JP2009247301A - 二本鎖rna結合タンパク質、およびそれを用いた二本鎖rnaの濃縮・精製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】二本鎖RNA(dsRNA)を感染マーカーとする網羅的な植物ウイルスの検出および同定方法を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)又は(c)のタンパク質および該タンパク質を用いたRNAウイルスの検出および同定方法。(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)特定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質、(c)特定のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規な二本鎖RNA結合タンパク質およびそれをコードする遺伝子、当該二本鎖RNA結合タンパク質を用いた二本鎖RNAの濃縮・精製方法、ならびにRNAウイルスの検出・同定方法に関する。
植物のウイルス病には有効な防除薬剤が存在しないため、早期診断と適切な圃場管理がその防除にきわめて重要である。これまでさまざまな植物ウイルス病に対して、ELISA法などの抗体を用いたいわゆる免疫学的診断法およびPCRなどの遺伝子診断法が開発され、診断の精度および診断に要する時間が飛躍的に短縮された。しかしながら、これらの方法は病原体特異的であり、病原体が同定され、抗体作製あるいはゲノム解析されている場合にのみ有効であり、未同定・未解析の病原ウイルスに対しては適用不可能である。また、一般に植物病害診断は、まず病徴の観察からある程度病原を絞り込み、その病原体の感染を確認する目的で免疫学的診断法あるいは遺伝子診断法を行うが、候補となる病原体が多数ある場合は、それぞれに対する診断法を全て行う必要があり、検査コストが高くなってしまうという問題がある。さらに病的な症状の原因がウイルスかどうかすら分からない場合には、検査コストはさらに高くなってしまう。
岩手県内では、さまざまな品目の花卉が栽培されており、品種数ともなると膨大な数になり、病徴を規定する病害に対する応答も多様性に富むと考えられる。実際、小菊などの病害で病原の見当がつかず、数種の検定植物に接種しても反応が認められなかった事例もある。また、リンドウなどのウイルスフリー苗の生産における品質管理では、ウイルス種を特定する必要はなく、もっぱらウイルス感染の有無を高感度に検出することがコスト削減に通じることから求められている。さらに、リンドウこぶ症では、これまで病原が特定されておらず、ウイルスの関与を疑わせる研究成果もあるが、その同定には至っていない(非特許文献1)。
上記のような種々の問題を解決するために、未同定・未解析の病原ウイルスである場合にも利用可能な網羅的な植物ウイルス病の診断法の確立が期待される。そのような植物ウイルス病の診断法の開発に当たっては、まず、全てのウイルスによる感染において共通に見いだされ、かつウイルス以外の病原体感染や非生物的ストレスによっては観察されないという性質を持つ、いわゆる感染マーカーが必要であるが、これまでそのようなものは知られていない。しかし、植物に感染し、萎縮やモザイク病などを引き起こすウイルスの大半はRNAウイルスであることから、一部の植物ウイルスのゲノムとしてウイルス粒子に含まれるとともに、その他の全てのRNAウイルスで複製中間体として機能する二本鎖RNA(dsRNA)は、少なくとも植物ウイルス感染に関しては、多くの病原体に共通した感染マーカーとして利用可能と考えられる。
一方、二本鎖RNA(dsRNA)に特異的に結合するタンパク質は、細胞内シグナルイベントや遺伝子発現の制御に関与することが知られており、保存された二本鎖RNA結合モチーフ(dsRBM)を有することを特徴としている。これまでシロイヌナズナでは、一つまたは二つの二本鎖RNA結合モチーフ(dsRBM)を含むタンパク質として、HYL1およびそのホモログ(DRB2、DRB4、DRB5、OsDRB1)やダイサー様タンパク質(DCL1〜4)が同定されており、DCL1、DCL3、HYL1およびその4つのホモログは、顕著なdsRNA結合活性を有することが報告されている(非特許文献2)。
宇杉富雄・日比野啓行・田中穣・児玉勝雄・竹澤利和・千葉健一・岩舘康哉(2006)こぶ症状を示すリンドウで認められたウイルス様粒子について.平成18年度日本植物病理学会東北部会講演要旨集,p 1, No. 2. Hiraguri A., Itoh R., Kondo N., Nomura Y., Aizawa D., Murai Y., Koiwa H., Seki M., Shinozaki K. and Fukuhara T. (2005) Specific interactions between Dicer-like proteins and HYL1/DRB-family dsRNA-binding proteins in Arabidopsis thaliana. Plant Mol. Biol. 57: 173-188.
本発明の課題は、全てのRNAウイルスでゲノムまたは複製中間体として機能する二本鎖RNA(dsRNA)を新たな感染マーカーとする網羅的な植物ウイルスの検出および同定方法を確立することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、シロイヌナズナの二本鎖RNA(dsRNA)結合タンパク質の欠失変異体が、人工的な二本鎖dsRNAに効率よく結合できることを見出した。また、実際このdsRNA結合タンパク質を用いてRNAウイルス感染植物から抽出した全核酸または粗抽出液から二本鎖RNAを単離することに成功し、またその二本鎖RNAが対応するRNAウイルスに由来するものであることを確認した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)、(b)、または(c)のタンパク質。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
(2) (1)に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
(3) 以下の(a)、(b)、または(c)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
(4) 以下の(d)、(e)、(f)または(g)のDNAを含む遺伝子。
(d)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号1に示す塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(5) (3)または(4)に記載の遺伝子と、細胞内で部分二本鎖構造を形成しうる配列とを含む組換えベクター。
(6) 細胞内で部分二本鎖構造を形成しうる配列が、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35SRNAのリーダー配列である、(5)に記載の組み換えベクター。
(7) (5)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(8) (7)に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、二本鎖RNA結合タンパク質の製造方法。
(9) (1)または(2)に記載のタンパク質を被検試料に接触させ、当該タンパク質に二本鎖RNAを結合させることを特徴とする、二本鎖RNAの濃縮・精製方法。
(10) 前記タンパク質が担体に固定化されていることを特徴とする、(9)に記載の方法。
(11) 被検試料が、組織若しくは細胞から抽出した全核酸、または組織若しくは細胞の粗抽出液である、(9)に記載の方法。
(12) 以下の工程を含む、RNAウイルスの検出および同定方法。
(i) (1)または(2)に記載のタンパク質を被検試料に接触させて二本鎖RNA-タンパク質結合体を形成させる工程
(ii) 前記の二本鎖RNA-タンパク質結合体から二本鎖RNAを分離する工程
(iii) 前記の分離二本鎖RNAをRT-PCR増幅し、増幅産物を検出する工程
(iv) 前記の増幅産物の配列を解析する工程
(13) RNAウイルスが植物RNAウイルスまたは動物RNAウイルスである、(12)に記載の方法。
(14) 担体に固定化されたまたは特異的に固定可能な(1)または(2)に記載のタンパク質、被検試料、および標識物質で標識された(1)または(2)に記載のタンパク質とを反応させ、前記担体上の標識物質を検出することにより、被検試料のRNAウイルス感染の有無を検定する方法。
(15) RNAウイルスが植物RNAウイルスまたは動物RNAウイルスである、(14)に記載の方法。
本発明の二本鎖RNA(dsRNA)結合タンパク質は、被検試料中の二本鎖RNAと結合してこれを濃縮・精製することができる。また被検試料が組織若しくは細胞の粗抽出液であっても効率的に濃縮・精製が可能である。従って、当該二本鎖RNA結合タンパク質を用いることにより、RNAウイルス感染の診断、RNAウイルス病原体の同定を迅速かつ網羅的に行うことができる。
1.二本鎖RNA結合タンパク質およびそれをコードする遺伝子
本発明の二本鎖RNA結合タンパク質は、シロイヌナズナの二本鎖RNA結合タンパク質の一つであるDRB4の欠失変異体である新規な二本鎖RNA結合タンパク質である。
本発明の二本鎖RNA結合タンパク質(以下、「DRB4*タンパク質」ともいう)は、(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質、(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質である。
上記の「配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
上記の「配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における「90%以上の相同性」とは、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性をいう。タンパク質の相同性を決定するには、文献(Wilbur, W.J. and Lipman, D.J., Proc.Natl.Acad., Sci. USA(1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムに従えばよい。
アミノ酸の欠失、付加及び置換は、上記DRB4*タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
本発明のDRB4*タンパク質は、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質のいずれであってもよい。比較的容易な操作でかつ大量に製造できるという点では、組み換えタンパク質が好ましい。
天然由来のタンパク質を入手する場合には、該タンパク質を発現している細胞または組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて単離することができる。化学合成タンパク質を入手する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して合成することもできる。
本発明のDRB4*タンパク質を組み換えタンパク質として産生するには、該タンパク質をコードする塩基配列(例えば、配列番号1に記載の塩基配列)を有するDNAまたはその変異体または相同体を入手し、これを好適な発現系に導入することにより本発明のDRB4*タンパク質を製造することができる。発現ベクターおよび形質転換体の作成およびそれを用いた組み換えタンパク質の産生については後記する。
本発明のDRB4*タンパク質には、該タンパク質と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、DRB4*タンパク質をコードするDNAと他のタンパク質又はペプチドをコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、すでに公知の手法を用いることができる。融合に付される他のタンパク質又はペプチドとしては、特に限定されない。例えば、タンパク質としては、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)、GFP(緑色蛍光タンパク質)等が挙げられる。またペプチドとしては、FLAG、6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV-GPの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag等が挙げられる。
本発明のDRB4*タンパク質または上記融合タンパク質は、二本鎖RNAとの結合の検出を容易にするために、標識物質によって標識化されていてもよい。標識物質は、酵素、放射性同位体、蛍光色素などを使用することができる。酵素は、DRB4*タンパク質に結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特に制限はなく、通常のEIAに用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることができる。これら酵素とDRB4*タンパク質との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる方法や、あらかじめアビジンまたはビオチンを導入し、これらの結合による方法など、公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、o-フェニレンジアミン等を、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、p-ニトロフェニルリン酸等を用いることができる。放射性同位体としては、125Iや3H等の通常のRIAで用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。
本発明の遺伝子は、上記のDRB4*タンパク質をコードする遺伝子であればいかなるものでもよく、例えば、(d)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA、(f)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA、または(g) 配列番号1に示す塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子が挙げられる。
上記の「配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」における「1若しくは数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から60個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個程度を意味する。
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA」におけるストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1に示す塩基配列と90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましく98%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは45〜50%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が1.5〜300mM、好ましくは1.5〜30mM、より好ましくは1.5〜15mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。
一旦本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本遺伝子のcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子を得ることができる。
2.組換えベクター及び形質転換体の作製
(1) 組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子と、細胞内で部分二本鎖構造を形成しうる配列を挿入することにより得ることができる。部分二本鎖構造を形成しうる配列は、タンパク質を生産する宿主に対する二本鎖RNA結合性に起因する細胞毒性を軽減し、本発明の遺伝子を形質転換体内で安定に保持するとともに、高い二本鎖RNA結合活性を持つタンパク質を生産するために必要であり、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35SRNAのリーダー配列、CaMVと近縁のcaulimovirus科ウイルスのプレゲノムRNAリーダー配列、RNAウイルスの3’および5’非コード領域あるいは人工的な配列などが好適に用いられる。
本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpRSET、pBR322, pBR325, pUC118, pUC119, pUC18, pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
本発明の遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、本発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有するものを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
(2) 形質転換体の作製
本発明の形質転換体は、上記の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌;サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母;サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ヒトGH3、ヒトFL細胞等の動物細胞;あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12、DH1などが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどのように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N. et al. (1972) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 69, 2110-2114)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. (1990) Methods. Enzymol., 194,182-187)、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. (1978) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 75, 1929-1933)、酢酸リチウム法(Itoh, H. (1983) J. Bacteriol. 153, 163-168)等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトHeLa、FL細胞などが用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Schneider 2(S2) 細胞、Sf9細胞、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
また、上記の各宿主細胞への遺伝子導入は、組換えベクターによらない方法、例えばパーティクルガン法なども用いることができる。
3.本発明の二本鎖RNA結合タンパク質の製造
本発明の二本鎖RNA結合タンパク質(DRB4*タンパク質)は、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは7.0〜7.5に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより該タンパク質を抽出する。また、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
4.二本鎖RNAの濃縮・精製方法
本発明の上記二本鎖RNA結合タンパク質は、二本鎖RNAに効率的に結合することから、被検試料中の二本鎖RNAの濃縮・精製に用いることができる。具体的には、DRB4*タンパク質を、二本鎖RNAを含みうる被検試料に接触させ、DRB4*タンパク質に二本鎖RNAを結合させる。上記の接触後、DRB4*タンパク質に結合した二本鎖RNAは、プロテアーゼで消化するか、またはドデシル硫酸ナトリウムなどを用いてタンパク質を変性させることによって、DRB4*タンパク質から分離することができる。
また、DRB4*タンパク質は、結合しなかった核酸を洗浄により容易に除去できるように、担体に固定化されていることが好ましい。使用できる担体としてはDRB4*タンパク質と二本鎖RNAとの結合反応系において溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に制限されない。担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すれば良く、例えば、マイクロプレート状、ビーズ状、球状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。また、その材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、または、これらに公知の方法によりスルホン酸基、アミノ基、ヒドラジド基、アルキルアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などなどの反応性官能基を導入したもの、ガラス、金属、磁性粒子、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックスなどが挙げられる。
担体へのDRB4*タンパク質の結合は、公知の固定化方法、例えば共有結合法、物理的吸着法、イオン結合法等を用いて行うことができる。また、担体へのDRB4*タンパク質の結合は、DRB4*タンパク質と融合させた前記の他のタンパク質またはペプチドを利用して行うこともでき、例えば、他のタンパク質としてGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)を用いた場合は、グルタチオン担体に結合させることができる。
被検試料は、RNAウイルス感染細胞を含む可能性のある試料であれば特に限定はされず、代表的には生体由来の核酸試料であるが、組織若しくは細胞から抽出した全核酸、または組織若しくは細胞の粗抽出液のいずれでも使用可能である。組織若しくは細胞からの核酸の抽出は、当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、たとえば、フェノール/クロロホルム法、界面活性剤による細胞溶解やプロテアーゼ酵素による細胞溶解、ガラスビーズによる物理的破壊方法、凍結溶融を繰り返す処理方法などにより行うことができる。試薬はメーカーから販売されている各種核酸抽出キットを用いてもよい。
例えば、植物を材料とする場合であれば、核酸抽出に用いる植物体の組織は特に限定されないが、好ましくは葉を用いる。さらに、これらの葉は、核酸抽出を効率よく行うことができるように、液体窒素を用いて粉砕しておくことが好ましい。核酸抽出は公知の方法を用いて行うことができる。
5.RNAウイルスの検出および同定方法
本発明によればまた、上記二本鎖RNA結合タンパク質を用いるRNAウイルスの検出および同定方法も提供される。本方法は、DRB4*タンパク質を被検試料に接触させて二本鎖RNA-タンパク質結合体を形成させる工程、得られた二本鎖RNA-タンパク質結合体から二本鎖RNAを分離する工程、分離した二本鎖RNAをRT-PCR増幅し、増幅産物を検出する工程、およびその増幅産物の配列を解析する工程を含む。
DRB4*タンパク質を被検試料に接触させて二本鎖RNA-タンパク質結合体を形成させる工程、得られた二本鎖RNA-タンパク質結合体から二本鎖RNAを分離する工程は上述したとおりである。また、二本鎖RNAのRT-PCR増幅は、多種類の配列に結合してDNA合成を開始させるという特徴を有するプライマーおよびその混合物を用いて配列非特異的に行う以外は、通常のRT-PCRの手法に従って行うことができる。また、このような非特異的なRT-PCR増幅のためには、逆転写酵素と上記プライマーがセットされた市販のキット(例えば、Whole Transcriptome Amplification kit(Sigma-Aldrich)など)が利用できる。
増幅産物の検出は、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、増幅産物をアガロース電気泳動で検出する方法、増幅産物を蛍光検出する方法、増幅産物をプローブで検出 する方法等が例示できる。また、増幅産物の塩基配列の決定も公知の方法によって行うことができる。増幅産物の同定が必要な場合は、増幅産物(断片)の塩基配列を決定することによって行うことができる。具体的には、増幅産物をアガロース電気泳動等により精製し、バンドを切り出してcDNAを抽出し、適当なベクターに挿入後、大腸菌等にクローニングして培養し、得られたcDNA断片の塩基配列を決定する。配列の決定は、サンガー法やマキサム−ギルバート法等の一般的な方法によって行うことができる。
本方法において検出・同定の対象となるRNAウイルスとは、ゲノムとして一本又は複数本の一本鎖または二本鎖のRNA分子を有し、そのゲノムが複製過程でDNAの状態をとらないウイルスをいい、植物RNAウイルスであっても動物RNAウイルスであってもよい。
植物RNAウイルスとしては、例えば、キュウリモザイクウイルス、トマトモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、トウガラシマイルドモットルウイルス、ジャガイモXウイルス、ジャガイモYウイルス、タバコラットルウイルス、タバコマイルドグリーンモザイクウイルス、トマト壊疽黄化ウイルス、インゲンマメ黄斑モザイクウイルス、アブラナモザイクウイルス、パプリカマイルドモットルウイルス、キュウリ緑斑モザイクウイルス、スイカ緑斑モザイクウイルスなどが挙げられるが、これらに限定はされない。また、動物RNAウイルス としては、ムンプスウイルス、エンテロウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス及びフィロウイルスなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
6.RNAウイルス感染の有無の検定方法
本発明によればまた、上記二本鎖RNA結合タンパク質を用いて、ウイルス種の同定は目的とせずもっぱらウイルス感染の有無を検定する方法もまた提供される。本方法は、担体に固定化したまたは特異的に固定可能なDRB4*タンパク質と標識物質で標識されたDRB4*タンパク質を被検試料に反応させ、前記担体上の標識物質を検出することにより行う。
担体および標識物質は、前述したものを用いることができるが、検定を簡便かつ網羅的に行う上で、サンドイッチELISA用マイクロタイタープレートおよび酵素標識物質を用いることが好ましい。また、担体へのDRB4*タンパク質の固定化は前述の各方法により行うことができ、固定化させる量は、使用する担体の種類や表面等によって異なるが、例えば担体として上記マイクロタイタープレートを用いた場合、タンパク質濃度が1〜50μg/ml、好ましくは10〜40μg/mlが例示できる。また、本方法においては、DRB4*タンパク質は担体に特異的に固定可能の形態であってもよい。例えば、ビオチン化したDRB4*タンパク質と標識物質で標識されたDRB4*タンパク質を被検試料に反応させた後、反応液をアビジン化担体に添加し、担体上の標識物質を検出することにより行うこともできる。
本方法においてウイルス感染の有無の検定は、標識物質を検出することにより行う。標識物質として酵素を用いる場合は、単独では検出可能なシグナルを生じないので、酵素の種類に応じた発色基質と反応させることによって検出可能なシグナルを生じさせ、それを比色法などで測定すればよい。例えば、前述したように、酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合は、発色基質としてp-ニトロフェニルリン酸を用いる。また、標識物質として蛍光物質を用いた場合は、単独で検出可能なシグナルを生じさせることができる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)シロイヌナズナdsRNA結合タンパク質cDNAのクローニング
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana ecotype Columbia)のロゼット葉からRNAqueous kit(Ambion製)を用いて全RNAを抽出した。PrimeScript cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてcDNAを合成し、データベース上の配列を基に作製したプライマー(下記表1)を用いて、既にdsRNA結合性について報告(Hiraguri A., Itoh R., Kondo N., Nomura Y., Aizawa D., Murai Y., Koiwa H., Seki M., Shinozaki K. and Fukuhara T. (2005) Specific interactions between Dicer-like proteins and HYL1/DRB-family dsRNA-binding proteins in Arabidopsis thaliana. Plant Mol. Biol. 57: 173-188.)のあるシロイヌナズナのDCL1のdsRNA結合ドメイン(DCL1-dsRBM)、DRB1/HYL1、DRB2、DRB3、およびDRB4の全コード領域をそれぞれPCR増幅し、PCR増幅産物をTOPO TA cloning kit(Invitrogen)を用いてクローニングし、得られたクローンの塩基配列を決定した。
Figure 2009247301
その結果、DCL1のdsRNA結合ドメイン(DCL1-dsRBM)、DRB1/HYL1、DRB2、DRB3、およびDRB4に加えて、DRB4の欠失変異体(DRB4*)が得られた(図1)。DRB3およびDRB4については、将来的に使用予定のベクターへの挿入に用いるHind IIIおよびEcoR Iの認識部位がコード領域内にそれぞれ一カ所ずつ存在したため、表1に示したプライマーを用いてそれらを破壊した。DRB3およびDRB4制限酵素認識部位を破壊した箇所を除き、得られた塩基配列はデータベース上のものと完全に一致した。
DRB4*はDRB4のC-端領域の中央に78塩基対(26アミノ酸残基)の欠失を持つ変異体であり、その欠失領域にピリミジン残基に富む配列(下線)あること、欠失領域の両端がGTおよびAGであることから、オルタナティブスプライシングによって生成されたものであることが示唆された(図2A)。そこで、健全シロイヌナズナ(C-24, Col-0)およびCMV感染シロイヌナズナ(C-24)の全RNAからcDNAを合成し、推定上のイントロンおよびその約120 bp上流に位置する真のイントロンの両方を含む領域を増幅するプライマーセット(AtDRB4S-ASF1(5’-TGTGAAGAGCAGTCCACA-3’:配列番号17)およびAtDRB4S-ASR1(5’-TTCTGAGGCATCCACGAA-3’:配列番号18)を用いたRT-PCRによってDRB4*の発現を調べた。図2Bに、その結果を示す[レーン1,2および3:健全シロイヌナズナ(Col-24)、レーン4,5および6:CMV感染シロイヌナズナ(C-24)、レーン9および10:健全シロイヌナズナ(Col-0)、レーン8および11:陽性対照(DRB4およびDRB4*のcDNAクローンをそれぞれ等量含む]。DRB4* mRNAの発現はいずれの植物からも検出できなかったことから、DRB4*はPCRクローニング時に生成された人工産物であることが示唆された。
(実施例2)dsRNA結合タンパク質の大腸菌における発現
dsRNA結合タンパク質を大量に得る目的で、塩基配列から目的のタンパク質をコードすることが明らかになった上述のDCL1、DRB1、DRB2、DRB3 cDNAを、GST融合タンパク質発現ベクターpGEX6P-2に挿入した。
dsRNA結合性によると考えられる大腸菌に対する細胞毒性を緩和し、発現ベクターを安定化するとともに発現量を向上する目的で、部分二本鎖構造をとるカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)のリーダー配列に相当する部分を含むDNA断片(CaL)をDRB1、DRB2、DRB3 cDNAの下流に挿入した。CaLは、CaMVゲノムクローンからEcoR VおよびSpe Iで切り出し、pBluescriptのHinc II-Spe I部位に挿入後、Xho IおよびNot Iで切り出し、pGEX6P-2由来のDRB1、DRB2、DRB3発現ベクターのSal I-Not I部位に挿入した。CaLを挿入したDRB2発現ベクターからDRB2 cDNAを切り出し、DRB4およびDRB4* cDNAを挿入した。
構築した発現ベクターを大腸菌BLR系統に導入し、定法によってGST融合タンパク質を発現させた(5 ml培養系)。誘導培養後の大腸菌は、10μg/ml RNaseを含む溶菌バッファー(0.1 M Tris-HCl, pH 7.0, 0.1 M NaCl, 10 mM EDTA,0.1% Triton X-100)に懸濁後、3回凍結融解し、さらに超音波処理することによって破壊した。20,000×g,15〜30分の遠心上清を溶菌バッファーで平衡化したグルタチオンセファロース(0.1 ml容)に吸着させ、溶菌バッファーで3回、溶菌バッファーからTriton X-100を除いたバッファーで2回、さらにdsRNA結合バッファー(0.1 M Tris-HCl, pH 7.0, 0.1 M NaCl, 10 mM MgCl2)で2回洗浄した。このようにして得られたGST融合タンパク質のグルタチオンセファロース結合画分をSDS-PAGEで分析した。その結果、DCL1-dsRNA結合ドメイン、DRB1、DRB4、およびDRB4*において良好な発現が得られた(図3A)。一方、DRB2およびDRB3 では全長の融合タンパク質の発現量が低く、特にDRB2では翻訳が途中で停止したと思われる低分子量のタンパク質の発現が顕著であった。これらのタンパク質の発現が低レベルであったのは、それらが大腸菌に対する細胞毒性を持っていたためである可能性が考えられる。これら2種類のタンパク質発現においては、CaLの挿入による改善が認められなかったことから、これらの大腸菌に対する細胞毒性は、dsRNA結合能以外のタンパク質の性質に起因すると考えられる。
(実施例3)GST-dsRNA結合タンパク質のdsRNA結合性
(1) 人工的なdsRNAの調製
dsRNA結合タンパク質のdsRNA結合性を検討するために、人工的に調製したdsRNAを用いた。1.45 kbpのキュウリモザイクウイルス(CMV)-Y RNA3のcDNA断片および1.95 kbpのソラマメ萎凋ウイルス(BBWV)-Iw RNA2のcDNA断片をpBluescriptにクローン化した。これらのプラスミドをNot IまたはAcc65 Iで直鎖化し、T7またはT3ポリメラーゼを用いたin vitro転写反応によって互いに相補的なRNAをそれぞれ独立して合成した。それらを50 mM Tris-HCl, 5 mM EDTA, 0.5M NaCl中で混合し、98℃で5分および68℃で一晩インキュベートし、二本鎖を形成させた。二本鎖形成は、低塩濃度下および高塩濃度下で10 μg/ml RNaseによって処理し、それぞれ感受性および耐性を示すことによって確認した。一本鎖RNAの残存が認められたため、dsRNA結合性検定には,高塩濃度下でRNase処理後、精製したものを用いた。
(2) dsRNA結合タンパク質のdsRNA結合性検定
dsRNA結合タンパク質のdsRNA結合性の検討には、融合タンパク質(GST-dsRNA結合タンパク質)を結合させたグルタチオンセファロースを用いた。(1)で調製した人工dsRNAと融合タンパク質を結合させたグルタチオンセファロースを0.1%BSAを含むdsRNA結合バッファー中で混合し、4℃で30分間、試験管ローターを用いて撹拌した。3000 rpm,30秒の遠心でセファロースビーズを沈殿させ、沈殿を乱さないように上清をマイクロピペットで除去した。沈殿に1 mlのdsRNA結合バッファーを加え、軽く上下して沈殿を完全に懸濁させた後、3000 rpm,30秒の遠心でセファロースビーズを沈殿させ、上清を除去した。これをさらに4回繰り返すことによって、セファロースビーズから非結合核酸を除去した。5回目の洗浄のあと、再度遠心することによって管壁についた溶液を集め、マイクロピペットで除去した後、溶出液[0.1 M Tris-HCl, pH 8.0, 10 mM EDTA, 2×loading buffer(タカラバイオの制限酵素添付品10×loading bufferを1/5容加えた)]を10〜20μl加え、指で軽くはじくか、低速のvortexで溶出液を跳ね上げないように撹拌し、室温で5分以上放置した。軽く遠心してセファロースビーズを沈殿させ、上清10μlを電気泳動で分析した。
その結果、DCL1のdsRNA結合ドメイン、DRB1/HYL1、DRB2、DRB3、DRB4およびDRB4*の全てでdsRNA結合能が確認された(図3B)。
上記dsRNA結合タンパク質のdsRNAの結合特性を図4A〜Cに示す。DRB1/HYL1では、大腸菌から持ち込まれたと考えられるRNAが大量に結合しており、人工的なdsRNAの電気泳動での検出が阻害される傾向にあった(図4A)。これに対し、DRB4*では、共精製される大腸菌RNAは低分子であり、dsRNAの検出が容易であった。そこで、DRB4*を用いて500μlの反応系においてdsRNAを精製したところ、臭化エチジウム染色の検出限界に近い量の37ngのdsRNAを効率よく濃縮できることが分かった(図4B)。また、精製したGST-DRB4*(4.35 mg/ml)1,2, 4μlを用い、500μlの反応系においてdsRNAを精製したところ、精製されるdsRNA量は加えたタンパク質量に比例して増加した(図4C)。
このことから長鎖dsRNAに多数のGST-DRB4*分子が結合すること、dsRNA濃縮・精製効率を高めるには多くのタンパク質が必要であることが示唆された。また、高分子のdsRNAは低分子のものよりもより少ないGST-DRB4*によっても同様な量が精製されていることから、DRB4*はより高分子のRNAに協調的に結合する可能性が考えられた。
(実施例4)GST-DRB4*の発現におけるCaLの重要性
上述のようにGST-DRB4*はdsRNA濃縮・精製のためのツールとして有用であることが分かった。そこで、このタンパク質の発現方法、特にCaLの意義について検討した。CaLを持つGST-DRB4*発現ベクターpGST-DRB4*-CaLから制限酵素処理によってCaLを取り除いてpGST-DRB4*(ΔCaL)を得、セルフライゲーションさせて大腸菌を形質転換した。その結果、正常な生育速度を示したコロニーは少なく、非常に生育速度の遅い小さなコロニーが多数得られた。正常な生育速度を示したコロニーから5クローンを無作為にとり、プラスミドDNAを抽出したところ、1クローン(クローン1)ではDRB4*コード領域が欠失していた(図5A)。残りの4クローン(クローン2〜5)についてタンパク質を発現させたところ、pGST-DRB4*-CaLよりもむしろ良好な発現を得た(図5B)。pGST-DRB4*-CaLで形質転換した大腸菌およびpGST-DRB4*(ΔCaL)で形質転換した大腸菌(クローン2〜5)から発現させたGST-DRB4*のグルタチオンセファロース結合画分に1μgのdsRNAを添加し、dsRNA結合能を比較したところ、CaLを欠失させたクローン2〜5では明らかに低下していた(図5C)。このdsRNA結合能の低下の原因はこれまで明らかになっていないが、これらの結果から、CaLを発現ベクターに挿入しておくことが、GST-DRB4*のdsRNA結合能を安定に保つのに必要であることが示された。
(実施例5)ウイルス感染植物からのdsRNAの単離
GST-DRB4*を用いてウイルス感染植物からウイルスの複製中間体であるdsRNAを検出できるか否かの確認を、葉から抽出した全核酸または葉の粗抽出液を材料とし、これらからGST-DRB4*を用いて植物ウイルス複製中間体の濃縮・精製することによって行った。
4種類のウイルス(キュウリモザイクウイルス(CMV)、トウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)、ジャガイモウイルスX(PVX)、およびタバコラットルウイルス(TRV))をベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)に感染させ、全身病徴を示したものから葉を採取した。健全葉および前記4種類のウイルスによる感染葉から全核酸または粗抽出液を調製した。
全核酸の抽出は、以下のように行った。0.1 gの健全葉およびウイルス感染葉を、ジルコニアビーズおよび海砂の入った2 mlマイクロチューブに入れ、液体窒素で凍結後、組織破砕機(トミー社,Micro Smash)を用いて破砕した。0.45 mlの全核酸抽出液(0.1 M Tris-HCl, pH 8.0, 0.5 M NaCl, 10 mM EDTA)を加えて組織破砕機を用いて混和した後、50μlの10% SDSを添加、vortexで混和した。これをフェノール、フェノールクロロホルム混液およびクロロホルムで1回ずつ順次抽出した後、エタノール沈殿にて全核酸を回収した。全核酸沈殿を70%エタノールで洗浄後、0.2 mlのTEバッファーを加えて4℃に一晩放置し、全核酸を溶解した。15000 rpm,10分の遠心で不溶成分を除去したものをdsRNAの濃縮・精製に供試した。
100μlの全核酸を新しいエッペンチューブに取り、290μlのdsRNA結合バッファーおよび4μlのGST-DRB4*を加え、vortexで撹拌後、10分間室温に放置した。これをあらかじめ用意しておいた60μlの50%グルタチオンセファロースおよび50μlの1%BSAを入れた1.5 mlエッペンチューブに全量移し、4℃で30分間、試験管ローターを用いて撹拌した。dsRNA結合バッファーで5回目の洗浄した後、実施例3と同様に管壁の溶液を除去し、20μlの溶出液でdsRNAを溶出させた。軽く遠心してセファロースビーズを沈殿させ、上清から10μlを電気泳動で分析した。残りに全核酸抽出液100μl、エタチンメイト(日本ジーン)を加えて撹拌後、軽く遠心し、上清を新しいエッペンチューブに移し、300μlのエタノールでdsRNA画分を沈殿させ、40μlのTEバッファーに溶解し、-20℃で保存した。その結果、全てのウイルス感染区において、それぞれ電気泳動上の移動度の異なる核酸が検出され、その移動度とバンドパターンからそれぞれのウイルスの複製中間体であることが示唆された(図6A)。
また、粗抽出液からのdsRNAの単離は、以下のように行った。0.1 gの健全およびウイルス感染葉を破砕し、0.1 mlのdsRNA結合バッファーを加え、組織破砕機で混和した。そこに10μlの10% Triton X-100を加えてvortexで混和し、室温で2-3分放置した後、900μlのdsRNA結合バッファーで希釈した。これを15000 rpm,10分間遠心し、上清を新しいエッペンチューブに移した。以下、全核酸からのdsRNAの濃縮・精製と同じ手順で行った。
その結果、バンドの濃さに差異はあるものの全核酸を用いた場合と同様なバンドパターンが得られ、粗抽出液からもdsRNAの精製が可能であることが示された(図6B)。しかしながら、粗抽出液からdsRNAを精製する場合には、植物細胞のDNAと思われるバンドがいくつかの実験区で検出され、粗抽出液からdsRNAを精製する場合には、非特異的な吸着が起こりやすく、これを抑制するための対策が必要であることが示唆された。
(実施例6)植物ウイルス感染特異的dsRNAの解析
次に、実施例5にて精製されたdsRNAがウイルス由来のものであることを確認するとともに、宿主由来の他の配列がdsRNA画分にどの程度混入しているかを明らかにする目的で、dsRNAを変性後、塩基配列非特異的に逆転写・増幅し、増幅されたDNA断片をクローン化して塩基配列を解析した。
全核酸および粗抽出液から精製したdsRNA画分のうち、20μlを新しいエッペンチューブに移し、3分間煮沸後急冷して変性させた。このうち4μlをWhole Transcriptome Amplification kit(Sigma-Aldrich)による網羅的増幅(逆転写反応液=15μl)に用いた。増幅は、ExTaq DNA polymeraseを用いて50μlの反応液で17サイクル行った。塩基配列非特異的に増幅されたDNAを電気泳動で分析したところ、ウイルス感染区では健全区と比較して、より多くのDNA断片が増幅されていた(図7)。全核酸由来dsRNAからの増幅断片をクローン化し、各区36クローンずつベクター配列にアニールするプライマーペアを用いたコロニーPCRでクローニングを確認したところ、ほぼ全てで増幅断片が挿入されていた。そこで、これら全てのコロニーPCR産物の塩基配列を決定した。決定した各クローンのシークエンスをBLASTにかけ、該当するウイルスの配列、植物の配列およびその他の配列が上がってきたクローン数を下記表2に示す。
Figure 2009247301
表2に示されるように、ウイルス感染区から得られた増幅断片は大部分がそれぞれのウイルスに由来するものであることが判明した。また、健全葉由来のものでは、混入したCMVサテライトRNA由来のDNA断片および葉緑体DNA由来の断片が見いだされ、PMMoV感染区由来の1クローンで見いだされた同定可能な宿主由来の配列も葉緑体由来であった。以上の結果から、GST-DRB4*を用いてウイルス複製中間体dsRNAを単離し塩基配列非特異的に増幅することによって、ウイルス由来の配列をかなり選択的に増幅可能であり、その塩基配列を解析することによってウイルス種を同定できること、さらにその過程に病原特異的な増幅反応等を含まないことから、この方法によって未同定のウイルスによる感染も検出可能であることが示された。
(実施例7)DRB4*とDRB1/HYL1による植物ウイルスdsRNA単離効率の比較
GST-DRB4*またはDRB1を結合させたグルタチオンセファロースを0.1%BSAを含むdsRNA結合バッファー中で健全またはPMMoV感染N. benthamianaから抽出した全核酸と混合し、4℃で30分間、試験管ローターを用いて撹拌した。以下、実施例5と同様にdsRNAを単離し、アガロースゲル電気泳動で分析した。
その結果、DRB4*ではDRB1よりも効率的にPMMoV dsRNAを単離できることが示された(図8)。
(実施例8)網羅的ウイルス感染の有無の検定
(1) GST-DRB4*-アルカリフォスファターゼ融合タンパク質の作製
大腸菌XL1-Blue MRAから定法によってゲノムDNAを抽出し、プライマーPhoAinitF:CCCCATGGTGCCAGAAATGCCTGTTCTGGA(配列番号19)とPhoAfusRX:GGGCTCGAGTTTCAGCCCCAGAGCGGCTT(配列番号20)を用いたPCRによってアルカリフォスファターゼ遺伝子(PhoA)を増幅、クローニングした。さらに上記のプライマー、およびPhoAdN-F:GAAAGCAACGTACCACGGTAATATCGATAAG(配列番号21)とPhoAdN-R:CTTATCGATATTACCGTGGTACGTTGCTTTC(配列番号22)を用いてPhoA遺伝子中のNcoI認識部位を破壊した。
塩基配列を確認後、このPhoAクローンを鋳型としLin-PhoA-F:GGGTCAGGAAGTGGTGGACCAGAAATGCCTGTT(配列番号23)とPhoA-Hd-R:TGTGTGAAGCTTTTATTTCAGCCCCAGAGC(配列番号24)を用いて増幅したDNA断片と、pGST-DRB4*CaLを鋳型とし、DRB4sC-Nco-F:GCCAACATGTAGTTTGTCGC(配列番号25)とDRB4s-Lin-R:TCCACCACTTCCTGACCCGGGCTTCACAAGACG(配列番号26)を用いて増幅したDNA断片をレコンビナントPCR法によって融合させて増幅し、クローニングした。塩基配列を確認後、DRB4*のC-末端領域とアルカリフォスファターゼ全長が融合したNco I-Hind III断片をpGST-DRB4*-CaLのそれと置換することによってpGST-DRB4*-PhoA-CaLを得た。このプラスミドを持つ大腸菌から定法によって融合タンパク質を発現させ精製したところ、未成熟翻訳終結によると思われる低分子量タンパク質とともにGST-DRB4*-アルカリフォスファターゼ融合タンパク質(以下,GDPhoA)が得られた(図9)。
(2) サンドイッチELISA型dsRNA検出法
サンドイッチELISA用の96ウェルプレートに1ウェルあたり2または0.5 μgのGST-DRB4*を50 μlのコーティングバッファー(0.05 M 炭酸バッファー、pH 9.6)に希釈したものを加えて37℃、2時間放置し、GST-DRB4*をプレートに固定化した。コーティング液を除去した後、1%牛血清アルブミンを含むdsRNA結合バッファーで1時間、室温でブロッキングした。20 ng, 2 ng, 200 pg, 20 pg, 2 pgまたは0 pgの人工dsRNAを各ウェルに加え、室温で30分間放置し、さらに1%牛血清アルブミンおよび0.1%Tween-20を含むdsRNA結合バッファーで段階的に希釈したGDPhoAを添加してさらに室温で30分間放置した。0.1%Tween-20を含むdsRNA結合バッファーで5回洗浄した後,p-ニトロフェニルリン酸を加え、37℃で一晩反応させた後、各ウェルの吸光度を測定した。その結果、dsRNA 2 ng/ウェル以上においては、GD-PhoA不添加(対照)に比べて2倍の吸光度を示し、検出が可能であることがわかった(表3、表4)。ウイルス感染植物の組織の粗抽出液からウイルスdsRNAの単離が可能であったことから、本法を用いた場合にも感染植物の組織の粗抽出液からウイルスdsRNAの検出が可能であると期待される。
Figure 2009247301
Figure 2009247301
図1は、クローン化したシロイヌナズナ由来dsRNA結合タンパク質の構造の模式図を示す(斜線:dsRNA結合モチーフ、太線:その他の領域、括弧内の数字:アミノ酸残基数)。 図2Aは、DRB4遺伝子のゲノム配列(上段)とDRB4* cDNA配列(下段)の比較を示す。DRB4*の欠失領域の両端にスプライスドナーおよびアクセプターに保存されたGTおよびAGが存在し、欠失領域内にピリミジン残基(下線)に富む配列がある。図2Bは、健全シロイヌナズナおよびCMV感染シロイヌナズナにおけるDRB4*の発現のRT-PCR分析結果を示す [レーン1,2および3:健全シロイヌナズナ(C-24)、レーン4,5および6:CMV感染シロイヌナズナ(C-24)、レーン9および10:健全シロイヌナズナ(Col-0)、レーン8および11:陽性対照(DRB4およびDRB4*のcDNAクローンをそれぞれ等量含む]。 図3Aは、GST-dsRNA結合タンパク質のグルタチオンセファロース結合画分のSDS-PAGE分析結果を示す(DCL1:DCL1のdsRNA結合ドメイン(大腸菌培養液2 ml相当)、M:マーカー、G:GST(大腸菌培養液0.5 ml相当)、1:DRB1/HYL1(大腸菌培養液1 ml相当)、2:DRB2(大腸菌培養液2 ml相当)、3:DRB3(大腸菌培養液2 ml相当)、4:DRB4(大腸菌培養液1 ml相当)、4*:DRB4*(大腸菌培養液1 ml相当))。図3Bは、GST-dsRNA結合タンパク質のdsRNA結合能を示す(DCL1:DCL1のdsRNA結合ドメイン、1:DRB1/HYL1、2:DRB2、3:DRB3、4:DRB4、4*:DRB4*)。DCL1、DRB1、DRB2およびDRB3はCMV由来の人工dsRNAを用いて、DRB4およびDRB4*はBBWV由来のdsRNAを用いて検討した。 図4Aは、DRB1/HYL1を用いたdsRNA(1000ng)精製後の溶出画分のアガロースゲル電気泳動分析結果を示す。図4Bは、DRB4*を用いたdsRNA(20〜1000ng)精製後の溶出画分のアガロースゲル電気泳動分析結果を示す。図4Cは、DRB4*(1, 2, 4μl)を用いて精製したdsRNAのアガロースゲル電気泳動分析結果を示す。 図5Aは、pGST-DRB4*(ΔCaL)で形質転換した大腸菌(クローン1〜5)から調製したプラスミドDNAの制限酵素分析結果を示す。図5Bは、pGST-DRB4*-CaLで形質転換した大腸菌およびpGST-DRB4*(ΔCaL)で形質転換した大腸菌(クローン2〜5)におけるDRB4*発現のSDS-PAGE分析結果を示す。図5Cは、pGST-DRB4*(ΔCaL)で形質転換した大腸菌(クローン2〜5)で発現させたGST-DRB4*のdsRNA結合能を示す。 図6Aは、健全植物(Healthy)およびウイルス(CMV、PMMoV、PVX、TRV)感染植物由来の全核酸から単離したウイルス複製中間体dsRNAのアガロースゲル電気泳動分析結果を示す。図6Bは、健全植物(Healthy)およびウイルス(CMV、PMMoV、PVX、TRV)感染植物由来の粗抽出液から単離されたウイルス複製中間体dsRNAのアガロースゲル電気泳動分析結果を示す(NC:バッファーのみ, PC:人工dsRNA)。 図7は、健全およびウイルス感染植物由来の全核酸(Total NA)または粗抽出液(Crude sap)から単離したdsRNAを鋳型として塩基配列非特異的に増幅したPCR産物のSDS-PAGE分析結果を示す(H:健全、C:CMV感染、Pe:PMMoV感染、Po:PVX感染、T:TRV感染)。 図8は、健全植物(H)およびPMMoV感染植物(I)由来の全核酸からDRB1またはDRB4*を用いて単離したウイルス複製中間体dsRNAのアガロースゲル電気泳動分析結果を示す(M:分子量マーカー、矢印:PMMoV dsRNAのバンド)。 図9は、pGST-DRB4*-PhoA-CaLで形質転換した大腸菌におけるGST-DRB4*-アルカリフォスファターゼ融合タンパク質発現のSDS-PAGE分析結果を示す。

Claims (15)

  1. 以下の(a)、(b)、または(c)のタンパク質。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
    (c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
  2. 請求項1に記載のタンパク質と他のペプチドからなる融合タンパク質。
  3. 以下の(a)、(b)、または(c)のタンパク質をコードする遺伝子。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
    (c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質
  4. 以下の(d)、(e)、(f)または(g)のDNAを含む遺伝子。
    (d)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
    (e)配列番号1に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (f)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (g) 配列番号1に示す塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ二本鎖RNAとの結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
  5. 請求項3または4に記載の遺伝子と、細胞内で部分二本鎖構造を形成しうる配列とを含む組換えベクター。
  6. 細胞内で部分二本鎖構造を形成しうる配列が、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35SRNAのリーダー配列である、請求項5に記載の組み換えベクター。
  7. 請求項5に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  8. 請求項7に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から発現させたタンパク質を採取することを特徴とする、二本鎖RNA結合タンパク質の製造方法。
  9. 請求項1または2に記載のタンパク質を被検試料に接触させ、当該タンパク質に二本鎖RNAを結合させることを特徴とする、二本鎖RNAの濃縮・精製方法。
  10. 前記タンパク質が担体に固定化されていることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
  11. 被検試料が、組織若しくは細胞から抽出した全核酸、または組織若しくは細胞の粗抽出液である、請求項9に記載の方法。
  12. 以下の工程を含む、RNAウイルスの検出および同定方法。
    (i) 請求項1または2に記載のタンパク質を被検試料に接触させて二本鎖RNA-タンパク質結合体を形成させる工程
    (ii) 前記の二本鎖RNA-タンパク質結合体から二本鎖RNAを分離する工程
    (iii) 前記の分離二本鎖RNAをRT-PCR増幅し、増幅産物を検出する工程
    (iv) 前記の増幅産物の配列を解析する工程
  13. RNAウイルスが植物RNAウイルスまたは動物RNAウイルスである、請求項12に記載の方法。
  14. 担体に固定化されたまたは特異的に固定可能な請求項1または2に記載のタンパク質、被検試料、および標識物質で標識された請求項1または2に記載のタンパク質とを反応させ、前記担体上の標識物質を検出することにより、被検試料のRNAウイルス感染の有無を検定する方法。
  15. RNAウイルスが植物RNAウイルスまたは動物RNAウイルスである、請求項14に記載の方法。
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