本発明においては、水溶性金属塩(a1)及び非晶質粉末(a2)から構成される複合粉末であって、該非晶質粉末(a2)は、シリカ系微粒子と、該シリカ系微粒子の表面を被覆する、ジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有する酸化物とを含んでなり、該水溶性金属塩(a1)が、該非晶質粉末(a2)の酸化物の被覆上に分散している、新規な複合粉末(A)が用いられる。
本発明の歯科用組成物は、イオン徐放性を有するものであり、水溶性金属塩(a1)は、その放出されるべきイオンのイオン源となるものである。水溶性金属塩(a1)は、水に溶解してイオンを放出するものであれば特に限定されず、一般に水に難溶性といわれるものであっても、僅かに溶解する限り使用でき、例えば、25℃の中性の水に対する溶解度が0.1重量%以上であるものが好適に使用される。歯科用途においては、歯の表面の再石灰化や、歯の抗齲蝕性の付与の観点からは、フッ素イオンを含むものが好ましく用いられる。また、歯科用途において、水溶性金属塩が水に溶解することによって、ハイドロキシアパタイトの材料となるカルシウムイオンやリン酸イオンを遊離するもの、及びハイドロキシアパタイトの結晶化を促進すると考えられている炭酸イオンや、マグネシウムイオンを遊離するものも用いられている。このような観点から、水溶性金属塩(a1)は、金属フッ化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属塩化物、及びアルカリ土類金属塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが望ましく、金属フッ化物が特に望ましい。
金属フッ化物としては、具体的には、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン(II)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、フッ化コバルト(II)、フッ化銅(II)、フッ化亜鉛、フッ化アンチモン(III)、フッ化鉛(II)、フッ化銀(I)、フッ化カドミウム、フッ化錫(II)、フッ化錫(IV)、フッ化ジアンミン銀、フッ化アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素カリウム、フルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロ錫(IV)ナトリウム、ヘキサフルオロ錫酸(IV)アラニン、ペンタフルオロ二錫酸(II)ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウム、ヘキサフルオロマグネシウム等を用いることができる。
なかでも、周期表の第I属と第II属の金属のフッ化物であるフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムなどが好ましく、特にフッ化ナトリウムが好ましい。
その他の水溶性金属塩(a1)の具体例としては、ビス(リン酸二水素)カルシウム、リン酸四カルシウム、塩化カルシウムなどの水溶性カルシウム塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素マグネシウムなどの水溶性リン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩などをあげることができる。これらの水溶性金属塩は、それぞれ単独で又は二種以上組み合わせて用いられる。
本発明に用いられる該非晶質粉末(a2)は、シリカ系微粒子と、該シリカ系微粒子の表面を被覆する、ジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有する酸化物とを含んでなる。
本発明において、シリカ系微粒子とは、酸化物換算でSiO2を80モル%以上含有する微粒子のことをいう。SiO2以外の成分は、本発明の効果を阻害しない成分であれば特に制限がなく、例えば、TiO2、ZrO2、Al2O3、Na2O等が挙げられる。SiO2の含有量は90モル%以上が好ましく、実質的に(すなわち不可避的不純物を除いて)100モル%であることが好ましい。
前記シリカ系微粒子の平均粒子径は、2〜300nmであることが好ましい。平均粒子径が2nm未満では、最終的に歯科用組成物の硬化物の機械的強度が不十分となるおそれがあり、300nmを超えると、イオン徐放性が悪くなったり、硬化物の透明性が低下するおそれがある。この観点から、該シリカ系微粒子の平均粒子径は、より好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは5〜50nmの範囲にある。なお、シリカ系微粒子の平均粒子径は、動的散乱法により求めることができる。例えば、シリカ微粒子を含む水分散ゾル(固形分含有量20重量%)7.0gを長さ3cm、幅2cm、高さ2cmの透過窓付き円柱状ステンレスセルに入れて、動的散乱法による超微粒子粒度分析装置(Honeywell社製、型式9340-UPA150)を用いて、粒子径分布を測定し、これより平均粒子径を算出することができる。
なお、本発明において「非晶質」とは、無機粉末をX線回折装置(リガク社製RINT−1400、X線回折法)を用いて、下記条件によりX線回折ピークを測定しても、回折ピークが認められないことを意味する。
〔X線回折の測定条件〕
2θ:10〜70°
スキャンスピード:2°/min
管電圧:30kV
管電流:130mA
シリカ系微粒子の表面を被覆する酸化物は、少なくともジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有するものである。当該酸化物は、チタン原子、アルミニウム原子等をさらに含んでいてもよい。このような酸化物がシリカ系微粒子の表面を被覆することにより、複合粉末(A)の屈折率が、シリカ単体の屈折率よりも高くなり、その結果、重合性単量体(B)の硬化物の屈折率と近似するため、本発明の歯科用組成物の透明性が優れたものとなる。またさらに、硬化物の機械的強度が優れたものとなる。かかる酸化物の構造の具体例を以下に示す。
非晶質粉末(a2)において、酸化物の被覆は、シリカ系微粒子を1個ずつ被覆してもよいし、複数のシリカ系微粒子を被覆していてもよい。好ましい形態では、酸化物の被覆は、複数のシリカ系微粒子を被覆する。このとき、シリカ系微粒子の酸化物の被覆と、当該シリカ系微粒子に近接するシリカ系微粒子の酸化物の被覆とが、互いに連結した構造を非晶質粉末(a2)が有するが、シリカ系微粒子の酸化物の被覆、及び当該シリカ系微粒子に近接するシリカ系微粒子の酸化物の被覆が、伸長して互いに連結した構造を非晶質粉末(a2)が有することが好ましい。このように、酸化物の被覆によってシリカ系微粒子が連結している場合には、シリカ系微粒子が分子間力により凝集している場合よりも、シリカ系微粒子同士が強く結合した状態にある。従って、このような非晶質粉末(a2)を歯科材料に用いると、機械的強度をより高めることができる。さらに、歯科材料が磨耗する際には、酸化物の被覆の連結部が破断することにより、非晶質粉末(a2)の一部分のみが脱落するため、研磨滑沢性もより高くなる。ここで、当該連結構造の外形において、酸化物の被覆が連結する部分が、酸化物がシリカ系微粒子を被覆している部分よりも細くなっている、言い換えると、酸化物の被覆が連結する部分の太さが、その太さ方向におけるシリカ系微粒子の最大寸法と2箇所の酸化物の被覆の厚さとの和よりも小さいことが、研磨滑沢性の観点から好ましい。
また、当該非晶質粉末(a2)の構造においては、1個のシリカ系微粒子の酸化物の被覆に、当該シリカ系微粒子と近接する複数のシリカ系微粒子の酸化物の被覆が連結していることがさらに好ましい。このとき、非晶質粉末(a2)は、1個のシリカ系微粒子が中心となって、複数のシリカ系微粒子が酸化物の被覆を介してそれに連結した、テトラポッド型、星型等の構造を有していてもよく、また、1個のシリカ系微粒子と酸化物の被覆を介して連結したシリカ系微粒子が、さらに別のシリカ系微粒子と連結していくことにより形成されるような、分岐した三次元ネットワーク状の構造を有していてもよい。この三次元ネットワーク状の構造では、分岐の先端部、分岐点にシリカ系微粒子が存在しており、また、分岐の先端部及び分岐点以外にもシリカ系微粒子が存在していてもよい。非晶質粉末(a2)は、前記酸化物の被覆を有する複数のシリカ系微粒子が、当該酸化物の被覆において連結して凝集した、多孔質状の粒子構造を有することが特に好ましい。このような多孔質状の粒子構造を非晶質粉末(a2)が有する場合には、水溶性金属塩(a1)を、非晶質粉末の外側表面にある酸化物の被覆上だけでなく、非晶質粉末の内部表面にある酸化物の被覆上にも保持することができ、イオン徐放性により優れたものとなると同時に、イオン放出に伴う審美性と機械的強度の低下がより抑制されたものとなる。本発明に用いられる非晶質粉末(a2)の例として、そのSEM写真を図1及び図2に示す。
本発明で用いられる複合粉末(A)においては、上述の水溶性金属塩(a1)が、上述の非晶質粉末(a2)の酸化物の被覆上に分散している。
本発明の歯科用組成物から得られた硬化物においては、該複合粉末(A)に含まれる水溶性金属塩(a1)が、口腔内の唾液環境下で徐々に溶解することで良好なイオン徐放性を発現するが、該水溶性金属塩(a1)の粒子径は、小さいほど好ましい。従って、本発明においては、該水溶性金属塩(a1)が、該非晶質粉末(a2)の酸化物の被覆上に、最大粒子径0.2μm以下の結晶として分散していることが好ましい。水溶性金属塩(a1)の最大粒子径が0.2μmを超えると、複合粉末中での光散乱の原因となり、本発明の歯科用組成物の透明性が低下するおそれがある。また、粒子径が大きくなると、唾液環境中でのイオン徐放性において、ごく短期間で多量のイオンが放出された後は、殆どイオンが徐放されなくなるという現象(バースト)が起き易くなる。この観点から、水溶性金属塩(a1)の最大粒子径は、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下である。なお、この最大粒子径は、複合粉末(A)の電子顕微鏡写真を撮影して確認することができる。
水溶性金属塩(a1)の含有量は、徐放させるイオンの種類と徐放量を鑑みて設定されるが、添加量が多いほどイオン徐放量が多くなる一方で、複合粉末自体の強度が低下する傾向にあるので、本発明の歯科用組成物の使用目的により適宜設定される。通常は、非晶質粉末(a2)1重量部に対して、水溶性金属塩(a1)の含有量は0.001〜0.2重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.05重量部の範囲にある。
複合粉末(A)(非晶質粉末(a2))は、歯科用組成物の硬化物の機械的強度や耐磨耗性、フィラー含有量の向上の観点から、焼成体を用いることが好ましい。
本発明で用いられる複合粉末(A)の平均粒子径は、通常、0.5〜100μmの範囲にある。0.5μmより小さいと、本発明の歯科用組成物のペーストがべた付いて操作性が著しく悪くなったり、複合粉末(A)の組成物中への配合量を上げにくくなる。100μmをよりも大きくなると、歯科用組成物のペーストがざらついて同様に操作性が悪くなったり、硬化物の機械的強度が低下する。複合粉末(A)の平均粒子径は、好ましくは1〜50μmの範囲、より好ましくは2〜20μmの範囲、さらに好ましくは、3〜10μmの範囲である。なお、複合粉末(A)の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により、求めることができる。具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。また、複合粉末(A)が凝集粒子であった場合には、上記の平均粒子径は、凝集粒子の平均粒子径である。
本発明で用いられる複合粉末(A)の比表面積は、50〜300m2/gの範囲にあることが好ましい。50m2/gより小さいとイオン徐放速度が低下する傾向にあり、300m2/gより大きいと、歯科用組成物への複合粉末(A)の配合量を上げにくくなり、機械的強度が低下するおそれがある。複合粉末(A)の比表面積は、より好ましくは80〜250m2/g、さらに好ましくは100〜200m2/gの範囲にある。当該比表面積は、例えば、BET法により求めることができる。また、当該比表面積は、複合粉末(A)が凝集粒子であった場合には、凝集粒子のものである。なお、複合粉末(A)を後述の方法で製造した場合には、比表面積が上記の範囲にあるものを得やすい。
本発明の複合粉末(A)の屈折率は、1.48〜1.60の範囲にあることが望ましい。これは、本発明で用いられる後述する重合性単量体(B)の、重合硬化後の屈折率が通常これと同じ範囲にあるためであり、この屈折率範囲にある複合粉末(A)を用いると、硬化物の透明性が高い歯科用組成物を得やすいことによる。この屈折率は、より好ましくは1.50〜1.58、さらに好ましくは1.52〜1.56の範囲にある。なお、複合粉末(A)の屈折率は、上記酸化物の被覆中の金属元素の比率を調整する、上記酸化物の被覆層の厚さを調整する、後述の表面処理層を設ける等によって、制御することができる。
本発明で用いられる複合粉末(A)の製造方法は、まず非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液を調製し、該ゾル溶液と、水溶性金属塩(a1)の溶液を均一に混合し、得られた混合液から溶剤を除去し、得られた乾燥物を、必要に応じて加熱焼成、さらに必要に応じて粉砕して適切な粒子径範囲に調整することで製造することができる。
非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液は、例えば、次の工程を実施することで製造することができる。
(1)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液に、アルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液を調製する工程。
(2)平均粒子径2〜300nmのシリカ系微粒子を水に分散させたシリカゾルに、前記工程(1)で得られた混合水溶液と珪酸液の水溶液を撹拌しながら添加する工程。
(3)前記工程(2)で得られた混合水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする工程。
(4)前記工程(3)で得られた混合水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理して、シリカ系微粒子の表面が少なくともジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有する酸化物で被覆された非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液を調製する工程。
前記工程(1)で使用される酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・xH2O)は、ジルコニウム塩を水溶液中で加水分解する、あるいはジルコニウム塩の水溶液中にアルカリ又はアンモニアを添加して中和反応を起こさせる等、従来公知の方法で調製することができる。たとえば、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム及びアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウムから選ばれた1種又は2種以上のジルコン酸塩の水溶液にアンモニア又はアンモニア水を撹拌下で添加して得られる中和反応物を洗浄したものなどがある。
前記工程(1)で使用されるアルカリ金属水酸化物(M2O)としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどがあるが、中でも水酸化カリウムを使用することが好ましい。
このアルカリ金属水酸化物は、前記酸化ジルコニウム水和物に対して、モル比(M2O/ZrO2・xH2O)が1/1〜10/1となるような割合で添加することが好ましい。
また、前記工程(1)で使用される過酸化水素(H2O2)は、前記酸化ジルコニウム水和物に対して、モル比(H2O2/ZrO2・xH2O)が5/1〜30/1となるような割合で添加することが好ましい。
前記工程(2)で使用されるシリカゾルとしては、平均粒子径が2〜300nmのシリカ系微粒子を含むものであれば、市販のもの(例えば、触媒化成工業(株)製SI−30等)を使用することができる。また、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子の濃度は、0.5〜5重量%の範囲にあることが好ましい。
前記工程(2)で使用される珪酸液の水溶液(以下、単に「珪酸液」という場合がある)としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、第4級アンモニウムシリケート等の有機塩基の珪酸塩などの珪酸塩水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものがある。
この珪酸液の水溶液の中でも、pHが2〜4の範囲にあり、ケイ素成分の含有量がSiO2換算基準で0.5〜5重量%の範囲にあるものを使用することが好ましい。
前記工程(1)で得られる混合水溶液-(1)及び前記珪酸液は、該混合水溶液-(1)中に含まれるジルコニウム成分をZrO2で表し、前記珪酸液中に含まれるケイ素成分をSiO2-(1)で表したとき、モル比(ZrO2/SiO2-(1))が1/16〜1/1となるようにそれぞれ調整して、前記シリカゾル中に共にゆっくりと添加することが好ましい。
また、前記シリカゾル中へのこれらの添加量は、該シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子上への被覆度合いによっても異なるが、該シリカ系微粒子をSiO2-(2)で表したとき、重量比{(ZrO2/SiO2-(1))/SiO2-(2)}が7/100〜15/10の範囲にあることが好ましい。なお、前記シリカゾルは、これらを添加する前に、あらかじめ70〜95℃の温度に加熱しておくことが好ましい。
このようにして、前記シリカゾル中に前記混合水溶液-(1)及び前記珪酸液の水溶液を撹拌しながら添加すると、この混合水溶液-(2)中で前記ジルコニウム成分と前記ケイ素成分の加水分解反応が起こって、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子の表面が、前記成分の部分加水分解物や加水分解物で被覆される。
強いアルカリ性を呈する前記混合水溶液-(1)の添加に伴い、前記混合水溶液-(2)中のpHは経時的に高まるので、該混合水溶液のpHが11に近づいた段階で、前記混合水溶液-(1)と前記珪酸液の添加を中止することが望ましい。ここで、前記pHが11を超えると、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子がアルカリにより混合水溶液-(2)中に溶解し始めるので、好ましくない。
よって、pHが11になった段階で前記混合水溶液-(2)及び前記珪酸液の添加が完了していない場合は、以下に述べる工程(3)に処して脱アルカリした後、この操作を再度又は繰り返して行うことが好ましい。
前記工程(3)では、前記工程(2)で得られた混合水溶液-(2)を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする。ここで使用される陽イオン交換樹脂としては、特に制限されるものではないが、三菱化学(株)製のSK1BH等の陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。
また、この工程では、前記混合水溶液-(2)を該混合水溶液のpHが7.0〜10.0となるように脱アルカリ処理することが好ましい。
前記工程(4)では、前記工程(3)で得られた混合水溶液-(3)を反応容器中に入れて、100℃〜350℃の温度で水熱処理する。ここで、前記反応容器としては、0.5〜16.5MPaの圧力に耐える耐圧・耐熱容器であれば特に制限されるものではないが、ステンレススチール製のオートクレーブを用いることが好ましい。
このようにして、シリカ系微粒子の表面が少なくともジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有する酸化物で被覆された非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液-(4)が得られる。ここで得られる非晶質粉末(a2)は、例えば、図1に示すように、シリカ系微粒子を被覆する酸化物及び近接するシリカ系微粒子を被覆する酸化物が、伸長して互いに連結した構造をとることによって、酸化物の被覆が複数のシリカ系微粒子を被覆している構造を有している。また、得られる乾燥体の全体構造は、例えば、図2に示すように、前記酸化物の被覆を有する複数のシリカ系微粒子が、当該酸化物の被覆において連結して凝集した、多孔質状の粒子構造を有している。
最終的に複合粉末(A)を製造する工程はさらに以下のとおりである。
(5)上述のような方法で製造された、非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液に、別に用意した水溶性金属塩(a1)の水溶液を加えて均一な混合物とする工程。
(6)該混合物から水などの溶剤を除去して乾燥する工程。
前記工程(5)においては、非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液-(4)に、別に用意した水溶性金属塩(a1)の水溶液を加えて攪拌して均一な混合物とする。その後、工程(6)において、この混合物に含まれる水などの溶剤を、熱風乾燥機、凍結乾燥機、スプレードライヤー等を用いて蒸発させる。
前記工程(6)においては、前記混合物を乾燥する際の乾燥速度が、複合粉末(A)において非晶質粉末(a2)の酸化物の被覆上に分散する水溶性金属塩(a1)の結晶の粒子径に関与するため、該結晶が所望の粒子径を有するものとなるように混合物の乾燥速度を調節する必要がある。すなわち、混合物中の水の蒸発に伴って混合物の内部では水溶性金属塩が徐々に析出してくるが、蒸発の速度が速いほど該結晶の粒子径が大きくなる傾向があるので、該結晶の粒子径を小さく調節するためには、乾燥速度をなるべく遅く設定することが望ましい。乾燥は通常、常圧下、室温(20℃)〜180℃において数時間〜数十日間程度で行うことが好適である。
なお、複合粉末(A)や水溶性金属塩(a1)を溶解及び/又は分散するための溶媒としては、除去し易く、歯科用途に悪影響を及ぼさないものであればよく、前記例示の方法において使用する水以外にも、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類を水と混合して、もしくは単独で使用してもよい。なお、当該低級アルコール類は複数種類を併用してもよい。
乾燥して得られた固形物を、必要に応じて加熱処理(通常、150〜250℃の範囲)し、必要に応じて得られたバルクを粉砕することで本発明で用いる複合粉末(A)が得られる。乾燥固形物を粉砕した後に加熱処理しても構わない。粉砕方法は公知の方法が何ら制限無く用いることができ、例えば、ボールミル、ジェットミル、乳鉢による粉砕などを採用することができる。
本発明に用いられる複合粉末(A)としては、上記で得られた非晶質の乾燥粉体又はその粉砕物をそのまま使用してもよいが、機械的強度や耐磨耗性などの観点から、300〜900℃の温度で焼成することが好ましい。焼成の方法としては、公知の方法を何ら制限なく用いることができるが、好ましくは石英坩堝を用いて電気炉中で焼成する方法が好ましい。このとき、水溶性金属塩(a1)が、前記非晶質乾燥粉体(a2)中に均一に分散した状態の複合粉末(A)を、そのまま焼成することができる。
このように前記非晶質の乾燥粉体を焼成して、非晶質粉末(a2)の焼成体(非晶質の焼成粉体)を容易に得ることができる。なお、焼成前後において、焼成体の粒子形状及び塩の分散状態は、その形態収縮が一部見られるものの、殆ど変化は見られない。
従って、非晶質粉末(a2)の焼成体も、前記酸化物の被覆を有する複数のシリカ系微粒子が、当該酸化物の被覆において連結して凝集した、多孔質状の粒子構造を有し得る。焼成工程で得られた焼成体は、必要に応じてすり鉢やボールミル等を用いた粉砕工程に供してその粒子径を調整するとよい。
本発明で用いる複合粉末(A)は必要に応じて、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機金属化合物により表面処理が施されてもよい。
有機ケイ素化合物としては、R1 nSiX4-nで表される化合物が挙げられる(式中、R1は、炭素数1〜12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは、0〜3の整数である。R1及びXが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。)。
具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等)等が挙げられる。
この中でも、重合性単量体(B)と共重合し得る官能基を有するカップリング剤、例えばω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が特に好ましく用いられる。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテート等が挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
さらに、本発明の歯科用組成物に含まれる複合粉末(A)においては、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属元素が含まれるため、かかる表面処理剤としては特開平2−28204号公報に示されたような有機リン酸化合物も好ましく用いられることがある。
表面処理方法は特に限定されるものではなく一般に公知の方法を適用できる。表面処理剤を2種以上使用する場合は、2種以上の有機金属化合物の混合物の表面処理層としてもよいし、複数の有機金属化合物層が積層した複層構造の表面処理層としてもよい。
このような表面処理により、複合粉末(A)と重合性単量体(B)とのなじみが改善されて分散性及び密着性を向上させることができ、その結果硬化物の機械的強度を高めることができる。また、複合粉末(A)からのイオン徐放量を適切な速度にコントロールすることができることがある。
本発明の重合性単量体(B)は、公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。重合性単量体(B)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸などのエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体などが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。なお、本発明において(メタ)アクリルの表記はメタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
(メタ)アクリル酸エステル系の重合性単量体の例を以下に示す。
(イ)一官能性(メタ)アクリレート
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
(ロ)二官能性(メタ)アクリレート
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、通称BisGMA)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−((メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(通称UDMA)などが挙げられる。
(ハ)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンなどが挙げられる。
前記重合性単量体は、いずれも、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
なお、歯質、金属、セラミックスなどに対する接着性を向上させる場合、本発明の重合性組成物には、これらの被着体に対する接着性を付与する機能性モノマーを重合性単量体として含有させることが好ましい場合がある。
機能性モノマーとして、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェートなどのリン酸基を有するモノマー、及び11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸などのカルボン酸基を有するモノマーは、歯質や卑金属に対して優れた接着性を呈するので好ましい。
また、機能性モノマーとして、例えば、10−メルカプトデシル(メタ)アクリレート、6−(4−ビニルベンジル−n−プロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオン、特開平10−1473号公報に記載のチオウラシル誘導体や特開平11−92461号公報に記載の硫黄元素を有する化合物は、貴金属に対して優れた接着性を呈するので、好ましい。
さらに、機能性モノマーとして、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤は、セラミックス、陶材、歯科用コンポジットレジンへの接着に効果的である。
本発明の歯科用組成物においては、複合粉末(A)と重合性単量体(B)の配合量は、その使用目的によって異なるが、通常、重合性単量体(B)100重量部に対して、複合粉末(A)の配合量は1〜500重量部、好ましくは5〜300重量部、より好ましくは10〜200重量部の範囲にある。
本発明の重合性組成物には、重合開始剤(C)を予め添加し、重合硬化を容易にさせておくことが好ましい。重合開始剤としては、加熱重合開始剤、常温重合開始剤、光重合開始剤などの公知の重合開始剤を用いることができる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)のうち、加熱重合型開始剤としては、40〜130℃に使用温度範囲を有する過酸化物、アゾ化合物などの重合開始剤が挙げられる、特に有機過酸化物が好ましく用いられる。かかる有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができるが、代表的な有機過酸化物としてはケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
上記加熱重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
本発明に用いられる加熱重合開始剤の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体(B)100重量部に対して、重合開始剤を0.01〜10重量部含有してなることが好ましく、0.1〜5重量部含有してなることがより好ましい。重合開始剤の配合量が0.01重量部未満の場合、重合が十分に進行しないおそれがあり、より好適には0.1重量部以上である。一方、重合開始剤の配合量が10重量部を超える場合、組成物の保存安定性が悪くなったり、硬化物の機械的強度が低下したりするおそれがあるので、より好適には5重量部以下である。
常温重合開始剤としては、例えば、酸化剤と還元剤とからなるレドックス系の重合開始剤を好適に用いることができる。この場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。
レドックス系の重合開始剤の酸化剤としては、例えば、前記のケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートなどの有機過酸化物が好ましい。
レドックス系の重合開始剤の還元剤としては、例えば、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミンが好ましい。
芳香族第3級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジt−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジイソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジt−ブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
脂肪族第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、レドックス系の重合開始剤には、スルフィン酸又はその塩などの促進剤を用いてもよい。促進剤として用いられるスルフィン酸又はその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−イソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
常温重合開始剤の配合量は、重合性単量体(B)100重量部に対して、酸化剤が0.1〜5重量部、還元剤が0.1〜5重量部、促進剤が0.05〜5重量部の範囲にあることが好ましい。
光重合開始剤としては、特殊な光照射装置(例えば、紫外線照射装置)を必要としないで、従来から広範に使用されている可視光領域の光照射装置を使用することができることから、波長350〜700nmの光で励起される光重合開始剤が好ましい。
かかる光重合開始剤としては、例えばアシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物、クマリン類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体などが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるアシルホスフィンオキサイド類の例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
さらに、欧州特許第0009348号明細書又は特開昭57−197289号公報に開示されている、分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン又はアンモニウムイオンを有する水溶性アシルホスフィンオキサイド類も用いることができる。
かかる上記水溶性アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、モノメチルアセチルホスホネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソプロピル)ホスホネート・ナトリウム、モノメチルベンゾイルホスホネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソブチル)ホスホネート・ナトリウム、モノメチル(2−メチル−1−オキソプロピル)ホスホネート・ナトリウム、アセチルホスホネート・ナトリウム、モノメチルアセチルホスホネート・ナトリウム、アセチルメチルホスホネート・ナトリウム、メチル4−(ヒドロキシメトキシホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル−4−オキソホスホノブタノエート・モノナトリウ厶塩、アセチルフェニールホスフィネート・ナトリウム塩、(1−オキソプロピル)ペンチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシペンチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルホスフィネート・ナトリウム、アセチルエチルホスフィネート・ナトリウム、メチル(1,1−ジメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・リチウム塩、4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリディン−2−イル)ホスホナイト・ナトリウム塩、(2−メチルパーヒドロ−1,3−ディアジン−2−イル)ホスホナイト・ナトリウム塩、アセチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)ホスホナイト・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスホナイト・ナトリウム塩、メチル(2−メチルオキサチオラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2,4,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1,1−プロポキシエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1−メトキシビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1−エチルチオビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−ジアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−チアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(2,2−ジシアノ−1−メチルエチニル)ホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートオキシム・ナトリウ厶塩、アセチルメチルホスフィネート−O−ベンジルオキシム・ナトリウム塩、1−[(N−エトキシイミノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイミノエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルヒドラゾンエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、[1−(2,4−ジニトロフェニルヒドラゾノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、(1−シアノ−1−ヒドロキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(ジメトキシメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、フォーミルメチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−オキソプロピル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ドデシルグアニジン塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・イソプロピルアミン塩、アセチルメチルホスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、1,3,5−トリブチル−4−メチルアミノ−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、1−ブチル−4−ブチルアミノメチルアミノ−3,5−ジプロピル−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
これらのアシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、特に好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、特に好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
上記光重合開始剤として用いられるケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるクマリン類の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリンなどの特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体の例としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどの特開平10−245525号公報に記載されている化合物などが挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、並びにα−ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
光重合開始剤は、いずれも、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
光重合開始剤の配合量は、重合性単量体(B)100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。
なお、光重合開始剤を用いる場合、光硬化性を促進させるために、光重合開始剤と還元剤とを併用することが好ましい。
還元剤としては、主として、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物などが挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
第3級アミン類の例としては、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
アルデヒド類の例としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。
チオール基を有する化合物の例としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸などが挙げられる。
還元剤の量は、重合性単量体(B)100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
本発明の歯科用組成物においては、本発明の新規な複合粉末(A)に加えて、さらに別の公知のフィラーが配合されていてもよい。
かかるフィラーとしては、有機フィラーと無機フィラーに大別される。有機フィラーの例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体などの重合体;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリトリフルオロ塩化エチレン(PCTFE)などのフッ素樹脂などが挙げられ、これらは、ぞれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
無機フィラーの例としては、各種ガラス類〔二酸化ケイ素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する。例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)等の一般的な組成のガラス粉末;バリウムガラス(GM27884、8235、ショット社製、Ray−SorbE2000、Ray−SorbE3000、SpecialtyGlass社製)、ストロンチウム・ボロシリケートガラス(Ray−SorbE4000、SpecialtyGlass社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、ショット社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018−091、G018−117、ショット社製)、などの歯科用ガラス粉末〕、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイトなど)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられ、これらは、ぞれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、これらの無機フィラーに重合性単量体をあらかじめ添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いても差し支えない。
本発明の重合性組成物には、その目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤などをさらに添加することもできる。
抗菌性を期待する場合は、例えば、セチルピリジニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイドなどの抗菌活性を有する界面活性剤や光触媒性酸化チタンを添加することができる。
粘性や塗布性を調整する場合は、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムなどの増粘剤や、粒子径が0.1μm以下のミクロフィラーシリカ〔例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル〕を添加することができる。
本発明の歯科用組成物は、硬化物の機械的強度及び透明性に優れる。さらに、その硬化物が水と接触すると、イオンが水中へ放出される。イオンの水中への放出現象は、イオン交換水あるいはほぼ中性に調整された緩衝液中に該複合材料の重合硬化物を浸漬し、該硬化物から溶出する該水溶性金属塩、及び/又は該水溶性金属塩を構成するイオンを、原子吸光光度法やイオン種に適応したイオン電極を用いて電気化学的に測定することによって定量的に確認することができる。放出量としては、該複合材料の重合硬化物の1cm2の研磨表面から1日に放出される量が、少なくとも5μg以上であることが好ましい。
本発明の歯科用組成物は、常法に従い、例えば、歯科用複合充填材料、歯冠用材料などの歯科用コンポジットレジン、合着用レジンセメント、歯列矯正用接着剤、窩洞塗布用接着剤及び歯牙裂溝封鎖材などの歯科用接着剤、義歯床用材料、義歯床用粘膜調整材、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物へのコーティング剤、表面滑沢剤、歯科用マニキュアなどの歯科材料として好適に用いることができる。また、本発明の歯科用組成物を重合硬化した硬化物を成型加工して、人工歯、義歯、CAD/CAM用レジンブロック等としても用いることができる。これらの中でも、本発明の歯科用組成物は、歯科用コンポジットレジンとして有利に用いることができ、当該コンポジットレジンは、硬化物の機械的強度、研磨滑沢性、及び透明性に優れ、口腔内環境に有用なイオンを徐放することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる試験方法、材料等を以下にまとめて示す。
〔粉末の粒子径の測定〕
製造した粉末の粒子径の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)を用いた。分散媒には、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いた。
〔粉末の比表面積〕
湯浅アイオニクス社製カンタソーブQS−13型を用いて測定した。測定原理はBET法である。
〔屈折率〕
アッベ屈折計を用い、ナトリウムのD線を光源として、イオウの溶解したジヨードメタン、1−ブロモナフタレン、サリチル酸メチル、ジメチルホルムアミド等を液体として液浸法で測定した。なお、各実施例及び比較例で用いた重合性単量体(B)の重合体の屈折率の測定には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(TMDPO)を1重量%溶解した重合性単量体を脱泡後、光重合させて得た硬化物を、5mm×10mm×20mmの直方体に成形したものを試験片として用いた。
〔複合粉末の電子顕微鏡観察(SEM観察)〕
走査型電子顕微鏡S−4000(日立製作所社製)を使用し、複合粉末(A)に含まれる各構成成分の該複合粉末(A)中における微細な相分散状態の観察を2次電子像の観察により行った。
複合粉末(A)を含有する歯科用組成物の重合硬化物は、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し、複合粉末(A)に含有される水溶性物質が溶出しないように、ヘキサンを用いて研磨面を洗浄した。複合粉末(A)の微細構造の観察では、サンプルの研磨表面をカーボン蒸着し、電子銃の印加電圧を5keVとした。非晶質粉末(a2)と水溶性金属塩(a1)の分散状態の観察では、2次電子の検出強度差を利用するが、2次電子の検出強度差が最適になるようサンプル表面への導電性物質の真空蒸着条件や、電子銃の印加電圧を調整した。また、併せて複合粉末(A)中の水溶性金属塩(a1)の結晶からなる相の最長の長さ(長径)と最短の長さ(短径)(nm)を、電子顕微鏡写真上で任意に100点測定した。100点のうち最長の長径を最大粒子径とした。また長径と短径の平均値を粒子径とし、測定した100点の平均値を平均粒子径とした。
〔硬化物の曲げ強度〕
歯科用組成物の硬化物の試験片(2mm×2mm×30mm)を作製した。試験片は、37℃の水中に24時間浸漬し、万能試験機(インストロン社製)を用いて、クロスヘッドスピードを1mm/minに設定して、支点間距離20mmで3点曲げ試験法により曲げ強さを測定した。
〔硬化物の透明性〕
歯科用組成物の硬化物の円盤状試験片(20mmφ×1.0mm)を作製した。分光測色計(ミノルタ社製、CM−3610d)を用いて、C光源測色視野2度で、試験片の背後に標準白板を置いて色度を測定した場合の明度(L1)と、同じ試験片の背後に標準黒板を置いて色度を測定した場合の明度(L2)を測定し、両者の差(ΔL=L1−L2)を算出して、透明度の指標とした。ΔLの値が大きいほど硬化物の透明度が高いことを意味する。
〔硬化物からのイオン徐放量〕
厚さ1mm、直径18mmの歯科用組成物の硬化物円盤を作製し、表面をSiC研磨紙#1000で研磨して、pH7のリン酸バッファー中に浸して、37℃の恒温漕中に1か月間保管した。1か月間のフッ素イオンのリン酸バッファー中への放出量を、フッ素電極を接続したデジタルイオンメーター920−A(オリオン社製)で測定した。なお、歯科用組成物からのイオン放出量は、前記硬化物円盤の円形表面の単位面積当りでのフッ素イオンの放出量(μg/cm2)として表わした。
〔実施例1〕
(1)非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液の調製
オキシ塩化ジルコニウム250kg(ZrOCl2・8H2O、太陽鉱工(株)製)を温度15℃の純水4375kgに加えて攪拌し、オキシ塩化ジルコニウムを溶解させた。
前記オキシ塩化ジルコニウム水溶液に、15重量%濃度のアンモニア水250Lを攪拌下でゆっくりと添加して、15℃の温度条件下で前記オキシ塩化ジルコニウムの中和反応を行い、酸化ジルコニウム水和物の沈殿を含むスラリーを得た。このスラリーのpHは8.5であった。
次いで、このスラリーを濾過し、得られたケーキ状物質を純水で繰り返し洗浄して、前記中和反応での副生物や未反応物などを除去した。その結果、酸化ジルコニウム水和物をZrO2換算基準で10重量%含み、残余物が水分であるケーキ状物質860kgを得た。
次に、前記酸化ジルコニウム水和物を含むケーキ状物質5416gに純水45800gを加え、さらに攪拌しながら純度85%の水酸化カリウム(関東化学(株)製)1024gを添加してアルカリ性にした後、過酸化水素(林純薬工業(株)製)を35重量%含む過酸化水素水10248gを添加した。
さらに、この混合水溶液を攪拌しながら1時間、放置し、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して水溶液中に溶解させた。次いで、純水を冷凍して得られた氷水39991gを加えて、発熱反応によって温度が上昇した前記水溶液を30℃以下の温度に冷却した。これにより、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を0.5重量%含み、pHが約11の混合水溶液102400g(以下、調製液1Aという)を得た。
市販の水ガラス10kg(旭硝子エスアイテック(株)製)を純水38kgで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)を用いて脱アルカリして、pHが3で、SiO2濃度が4重量%の珪酸液9kgを調製した。その後、この珪酸液10768gと純水14860gを混合し、2重量%の珪酸液25628gを調製した。
次いで、平均粒子径12nmのシリカ微粒子を30重量%含むシリカゾル3336g(触媒化成工業(株)製 SI-30)に純水47900gを加えて十分に撹拌し、シリカ微粒子濃度2重量%のシリカゾル51236gを得た。
次に、前記シリカゾルを90℃に加熱し、これを撹拌しながら、これに前記調製液1A51200gと前記珪酸液の水溶液12814gとを10時間かけてゆっくりと添加した。これにより、pHが約11の混合水溶液115250g(以下、調製液1B-(1)という)を得た。
次いで、前記調製液1B-(1)を陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SK1BH)で処理して脱アルカリした。これにより、pHが約9.5の混合水溶液117250g(以下、調製液1C-(1)という)を得た。
さらに、前記調製液1C-(1)中に、上記の場合と同様に、前記調製液1A51200gと前記珪酸液の水溶液12814gとを10時間かけてゆっくりと添加した。これにより、pHが約11の混合水溶液181264g(以下、調製液1B-(2)という)を得た。
次に、前記調製液1B-(2)を陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SK1BH)で処理して脱アルカリした。これにより、pHが約9.5の混合水溶液182264g(以下、調製液1C-(2)という)を得た。
次いで、前記調製液1C-(2)100200gをステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、165℃の温度で18時間、水熱処理を行った。これにより、シリカ系微粒子の表面がジルコニウム原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有する酸化物で被覆された非晶質粉末を含む混合水溶液99750g(以下、調製液1Dという)を得た。
(2)複合粉末(A)の製造
フッ化ナトリウム1gを500mLの蒸留水に溶解した。この水溶液を、ビーカー中で、500gの前記調製液1Dに徐々加えて均一な混合物とした。
得られた混合物をステンレス製のバットに移して2〜3cm程度の厚さに薄く広げ、70℃の熱風乾燥機で48時間乾燥させた。重量変化が無くなった時点で乾燥を停止した。得られた白色固体をアルミナ坩堝に移し、550℃に設定した電気炉に投入して、1時間熱処理を行い、49gの白色粉末を得た。この熱処理後の粉末を回転ボールミルにて2時間粉砕し、本発明で用いる複合粉末(A)を得た。該複合粉末の平均粒子径は8.3μm、粒子径範囲は0.5〜75μm、BET比表面積は184m2/g、粉末の屈折率は1.539であった。
またさらに該複合粉末につき、回転対陰極X線回折装置RINT−2400(理学電機社製)を使用し、X線広角回折を測定した。測定条件は、印加電圧40kV、電流100mA、ターゲットCu、X線波長(CuKα1)λ=1.5405Å、検出器走査速度1°/minとして、2θ=5〜80°の範囲で測定を行った。その結果、フッ化ナトリウムの結晶に由来する回折ピーク(2θ=39°,56°,70°)と非晶質SiO2と考えられるハロー(2θ=22°)が検出され、シリカとジルコニアからなるマトリックス中にフッ化ナトリウムの超微結晶が均一に分散していることが確認された。
なお、上述の方法で得られた、該粉末を含む歯科用組成物の硬化物の研磨面のSEM観察では、粉末断面のSEM像において、0.1μm以上の不均一な粒子は観察されなかったことから、該フッ化ナトリウムは0.1μm以下の粒子径で酸化物の被覆上に分散していると考えられた。またさらに、二次電子像の観察から均一に分散するフッ化ナトリウムの粒子径を測定した結果、平均粒子径は0.035μmであった。
(3)複合粉末(A)の表面処理
還流冷却管をセットした三口フラスコ中に、上述の方法で得られた複合粉末50重量部をトルエン250mLに分散し、ここに、シランカップリング剤として、γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトシキシラン(信越化学社製KBM503)5重量部を加えた。該混合物を攪拌しながら、3時間加熱還流を行った。混合物を放冷後、ヌッチェでろ過して表面処理粉末を回収した。粉末を真空乾燥して溶剤を除去した後さらに、温風乾燥機中で90℃で3時間熱処理を行って、表面処理複合粉末を得た。なお、該表面処理複合粉末の強熱残分(550℃)を測定することで、粉末表面と反応して付着したシランカップリング剤の量が判るが、元の複合粉末100重量部に対して5重量部のシランカップリング剤が付着していることがわかった(この表面処理複合粉末をF1という)。
(4)歯科用重合性単量体組成物の調製
ラジカル重合性単量体として、UDMAを30重量部、D−2.6Eを40重量部、3Gを30重量部、光重合開始剤として、dl−カンファーキノンを0.3重量部とN,N−ジメチルアミノ安息酸エチル0.5重量部を均一に混合溶解して、重合性単量体組成物を調製した。この重合性単量体組成物の重合硬化後の屈折率は1.535であった。
なお、重合性単量体の略称は具体的に以下の化合物を表す。
UDMA:[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル]ジメタクリレート
D2.6E:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
(5)歯科用組成物の製造
上記の操作で得られた重合性単量体組成物100重量部、表面処理複合粉末(F1)150重量部をガラス製乳鉢で混練して、均一なペースト状組成物を作製し、さらに減圧脱泡を行って本発明の歯科用組成物を得た。
該歯科用組成物の硬化物の、曲げ強度は118MPa、透明性は48、フッ素イオン徐放量は152μg/cm2であった。なお、本実施例における硬化物の作製は、ペーストを金型に填入してガラス板で圧接し、歯科用光照射機αライトII(モリタ製作所製)で、表裏各3分づつ光照射することで光重合を行うことで行った。
〔比較例1〕
実施例1の複合粉末の製造において、フッ化ナトリウム水溶液を加えない他は、実施例1と同じ方法により、水溶性金属塩を含まない、比較用粉末を作製した。該比較用粉末の平均粒子径は6.2μm、粒子径範囲は0.3〜55μm、BET比表面積は189m2/g、粉末の屈折率は1.550であった。実施例1と同様にして歯科用組成物を調製したところ、曲げ強度は136MPa、透明性は40、フッ素イオン徐放量は0μg/cm2であった。
〔比較例2〕
実施例1の複合粉末の製造において、非晶質粉末(a2)が分散したゾル溶液(調製液1D)の代わりに、日産化学社製シリカゾル(スノーテックスPS−M、シリカ含有量30重量%)167gを用いた他は、実施例1と同じ方法により、シリカとフッ化ナトリウムからなる複合粉末を作製した。該複合粉末の平均粒子径は9.6μm、粒子径範囲は0.2〜56μm、BET比表面積は157m2/g、粉末の屈折率は1.443であった。実施例1と同様にして歯科用組成物を調製したところ、曲げ強度は80MPa、透明性は14、フッ素イオン徐放量は161μg/cm2であった。
〔実施例2〕
実施例1の複合粉末の製造において、フッ化ナトリウム水溶液の代わりに、モノフルオロリン酸ナトリウム5gを含む蒸留水200mLを用いた他は、実施例1と同じ方法により、フルオロリン酸ナトリウムが含まれる複合粉末を作製した。該複合粉末の平均粒子径は4.9μm、粒子径範囲は0.5〜67μm、BET比表面積は190m2/g、粉末の屈折率は1.536であった。
実施例1と同様にして歯科用組成物を調製したところ、曲げ強度は124MPa、透明性は46、フッ素イオン徐放量は190μg/cm2であった。なお、該組成物の硬化物の研磨面の電子顕微鏡観察を行い、二次電子像の観察から、該複合粉末中に均一に分散するモノフルオロリン酸ナトリウムの粒子径を測定した結果、0.2μm以上の粒子は存在せず、平均粒子径は0.023μmであった。