JP2010050176A - 化合物半導体の製造方法、半導体受光素子の製造方法、化合物半導体及び半導体受光素子 - Google Patents

化合物半導体の製造方法、半導体受光素子の製造方法、化合物半導体及び半導体受光素子 Download PDF

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Abstract

【課題】長波長側の波長帯で受光感度が大きい化合物半導体の製造方法、半導体受光素子の製造方法、化合物半導体及び半導体受光素子を提供する。
【解決手段】InP基板上に、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する際に、用いるV族原料のうち少なくとも1つを、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料とする。
【選択図】図4

Description

本発明は、化合物半導体の製造方法、半導体受光素子の製造方法、化合物半導体及び半導体受光素子に関する。
従来の光ファイバ通信システムは、1.3μm又は1.55μm付近の波長帯の光を用いたシステムが主体であった。しかし、近年、通信ネットワークのトラヒック量の急激な増大に対応するため、その中心となるシステムは、波長多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)通信システムヘと変化している。この波長多重通信システムでは、従来の1.3μm又は1.55μm付近の他にも広い波長帯の光が用いられる。国際電気通信連合の電気通信標準化部門では、シングルモードファイバを用いた光通信用として次の6つの波長帯を勧告している。
O帯(1.26−1.36μm)、E帯(1.36−1.46μm)、S帯(1.46−1.53μm)、C帯(1.53−1.565μm)、L帯(1.565−1.625μm)、U帯(1.625−1.675μm)
上記の波長帯のうち、U帯は従来用いられてきた1.55μmの波長帯より0.1μm近く長波長側に位置している。一方、これまで光ファイバ通信システムに用いられてきた半導体受光素子には、InP基板上のIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、As(ヒ素)、P(リン)から構成される材料(InGaAsP系結晶と呼ばれる。)が用いられてきた。半導体受光素子が受光できる波長帯は、その光吸収層のバンドギャップ波長(正確には吸収端の波長)によって決まる。このバンドギャップ波長は、受光する光の波長より長波長であることが必要であり、光吸収層のバンドギャップ波長が吸収しようとする光の波長より短波長だったり、同程度だったりすると、光吸収はほとんど起こらない。このため、InGaAsP系結晶を用いた光吸収層の膜厚と格子定数には大きな制約があった。以下に、この制約について説明する。
半導体受光素子では、光吸収層に入射した光の波長に対する吸収係数が大きい程、光から電気への変換効率を大きくすることができる。しかしながら、InPに格子整合するInGaAsP系結晶では、そのバンドギャップ波長が最も長いInGaAsであっても、前記のU帯では吸収係数が小さく、この波長帯に対応した半導体受光素子を作ることは容易ではない。この状況を、図6を用いて説明する。
図6は、InPに格子整合するInGaAsの吸収スペクトルを示したものである。図6において、横軸は光の波長であり、縦軸は吸収係数である。キャリア濃度が低い状態では、吸収端の波長はバンドギャップ波長とほぼ一致し、InGaAsの吸収端の波長は1.7μm程度である。一方、U帯はこの吸収端の近傍に位置する波長帯であり、その吸収係数が小さいことが分かる。例えば、U帯の最も長波長側の波長である1.675μmの光に対するInGaAsの吸収係数は、3000インバースセンチ(cm-1)程度しかない。これは、InGaAsに入射した波長1.675μmの光のうち、その50%を光吸収層で吸収させるためには膜厚2μm以上の光吸収層が必要であり、更に80%まで光吸収させようとすると膜厚5μm以上の光吸収層が必要であることを示している。
このように、従来のInGaAsP系結晶を光吸収層に用いた半導体受光素子では、従来の光ファイバ通信システムで用いられてきた波長帯より長い波長の光、例えばU帯に位置する光を吸収するためには、大きな膜厚の光吸収層が必要となる。大きな膜厚の光吸収層では、InPとの格子不整合に起因する欠陥の発生を避けるために、InPと近い格子定数を持つことが求められる。更に、この大きな膜厚の光吸収層では、そのキャリア濃度にも大きな制約が加わる。以下にこの制約について説明する。
半導体受光素子では、入射した光により光吸収層内で電子と正孔が発生し、この電子と正孔それぞれが最終的には多数キャリアとなり、コンタクト層に達して引き出されることにより、光から電気への変換が可能となる。しかしながら、光吸収層のキャリア濃度が高いと外部から電圧を加えても光吸収層の一部分にしか電界が加わらないため、電子や正孔を効率良く引き出すことができない。一般に光吸収層で発生した電子や正孔を効率的に引き出せる膜厚は、キャリア濃度が1×1016cm-3の場合で1μm程度であり、光吸収層のキャリア濃度が高いとその膜厚を増加させても電子や正孔を光吸収層から引き出すことが難しくなる。即ち、光吸収層を増加させても、光から電気への変換効率を増加させるためには、そのキャリア濃度が低いことが求められる。一般的に膜厚が2μm以上の光吸収層を用いる場合、そのキャリア濃度は1015cm-3台であることが望ましい。
上記のInGaAsP系結晶を用いた半導体受光素子の成長では、これまで成長速度(単位時間あたりに積層させることができる膜厚)が大きく、低いキャリア濃度を得ることが容易なクロライド気相エピタキシー(Chloride Vapor Phase Epitaxy:C−VPE)法やハイドライド気相エピタキシー(Hydride Vapor Phase Epitaxy:H−VPE)法が用いられることが多かった。
しかしながら、これらの成長法では膜厚の制御が困難であり、更に、他の成長法に比べ、膜質が装置寸法に大きく依存するという問題があった。このため、近年ではこれらの成長法に代わり、膜厚の制御性が高く、クロライド気相エピタキシーやハイドライド気相エピタキシーほどではないが、比較的大きな成長速度が得られる成長方法を用いて、半導体受光素子が成長されるようになっている。特に有機金属を原料に用いる成長方法は、原料の交換が容易なため、大きな膜厚を必要とする半導体受光素子の成長に適している。この有機金属を原料に用いる成長方法としては、有機金属気相エピタキシー(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy:MOPVE)法と有機金属分子線エピタキシー(Metalorganic Molecular Beam Epitaxy:MOMBE)法が一般的である。
これらの成長法では、III族原料に有機金属が用いられており、V族原料には水素化物や有機金属のV族原料が用いられる。有機金属のIII族原料は、メチル基(CH3)やエチル基(C25)などのアルキル基がIII族原子と結合した構造を持つ。これらのアルキル基にはCが含まれるため、成長温度が低いとCが膜中に残留する。前述のように半導体受光素子における光吸収層では低いキャリア濃度が求められるが、InGaAsP系結晶中のCは、n型若しくはp型のドーパントとして作用し、InGaAsP系結晶のキャリア濃度を増加させる。この膜中へのC濃度を下げるためには、高い成長温度を用いることが有効であるため、キャリア濃度の低いInGaAsP系結晶を成長させる場合、一般に高い成長温度が用いられる。
C. A. Wang, "Correlation between surface step structure and phase separation in epitaxial GaInAsSb", Applied Physics Letters, Vol.76, No.15, 2000, pp.2077-2079 M. H. Zimmer et al., "Trisdimethylaminoarsine as As source for the LP-MOVPE of GaAs", Journal of Crystal Growth, Vo1.107, 1991, pp.348-349 N. Y. Li et al., "An evaluation of alternative precursors in chemical beam epitaxy : tris-dimethylaminoarsenic, tris-dimethylaminophosphorus, and tertiarybutylphosphine", Journal of Crystal Growth, Vol.164, 1996, pp.112-116 C. R. Abernathy et al., "Growth of GaAs and AlGaAs by metalorganic molecular beam epitaxy using tris-dimethylaminoarsenic", Applied Physics Letters, Vo1.60, No.19, 1992, pp.2421-2423 S. Salim et al., "Surface reactions of dimethylaminoarsine during MOMBE of GaAs", Journal of Crystal Growth, Vol.124, 1992, pp.16-22
前述のように最近の光ファイバ通信システムでは、これまでよりも長い波長の光に対して受光感度の大きい半導体受光素子が求められている。しかし、InGaAsP系結晶では、この長い波長の光に対する吸収係数が小さいために、光吸収層の膜厚を大きくし、かつ、キャリア濃度を低くする必要があった。これは図6に示したように、InGaAsP系結晶ではそのバンドギャップ波長が最も長いInGaAsであっても、吸収端はせいぜい1.7μm程度であり、大きな吸収係数が得られないことに起因している。
InPに格子整合した状態でInGaAsよりも吸収端の波長が長い光吸収層を用いることができれば、吸収係数を大きくすることができるため、上記の問題を回避することができる。本発明者等は、Sb(アンチモン)を含有するInGaAsSbが適した材料の1つであることを既に報告している(満原他、“MOMBEによるTDMASbを用いたInP基板上InGaAsSbの成長”、第55回応用物理学会学術講演会予稿集、29p−ZT−10(2008))。
図7は、InPとほぼ格子整合するInGaAsSbとInGaAsの室温(25℃)におけるホトルミネセンス発光スペクトルを示したものである。ホトルミネセンス発光スペクトルでのピーク波長は、バンドギャップ波長とほぼ一致する。この図7から分かるように、InGaAsSbでは、InGaAsに対して発光強度を低下させることなく、バンドギャップ波長を長波長化させることが可能である。前述のようにキャリア濃度が低い場合、吸収端の波長はバンドギャップ波長とほぼ一致するため、InGaAsSbを用いればInGaAsよりも吸収端の波長を長波長化させることができる。
しかしながら、このInGaAsSbは、比較的低い成長温度での成長が好ましい。これは、InGaAsSbの結晶内に含まれる2元混晶であるInSbの融点が525℃と低いため、高温成長では良好な結晶性を維持することが困難なためである。例えば、有機金属気相エピタキシー法を用いたInGaAsとInGaAsSbの成長を比較した場合、一般にInGaAsで600℃以上の成長温度を用いても組成分離や表面モフォロジー悪化などの膜質劣化は見られないが、InGaAsSbでは575℃でも組成分離や表面モフォロジー悪化が見られている(例えば、非特許文献1を参照)。
一方、前述のように有機金属のIII族原料を用いる成長では、III族原料からの膜中へのC(炭素)の残留を抑制し、キャリア濃度を低減するために、高い成長温度を用いることが望ましい。しかしながら、上述のようにInGaAsSbでは、高い成長温度での成長が困難である。このため、InGaAsSbでは、そのキャリア濃度を低減することが容易ではなかった。
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、長波長側の波長帯で受光感度が大きい化合物半導体の製造方法、半導体受光素子の製造方法、化合物半導体及び半導体受光素子を提供することを目的とする。
具体的には、In、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する際に、結晶性が良く、低キャリア濃度となる(更に詳細には、比較的低い成長温度で成長でき、Cの残留を抑制できる)製造方法及びその製造方法による化合物半導体を提供することを目的とする。又、半導体受光素子の光吸収層として、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する際に、結晶性が良く、低キャリア濃度となる(更に詳細には、比較的低い成長温度で成長でき、Cの残留を抑制できる)製造方法及びその製造方法による半導体受光素子を提供することを目的とする。
上記課題を解決する第1の発明に係る化合物半導体の製造方法は、
InP基板上に、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する化合物半導体の製造方法において、
当該化合物半導体を製造する際に用いるV族原料のうち少なくとも1つを、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料とすることを特徴とする。
上記課題を解決する第2の発明に係る半導体受光素子の製造方法は、
InP基板上に半導体受光素子を製造する半導体受光素子の製造方法において、
当該半導体受光素子の光吸収層として、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造すると共に、
前記化合物半導体を製造する際に用いるV族原料のうち少なくとも1つを、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料とすることを特徴とする。
上記課題を解決する第3の発明に係る化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法は、
上記第1又は第2の発明に記載の製造方法において、
前記ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を、トリスジメチルアミノアンチモンとすることを特徴とする。
上記課題を解決する第4の発明に係る化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法は、
上記第1〜第3のいずれか1つの発明に記載の製造方法において、
前記化合物半導体の製造に、有機金属気相エピタキシー法、又は、有機金属分子線エピタキシー法を用いることを特徴とする。
上記課題を解決する第5の発明に係る化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法は、
上記第1〜第4のいずれか1つの発明に記載の製造方法において、
前記化合物半導体がInGaAsSbであることを特徴とする。
上記課題を解決する第6の発明に係る化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法は、
上記第5の発明に記載の製造方法において、
前記化合物半導体のInGaAsSbにおけるV族元素中に占めるSbの原子比率を0より大きく、かつ、0.2以下とすることを特徴とする。
上記課題を解決する第7の発明に係る化合物半導体は、
上記第1、第3、第4、第5、第6のいずれか1つの発明に記載の化合物半導体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
上記課題を解決する第8の発明に係る半導体受光素子は、
上記第2〜第6のいずれか1つの発明に記載の半導体受光素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
本発明によれば、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する際に、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を少なくとも用いるので、比較的低い成長温度で成長でき、Cの残留を抑制でき、その結果、結晶性が良く、低キャリア濃度となる化合物半導体を製造することができる。同様に、半導体受光素子の光吸収層として、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する際に、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を少なくとも用いるので、比較的低い成長温度で成長でき、Cの残留を抑制でき、その結果、結晶性が良く、低キャリア濃度となる光吸収層の半導体受光素子を製造することができる。
従って、光ファイバ通信システムで用いられる波長帯において、十分な受光感度を得ることが困難だった長波長の波長帯の光に対しても、受光感度の大きな光吸収層となる化合物半導体を容易に製造することができる。そして、この化合物半導体を光吸収層とすることにより、波長多重通信システムの進展により波長帯域が従来よりも広がりつつある光ファイバ通信システムに対応した半導体受光素子を提供することができる。
本発明は、InGaAsを光吸収層に用いた従来技術による半導体受光素子では、光ファイバ通信システムで用いられる光の波長帯に十分には対応できないという課題に着目し、従来よりも長波長側の波長帯で受光感度が大きい半導体受光素子の製造方法を提供することを目的としている。更に具体的には、半導体受光素子の光吸収層に適用するため、結晶性が良く、低キャリア濃度となるIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体の製造方法を提供することを目的としている。
上述した課題を解決するため、本発明に係る製造方法では、InPを基板とした半導体受光素子の光吸収層として、従来用いられてきたInGaAsに代わりに、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を用い、更に、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を、有機金属を原料とする成長方法により成長する際に、V族原料の少なくとも1つにはジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を用いている。
ここで、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体の代表的なものとして、InGaAsSbを例にとって説明する。InGaAsSbの吸収端の波長はInGaAsより長い。そのため、InGaAsSbを含む光吸収層を用いた半導体受光素子では、従来のInGaAsを光吸収層に用いた場合には困難だった長い波長帯の光に対する受光が容易になる。更に、この半導体受光素子の製造方法では、光吸収層に含まれるInGaAsSbを成長する際に、その原料の少なくとも1つにジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を用いることにより、低い成長温度を用いても、有機金属のIII族原料からの膜中へのCの混入を抑制でき、その結果としてキャリア濃度を低減できる。このため、半導体受光素子に入射した光により光吸収層で生成された電子や正孔を効率よく引き出して、効率良く電気信号に変換することができるため、半導体受光素子の受光感度を向上させることができる。
上記のジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料について説明する。ジメチルアミノ基は、アミノ基(NH2)の2つの水素がメチル基(CH3)に置換されたものであり、その構造式はN(CH32である。このジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料としては、トリスジメチルアミノヒ素(TDMAAs、構造式:As(N(CH323)、トリスジメチルアミノリン(TDMAP、構造式:P(N(CH323)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb、構造式:Sb(N(CH323)などが知られている。これらの原料は、毒性の強い水素化物のV族原料に代わる原料として検討されてきた。又、これらの原料は、有機金属気相エピタキシー法、有機金属分子線エピタキシー法のいずれでも、結晶成長に用いることができる(例えば、非特許文献2、非特許文献3を参照)。
V族原料に、アルシンの代わりにジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料であるトリスジメチルアミノヒ素を用い、III族原料にトリメチルガリウムを用いたGaAsの有機金属分子線エピタキシー法による成長では、GaAs中に混入するC濃度がアルシンを用いた場合に比べて、100分の1近くまで減少することが報告されている(非特許文献4を参照)。このC濃度の減少は、ジメチルアミノ基によりIII族原子に結合したアルキル基の脱離が促進されるためと考えられているが(非特許文献5を参照)、ヒ素の原料であるトリスジメチルアミノヒ素以外の有機金属のV族原料を用いたC濃度の減少に関する実験は行われていない。
一方、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料は、水素化物のV族原料の代替原料として検討されてきた経緯から、同じV族原子を含む他の原料と併用されて用いられた例はない。例えば、ヒ素の場合だと、トリスジメチルアミノヒ素とアルシンが同時に供給された例はない。V族元素を2つ以上含む混晶の成長に関しては、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料が用いられた例はほとんどない。更に、このジメチルアミノ基によるC濃度の減少を利用し、半導体受光素子を含めた半導体素子の製造に応用した例はない。
本発明では、後述の実施例に示すように、トリスジメチルアミノヒ素以外の有機金属のV族原料でも膜中へのCの混入の抑制効果があること、更に、2つ以上のV族原料のうちの少なくとも1つにジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を用いることにより、膜中へのCの混入を抑制できることを見出した。その結果、低い成長温度が必要なInGaAsSbを光吸収層に用いても、入射光により光吸収層内で発生した電子、正孔の光吸収層からの引き出しが容易になり、半導体受光素子の受光感度を大きくすることが可能になった。なお、本発明に係る製造方法は、Cの混入を抑制するためにジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料に用い、他のV族原料と組み合わせることによって、InGaAsSbを成長させるものであり、従来にはなかった製造方法である。
以下に、本発明の好適な実施例を示し、その実施の形態について、実施例に則して図面を参照しながら説明する。
本発明に係る化合物半導体、半導体受光素子の製造方法に関し、まず、InGaAsSbではInGaAsに比べて長い波長帯の光でも大きな吸収係数が得られること、更に、本発明に係る化合物半導体、半導体受光素子の製造方法により膜中に含まれるCの濃度を低減できることを、それぞれ図1と図2を用いて説明する。又、InGaAsSbのSb組成とバンドギャップ波長との関係を図3に示す。更に、本発明に係る製造方法を用いて成長したInGaAsSbを光吸収層とする半導体受光素子の好適な例を、図4、図5を用いて説明する。なお、ここでも、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体の代表的なものとして、InGaAsSbを例にとって説明する。
まず、一例として、Sb組成(InGaAsSbにおけるV族元素中に占めるSbの原子比率)が0.05のInGaAsSbをInP基板上に成長させ、その吸収スペクトルを測定することにより、その吸収端の波長がInGaAsよりも長波長になることを確認し、更に、U帯付近の波長帯の光に対して大きな吸収係数が得られることを確認する。
本実施例におけるInGaAsSbの成長には、有機金属分子線エピタキシー法を用いて行なった。III族原料ガスには、トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルガリウム(TEGa)を、V族原料ガスには、アルシン(AsH3)とジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料であるトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いた。成長温度500℃にて、InPにほぼ格子整合し(InPとの格子定数差が±0.1%以内)、膜厚が2μmのInGaAsSbを成長した。InGaAsSbの成長では、InGaAsの成長条件をもとにSb組成を増やすためにトリスジメチルアミノアンチモンを供給し、その格子定数をInPに近づけるためにIII族原料の供給量を調整した。
図1は、作製したInGaAsSbの室温(25℃)における吸収スペクトルを示している。吸収スペクトルを解析した結果、InGaAsSbの吸収端の波長は1.83μmであることが分かった。この吸収端の波長は、図6に示したInGaAsの吸収端の波長に比べて約0.1μm長波長側にシフトしている。又、このInGaAsSbでは、波長1.675μm(U帯の長波長側の波長)の光に対する吸収係数が、約6000cm-1であり、図6に示したInGaAsにおける波長1.675μmの光に対する吸収係数の2倍近い吸収係数が得られることが分かった。この図1から分かるように、InPとほぼ格子整合させた状態であっても、InGaAsSbでは吸収端の波長を長くでき、従来のInGaAsでは光吸収が困難だったU帯でも大きな吸収係数を得られることが確認された。
次に、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を用いることにより、膜中に含まれるC濃度を低減できることを示す。C濃度の低減効果は、InGaAs成長の際にジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料であるトリスジメチルアミノアンチモンを4段階に変化させて供給し、膜中のC濃度の変化を二次イオン質量分析(SIMS)により測定することにより確認した。この試料の成長にも、上記と同様に有機金属分子線エピタキシー法を用いて行なった。
ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料としてアンチモンの原料を用いているのは、次の2つの理由からである。1つは、膜中のSb濃度の変化からジメチルアミノ基を含むV族原料を変化させた場所を調べ、これによりジメチルアミノ基を含むV族原料の供給量と膜中のC濃度との対応関係を調べるためである。もう一つは、ヒ素以外のジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料でもCの混入の低減効果があることを確認するためである。
InGaAs並びにInGaAsSbの成長では、アルシンとIII族原料の供給量は一定にしており、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)の供給量のみ変化させた。図2(a)は、成長中におけるトリスジメチルアミノアンチモンのアルシンに対する供給量比の変化を示している。図2(a)において、(I)の領域に対して、(II)と(III)の領域ではそれぞれトリスジメチルアミノアンチモンの供給量が、2倍と5倍になるように設定した。なお、(I)の領域におけるSb濃度は、InGaAsSbにおけるSb組成の0.02に相当し、(III)の領域におけるSb濃度は、InGaAsSbにおけるSb組成の0.05に相当する。
図2(b)は、この試料の膜中のCとSbの濃度変化の深さ方向プロファイルを二次イオン質量分析により調べたものである。図2中で、Sbに関しては濃度換算するためのデータがないため、測定されたSbのカウント数を示してあるが、このカウント数と膜中のSb濃度は比例関係にある。C濃度は、InGaAsの標準試料を用いてCのカウント数から換算したものであり、InGaAsとこれに近い組成を持つInGaAsSbに対するC濃度はほぼ正確であるが、InPでは組成比が大きく異なるために実際のC濃度を示すものではない。
又、InGaAs並びにInGaAsSbに対するC濃度の検出限界は、約5×1016cm-3である。図2(a)に示す方法により膜中に混入したC濃度は、InGaAsでは5×1017cm-3であるのに対し、トリスジメチルアミノアンチモンを供給して成長したInGaAsSbでは10分の1以下になっており、検出限界まで低減できることが確認された。
更に、この図2により、C濃度の低減はトリスジメチルアミノアンチモンの供給量によらず、少量でもトリスジメチルアミノアンチモンが供給されていれば、C濃度は検出限界まで低減できることが確認された。つまり、膜中のC濃度について、InGaAsとInGaAsSbの領域を比べると、トリスジメチルアミノアンチモンの供給により、Cが1桁以上低減できることがわかる。膜中のキャリア濃度を、CV法を用いて測定した結果、InGaAsでは4×1016cm-3(n型)であったのに対し、InGaAsSbでは2×1015cm-3(n型)まで低減できることが確認された。
なお、図1ではSb組成が0.05のInGaAsSbについて、吸収端の波長が長波長化する例を示したが、InGaAsSbにおけるSb組成が0を超える0.2以下の範囲内であれば、InGaAsSbの膜質劣化を抑制しつつ、吸収端の波長を長波長化できるため、本発明はSb組成0.05に限定されるものではない。
これについて、InPに格子整合するInGaAsSbにおいて、室温(27℃)におけるバンドギャップ波長とSb組成との関係を求めた結果を図3に示す。図3において、縦軸はバンドギャップ波長を表し、横軸はSb組成を表している。
図3からわかるように、Sb組成が0から0.2まで増加するにしたがって、バンドギャップ波長が1.68μmから1.84μmまで急激に増加していくようになる。そして、Sb組成が0.2を超えて0.27まで更に増加しても、バンドギャップ波長がほとんど増加せず、Sb組成がこれ以上増加してしまうと、バンドギャップ波長が逆に減少してしまう。したがって、InPに格子整合するInGaAsSbにおいては、0を超える0.2以下の範囲内でSb組成を変化させれば、バンドギャップ波長を効率よく変化させることができる。
又、ヒ素だけでなく、アンチモンの原料であるトリスジメチルアミノアンチモンでも膜中へのCの混入を抑制できることが確認された。即ち、キャリア濃度の低減効果は、ジメチルアミノ基による膜中へのC混入の抑制であることが確認され、この効果はV族元素に依存しない。このため、本発明はジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料であれば良く、トリスジメチルアミノアンチモンを用いた成長に限定されるものではない。例えば、InGaAsSbの成長に用いるV族原料の組み合わせとしては、(アルシン+トリスジメチルアミノアンチモン)、(アルシン+トリスジメチルアミノヒ素+トリメチルアンチモン)、(トリスジメチルアミノヒ素+トリメチルアンチモン)、(トリスジメチルアミノヒ素+トリスジメチルアミノアンチモン)などがある。
又、吸収端の波長の長波長化はInGaAsSbの物性に起因するものである。又、キャリア濃度の低減はジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料に起因するものである。このため、上記の吸収端の波長の長波長化並びにキャリア濃度の低減効果は、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を用いてInGaAsSbを成長することが可能な有機金属気相エピタキシー法でも可能であることは云うまでもない。
次に、図4を参照にして、本発明に係る製造方法により成長したInGaAsSbを光吸収層とする半導体受光素子の実施の形態について説明する。
まず、本発明に係る半導体受光素子の構成を図4の断面図を用いて説明する。本発明に係る半導体受光素子では、まず、図4に示すように半絶縁性InP基板1上に、膜厚0.5μmのn型InPバッファ層2を成長した。引き続き、膜厚0.1μmのアンドープのInGaAs層3、膜厚2μmのInGaAsSb光吸収層4、膜厚0.25μmのP型InGaAsP層5(バンドギャップ波長:1.25μm)を成長した。成長には有機金属分子線エピタキシー法を用い、成長温度は500℃である。
InGaAsSb光吸収層4の成長条件は、図1に吸収スペクトルを示したInGaAsSbと同じであり、この試料の吸収端の波長も1.83μmであることを確認した。この試料に直径400μmの円形メサを形成後、メサ側面に窒素シリコン膜6を蒸着させた。メサ部中央部の窒素シリコン膜6を除去した後、p型InGaAsP層5上に外径370μm、内径250μmのリング状のp型電極7を形成し、n型InPバッファ層2上にn型電極8を形成した。
比較のために、図4のInGaAsSb光吸収層4と同じ膜厚のInGaAsを光吸収層とし、この光吸収層以外は同じ層構成と作製工程を用いた半導体受光素子を作製した。この比較用のInGaAs光吸収層の成長には、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料は用いておらず、アルシン、トリメチルインジウム、トリエチルガリウムを原料として用いた。
図5は、作製した半導体受光素子に1Vの逆方向バイアスを印加して測定した入射光に対する受光感度の波長依存性である。InGaAsSbを光吸収層に用いた半導体受光素子は、最大で1.1A/W以上の受光感度が得られた。又、入射光の波長が1.7μmの場合でも1A/Wの受光感度が得られた。又、C帯からU帯の広い波長帯で、受光感度はほぼ一定であった。
一方、InGaAsを光吸収層に用いた半導体受光素子は、受光感度が最大でも0.9A/W程度でInGaAsSbを光吸収層に用いた半導体受光素子よりも小さく、更に、U帯では受光感度が0.3A/Wから0.9A/W程度まで変動し、波長依存性が大きかった。
図5に示したように、半導体受光素子の入射光に対する受光感度の波長依存性から、光吸収層をInGaAsからInGaAsSbに代えることにより、長波長の波長帯の光に対しても安定して大きな受光感度を得ることが可能であることが分かる。この大きな受光感度は、InGaAsSbの吸収端の波長が長いことに加えて、そのキャリア濃度が低いためである。
以上、本発明の実施の形態を説明してきたが、実施の形態は、上述した方法や構成に限定されるものではなく、各種の変更が可能である。
例えば、上記の実施の形態では、メサ構造を持つ半導体受光素子の場合を示したが、拡散型の半導体受光素子を用いても、上記と同様のInGaAsSb光吸収層を用いることができるため、同様の効果が得られることは云うまでもない。
又、上記の実施の形態では、基板として半絶縁性InPを用いた場合の構造について説明したが、n型InP基板を用いた場合でも、層構成や作製手順を変えるだけであり、上記と同様のInGaAsSb光吸収層を用いることができるため、上記の実施例と同様の効果が得られることは云うまでもない。
又、上記の実施の形態では、InGaAsにSbを含有させる場合について説明したが、InGaAsP、InAlGaAs等の他の化合物半導体にSbを含有させた場合にも膜中のCを低減できることは云うまでもない。
本発明は、光ファイバ通信システムで用いられ、従来よりも長波長側の波長帯で受光感度が大きい半導体受光素子に好適なものである。
本発明に係る製造方法により作製したInGaAsSbの吸収スペクトルを示す図である。 Sb原料(TDMASb)の供給量を変えて成長したInGaAsSb中のCとSbの深さ方向プロファイルを示す図である。 InPに格子整合したInGaAsSbのSb組成とバンドギャップ波長との関係を表すグラフである。 本発明の実施の形態に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。 本発明の実施の形態に係る半導体受光素子の効果を説明する特性図である。 InGaAsの吸収スペクトルを示す図である。 InGaAsとInGaAsSbの室温におけるホトルミネセンス発光スペクトルを示す図である。
符号の説明
1 半絶縁性InP基板
2 n−InP
3 InGaAs
4 InGaAsSb光吸収層
5 P−InGaAsP
6 窒化シリコン
7 p型電極
8 n型電極

Claims (8)

  1. InP基板上に、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造する化合物半導体の製造方法において、
    当該化合物半導体を製造する際に用いるV族原料のうち少なくとも1つを、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料とすることを特徴とする化合物半導体の製造方法。
  2. InP基板上に半導体受光素子を製造する半導体受光素子の製造方法において、
    当該半導体受光素子の光吸収層として、少なくともIn、Ga、As、Sbを含有する化合物半導体を製造すると共に、
    前記化合物半導体を製造する際に用いるV族原料のうち少なくとも1つを、ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料とすることを特徴とする半導体受光素子の製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の製造方法において、
    前記ジメチルアミノ基を含む有機金属のV族原料を、トリスジメチルアミノアンチモンとすることを特徴とする化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の製造方法において、
    前記化合物半導体の製造に、有機金属気相エピタキシー法、又は、有機金属分子線エピタキシー法を用いることを特徴とする化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の製造方法において、
    前記化合物半導体がInGaAsSbであることを特徴とする化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法において、
    前記化合物半導体のInGaAsSbにおけるV族元素中に占めるSbの原子比率を0より大きく、かつ、0.2以下とすることを特徴とする化合物半導体の製造方法又は半導体受光素子の製造方法。
  7. 請求項1、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6のいずれか1つに記載の化合物半導体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする化合物半導体。
  8. 請求項2から請求項6のいずれか1つに記載の半導体受光素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする半導体受光素子。
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