以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1〜図23は本発明の実施の形態を示すもので、図1は圧縮比可変装置を備えた内燃機関の要部縦断正面図、図2は上記圧縮比可変装置の上方からの分解斜視図、図3は同圧縮比可変装置の下方からの分解斜視図、図4は図1の要部拡大図(低圧縮比状態)、図5は図4の5−5線断面図、図6は図5の6−6線断面図、図7は図5の7−7線断面図、図8は図5の8−8線断面図、図9は高圧縮比状態を示す、図4との対応図、図10は図9の10−10線断面図、図11は図10の11−11線断面図、図12は図10の12−12線断面図、図13は図5の13−13線断面図(低圧縮比状態)、図14は高圧縮比状態を示す、図13との対応図、図15はピストンに作用する荷重の変化を示す図(バルブタイミング制御なしの場合)、図16はピストンに作用する荷重の変化を示す図(バルブタイミング制御ありの場合)、図17は低圧縮比→高圧縮比の切換時を示す、図16の要部の詳細図、図18は高圧縮比→低圧縮比の切換時を示す、図17との対応図、図19は内燃機関の回転数に応じたバルブタイミングの切換の説明図、図20は圧縮比切換時の衝撃を低減するためのバルブタイミング変更制御のフローチャート、図21は目標圧縮比を検索するマップ、図22は低圧縮比→高圧縮比の切換時の振動低減効果の説明図、図23は高圧縮比→低圧縮比の切換時の振動低減効果の説明図である。
先ず、図1および図5において、内燃機関Eの機関本体1は、シリンダボア2aを有するシリンダブロック2と、このシリンダブロック2の下端に結合されるクランクケース3と、シリンダボア2aの上端に連なるペントルーフ型燃焼室4aを有してシリンダブロック2の上端に結合されるシリンダヘッド4とからなっており、そのシリンダヘッド4には、燃焼室4aの天井面に開口する吸気ポート30iおよび排気ポート30eをそれぞれ開閉する吸気弁31iおよび排気弁31eと、燃焼室4aの中心部に電極を臨ませる点火プラグ32とが設けられる。
シリンダボア2aに摺動可能に嵌装されるピストン5にはコンロッド7の小端部7aがピストンピン6を介して連結され、コンロッド7の大端部7bは、左右一対のベアリング8,8を介してクランクケース3に回転自在に支承されるクランク軸9のクランクピン9aに連結される。
図2〜図5に示すように、前記ピストン5は、ピストンピン6を介してコンロッド7の小端部7aに連結されるピストンインナ5aと、このピストンインナ5aの外周面に摺動自在に嵌合し、頂面を燃焼室4aに臨ませるピストンアウタ5bとからなっており、ピストンアウタ5bの外周に、シリンダボア2aの内周面に摺動自在に密接する複数のピストンリング10a〜10cが装着される。
ピストンインナ5aには、前記ピストンピン6の両端部を支持する一対のピンボス部11,11と、これらピンボス部11,11の外端に対応する部分を除いてシリンダボア2aの内周面に摺動自在に嵌合する円弧状の一対のスカート部12,12とが一体に形成される。前記ピストンピン6は中空に形成されている。
一方、ピストンアウタ5bは、ピストンリング10a〜10cが装着される周壁を上記スカート部12,12の上端面12aとの対向位置で終わらせている。このピストンアウタ5bには、両ピンボス部11,11の外端に対向する一対の耳部13,13が一体に形成される。これらには、ピストン5の軸方向を長径とする長孔14,14が設けられており、これら長孔14,14には、前記ピストンピン6の中空部を貫通する延長軸15の両端部がピストン5の軸方向に沿って摺動可能に嵌合され、この延長軸15は、ピストンピン6に圧入等により固着される。しかして、上記長孔14,14および延長軸15の嵌合により、ピストンインナ5aおよびピストンアウタ5bは、相対回転を阻止されながら軸方向の相対摺動が許容され、延長軸15が長孔14,14の下側面に当接することにより、ピストンアウタ5bに対するピストンインナ5aの下方摺動限界が規制される。
またピストンインナ5aの外周面の、ピストンピン6の両端面が臨む両側部に、ピストンピン5の軸方向に延びる一対の内側摺動平坦面23,23が形成され、これら内側摺動平坦面23,23が摺動自在に当接する外側摺動平坦面24,24がピストンアウタ5bの耳部13,13内側面に形成され、これら摺動平坦面23,24も、ピストンインナ5aおよびピストンアウタ5bの相対回転を阻止しながら軸方向の相対摺動を許容する。したがって、ピストンインナ5aおよびピストンアウタ5bの相対回転は、長孔14,14および延長軸15相互の嵌合と、内側および外側摺動平坦面23,24相互の当接とにより、これを強力に阻止することができる。
また図2、図3および図5において、ピストンインナ5aおよびピストンアウタ5bは、前記延長軸15および長孔14,14の摺動自在の嵌合と、ピストンインナ5a外周の一対の円弧面33,33およびピストンアウタ5bの雌スプライン42の内周面42aの摺動自在の嵌合とにより充分な軸方向相対摺動支持長さを得て、安定した軸方向相対摺動を確保することができる。上記円弧面33,33は、一対のスカート部12,12の上端面12aと第1支持面17との間を結ぶように垂直に形成されるものである。
図3〜図5に明示するように、ピストンインナ5aの上部には、その外周側から順に、上向きの環状の第1支持面17、この第1支持面17の内周縁から起立する第1枢軸18、この第1枢軸18の上端に形成される環状の第2支持面19、この第2支持面19の内周縁から起立する第2枢軸20、並びにこの第2枢軸20の上端面に形成される環状の第3支持面21がピストンインナ5aと同軸状に形成される。上記第2枢軸20は、その軽量化のために、周方向に沿って複数のブロックに分割されると共に、その中心部には、前記コンロッド7の小端部7aが臨む開口部22が設けられ、クランクケース3内、即ちクランク室3aで発生する飛散潤滑油がこの開口部22を通過するようになっている。
そして、第1枢軸18には、第1支持面17に載置される環状のロック板25が回転可能に嵌合され、このロック板25の上面に対向するようにして第2枢軸20に嵌合する環状の第1押さえ板26が第2支持面19に複数のビス27,27…により固着される。さらに第2枢軸20には、第1押さえ板26上に載置される環状のリフト部材28が回転可能に嵌合され、このリフト部材28の内周縁部の上面に対向する第2押さえ板29が複数のビス34,34…により第3支持面21に固着される。
リフト部材28は、第2枢軸20周りに設定されるリフト位置Bおよびリフト解除位置A間を往復回動し得るもので、その往復回動に伴いピストンアウタ5bをピストンインナ5a寄りの低圧縮比位置L(図4、5参照)と、燃焼室4a寄りの高圧縮比位置H(図9、10参照)とに交互に保持するカム機構37の要部をなしている。
即ち、カム機構37は、図4、図5および図8に示すように、上記リフト部材28と、このリフト部材28の上面に一体に突設される環状配列の複数の第1カム山38,38…と、ピストンアウタ5bのヘッド部下面に突設される環状配列の第2カム山39,39…とよりなっており、各カム山38,39は、その頂面が平坦面とされると共に、各カム山38,39の配列方向に並ぶ両側面が、その頂面に対する垂直面とされる矩形断面形状に形成される。
しかして、リフト部材28がリフト解除位置Aにあるときは、該リフト部材28の第1カム山38,38…間の谷に上部の第2カム山39,39…が出入り可能であり(図13参照)、ピストンアウタ5bの低圧縮比位置Lまたは高圧縮比位置Hへの移行が許容される。そして第1および第2カム山38,39が噛み合って、少なくとも一方のカム山の頂面が他方のカム山間の谷底に当接すれば、カム機構37は軸方向収縮状態となり、ピストンアウタ5bに低圧縮比位置Lを与える。
またリフト部材28がリフト位置Bにあるときは、第1および第2カム山38,39同士が平坦な頂面を衝合させる(図14参照)ことで、カム機構37は軸方向拡張状態となって、ピストンアウタ5bに高圧縮比位置Hを与える。このとき、前述のようにピストンピン6に固着した延長軸15が、ピストンアウタ5bにおける耳部13,13の長孔14,14の下側面に当接することで、ピストンアウタ5bが所定の高圧縮比位置Hを超えて燃焼室4a側に移動することが阻止される。
図4、図5および図7に示すように、前記ロック板25は、第1枢軸18周りに設定されるロック解除位置C(図12参照)およびロック位置D(図7参照)間を往復回動し得るもので、そのロック位置Dでカム機構37の軸方向収縮状態を保持するロック機構40の要部をなしている。
即ち、ロック機構40は、ロック板25と、このロック板25の外周に形成される雄スプライン41と、この雄スプライン41が摺動可能に嵌合するようにピストンアウタ5bの内周に形成される雌スプライン42と、この雌スプライン42の溝部の上端部を相互に連通させて、雄スプライン41の歯部の回転、進入を許す環状のロック溝43とで構成され、ピストンアウタ5bの低圧縮比位置Lおよび高圧縮比位置H間での位置切換の際には、ロック板25をロック解除位置Cに設定して、雄スプライン41を雌スプライン42との摺動関係に置き、またピストンアウタ5bが低圧縮比位置Lに来たときは、ロック板25をロック位置Dに回動して雄スプライン41の歯部をロック溝43に進入させ、その雄スプライン41の歯部と雌スプライン42の歯部との端面同士を突き当てることにより、ピストンアウタ5bの低圧縮比位置Lがロックされる。
図2および図10に示すように、前記第1押さえ板26によるロック板25の押さえを強化するために、雄スプライン41の複数の溝部に配置されて第1押さえ板26の外周部下面を支持する複数のボス35,35…がピストンインナ5aに一体に形成され、これらボス35,35…に第1押さえ板26の外周部が複数のビス27′,27′…により固着される。勿論、上記ボス35,35…は、雄スプライン41のロック解除位置Cおよびロック位置Dへの回動を妨げないように形成される。
ピストンインナ5aには、上記リフト部材28およびロック板25をそれぞれ駆動する第1および第2アクチュエータ451 ,452 が設けられ、これらについて図5、図6、図13および図14を参照しながら説明する。
先ず、第1アクチュエータ451 より説明する。ピストンインナ5aには、ピストンピン6の一側方にそれと平行に延びる有底のシリンダ孔461 と、このシリンダ孔461 の中間部の上壁および第1押さえ板26を貫通する一連の長孔471 とが設けられ、リフト部材28の下面に突設された受圧ピン481 が長孔471 を通してシリンダ孔461 に臨ませてある。
受圧ピン481 には、シリンダ孔461 に緩く嵌合してシリンダ孔461 内でその半径方向に遊び得る円板状の摺動子491 が相対的に首振り自在に取り付けられる。シリンダ孔461 には、この摺動子491 を挟んで作動プランジャ501 および有底円筒状の戻しプランジャ511 が摺動可能に嵌装される。したがって、摺動子491 は受圧ピン481 と作動プランジャ501 および戻しプランジャ511 との間に介装されることになるが、受圧ピン481 の、リフト部材28の回動中心周りの円弧運動は、摺動子491 が作動プランジャ501 および戻しプランジャ511 間で摺動しながらシリンダ孔461 内を移動することで許容される。しかも受圧ピン481 から作動プランジャ501 および戻しプランジャ511 に至る各部の接触は、常に面接触となるので、その接触部の耐摩耗性が確保される。
シリンダ孔461 内には、作動プランジャ501 の内端が臨む油圧室521 が画成され、この油圧室521 に油圧を供給すると、その油圧を受けて作動プランジャ501 が摺動子491 および受圧ピン481 を介してリフト部材28をリフト位置Bへ回動するようになっており、前記長孔471 は、そのときの受圧ピン481 の動きを妨げない大きさになっている。
またシリンダ孔461 の開放側端部には、円筒状のばね保持筒531 が止環541 を介して係止され、このばね保持筒531 と前記戻しプランジャ511 との間に、その戻しプランジャ511 を受圧ピン481 側に付勢する戻しばね551 が縮設される。
しかして、リフト部材28のリフト解除位置Aは、受圧ピン481 が長孔471 の、作動プランジャ511 側内端壁に当接することにより規定され(図13参照)、リフト部材28のリフト位置Bは、受圧ピン481 が摺動子491 および戻しプランジャ511 を介してばね保持筒531 に当接することにより規定される(図14参照)。
第2アクチュエータ452 は、ピストンピン6を挟んで第1アクチュエータ451 と軸対称的もしくは点対称的に配置され、受圧ピン482 はロック板25の下面に突設される。その他の構成は、第1アクチュエータ451 と同様であるので、図中、第1アクチュエータ451 と対応する部分には、添え字のみを「2 」とした対応符号を付して、その詳細な説明を省略する。
しかして、ロック板25のロック解除位置Cは、受圧ピン482 が長孔472 の、作動プランジャ502 側内端壁に当接することにより規定され、ロック板25のロック位置Dは、受圧ピン482 が摺動子492 および戻しプランジャ512 を介してばね保持筒532 に当接することにより規定される。
ところで、受圧ピン481 ,482 の作動ストロークを、長孔471 ,472 の内端壁で規定するすれば、受圧ピン481 ,482 の作動ストロークを高精度に規定することができ、また作動プランジャ501 ,502 および戻しプランジャ511 ,512 を、シリンダ孔461 ,462 の内端壁に当接させることで受圧ピン481 ,482 の作動ストロークを規制すれば、受圧ピン481 ,482 の作動限界において受圧ピン481 ,482 から負荷を取り除くことができる。
こうして第1および第2アクチュエータ451 ,452 は、実質的に同一構造に構成されると共に、第1押さえ板26を挟んで上下に重ね配置されるリフト部材28およびロック板25の下方で、ピストンインナ5aの軸線を挟むようにして配置される。また第1および第2アクチュエータ451 ,452 の互いに対応する部品には互換性が付与される。これにより、第1および第2アクチュエータ451 ,452 の構成部品の共通化を図り、コストの低減を大いに図ることができる。
図1および図6に示すように、前記ピストンピン6と、その中空部に嵌合された延長軸15との間に筒状の油室57が画成され、この油室57を第1および第2アクチュエータ451 ,452 の油圧室521 ,522 に接続する第1および第2分配油路581 ,582 がピストンピン6およびピストンインナ5aに渡り設けられる。また油室57は、ピストンピン6、コンロッド7およびクランク軸9に渡り設けられる油路59に接続され、この油路59は、電磁式の切換弁60を介して油圧源たるオイルポンプ61と、油溜め62とに切換可能に接続される。油溜め62は、クランクケース3底部に取り付けられるオイルパンであり、したがって第1および第2アクチュエータ451 ,452 の作動油として、内燃機関Eの潤滑油が使用される。
図4において、前記延長軸15は、両端の開放面を端板15a,15aで閉塞される中空部15bを有しており、その中空部15bは、延長軸15中央部の通孔16aを通してピストンピン6内の筒状の油室57に連通され、またその中空部15bは、延長軸15の両端部の噴孔16b,16bを介して前記耳部13,13の長孔14,14内に連通される。その際、延長軸15の各端部の噴孔16bは、対応する長孔14の下端面に向かって開口するように配置することが望ましく、図示例では、噴孔16bを延長軸15の端部に周方向に複数配列して、ピストンピン6が回転しても、少なくとも一つの噴孔16bが長孔14の下端面を指向するようにしてある。
図5および図10に示すように、吸気弁31iおよび排気弁31eには、そのバルブタイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構63が接続される。可変バルブタイミング機構63には、例えば、特開平7−332051号公報に記載されているように、異なる形状を有する複数の動弁カムにより駆動される複数のロッカーアームを油圧作動のピンで連結あるいは連結解除することで、吸気弁31iおよび排気弁31eのバルブタイミングを変更するものや、特開2000−227033号公報に記載されているように、カムシャフトの軸端に設けられてタイミングチェーンで駆動されるスプロケットと前記カムシャフトとの間に設けられ、スプロケットの位相に対するカムシャフトの位相を油圧で変化させることで、吸気弁31iおよび排気弁31eのバルブタイミングを変更するものがある。
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
先ず、図15に基づいてピストンアウタ5bに作用する荷重の変化を説明する。ピストンアウタ5bに作用する荷重には、燃焼室4aの圧力に基づく筒内圧力荷重と、ピストン5の昇降に基づく慣性力荷重とがあり、その二つの合力がピストンアウタ5bに作用する荷重(以下、ピストン荷重という)となる。
筒内圧力は圧縮行程で急激に増加して圧縮上死点でピーク値になった後、膨張行程で急激に減少して膨張下死点で略大気圧のボトム値になり、続く排気行程および吸入行程で概ね前記ボトム値付近の値に維持される。よって、上向きのピストン荷重を正とし、下向きのピストン荷重を負としたとき、筒内圧力荷重は圧縮行程で略ゼロの値から急激に減少して圧縮上死点でボトム値になった後、膨張行程で急激に増加して膨張下死点で略ゼロの値に復帰し、続く排気行程および吸入行程で略ゼロの値に維持される。一方、慣性力荷重はサインカーブ状に変化し、圧縮行程で負値から正値に増加し、膨張行程で正値から負値に減少し、排気行程で負値から正値に増加し、吸入行程で正値から負値に減少する。
その結果、ピストンアウタ5bに作用するピストン荷重は、排気行程の後半から排気上死点を経て吸入行程の前半までの期間で正値(上向き)となり、その前後の期間で負値(下向き)となる。
図3〜図8および図13に示すように、カム機構37のリフト部材28がリフト解除位置Aにあり、またロック板25がロック溝43に係合していることで、いま、ピストンアウタ5bは、ピストンインナ5a側に寄った低圧縮比位置Lに保持されているとする。したがって、この状態で運転される内燃機関Eの圧縮比は比較的低く制御される。
このような状態から、例えば内燃機関Eの高速運転時、出力向上を図るべく高圧縮比状態を得るには、切換弁60を通電状態、即ちオン状態にして、油路59をオイルポンプ61に接続する。こうすると、オイルポンプ61が吐出する作動油は、クランクシャフト9の上流側油路59a、コンロッド7の下流側油路59b、第1および第2分配油路581 ,582 を経て第1および第2アクチュエータ451 ,452 の油圧室521 ,522 に供給される。
すると、先ず第2アクチュエータ452 の作動プランジャ502 が油圧室522 の油圧を受けて摺動子492 と共に受圧ピン482 を、戻しばね552 の付勢力に抗して押圧するので、受圧ピン482 がロック板25をロック位置D(図7参照)からロック解除位置C(図9参照)へと回動し、ロック板25の雄スプライン41とピストンアウタ5bの雌スプライン42との摺動嵌合が可能な状態となる。
そこで、ピストンアウタ5bは、次のようなピストン荷重の作用で高圧縮比位置Hへ移動する。即ち、図15で説明したように、排気上死点の付近で、それまで下向きに作用していたピストン荷重が上向きに変化すると、ピストンアウタ5bはピストンインナ5aから燃焼室4a側へ離れる方向に変位し、これに伴ないピストンインナ5aに支持される延長軸15がピストンアウタ5bの耳部13,13の長孔14,14を相対的に下降して、それら長孔14,14の下端壁に当接することにより、ピストンアウタ5bは所定の高圧縮比位置Hでその変位は阻止される。
したがって、特別なストッパ部材を用いることなく、ピストンアウタ5bの高圧縮比位置側への移動限界を規制することができ、装置の構造の簡素化に寄与し得る。しかもピストンアウタ5bの高圧縮比位置側への移動限界規制時の衝撃は、ピストンアウタ5bから、互いに当接する長孔14,14下端壁および延長軸15を介してピストンピン6に直接的に伝達させ、ピストンインナ5aには伝達させないので、ピストンインナ5aに設けられるカム機構37、ロック機構40、第1および第2アクチュエータ451 ,452 等への衝撃の影響を防ぐことができ、それらの耐久性および作動安定性を確保することができる。
ピストンアウタ5bが高圧縮比位置Hに来ると、リフト部材28の第1カム山38,38…がピストンアウタ5bの第2カム山39,39…間の谷部から離脱するので、第1アクチュエータ451 において、既に油圧室521 の油圧を受けていた作動プランジャ501 が摺動子491 と共に受圧ピン481 を戻しばね551 の付勢力に抗して押動し、リフト部材28をリフト解除位置Aからリフト位置Bへと回動する。したがって、図14に示すように、第1カム山38,38…と第2カム山39,39…とは互いに平坦の頂面を当接させることになる。即ち、カム機構37は軸方向拡張状態となる。
こうして、ピストンアウタ5bは、カム機構37の軸方向拡張状態と、延長軸15および長孔14,14下端壁の当接とにより高圧縮比位置Hに保持される。したがって、ピストンインナおよびアウタ5a,5bは、圧縮比を高めながら一体となってシリンダボア2a内を昇降し、内燃機関Eの出力性能の向上に寄与することができる。しかも、カム機構37において、互いに当接する環状配列の第1および第2カム山38,39の頂面の当接面は、ピストン5の全周に均等に分布する上、その総合面積が広いので、カム機構37は、内燃機関Eの膨張行程や圧縮行程での大なる筒内圧力に充分に耐えることができる。
次に、内燃機関Eを、上記高圧縮比状態から、再び低圧縮比状態に切換えるには、切換弁60をオフ状態、即ち非通電状態にして、油路59を油溜め62に開放する。すると、下流側油路59bに連なる第1および第2アクチュエータ451 ,452 の油圧室521 ,522 は減圧し、第1および第2アクチュエータ451 ,452 の受圧ピン481 ,482 は、それぞれ戻しばね551 ,552 の付勢力を受ける戻しプランジャ511 ,512 の制御下に置かれる。
こうして、油圧室521 ,522 が減圧すると、先ず、第1アクチュエータ451 では、戻しプランジャ511 が受圧ピン481 を摺動子491 と共に油圧室521 側に押動して、リフト部材28をリフト解除位置Aへと回動し、第1カム山38,38…および第2カム山39,39…は、互いに頂部をずらした配置となるから、図15で説明したように、吸入下死点の付近で、それまで上向きに作用していたピストン荷重が下向きに変化すると、ピストンアウタ5bは、図13に示すように、第1カム山38,38…および第2カム山39,39…を相互に噛み合せながら、ピストンインナ5aに近接するように変位し、一方のカム山39の頂部が、他方のカム山38間の谷底に突き当ったことでピストンアウタ5bの低圧縮比位置Lが決まる。
ピストンアウタ5bが低圧縮比位置Lに到達すると、ロック板25の雄スプライン41は、ピストンアウタ5bのロック溝43に進入可能となるから、第2アクチュエータ452 の戻しプランジャ512 が戻しばね552 の付勢力で受圧ピン482 を摺動子492 と共に、油圧室522 側に押動して、ロック板25をロック位置Dへと回動し、ロック機構40をロック状態にする。即ち、ロック板25の雄スプライン41を、ピストンアウタ5bの雌スプライン42の上端面に対向させ、両スプライン41,42相互の摺動を阻止する。
次に、低圧縮比→高圧縮比の切換時に排気弁31eのバルブタイミングを進角することで切換振動を低減する原理を、図16および図17に基づいて説明する。図17において、各特性曲線のうち、細線はバルブタイミングの制御なしの場合に対応し、太線はバルブタイミングの制御ありの場合に対応する。
通常、排気弁31eは排気上死点の近傍で閉弁するが、排気弁31eの閉弁タイミングを進角して通常よりも早めに閉弁することで、排気行程の末期で燃焼室4aに排気を閉じ込めて筒内圧力を高めに維持することができる。その結果、筒内圧力荷重および慣性力荷重の合成荷重が正値(上向き)になるタイミングが、排気弁31eのバルブタイミングの制御を行わない場合(図15参照)に比べて遅れ、排気上死点の直前へと移動する。
低圧縮比→高圧縮比の切換は、筒内圧力荷重および慣性力荷重の合成荷重が正値(上向き)になることで行われるが、排気弁31eのバルブタイミングの制御を行わない場合(図15参照)では、合成荷重が早めに正値になるため、排気上死点の近傍で低圧縮比→高圧縮比の切換が行われるときに、上向きの合成荷重が過大になってピストンアウタ5bが高圧縮比位置に向かって急激に上昇し、大きな衝撃を発生する虞がある。
一方、本実施の形態によれば、排気上死点の近傍における上向きの合成荷重が小さく抑えられるので、排気上死点の近傍で低圧縮比→高圧縮比の切換が行われるときに、上向きの合成荷重が適切な大きさに維持され、ピストンアウタ5bが高圧縮比位置に向かって上昇する速度を抑制して大きな衝撃の発生を防止することができる。
尚、排気弁31eのバルブタイミングを過剰に進角すると、合成荷重が正値(上向き)になるタイミングが排気上死点よりも後になり、ピストン5が下降を始めてからピストンアウタ5bが上昇して圧縮比の切換が行われることになり、極めて大きい衝撃が発生する虞がある。よって、排気弁31eのバルブタイミングの進角量は、合成荷重が正値(上向き)になるタイミングが、排気上死点の直前になるように設定するのが望ましい。
次に、高圧縮比→低圧縮比の切換時に吸気弁31iのバルブタイミングを遅角することで切換振動を低減する原理を、図18に基づいて説明する。図18において、各特性曲線のうち、細線はバルブタイミングの制御なしの場合に対応し、太線はバルブタイミングの制御ありの場合に対応する。
通常、吸気弁31iは排気上死点の近傍で開弁するが、吸気弁31iの開弁タイミングを遅角して通常よりも遅めに開弁することで、吸入行程の前半で燃焼室4aを密閉して筒内圧力を低めに維持することができる。その結果、筒内圧力荷重および慣性力荷重の合成荷重が負値(下向き)になるタイミングを通常よりも遅らせ、吸入下死点の近傍で高圧縮比→低圧縮比の切換が行われるときに、下向きの合成荷重が過大になるのを防止し、ピストンアウタ5bが低圧縮比位置に向かって下降する速度を抑制して大きな衝撃の発生を防止することができる。
図19に示すように、本実施の形態のバルブタイミング可変機構63は、排気弁31eのバルブタイミングを、通常バルブタイミングと、それを進角した第1バルブタイミングと、それを更に進角した第2バルブタイミングとの3段階の変更可能であり、吸気弁31iのバルブタイミングを、通常バルブタイミングと、それを遅角した第3バルブタイミングとの2段階の変更可能である。
図19(A)の横軸は内燃機関Eの回転数Neであり、縦軸はピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAであり、回転数Neが増加するのに伴い、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAが進角する。設定角度は、低圧縮比→高圧縮比の切換時の衝撃が設計値を超えないための限界のクランクアングルCAであり、クランクアングルCAが設定角度を超えると切換時の衝撃が設計値を超えることになる。
内燃機関Eの回転数Neが閾値A以下のときは、通常バルブタイミングでもピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAが設定角度を超えることはなく、切換時の衝撃が設計値を超えることはない。回転数Neが閾値Aを超えると、通常バルブタイミングでは切換時の衝撃が設計値を超えるため、第1バルブタイミングに進角することで、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAを設定角度未満に抑えることができる。
回転数Neが閾値Bを超えると、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAが設定角度を超え、第1バルブタイミングでは切換時の衝撃が設計値を超えるため、第2バルブタイミングに進角することで、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAを設定角度未満に抑えることができる。回転数Neが閾値Cを超えると、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAが設定角度を超え、第2バルブタイミングでは切換時の衝撃が設計値を超えるため、低圧縮比→高圧縮比の切換を禁止することで、ピストン荷重が上向きになるクランクアングルCAが設定角度未満に抑えられる。
図19(B)の横軸は内燃機関Eの回転数Neであり、縦軸はピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAであり、回転数Neが増加するのに伴い、ピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAは進角する。設定角度は、高圧縮比→低圧縮比の切換時の衝撃が設計値を超えないための限界のクランクアングルCAであり、クランクアングルCAが設定角度を超えると切換時の衝撃が設計値を超えることになる。
内燃機関Eの回転数Neが閾値D以下のときは、通常バルブタイミングでもピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAが設定角度を超えることはなく、切換時の衝撃が設計値を超えることはない。回転数Neが閾値Dを超えると、ピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAが設定角度を超え、通常バルブタイミングでは切換時の衝撃が設計値を超えるため、第3バルブタイミングに遅角することで、ピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAを設定角度未満に抑えることができる。
回転数Neが閾値Eを超えると、ピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAが設定角度を超え、通常バルブタイミングでは切換時の衝撃が設計値を超えるため、高圧縮比→低圧縮比の切換を禁止することで、ピストン荷重が下向きになるクランクアングルCAが設定角度未満に抑えられる。
尚、高負荷運転時にはノッキングが発生し易い傾向があるため、それを防止すべく、通常とは逆に高圧縮比→低圧縮比の変更を行う場合がある。つまり、高回転・高負荷状態では高圧縮比→低圧縮比の切換禁止要求と、高圧縮比→低圧縮比の切換要求とが拮抗する可能性がある。そこで、回転数Neが閾値E以上になることが予想されたとき、フィードフォワードとして前もって低圧縮比への切換を行うことで、上記相反する要求への対策を行うことができる。
次に、図20のフローチャートに基づいて、上述した圧縮比切換時の衝撃を低減するためのバルブタイミング変更制御の内容を再度説明する。
先ず、ステップX1で内燃機関Eの回転数や負荷のような運転条件を検出し、ステップX2で前記回転数および負荷を図21のマップに適用して圧縮比切換条件を検索する。その結果、ステップX3で高圧縮比指令が出力されたとき、ステップX4で高圧縮比への切換が完了していれば、ステップX5で高圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。前記ステップX4で高圧縮比への切換が完了しておらず、ステップX6で回転数が閾値A以下であれば、前記ステップX5で高圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。
前記ステップX7で回転数Neが閾値Aを超えて閾値B以下であれば、ステップX8で高圧縮比状態にて第1バルブタイミングによる運転が行われる。ステップX9で回転数が閾値Bを超えて閾値C以下であれば、ステップX10で高圧縮比状態にて第2バルブタイミングによる運転が行われる。前記ステップX9で回転数が閾値Cを超えていれば、ステップX11で低圧縮比→高圧縮比の切換を禁止し、ステップX12で低圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。
前記ステップX3で高圧縮比指令が出力されておらず(つまり低圧縮比指令が出力されており)、ステップX13で低圧縮比への切換が完了していれば、前記ステップX12で低圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。前記ステップX13で低圧縮比への切換が完了しておらず、ステップX14で回転数が閾値D以下であれば、前記ステップX12で低圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。
ステップX15で回転数が閾値Dを超えて閾値E以下であれば、ステップX16で低圧縮比状態にて第3バルブタイミングによる運転が行われる。前記ステップX15で回転数Neが閾値Eを超えていれば、ステップX17で高圧縮比→低圧縮比の切換を禁止し、ステップX18で高圧縮比状態にて通常バルブタイミングによる運転が行われる。
図22は低圧縮比→高圧縮比の切換時の効果を示すものである。
排気弁31eが閉弁するバルブタイミングを進角する制御なしの場合には、内燃機関Eの回転数が増加するのに伴って切換振動が小→中→大と増加している。
バルブタイミングを一段だけ進角できる場合には、回転数が低いときには通常バルブタイミングでも切換振動は小さく、回転数が中程度のときには第1バルブタイミングに遅角することで切換振動を小さく抑えることができる。しかしながら、回転数が大きいときには、第1バルブタイミングに進角しても不充分で、切換振動が中程度まで増加してしまう。
バルブタイミングを二段に進角できる場合には、回転数が低いときには通常バルブタイミングでも切換振動は小さく、回転数が中程度のときには第1バルブタイミングに進角することで切換振動を小さく抑えることができ、回転数が大きいときには第2バルブタイミングに進角することで切換振動を小さく抑えることができる。
図23は高圧縮比→低圧縮比の切換時の効果を示すものである。
内燃機関Eの回転数が増加するのに伴って切換振動が大きくなったとき、吸気弁31iが閉弁するバルブタイミングを遅角することで切換振動を小さくすることができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態の圧縮比可変装置は圧縮比を高低の2段階に切り換えるようになっているが、圧縮比を3段階以上に切り換えるものであっても良い。