以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明
を省略する。
図1は、本実施形態に係る光トランシーバ1の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、光トランシーバ1は、光送信器10と光受信器20とを備える。
光送信器10は、CDR11、レーザドライバ12及びレーザダイオード13を有する。CDR(clock data recovery)11は、送信データを表す電気信号を入力し、その電気信号のデータを復元して、データ復元後の電気信号をレーザドライバ12へ出力する。レーザドライバ12は、レーザダイオード13用の駆動回路として機能するものであり、CDR11から出力される電気信号を入力し、その電気信号に基づいてレーザダイオード13を駆動するための駆動信号を生成する。そして、生成した駆動信号をレーザダイオード13へ出力して、レーザダイオード13を直接変調する。レーザダイオード13は、電気−光変換部として機能するものであり、レーザドライバ12から出力される駆動信号を入力し、その駆動信号を光信号に変換(E/O変換)して、例えば1.55μm帯の信号光を出力する。
光受信器20は、フォトダイオード21、ローパスフィルタ22、MLSE型等化部23及びCDR24を有する。フォトダイオード21は、光−電気変換部として機能するものであり、受信した光信号を入力し、その光信号を電気信号に変換(O/E変換)し、ローパスフィルタ22へ出力する。フォトダイオード21としては、例えば、電子なだれ現象を利用して内部で増幅を行うアバランシェフォトダイオードが適用される。ローパスフィルタ22は、帯域制限フィルタとして機能するものであり、フォトダイオード21から出力された電気信号の所定周波数以下の帯域を通過させる。ローパスフィルタ22としては、例えば、ベッセル・トムソンフィルタやRCフィルタが適用される。MLSE型等化部23は、分散等化部として機能するものであり、ローパスフィルタ22を通過した電気信号に基づいて最尤系列推定を行い、受信信号を判定して、その受信信号をCDR24へ出力する。CDR24は、MLSE型等化部23から出力される受信信号を入力し、その受信信号のデータを復元して、データ復元後の電気信号を出力する。
次に、光トランシーバ1の動作について説明する。光トランシーバ1では、CDR11に入力される電気信号はCDR11によりデータが復元されて、そのデータ復元後の電気信号がCDR11から出力され、レーザドライバ12に入力される。レーザドライバ12では、CDR11から出力される電気信号に基づいてレーザダイオード13を駆動するための駆動信号が生成されて、その生成された駆動信号がレーザダイオード13へ出力される。そして、レーザダイオード13では、レーザドライバ12から出力される駆動信号が入力され、その駆動信号が光信号にE/O変換されて、例えば1.55μm帯の信号光が出力される。すなわち、レーザダイオード13は、レーザドライバ12によって直接変調される。光トランシーバ1のレーザダイオード13から出力された信号光は、シングルモード光ファイバにより伝送されて、他方の光トランシーバ1のフォトダイオード21へ入力される。
また、光トランシーバ1では、他方の光トランシーバ1からシングルモード光ファイバにより伝送されて到達した光信号がフォトダイオード21により受信され、そのフォトダイオード21に入力される。そして、入力された光信号がフォトダイオード21によって電気信号にO/E変換され、ローパスフィルタ22へ出力される。ローパスフィルタ22では、フォトダイオード21から出力される電気信号のうち所定周波数以下の帯域の電気信号が通過し、MLSE型等化部23へ出力される。MLSE型等化部23では、ローパスフィルタ22から出力される電気信号が入力され、その電気信号に基づいて最尤系列推定が行われる。この最尤系列推定によって分散等化処理がなされ、受信信号が判定される。そして、この受信信号がCDR24へ出力される。CDR24では、MLSE型等化部23から出力される受信信号が入力され、その受信信号のデータが復元されて、データ復元後の電気信号が出力される。
ここで、MLSE型等化部23の構成及び動作について詳細に説明する。図2は、光トランシーバ1のMLSE型等化部23を示すブロック図である。図2に示すように、MLSE型等化部23は、チャネル推定部26及びビタビアルゴリズム部27で構成される。先ず、ローパスフィルタ22から出力された電気信号とビダビアルゴリズム部27から出力された電気信号とが、MLSE型等化部23のチャネル推定部26に入力される。以下の説明においては、ローパスフィルタ22から出力されてMLSE型等化部23に入力される電気信号を「データ信号」、ビタビアルゴリズム部27で判定され、出力される電気信号を「判定信号」という。チャネル推定部26では、データ信号と判定信号とに基づいて、データ信号のレプリカ信号が生成される。
ビタビアルゴリズム部27では、データ信号と、チャネル推定部26から出力されたレプリカ信号とに基づいて最尤系列推定が行われる。ビタビアルゴリズム部27は、データ信号との自乗誤差が最も小さくなるようなレプリカ信号を受信信号として判定し、判定信号を出力する。例えば、ビタビアルゴリズム部27では、4ビット(2値信号の場合24=16通り)で推定を行う場合、16通りのレプリカ信号とデータ信号との自乗誤差に基づいて、受信信号を判定する。従って、受信信号の誤り率を低減するためには、レプリカ信号を如何に正確に生成するかが重要となる。MLSE型等化部23による分散等化処理では、初期の判定信号には誤りが含まれるが、チャネル推定及び最尤系列推定を繰り返すに従い、誤りは徐々に減少する。
図3は、MLSE型等化部23のチャネル推定部26の例を示すブロック図である。チャネル推定部26としては、図3に示すようなトランスバーサルフィルタが用いられる。トランスバーサルフィルタ26は、M個の遅延回路311〜31M、複数のタップを構成するM+1個の乗算器320〜32M、Sum回路33、比較回路34、及びタップ係数制御回路35を有しており、これらはフィードフォワード等化部を構成している。さらに、トランスバーサルフィルタ26は、レプリカ信号生成回路36を有している。
M個の遅延回路311〜31Mは、この順に縦属接続されており、判定信号に対して時間Tだけ遅延を与えて出力する。なお、時間Tは、CDR24により受信信号が復元される際に得られるクロック信号の周期である。乗算器320〜32Mは、判定信号にタップ係数c0〜cMを乗じて、当該乗算後の電気信号をSum回路33へ出力する。Sum回路33は、M+1個の乗算器320〜32Mから出力される電気信号の値の総和を求め、当該総和値を表す電気信号を出力する。乗算器320〜32Mにおけるタップ係数は、後述するタップ係数制御回路35から送信される設定信号iによって適切な値に決定される。
比較回路34は、Sum回路33から出力される電気信号とデータ信号とを入力し、その誤差信号を出力する。誤差信号は、タップ係数制御回路35へ送信される。タップ係数制御回路35は、誤差信号に基づいて、Sum回路33から出力される電気信号とデータ信号との誤差の絶対値が最小となるように、乗算器320〜32Mにおけるタップ係数c0〜cMを制御する。レプリカ信号生成回路36は、タップ係数c0〜cMに基づいて、データ信号のレプリカ信号を生成する。そして、生成されたレプリカ信号に基づいて、ビタビアルゴリズム部27による最尤系列推定が行われ、受信信号が判定される。
以上説明した光トランシーバ1は、同一の構成の光トランシーバ1とシングルモード光ファイバ(図示せず)とにより光学的に接続される。これにより、2つの光トランシーバ1間で、光通信によるデータの送受信が行われる。
本実施形態に係る光トランシーバ1によれば、一方の光トランシーバ1の光送信器10において、レーザダイオード13の直接変調により、出力される光信号にはチャーピングが生じる。このため、他方の光トランシーバ1の受信器によって受信される光信号及びO/E変換される電気信号には、波長分散の影響を受けてリンギングが生じる。しかし、ここで、ローパスフィルタ22によって帯域制限をかけることにより、当該電気信号のリンギングを抑制できる。リンギングが抑制されたデータ信号に基づいて、MLSE型等化部23のトランスバーサルフィルタ26においてタップ係数が決定され、レプリカ信号が生成されるため、データ信号とレプリカ信号との誤差を低減できる。即ち、より正確なレプリカ信号を生成することができる。そして、より正確なレプリカ信号を用いて、MLSE型等化部23のビタビアルゴリズム部27における最尤系列推定が行われ、受信信号が判定されるため、受信信号の誤り率を低減できる。
次に、本実施形態に係る光トランシーバ1による光送受信の例について説明する。図4は、光トランシーバ1から送信される光信号の波形及び周波数の例を示すグラフである。図4には、1.55μm帯のレーザダイオード13を10.3125Gb/sで直接変調した場合の波形を示す。図4に示すように、1.55μm帯のレーザダイオード13を直接変調した場合、信号“0”と信号“1”の間に周波数のズレ(チャープ)が発生する。信号“0”と信号“1”との周波数差は断熱チャープと呼ばれ、光信号の立ち上がり時に見られる周波数差は過渡チャープと呼ばれている。図4に示す例から読み取られる断熱チャープ、過渡チャープはそれぞれ、6GHz,2GHz程度である。
図5には、図4に示す光信号をシングルモード光ファイバで240km伝送し、帯域7.7GHzのフォトダイオード21でO/E変換した電気信号のアイパターンを示す。図5から、伝送後の光信号の波形が劣化していることがわかる。これは、直接変調による信号光において信号“1”の周波数成分が正の断熱チャープ及び過渡チャープを有し、正の分散を有するシングルモード光ファイバを伝送する時に、信号“0”に対し早く進むためである。このように、直接変調によって生じるチャープとシングルモード光ファイバの波長分散特性による相互作用の結果、伝送後の波形は大きなリンギング成分を含み、複雑に歪んでしまう。
図6には、図5に示すO/E変換後の電気信号に対し、帯域3.1GHzのローパスフィルタ22で帯域制限をかけたデータ信号、及びMLSE型等化部23のチャネル推定部26によって生成された当該データ信号のレプリカ信号を示す。ここで、レプリカ信号を生成するチャネル推定部26は、4bitのトランスバーサルフィルタ26で構成している。また、図6の横軸において、32の倍数に相当する時間は、信号“0”,信号“1”を判定するタイミングである。図6に示すように、光伝送波形に含まれたリンギング成分が帯域制限によって抑制されており、データ信号とレプリカ信号とに大きな誤差は生じていない。
更に、図6に示す結果では、PRBS7段(128bit)の信号に対し、データ信号とレプリカ信号との自乗誤差(以下、単に「自乗誤差」という。)を振幅±1で規格すると、自乗誤差は−8.0dB、128bit中の誤り数は零個(誤り率0)であった。このように、本実施形態に係る光トランシーバ1によれば、直接変調方式を用いた光送信器10とシングルモード光ファイバとを用いた非線形伝送型の光送受信システムにおいて、受信信号の誤り率を低減することができた。なお、PRBS(Pseudo RandomBit Stream)は、擬似ランダムビット列を意味する。
図7には、図5に示すO/E変換後の電気信号に対し、帯域1.0GHzのローパスフィルタ22で帯域制限をかけた結果を示す。チャネル推定部26は上記の例と同様に4bitのトランスバーサルフィルタ26である。ここでも、光伝送波形に含まれたリンギング成分が、帯域制限によって抑制されている。この結果、自乗誤差は−9.0dBと更に改善した。しかしながら、ローパスフィルタ22の設定帯域を小さくし過ぎたため、送信される光信号の本来の情報が欠落してしまい、図6に示す結果と比較して、128bit中の誤り数は14個(誤り率0.1)に増加した。
図8には、ローパスフィルタ22の設定帯域と、自乗誤差及び誤り数の関係を示す。図8に示すように、ローパスフィルタ22による帯域制限の結果、光伝送波形のリンギング成分が抑制され、自乗誤差が減少し、誤り数(誤り率)を低減できた。しかし、帯域制限の設定帯域を小さくし過ぎると、誤り数(誤り率)は増加した。これは、設定帯域を小さくし過ぎることによって、ローパスフィルタ22を通過後のデータ信号に対するレプリカ信号の誤差は減少するが、送信される光信号の本来の情報が欠落し、誤り数が増加してしまうためである。
本実施形態に係る光トランシーバ1によれば、光信号の伝送速度(10.3125Gb/s)に対し、ローパスフィルタ22の帯域を1.5〜10GHz(10.3125GHzの0.15〜1倍)とすれば、自乗誤差を−5dB以下、128bit中の誤り数を5個以下(誤り率4×10−2以下)に低減できた(図8参照)。更に、ローパスフィルタ22の帯域を2〜5GHz(10.3125GHzの0.2〜0.5倍)とすれば、自乗誤差を−6dB以下、128bit中の誤り数を零個(誤り率0)に低減できた。
以上、本発明の好適な実施形態について詳述したが、本発明の光トランシーバ1は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態におけるMLSE型等化部23では、ビタビアルゴリズム部27の出力である判定信号とデータ信号とに基づいてトランスバーサルフィルタ26のタップ係数を決定し、レプリカ信号を生成することとしたが、予め既知の信号列を判定信号の代わりに使用するトレーニングモードによって、レプリカ信号を生成しても良い。
ここで、図9及び図10を参照しながら、本発明の比較例について説明する。図9は、本発明の比較例に係る光トランシーバ4の概略構成を示すブロック図である。光トランシーバ4は、光送信器40にCDR41、レーザドライバ42及びレーザダイオード43を有し、光受信器50にフォトダイオード51、MLSE型等化部52及びCDR53を有する。この点において、光トランシーバ4は上記実施形態に係る光トランシーバ1と共通しているが、ローパスフィルタ22を有さない点で相違している。
本比較例における光トランシーバ4は、上記実施形態に係る光トランシーバ1と同様の構成の光送信器40を備えるため、送信される光信号は、図4にて示したように、レーザダイオードの直接変調に起因するチャープを有する。また、当該光信号の240km伝送後の光伝送波形は、図5に示したように、チャープと波長分散との相互作用によって劣化し、大きなリンギング成分を含む。
図10に、図9の光トランシーバを用いて行った光送受信における、データ信号及びレプリカ信号を示す。本比較例では、光トランシーバの構成が異なる点を除き、上記実施形態に係る光トランシーバ1による光送受信と同一条件にて送受信を行った。その結果、図10に示すように、リンギング成分を含む光伝送波形の影響を受け、データ信号とレプリカ信号との誤差が大きい部分が見られ、自乗誤差は−4.9dB、128bit中の誤り数は7個(誤り率5×10−2)であった。上記実施形態に比して誤り率が増加した要因は、大きなリンギング成分を含んだデータ信号に基づいてMLSE型等化部による分散等化を行ったことにより、正確なレプリカ信号を生成できなかったためと推察される。
上記の比較例からも、上記実施形態に係る光トランシーバ1が、直接変調方式を用いた光送信器とシングルモード光ファイバとを用いた非線形伝送型の光送受信システムにおける、光伝送波形のリンギングの抑制及び受信信号の誤り率低減に有用であることが示された。
1・・・光トランシーバ、10・・・光送信器、12・・・レーザドライバ(駆動回路)、13・・・レーザダイオード(電気−光変換部)、20・・・光受信器、21・・・フォトダイオード(光−電気変換部)、22・・・ローパスフィルタ(帯域制限フィルタ)、23・・・MLSE型等化部(分散等化部)。