本発明は、スラブゲル(slab gel)電気泳動の分野、特に電気泳動時にスラブゲルを保持するためのカセットの設計および構造に関する。
電気泳動は臨床試験所および研究実験室において、複合体、生物学的に誘導された混合物を分析するために迅速かつ効果的分離法として広く使用されている。電気泳動が普通に行われる媒体の一つは、スラブゲルであり、これはスラブをレーン(lanes)に分割しかつ一つのレーンを各サンプルに使用することにより幾つかのサンプルの同時分析を可能にする。スラブゲルのこのような使用は、スピードだけでなく時間の効率的使用を可能にし、一連のサンプルの各々に対して分離処理が行われるときに、通常発生する多くの問題、例えばゲル質のばらつきおよび試験条件による不均一、ならびに試験者の間違いの危険等の問題を解消する。スラブゲルにおいて生成される電気泳動図が視覚的に読み取られかつ解釈され、そのバンド(bands)の場所を観察することによりサンプル内に存在する成分の使用者による容易識別を可能にする。
スラブゲルは、典型的には、ゲルを横切る電流を流すために必要な構成要素を収容する電気泳動セルに対して挿入除去が容易なカセットに保持される。カセットは、典型的には、ゲル用の二つのプレート間に特定幅のギャップを形成するための適宜スペーサと共に結合した二つのプラスチックプレートから構成され、ゲルキャスティング時のゲル形成モノマー混合物の漏れ、同様に電気泳動時のゲルそのものの漏れを防止するための封止(sealing)特質を有する。多くの場合に、ゲルは、製造業者によりカセット内に様々な仕様でプレキャストされる。他の場合には、使用者は使用直前にカセット内に自身のゲルをキャストする。ゲルがプレキャストされるか否か、着色、記録、定量化のためにカセットからゲルを除去すること、または分離に続く他の処置が、ゲルへの接近を可能にするためにカセットを開放することを必要とする。カセットの開放は、ゲルの周りのシール(seals)の破壊、およびゲルを損傷または破損することなくプレートを分離することを必要とするので、デリケイトな作業である。従って、シールは開放または破壊でき、かつ製品均一性および信頼性を確実にするために二つのプレートの縁に沿って液密シールを提供するものでなければならない。超音波溶接は、ゲルが除去されるときに、容易に破壊されるので、二つのプレートを共に結合する手段としてしばしば使用される。しかしながら、超音波溶接は、デリケイトな方法であり、分離がプレートそれ自体を損傷し結果としてゲルを損傷することなく完成されるときに、効果的シールを達成することと使用者がシールを破壊することとの間に注意深い均衡を必要とする。
(発明の概要)
本発明は、付加的な封止安全性を有するスラブゲル電気泳動カセットを提供する。従来スラブゲルカセットと同様に、本発明のカセットは二つのフラットな矩形プレートから構成され、二つのプレートは、相互に対して平行かつ対面するように結合され、二つのプレート間にゲル用のギャップを有し、他方で、二つのプレートの側縁でギャップを閉鎖すると共にそれぞれの緩衝液を介して上下電極へのアクセスのために上下でギャップを開放する。本発明の付加的封止は、二つのプレートが共に結合されるとるきに、二つのプレート間に縁シールを形成するために二つのプレートの一つに付着される弾性材料によるガスケットによって提供される。弾性ガスケットは、溶接、化学結合、接着テープ等の使い捨て材料の使用、またはクリップもしくはその他の係合可能部品等の手動操作閉鎖具の使用により従来結合方法と共に使用される。全体としての二つのプレートおよびカセットの構成に依存して、ガスケットは一つのプレートの少なくとも二つの側縁に沿って延在し、かつ他の事例において下縁に沿って同様に延在する。
本発明は、更に、手により確実に結合されかつ容易に開放して内側のゲルを露出かつ除去し、所望により新鮮ゲルをキャストしかつ新規分離を実行するために再閉鎖および再封止される。本発明のこの形態によるカセットは、二つのフラットな矩形プレートから構成され、二つのプレートを相互に対して平行かつ対面させて、側縁で封止され上下で開放したギャップをその間に形成する特徴を有する。本発明に導入された手動解放可能結合構成は、縁係合部材に特徴を有し、この縁係合部材は一方のプレートに取付けられかつ他方のプレートの反対縁に係合し、使用者が両プレートと縁係合部材とを手により自由に係合させることができるように構成されている。好適実施形態において、各縁係合部材は、倒立ショルダ、即ちショルダはプレートに対面し、プレートには係合部材が取付けられ、反対プレートの縁に係止または把持する。これらの実施形態において、係合部材は、倒立ショルダが手動により枢軸回転して反対縁と係合および離脱するように軸着さている。他の好適実施形態において、倒立ショルダおよび係合部材の弾力的取付けに繋がる傾斜面が各係合部材上に形成されていることを特徴とする。この構成は、係合部材のスナップ式係合、即ち使用者が各プレートをその縁を揃えて相互に対して単にプレスすることによりスナップ係止する。
本発明の上述の特徴および他の特徴は、続く説明から更に明らかにされる。
(本発明の詳細な説明)
本発明の弾性(elastomeric)ガスケットは、カセット内でガスケットが接触するゲルおよびゲル形成モノマーへ挿入され、かつ特にゲルを形成するモノマーの重合を阻止しないいずれかの弾性変形可能エラストマーから形成されてよい。ガスケットとして使用できるエラストマー例として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、EPDMゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、シリコーン、フルオロポリマー、多流化物系ゴム、およびポリウレタンが挙げられる。これらの製品の幾つかに関連する商標名は、SANTOPRENE(登録商標)(Advanced Elastomer Systems, LP, Akron, Ohio, USAから入手可能なポリオレフィンベース熱可塑性加硫ゴム)、VERSALON(登録商標)(Tyco Healthcare Group LP, Mansfield, Massachusetts, USAから入手可能のレイヨン−ポリエステル配合物)およびDuPont Dow Elastomer, Wilmington, Delaware, USAによるエラストマー、およびVITON(登録商標)(フルオロエラストマー)、KALREZ(登録商標)(ペルフルオロエラストマー)、HYPALON(登録商標)(クロロスルフォン化ポリエチレン)、およびACSUM(登録商標)(クロロスルフォン化ポリエチレン)である。他の例は、エラストマー業界で今日流通しているものが含まれる。
ガスケットは、カセットの分離縁に沿った分離細片、または側縁および下縁に沿った連続的細片で構成され得る。ガスケットは、種々取付け手段のいずれか、例えば化学的結合により、かつ接着剤または両面テープの使用により二つのプレートの一つに固定される。ガスケットは、好適には、一体化される、即ち化学的結合または接着剤の使用によりプレートに永久的に固定される。更に好適には、ガスケットは、プレート間にギャップ幅をそれ事態では形成しない。ギャップ幅は、好適には、精確な変形しない厚みを有するスペーサ、例えば二つのプレート間に挿入される挿入材料による細片、または一方または両方のプレート上に固定した高さを有する突起により形成される。圧縮されないときのガスケットは、スペーサよりも大きい厚みを有し、反対プレートがスペーサに当接してギャップ幅を設定するときに、ガスケットは所定の限定程度までフラットになる。
上述のごとく、一体化されたエラストマーガスケットは、カセットの二枚のプレートを共に結合するいずれかの方法との関係で使用される。結合手段は、一旦開放したならば、再使用のためにプレートを再結合するために再閉鎖することのできない閉鎖、例えば超音波溶接、であってよく、かつ開放後に再閉鎖できる閉鎖、例えばクリップまたは他の機械的係合部材であってよい。いずれの場合にも、エラストマーガスケットは、ゲルの周辺に沿って液密シールを形成し、サンプル添加のため、ゲルに対する電極緩衝剤のアクセスのために電気泳動時に使用者により必要とされる露出領域を残すように形成する。
縁係合部材の使用を含む本発明の形態において、典型的には、二つまたはそれ以上のかかる部材が使用される。ただし、かかる部材の数量および配置は本発明またはカセットの操作において臨界的でない。相互に対するプレートの安定かつ確実な取付けを可能にする任意数量および構成であれば十分である。好適には、縁係合部材は、プレートの二つの側縁上に存在し、かつ更に好ましくは、下縁に存在する。これらのカセットにおいて、「側縁」はゲルを通る電位の方向、従って電気泳動時の溶質の移動方向に平行な縁として定義され、かつ「端縁」、「上縁」および「下縁」は、電位の方向を横切る、溶質移動路の二つの縁で露出された縁である。「上縁」は、サンプルが添加される縁であり、「下縁」は溶質が電気泳動時に向かう方向の縁である。下縁でのゲルの露出もしくは暴露は、ギャップの下境界線に沿ってバリアを排除または除去することにより、またはプレートの全幅に延在しかつゲル面の狭い横切る方向の細片を露出するスリットをプレートの一つに形成することにより達成される。いずれの場合にも、上縁は、好適には、完全にアクセス可能であり、使用者がゲルの幅に沿って任意場所でゲルにサンプルを添加できるように形成される。
本発明のカセットは、好適には、カセットの二側縁の各々に少なくとも一つの縁係合部材、および下縁上に少なくとも一つの縁係合部材を含む。縁係合部材は、プレートの一つに全てが取付けられるか、または二つのプレートに分割設置される。製造および取り扱いの便利さから、縁係合部材は全てが一つのプレートに取付けられてよい。縁係合部材が存在するときに、縁係合部材は二つのプレートを一緒に固定する手段としてのみ作用し、二つのプレートは縁係合部材の係合を離脱させることにより完全に分離可能である。他の構成において、本発明の範囲内で、二つのプレートは一つの縁、好適には、側縁に沿って、プレートの内面を露出しかつゲルを除去するために反対縁でプレートを開放させる蝶番型連結具で結合できる。そこで縁係合部材を蝶番止めされた側と反対側に取付け、かつ好適には下縁に沿って取付ける。
本発明は、縁係合部材またはカセットの他の特徴に関して広範囲の形態、幾何学形状、および特徴を採用できるが、本発明の全範囲の理解は、一実施形態の詳細な研究により容易に達成される。この実施形態は図面に示され以下に説明される。
図1の斜視図において、カセット11は一対のプレートとして示され、各プレートは、便宜上、前プレート12および後プレート13と説明され、それぞれの特徴が見えるように分離して表されている。その形状からサンプル櫛14として通常知られる付属品は、ゲル内のサンプルウエル(well)を形成するためにその組立体に含まれる。サンプル櫛14はタブ15を有し、タブ15は、ゲルが形成されるときに前後プレート間へサンプル櫛を挿入する目的、および一旦ゲルが形成された後にウエルへのアクセスを可能にするためにそれを除去する目的で、使用者が握ることができる。タブは、カセットを含む自動操作における係合部位として作用する。サンプル櫛は、ギャップへ侵入する歯19と共にサンプル櫛をセンタリングするために前プレート12の内面上の角度を付けた隆起(図示せず)に適合する角度を付けた傾斜端縁16,17を含む。
前プレート12は、二つの側縁21,22を有し、かつ上縁23および下縁24を含む二つの端縁を有する。後プレート13は、同様に、二つの側縁25,26、上縁18、および下縁28を有する。前プレートには八個の縁係合部材31が取付けられ、三個は二つの側縁21,22の各々に沿った三個(左側縁21に沿った縁、図面上では二個だけが見える)、および下縁24に沿って二個が取付けられる。後プレート13は、刻み目32を、前プレート12上の縁係合部材31の場所と反対の場所で、その側および下縁に有する。縁係合部材31は凹縁と係合する。
前後プレート12,13は、共に、その間に存在するゲルの上下縁を露出させる形状である。二つのプレートは異なる高さ有し、前プレート12の方が短い。前プレート12の上縁23は、そのようにして、二つのプレートが縁係合部材31により相互に対して固定されるときに、後プレート13の上縁の下になる。前プレート12は外面から外方へ突出した突起33を有し、突起33は後プレートの上縁18と同一高さの壁により三側で境界を形成し、かつ相対的に低い上縁23を有する壁により第四側で境界を形成している。このようにして、前後プレートが結合されるときに、突起33は後プレート13の上端と結合して、上電極緩衝液の室として作用する容器を形成する。ゲルが前プレートの上縁23までだけ伸長することにより、上電極緩衝液の室が緩衝液で充填されるときに、ゲルの上縁は容器内に存在しかつ上電極緩衝液内に浸漬する。カセットの下端で、スロット34は後プレート13内に存在し、ゲルの下縁に沿ってゲルの細片(strip)を露出する。上述のエラストマーガスケットは、この実施形態において、後プレート13の二側および下に沿ったU字形のガスケット材による細片35として図示されている。細片35は、ゲルの下端の露出を干渉しないようにスリット34の下を通過する。
図2の断面図は縁係合部材の任意の一個がある場所での断面図である。この図において、前プレート12および後プレート13は縁係合部材により一緒に結合かつ固定されている。前後プレートの内面上に上昇した隆起41,42は、両プレート間のギャップ43の幅を画定し、かつガスケット細片35は二つの隆起41,42間に存在しかつ後プレート13に付着または一体化される。縁係合部材31は、前プレート12に取付けられ、かつ前プレートへ向かって後方へ対面した倒立ショルダ45を有する。縁係合部材31は、前プレート12に取付けられ、かつ前プレートへ向かって後方に対面する倒立ショルダ45を有する。後プレート13は、同様に、縁係合部材の倒立ショルダ45により係合するショルダ46を有し、倒立ショルダ45はこのショルダ46で後プレート上に係止する。点線で示された短い連結ウエブ47は、縁係合部材31を前プレートへ連結し、連結ウエブは変形可能であって縁係合部材31の矢印48で示された小円弧上での枢軸回転を可能にする。前プレート内の開口49は枢軸回転するときに縁係合部材のために間隙を提供する。
図3は、電極がゲルにアクセスするためのプレートの特徴を示す前プレート12および後プレート13の断面である。二つのプレートは説明のためにこの図において分離されている。前プレート12の外側から突出する突起33は、前後プレートが結合されるときに上電極緩衝剤室51を形成する。ゲルが前プレート12の上縁23で終端し、他方、二つのプレートが結合するときに上電極緩衝剤室51の壁は、突起33の上部および後プレート13の上縁18へ伸長しかつガスケット44により両側で封止される。後プレート13の下近くに後プレートの幅にわたってスリット34が形成され、その下縁52は前後プレート面の平面を横切り(垂直に)、他方で、上縁53は傾斜している。前プレート12は内面上に後プレートへ向かって突出しかつ同様に後プレートの全幅に延在する隆起54を有する。隆起の下縁55は、後プレートのスリット34の下縁52と接触する場所で前後プレート面の平面に対して垂直であり、他方で、隆起の上縁56はスリット34の上縁53と同一角度で傾斜している。隆起の上縁56はスリットの上縁53よりも低く、そのようにして前後プレートが結合されるときに二つの角度を付けた傾斜縁は相互に対して接触することなく、その間に開放傾斜路を形成する。電気泳動時に、組合せた前後プレートの下端24,28は、下電極および下電極緩衝液を収容する容器(図示せず)内に浸漬され、他方で、上電極(図示せず)は上電極緩衝剤室51内に上電極緩衝液と共に設置される。
上記説明は図解を目的とする。本発明の範囲に属する他の変形態、構成、および付加的構成要素が当業者に明らかであろう。
本発明によるカセットの一例の拡大斜視図である。
縁係合部材の場所における、図1のカセットの一縁の一部の断面図である。
図1のカセットの分離した前後プレートの断面図である。