以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態(発明を実施するための最良の形態)を具体的に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、内燃機関システムSは、エンジン1(内燃機関)と、エンジン1に付設された種々のアクチュエータと、種々のセンサと、これらのセンサからの信号に基づいて各アクチュエータを制御するエンジン制御ユニット100(制御器)とを備えている。
エンジン1は、例えば、ガソリン、エタノール、LPG又は水素等を燃料とする火花点火式の4サイクル4気筒エンジンであって、図示していないが、第1〜第4の4つの気筒11(シリンダ)を有する。なお、本発明において、エンジン1は4気筒エンジンに限定されるものではなく、いかなる数の気筒を有するものであってもよい。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、そのクランクシャフト14は、変速機(図示せず)を介して駆動輪(図示せず)に連結され、車両を推進する。エンジン1の幾何学的圧縮比は13以上であるのが好ましく、14以上かつ16以下であるのがとくに好ましい。
エンジン1は、その幾何学的圧縮比が大きいほど膨張比が大きくなり、機関効率は高くなる。そこで、このエンジン1では、幾何学的圧縮比を13以上に設定し、点火時期のリタード等によりノッキングの発生を回避しつつ高トルクと燃費の大幅な低減とを図るようにしている。また、幾何学的圧縮比が高いほどプリイグニッションやノッキングなどの異常燃焼が発生する可能性が高くなるので、有効圧縮比を小さくして充填効率を低下させることも必要である。しかしながら、有効圧縮比を小さくすると、気筒11の単位容積当たりの出力が低下し、内燃機関システムSの重量比で見たときの効率は低下する。さらに、エンジン1を車両に搭載する際に、エンジンルーム内でのレイアウト性ないしは搭載性に問題が生じる。このような諸般の事情を考慮すれば、幾何学的圧縮比の上限は16とするのが好ましい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に配置されたシリンダヘッド13とを備えており、これらの内部に4つの気筒11が形成されている。シリンダブロック12内には、クランクシャフト14が回転自在に支持されている。クランクシャフト14は、各気筒11のピストン15に、それぞれのコネクティングロッド16等からなる連結機構を介して連結されている。
各気筒11において、ピストン15は該気筒11内に摺動自在に嵌挿され、燃焼室17を画成している。シリンダヘッド13には、吸気ポート18及び排気ポート19が気筒11毎に2つずつ(図1中では1つずつ図示)形成されている。両ポート18、19は、それぞれ燃焼室17と連通している。吸気ポート18及び排気ポート19に対して、それぞれ、これらのポート18、19と燃焼室17との間の連通部を遮断又は遮閉することができる吸気弁21及び排気弁22が配設されている。吸気弁21及び排気弁22は、それぞれ、吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40により駆動され、所定のタイミングで往復動作を行って、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30は吸気カムシャフト31を有し、他方排気弁駆動機構40は排気カムシャフト41を有している。両カムシャフト31、41は、それぞれ、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介して、クランクシャフト14によって回転駆動される。このエンジン1の動力伝達機構は、クランクシャフト14が2回転する間に両カムシャフト31、41が1回転するように構成されている。吸気カムシャフト31の位相角は、カム位相センサ70によって検出され、その検出信号θVVT Aがエンジン制御ユニット100に入力される。また、吸気弁21のリフト量θVVL Aもエンジン制御ユニット100に入力される。
点火プラグ51は、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火システム52は、エンジン制御ユニット100からの制御信号SAを受けて、点火プラグ51に、所望の点火タイミングで火花が発生するよう通電する。燃料噴射弁53は、シリンダヘッド13の一方の側面(吸気側)に取り付けられている。燃料噴射弁53の先端部は、上下方向に関して2つの吸気ポート18の下方に位置する一方、水平方向に関して2つの吸気ポート18の中間部に位置し、その噴射孔は燃焼室17内に臨んでいる。
燃料供給システム54は、図示していないが、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプと、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプに供給する配管及びホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路とを備えている。この電気回路は、エンジン制御ユニット100からの制御信号FPを受けて燃料噴射弁53のソレノイドを作動させ、所定のタイミングで燃料噴射弁53に所定量の燃料を噴射させる。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気通路55bを介して、吸入空気(燃料燃焼用の空気)の流れを安定させるサージタンク55aに接続されている。エアクリーナ(図示せず)からの吸入空気は、スロットルボデー56を通ってサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56内にはスロットル弁57が配置されている。スロットル弁57は、サージタンク55aに向かう吸入空気を絞ってその流量を制御又は調整する。スロットルアクチュエータ58は、エンジン制御ユニット100からの制御信号TVOを受けて、スロットル弁57の開度を制御又は調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気通路を介して排気管内の排気通路と連通している。排気マニホールド60よりも下流側の排気通路には、1つ又は複数の触媒コンバータ61を有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータ61には、三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等の排気ガス浄化触媒が用いられている。なお、排気ガス浄化の目的に合致するものであれば、これらの触媒以外のいかなるタイプの触媒を用いてもよい。
吸気マニホールド55と排気マニホールド60とは、EGRパイプ62を介して互いに連通し、これにより排気ガスの一部がEGRガスとして吸気系に還流させられる。EGRパイプ62には、該EGRパイプ62を通って吸気系に還流するEGRガスの流量を制御又は調整するためのEGRバルブ63が設けられている。EGRバルブ63は、EGRバルブアクチュエータ64によって駆動される。EGRバルブアクチュエータ64は、EGRバルブ63の開度が、エンジン制御ユニット100によって算出されたEGR開度EGROPENとなるようにEGRバルブ63を駆動する。これにより、EGRガスの流量が適切に制御又は調整される。
エンジン制御ユニット100は、コンピュータ又はマイクロコンピュータを備えた内燃機関システムSないしはエンジン1の総合的な制御器であって、プログラムに従って演算等の処理を実行する中央処理装置(CPU)と、RAM及びROM等を有しプログラム及びデータを格納するメモリと、エンジン制御ユニット100への電気信号の入出力経路となる入出力バス(I/Oバス)とを備えている。
エンジン制御ユニット100には、制御情報として、カム位相センサ70によって検出される吸気カムシャフト31のバルブ位相角θVVT A、吸気弁21のリフト量θVVL A、エアフローセンサ71によって検出される吸入空気流量AF、吸気圧センサ72によって検出される吸気マニホールド圧MAP(吸気圧)、クランク角センサ73によって検出されるクランク角パルス信号等の各種信号が入力される。
そして、エンジン制御ユニット100は、例えば、クランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転速度NENGを算出する。さらに、エンジン制御ユニット100には、酸素濃度センサ74(例えば、リニア酸素濃度センサ)によって検出される排気ガスの酸素濃度EGO(ひいては空燃比)と、アクセルペダル69の踏み込み量すなわちアクセル開度を検出するアクセル開度センサ75から出力されるアクセル制御信号αと、変速機の出力軸(図示せず)の回転速度ひいては車速を検出する車速センサ76から出力される車速信号VSPとが入力される。
エンジン制御ユニット100は、これに入力された上記種々の制御情報に基づいて、エンジン1の種々の制御パラメータを算出する。例えば、適切なスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火タイミングSA、バルブ位相角θVVT、バルブリフト量θVVL等を算出する。そして、これらの制御パラメータに基づいて、これらに対応する制御信号として、スロットル制御信号TVO、燃料噴射パルス信号FP、点火パルス信号SA、バルブ位相角信号θVVT、バルブリフト量信号θVVL等を、それぞれ、スロットルアクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、吸気カムシャフト31の位相可変機構32、リフト量可変機構33等に出力する。
次に、図2及び図3(a)〜(d)を参照しつつ、吸気弁駆動機構30を詳細に説明する。図2は、図1に示す内燃機関システムSのエンジン1の吸気弁駆動機構30の具体的な構成を示す斜視図である。また、図3(a)〜(d)は、それぞれ、図2に示す吸気弁駆動機構30の要部を示す断面図である。なお、図3(a)は大リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が0の状態を示し、図3(b)は大リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が最大の状態を示し、図3(c)は小リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が0の状態を示し、図3(d)は小リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が最大の状態を示している。
図2及び図3(a)〜(d)に示すように、吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の変位特性を調整する変位調整機構を備えている。この変位調整機構は、クランクシャフト14に対する吸気カムシャフト31の回転位相を変更することができる位相可変機構32(以下「VVT機構32」という。)と、吸気弁21のリフト量(バルブリフト量)を連続的に変更することができるリフト量可変機構33(以下「VVL機構33」という。)とで構成されている。VVT機構32は、チェーンドライブ機構によってクランクシャフト14に駆動連結されている。チェーンドライブ機構は、図示していないが、ドリブンスプロケット104の他に、クランクシャフト14のドライブスプロケットと、これらの両スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備えている。
VVT機構32は、ドリブンスプロケット104に固定され該ドリブンスプロケット104と一体回転するケースと、このケースに収容されるとともにインナシャフト105に固定され該インナシャフト105と一体回転するロータとを有している。詳しくは図示していないが、ケースとロータとの間に複数の液圧室が設けられ、これらの液圧室は中心軸Xのまわりに、周方向に並んで形成されている。そして、ポンプにより加圧された液体(例えば、エンジンオイル)が各液圧室に選択的に供給され、互いに対向する液圧室の間に圧力差が形成される。なお、このVVT機構32は液圧式であるが、電磁式又は機械式のVVT機構を用いてもよい。
エンジン制御ユニット100はVVT機構32の電磁バルブ32aにバルブ位相角信号θVVT(制御信号)を出力し、電磁バルブ32aはこのバルブ位相角信号θVVTを受けて液圧のデューティ制御を行い、液圧室に供給する液体の流量、圧力等を制御又は調整する。かくして、ドリブンスプロケット104とインナシャフト105との間の実際の位相差が変更され、これによりインナシャフト105の所望の回転位相が達成される。なお、エンジン制御ユニット100と別体の、VVT機構32を制御するためのVVT制御ユニットを設けてもよい。
VVL機構33は、各気筒11に対応してインナシャフト105に設けられたディスク形状の偏心カム106を有している。これらの偏心カム106は、インナシャフト105の軸芯に対して偏心して設けられ、VVT機構32により決定される位相で回転する。この偏心カム106の外周には、リング状アーム107が回転自在に嵌合されている。ここで、インナシャフト105がその中心軸Xのまわりに回転すると、リング状アーム107は、中心軸Xのまわりを公転しながら、偏心カム106の中心のまわりで回動する。
また、インナシャフト105には、気筒11毎にロッカーコネクタ110が配設されている。ロッカーコネクタ110は円筒状であり、インナシャフト105に外挿されて同軸に軸支されている。換言すれば、ロッカーコネクタ110は、その中心軸Xのまわりに回動可能に支持される一方、該ロッカーコネクタ110の外周面はベアリングジャーナルとされ、シリンダヘッド13に配設されたベアリングキャップ(図示せず)によって回転可能に支持されている。
ロッカーコネクタ110には、第1及び第2のロッカーカム111、112が一体的に設けられている。両ロッカーカム111、112の構成は同一であるので、図3(a)〜(d)では、第1のロッカーカム111のみを示し、第2のロッカーカム112の図示は省略している。第1のロッカーカム111は、カム面111aと円周状のベース面111bとを有し(図3(d)参照)、カム面111a及びベース面111bは、いずれもタペット115の上面に摺接するようになっている。第1のロッカーカム111は、連続的には回転せず、揺動運動することを除いては、一般的な吸気弁駆動機構のカムと同様にタペット115を押圧して吸気弁21を開くものである。タペット115は、バルブスプリング116によって支持されている。バルブスプリング116は、2つの保持器117、118(図3(b)参照)の間に支持されている。
インナシャフト105とロッカーコネクタ110と両ロッカーカム111、112とからなる組立体と並行して、該組立体の上方に、コントロールシャフト120が配設されている。このコントロールシャフト120は、ベアリング(図示せず)によって回転可能に支持され、その長手方向の中央付近には、外周面から突出する同軸状のウォームギヤ121が一体的に設けられている。
ウォームギヤ121はウォーム122と噛み合っている。このウォーム122は、VVL機構33のアクチュエータであるステッピングモータ123の出力軸に固定されている。このため、エンジン制御ユニット100からリフト量信号θVVL)(制御信号)を受けたステッピングモータ123の作動により、コントロールシャフト120を所望の位置に回動させることができる。このように回動されるコントロールシャフト120には、気筒11毎のコントロールアーム131が取り付けられ、これらコントロールアーム131は、コントロールシャフト120の回動に伴って一体的に回動させられる。
また、コントロールアーム131は、コントロールリンク132を介してリング状アーム107に連結されている。すなわち、コントロールリンク132の一方の端部は、コントロールピボット133によってコントロールアーム131の先端部に回転自在に連結されている。また、コントロールリンク132の他方の端部は、コモンピボット134によって、リング状アーム107に回転自在に連結されている。
ここで、コモンピボット134は、前記のとおりコントロールリンク132の前記他方の端部をリング状アーム107に連結するとともに、このリング状アーム107を貫通してこれをロッカーリンク135の一方の端部にも回転自在に連結している。そして、ロッカーリンク135の他方の端部は、ロッカーピボット136によって第1のロッカーカム111に回転自在に連結されている。これにより、リング状アーム107の回転がロッカーカム111に伝達される。
具体的には、インナシャフト105が回転して、これと一体に偏心カム106が回転するときに、図3(a)、(c)に示すように偏心カム106が下側に位置すれば、リング状アーム107も下側に位置する。他方、図3(b)、(d)に示すように、偏心カム106が上側に位置すれば、リング状アーム107も上側に位置する。その際、リング状アーム107とコントロールリンク132とを連結するコモンピボット134の位置は、コントロールピボット133の位置と、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心位置との、3者相互の位置関係によって決定される。したがって、コントロールピボット133の位置が変化しない場合、すなわちコントロールシャフト120が回動しない場合は、コモンピボット134は、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心のまわりの回転のみに対応して、おおむね上下に往復動作を行う。
このようなコモンピボット134の往復動作は、ロッカーリンク135によって第1のロッカーカム111に伝達される。これにより、第1のロッカーカム111は、ロッカーコネクタ110で連結された第2のロッカーカム112とともに、中心軸Xのまわりに揺動する。かくして、揺動するロッカーカム111は、図3(b)、(c)に示すように、カム面111aがタペット115の上面に接触する間は、このタペット115をバルブスプリング116のばね力に抗して押し下げる。これにより、タペット115が吸気弁21を押し下げ、その結果吸気ポート18が開かれる。
他方、図3(a)、(c)に示すように、ロッカーカム111のベース面111bがタペット115の上面に接触する場合、タペット115は押し下げられない。これは、中心軸Xを中心とするロッカーカム111のベース面111bの半径が、その中心軸Xとタペット115の上面との間隔以下に設定されているからである。このようなコントロールピボット133と、コモンピボット134と、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心との間の相互の位置関係において、コントロールピボット133の位置が変化すれば、これにより3者相互の位置関係に変化が生じ、コモンピボット134は前記とは異なる軌跡を描いて往復動作を行うようになる。
したがって、ステッピングモータ123の作動によりコントロールシャフト120及びコントロールアーム131を回転させて、コントロールピボット133の位置を変えることにより、両ロッカーカム111、112の揺動範囲を変更することができる。例えば、コントロールアーム131を、図3における位置関係において時計回りに回動させ、コントロールピボット133を図3(a)に示す位置から図3(c)に示すように左斜め上側にずらせると、ロッカーカム111の揺動範囲は、相対的にベース面111bがタペット115の上面に接触する傾向の強いものとなる。
図4は、内燃機関システムSないしはエンジン1の吸気弁駆動機構30における吸気弁21の変位特性ないしは動作特性(吸気弁21のリフト量及び開閉タイミング)の設定例を示す図である。図4に示すように、吸気弁駆動機構30及びこれに関連する各部品により、吸気弁21のリフト量θVVLは、例えばθVVL minからθVVL maxまでの範囲で、目標気筒空気量(各気筒11に充填される空気量の目標値)の増加に応じて増加するように制御される。他方、吸気弁21の閉弁タイミングθVVTは、リフト量θVVLの増加に応じてθVVT minからθVVT maxの範囲で遅角させられる。具体的には、この内燃機関システムSでは、例えばエンジン回転速度NENGが1500rpmの場合、吸気行程において吸気弁21を開閉する際、吸気弁21の開弁タイミングについては、ほとんどの運転領域で排気上死点直前から開弁を開始し、要求トルクに応じて閉弁タイミングを変更するようにしている。
また、この内燃機関システムSでは、吸気弁21の閉弁タイミングに関して、早閉じ運転モードMEIVC(第1モード)と遅閉じ運転モードMLIVC(第2モード)とを設けている。ここで、早閉じ運転モードMEIVCは、気筒空気量(気筒に充填される空気量)が少ない低負荷時に選択されるモードであり、遅閉じ運転モードMLIVCは、気筒空気量が多い高負荷時に選択されるモードである。早閉じ運転モードMEIVCでは、時々刻々のエンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stで吸気弁21が閉じられる。他方、遅閉じ運転モードMLIVCでは、エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる閉弁タイミングよりも遅角側に閉弁タイミングが設定され、かつ、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じられる。
図4から明らかなとおり、遅閉じ運転モードMLIVCが設定される第2閉弁タイミング範囲IVC2ndは、早閉じ運転モードが設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stよりも遅角し、かつ離間している。したがって、両閉弁タイミング範囲IVC1st、IVC2nd間には、定常運転時であれば吸気弁21が閉じることのない中間閉弁タイミング範囲(異常燃焼懸念範囲)IVCIMが存在する。この中間閉弁タイミング範囲IVCIMの中の下死点BDC付近に、充填効率が最大となる吸気弁21の閉弁タイミングが存在する。
なお、このような運転モードを設定する理由は、およそ次のとおりである。すなわち、吸気弁21を早閉じにした場合、図3(c)、(d)から明らかなように、ロッカーカム111の揺動量は小さくなり、バルブスプリング116の抵抗も小さくなるので、このような運転は低負荷側では好ましい。しかし、要求負荷の増加に伴って吸気弁21の閉弁タイミングを吸気下死点付近まで遅角させると、高圧縮比のエンジン1ではプリイグニション、ノッキング等の異常燃焼が生じる可能性が高まる。また、異常燃焼が懸念される運転領域を単純に回避して吸気弁21を早閉じにした場合、要求負荷が高いときには気筒空気量を確保することができず、必要な出力を得ることができない。
他方、吸気弁21を遅閉じにした場合、ピストン15が下死点に移動するまで気筒11内に空気を導入することができるので、有効圧縮比が低くなるところで吸気弁21を閉じても充分な気筒空気量を確保することができる。他面、図3(a)、(b)から明らかなように、低速低負荷時の目標気筒空気量が小さい運転領域では、吸気弁21のリフト量ないしはリフト範囲を最大値近傍まで大きく設定する必要があるので、機械的損失が大きくなるなどといった不具合が生じる。
このため、この内燃機関システムSでは、連続的な運転領域で可及的に膨張比を高めつつ、異常燃焼を回避するとともに、ポンプ損失の低減、目標気筒空気量が小さい運転領域での機械的損失の低減、目標気筒空気量が大きい運転領域での出力確保等を図るため、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとを設定している。また、早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCへの移行、あるいは遅閉じ運転モードMLIVCから早閉じ運転モードMEIVCへの移行が行われるときには、吸気弁21の閉弁タイミングが中間閉弁タイミング範囲IVCIMを通る。そこで、後で詳しく説明するように、このときには一時的に吸気圧力を低くすることにより空気過剰になる傾向を抑制するとともに、吸気弁21のリフト量をエンジン1の運転状態ないしは外界条件に応じて変更するようにしている。
図5は、運転モードを設定するための運転領域の例を示す特性図である。図5に示すように、この内燃機関システムSでは、高負荷側の特性L1より高負荷側である運転領域RLIVCでは遅閉じ運転モードMLIVCが設定され、低負荷側の特性L2より低負荷側である運転領域REIVCでは、早閉じ運転モードMEIVCが設定される。図5中において、特性L1と特性L2の間の運転領域RTRは、ヒステリシスを設けて運転モードの切換に用いられる領域である。このため、運転領域REIVCから要求負荷が高くなっても、特性L1を越えるまでは、運転モードは早閉じ運転モードMEIVCが維持される。他方、運転領域RLIVCから要求負荷が低くなっても、特性L2を越えるまでは、運転モードは運転領域RLIVCが維持される。
図6(a)、(b)は、それぞれ、運転モードが早閉じ運転モードMEIVCである場合における、吸気弁21の閉弁タイミングIVC及びスロットル開度TVOの制御例を示している。すなわち、早閉じ運転モードMEIVCの場合の吸気弁21の閉弁タイミングIVCの制御としては、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの範囲内で、図6(a)に示すように、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。また、目標気筒空気量が増加するほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。その結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合は、吸気弁21の閉弁タイミングを遅角させることにより、充填効率を増加させ、要求トルクに見合うトルクを出力することができる。
早閉じ運転モードMEIVCの場合のスロットル開度TVOの制御としては、図6(b)に示すように、特性L1と平行にエンジン回転速度NENGに比例する特性L3が低負荷側に設定される。そして、この特性L3よりも低負荷側の運転領域では、スロットル開度TVOは、全開又は全開相当になっており、気筒空気量すなわち気筒に充填される空気量は、吸気弁21の閉弁タイミングのみにより制御される。このため、気筒空気量を調整しつつ、ポンプ損失が生じないように制御することができる。
他方、特性L1から特性L3までの間では、要求負荷が高まるのに伴って、あるいはエンジン回転速度NENGが減少するのに伴って、スロットル開度TVOを小さくするように制御される。このため、運転状態が、中高速・低中負荷運転領域から運転モードを遅閉じ運転モードMLIVCに設定する必要のある低速・高負荷運転領域に近づくのに伴って、気筒空気量を低減することができる。したがって、高圧縮比エンジンを採用したエンジン1において、運転モードの切り換え点に近い不安定な運転領域であっても、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、気筒空気量を調整することができる。なお、特性L3は、図5の特性L2よりも低負荷側であってもよく、また特性L2より高負荷側であってもよい。
図7(a)、(b)は、それぞれ、運転モードが遅閉じ運転モードMLIVCである場合における、吸気弁21の閉弁タイミングIVC及びスロットル開度TVOの制御例を示している。すなわち、遅閉じ運転モードMLIVCの場合の吸気弁21の閉弁タイミングIVCの制御としては、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの範囲内で、図7(a)に示すように、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。また、目標気筒空気量が増加するほど吸気弁21の閉弁タイミングは進角する。一方、スロットル開度TVOの制御としては、図7(b)に示すように、目標気筒空気量の変化に対してはスロットル開度TVOを一定とし、エンジン回転速度NENGが増加するのに伴ってスロットル開度TVOが大きくなるようにしている。かくして、遅閉じ運転モードMLIVCでは、遅閉じ運転によりノッキングを抑制しつつ、所要の気筒空気量を確保することができる。
前記のとおり、エンジン制御ユニット100は、内燃機関システムSないしはエンジン1の総合的な制御装置であって、各センサ70〜76等によって検出される各種制御情報に基づいて、VVT機構32(電磁バルブ32a)、VVL機構33、点火プラグ51(点火システム52)、燃料噴射弁53(燃料供給システム54)、スロットル弁53(スロットルアクチュエータ54)、EGRバルブ63等を制御ないしは駆動することにより、燃料噴射制御、点火時期制御、EGR制御等の普通のエンジン制御を行うようになっている。
さらに、エンジン制御ユニット100は、目標気筒空気量に応じて吸気弁21の閉弁タイミングを切り換えるとともに、閉弁タイミングの切り換え時に吸気通路55bの圧力を一時的に低下させ、かつ吸気弁21のリフト量をエンジン1の運転状態ないしは外界条件に応じて変更するといった本発明に係る格別のエンジン制御(以下「リフト量変更制御」という。)を行うようになっている。しかしながら、普通のエンジン制御については、その制御手法は当業者にはよく知られており、またこのような普通のエンジン制御は本発明の要旨とするところでもないのでその説明を省略し、以下では主として本発明に係るリフト量変更制御を説明する。
まず、本発明に係るリフト量変更制御の概要を説明する。前記のとおり、内燃機関システムSでは、制御モードとして、目標気筒空気量が所定空気量より小さい運転領域のための第1閉弁タイミング範囲IVC1stと、目標気筒空気量が所定空気量より大きい運転領域のための第2閉弁タイミング範囲IVC2ndと、早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCへの移行、又は遅閉じ運転モードMLIVCから早閉じ運転モードMEIVCへの移行が行われるとき(モード移行時)のための中間閉弁タイミング範囲IVCIM(遷移モード)とを設定している。そして、このリフト量変更制御では、モード移行時には、吸気弁21の閉弁タイミングが第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間で変化するようにVVT機構32とVVL機構33とを駆動するとともに、一時的にスロットル弁57を絞って吸気圧力を低くすることにより空気過剰になる傾向を抑制し、かつ吸気弁21のリフト量をエンジン1の運転状態ないしは外界条件に応じて変更するようにしている。
このリフト量変更制御によれば、目標気筒空気量が所定空気量より小さい運転領域では、早閉じ運転モードMEIVCが設定されるので、吸気圧力を高く保った状態で気筒空気量を目標値に制御することができ、ポンプ損失を低減することができ、かつ機械損失を低減することができ、ひいては燃費性を高めることができる。他方、目標気筒空気量が所定空気量より大きい運転領域では、遅閉じ運転モードMLIVCが設定されるので、プリイグニッション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な気筒空気量を確保することができる。
また、モード移行時には、吸気弁21の閉弁タイミングは充填効率が最大となるタイミングを通過するが、このとき吸気圧力が一時的に低下させられるので、気筒空気量が過大になって異常燃焼が起こるのを防止することができる。さらに、モード移行時には、エンジン1の運転状態ないしは外界条件に応じて吸気弁21のリフト量が変更され、これにより吸気弁21の開弁時期が好ましく変更されるので、気筒11内の空気の状態をより精密に制御して、異常燃焼が発生する可能性を確実に抑制することができ、ひいてはエンジン1の運転効率を最大限に高めることができる。
このリフト量変更制御においては、予想される目標気筒空気量の変化が大きいほどモード移行時における吸気弁21のリフト量を大きくするのが好ましく、また、予想される目標気筒空気量の変化が大きいほどモード移行時における吸気圧力の低下量を小さくするのが好ましい。また、VVT機構32の応答性が低下するほどモード移行時における吸気弁21のリフト量を大きくするのが好ましく、また、VVT機構32の応答性が低下するほどモード移行時における吸気圧力の低下量を小さくするのも好ましい。なお、内燃機関システムSに、車両のドライバによる操作が可能であり、かつ、予想される目標気筒空気量の変化の大きさを表す信号を出力することが可能なスイッチを設け、スイッチから出力された信号が表す目標気筒空気量の変化が大きいほど、吸気弁21の閉弁タイミングの変化時における吸気弁21のリフト量が大きくなるように、VVL機構33を制御するようにしてもよい。
以下、本発明に係るリフト量変更制御の制御機構ないしは制御手法を詳しく説明する。
図8及び図9は、エンジン制御ユニット100によるリフト量変更制御の制御アルゴリズムを示すブロック図である。図8に示すように、エンジン制御ユニット100は、機能的にみれば、目標トルク演算部B0と、目標図示平均有効圧力演算部B1(以下「目標Pi演算部B2」という。)と、制御モード判定部B2と、目標空気充填量演算部B3(以下「目標CE演算部B3」という。)と、目標ブースト演算部B4と、目標吸気弁閉弁タイミング範囲演算部B5(以下「目標IVC演算部B5」という。)と、サージタンク55a内の体積効率を演算する目標充填効率演算部B6(以下「目標ηvp演算部B6」という。)と、目標スロットル開度演算部B7(以下「目標TVO演算部B7」という。)と、目標リフト量演算部B8(以下「目標VVL演算部B8」という。)と、目標吸気弁閉弁タイミング演算部B9(以下「目標VVT演算部B9」という。)とで構成されている。
目標トルク演算部B0は、アクセル開度(アクセル制御信号α)とエンジン回転数(エンジン回転速度信号NENG)とに基づいてエンジン1の目標トルクを算出する。目標Pi演算部B1は、目標トルク演算部B0によって算出された目標トルクと、エンジン1の機械抵抗及びポンプ損失とに基づいて目標図示平均有効圧力(目標Pi)を算出する。具体的には、目標トルクとトルク損失となる機械抵抗及びポンプ損失との和(合計)である実際にエンジン1が生成すべき目標燃焼トルク(目標気筒空気量)に対応する目標図示平均有効圧力を算出する。
制御モード判定部B2は、例えば図5に示す特性図に対応する制御マップを用いて、目標Pi演算部B1によって算出された目標図示平均有効圧力と、エンジン回転数とに基づいて、エンジン1の運転状態に対応する制御モードが早閉じ運転モードMEIVCであるか、遅閉じ運転モードMLIVCであるか、それとも遷移モードMIMであるかを判定する。なお、遷移モードMIMは、エンジン1の運転状態が、早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCに移行した時点、又は遅閉じ運転モードMLIVCから早閉じ運転モードMEIVCに移行した時点から所定期間実行される、吸気弁21を早閉じ状態から遅閉じ状態に切り換え、又は遅閉じ状態から早閉じ状態に切り換える際の過渡的な制御モードである。
目標CE演算部B3は、目標Pi演算部B1によって算出された目標図示平均有効圧力と、エンジン回転数とに基づいて目標空気充填量(目標CE)を算出する。目標ブースト演算部B4は、目標Pi演算部B1によって算出された目標図示平均有効圧力と、制御モード判定部B2によって判定された制御モード(MEIVC、MLIVC又はMIM)と、エンジン回転数と、外界条件ないしはエンジン1の運転状態とに基づいて目標ブーストを算出する。なお、目標ブースト演算部B4における遷移モードMIMの実行時の目標ブーストの算出手法は、後で図9を参照しつつ詳しく説明する。
目標IVC演算部B5は、目標Pi演算部B1によって算出された目標図示平均有効圧力と、制御モード判定部B2によって判定された制御モード(MEIVC、MLIVC又はMIM)と、エンジン回転数と、外界条件ないしはエンジン1の運転状態とに基づいて吸気弁21の目標閉弁タイミング範囲(目標IVC)を算出する。なお、目標IVC演算部B5における遷移モードMIMの実行時の目標IVCの算出手法は、後で図9を参照しつつ詳しく説明する。目標ηvp演算部B6は、目標CE演算部B3によって算出された目標空気充填量と、目標ブースト演算部B4によって算出された目標ブーストとに基づいて目標充填効率又は目標体積効率(目標ηvp)を算出する。
目標TVO演算部B7は、目標CE演算部B3によって算出された目標空気充填量と、目標ηvp演算部B6によって算出された目標充填効率又は目標体積効率と、エンジン回転数とに基づいて目標スロットル開度(目標TVO)を算出する。目標VVL演算部B8は、目標IVC演算部B5によって算出された吸気弁21の目標閉弁タイミング範囲と、目標ηvp演算部B6によって算出された目標充填効率又は目標体積効率と、エンジン回転数とに基づいて目標リフト量(目標CVVLリフト量)を算出する。目標VVT演算部B9は、目標IVC演算部B5によって算出された目標閉弁タイミング範囲と、目標VVL演算部B8によって算出された目標リフト量とに基づいて目標吸気弁閉弁タイミング位相角(目標VVT位相角)を算出する。
以下、図9を参照しつつ、目標ブースト演算部B4における遷移モードMIMの実行時の目標ブーストの算出手法と、目標IVC演算部B5における遷移モードMIMの実行時の目標IVCの算出手法とを説明する。なお、図9に示す制御手法を、早閉じ運転モードMEIVC又は遅閉じ運転モードMLIVCの実行時に応用してもよい。
図9に示すように、目標ブースト演算部B4は、遷移モードMIMの実行時には、基本的には、目標ブーストを演算するためのルックアップテーブル(以下「目標ブーストテーブル」という。)を用いて、目標図示平均有効圧力(目標Pi)とエンジン回転数とに基づいて目標ブーストを算出する。ここで、目標ブーストテーブルとしては、BDC(下死点)付近でプリイグニッション等の異常燃焼が発生しにくいように目標ブーストを設定する第1目標ブーストテーブルM1と、BDC付近で出力トルクが最大となるように目標ブーストを設定する第2目標ブーストテーブルM2とが択一的に用いられる。
そして、実際に用いる目標ブーストテーブルは、運転モード選択部C1によって外界条件ないしはエンジン1の運転状態に応じて選択され、この選択結果に従って第1スイッチW1によって切り換えられる。具体的には、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、プリイグニッション等の異常燃焼が発生しやすい状況にある場合、例えばトルク変動が大きい場合、あるいは学習制御の学習が十分でない場合は、第1目標ブーストテーブルM1が選択される。他方、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、高い出力トルクを必要とする状況、あるいは燃費性を重視する状況にある場合は、第2目標ブーストテーブルM2が選択される。
目標IVC演算部B5は、遷移モードMIMの実行時には、基本的には、目標IVCを演算するためのルックアップテーブル(以下「目標IVCテーブル」という。)を用いて、目標図示平均有効圧力(目標Pi)とエンジン回転数とに基づいて目標IVCを算出する。ここで、目標IVCテーブルとしては、BDC(下死点)付近でプリイグニッション等の異常燃焼が発生しにくいように吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定する第1目標IVCテーブルN1と、BDC付近で出力トルクが最大となるように吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定する第2目標IVCテーブルN2とが択一的に用いられる。
そして、実際に用いる目標IVCテーブルは、運転モード選択部C1によって外界条件ないしはエンジン1の運転状態に応じて選択され、この選択結果に従って第2スイッチW2によって切り換えられる。具体的には、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、プリイグニッション等の異常燃焼が発生しやすい状況にある場合、例えばトルク変動が大きい場合、あるいは学習制御の学習が十分でない場合は、第1目標IVCテーブルN1が選択される。他方、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、高い出力トルクを必要とする状況、あるいは燃費性を重視する状況にある場合は、第2目標IVCテーブルN2が選択される。
なお、運転モード選択部C1は、目標ブースト演算部B4及び目標IVC演算部B5に対して共通であるので、目標ブースト演算部B4で第1目標ブーストテーブルM1が選択される場合は、目標IVC演算部B5で第1目標IVCテーブルN1が選択されることになる。また、目標ブースト演算部B4で第2目標ブーストテーブルM2が選択される場合は、目標IVC演算部B5で第2目標IVCテーブルN2が選択されることになる。
このように、目標IVC演算部B5では、外界条件ないしはエンジン1の運転状態に応じて選択された目標IVCテーブルN1、N2に従って目標閉弁タイミング(目標IVC)が算出される。他方、前記のとおり、目標VVL演算部B8では、目標IVC演算部B5によって算出された吸気弁21の目標閉弁タイミングに基づいて目標リフト量(目標CVVLリフト量)が算出される。したがって、目標VVL演算部B8における目標リフト量の算出には、運転モード選択部C1による運転モードの選択が反映される。すなわち、目標VVL演算部B8は、遷移モードMIMの実行時には、目標IVC演算部B5で第1目標IVCテーブルN1が選択されたかそれとも第2目標IVCテーブルN2が選択されたかに応じて、それぞれ、目標リフト量を、互いに異なる第1目標リフト量又は第2目標リフト量に設定する。なお、この設定手法を、早閉じ運転モードMEIVC又は遅閉じ運転モードMLIVCの実行時に応用してもよい。
つまり、目標VVL演算部B8は、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、プリイグニッション等の異常燃焼が発生しやすい状況にある場合、例えばトルク変動が大きい場合、あるいは学習制御の学習が十分でない場合は、第1目標リフト量を設定することになる。他方、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、高い出力トルクを必要とする状況、又は燃費性を重視する状況にある場合は、第2目標リフト量を設定することになる。
以下、目標VVL演算部B8における、第1目標リフト量及び第2目標リフト量の設定手法の一例を説明する。図11(a)は、ブースト及びバルブリフト量を種々変化させ、各場合について、プリイグニッションが発生するか否かを実験により確認した結果を示すグラフである。また、図11(b)は、平均有効圧(Pe)及びバルブリフト量を種々変化させ、各場合について、プリイグニッションが発生するか否かを実験により確認した結果を示すグラフである。
図11(a)に示すように、ブーストを基準にしてプリイグニッションの発生の有無について考察すれば、あるリフト量(リフト最適値)で、プリイグニッションが発生するブーストが最も高くなっている(おおむね−15kPa)。すなわち、リフト量をこのリフト最適値に設定すれば、プリイグニッションが最も発生しにくい状態となり、したがってプリイグニッションが発生する限界値はおおむね−15kPaとなる。また、リフト量がリフト最適値から外れている場合でも、プリイグニッションが発生するブーストは、さほど変化(低下)しない。したがって、ブーストを基準にしてプリイグニッションが発生する限界値を設定した場合、たとえリフト量が変化しても、プリイグニッションが発生する可能性は小さい。すなわち、エンジン1の運転状態ないしはトルク変動に対するプリイグニッションの発生を低減ないしは防止することができ、エンジン1を安定した状態で動作させることができる。
他方、図11(b)に示すように、平均有効圧すなわち出力トルクを基準にしてプリイグニッションの発生の有無について考察すれば、あるリフト量(リフト最適値)で、プリイグニッションが発生する平均有効圧が最も高くなっている(おおむね650kPa)。すなわち、リフト量をこのリフト最適値に設定すれば、プリイグニッションが最も発生しにくい状態となり、したがってプリイグニッションが発生する限界値はおおむね650kPaとなる。この場合、出力トルクを最大限に高めることができ、また早閉じ運転を行う期間が最大限に長くなるので、燃費性を最大限に高めることができる。しかし、リフト量がリフト最適値から外れていた場合、プリイグニッションが発生する平均有効圧は、急激に低下する。したがって、平均有効圧を基準にしてプリイグニッションが発生する限界値を設定した場合、リフト量が変化ないしは変動すると、プリイグニッションが発生する可能性は高くなる。
そこで、この内燃機関システムSでは、遷移モード時において、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、プリイグニッション等の異常燃焼が発生しやすい状況にある場合は、リフト量を、第1目標リフト量、例えば図11(a)に示すようなブーストを基準とする最適リフト量L1に設定した上で、吸気圧力ないしは限界値を、最適リフト量に対応するブースト(例えば、−15kPa)に基づいて設定し、エンジン1を安定した状態で動作させるようにしている。
他方、遷移モード時において、外界条件ないしはエンジン1の運転状態が、高い出力トルクを必要としている状況ないしは燃費性を重視している状況にある場合は、リフト量を、第2目標リフト量、例えば図11(b)に示すような平均有効圧を基準とする最適リフト量L2(<L1)に設定した上で、吸気圧力ないしは限界値を、最適リフト量に対応する平均有効圧(例えば、650kPa)に基づいて設定し、エンジン1を出力トルクが高い状態又は燃費性の良い状態で動作させるようにしている。
なお、第1目標リフト量と第2目標リフト量の切り換えは、具体的には、例えば次のように行うことができる。
すなわち、トルク応答性を重視するときは第1目標リフト量を選択し、燃費性を重視するときは第2目標リフト量を選択する。例えば、運転履歴から判定した目標最大トルクの傾きが大きいとき、AT車においてスポーツモード又はマニュアルモードを使用しているとき、あるいはエンジン制御切換スイッチのスポーツモードを使用しているときは、第1目標リフト量を選択する。他方、運転履歴から判定した目標最大トルクの傾きが小さいとき、AT車においてDレンジを使用しているとき、あるいはエンジン制御切換スイッチの燃費モードを使用しているときは、第2目標リフト量を選択する。
また、デバイスの故障時あるいは応答性低下時は第1目標リフト量を選択し、その他の場合は第2目標リフト量を選択する。例えば、VVT機構32の故障後のVVL機構33のリフト量固定(最大値)モードへの移行時、VVL機構33又はVVT機構32の応答性低下時、ETBリンプホーム移行時は、第1目標リフト量を選択する。
ノッキング時は第1目標リフト量を選択し、その他の場合は第2目標リフト量を選択する。例えば、ノッキング判定後あるいはノッキング学習後は、第1目標リフト量を選択する。PCMメモリクリア後は、第1目標リフト量を選択する(各種制御の学習完了前は、プリイグニッションの回避についての信頼性が低いと判断される)。また、運転支援機能使用時、例えばクルーズコントロール使用時は、第2目標リフト量を選択する。なお、吸気温度が高いときには、第2目標リフト量の設定を禁止する。
以下、図10に示すフローチャートを参照しつつ、エンジン制御ユニット100によって実行されるリフト量変更制御の制御手法の一例を説明する。図10に示すように、このリフト量変更制御においては、制御が開始されると(スタート)、まずステップS1で各種信号が制御情報として読み込まれる。例えば、各センサ70〜76等によって検出される吸気カムシャフト位相角、吸入空気流量、吸気マニホールド圧、クランク角パルス信号、排気ガスの酸素濃度、アクセル開度、車速等に対応する各信号(図1参照)と、エンジン制御ユニット100自体によって生成又は算出されるエンジン回転数等に対応する各信号とが読み込まれる。
続いて、ステップS2で、アクセル開度(アクセル制御信号α)とエンジン回転数(エンジン回転速度信号NENG)とに基づいてエンジン1の目標トルクが算出される。なお、この目標トルクとエンジン回転数とに基づいて、燃料噴射弁53の燃料噴射量及び点火プラグ51の点火時期が設定される。そして、ステップS3で、ステップS2で算出された目標トルクと、機械抵抗及びポンプ損失に起因する損失トルクとの和である、エンジン1が実際に生成すべき目標燃焼トルクに対応する目標図示平均有効圧力(目標Pi)が算出される。
次に、ステップS4で、例えば図5に示す特性図に対応する制御マップを用いて、ステップS3で算出された目標図示平均有効圧力と、エンジン回転数とに基づいて、エンジン1の運転状態に対応する制御モードが早閉じ運転モードMEIVCであるか、遅閉じ運転モードMLIVCであるか、それとも遷移モードMIMであるかが判定される。さらに、ステップS5で、ステップS3で算出された目標図示平均有効圧力と、ステップS4で判定された制御モードと、エンジン回転数とに基づいて、目標空気充填量(目標CE)が算出される。
さらに、ステップS6で、ステップS3で算出された目標図示平均有効圧力と、ステップS4で判定された制御モードと、エンジン回転数と、外界条件ないしはエンジン1の運転状態とに基づいて、制御モードに応じた目標ブーストが算出される。続いて、ステップS7で、ステップS3で算出された目標図示平均有効圧力と、ステップS4で判定された制御モードと、エンジン回転数と、外界条件ないしはエンジン1の運転状態とに基づいて、制御モードに応じた吸気弁21の目標閉弁タイミング範囲(目標IVC)が算出される。
次に、ステップS8で、ステップS5で算出された目標空気充填量と、ステップS6で算出された目標ブーストとに基づいて、目標充填効率又は目標体積効率(目標ηvp)が算出される。続いて、ステップS9で、ステップS5で算出された目標空気充填量と、ステップS8で算出された目標充填効率又は目標体積効率と、エンジン回転数とに基づいて、目標スロットル開度(目標TVO)が算出される。
さらに、ステップS10で、ステップS7で算出された吸気弁21の目標閉弁タイミング範囲(目標IVC)と、ステップS8で算出された目標充填効率又は目標体積効率(目標ηvp)と、エンジン回転数とに基づいて、制御モードに応じた目標リフト量(目標CVVLリフト量)が算出される。続いて、ステップS11で、ステップS7で算出された目標閉弁タイミング範囲と、ステップS10で算出された目標リフト量とに基づいて、目標吸気弁閉弁タイミング位相角(目標VVT位相角)が算出される。
この後、ステップS12で、ステップS9で算出された目標スロットル開度と、ステップS10で算出された目標リフト量と、ステップS11で算出された目標吸気弁閉弁タイミング位相角とに基づいて、該目標値が実現されるよう、スロットルアクチュエータ58と、VVT機構32(電磁バルブ32a)と、VVL機構33とが駆動される。
具体的には、信号θVVTがVVT機構32に出力され、吸気カムシャフト31のクランクシャフト14に対する位相が信号θVVTに対応した値となるように、VVT機構32が動作する。そして、信号θVVLがVVL機構33に出力され、吸気弁21のリフト量が信号θVVLに対応した値となるように、VVL機構33が動作する。また、信号TVOがスロットルアクチュエータ58に出力され、スロットル弁57の開度TVOが信号TVOに対応した値となるように、スロットルアクチュエータ58が動作する。
なお、燃料噴射量信号FPが燃料システム54に出力され、1気筒サイクル当りFPに対応した量の燃料が燃料噴射弁53から噴射される。また、点火時期信号SAが点火システム52に出力され、気筒サイクル中の信号SAに対応した時期に、点火プラグ51が火花を生成して、燃焼室17内の混合気に点火する。これにより、必要とされる量の空気、燃料からなる混合気が、適切な時期に着火して燃焼させられ、目標トルクがエンジン1から出力される。
以上、本発明に係るリフト量変更制御によれば、エンジン1の気筒11内の空気の状態をより精密に制御して、異常燃焼が発生する可能性を確実に抑制しつつ、エンジン1の運転効率を最大限に高めることができる。
S 内燃機関システム、1 エンジン、11 気筒、12 シリンダブロック、13 シリンダヘッド、14 クランクシャフト、15 ピストン、16 コネクティングロッド、17 燃焼室、18 吸気ポート、19 排気ポート、21 吸気弁、22 排気弁、30 吸気弁駆動機構、31 カムシャフト、32 位相可変機構(VVT機構)、33 リフト量可変機構(VVL機構)、40 排気弁駆動機構、56 スロットルボデー、57 スロットル弁、100 エンジン制御ユニット。