JP2010029090A - 遺伝子導入剤 - Google Patents

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泰秀 中山
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Abstract

【課題】遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】芳香環を核とし、この核に分岐鎖として複数のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合している多官能性イニファターと、ビニル系モノマーとを溶液中で重合することにより得られるスター型分岐型重合体同士が架橋した架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であって、前記架橋スター型分岐型重合体は、前記溶液中の多官能性イニファターの濃度、ビニル系モノマーの濃度、及び多官能性イニファターとビニル系モノマーとのモル濃度の比をこの重合反応におけるリビング規則の範囲外となるような条件で重合したものである。
【選択図】図2

Description

本発明は、遺伝子導入剤に関する。
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
本出願人らは、合成高分子ベクターとしてベンゼンなど芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを発明した(下記特許文献1)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合しエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
WO2004/092388
本発明は、遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤を提供することを目的とする。
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、芳香環を核とし、この核に分岐鎖として複数のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合している多官能性イニファターと、ビニル系モノマーとを溶液中で重合することにより得られるスター型分岐型重合体同士が架橋した架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であって、前記架橋スター型分岐型重合体は、前記溶液中の多官能性イニファターの濃度、ビニル系モノマーの濃度、及び多官能性イニファターとビニル系モノマーとのモル濃度の比をこの重合反応におけるリビング規則の範囲外となるような条件で重合したものであることを特徴とするものである。
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記リビング規則の範囲外となる条件は、下記(a)〜(c)
(a) 多官能イニファターの濃度が10mM超である、
(b) ビニル系モノマーの濃度が0.5M以下である、
(c) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上である、
の少なくとも1つの条件を満たすものであることを特徴とするものである。
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記リビング規則の範囲外となる条件は、下記(d)〜(f)
(d) 多官能イニファターの濃度が10mM超100mM以下である、
(e) ビニル系モノマーの濃度が0.05M以上0.5M以下である、
(f) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上2.0未満である、
の少なくとも1つの条件を満たすものであることを特徴とするものである。
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記多官能性イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として2個以上の前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合しているものであることを特徴とするものである。
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項1ないし4のいずれか1項において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項5において、前記ビニル系モノマーが、カチオン性モノマーであることを特徴とするものである。
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項1ないし6のいずれか1項において、分岐型重合体の分岐鎖のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が架橋点として寄与していることを特徴とするものである。
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記架橋スター型分岐型重合体の分子量が、3,000〜300,000であることを特徴とするものである。
請求項9の遺伝子導入剤は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記重合が光照射によるものであること特徴とするものである。
請求項10の遺伝子導入剤は、請求項9において、前記光照射の光が、250〜400nmの混合紫外線であることを特徴とするものである。
本発明の遺伝子導入剤は、芳香環を核とし、この核に分岐鎖として複数のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合している多官能性イニファターと、ビニル系モノマーとを溶液中で重合することにより得られるスター型分岐型重合体同士が架橋した架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であって、前記架橋スター型分岐型重合体は、前記溶液中の多官能性イニファターの濃度、ビニル系モノマーの濃度、及び多官能性イニファターとビニル系モノマーとのモル濃度の比をこの重合反応におけるリビング規則の範囲外となるような条件で重合したものであるため、効率よく細胞へ遺伝子を導入することができる。
本発明においては、前記リビング規則の範囲外となる(a)〜(c)の条件のうち少なくとも1つを満たすことが好ましい。(a)〜(c)の少なくとも1つを満たす場合、重合反応が停止反応を伴うため、低分子量のスター型分岐型重合体同士が複雑に架橋した架橋スター型分岐型重合体、即ち、活性の高い遺伝子導入剤になる。
本発明のように、スター型分岐型重合体同士を架橋するためには、スター型分岐型重合体を、貧溶媒をエーテルとする再沈殿により精製し単離した後、架橋する必要があるが、スター型分岐型重合体の低分子量体は、エーテルに可溶であるため単離が困難であった。
即ち、従来の架橋スター型分岐型重合体は、分子量15000以上の高分子量スター型分岐型重合体を出発原料として用いていたが、このような高分子量体を架橋すると、架橋体がゲルを形成したり、代謝、排泄の観点から遺伝子導入剤としての使用に不適な分子量150,000の超高分子量体になる場合があった。
本発明によれば、リビング規則の範囲外、即ち、ポリマー成長核が小さい重合開始の初期に、ポリマー成長反応と拮抗しやすい分岐鎖ω末端同士の衝突結合による成長停止反応が優先して起こりやすい条件下で重合を行うため、分岐鎖末端の成長停止反応による複雑な多分岐構造の成長核に対してさらに重合が起こりネットワーク状の架橋スター型分岐型重合体が得られると考えられる。
本発明の遺伝子導入剤は、芳香環を核とし、この核に分岐鎖として複数のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合している多官能性イニファターと、ビニル系モノマーとを溶液中で重合することにより得られるスター型分岐型重合体同士が架橋した架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であって、前記架橋スター型分岐型重合体は、前記溶液中の多官能性イニファターの濃度、ビニル系モノマーの濃度、及び多官能性イニファターとビニル系モノマーとのモル濃度の比をこの重合反応におけるリビング規則の範囲外となるような条件で重合したものである。
なお、本明細書において、多官能性イニファター(以下、単にイニファターと称す場合がある。)とは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
また、本明細書において、多官能性イニファター濃度とは、核である芳香環に結合するN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基のモル濃度を指す。
例えば、4官能性イニファター濃度は、下記計算式、
[(4官能性イニファターの重量/4官能性イニファターの分子量)×4]/溶媒の体積
により算出することができ、6官能性イニファター濃度は、下記計算式、
[(6官能性イニファターの重量/6官能性イニファターの分子量)×6]/溶媒の体積
により算出することができる。
本発明におけるリビング規則とは、通常のリビング重合において成立する、
重合開始剤のモル濃度×得られたポリマーの分子量=収量
という関係を指す。
本発明に用いる原料の重合反応にあっては、イニファターの濃度が1〜10mM、かつビニル系モノマーの濃度が0.5超〜1.5Mであり、さらに連鎖移動成分及び酸素が含まれない条件において、上記の関係が成立する。
本発明の遺伝子導入剤は、特に、溶液中のイニファターの濃度、及びビニル系モノマーの濃度を調整することにより、上記リビング規則が成立しないように重合した架橋スター型分岐型重合体よりなるものである。
なお、上記連鎖移動成分とは、具体的にはクロロホルム、塩化ベンゼン、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、システインなどの還元性硫黄化合物、ブトキシヒドロキシトルエン、クレゾールなどのフェノール類化合物などであり、酸素が含まれない条件とは、溶存酸素濃度が100ppm以下程度であることをいう。
前記リビング規則の範囲外となる条件は、下記(1)〜(6)
(1) 多官能イニファターの濃度が1mM未満である、
(2) 多官能イニファターの濃度が10mM超である、
(3) ビニル系モノマーの濃度が0.5M以下である、
(4) ビニル系モノマーの濃度が5.0M超である、
(5) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.002未満である、
(6) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上である、
の少なくとも一つの条件を満たす場合であるが、本発明においては、停止反応を積極的に起させるために、多官能イニファターの濃度を高く、および/またはビニル系モノマーの濃度を低く設定した、下記(a)〜(c)
(a) 多官能イニファターの濃度が10mM超である、
(b) ビニル系モノマーの濃度が0.5M以下である、
(c) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上である、
の少なくとも1つの条件を満たすものであることが好ましく(請求項2)、特に、
下記(d)〜(f)
(d) 多官能イニファターの濃度が10mM超100mM以下である、
(e) ビニル系モノマーの濃度が0.05M以上0.5M以下である、
(f) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上2.0未満である、
の少なくとも1つの条件を満たすものであることが好ましい(請求項3)。
これらの条件を少なくとも1つ満たすことにより、分子量が小さく遺伝子導入活性が高い架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を得ることができる。
上記イニファターの濃度が極端に低い場合、イニファターの反応性が低いためにスター型分岐型重合体の収率が悪くなる。また、ビニル系モノマーの濃度が極端に低くてもスター型分岐型重合体の収率が悪くなる。
このような濃度範囲及びモル濃度比の範囲内で停止反応を伴った重合反応を行うことで、架橋スター型分岐型重合体の分岐構造を複雑なネットワーク状にすることができ、遺伝子導入活性を向上させることができる。また、スター型分岐型重合体を合成後に単離して光架橋する方法と異なり、ワンポットでの重合が可能である。
N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に2個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が2個以上分岐鎖として結合しているものが好適である。例えば、2分岐鎖としては、1,4−ジ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,4−ジ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
本発明に用いるビニル系モノマーとしては、例えば、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、特に、カチオン性モノマーであることが好ましい。
さらに本発明においては、上記ビニル系モノマーの他に、N,N−ジメチルアクリルアミド2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを導入してもよい。また、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入してもよい。
本発明の遺伝子導入剤は、上記の通り、イニファター及びビニル系モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しビニル系モノマーが結合したスター型分岐型重合体が生成し、さらにこのスター型分岐型重合体同士が架橋してなるものである。
光の照射条件は、光波長180〜700nm、特に、250〜400nmの混合紫外線が好適である。照射時間は、1分〜30,000時間、照射強度は、0.001〜10,000μW/cm程度が好適である。
本発明の遺伝子導入剤である架橋スター型分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、3,000〜300,000、特に15,000〜150,000、とりわけ20,000〜100,000程度が好ましい。また、分散(Mw/Mn)は、1.1〜3.0程度が好ましい。
なお、本明細書中において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
上記の通り、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させた遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で疎水性であり、約30℃よりも低い温度で親水性である。従って、30℃よりも低い温度で核酸と遺伝子導入剤の水溶液とを混合して遺伝子導入剤に核酸を複合させることができる。
約30℃よりも高い温度では、核酸を複合した遺伝子導入剤は、温度感応性核酸よりなる疎水性部分を有し、水不溶性となる。
このようにして生成した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
[遺伝子導入剤の合成]
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
Figure 2010029090
<実施例1〜3>
ii)カチオン性ホモポリマーの非リビング重合的光重合
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを91mg(実施例1)、182mg(実施例2)及び274mg(実施例3)を30mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド3.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm−400nmの混合紫外線を40分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た。
重合率はそれぞれ、35%(実施例1:イニファター91mg)、26%(実施例2:イニファター182mg)、18%(実施例3:イニファター274mg)となった。分子量はGPCにより、26,000(実施例1)、26,000(実施例2)または15,000(実施例3)と測定された。重合収率と分子量との間に相関は見出せず、リビング規則で重合が進行していないことが確認された。実施例1〜3の重合体の分散は、それぞれ、1.8(実施例1)、1.7(実施例2)、1.7(実施例3)であった。
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
<比較例1〜4>
iii)4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの光重合による合成
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)7.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)へ単色光HQBPフィルター(370nm)を装着して370nmの単色紫外線を20分間(比較例1)、30分間(比較例2)、40分間(比較例3)、及び50分間(比較例4)照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して1.0mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た。得られたポリマーの重合率と分子量の関係は図1の通りであり、リビング規則に従って重合が進行したことが確認された。分散(Mw/Mn)はいずれも1.2〜1.3程度と狭いものであった。
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
iv) 遺伝子導入活性
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLへ調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
上記ii)またはiii)にて合成したカチオン性ポリマーを遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数はカチオン性ポリマーのモノマー単位の分子量156から計算して求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この遺伝子導入剤をDNAと150μLのOPTI−MEM中で30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の20倍となるように調整し、0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液を調整し、培養細胞へ加えた。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図2及び図3に示す。
図3より、リビング規則に従って得たカチオン性ポリマー(比較例1〜4)では、分子量と遺伝子導入活性が相関し、高分子量のカチオン性ポリマー程、高い遺伝子導入活性が得られることが分かる。ただし分子量があまりにも大きいと細胞毒性が強く発現されるため、遺伝子導入活性は低くなる。従って、4分岐型カチオン性ホモポリマーの場合、分子量が約40,000〜60,000付近が遺伝子導入活性のピークになる。高分子量のカチオン性ポリマー程、高い遺伝子導入活性が得られるは、カチオン性ポリマーの分子量とDNA、RNAのコンデンス力の関係による効果である。
これに対し、図2より明らかな通り、実施例3(分子量15,000)の遺伝子導入活性が実施例1,2(分子量26,000)の遺伝子導入活性よりも高くなっている。即ち、分子量が大きいほど遺伝子導入活性が高くなる比較例(図3)と結果が逆転している。また、同じ分子量である実施例1、2では、イニファターの濃度が高い実施例2(20mM)の系から合成した遺伝子導入剤のほうが、イニファター濃度の薄い実施例1(10mM)の系から合成した遺伝子導入剤より高い遺伝子導入活性を示している。これは、イニファターの濃度が高い方が、成長停止反応の確率が高くなり、重合と同時に起こる分子間架橋による複雑なネットワーク構造のポリマーが形成されるためだと考えられる。さらに、実施例3(分子量15,000)と比較例1(分子量15,000)との間、及び実施例1,2(分子量26,000)と比較例3(分子量27,000)との間に数倍の遺伝子導入活性の差がある。この遺伝子導入活性の差は、架橋点の有無による構造的な差であると推測される。
<比較例5〜7>
v)カチオン性ホモポリマーの光架橋
1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンの光架橋を行った。
即ち、上記iii)で合成した比較例1(分子量15,000)の4分岐型pDMAPAAmホモポリマー0.3gを100mL滅菌瓶へ入れ,土星型回転子で激しく攪拌しながら高純度窒素ガス(2L/分)で30分間パージして均質な粉末状態へ粉砕した。ここへ窒素パージ及び激しい攪拌を続けながらii)と同じ光照射装置で光照射重合を行った。照射強度は1.0mW/cm、光照射は240分間行った。照射終了後、得られた粉末は淡い黄褐色を帯びていた。50mLのメタノールを投入すると少量の不溶性のゲル状成分が生成していた。溶液を#2の濾紙で濾過した後、エバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルへ滴下してポリマー成分を沈殿させた。その後、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿処理を行って精製した。分子量はGPCにより35,000(Mw/Mn=2.5)と測定され、分子量の増大と分散のブロード化が確認された(比較例5)。
続いて、比較例3(分子量27,000)と比較例4(分子量40,000)の4分岐型pDMAPAAmホモポリマーに関しても同様の方法で光架橋を行った結果、比較例3は、分子量が46,000、分散(Mw/Mn)が2.6まで増大し(比較例6)、比較例4のスター型分岐型重合体はほとんどが不溶性のゲルとなった(比較例7)。
次に、比較例5,6の光架橋体に関しても、iv)と同様に遺伝子導入活性を評価を行い、その結果を図4に示した。
図4より、光照射することによる遺伝子導入活性効果は向上したが実施例よりも劣っていた。また、本発明のイニファターから成長する低分子量の核同士の衝突による停止反応を利用した遺伝子導入剤は、精製及び単離操作が必要ないため、ワンポットで合成が可能であり、所要時間、合成に消費した溶媒量などの製造面においても有利である。
比較例の結果を示すグラフである。 実施例の結果を示すグラフである。 比較例の結果を示すグラフである。 実施例及び比較例の結果を示すグラフである。

Claims (10)

  1. 芳香環を核とし、この核に分岐鎖として複数のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合している多官能性イニファターと、ビニル系モノマーとを溶液中で重合することにより得られるスター型分岐型重合体同士が架橋した架橋スター型分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であって、
    前記架橋スター型分岐型重合体は、前記溶液中の多官能性イニファターの濃度、ビニル系モノマーの濃度、及び多官能性イニファターとビニル系モノマーとのモル濃度の比をこの重合反応におけるリビング規則の範囲外となるような条件で重合したものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  2. 請求項1において、前記リビング規則の範囲外となる条件は、下記(a)〜(c)
    (a) 多官能イニファターの濃度が10mM超である、
    (b) ビニル系モノマーの濃度が0.5M以下である、
    (c) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上である、
    の少なくとも1つの条件を満たすものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  3. 請求項1において、前記リビング規則の範囲外となる条件は、下記(d)〜(f)
    (d) 多官能イニファターの濃度が10mM超100mM以下である、
    (e) ビニル系モノマーの濃度が0.05M以上0.5M以下である、
    (f) 多官能イニファター/ビニル系モノマーのモル比が0.02以上2.0未満である、
    の少なくとも1つの条件を満たすものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記多官能性イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として2個以上の前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合しているものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
  6. 請求項5において、前記ビニル系モノマーが、カチオン性モノマーであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項において、分岐型重合体の分岐鎖のN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が架橋点として寄与していることを特徴とする遺伝子導入剤。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、前記架橋スター型分岐型重合体の分子量が、3,000〜300,000であることを特徴とする遺伝子導入剤。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項において、前記重合が光照射によるものであること特徴とする遺伝子導入剤。
  10. 請求項9において、前記光照射の光が、250〜400nmの混合紫外線であることを特徴とする遺伝子導入剤。
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