JP2009269114A - 研削盤を用いたワークの研削方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】研削盤の稼働開始から一定時間も含めた研削盤の研削精度を高めるため、熱変位の影響を避けることのできる研削盤を用いたワークの研削方法を提供する。
【解決手段】開始サイクルは、熱変位補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とし、次回サイクル以降は、測定研削位置がA評価範囲にあれば合格基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、測定研削位置がB評価範囲にあればA基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、そして測定研削位置がC評価範囲にあればB基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回の目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、前記測定研削位置が合格評価範囲にあればワークの研削を終了する。
【選択図】図2

Description

本発明は、ベッドやワーク又は砥石等に発生する熱の影響を避けながら、砥石を前進させてワークを研削する研削盤を用いたワークの研削方法に関する。
高速回転させたワークに砥石を押し当てて加工する研削盤は、電動機が発する熱やワークと砥石との摩擦により発する熱等により、ベッドやワーク又は砥石が膨張する(いわゆる熱変位)。通常、砥石は連続してワークに当てるのではなく、砥石をワークに向けて接近又は離反を繰り返し、断続的にワークに押し当てられる。このため、前述のようにベッドやワーク又は砥石が熱変位すると、砥石に予め設定したワークに対する接近が過剰又は不足し、研削精度を低下させてしまうことがある。特に、長時間停止状態にあった研削盤の稼働開始から一定時間は、ワークと砥石との摩擦による熱の影響が著しく、砥石の目標研削位置から測定研削位置が大きく後退し、研削精度を大きく低下させる問題があった。
研削盤における熱変位の影響を避ける手段として、研削中のワークを監視して、前記ワークが定寸に達すれば砥石の前進を停止させる研削方法が知られている(後掲特許文献1の従来技術参照)。この研削方法は、ワークを監視して砥石を制御することから、例えば長時間停止状態にあった研削盤の稼働開始から一定時間でもワークの研削精度を低下させない。しかし、ワークを監視するインプロセスゲージ(定寸装置)にゴミが付着したりすると、ワークの測定値に誤差が含まれる虞が有り、誤差を含む測定値に従うと、かえって研削精度を低下させる虞があった。
特許文献1は、先の研削における測定研削位置と後の研削における測定研削位置とを比較することにより、後の研削における測定研削位置の適性を判断し、後の研削における測定研削位置が適性であれば、ワークの設計値に基づく理論研削位置に対する前記後の研削における測定研削位置の差分により、砥石の制御データを補正する研削方法を提案している。後の研削における測定研削位置が異常と判断されれば、前の研削における測定研削位置が保持され、新たな測定研削位置が得られると改めて比較される([0006]〜[0011])。これにより、砥石の制御データは、誤差が含まれる測定研削位置を除外して、適性かつ最新の測定研削位置を元に補正されるため、熱変位の影響を避けた高い研削精度を保証する。
特許第3886694号公報
特許文献1が開示する研削方法は、研削盤が定常状態にある場合において、定常状態を維持するように砥石の制御データを補正する点で優れている。しかし、長時間停止状態にあった研削盤の稼働開始から一定時間は、先の研削における測定研削位置が多分に誤差を含んでいる可能性があり、後の研削における測定研削位置の適性を、前記先の研削における測定研削位置を基準として判断できない。すなわち、特許文献1が開示する研削方法は、長時間停止状態にあった研削盤の稼働開始から一定時間の研削精度が保証できず、場合によっては研削盤の稼働開始から一定時間に研削したワークを廃棄しなければならなくなる虞がある。
研削盤の定常状態から見れば、稼働開始から一定時間の研削精度が保証できない時間は僅かであり、実質的に影響はないと考えることもできる。しかし、これは研削盤が数日にわたり連続して稼働する場合に当てはまるが、実際の研削盤は日々稼働及び停止を繰り返すため、稼働開始から一定時間とはいえ、研削盤の定常状態から見ても無視できない。また、その他不具合で研削盤を停止させた後、再び稼働させる場合にも、上記研削精度を保証できない問題が起きうる。これから、研削盤の稼働開始から一定時間も含めた研削盤の研削精度を高めるため、熱変位の影響を避けることのできる研削盤を用いたワークの研削方法について検討した。
検討の結果、ベッドやワーク又は砥石等に発生する熱の影響を避けながら、砥石を前進させてワークを研削する研削盤を用いたワークの研削方法であって、ワークの設計値から設定される砥石の理論研削位置に前記設計値の公差を加えた合格外側境界位置と合格内側境界位置とに挟まれた範囲を合格評価範囲、前記合格評価範囲の中間位置を合格基準研削位置とし、前記合格内側境界位置に等しいA外側境界位置と前記A外側境界位置に公差の範囲を加えたA内側境界位置とに挟まれた範囲をA評価範囲、前記A評価範囲の中間位置をA基準研削位置とし、前記A内側境界位置に等しいB外側境界位置と前記B外側境界位置に公差の範囲の2〜10倍を加えたB内側境界位置とに挟まれた範囲をB評価範囲、前記B評価範囲の中間位置をB基準研削位置とし、そして前記B内側境界位置に等しいC外側境界位置と砥石の前進基準位置であるC内側境界位置とに挟まれた範囲をC評価範囲として、初回工程及び次回工程以降の開始サイクルは、研削盤固有の熱変位補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とし、前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削し、初回工程及び次回工程以降の次回サイクル以降は、ワークの測定値より得られる測定研削位置がA評価範囲にあれば合格基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、前記測定研削位置がB評価範囲にあればA基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、そして前記測定研削位置がC評価範囲にあればB基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回の目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削することを繰り返し、前記測定研削位置が合格評価範囲にあればワークの研削を終了する研削盤を用いたワークの研削方法を開発した。
本発明において、「砥石の理論研削位置」はワークの設計値に対応した理論的な砥石の研削位置であり、砥石が前進基準位置(研削盤稼働時の砥石が前進を始める基準位置)から前進して目標とする研削位置を、「初回工程」は長時間休止した後の最初の研削工程を、「次回工程以降」は初回工程に続く2回目以降の研削工程を、「開始サイクル」は各研削工程における最初の研削サイクルを、「前回サイクル」は現在の研削サイクルから見て1回前の研削サイクルを、「次回サイクル」は現在の研削サイクルから見て1回後の研削サイクルを意味する。熱変位影響工程は、初回工程と前記初回工程に続く複数回の次回工程とを含む。
「熱変位補正値」は研削盤の特性として試験的に求められる、熱変位の影響を加味した補正値を、「熱変位補正率」は研削盤の停止時間に応じて設定される補正の割合を、「前進基準補正値」は熱変位補正値に熱変位補正率を掛け合わせた値を、「目標研削位置」は開始サイクル又は次回サイクル以降に設定される砥石の研削位置を、そして「測定研削位置」は研削を終えたワークの寸法を計測して求められる実際に砥石が前進してワークを研削した位置をそれぞれ意味する。
「合格外側境界位置」は理論研削位置に公差を加えて得られるワークを挟んで前進基準位置に近い側(内側)における砥石の研削位置を、「合格内側境界位置」は理論研削位置に公差を加えて得られるワークを挟んで前進基準位置より遠い側(外側)における砥石の研削位置を、「合格評価範囲」は合格外側境界位置と合格内側境界位置とに挟まれた範囲を、そして「合格基準研削位置」は許容評価範囲の中間位置を意味する。例えば設計値に公差としてプラス数値及びマイナス数値が与えられた場合、プラス数値及びマイナス数値の絶対値が等しければ合格基準研削位置はまさに設計値に一致する砥石の研削位置に等しく、プラス数値及びマイナス数値の絶対位置が異なれば、合格基準研削位置と設計値に一致する砥石の研削位置とがずれる。また、設計値に公差としてプラス数値のみが公差として与えられた場合、合格基準研削位置は設計値に一致する砥石の研削位置に公差の1/2を足した位置になる。
「公差の範囲」は公差の最大値から最小値までの範囲を意味し、公差がプラス数値及びマイナス数値で与えられる場合はプラス数値からマイナス数値を引いた範囲、公差がプラス数値のみで与えられる場合は公差=範囲となる。これから、「A外側境界位置」は合格内側境界位置に等しい砥石の研削位置を、「A内側境界位置」はA外側境界位置に公差の範囲を加えた砥石の研削位置を、「A評価範囲」はA外側境界位置とA内側境界位置とに挟まれた範囲を、「A基準研削位置」はA評価範囲の中間位置を、「B外側境界位置」はA内側境界位置に等しい砥石の研削位置を、「B内側境界位置」はB外側境界位置に公差の範囲の2〜10倍を加えた砥石の研削位置を、「B評価範囲」はB外側境界位置とB内側境界位置とに挟まれた範囲を、「B基準研削位置」はB評価範囲の中間位置をそれぞれ意味し、「C外側境界位置」はB内側境界位置に等しい砥石の研削位置とし、「C内側境界位置」は砥石が前進を始める前進基準位置とし、そして「C評価範囲」はC外側境界位置と砥石の前進基準位置とに挟まれた範囲として設定する。
本発明の研削方法は、ワークの測定値が常にプラス誤差を含むように、砥石の研削位置を決定する。まず、初回工程及び次回工程以降の開始サイクルは、前記誤差が必ずプラス誤差になるように、研削盤固有の熱変位補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とし、前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削する。ここで、研削盤の停止時間の長短により熱変位の影響が異なることを鑑みて、初回工程及び次回工程以降の開始サイクルは、初回工程の開始サイクルまでの研削盤の停止時間に応じた熱変位補正率を研削盤固有の熱変位補正値に掛け合わせて得られる前進基準補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とするとよい。熱変位補正率は、例えば研削盤の停止時間を単位時間(例えば30分)毎に区切って段階的に加減する割合とする。例えば、研削盤の停止時間が90分以上なら熱変位補正率を100%、前記停止時間が60分以上90分未満なら熱変位補正率を80%、前記停止時間が30分以上60分未満なら熱変位補正率を50%とし、そして前記停止時間が30分未満なら熱変位補正率を0%にする組み合わせを示すことができる。前記区切り及び熱変位補正率の組み合わせは、対象となる研削盤について、予め複数回の試験を実施して設定するとよい。
次に、初回工程及び次回工程以降の次回サイクル以降は、ワークの測定値より得られる測定研削位置がA評価範囲にあれば合格基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、前記測定研削位置がB評価範囲にあればA基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、そして前記測定研削位置がC評価範囲にあればB基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回の目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削する。熱変位の影響は、通常、砥石の後退方向に誤差を発生させることから、前述のように次回サイクルの目標研削値位置を設定すれば、次回サイクル以降の測定研削位置は必ずプラス誤差を含み、過剰研削することなく、最終的な測定研削位置を合格評価範囲内に収斂させることができる。
ここで、例えば合格評価範囲の合格内側境界位置とA評価範囲のA外側境界位置とが等しいため、測定研削位置が合格内側境界位置及びA外側境界位置に一致する場合が考えられる。この場合、合格内側境界位置及びA外側境界位置に一致する測定研削位置が、合格評価範囲又はA評価範囲のいずれに含まれるかを予め決めておく。例えば測定研削位置が合格内側境界位置、すなわち合格評価範囲の限界位置に一致する場合に研削を終了することを好ましくないと考えれば、合格評価範囲は合格外側境界位置以上、合格内側境界位置未満となり、同じくA評価範囲はA外側境界位置以上、A内側境界位置未満、B評価範囲はB外側境界位置以上、B内側境界位置未満、そしてC評価範囲はC外側境界位置以上、C内側境界位置未満となる。
熱変位の影響は、研削盤の稼働開始から一定時間経過すると定常化することから、熱変位の影響を考慮して研削工程毎に改めて目標研削位置を設定する必要がなくなると考えられる。そこで、次回工程以降の開始サイクルは、前回工程の開始サイクルを終えたワークの測定値より得られる測定研削位置が開始サイクルの目標研削位置に公差を加えた公差の範囲内に収まれば、以後合格基準研削位置を開始サイクルの目標研削位置とするとよい。すなわち、前回工程の開始サイクルを終えたワークの測定値より得られる測定研削位置が開始サイクルの目標研削位置に公差を加えた範囲内に収まることを、熱変位の影響が定常化したことと判断し、開始サイクルにおける目標研削位置の設定に前進基準補正値を考慮しないことにする。
本発明は、熱変位の影響はもちろん、その他外因による影響を避けながら、ワークの研削精度を高める研削方法を提供する。ワークがマイナス公差を超えるマイナス誤差で研削されると、もはや取り返しがつかないが、本発明は必ずプラス誤差が含まれるようにワークを研削するため、こうした取り返しのつかない事態を招かない利点がある。しかし、ワークに含まれるプラス誤差を急速に低減できるように、初回サイクルでは研削盤の停止時間に応じた目標研削値を設定し、また次回サイクル以降ではワークの測定値から求められる基準研削位置と測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて新たな目標研削位置として設定することにより、従来の研削方法に比べて研削時間を増加させず、むしろ短縮できる効果も得る。
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明の研削方法を適用する研削盤1の一例について各部の構成を表した平面図、図2は本発明の研削方法における基本的な手順を表したフローチャート、図3〜図9は本発明の研削方法に基づく目標研削位置及び測定目標位置を表した工程チャート(図3)と1回目の次回工程(初回工程に続く次回工程)におけるサイクルチャート(図4〜図9)であり、図3は初回工程から次回工程に至る目標研削位置及び測定目標位置の変化を表し、図4は開始サイクルの目標研削位置を、図5は開始サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係を、図6は1回目の次回サイクルの目標研削位置を、図7は1回目の次回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係を、図8は2回目の次回サイクルの目標研削位置を、そして図9は2回目の次回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係をそれぞれ表している。
本発明の研削方法は、従来公知の標準的な研削盤1に適用しうる。すなわち、研削盤1は、図1に見られるように、主軸台11及び心押台12をZ方向(図1中左右方向)に対向させてテーブル14に載せ、前記テーブル14に直交するX方向(図1中上下方向)に向けた砥石131を砥石台13に支持させた構成で、ワーク2は主軸台11の主軸111と心押台12の心押軸121とに挟まれて、Z方向を軸線として回転する。砥石131は、回転するワーク2に対し、砥石台13がX方向に移動することにより、ワーク2に接近離反する。砥石台の移動制御は、制御部16による。本例のワーク2は、クランク軸を含むエンジン部材であり、回転により研削対象であるクランク軸がX方向及びY方向(図1中紙面直交方向)に位置変位するため、砥石台も連続して移動し、砥石131の研削位置は動的に変化するものとなる。
本発明の研削方法は、例えば図2のフローチャートに見られるように、砥石131(以下、符号は図1参照)の目標研削位置を決定する手順に特徴を有する。具体的には、研削工程(初回工程及び次回工程以降を含む)の開始サイクルでは、砥石131の目標研削位置を、合格基準研削位置に前進基準補正値を加えて決定する。前進基準補正値は、研削盤1固有の熱変位補正値に、研削盤1の停止時間に応じた熱変位補正率を掛け合わせて算出される。すなわち、開始サイクルの目標研削位置は、ワーク2の公差を考慮せず、あくまで合格基準研削位置に対してプラス誤差が発生するように算出される。
開始サイクルを終えると、従来公知の各種計測手段、例えばポストゲージ15により計測されたワークの測定値が砥石台13の制御部16に取り込まれ、次回サイクルの必要の有無や、必要な場合の次回サイクルにおける目標研削位置が算出される。
具体的には、ワークの測定値より得られる測定研削位置が合格評価範囲に入っていれば、開始サイクルで研削工程を終了する。しかし、前記測定研削位置がA評価範囲〜C評価範囲のいずれかに入っていれば、測定研削位置と合格基準研削位置、A基準研削位置又はB基準研削位置いずれかとの差分Δを前回研削サイクルの目標研削位置から差し引いて、次回サイクルの目標研削位置とする(目標研削位置は、ワークの設計値から求められる理論研削位置より大きいため、差分Δの減算により理論研削位置に接近する)。
各工程では、図3に見られるように、測定研削位置(下向きの太線矢印参照)が合格評価範囲に入るまで、目標研削位置を補正しながら次回サイクルを繰り返す。例えば、初回工程はまだ研削盤1が暖まっていないので目標研削位置から測定研削位置が大きくずれるが、熱変位の影響があまり強く表れないため、2回の研削サイクルで完了するが、熱変位の影響が強くなるにつれて、1回目の次回工程は3回の研削サイクル、2回目及び3回目の次回工程はそれぞれ4回の研削サイクルで完了する。しかし、3回目の次回工程において、開始サイクルの測定研削位置が目標研削位置に公差を加えた範囲(図3中「50.095mm〜50.105mm」)内に収まったことから、もはや熱変位の影響が一定化した、すなわち定常状態に至ったとして、4回目以降の次回工程では、開始サイクルの目標研削位置を合格基準研削位置としている。
開始サイクルの目標研削位置は、熱変位の影響があっても、測定研削位置が合格基準研削位置にプラス誤差を加えた位置になるように算出される。具体的には、開始サイクルの目標研削位置は、「合格基準研削位置+前進基準補正値(熱変位補正値×熱変位補正率)」により算出される。合格基準研削位置は、ワーク2の設計値に公差を加えて求められる合格評価範囲の中間位置である。通常、公差はプラス数値及びマイナス数値が等しい位置のため、ワークの設計値より得られる理論研削位置と合格基準研削位置とは等しくなる。熱変位補正値は、研削盤の特性として試験的に求められる研削盤固有の補正値である。熱変位補正率は、後述するように、停止時間を一定時間間隔で区切り、停止時間が一定時間を超えた場合を100%とし、停止時間が短くなるほどに値を小さくして、停止時間が一定時間以下になれば0%にするとよい。
本発明の研削方法は、次回サイクルの繰り返しを少なくするため、前回サイクルの測定研削位置が合格評価範囲、A評価範囲、B評価範囲及びC評価範囲のいずれに当てはまるかを段階的に評価し、前記各評価範囲の中間位置である合格基準研削位置、A基準研削位置又はB基準研削位置と前回サイクルの測定研削値との差分Δを算出して、前回サイクルの目標研削位置から前記差分Δを差し引いて補正し、次回サイクルの目標研削位置とする。この目標研削位置の補正は、初回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との誤差が公差の範囲に収まるまで繰り返される。裏返せば、初回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との誤差が公差の範囲に収まれば、研削盤が定常状態に至ったと判断し、次回工程の初回サイクルから、目標研削位置は合格基準研削位置とする。
図3中1回目の次回工程における研削サイクルを参考に、具体的数値を設定し、図4〜図9のサイクルチャートを説明する。前提となるワーク2は、設計値として直径50mm、公差を±0.005mmとする。これから、図4に見られるように、合格外側境界位置は49.995mm、合格内側境界位置は50.005mm、合格基準研削位置は50.000mmとなる。A外側境界位置は合格内側境界位置に等しい50.005mm、A内側境界位置はA外側境界位置に公差の範囲を加えた50.015mm、A基準研削位置は50.010mmとなる。B外側境界位置はA内側境界位置に等しい50.015mm、B内側境界位置はB外側境界位置に公差の範囲の5倍を加えた50.065mm、B基準研削位置は50.040mmとなる。C外側境界位置はB内側境界位置に等しい50.065mm、C内側境界位置は砥石の前進基準位置となる。また、合格評価範囲は合格外側境界位置以上、合格内側境界位置未満、A評価範囲はA外側境界位置以上、A内側境界位置未満、B評価範囲はB外側境界位置以上、B内側境界位置未満、C評価範囲はC外側境界位置以上、C内側境界位置未満とする。
研削盤1について定まる熱変位補正値は+0.100mm(=公差の20倍)とし、熱変位補正率は研削盤1の停止時間120分までを30分間隔に区切って次のように設定する。具体的には、停止時間が90分以上であれば熱変位補正率を100%、停止時間が60分以上90分未満であれば熱変位補正率を80%、停止時間が30分以上60分未満であれば熱変位補正率を50%とし、そして停止時間が30分未満では熱変位補正率を0%にする。すなわち、停止時間が30分未満では停止時間による熱変位の影響がないものとし、停止時間が30分を超える段階から、30分区切りで熱変位の影響を分けて考慮する。具体的には、熱変位補正値はもちろん、本例のように停止時間を一定時間間隔で区切って熱変位補正率を設定する場合、区切る時間間隔の大きさや区切る数は、具体的な研削盤1によって適宜設定する。
本例において初回工程の開始サイクルまでの研削盤1の停止時間が100分とすれば、停止時間が90分以上の区切りに収まることから、熱変位補正率は100%となる。これから、合格基準研削位置に加える前進基準補正値は、熱変位補正値(+0.100mm)に前記熱変位補正率(100%)を掛け合わせて+0.100mmとなる。そして、上述したように、ワーク2の合格基準研削位置が50.000mmであるから、開始サイクルの目標研削位置は、前記合格基準研削位置に前進基準補正値を加えた位置、すなわち50.100mmとなる。こうした熱変位補正率の決定から開始サイクルの目標研削位置の算出までの一連の処理は、設計値及び公差が入力された制御部16においてなされ、自動的に砥石台13の移動が制御される。
開始サイクルにおけるワーク2の研削が終えると、ポストゲージ15によりワークの測定値を計測し、測定研削位置を取得する。このとき、例えば測定研削位置が50.035mmとすれば、図5に見られるように、測定値はB評価範囲に含まれることになる。これから、A基準研削位置と前記測定研削位置との差分Δは0.025mmとなり、次回サイクルの目標研削位置は、図6に見られるように、前回サイクル(初回サイクル)の目標研削位置から前記差分Δを差し引いた値、すなわち50.075mmに補正される。こうしたワークの測定値から次回サイクルの目標研削位置を補正するまでの処理は制御部16による。ここで、制御部16は、目標研削位置の補正から具体的な砥石台13の制御までを担うため、ポストゲージ15によりワークの測定値を取得するまでも自動化すれば、前回サイクル(初回サイクル)から次回サイクルへの移行をすべて自動化できる。
1回目の次回サイクルにおけるワーク2の研削を終えると、再びポストゲージ15によりワークを計測する。この結果、図7に見られるように、測定研削位置が50.012mmとすれば、前記測定研削位置はA評価範囲に含まれることになるから、合格基準研削位置と測定研削位置との差分Δは0.012mmとなる。これから、2回目の次回サイクルにおける目標研削位置は、図8に見られるように、前回サイクル(1回目の次回サイクル)の目標研削位置から前記差分Δを差し引いた値、すなわち50.063mmとなる。ワークの計測から2回目の次回サイクルの目標研削位置の補正までは、上述の通り、すべて制御部16が担うことができる。これから、開始サイクルから1回目の次回サイクル、更に2回目の次回サイクルまでの繰り返しは、すべて自動化できる。これは、本発明の研削方法は、自動化による省人化の効果を有することを意味する。
2回目の次回サイクルにおけるワーク2の研削を終えると、再びポストゲージ15によりワークを計測する。この結果、図9に見られるように、測定研削位置が50.003mmとすれば、前記測定研削位置は合格評価範囲に含まれることになるから、研削が完了する。こうして、本発明の研削方法は、熱変位の影響を避けながら、ワークが必ず設計値に公差を加えた範囲内に収まるように研削し、結果としてワークに対する研削精度を高めることができる。同様な研削方法は、作業者の勘に頼ってもできるが、その場合、作業者によって次回サイクルの目標研削位置の補正にばらつきが生じやすく、次回サイクルの繰り返しが多くなる。本発明の研削方法は、こうした作業者によるばらつきをなくし、次回サイクルの繰り返しを抑制する効果もある。
本発明の研削方法を適用する研削盤の一例について各部の構成を表した平面図である。 本発明の研削方法における基本的な手順を表したフローチャートである。 初回工程から次回工程に至る目標研削位置及び測定目標位置の変化を表した工程チャートである。 1回目の次回工程における開始サイクルの目標研削位置を表したサイクルチャートである。 1回目の次回工程における開始サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係を表したサイクルチャートである。 1回目の次回工程における1回目の次回サイクルの目標研削位置を表したサイクルチャートである。 1回目の次回工程における1回目の次回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係を表したサイクルチャートである。 1回目の次回工程における2回目の次回サイクルの目標研削位置を表したサイクルチャートである。 1回目の次回工程における2回目の次回サイクルの目標研削位置と測定研削位置との関係を表したサイクルチャートである。
符号の説明
1 研削盤
11 主軸台
111 主軸
12 心押台
121 心押軸
13 砥石台
131 砥石
14 テーブル
15 ポストゲージ
16 制御部
2 ワーク

Claims (3)

  1. ベッドやワーク又は砥石等に発生する熱の影響を避けながら、砥石を前進させてワークを研削する研削盤を用いたワークの研削方法であって、
    ワークの設計値から設定される砥石の理論研削位置に前記設計値の公差を加えた合格外側境界位置と合格内側境界位置とに挟まれた範囲を合格評価範囲、前記合格評価範囲の中間位置を合格基準研削位置とし、
    前記合格内側境界位置に等しいA外側境界位置と前記A外側境界位置に公差の範囲を加えたA内側境界位置とに挟まれた範囲をA評価範囲、前記A評価範囲の中間位置をA基準研削位置とし、
    前記A内側境界位置に等しいB外側境界位置と前記B外側境界位置に公差の範囲の2〜10倍を加えたB内側境界位置とに挟まれた範囲をB評価範囲、前記B評価範囲の中間位置をB基準研削位置とし、そして
    前記B内側境界位置に等しいC外側境界位置と砥石の前進基準位置であるC内側境界位置とに挟まれた範囲をC評価範囲として、
    初回工程及び次回工程以降の開始サイクルは、
    研削盤固有の熱変位補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とし、前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削し、
    初回工程及び次回工程以降の次回サイクル以降は、
    ワークの測定値より得られる測定研削位置がA評価範囲にあれば合格基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、
    前記測定研削位置がB評価範囲にあればA基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回サイクルの目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、そして
    前記測定研削位置がC評価範囲にあればB基準研削位置と前記測定研削位置との差分を前回の目標研削位置から差し引いて次回サイクルの目標研削位置とし、
    前記目標研削位置まで砥石を前進させてワークを研削することを繰り返し、
    前記測定研削位置が合格評価範囲にあればワークの研削を終了する
    ことを特徴とする研削盤を用いたワークの研削方法。
  2. 初回工程及び次回工程以降の開始サイクルは、
    初回工程の開始サイクルまでの研削盤の停止時間に応じた熱変位補正率を研削盤固有の熱変位補正値に掛け合わせて得られる前進基準補正値を合格基準研削位置に加えて開始サイクルの目標研削位置とする請求項1記載の研削盤を用いたワークの研削方法。
  3. 次回工程以降の開始サイクルは、
    前回工程の開始サイクルを終えたワークの測定値より得られる測定研削位置が開始サイクルの目標研削位置に公差を加えた範囲内に収まれば、以後合格基準研削位置を開始サイクルの目標研削位置とする請求項1又は2いずれか記載の研削盤を用いたワークの研削方法。
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