JP2009243616A - 転がり軸受用保持器及びその表面処理方法 - Google Patents

転がり軸受用保持器及びその表面処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】転がり軸受の高速回転化及び高付加容量化に対応でき、疲労強度が高い転がり軸受用保持器及びその表面処理方法を提供する。
【解決手段】冷間圧延鋼板SPCC材又は熱間圧延鋼板SPHD材からプレス成形にて自動調心ころ軸受用のプレス保持器の母材を作製し、一次熱処理、二次熱処理、及び冷却処理を施した。一次熱処理は、400〜590℃の温度でのガス窒化処理であり、二次熱処理は、500〜590℃の温度に保持する処理であり、冷却処理は、例えば水冷などによる急冷処理である。
【選択図】なし

Description

本発明は、転がり軸受に組み込まれる鋼製の保持器及びその表面処理方法に関する。
従来から、負荷が作用する転がり軸受には、強度に優れる高力黄銅製のもみ抜き保持器がよく使用されている。しかしながら、高力黄銅は自己潤滑性を有し摺動性、耐摩耗性に優れるものの高価であるので、高力黄銅製のもみ抜き保持器は材料コストが高いという問題点があった。また、もみ抜きにより加工されるため、加工費が高く、材料歩留まりも低い。よって、高力黄銅製のもみ抜き保持器は、特殊用途に限定されていた。
そのため、近年においては、保持器の設計を最適化してコストダウンや保持器強度の向上を図ることによって、SPCC材に代表される冷間圧延鋼板やSPHD材に代表される熱間圧延鋼板から製造されたプレス保持器が使用されるようになっている。
一般にSPCC材は高力黄銅と比較して摺動性、耐摩耗性が劣るため、潤滑条件が厳しい場合には、転動体と保持器ポケットとの接触部や、保持器の案内面と軌動輪との接触部で摩耗が著しく進行して、回転精度が低下する場合があり、最悪の場合には焼付きが生じて破損に至る場合があった。このため、SPCC材製又はSPHD材製の保持器には、塩浴窒化処理やガス軟窒化処理に代表される軟窒化処理を施して、鉄と窒素の化合物からなる硬質な窒化層を保持器表面に形成して耐摩耗性を向上させる努力がなされてきた。
例えば、特許文献1には、0.12%C以下の低炭素銅であって、かつTi含有量を0.0015%以下に規制したAlキルド鋼板から窒化処理をして深みぞ玉軸受の打ち抜き保持器を作製する技術が開示されている。これにより、鋼中のTi含有量を規制するので、タフトライド処理の際に鋼板内質部の脆化がなく、保持器の籾性を確保し、その破壊強度を高めるというものである。
また、特許文献2には、窒化処理の前に保持器の表面の酸化物を金属フッ化膜に置き換えるフッ化処理を含むガス窒化方法が開示されている。これにより、鋼表面に均一な窒化層を迅速に得ることが可能である。
また、特許文献3には、特殊な窒化方法を用いることなく、480〜570℃程度の比較的高温条件での窒化処理により窒化層を形成させた後に、緻密化処理を施すことにより、最表面に形成された多孔質層を緻密化させる表面処理方法が開示されている。この緻密化処理としては、例えば、酸素の存在下(例えば空気中)において軟窒化処理温度よりも低温の350〜450℃で1〜5時間保持する熱処理が挙げられており、窒化層の最表面を緻密化し、被膜の強度を向上させることによって、保持器に優れた耐摩耗性を付与することができる。
特開平6−49623号公報 特開平10−2336号公報 特開2005−106204号公報
近年、保持器の高機能化が進み、案内機能や針状ころの姿勢制御の機能を持たせるためにプレス保持器の形状は複雑化している。したがって、特許文献1に記載のように塩浴窒化処理を行った保持器においては、回転条件によって保持器の特定部位に過大な繰返し応力が付与されことにより、保持器の破壊を引き起こすことがある。これは、塩浴が十分に行き渡らなくなって窒化ムラが発生し、窒化層の薄くなった部分が破壊の起点となってしまうことに起因する。
また、特許文献2は、硬い窒化層を深部まで得られがたく、保持器素材の強度不足を招く可能性があった。
近年では、自動車の低燃費化を目的としたA/Tの多段化に伴い、転がり軸受の使用条件が益々厳しくなりつつあるため、転がり軸受の高速回転化及び高付加容量化に対応できる保持器が望まれている。しかも、極めて高い寸法精度が要求されるので、変形はできるだけ抑制する必要がある。
また、特許文献3のように、一次熱処理においてガス軟窒化を施した後、二次熱処理において低温の350〜450℃に保持した後炉冷された場合、冷却速度が遅いため、フェライト層中に針状のFeNが析出し、疲労強度が低下することがあった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、転がり軸受の高速回転化及び高付加容量化に対応でき、疲労強度が高い転がり軸受用保持器及びその表面処理方法を提供することにある。
本発明の請求項1に係る転がり軸受用保持器の表面処理方法は、鋼材をプレス成形してなる転がり軸受用保持器の母材の表面に対して、400〜590℃の温度でガス窒化処理を施す一次熱処理を行い、その後、500〜590℃の温度に保持する二次熱処理を行い、その後、急冷する冷却処理を行うことを特徴とする。
本発明の請求項2に係る転がり軸受用保持器の表面処理方法は、請求項1に記載の転がり軸受用保持器の表面処理方法において、プレス成形後の転がり軸受用保持器の母材の表面をフッ化処理した後、前記ガス窒化処理を施すことを特徴とする。
本発明の請求項3に係る転がり軸受用保持器は、鋼材をプレス成形してなる転がり軸受用保持器の母材の表面をフッ化処理した後に、400〜590℃の温度でガス窒化処理を施す一次熱処理を行い、その後、500〜590℃の温度に保持する二次熱処理を行い、その後、急冷する冷却処理を行って得られたことを特徴とする。
転がり軸受用保持器の母材の表面に対して、ガス窒化処理による一次熱処理を行うことにより、塩浴窒化と比較して媒体の流動性が良好になるために、窒化反応が緩慢になり難く、保持器全体の窒化層を均一にして強度を向上させることができる。なお、ガス窒化処理を行う前に、転がり軸受用保持器の母材の表面にフッ化処理を施しておくと、その効果はさらに向上する。また、二次熱処理で500〜590℃に加熱保持することにより、窒素が拡散し窒化層が深くなる。更に、急冷による冷却処理を行うことにより、保持器母材の深部を硬化させるので、保持器母材のプレス成形性を損なうことなく、過酷な使用条件下でも高い破壊強度を示す転がり軸受用保持器を得ることができる。
本発明によれば、疲労強度が高い転がり軸受用保持器が得られる。
本発明に係る転がり軸受用保持器の表面処理方法及び転がり軸受用保持器の一実施の形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
SPCC材やSPHD材に代表される低炭素鋼板に窒化処理を施すと、鋼表面で窒素と鉄とが反応し、窒素原子が鋼中に拡散して行き、最表面では窒素濃度に応じてFeN,FeN,FeN等の鉄と窒素との化合物からなる硬質な窒化層が形成される。ビッカース硬度計による窒化層の硬さは、一般的にはHV400以上で、窒化処理前の保持器母材に比較して硬度が増している。また、窒化層が形成された鋼製の転がり軸受用保持器においては、転動体と保持器との間の金属接触や、摺動する案内面と保持器との間の金属接触が窒化層により防止されるので、耐摩耗性、耐焼付性が改善される。
そこで、本発明に係る転がり軸受用保持器の表面処理方法は、図1(a)及び(b)に示す鋼材をプレス成形してなる保持器母材101の表面に、フッ化処理、一次熱処理、二次熱処理、及び冷却処理を行うことを特徴とする。
フッ化処理は、保持器母材の表面に存在する酸化物をフッ化膜に置き換える処理である。保持器母材の窒化に先立って、まず、保持器母材を炉中で加熱しながら、その状態で炉中にフッ素化合物もしくはフッ素を含むガスを導入して保持器母材の表面を上記ガスと接触させると、活性化したフッ素原子により保持器母材の表面に付着していた無機物及び有機物の汚染物質が破壊除去されて表面が浄化されると共に、このフッ素原子が酸化膜と反応してフッ化物膜に変化して保持器母材の表面がフッ化物膜で被覆保護された状態となる。
一次熱処理は、フッ化処理された鋼を、アンモニアガスを窒化媒体として400〜590℃の温度で行われる窒化処理である。一次熱処理で窒化処理を行うことにより、表面に窒化層が形成されるので表面硬さが増し、耐摩耗性が向上する。一次熱処理における温度が400℃未満であると、良好な窒化膜を得ることができず、590℃を超えると、保持器母材のA1変態点を超えるため、熱処理変形が発生し、高い寸法精度を得ることができない。
二次熱処理は、一次熱処理された保持器母材を500〜590℃の温度に保持する処理である。二次熱処理で500〜590℃に加熱保持することにより、窒素が拡散し窒化層が深くなる。二次熱処理における温度が500℃未満であると、高い硬さの表面を得ることができず、590℃を超えると、保持器母材のA1変態点を超えるため熱処理変形が発生し、高い寸法精度を得ることができない。
冷却処理は、二次熱処理された保持器母材を急冷する処理である。二次熱処理後に急冷することにより、保持器母材の深部が硬化し、疲労強度が向上する。また、この冷却処理により、FeNが析出せずにフェライト中に固溶し、拡散した窒化層の硬さが向上し、結果として疲労強度が高められる。冷却処理における冷却速度は、50℃/s以上が好ましい。冷却速度が50℃/s未満であると、保持器母材の深部が十分に硬化せず、十分な疲労強度が得られない可能性がある。
ここで、プレス成形される鋼材は、C:0.08〜0.20質量%、Si:0.30質量%以下、Mn:0.05〜1.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.05質量%以下、Al:0.01〜0.1質量%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。
なお、上記含有成分の数値限定の理由は以下の通りである。
[C:0.08〜0.20質量%]
Cは強度確保のために必要な元素であり、炭素含有量が0.08質量%を下回ると十分な強度が得られなくなる。また、炭素含有量が0.20質量%を超えると保持器素材の加工性が低下する。
[Si:0.30質量%以下]
Siは脱酸のために必要な元素であり、0.30質量%を超えると加工性が低下する。
[Mn:0.05〜1.0質量%]
Mnは脱酸・脱硫のために必要な元素であり、0.05質量%を下回ると脱酸が不十分となり非金属介在物量の増加を招く。また、1.0%質量を超えると靱性が低下する。
[P:0.03質量%以下]
Pは不可避的に鋼中に混入する有害不純物元素であり、その上限を0.03質量%とする。
[S:0.05質量%以下]
Sは不可避的に鋼中に混入する有害不純物元素であり、その上限を0.05質量%とする。
[Al:0.01〜0.1質量%]
Alは窒化特性向上、特に表面硬さ向上や、結晶粒粗大化抑制のために必要な元素であり、0.01質量%以上含有させる必要がある。また、0.1質量%を超えると靱性が低下する。
(実施例)
以下に、さらに具体的な実施例を示して、本発明を説明する。
表1に示す成分を含む鋼材をプレス成形して、転がり軸受用保持器の母材を作製した。この母材の表面に対して、350℃でフッ化処理をした。その後、表2に示す処理条件に基づいて、加熱炉において一次熱処理(窒化処理)を施した後、炉冷し、二次熱処理として加熱炉で加熱及び保持した後、冷却処理として水冷を行って、実施例1〜5及び比較例1〜7の転がり軸受用保持器を得た。
次に、実施例1〜5及び比較例1〜7の転がり軸受用保持器の疲労強度を評価した。すなわち、実施例1〜5及び比較例1〜7の転がり軸受用保持器の端面に対して疲労強度試験を行い、実施例1の疲労強度を1とした疲労強度比を求め、これを評価した。疲労強度試験は、実施例1〜5及び比較例1〜7の転がり軸受用保持器の端面に対して、応力を20Hzで繰り返し加え、転がり軸受用保持器にクラックが入るまでの繰り返し数を測定し、繰り返し数が1×10サイクルのときの疲労強度を求めた。疲労強度比の結果を表2に示す。
表2に示すように、本発明の要件を満たす実施例1〜5については、いずれも良好な評価結果を得ることができた。
一方、比較例1及び3は、一次熱処理及び二次熱処理において規定した処理温度より低い温度で処理したので、実施例1よりも高い疲労強度を得ることができなかった。また、比較例5は、二次熱処理の後に冷却処理として急冷ではなく、冷却速度が50℃/sよりも著しく遅い冷却速度の炉冷を行ったので、実施例1よりも高い疲労強度を得ることができなかった。また、比較例6は、二次熱処理を行わなかったので、実施例1よりも高い疲労強度を得ることができなかった。また、比較例7は、一次熱処理においてガス窒化ではなく塩浴窒化を施したので、実施例1よりも高い疲労強度を得ることができなかった。更に、比較例2及び4は、一次熱処理又は二次熱処理において規定した処理温度より高い温度で処理したので、熱処理変形し、疲労試験を行うことができなかった。
図2は、一次熱処理として520℃で窒化処理した後に、二次熱処理として560℃にて1時間保持し、その後水冷に供した実施例5と、一次熱処理として500℃で窒化処理のみを行った比較例6とにおいて、転がり軸受用保持器の深さに対する疲労強度(硬さ勾配)を比較したグラフである。なお、500HV(ビッカース硬度計による)程度までは硬さと疲労強度は比例していることから、図2においては、硬さ分布を疲労強度分布に換算した。また、図2中の破線は外力の分布を示す。
図2に示すように、実施例5の転がり軸受用保持器は、比較例6の転がり軸受用保持器よりもより硬い窒化層を深部にまで得ることができたことがわかる。これは、二次熱処理において窒素が拡散し、冷却処理において急冷することによって、フェライト層中にFeNが固溶したからである。
また、破壊の起点は、窒化処理も施さない無処理の鋼材においては、最大応力が負荷する最表面となるが、窒化処理が施された鋼材においては、一般的に内部に破壊の起点が生じる。破壊の起点の耐負荷性能が向上すると、疲労強度が上昇すると考えられる。破壊の起点は、疲労強度分布と外力との交点によって特定される。図2では、実施例5の転がり軸受用保持器は、窒素の拡散により内部の疲労強度分布が上昇したため、耐負荷性能も向上し、比較例6の転がり軸受用保持器に対して疲労強度が約1.3倍上昇したことが確認できる。
Figure 2009243616
Figure 2009243616
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、一次熱処理で窒化した後、冷却を行うことなく二次熱温度まで加熱し、一定時間保持後冷却処理を行ってもよい。この冷却処理は、水冷でも油冷でもよい。また、保持器を構成する鋼の種類は特に限定されるものではなく、冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板以外の材料を用いて保持器を製造してもよい。また、保持器の製造法も特に限定されるものではなく、プレス保持器に限らず、もみ抜き保持器でもよい。さらに、本発明に係る転がり軸受用保持器は、様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
本発明の転がり軸受用保持器は、自動車、一般産業機械、工作機械、鉄鋼用機械等に使用される転がり軸受に好適である。
熱処理前の転がり軸受用保持器の母材の構造を説明する模式図である。 一次熱処理のみを行った場合と、一次熱処理の後に二次熱処理を行った場合とについて転がり軸受用保持器の深さに対する疲労強度の違いを示すグラフである。
符号の説明
101 転がり軸受用保持器の母材

Claims (3)

  1. 鋼材をプレス成形してなる転がり軸受用保持器の母材の表面に対して、400〜590℃の温度でガス窒化処理を施す一次熱処理を行い、その後、500〜590℃の温度に保持する二次熱処理を行い、その後、急冷する冷却処理を行うことを特徴とする転がり軸受用保持器の表面処理方法。
  2. プレス成形後の転がり軸受用保持器の母材の表面をフッ化処理した後、前記ガス窒化処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受用保持器の表面処理方法。
  3. 鋼材をプレス成形してなる転がり軸受用保持器の母材の表面をフッ化処理した後に、400〜590℃の温度でガス窒化処理を施す一次熱処理を行い、その後、500〜590℃の温度に保持する二次熱処理を行い、その後、急冷する冷却処理を行って得られたことを特徴とする転がり軸受用保持器。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN101846137A (zh) * 2010-05-28 2010-09-29 湘电风能有限公司 一种抗磨损轴承保持架
JP2018511742A (ja) * 2015-04-17 2018-04-26 アトラス コプコ エアーパワー, ナームローゼ フェンノートシャップATLAS COPCO AIRPOWER, naamloze vennootschap スクリュー圧縮機用の圧縮機要素およびかかる圧縮機要素が利用されるスクリュー圧縮機

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