以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。以下、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
最初に、本実施形態の磁気共鳴装置の装置構成を説明する。図1は、本実施形態の磁気共鳴装置100の概要を説明するための図である。磁気共鳴装置100は、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場コイル13、計算機14、傾斜磁場電源15、シンセサイザ16、変調装置17、増幅器18、AD変換器19、および、情報処理装置20を備える。
シンセサイザ16は高周波を発生し、変調装置17は、シンセサイザ16が発生させた高周波を波形整形し、電力増幅し、高周波磁場コイル13に電流を供給する。高周波磁場コイル13は、送信部から電流を供給されると、被検体10の核スピンを励起する高周波磁場(励起パルス:RFパルス)を発生させ、被検体10に照射する。傾斜磁場電源15は、傾斜磁場発生コイル12に電流を供給する。傾斜磁場発生コイル12は、それぞれ、X方向、Y方向、Z方向に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイル12x、12y、12z(不図示)を備え、傾斜磁場電源15から電流を供給されると傾斜磁場を発生し、被検体10からの磁気共鳴信号である高周波信号を空間的な位置に応じて変調する。変調された高周波信号は、高周波磁場コイル13によって受信(検出)される。増幅器18は、高周波磁場コイル13が受信した高周波信号を増幅する。AD変換器19は、増幅された高周波信号をA/D変換し、計算機14に送信する。計算機14は、受信したデータを処理し、保存および表示する。また、計算機14は、予めプログラムされたタイミングで磁気共鳴装置100を構成する各装置が動作するように制御を行い、計測を実行する。
また、本実施形態の計算機14は、被検体10から得られる信号が計測因子を変数とする関数で表されるとき、計測因子を変化させて複数回の計測を行うとともに、得られる複数の計測値から関数の係数を求める。この機能を実現するために、本実施形態の計算機14は計測部と係数算出部とを備える。
本実施形態の情報処理装置20は、計測因子の値に制約がある条件下で、計算機14が行う複数の計測に用いる計測因子の最適な組(最適計測セット)を決定し、計算機14に提供する。この機能を実現するため、本実施形態の情報処理装置20は、制約条件を受け付ける制約条件受付部と、計測セット算出部とを備える。
なお、本実施形態では、計測因子を傾斜磁場因子b、算出する係数を、拡散係数とする拡散計測の場合を例として、以下説明する。また、傾斜磁場因子bの最大値bmaxに制限があるものとする。従って、情報処理装置20は、傾斜磁場因子bの最大値bmaxに制約のある条件下で、拡散係数を精度よく求めるための、最適な計測セット(最適計測セット)を算出する。ここで、情報処理装置20が算出する計測セットとは、拡散係数を算出するための計測に用いる複数の計測点である傾斜磁場因子bの組である。各計測点における計測回数の比を含むよう構成してもよい。計算機14は、得られた最適計測セットの傾斜磁場因子bを用いて計測を行うよう各装置を制御するとともに、計測により得られた計測データから拡散係数を算出する。
次に、計算機14および情報処理装置20の構成を説明する。図2は、計算機14および情報処理装置20の構成図である。情報処理装置20は、予め作成されたプログラムやプログラムの実行に必要なパラメータを記憶する記憶装置21、それを高速に演算処理するためのメモリ22とCPU23、ユーザとのインタフェースを行うキーボードやマウスなどの入力装置24、ディスプレイなどの出力装置25、および、計算機14との通信を行うための通信装置26を備える。上述の制約条件受付部と計測セット算出部とは、記憶装置21に格納されたプログラムを、CPU23がメモリ22にロードして実行することにより実現される。
計算機14もほぼ同様の構成を有し、予め作成されたプログラムや計測パラメータを記憶する記憶装置41、それを高速に演算処理するためのメモリ42とCPU43、ユーザとのインタフェースを行うキーボードやマウスなどの入力装置44、ディスプレイなどの出力装置45、情報処理装置20との通信を行うための通信装置46、および、磁気共鳴装置100の各装置との通信を行う通信装置47を備える。叙述の計測部と係数算出部とは、記憶装置41に格納されたプログラムを、CPU43がメモリ42にロードして実行することにより実現される。
なお、計算機14および情報処理装置20は、例えば、出力装置や入力装置などいくつかの構成を兼用してもよい。また、単一の装置で実現するよう構成してもよい。
次に、計算機14および情報処理装置20の各機能の詳細を説明する。まず、本実施形態の計算機14の計測部により実行される計測について説明する。計測は、上述のように予めプログラムされたタイミング(パルスシーケンス)に従って、各装置の動作を制御することにより実現される。以下、本実施形態の計測に用いるパルスシーケンスに従って、計測時の各部の動作とともに説明する。
図3に本実施形態の計測に用いるパルスシーケンスの一例を示す。まず、励起高周波磁場パルス31を印加し、被検体10に磁気共鳴現象を誘起する。励起高周波磁場パルス31には、例えば、π/2(90度)パルスが用いられる。その後、反転高周波磁場パルス32を印加し、励起された磁化を反転する。このとき、発生したエコー33は、アナログデジタル(AD)サンプリング手法でサンプリングされ、記憶装置41に格納される。また、励起高周波磁場パルス31と反転高周波磁場パルス32との間、および、反転高周波磁場パルス32とエコー33との間に互いに、互いに補償する二つの拡散傾斜磁場35aおよび35bを印加する。なお、拡散傾斜磁場35aおよび35bは、傾斜磁場発生コイル12x、12y、12zによるX方向の傾斜磁場、Y方向の傾斜磁場、およびZ方向の傾斜磁場の合成または単独として与えられる。また、拡散傾斜磁場35aおよび35bは、それぞれの強度の時間積分が等しくなるように調整される。
なお、本図に示す例は最も単純なパルスシーケンスであり、他の様々なパルスシーケンスに従って計測を行うことができる。例えば、励起および反転高周波磁場パルス31、32と共にスライス選択傾斜磁場を印加し、特定のスライスのみの磁化を励起および反転してもよい。エコー33のADサンプリングと同時にリードアウト傾斜磁場を印加し、リードアウト傾斜磁場印加方向の空間情報を取得してもよい。また、拡散計測で広く使用されている、振動傾斜磁場を印加して短時間で空間情報を取得するEPI(Echo Planar Imaging)と呼ばれるパルスシーケンスに従ってもよい。
次に、本実施形態の計算機14の係数算出部による拡散係数の算出処理について説明する。上述のように、本実施形態では拡散傾斜磁場35aおよび35bを印加する。拡散がなければ、拡散傾斜磁場35aでディフェーズされた核スピンの位相は、拡散傾斜磁場35bで完全にリフェーズされ、拡散傾斜磁場が印加されない場合と比較して信号強度は減衰しない。しかし、拡散がある場合、拡散傾斜磁場35bにより完全にリフェーズできないため、その激しさに応じて信号強度が減衰する。拡散を、早い拡散と遅い拡散との2つに分けて表現できる理想的な状況では、この減衰は、傾斜磁場因子bを用いて式(1)に示す二項指数関数で表される。
ここで、S(b)は、傾斜磁場因子がbのときの信号強度、D
fastは、早い拡散係数、S
fastは、傾斜磁場因子bが0のときの早い拡散係数による信号強度、D
slowは、遅い拡散係数、S
slowは、傾斜磁場因子bが0のときの遅い拡散係数による信号強度である。なお、傾斜磁場因子b[s/m
2]は、拡散傾斜磁場の印加強度と印加時間によって決まる値で、式(2)により計算される。
ここで、TEは、エコー時間[s]、γは、磁気回転比[Hz/T]、G(τ)は、時刻τでの傾斜磁場印加強度[T/m]である。
式(1)で近似される信号強度の減衰の様子を図4に示す。図4では横軸は傾斜磁場因子b、縦軸は信号強度S(b)である。また、図4(a)では信号強度S(b)を線形スケールで、図4(b)では信号強度S(b)をログスケールで示す。なお、信号強度S(b)は、bが0のときの信号強度を1として規格化した値を示す。実線のグラフ401は、二項指数関数で与えられる信号強度S(b)、点線の二つのグラフ402、403は、それぞれ早い拡散による信号強度Sfastexp(-Dfastb)と遅い拡散による信号強度Sslowexp(-Dslowb)とを表している。
式(1)は、Dfast、Dslow、Sfast、Sslowの4つの未知の関数パラメータを有する。従って、それぞれ異なる傾斜磁場因子bを用いて、少なくとも4回の計測を行うことで、これらの関数パラメータの値を算出することができる。すなわち、早い拡散係数Dfastと遅い拡散係数Dslowとを得ることができる。
次に、本実施形態の情報処理装置20の計測セット算出部による処理を説明する。上述のように、拡散係数は、傾斜磁場因子bを変化させて行った複数の計測結果から算出する。ところが、その計測に用いる複数の傾斜磁場因子bの選び方によって、算出される関数パラメータの値が変わる。すなわち、得られる拡散係数の精度が変化する。例えば、選択する傾斜磁場因子bの変化量が小さすぎると、得られる信号強度の差が小さくなるため、得られる拡散係数の精度は劣化する。逆に、選択する傾斜磁場因子bの変化量が大きすぎると、信号対雑音比が低下するため、同様に拡散係数の精度は劣化する。本実施形態の計測セット算出部は、最終的に得られる拡散係数の精度が最も高くなるよう傾斜磁場因子bの組を決定する。さらに、本実施形態では、この決定を、傾斜磁場因子bの最大値bmaxが予め定められた値以下であるという条件下で行う。以下、本実施形態の計測セット算出部による最適な計測セットを決定する処理を制約付き最適計測セット算出処理と呼ぶ。
本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理では、傾斜磁場因子bが、その最大値bmax以下であるという制約の下、関数パラメータの初期値と、計測値に所定の誤差が含まれると仮定して得られた関数パラメータの値との誤差を最小にする傾斜磁場因子bの組み合わせを、最適計測セットBsbmaxとして算出する。ここでは、計測回数はm回(mは自然数)と指定されているものとする。従って、最適計測セットは、m個の傾斜磁場因子bの組からなるBsbmaxmとして算出される。なお、計測回数の指定はなくてもよい。計測回数の指定がない場合は、異なる傾斜磁場因子bの組と、それぞれの計測回数比とからなるBsbmaxとして算出される。なお、本手法は、計測誤差が計算誤差に影響を与える量を見積もるため、誤差伝播法と呼ばれる。
まず、傾斜磁場因子bの最大値bmaxの設定がない条件下での最適な計測セットの決定手法を説明する。ここでは、信号強度が二項指数関数に従う場合だけでなく、一般の場合について説明する。以下の計算では、信号に混入しているノイズ成分N(b)は、傾斜磁場因子bによらず同一の分布に従い、かつ、平均が0、分散σ2は十分小さいと仮定する。
求める未知数である関数パラメータをベクトルA={a
i}と一般化し、信号強度S(b)の計測データに含まれる偏差をΔS(b)とし、ΔS(b)の傾斜磁場因子bに関する自乗和を評価関数E(A)とする。最小自乗法の定義より、評価関数E(A)を最小にするように、各未知数を要素とするベクトルA={a
i}に含まれる偏差ΔAは決定される。このときΔS(b)とΔAとの関係は次の近似式(3)で与えられる。
ここで、mは計測回数、b
kはk回目(k≦m:kは自然数)の計測における傾斜磁場因子b、S(A、b)は近似する関数にAの各要素a
iを代入したものを表す。例えば、二項指数関数で近似する場合は、a
1=D
fast、a
2=S
fast、a
3=D
slow、a
4=S
slowであり、またS(A、b)は、式(1)に各要素a
iを代入したものである。
この近似式(3)は、次のように導出される。評価関数E(A+ΔA)をAの近傍で2次関数近似すると式(4)が成立する。
ここで、∇Eは勾配ベクトル、∇
2Eはヘシアン(2階偏微分関数行列)、ΔA
tはベクトルΔAの転値を表す。この2次関数を最小とするΔAは次の式(5)で与えられる。
E(A)の1階偏微分および2階偏微分の近似値は次の式(6)で計算できる。
ここで、ヘシアンの近似には、仮定よりΔS(b)が十分小さいことを用いた。式(6)と式(7)とを式(5)に代入すれば、式(3)が導出される。
次に、信号強度S(A、b)の減衰が二項指数関数に従う場合について説明する。信号強度S(A、b)の減衰が二項指数関数に従う場合、未知の関数パラメータは4つであるため、iは1〜4の値をとる。S(A、b)の1階偏微分は次の式(7)で計算できる。
最適な傾斜磁場因子bは、式(3)を用いて以下のように求められる。すなわち、仮定より式(3)のΔS(b)がノイズ成分N(b)に従うため、ΔAは次の式(8)で与えられる分布に従う。
ここで、Bは傾斜磁場因子bの組{b
k}k=1、…、mを、C(A、B、k)
iは式(8)で定義されるノイズ成分N(b
k)の係数を表す。仮定よりΔAの分散var(ΔA)は次の式(9)で与えられる。
得られる関数パラメータの精度を最良とするためには、var(ΔA)を最小にする傾斜磁場因子bの値の組である最適計測セットBs={bs
k}k=1、…、mを探索すればよい。探索は、例えば、ある程度細かな差分で集合Bの要素を変化させ最小値を求める総当たり方式、ランダムにサンプリングしてその値を元に最急降下法を用いる方式などがある。
ここで、上述の探索では計測回数mを有限として計算しているが、計測回数mを無限大にして極限をとることで、最適な傾斜磁場因子bの値(計測点)の組と各計測点における計測回数比とを得ることができる。計測回数比を計算しておくことで、計測回数mを変更した際に毎回探索することなく、計測回数mと計測回数比とを乗算することにより、傾斜磁場因子bの値(計測点)における計測回数を高速に求めることができる。また、ある要素aiのみ計測精度を向上させたい場合には、式(9)で全ての要素aiの和を取って最小値を探索する代わりに、要素aiのみ変化させて最小値を探索すればよい。また、要素aiについて重み付け加算することで要素毎の軽重をつけても良い。なお、このような誤差伝播法を使用せずに、非特許文献5に示されている確率的方法で最適計測セットBsを求めてもよい。
傾斜磁場因子bの値に制約がない場合は以上のように最適計測セットBsを求めることができる。しかし、傾斜磁場因子bに制約を設けない場合、例えば、非特許文献2によれば、各未知数の値は、Dfast=1.12×10−3mm2/s、Sfast=0.7、Dslow=0.16×10−3mm2/s、Sslow=0.3である。従って、最適計測セットBsは、{0(0.06)、0.11/Dslow(0.15)、0.51/Dslow(0.31)、1.95/Dslow(0.48)}(ここで、各b値の後の括弧内の数値は計測回数比を表す。)と算出される。この場合の最大b値は、1.95/Dslow=12000s/mm2となり、現在通常の臨床機が出しうる傾斜磁場因子bのおおよその最大値4000s/mm2を超える。
そこで、本実施形態の計測セット算出部は、最適計測セットBsを求める際に、傾斜磁場因子bの上限値bmaxを設定し、その制約下で最適計測セットBsを探索する。以下、計測セット算出部による、制約付き最適計測セット算出処理の探索手法について説明する。
本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理の探索に適用できる手法は複数ある。この中で、まず、制約条件内の格子点を総当りする方法(総当り法)について説明する。総当り法は、[0、bmax]mのm次元直方体領域を、所定の間隔で格子状にし、全ての格子点で式(9)で与えられるvar(ΔA)を計算し、最小値をとる{bk}k=1、…、mを最適計測セットBsbmaxmとするものである。このとき、{bk}の組み合わせの重複を防ぐために、m次元直方体領域の半分の領域のみを計算するなどの高速化を図っても良い。ただし、総当り法は、格子状の間隔よりも細かい精度での計算ができず、また、mが増大すると探索すべき格子点が極端に増加するため計算時間が増大する。このため、総当り法は、mが小さいときに、粗く最適計測セットBsbmaxmを求めるのに有効である。
次に、公知の最急降下法等を用いる最小探索法について説明する。最小探索法は、細かい精度得ることができる。所定の{bk 0}k=1、…、mを始点として、各bkについてvar(ΔA)の偏微分を計算し、それが最小となる方向でvar(ΔA)が最小となる{bk 1}k=1、…、mを計算する。ただし、0≦bk≦bmaxの条件下で{bk 1}k=1、…、mを計算するために、bkが端点0またはbmaxに到達した場合、そこでbk 1=0またはbmaxとする。もしくは、var(ΔA)に、その値が[0、bmax]mの外では非常に大きくなるようなペナルティ関数を乗算し、それを最小とする{bk 1}k=1、…、mを計算しても良い。このようにして求めた{bk 1}k=1、…、mを次の始点として繰り返し計算を行う。var(ΔA)の変化が予め定めた閾値以下になった場合に繰り返し計算を止め、var(ΔA)を最小とする{bk}k=1、…、mを最適計測セットBsbmaxmとする。
なお、最小値探索法では始点の取り方によっては局所的な極小解が得られる可能性がある。これを防ぐために、両者を組み合わせる総当り最小探索法を使用してもよい。総当り最小探索法では、まず、総当り法で、間隔を粗くとり、var(ΔA)が予め定めた閾値以下となる格子点を全て求める。次に各格子点を始点としてそれぞれの最適計測セットを求める。そして、得られた最適計測セットの中でvar(ΔA)が最小となるものを最終的な最適計測セットBsbmaxmとする。
また、計測回数mの値が大きい場合は、総当り最小探索法を用いても計算時間を要する場合がある。その場合は、ランダムに[0、bmax]mの点を選択し、その点を始点{bk 0}k=1、…、mとして最適計測セットをそれぞれ求め、得られた最適計測セットの中でvar(ΔA)が最小となるものを最終的な最適計測セットBsbmaxmとしてもよい。この方法では、ランダムに選択する始点の数に応じて計算時間が決まるため、選択する始点数により計算時間を調整できる。他の探索方法として、シミュレーテッドアニーリングや遺伝的アルゴリズムなどを応用したものを用いてもよい。
最適計測セットBsbmaxmを迅速に算出するため、前述したように、計測回数mを無限大にした極限としての最適計測セットBsbmaxを先に求めておく方法もある。特許文献1に記載されているように、信号強度の減衰が二項指数関数で近似できる場合、傾斜磁場因子bの値として4つの値のみをとり、各bを所定の計測回数比で計測するものが、得られる拡散係数の精度が最も高くなる。このような場合は、mを無限大にして極限を計算する。具体的には、b={0、b1、b2、b3}とその点での計測回数比r={r0、r1、r2、r3}(ただし、0<ri<1、r0+r1+r2+r3=1)とおき、var(ΔA)を最小とする最適計測セットBsbmax={0(r0)、b1(r1)、b2(r2)、b3(r3)}を求める。このような最適計測セットBsbmaxが求められている場合、計測回数mが十分に大きければ、最適計測パラメータBsbmaxの計測回数比に計測回数mを乗算して各傾斜磁場因子bの値における計測回数を算出し、これを最適計測パラメータBsbmaxmとすることができる。なお、mが小さい場合にもこのような計算は可能である。但し、この場合、計測回数比が小さい傾斜磁場因子bの計測回数が小さくなりすぎないよう処理を工夫する。例えば、計測回数比が小さい傾斜磁場因子bについては小数点以下を切り上げて計測回数を算出する。
なお、制約条件である傾斜磁場因子bの最大値bmaxは、入力装置24等のユーザインタフェースを介してユーザから入力され、制約条件受付部が受け付ける。
以上説明した各機能を用いて拡散係数を算出する、本実施形態の拡散係数算出処理の手順を説明する。図5は、拡散係数算出処理の処理フローである。ここでは、信号強度の減衰が二項指数関数で近似可能で、関数パラメータをA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}とし、関数パラメータの初期値A0={Dfast 0、Sfast 0、Dslow 0、Sslow 0}、計測回数をmとする。なお、関数パラメータの初期値A0および計測回数mは、予め情報処理装置20の記憶装置21に格納されているものとする。
まず、制約条件受付部は、入力装置24を介してユーザが入力する制約条件を受け付ける(ステップS501)。ここでは、傾斜磁場因子bの最大値bmaxを受け付ける。制約条件受付部は、受け付けた最大値bmaxを、記憶装置21に格納する。なお、上述の関数パラメータの初期値A0および計測回数mも、最大値bmax同様、ユーザから入力を受け付け、記憶装置21に格納するよう構成してもよい。
制約条件受付部により最大値bmaxが記憶装置21に格納されると、計測セット算出部は、上述の手法により、制約付き最適計測セット算出処理を行い、最適計測セットBsbmaxmを算出する(ステップS502)。すなわち、ステップS501で入力された最大値bmaxに依存した制約bk≦bmaxの条件下で、関数パラメータの初期値A0と、計測値に所定の誤差が含まれると仮定して計算した関数パラメータAとの誤差を最小にする傾斜磁場因子の組Bsbmaxmを算出する。そして、計測セット算出部は、算出した最適計測セットBsbmaxmを計算機14の記憶装置41に格納する。ここで、データ計測装置20の記憶装置21にも格納するよう構成してもよい。
記憶装置41に最適計測セットBsbmaxmが格納されると、計測部は、最適計測セットBsbmaxmの各傾斜磁場因子{bk}k=1、…、mに従って、拡散傾斜磁場35a、35bの印加時間、印加間隔、印加強度を算出し、図3に示すパルスシーケンスに従って、それぞれの拡散傾斜磁場35a、35bで、計測をm回繰り返す(ステップS503)。なお、拡散傾斜磁場35a、35bの算出においては、典型的には、印加時間と印加間隔は一定に保ち、設定すべき傾斜磁場因子bkから式(2)に基づき、印加強度を求める。計測部は、各計測で信号強度を計測データ{Sk}k=1、…、mとして得る。
係数算出部は、計測部が得た計測データ{Sk}k=1、…、mを、二項指数関数で近似し、各関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を算出する(ステップS504)。そして、係数算出部は、得られた関数パラメータAを記憶装置41に格納するとともに、拡散係数として表示装置45に出力する(ステップS505)。
以上の手順で、本実施形態では、傾斜磁場因子bに最大値の制約がある条件下で効率よく精度の高い拡散係数を算出する。
なお、上記説明では、簡単のため、傾斜磁場因子{bk}k=1、…、m毎に得られる計測データ{Sk}k=1、…、mが1点(1画素)の場合を例にあげて説明している。しかし、本実施形態はこれに限られず、2次元もしくは3次元画像が計測される場合も同様に適用できる。この場合、出力される情報は、関数パラメータAの各要素の2次元もしくは3次元の画像、Sfast/(Sfast+Sslow)、Sslow/(Sfast+Sslow)などの計算画像となる。また、時系列で脳の賦活を観測するfMRIに適用する場合は、これら画像の時系列情報が出力される。
また、上記実施形態では、傾斜磁場因子bの最大値bmaxは、ユーザが直接ユーザインタフェースを介して設定するよう構成しているが、これに限られない。例えば、予め記憶装置21に格納されていてもよい。また、傾斜磁場の仕様と基となるパルスシーケンスとから定まる最大値bmaxが自動的に設定されるよう構成してもよい。さらに、両者を組み合わせ、出力装置25の、ユーザが入力する入力ウィンドウ近傍に、装置仕様上定まるbmaxを補助的な情報として表示し、装置仕様上定まるbmax以上の値がユーザから入力された場合、注意を促すメッセージを表示する、入力制限をかける、等の構成にしてもよい。
なお、最大値bmaxは、傾斜磁場とパルスシーケンスとから次のように算出される。基となるパルスシーケンスのエコー時間(TE)から、その間のRFパルス印加時間およびデータ取得時間を減算し、拡散傾斜磁場を印加可能な時間を算出する。次に傾斜磁場が出しうる強度の最大値とスルーレイトの最大値とから、拡散傾斜磁場の最大強度と印加波形とを算出し、傾斜磁場因子bの最大値を計算する。例えば、図3に示す例では、TE/2−(励起高周波磁場パルス31印加時間の半分の時間)−(反転高周波磁場パルス32印加時間の半分の時間)と、TE/2−(反転高周波磁場パルス32印加時間の半分の時間)−(AD34のエコータイムよりも前の時間)と、をそれぞれ計算し、短い方の時間Tが、一つの拡散傾斜磁場を印加可能な時間である。最大強度まで最大スルーレイトで立ち上がる台形波であって、時間T内で印加可能な傾斜磁場が最大の傾斜磁場因子bをとる拡散傾斜磁場である。従って、この拡散傾斜磁場の印加時間、印加強度から、取り得る傾斜磁場因子bの最大値bmaxを計算することができる。なお、拡散傾斜磁場は、時間に余裕がない場合には、最大強度まで達せず下降する三角波になる。
また、記憶装置21に予め格納される関数パラメータの初期値A0={Dfast 0、Sfast 0、Dslow 0、Sslow 0}は、例えば、過去の計測により得られた計測値、文献値等である。この初期関数パラメータA0は部位により変動するので、部位ごとの値をテーブルとして記憶装置21に保存しておいても良い。この場合、計測部位に応じて、計測時にテーブルから初期関数パラメータA0を読み出すよう構成する。
なお、関数パラメータの初期値A0は、過去の計測値、文献値には限られない。例えば、プリスキャンを行い、得られた値を記憶装置21に格納するよう構成してもよい(プリスキャン法)。図6にプリスキャン法における初期関数パラメータA0を取得する処理の流れを示す。まず、プリスキャン用初期傾斜磁場因子bとして、l個(l<m:lは自然数)の適当な傾斜磁場因子bの値のセット{bk’}k=1、…、lを決定する(ステップS601)。計測部は、それぞれの傾斜磁場因子bを用いて、所定のパルスシーケンスに従った計測をプリスキャンとして実施し計測データ{Sk}k=1、…、lを得る(ステップS602)。係数算出部は、得られた計測データ{Sk}k=1、…、lを、二項指数関数で近似し、初期関数パラメータA0={Dfast 0、Sfast 0、Dslow 0、Sslow 0}を算出する(ステップS603)。
なお、{bk’}には、文献値や過去に実施した際に得られた計測値をもとに計算された最適計測セットの値を使用するよう構成しても良い。なお、{bk’}は4点以上であればよい。ただし、点数が多くなるとプリスキャンの計測時間が長くなるため、なるべく少なく設定するのがよい。また、ここで行う計測は、早い拡散と遅い拡散とを分離可能な計測であればよく、高速なものがよい。例えば、分解能を粗くしたイメージング方法、1次元プロファイルのみ取得する方法、励起スライス全体の信号や局所励起を行って得られた信号を計測する方法等が適している。なお、空間的な位置によって異なる初期関数パラメータA0が得られる場合は、平均をとる等する。
また、本実施形態の拡散係数算出処理では、計測された関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}をフィードバックするよう構成してもよい(フィードバック法)。ここでは、計測回数mを適当に分割し、それぞれをm1、m2、…、ml(m=m1+m2+…+ml)回とする。なお、各分割後の計測回数miは、それぞれ4以上(mi≧4)とする。そして、各分割毎に、図5に示す拡散係数算出処理に従って順に処理を行う。
フィードバック法の処理フローを図7に示す。ここでは、分割後の計測回数m1、m2、…、ml(m=m1+m2+…+ml)が、この順に記憶装置21に格納されているものとする。本図に示すように、制約条件受付部が制約条件として傾斜磁場因子bの最大値bmaxの入力を受け付けると(ステップS701)、計測セット算出部は、関数パラメータの初期値A0を記憶装置21から読み込むとともに、カウンタiを初期化(i=1)する(ステップS702)。そして、計測セット算出部は、計測回数miを記憶装置21から読み込み、計測回数mとする(ステップS703)。そして、計測セット算出部、計測部および係数算出部が図5に示すステップS502からS504を実行し、関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を算出する(ステップS704)。係数算出部は、分割された全ての計測回数の処理を終えたか判別する(i=l?)(ステップS705)。終えた場合、結果を記憶装置41に格納、表示装置45に出力等し、処理を終了する。一方、終えていない場合は、計測セット算出部に通知し、計測セット算出部は、係数算出部が算出した関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を、関数パラメータの初期値A0とするとともに、カウンタiを1インクリメントする(ステップS706)。そして、ステップS703に戻る。
なお、上記プリスキャン法は、フィードバック法において、プリスキャンでの計測を本計測と同一の条件とし、計測回数mを2分割した場合に相当する。また、フィードバック法の変更例として、最初の分割m1のみ4以上として、他は前の分割の計測点も含めて最適化していくよう構成してもよい。すなわち、2回目の分割m2の処理では、最初の分割m1を用いた拡散係数算出処理で得られた関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を初期値とし、最初の分割m1を用いた処理で得られたBsbmaxm1をそのまま含む最適計測セットを算出し、新たにm2個の傾斜磁場因子bを含む最適計測セットBsbmax(m1+m2)を算出する。そして、最適計測パラメータBsbmax(m1+m2)とBsbmaxm1との差分となる傾斜磁場因子bを用いて計測を行い、関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を算出する。以降、同様の処理を繰り返し、最終的には全ての計測値を基に関数パラメータA={Dfast、Sfast、Dslow、Sslow}を算出する。この場合、m2、・・・mlは必ずしも4以上である必要はない。また、フィードバック法は、最大値の制約がない場合の最適な計測セットの算出にも適用可能である。フィードバック法を用いて得られた計測セットを用いて計測することにより、関数パラメータの計測精度を高めることができる。
なお、上記の実施形態では、拡散係数を算出する毎に、すなわち、計測毎に制約付き最適計測セット算出処理を行い、最適計測セットBsbmaxmまたはBsbmaxを算出する場合を例にあげて説明している。しかし、毎回算出することなく、最適計測セットBsbmaxmまたはBsbmaxを制約条件である最大値bmaxおよび/または計測回数mと対応付けて、最適計測セットテーブルとして予め記憶装置21または記憶装置41に記憶しておくよう構成してもよい。この場合、計測時に、最適計測セットBsbmaxmまたはBsbmaxをこれらの記憶装置21または41から読み出す。記憶装置21または記憶装置41に記憶される最適計測セットテーブル800の一例を図8に示す。ここで、m=∞は、Bsbmaxを表す。実際に記憶される最適計測セットテーブル800では、例えば、m=0や負の値を用いてBsbmaxを表しても良い。また、便宜上BsbmaxmまたはBsbmaxをbとrの二段にして記載しているが、実際に記憶される最適計測セットテーブル800では、1行で記憶されることが一般的である。なお、rに記載されている数値は、m=∞の場合には割合を示し、それ以外の場合には回数を表す。また、最適計測セットを最適計測セットテーブル800として記憶し、該当する条件に対応づけられた最適計測セットが最適計測セットテーブル800内にない場合のみ、制約付き最適計測セット算出処理を行うよう構成してもよい。また、最適計測セットテーブル800として記憶し、該当する条件に対応づけられた最適計測セットが最適計測セットテーブル800内にない場合、記憶された最適計測セットの組から補間処理を行い、当該条件での最適計測セット得るよう構成してもよい。
なお、予め記憶装置41に最適計測セットテーブル800として記憶し、計測時に最適計測セットテーブル800内の値を用いるよう構成する場合、および、該当条件に対応する最適計測セットがない場合、補間処理で求めるよう構成する場合は、本実施形態の磁気共鳴装置100は、情報処理装置20を備えなくてもよい。また、最適計測セットテーブル800として記憶装置41に格納されるデータは、可搬型媒体を介して入力されるよう構成してもよい。また、通信装置46を介して受信するよう構成してもよい。
以下、典型的な条件で計算した最適計測セットBsbmaxの結果を図9に示す。図9は、A0={Dfast 0、Sfast 0、Dslow 0、Sslow 0}={1.12×10−3mm2/s、0.7、0.16×10−3mm2/s、0.3}という典型的な条件で、傾斜磁場因子bの最大値bmaxを変化させて算出した最適Bsbmaxを示すものである。図9(b)は、Bsbmax毎のbkとそこでの計測回数比rkの表である。図9(a)は、横軸をb、縦軸を計測回数比とし、Bsbmax毎の変化を折れ線グラフで示したものである。このグラフより、最大値bmaxが制限されることにより、各傾斜磁場因子bの値(b0、b1、b2、b3)のみならず計測回数比も大きく変化していることがわかる。特に、bmaxが小さくなるほどr2が増加していることがわかる。b3ではSNRが劣化するために計測回数比r3を増加させる必要がある。しかしながら、それよりも一つ前のb2での計測回数を増加した方が計測精度を高められることは、興味深い現象である。このような現象は、典型的な条件の場合、およそbmax≦6000で発生する。なお、この値は、A0に依存すると考えられる。特に、大きな傾斜磁場因子の設定値に影響を与えるDslow 0に依存し,Dslow 0が大きくなるほど,当該bmaxの閾値は小さくなると考えられる。なお、bmax=12500では、最大b3=12187.5とbmaxまで到達していない。これは最大値bmaxが十分大きいため、制約となっていないことを示す。すなわち、ここでは、bmaxが制限されていない状況での最適な傾斜磁場因子bが算出されていることになる。
図10に、最適計測セットBsbmaxの効果を見積もるため、最大値bmaxで等間隔に傾斜磁場因子bを分布させた場合の、標準偏差と分散とを比較した結果を示す。図10(b)は、最適計測セットBsbmax、等間隔にbを分布させた場合、および両者の、bmax毎の標準偏差と分散とを示す表である。また、図10(a)は、横軸にbmaxを、縦軸に標準偏差を取り、各表の標準偏差をグラフにしたものである。なお、表に示した分散から実際の分散を見積もるには、計測データに含まれるノイズの分散と計測回数mとを乗算すればよい。また、表に示した標準偏差から実際の標準偏差を見積もるには、計測データに含まれるノイズの標準偏差と√mとを乗算すればよい。表およびグラフより、最大値bmaxから等間隔で傾斜磁場因子bを設定する場合に比べて、上記実施形態の手法で算出される最適計測セットBsbmaxを用いた場合は、誤差の標準偏差を約70%に低減できることがわかる。誤差は計測回数の平方根に比例して減少していくため、この効果は、2〜2.5倍の計測時間の短縮に相当し、最適Bsbmaxの計測精度向上効果が非常に高いことがわかる。また、その効果は、bmaxが低ければ低いほど増大することもわかる。
なお、上記実施形態で説明した手法で得られた最適計測セットBsbmaxmに含まれる傾斜磁場因子bの数値および計測回数比は、厳密に適用する必要はない。得られた数値および比率に近い数値を用いて計測すればよい。例えば、bmax=4000s/mm2の時は、図9の例では、最適計測セットBsbmaxは{0.0(0.13)、312.5(0.22)、2375.0(0.35)、4000.0(0.29)}(括弧内は計測回数比)と得られている。しかし、各傾斜磁場因子bを0、300、2400、4000の4点とし、それぞれの回数の比が概ね0.13:0.22:0.35:0.29となるような集合を採用すればよい。これは、二項指数関数の場合、最適な傾斜磁場因子Bsbmaxの近傍で伝播誤差var(ΔA)が緩やかに変化していることに起因する。すなわち、設定する傾斜磁場因子bが最適値Bsbmaxから多少ずれても大きな伝播誤差var(ΔA)にはならない。また、逆に、求める係数Aが初期値A0から多少ずれた場合でも、最適な傾斜磁場因子Bsbmaxは大きく変化しないことにもなる。
なお、上述したように、傾斜磁場因子bの値が小さいときは、組織間灌流の影響があるため、二項指数関数のフィッティングでは早い拡散係数の計測誤差が増加する可能性がある。組織間灌流による係数は、早い拡散係数に比べて約10倍大きいため、b=100s/mm2程度で信号消失する。従って、組織間灌流の影響を抑制するため、最適計測パラメータBsbmaxの最小値b=0の代わりにb=100s/mm2を使用する、この値(100s/mm2)分、全てのBsbmaxの値を増加させる等構成してもよい。また、本実施形態では、二項指数関数で近似する場合を例にあげて説明している。しかし、上記手法は、三項指数関数で近似し、最適計測パラメータを探索する場合にもそのまま適用できる。これを利用して、上述のように、早い拡散、遅い拡散のみでなく、さらに、組織間灌流を区別した計測を実行するよう構成しても良い。
なお、拡散傾斜磁場35a、35bの印加方向は、従来提案されているように、各X、Y、Z軸の3方向に印加する、これにXY、YZ、ZXを加えた6方向に印加する、さらに、特許文献2に記載のように放射状に印加する、等が可能である。拡散傾斜磁場35a、35bを印加する各方向について別個の拡散係数を得る場合は、方向毎に前述の手法で最適計測セットを算出し、得られた傾斜磁場因子bを使用して計測を行う。一方、拡散係数が方向によらないもの(等方性拡散係数)である場合は、1方向について最適計測セットを算出し、計測すればよい。また、傾斜磁場の最大強度および最大スルーレイトが十分ではない場合には、X、Y、Z軸の3軸に同時に印加することで最大傾斜磁場強度を√3倍向上させることが可能である。
以上説明したように、本実施形態によれば、計測データの減衰が所定の指数関数に従う拡散計測において、設定する傾斜磁場因子bの最大値に制約がある場合でも、指数関数の関数パラメータの計測精度を最大にする傾斜磁場因子bの最適なセットを容易に算出することができる。また、算出した最適なセットの傾斜磁場因子を用いて計測を行うことにより、精度の高い拡散計測を行うことができる。
なお、本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理を、傾斜磁場因子bの最大値の制約がない場合に適用すると、傾斜磁場因子bの最大値を高めることなく、最大値を高めた場合と同様の効果を得ることができる計測セットが算出される。従って、所定の範囲の傾斜磁場因子bのみを用いて、高精度の拡散係数を効率よく算出することができる。これは、拡散傾斜磁場を駆動するために必要な電力消費の削減や駆動時に発生する騒音の低下に繋がる効果である。
なお、上述の実施形態では、計測データが主に二項指数関数で近似可能な場合を例にあげて説明した。しかしながら、本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理を適用可能な計測は、これに限られない。例えば、Inversion Recovery(IR)法を用いたT1計測にも使用可能である。IRを用いる場合、信号強度は次の式(10)を満たす。
これは、TIを計測パラメータ、A={T1、S0、α}を関数パラメータとする非線形方程式と考えることができる。本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理を用いて、TIの最大値を制限すると、以下の結果が得られる。括弧内は、計測回数比である。
TI=2T1の場合、最適TI={0.0(0.20)、0.69×T1(0.43)、2.00×T1(0.37)}
TI=3T1の場合、最適TI={0.0(0.20)、0.85×T1(0.40)、3.00×T1(0.40)}
TI=4T1の場合、最適TI={0.0(0.20)、0.94×T1(0.39)、4.00×T1(0.41)}
TI=5T1の場合、最適TI={0.0(0.20)、0.98×T1(0.39)、5.00×T1(0.41)}
このように、本実施形態の制約付き最適計測セット算出処理によれば、他の関数に従うパルスシーケンスによる計測であっても、計測パラメータに制限のある条件下で最適な計測パラメータを算出することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、計測データの減衰が所定の関数に従う磁気共鳴計測において、計測因子の設定に制約条件がある場合でも、計測データから算出される関数パラメータの精度を向上可能な計測因子を算出することができる。また、算出した計測因子を用いて磁気共鳴計測を実行し、精度の高い計測を実現することができる。従って、計測因子の設定に制約のある条件下で、効率よく計測精度を高めることができる。
11:静磁場発生磁石、12:傾斜磁場発生コイル13:高周波磁場コイル、14:計算機、15:傾斜磁場電源、16:シンセサイザ、17:変調装置、18:増幅器、19:AD変換器、20:情報処理装置、21:記憶装置、22:メモリ、23:CPU、24:入力装置、25:出力装置、26:通信装置、41:記憶装置、42:メモリ、43:CPU、44:入力装置、45:出力装置、46:通信装置、47:通信装置、31:励起高周波磁場パルス、32:反転高周波磁場パルス、33:エコー、35a:拡散傾斜磁場、35b:拡散傾斜磁場、100:磁気共鳴装置、401:信号強度、402:早い拡散による信号強度、403:遅い拡散による信号強度、800:最適計測セットテーブル