JP2009250371A - 水素ガスコンプレッサ用転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた耐水素脆性及び耐ピーリング性を持たせて、水素ガスに長時間曝された場合でも十分な耐久性を確保する。
【解決手段】内輪7及び外輪9等、転がり軸受を構成する1対の軌道輪を、Cを0.2〜0.6質量%、Crを2.5〜7質量%、Mnを0.5〜2.0質量%、Siを0.1〜1.5質量%、Moを0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製とする。そして、この合金鋼製の軌道輪7、8に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事により、C+Nの濃度が1.0〜2.5質量%で、残留オーステナイト量が15〜45容量%の表面層を設ける。又、玉10、10等の転動体を、Crを5〜18質量%を含有する合金鋼製とする。
【選択図】図2
【解決手段】内輪7及び外輪9等、転がり軸受を構成する1対の軌道輪を、Cを0.2〜0.6質量%、Crを2.5〜7質量%、Mnを0.5〜2.0質量%、Siを0.1〜1.5質量%、Moを0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製とする。そして、この合金鋼製の軌道輪7、8に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事により、C+Nの濃度が1.0〜2.5質量%で、残留オーステナイト量が15〜45容量%の表面層を設ける。又、玉10、10等の転動体を、Crを5〜18質量%を含有する合金鋼製とする。
【選択図】図2
Description
この発明は、水素ガスを圧縮する為のコンプレッサの回転支持部に組み込まれる転がり軸受の改良に関する。具体的には、水素の侵入(鋼中への水素の吸蔵)に伴う強度の低下(水素脆性)を抑えると共に、ピーリングを抑えて、長寿命の転がり軸受の実現を意図したものである。
空気調和装置等を構成する蒸気圧縮式冷凍機に組み込まれるコンプレッサの回転支持部に組み込まれる転がり軸受として、例えば特許文献1、2に記載されたものが知られている。このうちの特許文献1には、図1に示した様に、1対のスラスト軌道輪1a、1bの互いに対向する面に設けたスラスト軌道面2、2同士の間に複数個の円筒ころ3を、保持器4により転動自在に設けた状態で配置した、スラスト転がり軸受5が記載されている。この様なスラスト転がり軸受5は、上記スラスト軌道輪1a、1bをそれぞれ係止した1対の部材同士の間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら両部材の相対回転を自在とする。
又、上記特許文献2には、図2に示した様に、外周面に内輪軌道6を設けた内輪7と、内周面に外輪軌道8を設けた外輪9と、これら内輪軌道6と外輪軌道8との間に転動自在に設けられた複数個の玉10、10と、これら各玉10、10を転動自在に保持した保持器11とから成るラジアル転がり軸受12が記載されている。この様なラジアル転がり軸受12は、上記外輪9を内嵌固定したハウジングに対して上記内輪7を外嵌固定した回転軸を、回転自在に支持する。
上記スラスト転がり軸受5にしても、上記ラジアル転がり軸受12にしても、十分な耐久性を確保する為には、各種コンプレッサの回転支持部に組み込んだ状態での使用を考慮する必要がある。例えば、当該コンプレッサが移送する気体の性状、潤滑油の供給量等の各種条件を考慮する必要がある。
例えば、上記特許文献1に記載された発明の場合、希薄な潤滑環境下での使用を考慮して、両スラスト軌道輪1a、1bを窒素濃度が0.1質量%以上の合金鋼製とし、各円筒ころ3を、Crを8〜18質量%、C+Nを0.5〜1.2質量%含む合金鋼製とするとしている。
又、上記特許文献2に記載された発明の場合には、高湿度環境や腐食性ガス雰囲気中での使用を考慮して、内輪7及び外輪9を高耐食ステンレス鋼製とし、玉10、10の材料をマルテンサイト系ステンレス鋼、高耐食ステンレス鋼、セラミックのうちの何れかとし、保持器11を弗素樹脂製として、耐食性及び耐焼き付き性の向上を図るとしている。
更に、特許文献3に記載された、燃料電池用のコンプレッサに組み込まれる転がり軸受の場合には、内輪を構成する鋼材に高温焼き戻し処理を施し、この鋼材中の残留オーステナイト量を1〜3%とする事で、上記内輪の寸法安定性の確保を図り、回転軸に対するこの内輪の締め代の低下を抑えるとしている。
例えば、上記特許文献1に記載された発明の場合、希薄な潤滑環境下での使用を考慮して、両スラスト軌道輪1a、1bを窒素濃度が0.1質量%以上の合金鋼製とし、各円筒ころ3を、Crを8〜18質量%、C+Nを0.5〜1.2質量%含む合金鋼製とするとしている。
又、上記特許文献2に記載された発明の場合には、高湿度環境や腐食性ガス雰囲気中での使用を考慮して、内輪7及び外輪9を高耐食ステンレス鋼製とし、玉10、10の材料をマルテンサイト系ステンレス鋼、高耐食ステンレス鋼、セラミックのうちの何れかとし、保持器11を弗素樹脂製として、耐食性及び耐焼き付き性の向上を図るとしている。
更に、特許文献3に記載された、燃料電池用のコンプレッサに組み込まれる転がり軸受の場合には、内輪を構成する鋼材に高温焼き戻し処理を施し、この鋼材中の残留オーステナイト量を1〜3%とする事で、上記内輪の寸法安定性の確保を図り、回転軸に対するこの内輪の締め代の低下を抑えるとしている。
上述の様な特許文献1〜3に記載された発明のうち、特許文献2に記載された発明の場合には、腐食性ガス雰囲気中での使用を想定している為、耐食性に関しては或る程度確保できる。但し、ピーリングに対する対策に就いては、特に考慮していない。一方、鋼材を水素ガス雰囲気中に長時間曝した場合、金属組織中への水素の侵入に伴う強度の低下(水素脆性)が発生する事が知られている。従って、水素ガスコンプレッサの回転支持部に組み込まれる転がり軸受を構成する鋼製部材は、通常の腐食性ガス雰囲気を含めて、一般的な使用状態に比べて、ピーリングが発生し易くなり、発生した場合には、このピーリングを起点として、当該部材が早期に破壊する可能性がある。
一方、近年に於ける環境問題の観点から、燃料電池等の水素エネルギを利用する為の技術開発が進んでおり、水素ガスを圧縮する為のコンプレッサ(水素ガスコンプレッサ)が必要とされている。この様な水素ガスコンプレッサに組み込まれる転がり軸受(水素ガスコンプレッサ用転がり軸受)の場合、何らの対策も施さないと、上述の様に鋼中への水素の侵入に伴う水素脆性により、鋼製部材の強度低下が顕著になる。しかも、水素ガスコンプレッサ用転がり軸受としては、自動調心ころ軸受や比較的大型の玉軸受が使用される場合が多く、この様な転がり軸受では、転動体と軌道面との転がり接触部で発生する滑りが著しくなり、ピーリングが発生し易い状況となる。そして、ピーリングが発生した場合には、ピーリングによって発生したき裂から水素が侵入し、転がり軸受の損傷を加速させる可能性がある。これらの理由により、水素ガスコンプレッサ用転がり軸受には、ピーリングに対して、高度の耐久性が要求される。要するに、水素ガスコンプレッサ用転がり軸受には、水素に対する耐久性(耐水素脆性)と、ピーリングに対する耐久性との両方を兼ね備える事が要求される。
これに対して、前述した特許文献1〜3に記載された発明のうち、特許文献2に記載された発明の場合には、前述した様に、軌道輪をステンレス鋼製としている為、腐食性ガス雰囲気中での耐食性確保を図れる他、水素脆性の向上も或る程度は期待できる。但し、耐ピーリング性に就いては特に考慮していない為、全体として十分な耐久性を確保する事は難しい。一方、特許文献1に記載された発明は、希薄な潤滑環境下での使用を考慮したものであり、特許文献3に記載された発明は、内輪の寸法安定性の確保を図ったもので、何れの発明も、耐水素脆性も、耐ピーリング性も考慮していない。この為、水素ガスコンプレッサ用転がり軸受として使用した場合、著しく低い耐久性しか得られない可能性がある。
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、優れた耐水素脆性及び耐ピーリング性を有し、水素ガスに長時間曝された場合でも十分な耐久性を確保できる水素ガスコンプレッサ用転がり軸受を実現すべく発明したものである。
本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受は、従来から一般的に知られている転がり軸受と同様に、互いに同心に配置され、且つ、互いに対向する面にそれぞれ軌道面を設けた1対の軌道輪部材と、これら両軌道面同士の間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。そして、水素ガスを圧縮する為のコンプレッサの回転支持部に組み込まれた状態で使用される。
特に、本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受に於いては、上記両軌道輪の少なくとも一方の軌道輪(好ましくは両方の軌道輪)を、C(炭素)を0.2〜0.6質量%、Cr(クロム)を2.5〜7.0質量%、Mn(マンガン)を0.5〜2.0質量%、Si(珪素)を0.1〜1.5質量%、Mo(モリブデン)を0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製としている。そして、この様な合金鋼製の軌道輪に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事により、この合金鋼製の軌道輪に、C+N(窒素)の濃度(Cの質量%+Nの質量%)が1.0〜2.5質量%である表面層を形成し、この合金鋼製の軌道輪の表面の残留オーステナイト量を15〜45容量%としている。又、上記各転動体を、Crを5〜18質量%を含有する合金鋼製としている。尚、上記表面層とは、例えば、表面から深さ100μm程度までの(厚さ100μmの)部分を言う。
特に、本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受に於いては、上記両軌道輪の少なくとも一方の軌道輪(好ましくは両方の軌道輪)を、C(炭素)を0.2〜0.6質量%、Cr(クロム)を2.5〜7.0質量%、Mn(マンガン)を0.5〜2.0質量%、Si(珪素)を0.1〜1.5質量%、Mo(モリブデン)を0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製としている。そして、この様な合金鋼製の軌道輪に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事により、この合金鋼製の軌道輪に、C+N(窒素)の濃度(Cの質量%+Nの質量%)が1.0〜2.5質量%である表面層を形成し、この合金鋼製の軌道輪の表面の残留オーステナイト量を15〜45容量%としている。又、上記各転動体を、Crを5〜18質量%を含有する合金鋼製としている。尚、上記表面層とは、例えば、表面から深さ100μm程度までの(厚さ100μmの)部分を言う。
この様な本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記合金鋼製の少なくとも一方の軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を10容量%以下、より好ましくは5容量%以下とする。
或は、請求項3に記載した発明の様に、上記合金鋼製の少なくとも一方の軌道輪の表面硬度を、HRC60以上、より好ましくはHRC61以上とする。
又、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、上記各転動体を構成する合金鋼として、Cを0.4〜1.1質量%、Mnを0.3〜1.0質量%、Siを0.2〜1.0質量%、Moを2.0質量%以下含むものを使用する。
或は、請求項3に記載した発明の様に、上記合金鋼製の少なくとも一方の軌道輪の表面硬度を、HRC60以上、より好ましくはHRC61以上とする。
又、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、上記各転動体を構成する合金鋼として、Cを0.4〜1.1質量%、Mnを0.3〜1.0質量%、Siを0.2〜1.0質量%、Moを2.0質量%以下含むものを使用する。
上述の様に構成する本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受によれば、軌道輪及び各転動体の耐水素脆性及び耐ピーリング性を確保して、十分な耐久性を確保できる。即ち、本発明の水素ガスコンプレッサ用転がり軸受の場合には、軌道輪を構成する合金鋼が耐水素脆性を有するものであり、しかも、この軌道輪に設けた軌道面が、その表面の残留オーステナイトによって優れた耐ピーリング性を有する。これらによって、転がり軸受全体としての耐久性を十分に確保できる。
尚、転がり軸受を構成する1対の軌道輪が、水素脆性及びピーリングに関して同様の条件であれば、これら両軌道輪を、何れも上記所定の組成を有する合金鋼により造り、所定の熱処理を施して、残留オーステナイト量を上記所定の値にする。但し、設置条件等により、何れかの軌道輪のみが水素脆性の面で条件が厳しかったり、或は、転動体との転がり接触部の面圧との関係で何れかの軌道輪(例えばラジアル転がり軸受の内輪)が他の軌道輪(例えばラジアル転がり軸受の外輪)よりも耐ピーリング性の面で条件が厳しい場合には、当該条件の厳しい軌道輪に関してのみ、上記所定の組成を有する合金鋼により造り、所定の熱処理を施して、残留オーステナイト量を上記所定の値にする事もできる。
以下、上記軌道輪及び各転動体を構成する合金鋼の組成、上記軌道面表面の残留オーステナイトにより、上記耐水素脆性及び耐ピーリング性を確保できる理由に就いて、上記合金鋼の成分を規定した理由と共に説明する。
以下、上記軌道輪及び各転動体を構成する合金鋼の組成、上記軌道面表面の残留オーステナイトにより、上記耐水素脆性及び耐ピーリング性を確保できる理由に就いて、上記合金鋼の成分を規定した理由と共に説明する。
(1) 軌道輪を構成する合金鋼の組成に就いて
[Cを0.2〜0.6質量%]
Cは、軌道面の転がり疲れ寿命及び耐摩耗性を確保する為に添加する。即ち、Cは、焼き入れによって基地に固溶し、転がり軸受の軌道面として必要な硬さを向上させる元素である。又、Cは、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成させ、耐摩耗性を向上させる役割もある。但し、合金鋼中のC量が0.2質量%未満であると、表面のC濃度を向上させる為に、浸炭処理或は浸炭窒化処理に長い時間を要し、処理コストが嵩む原因になる。又、軸受芯部の炭素量が低過ぎると、軌道輪の芯部の強度が不足する可能性がある。これに対して、C量が0.6質量%を超えると、鋼中に共晶炭化物が生成し易くなり、上記軌道面の転がり疲れ寿命が低下する可能性があるだけでなく、冷間加工性、被削性も低下する。そこで、上記合金鋼中へのCの添加量を、0.2〜0.6質量%の範囲に規制した。軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Cの添加量を、0.3〜0.5質量%とする。
[Cを0.2〜0.6質量%]
Cは、軌道面の転がり疲れ寿命及び耐摩耗性を確保する為に添加する。即ち、Cは、焼き入れによって基地に固溶し、転がり軸受の軌道面として必要な硬さを向上させる元素である。又、Cは、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成させ、耐摩耗性を向上させる役割もある。但し、合金鋼中のC量が0.2質量%未満であると、表面のC濃度を向上させる為に、浸炭処理或は浸炭窒化処理に長い時間を要し、処理コストが嵩む原因になる。又、軸受芯部の炭素量が低過ぎると、軌道輪の芯部の強度が不足する可能性がある。これに対して、C量が0.6質量%を超えると、鋼中に共晶炭化物が生成し易くなり、上記軌道面の転がり疲れ寿命が低下する可能性があるだけでなく、冷間加工性、被削性も低下する。そこで、上記合金鋼中へのCの添加量を、0.2〜0.6質量%の範囲に規制した。軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Cの添加量を、0.3〜0.5質量%とする。
[Crを2.5〜7.0質量%]
Crは、耐摩耗性及び耐水素脆性を向上させる為に添加する。即ち、Crは、基地に固溶して、焼き入れ性、耐食性等を向上させると共に、Cと結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。更に、Crは、水素が鋼中に侵入する速度を低下させて、耐水素脆性を向上させるだけでなく、鋼中に水素が侵入した場合にも、基地組織を安定化させて、水素による転がり疲れ寿命の低下を抑制する。但し、上記合金鋼中へのCrの添加量が2.5質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、このCrの添加量が7.0質量%を超えると、冷間加工性、研削性が低下する。そこで、上記合金鋼中へのCrの添加量を、2.5〜7.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Crの添加量を、2.5〜4.0質量%とする。
Crは、耐摩耗性及び耐水素脆性を向上させる為に添加する。即ち、Crは、基地に固溶して、焼き入れ性、耐食性等を向上させると共に、Cと結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。更に、Crは、水素が鋼中に侵入する速度を低下させて、耐水素脆性を向上させるだけでなく、鋼中に水素が侵入した場合にも、基地組織を安定化させて、水素による転がり疲れ寿命の低下を抑制する。但し、上記合金鋼中へのCrの添加量が2.5質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、このCrの添加量が7.0質量%を超えると、冷間加工性、研削性が低下する。そこで、上記合金鋼中へのCrの添加量を、2.5〜7.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Crの添加量を、2.5〜4.0質量%とする。
[Mnを0.5〜2.0質量%]
Mnは、焼き入れ性の向上と、表面(軌道面)の残留オーステナイト量の確保との為に添加する。即ち、Mnは、基地に固溶して、焼き入れ性を向上させる効果がある。更に、Mnは、表面の残留オーステナイトの形成を助ける効果もある。但し、上記合金鋼中への添加量が0.5質量%未満の場合には、上記効果を十分には得られない。これに対して、このMnの添加量が2.0質量%を超えると、表面(軌道面)の残留オーステナイト量が過剰になり、転がり軸受として必要な硬さを得られない。そこで、上記合金鋼中へのMnの添加量を、0.5〜2.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Mnの添加量を0.8〜1.2質量%とする。
Mnは、焼き入れ性の向上と、表面(軌道面)の残留オーステナイト量の確保との為に添加する。即ち、Mnは、基地に固溶して、焼き入れ性を向上させる効果がある。更に、Mnは、表面の残留オーステナイトの形成を助ける効果もある。但し、上記合金鋼中への添加量が0.5質量%未満の場合には、上記効果を十分には得られない。これに対して、このMnの添加量が2.0質量%を超えると、表面(軌道面)の残留オーステナイト量が過剰になり、転がり軸受として必要な硬さを得られない。そこで、上記合金鋼中へのMnの添加量を、0.5〜2.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Mnの添加量を0.8〜1.2質量%とする。
[Siを0.1〜1.5質量%]
Siは、焼き入れによる表面(軌道面)硬さ向上を図ると共に、軌道面の転がり疲れ寿命を向上させる為に添加する。即ち、Siは、基地に固溶して、焼き入れ性を向上させると共に、焼き戻し軟化抵抗性を向上させて、軌道面に必要な硬さを与える。又、基地組織を強化し、この軌道面の転がり疲れ寿命を向上させる。但し、Siの添加量が0.1質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、上記合金鋼中へのSiの添加量が1.5質量%を超えると、冷間加工性及び被削性が低下する事に加えて、浸炭処理或は浸炭窒化処理の際に、炭素の侵入を阻害する。そこで、上記合金鋼中へのSiの添加量を、0.1〜1.5質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Siの添加量を0.3〜0.7質量%とする。
Siは、焼き入れによる表面(軌道面)硬さ向上を図ると共に、軌道面の転がり疲れ寿命を向上させる為に添加する。即ち、Siは、基地に固溶して、焼き入れ性を向上させると共に、焼き戻し軟化抵抗性を向上させて、軌道面に必要な硬さを与える。又、基地組織を強化し、この軌道面の転がり疲れ寿命を向上させる。但し、Siの添加量が0.1質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、上記合金鋼中へのSiの添加量が1.5質量%を超えると、冷間加工性及び被削性が低下する事に加えて、浸炭処理或は浸炭窒化処理の際に、炭素の侵入を阻害する。そこで、上記合金鋼中へのSiの添加量を、0.1〜1.5質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Siの添加量を0.3〜0.7質量%とする。
[Moを0.5〜2.0質量%]
Moは、焼き入れによる表面(軌道面)硬さ向上を図ると共に、耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を向上させ、更に、耐水素脆性を確保する為に添加する。即ち、Moは、基地に固溶して、焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させて、軌道面に必要な硬さを与える。又、鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を向上させる。更に、Crと同様に、水素が鋼中に侵入する速度を低下させるだけでなく、鋼中に水素が侵入した場合にも、基地組織を安定化させて、水素による転がり疲れ寿命の低下を抑制する。但し、Moの添加量が0.5質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、上記合金鋼中へのMoの添加量が2.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性が低下する。そこで、上記合金鋼中へのMoの添加量を、0.5〜2.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Moの添加量を0.5〜1.2質量%とする。
Moは、焼き入れによる表面(軌道面)硬さ向上を図ると共に、耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を向上させ、更に、耐水素脆性を確保する為に添加する。即ち、Moは、基地に固溶して、焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させて、軌道面に必要な硬さを与える。又、鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を向上させる。更に、Crと同様に、水素が鋼中に侵入する速度を低下させるだけでなく、鋼中に水素が侵入した場合にも、基地組織を安定化させて、水素による転がり疲れ寿命の低下を抑制する。但し、Moの添加量が0.5質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、上記合金鋼中へのMoの添加量が2.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性が低下する。そこで、上記合金鋼中へのMoの添加量を、0.5〜2.0質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Moの添加量を0.5〜1.2質量%とする。
(2) 軌道輪の表面(軌道面)の性状に就いて
[C+Nを1.0〜2.5質量%]
このC+N濃度は、軌道面に必要な硬さを付与すると共に、この軌道面の残留オーステナイト量を増大させる為に添加する。即ち、軌道面の表面層部分(例えば、表面から深さ100μmまでの部分)に存在するC及びNは、この軌道面に必要な、表面硬さを向上させる効果と、耐ピーリング性向上に有効な、表面の残留オーステナイト量を増加させる効果とがある。但し、C+Nの濃度が、1.0質量%未満の場合には、表面硬さと表面の残留オーステナイト量とが、何れも不足する。これに対して、C+Nの濃度が2.5質量%を超えると、軌道面の表面にネット状の炭化物が形成されて、この軌道面部分の靱性を低下させる可能性がある。そこで、上記合金鋼中のC+Nの濃度を、1.0〜2.5質量%とした。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記C+Nの濃度を1.2〜2.0質量%とする。尚、このC+Nの濃度は、浸炭処理或は浸炭窒化処理の条件を変える事により調整する。
[C+Nを1.0〜2.5質量%]
このC+N濃度は、軌道面に必要な硬さを付与すると共に、この軌道面の残留オーステナイト量を増大させる為に添加する。即ち、軌道面の表面層部分(例えば、表面から深さ100μmまでの部分)に存在するC及びNは、この軌道面に必要な、表面硬さを向上させる効果と、耐ピーリング性向上に有効な、表面の残留オーステナイト量を増加させる効果とがある。但し、C+Nの濃度が、1.0質量%未満の場合には、表面硬さと表面の残留オーステナイト量とが、何れも不足する。これに対して、C+Nの濃度が2.5質量%を超えると、軌道面の表面にネット状の炭化物が形成されて、この軌道面部分の靱性を低下させる可能性がある。そこで、上記合金鋼中のC+Nの濃度を、1.0〜2.5質量%とした。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記C+Nの濃度を1.2〜2.0質量%とする。尚、このC+Nの濃度は、浸炭処理或は浸炭窒化処理の条件を変える事により調整する。
[残留オーステナイト量を15〜45容量%]
軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量は、軌道面の耐ピーリング性を向上させる為に規制する。即ち、残留オーステナイトは、粘りのある金属組織であり、この残留オーステナイトが多い事は、耐ピーリング性の向上に寄与する。但し、上記表面層部分の残留オーステナイト量が15容量%未満の場合には、耐ピーリング性を向上させる効果が小さい。これに対して、上記表面層部分の残留オーステナイト量が45容量%を超えると、軌道面の表面硬さが低下し過ぎて、この軌道面の転がり疲れ寿命が低下する可能性がある。そこで、上記軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量を15〜45容量%の範囲に規制した。この軌道面の表面硬さの過度の低下を確実に抑えつつ、上記耐ピーリング性向上効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量を20〜40質量%とする。尚、この軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量の調整は、この軌道輪を構成する合金鋼の組成、浸炭処理或は浸炭窒化処理の条件、焼き入れ条件、焼き戻し条件を適宜組み合わせる事により行う。
軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量は、軌道面の耐ピーリング性を向上させる為に規制する。即ち、残留オーステナイトは、粘りのある金属組織であり、この残留オーステナイトが多い事は、耐ピーリング性の向上に寄与する。但し、上記表面層部分の残留オーステナイト量が15容量%未満の場合には、耐ピーリング性を向上させる効果が小さい。これに対して、上記表面層部分の残留オーステナイト量が45容量%を超えると、軌道面の表面硬さが低下し過ぎて、この軌道面の転がり疲れ寿命が低下する可能性がある。そこで、上記軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量を15〜45容量%の範囲に規制した。この軌道面の表面硬さの過度の低下を確実に抑えつつ、上記耐ピーリング性向上効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量を20〜40質量%とする。尚、この軌道輪の表面層部分の残留オーステナイト量の調整は、この軌道輪を構成する合金鋼の組成、浸炭処理或は浸炭窒化処理の条件、焼き入れ条件、焼き戻し条件を適宜組み合わせる事により行う。
(3) 軌道輪全体としての性状に就いて
[平均残留オーステナイト量]
この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量は、当該軌道輪の寸法安定性を確保する為に規制する。上述した表面層部分の残留オーステナイト量と、芯部の残留オーステナイト量との平均値として定まる、軌道輪全体の平均残留オーステナイト量は、高温条件下での寸法安定性に影響を及ぼす因子であり、この平均残留オーステナイト量が多過ぎると、上記軌道輪の寸法安定性が低下する。そこで、好ましくは、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を10容量%以下に、より好ましくは5容量%以下に規制する。尚、軌道輪全体の残留オーステナイト量は、少ない程当該軌道輪の寸法及び形状を安定させる面からは好ましい。但し、上述の様な理由により軌道面の表面層部分の残留オーステナイト量を確保すると、軌道輪全体の残留オーステナイト量を極端に少なく抑える事はできない。従って、上記平均残留オーステナイト量の下限値は、上記表面層部分の残留オーステナイト量を確保する面から決定する。
[軌道輪の表面硬さ]
軌道輪表面(軌道面)の硬さは、軌道面の転がり疲れ寿命に影響を及ぼす因子であり、この硬さが低いと転がり疲れ寿命が低下する。そこで、好ましくは、表面硬さをHRC60以上、より好ましくはHRC61以上とする。
[平均残留オーステナイト量]
この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量は、当該軌道輪の寸法安定性を確保する為に規制する。上述した表面層部分の残留オーステナイト量と、芯部の残留オーステナイト量との平均値として定まる、軌道輪全体の平均残留オーステナイト量は、高温条件下での寸法安定性に影響を及ぼす因子であり、この平均残留オーステナイト量が多過ぎると、上記軌道輪の寸法安定性が低下する。そこで、好ましくは、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を10容量%以下に、より好ましくは5容量%以下に規制する。尚、軌道輪全体の残留オーステナイト量は、少ない程当該軌道輪の寸法及び形状を安定させる面からは好ましい。但し、上述の様な理由により軌道面の表面層部分の残留オーステナイト量を確保すると、軌道輪全体の残留オーステナイト量を極端に少なく抑える事はできない。従って、上記平均残留オーステナイト量の下限値は、上記表面層部分の残留オーステナイト量を確保する面から決定する。
[軌道輪の表面硬さ]
軌道輪表面(軌道面)の硬さは、軌道面の転がり疲れ寿命に影響を及ぼす因子であり、この硬さが低いと転がり疲れ寿命が低下する。そこで、好ましくは、表面硬さをHRC60以上、より好ましくはHRC61以上とする。
(4) 各転動体を構成する合金鋼の組成に就いて
[Crを5〜18質量%]
転動体は、軌道輪に比べてピーリング損傷を受けにくい。従って、転動体に関しては、ピーリング損傷を防ぐ為に有効な表面の残留オーステナイト量を増加させる必要はない(軌道輪の場合に比べて必要性が低い)。但し、本発明の対象となる水素ガスコンプレッサ用転がり軸受の場合、水素ガスの圧力が高くなる。この様な環境下で、転動面と軌道面との転がり接触部の滑りが大きかったり、運転速度(1対の軌道輪の相対回転速度)が高かったり、転がり軸受に加わる荷重が大きい(高負荷である)場合等、使用環境が厳しい場合には、水素脆性に対する対策が必要である。
[Crを5〜18質量%]
転動体は、軌道輪に比べてピーリング損傷を受けにくい。従って、転動体に関しては、ピーリング損傷を防ぐ為に有効な表面の残留オーステナイト量を増加させる必要はない(軌道輪の場合に比べて必要性が低い)。但し、本発明の対象となる水素ガスコンプレッサ用転がり軸受の場合、水素ガスの圧力が高くなる。この様な環境下で、転動面と軌道面との転がり接触部の滑りが大きかったり、運転速度(1対の軌道輪の相対回転速度)が高かったり、転がり軸受に加わる荷重が大きい(高負荷である)場合等、使用環境が厳しい場合には、水素脆性に対する対策が必要である。
そこで本発明の場合には、上記各転動体の材料として、Crを5〜18質量%含有する合金鋼を使用する。Crは、前述した様に、水素が鋼中に侵入する速度を低下させる効果がある。更に水素が侵入しても基地組織を安定化させる事によって、水素による転がり疲れ寿命の低下を抑制する効果がある。但し、上記Crの添加量が5質量%未満の場合には、上記の効果を十分には得られない。これに対して、この添加量が18質量%を超えると、粗大な共晶炭化物が形成され、転がり疲れ寿命が低下する可能性がある。そこで、上記各転動体を構成する合金鋼中へのCrの添加量を、5〜18質量%の範囲に規制した。上記効果をより確実に得るべく、軌道輪の品質の安定性を考慮した場合に、より好ましくは、上記Crの添加量を、12〜18質量%とする。尚、軌道輪と転動体とでCrの添加量が異なる理由は、軌道輪に対しては浸炭処理又は浸炭窒化処理による熱処理を施すのに対して、転動体に対しては通常の焼き入れ・焼き戻し処理による熱処理を施す為である。
[各転動体を構成する合金鋼中に含有させる他の元素]
上述した通り、上記各転動体の転動面の、耐ピーリング性の確保に関しては、前述した軌道輪の場合程厳しくはない。但し、上記各転動体の転動面の耐水素脆性及び焼き入れ性等の生産性を十分に確保する面から、Cr以外の元素を添加する事が好ましい事は、上記軌道輪の場合と同様である。即ち、上記各転動体に関しても、上述したCr添加の効果を発揮させる為には、これら各転動体を構成する上記合金鋼中に、下記の元素を下記の添加量分だけ添加する事が好ましい。尚、この合金鋼中には、下記の元素以外の不可避的不純物を含む(前述した、軌道輪を構成する合金鋼の場合も同様)。
上述した通り、上記各転動体の転動面の、耐ピーリング性の確保に関しては、前述した軌道輪の場合程厳しくはない。但し、上記各転動体の転動面の耐水素脆性及び焼き入れ性等の生産性を十分に確保する面から、Cr以外の元素を添加する事が好ましい事は、上記軌道輪の場合と同様である。即ち、上記各転動体に関しても、上述したCr添加の効果を発揮させる為には、これら各転動体を構成する上記合金鋼中に、下記の元素を下記の添加量分だけ添加する事が好ましい。尚、この合金鋼中には、下記の元素以外の不可避的不純物を含む(前述した、軌道輪を構成する合金鋼の場合も同様)。
Cを0.4〜1.1質量%
Mnを0.3〜1.0質量%
Siを0.2〜1.0質量%
Moを2.0質量%以下
上記各転動体を構成する合金鋼中にこれら各元素を添加する理由は、前述した、上記軌道輪を構成する合金鋼中にこれら各元素を添加する理由と同じである。但し、この軌道輪と上記各転動体との熱処理の相違、転がり軸受の運転時に受ける荷重の相違に伴って上記Crの添加量を変えているのと同様に、上記各元素の最適な添加量に就いても、軌道輪の場合とは異ならせている。
又、上記各転動体を構成する合金鋼の熱処理に関しては、表面の残留オーステナイト量を増加させる必要がない(必要性が低い)事、及び、品質の安定性を確保する面から、浸炭処理や浸炭窒化処理ではなく、通常の焼き入れ(全体を加熱後に焼き入れ油中に浸漬する、所謂ズブ焼き入れ)及び焼き戻し処理をする事が好ましい。
Mnを0.3〜1.0質量%
Siを0.2〜1.0質量%
Moを2.0質量%以下
上記各転動体を構成する合金鋼中にこれら各元素を添加する理由は、前述した、上記軌道輪を構成する合金鋼中にこれら各元素を添加する理由と同じである。但し、この軌道輪と上記各転動体との熱処理の相違、転がり軸受の運転時に受ける荷重の相違に伴って上記Crの添加量を変えているのと同様に、上記各元素の最適な添加量に就いても、軌道輪の場合とは異ならせている。
又、上記各転動体を構成する合金鋼の熱処理に関しては、表面の残留オーステナイト量を増加させる必要がない(必要性が低い)事、及び、品質の安定性を確保する面から、浸炭処理や浸炭窒化処理ではなく、通常の焼き入れ(全体を加熱後に焼き入れ油中に浸漬する、所謂ズブ焼き入れ)及び焼き戻し処理をする事が好ましい。
本発明の特徴は、水素ガスコンプレッサの回転支持部に組み込んだ状態で使用される転がり軸受の耐久性向上を図るべく、軌道輪の組成及び熱処理、並びに、各転動体の組成を工夫する事により、耐水素脆性及び耐ピーリング性の向上を図った点にある。図面に表れる構造に就いては、前述の図1〜2に示した構造を含め、従来から知られている各種転がり軸受と同様である為、具体的構造に就いての図示並びに説明は省略し、次に、本発明の水素ガスコンプレッサの製造方法の1例に就いて説明する。
先ず、所定の組成を有する鋼材である素材に、鍛造加工及び切削加工を、或は切削加工のみを施す事により、軌道輪の形状に加工する。次に、浸炭処理或は浸炭窒化処理→焼き入れ→焼き戻しを施して、表面に残留オーステナイトを含有する硬化層を形成する。その後、研磨加工を施して、軌道輪の完成形状に仕上げる。そして、この様にして造った軌道輪に、所定の合金成分を含む転動体と、保持器と、シールとを組み合わせて、水素ガスコンプレッサ用転がり軸受とする。
上記浸炭処理は、RXガス及びエンリッチガスの混合ガスを雰囲気に用いて、900〜960℃で、3〜10時間保持した後、空冷或は油冷する事によって行う。又、上記浸炭窒化処理の条件は、RXガス、エンリッチガス、及びアンモニアガスの混合ガスを雰囲気に用いて、900〜960℃で、3〜10時間保持した後、空冷或は油冷する事によって行う。その後の焼き入れは、840〜880℃で保持し、油冷によって行う。焼き戻しは、160〜210℃で保持し、炉冷或は空冷によって行う。
この表1中の鋼種Bにより、前述の図2に示した単列深溝型の玉軸受を構成する内輪7及び外輪9を造った。軸受の大きさは、呼び番号で6316(内径=80mm、外径=170mm、幅=39mm)とし、熱処理は上述した浸炭窒化処理とした。各玉10、10(転動体)は、上記表1の鋼種Oにより、前述した様に、通常の焼き入れ及び焼き戻し処理により造った。上記内輪7及び上記外輪9の表面のC+N濃度は、内輪7に関しては1.5質量%、外輪に関しては2.0質量%であった(EPMAでの測定)。又、上記内輪7の表面の残留オーステナイト量は30容量%、上記外輪9の表面の残留オーステナイト量は40容量%であった(X線回折装置での測定)。それぞれを上述の様にして造った、上記内輪7と上記外輪9と上記各玉10、10とを組み合わせて、上記図2に示した単列深溝型のラジアル玉軸受とした。この様な玉軸受を水素ガスコンプレッサの回転支持部に組み込んで運転した所、十分な耐久性を得られた。
表1の鋼種Bを鋼材として用いて、前述した方法で浸炭窒化処理を行い、呼び番号が22218である自動調心ころ軸受(内径=90mm、外径=160mm、幅=40mm)の内輪及び外輪を造った。複数の転動体には、上記表1の鋼種Nに示した合金鋼で構成される球面ころを使用した。これら内輪、外輪、及び各球面ころを組み合わせて、自動調心ころ軸受を造った。内輪及び外輪の表面のC+N濃度は、内輪に関しては1.2質量%、外輪に関しては1.6質量%であった(EPMAでの測定)。又、上記内輪の表面の残留オーステナイト量は20容量%、上記外輪の表面の残留オーステナイト量は35容量%であった(X線回折装置での測定)。それぞれを上述の様にして造った、上記内輪と上記外輪と上記各球面ころとを組み合わせて自動調心ころ軸受とした。この様な自動調心ころ軸受を水素ガスコンプレッサの回転支持部に組み込んで運転した所、十分な耐久性を得られた。
前記表1中の鋼種A〜Lを鋼材として用いて、前述した方法で浸炭窒化処理を行い、スラスト軌道輪を造った。転動体(玉)には、前記表1の鋼種M、N、O、又はJIS G 4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)製のものを使用した。それぞれを上述の様にして造った2枚のスラスト軌道輪と、上記各玉とを組み合わせて、呼び番号が51305である、平面座形のスラスト玉軸受(内径=25mm、外径=52mm、軸方向厚さ=18mm)を造った。このスラスト玉軸受を使用して、下記の条件で転がり疲労試験を行い、累積破損確率が50%となる寿命(L50寿命)を求めた。
「試験条件」
雰囲気及び圧力 : 水素ガス、0.4MPa
転がり接触面圧 : 3.1GPa
回転速度 : 1000min-1
潤滑油 : ISO−VG68
この様な条件で行った実験の結果を、各試料の性状と共に、次の表2に示す。
雰囲気及び圧力 : 水素ガス、0.4MPa
転がり接触面圧 : 3.1GPa
回転速度 : 1000min-1
潤滑油 : ISO−VG68
この様な条件で行った実験の結果を、各試料の性状と共に、次の表2に示す。
この表2には、スラスト軌道輪の表面(スラスト軌道面)のC+N濃度、スラスト軌道輪の表面の残留オーステナイト量(残留γ量)、スラスト軌道輪全体の平均残留オーステナイト量、スラスト軌道面の表面硬さを、耐久試験の結果と共に記載している。尚、表面のC+N濃度は、EPMAを用いて測定した。又、各部の残留オーステナイト量は、X線回折装置を使用して測定した。又、試験結果を表す、上記表2の寿命比とは、鋼種Gにより作製したスラスト軌道輪を使用した、比較例1のL50寿命を1.0として、それとの比率で表している。この比較例1の鋼種Gは、転がり軸受の構成部品を造る為に一般的に使用されている、前記SUJ2に相当するものである。又、前記した試験条件は、水素雰囲気のガス圧力が高い為、スラスト軌道輪だけでなく、転動体(玉)に関しても、耐水素脆性を確保する為の対策が必要になる条件である。従って、比較例1、2以外の試料に関しては、転動体を鋼種M、N、Oの何れかにより造っている。
この様な条件で行った耐久試験の結果を示す前記表2から分かる様に、本発明の技術的範囲に属する、即ち、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の組成、スラスト軌道輪の表面のC+N濃度、表面の残留オーステナイト量、各転動体を構成する合金鋼の組成の何れもが本発明で規定する範囲内である実施例1〜6の試料は、水素の存在に基づく寿命低下が少なく、ピーリングも抑制される為、転がり疲れ寿命が長い。特に、実施例1〜3は、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の組成、スラスト軌道輪の表面のC+N濃度、同じく表面の残留オーステナイト量がより好ましい範囲にある為、寿命が大きく向上している。又、転動体に関しても、損傷する事もなく転がり疲れ寿命が長い。
これに対して比較例1〜6は、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の成分が、本発明の技術的範囲から外れる為、転がり疲れ寿命が短くなった。更に、比較例7、8は、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の成分は本発明の技術的範囲内に存在するが、このスラスト軌道輪表面のC+N濃度、及びこの表面の残留オーステナイト量(比較例8の場合には、加えて平均オーステナイト量、表面硬さ)が、本発明の技術的範囲から外れる為、やはり、転がり疲れ寿命が短くなった。
これに対して比較例1〜6は、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の成分が、本発明の技術的範囲から外れる為、転がり疲れ寿命が短くなった。更に、比較例7、8は、スラスト軌道輪を構成する合金鋼の成分は本発明の技術的範囲内に存在するが、このスラスト軌道輪表面のC+N濃度、及びこの表面の残留オーステナイト量(比較例8の場合には、加えて平均オーステナイト量、表面硬さ)が、本発明の技術的範囲から外れる為、やはり、転がり疲れ寿命が短くなった。
本発明は、前述の図1に示した様なスラストころ軸受や図2に示した様な単列ラジアル玉軸受に限らず、水素ガスコンプレッサの回転支持部に組み込まれる各種転がり軸受に適用できる。例えば、複列玉軸受、スラスト玉軸受、(単列或は複列)ラジアル円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心ころ軸受等が対象となり得る。
1a、1b スラスト軌道輪
2 スラスト軌道面
3 円筒ころ
4 保持器
5 スラスト転がり軸受
6 内輪軌道
7 内輪
8 外輪軌道
9 外輪
10 玉
11 保持器
12 ラジアル転がり軸受
2 スラスト軌道面
3 円筒ころ
4 保持器
5 スラスト転がり軸受
6 内輪軌道
7 内輪
8 外輪軌道
9 外輪
10 玉
11 保持器
12 ラジアル転がり軸受
Claims (4)
- 互いに同心に配置され、且つ、互いに対向する面にそれぞれ軌道面を設けた1対の軌道輪部材と、これら両軌道面同士の間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備え、水素ガスを圧縮する為のコンプレッサの回転支持部に組み込まれた状態で使用される水素ガスコンプレッサ用転がり軸受に於いて、上記両軌道輪の少なくとも一方の軌道輪が、Cを0.2〜0.6質量%、Crを2.5〜7.0質量%、Mnを0.5〜2.0質量%、Siを0.1〜1.5質量%、Moを0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製で、浸炭処理又は浸炭窒化処理により、C+Nの濃度が1.0〜2.5質量%である表面層を形成されると共に、表面の残留オーステナイト量を15〜45容量%としたものであり、上記各転動体が、Crを5〜18質量%含有する合金鋼製である事を特徴とする水素ガスコンプレッサ用転がり軸受。
- Cを0.2〜0.6質量%、Crを2.5〜7.0質量%、Mnを0.5〜2.0質量%、Siを0.1〜1.5質量%、Moを0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製で、C+Nの濃度が1.0〜2.5質量%である表面層を形成されると共に、表面の残留オーステナイト量を15〜45容量%とした、少なくとも一方の軌道輪全体の平均残留オーステナイト量が、10容量%以下である、請求項1に記載した水素ガスコンプレッサ用転がり軸受。
- Cを0.2〜0.6質量%、Crを2.5〜7.0質量%、Mnを0.5〜2.0質量%、Siを0.1〜1.5質量%、Moを0.5〜2.0質量%含有する合金鋼製で、C+Nの濃度が1.0〜2.5質量%である表面層を形成されると共に、表面の残留オーステナイト量を15〜45容量%とした、少なくとも一方の軌道輪の表面硬度が、HRC60以上である、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した水素ガスコンプレッサ用転がり軸受。
- 各転動体を構成する合金鋼が、Cを0.4〜1.1質量%、Mnを0.3〜1.0質量%、Siを0.2〜1.0質量%、Moを2.0質量%以下含む、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した水素ガスコンプレッサ用転がり軸受。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2008100254A JP2009250371A (ja) | 2008-04-08 | 2008-04-08 | 水素ガスコンプレッサ用転がり軸受 |
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---|---|
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Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2013164095A (ja) * | 2012-02-09 | 2013-08-22 | Nsk Ltd | スラストニードル軸受用レース |
JP2013164093A (ja) * | 2012-02-09 | 2013-08-22 | Nsk Ltd | スラストニードル軸受用レースの製造方法 |
JP2013245764A (ja) * | 2012-05-25 | 2013-12-09 | Nsk Ltd | 転がり軸受及びその製造方法 |
WO2024171858A1 (ja) * | 2023-02-15 | 2024-08-22 | ミネベアミツミ株式会社 | 軸受部品及びその製造方法、並びに転がり軸受 |
-
2008
- 2008-04-08 JP JP2008100254A patent/JP2009250371A/ja active Pending
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