮に注意すべきであり、原料、組成、重合条件の選定が必要となる。
(固相抽出カラム)
本発明のモノリス型多孔体を分離媒体として、クロマトグラフィー分野の固相抽出用カラムに用いる場合は、空隙サイズ(マクロ孔)は5μm以上30μm以下程度の範囲が好ましく、より好ましくは10μm以上20μm以下程度の範囲である。この場合、HPLC用カラムに使用するほど高性能分離を必要としないため、骨格サイズは特には限定されないが、吸着面積による吸着能や付加圧を考慮して骨格サイズを設定する必要がある。好ましくは3μm以上25μm以下程度の範囲が好ましく、より好ましくは5μm以上15μm以下程度の範囲である。
本発明のモノリス型多孔体は、有機系重合体を基材とする骨格を有する多孔体を備えることから、本発明のモノリス型多孔体カラムは、強度性や強アルカリ性雰囲気下においても安定であり、移動相として用いる溶媒や測定対象物質を幅広く選択できる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.8gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)20gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)6.7gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.08g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.04g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を60℃条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図1に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例2]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.8gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)20gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)6.7gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.08g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.04g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を100℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図2に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例3]
相分離誘起成分として、トリメチルシロキシ末端ポリメチルシロキサン(DMS−T22、Gelest製)1.25gと、溶媒として、メシチレン(ナカライテスク(株)製)12g、モノマーとして、ジビニルベンゼン(和光純薬工業(株)製、分子量130.19)10gをスクリュー管瓶中で攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.1g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.05g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.005gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を80℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図3に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例4]
相分離誘起成分として、トリメチルシロキシ末端ポリメチルシロキサン(DMS−T22、Gelest製)1.25gと、溶媒として、メシチレン(ナカライテスク(株)製)12g、モノマーとして、ジビニルベンゼン(和光純薬工業(株)製、分子量130.19)10gをスクリュー管瓶中で攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.1g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.05g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.005gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を100℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図4に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例5]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)1.6gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)40gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)13.5gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.32g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.08g、フェノール(和光純薬工業(株)製)0.002gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を60℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図5に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例6]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.36gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)9gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)3gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.04g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.02g、トリヨウ化リン(アルドリッチ製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を74℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図6に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例7]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.9gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)23gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)7.6gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.08g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.04g、ジフェニルメタン(アルドリッチ製)0.003gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を100℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図7に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例8]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.75gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)18.6gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)5g、および、メチルメタクリレート(MMA、東京化成工業(株)、分子量100.12)1.25gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.08g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.04g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を80℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図8に示すような共連続構造を形成していた。
[実施例9]
溶媒として、ホルムアミド(ナカライテスク(株)製)5gとジエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)15gをスクリュー管瓶中において均一に溶解させ、溶液を得た。モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)6.72gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.08g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.04g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を60℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図9に示すような共連続構造を形成していた。
[比較例1]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.3gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)3gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)3gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.1gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液を60℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、得られた高分子重合体を室温まで冷却して容器から取り出し、アセトンおよびメタノールで洗浄し、乾燥することによって多孔体を得た。この多孔体を走査型電子顕微鏡で構造の確認を行った結果、図10に示すような粒子凝集型の構造を形成し、部分的に孔を有さない高分子の塊のようなものを形成している。
実施例1〜9および比較例1の調製条件と電子顕微鏡による構造確認の結果の一覧を表1に示す。
※1、GDMAはグリセロールジメタクリレートの略称。
※2、ADVNは2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の略称。
※3、DMS−T22はトリメチルシロキシ末端ポリメチルシロキサンの略称。
[実施例10]
相分離誘起成分として、トリメチルシロキシ末端ポリメチルシロキサン(DMS−T22、Gelest製)0.63gと、溶媒として、メシチレン(ナカライテスク(株)製)6g、モノマーとして、ジビニルベンゼン(和光純薬工業(株)製、分子量130.19)5gをスクリュー管瓶中で攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.05g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.003g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.003gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液をキャピラリーにガス圧を用いて送液し、85℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、キャピラリーを室温まで冷却して、メタノールおよびアセトニトリルで洗浄し、キャピラリーカラムを得た。
[実施例11]
相分離誘起成分として、ポリエチレンオキシド(アルドリッチ製、平均分子量10万)0.7gと、溶媒として、ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株)製)18gをスクリュー管瓶中で60℃において均一に溶解させ、溶液を得た。室温まで冷ました後、モノマーとして、グリセロールジメタクリレート(GDMA、共栄社化学製、GP−101P、分子量227)3.36gとジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、新中村化学工業製)3.36gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤および可逆移動触媒として、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製)0.07g、ヨウ素(東京化成工業(株)製)0.035g、N−ヨードこはく酸イミド(東京化成工業(株)製)0.004gを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液をキャピラリーにガス圧を用いて送液し、85℃の条件で24時間重合反応を行った。その後、キャピラリーを室温まで冷却して、メタノールおよびアセトニトリルで洗浄し、キャピラリーカラムを得た。
[比較例2]
相分離誘起成分として、トリメチルシロキシ末端ポリメチルシロキサン(DMS−T22、Gelest製)1.15gと、溶媒として、メシチレン(ナカライテスク(株)製)14g、モノマーとして、ジビニルベンゼン(和光純薬工業(株)製、分子量130.19)10gをスクリュー管瓶中で攪拌により均一な溶液を調製した。さらに、開始剤としてベンゾイルパルオキシド(ナカライテスク(株)製)0.1g、安定化ラジカルとして2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ(東京化成工業(株)製)0.1g、無水酢酸(東京化成工業(株)製)0.05mlを溶液に添加して、攪拌により均一な溶液を調製した。次に、この重合溶液を超音波装置により溶液内の泡を取り除いた後、窒素ガスによりバブリングで残存酸素を置換した。この溶液をキャピラリーにガス圧を用いて送液し、95℃に昇温して約90分、その後、125℃に昇温して24時間重合反応を行った。その後、キャピラリーを室温まで冷却して、メタノールおよびアセトニトリルで洗浄し、キャピラリーカラムを得た。
[実施例12]
実施例10、11および比較例2により得られたキャピラリーカラムをクロマトグラフィー用カラムとしての性能評価を行った。アセトニトリル/水=60/40(v/v)の移動相条件において逆相クロマトグラフィーを行い、ウラシルとアルキルベンゼン(n=0−6)の試料を分離した。溶出順は、ウラシル、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、ヘキシルベンゼンの順番で、全てのキャピラリーカラム長は250mmである。得られた分離クロマトグラムを図11、図12、図13に示した。
図11は、実施例10のキャピラリーカラムの評価データで、カラム線速度0.87mm/s、カラム負荷圧2.9MPaの条件である。
図12は、実施例11のキャピラリーカラムの評価データで、カラム線速度0.91mm/s、カラム負荷圧10.0MPaの条件である。
図13は、比較例2のキャピラリーカラムの評価データで、カラム線速度3.5mm/s、カラム負荷圧2.0MPaの条件である。
図11の実施例10のキャピラリーカラムは、図13の比較例2に比べてピークの幅が狭く(理論段数の高い)、ピーク対称性の良いクロマトグラムを得ることができた。詳細な理由は上述しているが、本発明のモノリス型多孔体は溶質の拡散の小さい多孔体であり、クロマトグラフィー用分離分析媒体として有用であるといえる。また、図12に示した実施例11のモノリス型多孔体から得られるように、モノマー組成を選択することで、同溶質でも保持の異なるクロマトグラフィー用カラムの作成も可能である。
[実施例13]
実施例11と同様の条件で得られるモノリス型多孔体をヘキサン/2−プロパノール=98/2(v/v)の移動相条件において順相クロマトグラフィーを行い、トルエン、ジニトロトルエンおよびジニトロベンゼンの試料を分離した。溶出順は、トルエン、ジニトロトルエン、ジニトロベンゼンの順番である。得られた分離クロマトグラムを図14に示した。実施例11で得られるモノリス型多孔体はグリセロールジメタクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートがモノマーであり、表面官能基の疎水性が比較的低いモノリス型多孔体(逆に、親水性の高い表面官能基を有している多孔体)が形成されることから、順相条件では極性の高い溶質を分離することが可能である。
[実施例14]
残存ヨウ素割合の比較検討を行うために、実施例3と同様の調製方法で作成したモノリス型多孔体をアセトンおよびメタノールで洗浄し、後に、THFとアセトンの混合溶媒で50℃の条件で半日洗浄し、さらに同条件でもう一度洗浄を行った。次に、アセトンを溶媒として洗浄を行い、100℃の条件で2日間乾燥を行った。
[実施例15]
残存ヨウ素割合の比較検討を行うために、実施例3と同様の調製方法で作成したモノリス型多孔体をアセトンおよびメタノールで洗浄し、後に、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で50℃の条件で半日洗浄し、さらに同条件でもう一度洗浄を行った。次に、アセトンを溶媒として洗浄を行い、100℃の条件で2日間乾燥を行った。
[実施例16]
実施例3で得られたモノリス型多孔体の残存ヨウ素含有率と、実施例14および15で得られたモノリス型多孔体の残存ヨウ素含有率を元素分析測定により含有しているヨウ素率を比較した。得られた結果を表2に示した。
得られた結果から、THFとアセトンの混合溶媒や水酸化ナトリウム水溶液を用いること、乾燥時に通常乾燥よりも熱を加えて乾燥することで、モノリス型多孔体の残存ヨウ素を除去することが可能であった。
実施例1で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により5千倍に拡大した写真である。 実施例2で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により5千倍に拡大した写真である。 実施例3で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により2千倍に拡大した写真である。 実施例4で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により2千倍に拡大した写真である。 実施例5で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により2千倍に拡大した写真である。 実施例6で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により5千倍に拡大した写真である。 実施例7で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により5千倍に拡大した写真である。 実施例8で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により5千倍に拡大した写真である。 実施例9で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により2千倍に拡大した写真である。 比較例1で得られた多孔体を走査型電子顕微鏡により1万倍に拡大した写真である。 実施例10で得られたキャピラリーカラムを実施例12の条件で評価して得られた分離クロマトグラムを示す図である。 実施例11で得られたキャピラリーカラムを実施例12の条件で評価して得られた分離クロマトグラムを示す図である。 比較例2で得られたキャピラリーカラムを実施例12の条件で評価して得られた分離クロマトグラムを示す図である。 実施例11と同様の条件で得られるモノリス型多孔体を実施例13の条件で評価して得られた分離クロマトグラムを示す図である。

Claims (15)

  1. ラジカル重合性を持つ有機系低分子化合物を重合する過程において、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒、重合開始剤および重合溶媒を含む系により調製された、有機系高分子化合物からなる三次元網目構造の骨格と空隙を有することを特徴とする多孔体。
  2. リビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、リン、窒素、酸素または炭素原子から選択される少なくとも一つの中心元素と、中心元素に結合した少なくとも一つのハロゲン原子とを含み、さらに、触媒と同時に用いる保護基として、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用されることを特徴とする請求項1に記載の多孔体。
  3. 有機系低分子化合物を重合する過程において、相分離誘起剤として有機高分子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔体。
  4. 三次元網目構造を形成する骨格内に、三次元網目構造を構成する空隙サイズより小さい孔径の細孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔体。
  5. クロマトグラフィー用分離分析媒体として使用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔体。
  6. 有機系低分子化合物の重合からなる三次元網目構造の骨格と空隙を有することを特徴とする多孔体を作成する方法において、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒、重合開始剤および重合溶媒を含む系の下で行われることを特徴とする多孔体の製造方法。
  7. 有機系低分子化合物の重合する方法において、相分離誘起剤として有機高分子を含むことを特徴とする請求項6に記載の多孔体の製造方法。
  8. リビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、リン、窒素、酸素または炭素原子から選択される少なくとも一つの中心元素と、中心元素に結合した少なくとも一つのハロゲン原子とを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の多孔体の製造方法。
  9. リビングラジカル重合性を有する可逆移動触媒が、ラジカル開始剤から生じたラジカルと反応して活性化ラジカルを生成させることができる炭素または酸素を中心元素とした触媒前駆体化合物からなることを特徴とする請求項6又は7に記載の多孔体の製造方法。
  10. リビングラジカル重合のための可逆移動触媒の中心元素に結合したハロゲンが、ヨウ素であることを特徴とする請求項8又は9に記載の多孔体の製造方法。
  11. リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒と同時に用いる保護基として、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用されることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
  12. 保護基として用いる有機ハロゲン化物のハロゲンがヨウ素であることを特徴とする請求項11に記載の多孔体の製造方法。
  13. アゾ系ラジカル開始剤とハロゲン分子とを反応溶液中に混合して、反応溶液中でアゾ系ラジカル開始剤を分解して有機ハロゲン化物を生成させる工程を含むこと特徴とする請求項6乃至12のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
  14. リビングラジカル重合を行う重合温度が、20〜100℃であること特徴とする請求項6乃至13のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
  15. 請求項6乃至14のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法であって、該多孔体を調製した後に、リビングラジカル重合性を有する可逆的移動触媒または有機ハロゲン化物のハロゲンとして用いたヨウ素を昇華、分解または抽出により多孔体から除去することを特徴とする多孔体の製造方法。
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