JP2010024060A - 強誘電性酸化物とその製造方法、圧電体、圧電素子 - Google Patents

強誘電性酸化物とその製造方法、圧電体、圧電素子 Download PDF

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Abstract

【課題】圧電性能に優れた強誘電性酸化物を提供する。
【解決手段】特定構造の結晶対称性を有する下記一般式(a1)で表される組成を有する強誘電性酸化物においてAサイト元素となり得るイオン半径及びイオン価数を有するAサイト元素Aと、Bサイト元素となりうるイオン半径及びイオン価数を有するBサイト元素Bを選択して構成元素を決定し、特定構造の結晶対称性を有する強誘電性酸化物に対して、自発分極方向に電界を印加して自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、同じ特定構造のBiFeOのBi元素のBorn有効電荷より大きくなるように組成を決定し、この組成の強誘電性酸化物を製造する。
ABO・・・(a1)
(式(a1)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
【選択図】なし

Description

本発明は、強誘電性酸化物とその製造方法、強誘電性酸化物を含む強誘電性組成物と圧電体、この圧電体を用いた圧電素子に関するものである。
電界強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体と、この圧電体に電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、例えばインクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。圧電体材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物が知られている。PZTは電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体であり、モルフォトロピック相境界(MPB)及びその近傍で高い圧電性能を示すと言われている。しかしながら、鉛系材料の環境負荷に対する懸念から、圧電材料においても非鉛化の要求が高まっている。
非鉛系の圧電材料としては、チタン酸バリウム(BaTiO)がよく知られているが、このチタン酸バリウムをはじめとする非鉛系圧電材料はPZTに比べると圧電特性は未だ充分とはいえないため、圧電特性の高い非鉛系圧電材料として、種々の材料系が検討されている。
Bi系ペロブスカイト型酸化物は、鉛系の圧電材料に匹敵する圧電特性を実現可能な材料の有力候補の一つである。例えば、BiFeOは、高い強誘電性を有していることが知られており、非特許文献1にはチタン酸鉛に匹敵する高い強誘電性を有するBiFeO薄膜が記載されている。また非特許文献2には膜厚400nmのBiFeO薄膜において圧電定数d33=120pm/Vが報告されている。また、特許文献1には、BiFeOからなる圧電体膜を備えた圧電素子が開示されている。
しかしながら、BiFeOは、Feが価数の変動しやすい遷移元素であることから、電界をかけて駆動させる際にリーク電流が発生しやすい。そのため常温以上の温度で使用するデバイスとしての適用が難しい。上記した強誘電性や圧電定数の測定は90K等の低温で測定された値である。そのため、BiFeOと同等以上の圧電特性を有し、且つリーク特性の良好なBi系ペロブスカイト型酸化物が検討されている。
非特許文献3では、密度汎関数理論によりBiAlO及びBiGaOの最安定な結晶構造とその構造における分極値を計算により求め、それらの固溶体であるBi(Al,Ga)Oの圧電体としての可能性を示唆している。
特開2005−39166号公報 Jpn. J. of Appl. Phys., Vol. 43, No.5A, pp. 647 -648, 2004 Appl.Phys.Lett Vol 85 p2574 (2004) Chem. Mater., Vol. 17 (6), pp. 1376 -1380, 2005
非特許文献3では、固溶させる2種類のペロブスカイト型酸化物の結晶構造及び分極値を計算により求めて、Bi(Al,Ga)OがPZTに匹敵する圧電性を有する非鉛系圧電体となりうるとしているが、材料探索までにとどまっており、好適な組成についての設計については記載されていないうえに、菱面体、正方晶の強誘電性の比較検討もない。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、圧電性能(強誘電性能)に優れた非鉛系強誘電性酸化物の新規な材料設計思想を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、上記材料設計思想に基づいて強誘電性酸化物を製造する方法、そして、上記材料設計思想に基づいて設計された強誘電性酸化物及びそれを含む圧電体を提供することを目的とするものである。
本発明の強誘電性酸化物の製造方法は、特定構造の結晶対称性を有する下記一般式(a1)で表される組成を有する強誘電性酸化物の製造方法であって、
前記一般式(a1)においてAサイト元素となり得るイオン半径及びイオン価数を有するAサイト元素Aと、Bサイト元素となりうるイオン半径及びイオン価数を有するBサイト元素Bを選択して前記強誘電性酸化物の構成元素を決定し、前記強誘電性酸化物に対して該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きくなるように前記組成を決定し、
該組成の強誘電性酸化物を製造することを特徴とするものである。
ABO・・・(a1)
(式(a1)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
本発明において、強誘電性酸化物は、ペロブスカイト型酸化物及び、類似の構造をもち、結晶対称性が異なるイルメナイト型酸化物を対象としている。
本明細書において、「特定構造の結晶対称性」とは、対象となる酸化物においてとりうるヘルマン・モーガン記号で表される空間群の中から選択される1種の空間群を意味する。
本発明の強誘電性酸化物の製造方法は、前記特定構造の結晶対称性が、菱面体R3c構造、菱面体R3m構造、又は正方晶構造である場合に好ましく適用することができる。
前記強誘電性酸化物が下記一般式(a2)で表されるものである場合は、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成となるように前記組成を決定することが好ましい。かかる組成は、一般式(a2)において、AB1Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、AB2Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとが互いに異なる対称性及び分極方向を有し、且つ、下記式(1)を満足するように決定することが好ましい。
A(B1,B2)O・・・(a2)、
(式(a2)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、B1及びB2は、互いに異なる1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
|E(X)―E(Y)|≦E・PV・・・(1)
(式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、上記一般式(a2)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは結晶の基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
本発明の強誘電性酸化物は、下記一般式(a3)で表され、特定構造の結晶対称性を有する強誘電性酸化物であって、該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きいことを特徴とするものである。強誘電性酸化物が下記一般式(a4)で表されるものである場合は、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成を有するものであることが好ましい。更に、一般式(a4)において、AB1Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、AB2Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとが互いに異なる対称性及び分極方向を有し、且つ、下記式(1)を満足するものであることが好ましい。
ABO・・・(a3)、
A(B,B)O・・・(a4)、
(式(a3)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
|E(X)―E(Y)|≦E・PV・・・(1)
(式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、上記一般式(a4)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは結晶の基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
上記本発明の強誘電性酸化物においての結晶対称性は、菱面体R3c構造、菱面体R3m構造、又は正方晶P4mm構造であることが好ましい。
本発明の強誘電性組成物は、上記の本発明の強誘電性酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明の第1の圧電体は、上記の本発明の強誘電性酸化物を含むことを特徴とするものである。第1の圧電体は、強誘電性酸化物の自発分極方向に結晶配向性を有することが好ましい。例えば、第1の圧電体において、強誘電性酸化物の結晶対称性が菱面体R3c構造である場合は、<111>方向の結晶配向性を有することが好ましい。
本明細書において、「結晶配向性を有する」とは、Lotgerling法により測定される配向率Fが、80%以上であることと定義する。
配向率Fは、下記式(i)で表される。
F(%)=(P−P0)/(1−P0)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
P0は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P0)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
また、本発明の第2の圧電体は、下記一般式(a5)で表され、特定構造の結晶対称性を有する強誘電性酸化物であって、該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きい強電性酸化物を含み、該強誘電性酸化物の自発分極方向に結晶配向性を有することを特徴とするものである。
ABO・・・(a5)
(式(a5)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種のBサイト元素、Oは酸素。)
上記第1及び第2の本発明の圧電体の好ましい形態としては、圧電膜が挙げられる。
また、本発明の圧電素子は、上記の本発明の圧電体と、その圧電体に電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明は、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物の新規な材料設計思想を提供するものである。本発明によれば、その材料設計思想に基づいて、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物の組成を容易に設計し、その組成が得られる条件でBi系強誘電性酸化物を製造することにより、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物を得ることができる。
また、上記本発明のBi系強誘電性酸化物を含む圧電体は、強誘電性酸化物の自発分極方向に結晶配向性を有する薄膜である場合は、特に高い圧電性能を有する。従って本発明によれば、圧電性能に優れた圧電素子を提供することができる。
「強誘電性酸化物,強誘電性酸化物の製造方法」
本発明は、Aサイト元素がBiを主成分とする金属元素からなり、Bサイトが平均3価の金属元素からなる33系を対象とした材料設計に関するものであり、Bi33系酸化物における圧電特性とBorn有効電荷との相関性を初めて見いだし、その相関性を利用して高い圧電特性を有する新規Bi系酸化物の製造を可能としたものである。
結晶格子中において、着目する原子sが動くと、原子sの原子軌道と周辺原子の原子軌道との混成の変化、つまり波動関数の混成(共有性)の変化を生じるため、強誘電性に関与する動的な原子sのイオン価数は、裸のイオン価数(通常の静的な固体中の電荷)からの増強が見られるようになる。Born有効電荷とは、この電子状態を反映した動的電荷であり、下記式(2)で表され、原子sの変位による分極の変化量の微分として与えられる量である。
Figure 2010024060
(式(2)中、Z αβは、電界印加方向をα方向且つ変位方向をβ方向とした時の原子sのBorn有効電荷、eは電子の電荷、Ωは系の体積、Pαはα方向の自発分極、u βは原子sのβ方向への結晶座標(結晶の格子定数で規格化した値)である。)
圧電材料におけるBorn有効電荷については、いくつかの文献において計算されている。例えば、上記非特許文献3には、BiAlO(菱面体晶)及びBiGaO(正方晶)それぞれについて、構成元素それぞれのBorn有効電荷が計算されている。非特許文献3には、BiAlO(菱面体晶)及びBiGaO(正方晶)におけるBiのBorn有効電荷が大きいことに起因してその強誘電性が高くなっていることが記載されている。”Ph. Ghosez et al, Phys. Rev. B, vol. 58, p6224, 1998.”(文献4)では、種々の強誘電体の立方晶におけるBorn有効電荷が求められており、ペロブスカイト型酸化物のBサイトのBorn有効電荷の増強についての議論がなされている。また、”L. Bellaiche et al, Phys. Rev. Lett, vol. 83, p1347, 1999.”(文献5)では、正方晶のチタン酸鉛とPZTについてBorn有効電荷が計算されており、これらの酸化物においてはBサイトイオンのBorn有効電荷の増強が強いことが記載されている。
自発分極方向の圧電特性(圧電e33定数)は、下記式(3)で表され、内部原子座標uBi k(Bi原子のk成分)を止めた場合の歪みによる分極変化量(e33,c(clamp項))と、Born有効電荷に依存する分極変化量(e33,i(internal項))の和で表されることが知られている。式中、ηは「3」軸方向への伸張・縮小を示す歪みでこの場合は自発分極方向への歪み、aは「3」軸方向への格子定数であり、この場合は自発分極方向への格子定数である。
Figure 2010024060
式(3)において、それぞれの項の圧電特性に対する寄与の割合や相関性は、物質によって異なると考えられる。例えば、文献5では、正方晶のチタン酸鉛とPZTでは、BサイトイオンのBorn有効電荷の増強が強く、歪みによる内部原子座標の変化量の寄与も重要であることが記載されているが、本発明で対象としているBi系ペロブスカイト型酸化物(及びイルメナイト型酸化物)では、文献5に記載の鉛系酸化物と同様の、BサイトイオンのBorn有効電荷の増強による圧電特性への効果はみられないことを本発明者は確認している(後記実施例図4〜6を参照。)。
本発明者は、数種のBi系ペロブスカイト型酸化物(及びイルメナイト型酸化物)に対して、BiのBorn有効電荷ZBi 33と圧電e定数e33を計算により求め、BiのBorn有効電荷ZBi 33と圧電e定数e33とに強い相関性があることを見いだした。以下に、Born有効電荷ZBi 33と圧電e定数e33計算方法及び計算結果について示す。
まず、特定構造の結晶対称性(特定構造R)有するBi系酸化物において、BiのBorn有効電荷ZBi 33を求める方法について示す(式(2))。ここで特定構造とは、上記したように、特定構造の結晶対称性(特定構造R)とは、対象となる酸化物においてとりうるヘルマン・モーガン記号で表される空間群の中から選択される1種の空間群で表されるものであり、Bi系酸化物では、正方晶構造は(固溶する原子が特定の秩序をもっていたり、磁性の構造を考えたりしなければ)P4mm構造が考えられ、菱面体晶構造ではR3c構造又はR3m構造が考えられる。上記一般式(a1)で表されるBi系酸化物は、基本的にペロブスカイト型の結晶構造となるが、立方晶から、酸素八面体が<111>軸でカウンターローテーションした後に<111>方向に原子変位したR3c構造では、イルメナイト型の結晶構造となる。上記のように、正方晶構造は基本的にP4mm構造であるが、以下に示す計算において、固溶体の正方晶の場合には、Bサイトの原子種の秩序を<111>方向にとったI4mm構造で近似して計算する。近似した対称性がI4mm構造となる場合はI4mm構造として計算する。
Born有効電荷ZBi 33の計算手法は、特に制限されないが、基本的には密度汎関数法を用いた第1原理計算から、Berry位相の方法より自発分極を求めて得る方法、あるいは密度汎関数摂動法による方法などが挙げられる。密度汎関数法を用いる場合は、擬ポテンシャル近似、PAW法(Projector Augmented-Wave法)、LAPW法(Linearized Augmented Plane Wave Method)法等、種々の手法や近似法を用いてよい。
まず、特定構造Rにおける格子定数及び原子座標uBi の最適化を行う。最適化において、結晶ユニットセルの体積Ωや格子定数は、計算値だけではなく、実験値を利用してもよい。特に固溶体においては、結晶ユニットセルの代わりにスーパーセルを用いた元素組成の近似や、Virtual Crystal Approximation(VCA)法やKKR法等の固溶性を近似する方法等を利用してもよい。最適化の方法は特に制限されないが、PAW法やウルトラソフト擬ポテンシャル等により原子間力が0.5mRy/Bohr程度まで収束するまで実施すればよい。ここでエネルギー単位Ry(リュードベリ)は、バンド計算において主に使用されるエネルギー単位であり、1Ry=13.6eVに換算される。また、Bohrは、ハートリー原子単位における長さの単位であり、1Bohr=5.2918×10-11mである。
次に、原子位置が最適化された特定構造RのBi系酸化物に対して、Born有効電荷ZBi 33を計算する。自発分極密度Pの計算は、上記の最適化された格子定数及び原子座標を用いてBerry位相の方法で分極を計算して求める。Born有効電荷の計算は最適化した原子座標から着目する原子を着目する方向へ微小に変位させ、最適化した構造の場合と同様に分極を計算し、その分極値と最適化した系の分極の値との差を原子変位の量で割ることで値を得る有限差分の方法で求めるか、密度汎関数摂動法等で求める。
また、Born有効電荷ZBi 33は、フォノンの分散を測定し、Longitudinal Optical PhononとTransversal Optical Phononの振動差からも見積もることができる。
圧電e定数e33の計算は、密度汎関数摂動法によって値を得る方法、あるいは、有限差分による手法等によって実施することができる。例えば、有限差分による手法では、以下のようにしてe定数を計算することができる。
有限差分による方法は、有限の歪Δηを与えて、原子位置を最適化して自発分極 Pηを計算し、その値と、歪が無い場合の自発分極Pとの差ΔP=Pη−Pを計算し、ΔP/Δηによって計算する。Δηは典型的には±1%程度の間で、いくつかのΔηの値でΔPを計算し、ΔPがΔηに対し線形に変化することを確認しながら、最小2乗法などでΔPのΔηに対する線形係数をもとめることでe定数を計算することができる。
表1〜3は、実際に、数種類のBi系酸化物について、固溶体に対しては、スーパーセルを用い、PAW法による最適化を行ってBerry位相を利用した計算から有限差分の方法により自発分極を計算して求めた各構成元素(s)のBorn有効電荷Z 33及びe33を、BiFeO,BiAlO,BiGaO,BiScO,BiCrOについて示したものである。表1は特定構造RがR3c構造、表2は特定構造RがR3m構造、表3は特定構造Rが正方晶構造(P4mm構造)の場合について示してある。R3c構造は、Bi系強誘電性酸化物に多く見られる菱面体構造の結晶対称性であり、既に述べたようにイルメナイト型の結晶構造を有している。またR3m構造は、PZT等の菱面体構造等でよく見られる結晶対称性である。P4mm構造は、Pb系やBi系など強誘電性酸化物に多く見られる正方晶構造の結晶対称性であるが、酸素の2種類の既約サイトがあり、その違いでBorn有効電荷が変わってくるため、正方晶構造における酸素のBorn有効電荷については2種類示してある。R3m構造、P4mm構造(及びI4mm構造)はペロブスカイト型の結晶構造である。
それぞれの結晶対称性において、自発分極の方向は、R3c及びR3m構造は<111>方向、正方晶構造は<001>方向である。従って、R3c及びR3m構造の場合は<111>方向に電界を印加し<111>方向に変位させた時の計算値、正方晶構造(P4mm構造)の場合は、<001>方向に電界を印加し<001>方向に変位させた時の計算値となる。
表1〜3には、BiのBorn有効電荷ZBi 33の増強の度合いの指標となるZBi 33/3の値も併せて示してある。表1〜3には、いずれもBiのBorn有効電荷ZBi 33の増強が強いほど、圧電e定数e33が大きいことが示されている。このことは、Bi系酸化物においては、BiのBorn有効電荷の増強が、圧電特性に大きく寄与していることを示唆している。
Figure 2010024060
Figure 2010024060
Figure 2010024060
表1〜表3に示される値を、横軸をBiのBorn有効電荷ZBi 33、縦軸を圧電e定数e33としてプロットした結果を、結晶対称性別に図1〜図3に示す。いずれの結晶対称性においても、圧電e定数e33とBiのBorn有効電荷ZBi 33とは、ほぼ線形な関係にあり、最小自乗法による近似を行ったところ、図1においてはe33=5.6424×ZBi 33−22.111で表されることがわかった。R3m構造に関しても、線形近似が比較的良好であり、図2においてはe33=2.138×ZBi 33−6.8918で表される。
既に述べたように、正方晶のチタン酸鉛とPZT等では、BサイトイオンのBorn有効電荷の増強が強いものの、内部原子座標の歪みによる変化量の寄与も重要であるとされており、上記したAサイト元素のBorn有効電荷とe33定数との相関については見出されていない。菱面体晶のBi系酸化物において、BiのBorn有効電荷とe33定数との強い相関性は、結晶の分極をBi原子が主として担っており、Bサイト原子の寄与が小さいために得られるものと考えられる。これは、Born有効電荷のBサイトの増強がBiの増強に比べてほとんどみられないことからも理解される。正方晶系は、菱面体に比べ格子定数比c/aが大きいためBiと酸素の混成が小さく、また菱面体の中でも特にR3c構造では、R3mに比べ酸素が<111>軸を中心に回転しており、このことがBiと酸素の混成に有利に働いているものと考えられる。Biの6p軌道と酸素の2p軌道との混成によってBorn有効電荷が増強しているものと考えられる。
このように、中でも、R3c構造においては顕著なZBi 33の増強がみられることが確認される。したがって、Bi系酸化物においては、R3c構造の結晶対称性とし、更に<111>方向の結晶配向性を有するような圧電体にすることにより、高いe33定数が得られる、電場に敏感に反応する性質を持つと考えられる。
一方、正方晶構造においてはZBi 33の増強の度合いは小さい。この傾向は、既に述べた正方晶のチタン酸鉛とPZT等における、BサイトイオンのBorn有効電荷の増強の傾向と対照的である。これは、Bi系の正方晶は格子定数比c/aが大きく、Bi原子と酸素の距離が菱面体に比べ大きいためBiのs、p原子軌道と酸素のp軌道の混成がすでに小さく、原子が変位してもその変化量が小さいためであると考えられる。ただ、それでも正方晶においても、BiのBorn有効電荷が大きいものほど原子変位に伴う、波動関数の混成の変化量が大きいため圧電e係数が大きくなるのだと推察できる。
一方、表1〜3には、Bi系酸化物において、Bサイト元素のBorn有効電荷Z 33が増強されると、e33定数は逆に小さくなる傾向が示されている。Biと同様に、横軸をBサイト元素のBorn有効電荷Z 33、縦軸を圧電e定数e33としてプロットした結果を、図4〜図6に結晶対称性別に示す。図4〜図6からも、Bi系酸化物においては、Bサイト元素のBorn有効電荷Z 33の増強は、e33定数の大きさに対して有効でないことが確認された。これは、PZTやBaTiOなどの系とは対照的であり、Bi系特有の性質であると考えられる。
圧電e定数は、電場に対する物質の圧電体としての感度を示す量であり、電場に感度よく反応する圧電体の作成の指針となる物性量である。電場による結晶の歪みの大きさの応答である圧電d定数とは、dij=Sjkkjの関係にある(Sjkは弾性コンプライアンスである。)。圧電e定数の変化に対して、電場をかけたことによる弾性コンプライアンスSjkの値が大きく変わるという報告はなく、その変化量は充分に小さいと考えられる。さらに、物質ごとの弾性コンプライアンスの変化に関しては、たとえば系が菱面体の場合d33≒e33/(C11−C12) で見積もることができる(ここで、C11,C12は弾性定数を表すテンソル量である)。BiFeO,BiAlOにおけるC11,C12の値を立法晶の場合について表4に示す。e33の係数はBiAlO/BiFeOで約2.0倍の比で値が違うが、(C11−C12)の比は0.78であり1に近い。よってe33の違いのほうが弾性コンプライアンスよりd係数に効いている。このため、圧電d定数は、e定数が大きいほど、大きくなると考えられる。上記したように、圧電e定数は、BiのBorn有効電荷の増強に伴って大きくなるため、圧電d定数もBiのBorn有効電荷の増強に伴って大きくなると考えられる。
Figure 2010024060
即ち、上記より、本発明者は、Bi系酸化物の圧電e定数は、BiのBorn有効電荷ZBi 33の値によって見積もることが可能であり、BiのBorn有効電荷ZBi 33の値が、高い圧電特性を有するBi系酸化物の組成設計に有効に利用できることを見出した。
「背景技術」の項においても述べたが、強誘電性を有するBi系酸化物のうち、BiFeOは、唯一圧電特性が確認されている物質であり、その圧電d定数はd33=120pm/Vと良好であることが確認されている。近年の高特性化、小型化への要求に伴い、圧電材料には100〜120pm/Vを超えるd33値が要求されていることを鑑みると、BiFeOを超える圧電特性となるBiのBorn有効電荷を有するように組成設計を行い、該組成のBi系酸化物を製造することにより、高い圧電特性を有する新規Bi系酸化物の製造が可能となる。
すなわち、本発明の強誘電性酸化物の製造方法は、特定構造の結晶対称性(以下、特定構造Rとする)を有する下記一般式(a1)で表される組成を有する強誘電性酸化物の製造方法であって、一般式(a1)においてAサイト元素となり得るイオン半径及びイオン価数を有するAサイト元素Aと、Bサイト元素となりうるイオン半径及びイオン価数を有するBサイト元素Bを選択して強誘電性酸化物の構成元素を決定し、強誘電性酸化物に対して強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷(Z33 Bi(ABO))が、特定構造RのBiFeOの前記Born有効電荷Z33 Bi(BiFeO)より大きくなるように一般式(a1)の組成を決定し、その組成の強誘電性酸化物を製造することを特徴とするものである。
ABO・・・(a1)
(式(a1)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
上記一般式(a1)で表される強誘電性酸化物の特定構造の結晶対称性(特定構造R)がR3c構造である場合は、Z33 Bi(ABO)>4.38となるように、特定構造RがR3m構造である場合はZ33 Bi(ABO)>4.09となるように、特定構造Rが正方晶構造(P4mm又はI4mm)である場合は、Z33 Bi(ABO)>3.49となるように組成を決定する(表1〜表3を参照)。
材料の選定は、上記一般式(a)で表される強誘電性酸化物の各サイトに入ることが可能な元素を、イオン価数及びイオン半径を考慮して適宜選定する。イオン価数は、Aサイト元素Aの主成分がBi(3価)であるので、基本的にA及びBの平均イオン価数は各々3価であるが,ペロブスカイト構造又はイルメナイト構造を取り得る範囲内でずれてもよい。
Aサイト元素Aは、Biを主成分とするものである。AのBi以外の成分の元素としては、La等の各種ランタニド元素やBaなどが挙げられる。
Bサイト元素Bは、イオン価数3価の金属元素であってもよいし、平均イオン価数が3価となるように、3価より価数の小さい金属元素と3価より価数の大きい金属元素との組み合わせであってもよい。イオン価数が3価の金属元素としては、Al,Ga,Sc,Co等が挙げられる。また、平均イオン価数が3価となる組み合わせとしては、例えば、イオン価数が2価の金属元素と4価の金属元素との組み合わせであるもの等が挙げられ、(Zn2+ 0.5Ti4+ 0.5)、(Zn2+ 0.5Zr4+ 0.5)、(Zn2+ 0.5Sn4++ 0.5)、(Zn2+ 0.5Nb4+ 0.5)などが挙げられる。
強誘電性酸化物の構成元素決定後、結晶対称性(特定構造R)を仮定し、既に述べたBorn有効電荷の計算方法によりBiのBorn有効電荷Z33 Bi(ABO)を計算する。得られたZ33 Bi(ABO)と、特定構造RのZ33 Bi(BiFeO)の値とを比較し、Z33 Bi(ABO)>Z33 Bi(BiFeO)を満足するABOの組成を強誘電性酸化物の組成として決定する(後記実施例1を参照)。
次いで、決定された組成の強誘電性酸化物を製造する。本発明の強誘電性酸化物の製造方法は、理論的に組成を決定し、その組成を有する強誘電性酸化物を製造するものであるため、組成決定後の実際の製造において、製造方法は、決定された組成となるように組成制御を行って製造可能な製造方法であればよく、特に限定されない。また、製造される強誘電性酸化物の形態は限定されず、強誘電性酸化物の多結晶体からなるバルク体や薄膜等の成形体や粉体等が挙げられる(不可避不純物を含んでいてもよい。)。一般的な強誘電性酸化物の製造方法の中で組成制御が可能なものとしては、例えば、バルク体である場合は酸化物混合法などの通常の焼結法、厚膜である場合はスクリーン印刷法やグリーンシート法、薄膜である場合はパルスレーザデポジション法(PLD法)、スパッタ法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)等の気相法や、ゾルゲル法や有機金属分解法(MOD法)等の液相法等が挙げられる。製造方法によって組成制御に必要な設定条件は様々であるため、その製造方法に応じて、決定された組成の強誘電性酸化物が製造可能な製造条件を設定して製造すればよい(後記実施例を参照)。
上記組成設計において、その評価は自発分極方向に電圧を印加した時の同方向への変位に対する圧電定数にて行っている。従って、強誘電性酸化物を含む成形体の製造においては、上記結晶対称性の特定構造Rの自発分極方向に結晶配向性を有するように製造することが好ましい。例えば、特定構造RがR3c構造及びR3m構造の場合は、<111>方向に結晶配向性を有するように、正方晶構造の場合は、<001>方向に結晶配向性を有するように製造することが好ましい。
上記組成決定の際、一般式(a1)においてBサイト元素Bが複数の金属元素を含む場合、つまり、強誘電性酸化物が下記一般式(a2)で表されものである場合は、モルフォトロピック相境界(Morphotropic Phase Boundary: MPB)又はその近傍の組成となるように前記組成を決定することが好ましい。MPB組成とは、異なる結晶構造の相境界の組成であるため、MPB組成の強誘電性酸化物は、電界の印加等の環境が僅かに変化することよって相転移を生じやすいものとなる。MPB組成又はその近傍の組成とするためには、一般式(a2)において、AB1Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、AB2Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとは互いに異なる対称性及び分極方向を有するものとする必要がある。このようなAB1O及びAB2Oにおいて、下記式(1)を満足するように組成を決定することにより、MPB組成又はその近傍の組成とすることができる。
A(B1,B2)O・・・(a2)、
(式(a2)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、B1及びB2は、互いに異なる1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
|E(X)―E(Y)|≦E・PV・・・(1)
(式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、上記一般式(a2)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
上記一般式(a2)において、AB1O及びAB2Oの最も安定な結晶構造が未知のものである場合は、それぞれの酸化物に対して全エネルギーを計算して最安定な結晶構造を決定する。計算方法としは、上記したBorn有効電荷の計算と同様の種々の計算方法が挙げられるが、第1原理計算を用いる場合は、AB1O(AB2O)に対していくつかの結晶対称性を仮定して全エネルギーを計算し、得られた全エネルギー値を比較して最も低いエネルギーの結晶構造をAB1O(AB2O)の最安定な結晶構造とする。
AB1O及びAB2Oの最安定な結晶構造が互いに異なる対称性及び分極方向を有する場合、A(B1,B2)Oで表される強誘電性酸化物に対して、AB1Oの最安定な結晶構造であるXの時と、AB2Oの最安定な結晶構造Yの時の全エネルギーE(X)及びE(Y)を計算し、上記式(1)を充足するようにA(B1,B2)Oの組成を決定する。
密度汎関数法を用いた第1原理計算による複合酸化物(固溶体)の全エネルギーの計算においては、上記したように結晶の体積をユニットセルの代わりにスーパーセルを用いた元素組成の近似を用いるが、この場合、計算可能なAB1O及びAB2Oの組成比が制限される。その場合の組成決定においては、直接数値を代入して得られた計算結果により得られた組成に加え、複数の計算結果から得られた検量線を用いて決定される組成も含む。例えば、A(B1,B2)OにおけるB1とB2の組成に対して、計算により得られたE(X)―E(Y)をプロットして、組成とE(X)―E(Y)との関係を示す検量線を作成し、この検量線を用いて上記式(1)を満たすように組成を決定してもよい(後記実施例1、図8を参照)。また、VCAなどの近似によってB1,B2の組成比で決まる仮想的な原子を利用することで式(1)を満たす組成を決定してもよい。
A(B1,B2)Oが上記式(1)を満足する範囲内であれば、MPB組成あるいはその近傍の組成となり、電場による相転移を利用可能な強誘電性酸化物とすることができる。上記式(1)の右辺は、駆動電場によって構造相転移を起こす目安となる値である。圧電素子の一般的な駆動電場を考慮すれば、駆動電場Vが10〜500kV/cmにおいて式(1)を満足していることが好ましく、200kV/cmの近傍で満足していることがより好ましい。
以上のようにして、本発明の強誘電性酸化物は製造することができる。上記したように、本発明の強誘電性酸化物の製造方法によれば、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物の組成を計算により容易に設計し、その組成が得られる条件でBi系強誘電性酸化物を製造することにより、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物を得ることができる。
即ち、本発明の強誘電性酸化物は、下記一般式(a3)で表され、特定構造の結晶対称性(特定構造R)を有する強誘電性酸化物であって、強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きいことを特徴とするものである。
ABO・・・(a3)
(式(a3)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
上記本発明の強誘電性酸化物において、Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造又はイルメナイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。
上記本発明の強誘電性酸化物は、ペロブスカイト構造又はイルメナイト構造を有するものである。本発明の強誘電性酸化物は、ペロブスカイト構造又はイルメナイト構造を取り得る範囲内で、Mn,Cu,Nbからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加元素を含んでいてもよい。
また、上記本発明の強誘電性酸化物が下記一般式(a4)で表されるものである場合は、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成を有することが好ましい。
A(B1,B2)O・・・(a4)
(式(a4)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、B1及びB2は、互いに異なる1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
一般式(a4)において、AB1Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、AB2Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとが互いに異なる対称性及び分極方向を有し、且つ、下記式(1)を満足するものである場合は、MPB組成又はその近傍の組成とすることができる。
|E(X)―E(Y)|≦E・PV ・・・(1)
(式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、上記一般式(a4)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
MPB近傍の組成のPZTでは、電場による相転移によって結晶構造が変化し、その結果分極軸が回転して高い圧電性能が得られることが知られており、また、特開2007−116091号において本発明者が報告しているように、本発明者は結晶配向性を有する第1の強誘電体相を含み、電界印加により、この第1の強誘電体相の少なくとも一部が結晶系の異なる第2の強誘電体相に相転移する圧電体を備えた圧電素子を提案し、相転移に伴う分極軸の回転による変位と、相転移前後の強誘電体の分極絶対値の変化に伴う圧電効果とにより大きな歪変位量が得られる。
本発明の強誘電性酸化物において、MPB組成又はその近傍の組成のものは、電場による相転移を利用した系、特に、上記特開2007−116091号に記載の系に好ましく適用することができる。
上記のように、本発明の強誘電性酸化物は、圧電性能(強誘電性能)に優れたBi系強誘電性酸化物であるので非鉛系圧電体として好ましく用いることができる。
即ち、本発明の第1の圧電体は、上記の本発明の材料設計に基づいて設計された本発明の強誘電性酸化物を含むことを特徴とするものである。上記本発明の材料設計では、強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加させたときのBi原子のBorn有効電荷により評価し、このBorn有効電荷が大きくなるように設計したものである。従って、本発明の第1の圧電体は、強誘電性酸化物の自発分極軸方向に結晶配向性を有するものであることが、圧電性能上好ましい。具体的には、菱面体晶の場合は、<111>方向に結晶配向性を有するように、正方晶構造の場合は、<001>方向に結晶配向性を有するものであることが好ましい。
また、本発明の第2の圧電体は、下記一般式(a5)で表され、特定構造の結晶対称性(特定構造R)を有する強誘電性酸化物であって、強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きい強誘電性酸化物を含み、強誘電性酸化物の自発分極方向に結晶配向性を有することを特徴とするものである。
ABO・・・(a5)
(式(a5)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種のBサイト元素、Oは酸素。)
本発明の第2の圧電体も、上記本発明の材料設計に基づいて設計された強誘電性酸化物を含み、強誘電性酸化物の自発分極軸方向に結晶配向性を有する圧電体であるので、圧電性能の優れるものとなる。
上記したように、本発明の第1及び第2の圧電体は、スパッタ法やゾルゲル法、CVD法等により成膜可能であり、高い圧電性能を有するので、より高い圧電性能が必要とされる薄膜化した圧電体膜としても好ましく用いることができる。特に自発分極方向に配向した結晶配向膜は、圧電特性が優れる新規非鉛系圧電体膜であり、デバイスの高密度高集積化及び非鉛化の要求に応えうる圧電体膜である。
「強誘電性組成物」
本発明の強誘電性組成物は、上記の本発明の材料設計により設計された本発明の強誘電性酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明の強誘電性組成物は、上記の本発明の強誘電性酸化物以外の強誘電性酸化物、他の添加元素、焼結助剤など、上記の本発明の強誘電性酸化物以外の任意成分を含むことができる。
「圧電素子(強誘電体素子)、及びインクジェット式記録ヘッド」
本発明の圧電素子(強誘電体素子)は、上記の本発明の圧電体と、該圧電体に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の圧電素子は、本発明の強誘電性酸化物を用いたものであるので、高い圧電性能を示すものとなる。以下、図7に基づいて、この圧電素子の一実施形態、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。
図7はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
図7に示す圧電素子1は、基板11の表面に、下部電極12と圧電体13と上部電極14とが順次積層された素子である。圧電体13は、上記の本発明の材料設計により設計された本発明の強誘電性酸化物からなる多結晶体(不可避不純物を含んでいてもよい。)である。
基板11としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,及びシリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板11としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
下部電極12の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極14の主成分としては特に制限なく、下部電極12で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極12と上部電極14の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板11の裏面に、圧電体13の伸縮により振動する振動板16が取り付けられたものである。圧電アクチュエータ2には、圧電素子1を駆動する駆動回路等の制御手段15も備えられている。
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)21及びインク室21から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)22を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)20が取り付けられたものである。
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室21からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
基板11とは独立した部材の振動板16及びインクノズル20を取り付ける代わりに、基板11の一部を振動板16及びインクノズル20に加工してもよい。例えば、基板11がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板11を裏面側からエッチングしてインク室21を形成し、基板自体の加工により振動板16とインクノズル20とを形成することができる。
圧電体13の形態は特に制限されないが、インクジェット式記録ヘッド等の用途では、高画質化等のために、圧電素子の高密度化が検討されており、それに伴って圧電素子の薄型化が検討されているため、圧電素子の薄型化を考慮すれば、圧電体13としては圧電膜が好ましく、厚み20μm以下の圧電薄膜がより好ましい。
本実施形態において、圧電性能の観点から、圧電体13は、MPB組成あるいはその近傍の組成を有する強誘電性酸化物、つまり電場による相転移を利用可能な強誘電性酸化物を含むものであることが好ましい。
本実施形態の圧電素子1では、基本的には、圧電体13における相転移は、電界強度を変化させるだけで実施されるように、設計を行うことが好ましい。すなわち、圧電体13の組成及びいずれの結晶系間の相転移を採用するかは、使用環境温度に相転移温度を有する系となるよう、決定することが好ましい。ただし、必要に応じて、素子温度が相転移温度となるよう、調温することは差し支えない。いずれにせよ、相転移温度又はその近傍で駆動することで、相転移が効率よく起こり、好ましい。
本実施形態の圧電素子1は、上記の本発明の材料設計により設計された本発明の強誘電性酸化物からなる圧電体13を備えたものであるので、比較的低い電界強度でも高い圧電性能を示すものとなる。
「設計変更」
上記実施形態では、本発明の強誘電性酸化物を含む強誘電体素子として、圧電素子を例に説明したが、本発明の強誘電性酸化物は、圧電素子以外の強誘電体素子にも適用可能である。圧電素子以外の強誘電体素子としては、強誘電体メモリ等が挙げられる。
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
Aサイト元素がBiである強誘電性酸化物のBサイト元素としてAlとGaを選定し、R3c構造の結晶対称性を有するBi(Al0.5,Ga0.5)Oについて、Bi元素のBorn有効電荷(Z33 Bi(Bi(Al0.5,Ga0.5)O))の計算を行った。計算には、上記した表1から表3に示される値を求めた方法と同様の方法により実施した。スーパーセルにおいては、Bサイト原子AlとGaが<111>方向に交互に並んだ構造を採択した。この場合、既約サイトとして2つの異なるBiサイトが存在する。従って、計算はそれぞれのBiサイトに対して実施し、その平均値をZ33 Bi(Bi(Al0.5,Ga0.5)O)とした。その結果、Z33 Bi(Bi(Al0.5,Ga0.5)O)は4.60となった(表1)。この値は、R3c構造のZ33 Bi(BiFeO)の値(4.38)より大きいことから、BiFeOよりも高い圧電特性を有する新規Bi系酸化物となりうることがわかった。
かかる結果を確認するために、R3c構造のBi(Al0.5,Ga0.5)Oについて、ウルトラソフト擬似ポテンシャル法により圧電e定数e33を計算した。その結果、e33=4.16C/mとなった(表1)。
上記で求めたZ33 Bi(Bi(Al0.5,Ga0.5)O)値、及びe33値を、図1にプロットしたところ、そのプロットが最小自乗法により求められた直線上に位置した。従って、本発明の強誘電性酸化物の組成設計が有効であることが確認された。
次に、Bi(Al,Ga)Oにおいて、MPB組成となりうるかどうかを検討した。BiAlO、BiGaOそれぞれについて、密度汎関数法による第1原理計算により結晶対称性を考慮して全エネルギーを計算し、最安定な結晶対称性を求めた。計算には、LDA法に基づいた密度汎関数法において平面波展開を使用する方法を用いた。格子定数及び原子座標の最適化には、PAW法(Projector Augmented-Wave法)及びウルトラソフト擬ポテンシャルを使用した。電子波動関数の平面波展開のカットオフエネルギーは60.0Ryとし、ブリルアンゾーンの6×6×6Monkhorst−Packグリッドで自動的に生成された各k点において波動関数を計算した。格子定数及び原子座標の最適化は、原子間力が0.1mRy/Bohr以下になるまで行った。その結果を表5に示す。
表5において、エネルギーの単位はeVであり、結晶構造のエネルギーは最安定となった結晶構造のエネルギーを基準値とした時の相対値で示してある。表5に示されるように、BiGaOは正方晶(P4mm)、BiAlOは菱面体晶(R3c)が最安定な結晶構造である。従って、Bi(Al,Ga)Oは、最安定な結晶構造が互いに異なる対称性及び分極方向を有するBiAlOとBiGaOの固溶体であることが確認され、MPBを形成しうることがわかった。
次に、Bi(Al0.5,Ga0.5)Oについて、スーパーセルを用いた第1原理計算(詳細条件は上記と同様)により全エネルギーの計算を実施した。計算では、BiGaOの最安定な結晶構造である正方晶、BiAlOの最安定な結晶構造である菱面体晶を仮定した。計算により得られたBi(Al0.5,Ga0.5)Oの全エネルギーを表6に示す。
表6に示されるように、Bi(Al0.5,Ga0.5)Oでは最安定な結晶構造である菱面体晶(R3c)と正方晶(I4mm)とのエネルギー差は0.026eVであり、表5に示されるBiGaO及びBiAlOそれぞれの菱面体晶(R3c)と正方晶(P4mm)とのエネルギー差、BiGaO(0.041)及びBiAlO(0.086)よりも小さくなっている。このことは、最安定な結晶構造が異なるBiGaOとBiAlOとが、複合酸化物(固溶体)となることによって正方晶−菱面体晶間のエネルギー差が小さくなり、電場による相転移が起こりやすくなっていることを示している。
Figure 2010024060
Figure 2010024060
次に、Bi(Al,Ga)OのMPB組成近傍の組成を決定するために、AlとGaの組成に対して、正方晶−菱面体晶エネルギー差E(T)―E(R)をプロットして、組成とE(T)―E(R)との関係を示す検量線を作成した(図8)。検量線の作成には、最小自乗法を用いた。ここで、上記式(1)の右辺を、駆動電場E=200kV/cm、分極値P=0.88C/cm(Bi(Al0.5Ga0.5)Oの菱面体とした計算値)とし、系が菱面体であり分極が<111>方向と電場の方向<001>に向いているとして計算し、エネルギー単位をeVに換算すると約0.004eVとなり、図8よりAl:Ga比が28:72〜34:66の範囲の組成が、電界誘起で構造相転移を利用可能な強誘電性酸化物となりうることがわかった。分極値Pは、Bi系酸化物において、結晶構造が同じであれば、単体の分極値を固溶体として適用することができる。
さらに、薄膜の場合や少量のドーパントを導入した場合は、最大値に+8%、及び最小値に−8%の幅を考慮し、Al:Ga比が20:80〜42:58の組成が電界誘起で構造相転移を利用可能とすることができる。また、E(T)―E(R)はAl:Ga=30:70付近においてほぼ0となることから、Bi(Al0.3,Ga0.7)OがほぼMPB組成比の物質であると考えられる。
図1において、Bi(Al0.5,Ga0.5)Oのプロットは、BiAlO及びBiGaOの間に位置している。上記MPB及びその近傍となる組成は、Bi(Al0.5,Ga0.5)OよりもGaリッチな組成であることから、その圧電特性もBiGaOよりに近づくものと考えられるが、その場合もBiFeOのZ33 Bi値より大きなZ33 Bi値となる。MPB組成又はその近傍において、結晶対称性はR3cである場合もあるし、P4mmである場合も考えられるが、MPB組成及びその近傍では、正方晶と菱面体晶のいずれにも簡単に相転移するのでどちらか一方に着目すればよいことがわかっている。
従って、上記MPB及びその近傍の組成となるBi(Al,Ga)Oは、R3c構造において自発分極方向に電界を印加して自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、R3c構造のBiFeOのBorn有効電荷より大きく、且つ、上記式(1)を満足するものであることが確認された。
図1よりBi(Al0.3,Ga0.7)Oのe33値を見積もると、BiFeOのe33値の約1.5倍程度の値となる。BiFeOとBi(Al0.3,Ga0.7)Oとで弾性コンプライアンスの変化が殆どないものと仮定した場合は、R3c構造の<111>方向の配向性を有するものでは、BiFeOのd33値(120pm/V)の約1.5倍である180pm/Vとなりうることになる。固溶体では、単成分のものに比して結晶格子がソフト化されること、更にMPB組成又はその近傍の組成では、電界誘起相転移による分極回転の効果も利用することができるため、200pm/Vを超える高いd33値を有する圧電材料となりうる可能性が示唆された。
次に、上記で組成決定されたBi(Al0.3,Ga0.7)O膜を成膜する。まず(100)SrTiO基板を用意し、その表面にPLD法により基板温度650℃の条件で、膜厚0.2μmのSrRuO下部電極を形成した。次いでBi1.1Al0.3Ga0.7の組成を有するターゲットを用い、レーザ強度300mJ,レーザパルス周波数5Hz,酸素分圧6.7Pa,基板―ターゲット間距離50mm,ターゲット回転数9.7rpm,基板温度を600℃として同じくPLD法にて、膜厚200nmの強誘電体膜を成膜した。得られた強誘電体膜について誘導結合プラズマ(ICP)による組成分析を実施したところ、Bi(Al0.3,Ga0.7)Oであることが確認された。更に得られた膜についてX線回折(XRD)による結晶構造解析を行ったところ、ペロブスカイト単相膜であることが確認された。
次に、基板温度を200℃としてスパッタ法によりPt上部電極を形成して圧電素子を作成した。得られた圧電素子の圧電定数を圧電応答顕微鏡により求めたところ、d33=150pm/Vと良好な値であった。
本発明の圧電素子は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ、及び超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電メモリ(FRAM)等に好ましく利用できる。
R3c構造のBi系酸化物におけるBiのBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 R3m構造のBi系酸化物におけるBiのBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 P4mm(又はI4mm)構造のBi系酸化物におけるBiのBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 R3c構造のBi系酸化物におけるBサイト元素のBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 R3m構造のBi系酸化物におけるBサイト元素のBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 P4mm(又はI4mm)構造のBi系酸化物におけるBサイト元素のBorn有効電荷と圧電e定数e33との関係を示す図 本発明に係る一実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す要部断面図 実施例1のBサイト元素の組成比に対するE(T)―E(R)をプロットした検量線を示す図
符号の説明
1 圧電素子(強誘電体素子)
12、14 電極
13 圧電体(圧電体膜、強誘電体膜)

Claims (18)

  1. 特定構造の結晶対称性を有する下記一般式(a1)で表される組成を有する強誘電性酸化物の製造方法であって、
    前記一般式(a1)においてAサイト元素となり得るイオン半径及びイオン価数を有するAサイト元素Aと、Bサイト元素となりうるイオン半径及びイオン価数を有するBサイト元素Bを選択して前記強誘電性酸化物の構成元素を決定し、
    前記強誘電性酸化物に対して該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きくなるように前記組成を決定し、
    該組成の強誘電性酸化物を製造することを特徴とする強誘電性酸化物の製造方法。
    ABO・・・(a1)
    (式(a1)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
  2. 前記特定構造の結晶対称性が菱面体R3c構造であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性酸化物の製造方法。
  3. 前記特定構造の結晶対称性が菱面体R3m構造であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性酸化物の製造方法。
  4. 前記特定構造の結晶対称性が正方晶構造であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性酸化物の製造方法。
  5. 前記強誘電性酸化物が下記一般式(a2)で表されるものであり、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成となるように前記組成を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強誘電性酸化物の製造方法。
    A(B1,B2)O・・・(a2)
    (式(a2)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、B1及びB2は、互いに異なる1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
  6. 前記一般式(a2)において、AB1Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、AB2Oで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとが互いに異なる対称性及び分極方向を有し、且つ、下記式(1)を満足するように前記組成を決定することを特徴とする請求項5に記載の強誘電性酸化物の製造方法。
    |E(X)―E(Y)|≦E・PV・・・(1)
    (式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、前記一般式(a2)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは結晶の基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
  7. 下記一般式(a3)で表され、特定構造の結晶対称性を有する強誘電性酸化物であって、該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きいことを特徴とする強誘電性酸化物。
    ABO・・・(a3)
    (式(a3)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
  8. 下記一般式(a4)で表され、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成を有することを特徴とする請求項7に記載の強誘電性酸化物。
    A(B,B)O・・・(a4)
    (式(a4)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、B1及びB2は、互いに異なる1種又は複数種のBサイト元素、Oは酸素。)
  9. 前記一般式(a4)において、ABで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Xと、ABで表される強誘電性酸化物の最も安定な結晶構造Yとが互いに異なる対称性及び分極方向を有し、且つ、下記式(1)を満足することを特徴とする請求項8に記載の強誘電性酸化物。
    |E(X)―E(Y)|≦E・PV・・・(1)
    (式(1)中、E(X)及びE(Y)はそれぞれ、上記一般式(a4)で表される強誘電性酸化物の結晶構造X及びYの時のエネルギー、Pは電場をかける前の自発分極密度ベクトル、Eは駆動電場ベクトル、Vは結晶の基本格子の体積である。E・PはEとPの内積である。)
  10. 前記特定構造が菱面体R3c構造であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の強誘電性酸化物。
  11. 前記特定構造が菱面体R3m構造であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の強誘電性酸化物。
  12. 前記特定構造が正方晶P4mm構造であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の強誘電性酸化物。
  13. 請求項7〜12のいずれかに記載の強誘電性酸化物を含むことを特徴とする強誘電性組成物。
  14. 請求項7〜12のいずれかに記載の強誘電性酸化物を含むことを特徴とする圧電体。
  15. 自発分極方向に結晶配向性を有することを特徴とする請求項14に記載の圧電体。
  16. 下記一般式(a5)で表され、特定構造の結晶対称性を有する強誘電性酸化物であって、該強誘電性酸化物の自発分極方向に電界を印加して該自発分極方向へ変位させた時のBi元素のBorn有効電荷が、前記特定構造のBiFeOの前記Born有効電荷より大きい強誘電性酸化物を含み、
    該強誘電性酸化物の自発分極方向に結晶配向性を有することを特徴とする圧電体。
    ABO・・・(a5)
    (式(a5)中、AはBiを主成分とする1種又は複数種のAサイト元素、Bは1種のBサイト元素、Oは酸素。)
  17. 圧電体膜であることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の圧電体。
  18. 請求項14〜17のいずれかに記載の圧電体と、該圧電体に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
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