JP2010106314A - 鋼製品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】材質バラツキのない鋼製品を製造する方法と、その方法を用いた材質バラツキのない高強度冷延鋼板の有利な製造方法を提案する。
【解決手段】ニューラルネットワークを用いて鋼製品の材質と複数の材質影響因子との間の非線形な関係式を求め、この非線形な関係式に、上記鋼製品の目標材質と、材質影響因子のうちの1つである意図的制御因子を除く残りの材質影響因子を代入して上記目標材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、この目標値に上記意図的制御因子を制御して鋼製品を製造することを特徴とする鋼製品の製造方法。
【選択図】図3

Description

本発明は、材質バラツキの小さい鋼製品の製造方法に関するものである。
近年、スラブやブルーム、ビレット、ビームブランク等の鋼素材から製造される薄鋼板や厚鋼板、線材、棒鋼、形鋼、鋼管などの鋼製品には、それらを材料とする各種製品の品質向上ならびにそれらの製造工程における省力化やトラブル防止を図る観点から、材質のバラツキを低減することへの要求が強まってきている。特に、自動車や家電製品などの材料となる薄鋼板に対する材質バラツキ低減への要求は強く、1つのスラブ内での位置による材質バラツキ(例えば、1コイル内の長手方向や幅方向における材質バラツキ)はもちろん、異なる鋼素材(スラブ)から製造される薄鋼板間の材質バラツキに対しても、低減することが求められている。
従来、1つのスラブから製造される鋼板のスラブ内位置による材質バラツキは、スラブ内の化学成分は均一であるとの前提の下、同一の条件で製造すれば、材質のバラツキはほぼ無視できるが、異なるスラブから製造される鋼板間では、スラブの化学成分に不可避的なバラツキがある(例えば、0.1mass%C鋼では、C含有量は0.09〜0.11mass%程度の範囲で変化する)ため、全く同一の製造条件で製造しても、得られる鋼板の材質は、ある程度のバラツキを有することが予想されていた。
このような、異なるスラブから製造される鋼板間の材質バラツキを低減する方法としては、例えば、特許文献1に開示された技術がある。この技術は、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備を用いて高強度冷延鋼板を製造する方法において、鋼板の引張強さと、製造時の諸因子(鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼鈍時の焼入れ開始温度、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度)との間の関係式を、予め重回帰分析により求めておき、この関係式に、鋼板の目標引張強さと、焼鈍時の焼入れ開始温度を除く製造時の諸因子を代入して目標強度を得るための焼鈍時の焼入れ開始温度を求め、その温度に焼入れ開始温度を制御することにより、目標とする引張強さのバラツキを低減しようとするものである。そして、この方法によれば、引張強さが490〜690MPaの高強度冷延鋼板における強度の変動幅を3σで20MPa(目標強度レベルの約3.3%程度)以下に低減できるとしている。
特許第3849559号公報
しかしながら、目標強度がさらに高くなって、例えば、引張強さが980MPa級の高強度冷延鋼板の製造に、特許文献1に記載の方法を適用し、重回帰分析による回帰式を作成して最適な焼入れ開始温度で鋼板を冷却した場合には、490〜690MPa級の鋼板と同レベルのバラツキ(引張強さの約3.3%)を有すると考えると、3σで33MPa程度のバラツキが発生することになる。
しかも、鋼板が高強度化するのに伴って、鋼板強度の化学成分感受性や製造条件感受性がより高くなる傾向にあるため、引張強さのバラツキはさらに大きくなる。その結果、得られる鋼板の引張強さのバラツキは、ユーザーから要求されている特性範囲を満たせなくなってしまうおそれがある。
実際、発明者らは、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備により製造される980MPa級の高強度冷延鋼板に、特許文献1に記載の方法を適用し、材質影響因子として、鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼入れ開始温度、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度に加えてさらに、Mn含有量や焼鈍温度などをも含めて重回帰分析を行い、引張強さとそれら諸因子との回帰式を作成し、この回帰式に基づいて焼入れ開始温度を制御し、引張強さのバラツキを低減することを試みた。しかしながら、引張強さの実績変動幅は、3σで50MPa程度までしか低減することができなかった。
また、上記バラツキの大きさは、得られる鋼板の引張強さの最大値と最小値とで100MPaの差があることを意味しており、したがって、製品の合格率を高めるためには、合金成分を余分に添加して目標強度をより高めに設定したり、製造条件をより厳しい条件に管理したりしなければならないという弊害を招いていた。
そこで、本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、鋼製品の材質を精度よく予測し、材質バラツキのない鋼製品を製造する方法と、その方法を用いた材質バラツキのない高強度冷延鋼板の有利な製造方法を提案することにある。
発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、特許文献1に記載の方法のバラツキ低減効果が不十分である理由は、鋼板強度と材質影響諸因子との関係式を、重回帰分析すなわち直線回帰によって求めていることが主な原因であることを見出した。すなわち、特許文献1の方法では、予め、鋼板の材質(引張強さ)と、板厚等の材質影響因子との間の関係式を重回帰分析により求めているが、重回帰分析は、直線回帰であるうえ、各材質影響因子間の相互作用を考慮することができない。しかし、実際に起こっている現象は、各材質影響因子間で相互に影響を及ぼし合っていることがほとんどである。
例えば、980MPa級高強度冷延鋼板の引張強さと焼鈍時の焼入れ開始温度との関係は、図1中に曲線aとして示すように非線形となるため、重回帰分析により求めた回帰式(曲線b)とは乖離が生じている。さらに、引張強さと焼鈍時の焼入れ開始温度との関係は、例えば、図2に示すように、Mn添加量によって傾きが変化しているが、重回帰分析では、各影響因子間の相互作用を考慮できないため、Mn量が変化しても傾きは同じとなってしまう。
以上の結果から、発明者らは、材質予測精度を向上するためには、鋼板の材質と、その材質に影響を及ぼす複数の材質影響因子との間の関係式を、個々の材質影響因子間の相互作用を考慮した非線形な関数とする必要があり、その非線形な関数を求めるためには、人間の脳の仕組みを模倣した情報処理機構であるニューラルネットワークを用いることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、ニューラルネットワークを用いて鋼製品の材質と複数の材質影響因子との間の非線形な関係式を求め、この非線形な関係式に、上記鋼製品の目標材質と、材質影響因子のうちの1つである意図的制御因子を除く残りの材質影響因子を代入して上記目標材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、この目標値に上記意図的制御因子を制御して鋼製品を製造することを特徴とする鋼製品の製造方法を提案する。
また、本発明の製造方法における上記ニューラルネットワークは、階層型であることを特徴とする。
また、本発明は、上記の製造方法を適用し、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備を用いて鋼製品を製造する方法において、意図的制御因子として連続焼鈍における焼入れ温度および焼入れ後の焼戻し温度のいずれかを用いることを特徴とする鋼製品の製造方法を提案する。
また、本発明の製造方法は、C:0.05〜0.50mass%、Si:0.01〜3.0mass%、Mn:0.5〜3.0mass%、P:0.10mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.01〜0.1mass%、N:0.008mass%以下、Cu:0〜2.0mass%、Ni:0〜2.0mass%、Ti:0〜0.5mass%、Nb:0〜0.5mass%、V:0〜1.0mass%、Cr:0〜2.0mass%、Mo:0〜1.0mass%、B:0〜0.005mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を用いて、引張強さが980MPa以上の冷延鋼板を製造することを特徴とする。
本発明によれば、製品間の材質バラツキが極めて小さい鋼製品(薄鋼板、厚鋼板、線材、棒鋼、形鋼、鋼管など)を製造することができる。特に、本発明により製造される高強度冷延鋼板は、材質バラツキが極めて小さいので自動車用部品や家電製品の材料として好適である。
本発明は、鋼製品の材質に影響する複数の材質影響因子から、鋼製品の材質を予測する際に、ニューラルネットワークにより求めた非線形な関係式を用いることを特徴とする。ここで、本発明が、鋼製品の材質と複数の材質影響因子との間の関係式として、ニューラルネットワークを用いて求めた非線形な関数を用いる理由は、前述したように、従来技術のような重回帰分析は直線回帰でありさらに、それぞれの材質影響因子間の相互作用を考慮していないため、引張強さが980MPa級以上の高強度冷延鋼板においては、十分なバラツキの低減効果を得ることができないからである。
上記非線形な関係式は、長年にわたって蓄積されている鋼製品の製造データ(鋼の化学成分、製品サイズ、各工程の製造条件、製品材質等)を用いて、ニューラルネットワークによって求めることができる。このニューラルネットワークには、大別して階層型と相互結合型があるが、階層型は、原理的にはいかなる相関にもフィッティングすることができ、実際に製造される製品の材質と材質影響因子の関係のような極めて複雑な相関にも適用できるので好ましい。
さらに、予測精度をより高めるためには、階層型ニューラルネットワークにベイズ推定を組み合わせることが有効である。階層型ニューラルネットワークでは、十分なデータの蓄積がある場合には、予測誤差を極めて小さくすることができるが、データ数が少ない場合には、誤差が大きくなる。このような場合でも、ベイズ推定を組み合わせることで、予測の信憑性を事前に察知して、操業に反映することができるからである。
また、上記製造データを用いて50種類以上の異なるニューラルネットワークモデルを構築した後、材質予測誤差の小さいニューラルネットワークモデルから順次足し合わせて、予測誤差が最小となる組み合わせ予測モデルを構築することが好ましい。これによって、さらに高い精度をもって材質予測を行うことが可能となる。
また、本発明の鋼製品の製造方法は、ニューラルネットワークにより求められる鋼製品の材質と材質影響因子との間の非線形な関係式に、上記鋼製品の目標材質と、材質影響因子のうちの1つ(意図的制御因子)を除く残りの材質影響因子を代入して、目標材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、この値に上記意図的制御因子を制御することにより鋼製品を製造することを特徴とする。
上記鋼製品の製造方法において、材質のバラツキを小さくするには、ニューラルネットワークを用いて非線形な関係式を求める際、材質への影響が大きい材質影響因子のみで非線形関数を構築することが好ましい。材質への影響が大きい因子は、同じ製品でも鋼の成分組成や製造方法によっても異なってくるが、例えば、C,Si,Mnを基本成分とする高強度冷延鋼板を、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備で製造する場合には、材質影響因子として、少なくとも、基本成分であるC,Si,Mnの含有量、製品寸法(板厚)、焼鈍条件(焼鈍温度、焼入れ開始温度、焼入れ水温、焼戻し温度)を組み込むことが好ましい。なお、材質への影響が小さい因子を材質影響因子として組み込んでもよいことは勿論である。
また、本発明は、鋼製品の材質に影響を及ぼす材質影響因子のうちの1つを意図的制御因子と選択し、その意図的制御因子を除いた残りの材質影響因子と目標材質とを非線形な関係式に代入することにより、目標とする材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、その目標値に合わせて上記意図的制御因子を制御して鋼製品を製造することによって、目標とする鋼製品の材質の造り込みを行っている。
ここで、上記意図的制御因子としては、
(1)材質に及ぼす影響が、他の材質影響因子に比べて大きい、
(2)制御性に優れている、
という2つの条件を同時に満たすものであることが好ましい。
というのは、例えば、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備で高強度冷延鋼板を製造する場合、連続焼鈍時の条件(因子)が強度特性に及ぼす影響は、鋼の化学成分、鋼板の板厚を除くと、焼入れ直前の温度(焼入れ開始温度)、焼入れ後の焼戻し温度、焼鈍温度の順に大きい。ここで、意図的制御因子として焼鈍温度を選択した場合、目標材質を変更するためには焼鈍炉の温度を変更する必要があるが、焼鈍炉の熱容量は大きいため、短時間で変更することは困難であるし、また、例えできたとしても材質に与える影響も小さい。これに対して、焼入れ開始温度を意図的制御因子として選択した場合、焼入れ直前温度はガス冷却の吹付け量の調整により短時間で容易に変更することができ、しかも、材質に与える影響が大きい。また、焼戻し温度を意図的制御因子として選択した場合、通常のラジアントチューブ型の焼戻し炉では、炉内温度を短時間で変更することは難しい。しかし、焼戻しの効果は、最高温度でほぼ決まることが発明者らの知見から明らかになっていることから、焼戻し炉の前に制御性のよいIHヒーターなどを設置して焼戻し最高温度を短時間で変更するようにすれば、意図的制御因子として用いることができる。したがって、連続焼鈍設備における意図的制御因子としては、焼入れ開始温度または焼戻し温度を選択することが好ましい。
上記本発明の方法を用いることにより、製品間の材質バラツキの小さい鋼製品を製造することが可能となる。
また、本発明の鋼製品の製造方法は、従来の高強度冷延鋼板よりもさらに高強度の980MPa級以上の高強度冷延鋼板に適用することが好ましい。980MPa未満の強度を有する鋼板は、従来技術でも、ある程度のバラツキの低減が可能であるからである。一方、980MPa級以上の高強度冷延鋼板を製造する場合には、本発明の鋼製品の製造方法を適用することによってのみ、得られる鋼板の引張強さを目標値に対して±20MPaの狭い範囲に制御することが可能となる。
なお、本発明の製造方法を適用して上記980MPa級以上の高強度冷延鋼板を製造する場合、C:0.05〜0.50mass%、Si:0.01〜3.0mass%、Mn:0.5〜3.0mass%、P:0.10mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.01〜0.1mass%、N:0.008mass%以下、Cu:0〜2.0mass%、Ni:0〜2.0mass%、Ti:0〜0.5mass%、Nb:0〜0.5mass%、V:0〜1.0mass%、Cr:0〜2.0mass%、Mo:0〜1.0mass%、B:0〜0.005mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼素材を用いることが好ましい。
以下、上記好ましい成分組成の限定理由について説明する。
C:0.05〜0.50mass%
Cは、鋼の強度を確保するための重要な元素であり、本発明では、引張強さ980MPa以上を確保するため、0.05mass%以上添加する。一方、0.50mass%を超える添加は、溶接性を著しく低下させる。よって、Cは0.05〜0.50mass%の範囲で添加するのが好ましい。より優れた溶接性が要求される場合には、C:0.20mass%以下が好ましく、さらには0.15mass%以下が好ましい。
Si:0.01〜3.0mass%
Siは、固溶強化によって鋼の強度を高める元素であり、特に加工性の低下を抑制しつつ強度を高めることができるため、0.01mass%以上添加するのが好ましい。一方、3.0mass%を超える添加は、上記効果が飽和し、加工性の低下をもたらすため、上限は3.0mass%とするのが好ましい。より好ましくは、0.2〜2.5mass%の範囲である。
Mn:0.5〜3.0mass%
Mnは、固溶強化により、また、オーステナイトの焼き入れ性を高めることにより、安定して鋼の強度を高める効果を有する元素である。このような効果を得るためには、0.5mass%以上添加するのが好ましい。一方、3.0mass%を超える添加は、加工性の低下をもたらす。よって、Mnは0.5〜3.0mass%の範囲で添加するのが好ましく、より好ましくは1.8〜2.5mass%の範囲である。
P:0.10mass%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、鋼板に要求される強度レベルに応じて添加することができるが、0.10mass%を超えて添加すると、溶接性が低下するようになる。よって、Pは0.10mass%以下の範囲で添加するのが好ましい。なお、優れた溶接性が要求される場合には、P:0.05mass%以下がより好ましい。
S:0.01mass%以下
Sは、鋼板中に介在物として存在し、伸びフランジ性を低下させる元素であり、できる限り低減するのが好ましい。伸びフランジ性への悪影響を排除するためには、0.01mass%以下が好ましく、より優れた伸びフランジ性が要求される場合には、さらにS:0.005mass%以下とするのが好ましい。
Al:0.01〜0.1mass%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また、鋼の組織微細化のためにも添加するのが望ましい元素である。また、適正範囲のAlを添加したアルミキルド鋼は、Alを添加しない従来のリムド鋼に比較して機械的特性が優れている。以上の理由により、Alは0.01mass%以上添加するのが好ましい。一方、Alの含有量が多くなると、表面性状が悪化するため、上限は0.1mass%とするのが好ましい。
N:0.008mass%以下
Nは、0.008mass%を超えると、強度バラツキの原因となるため、0.008mass%以下に制限するのが好ましい。
本発明の鋼製品は、上記成分組成を満たすことで所望の特性を得ることができるが、さらに、要求特性に応じて以下の成分を添加することができる。
Cu:0〜2.0mass%、Ni:0〜2.0mass%、
Cuは、強度向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、2.0mass%を超える添加は表面性状の低下をもたらすので、上限は2.0mass%とするのが好ましい。より好ましくは1.0mass%以下である。
Niは、Cuと同様、強度向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、2.0mass%を超える添加は加工性の低下をもたらすので、上限は2.0mass%とするのが好ましい。より好ましくは1.0mass%以下である。
Ti:0〜0.5mass%、Nb:0〜0.5mass%、V:0〜1.0mass%
Ti,NbおよびVは、鋼中で炭化物を形成して鋼を析出強化することにより、また、結晶粒を微細化することにより、鋼の強度を高める効果を有する元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、Ti,Nbは0.5mass%を超えると、また、Vは1.0mass%を超えると、加工性を著しく低下させる。よって、Ti,Nbはそれぞれ0.5mass%以下、Vは1.0mass%以下の範囲で添加するのが好ましい。より好ましくは、それぞれ0.01〜0.05mass%の範囲である。
Cr:0〜2.0mass%、Mo:0〜1.0mass%、B:0〜0.005mass%
Cr,MoおよびBは、オーステナイトの焼き入れ性を高める効果を有するため、鋼の高強度化に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、多量の添加は、加工性を低下させるため、Crは2.0mass%以下、Moは1.0mass%以下、Bは0.005mass%以下の範囲で添加することができる。より好ましい添加量は、Cr,Moはそれぞれ0.05〜0.4mass%、Bは0.001〜0.004mass%の範囲である。
本発明の鋼製品において、上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。含まれる不可避的不純物としては、例えば、Sb,Sn,Zn,Co等が挙げられるが、これらの元素の許容含有量は、それぞれSb:0.01mass%以下、Sn:0.1mass%以下、Zn:0.01mass%以下、Co:0.1mass%以下である。
C:0.12mass%、Si:1.4mass%、Mn:1.9mass%、P:0.01mass%、S:0.0015mass%、Al:0.035mass%、N:0.003mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を基本成分とする鋼素材を熱間圧延し、冷間圧延して板厚:1.6mmの冷延鋼板とした後、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備で焼鈍し、冷却して980MPa級の高強度冷延鋼板を製造した。この際、冷延鋼板の目標材質を1020MPaに設定し、連続焼鈍設備に本発明の製造方法と、従来技術の製造方法を適用して、各100コイルずつ製造した。
ここで、本発明の製造方法(発明例)では、材質制御因子として、鋼成分(C,Si,Mnの含有量)、冷延板厚および焼鈍条件(焼鈍温度、焼入れ開始温度、焼入れ水温および焼戻し温度)を用い、これらの製造データを、階層型ニューラルネットワークを用いて解析し、非線形な関係式を得た。その後、上記焼入れ開始温度を意図的制御因子として選択し、上記非線形な関係式に、各コイルの他の材質制御因子(化学成分、板厚:実績値、焼鈍温度、焼戻し温度:目標値、焼入れ水温:製造月の平均値)と目標材質(引張強さ:1020MPa)を代入して、各コイルにおける意図的制御因子の目標値(焼入れ開始温度)を求め、上記目標値に各コイルの焼入れ開始温度を制御しながら焼鈍を行なった。
一方、従来技術の製造方法(比較例)は、特許文献1に開示された製造方法に準じて、蓄積された製造データ(鋼成分(C,Pの含有量)、冷延板厚および焼鈍条件(焼入れ開始温度、焼入れ停止温度(焼入れ水温)、焼戻し温度)を重回帰分析して直線回帰式を求めた。そして、意図的制御因子として焼入れ開始温度を選択し、上記直線回帰式に、各コイルの鋼成分(C,Pの含有量)、冷延板厚、焼入れ開始温度以外の焼鈍条件(焼入れ停止温度(焼入れ水温)、焼戻し温度)と目標材質(引張強さ:1020MPa)を代入して、各コイルの焼入れ開始温度の目標値を求め、上記目標値に各コイルの焼入れ開始温度を制御しながら焼鈍を行なった。
上記のようにして、それぞれの方法で製造した各100コイルの焼鈍後冷延鋼板から、長軸を圧延方向に直交する方向(C方向)とするJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張強さTSを測定した。
図3は、上記引張試験で得られた引張強さの分布を、本発明の製造方法と従来技術の製造方法とで比較して示したものである。この図から、本発明の方法で製造したコイルの実測引張強さTSは、目標値に対して全て±20MPa未満(3σ≦20MPa)の範囲にあり、鋼板間の材質バラツキが極めて小さい。これに対して、従来技術で製造したコイルでは、実測引張強さが目標に対して±20MPa以上のコイルが見られ、また、バラツキも3σ=52MPaと大きく、ユーザーニーズに対して十分であるとはいえない。
本発明の技術は、自動車部品や家電製品等の分野で用いられる薄鋼板等の製造の他に、船舶や建築、ラインパイプ等の分野で用いられる厚鋼板や形鋼、条鋼、鋼管等で材質安定性が要求される鋼製品の製造にも好適に用いることができる。
鋼板の引張強さと焼入れ開始温度との間の関係を、実測データと、重回帰分析により求めた直線回帰式で示したグラフである。 980MPa級高強度冷延鋼板の引張強さと焼鈍時の焼入れ開始温度との関係に及ぼすMnの影響を示したグラフである。 980MPa級高強度冷延鋼板を、本発明の方法と、従来技術の方法で製造したときの引張強さのバラツキを比較したグラフである。

Claims (4)

  1. ニューラルネットワークを用いて鋼製品の材質と複数の材質影響因子との間の非線形な関係式を求め、この非線形な関係式に、上記鋼製品の目標材質と、材質影響因子のうちの1つである意図的制御因子を除く残りの材質影響因子を代入して上記目標材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、この目標値に上記意図的制御因子を制御して鋼製品を製造することを特徴とする鋼製品の製造方法。
  2. 上記ニューラルネットワークは、階層型であることを特徴とする請求項1に記載の鋼製品の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の製造方法を適用し、焼入れ手段を有する連続焼鈍設備を用いて鋼製品を製造する方法において、意図的制御因子として連続焼鈍における焼入れ温度および焼入れ後の焼戻し温度のいずれかを用いることを特徴とする鋼製品の製造方法。
  4. C:0.05〜0.50mass%、Si:0.01〜3.0mass%、Mn:0.5〜3.0mass%、P:0.10mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.01〜0.1mass%、N:0.008mass%以下、Cu:0〜2.0mass%、Ni:0〜2.0mass%、Ti:0〜0.5mass%、Nb:0〜0.5mass%、V:0〜1.0mass%、Cr:0〜2.0mass%、Mo:0〜1.0mass%、B:0〜0.005mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を用いて、引張強さが980MPa以上の冷延鋼板を製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼製品の製造方法。
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