JP2010110234A - 乾式破砕を用いた微生物細胞からの核酸抽出法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】帯電性素材で構成される容器内で破砕媒体と微生物細胞(好ましくは粒子径10μm以下の真菌または芽胞菌の細胞)とを混合し、該微生物細胞と該破砕媒体、容器壁との間の粘着力を増強させた系に物理的衝撃を加えて、該微生物細胞を乾式破砕することを特徴とする微生物細胞破砕処理方法である。該破砕媒体がビーズ、このましくはジルコニアビーズ、特にフッ素樹脂でコーティングされたジルコニアビーズであり、100〜1000μmの粒子径を有することが望ましい。物理的衝撃は振動および/または撹拌が好ましい。かかる方法により乾式破砕された微生物細胞についての核酸抽出方法も提供される。
【選択図】図1
Description
は限らない。また、微生物の種類や細胞壁の化学組成に依存しない手法として、微細ビーズやすり鉢・すりこぎを用いた物理的な破砕手法が挙げられる。なかでも、微細ビーズを用いた手法は、比較的簡便であることから、核酸抽出のための前処理法として最も一般的に用いられているひとつである。通常、微細ビーズを用いた微生物の破砕は、検体処理溶液などの溶液とともに、湿式にて行われており、溶液中の微生物濃度によっては、核酸抽出速度が充分でない場合も多く、核酸抽出に多大な時間を要することが問題となっている(特許文献1参照)。
粘着力の駆動力として分子間力、静電力、表面張力が含まれることが記載されている(非
特許文献1)。しかしながらこのような粒子の粘着力を積極的に活用して細胞破砕を行い
、細胞から核酸を抽出する方法は、これまで全く知られていない。
砕を乾式で行なう着想のもと、鋭意研究した結果、効率的な核酸抽出と核酸収率の安定化とを実現する本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、乾式破砕により真菌や芽胞菌などの微生物から核酸抽出を迅速かつ効率的に行うこと、ならびにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に適したサイズフラグメントの核酸を迅速に準備することを課題とする。
本発明の微生物細胞破砕処理方法は、微生物細胞を乾式破砕する方法であって、
帯電性素材で構成される容器内に微生物細胞と破砕媒体とを入れて混合し、
該微生物細胞と、該破砕媒体および容器壁との間の粘着力が増強された系(該破砕媒体と該微生物細胞の乾燥混合物)に物理的衝撃を加えて、該微生物細胞を乾式破砕することを特徴としている。
好ましい前記破砕媒体がビーズ、特にフッ素樹脂コーティングされたジルコニアビーズであり、また好ましい容器は帯電性を有するプラスチック製容器であり、好ましい容器形態はチューブである。前記の破砕媒体が100〜1000μmの粒子径を有するビーズであることが望ましい。
前記微生物細胞として、特に真菌または芽胞菌の細胞が好ましい。
本発明の別の面として前記の微生物細胞破砕処理方法によって、乾式破砕された微生物細胞に検体処理溶液を加えて核酸抽出を行なうことを特徴とする核酸抽出方法がある。好ましくはPCR用の核酸を調製するための核酸抽出方法である。
ど)、溶剤を使用しない態様にも対応できる細胞破砕方法である。
になるため、定量的PCRに適したサイズフラグメントの核酸を迅速に準備することが可能
である。
[発明の詳細な説明]
本明細書で「検体」とは、本発明の直接の処理対象とする細胞含有試料をいう。例えば、培養液、尿、便、喀痰、血液、食品、耳漏、分泌液、髄液、関節液、腹水、土壌、水、空気などの試料から、必要な前処理が行なわれたものが含まれる。また、DNA増幅、PC
R(ポリメラーゼ連鎖反応)、リアルタイムPCR、核酸のフラグメント、プライミング効率などの用語は、当業者が通常理解し、使用している意味で記載されている。
微生物細胞破砕処理方法
本発明は、微生物細胞を乾式破砕する方法であって、
帯電性素材で構成される容器内に微生物細胞と破砕媒体とを入れて混合し、
該微生物細胞と、該破砕媒体および容器壁との間の粘着力が増強された系に物理的衝撃を加えて、該微生物細胞を乾式破砕することを特徴とする微生物細胞破砕処理方法である。
・微生物細胞
微生物細胞は、細菌、真菌、酵母などを含む細胞であって特に限定されない。細菌として、グラム陽性菌、グラム陰性菌などを含み、特に効率良く破砕することが困難であるために、遺伝子検査の感度を上昇させるための障害であることに変わりがなかった芽胞を形成する菌、またはカビの細胞も対象となる。本発明方法では、従来の湿式破砕では著しく困難であった真菌または芽胞菌の細胞の破砕に極めて有効である。特に胞子形態の微生物細胞については、極めて堅固なその細胞壁を湿式方法により破砕することは困難を極め、核酸の抽出効率を問題とする前の難問であるのが実状である。これに対して、本発明方法の乾式破砕では、そうした微生物細胞も好適な対象細胞に含められる。
。後記するように該細胞と破砕媒体との間に働く粘着力が、本発明の微生物細胞破砕処理において重要な鍵になっているからである。好ましくは粒子径が2〜5μm程度の細胞で
ある。このようなサイズの細胞としてAspergillus niger、Bacillus subtilis、Penicillium chrysogenum、Cladosporium sphaerospermumなどが例示される。もっとも粒子径が10μmを超える微生物細胞であっても有効に破砕されるので、本発明方法の破砕対象に含められる。
1.細胞壁が非常に堅固な真菌の胞子、および芽胞菌の芽胞(粒径10μm以下)
例えば真菌として、Aspergillus spp., Cladosporium spp., Penicillium spp., Botrytis spp., Wallemia sebi などの胞子が対象となる。芽胞菌としてBacillus spp., Clostridium spp. などの芽胞が対象となる。
例えば酵母細胞として、Candida albicans, Saccharomyces cerevisiaeなどが挙げられる。
例えばAlternaria, Stachybotrys chartrumなどが含まれる。
4.細胞壁がそれほど堅固でない細菌(芽胞菌や芽胞の状態でないもの)の細胞(粒径10μm以下)であってもよい。例えば大腸菌、黄色ブドウ球菌などである。
胞壁を有する微生物細胞、湿式では破砕しにくい粒子径10μm以下の微生物細胞を好適な対象としている。このことは本発明の乾式破砕方法が、微生物細胞と、破砕媒体および容器壁との間に可能な限り増強した粘着力を持たせるように工夫したことに基づく。
・微生物細胞と破砕媒体、容器壁との間の粘着力が増強された系
本発明方法で、破砕媒体、容器壁と上記微生物細胞との間に増強した粘着力を持たせることは、それらの系に物理的衝撃を加える乾式破砕により効率良く細胞を破砕し、細胞内容物を細胞外に出す目的に適うものである。物理的衝撃による力が、そのような粘着力により破砕媒体に粘着している細胞に有効に伝播して、細胞壁の破壊に作用すると考えられる。これに対して湿式での破砕では、水などの溶媒分子、溶解している分子などとの相互作用が生じて、結果的に上記粘着力は実質的にないか、弱いものとなる。従って、湿式破砕の処理では、かかる粘着力が細胞壁破壊に有効に作用しないと想定される。湿式では粘着力が働かないと同時に、微生物細胞を取り囲む媒体が非圧縮性流体(すなわち、水、lysis バッファーなど)であることも、破砕媒体(例えばビーズ)と微生物細胞間の衝突効率を低減させている原因の一つとして考えられる。
ることが知られている(非特許文献1の第144ページ参照)。したがって、粒子径10
μm以下の微生物細胞(例えば真菌胞子)であれば、破砕媒体との粘着力が有効に発現す
ることが想定される。
微生物細胞(2〜数十μm)がビーズ(例えば、平均粒子径が500μm)により破砕されるには、微生物細胞は2つのビーズが衝突する瞬間において、それら2つのビーズに挟まれた位置に存在する必要がある。すなわち、2つのビーズの中心点を結んだ直線上に微生物
細胞が位置した状態で2つのビーズの衝突が行われる。一方、微生物細胞が分散した状態
で流体内(湿式では水などの液体、乾式では空気などの気体)に存在する場合、2つのビ
ーズに挟まれた位置に存在する微生物細胞は、2つのビーズが衝突する瞬間、ビーズの動
きにより作り出される流体の流れにより、2つのビーズの中心点を結んだ直線上からそれ
ることが予想される。
体の流れに関わらず、2つのビーズの中心点を結んだ直線上に位置し続けることが可能で
ある。したがって、粘着力の働く系においては、微生物細胞は2つのビーズの中心点を結
んだ直線上に高確率で位置することが可能であり、したがって粘着力の働かない分散した系と比較し、高効率で微生物細胞の破砕を行うことが可能になる。また、粘着力の存在することの別の意義として、乾式破砕では実質的に溶媒を使わないことから、細胞壁が破砕された細胞内のDNAはすべて細胞外に溶出してしまうことはない。
する材料が望ましく、導電性の低いポリマーが例示され、具体的にはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテンポリマー、ポリアミド、フッ素樹脂(例えばテフロン(R))な
どのプラスチック製のものが好ましいが、これらに限定されるものではない。帯電性を有する容器であれば、金属などの非帯電性物質を含む複合材料で形成される容器であってもよい。本発明方法では、帯電性素材で構成される容器として、通常は帯電性のプラスチック製容器が好ましく用いられる。特に取り扱い、入手などの観点からマイクロチューブを含むチューブが簡便であり、内容物を封入し、破砕処理中に飛散しないように蓋(好ましくはスクリューキャップ式の蓋)つきのチューブが好ましい。後続の処理で固液分離に遠心分離操作を行なう場合には、プラスチック製遠心チューブが好都合である。
・乾式破砕および破砕条件
微生物細胞の破砕のために、上記破砕媒体と該微生物細胞との間に粘着力を持たせた乾燥混合物に物理的衝撃が加えられる。「物理的衝撃」とは、細胞と破砕媒体とを物理的に接触させる結果として、該細胞を破砕させることを意味する。そうした物理的衝撃として、破砕媒体との衝突、ずり応力、摩擦力、遠心力(振動、撹拌)、加圧や浸透圧といった機械的な力が挙げられる。操作の簡便さから振動および/または撹拌が望ましい。具体的には、破砕媒体と該微生物細胞との間に粘着力を持たせた乾燥混合物を収容する容器全体を震盪して該混合物を振動させる方法、該混合物を激しく撹拌する方法、ならびに振動および撹拌する方法が含まれる。
ビーズビーター(バイオスペック・プロダクツ社)、マルチビーズ・ショッカー(安井器械)などの撹拌装置が利用できる。撹拌は、ミキサーでボルテックスしてもよい。ビーズ(破砕媒体)の振動は、上記装置の他にアクチュエータの使用も可能である。
振動させる。適用時間は、検体の性状、種類などにより適宜調整することが望ましい。
usでは30%で安定化するのに対し、Cladosporiumなどでは40%で安定化する。微生物種により安定する効率が異なることは、細胞の大きさと細胞壁の堅固さに関係すると考えられる。以上より乾式破砕の系における破砕時間は、抽出される核酸の変性が最小限にとどまる限り、抽出効率が一定化している部分のいずれの時間でも採用できることを意味する。これに対して破砕に時間がかかって核酸収率が破砕時間とともに増える傾向にある湿式破砕の場合、核酸の収率とその変性も考慮した破砕時間の最適化は容易に設定できないので、この意味からも、湿式とは明らかに異なるメカニズムに基づく乾式破砕は、微生物細胞の破砕において極めて有利な手法である。
核酸抽出方法
本発明はまた、上記の微生物細胞破砕処理方法によって、乾式破砕された微生物細胞に検体処理溶液を加えて核酸抽出を行なうことを特徴とする核酸抽出方法である。好ましくはPCR用の核酸を調製するための核酸抽出方法である。このような核酸抽出は、その前処理として検体に含まれる微生物細胞について乾式の破砕処理をした後に、そこへ検体処理溶液を加えて行われる。その後の核酸の抽出処理は、従来の核酸抽出処理と同じように進めることができる。
・乾式破砕、湿式破砕による核酸抽出の比較
湿式でのビーズ破砕および乾式でのビーズ破砕による真菌胞子(Penicillium chrysogenum)からのDNA抽出について、破砕時間ごとのDNA抽出量が調べられた(実施例1)。湿
式破砕と比較し、乾式破砕のほうがDNA抽出速度は高いことがわかる(図2)。その理由
として乾式破砕では、微生物細胞と破砕媒体(例えばビーズ)の間に、分子間力、静電力、表面張力などの粘着力が働くことから、微生物細胞と破砕媒体(例えばビーズ)間の衝突がより高効率で行われることが考えられる。
後期においてDNA収量が安定化することが確認されている(図2参照)。つまり、DNAの抽出に充分な細胞壁破砕は短時間で行なわれることから、破砕時間を延長してもDNA抽出量
の上昇につながらない。したがって乾式破砕では、破砕時間を徒に長くする必要性は全くなく、しかも過度の物理的破砕の影響を受けにくいことが示唆されている。乾式破砕では溶媒を使わないことから、破砕された細胞内のDNAは細胞外に溶出することなく(上述の
粘着力により)細胞内に保持され続ける(図1)。このように細胞内に保持された状態のDNAは、細胞外に剥き出しの状態のDNAと比較し、物理的破砕の影響を受けにくいことが推測される。
図2)、湿式で細胞壁破砕を有効に行なうためには、どうしても破砕時間を長くする必要
がある。湿式法では、破砕された細胞内のDNAは細胞外に溶出し、よって遊離したDNA鎖の切断が起きることは避けられない(図1)。
いう予想外の効果とともに、最終的に得られるDNA鎖の長さについても極めて有利な点が
ある。湿式ビーズ破砕および乾式ビーズ破砕によって得た真菌DNAのPCR効率を検討したところ、湿式破砕によって得たDNAと比較し、乾式破砕によって得たDNAのほうがPCR効率も
高いことが判明した。湿式破砕と比較し、乾式破砕は、DNAを適度に断片化することが可
能になり、それがプライミング効率の高いDNAを生成していると予想される。したがって
、既存の湿式ビーズ法と比較し、本発明に係る乾式ビーズ破砕法は、微生物からの核酸抽出が迅速に行われると同時に、定量的PCRに適したサイズフラグメントの核酸を迅速に準
備することが可能といえる。上記の核酸抽出方法により得られた核酸は、PCRのみならず
それ以外の各種増幅方法、具体的にはSDA(Standard displacement amplification)
、アボット(株)社のLCR(Ligase chain reaction)法、栄研化学(株)社のLAMP
(Loop-mediated isothermal amplification of DNA)法、宝酒造(株)社のICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acid)、ジェン
・プローブ社のTMA(Transcription Mediated amplification-hybridization protection assay)法、TAS(Transcription-based amplification system)法、3SR(Self-sustained sequence replication)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法などのDNA増幅法に適用して、例えば塩基配列決定、ハイブリダイゼーション法、サザンブロット分析などの解析に用いることもできる。
出効率に差があると、混入数が仮に同程度であっても、ある微生物では検出できるが、別の微生物では検出できないといった事態が起こり得る。不明な病原微生物を特定しようとする目的に対して、その微生物の破砕および核酸抽出操作を一律に行えないことになってしまうと、これでは広く網羅的に微生物種を特定できる遺伝子操作の可能性に対して、操作処理に起因する制限を課すことになる。かかる事態を少なくし、菌種が異なったとしても高効率で微生物を破砕し、核酸が抽出可能となる方法を確立することが望まれる。本発明方法は、このような要請に充分応えるものである。すなわち本発明の方法においては、微生物細胞からの核酸抽出効率がそれぞれの菌種で固有の値に収束する特異パターンを示すことから、全体として細胞破砕が首尾良く進行し、ある微生物種の細胞では破砕が不充分なままに残るという事態は避けられる。
乾式細胞破砕処理キット
上記の微生物細胞破砕処理方法を応用したキットもまた本発明の一態様である。そのようなキットは、本発明の上記方法を実施するために必要とされる器材一式、具体的には、少なくとも破砕媒体、破砕に用いる容器などを含むものである。ここで用いる破砕媒体および容器は上記したものであってよい。該キットの望ましい態様は、乾式破砕を有効に実施するために少なくとも破砕媒体としてフッ素樹脂でコーティングされたジルコニアビーズおよびプラスチック(好ましくはポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート)製チューブを含み、これらを組合わせて使用する形態のキットである。
限り、種々のものにすることができる。
本発明の微生物細胞破砕処理方法において最良の態様は、
帯電性を有するプラスチックチューブ内でジルコニアビーズと粒子径10μm以下の微生物細胞とを混合し、該ビーズと該微生物細胞との間に粘着力を増強した乾燥混合物に物理的衝撃を与えるためボルテックスして、該微生物細胞を乾式破砕する方法である。
子を含む検体が例示される。微生物細胞を含んだマイクロチューブ内に、検体処理溶液などの液体を添加することなく上記微細ビーズを同封し、チューブミキサーなどの撹拌装置により撹拌および振動を加えることで、微生物細胞から迅速に核酸抽出を行う。
・マイクロチューブ内に乾燥した微生物細胞を準備する方法
微生物の有無を確認するための試料については、必要な前処理を施した検体としておくことが好ましい。この前処理は、従来の微生物含有試料からの核酸抽出方法にも用いられていたもので実施することができる。前処理は、多くの場合に、微生物を濃縮する微生物濃縮工程が含まれる。具体的な前処理方法としては、例えば試料を遠心チューブに入れて遠心沈降させる(なお、沈殿の生成を促進させるために、ポリエチレングリコールといった沈殿促進剤を添加する場合がある)、酵素処理して分散させる(特に、喀痰検体の場合に有効な方法となる)、フィルターを用いて遠心濾過して濃縮する方法などがある。
(1)真菌などの微生物コロニーが生育したプラスチック容器にエタノールを加え、胞子や
その他微生物細胞を懸濁化させる。微生物細胞を含んだエタノール懸濁液をマイクロチューブに分注し、遠心分離を行うことで、微生物細胞をペレット化させる。遠心後のチューブ内の上澄みのエタノールを除去することで、ペレットのみを回収し、数日間、ペレットを乾燥することで、検体として乾燥状態の微生物をマイクロチューブ内に準備することが可能となる。
(2)Chenらが開発したマイクロチューブ型サイクロン(米国特許US 7,370,543)を用い
て、空気中の微生物を乾燥状態で直接チューブ内に捕集することが可能である(Chen et al., Aerosol Sci. Technol., 38:926-937, 2004)。この手法は環境保全のための検査、空気伝染性微生物の検査などに適用することができる。一例を挙げると、空気中に浮遊する炭疽菌を採集し、培養して検査することはその菌固有の安全上の問題があり、加えて著しく強固なその芽胞から核酸を分離することは困難であった。上記デバイスで捕集した該微生物を本発明方法で破砕すれば、目的の核酸を安全にかつ確実に取得することができる。
・乾式ビーズ破砕
本発明の微生物細胞破砕処理方法は、微生物細胞と、破砕媒体および容器壁との間に働く粘着力を増強して活用する乾式破砕法であることを特徴としている。したがって微生物細胞と、破砕媒体および容器壁との間に働く粘着力を可能な限り増強して利用するためには、微生物細胞、破砕媒体、容器、物理的衝撃について、以下の事項が検討されるべきである。
いポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート製のチューブが好ましい。また破砕媒体は、静電気が帯電しやすく、しかも衝撃効率が優れたテフロン(R)コーティングされたジルコニアビーズの使用が好ましい。物理的衝撃は、静電力を積極的に発生させて粘着力とするボルテックス(vortex)、振動および撹拌が望ましい。
導入し、ジルコニアビーズ、好ましくはテフロン(R)コーティングされたジルコニアビーズ(φ500μm程度、400mg程度)をチューブに同封する。微生物、微細ビーズを同封し
たチューブは、検体処理溶液などの液体を導入することなく、市販のチューブミキサー(MT-360 もしくは MT-300; TOMY Tech USA, Inc.など)やミニビーズビーターなどの装置
により攪拌を行う。破砕後の微生物試料は、市販のDNA抽出・精製キット(Plant Geno-DNA-Template; G-Biosciences社製など)に付随の検体処理溶液を加え、キットのプロトコ
ルに従うことで、核酸精製が可能である。
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、ここで使用している装置名、使用する材料、使用材料の濃度、使用量、ならびに処理時間、処理温度などの数値的条件、処理方法などは、本発明の範囲内の好適例にすぎない。
[参考例1]
真菌胞子からのDNA抽出効率を計算するために必要とする胞子数既知の標準真菌試料と
して、既知量の真菌胞子を有する標準真菌ペレットをまず次の手順で作成した。
(1)製品評価技術基盤機構(NBRC)より購入した標準真菌(Aspergillus niger (NBRC 31384), Penicillium chrysogenum (NBRC 6223), Cladosporium sphaerospermum (NBRC 4460))を添付の説明書に従って復元し、室温にて5日間程度培養してそれを親株とした。
その親株を使用しない時は、胞子が飛散しないよう密封した状態で冷蔵保存した。なお、実験で用いたAspergillus niger、Cladosporium sphaerospermum、Penicillium chrysogenumの胞子径は次の文献値よりそれぞれ3.5〜5 μm [1]、3〜4.5 μm [1]、2.5〜3.5 μm [2] であることが分かっている。
<文献>
[1] Cole, G.T., and R.A. Samson. 1984. The conidia. Chapter 5, p. 66-103. In Y. Al-Doory, and J.F. Domson (ed.), Mould allergy, Lea & Febiger, Philadelphia, PA.[2] Rydjord, B., E. Namork, U.C. Nygaard, H.G. Wiker, and G. Hetland. 2007. Quantification and characterisation of IgG binding to mould spores by flow cytometry
and scanning electron microscopy. J. Immunol. Methods 323:123-131.
(2)冷蔵庫から上記親株を取り出し、ガスバーナーの火炎により滅菌した白金耳により親株から菌を釣菌して、液体培地(商品名m-Green Yeast and Mold Broth; Millipore社
製)を予め浸透させたマイクロチェックII(Pall Corp.)のメンブレンフィルター面に該白金耳を接触させ、室温で2週間培養して胞子形成を確認した。
(3)マイクロチェックII内に形成した真菌コロニーに70%エタノール(50 ml程度)を添加し、テストチューブミキサーを用いて10秒間振動を加え、真菌胞子を70%エタノールに
懸濁させた。その懸濁液を50 ml容量のファルコンチューブに移し、1時間放置して真菌胞子懸濁液を作成した。
(4)マイクロチューブ(商品名サンプリングチューブ, ポリプロピレン製, 型番72.695, Assist社製)にピペットを使って上記懸濁液2 mlを分注し、遠心分離機に14,000 rpmで10分間の条件でかけてチューブ内の真菌胞子をペレット化させた。その後、上澄みのエタノールをピペットを用いて除去し、テストチューブの口に綿栓を詰めて、ドラフト内で
3日間そのペレットを乾燥させた。
(5)その真菌胞子ペレット中の胞子数の定量は、マイクロチューブ内の乾燥ペレットにTween 80溶液(0.05% v/v)2 mlおよびゲンチアナバイオレット溶液(0.05% w/w in absolute ethanol)20μlを添加し、その懸濁液をセルカウントプレートに導入し顕微鏡観察
(400倍)によって計数した。
(6)真菌胞子は水溶液中で凝集性を示すことから、一般的に懸濁液中における濃度にばらつきが生じやすい。ここでは水の代わりに分散性の高い70%エタノールを懸濁溶媒とし
て用いたことから、胞子数にばらつき(CV; Coefficient of Variation)の少ない真菌胞子のペレットをマイクロチューブ内に作成することが可能になった。その結果を表1に示した。
式法によるビーズ破砕を施し、市販のDNA抽出キット(商品名Plant Geno-DNA-Template, G-Biosciences社製)を利用してDNAの抽出と精製を行い、引き続いてDNA抽出量を測定し
た。
(1)参考例1で得た標準真菌ペレット試料の入っているテストチューブに、ジルコニア
ビーズ(φ500 μm、400 mg)を同封した。次にテストチューブミキサー(商品名マイク
ロチューブミキサー;型式MT-360またはMT-300; TOMY Tech USA社製)を用いて、0 ~ 60
分間チューブを振動させた(振動強度は10に設定)。その後、上記キット付属の抽出バッファー (lysis buffer) 600 μlをテストチューブに添加した。
(2)次いでクロロホルム200 μlをテストチューブに添加し、数回チューブを転倒させ
て内容物を混和させた。ピペットを利用して、クロロホルムが混入しないよう注意しながら、上澄みの抽出バッファー液部分を回収した。
(3)Plant Geno-DNA-Templateの説明書に従い、DNAの抽出と精製を行った。50 μl Tris EDTA buffer (TE buffer) による溶出を2回行うことで、最終的なDNA抽出液量を100 μlになるように調整し、冷蔵保存した。
(4)このようにして得た抽出DNA溶液 50 μl に、Tris EDTA buffer 50 μlおよびPicoGreen (1/200)(商品名PicoGreen dsDNA Quantitation Kit;インビトロジェン株式会社
製)100 μl を混合し、その混合液をウェルプレートに移した。PicoGreenに添付の説明
書に従い、プレートリーダでDNA溶液の濃度を定量した。
[比較例1]
参考例1で得た4種類の標準真菌ペレット試料(胞子数既知)を用い、湿式破砕法で真
菌胞子の破砕、DNAの抽出と精製ならびに抽出DNAの定量を行った。
た。その後は、実施例1と同様に操作した。
図2に示した結果から、本発明に係る乾式破砕法の方が、従来法である湿式破砕法よりも、効率よく真菌胞子からDNAを抽出できていることがわかった。
。
まず、実施例1で抽出されたDNA溶液 5 μl をフィルム(登録商標サランラップ)上に滴下し、そこへ6 × Loading buffer (1 μl) を添加して混合した。
程度上になるように泳動槽内に注いだ。2.4%アガロースゲルに前記のDNAと6 × Loading bufferとの混合液をアプライし、また2.4%アガロースゲルにDNAマーカー(商品名Wide Range DNA Ladder;型番3415A;50-10,000 bp;タカラバイオ株式会社製)6 μlを平行してアプライした。電圧をかけてDNAを泳動させ、マーカーを確認しながらDNAがゲル上の適当な位置に来るように、20 V、25 分間を目安に条件を調節した。
spores)から抽出したDNAのサイズフラグメントのゲル泳動画像を示した。
[比較例2]
比較例1で得た湿式法による抽出DNAについても、実施例2と同様にして電気泳動を行
い、A. niger (1.82 × 107 spores)から抽出されたDNAのサイズフラグメントのゲル泳動画像を図3に併せて示した。
従来法である湿式法によるDNAと比べて、フラグメント化がある程度進んでいることがわ
かった。今回の破砕時間の範囲では、湿式法の方が本発明の乾式破砕法と比較すると、長大な鎖のDNAが多いといえる(図3)。これは乾式のほうが湿式と比較し、強力な破砕力
が働いていることが原因として考えられる。しかしながら、破砕時間が長くなればなるほど、湿式破砕においては細胞外に出たDNAは細かく分断され、最終的には分解消失してし
まう。一方、乾式破砕では破砕時間の初期においては強力な力が働くため、DNAは細かく
分断されるものの、その後においては、細胞壁内に留まっているDNAはそれ以上の分断を
受けることなく、分解消失することなく存在し続けることとなる。
って、本発明の乾式破砕法により得られるDNAはPCR反応における熱変性効率も高く、結果として効率よくPCR反応が行われる(下記の実施例3)。
<参考文献>
Ririe, K.M., Rasmussen, R.P., and Wittwer, C.T.: Product differentiation by analysis of DNA melting curves during the polymerase chain reaction. Anal. Biochem.,
245:154-160 (1997).
施例1で得たDNA抽出液中のDNA量を測定した。
抽出した真菌DNA溶液を、表3に示したPCR反応溶液の組成に従って混合した。PCRの反応
溶液として、SYBRR Green(商品名SYBR(R) Premix Ex Taq(TM) II;タカラバイオ株
式会社製)を用いた。そして、Real-time PCRシステムに対応した96穴ウェルプレート (
商品名MicroAmp Optical 96-Well Reaction Plate;アプライドバイオシステムズジャパ
ン株式会社製) の各ウェルに、スタンダード、ネガティブコントロール、サンプルを含んだPCR反応溶液を導入し、ウェルプレートの上面を専用のフィルムで覆い、表4に記載し
た温度条件に従ってPCR反応を行った。
[比較例3]
比較例1(湿式破砕法により破砕・抽出)で得たDNAについても、実施例3と同様にし
てReal-time PCRシステム (商品名ABI 7500 Fast Real-time PCR System;アプライドバ
イオシステムズジャパン株式会社製) を用いて、DNA抽出液中のDNA量を測定した。
4に併せて示した。また図5に、Real-time PCRにより計測されたCt値と比較例1で得たPicoGreenにより定量されたDNA量との関係をプロットし、回帰線とともに併せて示した。
さらに、実測されたDNA量と図5に記した回帰線から予測されるDNA量との比、すなわちPCR効率の相対値を破砕時間ごとにプロットして、図6に示した。
た真菌DNAと比較して、Ct値が大きく、効率よくPCR反応が行われていることがわかった。その原因として、本発明に係わる乾式破砕法では、真菌DNAが適度にフラグメント化され
ているために、PCR反応で効率よくプライミングが行われたと考えられる。
Claims (7)
- 微生物細胞を乾式破砕する方法であって、
帯電性素材で構成される容器内に微生物細胞と破砕媒体とを入れて混合し、
該微生物細胞と、該破砕媒体および容器壁との間の粘着力が増強された系に物理的衝撃を加えて、該微生物細胞を乾式破砕することを特徴とする微生物細胞破砕処理方法。 - 前記微生物細胞が粒子径10μm以下である、請求項1に記載の微生物細胞破砕処理方
法。 - 前記微生物細胞が真菌または芽胞菌の細胞である、請求項1または2に記載の微生物細胞破砕処理方法。
- 前記破砕媒体がフッ素樹脂コーティングされたジルコニアビーズである、請求項1に記載の微生物細胞破砕処理方法。
- 前記破砕媒体が100〜1000μmの粒子径を有するビーズである、請求項1または4に記載の微生物細胞破砕処理方法。
- 前記の物理的衝撃が振動および/または撹拌である、請求項1に記載の微生物細胞破砕処理方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の微生物細胞破砕処理方法によって、乾式破砕された微
生物細胞に検体処理溶液を加えて核酸抽出を行なうことを特徴とする核酸抽出方法。
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