以下、本発明の実施例を図に基づいて詳説する。本実施例における電気機器の筐体等に組み込まれ電気機器の外装色等を可変制御できる回折格子構造体1は、図1(a)に示すように、電気機器の筐体等である基板5と、この基板5上に接着支持層6を介して積層された金属膜等の電極層11と、該電極層11上に積層された固体電解質層12と、固体電解質層12上に積層された導電性高分子膜である微細構造体13と、を備え、電極層11、固体電解質層12、微細構造体13とにより導電性高分子アクチュエータ10を形成しているものであり、微細構造体13の表面には、可視光の波長をλ0とすると周期間隔(ピッチ)がλ0/2とされる規則的な微細構造14が形成され、この微細構造14が回折格子を形成しているものである。又、回折格子構造体1は、微細構造14における周期間隔と微細構造14に照射される光線束が透過する部材の屈折率との積によって表される微細構造14において周期的に形成される突起等の相互間の光学的距離を可変とされているものである。
又、微細構造14としては、図1(a)に示した、直方体形状の凸部と溝が平行に等間隔で配列されて凹凸を形成しているもの、図1(b)に示すような、円筒形状の複数の突起が規則的に配列されたもの、図1(c)に示すような、微細構造体13にコの字状或いはU字状の切り欠きを規則的に設けることにより微細な可動片が規則的に配列されたもの、図1(d)に示すような、導電性高分子アクチュエータ10の上下に貫通する円筒形状の縦穴が規則的に配列されたもの等、開口、凹凸、突起、孔、溝、格子等が周期間隔をλ0/2の整数倍として規則的に形成されたものであれば様々なものを用いることができる。
このような回折格子構造では、格子定数(周期間隔)をd、回折格子の表面に入射される光線束の入射角(入射光と回折格子の法線がなす角)をα、媒質の屈折率をn、回折角(回折光と回折格子の法線がなす角)をβとすると、入射角αの回折光による干渉光は、(1)式が成立するときに互いに強め合い明るくなる。
よって、格子定数dとなる周期構造物間の光学的距離dnを変化させることで波長λの特性を変化させることができるものであり、光学的距離dnの構成要素である格子定数dや屈折率nを変化させることで、入射角αを変化させることなく構造色や干渉光の反射特性を変化させることができるものである。
そして、図1(a)に示した、凹凸形状の微細構造14を備えた回折格子構造体1の格子定数dを変化させる場合には、図2に示すように、導電性高分子膜とされた微細構造体13に陽極、電極層11に陰極電圧を印加することによって微細構造体13が伸張し、格子定数dがd+Δdとなるため、波長λの特性を可変とすることができるものである。
この微細構造体13である導電性高分子膜は、酸化によって電子が電極に移り、電解液中の陰イオンが導電性高分子膜に注入されて導電率が上がるため金属状態となり、逆に、還元により陰イオンが排出されて絶縁体に戻るという性質を有し、具体的には、ポリアセチレンやポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等を用いることができる。
つまり、導電性高分子アクチュエータ10は、導電性高分子膜側に陽極電圧を印加すると、固体電解質層12から陰イオンが取込まれて導電性高分子膜が膨潤して伸張し、導電性高分子膜側に陰極電圧を印加すると、固体電解質層12に陰イオンが放出されて収縮するものである。このような導電性高分子を板状に形成して電圧を印加した場合、陰極電位側が収縮し陽極電位側が伸張するため、陰極電位側の厚さ方向に導電性高分子の板が湾曲するが、厚さ方向を規制することにより長さ方向にのみ伸縮させることができる。そこで、本実施例の回折格子構造体1では、導電性高分子の微細構造体13と対極に印加する電圧を可変とすることにより、微細構造体13に設けた突起や凹凸等の回折格子の間隔を伸縮させ、回折光の波長特性を可変として外装表面の構造色や反射特性を可変制御できるものである。
又、導電性高分子の薄膜の生成方法は、ピロールやアニリン等のモノマーを適当な溶液に入れて2,3時間攪拌することにより粉末状のポリマーを得ることができ、この粉末を溶剤と一緒にすることによりゲルを生成し、このゲルから導電性高分子膜フィルムを生成するものである。
そして、本実施例の回折格子構造体1によれば、導電性高分子である微細構造体13に微細構造14を形成する構造としたことによって、微細構造14を開口、凹凸、突起、孔、溝、格子等、自由な回折格子形状とすることができ、又、微細構造体13を導電性高分子アクチュエータ10の構成要素とすることにより、余分な部材を排除することができるため、回折格子構造体1を薄く成形することができ、更に、低電圧を印加することで容易に格子定数である微細構造14の周期間隔を連続的に変化させることができ、構造色や反射特性を自由に可変制御できるものである。
次に、図1(c)に示したような、微細構造体13にコの字状或いはU字状の切り欠きを規則的に設けることにより微細な可動片が規則的に配列された微細構造14を有する回折格子構造体1について述べる。微細構造体13の表面は、通常時には可動片が切欠きの内側に収納された状態であり平面形状とされているが、導電性高分子である微細構造体13に陰極電圧を印加すると、可動片は厚さ方向に規制されていないため、図3(a)に示すように、切欠きの内側に位置する可動片が陰極電位側の厚さ方向へと起き上がり、平面形状であった微細構造体13の表面が複数の微細な可動片が立ち上がった微細構造14へと変化し、逆に、微細構造体13に陽極電圧を印加すると、切欠きの内側に位置する微細な膜の陽極電位側が伸張して逆側に折れ曲がるため、微細な開口が並んだ回折格子構造へと変化するものである。
更に、この回折格子構造体1では、図3(a)に示したように、起き上がった可動片の表面端部から表面を延長するように延長線を引き、隣接する可動片の延長線間の距離を周期間隔とすると、微細構造体13に印加する陰極電圧の値を大きくすることにより、周期間隔がd1から、図3(b)に示すように、可動片の起き上がり量が大きくなって周期間隔がd2へと変化して光学的距離が変化するため、波長λの特性を変化させることができ、構造色や干渉光の反射特性を連続的に可変制御できるものである。
この回折格子構造体1によれば、印加電圧によって多層膜干渉による構造色を変化させることができると共に、回折効果の有無及び強弱を制御でき、見る角度によって色が変わりキラキラする回折効果や光沢のON/OFF及び増減を切替えたり、表面状態を平坦や、突起の列や、開口の列に変化させて素材感を変化させたりすることができるものである。よって、色彩だけでなく、光沢や光輝感、素材感、触感も可変制御できるものである。
又、回折格子構造体1の他の構造としては、図4(a)に示すように、両面を金属メッキした2枚の電極層11を平行に対向させて配置し、この2枚の電極層11の間に含水したフッ素系イオン交換膜等のイオン伝導性高分子膜15を密封してイオン伝導性高分子アクチュエータ17を形成し、凹凸等の微細構造14が表面に形成された樹脂膜である微細構造体13をイオン伝導性高分子アクチュエータ17の表面に積層し、微細構造体13が表面に積層されたイオン伝導性高分子アクチュエータ17を電気機器における筐体等の基板5上に接着支持層6を介して載置した構造とすることもできる。
この回折格子構造体1では、2枚の電極層11に電圧を印加すると、図4(b)に示すように、イオン伝導性高分子膜15の陽極側が収縮し陰極側が伸張するため陽極側に湾曲し、樹脂膜である微細構造体13も湾曲して微細構造体13の表面に形成された微細構造14の周期間隔が変化して光学的距離が変化するため、回折格子による構造色が変化するものであり、イオン伝導性高分子膜15に印加する電圧を変えることによって構造色を連続的に可変制御可能とされるものである。
このイオン伝導性高分子膜15を形成するイオン伝導性高分子としては、ICPF(ionic conductive polymer film)と呼ばれ、フッ素系イオン交換樹脂や金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)等の貴金属を使用することができる。
又、このイオン伝導性高分子を使用したイオン伝導性高分子アクチュエータ17は、2枚の電極層11に電圧を印加すると、図5に示すように、イオン伝導性高分子の陽イオンが多量の水分子を伴って膜内を陰電極側に動き、膜の水分量に差ができて膜の陰極側を膨潤させ陽極側を収縮させることにより陽極側へ湾曲し、その後、水分子が圧力に押し戻されてゆっくりと復帰するという動作をするが、間欠的にパルス電圧を印加すると屈曲状態を保持できるものである。尚、このイオン伝導性高分子アクチュエータ17は、高速で瞬時に動作するため、構造色の可変制御も瞬時に行なうことができる。
よって、イオン伝導性高分子アクチュエータ17を使用した回折格子構造体1においては、微細構造体13が積層された電極層11に陰極電圧を印加し、他の電極層11に陽極電圧を印加することにより、微細構造体13が伸張湾曲し、微細構造14の周期間隔を変化させることで光学的距離を変化させることができると共に、傾斜角度を変化させることもでき、よって回折格子による構造色や干渉光の反射特性を可変制御できるものである。
又、この回折格子構造体1を多数連結して配列することにより、湾曲による凹凸の曲面も形成でき、平面状から曲面状の回折格子に切替えて反射光の錯乱角度を広げることで色や光沢を変化させると共に、外装表面の質感や触感も変化させることができるものである。
そして、本実施例における電極層11や固体電解質層12、導電性高分子膜とする微細構造体13といった薄膜層は、蒸着法(EB蒸着等)、イオンプレーティング、スパッタリング、又は、近年の新しい製法である、マイクロコンタクト・プリントやナノ・インプリント等により形成することができる。
このEB(電子線)蒸着等の蒸着法は、膜厚の制御性が高く、成膜速度も速いため、MgF2等のフッ化物等、低屈折率材料の成膜も可能である。
又、RFスパッタ法や、IAD(イオンアシスト蒸着)法等のイオンプレーティングは、従来のEB蒸着が粗な膜になりやすく、水分吸着や光学特性の不良も目立つため、EB蒸着にプラズマを併用したものである。このRFスパッタ法は、基板ドームに高周波を印加することによって発生した自己バイアス現象によってイオンが基板ドームに向かって加速し、スパッタライクで緻密な膜を得ることができる製法であり、IAD法は、イオン銃から加速イオンを基板ドームに打ち付けることで蒸着膜を緻密にできる製法である。そして、これらのイオンプレーティングは、低温でも緻密な膜が生成でき、膜厚の制御性に優れ、成膜速度が速いという特徴があり、スパッタリングと同様、金属材料からの反応を利用した酸化物等の成膜も行えるものである。
更に、スパッタリングは、Ar、O2、N2等のイオンをターゲット材料に照射し、ターゲット材料の構成原子がターゲット表面から放出される現象を利用して成膜する製法であり、電源にはDC電源若しくはRF電源を利用する。このスパッタリングは、最大210×300mm(A4サイズ)程度、標準でも一辺100mm〜300mm程度の大面積な均一成膜が可能であり、低温でも緻密で耐久性の高い膜が成膜できるものであり、高融点材料も含め、略全ての無機材料を成膜できるという特徴がある。
又、マイクロコンタクト・プリントは、型を元にスタンプを作成し、活性分子等のインクを押しつけて印刷し、マスクを作製する技術であり、図6(a)及び図6(b)に示すように、まずフォトリソグラフィー技術等で精密なフォトレジストパターン(原版)401を作り、PDMS(シリコンゴム)等のスタンプ材402をフォトレジストパターン401に押しつけて、図6(c)に示すようなフォトレジストパターン401の型を取ったスタンプ403を作製する。次に、スタンプ403を活性分子溶液のインクにつけた後、図6(d)に示すように、金(Au)等が蒸着された基板405の表面に押しつけて、活性分子406を基板405の表面に転写する。すると、活性分子406は、金等の表面に化学吸着されて、図6(e)に示すように、基板405の表面に安定した自己組織化膜(SAM)407が形成される。その後、このように形成された自己組織化膜407をマスクとして、図6(f)に示すように、微細なエッチング加工等を行なうことができるものである。
更に、ナノ・インプリント技術は、原版をレジストに型押し(インプリント)し、紫外線(UV)を照射して重合させ、熟成やマスクを作製する技術であり、図7(a)に示すように、まず透明な石英等の原版411を用意し、基板412上の平坦化した表面にインプリント用のレジスト413を塗る。そして、図7(b)に示すように、このレジスト413の流体に原版411を押し付け、図7(c)に示すように、透明な原版411の裏から紫外線UVをレジスト413の流体に照射して重合させ、レジスト413の流体が固まった後に、図7(d)に示すように、原版411を基板412から取り外すと、原版411パターンの複製ができ上がるものである。又、図7(e)に示すように、原版411の複製をマスクとして、更に微細なエッチング加工等を行なうこともある。
次に、この回折格子構造体1の構造色を設定する設定データの構成について図8の表に示す。この表は、上述した導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17に印加する電圧値V、或いは、位相差δやnd又はΔnd等の光学特性等に対応する構造色の色コード、RGB値、色度座標等を示す表である。尚、回折による干渉色では、位相差δ=2π(nd/λ)やndを変化させるとき、出現する干渉色の順番がおよそ決まっている。これは、偏光顕微鏡観察で用いるレターデーション(Retardation、光路差)と偏光色の関係と同様であり、電気機器において回折格子構造体1を用いる場合には、干渉色図表等と類似のカラーチャートや色の順序と、位相差δやnd等の光学特性、それに必要な駆動データ等を対応して記憶させたり、設定したりできるようにすることもできる。本実施の形態では、これらの情報を後述する制御回路130に内蔵のROMに記憶している。
そして、上述したような回折格子構造体1を利用した電気機器として、筐体に回折格子構造体1が組み込まれたデジタルカメラ100について述べる。本実施例におけるデジタルカメラ100は、図9に示すように、カメラ筐体101の前方を形成する前ケース102の正面にはフラッシュ111や赤外線センサ112、撮像光学系113等が配置され、更に、撮像光学系113を覆う可動なレンズカバー115が取り付けられ、カメラ筐体101の上面にはシャッターボタン116や電源スイッチ117が配置されているものである。又、図10に示すように、カメラ筐体101の後方を形成する後ケース103の背面には、表示装置121やズームボタン122、方向キー123、メニューボタン124等が配置されているものであり、更に、前ケース102及び後ケース103の表面には、上述した回折格子構造体1が組み込まれ、カメラ筐体101の色や光沢を可変制御されるものである。
このデジタルカメラ100は、図11のブロック図に示すように、制御手段としての制御系、デジタルカメラ100の機能を実行する機能手段としての撮影系や撮影補助系、入力手段とする操作系、表示手段としての表示系、回折格子駆動手段としての外装色系、電源系、画像ファイル記憶系、音声出力系等に分類することができるものであり、撮影モード、再生モード、設定モード等の異なるモードで使用可能なものである。
この制御系のブロックとしては、制御回路130や画像音声CODEC131等があり、この制御回路130は、CPU、各機能を実行するプログラムや回折格子の構造色設定情報等の各種設定データを記憶するROM、各種データを一時的に記憶するRAM等で構成され、各系を制御してデジタルカメラ100の動作を集中的にコントロールし、画像表示制御手段や画像データ保存制御手段、画像調整手段や画像生成手段、データ配列手段等として機能すると共に、外装色を決定する外装色設定手段として機能するものである。尚、外装色を決定するとは、デジタルカメラ100の外装色の色を決定したり光沢を決定したりすることであり、そのために、電気的な可変制御により変化する回折格子構造体1の構造色や反射特性を特定のものに決定することである。
又、画像音声CODEC131は、画像データや音声データのファイルを圧縮し、小容量のデータに変換するものである。更に、電源系としては、電力となるバッテリー等の電池133と、電池133からの電力を制御回路130等に供給する電源回路132とを備えるものである。
又、撮影系としては、撮影レンズ群135と、この撮影レンズ群135を通過した被写体像を2次元の画像信号に変換するCCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子138と、この撮像素子138からの画像信号に対して所要の画像処理を施す信号処理部139と、画像処理後の画像信号を一時的に記憶する画像メモリ141と、撮影レンズ群135のレンズを駆動させることによりフォーカスやズームを実現させるレンズ駆動部142と、撮像素子138を駆動させる撮像素子駆動部143とを備えるものである。
更に、撮影系として、入射光の光軸方向を撮影レンズ群135の光軸方向に変換する変換ミラー145を備え、この変換ミラー145の反射面には上述した回折格子構造体1が取り付けられ、この回折格子構造体1に、回折格子駆動手段を備えるミラー駆動部146が接続されているものである。このように変換ミラー145の表面に回折格子構造体1を組み込むことにより反射特性が可変となるため、ミラー駆動部146が備える回折格子駆動手段で回折格子構造体1を制御することにより、入射光の波長特性を変えたり、明るさを減光したりすることができるものである。
更に、撮影補助系としては、上述したフラッシュ111と、フラッシュ111が有する照明用LEDライトを駆動させるLED駆動回路151と、撮影フラッシュとしての高輝度ライトを駆動させるフラッシュ駆動回路152と、反射面に上述の回折格子構造体1が取り付けられ、照明用LEDライトや高輝度ライトの光を集光するリフレクタ153と、リフレクタ153の反射面に組み込まれた回折格子構造体1を制御する回折格子駆動手段を備えた反射鏡駆動部154と、シャッターボタン116にしたがって駆動するシャッター駆動部155とを備えるものである。そして、反射鏡駆動部154が備える回折格子駆動手段によって、リフレクタ153の反射波長特性(分光反射率)や反射率を変化させ、照明光全体の分光反射率特性や指向方向、ホワイトバランス等を調整することができるものである。
又、操作系としては、カメラ筐体101の各部に設けられた様々な操作ボタン類、すなわち、シャッターボタン116、ズームボタン122、方向キー123、メニューボタン124等の操作入力部158と、この操作入力部158からの操作信号をCPUに入力するための入力回路159と、無線通信によって撮影及び再生を操作するリモコン等の通信装置165と、通信装置165からの信号を受信する受信装置166とを備えるものである。
更に、画像ファイル記憶系としては、メモリインターフェース161と、このメモリインターフェース161に着脱可能に接続されるメモリカード等の外部メモリ162とを備えるものである。又、表示系としては、液晶表示装置等の表示装置121と、CPUから適宜に出力される表示データに従って表示装置121を制御する表示駆動部163とを備えるものである。
又、外装色系としては、前ケース102及び後ケース103の表面に取り付けられた回折格子構造体1と、回折格子構造体1に電圧を印加することにより外装色を変化させる外装色駆動部171を備えるものであり、この外装色駆動部171は、回折格子構造体1を制御する回折格子駆動手段を備えるものである。そして、この回折格子駆動手段は、外装色設定手段(制御回路130)での設定に基づいて回折格子構造体1を駆動することによって、その構造色若しくは反射特性を可変とし、デジタルカメラ100の外装色や光沢を変更することができる。
そして、本実施例のデジタルカメラ100は、起動時のモードに応じて外装色を変化させる機能と、入力手段とする操作入力部158を操作した場合に、操作に応じて外装色を変化させる機能と、ユーザーが選択した色に外装色を変化させる機能と、撮影系等の機能手段が実行した機能に基づいて外装色を変化させる機能と、電源がOFF状態の時に対応する外装色に変化させる機能とを備えているものである。
この起動時のモードに応じて外装色を変化させる場合には、電源がON状態となると、制御回路130(より正確には、制御回路130内のCPU)が現在のモードが撮影モード、再生モード、設定モードのいずれのモードであるかを判定し、判定されたモードと対応する構造色設定情報を内蔵の記憶手段(ROM)から読み込み、この構造色設定情報に対応した駆動信号を外装色駆動部171の回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段が駆動信号に基づいて回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。尚、制御回路130が設定情報に対応した駆動信号を回折格子駆動手段に出力する場合、図8の表に基づいて、構造色設定情報と対応する電圧値等を決定し、この電圧値等の情報を駆動信号として回折格子駆動手段に出力するものである。このように起動時のモードに応じて外装色を変化させることにより、ユーザーは現在のモードを瞬時に知ることができるため、確認操作等の面倒な操作をする必要が無くなる。
又、入力手段とする操作入力部158を操作した場合に、操作に応じて外装色を変化させる場合には、制御回路130が入力された操作と対応する構造色設定情報を内蔵の記憶手段から読み込み、この構造色設定情報に対応する駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段が構造色設定情報に基づいて回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。このように操作入力に応じて外装色を変化させることにより、ユーザーはどのような操作をしたかを判断できると共に、操作入力の度に変化する外装色を楽しむことができる。
更に、ユーザーが選択した色に外装色を変化させる場合には、制御回路130に内蔵の記憶手段(ROM)に予め記憶されている複数の構造色設定情報に基づく構造色選択画面が表示手段よって表示され、この構造色選択画面に表示された情報の中からユーザーが操作入力部158を操作して所定の構造色を選択すると、制御回路130はこの選択された構造色設定情報と対応する駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段がこの駆動信号に基づいて回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。このようにユーザーが自身で外装色を設定できるようにすることで、気分に応じて外装色を自由に変更でき、又、変更した色も深みのあるメタリックな色及び光沢であるため、飽きの来ないデジタルカメラ100とすることができる。
又、撮影系等の機能手段が実行した機能に基づいて外装色を変化させる場合には、機能手段が実行した状態に基づいて制御回路130が記憶手段に予め記憶された対応する構造色設定情報を選択し、この構造色設定情報と対応する駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段がこの駆動信号に基づいて回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。このように、機能に応じて外装色を変化させることにより、実行中の機能がわかりやすく、又、外装色の変化を楽しむことができる。
更に、電源がOFF状態の時に対応する外装色に変化させる場合には、制御回路130が、構造色設定情報の一つとして記憶手段に記憶されている主電源OFF状態時の筐体の基本色情報を読み出し、この読み出した基本色情報に基づいて待機電力により対応する駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段がこの駆動信号に基づいて外装色を変化させることにより、電源がOFF状態時の基本色に変化させることができるものである。このように、電源がOFF状態時でも、基本色を楽しむことができるため、使用しているときに限らず、非使用時においても深みのある色及び光沢を観賞して楽しむことができる。
尚、主電源OFF状態時には、回折格子駆動手段に供給する一切の電力を停止し、回折格子構造体1のデフォルトの構造色に復帰させる構造とすることもできる。このように一切の電力を停止することにより、無駄な電力消費を抑えることができるため電池の寿命を延ばすことができると共に、回折格子構造体1は物理的な構造によって構造色を形成しているため、深みのある色及び光沢を観賞して楽しむことができる。
そして、本実施例におけるデジタルカメラ100によれば、上述した構造色や反射特性が可変とされる回折格子構造体1を前ケース102及び後ケース103の表面に取付け、外装色駆動部171によって回折格子構造体1の微細構造14における光学的距離を電気的に可変制御することにより、回折格子構造による深みのあるメタリックな外観を備えたデジタルカメラ100を提供できると共に、カメラ筐体101の外装色を変化させることができ、よって、飽きの来ない電気機器としてのデジタルカメラ100を提供できる。
又、変換ミラー145の反射面に回折格子構造体1を取り付け、この回折格子構造体1にミラー駆動部146を接続して変換ミラー145の反射特性を可変とすることにより、入射光の波長特性を変えたり、明るさを減光したりすることができ、画像データ上での画像処理等をすることなく物理的に画像の輝度や明度等を変更することができる。
更に、リフレクタ153の反射面に回折格子構造体1を取り付け、この回折格子構造体1と反射鏡駆動部154とを接続し、反射鏡駆動部154によってリフレクタ153の反射面に取り付けられた回折格子構造体1を制御することにより、リフレクタ153の反射波長特性(分光反射率)や反射率を変化させることができ、よって、照明光全体の分光反射率特性や指向方向、ホワイトバランス等を調整することができるものである。
次に、上述したような回折格子構造体1を備えた電気機器としての携帯電話機に関して述べる。携帯電話機200は、通話装置や撮影装置、表示装置と、これらの各種装置を制御する制御手段や記憶手段を内蔵し、上述したデジタルカメラ100と同様に回折格子構造体1を可変制御するための回折格子駆動手段、構造色設定手段等を有した折り畳み式の携帯電話機である。
そして、図12(a)に示すように、内面下方に操作部201が配置され、内面上方には第1表示装置202が組み込まれ、操作部201の周縁には操作部パネル205が配置され、更に、操作部パネル205の周縁は回折格子構造体1が表面に組み込まれた下ケース207によって覆われているものであり、第1表示装置202の周縁は回折格子構造体1が表面に組み込まれた上ケース209によって覆われているものである。
又、携帯電話機200は、図12(b)に示すように、外面の中央やや上方位置に第2表示装置212が組み込まれ、中央やや下方にはカメラレンズ213が取り付けられ、カメラレンズ213の下方は下ケース207によって覆われており、第2表示装置212の周縁には表面に回折格子構造体1が取り付けられた外パネル215が配置され、この外パネル215の周縁は、上ケース209によって覆われているものである。
更に、下ケース207、上ケース209、外パネル215は各々異なる構造色に設定可能とされているものであり、これらのケースの表面に取り付けられた回折格子構造体1は、図13(a)に示すように、小面積の回折格子構造体1が複数個並設されることによってケースの表面を形成しているものであり、白色と着色された回折格子構造体1の密度を変更することで、外装ケースの濃度の調整を行ったり、図13(b)に示すように外装ケースに複数色を混色させたり、図13(c)に示すように、外装ケースに模様を生成したりすることができる。又、図13(d)に示すように、REC(録音)といったような実行されている機能と対応したメッセージを外装ケースに表示したりすることもできる。
次に、このように携帯電話機200の外装色や模様を変更する場合における第1表示装置202の表示画面及び操作について述べる。図14(a)に示すように、メニューの設定画面上には「外装の配色」及び「色のカスタム設定」というタグが形成され、「外装の配色」というタグを選択すると、図14(b)に示すように、例えば「カジュアル」「シック」といった予め設定された配色パターンのタグと、「カスタム設定」といったユーザーが自ら構造色を生成するタグとが表示される。
そして、ユーザーが「カジュアル」や「シック」といった予め配色パターンが設定されたタグを選択した場合には、構造色設定手段が記憶手段に予め記憶された構造色設定情報の中から対応する構造色設定情報を選択し、この構造色設定情報に対応した駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段がこの駆動信号に基づいて回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。
又、ユーザーが「カスタム設定」というタグを選択した場合には、図14(c)に示すように、上ケース209の構造色及び模様、下ケース207の構造色及び模様、外パネル215の構造色及び模様を個々に設定できる画面が表示され、ユーザーが自由に配色パターンを設定できるものである。そして、構造色設定手段は、ユーザーが設定した配色パターンに対応する構造色設定情報に対応する駆動信号を回折格子駆動手段に出力し、回折格子駆動手段がこの駆動信号に基づいて上ケース209、下ケース207、外パネル215に組み込まれた回折格子構造体1の導電性高分子アクチュエータ10若しくはイオン伝導性高分子アクチュエータ17を稼動させることにより外装色を変化させるものである。
又、メニューの設定画面において、ユーザーが「色のカスタム設定」というタグを選択した場合には、図14(d)に示すように、RGBの濃度をユーザーが任意に選択する画面が表示され、予め設定された色だけでなく、ユーザー自らが任意の色を作成できるものである。この色のカスタム設定の場合は、操作部201等の入力手段によりカスタムの構造色設定情報が設定されると、構造色設定手段が入力手段により決定されたカスタムの構造色設定情報に対応する色、又は、RGB値、又は、HSV値、又は、色度座標のいずれかを記憶手段に追加して記憶、或いは、予め記憶されていた情報に上書きして登録することにより、ユーザーが1度設定したカスタムの構造色設定情報を何度も繰り返し設定できることとなり、図14(b)に示した「外装の配色」というタグの中の「カスタム001」「カスタム002」というタグを選択することで、2度目には簡単にカスタムの構造色設定情報を設定できるものである。よって、ユーザーにとって自由に色を作れるという喜びがあると共に、同設定であれば他の機会に利用することもでき、同じカスタム設定を何度も繰り返す必要が無く、使い勝手の良い機能とすることができる。
このような回折格子構造体1が筐体等に組み込まれた携帯電話機200によれば、外装色駆動部の回折格子駆動手段で回折格子構造体1の微細構造14における光学的距離を可変制御することにより、外装色や模様を任意に変化させることができ、且つ、変化した色や模様も深みのあるメタリックな外観となり、高級感があり、且つ、遊び心もある携帯電話機200を提供することができる。又、回折格子構造体1を用いることによって色を連続的に生成することができるため、自由なカスタム色を設定できるものである。
尚、携帯電話機200は、ユーザーの設定によって外装色や模様を可変としているが、タッチセンサを組み込むことによって、機器が手で触れられる毎に外装色や模様が変化する構造とすることや、環境センサを組み込むことによって、周囲の明るさや温度変化等によって外装色や模様が変化する構造とすることもでき、いずれかのセンサが検出した情報に応じて可変にすることにより、新たな嗜好をユーザーに提供できる。
次に、本発明の変形例に係る回折格子構造体1について述べる。本変形例における、回折格子構造体1は、図15に示すように、表面に回折格子構造とされる微細構造14を備えた2枚の微細構造体13(31,32)を基板5上に接着支持層6を介して順に積層されたものであり、この下層微細構造体31及び上層微細構造体32に、図16(a)及び図16(b)に示すように、圧電アクチュエータ35を連結することによって一方の微細構造体13を他方の微細構造体13に対して位置移動、回転移動、傾斜回転等の動作を可能とし、下層微細構造体31及び上層微細構造体32で合成される回折格子の開口や周期間隔をこの各微細構造体13の動作によって増減変化させることで回折により強く反射される構造色や干渉光の反射特性、回折錯乱光の指向特性等を変化させるものである。
この圧電アクチュエータ35は、バルク結晶やセラミックス等の各種圧電アクチュエータを用いることができ、圧電材料としては、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)、マグネシウムニオブ酸チタン酸鉛(PMN-PT)、マグネシウムニオブ酸ジルコン酸チタン酸鉛(PMN−PZT)等の圧電材料や電歪材料、或いは、鉛を含まない圧電材料として、チタン酸バリウム(BaTiO)や、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3:STO)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)等を用いるものである。そして、これらの圧電材料を用いた圧電アクチュエータ35は、駆動力が大きく、変位量は数十μm程度と小さいが、0.01μm(10nm)程度の高精度で駆動でき、10μsec程度と応答性も早く、容量型なので消費電力も少ないため、本変形例における微細構造膜の制御に用いるのに好適である。
又、この圧電アクチュエータ35は、水熱合成法やゾル・ゲル法、CVD法、スパッタ法、レーザーアブレーション法等により、PZTやPLZT等の圧電材料を薄膜に形成することができ、更に、図17(a)に示すようなSTO(チタン酸ストロンチウム)等の基板421上に、図17(b)に示すように、電子ビーム等で所望のレジスト422を作製し、図17(c)及び図17(d)に示すように、このレジスト422にPLZTやチタン酸亜鉛系の圧電材料423のゲルを充填して乾燥させ、図17(e)に示すように、レジスト422部分を除去して乾燥ゲルを焼成し、図17(f)に示すような所望の形状のPLZT結晶を形成する方法を用いて形成することもできる。
そして、圧電アクチュエータ35では、圧電材の分極方向の長さをL、積層数をN、電圧をV、圧電定数をd
33とすると、電界Eを印加したときのL方向の歪量(変位量)ΔLは、(2)式で表される。
よって、(3)式となる。
例えば、PZTではd
33=300〜450pm/V、BaTiO
3ではd
33=約190pm/V、PNN−PZTではd
33=約1200pm/Vである。
本変形例によれば、合成される回折格子の周期間隔を変化させることにより微細構造14における光学的距離や角度等を可変制御できるため、干渉光の波長特性や、回折錯乱光の指向特性を変化させることができるものである。又、微細構造体13としては、樹脂製や金属製だけでなく、有機物、酸化物、無機物等任意の材質で形成して、任意の形状や構成の回折格子、或いは、異なる形状の回折格子を組み合わせて用いることができるため、様々な構成の回折格子構造体1を提供できる。
尚、圧電アクチュエータ35によって微細構造体13を駆動することとしているが、モータ等で駆動することもでき、又、このような電動式の駆動に限らず、手動レバー等により一方の回折格子構造を回転させる構成とすることも可能である。又、2枚の微細構造体13を用いているが、枚数を増やすことも可能であり、枚数を増やすことで多層膜反射による構造色の効果も得られる。
更に、別の変形例として、オパールの遊色を利用した回折格子構造体1について述べる。オパールは、虹色に輝く美しい石であるが産地によって色が異なる。化学的にはSiO
2・nH
2Oで表され、3〜20%の水を含むシリカであり、見る角度を変えると色が変化する「遊色」という現象が見られるものが宝石として扱われる。このオパールは、10nm〜数100nm程度の直径を持つ石英の小球が規則正しく並んでおり、遊色は、この小球の各所で反射した光がお互いに強めあったり弱めあったりする光の干渉によって起こるものであり、強め合う回折光の波長は小球の径によって異なる。シリカ粒子の直径が200nmでは波長474nmの青色の回折光が、直径220nmでは波長521nmの緑色の回折光が、直径300nmでは波長710nmの赤色の回折光が遊色となって現れる。このようなコロイド粒子のコンポジット(コロイド結晶)におけるブラッグ反射の式は、次数(整数)をm、波長をλ、反射面の面間隔をd、コンポジットの有効屈折率をn、視斜角をθ′とすると、(4)式で表される。
本変形例における回折格子構造体1は、このオパールの遊色を利用して可変な構造色を形成するものであり、図18(a)及び図18(b)に示すように、中空の封止容器45と、この封止容器45に注入された溶媒43と、溶媒43内に封入されたオパール構造の微細構造体13と、封止容器45に取付けられた熱源としてのペルチェ素子49と、を備え、封止容器45は、底板46と、底板上に配置され側面を封止する封止材47と、上方を封止する透明な上板48と、から形成されているものである。
又、オパール構造の微細構造体13は、ポリシリコン(PS)やポリスチレン樹脂、金属等の微細粒子41を凝集させて、人工オパール状の3次元規則的配列構造である微細構造14を形成し、シリコン(PDMS)ゲル等の感熱性高分子ゲルの媒質でこの微細構造14を略固定することによって形成され、微細粒子・ゲル複合体であるコロイド結晶とされるものである。更に、溶媒43としては、水、NaCO3、NaCl等の水溶液、塩、電解質、イオン液、界面活性剤等を用いるものである。
そして、この回折格子構造体1は、ペルチェ素子49によって溶媒43を加熱/冷却し、微細構造体13に熱を伝えることによって感熱性高分子ゲルによる膨潤−収縮現象を行なわせ、微細粒子41の間隔や反射面の間隔を変化させ、回折により強め合う干渉光の波長特性を変えることにより構造色を可変とするものである。
このPDMSゲル等の感熱性高分子ゲルは、夫々の高分子が架橋されることにより3次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒43を取込んでいる高分子材料であり、溶媒43の温度変化によって、高分子ゲルが溶媒を湿潤して膨張した状態である膨潤と、溶媒を蒸発や放出して縮んだ状態である収縮との間で可逆的に相転移するものである。尚、溶媒43の組成変化、温度、pH、イオン濃度、電場等の刺激によって、膨潤−収縮現象を行なう感熱性高分子ゲル以外の刺激応答性ゲルを用いることも可能である。
このような高分子ゲルの膨潤−収縮現象は、ゲル内外の圧力差である浸透圧を用いて以下のように説明される。高分子の溶液におけるFlory−Hugginsの方程式から、ゲル中の高分子鎖の体積分率をφ、高分子鎖がランダム形状のときの体積分率をφ0、高分子と溶媒との相互作用の自由エネルギーをΔF、高分子鎖1本当たりの解離している対イオン(イオン基)の数をf、溶媒の液体分子1個の体積をv0、単位体積当たりの高分子数をvとすると、ゲルの浸透圧πは(5)式で表されるように4つの圧力の和で表される。
第1項(π1)は、ゲルを形成する高分子のゴム弾性による浸透圧を表し、高分子鎖は温度が高いと縮む方向に、温度が低いと伸びる方向に働く。
第2項(π2)は、高分子と溶媒の相互作用による浸透圧を表し、高分子と溶媒の相互作用が大きいと、高分子の網目が広がって膨潤し、相互作用が小さいと、高分子同士が凝集して収縮する。高分子が疎水性で溶媒が有機溶媒の場合、又は、高分子が親水性で溶媒が水の場合に、高分子と溶液の相互作用は大きくなる。
第3項(π3)は、イオン化した高分子と溶液中のイオンとの相互作用による圧力で、高分子鎖に沿ってゲル中を動き回っている解離した対イオンによる圧力に相当する。
第4項(π4)は、高分子と溶液との混合エントロピーによる浸透圧を表す。
つまり、ゲルが平衡状態にあるときは浸透圧π=0となり、温度や溶媒組成により決まる自由エネルギーΔF、対イオンの数f等を変化させると、π=0になるまで遷移し、高分子鎖の体積分率φ、すなわち、体積が変化することになる。よって、溶媒の組成(相互作用の大きさ)を変えたときπ2が変化すること、又、温度が変化するとTを含むπ1、π3、π4が変化すること、更に、イオン解離基を持つゲルは、pHが上下することでプラスに帯電した水素イオン(H+)、又は、マイナスに帯電した水酸化物イオン(OH−)の濃度を変化させ、圧力π3が変化すること、又、電解質溶液中で電場を印加すると、対イオンが泳動して分布が変化し、同様に、π3が変化することが解る。
又、ペルチェ素子49は、2つの異なった金属に直流を流すと吸熱と発熱が起こり、電流を逆転させるとその関係が反転するペルチェ効果を有した素子であり、本変形例におけるペルチェ素子49では、ビスマス・テルル(Bi2Te3)やビスマス・アンチモン・テルル化合物(Bi2Sb2Te3)等のp型とn型の熱電材料を一対にしたペルチェ素子を多数個直列接続してセラミック基板や樹脂枠等に実装して、電極を設けたものを用いているものである。このペルチェ素子49を熱源とすることにより、加熱/冷却の両方の機能を一つの熱源によって実行できるため、製造が容易となり、小型化も可能となる。
そして、本変形例では、ペルチェ素子49によって溶媒43の温度を変化させ、微細構造体13における感熱性高分子ゲルの浸透圧を変化させて溶媒43を浸潤/放出させ、これによって微細構造14の周期間隔を変化させているものであり、高分子ゲルの温度を高くすると、図19(a)に示すような収縮状態から溶媒43を浸潤して図19(b)に示すような膨潤状態へと変化し、微細構造14の周期間隔がd1からd2へと広がるものである。一方、高分子ゲルの温度を低くすると、図19(b)に示した膨潤状態から溶媒43を放出して図19(a)に示した収縮状態へと変化し、微細構造14の周期間隔がd2からd1へと縮まるものである。
そして、ポリシリコン等の微細粒子41の規則的配列構造体の間隙に液体が満たされている場合、回折による強め合う反射光の波長は、反射面(111)の面間隔をd(111)(直径Dのa−SiO
2球では、d(111)=D・√(2/3))、回折面の指数を(hkl)、(111)面と(hkl)面の角度をθ、複合体の有効屈折率をN
effとすると、ブラッグ反射の条件である(6)式より求められる。
尚、N
effは、粒子、溶液の各屈折率Nと、各体積Vの比率からN
eff=N
(粒子)・V
(粒子)/(V
(粒子)+V
(溶液))+N
(溶液)・V
(溶液)/(V
(粒子)+V
(溶液))である。
このように微細構造14の周期間隔が変化した場合には、図20に示すように、高分子ゲルが収縮状態の時、つまり、周期間隔が狭いときほど微細構造体13から反射される光の波長が短くなって青色光を反射し、高分子ゲルが膨潤状態に近づくにつれて微細構造体13から反射される光の波長が長くなって緑色、赤色の光を反射するものである。
そして、微細粒子41を凝縮して3次元規則的配列構造体である微細構造14を形成する方法は、自己組織化現象を利用するものであり、具体的には、図21(a)に示す、水15、オルト珪酸エチル15、エタノール70の割合で混合した第一混合溶液51と、図21(b)に示す、水40、エタノール40、アンモニア20の割合で混合した第二混合溶液52とを製造し、第一混合溶液51をかき混ぜながら第二混合溶液52を第一混合溶液51にゆっくりと加えていくと白濁し始めるので、1時間程ゆっくりかき混ぜ、図21(c)に示すように、白濁した溶液53をシャーレに注ぎ、図21(d)に示すように、1月ほど密閉状態で安置して沈殿させると、図21(e)に示すように、シャーレの底にシリカ粒子が規則的に配列された3次元規則的配列構造体が形成されるものである。
本変形例における回折格子構造体1によれば、微細構造14の周期間隔を高分子ゲルに対する刺激を加えることにより制御し、微細構造14における光学的距離を可変制御することにより、オパールのように虹色に輝く光沢を備えた構造色及び干渉光の反射特性を可変制御でき、この回折格子構造体1を電気機器の外装材に組み込み回折格子駆動手段によって高分子ゲルに対する刺激を可変制御することで、外装が宝石のような輝きを放つ電気機器を提供できると共に、構造色を可変制御できる電気機器を提供できるものである。
尚、本変形例における回折格子構造体1の高分子ゲルとしては、PDMSゲルの他に、ポリビニルメチルエーテル(PVME)ゲル、ポリN−置換アクリルアミドのゲル、メチルセルロースゲル、ポリ酢酸ビニルゲル等の感熱性高分子のゲルや、その他の刺激応答性ゲル、ハイドロゲル等を用いることができるものである。このような高分子ゲルを用いることにより、微細構造14を熱や刺激によって容易に制御でき、又、製造も容易で近年問題となっている環境破壊に繋がることもない。
又、高分子ゲルを加熱/吸熱するためにペルチェ素子49を用いているが、ヒーターや薄膜状の発熱抵抗体を用いることもでき、このヒーターや薄膜状の発熱抵抗体としては、窒化タンタル(TaN)、ニクロム合金(Ni−Cr)、銀−パラジウム合金(Af・Pd)、シリコン(Si)等、或いは、ホウ化ハフニウム(HfB2)、ホウ化ニオブ(NbB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、ホウ化チタン(TiB2)等、各種金属のホウ化物があり、電子ビーム蒸着やスパッタリングにより、約0.01〜数μm程度の厚さで発熱体薄膜を形成して用いるものである。
更に、他の変形例に係る回折格子構造体1として、電場応答性高分子ゲルを用いて反転オパール構造の規則的配列構造体を形成したものを用いることができる。本変形例の回折格子構造体1は、図22に示すように、上述したオパール構造を利用した回折格子構造体1と同様に、中空の封止容器45と、この封止容器45に注入された溶媒43と、溶媒43内に封入された反転オパール構造の微細構造体13と、を備えるものであり、更に、封止容器45の底板46及び上板48と封止材47の間に透明電極54が配置され、底板46上に位置する透明電極54上にゲル電極複合体膜64が積層され、このゲル電極複合体膜64上に微細構造体13が配置されているものである。
又、反転オパール構造の微細構造体13は、電場応答性高分子ゲルによって形成され、細孔63が規則的に配置された規則的配列構造の微細構造14であり、透明電極54から電圧を印加すると、高分子ゲルの電場応答性によって膨潤−収縮現象が起こり、微細構造体13の体積が変化し、微細構造14の周期間隔や反射面の間隔、又は、細孔63の径が変化することで光学的距離が変化し構造色や干渉光の反射特性が変化するものであり、電圧を制御することによって構造色や干渉光の反射特性を可変制御可能とされるものである。
又、反転オパール構造の微細構造体13を形成する高分子ゲルとしては、電場応答性高分子ゲルを用いるものであり、具体的には、ポリアクリルアミド・ジメチルプロパンスルホン酸(PAMPS)ゲル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とアクリルアミド(AAm)の共重合体ゲル、ポリビニルアルコール(PVA)−ポリアクリル酸(PAA)ゲル、ポリメタクリル酸ゲル、ポリスチレンスルホン酸(PSS)ゲル、アクリルアミド(AAm)−アクリル酸(AA)共重合体ゲル、フッ素系高分子ゲル等、又は、その他の高分子電界質ゲル、イオン化ゲル、電場応答性ゲル、ハイドロゲル等を用いるものである。このような高分子ゲルを用いることにより、微細構造14を微細な電圧を印加することで直接制御でき、又、製造も容易で近年問題となっている環境破壊に繋がることもない。
更に、溶媒43としては、水、NaCO3、NaCl等の水溶液、塩、電解質、イオン液、界面活性剤等を用いるものであり、透明電極54としては、金属膜や導電性を有した高分子ゲル、カーボンナノチューブと導電性を有したゲル・電極の複合体等を用いるものである。
そして、この反転オパール構造の微細構造体13の製造方法は、図23(a)に示すような上述した微細粒子41を凝縮させた3次元規則的配列構造体を、図23(b)に示すように、容器等に挿入し、所望の樹脂や高分子、有機物等を浸透させて固化させた後、図23(c)に示すように、シリカ粒子や樹脂粒子等の微細粒子41の部分を、シリカのみを溶かすフッ酸や、樹脂のみを溶かす有機溶媒等で取り除き、洗浄すると、微細粒子41があった部分が空隙となり、多数の穴が空いた微細構造14を有する反転オパール構造の樹脂や高分子の構造体ができる。そして、これをゲル化することにより、図23(d)に示すような微細構造体13が生成されるものである。
本実施例の回折格子構造体1によれば、高分子ゲルの電場応答性を利用して微細構造14の周期間隔や反射面の間隔、又は、細孔63の径を変化させることで微細構造14における光学的距離を変化させることにより、構造色や干渉光の反射特性を変化させることができ、オパール構造による構造色と同様の可変制御可能な構造色を得ることができるため、この回折格子構造体1を電気機器の外装材に組み込み回折格子駆動手段によって高分子ゲルに対する刺激を可変制御することで、外装が宝石のような輝きを有し、しかも、構造色を可変制御できる電気機器を提供できる。
尚、反転オパール構造の微細構造体13として電場応答性ゲルを使用しているが、液晶分子の配向変化や液晶相転移により体積変化する液晶と高分子ゲルのハイブリッドゲルを使用することもできる。又、反転オパール構造の微細構造体13として、電場の印加によりレオロジー特性(粘性や弾性、塑性)が変わる電気−粘性効果(ER効果、Electoro−Rheology Effect)を生じる電気粘性流体(ER流体)や、ER流体をゲル化した電気粘性ゲル(ERG)、或いは、高い電場の印加により、弾性が変化する液晶性高分子等を用いることもできる。
更に、回折格子構造体1は、反転オパール構造の微細構造体13として、磁場の印加によって膨張/収縮する磁性ゲルを用い、電磁コイル等で磁界を印加する構造とすることもできる。この磁性ゲルは、高分子網目の隙間に磁性流体(Magenetic Fluids)や強磁性微粒子を含ませると、磁場の印加により膨張又は収縮することで生成できるものである。具体的には、オレイン酸で被覆された磁性流体を、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液、又は、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液と混合してゲル化させると、磁性ゲルを得ることができ、PVA水溶液でゲル化した磁性ゲルは、磁場を印加すると磁場方向に伸張する特徴があり、DMSO溶液でゲル化した磁性ゲルは、磁場を印加すると磁場方向に収縮する特徴があるため、これらの特徴を利用して構造色を可変制御することができる。
又、他の回折格子構造体1として反転オパール構造の微細構造体13の代りに、図24に示すように、円筒形状の縦穴69が規則的に配列された微細構造14を有する電場応答性高分子ゲルによって形成される多孔質ポーラス構造の微細構造体13を用いることもできる。この多孔質ポーラス構造の微細構造体13を用いた回折格子構造体1は、透明電極54から電圧を印加すると、高分子ゲルの電場応答性によって膨潤−収縮現象が起こり、微細構造体13の体積が変化し、微細構造14の周期間隔や反射面の間隔、又は、縦穴69の径が変化することにより光学的距離が変化し、構造色や干渉光の反射特性が変化するものであり、電圧を制御することによって構造色や干渉光の反射特性が可変制御可能とされるものである。
このポーラス構造の微細構造体13の製造方法は、ポーラス構造のアルミナ等を型として生成するものであり、図25(a)に示すように、アルミニウム基板71を予め硫酸、シュウ酸、リン酸等の電解液に浸漬し、規則的な突起を備えた炭化ケイ素板72等の型でインプリントして、図25(b)に示すように、アルミニウム基板71に規則的な凹部を形成し、図25(c)に示すように、電流を流して陽極酸化法により深く穿孔すると、内面に酸化膜ができ、多孔質のポーラスアルミナ73が生成できる。そして、このように生成した多孔質のポーラスアルミナ73をスタンプやインプリントの型として用いて、図25(d)に示すような、電場応答性高分子ゲルによって形成された多孔質ポーラス構造の微細構造体13が製造されるものである。
このポーラス構造の微細構造体13を用いた回折格子構造体1によれば、反転オパール構造の微細構造体13を用いた場合と同様に、高分子ゲルの電場応答性を利用して微細構造14の周期間隔や反射面の間隔、又は、縦穴69の径を可変させることで干渉光の反射特性を変化させることにより、構造色を連続的に可変制御でき、この回折格子構造体1を外装材に組み込むことにより、外装が宝石のような輝きを有し、しかも、色を可変制御できる電気機器を提供できる。
更に、別の変形例としての回折格子構造体1は、図26に示すように、上述したオパール構造や反転オパール構造の微細構造体13と同様に、中空の封止容器45と、この封止容器45に注入された液晶83と、液晶83内に封入されたオパール構造の微細構造14を有する微細構造体13と、を備え、更に、封止容器45の底板46及び上板48と封止材47の間に透明電極54が配置され、各透明電極54と封止材47の間には配向板82が配置されているものであり、液晶83に印加する電圧を可変とすることにより、液晶83の屈折率を変化させることにより光学的距離を変化させ、オパール構造の微細構造14を有する微細構造体13による回折光等の反射特性を変化させるものである。
この液晶83としては、MBBA、APAPA、5CB、BL−800等のネマチック液晶や、コレスチック液晶等を用いることができ、液晶以外の屈折率異方性の媒質や、電圧により屈折率が変化する液体やゲル状の媒質を封入することも可能である。
そして、BL−008等のネマチック液晶における液晶層の電圧−屈折率特性は、図27に示すように、屈折率の異方性(複屈折性)があり、常光の屈折率はn0=1.53、異常光の屈折率はne=1.80と、偏光方向により屈折率が異なる。つまり、液晶分子の光軸に垂直な偏光方向の常光の屈折率は一定だが、平行な偏光方向の異常光の屈折率は、両端電圧を0V〜6V程度に変化させると、液晶分子の配向方向が変化して液晶の屈折率はn=1.80〜1.53の間で変化するものである。又、コレスチック液晶では、電圧を印加すると、螺旋状に回転した向きに配向されていた液晶層の螺旋のピッチが変化するものである。
よって、本変形例の回折格子構造体1では、液晶83に電圧を印加して液晶83の屈折率を変化させることにより、微細構造14に照射される光線束が透過する部材である溶媒の屈折率が変化し、光学的距離が変化するため、微細構造体13からの構造色や回折光の反射特性を可変制御することができるものである。
本変形例に係る回折格子構造体1によれば、微細構造体13として微細粒子41の3次元規則的配列構造体を形成し、その空隙や周縁に液晶等を封入することにより、回折格子によって見る方向で色が変わる回折効果や遊色効果が得られると共に、液晶に印加する電圧を可変として、構造色や干渉光の反射特性を可変制御することとしたため、電圧印加のみで構造色や干渉光の反射特性を可変制御することができる。よって、この回折格子構造体1を電気機器の外装材に組み込み回折格子駆動手段によって液晶83に印加する電圧を制御することにより、電圧印加のみで外装色や光沢を可変制御でき、ユーザーが新たな嗜好を味わうことができる電気機器を提供できる。
又、液晶83としてネマチック液晶やコレスチック液晶等を用いることにより、一般の液晶表示素子(LCD)のように変更方向のスイッチングのための偏光板等も不要なため、反射光が明るく、且つ、所定の波長帯域の反射率を高くして金属光沢を得ることもできる。
尚、回折格子としてオパール構造の微細構造体13を用いているが、上述した反転オパール構造や多孔質ポーラス構造の微細構造体13を用いることもでき、更に、可視光の波長をλ0とするとλ0/2波長の整数倍程度の周期間隔であって略規則的で周期的な配列の微細構造体13であれば他の微細構造体13を用いることができる。又、感熱性高分子ゲルや電場応答性高分子ゲル等の材質に限定されるものでなく、各種の樹脂や有機物、無機物、酸化物、金属等、各種材質で、任意の形状の微細構造体13を用いることができ、このように任意の材質で任意の形状の微細構造体13を用いることにより、高分子ゲルや電極との接触性や相性等を考慮する必要が無くなり、自由な構成とできるものである。
更に、上述した実施例及び変形例において電気機器としてデジタルカメラ及び携帯電話機について述べているが、これらの電気機器に限られるわけでなく、全ての電気機器において利用することができる。又、本発明は、以上の実施例に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で自由に変更、改良が可能である。