JP2010042093A - 超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置 - Google Patents

超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置 Download PDF

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Abstract

【課題】超音波探触子において、圧電層のバッキング(ダンパー)層を薄くする。
【解決手段】圧電層25の背後に設けられるバッキング層26を、圧電層25よりも低いインピーダンスの超音波透過層261と、中程度のインピーダンスの超音波吸収層262と、高インピーダンスの高反射層263と、超音波透過層261上に超音波吸収層262に向けて形成され、2つの層261,262の間のインピーダンスを有する複数の超音波散乱体264とを備えて構成する。したがって、圧電層25から後方側へ放射された不要な超音波は、超音波透過層261から超音波散乱体264を透過して超音波吸収層264に取込まれて吸収されるとともに、吸収しきれなかった分は、超音波散乱体264で任意方向へ反射されて多重反射を繰返し、超音波吸収層262に吸収されて消失する。これによって、S/Nを下げずに、また使い勝手を損なわずに、バッキング層26を薄くできる。
【選択図】図3

Description

本発明は、超音波診断装置に用いられる超音波探触子およびその超音波診断装置に関する。
前記超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等、多くの特長を有し、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。このような医療用超音波診断装置に使用される超音波探触子では、高感度、高解像度に超音波の送受信を行うために、一般的に圧電振動子の圧電効果が利用される。
この場合、送信用圧電振動子の振動モードとしては、単一圧電振動子であるシングル型探触子または複数の圧電振動子を1次元または2次元配置したアレイ型探触子がよく使用される。アレイ型は精細な画像を得ることができるので、診断検査のための医療用画像向けに広く普及している。そのアレイ型探触子の性能は、圧電振動子に使用する圧電層の性能ばかりでなく、前記圧電層から生体に向けて送信し、生体内の組織で反射された超音波を如何に良好なS/N比で受信できるかが影響し、このため前記圧電振動子には、圧電層の裏面に、バッキング(ダンパー)層と呼ばれる超音波吸収層が設けられている。このバッキング(ダンパー)層によって、圧電振動子が筐体に支持されても、前記圧電層で発生し、生体とは反対側に放射された超音波が筐体で反射しないようにして、該筐体(後方)側からの反射波が受信波に影響を与えない(前記S/N比を向上する)ようになっている。
したがって、前記超音波吸収層は、ノイズになる超音波を吸収するという重要な役割を担っている。そこで、従来では、前記超音波吸収層として、超音波を反射する微粒子を分散した樹脂膜を使用していた。これによって、該超音波吸収層に入射された超音波は、微粒子超音波反射体に衝突を繰り替えしながら熱エネルギーに変換されて減衰される。
しかしながら、前記微粒子反射体に衝突した超音波は、再びバッキング層から圧電層を振動させ、受信信号のノイズとなり、完全ではなかった。吸収を完全にするために、バッキング層を厚くすればするほど吸収性能を上げることができるが、探触子を重く、大型化してしまい、手技操作性を損なうことになる。特に最近では、軽量化、コンパクト化の要求の元に、如何に薄く、効率良く超音波吸収させるかで、最良の技術が求められている。
その軽量化、コンパクト化に向けた技術として、たとえば特許文献1、2および3が提案されている。特許文献1は、厚さが超音波中心周波数の4分の1波長または半波長となるように、前記超音波吸収層となる薄膜層を均一に形成させて、超音波吸収性能を高めている。前記薄膜層は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂等で構成するのがよいとしている。しかしながら、この従来技術の課題は、周波数が狭い場合には、バッキング層の厚さを、その周波数の前記4分の1波長や半波長に合せ込むことは可能であるが、生体からの受信信号に高調波が含まれる場合のように、広帯域の周波数のときに前記薄膜層の厚さを明確に決められないということである。
一方、特許文献2は、従来の一般的なバッキング層は、ベース樹脂が、エポキシ樹脂、クロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムのようなゴムであり、このベース樹脂に各種の充填材を含有させた構造を有するので、脆く、ダイシング加工時の応力でベース樹脂と充填材との間で破断や剥離が生じて、バッキング材の溝間部分で折れを生じたり、バッキング材と圧電層との剥離を生じたりしてチャンネルの不良を起こすことから、酢酸ビニルの含有率が20〜80重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体に含有された充填材とを含む組成物を提案している。これによって、前記チャンネルの縮小化、つまり超音波探触子の小型化、アレイの高密度化を目的として、50〜200μmピッチで音響整合層側からバッキング材に向けてダイシング加工しても、バッキング材の溝間での折れや、バッキング材と圧電層との剥離が生じ難く、ダイシング時のチャンネル不良を生じ難くしている。しかしながら、この従来技術の課題は、破断や剥離いには強いが、超音波吸収能が低いということである。
さらにまた、特許文献3は、バッキング材の複合構造を提案している。その複合構造は、複数の熱伝導性要素の間に交互に配置されたバッキング材の複数の層を含んでおり、複数の熱伝導性要素は、探触子の中心からバッキング材の複合構造上の複数の点まで熱を伝達するように構成されている。しかしながら、この従来技術の課題は、バッキング材に熱放出性を付与させるために複合構造にしたために、軽量化およびコンパクト化が難しいということである。
特開平6−205779号公報 特開2006−33801号公報 特開2006−61696号公報
したがって、上述の何れの従来技術でも、超音波探触子を小型軽量化することができる薄くても超音波吸収性能が高いバッキング層を得ることができない。
本発明の目的は、バッキング層を薄くすることができる超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置を提供することである。
本発明の超音波探触子は、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内からの超音波を前記圧電振動子で受信する超音波探触子において、前記圧電振動子は、前記超音波を送受信する圧電層と、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるバッキング(ダンパー)層とを備えて構成され、前記バッキング層は、超音波吸収層と、前記圧電層上に前記超音波吸収層に向けて形成され、前記圧電層よりも低いインピーダンスを有する複数の凸形状の超音波散乱体とを含むことを特徴とする。
上記の構成によれば、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内の組織境界からの反射波や前記組織境界で発生した高調波などの被検体内からの超音波を前記圧電振動子で受信する超音波探触子において、前記圧電振動子は、前記超音波を送受信する圧電層、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるバッキング(ダンパー)層、および適宜被検体との間に設けられる音響レンズや整合層を備えて構成され、その内の前記バッキング層を、超音波吸収層と、前記圧電層上に前記超音波吸収層に向けて形成され、前記圧電層よりも低いインピーダンスを有する複数の超音波散乱体とを備えて構成する。そして、前記超音波散乱体を、微小な円錐、角錐、或いは鋸歯状等の凸形状に形成する。
したがって、圧電層から後方(筐体)側へ放射された不要な超音波は、超音波散乱体を透過して超音波吸収層に取込まれ、該超音波吸収層内で吸収されるとともに、吸収しきれなかった超音波が圧電層側へ戻って行っても、超音波散乱体で任意方向へ反射され、こうして該超音波吸収層内で多重に反射を繰返すことで、該超音波吸収層に吸収されて消失する。これによって、バッキング(ダンパー)層を薄くしても、高効率に不要な超音波を吸収し、圧電層側への戻りを抑えるので、超音波探触子のS/N比性能を下げずに、また使い勝手を損なわずに、小型軽量化することができる。
また、本発明の超音波探触子では、前記バッキング層において、前記超音波散乱体は超音波透過層上に形成されて前記圧電層に貼付けられ、前記超音波透過層は前記圧電層よりも低インピーダンスであり、前記超音波吸収層は前記超音波透過層よりも高インピーダンスであり、前記超音波散乱体は前記超音波透過層と前記超音波吸収層との間のインピーダンスに形成されることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記バッキング層において、前記超音波散乱体を、圧電層に直接形成するのではなく、該圧電層よりも低インピーダンスな超音波透過層上に形成するようにし、さらに前記超音波吸収層を前記超音波透過層よりも高インピーダンスに、前記超音波散乱体を前記超音波透過層と前記超音波吸収層との間のインピーダンスに形成する。
したがって、圧電層から後方(筐体)側へ放射された不要な超音波は、低インピーダンスな超音波透過層から超音波散乱体を透過して超音波吸収層に取込まれるので、該超音波散乱体の界面での反射を抑えることができる。また、前記超音波散乱体をナノインプリントなどで形成する際に、超音波透過層は基材として機能し、この基材上に超音波散乱体を形成した後、圧電層に貼付けることで、容易に超音波散乱体を形成することもできる。
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記超音波散乱体は、円錐または角錘状に形成されることを特徴とする。
上記の構成によれば、特に高効率に、圧電層からの超音波を超音波吸収層に取込み、該超音波吸収層から圧電層側へ向う超音波を反射させることができる。
また、本発明の超音波探触子では、超音波散乱体と超音波吸収層の境目で、音響インピーダンスがZaからZqに変化すると、超音波はある割合で反射し、その反射係数をmとすると、
m=(zq−za)/(zq+za)
で表すことができ、ここでmが低いと、反射の効率が低下するので、mを0.7以上として、前記頂角をθtまたはθpとすると、
│sinθtまたはsinθp│≧0.7
すなわち、θtまたはθp=45〜135°に形成する。
上記の構成によれば、特に高効率に、圧電層からの超音波を超音波吸収層に取込み、超音波吸収層から圧電層側へ向う超音波を反射させることができる。
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記バッキング層において、前記超音波吸収層と筐体との間には、前記超音波吸収層よりも高インピーダンスの反射層をさらに備えることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記超音波吸収層で吸収しきれずに筐体側に向った不要な超音波は、高インピーダンスの反射層で吸収されるか、反射されて再度超音波吸収層で吸収される。
したがって、一層高効率に不要な超音波を吸収することができる。
また、本発明の超音波探触子では、前記バッキング層と筐体との間には、冷却層をさらに備えることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記バッキング層における特に超音波吸収層は、上述のように薄くても高効率に不要な超音波を吸収し、熱に変換しているので、その熱を冷却層を介して放散させることで、過熱による使用時間制限等の状態になることを防止し、前記バッキング層を一層薄くすることができる。
さらにまた、本発明の超音波探触子では、前記冷却層は、前記圧電層への信号配線であり、超音波診断装置本体からの同軸ケーブルの芯線が接続され、前記超音波診断装置本体側では、前記芯線に、冷却装置が接続されることを特徴とする。
上記の構成によれば、超音波探触子の温度上昇を一層抑えることができる。
また、本発明の超音波探触子では、前記バッキング層において、前記反射層の超音波吸収層とは反対側に、高熱伝導率層をさらに備えることを特徴とする。
上記の構成によれば、放熱を向上することができる。
さらにまた、本発明の超音波診断装置は、前記の超音波探触子を用いることを特徴とする。
上記の構成によれば、超音波探触子が小型軽量な超音波診断装置を実現することができる。
本発明の超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置は、以上のように、圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内の組織境界からの反射波や前記組織境界で発生した高調波などの被検体内からの超音波を前記圧電振動子で受信する超音波探触子およびそれを用いる超音波診断装置において、前記圧電振動子のバッキング層を、超音波吸収層と、圧電層上に前記超音波吸収層に向けて形成され、前記圧電層よりも低いインピーダンスを有する複数の超音波散乱体とを備えて構成する。
それゆえ、圧電層から後方(筐体)側へ放射された不要な超音波は、超音波散乱体を透過して超音波吸収層に取込まれ、該超音波吸収層内で吸収されるとともに、吸収しきれなかった超音波が圧電層側へ戻って行っても、超音波散乱体で任意方向へ反射され、こうして該超音波吸収層内で多重に反射を繰返すことで、該超音波吸収層に吸収されて消失する。これによって、バッキング(ダンパー)層を薄くしても、高効率に不要な超音波を吸収し、圧電層側への戻りを抑えるので、超音波探触子のS/N比性能を下げずに、また使い勝手を損なわずに、小型軽量化することができる。
図1は、本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置1の外観構成を示す図である。この超音波診断装置1は、図略の生体等の被検体に対して超音波を送信するとともに、被検体からの超音波を受信する超音波探触子2と、前記超音波探触子2での送信信号を作成するとともに受信信号を処理して、被検体内の超音波断層画像を再構成する超音波診断装置本体3とが、フレキシブルな同軸ケーブル5を介して接続されて構成されている。
図2は、前記超音波探触子2の圧電振動子20における1素子の圧電素子21の構造例を示す断面図である。この圧電振動子20は、基板22上に、1次元または2次元に配列された多数の前記圧電素子21を備えて構成されている。各圧電素子21は、素子の上(被検体側)から、音響レンズ23、整合層24、無機圧電層25、バッキング(ダンパー)層26、熱伝導層27、および前記基板22から構成される。基板22上には、冷却層28が形成されている。前記無機圧電層25は、PZTのような無機セラミック素子から成る。そして、この無機圧電層25の各表面からは、GND線29および信号線30が引出される。
注目すべきは、本実施の形態の圧電振動子20では、バッキング層26が、図3(a)で示すような3層構造で、無機圧電層25側から、超音波透過層261、超音波吸収層262および高反射層263から成り、さらに前記超音波透過層261上には、前記超音波吸収層262に向けて、複数の凸形状の超音波散乱体264が形成されることである。
図4は、前記超音波散乱体264の一構造例を示す斜視図である。図4(a)の超音波散乱体264aは、三角屋根(鋸歯)状に形成され、図4(b)の超音波散乱体264bは、四角錐(ピラミッド型)に形成される。前記三角屋根や四角錐の頂角θt,θpの角度は、45〜135°であることが好ましい。これは、超音波散乱体264と超音波吸収層262との境目で、音響インピーダンスがZaからZqに変化すると、超音波はある割合で反射し、その反射係数をmとすると、
m=(zq−za)/(zq+za)
で表すことができ、ここでmが低いと、反射の効率が低下するので、mを0.7以上として、前記頂角をθtまたはθpとすると、
│sinθtまたはsinθp│≧0.7
すなわち、前記θtまたはθp=45〜135°となるためである。また、前記頂角θt,θpが、45°より小さいと凹凸の繰り返しの頻度が小さくなって後述する超音波の吸収効率が低下し、同様に135°より大であっても吸収効率は低い。より好ましい角度は、60〜120°である。この60〜120°の範囲では、後述する反射を繰り返す頻度が最も高くなるので、超音波の吸収効率が高くなり、本発明には好ましい。前記頂角θt,θpを前記の範囲にするには、高さh、hpを適宜調整すればよい。
本発明での凸形状とは、図3(a)において参照符号S1で示すバッキング層26への入射超音波の入射方向に対し、斜面を形成する形状のものである。斜面を形成するものであればどのような形状でも良いが、前述の三角屋根形状や多角錐形、或いは円錐形やドーム形であることが好ましい。前記ドーム形(半球状)の場合、半円を水平に回転させたものに限らず、半楕円を回転させて得られる回転半楕円体、半紡錘形、x−y軸表示のガウス関数をy軸周りに回転させたガウシアン形などでもよい。しかしながら、前述のような三角屋根や四角錐の形状では、該超音波散乱体264をナノインプリントで形成するにあたって、用いられる型の作成は、刃先がV型のダイシングソーを用いることで、容易に行うことができる。
上述のように構成されるバッキング層26において、さらに無機圧電層25のインピーダンスをZp、超音波透過層261のインピーダンスをZk、超音波吸収層262のインピーダンスをZa、高反射層263のインピーダンスをZhとすると、Zh>Zp>Za>Zkの関係に選ばれ、さらに超音波散乱体264のインピーダンスをZqとすると、Za>Zq>Zkの関係に選ばれる。このような超音波透過層261、超音波吸収層262、高反射層263および超音波散乱体264のインピーダンスの調製は、図3(b)で示すバッキング層26aや図3(c)で示すバッキング層26bのように、樹脂26c中に高インピーダンスにする散乱体26dを添加して調製することができる。
図3(b)で示すバッキング層26aでは、超音波吸収層262aの約半分に前記散乱体26dが充填されて固化され、残りの約半分は前記散乱体26d無しで固化されている。これに対して、図3(c)で示すバッキング層26bでは、超音波吸収層262bの全体に前記散乱体26dが充填されて固化されている。
前記散乱体26dは、球体、紡錘体、針状、ロッド状、コイン状、不定形体などいずれでもよいが、散乱および吸収効率を上げるには、不定形で音波屈折率の高い素材が好適で、従来からバッキング層に充填されている素材を使用することができる。そのような材料としては、前記タングステン、銅、フェライト、ジルコニウム金属やこれらの金属酸化物を使用することができる。散乱体26dの分散に際しては、平均粒子径が小さいほど好ましいが、製造の時間や経費の関係で、10nm〜100μmの範囲が好ましい。より好ましい範囲は100nm〜10μmである。前記超音波透過層261、超音波吸収層262、高反射層263および超音波散乱体264の成型は、樹脂26c中にインピーダンス調整用の前記散乱体26dを分散して作成した樹脂組成物を、これら構造体となる鋳型に流して成型する射出成型法や、インプリント成型法を用いることができる。これらに使用する好ましい樹脂は、従来のバッキング材に使用した樹脂と同様である。
具体的な一例としては、前記超音波透過層261として、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET))のシートを用い、その上に超音波散乱体(ピラミッド形)264を、エポキシ樹脂(ビスフェノール型)に平均粒子径3μmのタングステン粉を混ぜて120℃で30分熱硬化させ、前記ナノインプリント法で成型加工した。この超音波散乱体(ピラミッド形)264の形は、2辺が100μm(頂角90°)底辺140μmの大きさとした。
さらにこの超音波散乱体(ピラミッド形)264の上に、超音波吸収層262を、前記樹脂26cとしてのエポキシ樹脂(ビスフェノール型)に、前記散乱体26dとしての平均粒子径3μmのタングステン粉を分散し、平均膜厚500μmの厚さで塗布して、120℃で30分熱硬化させることで作成した(図3(c)の全般分散タイプ)。さらにその上に高反射層263を、ビスフェノール型の熱硬化樹脂に平均粒子径3μmのタングステン粉を混ぜて100μの厚さで塗布して、120℃で30間熱硬化させることで作成した。熱伝導層としては、300μm厚さのパイロリテック・グラファイトを使用した。
一方、無機圧電層25には、8MHz発振のPZT(250μm:圧電定数2000MHz・m)を用い、残余の整合層24および音響レンズ23は定法に従い作成した。
このように構成することで、図3(a)を参照して、参照符号S1で示すように無機圧電層25から後方(筐体)側へ放射された不要な超音波は、低インピーダンスの超音波散乱体261を透過して、参照符号S2で示すように超音波吸収層262に取込まれ、中インピーダンスの該超音波吸収層内で吸収されるとともに、吸収しきれなかった超音波が、高インピーダンスの高反射層263で反射されて参照符号S3で示すように無機圧電層25側へ戻って行っても、参照符号S4で示すように超音波散乱体264で任意方向へ反射され、こうして該超音波吸収層262内で多重に反射を繰返すことで、該超音波吸収層262に吸収されて消失する。すなわち、このバッキング層26は、一旦取込んだ超音波は、熱エネルギーに変換されるまでは、超音波散乱体264と高反射層263とによって、超音波吸収層262内で反射を繰り返させる構造になっている。これによって、バッキング層26を薄くしても、高効率に不要な超音波を吸収し、無機圧電層25側への戻りを抑えるので、超音波探触子2のS/N比性能を下げずに、また使い勝手を損なわずに、小型軽量化することができる。
また、前記のように不要超音波を熱エネルギーに変換するバッキング層26の下層に、放熱層となる熱伝導層27を設け、さらにその熱伝導層27の下層で、基板22の表面に冷却層28を設けているので、発生した熱を拡散して放散させることができる。
ここで、高熱伝導率層である前記熱伝導層27には、金属の熱伝導体や熱伝導樹脂を使用することができる。前記熱伝導樹脂としては、炭素繊維系が好ましい。また、前記熱伝導性樹脂の別の態様としては、無機繊維を70重量%以上95重量%以下と高濃度に充填し、熱硬化性樹脂が5重量%以上30重量%以下と成ることが望ましい。前記無機繊維は、球形状、針形状、ロッド形状、紡錘形状など適宜選択可能である。また、平均粒子径は、10nm〜100μmが好ましい。特に、無機繊維として、平均粒径3μmと10μmとの2種類のAlを混合したものを用いると、大きな粒径のAlの隙間に小さな粒径のAlを充填できるので、Alを90重量%近くまで高濃度に充填可能になる。この結果、熱伝導性樹脂の熱伝導性率は、4mW/(mm・K)程度となる。なお、無機繊維としては、このAlに代えて、BN、SiO、SiC、Si、およびAlN等の化合物を使用してもよい。このように熱伝導性樹脂としての熱伝導率は、1mW/(mm・K)〜20mW/(mm・K)のものを使用する。それは、熱伝導率が前記1mW/(mm・K)未満では、圧電素子22の温度上昇を抑制するレベルに至らず、熱伝導率を20mW/(mm・K)より高くしようとした場合、無機繊維の充填量を増やす必要があり、樹脂が脆くなって加工性に不適になる場合があるためである。また、熱伝導樹脂に使用される樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびシアネート樹脂等が好ましい。熱伝導性樹脂の厚みは、薄くすれば、生じる熱を外気に放出し易いが、逆に脆くなるので20μm〜2mmに設定するのがよい。
一方、前記冷却層28としては、金属板の他に、パイロリティック・炭素繊維を用いることで、軽量化と放熱性とを同時に実現できるので特に好ましい。ここで、パイロリティック・炭素繊維は、高温の真空炉中で、炭化水素を分解し、CVD(Chemical Vapour Deposition)技術等を用いて気相成長させて得られる炭素繊維であり、熱分解によって沈積した炭素が黒鉛構造をとって気密に配列したものである。その密度は、通常使用されている炭素繊維と比較して、約1.3倍大きいものであり、軽量化にはまだ不十分であるが、金属板よりも軽量化を図ることができる。この素材の持つ異方性は、パイロリティック・炭素繊維が層構造をしていることに起因する特性であり、面方向で熱の良導体になり、厚さ方向では、アルミナ等の断熱材より熱伝導率が小さくなる。
このため、樹脂に単純に混錬塗設すると、繊維の配列は、長手方向に多くが配列されるので、長手方向に熱は通るが、厚み方向に熱が通らないので、繊維をバッキング層26に垂直方向に配置するには、繊維成分を細孔ノズルから塗設面に垂直となるような噴射塗設するなどの方法を採用するとよい。
こうして、前記熱伝導層27から冷却層28に伝搬された熱は、図5の超音波探触子2aで示すように、同軸ケーブル5の芯線5aを通して超音波診断装置本体3へ伝搬され、該超音波診断装置本体3に設けられた冷却装置6で効率良く放熱させることができる。この場合、前記冷却層28は、前記無機圧電層25への信号配線29,30と兼用であることが望ましい。
或いは、図6の超音波探触子2bで示すように、前記冷却層28の熱を、該超音波探触子2b内に設けた放熱金属板2cや、この放熱金属板2cから、筐体2dの一部に採用した熱伝導性樹脂2eの部分を介して、外気に放出してもよい。前記放熱金属板2cは、同軸ケーブル5における超音波診断装置本体3からの接地線5bに接続される。
ここで、超音波探触子2は、圧電素子21の素子数の増大に伴い、開口面積は、大きくできず、むしろ、使用勝手から狭くなる傾向があり、過密な圧電素子の集積は、素子に電圧の負荷がかかり、稼働時には温度上昇となり、また素子の感度に悪影響を与えている。一方、超音波探触子2を皮膚上に置いて時間の経過ともに41℃以上に上昇する場合には、低温やけどや組織の損傷を引き起こす。したがって、上述の超音波探触子2a,2bのように構成することで、該超音波探触子2a,2bの温度上昇を一層抑えることができ、過熱による使用時間制限等の状態になることを防止し、また鮮明な画像を安定に得ることができるとともに、前記バッキング層26や熱伝導層27を一層薄くすることができる。前記芯線5aや筐体2dによる放熱が良好な場合は、熱伝導層27を設けないで、バッキング層26を冷却層28に直付けしてもよい。
前記超音波透過層261、超音波吸収層262および高反射層263の厚さの合計は、100μm〜1cmの範囲(前記の例では約1mm)が好ましい。これらの層261〜263が厚い程、超音波吸収の効率を高めることができる反面、小型化に反するので、薄くて効率の良い厚さにするのが好ましい。
本発明は、最小限、無機圧電層25の裏面に超音波散乱体264を形成し、さらに超音波吸収層262を積層することで実施することができるが、低インピーダンスの超音波透過層261をさらに設けることで、不要超音波の超音波散乱体264の界面での反射を抑え、超音波吸収層262に取込み易くすることができる。また、前記超音波散乱体264を、基材としての超音波透過層261上に形成した後、無機圧電層25に貼付ける、すなわち微細な超音波散乱体264を無機圧電層25に直接形成する必要はなくなり、容易に超音波散乱体264を形成することもできる。また、高反射層263をさらに設けることで、不要超音波の反射効率を高め、筐体側への伝搬を抑えることができる。
また、超音波散乱体264は、上述のように、三角屋根や四角錐などの形状に限らず、斜面を有する凹凸であればよい。しかしながら、円錐または角錘状が、特に高効率に、無機圧電層25からの超音波を超音波吸収層262に取込み、該超音波吸収層262から無機圧電層25側へ向う超音波を反射させることができる。
図7は、前記超音波診断装置本体3の概略構成を示すブロック図である。この超音波診断装置本体3は、上述のような本発明の超音波探触子2;2a,2bを作動させ、超音波の送受で得られる信号を処理することのできる電子回路を備える。具体的には、送信回路31、増幅回路32、受信回路33、受信処理回路34、制御回路(画像処理部)35、アナログ/デジタル変換器36、DSP(デジタル信号処理部)37、DSC(デジタルスキャンコンバータ)38、表示装置39および操作装置40を備えて構成されている。
制御回路(画像処理部)35は、上述の超音波探触子2;2a,2bにおける各圧電素子22に所望とするビームプロファイルを形成させる送信信号を作成し、送信回路31から前記各圧電素子22に与え、被検体へ入射させる。これによる被検体からのエコー信号は、該圧電素子22で受信され、増幅回路32で増幅されて受信回路33に入力される。受信回路33は、各圧電素子22からのエコー信号を、前記のビームプロファイルとなるように遅延時間を制御して整相加算して、受信処理回路34に与える。前記のエコー信号は、基本波信号と高次高調波信号とを含み、前記受信処理回路34は、それを受信処理可能な検波回路、濾波回路を内蔵する。さらに前記受信処理回路34は、前記高次高調波として、2次から6次までを処理可能な機能を揃え、基本波と高調波との差分や加算演算(組織ハーモニク処理)を行う回路を備える。前記受信処理回路34からの出力は、アナログ/デジタル変換器36デジタルで信号に変換されて、DSP37に入力される。
DSP37は、Bモード処理回路、ドプラ処理回路またはカラーモード処理回路を備えている。前記受信処理回路34から出力されたデータは、いずれかの処理回路にて所定の処理を施される。前記Bモード処理回路は、エコーの振幅情報の映像化を行い、エコー信号からBモード超音波ラスタデータを生成する。一方、ドプラ処理回路は、ドプラ偏移周波数成分を取出し、さらに高速フーリエ変換(FFT)処理等を施して、血流情報を有するデータを生成する。同様に、前記カラーモード処理回路は、動いている血流情報の映像化を行い、カラー超音波ラスタデータを生成する。前記血流情報には、速度、分散、パワー等の情報があり、血流情報は2値化情報として得られる。
前記DSC38は、直交座標系で表される画像を得るために、超音波ラスタデータを直交座標で表されるデータに変換する。たとえば、Bモード処理回路から出力されたデータに対してDSC処理が施されると、被検体の組織形状を2次元情報として表す断層像データが生成される。また、DSC38は、断層像データをリサンプリング処理することで、ボクセルデータを生成することもできる。さらに、前記ボクセルデータに対してボリュームレンダリング処理などを行って3次元画像データなどを生成することもできる。表示装置39は、液晶ディスプレイなどのモニタからなり、上述のようにして得られた2次元断層像や3次元画像などを表示する。
表1は、本願発明者のシミュレーション結果を示すものである。このシミュレーションは、超音波散乱体264をピラミッド形に形成し、その頂角θpを変化し(実験番号101〜111)、またその頂角θpを90°の一定にして、超音波散乱体264のインピーダンスを変化し(実験番号112〜115)、或いは超音波透過層261の材料を変化した(実験番号116,117)ものであり、従来のバッキング層(実験番号100)での画質を基準として、評価した結果を示すものである。なお、共通に、超音波吸収層262での散乱体26dは充填しておらず、高反射層263のインピーダンスも40MRaylsの一定値であり、超音波透過層261の厚さも25μmで一定、材料が変っても、前記超音波透過層261のインピーダンスも2MRaylsで一定である。超音波透過層261、超音波散乱体264、超音波吸収層262および高反射層263の作成方法は前述のとおりであり、前記超音波散乱体264の底辺は140μmで、高さhpを変化させて頂角θpを変化させている。また、圧電振動子21アレイは、リニア128素子として作成し、前記冷却層28は銅の金属板、熱伝導層27の樹脂はピロリティック・グラファイトを使用して筐体を作成した。さらにまた、図5で示すように、前記冷却層28の熱は、同軸ケーブル5の芯線5aの内、冷却用に3本を使用して、超音波診断装置本体3内の冷却ファン(20W/h)へ導いた。そして、送信回路31から8MHzを基本波発振し、16MHzの2次高調波を受信するモードで撮像試験をした。バッキング層26のノイズ比較は、前記従来のバッキング層(実験番号100)として、エポキシ樹脂にタングステン粉を混錬し、インピーダンスが36MRaylsになるように熱硬化させたものを使用した。画像評価は、優れるが5、やや優れるが4、良いレベルが3、やや劣るが2、劣るが1の5段階で評価した。レベルの間の評価は補間法で決定した。超音波探触子2の先端部の温度上昇は、振動子作動を30分連続して温度変化を記録した。
Figure 2010042093
表1から明らかなように、前述のように超音波散乱体264の頂角θpは、45〜135°(実験番号103〜109)、特に60〜120°(実験番号104〜108)が好ましいことが理解される。したがって、透過層21に対する超音波散乱体264の傾斜角である左右の底角θa,θbは、23〜68度であることが好ましい。さらに好ましくは、θaとθbとが略同等の角度となることである。ここで、略同等とは、θaとθbとの角度差が5度以内であることを表す。
また、超音波散乱体264のインピーダンスは、透過層21と超音波吸収層262との中央値付近が好ましく(実験番号113)、透過層には、前記PETよりも、ポリイミドやエポキシが好ましい(実験番号116,117)も理解される。
なお、上述の実施の形態では、圧電層25を送受信兼用の単層で説明したけれども、送受信の層を分離して積層したものを用いてもよい。また、圧電層25は、有機であってもよい。
以上、本願発明者によってなされた発明を、前記発明の実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記発明の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置の外観構成を示す図である。 超音波探触子の圧電振動子における1素子の圧電素子の構造例を示す断面図である。 本実施の形態に係るバッキング層の構造を模式的に示す断面図である。 本実施の形態に係るバッキング層における超音波散乱体の構造を示す斜視図である。 超音波探触子の冷却の一例を説明するための図である。 超音波探触子の冷却の他の例を説明するための図である。 超音波診断装置本体の概略構成を示すブロック図である。
符号の説明
1 超音波診断装置
2;2a,2b 超音波探触子
2c 放熱金属板
2d 筐体
3 超音波診断装置本体
5 同軸ケーブル
5a 芯線
5b 接地線
20 圧電振動子
21 圧電素子
22 基板
23 音響レンズ
24 整合層
25 無機圧電層
26;26a,26b バッキング(ダンパー)層
261 超音波透過層
262 超音波吸収層
263 高反射層
264;264a,264b 超音波散乱体
26c 樹脂
26d 散乱体
27 熱伝導層
28 冷却層
29 GND線
30 信号線
31 送信回路
32 増幅回路
33 受信回路
34 受信処理回路
35 制御回路
36 アナログ/デジタル変換器
37 DSP
38 DSC
39 表示装置
40 操作装置

Claims (9)

  1. 圧電振動子から被検体内に超音波を送信し、前記被検体内からの超音波を前記圧電振動子で受信する超音波探触子において、
    前記圧電振動子は、前記超音波を送受信する圧電層と、前記圧電層と該圧電振動子の筐体への取付け部分との間に介在されるバッキング層とを備えて構成され、
    前記バッキング層は、超音波吸収層と、前記圧電層上に前記超音波吸収層に向けて形成され、前記圧電層よりも低いインピーダンスを有する複数の凸形状の超音波散乱体とを含むことを特徴とする超音波探触子。
  2. 前記バッキング層において、前記超音波散乱体は超音波透過層上に形成されて前記圧電層に貼付けられ、前記超音波透過層は前記圧電層よりも低インピーダンスであり、前記超音波吸収層は前記超音波透過層よりも高インピーダンスであり、前記超音波散乱体は前記超音波透過層と前記超音波吸収層との間のインピーダンスに形成されることを特徴とする請求項1記載の超音波探触子。
  3. 前記超音波散乱体は、円錐または角錘状に形成されることを特徴とする請求項1または2記載の超音波探触子。
  4. 前記超音波散乱体は、その頂角が45〜135°に形成されることを特徴とする請求項3記載の超音波探触子。
  5. 前記バッキング層において、前記超音波吸収層と筐体との間には、前記超音波吸収層よりも高インピーダンスの反射層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波探触子。
  6. 前記バッキング層と筐体との間には、冷却層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超音波探触子。
  7. 前記冷却層は、前記圧電層への信号配線であり、超音波診断装置本体からの同軸ケーブルの芯線が接続され、前記超音波診断装置本体側では、前記芯線に、冷却装置が接続されることを特徴とする請求項4記載の超音波探触子。
  8. 前記バッキング層において、前記反射層の超音波吸収層とは反対側に、高熱伝導率層をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の超音波探触子。
  9. 前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の超音波探触子を用いることを特徴とする超音波診断装置。
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