JP2010057905A - アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤 - Google Patents

アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤 Download PDF

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Abstract

【課題】 印象材とトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させ、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を示し、特に、レジン製トレーにおいて、トレーへの印象材の圧接力が弱い、さらには表面粗さが小さい場合においても高い接着力を示す接着剤を開発すること。
【解決手段】 (A)1分子中にアミノ基を2個以上含む、ポリアリルアミン、ポリエチレンアミン等のポリアミン化合物、(B)平均粒子径が10μm以下の無機粒子、好適には塩基性無機粒子、および(C)溶解度パラメーター(δ)が17.0〜23.0〔(MPa)1/2〕である有機溶剤を含んでなり、好適にはさらに(D)有機過酸化物を含むことを特徴とする、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
【選択図】 なし

Description

本発明は、アルジネート印象材と印象用トレーとを接着するための接着剤に関する。
歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏製等の模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化体を印象材と称する。
一般的に、印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいはポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。アルジネート印象材は、アルギン酸塩を主成分とする基材と、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材とから成り、当該基材と当該硬化材とを水の存在下で練和すると、ゲル状硬化体が得られることを利用した印象材である。
アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、基材と硬化材とを混練した硬化前のものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、印象材が硬化した後に、印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。
印象を採得する際に用いられるトレーは、既製トレーあるいは個人トレーの2種類に大別される。既製トレーは、既製の大きさおよび形状を有するトレーである。具体的な既製トレーとしては、ステンレス、真鍮、あるいは真鍮にクロムめっきを施した金属製トレー等が挙げられる。また、個人トレーは、各個人に合わせてその形状が個別に作製されるトレーである。具体的な個人トレーとしては、ポリメタクリル酸エステルからなるレジン製トレー、あるいは熱可塑性樹脂からなるモデリングコンパウンド製トレー等が挙げられる。なお、レジン製トレーの素材となるポリメタクリル酸エステルは、通常、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体等が使用される。
アルジネート印象材は、前述の各トレーに対する密着性が低いので、印象材を歯牙から外す際に、印象材がトレーから剥離することがある。印象材がトレーから剥離すると、印象の形状が大きく変化しやすいため、精度の高い印象が採得できないという問題が生じる。
上述の問題を解決するために、網状、アンダーカット状あるいはパンチ穴を有するトレーを用いる方法も考えられる。このような形状を有するトレーを用いることにより、トレーに接触する印象材の面積が増加するため、印象材とトレーとの保持力が向上する。したがって、印象材をトレーから剥離しにくくすることができる。
一方、上述のような形状のトレーではなく、プレート状等の既製トレーあるいは個人トレーを用いる際には、別の方法にて印象材とトレーとの保持力を高める必要がある。その方法の一つに、トレーと印象材との間に、微粉体および溶剤を含有する接着剤を用いて接着する方法が提案されている。(特許文献1を参照。)
特開2001−17449号公報
しかし、上述の従来技術には次のような問題がある。網状等の特定の形状を付与すると、トレーのコストが高くなる。また、特許文献1に示されている接着剤は、溶剤の浸透力によってトレーの表面を膨潤、溶解させ微粉体をトレー表面に付着させることにより、物理的勘合力によって印象材を保持しているにすぎず、ばらつきが大きいという問題があった。また、この方法はレジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーには有効であるが、金属製トレーには効果がないといった問題点があった。このような状況に鑑み本発明者らは、高分子量のポリアミン化合物、溶剤、さらに有機過酸化物を含む接着剤が、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を有することを見い出し先に出願した(特願2007−171692号)。
口腔内における印象採得時は、上述したように印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付けて行なう。しかしながら、特にレジン製トレーにおいて、この接着剤を用いたとしてもトレーにかかる圧接力が足りない場合には接着力が低下することがわかった。具体的には、歯牙にあたる部位など比較的高い圧接力(100gf/cm以上)がかかる場合は良好な接着力が得られても、トレー辺縁部などの比較的圧接力が弱くなるような場合(20gf/cm以下)では、接着力が低下してしまう。
また、レジン製トレーは、印象材との接着力を高めるため、表面に、研磨処理(歯科用タービン等を用いて表面を研削する)やサンドブラスト処理を施すことによって表面粗さを大きくすることができる。この場合、処理後のレジン製トレーの表面は、通常、JIS B 0601に基づいて接触型表面粗さ計で測定した値(Ra)で示して1.0μmを越えるものになっている。そうして、このように表面が荒れたトレーであれば、前記接着剤を用いれば、アルジネート印象材は高い接着力で接着できる。しかしながら、斯様な処理がなされず表面が荒れていないレジン製トレー、具体的には前記表面粗さ(Ra)が1.0μm以下の平滑なものに対しては、前記接着剤では、十分な強度で接着できないことがわかった。歯科用タービンを用いての研磨処理は、形状が複雑なトレーに対しては全表面をムラ無く処理することは難しく、さらに、一般歯科医院にはサンドブラスト処理装置のような特殊機器は設置されていないのが普通である。したがって、斯様に表面が平滑なレジン製トレー、特に、前記表面粗さ(Ra)が0.3〜0.8μmである高度に平滑なものに対して、接着性が低いことは臨床的に問題であった。
そこで、本発明は、印象材とトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させ、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を示し、特に、レジン製トレーにおいて、トレーへの印象材の圧接力が弱い場合や被着面の表面粗さが小さい場合においても高い接着力を示す接着剤を開発することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究した結果、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物と、平均粒子径が10μm以下の無機粒子を特定の有機溶剤中に含んでなる組成物をトレーとアルジネート印象材との接着剤として用いたところ、トレーとアルジネート印象材との間に安定した高い接着カが発現することを見い出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、平均粒子径が10μm以下の無機粒子、および溶解度パラメーター(δ)が17.0〜23.0〔(MPa)1/2〕である有機溶剤を含んでなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤である。このような組成の接着剤を採用すると、アルジネート印象材と印象用トレーとの間の接着力を安定的に付与することができる。したがって、アルジネート印象材が印象用トレーから剥がれてしまうことを効果的に防止できる。この優れた接着力は、印象用トレーが、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれの材質であっても良好に発揮され、特に、レジン製トレーにおいて、トレーへの印象材の圧接力が弱い場合や、被着面となるレジン製トレーの表面粗さが小さい場合(Ra=1.0μm以下)においても高い接着力が得られる。
本発明によれば、印象材と各種材質のトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させることができる。特に、本発明の構成の接着剤によれば、レジン製トレーにおいて、印象材のトレーに係る圧接力が20gf/cm以下のように弱い場合や、被着面となるレジン製トレーの表面粗さが小さい場合(Ra=1.0μm以下、より好ましくは0.3〜0.8μm)、においても強固に接着することができ、極めて有意義である。
以下、本発明に係る歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤の好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
接着剤として、1分子中にアミノ基(−NH)を2個以上有するポリアミン化合物を含むものを用いることにより、ポリアミン化合物中のアミノ基とアルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋が形成されると考えられる。さらに、ポリアミン化合物は、トレー材料、特に金属製のトレーに対して親和性が高いので、トレー材料と接した際に強固に密着する。
本実施の形態に係る接着剤に用いられるポリアミン化合物として、具体的には、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、4−(アミノメチル)−1,8−オクタンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、ポリアルキレンポリアミン化合物(例えば、トリエチレンテトラアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、トリプロピレンテトラアミン)のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族ポリアミン化合物、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン若しくは1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂環式ポリアミン化合物、1,3−フェニレンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、1,2,4−トリアミノベンゼン、ジアミノアルカン類、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン若しくは3,3’−ジアミノベンジジンのような1分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物、あるいはポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン若しくはキトサンのような1個以上のアミノ基を有しているモノマーにより構成される重合体若しくは共重合体を好適に用いることができる。これらは単独にまたは2以上を混合して用いることができる。
なかでも安定した接着力の観点から、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン、あるいはキトサン等の1分子中に5個以上、より好ましくは15個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物を含むことが好ましい。
本実施の形態に係る接着剤に用いられるポリアミン化合物の分子量は特に制限されないが、溶剤への溶解性を考慮すると、500,000以下が好ましく、さらに分子量は1,000〜20,000がより好ましい。また分子量が2,000以上のポリアミン化合物を用いる場合には、十分に高い接着力を得るために、分子量300あたりアミノ基を1個以上含むことが好ましく、分子量200あたりアミノ基を1個以上含むポリアミン化合物を用いることがより好ましい。
また、本実施の形態に係る接着剤において、接着剤100質量部中に1質量部以上50質量部以下の範囲のポリアミン化合物が含まれていることが好ましい。特に、好ましいポリアミン化合物の量は、接着剤100質量部中に3質量部以上40質量部以下であり、10質量部以上35質量部以下が最も好ましい。
本実施の形態に係る接着剤において無機粒子は、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレー、特に、レジン製トレーに対して接着力を高める作用を有する。すなわち、後述する有機溶剤の作用により、上記レジン製トレーの表面を十分に膨潤・溶解させて粗面化し、ここに無機粒子を固定させ、その物理的勘合力によって印象材に対する接着力を大きく高める。
上記無機粒子は特に限定されず、具体的には、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、アルミノシリケートガラス、及びフルオロアルミノシリケートガラス、重金属(例えばバリウム、ストロンチウム、ジルコニウム)を含むガラス;それらのガラスに結晶を析出させた結晶化ガラス、ディオプサイド、リューサイト等の結晶を析出させた結晶化ガラス等のガラスセラミックス;シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナ等の複合無機酸化物;あるいはそれらの複合酸化物にI族金属酸化物を添加した酸化物;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属無機酸化物;等が使用できる。なかでも、シリカガラス、フルオロアルミノシリケートガラスや、シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニアなどの金属酸化物が好適である。
更に、無機粒子としては、粒子表面が塩基性を有している塩基性無機粒子を使用することが、膨張させたレジン製トレー表面への浸透性が特に高く、該レジン製トレーの表面粗さ(Ra)が1.0μm以下、より好ましくは0.3〜0.8μmの小さい場合にも、優れた接着強度が得られるために特に好ましい。すなわち、塩基性無機粒子は、その表面が塩基性を示す為、本発明の接着剤成分であるポリアミン化合物のアミノ基と反発作用を有する。表面が酸性の無機粒子であれば、該ポリアミン化合物のアミノ基に引き寄せられその運動性が弱まってしまうが、斯様に表面が塩基性の無機粒子であれば、逆に反発し運動の制限は無くなり、前記膨潤させたレジン中への浸透性が高まる。画して、上記優れた接着強度は大きく向上するものと考えられる。
ここで言う塩基性無機粒子とは、酸性水溶液中に粒子を添加した時に、pHを上昇させるものであれば、特に制限されないが、その等電点が、好ましくは6.0〜11.0、より好ましくは6.5〜10.0のものである。等電点が6.0より小さいと、本発明の接着剤成分である(A)ポリアミン化合物が粒子に吸着され、レジン製トレー表面への浸透性が低下傾向を示す。等電点が11.0を超えると、本発明の組成物中への粒子の分散度が低下傾向を示す。
無機粒子の等電点は、水系分散液中の粒子のゼータ電位が0mVとなるときのpHを示す。ゼータ電位は、レーザードップラー速度測定法により測定した値を言う。粒子が帯電している場合、水系分散液に電場をかける、粒子は電極に向かって移動する。粒子の移動速度は、粒子の荷電量に比例する。そのため、粒子の移動速度を測定することによって、ゼータ電位を求めることができる。等電点をもつ粒子の水系分散液は、pHを変化させると、あるpHでゼータ電位が0mVとなる。従って、水分散液に酸あるいはアルカリを添加してpHを連続的に変化させながらゼータ電位を追跡し、得られた測定データを、X軸にpH、Y軸にゼータ電位をプロットし、得られたプロットを考慮して先を描き、ゼータ電位が0mVとなる点を粒子の等電点とする。
塩基性無機粒子は、上記条件を満たすものであれば、特に限定されないが、その代表例を示すと、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ニッケル等の金属酸化物、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−チタニア、ジルコニア−チタニアなどの複合金属酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム等のフッ化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のの炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、通常品において等電点が前記特に好ましい範囲内にあり、レジンに含浸させた層が高強度になる観点から、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物が好適である。これらは単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。
無機粒子は後述する有機溶剤への分散性等を向上させるため、その表面をシランカップリング剤などで表面処理しても良い。但し、無機粒子が塩基性無機粒子である場合、表面処理剤によっては、その表面の塩基性を弱めてしまうことがある。したがって、このような場合には、該表面処理は、処理後の粒子においても、その塩基性の表面性状が保持される範囲内で施すのが好ましい。
表面処理に使用するシランカップリング剤は公知のものが使用でき、またその方法も特に制限なく公知の方法が使用可能である。具体的に例示すれば、無機粒子及びカップリング剤を、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合させ、エバポレーターや噴霧乾燥機で乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法や、無機粒子及びカップリング剤をアルコール等の溶剤中で攪拌下に加熱する方法等が挙げられる。
無機粒子の粒子径は、物理的勘合力を高め、レジン製トレーにおいて、トレーへの圧接力が弱い場合においても高い接着力を発揮させる観点からは、平均粒子径が10μm以下である必要がある。さらに溶剤中での沈降性を考慮すると、3μm以下が好適であり、1μm以下の粒子が特に好適である。また、平均粒子径はあまり小さくても接着剤の粘度が高くなりすぎるため、0.001μm以上であるのが好適である。本発明において、無機粒子の平均粒子径は、光回折法を用いた粒度分布計により測定した値をいう。
また、該粒子の形状についても特に限定されず、ゾルーゲル法によって合成された球状や略球状粒子、粉砕によって得られた不定形状粒子など任意の形状の粒子が使用可能である。
本実施の形態に係る接着剤において、平均粒子径が10μm以下の無機粒子の濃度は、接着性の観点から、接着剤100質量部中に、0.1質量部以上20質量部以下の範囲で配合するのが好ましい。接着剤の粘度およびトレーへの塗布性を考慮すると、この無機粒子の濃度は、接着剤100質量部中に、1質量部以上10質量部以下が特に好ましい。
本実施の形態に係る接着剤に用いられる有機溶剤は、レジン製トレーの表面を膨潤・溶解させ、無機粒子をレジン製トレー表面に固定させるために用いられる。したがって、ポリメチルメタクリレートに代表されるようなレジン製トレー成分を十分に溶解する必要性があり、溶解度パラメーター(δ)の値がδ=17.0〜23.0〔(MPa)1/2〕の範囲の有機溶剤を用いなければならない。具体的に例示すると、酢酸ブチル(17.4)、ジメチルエーテル(18.0)、キシレン(18.1)、トルエン(18.2)、テトラヒドロフラン(18.6)、酢酸エチル(18.6)、ベンゼン(18.8)、ジブチルフタレート(19.0)、メチルエチルケトン(19.0)、クロロホルム(19.0)、塩化メチレン(19.8)、アセトン(20.3)、o−ジクロロベンゼン(20.5)などが挙げられる。括弧内は溶解度パラメーター値を示す。溶解度パラメーター(δ)の値が17.0〔(MPa)1/2〕よりも小さい場合、または23.0を超える場合にはレジン製トレーを十分に膨潤、溶解することができない。レジン製トレー溶解性の観点から溶解度パラメーター(δ)の値がδ=18.0〜22.0〔(MPa)1/2〕の範囲の有機溶剤が好ましく、生体安全性からキシレン、トルエン、酢酸エチルが最も好ましい。これらの有機溶剤は混合して用いることができる。
また、上記ポリアミン化合物の溶解性、無機粒子の分散性および接着剤の操作性を向上させるために、上記以外の溶剤を添加することができる。そのような溶剤としては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、若しくはブタノール等のアルコール類が挙げられる。これら上記以外の溶剤を混合する場合においても、レジン製トレーの溶解性を保つために、混合溶剤の溶解度パラメーターは上記の範囲でなければならない。
本実施の形態に係る接着剤に用いられる有機溶剤は、レジン製トレーの表面を溶解させるために必要であり、その効果を得るためには、接着剤100質量部中に30質量部以上95質量部以下の配合量が好ましく、40質量部以上85質量部以下がより好ましい。
本発明の接着剤において有機過酸化物は、接着剤の性能をさらに向上させるために用いることができる。該有機過酸化物として、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、若しくはハイドロパーオキサイド類等を用いることができる。その中でも、ジアシルパーオキサイド類を用いることにより、より強固に接着する。ジアシルパーオキサイド類を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、若しくはm−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。また、十分に強力な接着力を得るためには、接着剤100質量部中に0.1質量部以上30質量部以下の有機過酸化物を含めるのが好ましく、接着剤100質量部中に1質量部以上12質量部以下の有機過酸化物を含めるのが特に好ましい。
本実施の形態に係る接着剤は、ポリアミン化合物および有機過酸化物を有機溶剤に混合、溶解させ、さらに、無機粒子を該溶液中に分散させておくのが好ましく、その製造方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による通常の混合のほかに、超音波分散、ディスパーザー分散、湿式ボールミル分散等の方法を用いることができる。
本実施の形態に係る接着剤の使用方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等でトレーに塗布、またはトレーに噴霧する方法を採用することができる。
接着剤をトレーに塗布または噴霧した後には、好ましくは、余剰な溶剤を揮発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、加熱乾燥と送風乾燥を組み合わせる熱風乾燥等を採用するのが好ましい。
本実施の形態に係る接着剤が適用されるアルジネート印象材としては、公知のものが何ら制限されることなく用いられる。アルジネート印象材の具体的な種類として、アルギン酸塩を主成分とする基材ペーストと、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材ペーストとを混合して用いるタイプ、あるいはアルギン酸塩および硫酸カルシウムを主成分とする粉体に水を混合して用いるタイプが挙げられる。
さらに詳しく述べると、ペーストを混合して用いるタイプのアルジネート印象材に用いられる基材ペーストは、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、水酸化カリウム、ポリアクリル酸および水等から構成される。同様に、硬化材ペーストは、粒状シリカ、流動パラフィン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、超微粒子シリカおよび硫酸カルシウム等から構成される。粉体に水を混合して用いるタイプのアルジネート印象材において、その粉体は、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、または硫酸カルシウム等から成る。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、接着試験方法を(1)に、使用したトレーの種類を(2)に、評価方法を(3)に、実施例および比較例で用いた化合物を(4)に示す。
(1)接着試験方法
予め調製した接着剤を、(2)に記す各トレーに筆で塗布し、エアーブローにて余剰の溶剤を揮発させた。そして、該トレーに練和したアルジネート印象材を盛り付けた後、130gf/cmまたは5gf/cmの荷重をかけて、37℃下で3分間放置した。その後、硬化した印象材をトレーから引き剥がした。
次に、(3)に記す評価基準に従い、印象材とトレーとの界面にて凝集破壊を引き起こしている面積の割合に基づいて、接着性能を評価した。全ての接着試験において、APミキサーII(株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプのアルジネート印象材「AP−1ペースト」(株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。
(2)トレーの種類
レジン製トレーとして、「オストロンII」(株式会社ジーシー製)を板状に硬化させたものを用いた。「オストロンII」の粉、液を混和したものをポリプロピレン(PP)フィルム上に載せ、その上からさらに別のPPポリプロピレンフィルムを乗せ圧接し硬化させたトレー〔接触型表面粗さ計(サーフコム、東京精密社製)で測定した表面粗さRa=0.1μm:実施例で使用〕、または上記硬化操作において上からのPPポリプロピレンフィルムを乗せての圧接をせずに硬化させたトレー〔表面粗さRa=0.8μm:比較例で使用〕、更に上記表面粗さ(Ra)0.1μmのトレーを製造について、その表面を注水下、P600の耐水研磨紙にて研磨したトレー(接触型表面粗さ計(サーフコム、東京精密社製)で測定した表面粗さRa=1.9μm:)を、夫々作製した。
金属製トレーとして、ニッケルめっきを施した真鍮製トレー「COE104」(株式会社ジーシー製)を用いた。
モデリングコンパウンド製トレーとして、「モデリングコンパウンド中性」(株式会社ジーシー製)を用いた(表中ではMC製トレーと略す)。
(3)評価基準
◎:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材の凝集破壊を引き起こす。
○:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の大部分が凝集破壊を引き起こすが、一部はトレーとの界面から剥がれる。
△:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の一部が凝集破壊を引き起こすが、大部分はトレーとの界面から剥がれる。
×:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材がトレーの界面で容易に剥がれる。
(4)実施例および比較例で用いた化合物の略称
(4−1)ポリアミン化合物
PA1:1,7−ヘプタンジアミン
PA2:キトサン(1分子中にアミノ基の数6個、分子量984)
PA3:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数16個、分子量1000)
PA4:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数53個、分子量3000)
PA5:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数263個、分子量15000)
(4−2)無機粒子
F1:レオロシールQS102(非晶質シリカ、株式会社トクヤマ製)平均粒子径0.012μm 等電点=4.0
F2:レオロシールZD30ST(表面処理非晶質シリカ、株式会社トクヤマ製)平均粒子径0.015μm 等電点=4.0
F3:ゾル−ゲル法で合成した球状のシリカ−ジルコニア粒子、平均粒子径0.4μm、等電点=2.0
F4:ゾル−ゲル法で合成した不定形シリカージルコニア粒子 平均粒子径5μm、等電点=2.0
F5:ゾル−ゲル法で合成した不定形シリカージルコニア粒子 平均粒子径30μm、等電点=2.0
塩基性無機粒子
F6:A31(アルミナ、日本軽金属株式会社製)平均粒径5μm、等電点=9.0
F7:AluC(アルミナ、日本アエロジル社製)平均粒径0.02μm、等電点=9.0
F8:P25(チタニア、日本アエロジル社製)平均粒径0.03μm、等電点=7.0
F9:Zr(ジルコニア、日本アエロジル社製)平均粒径0.028μm、等電点=8.0
なお、上記無機粒子の平均粒子径の測定は、光回折法による粒度分布測定(コールター、ベックマンコールター社製)により実施した。また、等電点の測定は、レーザードップラー速度測定法によるゼータ電位測定(Zetasizer Nano ZS90、MALVERN Instruments社製)により、pH=1.0〜11.0までの各フィラーのゼータ電位を測定し、ゼータ電位が0mVとなる時のpHを等電点とした。
(4−3)有機溶剤:(δ)〔(MPa)1/2
酢酸ブチル:17.4
キシレン:18.1
トルエン:18.2
酢酸エチル:18.6
アセトン:20.3
ヘプタン:15.1
エタノール:26.0
(4−4)有機過酸化物
BPO:過酸化ベンゾイル
実施例1
表1に示したように、ポリアミン化合物として1,7−ヘプタンジアミンを1.5g、溶剤としてキシレン8.0gをスクリュー管中に量りとり、撹拌し混合した。続いて、該スクリュー管中に無機粒子F1を0.5g量りとり、超音波分散によって粒子を分散させて接着剤を調製した。得られた接着剤を用いて、各種トレー(レジン製トレーは、表面粗さ(Ra)が1.9μmと0.1μmのものに対して試験)に対する接着試験を行った。
結果を表3に示した。圧接力が高い場合(130gf/cm)でも低い場合(5gf/cm)でも各種トレーに対して、△評価以上の良好な接着力を示した。特に、レジン製トレーとの接着に関して、トレー表面の表面粗さが大きい場合(表面粗さRa=1.9μm)でも小さい場合(表面粗さRa=0.1μm)でも、上記△評価以上の良好な接着力であった。
Figure 2010057905
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実施例2〜31
表1及び表2に示した各組成で実施例1と同様に接着剤を調製し接着試験を行った。結果を表3及び表4に示したが、いずれの条件においても比較的高い、または高い接着力を示し、圧接力が小さい場合においても接着力の大きな低下は見られなかった。特に(B)成分として塩基性無機粒子を使用すると、レジン製トレーとの接着において、その表面粗さ(Ra)が0.1μmの極小の場合でも、1.9μmの大きい場合と同等の高い接着力が得られた。
比較例1〜6
ポリアミン化合物を含まない試料(比較例1)、平均粒子径が10μmを超える無機粒子を用いた試料(比較例2)、無機粒子を含まない試料(比較例3)、溶解度パラメーターが17.0未満の溶剤を用いた試料(比較例4)、溶解度パラメーターが23.0を超える溶剤を用いた試料(比較例5、6)をそれぞれ調製し、各種トレー(レジン製トレーは、表面粗さ(Ra)が1.9μmと0.8μmのものに対して試験)に対する接着試験を行った。組成を表5に、結果を表6に示した。
比較例1では、表面粗さが大きく且つ圧接力が高い場合のレジン製トレーや、モデリングコンパウンド製トレーに対しては、物理的勘合力により夫々一定の接着性を示した。しかし、圧接力が低いまたは表面粗さ(Ra)が0.8μm程度に小さいレジン製トレーに対してや、金属製トレーに対しては接着性を示さなかった。比較例2〜6では、表面粗さが大きく且つ圧接力が高い場合のレジン製トレー、金属製トレー、およびモデリングコンパウンド製トレーに対しては夫々良好な接着性を示したものの、圧接力が低いまたは表面粗さが上記程度に小さいレジン製トレーに対しては、その接着力は大きく低下した。
Figure 2010057905
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実施例32、33
表7に示したように、実施例8および実施例29において、有機溶剤の使用量を減量し、この減量分として有機過酸化物を加えた各組成で、該実施例8および実施例28と同様に接着剤を調製し接着試験を行った。結果を表8に示したが、有機過酸化物を加えることにより、レジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーに対する接着力がさらに高くなっていることがわかった。
実施例34、35
表7に示したように、実施例32および実施例33において、(B)成分として塩基性無機粒子を使用した各組成で、該実施例32および実施例33と同様に有機過酸化物を加えた接着剤を調整し、接着試験を行なった。結果を表8に示したが、有機過酸化物と、塩基性フィラーの両方を添加することによって、レジン製トレーにおける圧接力が低い場合の接着力がさらに向上することがわかった。
実施例36
表7に示したように、実施例16において、有機溶剤の使用量を減量し、この減量分として有機過酸化物を加えた組成で、実施例16と同様に接着剤を調整し、接着試験を行なった。結果を表8に示したが、有機過酸化物と、塩基性フィラーの両方を添加することによって、レジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーへの接着力がさらに高くなっていることがわかった。
Figure 2010057905
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Claims (4)

  1. (A)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、(B)平均粒子径が10μm以下の無機粒子、および(C)溶解度パラメーター(δ)が17.0〜23.0〔(MPa)1/2〕である有機溶剤を含んでなることを特徴とする、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
  2. さらに、(D)有機過酸化物を含んでなる請求項1記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
  3. (C)有機溶剤が、キシレン、トルエン、酢酸エチルから選ばれた少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
  4. (B)平均粒子径が10μm以下の無機粒子が、塩基性無機粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
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