(発明の詳細な説明)
本発明は、HOXヘキサペプチド領域の分子ミミックに関する。今回、例えばPBXとその補助因子との間の相互作用を妨げることによって、PBX依存性転写調節(例えば活性化または抑制)を阻害する分子(好ましくはHOX)およびその標的DNA(例えばHOXおよびPBXタンパク質の結合に影響する分子)が、多大な利点、例えば異常な細胞分裂の防止または低減、および幹細胞の多分化能維持を提供できる下流効果を有することが示されている。
好ましいPBX調節因子はペプチドである。本明細書で言及する「ペプチド」は、100個未満のアミノ酸残基を有する分子であるが、好ましくはより短く、例えば長さ50個未満、例えば長さ30個未満の残基、好ましくは長さ10〜25残基を有する分子である。
本発明者らは、このようなPBX調節因子ペプチドが塩基性アミノ酸のカチオン性ポリマー(例えば、ポリアルギニン配列)に結合することによって、有効性の向上を達成することができることを見出した。特に、このようなカチオン性部分を細胞侵入部分として使用することによって、そのペプチドの効果は、他の細胞侵入配列を使用する場合よりもずっと早く認めることができる。1実施形態において、本発明のペプチドは、一般式(I)(配列番号:1):
Y1X1X2X3WX4X5X6X7X8Y2 (I)
またはこれの機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントを含むか、またはこれより構成され、これらは必要に応じて(例えば、標識または結合部分と)置換され、ここで、
− 配列X1〜X8は、少なくとも8個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、以下に規定される9個のアミノ酸位置のうちの1個以上の間に1個または2個のアミノ酸残基により必要に応じて割り込まれてもよく;
− X1は、存在していても非存在でもよく、1個以上のアミノ酸であり、好ましくはW、T、PE、KQI、VV、PQT、HまたはRIであり;
− X2は、芳香族側鎖を有するアミノ酸またはシステイン、好ましくはC、Y、FまたはWであり;− X3は、アミノ酸PまたはDであり;
− X4は、疎水性アミノ酸、好ましくはM、L、IまたはVであり;
− X5は、荷電した側鎖を有するアミノ酸、好ましくはK、D、RまたはHであり、より好ましくはKまたはRであり;
− X6は、塩基性側鎖を有するアミノ酸、好ましくはKまたはRであり;
− X7は、極性親水性アミノ酸、好ましくは、K、R、E、H、D、N、Q、SまたはTであり、より好ましくはHまたはTであり;
− X8は、1つ以上のアミノ酸であるかまたは不在であり、例えばX8はH、Tまたは不在であってもよく;そして
− Y1およびY2は各々不在であるかまたは塩基性アミノ酸のカチオン性ポリマーを含むペプチドのいずれかであり、その結果、Y1およびY2のうちの少なくとも1つが存在する。1実施形態において、Y1および/またはY2は、細胞侵入部分として作用するか、または細胞侵入部分として作用する配列を含む。
一般的に、X1〜X8配列は、インビボでHOXとPBXとの間の相互作用を阻害できる配列に対応する。一般的に、Y1および/またはY2部分は、このペプチドの細胞内への侵入を可能にするかまたは補助する細胞侵入部分として作用する。本発明のペプチドは、本明細書中に記載されるペプチドY1および/またはY2のいずれかに結合した、本明細書中に記載される配列X1〜X8のいずれかを含むか、またはこれより構成される。すなわち、本明細書中に記載される塩基性アミノ酸の任意のカチオン性ポリマーは、本明細書中に記載される任意のX1〜X8配列と組合わせて使用でき、そしてペプチドX1〜X8のC末端、N末端または両末端に位置付けできる。
上記配列(I)において、X1〜X5は、ヘキサペプチド配列を形成する。式(I)の好ましいペプチドは、式:
Y1WYPWMKKHHY2 (配列番号:3)
またはこれの機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントを有し、ここでY1およびY2は本明細書中に定義されるとおりである。
1実施形態において、上記配列X1〜X8はWYPWMKKHHまたはWYPWMKKHHRであり得るか、またはX1〜X8は、上記配列WYPWMKKHHのバリアントであり得、例えば、上記式(I)の制約内で1個、2個、3個、4個またはそれ以上のアミノ酸が変化したバリアントであり得る。例えば、位置X1のWは、不在であり得るか、またはT、PE、KQI、VV、PQT、HもしくはRIのうちの任意の1つと置換され得る;位置X2のYは、芳香族側鎖を有する別のアミノ酸またはシステイン、好ましくはC、FまたはW、より好ましくはCにより置換され得る;位置X3のPはDにより置換され得る;位置X4のMは別の疎水性アミノ酸、好ましくはL、IまたはVにより置換され得る;位置X5のKは、荷電した側鎖を有する別のアミノ酸、好ましくはD、RまたはH、より好ましくはRにより置換され得る;位置X6のKは、塩基性側鎖を有する別のアミノ酸、好ましくはRにより置換され得る;位置X7のHは、別の極性親水性アミノ酸、好ましくはK、R、E、D、N、Q、SまたはT、より好ましくはTにより置換され得る;位置X8のHは、1個以上の別のアミノ酸により置換され得るか、または不在であり得、例えば、X8はTまたは不在であり得る。これらの置換のうちの任意の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つを実行して、上記式(I)の範囲内にある代替のペプチドを作製することができる。
位置X2およびX4〜X8におけるアミノ酸置換が好ましく、好ましくは位置X4〜X8のうちの1個、2個、3個または4個におけるアミノ酸置換である。例えば、1実施形態において、上記式(I)における残基X1〜X8は:
− X1=W;X2=Y/C;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R/D;X6=K/R;X7=H/T;X8=任意のアミノ酸または不在
− X1=W;X2=Y/C;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R/D;X6=K/R;X7=H/T;X8=H/HR/T/G/不在
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R;X6=K/R;X7=H/T;X8=H/HR/T/不在
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R;X6=K/R;X7=H/T;X8=任意のアミノ酸または不在
であり得る。
これらのバリアントX1−X8配列のうちのいずれかは、本明細書中に記載されるY1および/またはY2残基のいずれかと組合わせて使用することができる。例えば、本明細書中に記載されるX1−X8配列のいずれかは、C末端、N末端またはその両末端に、(Arg)6-12ペプチド(例えば(Arg)7ペプチド、(Arg)8ペプチドまたは(Arg)9ペプチド)が結合された状態で使用できる。
上記に説明されるように、Y1および/またはY2は、塩基性アミノ酸カチオン性ポリマーであるか、またはこれを含む。一般的に、Y1および/またはY2は、細胞侵入部分として作用し得る配列を含む。
Y1は好ましくは、X1上のN末端アミノ基を介して結合されるか、または代替的にX1の側鎖を介して結合される。Y2は好ましくはX8上のC末端カルボキシル基を介して結合されるが、代替的にX8の側鎖を介して結合される。存在する場合、Y1およびY2は各々好ましくは、必要に応じて置換される50個以下のアミノ酸のペプチドである。
本明細書で使用される「細胞侵入部分」とは、この部分が結合された分子の細胞内への進入を補助または促進する分子、構造または分子集合を指す。分子(例えば塩基性アミノ酸のカチオン性ポリマーに結合されたペプチド)が細胞に進入すること可能にし得るかまたは補助し得る、塩基性アミノ酸の任意のカチオン性ポリマーを使用することができる。この部分は、種々の細胞型に進入し得る一般的な作用性物質であってもよいし、または処理される特定の細胞型に対して特異的であってもよいし、もしくはその細胞型を標的化することができるものでもよい。
細胞侵入部分は、ペプチドX1〜X8に直接連結されてもよいし、または1個以上のアミノ酸のリンカー配列を介して結合されてもよい。リンカー配列は、位置X8のアミノ酸を含み得る。代表的に、リンカーは、嵩高い側鎖基を有さないアミノ酸を含み、従ってタンパク質のフォールディングを妨げない(例えば、セリンまたはグリシン)。リンカーは、細胞侵入部分が細胞内へのペプチドの進入を補助するかまたは促進することを可能にし、そしてまたペプチドのHOX−PBX相互作用性部分がHOX−PBXの結合を阻害するのを可能にする。リンカーは、柔軟なアミノ酸リンカーであり得る。リンカーは代表的に、20個以下のアミノ酸の長さを有し、例えば5〜18個または10〜16個、好ましくは15個のアミノ酸を有する。
あるいは、細胞侵入部分はペプチドX1〜X8と会合できる。例えば、リポフェクションのためのリポソームまたはポリカチオンもしくはカチオン性脂質を使用することによって、このペプチドを、例えばカプセル封入することもできるし、このペプチドと複合体(錯体)を形成することもできる。本明細書中で使用される場合、「と会合する」とは、ペプチドに結合されている部分または何らかの方法で繋がれた部分を指す。
1実施形態において、Y1および/またはY2は、カチオン性ポリマーもしくはその生理学的に許容可能な塩であるか、またはそれを含む。このような薬学的に許容可能な塩としては、例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)、および有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など)が挙げられる。代表的に、塩は塩酸塩または硫酸塩である。
Y1および/またはY2は、塩基性アミノ酸のカチオン性ポリマーであるかまたはこれを含む。代表的に、塩基性アミノ酸はリジン、アルギニンおよびヒスチジンから選択される。このようなポリアミノ酸は、Sigma−Aldrichから容易に利用可能である。
Y1および/またはY2は、塩基性アミノ酸のホモポリマーであってもよいし、これを含んでもよい。例えば、Y1および/またはY2は、ポリアルギニン、ポリリジンまたはポリヒスチジンであり得る。あるいは、このポリアミノ酸は1個以上の塩基性アミノ酸のポリマーであり得、必要に応じて1個以上の非塩基性アミノ酸も含む。従って、ポリアミノ酸は、1個以上の塩基性アミノ酸および必要に応じて1個以上の他のアミノ酸を含み得る。このようなコポリマーは代表的に、塩基性アミノ酸の大部分を構成する。例えば、コポリマー中の50〜100%のアミノ酸が塩基性であり得る。好ましくは、60〜90%または70〜80%が塩基性である。1実施形態において、コポリマー中のアミノ酸の少なくとも75%、例えば少なくとも85%、95%、98%または99%が塩基性である。1実施形態において、これらの塩基性アミノ酸、またはこのような塩基性アミノ酸の群は、コポリマー内の塩基性アミノ酸のみの鎖として一緒に配置することができる。一般的に、塩基性アミノ酸はリジン、ヒスチジンおよびアルギニンのうちの1個以上を含む。コポリマーが1個以上の非塩基性アミノ酸を含む場合、これらは好ましくは酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)ではない。1個以上の非塩基性アミノ酸としては、脂肪族側鎖または芳香族側鎖を有するアミノ酸、例えばスレオニン、プロリン、トリプトファン、セリンまたはフェニルアラニンが挙げられる。
上記ポリアミノ酸のうちの任意におけるアミノ酸は、L型アミノ酸であってもD型アミノ酸であってもよい。
好ましい実施形態において、ポリアミンは、アルギニン(Arg)xまたはリジン(Lys)xのホモポリマーである。ポリ−L−アルギニンまたはポリ−L−リジンが好ましく、特にポリ−L−アルギニンが好ましい。代表的に、ホモポリマーは分子量約500〜15000を有し、例えば500〜10000、500〜5000、または500〜1000を有する。1実施形態において、上記式中xは、3〜100、例えば3〜50、3〜30または3〜20の範囲であり得る。
小ペプチドホモポリマーが特に好ましく、例えば、500〜1500、例えば500〜1250、または700〜1000の範囲に分子量を有するものが好ましい。代表的に、小分子ペプチドにおいて、xは3〜15の値、例えば6〜12の値を有する。例えば、Y1および/またはY2は、6〜12個の間のアルギニン残基からなるポリアルギニンであってもよいし、またはこれを含んでもよい。本明細書中で、Y1および/またはY2が(Arg)9であるペプチドが例示され、例えば、Y1が不在であり、かつY2がArg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg−Arg(配列番号9)である場合が例示される。従って、好ましいペプチドとしては、Y1および/またはY2=(Arg)9であるペプチドが挙げられる。
特に好ましいペプチドは、配列
WYPWMKKHHRRRRRRRRR(配列番号6)または
WCPWLDRHGRRRRRRRRR (配列番号7)
を有するか、またはその機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントを有する。
式(I)のペプチド中のアミノ酸は、L型アミノ酸であってもD型アミノ酸であってもよい。ペプチド中の全てのアミノ酸は、同一の立体化学を有し得る。例えば、ペプチドはL型アミノ酸のみ、またはD型アミノ酸のみからなってもよい。あるいは、ペプチドはL型アミノ酸およびD型アミノ酸の両方の組合わせを含んでもよい。以下に説明されるように、ペプチド中のL型アミノ酸とD型アミノ酸との数および位置を変動させることによって、得られるペプチドの安定性(例えば、生体への投与後のペプチドの安定性)をもららす可能性があり得る。1実施形態において、ペプチドの少なくともN末端の大部分のアミノ酸およびC末端の大部分のアミノ酸はD型立体配座にあり、一方、残りのアミノ酸はL型立体配座にある。必要に応じて、1個、2個、3個、4個以上のさらなるアミノ酸もまたD型立体配座にある。必要に応じて、位置X8にあるかまたは位置X8に隣接した1個以上のアミノ酸は、D型立体配座にある。必要に応じて、位置X2〜X4にあるアミノ酸はL型立体配座にある。
本発明者らは、ペプチド中に1個以上のD型アミノ酸を組み込むことによって、PBXモジュレーターペプチドの安定性を向上することができることを見出した。特に、血漿中のペプチドの半減期は、そのペプチドの少なくともN末端位置およびC末端位置にD型アミノ酸を使用することによって向上させることができる。この向上した半減期は、種々の細胞侵入配列を含むペプチド中に認められる。第二の実施形態において、本発明のペプチドは、一般式(II)(配列番号2):
Y3X1X2X3WX4X5X6X7X8Y4 (II)
を含むかまたはこの式からなり、ここで、配列X1〜X8が、少なくとも8個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、この配列は必要に応じて以下に定義される9個のアミノ酸位置の1つ以上の間に1個または2個のアミノ酸残基により割り込まれてもよく;
− X1は、存在しても不在でもよく、1個以上のアミノ酸であり、そして好ましくはW、T、PE、KQI、VV、PQT、HまたはRIであり;
− X2は芳香族側鎖を有するアミノ酸、好ましくはY、FまたはWであり;
− X3はアミノ酸PまたはDであり;
− X4は疎水性アミノ酸、好ましくはM、L、IまたはV、より好ましくはMであり;
− X5は荷電した側鎖(好ましくは塩基性側鎖)を有するアミノ酸、好ましくはK、RまたはHであり;
− X6は塩基性側鎖を有するアミノ酸、好ましくはKまたはRであり;
− X7は極性親水性アミノ酸、好ましくはK、R、E、H、D、N、Q、SまたはT、より好ましくはHまたはTであり;X7は好ましくは荷電した側鎖を有するアミノ酸、好ましくは塩基性側鎖を有するアミノ酸であり、特に好ましくはK、R、E、H、D、NまたはQであり;
− X8は1個以上のアミノ酸であるかまたは不在である。X8は好ましくは塩基性側鎖を有するアミノ酸またはセリンであり、特に好ましくはH、S、RまたはKであり;
− Y3およびY4は各々不在であるかまたは細胞侵入部分を含む配列を含むペプチドであり、その結果、Y3およびY4のうちの少なくとも1つは存在し;
ここで上記ペプチドの少なくともN末端アミノ酸およびC末端アミノ酸がD型立体配座にあるか;あるいはその機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントである。
上記配列において、X1〜X5はヘキサペプチド配列を形成する。式(II)の好ましいペプチドは式:
Y3WYPWMKKHHY4 (配列番号4)
またはその機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントを有し、ここでY3およびY4は本明細書中に定義されるとおりである。従って上記配列X1〜X8は、WYPWMKKHHまたはWYPWMKKHHRであり得る。
上記配列X1〜X8は、配列WYPWMKKHHのバリアントであり得、例えば、1個、2個、3個、4個以上のアミノ酸が上記式(II)の制限内で変動されるバリアントであり得る。例えば、位置X1のWは、不在であってもよいし、T、PE、KQI、VV、PQT、HまたはRIのうちのいずれか1つで置換されてもよい;位置X2のYは、芳香族側鎖を有する別のアミノ酸、好ましくはFまたはWで置換されてもよい;位置X3のPは、Dにより置換されてもよい;位置X4のMは別の疎水性アミノ酸、好ましくはL、IまたはVにより置換されてもよい;位置X5のKは荷電した側鎖を有する別のアミノ酸、好ましくはD、RまたはH、より好ましくはRにより置換されてもよい;位置X6のKは塩基性側鎖を有する別のアミノ酸、好ましくはRにより置換されてもよい;位置X7のHは別の極性親水性アミノ酸、好ましくはK、R、E、D、N、Q、SまたはT、より好ましくはTにより置換されてもよい;位置X8のHは他のいずれかの1個以上のアミノ酸により置換され得るか、または不在であってもよく、例えばX8はTであり得るかまたは不在であり得る。これらの置換のうちのいずれか1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つは、上記式(II)の範囲内にある代替ペプチドを作製するために実施することができる。
位置X2およびX4〜X8におけるアミノ酸置換が好ましく、好ましくは、位置X4〜X8のうちの1個、2個、3個または4個のアミノ酸置換である。例えば、1実施形態において、上記式(II)における残基X1〜X8は:
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R/D;X6=K/R;X7=H/T;X8=任意のアミノ酸または不在
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R/D;X6=K/R;X7=H/T;X8=H/HR/T/G/不在
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R;X6=K/R;X7=H/T;X8=H/HR/T/不在
− X1=W;X2=Y;X3=P;X4=M/I/V/L;X5=K/R;X6=K/R;X7=H/T;X8=任意のアミノ酸または不在
であり得る。
これらのバリアントX1−X8配列のうちのいずれかは、本明細書中に記載されるY3および/またはY4残基のいずれかと組合わせて使用され得る。例えば、本明細書中に記載されるX1−X8配列のいずれかは、C末端、N末端またはその両末端に、(Arg)6-12ペプチド(例えば(Arg)7ペプチド、(Arg)8ペプチドまたは(Arg)9ペプチド)が結合した状態で使用できる。あるいは、本明細書中に記載されるX1−X8配列のうちのいずれかは、C末端、N末端または両方の末端にペネトラチン(penetratin)ペプチド(例えば、以下に記載されるもの)が結合した状態で使用することができる。
本明細書中で使用される場合、”細胞侵入部分”とは、この部分が結合した分子が細胞内へ進入するのを補助または促進する分子、構造物または分子集合を指す。種々のこのような部分は、当該分野で周知であり、ペネトラチン、tat由来タンパク質、細胞への進入を可能にするペプチドシグナル配列、このようなシグナルを含むペプチド、ならびに合成および/またはキメラの細胞侵入性ペプチド(例えば、トランスポータン(transportan)またはモデルの両親媒性ペプチド)が挙げられる(Lindgrenら、2000、TiPS、21、p99−103およびDerossiら、1998、Trends C.Biol、8、p84〜87)。細胞に進入可能である非ペプチド分子もしくは物質もまた、使用することができる。好ましくは、上記細胞侵入部分は、レセプター非依存性の機構により作用する。分子が細胞へ進入することを可能にし得るか、またはこれを補助し得る任意の物質(例えば、本発明のペプチド)を使用することができる。この部分は一般的に、種々の細胞型に進入することができる作用性物質であり得るか、または処置されるべき特定の細胞型に特異的であり得るか、もしくは細胞型を標的化することができる。
細胞侵入部分は、ペプチドX1〜X8に直接連結され得るか、または1個以上のアミノ酸のリンカー配列を介して結合され得る。このリンカー配列は位置X8においてアミノ酸を含み得る。あるいは、細胞侵入部分はペプチドX1〜X8と会合できる。例えば、リポフェクションのためのリポソームまたはポリカチオンもしくはカチオン性脂質を使用することによって、このペプチドを、例えばカプセル封入することができるし、またはこのペプチドと複合体を形成することができる。本明細書中で使用される場合、「と会合する」とは、ペプチドに結合されている部分または何らかの方法で繋がれている部分を指す。
1実施形態において、Y3および/またはY4は、上記の塩基性アミノ酸のカチオン性ポリマーを含んでもよいし、またはこれより構成されていてもよい。上記の任意のこのようなカチオン性ポリマーは、本発明のこの実施形態において使用され得る。例えば、Y3および/またはY4は、ポリアルギニン配列、例えば(Arg)9を含んでいてもよいし、またはこれより構成されていてもよい。
代替の実施形態において、上記細胞侵入部分は、以下の一般式(配列番号20)を有するペネトラチン配列に基づくペプチドを含むか、またはこれより構成される:
X9QX10X11X12WFQNX13X14MX15WX16X17
ここで、X9はRもしくはQ、または不在であり;
X10、X12はそれぞれ独立してIまたはLであり;そして
X11、X13、X14、X15、X16およびX17は各々独立してKまたはRである。
特に好ましくは、上記バリアントは、形態:
を有する。
特に好ましいペプチドは、配列:
WYPWMKKHHRQIKIWFQNRRMKWKK (配列番号10)
またはその機能的に等価な誘導体、バリアントもしくはフラグメントを有する。代替のペプチドは、配列WYPWMKKHHRQIKIWFQNRRMKWKを有する。
式(II)のペプチドにおいて、2個以上のアミノ酸がD型立体配座にある。好ましくは、少なくともN末端のアミノ酸およびC末端のアミノ酸は、D型立体配座にある。1個、2個、3個、4個、5個以上のさらなるアミノ酸もまたD型アミノ酸であり得る。例えば、位置X8におけるアミノ酸または位置X8に隣接したアミノ酸は、D型アミノ酸であり得るか、またはD型アミノ酸を含み得る。ペプチド中の全てのアミノ酸がD型立体配座であってもよい。1実施形態において、N末端アミノ酸およびC末端アミノ酸は、D型アミノ酸であり、残りのアミノ酸はL型アミノ酸である。必要に応じて、位置X2〜X4におけるアミノ酸は、L型立体配座にある。1実施形態において、少なくともN末端アミノ酸およびC末端アミノ酸は、D型アミノ酸であり、そして位置X2〜X4のアミノ酸はL型アミノ酸である。
「機能的に等価な」誘導体、バリアントまたはフラグメントとは、本発明のペプチドに関係するペプチド、または本発明のペプチドから誘導されるペプチドを指し、この場合、そのアミノ酸配列は、例えば修飾アミノ酸の使用によるか、または1つもしくは複数のアミノ酸(例えば、1〜10残基、例えば1〜5残基、好ましくは1または2残基の)置換、付加および/または欠失によって改変されたが、それにもかかわらず機能活性を維持するペプチドである。例えば、配列番号6、配列番号7および配列番号10の特定のペプチドの機能体に等価な誘導体は、HOX模倣物として作用する能力を維持でき、これによってHOXタンパク質とPBXタンパク質(好ましくはPBX1またはPBX2)との間の相互作用をアンタゴナイズすることができる。このような相互作用は、通常の研究室の技術を使用して評価することができる。このような1つの方法は、実施例2において詳説される。(Arg)x配列またはペネトラチン配列の機能的に等価な誘導体は、例えば結合したペプチドの細胞内への進入を可能にすることによって、細胞侵入部分としての活性を維持し得る。このような能力はまた、一般的に公知の技術(例えば実施例1に記載される技術)によって評価することができる。
配列番号6のペプチドまたは配列番号7のペプチドの好ましい機能的に等価な誘導体、バリアントまたはフラグメントは、配列番号1の配列の範囲内にあるか、または配列番号1の配列を含む。(Arg)9の好ましい機能的に等価な誘導体、バリアントまたはフラグメントは、上記のY1および/もしくはY2の配列の範囲内にある。配列番号10のペプチドの好ましい機能的に等価な誘導体、バリアントまたはフラグメントは、配列番号2の配列の範囲内にあるか、または配列番号2の配列を含む。ペネトラチン配列の好ましい機能的に等価な誘導体、バリアントまたはフラグメントは、配列番号20の配列の範囲内にあるか、または配列番号20の配列を含む。
「付加」の意味内で、バリアントには、そのペプチド配列に融合された付加タンパク質または付加ポリペプチドを含む、アミノ末端融合のタンパク質もしくはポリペプチド、および/またはカルボキシル末端融合のタンパク質もしくはポリペプチドが含まれる。
上述のように、ペプチドは、好ましくはN末端またはC末端において、さらなる部分で置換することができる。このような部分は、そのペプチドの機能、その標的化または合成、捕捉または識別(例えば、標識(例えばビオチン)または脂質分子)を補助するために付加され得る。あるいはこのような部分は、ペプチド自体の内部に見出される場合もある。例えば、標識のような部分は、ペプチドの内側に位置付けられるアミノ酸に結合することができる。例えば、X8はこのような部分の全てまたは一部を含んでもよいし、またはこの部分はY1、Y2、Y3および/またはY4の一部を形成していてもよいし、もしくはY1、Y2、Y3および/またはY4の内に位置付けられていてもよい。
「置換」バリアントには、好ましくは、同数のアミノ酸による1つ以上のアミノ酸の置換、および保存的アミノ酸置換を作製することが挙げられる。例えば、アミノ酸は、類似の特性を有する代替のアミノ酸(例えば、別の塩基性アミノ酸、別の荷電したアミノ酸、別の親水性アミノ酸、または別の脂肪族アミノ酸)により置換することができる。主要な20種のアミノ酸のいくつかの特性は以下である:
好ましい「誘導体」または「バリアント」としては、天然に存在するアミノ酸の代わりに、その配列中に現れるアミノ酸が、そのアミノ酸の構造的アナログであるものが挙げられる。配列中に使用されるアミノ酸はまた、そのペプチドの機能が大して悪影響されない限り、誘導体化されていてもよいし、修飾(例えば、標識化)されていてもよい。
上記の誘導体およびバリアントは、ペプチド合成の間または生成後の修飾により調製されてもよいし、あるいはそのペプチドが既知の技術(部位特異的変異誘発、ランダム変異誘発、または核酸の酵素切断および/もしくはライゲーション)を使用する組換え形態である場合に調製することができる。
本発明に従う、機能的に等価な「フラグメント」は、例えばN末端および/またはC末端からの1個以上のアミノ酸の除去により、切り詰めること(truncation)により作製することができる。このようなフラグメントは、配列番号1の配列もしくは配列番号2の配列から誘導することもできるし、または上記の機能的に等価なペプチドから誘導することもできる。好ましくは、このようなフラグメントは、6〜30残基の間の長さ、例えば6〜25残基または10〜15残基である。
好ましくは、本発明に従う機能性バリアントは、70%を超える相同性、例えば75%または80%の相同性、好ましくは85%を超える相同性、例えば90%または95%を超える相同性を、例えば配列番号6、配列番号7または配列番号10に対して有するアミノ酸配列を有する(以下に記載される試験に従う)。
アミノ酸配列と接続した、「配列同一性」とは、以下のパラメーターを用いてClustalW(Thompsonら、1994、前述)を使用して評価する場合に所定の値を有する配列を指す:
ペアワイズアラインメント(Pairwise alignment)パラメーター−方法: 正確、マトリックス:PAM、ギャップ空きペナルティー(Gap open penalty):10.00、ギャップ伸長ペナルティー(Gap extension penalty):0.10;
多重アラインメントパラメーター(Multiple alignment parameters)−マトリックス:PAM、ギャップ空きペナルティー:10.00、延長(delay)に対する同一性%:30、末端ギャップに対するペナルティー付与:オン、ギャップ分離距離:0、ネガティブマトリックス(Negative matrix):なし、ギャップ伸長ペナルティー:0.20、残基特異的ギャップペナルティー(Residue-specific gap penalties):オン、親水性ギャップペナルティー:オン、親水性残基:GPSNDQEKR。特定残基における配列同一性は、単純に誘導化された残基を同一の残基に含むことが意図される。
本明細書中に規定されるように、本発明のペプチドは、化学修飾、例えば翻訳後修飾され得る。例えば、それらペプチドは、グリコシル化されてもよいし、または修飾アミノ酸残基を含んでいてもよい。それらペプチドは、種々の形態のポリペプチド誘導体であり得、アミドおよびポリペプチドとの結合体が挙げられる。
化学修飾されたポリペプチドとしてはまた、側鎖官能基の反応によって化学的に誘導体化された1つ以上の残基を有するものが挙げられる。このような誘導体化された側鎖基としては、アミン塩酸塩、p−トルエン硫酸基、カルボベンズオキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基およびホルミル基を形成するように誘導体化された側鎖基が挙げられる。遊離カルボキシル基は、塩、メチルエステルおよびエチルエステルもしくは他の型のエステル、またはヒドラジンを形成するように誘導体化することができる。遊離ヒドロキシル基は、O−アシル誘導体またはO−アルキル誘導体を形成するように誘導体化することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−im−ベンジルヒスチジンを形成するように誘導体化することができる。
また、化学修飾されたペプチドとしては、20種の標準アミノ酸の内の1つ以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含むものが挙げられる。例えば、4−ヒドロキシプロリンが、プロリンの代わりに置換されていてもよいし、またはホモセリンがセリンの代わりに置換されていてもよい。
本発明のペプチドは、顕在性の標識を有することができる。適切な標識としては、放射性物質(例えば、125I、32Pまたは35S)、蛍光性標識、酵素標識、または他のタンパク質標識(例えば、ビオチン)が挙げられる。
本発明に従う使用のための上記のペプチドは、従来の合成様式(遺伝子的手段または化学的手段が挙げられる)により調製することができる。合成技術(例えば、固相メリフィールドMerrifield)型合成)が、純度、抗原特異性、不要な副産物を含まないこと、および生産容易性の理由のため好ましい。固相ペプチド合成に適切な技術は、当業者に周知である(例えば、Merrifieldら、1969、Adv.Enzymol 32、221−96およびFieldsら、1990、Int.J.Peptide Protein Res、35、161−214を参照のこと)。化学合成は、末端アミノ酸の官能基の選択的脱保護および選択的に保護されたアミノ酸残基のカップリング、その後最後の全ての官能基からの完全な脱保護のサイクル式反応セットを包含する分野において、周知の方法により実施され得る。
合成は、液体中で、または当該分野で公知の適切な固相を使用する固体支持体上で実施することができる。
代替の実施形態において、本発明のペプチドは、それをコードするポリヌクレオチドまたはそれを発現できるポリヌクレオチドの形態で作製され得るかまたは送達され得る。このようなポリヌクレオチドは、Sambrookら(1989、Molecular Cloning−a laboratory manual;Cold Spring Harbor Press)の例に記載される、当該分野で周知の方法に従って合成することができる。このようなポリヌクレオチドは、本発明のペプチドの生産において、インビボまたはインビトロで使用することができる。従って、このようなポリヌクレオチドは、癌または本明細書中に記載される別の疾患もしくは別の状態の処置のための医薬の製造において、投入される場合もあるし使用される場合もある。
本発明はまた、このようなポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターも包含する。このような発現ベクターは、分子生物学の分野で慣用的に構築され、そして例えばプラスミドDNAならびに適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサーおよび他のエレメント(例えば、本発明のペプチドの発現を可能にするために必要であり得、かつ正確な方向に配置されるポリアデニル化シグナル)の使用を含み得る。他の適切なベクターは、当業者に明らかである。このことに関するさらなる例として、本出願人らはSambrookらを参照する。
従って、ペプチドは、このようなベクターを細胞に送達し、そしてそのベクターからの転写が生じることを可能にすることによって提供することができる。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明における使用ためのポリヌクレオチドは、ベクター中で、宿主細胞によるコード配列の発現をもたらし得る制御配列に作動可能に連結される。すなわち、ベクターは発現ベクターである。用語「作動可能に連結される」とは、述べられた成分が、それら成分が意図した様式で機能できるようにする関係にある、近位であることを指す。調節配列、例えばコード配列に「作動可能に結合された」プロモーターは、コード配列の発現が調節配列と適合する条件下で達成されるような方法で配置される。
ベクターは、例えば、複製起点、必要に応じて前記ポリヌクレオチドの発現ためのプロモーターおよび必要に応じてそのプロモーターの調節因子を有して提供される、プラスミド、ウィルスまたはファージベクターであり得る。このベクターは、1個以上の選択可能なマーカー遺伝子、例えば細菌プラスミドの場合にはアンピシリン耐性遺伝子または真菌性ベクターには耐性遺伝子を含有し得る。ベクターはインビトロで、例えばDNAもしくはRNAの生成に使用できるか、または宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)をトランスフェクトもしくは形質転換するために使用できる。このベクターは、例えばポリペプチドのインビボ発現を可能にするためにインビボで使用するのにも適し得る。
プロモーターおよび他の発現調節シグナルは、発現が設計される宿主細胞と適合するように選択され得る。例えば酵母プロモーターとしては、S.cerevisiae GAL4プロモーターおよびADHプロモーター、S.pombeのnmt1およびadhプロモーターが挙げられる。哺乳類プロモーター、例えばb−アクチンプロモーターが使用できる。組織特異的プロモーターが特に好ましい。哺乳類プロモーターとしては、重金属(例えば、カドミウム)に応答して誘導できるメタロチオネインプロモーターが挙げられる。ウィルス性プロモーター、例えばSV40ラージT抗原プロモーター、アデノウイルスプロモーター、モロニーマウス白血病ウィルスのロングターミナルリピート(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のLTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、アデノウイルス、HSVプロモーター(例えばHSV IEプロモーター)、またはHPVプロモーター、特にHPV上流制御領域(URR)も使用できる。これらのプロモーターはすべて、当該分野で容易に利用可能である。
本発明はまた、本発明のペプチドを発現するように改変された細胞も包含する。このような細胞としては、一過的または好ましくは安定なより高等真核細胞株(例えば、哺乳動物細胞または昆虫細胞)、より下等な真核細胞(例えば、酵母)または原核細胞(例えば細菌細胞)が挙げられる。本発明のペプチドをコードするベクターの挿入によって改変され得る細胞の具体例としては、哺乳動物のHEK293T細胞、CHO細胞、HeLa細胞およびCOS細胞が挙げられる。好ましくは、選択された細胞株は、安定であるだけでなく、ポリペプチドの成熟グリコシル化および細胞表面発現も可能にする細胞株である。発現は、形質転換された卵母細胞において実現できる。適切なペプチドは、トランスジェニック非ヒト動物、好ましくはマウスの細胞において発現され得る。本発明のペプチドを発現するトランスジェニック非ヒト動物は、本発明の範囲内に包含される。本発明のペプチドはまた、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞またはメラニン保有細胞でも発現させることができる。
本発明は、本明細書中で先に定義されたようなペプチドに向けられる抗体(モノクローナル又はポリクローナル)およびその抗原結合断片、すなわちペプチド上に存在するエピトープに結合し、この結合によってこのようなペプチドに選択的かつ特異的に結合して、本発明の方法で使用できる抗体(モノクローナル又はポリクローナル)およびその抗原結合フラグメント(例えば、F(ab)2、FabおよびFv断片、すなわち抗原結合部位を含む、抗体の「可変」領域のフラグメント)にまで及ぶ。
本発明のペプチドは上述のように、PBXとHOXとの間の相互作用を特異的にブロックすることができる。実施例で示すように本発明のペプチドは、広範囲にわたる癌細胞タイプの増殖を除去または低減することが見出されている。これらの変更に伴って、多くの既知HOX遺伝子標的の下方制御(ダウンレギュレーション)が観察できる。従って、以下でさらに詳細に述べるように、本発明のペプチドは、他の癌治療法の間または幹細胞培養物のエクスビボでの保護の場合の細胞保護剤として、HOX遺伝子が発現される癌の処置において治療上の用途を有し得る。
上述のペプチドは、PBXとその結合パートナー(例えば、HOX)との相互作用をブロックし、それによって好ましくはHOXがその標的DNAに結合することを妨げるのに使用できる。従って、さらなる局面において、本発明は、PBXが結合パートナー(好ましくはHOX)に結合するのを低減もしくは阻害するための本明細書中に記載したペプチドの使用、またはHOXがその標的DNAに結合するのを低減もしくは阻害するためのこのペプチドの使用を提供する。
「PBX」とは、プレB細胞トランスフォーメーション関連遺伝子のファミリーを指し、extradenticleホメオプロテインタンパク質およびショウジョウバエextradenticle遺伝子のホモログをコード化する遺伝子(例えば、脊椎動物の遺伝子)が挙げられる。脊椎動物PBXタンパク質は、ホメオドメインを含有する転写因子である(Mannら、1996)。
「HOX」とは、約60アミノ酸のホメオドメインをコードする配列およびホメオドメインに対してN末側のヘキサペプチド配列をコードする配列を含有するホメオボックス遺伝子を指す(Morganら、2000、TIG、16(2)p66-67及びKrumlauf、1994、Cell、78(2)p191-201)。HOXタンパク質は、発生初期において腹側−背側発生を規定するために作用する転写因子である。このようなPBX遺伝子もしくはHOX遺伝子または本明細書中に記載するタンパク質としては、任意の多細胞動物中に存在するホモログが挙げられるが、好ましくは脊椎動物由来のもの(例えば、哺乳類由来のもの)、特に好ましくはヒト由来のものが挙げられる。
本明細書で述べられる場合、「結合」とは、可逆性または非可逆性反応における少なくとも2個の部分の相互作用または会合を指し、ここでこの結合は、好ましくは特異的かつ選択的である。
本明細書で使用される場合、「結合パートナー」とは、その結合パートナーを認識して特異的に(すなわち他の分子への結合に優先して)結合する分子を指す。このような結合対は、一緒に結合される場合に複合体を形成する。
「結合の低減」は、例えば、結合を達成するのに必要な結合対の一方の濃度上昇によって明らかになるような、結合の減少を指す。低減とは、特異的結合のわずかな減少、および完全な排除を包含する。特異的結合の全体的な低減は、結合の防止と同等と見なされる。「阻害」とは、結合パートナーの結合をペプチドにより競合的阻害することを指し、このことはパートナーの結合を低減させる役割を果たす。PBX依存性転写調節を防止または低減する因子は、本明細書で述べるような異常な細胞分裂に対して有利な効果を持つことが見出されている。このような因子は、好ましくは、PBXがその結合パートナーに結合すること、特に好ましくはPBXとHOXとの間の結合を防止、低減または阻害する因子(例えば、HOXとPBXとの間の相互作用のアンタゴニスト、例えば本明細書中で先に記載したペプチド)である。しかしながら、適切な因子としてはまた、転写因子がその標的DNAに結合することに影響する因子、例えばPBXまたはその結合パートナー(例えばHOX)が標的DNAに相互作用することを遮断する因子が挙げられる。特に好ましくは、このような因子は、HOX依存性転写調節を妨げる。
理論に縛られることを望まないが、HOX:PBX結合のアンタゴニストは、複数の重要なHOX:PBXタンパク質結合パートナー間の相互作用を妨げ、これによってHOXタンパク質が、これらの結合する遺伝子に対して転写因子として作用できないと考えられる。これらの遺伝子の発現を調節できないことは、細胞に対して多くの効果(例えば、過剰な細胞分裂を低減又は防止すること)を有し得る。同様にPBX依存性転写調節を防止または低減する部分、例えばHOXとその標的DNAとの相互作用をブロックする部分は、いずれも、同様の効果を有すると予想することができる。
したがって、さらなる局面において、本発明は異常な細胞分裂を低減する方法を提供し、その方法において、この細胞は、PBX依存性転写調節を防止もしくは低減する因子(好ましくはPBXが結合パートナー(好ましくはHOX、好ましくはHOXB4、HOXB8又はHOXA9)に結合することを防止もしくは低減する因子)、またはHOXがその標的DNAに結合するのを防止もしくは低減する因子を与えられ、好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの相互作用のアンタゴニスト、特に好ましくは本明細書中に記載されるペプチド(及び好ましくはHOX依存性転写調節を阻害するペプチド)を与えられる。
この目的に好適な因子としては、HOX及び/又はPBXとこれらが結合するDNA標的との間の相互作用のアンタゴニスト、PBXとその結合パートナー(特にHOXタンパク質)と間の相互作用のアンタゴニスト、あるいはHOX/PBX又は標的DNAの結合能力を阻害する因子(例えば、関連部位をブロックする因子、あるいはHOX/PBX又は標的DNAの関連部位において構造上の変化を引き起こす因子、あるいは結合に利用できる分子の数を低減する(例えばPBX/HOXの発現/発現生成物を修飾することによって達成できる)因子)が挙げられる。しかしながら、好ましくは、アンタゴニストが利用される。好ましい因子は、上述のような本発明のペプチドである。
本明細書で述べる場合、「異常な細胞分裂」とは、存在する条件下で適当と見なされる正常レベルを超えた細胞分裂(すなわち正常でない細胞分裂)を指す。異常な細胞分裂のマーカーは、当業者に周知であり、特定の細胞に効果が及んだかどうかを決定するために使用できる。例えば異常な細胞分裂を起こしている細胞は、異型細胞診断、例えば細胞多形態性(cellular pleomophism)、核多形態性、核過色素性(hyperchromatism)又は核:細胞質比の上昇を示し得る。異常な細胞分裂を起こしている細胞は、細胞分化の失敗を示し得る。より詳細には、このような異常な細胞分裂は、以下で述べるような特定の状態または疾患/障害(例えば、癌)において存在し得る。
細胞分裂の「低減」とは、細胞増殖の速度の低減を指す。好ましくは細胞増殖は、コントロールの増殖(因子なし)と比較して、同じ期間にわたって0.5未満、特に好ましくは0.25未満、例えば0.1未満まで低減される(ここで、コントロールの増殖=1)。好ましい局面において、低減された細胞分裂は、細胞増殖の低減に加えてか、または細胞増殖の低減の代わりに起こり得る、細胞死/生存率の欠如を包含する。細胞死が起こる場合、好ましくは50%を超える既存の細胞、好ましくは75%を超える細胞が破壊される。
実施例によって示されるように、使用される因子の用量を調節することによって、一部の悪性腫瘍を完全に除去することも可能である。したがって本発明のペプチドは、癌細胞の増殖を遅延させるか、または癌細胞を完全に破壊するために使用できる。以下でさらに詳細に説明するように、好適な用量は多くの要因に依存し、熟練した医師によって決定できる。
本明細書で述べる場合、「PBX依存性転写調節」とは、PBXが中心的な役割を果たすプロセス、例えば転写調節複合体における補助因子として作用するプロセスによる、遺伝子の転写の活性化又は抑制を指す。防止又は低減とは、転写の程度の測定可能な変化を指す。防止は、転写における検出不能なレベルへの低減と同等である。
「標的DNA」とは、PBX、HOX又はこのようなタンパク質を含む転写調節複合体のうちの任意のメンバーが結合する調節領域を含有する遺伝子を指す。本明細書で言及する場合、「アンタゴニスト」とは、結合対の一方の分子への構造類似性のために、結合対のもう一方の分子への結合に関してその分子と競合する、分子又は分子複合体である。本発明で使用されるアンタゴニストとしては、これらの実体の間の結合を防止又は低減する、HOXとPBXとの相互作用のアンタゴニストが挙げられる。好ましいアンタゴニストは、これらの分子がHOXもしくはPBXの結合部位に結合するか、又はHOXもしくはPBXの結合部位と競合する、ペプチド、抗体又は抗イディオタイプである。好ましくはアンタゴニストは、HOX上のPBX結合部位(すなわちPBX結合性)を模倣することによって競合する(例えば、上述したようなペプチド)。
他のアンタゴニストとしては、HOXとその標的DNAとの結合を防止又は低減するアンタゴニストが挙げられる。HOXタンパク質は、その標的DNA上の6塩基対のコンセンサス配列NNATTAに結合することが公知であり、この結合のアンタゴニスト、例えばその配列に相補的であるオリゴヌクレオチド(例えば、上記コンセンサス配列の変異性に適応するため、2塩基での変異性を有するオリゴヌクレオチドのセット)は、上記の目的に好適な薬剤である。
このような方法は、インビトロ、インビボ又はエクスビボで実施できる。好適には、このような方法は、異常な細胞分裂が起こる状態又は障害(例えば、癌性増殖、または骨髄異形成症候群(MDS)のような非癌性増殖)を処置又は防止するために、インビボで上記因子、好ましくは上述したようなアンタゴニストのヒト又は非ヒト動物への投与によって実施される。言い換えれば、本発明は、異常な細胞分裂が起こる状態又は障害の処置又は防止のための医薬品の製造における、上述したような因子、好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの間の相互作用のアンタゴニスト、例えば上述したようなペプチドの使用を提供する。
本明細書で言及する場合、「障害」又は「疾患」とは、正常な生物と比較して症候性又は無症候性生物において背景となっている病理的障害を指し、例えば感染または後天性もしくは先天性の遺伝的欠陥から発生する場合がある。
「状態」とは、疾患、例えば体内での成分(例えば、毒素、薬物又は汚染物質)の存在によって発生しているものではない、生物の精神状況または身体状況を指す。
本明細書で定義する場合、「処置」とは、処置前の症状と比較して、処置される状態又は障害の1以上の症状を低減、緩和又は排除することを指す。処置は、処置される状態又は障害を有するかまたはこれらに罹患した患者の状態を改善することを包含する。例えば、影響を受け得る症状としては、所与のサンプル中の腫瘍サイズ又は癌細胞数(あるいは以下で述べるように、幹細胞数の低減)が挙げられる。
状態又は障害の「防止」とは、上記状態又は障害の1以上の症状の出現又は程度によって評価されるような、状態もしくは障害の発生を遅延または防止すること、あるいはその重篤度を低減することを指す。
本方法をインビボで実施することの代替として、本方法は、サンプル中で異常な細胞増殖を起こしている細胞の細胞分裂を低減するか、又は除去するため、インビトロで実施できる。適当な培養条件は、以下で述べる本発明の他の方法について記載されるとおりである。
このことは正常及び異常な細胞の両方を含む細胞サンプルにおいて特に有用であり、この方法では、異常な細胞は制御/除去され、正常細胞を含むサンプルを続く手順に使用することができる(例えば、ドナーの体内に戻される)。このことは例えば、患者の血液サンプル(例えば、白血病細胞)から異常な造血性血液細胞を除去するのに有用である場合があり、次いで残りの細胞はその患者の体内に戻すことができる。
したがって、なおさらなる局面において、本発明は、サンプル中の細胞において異常な細胞分裂を低減する(好ましくは増殖を低減する、好ましくは癌細胞の死に影響を与え、これによって癌細胞数を低減させる)方法を提供し、この方法では、上述した因子が前記サンプルに与えられる。異常な細胞分裂を特徴とする障害又は状態に罹患する患者を処置する(又はそれを防止する)ための方法において、サンプルがその患者から収集され、次いで以下で述べるように、その患者に戻すことができる。この状況において、「サンプル」は、ヒト又は非ヒト動物(その動物の胚性段階、胎性段階、未熟段階及び成体段階を包含する)から取得される任意の材料をさし、その材料は異常な細胞分裂を受けている細胞を含んでおり、そして組織及び体液が挙げられる。この場合の「体液」としては、特に血液、髄液及びリンパが挙げられ、そして「組織」としては、手術又は他の手段によって取得される組織が挙げられる。
好ましくは、異常な細胞分裂は、任意の真核生物由来の細胞において起こり、この生物は、任意の真核生物、例えばヒト、他の哺乳類及び動物、鳥類、昆虫及び魚類であり得る。
細胞が由来するか、又は本発明の方法が実施され得る好ましい非ヒト動物としては、これに限定されるわけではないが哺乳動物、特に霊長類、家庭内動物、家畜及び実験動物が挙げられる。それゆえ好ましい動物としては、マウス、ラット、ニワトリ、カエル、モルモット、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマが挙げられる。特に好ましくは、細胞はヒトに由来するものであり、そして方法は、ヒトを処置するため、又はヒトにおいて予防的に使用される。
好ましくは、異常な細胞分裂を起こしている細胞は癌細胞であり、処置又は防止される障害は癌である。この方法で処置できる癌は、HOX遺伝子の発現に影響を与える癌であり、ここでこのHOX発現は、本発明のペプチドの活性によって低減され、それゆえ癌性細胞の成長をブロックし、増殖を低減し、又は癌性細胞の死を直接導く。さらなる実施形態において、本発明のペプチドは、癌性細胞に作用してこれら細胞を休眠状態から細胞周期に移動させ、これによってこれら細胞を他の処置(例えば、細胞毒性のある抗癌処置)に一層感受性を高めさせることができる。
好ましくは、処置(処理)されるべき上記細胞は、1種以上のHox遺伝子を発現する。例えば上記細胞は、HOXA1、HOXA3、HOXA4、HOXA5、HOXA7、HOXA9、HOXA11、HOXA13、HOXB1、HOXB2、HOXB3、HOXB4、HOXB8、HOXB9、HOXB13、HOXC4、HOXC6、HOXC8、HOXC10、HOXD3、HOXD4、HOXD8、HOXD9、HOXD10及びHOXD13のうちの1種以上を発現し得る。この細胞は、HOXB4、HOXB8およびHOXA9のうちの1種以上を発現し得る。細胞中のHox遺伝子発現のレベルを、本発明のペプチドに対する細胞の感受性に直接関連付けることができる可能性がある。したがって、本発明のペプチドは、高レベルのHOX遺伝子発現(例えば、周囲組織よりも高レベルのHOX遺伝子発現、又は細胞が癌細胞である場合の他の癌のタイプよりも高レベルのHOX遺伝子発現)を示す細胞の処置に、より効果的である。本発明の方法はそれゆえ、処置されるべき細胞がHox遺伝子発現のこのような上昇したレベル又はより高いレベルを示す場合に特に適切である。
好ましくは、上記癌は悪性又は前悪性又は良性の腫瘍であり、この癌としては、癌腫、肉腫、グリオーマ、メラノーマ及びリンパ腫が挙げられ、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳の癌、頭部及び頚部の癌、乳癌、消化管の癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌、並びに白血病及びリンパ腫が挙げられる。特に好ましいのは、結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、胃癌及び非小胞の肺癌である。
それゆえ好ましい局面において、本発明は、ヒト又は非ヒト動物において癌を処置又は予防する方法を提供し、ここでこの動物は因子、好ましくは上述したようなアンタゴニストが投与される。
一部の癌、例えば一部の形態のヒトプレB細胞白血病において、PBXは癌遺伝子として作用し得る。このような癌におけるPBXの効果は、PBXが癌遺伝子でない他の癌タイプにおける効果とは異なる。したがって本発明のペプチド模倣物の効果も異なるであろう。したがって1つの実施形態において、本発明はこのような癌に適用されない。なぜなら、本発明のペプチドの効果は、発明者らが解明したPBX:HOX効果に対する異なる機構によるものであるためである。したがってこの実施形態において、本発明のペプチドは、異常な細胞分裂が起こる癌または他の障害、およびPBXが癌遺伝子として作用しない癌または他の障害の治療又は予防に使用できる。好ましくは、この癌細胞は1種以上のHox遺伝子を発現する。例えば、本発明の方法による処置に好適な癌は、ヒトプレB細胞白血病以外の白血病であり得る。
一部の癌、例えば急性骨髄性白血病(AML)において、本発明のペプチドは癌細胞の増殖をブロックすることができるが、それら細胞をG0/G1休眠状態を離れて細胞周期に入るように刺激することもできる。これらの2つの効果は、同じ条件下の同じ細胞に認められる。このことは、ペプチドによって細胞が惹起されてG0/G1を離れる(すなわち細胞周期に入る)が、それから分裂できず、代わりに分化するか、アポトーシスを受けることによる可能性が高い。本発明のペプチドは原発性AML及び成熟骨髄性白血病の両方の処置に使用できる。このことは、急性骨髄性白血病及びリンパ性白血病での本発明のペプチドの特定の有用性を示唆する。したがって本発明のペプチドを使用したこれらの細胞におけるPBX/HOX相互作用のブロックは、インビボでの白血病細胞増殖を防止するための効果的な処置を形成する。さらに、細胞周期に入る白血病細胞の割合を増加させることによって、本発明のペプチドはまた、他の癌の処置、例えば化学療法に対するその感受性を上昇させることもできる。従って、本発明のペプチドは、以下にさらに記載される別の癌の処置と併用して使用することができる。
PBX依存性転写調節を防止又は低減する因子は、幹細胞に有益な効果を有することも見出されている。
本明細書で言及する場合、「幹細胞」とは、各種の細胞、例えば各種の血液細胞型に分化できる未分化細胞であり、この幹細胞としては、造血性(例えば骨髄で見られる)幹細胞並びに神経幹細胞及び肝幹細胞、胚性幹細胞及び胚性生殖幹細胞が挙げられ、多能性細胞及び全能性細胞を包含する。胚性細胞は、胚盤胞の内細胞塊に由来する細胞と見なされ、胚性生殖細胞は、5〜10週齢胎児の生殖堤の始原生殖細胞から単離される細胞である。好ましくはこの幹細胞は、前に述べたように真核細胞生物に由来している。
PBX媒介性転写調節の防止は(しかし継続の場合)、細胞分裂の低減及び分化の分子マーカー(例えば、CD38)の出現を引き起こす。しかしながら転写調節をブロックする薬剤の除去時に、細胞は、分子マーカーの出現(例えばHOXB4、HOXB8、HOXA9、AC133)によって評価される場合に幹細胞に戻り、これによって細胞の多分化能を反映している。理論に縛られるわけではないが、分化/成熟のマーカーの出現にもかかわらず、因子の投与中には分化の兆候となる表現形の変化は発生せず、その代わりその細胞は細胞周期の速度を著しく低下させたと考えられる。因子の除去時に細胞は幹細胞に戻る。
本発明のペプチドによる多能性造血性幹細胞及び前駆細胞(HSPC)の処置が、その細胞の増殖をブロックし、細胞周期のG0−G1期にある細胞の割合を増加させることもまた考えられる。培養物が長命であることが、推定の幹細胞の効果、およびより分化した前駆体集団の効果を確認している。これらの遺伝子標的に対する本発明のペプチドのこの阻害効果の特異性は、ペプチドを除去すると遺伝子転写及び細胞増殖が再開するという可逆性によって強調される。
これらの結果は、(例えば培養物中での)幹細胞の維持及び増殖が挙げられる多くの用途を有し、例えば、幹細胞の一時的な保管のためであり、その保管期間の拡大を可能にする。そしてこのような細胞は例えば、例えば年齢、疾患(例えば癌又は自己免疫疾患)、先天的因子、環境による影響又は汚染物質及び/又は投与された化学物質によって、例えば幹細胞の数が減少した、及び/又はある分化細胞タイプを生成する能力が低下した患者への、幹細胞の添加が望ましい臨床用途において使用することができる。特に幹細胞は、化学療法又は放射線療法の前に患者から収集して、維持及び/又は拡大させて、化学療法又は放射線療法の後にその患者に戻すことができる。
代替例として、幹細胞は、特定の分化細胞を形成し得る細胞(例えば神経細胞)、特に、好適な幹細胞が存在しないか、又はごく低レベルで存在している成人のレシピエントにおける細胞を提供するために使用できる。幹細胞のレシピエントは、好ましくは、ドナーでもあるが、異なる個体でもよい。したがって本発明のペプチドは、インビトロ又はエクスビボでの培養中に幹細胞を含む移植組織(例えば、骨髄細胞)を保護するために使用できる。
細胞はまた、例えば通常はその生存率に影響し得る処理(例えば、化学療法又は放射線療法)の間に生存率を維持するため、エクスビボ又はインビボで維持できる。本明細書で述べる因子、例えば本発明のペプチドを用いて、幹細胞の細胞周期を一時的に停止又は遅延することによって、このような処理による損傷に対する幹細胞の感受性を低減することができる。例えば、本発明のペプチドを用いて、他の癌処置、例えば多くの化学療法レジュメに関連する細胞毒性ショックによって引き起こされる副作用を低減することができる。本発明のペプチドのインビボでの幹細胞に対する細胞保護効果はまた、生じる副作用の低減により、より高レベル又は高用量のこのような癌処置を可能にし得る。例えば、より高用量の化学療法又は放射線療法が可能であり得る。
従ってさらなる局面において、本発明は幹細胞を維持又は拡大させる方法を提供し、この方法は、その幹細胞に上述したような因子(好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの相互作用のアンタゴニスト、例えば上述したようなペプチド)を接触させる工程を少なくとも含む。この方法は、幹細胞の多能性又は全能性を維持するために使用できる。
好ましくは本方法は、インビトロ又はインビボで培養物において実施され、この場合、本方法はドナーから幹細胞を収集する最初の工程を含み得る。しかしながら、この方法はまた、特に幹細胞損傷を引き起こし得る因子または処置への暴露の間に、個体中の幹細胞数を維持又は向上させるためにインビボでも使用できる。このような状況において、本発明は患者中の幹細胞を維持又は拡大させる方法を提供し、ここで、その患者は上述したような因子、好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの相互作用のアンタゴニスト、例えば上述したようなペプチドを投与される。
細胞を「維持すること」とは、処置(処理)過程又は培養期間の間に開始(例えば収集)された細胞のうちの大部分の生存率を最小限の細胞分裂を伴って維持することを指す。
細胞を「拡大させること(expanding)」とは、処置(処理)過程又は培養の間に細胞数を増加させるための、少なくとも多少の細胞分裂、好ましくはかなりの細胞分裂を指す。
本明細書で言及する「培養」とは、管理された人工環境(すなわち、エクスビボ)おける細胞の増殖又は維持を指す。細胞培養の標準技術は周知である。好ましくは、細胞は、標準的な培養培地中、湿潤雰囲気で、37℃、5%CO2にて培養される。好ましくはこの培養は少なくとも2時間、好ましくは24時間超;例えば24時間〜8週間の間で実施される。
本明細書で使用される場合、「接触させること」とは、例えば培養培地への適用によって、因子をサンプル中の細胞に接近させ、それゆえ細胞への結合を可能にする任意の好適な技術を指す。
細胞が維持又は拡大された後に、因子を除去して、多能性又は全能性を回復することができる。この方法がインビボで実施される場合、このことは、投与を中止し、そして生体に薬剤を除かせることにより達成できる。薬剤はインビトロ又はエクスビボで、例えば洗浄及び新しい培地との交換によって、培養培地から除去される。あるいは、因子は、自然に分解するのを可能にすることによって除去できる。
従って、本発明は、培養物中、好ましくは幹細胞の拡大集団において、幹細胞を維持もしくは拡大させる方法、及び/又は多能性もしくは全能性の幹細胞を取得する方法を提供し、ここでこの方法は少なくとも:
a)培養物中の前記細胞に、上述したようなPBX依存性転写調節を低減又は防止する因子、好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの相互作用のアンタゴニスト、例えば上述したようなペプチドを接触させる工程;
b)この細胞をその因子の非存在下で培養する工程;を含む。ペプチドは培養中に数日以内に分解されるようになり、これによって活性ペプチドが消耗されることに注意すべきである。したがって、工程b)は、分解が発生するのに十分な時間が経過している場合は事前の洗浄を行わずに実施できる。前述したように、好適な培養時間は、少なくとも2時間、好ましくは24時間を超え、例えば24時間〜8週間の間である。
この方法は、ドナーから幹細胞を収集する初期工程を含み得る。本発明のこの方法又は他の方法によって得られた細胞は、医薬品としてのその用途と同様に、本発明のさらなる局面を含む。
上述のインビトロ又はエクスビボでの方法により調製された細胞は次に、このような幹細胞が必要な個体に投与することができる。必要に応じて、この細胞は、移植前に、例えば培養過程中又は移植直前に、例えば遺伝子改変によって、例えば遺伝子移入のため、またはその細胞に以前には存在しかなった機能を導入するため、例えば欠失した因子(例えばアデノシンデアミナーゼ(ADA))を供給することによって遺伝的欠陥を代償するため、修飾できる。
したがって、なおさらなる局面において、本発明は幹細胞が必要な個体を処置する方法を提供し、ここで、上述の方法によって調製された幹細胞がその個体に投与される。
好ましくは、上記幹細胞が必要な個体は、正常レベル又は望ましいレベルより低い幹細胞を有する(又は有するであろう)個体であり、このような状態は、年齢によって、または外的要因(例えば、化学療法又は放射線療法による)の結果として通常存在し得る。特に好ましくは、この幹細胞はレシピエントの個体に由来するものである。
したがって好ましい特徴において、本発明はレシピエントの個体中の幹細胞の数を向上させる方法を提供し、この方法は少なくとも:
a)ドナーから幹細胞を収集する工程;
b)上述した方法に従ってこの幹細胞を培養する工程;
c)この培養幹細胞を上記レシピエントの個体に投与する工程
を包含する。
好ましくは、この方法は、化学療法又は放射線療法を受ける患者の幹細胞数を向上させる方法であって、この方法は少なくとも:
a)化学療法又は放射線療法の前に、その患者から幹細胞を収集する工程;
b)上述した方法に従ってこの幹細胞を培養する工程;
c)化学療法又は放射線療法の完了後に、この培養幹細胞を上記患者に投与する工程
を包含する。
代替として記載したように、上記方法において収集工程a)は不在であってもよく、工程b)は上述した方法に従ってドナーから収集した幹細胞を培養する工程を包含し得る。この幹細胞は、細胞、組織又は体液のサンプルを上記ドナーから取得する工程、および必要に応じてそこからその幹細胞を抽出する工程によって、収集できる。
本明細書で使用される場合、「サンプル」とは、ドナー(例えば、動物の胚性段階、胎性段階、未熟段階及び成体段階を含めた、ヒト又は非ヒト動物)から取得された、幹細胞を含む任意の物質を指し、このサンプルとしては組織及び体液が挙げられる。「体液」としては、血液及び髄液が挙げられる。「組織サンプル」としては、外科的介入により取得された組織(例えば、骨髄又は肝臓)、又は他の手段(例えば、胎盤及び臍帯)によって入手できる組織が挙げられる。細胞が由来する動物、又は本方法が適用される動物は、好ましくは、異常な細胞分裂を低減する方法に関連して上述したとおりである。
本明細書で使用される場合「幹細胞数を向上させる」という言及は、投与が行われる時点で、個体中に存在する数と比較して、添加される幹細胞数(好ましくは添加される特定の種類、例えば造血性幹細胞)を増加させることを指す。したがって、化学療法又は放射線療法を受ける患者の場合、観察された改良点は、化学療法後又は放射線療法後の患者中の幹細胞数にある。改良点はまた、以前に不在であったか、または非常に少数が存在した特定の幹細胞(例えば、神経幹細胞)の追加から成ることもある。
代替として明示したように、本発明は、幹細胞の必要性を特徴とする状態又は障害の処置又は予防のための医薬品の調製における因子(好ましくは上述したようなアンタゴニスト)の使用を提供する。それは、好ましくは例えば化学療法又は放射線療法に起因する幹細胞数が正常よりも低い状態又は障害の処置又は予防におけるものであり、あるいは幹細胞の供給が目的とする部位において不在であるか、又は異常に少数で存在するかまたは所望するよりも少数で存在する1種以上の特定の分化細胞の生成を可能にし得る状態におけるものである。
幹細胞数が正常よりも少ない状態又は障害としては、自己免疫障害、放射線療法、化学療法及び特定のウィルス感染が挙げられる。移植による幹細胞の使用によって、不在もしくは正常よりも少数で存在するか、または所望するよりも少数で存在するような適切な分化細胞が提供され得る状態としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び他の加齢性障害又は状態(美容整形術を含む)、多発性硬化症、脊髄損傷、糖尿病、慢性心臓疾患、末期腎臓疾患、肝臓障害が挙げられ、ここで、幹細胞は、破壊された細胞又は機能不全細胞と置換するために使用される。このような状態又は障害の防止は、上述したような因子の使用によって、幹細胞を保護状態で維持することによって達成できる。
本発明は、上述のように、幹細胞の必要性を特徴とする状態又は障害を処置するための医薬品の調製において、上述の方法によって調製された細胞を使用することをさらに提供する。
異常な細胞分裂に対する上述の因子の効果により、そのような異常な細胞を含有する幹細胞のサンプルでさえも使用でき、そして幹細胞を拡大させながらその異常な分裂を低減する二重効果が達成できることに注意すべきである。それゆえ上述の因子は、正常な幹細胞/前駆細胞を保護し、一方で異常な細胞増殖を起こしている細胞を除去するために、インビトロ、エクスビボ又はインビボで使用できる。これは特に、例えば白血病/リンパ腫を治療する場合に、造血性細胞に利用可能である。
したがって、さらに好ましい局面において、本発明は、ヒト又は非ヒト動物において、異常な細胞分裂が発生する状態又は障害(例えば、癌)を処置又は予防する方法を提供し、この方法は因子、好ましくは上述したようなアンタゴニストを投与する工程を包含し、この因子は、上記異常な細胞分裂を低減することと、上記動物の幹細胞を維持又は拡大させることの両方が可能である。
上述のように、PBX依存性転写調節を低減又は防止する因子、特にHOX:PBXアンタゴニスト及び特に上述したペプチドは、種々の臨床用途を有し、それゆえ本発明のさらなる局面は、このような因子を含有する医薬組成物を提供する。これら因子の医薬品としての使用は、本発明のさらなる局面を形成する。
したがって、さらなる局面において、本発明は、上述したようなPBX依存性転写調節を低減又は防止する因子、好ましくはアンタゴニスト、特に好ましくはHOXとPBXとの間の相互作用のアンタゴニスト、例えば本明細書で述べるようなペプチド、またはこのようなペプチドを発現できるポリヌクレオチド又はベクター、及び薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤又はキャリアを含む医薬組成物を提供する。
医薬品として使用するため、好ましくは異常な細胞分裂を特徴とする障害もしくは状態、または幹細胞の必要性を特徴とする障害もしくは状態(例えば本明細書中に記載される状態)の処置または防止に使用するための本明細書中に記載される医薬組成物、およびこのような組成物を使用する処置又は予防の方法、およびこのような障害又は状態を処置又は防止する医薬品の調製のための上記因子の使用は、本発明のさらなる局面を形成する。
本明細書中で言及する場合、「薬学的に許容可能である」とは、組成物の他の成分と適合性であり、かつレシピエントに生理的に許容可能である成分を指す。
本発明による医薬組成物は、容易に入手できる成分を使用して従来の方法で処方できる。したがって、従来の生薬調製物(例えば錠剤、丸薬、粉剤、口内錠、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル、懸濁物、エマルジョン、溶液、シロップ、エアゾール(固体として、又は液体溶媒中)、軟膏、軟質及び硬質のゼラチンカプセル、座薬、滅菌注射用溶液、滅菌包装粉剤など)を生産するため、活性成分(例えば、ペプチド)は、必要に応じて他の活性物質と共に、1種以上の従来のキャリア、希釈剤及び/又は賦形剤と共に含めることができる。
組成物はさらに、上述のような因子(好ましくはペプチド)の作用を補助又は増強する分子、例えば細胞傷害性因子、例えば代謝拮抗物質、アルキル化剤、細胞傷害性抗生剤、トポイソメラーゼI及び/又はIIインヒビター、ビンカアルカロイドならびにモノクローナル抗体を含み得る。
必要な場合、組成物はまた、活性成分に結合した標的化部分、例えば特定の細胞型又は特定の位置への標的化(例えば、リンパ球、単球、マクロファージ、内皮細胞、上皮細胞、血液細胞、赤血球、血小板、好酸球、好中球、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、脳細胞、心臓細胞、肺細胞、島細胞、腎臓細胞、癌細胞、ホルモン腺細胞、皮膚、骨、関節、骨髄、胃粘膜、リンパ節、パイエル板、網及び他の適当な組織への標的化)を可能にする内因性レセプターに特異的かつ選択的に結合するリガンドも含み得る。
好適なキャリア、賦形剤、及び希釈剤の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、カルシウムシリケート、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ、水、水/エタノール、水/グリコール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油又は脂肪物質(例えば硬質脂肪又はその好適な混合物)である。本組成物はさらに、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、甘味料、香料などを含み得る。本発明の組成物は、当該分野で周知の手順を使用して、患者への投与後に活性成分の迅速な放出、持続性放出又は遅延性放出を提供するように処方できる。
薬学的キャリア又は希釈剤は、例えば等張溶液であり得る。例えば固体経口形態は、活性化合物と共に、希釈剤(例えばラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ又はジャガイモデンプン);滑沢剤(例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコール);結合剤(例えば、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン);崩壊剤(例えばデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、又はデンプングリコール酸ナトリウム);発泡性混合物;染料;甘味料;湿潤剤(例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリルサルフェート);及び一般に、薬学的処方物に使用される無毒性及び薬理学的に不活性な物質を含み得る。このような薬学的処方物は、既知の様式、例えば混合プロセス、造粒プロセス、打錠プロセス、糖コーティングプロセス、又はフィルムコーティングプロセスによって製造することができる。
経口投与のための液体分散物は、シロップ、エマルジョン又は懸濁物であり得る。シロップは、キャリアとして、例えばサッカロースを含む場合があるし、又はグリセリン及び/もしくはマンニトール及び/もしくはソルビトールと共にサッカロースを含む場合がある。
懸濁物及びエマルジョンは、キャリアとして、例えば天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含み得る。筋肉内注射用の懸濁物又は溶液は、活性化合物と共に、薬学的に許容可能なキャリア、例えば滅菌水、オリーブ油、エチルオレアート、グリコール(例えばプロピレングリコール)、および必要に応じて好適な量の塩酸リドカインを含み得る。
静脈内投与又は輸液のための溶液は、キャリアとして、例えば滅菌水を含み得るか、好ましくはこの溶液は滅菌、水性、等張の食塩水の形態であり得る。
組成物は、例えばエマルジョンとして、又はリポソーム、ニオソーム(niosome)、マイクロスフィア、ナノ粒子などの中での、適切な投薬形態で存在することができる。
本発明の薬剤又は組成物の投与は、従来の経路のいずれかによって、例えば経口的、直腸的又は非経口的に、例えば筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射もしくは静脈内注射、輸液、吸入又は局所投与によって、体内表面又は体外表面の両方など、処置又は予防されるべき状態又は障害に依存し、必要に応じて間隔をあけて(例えば、3〜5日間隔で3回以上の適用)で行うことができる。好適には静脈内注射が使用される。
本発明の組成物中の活性成分は、処方物の約0.01%重量〜約99%重量、好ましくは約0.1%重量〜約50%重量、例えば10%重量を構成し得る。組成物は、好ましくは、単位投薬形態で処方され、例えば各投薬量は活性成分を約0.01mg〜約1g、例えば0.05mg〜0.5g、ヒト用には例えば1〜100mg含有する。
投与されるべき活性化合物の正確な投薬量及び処置過程の長さは、当然ながら多くの要因に依存し、この要因としては、例えば患者の年齢及び体重、使用される因子、処置の目的、処置又は防止が必要とされる具体的な状態及びその重症度、並びに投与経路が挙げられる。
しかしながら一般に、有効用量は、約1μg/kg〜約10mg/kgの範囲にあり得、例えば処置される動物及び1回用量として投与される投薬形態に依存して、1日当たり約1mg〜0.2gの因子である。したがって例えば、成人に適切な1日用量は、1日当たり0.5mg〜0.5g、例えば1日当たりポリペプチド1〜100mgであり得る。より小型の動物では、濃度範囲は異なり得、従って調節され得る。
インビトロ又はエクスビボでの使用に関し、因子(例えば上述したようなペプチド)については1μg/ml〜10mg/mlの濃度範囲が適切である。
本発明のペプチドを使用して、例えば処置中の幹細胞の保護によって、従来の処置に使用される因子(例えば、細胞傷害性因子)の作用を補助又は増強して、その副作用を低減することができる。
1実施形態において、本発明のペプチドは、1種以上の他の治療上活性な因子と同時に投与することができる。例えば本発明のペプチドは、コンビナトリアル化学療法剤として使用できる。実施例に示すように、本発明のペプチドは、一部の癌細胞(例えばAML細胞)を細胞周期に進行するように誘導できる。したがってこのようにして刺激された細胞は、従来の抗癌薬物に対してより感受性となる。したがって本発明のペプチドは、癌(例えば白血病、さらに好ましくは上で説明した急性骨髄性白血病(AML))を標的化するために、他の抗癌剤(例えば細胞傷害性薬物)と組合せて使用できる。
本発明のペプチドはまた、内因性幹細胞集団を保護するため、他の抗癌療法と組合せて使用することもできる。本発明者らは、本発明のペプチドが正常な幹細胞/前駆細胞をG0/G1休眠状態で維持できることを見出した。したがって、この細胞保護能力は、そのような幹細胞を任意の抗癌処置の効果から保護できる。このことは、分裂する細胞を標的化する細胞傷害性因子と組合せて本発明のペプチドが使用される場合に特に有用であり得る。患者の正常な幹細胞をこのような処置の間に休眠状態に維持することによって、内因性幹細胞集団に対する抗癌処置の副作用を最小限にすることができる。潜在的な副作用がこのように低減すると、そうでない場合に可能である又は安全である用量またはレベルよりも、より高い用量またはレベルの従来治療を患者に使用することができる。
本発明のペプチドが1種以上の他の治療剤(例えば抗癌剤、例えば細胞傷害性薬物)と組合せて使用されるか又は一緒に使用されるべき場合、この因子は、同時投与、連続投与又は分割投与のために処方することができる。この因子は、単一の医薬組成物に一緒に処方することができる。この因子は個別に処方し、次いで処置過程の間に、同時に若しくは連続して一緒に、または別々の時点に投与できる。したがって、本発明のペプチドは、別の治療剤(例えば、細胞傷害性剤または化学療法剤)を投与されたことのある患者、投与されている患者、または投与される可能性のある患者に対して投与することができる。このペプチドは、それ以外の因子と同時に、連続して、または別個に投与することができる。
以下の実施例は、本発明を例示する。
(実施例1:インビトロでの細胞生存率に対するペプチドの効果)
本実施例において、HOXタンパク質の保存領域、特にHOXB−4のヘキサペプチド領域を模倣するように作製されたペプチドを、インビトロアッセイにおいて使用して、種々の細胞株における細胞死および細胞増殖に対するその効果を決定する。
(方法)
(1.ペプチドの設計)
PBXタンパク質とHOXタンパク質との間の相互作用を妨げ得る試薬を設計するため、このプロセスを媒介することが公知である(Morganら、2000)、高度に保存されたHOXヘキサペプチド配列WYPWMKKHH(配列番号5)を、タンパク質が細胞膜を横切って効率的に移動することを媒介することが以前に示されたポリアルギニンペプチドと連結した。このペプチドは、本明細書中でHXArg9(配列番号6)と呼ばれる。
さらなるペプチドもまた構築した:
ペプチドHXP4(配列番号10)は、HXArg9と同一のHOX/PBX妨害性ペプチドを含むが、ポリアルギニンの代わりにペネトラチン細胞侵入配列を有する。
CX1Arg9(配列番号7)を、HXArg9配列に基づくがHOX/PBX妨害性ペプチド配列中に多くのアミノ酸の置換を有するコントロールペプチドとして作製した。CXP4(配列番号11)は、HXP4配列に対して等価なコントロールであり、ペネトラチン細胞侵入配列に結合した同じHOX/PBX妨害性ペプチド配列を含む。
CX2Arg9(配列番号8)は、コントロールペプチドCX1Arg9のより広範に変更したバージョンである。
Arg9(配列番号9)は、9個のアルギニン残基だけからなる単純なペプチドである。これは、可能性ある非特異的毒性についてのコントロールとして意図される。
これらペプチドの配列は、以下のとおりである。全てのペプチドを、慣用的な化学合成によって調製した。
ポリアルギニン侵入配列を有する配列。HXArg9配列からのアミノ酸の変更を太字で示す。
ペネトラチンベースの侵入配列を有する配列。HXP4配列からのアミノ酸の変更を太字で示す。
(2.細胞株の培養)
B16マウス黒色種細胞株、LNCAP(ヒト前立腺癌)細胞株およびK562(ヒト急性骨髄性白血病)細胞株を、ATCC(それぞれ、カタログ番号CRL6475 Mus musculus、CRLl740 Homo sapiensおよびCCL243 Homo sapiens)より入手した。
細胞株を、牛胎仔血清(10% Sigma Aldrich)およびペニシリン/ストレプトマイシン(1%、Sigma)を補充したRPMI−1640培地(Life Technologies、UK)から作製した液体培養系において、4×104細胞/mlにて少なくとも2連で播種した。必要な場合、試験ペプチドをこの培地に添加した。細胞株を、湿潤雰囲気下で37°C、5% CO2にて7日まで培養した。次いで培養した細胞を、トリバンブルー排除(Sigma Aldrich)を使用して、細胞生存率/計数について評価した。
核染色のため、細胞を25cm2培養フラスコ中に9×104細胞/mlの密度にてプレートした。処理の48時間後、細胞をトリプシン/EDTA溶液(Sigma)を使用して剥がし、そして200μlのアリコートを使用してcytospin4(ThermoShandon)を使用して800rpmで5分間、サイトスピン(cytospin)を行った。
(3.cDNA合成)
RNAを以前に記載されるように逆転写した。簡潔に述べると、最初にRNAを65℃に5分間加熱することによって変性させた。1〜5μgのRNAを、終濃度10mM DTT、1mM dNTPmixおよび100μg/μl polyTプライマー、200単位の逆転写酵素(Invitrogen、USA)および40単位のRNASEout(Invitrogen、USA)と共に、容量50μl中で37℃にて1時間インキュベートした。このcDNA合成反応を、チューブを65℃にて5分間置くことによって終結させた。
(結果)
(1.L型異性体ペプチドおよびD型異性体ペプチド)
最もN末端側の結合および最もC末端側の結合を天然のL型立体配座からD型立体配座へと変更したHXArg9のD型異性体置換を作製した(したがって、これは立体異性体であり、完全に同じ化学式を有する)。本発明者らは、これをHXArg9(2D)と称する。このペプチドを上記の数種の細胞株の研究において、図面の説明に示すとおり使用した。
CX2Arg9についての同様な立体異性体形態もまた作製した。ここで、最もN末端側の結合および最もC末端側の結合を、天然のL型立体配座からD型立体配座へと変更する(CX2Arg9(2D))。
HXArg9(2D)およびCX2Arg9(2D)の安定性を、37℃においてヒト血漿と共に各々インキュベートすることによって評価し、そして異なる時間量の後に残存するペプチドの量をSDS−PAGEによって評価した。各々のペプチドを新たに調製したヒト血漿に、総容量40μl中終濃度1mMまで添加した。サンプルを37℃でインキュベートし、60μlの水および0.9mlのプロテインゲルローディングバッファー(1%の2−メルカプトエタノールを含む)(BioRad、USA)を加え、そして95℃で4分間加熱することによって反応を停止させた。各サンプルの2μlを22%アクリルアミドゲルに泳動した。このことは、HXArg9(2D)およびCX2Arg9(2D)の両方の半減期が約12時間であることを示した(図1)。これは、L型異性体形態のHXArg9についての約40分の半減期に匹敵する。
図8に示されるように、ペプチドの(2D)異性体形態(HXArg9(2D))は、L型異性体形態(HXArg9)と等価な活性を有する。さらなる研究は、HXArg9(2D)がインビトロでHXP4に対して等価な活性を有することを示した(B16黒色腫細胞)。
HXP4のD型異性体バリアントを用いた実験もまた実施した(図2および図3を参照のこと)。3個のD型アミノ酸を有する異性体は、2個のD型アミノ酸を有する異性体(上記のようなHXP4(2D))に対して、同等レベルの活性および同等の半減期を有した。このHXP4(3D)異性体は、他の3D異性体よりもわずかに高い活性を示した。図2Bおよび図3に示されるように、HXP4、HXP4(3D)2、HXP4(3D)3およびHXP4(3D)4 は全て、4日間の期間にわたってB16細胞の細胞増殖を大いに低減させた。
(2.HXArg9の特異性)
HXArg9の特異性を試験するため、マウスB16黒色腫細胞を、60μMのHXArg9(2D)またはCXArg9(2D)を用いて1時間処理し、そしてこれらの細胞からタンパク質を抽出した。次いで、HOXD9(PBXの結合パートナーとして公知であり、黒色種において発現される(Svingen,T.およびTonissen ,K.F. Cancer Biol.Ther.2、518−523(2003))を、抗PBX抗体を使用して免疫沈降させた。この技術は、CXArg9(2D)処理した細胞中のHOXD9の回収を可能にするが、HXArg9(2D)処理した細胞では可能でない。このことは、HXArg9(2D)が実際にPBXとHOXとの間の相互作用をブロックすることを示す(図4A)。特異性についてのさらなるコントロールとして、本発明者らはまた、グルココルチコイドレセプター(GR)を免疫沈降した。これは、GRタンパク質中のヘキサペプチドモチーフの存在に依存しない相互作用を介してPBXに結合する(Subramaniam,N.ら Biochem.J.370、1087−1095(2003))。したがって、この特定の相互作用がHXArg9(2D)によってブロックされるはずではなく、実際にこのことはなかった(図4A)。
これらのペプチドの選択性についてのさらなる試験として、HOX/PBXコンセンサス結合部位含む二重鎖DNAプローブに対する結合を研究した。このヘキサペプチドがHOXとPBXとの相互作用を妨げない場合、このペプチドはまた、これらタンパク質がHOX/PBX DNAコンセンサス部位に結合することを破壊するはずである。このことを試験するため、バンド−シフト型アッセイを利用した。
B16細胞を60μMのHXArg9(2D)またはCXArg9(2D)を用いて1時間処理し、次いで細胞を含まない抽出物を調製した。HOX/PBXコンセンサス部位(HP)またはそのコンセンサス部位に適合しない改変配列(CP;図4B)のいずれかを含む、ストレプトアビジン標識したDNAプローブを添加した。これらのオリゴの順方向配列は:
HP(HOX/PBXコンセンサス結合部位を含む)−GGACA AACTG AAGGC AGAGC TGATT TATGG CACAC ACACA AGAAT GGACA AACCC GTGAG、
CP(コントロールとして改変したHOX/PBX結合部位を含む)−GGACA AACTG AAGGC AGAGC GCTCC GTTAA CACAC ACACA AGAAT GGACA AACCC GTGAG。
CXArg9(2D)のB16ライセートまたはコントロールのB16ライセートへのHPプローブの添加、その後の非変性アクリルアミドゲルにおける分離は、移動度の有意な低減を生じた。このことは、1種以上のタンパク質がそのプローブに結合したことを示す。これらのタンパク質を特定するため、「スーパーシフト」アッセイを実施し、ここで抗PBX抗体をそのライセートに添加した。複合体は、1:2000に希釈した抗PBX1,2,3抗体(c−20;Santa Cruz、USA)を使用してスーパーシフトした。このことは、1個の抗体分子の結合に等価な移動度のさらなるシフトを生じた。このことは、各々のプローブに結合しているタンパク質複合体が1つのPBXタンパク質を含むことを示す。
重要なこととして、未処理細胞およびCXArg9(2D)処理細胞からの細胞抽出物中のタンパク質はプローブに結合したが、HXArg9(2D)抽出物からのタンパク質は結合しなかった。このことは、HXArg9(2D)が実際にHOX/PBX二量体形成およびその後のDNAへの結合を妨げることを示唆する。
(3.HXArg9(2D)ペプチドは広範な異なる悪性細胞株の増殖をブロックする)
上記のペプチドの活性を、先に記載したアッセイと同様のアッセイを使用して、いくつかの異なる悪性細胞株について試験した。この結果を図6〜8に示す。
アポトーシスの形態を、走査型電子顕微鏡および蛍光顕微鏡を使用して決定した。核内形態の変化を、氷冷したメタノールを用いて室温で5分間B−16のサイトスピンを固定することによって評価した。固定した細胞をHoechst33258(2μg/ml)(Sigma)を用いて染色し、そしてVECTASHIELD(登録商標)mounting medium(Vector)を用いて台に乗せ、そして蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TE 2000−S)により分析した。
60μMのHXArg9(2D)により2時間処理した細胞は、樹状様プロセス(dendritic process)の低減を含めた形態の顕著な変化を示した(図5B)。HXArg9(2D)処理細胞はまた、ゲノムの有意な分解とその超微細構造の特徴的な変化(例えば、アポトーシスの代表的な核の崩壊および中空化(vascuolisiation))との両方を示した(図5C)。Hoechst色素を用いた染色もまた、多数のHXArg9(2D)処理細胞が核のアポトーシス形態(クロマチン濃縮)を呈することを明らかにした。
アポトーシスのさらなる徴候は、細胞膜内のホスファチジルセリンの出現である(Koopman,G.ら Blood.84、1415−1420(1994))。このことは、蛍光標識したアネキシンVタンパク質およびFACSを使用するセルソーティングによって検出できる。
60μMのHXArg9(2D)を用いて2時間処理したB16F10細胞に関してこの技術を使用すると、有意な割合の細胞がアポトーシスの初期または後期にあることを明らかにされた。細胞死が実際にアポトーシスを介していることのさらなる実証として、HXArg9(2D)処理したB16細胞をZ−VADペプチドを用いて同時処理した。このペプチドは、アポトーシス経路の重要な成分であるカスパーゼプロテアーゼの特異的インヒビターである(Zhu,H.ら、FEBS Lett_374、303−308(1995))。Z−VADの添加は、HXArg9(2D)と組合わせた場合に細胞死の有意な低減を引き起こした。このことは、これら細胞が実際にアポトーシスを起こしていることを示す。CX2Arg9(2D)は、増殖に全く効果を有さず、そしてアポトーシスを引き起こさなかった。
黒色種に加え、いくつかの他の悪性腫瘍が、それらが由来する組織よりも有意に高いレベルでHOX遺伝子を発現することが公知である(Morgan,R.Trends Genet.22、67−69(2006)に概説される)。これらの腫瘍としては、前立腺癌(Miller,G.J.ら、Cancer Res._63,5879−5888(2003))、腎臓癌(Cillo,C.ら Int.J.Cancer.51,892−897(1992))、膀胱癌(Cantile,M .ら、Oncogene 22,6462−6468(2003))、肺癌(Abe,M.ら Oncol.Rep.15,797−802(2006))および卵巣癌(Cheng,W.ら、Nat.Med.11、531−537(2005))が挙げられる。HXArg9がこれらの癌に由来する細胞の増殖もブロックできるかどうかを決定するため、本発明者らは、各々の代表的な細胞株に対してMTTアッセイを使用して、IC50を得た(表1)。このことは、これら全ての細胞株がHXArg9(2D)に感受性であり、非小胞肺癌由来のA549株が最も高い感受性を示すことを明らかした。60μM用量または6μM用量のHXArg9(2D)は、黒色種、前立腺癌および急性骨髄性白血病由来の大部分の細胞を除去するのに十分であった。
これらの実験において、HXP4は効果を示さなかった。しかしながら、このペプチドは、類似のアッセイで効果的であることが以前に示されている。さらなる実験は、細胞増殖の防止においてHXArg9がHXP4と同程度に効果的であるが、明らかに短時間のうちで機能することを示した(このアッセイを、3時間の暴露を要した図6〜8に報告する;HXP4は代表的に、同じ応答を達成するのに4日必要とする)。HXArg9のこの向上した能力は、ペネトラチン細胞侵入配列よりもむしろポリアルギニン細胞侵入配列の存在による取り込み効率の増加に起因すると考えられる。
このようにペネトラチンと比較してポリアルギニンの効率が向上したことはまた、コントロールペプチドに対する結果においても認められる。コントロールペプチドCX1Arg9は、実際にある程度の活性を示した。このことはおそらく、HXArg9(「HX」配列)とこのコントロールペプチド中の等価な配列(「CX」配列)との間のHOX/PBX妨害性ペプチド配列の比較的近い配列相同性に起因する。このことは、ペネトラチンと連結された「CX」配列を含む関連ペプチドCXP4と対照的であり、類似のアッセイにおいて、HXP4が効果を示す時間スケールであっても非効果的であることを以前に示している。
より高度に置換したコントロールペプチド(CX2Arg9)は、細胞増殖に効果を示さない。
(4.ペプチド濃度の効果)
図6〜8より、6μMおよび60μMにおけるHXArg9の使用が、このような細胞株の生細胞数に対して効果を有することが明らかである。したがって、このような細胞のHXPArg9に対する用量応答性を評価した。
図9に示されるように、用量37μMまたは74μMのHXArg9は実質的に全てのB16マウス黒色腫細胞の除去を導いた。4.625μMほどの用量のHXArg9は、B16マウス黒色腫細胞の有意な除去を導いた。
(実施例2:ペプチドとPBXタンパク質との交差反応性)
(方法)
KG1a細胞を実施例1で述べた条件下で増殖させる。KG1a細胞は、処理なしで、又は1μM の試験ペプチドの存在下で24時間培養する。この細胞を収集し、溶解させる。この細胞の1アリコートを架橋させる。凍結細胞を、標準的な技術を用いて溶解し、そして100μlのライセートを、4mMの1−エチル−3−[3−(ジメチル−アミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)、 4mMのスルホ−NHS、20mM HEPES(pH7.5)、5mMのMgCl2、及び0.03%(w/v)f3−DM中で室温にて30分間インキュベートして、非共有結合タンパク質を架橋する。この反応を、終濃度50mMに酢酸アンモニウムを添加することによって停止させる。他のアリコートは架橋せずに凍結させる。
標準的な技術によって両方のアリコートの細胞からタンパク質を抽出し、ゲル電気泳動によって分離する。ウェスタンブロットにより、PBX1、2及び3に対して惹起した抗体(sc-888、Santa Cruz Inc. 米国)又は抗ベータアクチン抗体(sc-1615、Santa Cruz Inc. 米国)を用いてゲルをプローブする。
未処理細胞及びコントロールペプチド処理細胞からのPBXタンパク質は、他のタンパク質(すなわちHOXタンパク質)と会合するはずである。HOX−PBX相互作用をブロックできるペプチドを使用する場合、このペプチドで処理した細胞からのPBX異性体は、他のタンパク質と会合しない。種々のPBXタンパク質に対するペプチドの効果は、全てのPBXタンパク質に対してこのペプチドが部分的な効果を有するかまたは全体的な効果を有するか、そしてこれによって全てのPBXタンパク質とHOXタンパク質との間の相互作用を妨げるのに適切であるかどうかを示す。
(実施例3:HXArg9(2D)により引き起こされる転写の変化)
HXArg9(2D)処理の際の遺伝子の転写の変化を試験するため、細胞を60μMのHXArg9(2D)またはCX2Arg9(2D)を用いて2時間処理した。Mouse Genome 430A 2.0 Array(Affymetrix、USA)(これは、14,000種の特徴付けられたマウス遺伝子を含む)を使用するマイクロアレイによる分析のためRNAを抽出した。大部分の遺伝子は転写の有意な変化を示すことはなかったが、22個が<0.05の確率値で転写の上昇を示した(表2)。最も顕著なことには、これらは癌遺伝子のFosおよびJunを含んだ。これら遺伝子がHXArg9(2D)処理したB16細胞において上方制御されることを確認するため、定量的PCR(QPCR)を使用して細胞から抽出したRNA中の転写物の相対量を測定した(図10A);このことは、HXArg9(2D)に応答してFos、Jun、Dusp1およびAtf1が全て有意に上方制御されることを確認した。
定量的RT−PCRを、Stratagene MX4000 Real Time PCR 機器を使用して実施した。このStratagene MX4000は、制限した試薬およびサイクル変動性に対して影響されやすくなる増幅の前の、反応の指数時期の間のPCR産物の蓄積を測定する。蛍光はPCR産物のレベルの増加に従って増加する。
cFos RNAの相対量がHXArg9(2D)処理細胞において上昇されるので、本発明者らはまた、cFOS特異的抗体を用いてウエスタンブロッティングによってcFOSタンパク質の量を試験した(図11)。cFos RNAとは対照的に、これらの細胞中のcFOSタンパク質の量は、有意に低減された。
この研究において、本発明者らは、HOXタンパク質とPBXタンパク質との間の相互作用をアンタゴナイズすることがいくつかの異なる悪性腫瘍細胞(マウスB16黒色腫細胞が挙げられる)においてアポトーシスを惹起することを示した。前者はインビトロおよびインビボの両方で起こり、そしてこれらの細胞中で制御されなくなった標的遺伝子(癌遺伝子cFOSが挙げられる)の共通の組に影響を与える。cFos RNAは、HXArg9(2D)処置の際に有意に上昇するが、cFOSタンパク質レベルは未だ大いに低減される。この外観上の逆説的な知見はおそらく、cFOSの翻訳とcFos RNAの分解との間で起こることが既知である密接な結び付きを反映する(Veyruneら、1996)。したがって、cFOS翻訳の阻害は、cFos RNAを効果的に安定化する。
Fosおよびその結合パートナーのJunは両方とも転写因子のbZIPスーパーファミリーのメンバーであり、これらは、ロイシンジッパー領域と組合わせた塩基性DNA結合ドメインによって特徴付けられる(Hess,Jら J.Cell Sci 117、5965−5973 (2004))。JUNはホモ二量体化してAP−1転写因子を形成し得る。FOSはホモ二量体化できないが、これもまたJUNと結合することによってAP−1転写因子を形成し得る。AP−1は、細胞周期調節に関与する多くの遺伝子(サイクリンD1が挙げられる)の発現を活性化する(Albanese,Cら、J.Biol.Chem.270、23589−23597(1995))。さらに、AP−1の阻害は、HL60細胞において、アポトーシス亢進(pro−apoptopic)遺伝子の上方制御を導くc−myc依存性機構を介して、アポトーシスを惹起する(Park,S.ら、J.Cell Biochem.91、973−986(2004))。
cFosに加え、多くの他の標的遺伝子もまたHXArg9(2D)によって上方制御される。その遺伝子の中で、DusplおよびAtf3はずっと大きな上昇を示す。この前者は二重特異性のホスファターゼをコードし、このタンパク質は、広範な基質のうちのセリン残基、スレオニン残基およびチロシン残基からリン酸基を除去でき、そしてマイトジェン活性化キナーゼ経路(MAPK)を介するシグナル伝達をブロックし、これによって細胞増殖をブロックすることができる(Ducruet,A.P.ら、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.45、725−750(2005)に概説される)。Atf3は、転写因子ATF/CREBファミリーのメンバーであり、これはストレス応答(DNA損傷が挙げられる)の役割について公知である(Wek,R.C.ら Biochem.Soc.Trans.34、7−11(2006))。Atf3がユビキチン化を妨げることによってp53を安定化し得ること(Yan,C.ら EMBO J.24、2425−2435(2005))、およびそのp53の腫瘍抑制機能(アポトーシスの誘導が挙げられる)を促進し得ること(Yan,C.およびBoyd,D.D.Cell Cycle 5、926−929(2006))が最近示されている。Atf3はまた、細胞周期停止を促進し、そしてUV処理した線維芽細胞においてアポトーシスを促進し、そしてRas媒介性形質転換をブロックする(Lu,D.ら J.Biol.Chem.281、10473−10481(2006)).
スクリーニングにおいて同定された他の多くの標的遺伝子もまた抗腫瘍特性を有する。Klf4(Kruppel様因子4)は、多くの結腸直腸癌において下方制御され、腫瘍形成転写因子β−カテニンの活性を抑制し、そして無胸腺ヌードマウスにおいて異種移植片の腫瘍増殖を妨げることが公知の転写因子である(Zhang,Wら Mol.Cell Biol.26、2055−2064(2006))。Madは、別の腫瘍形成転写因子mycのインヒビターであり、これもまた増殖をブロックする役割を有する(Rottmann,S.およびLuscher,B.Curr.Top.Microbiol.Immunol.302,63−122(2006)に概説される)。最後にDrak2は、アポトーシスに関与する死関連キナーゼと高度な配列相同性および機能的相同性を有するセリン/スレオニンキナーゼであり、そしてNIH3T3細胞において過剰発現される場合にアポトーシスを誘導し得る(Sanjo,H.ら、J.Biol.Chem.273、29066−29071(1998))。
HXArg9(2D)標的の中で腫瘍抑制遺伝子およびアポトーシス亢進性遺伝子が優勢であることは、HXArg9(2D)が多くの異なる悪性腫瘍においてアポトーシスを誘導する能力と一緒に、これらの細胞においてHOX遺伝子発現の機能がそれ自身で本来の腫瘍抑制経路を阻害する可能性があることを示唆する。これらの標的の相対的な重要性は、遺伝子背景に依存して細胞型毎に変動する場合があるが、多くの腫瘍抑制経路の阻害が一般化されることは、HOX遺伝子を過剰発現する広範な腫瘍を説明できる。HXArg9(2D)が広範な異なる腫瘍においてアポトーシスを惹起することを示す本明細書中に提示されるデータと合わせて、HOX遺伝子が癌治療において潜在的に重要な標的を提供することを認めることができる。
(実施例4:HXArg9のインビボにおける効果)
マウスを、St.GeorgeにあるBiological Resource Facilityにおいて維持した。この管理は、Home Office規定に準じた。対数増殖期のB16細胞を1×106細胞の用量でC57blackマウス6匹に皮下注射した。腫瘍増殖を毎日モニタリングした。一旦腫瘍が確立すると、マウスに15mg/kgのHXArg9(2D)を腹腔内投与した。マウスを屠殺し、腫瘍を切り出し、組織学的分析のために固定化した。
対応して、コントロールペプチドおよびPBSをコントロール群に投与した。A549腫瘍モデルに関して、NOD/SCID免疫不全マウスを使用して、側腹モデルを確立した。この研究をPerry Scientific Inc.,USAにおいて行った。
B16 F10マウス腫瘍細胞を、黒色腫のインビボモデルとして良好に確立する。そしてこれは最も浸潤性の高いマウス腫瘍のうちの1つでもある(Fidler,I.J.およびNicolson,G.L. Isr.J.Med.Sci.14、38−50(1978)、Shrayer,D.ら Cancer Immunol.Immunother.40、277−282(1995))。皮下接種を使用して1×105細胞を導入し、そして一旦腫瘍が触知可能になると、マウスを15mg/kgのHXArg9またはCX2Arg9の腹腔内注射により処置した。これらの実験の終点において、HXArg9処置した腫瘍は、有意な程度の収縮を示し(図12A)、そして切除した腫瘍の組織学的分析は、HXArg9処置したマウスにおいてのみ内部の細胞死を明らかにした(図12B)。
ヘキサペプチドがインビボでHOX/PBXの結合をブロックできるかどうかを評価するため、腫瘍をHXArg9により2時間処理し、次いでこれを使用して核ライセートを作製した。バンドシフトアッセイ(上記のとおり)は、これらの腫瘍から抽出したタンパク質がHOX/PBXコンセンサス結合部位を有するDNAプローブに結合できず、一方、CX2Arg9処理した腫瘍からの等価な抽出物は可能であることを明らかにした(図4C)。このことは、HXArg9が特異的にHOX/PBX/DNA複合体の形成をインビボで破壊することを示す。これらの腫瘍から抽出したRNAのQPCR分析は、Fos、Jun、Dusp1およびAtf3が上方制御されることを明らかにし、インビトロで得られたそれらの結果を反映した(図10B)。
本発明者らはまた、HXArg9がインビボで非黒色腫の腫瘍の増殖をブロックできるかどうかを試験した。この試験のため、本発明者らは、非小胞肺癌由来の細胞株A549を使用してヌードマウスにおいて側腹腫瘍を確立した(Lieber,M.ら,Int.J.Cancer 17、62−70(1976))。HXArg9を用いた週2回の用量100mg/kgでの処置(最初の3回の処置)、その後の10mg/kgでの処置は、腫瘍増殖の有意な低減を引き起こした(図13)。