JP2009504141A - ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼの結晶構造 - Google Patents
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Abstract
本発明はsolAC触媒ドメインの結晶構造を提供する。この構造を表1から5に示す。この構造は、このタンパク質とリガンド(例えば医薬化合物)との相互作用のモデル化、及び、関連アデニル酸シクラーゼ分子の構造の決定に使用できる。
Description
本発明は、ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼ(soluble adenylate cyclase:solAC)の触媒ドメイン、その結晶化のための方法、solACの結晶及びその3次元構造、リガンド存在下でのsolACの結晶、並びにそれらの使用に関する。
アデニル酸シクラーゼ
環状アデノシン3’,5’一リン酸(cyclic adenosine 3',5'-monophosphate:cAMP)は、遺伝子発現、細胞増殖、心機能、染色体分裂及び細胞代謝等、数々の重要な生理学的プロセスを調節する、偏在性の二次メッセンジャーである(Robison, G.A. Butcher, R.W. and Sutherland, E.W. (1968) Annu. Rev. Biochem.,37, 149-174; Rodbell, M. (1980) Nature, 284, 17-22)。cAMPはATPから6種の異なるファミリーの酵素により合成されるが、その1つはアデニレート又はアデニリルシクラーゼ(adenylyl cyclases:AC)である。これらのファミリーは、ATPからcAMPを生成する能力については共通しているものの、互いの配列に類似性は見られない。クラスIは腸内細菌に存在し、異化抑制を調節するのに対し、クラスIIは炭疽菌(Bacillus anthracis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)及び百日咳菌(Bordetella pertusis)等の病原体に存在する。クラスIV、V及びVIは、それぞれアエロモナス細菌(Aeromonas hydrohila)、プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)及びインゲン根粒菌(Rhizobium etli)に存在する。普遍クラス(Universal Class)としても知られるクラスIIIシクラーゼは、真核生物に見出された唯一のクラスであり、細菌や古細菌にも存在している。哺乳類細胞が発現するこれらの酵素は、二つの異なる種類に分けられる。即ち、その特性が既によく知られている膜貫通アデニル酸シクラーゼ(transmembrane adenylate cyclases:tmAC)と、近年発見された可溶性アデニル酸シクラーゼ(soluble adenylate cyclase:solAC)である(Shenoy, A.V. and Visweswariah, S.S (2004) FEBS Lett. 561, 11-21)。
環状アデノシン3’,5’一リン酸(cyclic adenosine 3',5'-monophosphate:cAMP)は、遺伝子発現、細胞増殖、心機能、染色体分裂及び細胞代謝等、数々の重要な生理学的プロセスを調節する、偏在性の二次メッセンジャーである(Robison, G.A. Butcher, R.W. and Sutherland, E.W. (1968) Annu. Rev. Biochem.,37, 149-174; Rodbell, M. (1980) Nature, 284, 17-22)。cAMPはATPから6種の異なるファミリーの酵素により合成されるが、その1つはアデニレート又はアデニリルシクラーゼ(adenylyl cyclases:AC)である。これらのファミリーは、ATPからcAMPを生成する能力については共通しているものの、互いの配列に類似性は見られない。クラスIは腸内細菌に存在し、異化抑制を調節するのに対し、クラスIIは炭疽菌(Bacillus anthracis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)及び百日咳菌(Bordetella pertusis)等の病原体に存在する。クラスIV、V及びVIは、それぞれアエロモナス細菌(Aeromonas hydrohila)、プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)及びインゲン根粒菌(Rhizobium etli)に存在する。普遍クラス(Universal Class)としても知られるクラスIIIシクラーゼは、真核生物に見出された唯一のクラスであり、細菌や古細菌にも存在している。哺乳類細胞が発現するこれらの酵素は、二つの異なる種類に分けられる。即ち、その特性が既によく知られている膜貫通アデニル酸シクラーゼ(transmembrane adenylate cyclases:tmAC)と、近年発見された可溶性アデニル酸シクラーゼ(soluble adenylate cyclase:solAC)である(Shenoy, A.V. and Visweswariah, S.S (2004) FEBS Lett. 561, 11-21)。
tmACは細胞膜結合タンパク質である。tmACには9種のイソフォーム(I〜IX)が同定されているが、何れもホルモン及び神経伝達物質によって刺激されるとともに、Gsタンパク質のα−サブユニットによって活性化され、また、タイプIXを除いて、ジテルペンホルスコリンによっても刺激される。これらは、Gi、Go及びGzα−サブユニット、並びにGβ,γサブユニット、PKC及びCa2+/カルモジュリンに対する応答性の違いによって、識別することができる。この調節多様性によって、これらの様々なtmAC’が、神経伝達物質やホルモンからの細胞内シグナルに対し、正しい細胞環境で応答することが可能となる。何れのtmACも、短い細胞質ゾルN末端と、それに続く疎水性領域のタンデム反復(6膜貫通ヘリックスとしてモデリングされる場合が多い)と、細胞質領域とからなる、共通の構造を有している。それぞれC1及びC2と名付けられた二つの細胞質ドメインは、互いに高い相同性(~50%の同一性)を示すと共に、tmACファミリーの9種の異なるメンバーの間でも、高い相同性を有している(~50〜90%の同一性)。酵素が活性となるためには、C1とC2とが会合して、相補的なヘテロ二量体を形成する必要がある。活性タンパク質の精製が困難であることから、これらの酵素の機序及び調節の生化学的な特性解析は、長らく停滞してきた。大きな突破口となったのは、可溶性tmACシステムの開発である。これは細胞質ドメインの各セクションを個別に、可溶性組み換えタンパク質として発現させたものである。C1及びC2は何れも、インビトロでは頭尾接触により(in a head to tail interface)自己会合して、不活性(C1)及び貧活性(C2)のホモ二量体を生じてしまう傾向があるが、混合した場合にはそれらの調節特性が保持された完全に活性なヘテロ二量体が得られる。即ち、C2ホモ二量体及びC1C2ヘテロ二量体はホルスコリン刺激に反応するのに対して、C1ホモ二量体は活性を示さないままである。
可溶性tmACシステムによって酵素のX線結晶解析が可能となった結果、ラット タイプII C2ホモ二量体、及びイヌ タイプV C1/ラット タイプII C2 ヘテロ二量体とウシGsαとの複合体について、構造解が得られている(Zhang, G., Liu, Y., Ruoho, A.E. and Hurley, J.H. (1997) Nature, 386, 247-253; Tesmer, J.J.G, Sunahara, R.K., Gilman, A.G. and Sprang, S.R. (1997) Science 278, 1907-1916; Tesmer, J.J.G, Sunahara, R.K., Johnson, R.A., Gosselin, G., Gilman, A.G. and Sprang, S.R (1999) Science, 285, 756-760)。
かかるシステムの構築は依然として困難である。大きな課題の1つは、C1及びC2コンストラクトの出発点を定めることである。ファミリー間には高い配列相同性があるため、配列相同性のみに基づくコンストラクトの設計は実用的な出発点となるが、タンパク分解に対して安定な、可溶性且つ機能性のタンパク質を得ることは容易なことではない(Beeler, J.A. and Tang, W-J. (2004) Methods in Mol. Biol, 237, 39-53)。
可溶性アデニル酸シクラーゼ:機能、特性解析及び精製
新たな可溶形のアデニル酸シクラーゼ(“solAC”)の存在が始めて報告されたのは1975年、ラット睾丸由来の細胞質ゾル画分においてであった。tmACとは異なり、solACはMn2+イオンに対する特異的な要求性を示し、その活性は黄体ホルモン(luteinizing hormone:LH)及び卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)の何れによる刺激も受けなかった(Braun, T. and Dods, R.F. (1975) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 72, 1097-1101)。Mn2+イオンがこの酵素を活性化する能力を有することや、Gタンパク質調節に対してこの酵素が非感受性であることから、Buck及び共同研究者等は1999年に、生化学的手法及びクロマトグラフィーにより、この酵素の特性解析に成功した。彼らは分子量48kDaの可溶性タンパク質を同定したが、PCRにより単離されたsolACの全長遺伝子は、187KDaという遥かに大きな酵素をコード化するオープン・リーディング・フレームの存在を示していた。48kDaの酵素活性種は、全長タンパク質のN末端部分に存在することが明らかとなり、このタンパク質の分解断片に相当することが示された。これらの短酵素及び全長酵素が、げっ歯類生殖細胞系において、2種の選択的スプライス転写物によって生成されていることを示す証拠が、PCR及びリボヌクレアーゼ・プロテクション・アッセイによって明らかになった(Jaiswal, B.S. and Conti, M. (2001) J. Biol. Chem., 276, 31698-31708)。solACのオープン・リーディング・フレームと他の配列との比較から、48KDa種が有する2つの領域が、様々なアデニル酸シクラーゼの触媒ドメインに対して高いアミノ酸相同性を示すことが明らかになった。最も密接な関連を有する配列は、シアノバクテリア(Anabaena spirulensisのcyaB1、cyaB2及びcyaA、並びにSpirulina platensisのcyaC)及び粘液細菌(Stigmatella aurantiaca、cyaA及びcyaA)に由来するものであった(Buck, J., Sinclair, M.L. Schapal, L., Cann, M.J. and Levin, L.R. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 79-84)。更なる分析によって、solACの触媒ドメインとtmACの触媒ドメインC1及びC2との間の共通性は、僅か15から25%の配列同一性に過ぎないことが示された。
新たな可溶形のアデニル酸シクラーゼ(“solAC”)の存在が始めて報告されたのは1975年、ラット睾丸由来の細胞質ゾル画分においてであった。tmACとは異なり、solACはMn2+イオンに対する特異的な要求性を示し、その活性は黄体ホルモン(luteinizing hormone:LH)及び卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)の何れによる刺激も受けなかった(Braun, T. and Dods, R.F. (1975) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 72, 1097-1101)。Mn2+イオンがこの酵素を活性化する能力を有することや、Gタンパク質調節に対してこの酵素が非感受性であることから、Buck及び共同研究者等は1999年に、生化学的手法及びクロマトグラフィーにより、この酵素の特性解析に成功した。彼らは分子量48kDaの可溶性タンパク質を同定したが、PCRにより単離されたsolACの全長遺伝子は、187KDaという遥かに大きな酵素をコード化するオープン・リーディング・フレームの存在を示していた。48kDaの酵素活性種は、全長タンパク質のN末端部分に存在することが明らかとなり、このタンパク質の分解断片に相当することが示された。これらの短酵素及び全長酵素が、げっ歯類生殖細胞系において、2種の選択的スプライス転写物によって生成されていることを示す証拠が、PCR及びリボヌクレアーゼ・プロテクション・アッセイによって明らかになった(Jaiswal, B.S. and Conti, M. (2001) J. Biol. Chem., 276, 31698-31708)。solACのオープン・リーディング・フレームと他の配列との比較から、48KDa種が有する2つの領域が、様々なアデニル酸シクラーゼの触媒ドメインに対して高いアミノ酸相同性を示すことが明らかになった。最も密接な関連を有する配列は、シアノバクテリア(Anabaena spirulensisのcyaB1、cyaB2及びcyaA、並びにSpirulina platensisのcyaC)及び粘液細菌(Stigmatella aurantiaca、cyaA及びcyaA)に由来するものであった(Buck, J., Sinclair, M.L. Schapal, L., Cann, M.J. and Levin, L.R. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 79-84)。更なる分析によって、solACの触媒ドメインとtmACの触媒ドメインC1及びC2との間の共通性は、僅か15から25%の配列同一性に過ぎないことが示された。
逆転写PCRにより検査した組織の多くで、例えば眼毛様体突起、角膜内皮、脈絡叢、腎臓及び精巣上体等で、solACの発現が確認された(Mittag, T.W., Guo, W-B and Kobayashi (1993) Am. J. Physiol 264, F1060-F1064; Zippin, J.H Levin, L.R. and Buck (2001) Trends Endocrinol Metab, 12 366-370)。しかし、ノーザンブロット分析及びインサイチュハイブリダイゼーションによれば、高度の発現が見られたのは雄生殖細胞のみであった(Sinclair, M.L., Wang, X-Y, Matia, M., Conti, M. Buck, J., Wolgemuth, D.J. and Levin, L.R. (2000) Mol. Reprod. Dev. 56, 6-11)。solACは可溶性酵素であるばかりでなく、ミトコンドリア、中心子、紡錘体、中心体及び核等の細胞内小器官に対して特異的に標的化されることによって、cAMP情報伝達の効果器に近接して存在することが明らかになった(Zippin, J.H., Chen, Y. Nahirney, P., Kamenetsky, M., Wuttke, M.S., Fishman, D.A., Levin, L.R and Buck,J. (2003) Faseb Journal, 17, 82-84; Litvin, T.N., Kamenetsky,M, Zarifyan,A., Buck,J. and Levin L.R. (2003) J. Biol. Chem. 278, 15922-15926)。
可溶性ACはCa2+及びHCO3 -による調節を受けることから、solACはこれらの細胞内情報伝達分子の調節の下、固有の細胞事象に対するcAMP依存性応答を媒介しているものと思われる。solACは、今までのところ哺乳類における重炭酸/二酸化炭素化学センサー(bicarbonate/carbon dioxide chemosensor)として同定されている唯一の酵素であることから、受精能獲得 過剰活性化運動能及びアクロソーム反応のみならず、腎臓における体液再吸収、毛様体及び脈絡叢における体液分泌、更には栄養信号に応じた代謝調節においても、重要な役割を果たしているものと考えられている(Litvin, T.N., Kamenetsky,M, Zarifyan,A., Buck,J. and Levin L.R.(2003)J. Biol. Chem. 278, 15922−15926)。
タンパク質の構造を解明するためには、結晶を生成させるために、十分な量の精製タンパク質を調達する必要がある。多くのタンパク質は、組み換え産生系で発現させた場合でも、可溶性、活性、且つ非凝集の形態のままで精製することは困難であった。
数々の異なる細菌性アデニル酸シクラーゼが、大腸菌(E. Coli)において可溶型として発現されてきた。特に、細菌性アデニル酸シクラーゼである Anabaena cyaB、Mycobacterium Rv1264 及び Stigmatella cyaB が、大腸菌(E. Coli)において可溶型として発現されている(Cann et al. (2003), J. Biol. Chem, 278, 35033-35038; Kanacher et. Al. (2002) EMBO J. 21,-3672-3680; Linder et al. (2002) J. Biol. Chem, 277, 15271-15276)。
また、大腸菌(E. Coli)を用いて、トリパノソーマ・ブルーセイ(Trypanosoma brucei)アデニル酸シクラーゼを封入体の形態で発現させた報告もある(Bieger, B. and Essen, L-O. (2000) Acta Cryst. D56, 359-362)。
また、大腸菌(E. Coli)を用いて、N末端にHisタグを付したラット膜貫通アデニル酸シクラーゼのC2ドメインの発現も行なわれている。本タンパク質は可溶型として発現された(Yan, S-Z et al. (1996) J. Biol. Chem, 271, 10941-10945)。
また、Sunahara, R.K等によって、イヌアデニル酸シクラーゼのタイプV C1ドメインが、N末端にHisタグを付した融合物として発現されている((1997) J. Biol. Chem., 272, 22265-22271)。
十分な純度の材料を十分な量取得することが困難であるという点が、solACの機序及び生化学の解明の妨げとなってきた。上述した他形態のアデニル酸シクラーゼの発現及び回収の条件は何れも様々であることから、相当量のタンパク質産生を実現するには、アデニル酸シクラーゼの形態の違いに応じて、異なる厳密な条件が求められるものと考えられる。
組み換え発現に先立つsolACの精製アプローチの1つによれば、本酵素の特性を調べるのに十分なタンパク質(~3μg)を得るために、数百ものラット睾丸(950)を処理する必要があった(Buck, J., Sinclair, M.L. and Levin, L.R. (2003) Methods in Enzymol. 345, 95-105)。本精製手順は複数の工程からなり、まず20mM トリス−HCl、pH 7.5、1mM DTT及びプロテアーゼ阻害剤を含んでなる細胞溶解液を用いる。6つの異なるカラムで精製した後、濃縮された酵素の画分をHPLCカラムに導入し、20mM トリス−HCl、pH6.8、1mM DTTで溶出し、更に0〜0.1M NaCl勾配で溶出した。ここでpHを降下させたことが(これは本段で初めて行なわれたものである)、活性の大幅な強化(約60倍)に繋がっているものと考えられる。回収されたsolACタンパク質の最終収率は約3μgであったが、その中には62KDaの無関係な不純物タンパク質が含まれていたことから、より大きなスケールで実施するにしても、本調製法が結晶の作製に適しているとは言い難いと考えられる。
また、HEK293細胞を用いたラットの組み換えsolACの全長及び触媒ドメインの発現も行なわれている。これらのコンストラクトを用いて、これら二つの選択的転写物によりコード化される酵素の特性や、これら相互間の相対活性、更には組織由来の等価物に対する相対活性が決定された。組み換え細胞溶解液を遠心分離で清明化した後、Sephacryl S-200カラムに導入した。収率は報告されていないが、これらの組み換え種が活性、サイズ、及び免疫反応の面で、睾丸で発現されている2つのsolAC種と対応していることを確認するには十分であった(Jaiswal, B.S. and Conti, M. (2001) J. Biol. Chem., 276, 31698-31708)。
発現に組み換えアプローチを用いることで、発現されるタンパク質をタグ化して容易に回収することが可能となった。Litvin等((2003) J. Biol. Chem. 278, 15922-15926)は、GSTタグを付した組み換えヒトsolAC触媒ドメインのバキュロウイルスHi5(Baculovirus Hi5)細胞での産生について報告している。本タンパク質を産生する細胞を、PBS、pH7.4、1mM EDTA、1mM DTT及びプロテアーゼ阻害剤のカクテルで溶解させた。溶解物をグルタチオンセファロース4Bカラムに導入し、50mM トリスHCl pH8.0、10mM 還元グルタチオン、10μg/mlアプロチニン、及び10μg/mlロイペプチン(leupeptin)で溶出した。溶出液をSuperdex 200 HR 10/30 カラムに通し、サンプルを50%グリセロール中で保存した。最終サンプルは別のGSTバンドを有しており、目的のタンパク質はタグと分離していなかった。本著者等は収率を記していないが、酵素学的研究には十分だったにせよ、非常に低い値であったと思われる。
別のタグとして、Chen等((2000) Science 289, 625-628)がsolAC触媒ドメイン(アミノ酸1から469)の発現に用いたヘキサヒスチジンタグが挙げられる。このタグをC末端に融着したタンパク質を、Bac-to-Bac(登録商標)バキュロウイルス発現システム(Life Technologies)を用いて昆虫HiFive細胞で異種発現させ、Ni2+−NTAセファロース樹脂(Qiagen)を用いたクロマトグラフィーでタンパク質を精製した。タンパク質の条件及び収率は開示されていないが、重炭酸塩が組み換え酵素の活性に及ぼす効果が、pH効果によるものではないことを確認するのに十分な量であった。更に、本著者等の報告によれば、亜硫酸水素イオン(bisulphite ions)を用いて重炭酸solACの刺激を模倣することが可能であったが、塩素、硫酸又はリン酸イオンでは不可能であった。
これらの過去のsolACに関する研究にもかかわらず、純粋な組み換え哺乳類タンパク質の最終収率は依然として低く、構造研究に着手する際の妨げとなってきた。
solAC相同体構造
HCO3 -の存在下又は不在下において、ATP類似物、Mg2+又はCa2+と複合体を形成したスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)から得られたsolAC相同体CyaCの一連の構造が報告されている。これらの報告によれば、カルシウムイオンは第1の金属結合部位を占有していることから、活性部位の開放立体構造におけるヌクレオチドの結合を媒介しているものと思われる。重炭酸イオンの存在によって活性部位が閉鎖されるとともに、第2の金属イオンが動員される。基質類似体のリン酸基が、おそらくは生成物の形成及び放出を容易にするために、活性部位内におけるその立体構造を再構成する。酵素のアポ型は溶解しないことから、更なる酵素の立体構造が存在し、観察されたものは反応経路に沿って捕捉された種に相当する可能性がある(Steegborn, C., Litvin, T., Levin, L.R. Buck, J. and Wu,H. (2005) Nat. Struc. And Mol. Biol.,12, 32-37, Tesmer, J.J.G. (2005) Nat. Struc. And Mol. Biol.,12, 7-8)。
HCO3 -の存在下又は不在下において、ATP類似物、Mg2+又はCa2+と複合体を形成したスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)から得られたsolAC相同体CyaCの一連の構造が報告されている。これらの報告によれば、カルシウムイオンは第1の金属結合部位を占有していることから、活性部位の開放立体構造におけるヌクレオチドの結合を媒介しているものと思われる。重炭酸イオンの存在によって活性部位が閉鎖されるとともに、第2の金属イオンが動員される。基質類似体のリン酸基が、おそらくは生成物の形成及び放出を容易にするために、活性部位内におけるその立体構造を再構成する。酵素のアポ型は溶解しないことから、更なる酵素の立体構造が存在し、観察されたものは反応経路に沿って捕捉された種に相当する可能性がある(Steegborn, C., Litvin, T., Levin, L.R. Buck, J. and Wu,H. (2005) Nat. Struc. And Mol. Biol.,12, 32-37, Tesmer, J.J.G. (2005) Nat. Struc. And Mol. Biol.,12, 7-8)。
solACと雄避妊
細胞cAMP濃度の変化は、精子による受精過程(特に成熟、受精能獲得、運動能獲得、及び配偶子との融合)の調節と関連付けられてきた。これらの事象の関連性にもかかわらず、その基礎となる機序は殆ど分かっていない。それぞれのアデニル酸シクラーゼがこれらの過程の調節に果たす具体的な役割を決定するべく行なわれた精子の研究から、solACが中心的な役割とはいかなくても、主要な役割を担っていることを示している(de Lamirande, E., LeClerc,P. and Gagnon, C. (1997) Mol. Hum. Reprod., 3, 175-194; Jaiswal, B.J. and Conti,M. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100,10676-10681; Xie, F. and Conti, M. (2004) Developmental Biol. 265, 196-206; Chen, Y., Cann, M.J., Litvin, T.N., Iourgenko, V., Sinclair, M.L., Levin, L.R. and Buck, J. (2000) Science 289, 625-628)。solACが受精において果たしている役割を示す決定的な証拠となったのは、マウスのsolAC遺伝子を破壊したところ、精子の運動能に重度の障害が生じ、繁殖不能になるという知見である。solAC欠損雄に生じた睾丸及び精巣上体は正常であり、solACを発現することが知られている他の器官にも、目立った異常は認められなかった。solAC欠損雌マウスには何の表現型も見られず、野生型又はヘテロ接合型マウスとの間で正常な大きさの子を産んだ。solAC欠損雄は正常に交尾したものの、精子の前進運動の欠失のため、繁殖には至らなかった。突然変異精子を用いたインビトロでの研究によれば、突然変異精子にcAMPを添加することによって、正常な運動能を回復することはできたものの、やはり卵母細胞を繁殖させることはできなかった(Esposito, G., Jaiswal, B.S., Xie, F., Krajnc-Franken, M.A.M., Robben, T.J.A.A, Strik, A.M., Kuil, C, Philipsen, R.L.A., van Duin, M., Conti, M. and Gossen, J.A. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 2993-2998)。
細胞cAMP濃度の変化は、精子による受精過程(特に成熟、受精能獲得、運動能獲得、及び配偶子との融合)の調節と関連付けられてきた。これらの事象の関連性にもかかわらず、その基礎となる機序は殆ど分かっていない。それぞれのアデニル酸シクラーゼがこれらの過程の調節に果たす具体的な役割を決定するべく行なわれた精子の研究から、solACが中心的な役割とはいかなくても、主要な役割を担っていることを示している(de Lamirande, E., LeClerc,P. and Gagnon, C. (1997) Mol. Hum. Reprod., 3, 175-194; Jaiswal, B.J. and Conti,M. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100,10676-10681; Xie, F. and Conti, M. (2004) Developmental Biol. 265, 196-206; Chen, Y., Cann, M.J., Litvin, T.N., Iourgenko, V., Sinclair, M.L., Levin, L.R. and Buck, J. (2000) Science 289, 625-628)。solACが受精において果たしている役割を示す決定的な証拠となったのは、マウスのsolAC遺伝子を破壊したところ、精子の運動能に重度の障害が生じ、繁殖不能になるという知見である。solAC欠損雄に生じた睾丸及び精巣上体は正常であり、solACを発現することが知られている他の器官にも、目立った異常は認められなかった。solAC欠損雌マウスには何の表現型も見られず、野生型又はヘテロ接合型マウスとの間で正常な大きさの子を産んだ。solAC欠損雄は正常に交尾したものの、精子の前進運動の欠失のため、繁殖には至らなかった。突然変異精子を用いたインビトロでの研究によれば、突然変異精子にcAMPを添加することによって、正常な運動能を回復することはできたものの、やはり卵母細胞を繁殖させることはできなかった(Esposito, G., Jaiswal, B.S., Xie, F., Krajnc-Franken, M.A.M., Robben, T.J.A.A, Strik, A.M., Kuil, C, Philipsen, R.L.A., van Duin, M., Conti, M. and Gossen, J.A. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 2993-2998)。
solACが受精に重要な役割を果たしているにもかかわらず、tmACの一部はこの過程に組み込まれていることを示す証拠もある。無傷マウス精子の免疫学的局在決定によれば、tmAC II、III及びVIII は先体及び鞭毛領域に豊富に存在するのに対して、tmAC I及びIV は中辺(midpiece)及び先体帽に、より少量存在していた。IVF培地の成分の一部はG−タンパク質結合受容体を通じて作用することが知られていることから、これらの効果はtmACを介して調節されている可能性が高い(Baxendale, R.W. and Fraser,L (2003) Mol. Reprod. and Dev. 66, 181-189)。
solAC、腫瘍学、炎症及びその他のプロセス
cAMPは、細胞増殖、細胞分化及びアポトーシスに影響を及ぼす信号伝導経路に関与している。これらの経路における異常は、ガン等の病態を招くことが知られている。例示される様々なガンとしては、本明細書の第G(vii)節において後述するものが挙げられる。即ち、solACの活性の上昇又は降下によるcAMP濃度の調節は、治療又は予防のためのレバーと見なすことができる。
cAMPは、細胞増殖、細胞分化及びアポトーシスに影響を及ぼす信号伝導経路に関与している。これらの経路における異常は、ガン等の病態を招くことが知られている。例示される様々なガンとしては、本明細書の第G(vii)節において後述するものが挙げられる。即ち、solACの活性の上昇又は降下によるcAMP濃度の調節は、治療又は予防のためのレバーと見なすことができる。
近年の研究は、solAC TNF誘導性の好中球活性化及びNGF媒介性の神経突起生成が、グアノシントリホスファターゼRap−1のcAMP依存性調節を介していることを示している(Han, H., Stessin, A.M., Roberts, J., Hess, K.C., Gautam, N., Kamenetsky, M., Lou, O., Hyde, E., Nathan, N., Muller, W.A., Buck, J., Levin, L.R., and Nathan, C. (2005) J. Exp. Med., 202, 353-361; Stessin, A.M., Zippin, J.H., Kamenetsky, M., Hess, K.C., Buck, J., and Levin, L.R. (2006). J. Biol. Chem., 10, 1074)。従って、solACの活性化又は抑制による、これらの過程の下流調節は、治療に有用である可能性がある。
TNFの過剰産生又は未制御産生が、数々の炎症性の疾患及び症状を媒介し、又は増悪させることが指摘されてきた。例としては、リウマチ様関節炎(Maini et al., APMIS, 105(4): 257-263)、リウマチ様脊椎炎、変形性関節炎、痛風性関節炎、及びその他の関節炎症状;敗血症、敗血症ショック、内毒素ショック、グラム陰性敗血症、毒素性ショック症候群、成人呼吸窮迫症候群、脳マラリア、慢性肺炎症性疾患、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)、喘息、肺線維症及び細菌性肺炎、珪肺症、肺サルコイドーシス、骨吸収病、再灌流傷害、移植片対宿主反応、同種移植片拒絶、感染による発熱及び筋肉痛、例えばインフルエンザ、単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type-1:HSV−1)、HSV−2、サイトメガロウイルス(CMV)、水疱瘡ウイルス(varicella−zoster virus:VZV)、エプスタイン・バー・ウイルス(Epstein−Barr virus:EBV)、ヒトヘルペスウイルス−6(human herpes virus-6:HHV−6)、HHV−7、HHV−8、仮性狂犬病、感染又は悪性病変に続発する鼻気管炎及び悪液質、後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)に続発する悪液質、AIDS、ARC(AIDS関連症候群)、ケロイド形成、瘢痕組織形成、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は胸焼け(pyresis)が挙げられる。solAC阻害剤はTNF産生によって生じる効果を抑制することから、上に列記した疾病の治療に有用であると予想される。
更にcAMPは、眼房水形成(緑内障)及び膵臓の島細胞(糖尿病)からのインシュリン分泌を刺激することが知られている。何れの過程も重炭酸塩濃度によって調節されることから、solACとの直接的な関連が示唆される。
タンパク質結晶化
タンパク質化学の分野ではよく知られているように、タンパク質の結晶化は、不確実且つ困難なプロセスであり、明確な成功への期待はない。今のところ、タンパク質構造を決定する上で、タンパク質の結晶化が最大のハードルであるのは明らかである。こうした理由から、タンパク質の結晶化は研究課題を伴い、或いはそれ自体が研究課題となってきており、タンパク質結晶学者の実験室の延長には留まらない。タンパク質結晶を成長させる作業に伴う困難性を記した参考文献は多数存在する(Kierzek AM. and Zielenkiewicz P. (2001) Biophysical Chemistry, 91, 1-20 Models of protein crystal growth; Wiencek JM (1999) Annu Rev Biomed Eng., 1, 505-534 New Strategies for crystal growth; Service, R., Science (2002) Nov 1;298, 948-50 Structural genomics. Tapping DNA for structures produces a trickle; Chayen N., J Struct Funct Genomics (2003) 4 (2-3) 115-20 Protein crystallization for genomics: throughput versus output)。
タンパク質化学の分野ではよく知られているように、タンパク質の結晶化は、不確実且つ困難なプロセスであり、明確な成功への期待はない。今のところ、タンパク質構造を決定する上で、タンパク質の結晶化が最大のハードルであるのは明らかである。こうした理由から、タンパク質の結晶化は研究課題を伴い、或いはそれ自体が研究課題となってきており、タンパク質結晶学者の実験室の延長には留まらない。タンパク質結晶を成長させる作業に伴う困難性を記した参考文献は多数存在する(Kierzek AM. and Zielenkiewicz P. (2001) Biophysical Chemistry, 91, 1-20 Models of protein crystal growth; Wiencek JM (1999) Annu Rev Biomed Eng., 1, 505-534 New Strategies for crystal growth; Service, R., Science (2002) Nov 1;298, 948-50 Structural genomics. Tapping DNA for structures produces a trickle; Chayen N., J Struct Funct Genomics (2003) 4 (2-3) 115-20 Protein crystallization for genomics: throughput versus output)。
Wiencekは、タンパク質構造決定に適した上質のタンパク質単結晶を作製するための、合理的な方法論及びプロトコルの必要性を強調するとともに、タンパク質結晶化のための基礎的なアプローチの不在が、通常は構造決定における律速段階となっていることを指摘している。合理的なアプローチの必要性に関連して、タンパク質の溶解性、核生成、及び結晶成長に影響を及ぼす変数についての議論がなされている。こうした変数としては、例えば温度、圧力、pH、電解質、反溶媒(antisolvents)、及び可溶性合成ポリマーが、タンパク質の溶解性に及ぼす影響などが挙げられる。様々な物理化学的手法(例えばレーザー光散乱、X線散乱、X線回折、及び原子間力顕微鏡法等)と、結晶成長及び核生成速度の研究におけるそれらの使用が報告されるとともに、様々な結晶成長法、例えば蒸気拡散、自由界面拡散、透析、回分成長、及びシーディングの手法が記載されている。タンパク質結晶の質と、それに影響を及ぼす変数の測定についても記載されている。Wiencekは以下のように結論付けている。タンパク質結晶化については未だに多くが不明のままであるが、構造生物学の大部分はタンパク質分子を結晶化する能力に掛かっている以上、タンパク質結晶化の理解に根本的な進歩が生じれば、それはタンパク質結晶学そのものを超えた分野に様々な影響を及ぼすであろう。
同様に、Kierzek等は、タンパク質結晶化の物理化学的側面が分かっていない以上、規則性の高い大きなタンパク質結晶を成長させることは、依然としてX線結晶学によるタンパク質構造決定の最大の障害となっている、との認識を示している。タンパク質結晶成長についてこれまで採取された実験データを解釈するためのモデルを作製する努力について概説した上で、それでもなお、課題があまりにも複雑になってしまうため、満足のいくタンパク質結晶化のモデルは存在しないと述べている。即ち、結晶化プロセスは、時間及び空間の何れの尺度においても桁数の範囲が広く、殆どのコンピュータシミュレーションのアプローチでは扱うことができないからである。Kierzek等は結論として、結晶成長の分野で現在検討されている多種多様なアプローチをある程度統一するためには、実験的な方法及び理論的な方法の両面において更なる進展が必要であろう、と述べている。
Service(同)は、タンパク質の結晶化及び構造決定に伴う課題について論じている。一例として挙げられているのは、米国で開始された、タンパク質の結晶化に伴う数多くの工程を自動化することにより、構造決定プロセスの迅速化を図ろうとするパイロット・プロジェクトである。このプロジェクトは、プロセスの各段階において困難に遭遇している。構造決定の目標として挙げられた1870種のタンパク質のうち、タンパク質構造の作製が完了したのは僅か23種に過ぎない。Serviceによれば、他のプロジェクトの結果も似たようなものであり、世界中の様々な構造ゲノム学プロジェクトで目標とされた約18,000種のタンパク質のうち、構造が解明されたタンパク質は約200種ほどに留まっている。更に本論説は、構造決定プロセスにおける異なる幾つかの点に着目し、それらが何れも課題を孕んでいることを指摘している。プロセスの出発点、即ち大腸菌(E. Coli)や他の宿主細胞に適切なタンパク質を発現させ、それを可溶型にすることが、最大の課題の1つであると述べている。次に、タンパク質がX線研究に適した結晶を形成するようにする作業に伴う課題について論じている。結晶化とそれに続く結晶の最適化も、本プロセスの大きな課題であると述べている。実のところ、本論説が述べるところによれば、核工程において大幅な減耗が生じる。たとえ結晶が得られたとしても、その結晶の構造を解析しなければならない。それは定型的な作業ではなく、また、成功が期待又は予測できるものでもない。NISGCコンソーシアム(NISGC consortium)による論説で例証されている。結晶化及び構造決定の対象となったタンパク質の数に比して、実際にクローン化され、更に可溶性タンパク質として発現されたタンパク質の数は少ない。その後の更なる精製は必ずしも可能ではなく、精製できた場合でも、精製タンパク質の僅かな画分が結晶化されたに過ぎない。その場合でも、X線結晶学によるタンパク質構造決定に適した上質なタンパク質単結晶を結晶化により生成したのは、これらのタンパク質のうちのごく僅かな量に過ぎなかった。5187種の標的タンパク質のうち、コンソーシアムのメンバーがクローン化したものは1675種、タンパク質として発現させたものは1295種であったが、その中で可溶性であったものは773種に過ぎなかった。そのうち719種のタンパク質について、コンソーシアムのメンバーが自ら精製を行なったが、結晶化できたのは僅か94であった。現在までのところコンソーシアムのメンバーが構造を決定したのは50種であるが、そのうちX線分析で決定されたものは22種に過ぎない。
同様の図が、Chayen(同)にFigure 1 として掲載されている。Chayenは、構造ゲノム学に関わる多数の工程のうち結晶化工程に焦点を当て、X線結晶学による構造決定に適した上質なタンパク質結晶を作製することの困難性を論じている。この困難性こそが、作製されたタンパク質のうちほんの僅かのタンパク質しか、これまで構造決定されていないという事実の、主な原因である。
溶液からのタンパク質分子の結晶化が、タンパク質構造の決定プロセスにおける障害になっていると一般的に信じられている理由は多数存在する。タンパク質は複合体分子であり、他のタンパク質分子及び小分子との特異的及び非特異的な相互作用を伴う、溶液中での微妙な均衡を予測することは困難である。
タンパク質は各々、独自の条件の組合せの下で結晶化し、その条件の組合せを前もって予測することはできない。単にタンパク質を過飽和させて溶液から沈殿させるだけでは、結果として非晶質沈殿となってしまい、うまくいかない場合が多い。多数の沈殿化剤が使用されており、一般的なものとしては異なる塩や、ポリエチレングリコールが挙げられるが、他のものも知られている。更には、金属や界面活性剤(detergents)等の添加剤を加えて、溶液中のタンパク質の挙動を調節することもできる。多数のキットが入手可能であり(例えばHampton Research社製)、それらは結晶化空間内のパラメーターを可能な限り多数カバーしようとするものではあるが、それらは多くの場合、回折分析に適さない結晶性沈殿や結晶を最適化するための出発点となるに過ぎない。溶解性の点からみたタンパク質挙動、適切な折り畳み構造や活性を得るための金属イオンへの依存度、他の分子との相互作用、更には、入手可能な他の情報に関する知識があれば、結晶化を首尾よく実施するための。それでもタンパク質の結晶化は、時間のかかるプロセスと見なされる場合が多く、それゆえ、過去の試みの観察の上に、その後の実験が構築されている。
タンパク質結晶が得られた場合でも、それらは必ずしも回折分析に適したものではない。分解能に限界があるかも知れず、その後の改良によって、分析に必要な分解能で回折可能な結晶とすることは困難である。結晶の分解能の限界は、幾つかの因子によってもたらされる。例えば、結晶内におけるタンパク質の固有移動度が挙げられる。これは、他の結晶型を用いても、解消するのは困難である。また、結晶内の溶媒含量が高いことも挙げられる。これは結果として散乱の弱化を招く。或いは、結晶格子の欠陥も挙げられる。こうした欠陥があると、回折されるX線が格子内の単位相互間で完全には一致しないことになる。これらの因子の何れか1つ、又は複数の組合せがあると、その結晶は構造決定に適さないものとなる。
タンパク質の中には、決して結晶化しないものもある。妥当な試行の後、タンパク質自体を調べ、ドメインの分離、N又はC末端の切断の変更、又は点突然変異が可能か否かを検討する必要がある。タンパク質をどのように設計し直せば、結晶化能力を向上させることができるのか、予測が困難な場合が多い。適切な結晶を作製するためには、リガンドを結晶化混合物中に含有させることが重要な場合もある。結晶化機序に関する我々の理解は未だ不完全であり、結晶化に関与するタンパク質構造の因子についてはよく分かっていない。
本発明は、ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの結晶構造に関する。本結晶構造によれば、本酵素における基質及び補因子の結合部位を検討及び決定することが可能になる。
即ち、一態様によれば、本発明は表1に挙げる可溶性アデニル酸シクラーゼの三次元アポ(即ちリガンドを含まない)構造、及びその使用を提供する。
第二の態様によれば、本発明は表2に挙げる、更には表3、4及び5に挙げる、リガンド存在下における可溶性アデニル酸シクラーゼの3次元構造を提供する。
一般的な態様によれば、本発明はsolAC構造と、リガンドの相互作用のモデリングにおけるその利用の提供に関する。リガンドの相互作用の例としては、潜在及び既存の医薬化合物又は他の分子構造、プロドラッグ、solAC調節因子若しくは基質、又は、こうした化合物、調節因子若しくは基質の断片と、このsolAC構造との相互作用が挙げられる。
上述の態様を含めた本発明の態様、及び本発明の実施形態について、以下で説明する。
上述した本発明の態様の各々、並びにそれら複数の組合せは、何れも本発明の有利な特徴に寄与するものである。
表の簡単な説明
表1は、solACの構造の座標データを表わす表である。
表2は、AMPCPPとの複合体における、solACの構造の座標データを表わす表である。
表3は、重炭酸イオンとの複合体における、solACの構造の座標データを表わす表である。
表4は、5−フェニル−2H−[1,2,4]トリアゾール−3−チオール(化合物1)との複合体における、solACの構造の座標データを表わす表である。
表5は、N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸との複合体における、solACの構造の座標データを表わす表である。
表6:solACの活性部位残基。
表7:アデノシン部分と相互作用するsolACの活性部位残基。
表8:solACの重炭酸イオン塩結合部位。
表9:solACのチャネル結合部位。
表10:solACの基質ポケット(Sub-pocket)結合部位。
表11:solACの代替結合部位残基。
表12:哺乳類の可溶性アデニル酸シクラーゼの全長配列間のパーセンテージ同一性。
表13:哺乳類の可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメイン間のパーセンテージ同一性。
表14:solAC発現コンストラクト。
表15:solAC溶解バッファー(lysis buffers)。
表16:solAC構造の解明に使用した重原子誘導体。
定義
選択座標
本明細書に記載される本発明の様々な態様(例えばリガンドの適合(fitting)、相同性モデリング及び構造解、データ記憶手段、コンピュータを用いた座標の操作等)は、表1、表2、表3、表4又は表5に記載されたsolAC構造の座標、又は表1、表2、表3、表4又は表5から導かれる座標、又は表1、表2、表3、表4又は表5の座標を基準として得られる座標を利用する。本発明のかかる態様の何れにおいても、当業者には明らかなように、本発明の多くの適用分野では、表1、表2、表3、表4又は表5の座標の全てを使用する必要はなく、その中の一部、例えば、特定の用途に関連して特に関心のある原子を表わす座標群を用いればよい。かかる一部の座標を、本明細書では「選択座標(selected coordinates)」という。
選択座標
本明細書に記載される本発明の様々な態様(例えばリガンドの適合(fitting)、相同性モデリング及び構造解、データ記憶手段、コンピュータを用いた座標の操作等)は、表1、表2、表3、表4又は表5に記載されたsolAC構造の座標、又は表1、表2、表3、表4又は表5から導かれる座標、又は表1、表2、表3、表4又は表5の座標を基準として得られる座標を利用する。本発明のかかる態様の何れにおいても、当業者には明らかなように、本発明の多くの適用分野では、表1、表2、表3、表4又は表5の座標の全てを使用する必要はなく、その中の一部、例えば、特定の用途に関連して特に関心のある原子を表わす座標群を用いればよい。かかる一部の座標を、本明細書では「選択座標(selected coordinates)」という。
本発明において選択座標に触れる場合、それはsolAC構造のうち、例えば少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも50、より一層好ましくは少なくとも100、例えば少なくとも500、又は少なくとも1000のタンパク質原子を指す。中でも、選択座標は、少なくとも30の異なるアミノ酸残基に属する(即ち、30の異なる残基に由来する原子が少なくとも1つずつ存在する)ことが好ましく、より好ましくは少なくとも60の残基、より一層好ましくは少なくとも100又は150の残基に属することが好ましい。選択座標は任意により、表1、表2、表3、表4又は表5に記載された1又は2以上のリガンド又は水分子の原子を含んでいてもよい。
アデニル酸シクラーゼは通常、2ドメイン構造を有し、これら2つのドメインは相互に高い構造相同性を示し、偽二量体(pseudo-dimer)に類似した構造を有する。可溶性アデニル酸シクラーゼと最も近似しているのはシアノバクテリアのクラスIII アデニル酸シクラーゼであるが、これは対称性のホモ二量体として機能する。ホモ二量体の二つの単量体、或いは偽二量体の2つのドメインは、その活性部位の内容に応じて、互いに異なる向きに配向する場合がある。従って、選択座標はN末端ドメイン(残基1〜246)の座標のみであってもよく、C末端ドメイン(残基247〜468)の座標のみであってもよい。
別の態様によれば、選択座標は、以下に記載するsolACの活性部位に寄与する主鎖又は側鎖原子として発明者等が同定したアミノ酸残基、特に表6のアミノ酸残基(とりわけ表7のアミノ酸残基の何れか)のうち、1又は2以上の残基の原子からなるか、或いはこれらの原子を含んでいてもよい。
好ましい実施形態によれば、選択座標が表6に規定される残基からなる群、より好ましくは表7に規定される残基からなる群から選択される原子を少なくとも1つ含有する場合、この選択座標は、これらの好ましい群のアミノ酸のうち、少なくとも2種のアミノ酸、例えば少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より一層好ましくは少なくとも5種、最も好ましくは全てのアミノ酸に由来する原子を、少なくとも1つ含有する。中でも、選択座標はこれらの残基群由来の原子を少なくとも10、より好ましくは25、より好ましくは50含んでなると共に、その群の各要素に由来する原子を少なくとも1つずつ含有することがより好ましい。
別の態様によれば、選択座標は、表8、9、10又は11のうち何れかのアミノ酸残基のうち、1又は2以上のアミノ酸残基原子からなるか、或いはこれらの原子を含んでいてもよい。別の実施形態によれば、選択座標が表8、9、10又は11のうち何れかに規定される残基の群に由来する原子を少なくとも1つ含有する場合、この選択座標は各表のアミノ酸のうち、少なくとも2種のアミノ酸、例えば少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より一層好ましくは少なくとも5種、最も好ましくは全てのアミノ酸から、少なくとも1つの原子を含有する。中でも、選択座標はこれらの残基群から、少なくとも10、より好ましくは25、より好ましくは50の原子を含有すると共に、これらの表の何れかに記載された群の各要素から少なくとも1つの原子を有することがより好ましい。
或いは、選択座標は表6から11のうち何れか、又は全てから、少なくとも10、より好ましくは25、より好ましくは50の原子、例えば少なくとも100の原子を含んでいてもよい。
一態様によれば、選択座標は、表6から選択されるアミノ酸残基(例えば表7の残基)の1又は2以上の座標とともに、表8、9、10又は11の何れかから選択されるアミノ酸残基の1又は2以上の座標を含有していてもよい。一態様によれば、選択座標は少なくとも表6(好ましくは表7)からのものと、表8からのものとの組合せである。かかる選択座標群は、ATP及び重炭酸イオンの結合部位を占有するリガンドの設計、開発及び分析において、とりわけ有利な場合がある。
別の態様によれば、表8の残基の好ましい下位集合としては、Lys95、Val167及びArg176が挙げられる。本明細書記載の本発明の態様のうち、表8のアミノ酸残基の座標の使用と関連する態様においては、これらの下位集合残基からの座標を使用することも考えられる。更に、特異的なリガンド相互作用を有することが特定されている原子の座標(表1の1525、2585、2600、2729;表2の1525、2588、2603及び2732;表3の937、1505、1508及び1578;表4の1516、2678、2692及び2821;表5の1516、2670、2684及び2813の原子)を使用することも考えられる。
別の態様によれば、表9の残基の好ましい下位集合としては、His164, Phe165及びVal335が挙げられる。本明細書記載の本発明の態様のうち、表9のアミノ酸残基の座標の使用と関連する態様においては、これらの下位集合残基からの座標を使用することも考えられる。更に、特異的なリガンド相互作用を有することが特定されている原子の座標(表1の2536、2546、2565及び5295;表2の2539、2549、2568及び5298の原子;表3の1482、1486、1489、及び2866の原子;表4の2628、2639、2657、及び5413の原子;表5の2620、2631、2649、及び5392の原子)を使用することも考えられる。
更なる態様によれば、選択座標は、solACが有するもう1つの、部分的にヘリカルなドメインのアミノ酸残基のうち、1又は2以上のアミノ酸残基の原子からなるか、或いはこれらの原子を含んでいてもよい。このドメインは、tmACと比較した場合に、このsolACに特有であると思われる。即ち、選択座標は、Met1からTyr26、又は、Lys219からGly284の残基の原子を、少なくとも1つ含有していてもよい。中でも、選択座標は、Ile13からHis19、Phe226からPhe236、Asp258からTyr268、又はGlu271からIle277の残基の原子を、少なくとも1つ有することが好ましい。かかる場合、選択座標は、これらの好ましい座標のうち、少なくとも2種のアミノ酸、例えば少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より一層好ましくは少なくとも5種、例えば少なくとも10種、最も好ましくは全てのアミノ酸から、少なくとも1つの原子を含有することがより好ましい。更に、選択座標は、この残基群から少なくとも10、より好ましくは25、より好ましくは50の原子を含んでなると共に、当該原子が前述の好ましい番号の異なるアミノ酸に由来することがより好ましい。
選択座標は、少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%のC−α原子を含有することが好ましい。この代わりに、或いはこれに加えて、選択座標は少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約20%、より一層好ましくは少なくとも約30%の、窒素、C−α、C末端、及びカルボニル酸素原子の任意の組合せから選択される骨格原子を含有する。
即ち、本明細書において以下に言及される「選択座標」とは、別途明示した場合を除き、何れも上述の定義に沿って解すべきである。
二乗平均平方根偏差(rmsd)
タンパク質の構造類似性は通例、二乗平均平方根偏差(root mean square deviation:rmsd)により表記及び測定される。これは二つの原子群の間における、空間的な配置の違いを測るものである。rmsdは、最適重畳後における等価原子間の距離を表わす。rmsdの計算は、全原子について、残基骨格原子(即ち、タンパク質アミノ酸残基の窒素−炭素−炭素骨格原子)について、主鎖原子のみ(即ち、タンパク質アミノ酸残基の窒素−炭素−酸素−炭素骨格原子)について、側鎖原子のみについて、或いはより一般的には、C−α原子のみについて行なうことができる。
タンパク質の構造類似性は通例、二乗平均平方根偏差(root mean square deviation:rmsd)により表記及び測定される。これは二つの原子群の間における、空間的な配置の違いを測るものである。rmsdは、最適重畳後における等価原子間の距離を表わす。rmsdの計算は、全原子について、残基骨格原子(即ち、タンパク質アミノ酸残基の窒素−炭素−炭素骨格原子)について、主鎖原子のみ(即ち、タンパク質アミノ酸残基の窒素−炭素−酸素−炭素骨格原子)について、側鎖原子のみについて、或いはより一般的には、C−α原子のみについて行なうことができる。
タンパク質構造を比較する方法については、Methods of Enzymology, vol 115, pg 397-420に記載されている。rmsdを計算するために必要な最小二乗代数については、Rossman及びArgosによって与えられたが(J. Biol. Chem., vol 250, pp7525 (1975))、より高速な方法が、Kabsch(Acta Crystallogr., Section A, A92, 922 (1976); Acta Cryst. A34, 827-828 (1978))、Hendrickson(Acta Crystallogr., Section A, A35, 158 (1979))、McLachan(J. Mol. Biol., vol 128, pp49 (1979))及びKearsley(Acta Crystallogr., Section A, A45, 208 (1989))によって開示されている。アルゴリズムによっては逐次法を使用するものもある。これは一の分子を他の分子に対して相対的に移動させるものであり、例えばFerro及びHermansによって説明されている(Ferro and Hermans, Acta Crystallographic, A33, 345-347 (1977))。他の方法として、例えばKabschのアルゴリズムは、適合度(best fit)を直接探索するものである。
rmsdを決定するプログラムとしては、MNYFIT(プログラム集COMPOSERの一部、M.J., Haneef, I., Carney, D. and Blundell, T.L. (1987) Protein Engineering, 1, 377-384)、MAPS(Lu, G. An Approach for Multiple Alignment of Protein Structures (1998, in manuscript and on http://bioinfo1.mbfys.lu.se/TOP/maps.html))が挙げられる。
顕著に異なる座標群を比較する場合には、C−α原子のみについてrmsd値を計算するのがより一般的である。しかしながら、側鎖の運動を分析する場合には、全原子についてのrmsdを算出してもよい。
rmsd値の算出には、例えばLSQKAB(Collaborative Computational Project 4. The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography, Acta Crystallographica, D50, (1994), 760-763)、QUANTA(Jones et al., Acta Crystallography A47 (1991), 110-119、Accelrys, San Diego, CAより市販)、Insight(Accelrys, San Diego, CAより市販)、Sybyl(登録商標)(Tripos, Inc., St Louis より市販)、O(Jones et al., Acta Crystallographica, A47, (1991), 110-119)、及び他の座標フィッティングプログラム等のプログラムを使用することができる。
例えばLSQKABやO等のプログラムによれば、計算のために対合させる2つのタンパク質の残基を、ユーザーが定義することができる。或いは、残基の対合は、2つのタンパク質の配列アラインメントを生成することにより行なうこともできる。配列アラインメント用プログラムについては、セクションDでより詳細に論じる。その後、このアラインメントに従って原子座標を重畳し、rmsd値を算出することができる。Sequoia(C.M. Bruns, I. Hubatsch, M. Ridderstrom, B. Mannervik, and J.A. Tainer (1999) Human Glutathione Transferase A4-4 Crystal Structures and Mutagenesis Reveal the Basis of High Catalytic Efficiency with Toxic Lipid Peroxidation Products, Journal of Molecular Biology 288(3): 427-439)は、相同タンパク質配列のアラインメントと、相同タンパク質の重畳とを行なう原子座標プログラムである。アラインメントの後、上述したプログラムを使用して、rmsdを算出することができる。配列が同一、或いは同一性が高い場合、タンパク質の構造アラインメントは手作業で行なってもよく、上記概略のように自動で行なってもよい。もう1つのアプローチとしては、配列を考慮することなく、タンパク質原子座標の重畳を生成することも考えられる。
本明細書に記載した本発明の様々な態様では、表1、表2、表3、表4又は表5の全座標又は選択座標の使用が示される。同様に、表1、表2、表3、表4又は表5の全座標又は選択座標の使用によって得られる、或いは表1、表2、表3、表4又は表5の全座標又は選択座標から誘導される、構造及びそれらの使用についても示される。かかる態様において、表の座標は、rmsdが1.5Å以下、好ましくは1.4Å以下、より好ましくは1.2Å以下、より好ましくは1.0Å以下、例えば好ましくは0.7Å以下、より好ましくは0.5Å以下、より好ましくは0.2Å以下、より一層好ましくは0.1Å以下の範囲内で異なっていてもよい。
従って、本明細書における表1、表2、表3、表4又は表5の座標に関する言及は、異なる旨の明示がない限り、何れも1.5Å以下のrmsd変分(好ましくは上記段落に記載された変分)を含むものとして解釈される。同様に、1.5Å以下未満のrmsd変分の値に関する言及も、上記段落に記載された好ましい(より狭い)範囲を含むものとして解釈される。誤解を避けるために言えば、本明細書において当該1.5Å以下よりも小さい具体的な数値未満のrmsd値に言及する場合、その具体的な数値以下の、上述した好ましい(より狭い)範囲を含むものとして解釈されるべきである。
rmsdは、C−α原子を基準として計算することが好ましい。但し、選択座標を使用する場合には、かかる原子を少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%含んでなることを条件とする。選択座標がかかる原子を少なくとも約5%含んでいない場合には、rmsdは4種の骨格原子全てを基準として計算してもよい。但し、これらは選択座標を少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%含んでなることを条件とする。選択座標が側鎖原子を90%以上含んでなる場合には、全選択座標を基準としてrmsdを計算してもよい。
リガンド
本明細書で使用する限り、リガンドとは、本発明のsolAC構造に結合し、或いは当該solAC構造と相互作用する可能性を有する1又は2以上の原子を含んでなる、仮想又は現実の構造を指す。かかる原子としては、有機分子内に存在する原子、例えば炭素、酸素、水素、窒素、リン、及び硫黄、更には生物系に一般に存在する金属イオン、例えば鉄、カルシウム、マグネシウム、マンガン、セレン等が挙げられる。
本明細書で使用する限り、リガンドとは、本発明のsolAC構造に結合し、或いは当該solAC構造と相互作用する可能性を有する1又は2以上の原子を含んでなる、仮想又は現実の構造を指す。かかる原子としては、有機分子内に存在する原子、例えば炭素、酸素、水素、窒素、リン、及び硫黄、更には生物系に一般に存在する金属イオン、例えば鉄、カルシウム、マグネシウム、マンガン、セレン等が挙げられる。
本発明で使用されるリガンドは、本技術分野において3次元構造が入手可能な(例えば250,000を超える分子構造を格納するCambridge Structural Database(www.ccdc.cam.ac.uk)から入手される)小化学分子でもよく、或いは具体的な構造又はその他の基準に基づいてその構造が設計又は選択されたリガンドでもよい。これらの構造や他の構造を用いれば、例えば、solACと相互作用してその機能を調節(例えば活性化又は阻害)する新規化合物の開発におけるリガンドのスクリーニングを目的として、本発明を実施することができる。当業者には明らかなように、仮想分子の形態のリガンドを、1又は2以上のタンパク質原子における本発明のsolAC構造と相互作用するように作成したとしても、現実の化合物とsolACとの間にかかる相互作用が生じるとは限らない。
solACの触媒ドメインの1又は2以上の原子に結合し、或いは当該原子と相互作用するリガンドは、特に興味深い。リガンドは酵素の調節因子(例えば活性剤又は阻害剤)であってもよく、酵素の基質であってもよい。かかる基質の一例として、アデニル酸シクラーゼの作用により活性薬剤に変換されるプロドラッグが挙げられる。リガンド結合は通常(常にという訳ではないが)、非共有結合的な相互作用(水素結合等)により生じる。
当業者には明らかなように、コンピュータを用いた分析方法等の説明においてリガンドに言及する場合、リガンドとは仮想的な分子構造を指すが、他の文脈(例えばsolACの結晶の浸漬等)においては、リガンドは化合物を指す。本発明の一部の態様によれば、リガンドをコンピュータモデリング法によって同定し、その後に化合物の形態として、更なる分析に供する。化合物の分析によれば、例えば浸漬又は共結晶化実験のように、更なるリガンドが生成する場合が多いが、これをその後に、本発明のコンピュータを用いた方法によって分析してもよい。
浸漬又は共結晶化に使用可能な候補リガンドは、様々な原料から得ることが可能である。例えば、アデニル酸シクラーゼ阻害剤の候補として開発されている化合物を用いてそのsolACとの相互作用を確認し、その活性を強化するか、或いは調節するようにリガンドを修飾してもよい。かかるリガンドとしては、更に以下で説明するアデニンヌクレオチド類似体が挙げられる。
或いは、数々の合成化合物ライブラリが、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall, UK)、Comgenex(Princeton, N.J.)、Brandon Associates(Merrimack, N.H.)、及びMicrosource(New Milford, Conn.)等の各社から市場で利用可能とされている。また、レアケミカルライブラリ(rare chemical library)がAldrich(Milwaukee, Wis.)から利用できる。組合せライブラリも利用可能であり、また、作製することもできる。或いは、細菌、真菌、植物及び動物性の抽出物の形態における天然化合物のライブラリも、例えばPan Laboratories(Bothell, Wash.)やMycoSearch(N.C.)が利用可能であり、更には本技術分野で周知の方法により容易に作成することが可能である。例えば動物、細菌、真菌、植物源(葉や樹皮)、及び海洋資料等の天然源から単離された化合物を候補として、有用な可能性がある医薬品の存在についてアッセイを行なうことも提案される。当然のことながら、スクリーニングの対象となる医薬品は、化学組成物や人工の化合物から誘導又は合成したものでもよい。
特に興味深いリガンドとしては、医薬用途で開発中の化合物であろう。通常、かかるリガンドは有機分子であり、その分子量は一般的に約100から2000Da、より好ましくは約100から1000Daである。かかるリガンドの例としては、ペプチド及びその誘導体、ステロイド、抗炎症剤、抗ガン剤、抗細菌又は抗ウイルス剤、神経学的薬剤(neurological agents)等が挙げられる。基本的には、製薬分野において開発中の任意の化合物を本発明に使用することにより、その開発の容易化が可能となり、或いはその特性を改善するための更なる合理的薬物設計が可能となる。
興味深い他のリガンドとしては、アデニンヌクレオチド及びその類似体が挙げられる。アデニンヌクレオチドは、アデノシンのリン酸エステルの何れか、即ち、アデノシン5’一リン酸(AMP)、ADP、及びATPの何れかである。
アデニンヌクレオチドの類似体とは、アデニンヌクレオチドの特徴的な構造を保持する任意の化合物、例えば当該ヌクレオチドの断片や当該ヌクレオチドの分子変異体であって、solACのATP結合ポケットに結合可能なものをいう。特徴的な構造(characteristic structure)とは、前記類似体が、プリン塩基構造、糖残基、及び一、二又は三リン酸エステル構造、又はそれらの類似構造のうち、1又は2以上を含んでなることを表わす。
アデニンヌクレオチドの断片としては、アデノシンのリン酸エステルのうち何れかの分子断片であって、solACのATP結合ポケットに結合する能力を有する断片が挙げられる。即ち、アデニンヌクレオチドの断片の例としては、アデニン(塩基)、アデノシン(ヌクレオシド)、リボース(糖)、及び、リボースのリン酸エステルの何れか(例えばリボース5’一リン酸、リボース5’二リン酸、及びリボース5’三リン酸の何れか)が挙げられる。
アデニンヌクレオチドの分子変異体は、プリン塩基構造がアデニン誘導体、例えば8位置換アデニン(例えば、ハロゲン原子により得られる8−ブロモATPや8−ブロモAMP、又はアルキル基による置換体等)であってもよく、或いは環がヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは塩基がZMP(AICAリボシド一リン酸)等の開環類似体であってもよい。これらに加えて、或いはこれらの代わりに、糖残基構造が、例えば2’又は3’ヒドロキシル基の修飾(例えば他の基による置換又はこれらの基の環化)を受けたものであってもよい。更には、リン酸エステル部分の修飾によって形成された非加水分解性基を、例えばγ及びβリン酸の間(例えばアデノシン−5'−[(β,γ)−イミド]三リン酸、AMPPNP)、或いはβ及びαリン酸の間(例えばアデノシン−5'−[(α,β)−メチレノ]三リン酸、AMPCPP)に有する類似体であってもよい。極めて多様な類似体が様々な製造業者から市販されている(例えばJena Bioscience GmbH(Jena, Germany))。加えて、様々なアデニンヌクレオシド類似体が臨床上も(特に抗ウイルス分野で)使用されている。例えばビダラビン(別名アデニンアラビノシド又はara−A)は、ウイルス性ポリメラーゼを標的としてヘルペスウイルスの治療に使用されるアデニンヌクレオシド類似体であり、9−(3−Hydroxy−2−phosphonyl−methoxypropyl)−アデニン(別名HPMPA)は抗HIV活性を有するアデニン誘導体である(Pauwels, R.; Balzarini, J.; Schols, D.; Baba, M.; Desmyter, J.; Rosenberg, I.; Holy, A.; De Clercq, E., Phosphonylmethoxyethyl Purine Derivatives, A New Class Of Anti-Human Immunodeficiency Virus Agents. Antimicrob Agents Chemother 32(7):1025-1030 (1988))。これらの一部はインビボでリン酸化されて三リン酸になる。
アデニンヌクレオチド及びその類似体をリガンドとして、更に修飾を加えてそのsolACとの相互作用を増加又は低減することにより、例えば新規の医薬化合物の開発に使用してもよい。
リガンドは、重炭酸又は二硫化物に類似する部分を有する化合物であってもよい。このような部分は、solAC原子のうち重炭酸結合に関与する1又は2以上の原子に配位する能力を有する。
A.タンパク質結晶
本発明は、ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの結晶を提供する。
本発明は、ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの結晶を提供する。
更なる態様によれば、本発明は、配列番号3の残基1から468を含んでなる可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの結晶、或いは1から10のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を伴うその変異体の結晶を提供する。かかる結晶が有する配列番号3の配列は、His6タグを除く配列であってもよく(即ち配列番号3の1から469)、His6タグが4から20のアミノ酸を有するタグで置換されていてもよい。かかるタグが有するヒスチジン残基の数はより少数でも、或いはより多数でもよく、例えばHis4、His5、His7又はHis8タグでもよい。本結晶は、配列番号3の残基1〜468のアレル又は変異体であって、本明細書に示す条件の下で結晶を形成する能力を保持するものを含んでいてもよい。かかる変異体としては、複数のアミノ酸置換を有するもの、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のアミノ酸が、同数又はより少数のアミノ酸で置換されたものが挙げられる。更なる変異体の例については、突然変異体も含め、本明細書の以下の記載で更に論じる。
一実施形態によれば、上述した本発明の結晶は、単位格子次元a=b=99.5Å、c=97.4Å、及びα=β=90.0°、γ=120.0°の空間群P63を有する。単位格子次元は5%の変動を有していてもよい。即ち、具体例としては、a=b=99.51Å、c=97.13Å;a=b=99.424Å、c=97.390Å(表1に示す);a=b=99.651Å、c=96.522(表2に示す);a=b=99.673Å、c=96.824(表3に示す);a=b=99.569Å、c=98.470(表4に示す);a=b=99.291Å、c=97.753(表5に示す)が挙げられる。
より一般的には、単位格子結晶次元は、104.475Å>a=b>94.525Å、102.27Å>c>92.53Åの範囲である。
かかる結晶は、後述の実施例に記載の方法を用いて得ることができる。
本発明は、活性部位結合リガンドの不在下で成長させたsolAC触媒ドメインの結晶を提供する。従って、本発明は更に、solAC触媒ドメインのアポ結晶を包含する。
本明細書に示すsolAC結晶又は共結晶を提供するのに使用される方法論としては、約3.5Å又はより優れた分解能で分解可能なsolAC触媒ドメインの結晶又は共結晶を得るのに一般に使用される方法論が挙げられる。
即ち、本発明は更に、3.5Å又はより優れた分解能を有する、solAC触媒ドメインの結晶又は共結晶を提供する。
更なる態様によれば、本発明はsolAC触媒ドメインのタンパク質結晶、特にsolACの触媒ドメインの配列を含んでなるsolACタンパク質又はその変異体の結晶を作製する方法であって、懸滴蒸気拡散により結晶を生長させる工程を含んでなる方法を提供する。
本発明の更なる態様によれば、リガンドが浸漬されたsolAC触媒ドメインが提供される。
更に、本発明は、solAC触媒ドメインとリガンドとの複合体の結晶を作製する方法であって、solAC触媒ドメインの結晶を取得する工程と、その中にリガンドを浸漬する工程を含んでなる方法を提供する。
(i)突然変異体
突然変異体は、野生型solACの少なくとも1のアミノ酸が置換(replacement)、挿入又は欠失してなることを特徴とする、solAC触媒ドメインタンパク質をいう。かかる突然変異体は、例えば、部位特異的な突然変異誘発、或いは天然又は非天然アミノ酸の導入等によって調製することができる。
突然変異体は、野生型solACの少なくとも1のアミノ酸が置換(replacement)、挿入又は欠失してなることを特徴とする、solAC触媒ドメインタンパク質をいう。かかる突然変異体は、例えば、部位特異的な突然変異誘発、或いは天然又は非天然アミノ酸の導入等によって調製することができる。
本発明で「突然変異体(mutants)」を考慮する場合、「突然変異体」とは、天然又は合成solACの少なくとも1のアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基に置換することにより、及び/又は、天然ポリペプチド中のアミノ酸残基、又はsolACに相当するポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、付加及び/又は欠失を加えることにより得られたポリペプチドであって、その元となったsolACと実質的に同じ3次元構造を有するポリペプチドを指すものとする。実質的に同じ3次元構造を有するとは、表1、表2、表3、表4又は表5の座標からの二乗平均平方根偏差(rmsd)が約1.5Å未満の原子構造座標群を有することを指す。
突然変異体は、酵素又は触媒活性を有していてもよいが、必ずしも有する必要はない。
相同体又は突然変異体を作製するために、当該タンパク質に存在するアミノ酸を、同様の特性(例えば疎水性、疎水性モーメント、抗原性、α−ヘリックス構造又はβシート構造を形成又は中断する性向等)を有する別のアミノ酸と置換してもよい。タンパク質の置換変異体とは、タンパク質配列内の少なくとも1のアミノ酸が除去されて、異なる残基が代わりに挿入されたものである。アミノ酸置換は通常は1の残基であるが、例えば結晶接点等の機能的な制約がある場合は、クラスター化していてもよい。アミノ酸の置換は、保存アミノ酸の置換を含んでなることが好ましい。挿入アミノ酸変異体は、1又は2以上のアミノ酸が導入されたものである。これはアミノ末端及び/又はカルボキシ末端融合でも、配列内導入でもよい。アミノ末端及び/又はカルボキシ末端融合の例としては、親和性タグ(例えばMBP又はGSTタグ)、又はエピトープタグが挙げられる。
アミノ酸の置換、欠失及び付加がsolACの3次元構造を顕著に妨害しないか否かは、その置換、付加又は欠失が生じるsolACの領域に応じてある程度異なる。分子の高頻度可変領域においては、保存置換に加えて非保存置換も、分子の3次元構造を顕著に乱すことなく、許容される可能性がある。高保存領域、又は顕著な二次構造を含む領域では、保存アミノ酸置換が好ましい。
保存アミノ酸置換は本技術分野では周知であり、例えば、関与するアミノ酸残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は、両親媒性の類似性に基づいてなされる。例えば、負帯電アミノ酸としてはアスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。正帯電アミノ酸としてはリジン及びアルギニンが挙げられる。非帯電極性頭部基を有するアミノ酸のうち、近似の親水価を有するものとしては:ロイシン、イソロイシン、バリン;グリシン、アラニン;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;フェニルアラニン、チロシンが挙げられる。他の保存アミノ酸置換も本技術分野では周知である。
場合によっては、アミノ酸残基の置換、欠失及び/又は付加によって、ポリペプチドをコード化するcDNA内に扱いに優れたクローニング部位を形成し、ポリペプチド等の精製を補助することが、特に有利であり、又は都合がよい場合がある。このような、solACの三次元構造を実質的変更しない置換、欠失及び/又は付加については、当業者には明らかである。
上述したように、本明細書において考慮される突然変異体は、酵素活性を示す必要はない。実際に、solACの触媒活性に影響を与えるものの、触媒領域の3次元構造を実質的には変更しないアミノ酸の置換、付加又は欠失については、本発明による具体的な考慮の対象となる。かかる結晶性ポリペプチド、又はそれから得られる原子構造座標を用いて、タンパク質に結合するリガンドを同定することが可能である。
突然変異のための残基は当業者であれば容易に特定可能であり、これらの突然変異は部位特異的突然変異誘発により導入することができる。例としては、Stratagene QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット又はカセットによる突然変異誘発法の使用が挙げられる(例えばAusubel et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York, and Sambrook et al., Molecular Cloning: a Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, (1989)参照)。
(ii)アレル
本発明で「アレル(alleles)」を考慮する場合、「アレル」とは、Bateson及びSaundersによって1902年に作成された、メンデル性遺伝において互いに代替的な関係にある形質を指す造語をいう。現在ではアレルという語は、異なる遺伝子産物を生じ、ひいては異なる表現型を生じる、1の遺伝子の2以上の代替形を指すために使用される。アレルは、転写、スプライシング、翻訳、転写後若しくは翻訳後修飾に影響を与え、又は少なくとも1のアミノ酸の変化を招くことが示されている、ヌクレオチドの変化を有する。通常、solACのアレル変異体は、それに対応する、具体的に例示されたsolACタンパク質との間に、少なくとも75%の配列同一性(より好ましくは、少なくとも80%、85%、90%又は95%の配列同一性)を有する。ここで、配列同一性は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、重複及び同一性が最大となるとともに、配列間隙が最小となるようにアライメントして、比較することによって決定される。より一般的には、アレル体は、野生型タンパク質と比較して1〜10のアミノ酸の変化、特に1又は2のアミノ酸の変化、或いはDNA配列において1〜30のヌクレオチドの変化を含んでなる。
本発明で「アレル(alleles)」を考慮する場合、「アレル」とは、Bateson及びSaundersによって1902年に作成された、メンデル性遺伝において互いに代替的な関係にある形質を指す造語をいう。現在ではアレルという語は、異なる遺伝子産物を生じ、ひいては異なる表現型を生じる、1の遺伝子の2以上の代替形を指すために使用される。アレルは、転写、スプライシング、翻訳、転写後若しくは翻訳後修飾に影響を与え、又は少なくとも1のアミノ酸の変化を招くことが示されている、ヌクレオチドの変化を有する。通常、solACのアレル変異体は、それに対応する、具体的に例示されたsolACタンパク質との間に、少なくとも75%の配列同一性(より好ましくは、少なくとも80%、85%、90%又は95%の配列同一性)を有する。ここで、配列同一性は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、重複及び同一性が最大となるとともに、配列間隙が最小となるようにアライメントして、比較することによって決定される。より一般的には、アレル体は、野生型タンパク質と比較して1〜10のアミノ酸の変化、特に1又は2のアミノ酸の変化、或いはDNA配列において1〜30のヌクレオチドの変化を含んでなる。
本発明がsolAC−リガンド複合体及び突然変異体、相同体、類似体、アレル体、solACの種変異タンパク質に関する範囲において、かかるタンパク質の結晶を形成してもよい。かかる結晶の形成に、本明細書に示されるsolACの結晶化のための条件を使用することができることは、当業者であれば認識し得るであろう。或いは、当業者であればこれらの条件を基礎として用い、かかる結晶を形成するべく修正を加えた条件を特定することができるであろう。
即ち、solACの結晶に関する本発明の態様を、相同体、アレル体、及び種変異体を生じるsolACの突然変異体結晶及び突然変異体に延長することも可能である。
(iii)solACの精製
結晶化に十分な量のタンパク質を得るためには、solACを高いレベルで発現及び回収するためのプロトコルを開発する必要があった。一実施形態によれば、本発明は、C末端又はN末端タグと融合されていてもよい、solAC(例えば、配列番号3の残基1〜469を含んでなるsolAC、又はその突然変異体若しくは変異体)を作製するための方法であって、
solACを真核細胞培養物内で発現させる工程;
前記培養物の細胞を、10〜100mM トリス pH7.4〜8.0(4℃)、0.3〜0.5M NaCl、0〜20%(v/v)グリセロール、及び2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる方法を提供する。
結晶化に十分な量のタンパク質を得るためには、solACを高いレベルで発現及び回収するためのプロトコルを開発する必要があった。一実施形態によれば、本発明は、C末端又はN末端タグと融合されていてもよい、solAC(例えば、配列番号3の残基1〜469を含んでなるsolAC、又はその突然変異体若しくは変異体)を作製するための方法であって、
solACを真核細胞培養物内で発現させる工程;
前記培養物の細胞を、10〜100mM トリス pH7.4〜8.0(4℃)、0.3〜0.5M NaCl、0〜20%(v/v)グリセロール、及び2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる方法を提供する。
より好ましくは、本方法は:
前記培養物の細胞を、40〜60mM トリス pH7.4〜7.6(4℃)、0.3〜0.4M NaCl、5〜15%(v/v)グリセロール、及び2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる。
前記培養物の細胞を、40〜60mM トリス pH7.4〜7.6(4℃)、0.3〜0.4M NaCl、5〜15%(v/v)グリセロール、及び2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる。
より一層好ましくは、本方法は、当該細胞培養中での発現の後に:
前記培養物の細胞を、50mM トリス pH7.5(4℃)、0.3M NaCl、10%(v/v)グリセロール、2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる。
前記培養物の細胞を、50mM トリス pH7.5(4℃)、0.3M NaCl、10%(v/v)グリセロール、2〜5mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファーで溶解させる工程;及び
前記培養物からsolACを回収する工程を含んでなる。
これら上述の方法において、前記真核細胞培養物としては、哺乳類又は昆虫の細胞培養が挙げられるが、特に昆虫の細胞培養物である。
一実施形態によれば、solACがヒスチジンタグ(例えば約4から10、例えば約6のヒスチジンを含んでなるタグ)残基を含んでなるとともに、solACの回収が、タグがキレートカラムに結合する条件下でsolACをキレートカラムに結合させた後、タンパク質をカラムから溶出させる工程を含有する。別の実施形態によれば、solACはGSTタグを有していてもよい。
また、本発明は、50mM トリス pH7.5(4℃)、330mM NaCl、10%(v/v)グリセロール、及び1mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなるバッファー中に、solAC(特に配列番号3のsolAC、又はその突然変異体又は変異体)を含んでなる組成物も提供する。好ましい実施形態によれば、solACの濃度は10から40mg/ml、例えば20から40mg/mlである。これらの好ましい濃度において、solACは単量体のまま維持されることが好ましい。
(iv)solACの結晶化
solAC触媒ドメインタンパク質の結晶を作製するために、バッファー(例えば50mM トリス、pH7.5、330mM 塩化ナトリウム、1mM ベータ−メルカプトエタノール、及び10%グリセロールを含んでなるバッファー)中の最終タンパク質は、市販の濃縮機器を用いて~8〜15mg/mlに濃縮される。
solAC触媒ドメインタンパク質の結晶を作製するために、バッファー(例えば50mM トリス、pH7.5、330mM 塩化ナトリウム、1mM ベータ−メルカプトエタノール、及び10%グリセロールを含んでなるバッファー)中の最終タンパク質は、市販の濃縮機器を用いて~8〜15mg/mlに濃縮される。
タンパク質の結晶化は懸滴又は静滴法により行なわれ、タンパク質は様々な蒸気拡散バッファー組成物に対して、4℃で蒸気拡散により結晶化される。微細種晶(Microseeding)を用いてもよい。慣例的には、懸滴又は静滴中、タンパク質溶液及び蒸気拡散バッファーは1:1の比率で使用される。本明細書では別途記載しない限り、この比率を使用した。懸滴又は静滴の体積は、通常約0.5から2μl、例えば約1から2μl、好ましくは1μlである。また、結晶化はマイクロバッチ(microbatch)法で行なってもよい。
一般に、蒸気拡散バッファーは、100mM 酢酸ナトリウム pH4.8、200mM クエン酸三ナトリウム、14〜17%PEG4000、10%グリセロール、及び3mM ベータ−メルカプトエタノールを含んでなる。
結晶化の試行条件(trial conditions)は、Hampton Research スクリーニングキット、ポリエチレングリコール(PEG)/イオンスクリーン、PEGグリッド、硫酸アンモニウムグリッド、PEG/硫酸アンモニウムグリッド等を用いて調製することができる。
結晶化に影響を与えることが特定されている添加剤を結晶化条件に加えてもよい。予備結晶化条件の最適化の際には、添加剤スクリーン(Additive Screens)を使用してもよい。添加剤の存在によってサンプルの結晶化が促進されるとともに、添加剤によって結晶の質が向上する可能性があるからである。例としてはHampton Research Additive screensが挙げられる。これらは、グリセロール、ポリオール、及び、タンパク質結晶化におけるその他のタンパク質安定剤(R. Sousa. Acta. Cryst. (1995) D51, 271-277)、又は二価陽イオン(Trakhanov, S. and Quiocho, F.A. Protein Science (1995) 4,9, 1914-1919)を用いたものである。
更に、結晶化挙動を向上させるべく、界面活性剤を結晶化条件に加えてもよい。例としては、Hampton Research detergent screensにみられる、イオン性、非イオン性、及び両性イオン性の界面活性剤が挙げられる(McPherson, A., et al., The effects of neutral detergents on the crystallization of soluble proteins, J. Crystal Growth (1986) 76, 547-553)。
更に、種晶(seeding)法を用いることにより、結晶の質を向上させることもできる。例としては、マイクロシーディング(microseeding)、ストリークシーディング(streak seeding)、及びマクロシーディング(macroseeding)が挙げられる。市販の種晶調製キットを使用することができる。例としては、Hampton Researchから販売されているものが挙げられる。
B.結晶座標
更なる態様によれば、本発明は、表1の三次元原子座標を有する、可溶性アデニル酸シクラーゼ触媒ドメインの結晶を提供する。
更なる態様によれば、本発明は、表1の三次元原子座標を有する、可溶性アデニル酸シクラーゼ触媒ドメインの結晶を提供する。
表1は、非対称ユニット中に存在する可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの原子座標データである。これは原子1から7273を包含する分子Aとして特定される。表の列中、2番目のカラムは原子番号を表わし、3番目のカラムは原子を表わし、4番目は残基の種類を表わし、5番目は鎖の特定(A又はB)、6番目は残基番号、7番目、8番目及び9番目のカラムはそれぞれ、問題となる原子のX、Y、Z座標、10番目は原子の占有率、11番目は原子の温度因子、12番目は原子の種類を表わす。
表における残りの原子(7274−8726)は水であり、その原子を上記と同様の書式で表わしている。
表1の原子座標により定義される構造の有利な特徴として、約1.7Åの分解能を有している点が挙げられる。表2の原子座標により定義される構造の有利な特徴として、約1.9Åの分解能を有している点が挙げられる。表3及び表4の原子座標により定義される構造の有利な特徴として、約2.0Åの分解能を有している点が挙げられる。表5の原子座標により定義される構造の有利な特徴として、約2.05Åの分解能を有している点が挙げられる。
表1の原子座標により定義される構造の特別な利点としては、リガンドによって占有されていない活性部位を有する構造を画定している点が挙げられる。
更なる態様によれば、本発明は、表2に示す3次元構造を有する、AMPCPP分子との複合体の形態における可溶性アデニル酸シクラーゼ触媒ドメインの結晶を提供する。
表2は、solACとAMPCPPとの複合体の原子座標である。ここで本タンパク質は番号1〜7289の原子を含んでなる分子Aとして特定され、AMPCPP分子は番号7291〜7339の原子を含んでなり、カルシウムイオンは番号7340であり、残る番号7341〜8307の原子は水分子を表わす。表の列中、2番目のカラムは原子番号を表わし、3番目のカラムは原子を表わし、4番目は残基の種類を表わし、5番目は鎖の特定(A又はB)、6番目は残基番号、7番目、8番目及び9番目のカラムはそれぞれ、問題となる原子のX、Y、Z座標、10番目は原子の占有率、11番目は原子の温度因子、12番目は原子の種類を表わす。
表3はsolACと重炭酸イオンとの複合体の原子座標データを表わす。分子Aとして特定されるタンパク質は、番号171から3909の原子を含んでなる。表ではこれらの原子の前に、水分子(1〜87及び92〜170)及び重炭酸イオンの原子(88〜91)が示されている。
表4は、solACと、5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオール(化合物1)との複合体の原子座標データである。ここで、分子Aとして特定されるタンパク質は、番号1〜7499の原子を含んでなり、化合物1の分子は7516〜7534の原子であり、これに続く分子は水である。また、本構造中にはグリセロール分子が、7502から7514の原子として存在している。
表5は、solACと、N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸(化合物2)との複合体の原子座標データである。ここで、分子Aとして特定されるタンパク質は、番号1〜7478の原子を含んでなり、化合物2の分子は7495〜7523 の原子であり、これに続く分子は水である。また、本構造中にはグリセロール分子が、7481から7493の原子として存在している。
表3〜5におけるカラムの順序は、solACタンパク質構造については、表2と同様である。
表1、表2、表3、表4、及び表5は何れも、内部整合の取れた形式(internally consistent formats)で示されている。例えば、表1、2、4、及び5において、各アミノ酸残基の原子座標の列記順としては、まず骨格窒素原子を示し、次にC−α骨格炭素原子をCAとして示し、続いて側鎖残基原子(標準的な一慣行(one standard convention)に従って示す)、そして最後にタンパク質骨格の炭素及び酸素を示している。表3では、タンパク質骨格の炭素及び酸素を側鎖残基より先に示している。また、表3には、solAC構造の原子に連続番号を付与しているのに対し、他の表の番号は、タンパク質分子の水素原子を計数する慣習的な方法により付与している。当業者の中には、これらの原子の順序が異なる、或いは側鎖残基やリガンド分子の原子の記載が異なる、別のファイル形式を使用し、或いは好む者もいるであろう。但し、異なるファイル形式を用いて表の座標を表記又は操作することも、当然ながら本発明の範囲内である。
表1、表2、表3、表4又は表5の座標は、原子位置の単位としてオングストロームを用い、少数第3位まで記したものである。これらの座標は、三次元形状を規定する相対位置の集合であるが、当業者であれば分かるように、異なる原点及び/又は軸を基準とした全く異なる座標群によって、同一又は類似の形状を表わすこともできる。更には、上述の「定義」の欄で述べたことではあるが、当業者であれば分かるように、構造を表わす原子の相対原子位置が異なる場合でも、二乗平均平方根偏差が1.5Å未満の範囲内であれば、その構造特性の点でも、また、リガンドとのsolAC相互作用力を構造に基づき分析する際の有用性の点でも、表1、表2、表3、表4又は表5の構造と実質的に同じ構造が規定されることになる。
同様に、当業者であれば分かるように、表の水分子及び/又はリガンド分子の番号及び/又は位置を変更しても、通常は、solAC相互作用リガンドの構造基準分析におけるその構造の有用性に影響を与えることはない。即ち、表1、表2、表3、表4又は表5の座標を異なる原点及び/又は軸に転置した場合;構造を表わす原子の相対原子位置、或いはその選択座標を変更した場合であって、変更後の構造を表1、表2、表3、表4又は表5に示す座標に重畳した場合の二乗平均平方根偏差が、1.5Å未満の範囲内にある場合;及び/又は、水分子及び/又はリガンド分子の番号及び/又は位置を変更した場合:の何れも、本発明の態様として本明細書に記載された目的によれば、本発明の範囲内に属する。
上述したように、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造の好ましい選択座標としては、本明細書において後述されるsolACの活性部位に寄与する主鎖又は側鎖原子として本発明者等が特定した、1又は2以上のアミノ酸残基の原子が挙げられる。かかる原子としては、表6、7、8、9、10又は11のうち何れか(例えば表6、7又は11)に記載のアミノ酸に存在する1又は2以上の原子が挙げられる。各表における好ましい選択座標、或いは2以上の表からの座標の組合せについては、本明細書の別の箇所に記載する。
可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの構造は、表1又は表2の座標により規定される。電子密度において観察可能な最初の残基がMet1残基であり、最後がLys468である。Met1の主鎖窒素に近接する電子密度ピークは、アセチル化によるものと思われるが、モデル化されていない。表1において解釈可能な主鎖密度を有さない残基は、Trp135、Glu136、Glu137、Gly138、Leu139、Asp140、Phe350、Pro351、Gly352、Glu353、Lys354、Val355、及びPro356である。Val469残基及びC末端Hisタグは、電子密度では視認できない。134における最初の切断部に近接した主鎖は殆ど特定できず、132〜134の残基は斑状の主鎖電子密度を有する。304〜306及び451〜455の残基は、電子密度では殆ど特定できない。更に、本モデルの周辺に存在する幾つかの残基は、それらについて解釈可能な密度がなかったことから、その側鎖が任意に配置されているものと思われる。Phe350は表2では視認できない。
可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインについて、更に別の構造を分解したところ、それらの構造の幾つかは、表1の非分解残基について解釈可能な密度を有していたことから、より完全な表3、表4又は表5の座標データを得ることも可能である。
分解された哺乳類可溶性アデニル酸シクラーゼ構造を、公開済みの細菌性可溶性アデニル酸シクラーゼの構造と比較するために、可溶性アデニル酸シクラーゼ及びスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)アデニル酸シクラーゼ(PDB code 1wc1)(Steegborn, C., Litvin, T., Levin, L.R. Buck, J. and Wu,H. (2005) Nat. Struc. And Mol. Biol.,12, 32-37)の構造間のrmsdを算出した。計算の際には、Comparer(Sali and Blundell (1990) J Mol Biol. 212, 403-428)を用いて構造の重畳を行ない、MNYFIT(Sutcliffe et al. 1987)を用いて重畳の精緻化及びrmsdの計算を行なった。rmsdの算出はCα原子のみの位置を用いて行なった。重畳を実行するために、各構造をその構成ドメインに分断した。これによって、構造間のrmsdに大きな差異が生じる原因となる、ドメインの運動の問題が解消される。即ち、可溶性アデニル酸シクラーゼの第1のドメイン(残基36〜216)を、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)構造のB鎖に重畳し、第2のドメイン(残基287〜465)をC鎖に重畳した。2.5Åのカットオフを用いて等価性を定義した(一方の構造のCα原子が、重畳した構造のCα原子の2.5Å内にあれば等価とした)。可溶性アデニル酸シクラーゼの第1ドメインにおいては、181残基のうち116が、S.プラテンシス構造の残基と等価であると定義され、rmsdは1.2Åであった。第2のドメインについては、179残基のうち127が、S.プラテンシス構造の残基と等価であると定義され、rmsdは1.4Åであった。これらのrmsd値や、2.5Åのカットオフをもって特定された等価残基数の少なさは、二次構造要素を結合する複数の配列領域の長さ及び向きが異なる結果であろう。また、この重畳を検討した結果、ヘリックスα3の長さに違いがあり、哺乳類シクラーゼの方が数残基短いこと、また、分子の中心となるβ−シート部分は重畳率が高いのに対し、ヘリックスα2及びα3の重畳率はそれに比べて低いことが明らかになった。従って、S.プラテンシス構造1wc1に対する、本発明のsolAC構造の2つのドメイン全体についての総Cα原子のrmsd値は、1.5Åよりもかなり高い値であった。
これらの酵素の間には、二次構造に幾つかの違いがある。例えば、ヒト可溶性アデニル酸シクラーゼは、tmAC又はS.プラテンシス酵素と比べて、ベータ1鎖がより短く、アルファ1ヘリックスがより長い。
solACと、tmAC及びS.プラテンシスsolACとの主な違いは、偽二量体のN末端ドメインを背景とした、部分付加ヘリックスドメインの存在である。これはN末端の残基1〜26からなり、残基1〜12は伸張した立体構造を有し、13〜19はヘリカルな立体構造を有し、残る残基20〜26は伸張して、25〜27がヘリックスのターンを形成している。本ドメインの残りを形成するのは残基219〜284である。ここにはN末端ドメインのベータ8、C末端ドメインのベータ1、及びC末端ドメインのアルファ1を形成する残基が含まれる。残基219〜284のうち、残基226〜236、258〜268及び271〜277は、3つのヘリックスを形成している。
本発明者等は、リガンドに結合するsolAC内の幾つかの領域を同定した。また、本発明者等はこれらの領域が、これらの領域のうち2つ以上に結合するリガンドに対し、拡張された結合部位を形成する可能性があることを見出した。
本発明者等が同定した領域は(a)ATP結合部位、(b)重炭酸イオン結合部位、(c)チャネル結合部位、及び(d)基質ポケット(Sub-pocket)結合部位である。更に本発明者等は(e)代替部位(潜在的なアロステリック部位)も同定した。これらの部位のより詳しい説明は、後述の実施例に記す。
(A)ATP結合部位
この部位は、より一般的にはsolACの活性部位ということができ、主に活性部位残基によって裏打ちされている。本発明によるsolACの活性部位残基を、以下に掲げる表6及び7に1文字表記で示す。
この部位は、より一般的にはsolACの活性部位ということができ、主に活性部位残基によって裏打ちされている。本発明によるsolACの活性部位残基を、以下に掲げる表6及び7に1文字表記で示す。
(B)重炭酸イオン結合部位
本発明者等はsolACの構造を分析し、重炭酸イオン結合領域を解明した。重炭酸イオンと相互作用するのは、solACの3つの残基、即ちLys95、Val167及びArg176である。HCO3 -イオンと殆ど同一の位置に負帯電硫黄原子が存在する化合物(5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオール;「化合物1」)を用いることにより、本発明者等は、ATP結合部位と隣接する位置に、大きなポケットを形成する、拡張された重炭酸イオン結合部位を同定した。
本発明者等はsolACの構造を分析し、重炭酸イオン結合領域を解明した。重炭酸イオンと相互作用するのは、solACの3つの残基、即ちLys95、Val167及びArg176である。HCO3 -イオンと殆ど同一の位置に負帯電硫黄原子が存在する化合物(5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオール;「化合物1」)を用いることにより、本発明者等は、ATP結合部位と隣接する位置に、大きなポケットを形成する、拡張された重炭酸イオン結合部位を同定した。
この拡張HCO3 -結合部位は、solAC阻害剤又は活性剤の設計に利用可能なsolAC構造の領域に光を当てるものである。
この拡張部位の残基は表8に示す通りである。
これらの残基において、本発明者等は以下の点を見出した。
1)Lys95のNZはHCO3 -のO1と塩橋を形成する。
2)Val167の骨格NHはHCO3のO1と荷電水素結合を形成する。
3)Val167の骨格カルボニルはHCO3 -のOHと水素結合を形成する。
4)Arg176の側鎖NH2はHCO3 -のO3と塩橋を形成する。
5)Arg176の側鎖NH2はHCO3 -のOHと荷電水素結合を形成する。
1)Lys95のNZはHCO3 -のO1と塩橋を形成する。
2)Val167の骨格NHはHCO3のO1と荷電水素結合を形成する。
3)Val167の骨格カルボニルはHCO3 -のOHと水素結合を形成する。
4)Arg176の側鎖NH2はHCO3 -のO3と塩橋を形成する。
5)Arg176の側鎖NH2はHCO3 -のOHと荷電水素結合を形成する。
この拡張重炭酸イオン部位において、5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオールの硫黄原子は、ポケットの底部に位置し、Lys95のNZとの間に塩橋を、Val167の骨格NH及びPhe336の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成する。また、トリアゾールのN6は、ポケットの底部のMet337の骨格カルボニルとの間に水素結合を形成する。更に、トリアゾールのN5は、Arg176のNH2との間に荷電水素結合を形成する。化合物1のフェニル基は、Phe45、Lys95、Ala97、Ala100、Leu102及びPhe336の側鎖により形成される化合物ポケットの概ね親油性の領域に入り込んでいる。この化合物のフェニル基の先では、ポケットは若干狭まった後、ATP結合部位に開口している。この拡張HCO3 -結合部位の形状と、化合物:solAC複合体において見られる相互作用の性質は、この部位が種々のリガンドを受容し得ることを示唆している。
(C)チャネル結合部位
solACに結合したN−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸(「化合物2」)の結晶構造は、solAC構造には薬剤設計に利用し得る更なる領域があることを示すものである。化合物2の結合部位は、化合物1について説明した拡張HCO3 -ポケットと重複しており、化合物2のフェノキシ基が占有する位置は、化合物1のフェニル基と極めて類似している。しかしながら、化合物2は、HCO3 -結合部位の底部に存在するLys95の側鎖を、大きく移動させる。このLys95の移動によってHCO3 -結合ポケットが開放され、これによって形成されたチャネルが、水で満たされた大きな空孔と融合した後、ATP結合部位とは反対側の位置でタンパク質表面に開口する。以下の残基(表9)が、この新たに露出されるチャネルを裏打ちしている。
solACに結合したN−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸(「化合物2」)の結晶構造は、solAC構造には薬剤設計に利用し得る更なる領域があることを示すものである。化合物2の結合部位は、化合物1について説明した拡張HCO3 -ポケットと重複しており、化合物2のフェノキシ基が占有する位置は、化合物1のフェニル基と極めて類似している。しかしながら、化合物2は、HCO3 -結合部位の底部に存在するLys95の側鎖を、大きく移動させる。このLys95の移動によってHCO3 -結合ポケットが開放され、これによって形成されたチャネルが、水で満たされた大きな空孔と融合した後、ATP結合部位とは反対側の位置でタンパク質表面に開口する。以下の残基(表9)が、この新たに露出されるチャネルを裏打ちしている。
化合物2のオキサルアミド酸基の突出部先端はこのチャネルに侵入し、タンパク質との間に幾つかの相互作用を形成している。
1)化合物2のO3はHis164のNDとの間に荷電水素結合を形成している。
2)化合物2のO1はPhe165の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成している。
3)化合物2のO5はVal335の骨格NHに水素結合している。
4)化合物2のアミドN6はPhe165の骨格カルボニルに水素結合している。
1)化合物2のO3はHis164のNDとの間に荷電水素結合を形成している。
2)化合物2のO1はPhe165の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成している。
3)化合物2のO5はVal335の骨格NHに水素結合している。
4)化合物2のアミドN6はPhe165の骨格カルボニルに水素結合している。
Lys95、Phe165、Leu166、Val167及びPhe336の側鎖は、化合物2中心のアニリノ芳香環の周囲に親油性環境を形成している。化合物2の末端フェノキシ基は、化合物1について説明したのと同様の親油性ポケット内に結合しているが、このポケットの環境は、Met337、Phe338、Asp339、Lys340及びGly341を含んでなるループが化合物2によって移動することにより、僅かに異なっている。このループの移動によってPhe338がATP部位から、化合物2の末端フェノキシ基のファン・デル・ワールス距離内に引っ張られている。このPhe338の移動はアポ、AMP−PNP、及びsolACに結合した化合物1の構造には観察されない。
(D)基質ポケット(Sub-Pocket)結合部位
AMP−PNP複合体の構造の更なる分析によって、Phe338が、AMP−PNPリボースのヒドロキシル基に近接して存在するATP部位の一端を形成していることが明らかになった。Phe338の再配置によって、ATP結合部位に隣接する位置に、新たな基質ポケット(Sub-Pocket)が形成される。この新たな基質ポケット(Sub-Pocket)は以下の残基によって裏打ちされている(表10)。
AMP−PNP複合体の構造の更なる分析によって、Phe338が、AMP−PNPリボースのヒドロキシル基に近接して存在するATP部位の一端を形成していることが明らかになった。Phe338の再配置によって、ATP結合部位に隣接する位置に、新たな基質ポケット(Sub-Pocket)が形成される。この新たな基質ポケット(Sub-Pocket)は以下の残基によって裏打ちされている(表10)。
(E)solACの代替結合部位
solAC分子表面の疎水性裂隙は、対称関連分子(symmetry related molecule)のN末端との結合部位を形成する。N末端メチオニンの側鎖は、Phe89、Phe230及びPhe226の側鎖により形成される疎水ポケット内に入り込んでいる。残基1〜4の主鎖は更に、片面がヘリックス2の末端の残基により形成され、他方の面が番号Lys246、Asn247、Leu248及びLeu249の残基を含むループ由来の残基によって形成された、溝内に嵌まり込んでいる。これらの残基は、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)のアデニル酸シクラーゼと比べて、solACが余分に有するドメイン内に存在する。特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、表11に挙げるこれらの残基は、アロステリック部位を形成することにより、solACに対するリガンドの更なる標的となっている可能性がある。
solAC分子表面の疎水性裂隙は、対称関連分子(symmetry related molecule)のN末端との結合部位を形成する。N末端メチオニンの側鎖は、Phe89、Phe230及びPhe226の側鎖により形成される疎水ポケット内に入り込んでいる。残基1〜4の主鎖は更に、片面がヘリックス2の末端の残基により形成され、他方の面が番号Lys246、Asn247、Leu248及びLeu249の残基を含むループ由来の残基によって形成された、溝内に嵌まり込んでいる。これらの残基は、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)のアデニル酸シクラーゼと比べて、solACが余分に有するドメイン内に存在する。特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、表11に挙げるこれらの残基は、アロステリック部位を形成することにより、solACに対するリガンドの更なる標的となっている可能性がある。
複合体構造
AMPCPPを浸漬した可溶性アデニル酸シクラーゼの構造から、このタンパク質のヌクレオチド結合ポケットの構造、特にヌクレオチドのアデノシン部分の結合ポケットの構造に関する情報を得ることができる。更に、この構造を使用すれば、より強力な調節因子、例えば阻害剤又は活性剤を設計する目的で、solACに類似する構造の相互作用をモデル化することができる。より一般的には、他のリガンドを浸漬した可溶性アデニル酸シクラーゼの構造から、このタンパク質の他の結合ポケットの構造に関する情報を得ることができる。
AMPCPPを浸漬した可溶性アデニル酸シクラーゼの構造から、このタンパク質のヌクレオチド結合ポケットの構造、特にヌクレオチドのアデノシン部分の結合ポケットの構造に関する情報を得ることができる。更に、この構造を使用すれば、より強力な調節因子、例えば阻害剤又は活性剤を設計する目的で、solACに類似する構造の相互作用をモデル化することができる。より一般的には、他のリガンドを浸漬した可溶性アデニル酸シクラーゼの構造から、このタンパク質の他の結合ポケットの構造に関する情報を得ることができる。
solAC残基の同定及び使用
solACの結晶構造によって、ATP結合ポケット領域内において、酵素の結合部位を裏打ちする全ての残基(表6)を、正確に同定することが可能となった。
solACの結晶構造によって、ATP結合ポケット領域内において、酵素の結合部位を裏打ちする全ての残基(表6)を、正確に同定することが可能となった。
従って、本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法において選択座標の使用を考慮する場合、かかる選択座標は表6から選択されるアミノ酸残基の少なくとも1の座標、好ましくは少なくとも1の側鎖座標を含んでなる。より好ましくは、これらの選択座標は、表7から選択されるアミノ酸残基の少なくとも1の座標、好ましくは少なくとも1の側鎖座標を含んでなる。表6に規定される残基は、特に小分子リガンドの設計に有効である。
また、ある特定のアミノ酸の原子の全てを選択するか、その一部の原子のみを選択するかによらず、選択座標のうち少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも50が、異なるアミノ酸残基の対応する番号の側鎖残基のものであることが好ましい。これらは表6、7又は11のみから選択してもよい。
他の実施形態によれば、本発明の方法において選択座標を考慮する場合、かかる選択座標は、表6、7又は11のうち何れかから選択されたアミノ酸残基に由来する、少なくとも1の座標、好ましくは少なくとも1の側鎖座標を含んでなる。
C.キメラ
所望の特性を得るためにキメラタンパク質を使用するのは、今や科学文献では一般的である。従って、solACの変異体はキメラであってもよい。
所望の特性を得るためにキメラタンパク質を使用するのは、今や科学文献では一般的である。従って、solACの変異体はキメラであってもよい。
特に関係があるのは、活性部位を修飾することにより、構造に関する情報を得るための代替システムを構築する場合である。例えば、Ikuta等(J Biol Chem (2001) 276, 27548-27554)は、構造データが得られていたcdk2の活性部位を修飾し、X線構造が入手不能であったcdk4の活性部位を模倣した。この著者等は本手法により、cdk4阻害剤の設計に有用なキメラタンパク質由来のタンパク質/リガンド構造を得ることに成功している。同様の手法によって、関連するsolACイソフォームの一次配列の比較に基づき、本発明のsolACの結合部位を修飾してこれらのイソフォームを模倣することが可能である。キメラタンパク質のタンパク質構造又はタンパク質/リガンド構造を用いて、前記の関連solACイソフォームのリガンドとなる化合物を、構造に基づいて選定することが可能となる。
本明細書に記載のsolACと他のイソフォームとのアミノ酸配列同一性のパーセンテージが20から80%までの範囲に及ぶ場合でも、構造要素の空間分布は同様であり、solACタンパク質の全体的な折り畳み構造は極めて類似するものと推測される。
D.相同性モデリング
また、本発明は、他のタンパク質(以下では標的アデニル酸シクラーゼタンパク質という。)の相同性モデリングを行なう手段も提供する。「相同性モデリング(homology modeling)」という語は、表1、表2、表3、表4又は表5から誘導される座標データ、或いはその選択座標の操作に基づき、コンピュータ支援による構造の新たな(de novo)予測法を用いて、関連アデニル酸シクラーゼ構造を予測することを意味する。
また、本発明は、他のタンパク質(以下では標的アデニル酸シクラーゼタンパク質という。)の相同性モデリングを行なう手段も提供する。「相同性モデリング(homology modeling)」という語は、表1、表2、表3、表4又は表5から誘導される座標データ、或いはその選択座標の操作に基づき、コンピュータ支援による構造の新たな(de novo)予測法を用いて、関連アデニル酸シクラーゼ構造を予測することを意味する。
「相同性モデリング」という語は、後出の実施例により構造が決定されたsolACタンパク質の類似体又は相同体となる標的アデニル酸シクラーゼタンパク質にも及ぶ。また、solACタンパク質自体の突然変異タンパク質にも及ぶ。
「相同領域(homologous regions)」という語は、同一の二つの配列、或いは類似した(例えば脂肪族、芳香族、極性、負帯電、又は正帯電)側鎖化学基を有する二つの配列におけるアミノ酸残基を指す。相同領域における同一又は類似の残基は、当業者によってそれぞれ「不変異体(invariant)」及び「保存(conserved)」と呼ばれる場合もある。
本方法は通常、solACタンパク質のアミノ酸配列を標的タンパク質のアミノ酸配列とアラインメントすることにより、これらのアミノ酸配列を比較する工程を含んでなる。続いてこれらの配列中のアミノ酸を比較し、互いに相同なアミノ酸群(便宜上「対応領域(corresponding region)」という)をグループ化する。この方法によって、ポリペプチドの保存領域を検出し、アミノ酸の挿入又は欠失を説明することができる。
アミノ酸配列間の相同性は、市販のアルゴリズムを用いて決定することが可能である。本技術分野でこの目的に広く用いられているプログラムである、BLAST、gapped BLAST、BLASTN、PSI−BLAST、BLAST2、及びWU−BLAST(National Center for Biotechnology Information より提供)を用いて、2つのアミノ酸配列(又は3つ以上のアミノ酸配列)の相同領域のアラインメントを行なうことができる。これらのプログラムによれば、初期設定パラメーターを用いて、solACとモデル化対象となる他の標的タンパク質との間のアミノ酸配列の相同率を決定することができる。
本発明に係る使用に好適なプログラムとして、WU-BLAST(Washington University BLAST)バージョン2.0ソフトウェアが挙げられる。複数のUNIX(登録商標)プラットフォームで実行可能なWU-BLASTバージョン2.0プログラムを、ftp://blast.wustl.edu/blast/executablesからダウンロードすることができる。このプログラムはWU-BLASTバージョン1.4に基づいており、これは更にパブリック・ドメインのNCBI-BLASTバージョン1.4に基づいている(Altschul and Gish, 1996, Local alignment statistics, Doolittle ed., Methods in Enzymology 266: 460-480; Altschul et al., 1990, Basic local alignment search tool, Journal of Molecular Biology 215: 403-410; Gish and States, 1993, Identification of protein coding regions by database similarity search, Nature Genetics 3: 266-272; Karlin and Altschul, 1993, Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877。これらは何れも援用により本明細書に組み込まれる。)。
これら一連の検索プログラムの何れにも、ギャップド・アラインメント・ルーチン(gapped alignment routins)が、データベース検索自体に組み込まれている。ギャッピング(Gapping)は所望により停止することができる。長さ1のギャップに対するペナルティー(Q)の初期設定値は、タンパク質及びBLASTPについてはQ=9、BLASTNについてはQ=10であるが、任意の整数に変更することができる。ギャップ拡張時の残基当たりペナルティー(R)の初期設定値は、タンパク質及びBLASTPについてはR=2であり、BLASTNについてはR=10であるが、任意の整数に変更することができる。Q及びRの値としてどのような組合せを用いても、重複及び同一性が最大になるとともに配列ギャップが最小となるように、これらの配列をアラインメントすることが可能である。アミノ酸比較マトリックスは、初期設定状態ではBLOSUM62であるが、他のアミノ酸比較マトリックス(例えばPAM等)を利用することもできる。
類似体とは、類似の3次元構造及び/又は機能を有する複数のタンパク質であって、配列レベルにおいて共通祖先(common ancestor)を示す証拠が殆どないものとして定義される。
相同体とは、共通祖先を示す証拠を有する複数のタンパク質、即ち、進化的分岐の結果により生じ、配列同一性の程度(通常はパーセンテージで表わされる)に基づいて、遠縁、中縁及び近縁の下位区分に分かれたと思しき複数のタンパク質である。
本明細書において相同体とは、ヒトsolACに対して、少なくとも約20%、例えば少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%の配列、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するタンパク質をいう。この中には、solACの多型体や、下記の表12及び13に示す種等の種特異体(species forms)も含まれる。
表12及び13は、哺乳類間の可溶性アデニル酸シクラーゼのパーセンテージ同一性を示している。
相同体にはオルソログ(orthologues)とパラログ(paralogues)という、2つの種類が存在する。オルソログは、異なる生物に存在する相同遺伝子、即ち、それらの種が形成された種分化に一致する共通祖先を有する遺伝子として定義される。パラログは、遺伝子/染色体/ゲノムの複製に由来する同一生物内の相同遺伝子、即ち、最後の種分化の後に共通祖先が生じた遺伝子として定義される。
また、相同体は、solACの多型体、例えば、(A)の欄で述べたアレルや突然変異体、又は、(D)の欄で述べたキメラであってもよい。
既知の構造を有するポリペプチドのアミノ酸配列と、未知の構造を有するポリペプチドのアミノ酸配列とのアラインメントを行なったら、既知の構造を有するポリペプチドのコンピュータ表現における保存アミノ酸の構造を、構造が未知のポリペプチドの対応するアミノ酸に移動させる。例えば、既知の構造のアミノ酸配列内のチロシンを、未知の構造のアミノ酸配列における対応する相同アミノ酸である、フェニルアラニンに置き換える。
非保存領域に存在するアミノ酸の構造を、標準的なペプチドのジオメトリーを用いて、或いは分子動力学等の分子シミュレーション法を用いて、手動で割り当ててもよい。本プロセスの最終工程は、分子動力学及び/又はエネルギー最小化法を用いて、全体構造を精緻化することにより達成される。
相同性モデリングはそれ自体、当業者によく知られた手法である(例えば Greer(Science, Vol. 228, (1985), 1055)及びBlundell等(Eur. J. Biochem, Vol. 172, (1988), 513)を参照)。これらの文献に記載された手法や、本技術分野で一般に利用可能なその他の相同性モデリング法を、本発明の実施に用いることができる。
即ち、本発明は、相同性モデリングの方法であって:
(a)未知の3次元構造の標的solACタンパク質のアミノ酸配列の表現を、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolACのアミノ酸配列、或いはその選択座標とアラインメントし、前記アミノ酸配列の相同領域同士をマッチングさせる工程;
(b)前記未知の構造を有する当該標的solACの、前記マッチングさせた相同領域の構造を、前記の二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5に規定されるsolAC構造、或いはその選択座標の、対応する領域上にモデリングする工程;及び
(c)当該マッチングさせた相同領域の構造が実質的に保存された、未知の構造を有する当該標的solACの立体構造を決定する工程を含んでなる方法を提供する。
(a)未知の3次元構造の標的solACタンパク質のアミノ酸配列の表現を、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolACのアミノ酸配列、或いはその選択座標とアラインメントし、前記アミノ酸配列の相同領域同士をマッチングさせる工程;
(b)前記未知の構造を有する当該標的solACの、前記マッチングさせた相同領域の構造を、前記の二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5に規定されるsolAC構造、或いはその選択座標の、対応する領域上にモデリングする工程;及び
(c)当該マッチングさせた相同領域の構造が実質的に保存された、未知の構造を有する当該標的solACの立体構造を決定する工程を含んでなる方法を提供する。
未知の構造を有する当該標的solACの立体構造としては、例えば、未知の構造の標的アデニル酸シクラーゼ内で好ましい相互作用が形成される構造、及び/又は、低エネルギーの立体構造が形成されるような構造が挙げられる。
工程(a)から(c)の何れか、或いは全てを、コンピュータモデリングによって実行することが好ましい。
表1、表2、表3、表4又は表5の座標データ、或いはその選択座標は、他のアデニル酸シクラーゼを相同性モデリングする際に特に有利である。
本明細書に記載された、コンピュータ内(in silico)solAC構造を利用する本発明の態様は、本発明の上記態様によって得られるアデニル酸シクラーゼの相同体モデルにも等しく応用することができる。この応用は、本発明の更なる態様を構成する。こうしてアデニル酸シクラーゼの立体構造を上述の方法で決定することにより、かかる立体構造を上述のコンピュータを用いた合理的薬物設計法に利用することができる。
E.構造解
solACの原子座標データは、solACの他の結晶形、突然変異体、solACの共複合体(co-complex)を含む、他の標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の結晶構造を解析するために使用することも可能である。この場合、これらの標的アデニル酸シクラーゼタンパク質のX線回折データ又はNMR分光分析データが得られた後、構造を取得するためには解釈が必要となる。
solACの原子座標データは、solACの他の結晶形、突然変異体、solACの共複合体(co-complex)を含む、他の標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の結晶構造を解析するために使用することも可能である。この場合、これらの標的アデニル酸シクラーゼタンパク質のX線回折データ又はNMR分光分析データが得られた後、構造を取得するためには解釈が必要となる。
solACの場合、このタンパク質が結晶化する際の結晶形は複数存在し得る。本発明で提供される、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標は、solACの他の結晶形の構造を解析するのに特に有用である。また、solACの構造突然変異体、solAC共複合体、或いはsolACの何れかの機能ドメインと顕著なアミノ酸配列相同性を有する他の任意のタンパク質の結晶形を解析するために使用することもできる。
他の標的アデニル酸シクラーゼタンパク質、特に(例えば表12及び13に示す種に由来する)哺乳類の相同可溶性アデニル酸シクラーゼの場合、生のX線回折データさえ得られれば、本発明によって、かかる標的の構造をより容易に得ることが可能となる。
即ち、標的タンパク質アデニル酸シクラーゼや未知の3次元構造のsolACについて、X線結晶学データ又はNMR分光分析データが用意できれば、表1、表2、表3、表4又は表5に由来する原子座標データを用いてそのデータを解釈することにより、本技術分野で周知の手法によって(例えば、X線結晶学の場合はフェージング(phasing)、NMRスペクトルの場合はピーク割り当て支援)、当該他のアデニル酸シクラーゼについて可能性の高い構造を得ることが可能となる。
これらの目的に使用可能な方法の1つとしては、分子置換法が挙げられる。この方法では、当該未知の結晶構造(solACの他の結晶形、solAC突然変異体、solACキメラ若しくはsolAC共複合体、又は、solACの何れかの機能ドメインとアミノ酸配列相同性を有する標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の結晶のうち、何れであるかを問わない)を、本発明の表1、表2、表3、表4又は表5の一部又は全部のsolAC構造座標を用いて決定することができる。この方法によれば、未知の結晶の構造形に関する情報を最初から(ab initio)決定しようとする場合と比べて、より高速且つ効率的に正確な構造形を得ることが可能となる。
分子置換を実施するためのコンピュータプログラムとして本技術分野で公知のものの例としては、CNX(Brunger A.T.; Adams P.D.; Rice L.M., Current Opinion in Structural Biology, Volume 8, Issue 5, October 1998, Pages 606-611、またはAccelrys San Diego, CAから市販)、MOLREP(A.Vagin, A.Teplyakov, MOLREP: an automated program for molecular replacement, J. Appl. Cryst. (1997) 30, 1022-1025, part of the CCP4 suite)、又はAMoRe(Navaza, J. (1994). AMoRe: an automated package for molecular replacement. Acta Cryst. A50, 157-163)が挙げられる。
即ち、本発明の更なる態様によれば、タンパク質の構造を決定する方法であって:
rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標を用意する工程;及び
either(a)当該座標を、当該タンパク質の結晶単位格子内に配置することにより、当該タンパク質の構造を得るか、又は(b)当該座標を操作して、当該タンパク質のNMRスペクトルピークを割り当てる工程を含んでなる方法が提供される。
rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標を用意する工程;及び
either(a)当該座標を、当該タンパク質の結晶単位格子内に配置することにより、当該タンパク質の構造を得るか、又は(b)当該座標を操作して、当該タンパク質のNMRスペクトルピークを割り当てる工程を含んでなる方法が提供される。
表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標は、表6から11の何れか、例えば表6、7又は11に記載のアミノ酸残基の原子座標を含有することが好ましい。好ましい各表の選択座標、或いは2つ以上の表からの座標の組合せについては、本明細書に別記する通りである。
また、本発明を利用して、表1、表2、表3、表4又は表5のデータを操作することにより、かかるタンパク質のNMRスペクトルのピークを割り当てることもできる。
本発明の好ましい態様によれば、これらの座標を用いることにより、標的アデニル酸シクラーゼ、特にsolACの相同体、例えば他のアデニル酸シクラーゼ、特に異なる種由来のsolACのイソフォームについて、その構造を解析することができる。
F.コンピュータシステム
別の態様によれば、本発明は、solAC、solAC相同体又は類似体、solACとリガンドとの複合体、又はsolAC相同体又は類似体とリガンドとの複合体と、相互作用するリガンドの構造を生成し、及び/又は、最適化を行なうためのコンピュータシステムであって、前記システムがコンピュータ読取可能なデータとして:
(a)表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC座標データであって、solAC触媒ドメインの3次元構造を規定するデータ、或いはその選択座標;
(b)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(d)(b)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ;及び、
(e)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の分子座標データ、或いはその選択座標
のうち1又は2以上を有する、コンピュータシステムを提供する。
別の態様によれば、本発明は、solAC、solAC相同体又は類似体、solACとリガンドとの複合体、又はsolAC相同体又は類似体とリガンドとの複合体と、相互作用するリガンドの構造を生成し、及び/又は、最適化を行なうためのコンピュータシステムであって、前記システムがコンピュータ読取可能なデータとして:
(a)表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC座標データであって、solAC触媒ドメインの3次元構造を規定するデータ、或いはその選択座標;
(b)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(d)(b)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ;及び、
(e)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の分子座標データ、或いはその選択座標
のうち1又は2以上を有する、コンピュータシステムを提供する。
例えば、このコンピュータシステムは:(i)当該コンピュータ読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ記憶媒体;(ii)当該コンピュータ読取可能なデータを処理するための命令を記憶するための作業メモリ;及び(iii)当該作業メモリ及び当該コンピュータ読取可能なデータ記憶媒体に連結され、当該コンピュータ読取可能なデータを処理することにより、構造を生成し、及び/又は、合理的薬物設計を行なうための中央処理装置(central-processing unit)を含んでなる。このコンピュータシステムは更に、当該中央処理装置に連結された、当該構造を表示するためのディスプレイを含んでいてもよい。
また、本発明は、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の原子座標データを含有する、かかるシステムであって、かかるデータが、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を出発データとして、本明細書に記載の本発明の方法によって得られたものである、システムを提供する。
かかるデータは数々の用途に有用である。例としては、アデニル酸シクラーゼタンパク質の作用機序を分析するため、及び/又は、solACと相互作用するリガンド(例えばアデニル酸シクラーゼにより代謝される化合物等)の合理的薬物設計を行なうための構造の生成が挙げられる。
別の態様によれば、本発明は、コンピュータ読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなるコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記データが表1、表2、表3、表4又は表5のsolACタンパク質の構造座標、或いはその選択座標で定義されるか、或いはsolACの相同体であって、その骨格原子の(当該表1、表2、表3、表4又は表5の骨格原子、或いはその選択座標からの)二乗平均平方根偏差が1.5Å未満である相同体によって定義される、記憶媒体を提供する。
更なる態様によれば、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標により定義されるsolACタンパク質の構造的座標の少なくとも一部のフーリエ変換を含んでなる、コンピュータ読取可能な第1のデータ群がコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、コンピュータ読取可能な記憶媒体であって;
前記データを、未知の構造の分子又は分子複合体のX線回折パターンを含んでなる、機械読取可能な第2のデータ群と組み合わせることにより、当該第1のデータ群及び当該第2のデータ群を用いるための命令をプログラムされた機械を用いて、前記の機械読取可能な第2のデータ群に対応する、少なくとも一部の構造座標を決定することが可能な、記憶媒体が提供される。
前記データを、未知の構造の分子又は分子複合体のX線回折パターンを含んでなる、機械読取可能な第2のデータ群と組み合わせることにより、当該第1のデータ群及び当該第2のデータ群を用いるための命令をプログラムされた機械を用いて、前記の機械読取可能な第2のデータ群に対応する、少なくとも一部の構造座標を決定することが可能な、記憶媒体が提供される。
本明細書で使用される「コンピュータ読取可能な媒体(computer readable media)」とは、コンピュータによって直接に読取及びアクセスが可能な、1又は2以上の任意の媒体を指す。かかる媒体としては、これらに限定されるものではないが:磁気記憶媒体、例えばフロッピーディスク(登録商標)、ハードディスク記憶媒体、及び磁気テープ;光学記憶媒体、例えば光ディスク又はCD−ROM;電子的記憶媒体、例えばRAM及びROM;並びにこれらの分類を組み合わせたもの、例えば磁気/光学記憶媒体等が挙げられる。
かかるコンピュータ読取可能な媒体を提供することにより、アデニル酸シクラーゼをモデル化するために、本発明の原子座標データ又はその選択座標に普段から容易にアクセスすることが可能となる。例えば、公に利用可能なコンピュータソフトウェアパッケージであるRASMOL(Sayle et al., TIBS, Vol. 20, (1995), 374)を用いれば、構造決定及び/又は合理的薬物設計のために、原子座標データにアクセスし、これを分析することができる。
「コンピュータシステム(computer system)」とは、本発明の原子座標データを分析するのに使用される、ハードウェア手段、ソフトウェア手段及びデータ記憶手段を指す。本発明のコンピュータを用いたシステムにおける最小限のハードウェア手段は、中央処理装置(CPU)、入力手段、出力手段及びデータ記憶手段を備えてなるものである。また、構造データを可視化するために、モニターを備えることが望ましい。データ記憶手段はRAMであってもよく、本発明のコンピュータ読取可能な媒体にアクセスするための手段であってもよい。かかるシステムの例としては、Silicon Graphics Incorporated社及びSun Microsystems社より入手可能な、UNIX(登録商標)ベース、ウィンドウズ(登録商標)XP(Windows(登録商標) XP)、又はIBM社のOS/2オペレーティングシステムで稼動するマイクロコンピュータワークステーションが挙げられる。
また、本発明は、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC座標、或いはその選択座標を含んでなるコンピュータ読取可能な第1のデータ群がコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ記憶媒体であって;
当該第1のデータ群を、未知の構造の分子又は分子複合体のX線回折パターンを含んでなる機械読取可能な第2のデータ群と組み合わせることにより、当該第1のデータ群及び当該第2のデータ群を使用するための命令をプログラムされた機械を用いて、前記の機械読取可能な第2のデータ群に対応する電子密度の少なくとも一部を決定することが可能な、記憶媒体を提供する。
当該第1のデータ群を、未知の構造の分子又は分子複合体のX線回折パターンを含んでなる機械読取可能な第2のデータ群と組み合わせることにより、当該第1のデータ群及び当該第2のデータ群を使用するための命令をプログラムされた機械を用いて、前記の機械読取可能な第2のデータ群に対応する電子密度の少なくとも一部を決定することが可能な、記憶媒体を提供する。
本発明の更なる態様によれば、solAC、solAC相同体又は類似体、solACとリガンドとの複合体、又はsolAC相同体又は類似体とリガンドとの複合体と相互作用するリガンドの構造を生成し、及び/又は、最適化を行なうためのデータを提供するための方法であって:
(i)(a)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の原子座標、或いはその選択座標のデータであって、solAC触媒ドメインの3次元構造、或いはその選択座標を規定するデータを含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ;
(b)(a)のデータに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼ相同体又は類似体の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5のデータを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、タンパク質の分子座標データ;及び
(d)(a)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ
を有する遠隔装置と、通信を確立する工程;並びに、
(ii)当該遠隔装置から、当該コンピュータ読取可能なデータを受信する工程を含んでなる方法が提供される。
(i)(a)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の原子座標、或いはその選択座標のデータであって、solAC触媒ドメインの3次元構造、或いはその選択座標を規定するデータを含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ;
(b)(a)のデータに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼ相同体又は類似体の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5のデータを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、タンパク質の分子座標データ;及び
(d)(a)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ
を有する遠隔装置と、通信を確立する工程;並びに、
(ii)当該遠隔装置から、当該コンピュータ読取可能なデータを受信する工程を含んでなる方法が提供される。
更なる態様によれば、本発明は、solAC構造又はsolAC−リガンド複合体の3次元表現を作成するためのコンピュータの使用であって、前記solAC構造が、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標であるとともに、当該コンピュータが:
(i)二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標を含んでなる、機械読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、機械読取可能なデータ記憶媒体;及び
(ii)当該機械読取可能なデータを当該3次元表現に加工するための命令を含んでなる、使用を提供する。
(i)二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標を含んでなる、機械読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、機械読取可能なデータ記憶媒体;及び
(ii)当該機械読取可能なデータを当該3次元表現に加工するための命令を含んでなる、使用を提供する。
このコンピュータは更に、当該3次元表現を表示するためのディスプレイを含んでいてもよい。
当該遠隔装置から受信されるコンピュータ読取可能なデータは(特に、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の原子座標データ、或いはその選択座標の形態の場合には)、本明細書に記載の本発明の方法において、例えばsolAC構造を用いたリガンド構造の分析のために使用することができる。
即ち、この遠隔装置が例えば、本発明の上述する態様の何れかに該当する、コンピュータシステム又はコンピュータ読取可能な媒体を含んでいてもよい。この装置は、コンピュータ読取可能なデータが受信される国又は区域とは異なる国又は区域に存在していてもよい。
この通信は、インターネット、イントラネット、eメール等の何れを通じたものであってもよく、或いは有線手段を通じたものでも、無線手段(例えば地上波や衛星波)を通じたものでもよい。この通信は通常、電子的に行なわれるが、通信経路の一部又は全部が光学的に、例えば光ファイバーを通じて行なわれてもよい。
G.本発明の構造の使用
本発明に従って得られる結晶構造、並びに本明細書記載の方法に従って得られる標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の構造は、幾つかの手法で薬剤設計に利用できる。例えば、solAC(例えばsolACのヌクレオチド結合領域)に対して選択的なリガンドの設計は、表1、表2、表3、表4又は表5の座標データ、或いはその選択座標に基づいて行なうことができる。一態様によれば、非環化性(non-cyclizable)ヌクレオチド類似体であるAMPCPPは、多数の異なるアデニル酸シクラーゼのヌクレオチド結合ポケットに結合することが可能である。現在のsolAC触媒ドメインの構造を使用することによって、他のアデニル酸シクラーゼと比べて、遥かに高いsolAC特異性を有する構造の設計が可能となる。
本発明に従って得られる結晶構造、並びに本明細書記載の方法に従って得られる標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の構造は、幾つかの手法で薬剤設計に利用できる。例えば、solAC(例えばsolACのヌクレオチド結合領域)に対して選択的なリガンドの設計は、表1、表2、表3、表4又は表5の座標データ、或いはその選択座標に基づいて行なうことができる。一態様によれば、非環化性(non-cyclizable)ヌクレオチド類似体であるAMPCPPは、多数の異なるアデニル酸シクラーゼのヌクレオチド結合ポケットに結合することが可能である。現在のsolAC触媒ドメインの構造を使用することによって、他のアデニル酸シクラーゼと比べて、遥かに高いsolAC特異性を有する構造の設計が可能となる。
より一般的には、本発明の構造は、solACの調節因子の用意、設計、修飾又は分析に使用することができる。本明細書で使用される限り、solACの「調節因子(modulator)」という語は、solACタンパク質の生物活性レベルに変化(即ち調節)を生じさせるリガンドの意味で使用される。即ち調節とは、solAC活性に上昇又は下降をもたらす生理学的変化を包含する。前者の場合、調節は活性化と言い換かえられ、後者の場合は阻害と言い換えられる。この調節は、リガンドがsolACのATP結合部位に結合する直接の結果として生じてもよく、或いは間接的に(例えばリガンドがsolACの何れかの部位に結合し、これによってsolACの活性や、solACと他のタンパク質との相互作用に影響が生じることにより)生じてもよい。かかる相互作用としては、solAC酵素を特定の細胞小器官(例えばミトコンドリア、中心子、紡錘体、核)に局在化させる、他の遺伝子産物又はタンパク質との相互作用や、solACと効果器分子(例えばPKA)又は酵素活性のレベルとの間に相互作用(例えばアロステリック機構、競合阻害、活性部位の不活性化、フィードバック阻害経路の摂動等により)を生じさせる、他の遺伝子産物又はタンパク質との相互作用が挙げられる。即ち、調節という語は、かかる機序によって引き起こされるsolACの過大又は過小発現(over- or under-expression)、並びに、リガンドがATP結合部位に、或いは重炭酸イオン結合部位に、或いは本明細書で特定する他の何れかの部位に結合することによる活性亢進(又は活性低下)を含意していてもよい。「調節因子(modulator)」、「調節(moudlation)」及び「調節する(modulate)」という語は、solACとの関連で使用される場合、以上に従って解釈すべきである。
例えば、結合ポケット内におけるリガンドの結合の向きに関する情報は、共結晶化、浸漬、又は計算によりリガンドをドッキングさせることにより決定することができる。これに基づいて、リガンドとタンパク質との相互作用を媒介又は制御するべく、化学構造に加える修飾を具体的に設計することが可能となる。かかる修飾の設計は、リガンドとsolACとの相互作用を修飾し、これにより治療作用を改善することを目的として行なうことができる。
即ち、solACの3次元構造の決定によって、solACと相互作用する新規のリガンド(例えば化合物)を設計するための基礎が提供される。例えば、solACの3次元構造が分かれば、コンピュータモデリングプログラムを用いて、予測又は確認された活性部位(例えば結合部位等)との相互作用や、solACのその他の構造的又は機能的な特徴との相互作用が期待される、異なる分子を設計することが可能となる。
(i)結晶複合体の取得及び分析
1つのアプローチによれば、solACに結合するリガンドの構造は、実験により決定することができる。これによって、solACに結合するリガンドの分析における出発点を提供することができ、ひいては、この特定のリガンドがどのようにsolACと相互作用するか、また、例えばそれがどのような機序により、結合ポケットを巡ってATPと競合するのかについて、当業者に具体的な洞察を与えることが可能となる。
1つのアプローチによれば、solACに結合するリガンドの構造は、実験により決定することができる。これによって、solACに結合するリガンドの分析における出発点を提供することができ、ひいては、この特定のリガンドがどのようにsolACと相互作用するか、また、例えばそれがどのような機序により、結合ポケットを巡ってATPと競合するのかについて、当業者に具体的な洞察を与えることが可能となる。
上述した構造に基づく薬剤設計に適用される手法及びアプローチの多くは、リガンド−タンパク質複合体内におけるリガンドの結合位置を特定するために、何らかの段階でX線分析に依存していた。このための方法としては、複合体をX線結晶分析し、差フーリエ電子密度マップ(difference Fourier electron density map)を作成し、特定の電子密度パターンをリガンドと関連付けるという方法が一般的であった。しかしながら、このマップを作成するためには(例えばBlundell等が、Protein Crystallography, Academic Press, New York, London and San Francisco, (1976)において説明するように)、タンパク質の3D構造(或いは少なくともタンパク質結晶の構造因子群)が既知である必要がある。従って、solAC構造を決定することによって、solAC−リガンド複合体の差フーリエ電子密度マップの作成、及び薬剤の結合位置の決定が可能となり、ひいては合理的薬物設計のプロセスに大いに寄与すると考えられる。
従って、本発明は、solACに結合するリガンドの構造を決定する方法であって:
solACタンパク質の結晶を用意する工程;
前記結晶を前記リガンドに浸漬させて複合体を形成させる工程;及び、
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造を決定する工程を含んでなる方法を提供する。
solACタンパク質の結晶を用意する工程;
前記結晶を前記リガンドに浸漬させて複合体を形成させる工程;及び、
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造を決定する工程を含んでなる方法を提供する。
或いは、前記solAC及び触媒ドメインと、リガンドとが共結晶化していてもよい。タンパク質の精製サンプルをある期間に亘って(通常>1時間)、リガンド候補とインキュベートする。続いて、タンパク質リガンド複合体を、結晶化条件に基づいてスクリーニングすればよい。或いは、あるリガンドを含有するタンパク質結晶を、リガンドが存在しない安定化溶液中に入れ、逆浸漬(back-soaked)によってこのリガンドを除去することもできる。続いてこの得られた結晶を、異なるリガンドを含有する第2の溶液に映してもよい。
即ち、本発明は、solACに結合するリガンドの構造を決定する方法であって:
solACタンパク質を前記リガンドと混合する工程;
solACタンパク質−リガンド複合体を結晶化させる工程;及び、
rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造決定する工程を含んでなる方法を提供する。
solACタンパク質を前記リガンドと混合する工程;
solACタンパク質−リガンド複合体を結晶化させる工程;及び、
rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造決定する工程を含んでなる方法を提供する。
複数の化合物の混合物を結晶に浸漬させ、又は結晶と共結晶化させてもよく、この場合、solACと結合すると予測される化合物は、前記複数の化合物のうちの1種又は一部のみであってもよい。この化合物の混合物は、solACに結合することが知られているリガンドを含んでいてもよい。前記複合体の構造に加えて、複合化している1種又は2種以上の化合物の同一性を決定してもよい。
この方法は更に:(a)当該候補リガンドを取得又は合成する工程;(b)solACと当該候補リガンドとの複合体を形成する工程;及び(c)当該複合体をX線結晶学又はNMR分光分析によって分析し、当該候補リガンドがsolACと相互作用する能力を決定する工程を、更に含んでいてもよい。
かかる構造の分析には、(i)前記複合体のX線結晶学的回折データ、(ii)前記複合体の差フーリエ電子密度マップを作成するための、solACの3次元構造(この3次元構造は、表1、表2、表3、表4又は表5の原子座標データ、或いはその選択座標により定義される)、或いは少なくともその選択座標を使用することができる。続いて、この差フーリエ電子密度マップを分析すればよい。
従って、かかる複合体の結晶化及び分析は、X線回折法により、例えばGreer等が開示するアプローチ(J. of Medicinal Chemistry, Vol. 37, (1994), 1035-1054)によって行なうことができる。また、差フーリエ電子密度マップの算出は、浸漬又は共結晶化したsolACのX線回折パターンと、非複合化solACの解明済みの構造のsolACのX線回折パターンに基づいて行なうことができる。続いて、これらのマップを分析することにより、例えば、特定のリガンドがsolACに結合し、及び/又は、solACの立体構造を変化させるか否かと、その位置とを決定することが可能となる。
電子密度マップの算出は、例えばCCP4 computing package(Collaborative Computational Project 4. The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography, Acta Crystallographica, D50, (1994), 760-763.)に含まれるプログラム等を用いて行なうことができる。マップの可視化及びモデル構築には、例えば「O」(Jones et al., Acta Crystallographica, A47, (1991), 110-119)等のプログラムを使用することができる。
更に、本発明によれば、solACの突然変異体を、既知のsolACリガンド又は新規のリガンドとともに、共複合体として結晶化させてもよい。かかる一連の複合体の結晶構造を分子置換によって分析し、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標と比較すればよい。これにより、酵素の様々な結合部位内における修飾候補となる部位を特定することができる。この情報は、solACとリガンドとの間の最も効率的な結合相互作用(例えば疎水性相互作用の上昇)を決定する、補助的なツールとなる。
上述した複合体は何れも、周知のX線回折法を用いて分析することができ、また、1.5から3.5Åの分解能のX線データに対するR値が約0.30以下となるまで精緻化することができる。この精緻化には、コンピュータソフトウェア、例えばCNX(Brunger et al., Current Opinion in Structural Biology, Vol. 8, Issue 5, October 1998, 606-611 参照。また、Accelrys, San Diego, CAより市販)等の使用や、Blundell等(1976)の記載、Methods in Enzymology, vol. 114 & 115, H. W. Wyckoff et al., eds., Academic Press (1985) 等に従い、行なうことができる。
この情報を使用することによって、既知のクラスのsolACリガンドを最適化することが可能になるとともに、より重要な点として、新規のクラスのsolACリガンド(特に阻害剤又は活性剤)を設計及び合成し、更にはsolAC相互作用が改善された薬剤を設計することが可能になる。
(ii)コンピュータ内での(In silico)分析及び設計
本発明は、solACの触媒ドメインと、前記solAC触媒ドメインと相互作用するリガンドとを含んでなる、実際の結晶構造の決定を容易にするものではあるが、現在のコンピュータを用いた手法は、かかる結晶の生成や回折データの作成及び分析に必要となる、強力な代替手段となり得る。即ち、本発明の特に好ましい態様は、本発明のsolAC構造と相互作用するリガンドの分析及び開発を目的とした、コンピュータによる(「コンピュータ内での(In silico)」)方法に関する。
本発明は、solACの触媒ドメインと、前記solAC触媒ドメインと相互作用するリガンドとを含んでなる、実際の結晶構造の決定を容易にするものではあるが、現在のコンピュータを用いた手法は、かかる結晶の生成や回折データの作成及び分析に必要となる、強力な代替手段となり得る。即ち、本発明の特に好ましい態様は、本発明のsolAC構造と相互作用するリガンドの分析及び開発を目的とした、コンピュータによる(「コンピュータ内での(In silico)」)方法に関する。
solAC触媒ドメインの3次元構造の決定は、特に類似の酵素と比較を行なう場合に、solACの結合部位に関する重要な情報を提供する。続いてこの情報を、solACリガンドの合理設計及び修飾に使用することができる。この手法としては、結合部位に対する結合リガンド候補のコンピュータを用いた手法による特定や、薬剤設計に対する結合断片アプローチ(linked-fragment approarches)の可能化、並びに、X線結晶学的分析を用いた結合リガンドの同定及び位置特定の可能化が挙げられる。これらの手法について、以下でより詳細に論じる。
即ち、solAC3次元構造の決定の結果として、より純粋にコンピュータ的な合理的薬物設計の手法を用いて、solACとの相互作用がより理解された構造を設計することができる(これらの手法の概要については、例えばWalters et al (Drug Discovery Today, Vol.3, No.4, (1998), 160-178; Abagyan, R.; Totrov, M. Curr. Opin. Chem. Biol. 2001, 5, 375-382を参照)。例えば、標的受容体の原子座標に関する正確な情報が必要な、自動リガンド受容体ドッキングプログラム(automated ligand-receptor docking programs:例えば、Jones等によるCurrent Opinion in Biotechnology, Vol.6, (1995), 652-656 での議論や、Halperin, I.; Ma, B.; Wolfson, H.; Nussinov, R. Proteins 2002, 47, 409-443を参照)を使用することができる。
本明細書に記載された、コンピュータ内の(in silico)solAC構造を利用する本発明の態様は、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標と、本発明の他の態様で得られる標的アデニル酸シクラーゼタンパク質のモデルとの双方に、等しく適用することができる。従って、上述した方法でsolACの立体構造を決定することにより、かかる立体構造を、本明細書に記載のコンピュータを用いた合理的薬物設計の方法に使用することができる。加えて、solACの構造が利用できれば、仮想ライブラリースクリーニング又はリガンド設計において、予測性に優れたファーマコフォアモデルを作成することが可能となる。
従って、本発明は、リガンドとsolAC構造との相互作用を分析する方法であって:
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標を用意する工程;
当該solAC構造、或いはその選択座標に、適合させるべきリガンドを用意する工程;及び
前記リガンドを当該solAC構造に適合させる工程を含んでなる方法を提供する。
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標を用意する工程;
当該solAC構造、或いはその選択座標に、適合させるべきリガンドを用意する工程;及び
前記リガンドを当該solAC構造に適合させる工程を含んでなる方法を提供する。
この本発明の方法は通常、solACの既知のリガンドの分析、solACのリガンドの開発又は探索、例えばsolACのリガンドの1又は2以上の特性を改善又は修飾するための、solACのリガンドの修飾等に、適用することができる。
この本発明の方法を実施する場合、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標は、本技術分野でそれ自体公知の標準的な手法に従って、コンピュータモデルとして表現することができる。当業者であればかかる方法のために、タンパク質の3次元表現を用意する手段を熟知しているであろう。好適なモデルとしては:(a)ワイヤー・フレーム(wire-frame)モデル;(b)チキン・ワイヤー(chicken-wire)モデル;(c)ボール・アンド・スティック(ball-and-stick)モデル;(d)スペース・フィリング(space-filling)モデル;(e)スティック(stick)モデル;(f)リボン(ribbon)モデル;(g)スネーク(snake)モデル;(h)アロー・アンド・シリンダー(arrow and cylinder)モデル;(i)電子密度マップ(electron density map);又は(j)分子表面モデル(molecular surface model)が挙げられる。
選択座標としては、表6から11の何れか(例えば表6、7又は11)に挙げられているアミノ酸の一部又は全部に由来する、1又は2以上の側鎖又は主鎖の原子が挙げられる。その好ましい要素や、かかる座標の好ましい組合せについては、本明細書に別途記載する通りである。
これに代わる態様によれば、本発明の方法は、推定のリガンド構造の構造が結合するポケットをモデル化するために、推定のリガンド構造の近傍(例えば触媒領域の10〜25Å以内や結合リガンドの5〜10Å以内)に存在する、solACリガンド結合領域内の着目される原子の座標を利用してもよい。これらの座標を用いて定義された空間を、続いて上述に従い、コンピュータ内で(in silico)分析することができる。
実際には、結合ポケットを表わす表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標によって定義されるsolACについて、十分な数の原子を(例えば、表6から11の何れか(例えば表6、7又は11)に規定される残基の原子を)モデル化することが望ましい。各表の好ましい選択座標、或いは2以上の表からの座標の好ましい組合せについては、本明細書で別途説明する通りである。solACとリガンドとの相互作用の結合ポケット及び他の特徴については、添付の実施例で説明する。
solACにより結合される種々のリガンドは何れも、タンパク質の結合ポケットの異なる部分と相互作用している可能性があるが、このsolACの構造によって、solACと薬剤候補との相互作用の多くに関与している可能性が高い特定の部位を、多数同定することが可能となる。こうした残基は表6から11に、例えば表6、7、又は11に挙げられている。従って、本発明のこの態様によれば、選択座標はこれらの残基の一部又は全部の座標を含んでしてもよい。各表の好ましい選択座標、或いは2以上の表からの座標の好ましい組合せについては、本明細書で別途説明する通りである。
本発明のsolAC構造に適合させるべきリガンドの3次元構造を用意するために、この目的のための市販のソフトウェアを用いて、リガンド構造を三次元にモデル化してもよく、その結晶構造が利用できる場合には、その構造の座標を用いて、本発明のsolAC構造に適合させるためのリガンドの表現を用意してもよい。
新たに設計したリガンド構造を合成して、solACとの相互作用を決定してもよく、この新たに設計した構造が当該solAC構造によってどのように結合されるかを予測してもよい。このプロセスを繰り返すことにより、前記リガンドと前記solACとの相互作用を更に変更してもよい。
「適合させる(fitting)」という語は、自動的又は半自動的な手段で、候補分子の1又は2以上の原子と、本発明のsolAC構造の少なくとも1つの原子との間の相互作用を決定し、かかる相互作用がどの程度安定であるかを計算することを意味する。相互作用としては、電荷、立体性、親油性、考慮(considerations)等によって生じる誘引及び反発が挙げられる。この種の電荷及び立体的な相互作用は、コンピュータを用いてモデル化することができる。かかる計算の例としては、力場を介したもの、例えばAmber(Cornell et al. A Second Generation Force Field for the Simulation of Proteins, Nucleic Acids, and Organic Molecules, Journal of the American Chemical Society, (1995), 117(19), 5179-97)が挙げられる。これは、タンパク質及びリガンドの原子を部分的に荷電させ、タンパク質とリガンド原子との静電相互作用エネルギーをクーロンポテンシャル(Coulomb potential)を用いて評価するものである。Amber力場では、ファン・デル・ワールスエネルギー項を割り当てることにより、二つの原子間における誘引及び反発の立体相互作用を評価することもできる。親油性相互作用のモデル化には各種の手段を用いることができる。例えば、ChemScore 関数(Eldridge M D; Murray C W; Auton T R; Paolini G V; Mee R P Empirical scoring functions: I. The development of a fast empirical scoring function to estimate the binding affinity of ligands in receptor complexes, Journal of computer-aided molecular design (1997 Sep), 11(5), 425-45)は、タンパク質及びリガンド原子に疎水性又は極性を割り当て、2つの疎水原子間の相互作用について望ましいエネルギー項を特定するものである。リガンド結合への疎水性の寄与を評価する他の方法を利用することもでき、これらは当業者に公知である。相互作用を評価する他の方法を利用することもでき、これらは分子設計分野の当業者に公知である。コンピュータを用いた適合のための様々な方法について、本明細書において更に説明する。
より具体的に、リガンドと本発明のsolAC構造との相互作用は、ドッキングプログラムを用いたコンピュータモデリングにより調べることが可能である。かかるプログラムとしては、GOLD(Jones et al., J. Mol. Biol., 245, 43-53 (1995), Jones et al., J. Mol. Biol., 267, 727-748 (1997))、GRAMM(Vakser, I.A., Proteins , Suppl., 1:226-230 (1997))、DOCK(Kuntz et al, (1982) J.Mol.Biol., 161, 269-288; Makino et al, (1997) J.Comput.Chem., 18, 1812-1825)、AUTODOCK(Goodsell et al, (1990) Proteins, 8, 195-202, Morris et al, (1998) J.Comput.Chem., 19, 1639-1662.)、FlexX(Rarey et al, (1996) J.Mol.Biol., 261, 470-489)、又はICM(Abagyan et al, (1994) J.Comput.Chem., 15, 488-506)等が挙げられる。この手順は、リガンドの形状及び化学構造solACにどの程度良好に結合するかを確認するべく、コンピュータによってリガンドをsolACに適合させることを含んでいてもよい。
また、solACの活性部位構造の試験を、コンピュータの支援の下、手動で実施してもよい。例えば、様々な官能基を有する分子と酵素表面との間の可能な相互作用部位を決定するプログラムであるGRID(Goodford, (1985) J. Med. Chem., 28, 849-857)を用いて活性部位を分析し、リガンドの代謝速度を変更する修飾の種類を予測してもよい。
コンピュータプログラムを用いて、2つの結合パートナー(即ち、solAC構造及びリガンド)の誘引、反発、及び立体障害を予測してもよい。
2以上のsolAC活性部位ポケットを特定し、それらに対応する複数の、より小型のリガンドを設計又は選択する場合には、これらの小型のリガンドの各々をより大型のリガンドに結合させたリガンドを形成し、各リガンドの活性部位における相対的な位置及び向きが維持されるようにしてもよい。大型のリガンドは、現実の分子として形成してもよく、コンピュータモデリングにより形成してもよい。
こうして、リガンドのsolACに対する結合について、詳細な構造に関する情報を得ることができ、この情報を考慮して、リガンドの構造や官能基に調製を加えることにより、例えばそのsolACとの相互作用を変更することができる。必要に応じ、上述の工程を2度、3度と繰り返してもよい。
別の態様によれば、本発明は、solACの活性を調節するためのリガンドを特定する方法であって:(a)二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5に係る3次元原子座標データ、或いはその選択座標を使用して、少なくとも1のsolAC結合部位、好ましくは複数のsolAC結合部位を特定する工程;(b)候補リガンドの構造を用意する工程;(c)前記候補リガンドを前記1又は複数の結合部位に適合させる工程;並びに(d)前記1又は複数の結合部位に適合する候補リガンドを選択する工程を有する方法を提供する。
一実施形態によれば、複数の候補リガンドについて、結合部位との相互作用に関する選定又は照合を行なう。一例によれば、工程(b)が、候補リガンドの構造を用意する公邸を含んでなるとともに、その各々を工程(c)において適合させることにより、コンピュータにより化合物のデータベース(例えば the Cambridge Structural Database)から結合部位との相互作用に関する選定を行なう。即ち、コンピュータによりリガンドのデータベースから、結合部位との相互作用に関するスクリーニングを行なうことにより、候補リガンドを選択してもよい(Martin, J. Med. Chem., vol 35, 2145-2154 (1992) 参照)。別の例によれば、リガンドの3−D記述子が取得される。この記述子は、例えば、1又は2以上の結合空隙の構成及び化学的性質から誘導される、幾何学的及び機能的制約を含む。この記述子を用いて化合物データベースを照合することにより、特定されたリガンドが記述子の特徴に合致する化合物となる。実際には、この記述子は仮想ファーマコフォアの一種である。
上述したように、本発明のsolAC構造に適合されるリガンドとしては、医薬品候補として開発中の化合物が含まれる。かかる薬剤を適合させることにより、solACの作用がどのようにかかる薬剤を修飾するかを決定することができ、例えばATPと競合的にsolACに結合する、候補リガンドをモデリングする基礎を提供することができる。
本発明に係るリガンド化合物を取得し、特性決定を行なった後、本発明は更に、solACの活性を調節する方法であって:(a)solACがリガンドの不在下でATPと結合し得るような条件の下、solACを用意する工程;(b)リガンド化合物を用意する工程;及び(c)solACがATPと結合する能力が、当該化合物の存在によってどの程度(例えば競合的に)変化するかを決定する工程を含んでなる方法を提供する。
(iii)リガンドの分析及び修飾
あるリガンドが、solACの作用を調節することが知られている場合、或いは調節するとの可能性がある場合、リガンドと相互作用するsolACの残基をより良好に決定するために、前記リガンドの構造をモデル化してもよい。また、本発明は、solACリガンドとして機能する更なるリガンドを予測するプロセスであって:
当該リガンドをsolAC触媒ドメインの3次元構造(この3次元構造は、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標により定義される)、或いはその選択座標に適合させる工程;
当該リガンドがどのように当該触媒ドメインに結合するかを決定又は予測する工程;及び
リガンド構造の触媒ドメインとの相互作用を増加又は提言させるように、リガンド構造を修飾する工程を含んでなる方法を提供する。
あるリガンドが、solACの作用を調節することが知られている場合、或いは調節するとの可能性がある場合、リガンドと相互作用するsolACの残基をより良好に決定するために、前記リガンドの構造をモデル化してもよい。また、本発明は、solACリガンドとして機能する更なるリガンドを予測するプロセスであって:
当該リガンドをsolAC触媒ドメインの3次元構造(この3次元構造は、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標により定義される)、或いはその選択座標に適合させる工程;
当該リガンドがどのように当該触媒ドメインに結合するかを決定又は予測する工程;及び
リガンド構造の触媒ドメインとの相互作用を増加又は提言させるように、リガンド構造を修飾する工程を含んでなる方法を提供する。
通常、リガンドの修飾は、出発リガンドに比べてより有効なリガンド、或いは、より医薬的に許容し得るリガンドを作製する目的で行なわれる。
当業者には当然であるが、構造の修飾は通常コンピュータ内で(in silico)行なわれ、これによって、修飾した構造がsolACとどのように相互作用するかを予測することが可能となる。
Greer等(Greer et al. (1994), J. of Medicinal Chemistry, 37, 1035-1054)は、コンピュータモデリングの繰り返し配列、タンパク質リガンド複合体形成、X線結晶学又はNMR分光分析に基づく、リガンド設計のための反復的アプローチについて記載している。即ち、新規のチミジル酸生成酵素阻害剤群がGreer等によって新たに(de novo)設計されており、solACリガンドについてもこの手法で設計又は修飾することができる。より具体的には、例えばsolACの解析された構造に対するGRIDを用いて、solAC結合部位の官能性を補完するようなsolACのリガンドを設計することができる。或いは、solAC結合部位の官能性をより良好に、或いは不十分に補完するように、solACのリガンドを修飾してもよい。続いて、このリガンドを合成し、solACとの複合体を形成させた後、この複合体をX線結晶学で分析し、結合したリガンドの実際の位置を同定する。続いて必要であれば、X線分析の結果を考慮して、リガンドの構造及び/又は官能基を調節し、最適化されたリガンドが得られるまで、配列の合成及び分析を繰り返す。構造に基づく薬剤設計に対する関連アプローチは、Bohacek等 (1996) Medicinal Research Reviews, 16, 3-50 にも論じられている。構造に基づく薬剤設計を用いて、別のsolAC特性に対するリガンドを設計する場合には、第2の標的タンパク質に対する高親和性の必要性を考慮してもよい。Gschwend等(Gschwend et al. (1999),.Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 9, 307-312)及びBayley等(Bayley et al. (1997) Proteins: Structure, Function and Genetics, 29, 29-67)は、構造に基づく薬剤設計を用いて、標的タンパク質に対する親和性を維持しつつ、あるタンパク質に対する親和性を低減するアプローチについて記載している。
修飾は本技術分野では従来から、薬化学者には知られており、例えば、本発明のsolAC構造のアミノ酸側鎖基と相互作用する残基を含む基の置換又は除去が挙げられる。例えば、置換としては、試験化合物における基の電荷を減少又は増加させるための基の付加又は除去、試験化合物における基のサイズを増加又は減少させるための基の置換、反対の電荷を有する基による荷電基の置換、又は、疎水性基の親水性基による置換、若しくはその逆の置換が挙げられる。当然のことながらこれらは、新規の医薬化合物の開発に携わる薬化学者が考慮する置換の種類を例示したに過ぎず、出発化合物の性質及びその活性に基づいて、他の修飾を加えることも可能である。
出発リガンドを本発明のsolAC構造に適合させ、この修飾リガンドから予測を行なうことにより、修飾リガンドの候補を開発した場合、本発明は更に、修飾リガンドを合成する工程、及び、そのsolACのリガンドとしての活性及び/又は有効性を決定するべく、それをインビボ又はインビトロの生物系で試験する工程を含んでなる。
修飾リガンド自体を更なるリガンド設計の基礎として、上述の本発明のプロセスを反復して行なうこともできる。また、上述の本発明のプロセスを用いて、solAC結合ポケット内においてと相互作用する第2のリガンドを修飾することもできる。
(iv)結合ポケット領域内のリガンドの分析
一実施形態によれば、本発明は、リガンドの構造を修飾するための方法であって:
当該リガンドをsolAC触媒ドメインの3次元構造(この3次元構造は、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標によって定義される)、或いはその選択座標に適合させる工程;及び
前記リガンド構造の前記触媒ドメインとの相互作用を増加又は低減させるよう、前記リガンド構造を修飾する工程を含んでなり、
当該適合が、表6から11の何れか、例えば表6、7、又は11に記載のアミノ酸残基の少なくとも1の座標を含むものとして定義される、リガンド結合領域に対して行なわれる、方法を提供する。各表の好ましい選択座標、又は2以上の表からの好ましい組み合わせについては、本明細書に別途記載する通りである。通常、リガンドの修飾は、その阻害効力やその医薬としての許容性を向上させる目的で行なわれる。
一実施形態によれば、本発明は、リガンドの構造を修飾するための方法であって:
当該リガンドをsolAC触媒ドメインの3次元構造(この3次元構造は、rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標によって定義される)、或いはその選択座標に適合させる工程;及び
前記リガンド構造の前記触媒ドメインとの相互作用を増加又は低減させるよう、前記リガンド構造を修飾する工程を含んでなり、
当該適合が、表6から11の何れか、例えば表6、7、又は11に記載のアミノ酸残基の少なくとも1の座標を含むものとして定義される、リガンド結合領域に対して行なわれる、方法を提供する。各表の好ましい選択座標、又は2以上の表からの好ましい組み合わせについては、本明細書に別途記載する通りである。通常、リガンドの修飾は、その阻害効力やその医薬としての許容性を向上させる目的で行なわれる。
誤解を避けるために言えば、「修飾する(modifying)」という語は、先の各節で定義した意味で使用される。一旦かかるリガンドが開発された後は、それを上述のように合成及び試験してもよい。
(vi)断片連結及び成長(Fragment linking and growing)
また、本発明の結晶構造の供給によれば、断片連結(fragment linking)又は断片成長(fragment growing)アプローチに基づく、solAC触媒ドメインの結合ポケット領域と相互作用するリガンド(例えば、特にsolACの阻害剤又は活性剤として機能するリガンド)の開発も可能となる。
また、本発明の結晶構造の供給によれば、断片連結(fragment linking)又は断片成長(fragment growing)アプローチに基づく、solAC触媒ドメインの結合ポケット領域と相互作用するリガンド(例えば、特にsolACの阻害剤又は活性剤として機能するリガンド)の開発も可能となる。
例えば、タンパク質結合ポケットにおける、1又は2以上のリガンド断片の結合を、X線結晶学により決定することができる。リガンド断片は通常、分子量が100から200Daの範囲内の化合物である(Carr et al, (2002) Drug Discov Today. May 1;7(9):522-7)。これらは続いて、医薬品化学における、構造に基づくアプローチを用いて相互作用を最適化するための出発点となる。これらの断片は、テンプレートに結合させてもよく、或いは、タンパク質の他のポケット内にリガンドを「成長(growing out)」させるための出発点として使用することができる(Blundell et al; Nat Rev Drug Discov. (2002) Jan;1(1):45-54)。これらの断片をsolACの結合ポケット内に配置してから「成長(grown)」させ、利用可能な空間を満たすことにより、分子認識に関与する静電、ファン・デル・ワールス又は水素結合による相互作用を探索することもできる。従って、結合力が弱い元の断片の効力を、構造に基づく反復化学合成を用いて、速やかに改善することが可能となる。
断片成長アプローチにおける1又は2以上の段階において、そのリガンドを合成し、その活性について生物系で試験してもよい。その結果を用いることで、更なる断片の成長の指針とすることができる。
2つの断片結合領域が同定された場合は、結合断片アプローチ(linked fragment approach)は、所望の特性を有し得るより大きな結合構造を得るべく、2つの断片を直接結合させるか、或いは上述した手法によって、断片の一方又は双方を成長させる試みに基づいて行なってもよい。
結合断片アプローチを用いて、例えば、ATP結合部位及び重炭酸イオン結合部位を占有するリガンドの設計を行なってもよい。両部位を少なくとも部分的に占有するこのようなリガンドは、ATP結合部位のみを占有するリガンドと比べて、solACの選択性により優れている可能性がある。
2以上のリガンドが結合する部位が決定された場合には、それらを結合させてリード化合物の候補を作成し、例えばGreer等の反復法を用いてそれを更に精緻化することも可能である。仮想結合断片アプローチについては、Verlinde等(Verlinde et al. (1992) J. of Computer-Aided Molecular Design, 6, 131-147)を参照のこと。また、NMR及びX線アプローチについては、Shuker等(Shuker et al. (1996) Science, 274, 1531-1534)及びStout等(Stout et al. (1998) Structure, 6, 839-848)を参照のこと。solAC構造の決定によって、これらのアプローチを用いたsolACリガンドの設計が可能となる。
(vii)本発明の化合物
本発明の方法に従って、本発明のsolAC触媒ドメイン構造のリガンド候補が同定されたら、本発明は更に、同定されたリガンドを合成する工程と、その活性及び/又はその有効性を決定するべく、インビボ又はインビトロの生物系で試験する工程とを更に含んでなる。
本発明の方法に従って、本発明のsolAC触媒ドメイン構造のリガンド候補が同定されたら、本発明は更に、同定されたリガンドを合成する工程と、その活性及び/又はその有効性を決定するべく、インビボ又はインビトロの生物系で試験する工程とを更に含んでなる。
本発明のこの態様は:
リガンドを合成又は取得する工程;及び
この候補リガンドをsolACと接触させ、候補リガンドがsolACと相互作用する能力を決定する工程を更に含んでなることが好ましい。
リガンドを合成又は取得する工程;及び
この候補リガンドをsolACと接触させ、候補リガンドがsolACと相互作用する能力を決定する工程を更に含んでなることが好ましい。
例えば、上述の接触工程において、基質(通常はATP)の存在下、及び一般的にはバッファーの存在下で、候補リガンドをsolACと接触させ、当該候補リガンドがsolACと結合する(例えばこれを阻害する)能力を決定する。かかる方法の1つとしては、HTRFを用いた免疫アッセイが挙げられる。これは、solACによって産生されたcAMPと、XL−665−標識cAMPとを、Euクリプテートで標識した抗cAMP抗体に競合的に結合させるものである(http://www.htrf-assays.com; Gabriel D, Vernier M, Pfeifer MJ, Dasen B, Tenaillon L, Bouhelal R. (2003) Assay & Drug Dev. Technol.; 2: 291-303)。即ち、例えば、候補リガンド、基質及びバッファーを含んでなる、solAC用アッセイ混合物を作製すればよい。
特に後者の工程では、候補リガンドの機能が決定される条件下で、候補リガンドをsolACと接触させることがより好ましい。
以上の代わりに、又は以上に加えて、この方法は:
リガンドを取得又は合成する工程;
solACタンパク質又はその触媒ドメインと当該リガンドとの複合体を形成する工程;及び
当該複合体をX線結晶学で分析し、当該リガンドがsolAC又はその触媒ドメインと相互作用する能力を決定する工程を更に含んでいてもよい。
リガンドを取得又は合成する工程;
solACタンパク質又はその触媒ドメインと当該リガンドとの複合体を形成する工程;及び
当該複合体をX線結晶学で分析し、当該リガンドがsolAC又はその触媒ドメインと相互作用する能力を決定する工程を更に含んでいてもよい。
これらの工程を使用して、本発明の構造に適合可能なリガンドを反復プロセスにより同定すれば、更なるリガンドを設計することが可能となる。
例えば、上述の接触工程において、基質(通常はATP)の存在下、及び一般的にはバッファーの存在下で、候補リガンドをsolACと接触させ、当該候補リガンドがsolACと結合する(例えばこれを阻害する)能力を決定する。即ち、例えば、候補リガンド、基質及びバッファーを含んでなる、solAC用アッセイ混合物を作製すればよい。
別の態様によれば、本発明は、本明細書に記載の本発明の方法により同定されたsolACリガンドである、化合物を包含する。
かかる化合物を同定したら、その化合物を製造し、及び/又は、例えば医薬品、医薬組成物又は薬物等の組成物の調製(即ち製造又は製剤)に使用することができる。これらを個体に投与してもよい。
即ち、本発明の種々の態様は、本発明により提供される化合物のみならず、かかる化合物を含んでなる医薬組成物、医薬品、薬剤、又は他の組成物にも及ぶものとする。これらの組成物は、例えばガン、炎症、骨粗鬆症、糖尿病、緑内障、又は不妊等の疾病の処置(予防的処置を含んでいてもよい)に使用することができる。これらの組成物はまた、例えば精子運動能又は受精を阻害することにより、避妊法に用いてもよい。
本明細書において、疾病や病状の処置の文脈で使用される「処置(treatment)」という語は通常、ヒトか動物か(例えば獣医学用途)を問わず、何らかの所望の治療効果が達成されるような処置及び治療に関する。かかる治療効果としては例えば病状の進行の抑制等が挙げられ、進行速度の低減や、進行速度の停止、病状の寛解、疾病や病状の治癒等も含まれる。また、予防的手段としての処置(即ち予防法(prophylaxis))も含まれる。
本明細書で使用される「治療的に有効な量(therapeutically-effective amount)」という語は、活性化合物の量、或いは活性化合物を含有する物質、組成物又は投与製剤の量であって、所望の処置計画に従って投与された場合に、妥当なリスク対効果比(benefit/risk ratio)に見合った、何らかの所望の治療効果を生じさせるのに有効な量を指す。
「処置(treatment)」という語は、複数の処置及び治療の組合せを含む。この場合、これら2以上の処置又は治療は、例えば連続的に、或いは同時に行なわれる。
本発明の化合物、或いは本発明に従って得られた化合物には、solAC活性の阻害剤である化合物が含まれる。よってこれらは、精子運動能及び運動過剰、受精能獲得及びアクロソーム反応を予防し、及び/又は、可能にする手段を提供する上で、有用であると期待される。従って、男性におけるある形態の不妊又は生殖不能を処置し、及び/又は、卵母細胞の受精とそれに続く妊娠を予防する上で、これらの化合物は有用であると期待される。
処置の対象となり得るガンの例としては、これらに限定されるものではないが、癌腫、例えば膀胱、乳、結腸(例えば結腸直腸癌、例えば結腸直腸腺癌及び結腸腺癌)、腎臓、表皮、肝臓、肺、例えば腺癌、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、例えば外分泌膵臓癌、胃、子宮頚、甲状腺、前立腺、又は皮膚、例えば扁平細胞癌;リンパ性造血系腫瘍、例えば白血病、急性リンパ性白血病、B−細胞リンパ腫、T−細胞リンパ腫、ホジキン(Hodgkin)リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、毛様細胞リンパ腫、又はバーケット(Burkett)リンパ腫;骨髄細胞系列の造血系腫瘍、例えば急性及び慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、又は前骨髄球性白血病;多発性骨髄腫;濾胞性甲状腺癌;間葉起源の腫瘍、例えば線維肉腫又は横紋筋肉腫;中枢又は末梢神経系の腫瘍、例えば星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫又は神経鞘腫;黒色腫;精上皮腫;奇形癌;骨肉腫;色素性乾皮症;角結膜種(keratoctanthoma);又はカポジ肉腫が挙げられる。
solACの阻害によって寛解され得る炎症性疾患又は病状の例としては、これらに限定されるものではないが、リウマチ様関節炎、変形性関節炎、リウマチ様脊椎炎、痛風性関節炎、外傷性関節炎、風疹性関節炎、乾癬性関節炎、及び他の関節炎症状;アルツハイマー病;毒素性ショック症候群、内毒素により誘発される炎症反応、又は炎症性腸疾患; 結核、粥状硬化、筋変性、ライター症候群、痛風、急性滑膜炎、敗血症、敗血症ショック、内毒素ショック、グラム陰性敗血症、成人呼吸窮迫症候群、脳マラリア、慢性肺炎症性疾患、珪肺症、肺サルコイドーシス、骨吸収病、再灌流傷害、移植片対宿主反応、同種移植片拒絶、感染による発熱及び筋肉痛、例えばインフルエンザ、悪液質、特に感染又は悪性病変に続発する悪液質、後天性免疫不全症候群(AIDS)に続発する悪液質、AIDS、ARC(AIDS関連症候群)、ケロイド形成、瘢痕組織形成、クローン病、潰瘍性大腸炎、胸焼け、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、喘息、肺線維症、及び細菌性肺炎が挙げられる。
特に興味深いのは、炎症性疾患及び病状、リウマチ様関節炎及び変形性関節炎の処置又は予防に使用できる化合物である。
即ち、本発明は、上述した病状の処置を提供する。ここで、当該処置は、本発明に従って得られた化合物を含んでなる組成物を、例えば疾病の処置のために患者へ投与すること;例えば疾病の処置用に投与される組成物の製造における化合物(例えばsolAC阻害剤)の使用;並びに、医薬組成物を製造する方法であって、かかる化合物を、医薬的に許容し得る賦形剤、ビヒクル又は担体、及び、任意により他の成分と混和する工程を含む方法を含んでいてもよい。
即ち、本発明の更なる態様は、医薬品、医薬組成物又は薬物を調製する方法であって:(a)本明細書に記載された本発明の別の態様のうち何れかの方法により、化合物を特定又は修飾する工程;(b)化合物の構造を最適化する工程;及び(c)前記最適化された化合物を含有する医薬品、医薬組成物又は薬物を調製する工程を含んでなる方法を提供する。
修飾された化合物自体を他の化合物設計の基礎として、本発明の上述のプロセスを反復してもよい。
「構造を最適化する(optimising the structure)」という語は、例えば、分子の足場の追加、官能基の追加若しくは変更、又は、(例えば、断片連結アプローチを用いた)他の分子への分子の連結であって、リガンド分子の化学構造を変化する一方、その本来の調節済みの官能性を維持又は強化するようなものをいう。かかる最適化は、薬剤開発プログラムにおいては定常的に、例えばリード化合物の効力の強化、医薬的許容性の改善、化学安定性の増加等を目的として行なわれている。
修飾には、薬化学の当業者に公知の従来法を用いればよい。例としては、本発明のsolAC構造のアミノ酸側鎖基と相互作用し得る残基を有する基の置換又は除去が挙げられる。置換としては、例えば、試験化合物中の基の電荷を上昇又は下降させるための基の付加又は除去、反対の電荷を有する基による荷電基の置換、或いは、親水性基による疎水性基の置換(又はその逆)が挙げられる。当然のことながら、これらは、新規の医薬化合物の開発に携わる薬化学者が考慮する置換の種類の例に過ぎず、出発化合物の性質やその活性に応じて、他の修飾を加えてもよい。
組成物の製剤は、任意の好適な投与経路及び手段に応じて行なえばよい。医薬的に許容し得る担体又は希釈剤としては、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔及び舌下を含む)、膣内又は非経口(例えば皮下、筋肉内、静脈内、皮内、くも膜下及び硬膜外)投与に適した製剤に使用されるものが挙げられる。製剤は単位投薬形態とすることが便宜上好ましい。かかる形態は、製薬分野で周知の方法の何れかにより調製することができる。
個体組成物の場合、従来の毒性のない個体担体としては、例えば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、セルロース、セルロ誘導体、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、滑石、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を使用することができる。医薬的に投与可能な液体組成物は、例えば、上に定義した活性化合物を、任意により医薬アジュバントとともに、例えば水、食塩水、ブドウ糖水溶液、グリセロール、エタノール等の担体中に溶解又は分散等させ、溶液又は分散液とすることにより調製される。所望であれば、投与用の医薬組成物は更に、毒性のない補助物質等を少量含有していてもよい。例としては、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤等、例えば、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン等が挙げられる。かかる投薬形態を実際に調製する方法は、本技術分野の当業者には公知であり、又は明らかである。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy”, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと。
本発明を以下の実施例により説明する。
solACの三次元(3級)構造の決定に利用可能なポリペプチド(又はタンパク質)を得るためには、総遺伝子合成又はクローニングによって、solACをコード化するDNAを取得すればよい。続いて、このDNAを好適な発現系で発現させ、得られたポリペプチドを、三次元構造を決定するための手法に供すればよい。
solACのクローニング、発現及び精製の概要
構造研究用のsolACの発現及び精製を行なうべく、幾つかの異なるコンストラクトを作成し、大腸菌(E. Coli)及び昆虫細胞の双方での発現に供した。以下に続く詳細な実施例では、好ましいコンストラクト(2056)の発現について説明する。このコンストラクトの発現及び回収のための条件は、多数のコンストラクトや発現及び精製条件を徹底的に研究した末に到達したものである。
構造研究用のsolACの発現及び精製を行なうべく、幾つかの異なるコンストラクトを作成し、大腸菌(E. Coli)及び昆虫細胞の双方での発現に供した。以下に続く詳細な実施例では、好ましいコンストラクト(2056)の発現について説明する。このコンストラクトの発現及び回収のための条件は、多数のコンストラクトや発現及び精製条件を徹底的に研究した末に到達したものである。
コンストラクトは、残基1と469との間に、solACタンパク質の全部又は一部を含有すると共に、N末端又はC末端タグを含有する。C末端タグとしては、タバコエッチウイルス(tobacco etch virus:TEV)プロテアーゼ開裂性GST、又は、TEV開裂性His6タグのいずれかを用いた。一部のコンストラクトについては更に、C末端にHis6タグを用いた。分析を行なったコンストラクトを下記表14に記す。
コンストラクト1〜8はバキュロウイルス発現系での発現に供し、9〜15は大腸菌(E. Coli)における発現に供した。
大腸菌(E. Coli)コンストラクト
コンストラクトは何れも、温度を30から37℃の間に維持しながら誘導することにより、封入体として発現されたものである。可溶性発現を達成するべく、誘導時に温度を15℃まで下げたところ、ある程度の可溶性発現が得られたが、抗SAC抗体を用いたウエスタンブロット分析の観察によれば、全てのコンストラクトに重度のタンパク質分解がみられた。コンストラクト2033の封入体調製は、BiegerによるT・ブルーセイ(T. brucei)ACプロトコル(Bieger, B. and Essen, L-O. (2000) Acta Cryst. D56, 359-362)を出発点として実施した。
コンストラクトは何れも、温度を30から37℃の間に維持しながら誘導することにより、封入体として発現されたものである。可溶性発現を達成するべく、誘導時に温度を15℃まで下げたところ、ある程度の可溶性発現が得られたが、抗SAC抗体を用いたウエスタンブロット分析の観察によれば、全てのコンストラクトに重度のタンパク質分解がみられた。コンストラクト2033の封入体調製は、BiegerによるT・ブルーセイ(T. brucei)ACプロトコル(Bieger, B. and Essen, L-O. (2000) Acta Cryst. D56, 359-362)を出発点として実施した。
要約すると、細胞(主にコンストラクト2033)を懸濁させ、超音波処理で溶解し、遠心分離で浄化した。封入体ペレットを再懸濁させ、よく洗浄した後に、6M GuHCl又は8M 尿素に再可溶化した。使用したバッファーの主成分は、トリスHCl pH8.0、HEPES、pH8.0、又はPBS、pH7.6。洗浄の一部では、界面活性剤としてTriton 100 を使用した。(Ni−NTA及び非ニッケル)固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)樹脂TALON(登録商標)(Clontech, Mountain View, CA)カラムを変性条件下で使用し、着目するタンパク質を捕捉した。変性可溶化タンパク質を、10mM NaH2PO4/Na2HPO4 pH7.6、0.3M NaCl、0.4M アルギニン、10%グリセロールを用いて2時間透析したところ、大部分の混入物質が溶液中に残存したまま、着目するタンパク質が溶液から出現した。再可溶化solACタンパク質を条件数8×96のリフォールディングスクリーン内で使用した。活性タンパク質をリフォールディングする一分の条件が同定された。例えば、50mM HEPES pH7.2、0.5M アルギニン、0.3M NaCl、5mM BME、及び10%グリセロール等が挙げられる。こうして得られたリフォールディング済み活性タンパク質を、Ni−NTAカラムに通して更に精製した。タンパク質の収率は低かったので、その後の試験は昆虫細胞での発現のみに絞った。
バキュロウイルスコンストラクト
研究は主に文献に記載されたコンストラクトに絞って行なった。これらはアッセイにおいて、活性を有し、且つコンピテントであることが示されているからである。しかしながら、文献においては発現収率が低く、精製の先例もないという点に大きな懸念があった。solACコンストラクトをSf9及びHigh Five(登録商標)細胞中で発現させたところ、後者において良好であることが示された。
研究は主に文献に記載されたコンストラクトに絞って行なった。これらはアッセイにおいて、活性を有し、且つコンピテントであることが示されているからである。しかしながら、文献においては発現収率が低く、精製の先例もないという点に大きな懸念があった。solACコンストラクトをSf9及びHigh Five(登録商標)細胞中で発現させたところ、後者において良好であることが示された。
N末端にGSTタグを付したsolACコンストラクト(2022)は、GSTとsolACドメインとの間のリンカーに、遺伝子操作によりTEV切断部位を有する。細胞をまずPBS、10%グリセロール、2mM BMEに懸濁させ、氷上、超音波処理で溶解し、遠心分離で浄化した。上清を遠心分離で再浄化したところ、試験管に貯留後数分で半透明/不透明になった。このペレットをSDS PAGE及びウエスタンブロットで分析したところ、無傷及びタンパク分解切断性sACが沈殿のかなりの割合を占めていることが分かった。様々なバッファーを、4℃及び室温(約20℃)という2通りの温度で調べ、溶解物を安定化させる方策を探った。これらのバッファーを下記の表15に示す。
何れのバッファーについても、~2gの細胞を各々のバッファー5mlに分散させ、凍結融解サイクルに供して破裂させた。この懸濁液が「濁る(cloud)」、又は沈殿する性向を有することが確認された。最も良好な結果が得られたのは、pHが7.5から8.5の間であり、温度を4℃に維持し、0.3M又は0.5M NaClが存在する場合であった。界面活性剤は悪影響を及ぼすことが分かった。PBSとの分離実験により、このバッファーには安定性に関する課題があることが示唆された。
最適条件は、50mM トリス pH7.5(4℃で測定);0.3M NaCl 10%グリセロール;及び2〜5mM BMEであった。
コンストラクト2056はC末端にヘキサヒスチジンタグを有するため、Ni−NTA樹脂を用いれば、タンパク質を捕捉することができる。TALON(登録商標)カラムを使用しても、捕捉性は向上しない。バッファーの選択によって、溶解物の安定性を顕著に向上させることができたものの、流速を低くして樹脂との十分な接触時間を確保する必要があり、これが依然として難点であったため、DEAEカラムを用いた前洗浄(pre-cleanup)工程を実施することにした。このために、細胞を塩濃度の極めて低いバッファーに懸濁させ、溶解させ、浄化して、DEAEカラムに通した。標的タンパク質のマトリックスへの結合が弱いために、溶解物の伝導度は極めて低い値に維持しなければならなかった。これを怠ったため、捕捉量はごく僅かであった。溶出は2段階の勾配をかけて行ない、コンストラクト2022及び2056の何れも第1の段階で溶出された。混入物質の多くは易沈殿性であり、カラムに吸着されなかった。画分をプールして、NaCl濃度を300mMに調節した後、Ni−NTAカラム又はグルタチオンセファロース4bカラムの何れかに通した。この工程を追加することで、その後の工程を低流速で行なっても、酵素の回収率を高くすることができた。後に本発明者等は、細胞を高塩濃度バッファーで溶解させた後、浄化の直後にバッチを高流速でNi−NTA樹脂に結合させた。
solAC−2056含有画分からイミダゾールを除去することが、タンパク質回収を首尾よく行なうための鍵となる要素であった。Ni−NTA溶出の再現性を確立した後、タンパク質プールのバッファーを50mM トリス pH7.5(4℃)、30mM NaCl、10% グリセロール、及び1mM BMEに変更した上で、resource Q カラムに導入した。低塩濃度下でのタンパク質滞留時間は最短となるよう維持した。タンパク質の収率に最も大きな損失が生じたのがこの工程であり、最大50%のタンパク質が損なわれたからである。resource Q 工程は良好に完了したが、この工程におけるバッファーのpH及び伝導度は極めて重要であることが分かった。これらのパラメーターの何れかを変更した場合、タンパク質が結合できず、ゲルの精製プロファイルには改善が見られなかった。精製の最終工程では、タンパク質を、本発明者等が見出した最も安定なバッファー、即ち50mM トリス pH7.5(4℃)、330mM NaCl、10%グリセロール、1mM BMEに移送した。
タンパク質を濃縮したところ、40mg/mlを超えても凝集の徴候は見られなかったが、10mg/mlにおいて結晶化が始まった。
驚くべきことに、コンストラクト2022と2056との類似性にもかかわらず(TEV切断後の2022は、数個のアミノ酸残基をN末端に有する点と、His6タグがC末端に存在しない点のみが異なる)、2022は5mg/ml以上の濃度でオリゴマー化したのに対して、2056は40mg/mlまで単量体のままであった。
クローニング、solACの発現及び精製−2056
全長solACをコード化する発現ベクターpCDNA3.1(ヌクレオチドNM 018417 SwissProt)を、PCR増幅用のテンプレートとして用いた。
全長solACをコード化する発現ベクターpCDNA3.1(ヌクレオチドNM 018417 SwissProt)を、PCR増幅用のテンプレートとして用いた。
solAC−2056のクローニング
コンストラクトM1−V469をPCRにより増幅した。
コンストラクトM1−V469をPCRにより増幅した。
5’プライマー:
5’GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCCATGAACACTCCAAAAGAAGAATTCCAGGACTGG3’(配列番号1)
attB1認識配列と、塩基1〜11に対応する配列を有する。
5’GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCCATGAACACTCCAAAAGAAGAATTCCAGGACTGG3’(配列番号1)
attB1認識配列と、塩基1〜11に対応する配列を有する。
3’プライマー:
5’GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTCAGTGGTGGTGGTGGTGGTGGACTTTCTCAGTACGGCCC3’(配列番号2)
塩基463〜469に対応する配列、6hisC末端タグ、停止コドン、及びattB2認識部位を導入されている。
5’GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTCAGTGGTGGTGGTGGTGGTGGACTTTCTCAGTACGGCCC3’(配列番号2)
塩基463〜469に対応する配列、6hisC末端タグ、停止コドン、及びattB2認識部位を導入されている。
PCR反応試薬:10μl Thermopol バッファー 10×、2μl dNTP混合液、1μl DNAテンプレート、1μl 5’プライマー、1μl 3’プライマー、1μl Vent。H2Oを加えて反応液を100μlとした。
PCRサイクリング:94℃で30秒、55℃で1分、72℃で3分のサイクルを25サイクル、その後更に72℃で10分。
Gateway(登録商標)cloning technique のBP反応を用いて、1407−bp断片を、導入ベクターであるpDONRに組み換え導入した。
生成物のアリコットをDH5αコンピテント細胞に形質転換した。カナマイシン選択プレート上で生育させた細菌からプラスミドを抽出した。配列をDNAシークエンシングで確認した後、クローンを目的ベクターであるpDEST8に、Gateway(登録商標)cloning technique のLR反応により移送した。生成物のアリコットをDH5αコンピテント細胞に形質転換した。カルベニシリン選択プレート上で生育させた細菌からプラスミドを抽出した。配列をDNAシークエンシングで確認した後、タンパク質の発現を開始した。
solAC−2056のタンパク質配列は以下の通りである。
MNTPKEEFQDWPIVRIAAHLPDLIVYGHFSPERPFMDYFDGVLMFVDISGFTAMTEKFSSAMYMDRGAEQLVEILNYHISAIVEKVLIFGGDILKFAGDALLALWRVERKQLKNIITVVIKCSLEIHGLFETQEWEEGLDIRVKIGLAAGHISMLVFGDETHSHFLVIGQAVDDVRLAQNMAQMNDVILSPNCWQLCDRSMIEIESVPDQRAVKVNFLKPPPNFNFDEFFTKCTTFMHYYPSGEHKNLLRLACTLKPDPELEMSLQKYVMESILKQIDNKQLQGYLSELRPVTIVFVNLMFEDQDKAEEIGPAIQDAYMHITSVLKIFQGQINKVFMFDKGCSFLCVFGFPGEKVPDELTHALECAMDIFDFCSQVHKIQTVSIGVASGIVFCGIVGHTVRHEYTVIGQKVNLAARMMMYYPGIVTCDSVTYNGSNLPAYFFKELPKKVMKGVADSGPLYQYWGRTEKVHHHHHH(配列番号3)
MNTPKEEFQDWPIVRIAAHLPDLIVYGHFSPERPFMDYFDGVLMFVDISGFTAMTEKFSSAMYMDRGAEQLVEILNYHISAIVEKVLIFGGDILKFAGDALLALWRVERKQLKNIITVVIKCSLEIHGLFETQEWEEGLDIRVKIGLAAGHISMLVFGDETHSHFLVIGQAVDDVRLAQNMAQMNDVILSPNCWQLCDRSMIEIESVPDQRAVKVNFLKPPPNFNFDEFFTKCTTFMHYYPSGEHKNLLRLACTLKPDPELEMSLQKYVMESILKQIDNKQLQGYLSELRPVTIVFVNLMFEDQDKAEEIGPAIQDAYMHITSVLKIFQGQINKVFMFDKGCSFLCVFGFPGEKVPDELTHALECAMDIFDFCSQVHKIQTVSIGVASGIVFCGIVGHTVRHEYTVIGQKVNLAARMMMYYPGIVTCDSVTYNGSNLPAYFFKELPKKVMKGVADSGPLYQYWGRTEKVHHHHHH(配列番号3)
このコンストラクトの6’Hisタグは開裂性ではない。
solAC−2056のタンパク質産生
solAC−2056の組み換えウイルスの産生は、以下の手法で行なった。要約すると、関連遺伝子をコード化するpDEST8ベクターを、バキュロウイルスゲノム(Bacmid DNA)を有する大腸菌(E. Coli)DH10BAC細胞に形質転換した。細胞での転位により、前記遺伝子と、バキュロウイルスポリヘドロン(polyhedron)プロモーターを含むゲンタマイシン抵抗性遺伝子とを有するpDEST8ベクターの領域が、Bacmid DNA内に直接転移された。ゲンタマイシン、カナマイシン、テトラシクリン及びBluo-Galに基づく選択を行なった。得られた白色コロニーは、関連遺伝子をコード化する組み換えbacmid DNAを有していると考えられる。白色DH10BAC細胞の培養物からBacmid DNAを抽出し、SF900II無血清培地で生育させたヨウトガ(Spodoptera frugiperda)Sf9細胞に対して、メーカーの指示に従ってトランスフェクトさせた。感染後72時間でウイルス粒子を収穫した。収穫されたウイルス粒子のアリコット1mlを使用して、1×106細胞/mlのsf9細胞100mlに感染させた。感染後72時間で培養培地の細胞を収穫した。
solAC−2056の組み換えウイルスの産生は、以下の手法で行なった。要約すると、関連遺伝子をコード化するpDEST8ベクターを、バキュロウイルスゲノム(Bacmid DNA)を有する大腸菌(E. Coli)DH10BAC細胞に形質転換した。細胞での転位により、前記遺伝子と、バキュロウイルスポリヘドロン(polyhedron)プロモーターを含むゲンタマイシン抵抗性遺伝子とを有するpDEST8ベクターの領域が、Bacmid DNA内に直接転移された。ゲンタマイシン、カナマイシン、テトラシクリン及びBluo-Galに基づく選択を行なった。得られた白色コロニーは、関連遺伝子をコード化する組み換えbacmid DNAを有していると考えられる。白色DH10BAC細胞の培養物からBacmid DNAを抽出し、SF900II無血清培地で生育させたヨウトガ(Spodoptera frugiperda)Sf9細胞に対して、メーカーの指示に従ってトランスフェクトさせた。感染後72時間でウイルス粒子を収穫した。収穫されたウイルス粒子のアリコット1mlを使用して、1×106細胞/mlのsf9細胞100mlに感染させた。感染後72時間で培養培地の細胞を収穫した。
Hi5昆虫細胞をEX-Cell405(JRH)無血清培地で、密度が1x106細胞/mlとなるまで培養した。Hi5細胞1リットル当たり、ウイルスストックのアリコット5mlを加えた。培養物を27℃で48〜72時間インキュベートした。4000rpmで8分の遠心分離により細胞を収穫した。ペレットを−80℃で冷凍した。
solAC−2056のタンパク質精製法
別途記載した場合を除き、以下の手順は何れも4℃で実施した。細胞ペレットを氷上で解凍し、溶解バッファー(50mM トリス pH7.5、300mM NaCl、10%グリセロール、2mM BME、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)に再懸濁させた。細胞を超音波処理で溶解し、溶解物をDNase1とともに4℃で1時間インキュベートした。溶解物を浄化するべく、14,000又は25,000rpmで1時間遠心分離した。浄化した溶解物を更に、前記工程と同様の遠心分離によって浄化した後、0.45μmのフィルターに通過させてから、予めNi2+で荷電させた金属キレート化マトリックス(GE Healthcare)に、バッチ結合モード(batch bind mode)で通過させた。樹脂又はマトリックスをカラムに注ぎ入れ、250mM イミダゾールを含有する溶解バッファーを加えて、solACタンパク質を溶出させた。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールした。プールされたタンパク質を、50mM トリス pH7.5、30mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで平衡化したG25−脱塩カラムに通過させ、低塩濃度バッファーに交換した。バッファー交換後のsolACタンパク質を続いて6mlのResource Q カチオン交換(GE Healthcare)カラムに通し、20カラム容量で0〜30% 1M NaClの勾配をかけて溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールして、50mM トリス、pH7.5、330mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで予め平衡化した 26/60 superdex-75 ゲル濾過カラムに通した。画分をSDS PAGEで分解した。solAC画分をプールし、最終濃度~10mg/mlとなるまで、vivaspin2 遠心濃縮器(HY)を用いて濃縮した。
別途記載した場合を除き、以下の手順は何れも4℃で実施した。細胞ペレットを氷上で解凍し、溶解バッファー(50mM トリス pH7.5、300mM NaCl、10%グリセロール、2mM BME、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)に再懸濁させた。細胞を超音波処理で溶解し、溶解物をDNase1とともに4℃で1時間インキュベートした。溶解物を浄化するべく、14,000又は25,000rpmで1時間遠心分離した。浄化した溶解物を更に、前記工程と同様の遠心分離によって浄化した後、0.45μmのフィルターに通過させてから、予めNi2+で荷電させた金属キレート化マトリックス(GE Healthcare)に、バッチ結合モード(batch bind mode)で通過させた。樹脂又はマトリックスをカラムに注ぎ入れ、250mM イミダゾールを含有する溶解バッファーを加えて、solACタンパク質を溶出させた。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールした。プールされたタンパク質を、50mM トリス pH7.5、30mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで平衡化したG25−脱塩カラムに通過させ、低塩濃度バッファーに交換した。バッファー交換後のsolACタンパク質を続いて6mlのResource Q カチオン交換(GE Healthcare)カラムに通し、20カラム容量で0〜30% 1M NaClの勾配をかけて溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールして、50mM トリス、pH7.5、330mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで予め平衡化した 26/60 superdex-75 ゲル濾過カラムに通した。画分をSDS PAGEで分解した。solAC画分をプールし、最終濃度~10mg/mlとなるまで、vivaspin2 遠心濃縮器(HY)を用いて濃縮した。
別のsolAC−2056の精製法
別途記載した場合を除き、以下の手順は何れも4℃で実施した。細胞ペレットを氷上で解凍し、溶解バッファー(50mM トリス pH7.5、10% グリセロール、2mM BME、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)に再懸濁させた。細胞を超音波処理で溶解し、溶解物をDNase1とともに4℃で1時間インキュベートした。溶解物を浄化するべく、14,000又は25,000rpmで1時間遠心分離した。浄化した溶解物を更に、前記工程と同様の遠心分離によって浄化した後、0.45μmのフィルターに通過させてから、DEAEカチオン交換樹脂に通した。1M NaClの15及び30%の段階勾配によってタンパク質を溶出した。15%のピークをプールし、プールされたタンパク質のNaCl濃度を300mMまで上昇させてから、予めNi2+で荷電させ、50mM トリス pH7.5、300mM NaCl、10% グリセロール、2mM BMEで平衡化した金属キレート化(通常5ml Hi-trap)カラム(GE Healthcare)に通した。250mM イミダゾールをが乳する平衡化バッファーを加えてsolACタンパク質を溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールした。プールされたタンパク質を、50mM トリス pH7.5、30mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで平衡化したG25−脱塩カラムに通過させ、低塩濃度バッファーに交換した。バッファー交換後のsolACタンパク質を続いて6mlのResource Q カチオン交換(GE Healthcare)カラムに通し、20カラム容量で0〜30% 1M NaClの勾配をかけて溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールして、50mM トリス、pH7.5、330mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで予め平衡化した 26/60 superdex-75 ゲル濾過カラムに通した。画分をSDS PAGEで分解した。solAC画分をプールし、最終濃度~10mg/mlとなるまで、vivaspin2 遠心濃縮器(HY)を用いて濃縮した。
別途記載した場合を除き、以下の手順は何れも4℃で実施した。細胞ペレットを氷上で解凍し、溶解バッファー(50mM トリス pH7.5、10% グリセロール、2mM BME、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)に再懸濁させた。細胞を超音波処理で溶解し、溶解物をDNase1とともに4℃で1時間インキュベートした。溶解物を浄化するべく、14,000又は25,000rpmで1時間遠心分離した。浄化した溶解物を更に、前記工程と同様の遠心分離によって浄化した後、0.45μmのフィルターに通過させてから、DEAEカチオン交換樹脂に通した。1M NaClの15及び30%の段階勾配によってタンパク質を溶出した。15%のピークをプールし、プールされたタンパク質のNaCl濃度を300mMまで上昇させてから、予めNi2+で荷電させ、50mM トリス pH7.5、300mM NaCl、10% グリセロール、2mM BMEで平衡化した金属キレート化(通常5ml Hi-trap)カラム(GE Healthcare)に通した。250mM イミダゾールをが乳する平衡化バッファーを加えてsolACタンパク質を溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールした。プールされたタンパク質を、50mM トリス pH7.5、30mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで平衡化したG25−脱塩カラムに通過させ、低塩濃度バッファーに交換した。バッファー交換後のsolACタンパク質を続いて6mlのResource Q カチオン交換(GE Healthcare)カラムに通し、20カラム容量で0〜30% 1M NaClの勾配をかけて溶出した。画分をSDS PAGEで分解し、solACタンパク質含有画分をプールして、50mM トリス、pH7.5、330mM NaCl、10% グリセロール、5mM BMEで予め平衡化した 26/60 superdex-75 ゲル濾過カラムに通した。画分をSDS PAGEで分解した。solAC画分をプールし、最終濃度~10mg/mlとなるまで、vivaspin2 遠心濃縮器(HY)を用いて濃縮した。
可溶性アデニル酸シクラーゼのタンパク質結晶化
市販のマイクロバッチ結晶化スクリーンを用いて、静滴又は懸滴蒸気拡散法により、ヒトsolACの結晶を成長させた。一連の条件を試した上で、結晶が200mM クエン酸塩(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム等)及び20% PEG3350から生成することが分かった。これらの結晶は分厚い形状であったが、極めて小さかった。これらの結晶からの回折は僅かであり、最高分解度は6.0オングストロームであった。従って、ある程度の大きさと、許容し得る回折分解能とを有する結晶が形成される、異なる条件を探す必要があった。
市販のマイクロバッチ結晶化スクリーンを用いて、静滴又は懸滴蒸気拡散法により、ヒトsolACの結晶を成長させた。一連の条件を試した上で、結晶が200mM クエン酸塩(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム等)及び20% PEG3350から生成することが分かった。これらの結晶は分厚い形状であったが、極めて小さかった。これらの結晶からの回折は僅かであり、最高分解度は6.0オングストロームであった。従って、ある程度の大きさと、許容し得る回折分解能とを有する結晶が形成される、異なる条件を探す必要があった。
初回スクリーンで得られた結晶は、緩衝化していない溶液から得られたものであった。懸滴蒸気拡散法を用いたその後の回のスクリーニングによれば、pH4.6〜5.2のバッファーを使用することで、結晶成長が促進されることが分かった。
結晶を生成させる溶液の最終pHを、pH6.0〜6.4の範囲内で平衡化した。その後の回のスクリーニングでは、クエン酸濃度を0.2M クエン酸三ナトリウムで一定に維持する一方、PEGの濃度及び分子量を変化させた。PEG4000を、10〜20%の範囲の様々な濃度で使用することで、結晶化が促進されることが分かった。
最高の結晶が得られたのは16% PEG4Kであったが、その質は一定ではなく、そのサイズも最長寸法が0.05mMから0.2mMまでと様々であった。これらの結晶のうち最も優れたものは、分解能2.3オングストロームでの回折を示した。
よって、更なる最適化が必要であった。タンパク質を50mM トリス/HCl、pH7.5、330mM NaCl、2mM ベータメルカプトエタノール、及び10% グリセロール中で、~10mg/mlに濃縮した。タンパク質溶液を体積比1:1で、0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16〜18% PEG4K、及び10% グリセロールの貯蔵溶液と混合した。懸滴蒸気拡散法により、結晶が4℃で成長した。
3〜6日後に液滴中に結晶が現れ、14日後には最大で0.5×0.1×0.1mmのサイズに達した。結晶のサイズ及び質の均一性を更に向上させるため、マイクロシーディング(microseeding)法を用いた。種晶ストック(seed stock)は、0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、14% PEG4K、2mM ベータメルカプトエタノール、及び10%グリセロールの溶液中で、solAC結晶を粉砕して調製した。種晶ストックの最適希釈率は、試験結晶化を行なって決定した。試験結晶化には、種晶ストックを1/100、1/10000、1/100,000、及び1/1000,000の希釈率で用いて、トレーをセットアップした。
結晶化トレーのセットアップは、タンパク質溶液及び種晶ストックをカバースリップ上で当量ずつ(通常1μl+1μl)混合して行なった。これを0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、14% PEG4K、及び10%グリセロールを含有するウェル上に配置した。必要な希釈率はタンパク質のバッチ毎に異なる。
結晶は、格子寸法a=b=99.15Å、c=97.51Åの空間群P63内で成長した。
低温でのデータ収集の間、結晶を保存するために、solACの結晶を一時的に、0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、30% PEG4K、及び10%グリセロールを含有する低温バッファー(cryobuffer)溶液中に移送した。この溶液から結晶を液体窒素中に即座に移送し、その後のデータ収集の間保存した。
データの収集及び処理
solACの構造を分解するために使用される回折データは、Jupiter CCD 検出器又は RAXIS HTC イメージプレート検出器の何れかを用いて、社内で収集した。何れもリガク社製回転型陰極発生装置(rotating anode generators)に装着した。solAC構造を精緻化するために使用した1.7Åの高分解データは、欧州シンクロトロン放射光施設(European Synchrotron Radiation facility)のBeamline ID29-1で、波長0.934ÅのADSC Quantum4 CCD 検出器を用いて収集し、MOSFLM(Leslie, A. G. W. (1992). In Joint CCP4 and EESF-EACMB Newsletter on Protein Crystallography, vol. 26, Warrington, Daresbury Laboratory)を用いて処理を行なった。データセットのスケーリングはSCALA(CCP4 - Collaborative Computational Project 4. (1994) The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography. Acta Crystallographica D50, 760-763)を用いて行ない、強度から構造因子振幅(structure factor amplitudes)への変換にはTRUNCATE(Evans, P. R. (1997). Scaling of MAD data. In Recent Advances in Phasing (ed. K. S. Wilson, G. Davies, A. W. Ashton and S. Bailey), pp. 97-102. Council for the Central Laboratory of the Research Councils Daresbury Laboratory, Daresbury, UK), from the CCP4 suite of programs (CCP4 - Collaborative Computational Project 4. (1994) The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography. Acta Crystallographica D50, 760-763)を用いた。
solACの構造を分解するために使用される回折データは、Jupiter CCD 検出器又は RAXIS HTC イメージプレート検出器の何れかを用いて、社内で収集した。何れもリガク社製回転型陰極発生装置(rotating anode generators)に装着した。solAC構造を精緻化するために使用した1.7Åの高分解データは、欧州シンクロトロン放射光施設(European Synchrotron Radiation facility)のBeamline ID29-1で、波長0.934ÅのADSC Quantum4 CCD 検出器を用いて収集し、MOSFLM(Leslie, A. G. W. (1992). In Joint CCP4 and EESF-EACMB Newsletter on Protein Crystallography, vol. 26, Warrington, Daresbury Laboratory)を用いて処理を行なった。データセットのスケーリングはSCALA(CCP4 - Collaborative Computational Project 4. (1994) The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography. Acta Crystallographica D50, 760-763)を用いて行ない、強度から構造因子振幅(structure factor amplitudes)への変換にはTRUNCATE(Evans, P. R. (1997). Scaling of MAD data. In Recent Advances in Phasing (ed. K. S. Wilson, G. Davies, A. W. Ashton and S. Bailey), pp. 97-102. Council for the Central Laboratory of the Research Councils Daresbury Laboratory, Daresbury, UK), from the CCP4 suite of programs (CCP4 - Collaborative Computational Project 4. (1994) The CCP4 Suite: Programs for Protein Crystallography. Acta Crystallographica D50, 760-763)を用いた。
構造決定及び精緻化
可溶性アデニル酸シクラーゼの構造の解析は、多重同形置換(multiple isomorphous replacement)を用いて行なった。0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16%PEG4K、及び10%グリセロールを含有する溶液に、重金属含有化合物を溶解させることにより、様々な重金属溶液を調製した。続いて、solACの結晶を溶液に入れ、様々な期間(2分から5日)に亘って平衡化した。これらの溶液の多くは結晶に損傷を与え、回折の完全な消失から、元の結晶と浸漬した結晶との間の同形性の消失まで、様々な影響を及ぼす。
可溶性アデニル酸シクラーゼの構造の解析は、多重同形置換(multiple isomorphous replacement)を用いて行なった。0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16%PEG4K、及び10%グリセロールを含有する溶液に、重金属含有化合物を溶解させることにより、様々な重金属溶液を調製した。続いて、solACの結晶を溶液に入れ、様々な期間(2分から5日)に亘って平衡化した。これらの溶液の多くは結晶に損傷を与え、回折の完全な消失から、元の結晶と浸漬した結晶との間の同形性の消失まで、様々な影響を及ぼす。
多数(>100)の浸漬のうち、31の結晶が使用可能なデータセットを有しており、更にこれらのうち5つが、重原子の位置及び占有について、分析及び解析が可能な誘導体を生じていた。差パターソン法(Difference Patterson methods)を用いて重原子の初期位置を取得し、これらを用いてMLPHARE(CCP4 プログラムパッケージ)による予備フェージング(preliminary phasing)を行ない、差フーリエマップ(difference Fourier maps)を用いて更なる部位を特定した。この操作を5つの使用可能な誘導体について繰り返し、更にこれらを差フーリエ(Difference Fouriers)を用いてクロスチェックし、全ての重原子の解が同じ起源を有することを確認した。
即ち、5つの誘導体を用いて相を取得し(表16に示す)、それらを更に溶媒平坦化(Solomon)及びARP/WARPのサイクルにより精緻化した。続いて、得られた電子密度マップに、可溶性アデニル酸シクラーゼの配列を組み入れた。最初は社内データを用いて2.3Åで、最後はシンクロトロンデータを用いて1.7Åで、再構築及び精緻化を複数回繰り返したところ(QUANTA、REFMAC、及びCNXを使用)、最終的な可溶性アデニル酸シクラーゼモデルは、残基1〜468から構成され、2つのギャップ(残基135〜140及び350〜356)を含むものとなった。得られた構造を表1に示す。
アポ可溶性アデニル酸シクラーゼの構造の記述
可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの構造を、表1の座標によって記述する。電子密度において、観察し得る最初の残基が残基Met1であり、最後がLys468である。Met1の主鎖窒素に近接する電子密度ピークは、N末端のアセチル化によるものと考えられ、モデル化することができなかった。解釈可能な主鎖密度を有さない残基は、Trp135、Glu136、Glu137、Gly138、Leu139、Asp140、Phe350、Pro351、Gly352、Glu353、Lys354、Val355、及びPro356であった。残基Val469及びC末端His6−タグは、電子密度においては見ることができなかった。134の第1の断点(break)に近接する主鎖は殆ど定義することができず、残基132〜134の主鎖電子密度は不完全であった。残基304〜306及び451〜455は、電子密度では殆ど定義できなかった。更に、モデルの周辺にある幾つかの残基は、解釈可能な密度が存在しないことから、その側鎖が恣意的に存在していると考えられた。
可溶性アデニル酸シクラーゼの触媒ドメインの構造を、表1の座標によって記述する。電子密度において、観察し得る最初の残基が残基Met1であり、最後がLys468である。Met1の主鎖窒素に近接する電子密度ピークは、N末端のアセチル化によるものと考えられ、モデル化することができなかった。解釈可能な主鎖密度を有さない残基は、Trp135、Glu136、Glu137、Gly138、Leu139、Asp140、Phe350、Pro351、Gly352、Glu353、Lys354、Val355、及びPro356であった。残基Val469及びC末端His6−タグは、電子密度においては見ることができなかった。134の第1の断点(break)に近接する主鎖は殆ど定義することができず、残基132〜134の主鎖電子密度は不完全であった。残基304〜306及び451〜455は、電子密度では殆ど定義できなかった。更に、モデルの周辺にある幾つかの残基は、解釈可能な密度が存在しないことから、その側鎖が恣意的に存在していると考えられた。
solACの活性部位
solACと、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)由来の酵素との比較によれば、solACが有する活性部位は一つのみであり、これがS.プラテンシスにおける、A−鎖の残基1140、B−鎖の残基1061を含有するループ、B単量体のヘリックスα1を形成する残基によって形成される部位と対応することが強く示唆される。S.プラテンシスのA単量体に対応する第2の部位のへリックスα1は存在しない。A単量体の2及び3に相当するβ−ストランドはsolACの方が長く、部分的に不明瞭なアデノシン結合部位であり、対称関連対応部位に比べてその開放性が遥かに少なかった。表6は、基質と相互作用すると推測される、活性部位領域の残基を示したものである。
solACと、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)由来の酵素との比較によれば、solACが有する活性部位は一つのみであり、これがS.プラテンシスにおける、A−鎖の残基1140、B−鎖の残基1061を含有するループ、B単量体のヘリックスα1を形成する残基によって形成される部位と対応することが強く示唆される。S.プラテンシスのA単量体に対応する第2の部位のへリックスα1は存在しない。A単量体の2及び3に相当するβ−ストランドはsolACの方が長く、部分的に不明瞭なアデノシン結合部位であり、対称関連対応部位に比べてその開放性が遥かに少なかった。表6は、基質と相互作用すると推測される、活性部位領域の残基を示したものである。
リガンドと複合化されたsolACの結晶の調製
200mM α−β−メチレンアデノシン5’−三リン酸、40mM CaCl2、及び40mM MnCl2の溶液を、浸漬溶液中で調製した。浸漬溶液は、0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16% PEG4K、及び10% グリセロールから構成した。予め成長させたsolAC触媒ドメインの結晶を、20Lのリガンド浸漬溶液に入れ、3日に亘って平衡化した。その後、結晶を冷凍保存溶液に移送し、データ収集の準備の間、液体窒素中で冷凍した。
200mM α−β−メチレンアデノシン5’−三リン酸、40mM CaCl2、及び40mM MnCl2の溶液を、浸漬溶液中で調製した。浸漬溶液は、0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16% PEG4K、及び10% グリセロールから構成した。予め成長させたsolAC触媒ドメインの結晶を、20Lのリガンド浸漬溶液に入れ、3日に亘って平衡化した。その後、結晶を冷凍保存溶液に移送し、データ収集の準備の間、液体窒素中で冷凍した。
リガンド複合体のデータ収集、構造解及び精緻化(refinement)
solAC触媒ドメイン/リガンド複合体についての回折データは、社内のX線源に装着したRAXIS HTCを用いて収集した。予め解析したsolAC触媒ドメインの構造を、精緻化のための出発モデルとした。剛体及び制限された精緻化を行ない、差マップを算出した。リガンド分子、α−β−メチレンアデノシン5’−三リン酸を差密度に組み込んで、更に複数回の精緻化を行なった。
solAC触媒ドメイン/リガンド複合体についての回折データは、社内のX線源に装着したRAXIS HTCを用いて収集した。予め解析したsolAC触媒ドメインの構造を、精緻化のための出発モデルとした。剛体及び制限された精緻化を行ない、差マップを算出した。リガンド分子、α−β−メチレンアデノシン5’−三リン酸を差密度に組み込んで、更に複数回の精緻化を行なった。
solACリガンド複合体の記述
solACと複合化されたα−β−メチレンATPの構造は、S.プラテンシスについて記述されたものと極めて類似した様式の相互作用を示している。この相互作用の大部分は、リン酸基、金属イオン、及びタンパク質間のものである。アデニン基はN6アミノ基とVal406の主鎖カルボニル基との間に水素結合を形成し、水媒介相互作用がAsn412のN7及びOD1の間に形成される。リボース基はタンパク質と水素結合を形成しない。相互作用の大部分は、リン酸基、推測される金属結合部位、及びタンパク質間のものである。残基Asp99、Asp47の側鎖、Ile48のカルボニル基、β及びγホスフェートの酸素原子、及び水分子が、金属イオンと相互作用する。Arg416は、αホスフェートの酸素と相互作用する。γホスフェートの酸素原子は、Thr52のOG、及び、Thr52及びPhe51の主鎖窒素原子と相互作用する。
solACと複合化されたα−β−メチレンATPの構造は、S.プラテンシスについて記述されたものと極めて類似した様式の相互作用を示している。この相互作用の大部分は、リン酸基、金属イオン、及びタンパク質間のものである。アデニン基はN6アミノ基とVal406の主鎖カルボニル基との間に水素結合を形成し、水媒介相互作用がAsn412のN7及びOD1の間に形成される。リボース基はタンパク質と水素結合を形成しない。相互作用の大部分は、リン酸基、推測される金属結合部位、及びタンパク質間のものである。残基Asp99、Asp47の側鎖、Ile48のカルボニル基、β及びγホスフェートの酸素原子、及び水分子が、金属イオンと相互作用する。Arg416は、αホスフェートの酸素と相互作用する。γホスフェートの酸素原子は、Thr52のOG、及び、Thr52及びPhe51の主鎖窒素原子と相互作用する。
リガンドの結合の際に、ヘリックスα1及びβ1とα1とを連結するループに相当する残基48〜58の領域に、ある程度の再編成がみられる。残基96から101を含有するループが協調して移動することにより、残基99のC−αが3.5Å移動する。
更なるsolAC−リガンド複合体
solACのHCO3 -結合部位
solACは、その活性がHCO3 -によって直接制御されることが知られている、唯一のタンパク質である。solAC結晶の重炭酸ナトリウムへの浸漬によって、HCO3 -結合部位の位置が明らかになった。HCO3 -イオンの結合は、図2に示すような水素結合及び静電相互作用のネットワークによって媒介される。1)Lys95のNZは、HCO3 -のO1との間に塩橋を形成している。2)Val167の骨格NHは、HCO3 -のO1との間に荷電水素結合を形成している。3)Val167の骨格カルボニルは、HCO3 -のOHとの間に水素結合を形成している。4)Arg176の側鎖NH2は、HCO3 -のO3との間に塩橋を形成している。5)Arg176の側鎖NH2は、HCO3 -のOHとの間に荷電水素結合を形成している。HCO3 -の配位におけるLys95の関与は、重炭酸イオン反応性アデニル酸シクラーゼに関する研究論文から導かれる結論と一致している(Cann, M.J. et al. (2003) Journal of Biological Chemistry 278, 35033-35038)。
solACは、その活性がHCO3 -によって直接制御されることが知られている、唯一のタンパク質である。solAC結晶の重炭酸ナトリウムへの浸漬によって、HCO3 -結合部位の位置が明らかになった。HCO3 -イオンの結合は、図2に示すような水素結合及び静電相互作用のネットワークによって媒介される。1)Lys95のNZは、HCO3 -のO1との間に塩橋を形成している。2)Val167の骨格NHは、HCO3 -のO1との間に荷電水素結合を形成している。3)Val167の骨格カルボニルは、HCO3 -のOHとの間に水素結合を形成している。4)Arg176の側鎖NH2は、HCO3 -のO3との間に塩橋を形成している。5)Arg176の側鎖NH2は、HCO3 -のOHとの間に荷電水素結合を形成している。HCO3 -の配位におけるLys95の関与は、重炭酸イオン反応性アデニル酸シクラーゼに関する研究論文から導かれる結論と一致している(Cann, M.J. et al. (2003) Journal of Biological Chemistry 278, 35033-35038)。
solACの重炭酸イオン部位への5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオールの結合
solACに結合した5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオール(化合物1、Lancaster Synthesis, UKから購入)の構造は、HCO3 -結合部位が他の小型分子リガンドからもアクセス可能であることを明らかにしている。化合物1の負帯電硫黄原子は、HCO3 -イオンと殆ど同一の位置に存在しているが、化合物1のフェニル結合トリアゾール基は、HCO3 -結合部位から開口して、ATP結合部位に隣接する大きなポケットを形成している。この拡張HCO3 -結合部位は、solAC阻害剤又は活性剤の設計において利用可能なsolAC構造の領域に光を当てるものである。
solACに結合した5−フェニル−2H−[1,2,4]−トリアゾール−3−チオール(化合物1、Lancaster Synthesis, UKから購入)の構造は、HCO3 -結合部位が他の小型分子リガンドからもアクセス可能であることを明らかにしている。化合物1の負帯電硫黄原子は、HCO3 -イオンと殆ど同一の位置に存在しているが、化合物1のフェニル結合トリアゾール基は、HCO3 -結合部位から開口して、ATP結合部位に隣接する大きなポケットを形成している。この拡張HCO3 -結合部位は、solAC阻害剤又は活性剤の設計において利用可能なsolAC構造の領域に光を当てるものである。
化合物1により媒介されるHCO3 -結合部位の拡張を可能としているのは、HCO3 -ポケットからのArg176の移動、及び、Ala97、Gly98、Asp99、及びAla100を含んでなるループの移動である。また、化合物1の結合は、Val335〜Cys343の配列にも、協調的な移動を引き起こす。このsolACの領域は、重炭酸イオン結合部位の底部に沿って存在するβストランド及びループ構造の一部を形成する。この配列のPhe336、Met337、及びPhe338は、化合物1の結合部位の一部を形成する。
化合物1の拡張HCO3 -結合部位は、以下の残基によって裏打ちされている。Phe45、Leu94、Lys95、Ala97、Ala100、Leu102、Phe165、Leu166、Val167、Ile168、Val172、Arg176、Val335、Phe336、Met337、及びPhe338。化合物1の硫黄原子はポケットの底部に存在し、Lys95のNZとの間に塩橋を、Val167の骨格NH及びPhe336の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成している。また、トリアゾールのN6も、ポケットの底部におけるMet337の骨格カルボニルとの間に水素結合を形成している。更に、トリアゾールのN5は、Arg176のNH2との間に荷電水素結合を形成している。化合物1のフェニル基は、化合物1のポケットの、Phe45、Lys95、Ala97、Ala100、Leu102、及びPhe336の側鎖によって形成される、概ね親油性の領域内に入り込んでいる。化合物1のフェニル基の先で、ポケットはわずかに狭まってから、ATP結合部位に開口している。拡張HCO3 -結合部位の形状と、化合物1:solAC複合体に観察される相互作用の性質から、この部位が種々のリガンドを受容し得ることが示される。
哺乳類膜貫通アデニル酸シクラーゼイソフォームとの間に高レベルの配列及び構造的類似性があるものの、solACはこのクラスの酵素の中で、HCO3 -により制御される唯一の酵素である。従って、本明細書に記載のsolACHCO3 -結合部位の構造に関する情報は、tmAC’に対して高い選択性を示す、solACを標的とした薬剤を設計するための指針となる。薬剤設計に関して化合物1結合構造が有するもう一つの重要な特徴は、化合物1が、HCO3 -部位からsolACのATP結合部位へと至る、明白な成長ベクトルの可能性を示すことである。タンパク質のATP結合部位を標的とした化合物は、薬物送達においては先例が多い。本明細書に記載される構造は、HCO3 -及びsolACのATP結合部位の双方を同時に占有する化合物の設計が可能であることを立証している。
更なるsolAC化合物結合部位 − N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸
solACに結合したN−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸(化合物2)の結晶構造は、薬剤設計に利用し得る更なる領域をsolAC構造が有することを示している。化合物2の結合部位は、化合物1について記載した拡張HCO3 -ポケットと重複しており、化合物2のフェノキシ基は、化合物1のフェニル基と極めて類似した位置を占有する。しかしながら、化合物2は、HCO3 -結合部位の底部に存在する、Lys95の側鎖の大きな移動を招く。このLys95の移動がHCO3 -結合ポケットを開放して形成されるチャネルが、水で満たされた大きな空隙と連結した上で、ATP結合部位とは反対の位置でタンパク質表面に開口している。この新たに露出されるチャネルを裏打ちしている残基は、His164、Phe165、Tyr268、Asn333、Lys334、及びVal335である。化合物2のオキサルアミド酸基が更に突出してこのチャネル内に侵入し、タンパク質と幾つかの相互作用を形成している。1)化合物2のO3が、His164のNDとの間に荷電水素結合を形成している。2)化合物2のO1が、Phe165の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成している。3)化合物2のO5が、Val335の骨格NHとの間に水素結合を形成している。4)化合物2のアミドN6が、Phe165の骨格カルボニルとの間に水素結合を形成している。Lys95、Phe165、Leu166、Val167、及びPhe336の側鎖が、化合物2の中央のアニリノ芳香環の周囲に、親油性環境を形成している。化合物2の末端フェノキシ基は、化合物1について説明したのと同じ親油性ポケット内で結合しているが、Met337、Phe338、Asp339、Lys340、及びGly341を含んでなるループに対して化合物2が移動を生じさせることにより、このポケットの環境は僅かに変化している。このループの移動によって、Phe338がATP部位から、化合物2の末端フェノキシ基のファン・デル・ワールス距離内に引っ張られている。このPhe338の移動は、アポ、AMP−PNP、及び化合物1結合solACの構造には観察されない。実際に、AMP−PNP複合体の構造は、Phe338がAMP−PNPリボースのヒドロキシル基に隣接して存在するATP部位の一端を形成していることを、明らかに示している。Phe338の再配置は、ATP結合部位に隣接する新たな基質ポケットを作り出している。この新たな基質ポケットは、以下の残基によって裏打ちされている:Phe296、Met418、N298、Ser343、Phe336、Met337、Gly341、Asp339、Met419、Cys342、Ala415、Arg416、Met300、及びLys340。
solACに結合したN−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸(化合物2)の結晶構造は、薬剤設計に利用し得る更なる領域をsolAC構造が有することを示している。化合物2の結合部位は、化合物1について記載した拡張HCO3 -ポケットと重複しており、化合物2のフェノキシ基は、化合物1のフェニル基と極めて類似した位置を占有する。しかしながら、化合物2は、HCO3 -結合部位の底部に存在する、Lys95の側鎖の大きな移動を招く。このLys95の移動がHCO3 -結合ポケットを開放して形成されるチャネルが、水で満たされた大きな空隙と連結した上で、ATP結合部位とは反対の位置でタンパク質表面に開口している。この新たに露出されるチャネルを裏打ちしている残基は、His164、Phe165、Tyr268、Asn333、Lys334、及びVal335である。化合物2のオキサルアミド酸基が更に突出してこのチャネル内に侵入し、タンパク質と幾つかの相互作用を形成している。1)化合物2のO3が、His164のNDとの間に荷電水素結合を形成している。2)化合物2のO1が、Phe165の骨格NHとの間に荷電水素結合を形成している。3)化合物2のO5が、Val335の骨格NHとの間に水素結合を形成している。4)化合物2のアミドN6が、Phe165の骨格カルボニルとの間に水素結合を形成している。Lys95、Phe165、Leu166、Val167、及びPhe336の側鎖が、化合物2の中央のアニリノ芳香環の周囲に、親油性環境を形成している。化合物2の末端フェノキシ基は、化合物1について説明したのと同じ親油性ポケット内で結合しているが、Met337、Phe338、Asp339、Lys340、及びGly341を含んでなるループに対して化合物2が移動を生じさせることにより、このポケットの環境は僅かに変化している。このループの移動によって、Phe338がATP部位から、化合物2の末端フェノキシ基のファン・デル・ワールス距離内に引っ張られている。このPhe338の移動は、アポ、AMP−PNP、及び化合物1結合solACの構造には観察されない。実際に、AMP−PNP複合体の構造は、Phe338がAMP−PNPリボースのヒドロキシル基に隣接して存在するATP部位の一端を形成していることを、明らかに示している。Phe338の再配置は、ATP結合部位に隣接する新たな基質ポケットを作り出している。この新たな基質ポケットは、以下の残基によって裏打ちされている:Phe296、Met418、N298、Ser343、Phe336、Met337、Gly341、Asp339、Met419、Cys342、Ala415、Arg416、Met300、及びLys340。
このATP基質ポケットの形成を促す化合物は、solAC活性部位内に、更なる薬剤設計の機会を作り出している。このATP基質ポケットが拡張HCO3 -部位内に結合する化合物によって誘導されるという事実は、非重炭酸イオン反応性tmACに対して高レベルの選択性を有する薬剤の開発において、HCO3 -部位が大きな可能性を有しているという見方を補強するものである。
重要なのは、本明細書に記載の4つの結合部位は相互に排他的ではなく、説明したような拡張ATP及びHCO3 -ポケットを誘導する、連続的なsolAC結合部位を形成し得るという点である。この全体としての結合部位は、小型分子solAC薬物の開発にとって、魅力的な標的となり得る。
N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸の調製
3−フェノキシアニリン(276mg、1.4mモル)及びトリエチルアミン(0.2ml、1.4mモル)のテトラヒドロフラン(3ml)中溶液に、クロロオキソ酢酸エチルエステル(0.175ml、1.5mモル)を滴下によって加えた。得られた溶液を環境温度で40分攪拌した。この反応混合物に対して、水(1.5ml)及び塩化ナトリウム(72mg、1.8mモル)を加えた。この反応混合物を環境温度で更に24時間攪拌した。この反応混合物をジクロロメタンと塩酸(2N)とで分配した。水層をジクロロメタンで洗浄した。ジクロロメタン層を合わせて塩酸(2N)及び水で洗浄した。有機層を乾燥し(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空下で蒸散させて除去することにより、N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸を白色固体(286mg、74%)として得た。
3−フェノキシアニリン(276mg、1.4mモル)及びトリエチルアミン(0.2ml、1.4mモル)のテトラヒドロフラン(3ml)中溶液に、クロロオキソ酢酸エチルエステル(0.175ml、1.5mモル)を滴下によって加えた。得られた溶液を環境温度で40分攪拌した。この反応混合物に対して、水(1.5ml)及び塩化ナトリウム(72mg、1.8mモル)を加えた。この反応混合物を環境温度で更に24時間攪拌した。この反応混合物をジクロロメタンと塩酸(2N)とで分配した。水層をジクロロメタンで洗浄した。ジクロロメタン層を合わせて塩酸(2N)及び水で洗浄した。有機層を乾燥し(MgSO4)、濾過し、溶媒を真空下で蒸散させて除去することにより、N−(3−フェノキシ−フェニル)−オキサルアミド酸を白色固体(286mg、74%)として得た。
HCO3 -と複合化したsolAC結晶の調製
0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16% PEG4000、及び10%グリセロールを含有する浸漬溶液中、50mM 重炭酸ナトリウム溶液を調製した。予め成長させたsolAC触媒ドメインの結晶を、20μlの重炭酸塩浸漬溶液中に入れ、3時間平衡化させた。続いて、結晶を冷凍保存溶液に移送し、データ収集の準備の間、液体窒素中で冷凍した。
0.1M 酢酸ナトリウム、pH4.8、0.2M クエン酸三ナトリウム、16% PEG4000、及び10%グリセロールを含有する浸漬溶液中、50mM 重炭酸ナトリウム溶液を調製した。予め成長させたsolAC触媒ドメインの結晶を、20μlの重炭酸塩浸漬溶液中に入れ、3時間平衡化させた。続いて、結晶を冷凍保存溶液に移送し、データ収集の準備の間、液体窒素中で冷凍した。
化合物と複合化したsolAC結晶の調製
保存浸漬溶液は、最終体積の90%とし、200mM NaCl、200mM クエン酸三ナトリウム(pH6.4)、15% w/v PEG 4000、及び15% v/v グリセロールから構成した。残りの10%分の体積のとして、1)水を加えて収穫用溶液とするか、或いは2)化合物保存溶液(DMSO中)を加えて最終浸漬溶液とした。収穫用溶液は、懸滴から収集されたsolAC結晶の一時保存に使用するとともに、浸漬中に浸漬溶液の蒸散を避けるための保存溶液としても使用した。化合物1及び化合物2の保存溶液はDMSO中0.25Mの濃度で調製した。保存90%浸漬溶液のpHは、化合物1については、この化合物の結合を促進するため、pH7.3に調製した。
保存浸漬溶液は、最終体積の90%とし、200mM NaCl、200mM クエン酸三ナトリウム(pH6.4)、15% w/v PEG 4000、及び15% v/v グリセロールから構成した。残りの10%分の体積のとして、1)水を加えて収穫用溶液とするか、或いは2)化合物保存溶液(DMSO中)を加えて最終浸漬溶液とした。収穫用溶液は、懸滴から収集されたsolAC結晶の一時保存に使用するとともに、浸漬中に浸漬溶液の蒸散を避けるための保存溶液としても使用した。化合物1及び化合物2の保存溶液はDMSO中0.25Mの濃度で調製した。保存90%浸漬溶液のpHは、化合物1については、この化合物の結合を促進するため、pH7.3に調製した。
36μlの「90%保存溶液」を、4μlの化合物保存溶液と混合することにより、化合物1及び2の最終浸漬溶液を調製した。これにより、最終的な化合物濃度は、25mM となった。
化合物の浸漬/冷凍手順
新たに調製した10μlの収穫用溶液に、結晶を懸滴から収穫した。また、容器に50〜100μlの収穫用溶液を入れた。浸漬溶液(6μl)をウェル内に入れ、対応する容器に50μlの収穫用溶液を入れた。結晶を浸漬溶液内に分配した(1結晶/化合物)。ウェルを密閉し、化合物1については6分間、化合物2については4.5時間、20℃で浸漬させた。密閉を切開し、結晶を顕微標本(micromounts)上に載せ、液体窒素中で冷凍した。
新たに調製した10μlの収穫用溶液に、結晶を懸滴から収穫した。また、容器に50〜100μlの収穫用溶液を入れた。浸漬溶液(6μl)をウェル内に入れ、対応する容器に50μlの収穫用溶液を入れた。結晶を浸漬溶液内に分配した(1結晶/化合物)。ウェルを密閉し、化合物1については6分間、化合物2については4.5時間、20℃で浸漬させた。密閉を切開し、結晶を顕微標本(micromounts)上に載せ、液体窒素中で冷凍した。
化合物番号付与
solAC:HCO3 -、solAC:化合物1及びsolAC:化合物2複合体の記述において使用した原子番号付与手順(添付のpdbファイルに表記)を図1に示す。化合物1及び化合物2については、水素原子は示していない。HCO3 -の水素原子は、solAC:HCO3 -相互作用を定義する上で特に重要であるため、表示している。
solAC:HCO3 -、solAC:化合物1及びsolAC:化合物2複合体の記述において使用した原子番号付与手順(添付のpdbファイルに表記)を図1に示す。化合物1及び化合物2については、水素原子は示していない。HCO3 -の水素原子は、solAC:HCO3 -相互作用を定義する上で特に重要であるため、表示している。
Claims (41)
- リガンドとsolAC構造との相互作用をコンピュータにより分析する方法であって:
二乗平均平方根偏差(root mean square deviation)1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC構造、或いはその選択座標を用意する工程;
当該solAC構造に適合させるべきリガンド、或いはその選択座標を用意する工程;及び、
前記リガンドを当該solAC構造に適合させる工程を含んでなる方法。 - 当該選択座標が、表6、7、8、9、10又は11のうち何れかに記載された残基からなる群のうち、1又は2以上に由来する原子を含む、請求項1記載の方法。
- 当該選択座標が、Met1からTyr26まで、又はLys219からGly284までのアミノ酸からなる群のうち、1又は2以上に由来する原子を含む、請求項1記載の方法。
- 当該リガンドを、当該群のうち少なくとも2つ、好ましくは5つの要素に由来する原子に対して適合させる、請求項2又は3に記載の方法。
- 当該リガンドを少なくとも10の原子、好ましくは少なくとも100の原子に対して適合させる、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
- 前記選択座標が、少なくとも500の原子、好ましくは少なくとも1000の原子のものである、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
- 複数の分子断片を適合させると共に、当該断片を単一分子に組み立てることにより、リガンドが形成される、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
- 当該リガンドを取得又は合成する工程;及び
当該リガンドが前記solACと相互作用する能力を決定するべく、当該リガンドをsolACタンパク質と接触させる工程を更に含んでなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。 - 当該リガンドを取得又は合成する工程;
solACタンパク質と当該リガンドとの複合体を形成する工程;及び
当該リガンドが前記solACと相互作用する能力を決定するべく、当該複合体をX線結晶学により分析する工程を更に含んでなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。 - 当該リガンドを取得又は合成する工程;
当該リガンドが当該solAC構造とどのように相互作用するかを決定又は予測する工程;及び
前記リガンドと前記solACとの相互作用が変化するように、前記リガンドを修正する工程を更に含んでなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。 - 前記solAC構造が、二乗平均平方根偏差0.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標の全部又は一部、或いはその選択座標から構築されたモデルである、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
- 前記モデルが:
(a)ワイヤー・フレーム(wire-frame)モデル;
(b)チキン・ワイヤー(chicken-wire)モデル;
(c)ボール・アンド・スティック(ball-and-stick)モデル;
(d)スペース・フィリング(space-filling)モデル;
(e)スティック(stick)モデル;
(f)リボン(ribbon)モデル;
(g)スネーク(snake)モデル;
(h)アロー・アンド・シリンダー(arrow and cylinder)モデル;
(i)電子密度マップ(electron density map);
(j)分子表面モデル(molecular surface model)
である、請求項11記載の方法。 - (a)前記リガンドを取得又は合成する工程;及び
(b)当該リガンドがsolACと相互作用する能力を決定すべく、前記リガンドをsolACと接触させる工程を更に含んでなる、請求項1〜12の何れか一項に記載の方法。 - リガンドがsolACタンパク質と相互作用する能力を評価する方法であって:
当該リガンドを取得又は合成する工程;
solACタンパク質と当該リガンドとの結晶化複合体を形成する工程であって、当該複合体の原子座標の決定の際に、当該複合体が3.5Åよりも優れた分解能でX線を回折するものである工程;及び、
当該リガンドが前記solACタンパク質と相互作用する能力を決定するべく、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、X線結晶学により当該複合体を分析する工程を含んでなる方法。 - 前記solACタンパク質の結晶を用意する工程;
前記結晶に前記リガンドを含浸させて複合体を形成する工程;及び、
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造を決定する工程を含んでなる、請求項14記載の方法。 - 前記solACタンパク質を前記リガンドと混合する工程;
solACタンパク質−リガンド複合体を結晶化させる工程;及び
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のデータ、或いはその選択座標を用いて、前記複合体の構造を決定する工程を含んでなる、請求項14記載の方法。 - 当該リガンドの構造を決定する工程を更に含んでなる、請求項14記載の方法。
- 前記リガンドを取得又は合成する工程;及び、
前記リガンドと前記solACとの相互作用が変化するように、前記リガンドを修正する工程を更に含んでなる、請求項14又は請求項17に記載の方法。 - タンパク質の構造を決定する方法であって;
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標、或いはその選択座標を用意する工程;及び、
(a)当該タンパク質の構造を構成するべく、当該座標を当該タンパク質の結晶単位格子内に配置するか、或いは、(b)当該座標を操作して、当該タンパク質のNMRスペクトルピークを割り当てる工程を含んでなる方法。 - 未知の構造を有するsolACタンパク質の相同体又は類似体の三次元構造を予測する方法であって:
未知の3次元構造を有する標的solACタンパク質のアミノ酸配列表現を、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolACのアミノ酸配列、或いはその選択座標とアラインメントし、前記アミノ酸配列の相同領域同士をマッチングさせる工程;
未知の構造を有する当該標的solACのマッチングさせた相同領域の構造を、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5に規定されるsolAC構造、或いはその選択座標の対応する領域上にモデリングする工程;及び
当該マッチングさせた相同領域の構造が実質的に保存された、未知の構造を有する当該標的solACの立体構造を決定する工程を含んでなる方法。 - solAC、solAC相同体又は類似体、solACとリガンドとの複合体、又はsolAC相同体又は類似体とリガンドとの複合体と相互作用するリガンドの構造を生成し、及び/又は、最適化を行なうためのデータを提供する方法であって:
(i)(a)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の原子座標、或いはその選択座標のデータであって、solAC触媒ドメインの3次元構造、或いはその選択座標を規定するデータを含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ;
(b)(a)のデータに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼ相同体又は類似体の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5のデータを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、タンパク質の分子座標データ;及び
(d)(a)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ
を有する遠隔装置と、通信を確立する工程;並びに、
(ii)当該遠隔装置から、当該コンピュータ読取可能なデータを受信する工程を含んでなる方法。 - 当該コンピュータ読取可能なデータが、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC原子座標データ、或いはその選択座標であるとともに:
二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC原子座標データ、或いはその選択座標に適合させるべきリガンドを用意する工程;及び
前記リガンドを前記solAC構造に適合させる工程を更に含んでなる、請求項21記載の方法。 - 当該選択座標が少なくとも5%の、好ましくは少なくとも10%のCα原子を含有する、請求項1〜22の何れか一項に記載の方法。
- 当該rmsdが当該Cα原子を基準として計算される、請求項23記載の方法。
- solAC、solAC相同体又は類似体、solACとリガンドとの複合体、又はsolAC相同体又は類似体とリガンドとの複合体と、相互作用するリガンドの構造を生成し、及び/又は、最適化を行なうためのコンピュータシステムであって、前記システムがコンピュータ読取可能なデータとして:
(a)表1、表2、表3、表4又は表5のsolAC座標データであって、solAC触媒ドメインの3次元構造を規定するデータ、或いはその選択座標;
(b)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データに基づく前記標的の相同性モデリングにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(c)表1、表2、表3、表4又は表5の座標データを基準として、X線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することにより生成された、標的アデニル酸シクラーゼタンパク質の分子座標データ;
(d)(b)又は(c)の原子座標データから誘導される構造因子データ;及び、
(e)rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の分子座標データ、或いはその選択座標
のうち1又は2以上を有する、コンピュータシステム。 - 当該選択座標が、表6、7、8、9、10又は11のうち何れかに記載された残基からなる群のうち、1又は2以上に由来する原子を含む、請求項25記載のコンピュータシステム。
- 当該選択座標が、当該群のうち少なくとも2つ、好ましくは5つの要素に由来する、少なくとも一の原子に対応するものである、請求項26記載のコンピュータシステム。
- 当該リガンドを少なくとも10原子、好ましくは少なくとも100原子に対して適合させる、請求項25〜27の何れか一項に記載のコンピュータシステム。
- (i)当該コンピュータ読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、コンピュータ読取可能なデータ記憶媒体;
(ii)当該コンピュータ読取可能なデータを処理するための命令を記憶するための作業メモリ;及び、
(iii)当該作業メモリ及び当該コンピュータ読取可能なデータ記憶媒体に連結され、当該コンピュータ読取可能なデータを処理することにより、構造を生成し、及び/又は、合理的薬物設計を行なうための中央処理装置(central-processing unit)
を含んでなる、請求項25〜28の何れか一項に記載のコンピュータシステム。 - 当該中央処理装置(central-processing unit)に連結された、当該構造を表示するためのディスプレイを更に含んでなる、請求項29記載のコンピュータシステム。
- solAC構造又はsolAC−リガンド複合体の3次元表現を作成するためのコンピュータの使用であって、前記solAC構造が、二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標であるとともに、当該コンピュータが:
(i)二乗平均平方根偏差1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の構造、或いはその選択座標を含んでなる、機械読取可能なデータがコード化されたデータ記憶物質を含んでなる、機械読取可能なデータ記憶媒体;及び
(ii)当該機械読取可能なデータを当該3次元表現に加工するための命令を含んでなる、使用。 - 当該選択座標が、表6、7、8、9、10又は11のうち何れかに記載された残基のうち、1又は2以上の原子である、請求項31記載の使用。
- 組成物を調製する方法であって、請求項1〜18の何れか一項に記載の方法に従ってリガンドを特定する工程と、前記分子を担体と混和する工程とを含んでなる方法。
- 医薬品、医薬組成物又は薬物を製造する方法であって:(a)請求項1〜18の何れか一項に記載の方法に従ってリガンドを特定する工程;及び(b)前記リガンドを含有する医薬品、医薬組成物又は薬物を調製する工程を含んでなる方法。
- (a)請求項1〜18の何れか一項に記載の方法に従ってリガンドを特定する工程;(b)前記リガンドの構造を最適化する工程;及び(c)前記最適化されたリガンドを含有する医薬品、医薬組成物又は薬物を調製する工程を含んでなる、請求項34記載の方法。
- solAC触媒ドメインの結晶。
- solAC触媒ドメインとリガンドとの共結晶。
- 空間群P63を有する、solAC触媒ドメインとリガンドとの共結晶。
- 単位格子次元a=b=99.5Å、c=97.4Å、及び、α=β=90.00、γ=120.00であり、単位格子変動性が全ての次元で5%である、請求項32又は33に記載の共結晶。
- 分解能が3.5Åであるか、又はより優れている、solACタンパク質の結晶。
- rmsd1.5Å未満の差異を有していてもよい、表1、表2、表3、表4又は表5の座標により規定される構造を有する、solACタンパク質の結晶。
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