JP2009222620A - 油入電気機器の余寿命推定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】将来の運転環境の変化を考慮して油入電気機器の余寿命を高精度に推定可能とした余寿命推定方法を提供する。
【解決手段】絶縁紙劣化指標成分量と運転環境とから絶縁紙の平均重合度を推定する平均重合度推定モデルの作成ステップS2と、運転環境から劣化指標成分量を推定する絶縁紙劣化指標推定モデルの作成ステップS3と、現時点の平均重合度を推定するステップS4,S5と、現時点の劣化指標成分量を推定し、その誤差を補正値として求めるステップS7と、上記補正値を用いて将来想定される運転環境の劣化指標成分量を推定するステップS8と、推定した劣化指標成分量を用いて、将来想定される運転環境の平均重合度を推定するステップS9と、推定した平均重合度から寿命低下率を求め、この寿命低下率と現時点における平均重合度推定値とを用いて余寿命を推定するステップS10と、を備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、油入変圧器等の油入電気機器の余寿命を絶縁紙の劣化状態に基づいて推定する方法に関するものである。
一般に、油入電気機器に使われている材料としては、銅、アルミニウム等の導電材料、絶縁油や絶縁紙、プレスボード等の絶縁材料、けい素鋼帯の鉄心材料、鉄やステンレス鋼等の構造材料がある。
これらの材料のうち、電気機器内で経年劣化が認められるのは、絶縁油や絶縁紙等の絶縁材料であり、絶縁油については、油劣化防止装置(開放型、空気密封型、窒素密封型等がある)の働きもあって劣化は非常に緩慢であり、重要な特性である絶縁破壊電圧の低下度は小さい。
これに対し、絶縁紙については、経年劣化による絶縁破壊電圧の低下度は小さいが、機械的強度の低下度は大きい(すなわち、紙がぼろぼろになる)。絶縁紙の機械的強度の低下が進行すると、突入電流や外部短絡時に発生する電磁力に起因した機械的ストレスによって絶縁紙に亀裂や損壊が発生し、絶縁破壊を起こす危険性が増大する。
従って、油入電気機器の寿命は、絶縁紙の機械的強度、特に巻線導体絶縁紙の劣化度合いの影響を強く受ける。つまり、油入電気機器の余寿命とは、巻線導体絶縁紙の絶縁破壊、すなわち、絶縁紙の劣化状態によって決定付けられると考えてよい。
絶縁紙は、多数のセルロース分子が重合してできた重合体であり、セルロースを構成する基本分子の数を重合度という。新品のクラフト紙の場合の平均重合度は、約1000であり、この平均重合度は、絶縁紙の劣化によりセルロース分子の鎖が切断されることによって低下していく。例えば、30年使用した油入変圧器では、平均重合度が初期の約40〜60%(平均重合度400〜600)に減少すると言われている。
また、日本電機工業会規格JEM1463−1993では、1000[kVA]を超える油入変圧器及び油入リアクトルの絶縁紙(コイル絶縁紙)の平均重合度の評価基準を、以下の表1のように定めている。一般的には、この規格に従い、平均重合度が450になると思われる時点を油入変圧器の寿命と定義している。
Figure 2009222620
しかしながら、稼働中の油入変圧器から絶縁紙を採取することは容易ではなく、一般に絶縁紙の平均重合度や引張り強さを測定することは困難である。
上記の点に鑑み、変圧器内部の採取可能な絶縁物(プレスボード、リード絶縁紙等)の平均重合度や、絶縁紙の平均重合度とも相関性がある分解過程の生成物としてCO+CO量やフルフラール(セルロースの分解過程で生成されるアルデヒドの一種)の量を測定し、これらの絶縁紙劣化指標を用いて劣化診断、余寿命推定を行っている(例えば、電気学会技術報告第922号「経年変圧器の信頼性維持技術の現状と動向」や、電気共同研究第54巻第5号(その1)等を参照)。
CO+CO量を測定する方法(以下、単にCO+CO法という)では、油中ガス分析を行い、絶縁紙の最終的な劣化生成物であるCO+CO量から平均重合度を推定して劣化診断を行う。このCO+CO法を用いた油入変圧器の劣化・余寿命診断システムは、例えば特許文献1に記載されている。
これに対し、フルフラール量を測定して平均重合度を推定する方法(以下、単にフルフラール法という)では、絶縁油を脱気処理してもフルフラールの85%が油中に残り、気体中に拡散しないと共に、絶縁紙への吸着率は温度に依存せず約85%と一定であるため、上述したCO+CO法に比べれば高精度な診断が可能であると言われている。このフルフラール法(またはCO+CO法)を用いた油入電気機器の劣化診断方法は、例えば特許文献2に記載されている。
しかし、CO+CO法、フルフラール法の何れにおいても、推定した平均重合度の値に大きな幅がある。例えば、図4に示すように、測定した油入電気機器のフルフラール量に対して平均重合度残率で約20%の幅があり、これは電気機器の余寿命に換算すると数十年に相当する程度の誤差である。
上記の誤差の発生は油入電気機器の運転状態や設計諸元等の違いにより、フルフラール量や平均重合度の値も影響を受けるためであると考えられる。
上記のように、CO+CO法、フルフラール法の何れも、油入電気機器の劣化・余寿命診断に当たって精度上、改善の余地がある。これは、これらの方法が基本的に絶縁紙の劣化を表す単一の指標を用いて劣化診断を行っており、運転状態や設計諸元等を総合的に考慮して判断する手法ではないことに起因している。
これに対し、絶縁油中の複数の絶縁紙劣化指標を用いて絶縁紙の平均重合度を推定する油入電気機器の劣化診断方法が、特許文献3によって公知となっている。
この従来技術では、絶縁油中のフルフラール量,CO量,CO量,水分量,酸素量,水素量の各測定値、油入電気機器の運転履歴、保守履歴、及び、設計諸元の全てまたは一部の組み合わせを入力因子群とし、絶縁紙の平均重合度を出力因子として、ニューラルネットワーク等のモデルの同定または学習を行うことにより、平均重合度推定モデルを複数構築し、前記入力因子群を各推定モデルにそれぞれ入力して得られた複数の平均重合度推定値を加工して絶縁紙の平均重合度を推定しており、油入電気機器の運転を停止することなく高精度な劣化診断を可能とするものである。
特開2004−55858号公報(段落[0017]〜[0019]、図1,図3等) 特開平7−272939号公報(段落[0037]〜[0042]、図3,図4等) 特開2006−308515号公報(段落[0031]〜[0043],図1,図5等)
しかしながら、特許文献3に係る従来技術は、現時点(データの測定時点)における絶縁油中の各種劣化指標、運転環境(負荷率、稼働年数等)を用いて現時点の平均重合度を推定し、現在の運転環境がそのまま将来にわたって不変であることを前提として診断する方法である。
このため、負荷設備の増設や系統構成の変更、年月の経過等によって運転環境が変化した場合には、油入電気機器の高精度な劣化診断、余寿命推定が困難になるという問題があった。
そこで本発明の解決課題は、将来の運転環境の変化を考慮して絶縁紙劣化指標を推定し、これに基づいた平均重合度推定値を用いることによって油入電気機器の余寿命を高精度に推定可能とした余寿命推定方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、油入電気機器の絶縁油に含まれる劣化指標成分量を用いて油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を推定し、この平均重合度推定値を用いて油入電気機器の余寿命を推定する方法において、
実績データとして、少なくとも前記劣化指標成分量と電気機器の稼働年数、負荷率等の運転環境とが入力され、前記平均重合度推定値を出力する平均重合度推定モデルを作成する第1ステップと、
実績データとして、少なくとも前記運転環境が入力され、前記劣化指標成分量を出力する絶縁紙劣化指標推定モデルを作成する第2ステップと、
前記平均重合度推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記平均重合度推定モデルに入力して、現時点における平均重合度を推定する第3ステップと、
前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の将来予測される運転環境データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、将来想定される運転環境における劣化指標成分量を推定する第4ステップと、
第4ステップにより推定した劣化指標成分量を用いて、将来想定される運転環境における平均重合度を推定する第5ステップと、
第5ステップにより推定した、将来想定される運転環境における平均重合度から寿命低下率を求め、この寿命低下率と現時点における平均重合度推定値とを用いて電気機器の余寿命を推定する第6ステップと、を備えたものである。
請求項2に係る発明は、油入電気機器の絶縁油に含まれる劣化指標成分量を用いて油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を推定し、この平均重合度推定値を用いて油入電気機器の余寿命を推定する方法において、
実績データとして、少なくとも前記劣化指標成分量と電気機器の稼働年数、負荷率等の運転環境とが入力され、前記平均重合度推定値を出力する平均重合度推定モデルを作成する第1ステップと、
実績データとして、少なくとも前記運転環境が入力され、前記劣化指標成分量を出力する絶縁紙劣化指標推定モデルを作成する第2ステップと、
前記平均重合度推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記平均重合度推定モデルに入力して、将来の任意時点における平均重合度を推定する第3ステップと、
前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の将来予測される運転環境データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、将来の任意時点以降において想定される運転環境における劣化指標成分量を推定する第4ステップと、
第4ステップにより推定した劣化指標成分量を用いて、将来の任意時点以降において想定される運転環境における平均重合度を推定する第5ステップと、
第5ステップにより推定した、将来の任意時点以降において想定される運転環境における平均重合度から寿命低下率を求め、この寿命低下率と将来の任意時点における平均重合度推定値とを用いて電気機器の余寿命を推定する第6ステップと、を備えたものである。
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した油入機器の余寿命推定方法において、前記絶縁紙劣化指標推定モデルとして、前記電気機器の稼働年数及び負荷率を入力として前記劣化指標成分量を出力するニューラルネットワークを用いるものである。
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載した油入機器の余寿命推定方法において、前記絶縁紙劣化指標推定モデルとして、前記電気機器の稼働年数及び負荷率が類似した複数の事例データの平均値を用いて劣化指標成分量を推定するものである。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載した油入電気機器の余寿命推定方法において、
前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、現時点における劣化指標成分量を推定し、この推定値と現時点における劣化指標成分量の実測値とから求めた補正値を用いて、前記第4ステップにより推定した劣化指標成分量を補正するものである。
本発明によれば、将来想定される運転環境の変化を考慮してフルフラール量等の絶縁紙劣化指標を推定し、これに基づいた平均重合度推定値を用いるため、現時点の運転環境のみを考慮している従来技術に比べて、油入電気機器の余寿命を高精度に推定することができる。
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は本実施形態の余寿命推定方法を示すフローチャートである。この実施形態では、平均重合度推定モデルのほかに絶縁紙劣化指標推定モデルを導入し、これらの推定モデルを用いて油入電気機器の余寿命を推定するものである。
なお、上記各推定モデルには、ニューラルネットワーク、重回帰式、アンサンブル処理手段(単純平均値や加重平均値等を求める手段)等を用いることが可能であるが、以下では主としてニューラルネットワークを用いる場合について説明する。
次に、本実施形態に係る余寿命推定方法を図1に示すステップごとに説明する。
(1)過去の実績データ収集ステップ(S1)
油入電気機器の絶縁紙の平均重合度推定モデル及び絶縁紙劣化指標推定モデルを構築するために、ニューラルネットワークの学習データとして、油入電気機器の実績データを収集する。実績データの種類としては、絶縁油を分析して得られる各種の絶縁紙劣化指標成分量(例えば、フルフラール量、CO+CO量、水分量、酸素量、水素量等であり、単に劣化指標ともいう)、当該電気機器の運転環境(例えば、稼働年数、負荷率等)、当該電気機器の設計諸元(例えば、絶縁油劣化防止方式、冷却方式、絶縁紙の量、絶縁油の量等)、及び、絶縁紙の平均重合度である。
また、絶縁油が交換されている場合や脱気処理が行われている場合には、上記の各種劣化指標を補正する必要があるため、絶縁油の交換履歴、脱気処理履歴等の情報も必要になる。
(2)平均重合度推定モデルの構築ステップ(S2)
ステップS1により収集した実績データを用いて、平均重合度推定モデルを構築する。実績データのうち、平均重合度をニューラルネットワークの出力因子として用い、その他の因子を入力因子として用いる。
(3)絶縁紙劣化指標推定モデルの構築ステップ(S3)
ステップS1により収集した実績データを用いて、絶縁紙劣化指標推定モデルを構築する。実績データのうち、前述した各種劣化指標をニューラルネットワークの出力因子として用い、運転環境(例えば、稼働年数、負荷率)を入力因子として用いる。
(4)診断対象の測定データ入力ステップ(S4)
診断対象の油入電気機器について、前記ステップS2で用いた入力因子、具体的には、絶縁油を分析して得られる各種劣化指標、当該電気機器の運転環境、設計諸元を、測定データとして学習済みの平均重合度推定モデルに入力する。
(5)平均重合度推定ステップ(S5)
ステップS4で入力したデータに対応する現時点の絶縁紙の平均重合度を、平均重合度推定モデルにより推定する。
ここで、図2は、時間軸に対する平均重合度の推定値の変化を示す概念的なグラフである。図2では、油入電気機器の運転開始時における絶縁紙の平均重合度(初期重合度)Dp0を1000とし、本ステップS5により得た現時点における平均重合度推定値をD(例えば600)にて示してある。
(6)現在の運転環境における余寿命推定ステップ(S6)
ステップS5で得られた現時点の平均重合度推定値から、当該電気機器の余寿命を推定する。
絶縁紙の平均重合度(初期状態で1000)は絶縁紙の劣化に伴って徐々に減少していき、平均重合度が基準値(JEM1463−1993では450)に達した時点が絶縁紙すなわち電気機器の寿命と定義されている。
絶縁紙の平均重合度から電気機器の寿命または余寿命を推定する方法は、例えば、参考文献「電気共同研究第54巻第5号(その1):油入変圧器の保守管理」に記載されている。その詳細は省略するが、数式1を用いて寿命低下率rを算出し、この寿命低下率rを用いて現時点から平均重合度が450になるまでの年数を算出すれば、それが余寿命となる。
[数式1]
=Dp0(1−r)
ただし、
:運転開始からn年後の平均重合度推定値
p0:初期の平均重合度
r:寿命低下率
仮に、現時点が運転開始から20年経過している(n=20)とし、ステップS5により得られた現時点の平均重合度推定値Dが600である時、数式1による以下の演算によって寿命低下率rを算出することができる。
600=1000(1−r)20
r≒0.025
つまり、図2において、初期の平均重合度Dp0(=1000)が寿命低下率r(≒0.025)で徐々に減少していき、n(=20)年経過後の現時点において推定される平均重合度Dが600になる。図2における特性線P1は、初期の平均重合度Dp0(=1000)の点と現時点における平均重合度Dが600の点とにより決定される。
次に、この寿命低下率r(≒0.025)が今後も一定であると仮定して、数式1により、平均重合度が寿命レベル、つまり450になるまでの年数(運転開始からの経過年数)nを求める。すなわち、特性線P1が平均重合度450の線と交差する時の経過年数nを求めるものである。
数式1によれば、
450≒1000(1−0.025)
であるから、n≒31となり、図示するように、電気機器の運転開始から約31年後(現時点から約11年後)に寿命を迎えることになる。
なお、数式1に現時点の平均重合度推定値(=600)を適用する場合には、現時点から平均重合度が寿命レベルになるまでの年数をn’とすると、
450≒600(1−0.025)n’
により、n’≒11となる。
(7)絶縁紙劣化指標推定値の補正値計算ステップ(S7)
次に、ステップS3により構築した絶縁紙劣化指標推定モデルに、測定データとして現在の運転環境(稼働年数、負荷率)を入力して絶縁紙劣化指標を推定する。そして、この推定値を、実測した各種の劣化指標と比較することにより、劣化指標推定値の補正値を計算する。
以下、本ステップの内容を、絶縁紙劣化指標であるフルフラール量を例に挙げて具体的に説明する。
ステップS3により構築した絶縁紙劣化指標推定モデルは、運転環境として稼働年数、負荷率を入力としてフルフラール量を出力するモデルであるが、勿論、入力因子はこれらの2種類に限らず、当該電気機器の設計諸元(例えば、絶縁油劣化防止方式、冷却方式、絶縁紙の量、絶縁油の量等)等の、絶縁紙劣化指標に影響を与える因子を用いても良い。
本ステップでは、まず、絶縁紙劣化指標推定モデルに上記の稼働年数、負荷率等を入力し、現時点におけるフルフラール量を推定する。
フルフラール量に関する絶縁紙劣化指標推定モデルを関数fで表すと、数式2となる。
[数式2]
=f(Y,LF,・・・)
ただし、
:現時点のフルフラール量推定値
:現時点の稼働年数
LF:現時点の負荷率
ここで、現時点におけるフルフラール量の実測値をFとすると、例えば、以下の数式3または数式4により、絶縁紙劣化指標としてのフルフラール量の推定値の補正値(補正量または補正率)を求めることができる。
[数式3]
補正量=F−F
[数式4]
補正率=F/F
ここでは、絶縁紙劣化指標としてフルフラール量を例に挙げて説明したが、平均重合度推定モデルにおいて入力因子として用いる他の劣化指標についても、同様にして推定値の補正値を求める。
なお、関数fの精度が高く、フルフラール量の実測値Fが推定値Fと等しい場合には、数式3の補正量がゼロ、数式4の補正率が1となり、言い換えれば補正を行う必要はない。
ここで、絶縁紙劣化指標推定モデルとしては、前述したニューラルネットワークを用いる他に、データベースに蓄積された事例を用いて類似したデータの平均値を用いる方法が考えられる。
すなわち、稼働年数Y、負荷率LFを検索キーとして、Y±x年、かつLF±y%の範囲で該当するフルフラール量のデータをデータベースから抽出し、稼働年数Y年、負荷率LF%に類似したフルフラール量のデータを複数得る。そして、これらの抽出されたデータの平均値を計算し、これを現在の運転環境に対応したフルフラール量Fとして推定する。なお、上記x年、y%は任意に設定する。
データベースから抽出された類似データのフルフラール量FをF,F,F,……,Fとすると、Fは数式5によって求めることができる。
Figure 2009222620
(8)将来運転環境(将来想定される運転環境)での絶縁紙劣化指標推定ステップ(S8)
ステップS3により構築した絶縁紙劣化指標推定モデルと、ステップS7で得た補正値とを用いて、将来運転環境における絶縁紙劣化指標を推定する。
前述の通り、フルフラール量に関する絶縁紙劣化指標推定モデルを関数fで表すと、以下の数式6または数式7によって将来運転環境におけるフルフラール量を推定することができる。
[数式6]
=f(Y,L,・・・)+補正量
[数式7]
=f(Y,L,・・・)×補正率
ただし、
:将来のフルフラール量推定値
:将来の稼働年数
:将来の負荷率
数式6または数式7によれば、将来のフルフラール量Fについては、前述した数式2のように絶縁紙劣化指標推定モデルである関数fのみによって推定するのではなく、フルフラール量の推定値と実測値とのずれに基づく補正値(補正量または補正率)をも考慮して推定することを意味している。
ここでは、絶縁紙劣化指標としてフルフラール量を例に挙げて説明したが、平均重合度推定モデルにおいて入力因子として用いる他の劣化指標についても、同様に将来運転環境における成分量を推定する。
(9)将来運転環境での平均重合度推定ステップ(S9)
将来の運転環境と、ステップS8により推定した将来運転環境における絶縁紙劣化指標と、当該電気機器の設計諸元等を平均重合度推定モデルに入力し、将来運転環境での平均重合度を算出する。
(10)将来運転環境での余寿命推定ステップ(S10)
数式8を用いて、ステップS9により推定した将来運転環境での平均重合度から寿命低下率rを求め、この寿命低下率rを用いて余寿命を推定する。
[数式8]
Pf=DP0(1−r
ただし、
Pf:ステップS9により推定した将来の運転環境での平均重合度
p0:初期の平均重合度
:将来の運転環境における寿命低下率
ここで、数式8は、初期の平均重合度Dp0と、n年経過後の将来運転環境における平均重合度DPfとが与えられれば、寿命低下率rが求められることを示しており、例えば、経過年数nを20年(すなわち現時点)とすると、図2における特性線P2と現時点の時間軸との交点の平均重合度DPfが、ステップS9により推定した将来運転環境での平均重合度となる。
従って、例えば、ステップS9により推定した将来運転環境での平均重合度DPfを700、経過年数nを20年として数式8を計算すると、
700=1000(1−r20
≒0.018
となり、将来運転環境における寿命低下率rを求めることができる。
次に、現時点の平均重合度推定値D(=600)から、上記寿命低下率rにより平均重合度が減少していくものと仮定して、寿命レベルになる時点(平均重合度が450になる時点)までの年数(現時点からの経過年数)n’を数式9によって求める。
[数式9]
450≒600(1−0.018)n’
つまり、前記特性線P2と寿命低下率rが等しい図2における特性線P2’と平均重合度が450となる線との交点の、現時点からの経過年数n’を求める。
数式9を解くと、n’≒16となるから、現時点において余寿命n’は約16年、つまり運転開始からの寿命は約36年となる。
(11)余寿命比較ステップ(S11)
ステップS6により推定した余寿命n’は約11年であったが、将来運転環境を考慮した絶縁紙劣化指標に基づいてステップS10により推定した結果、余寿命n’は約16年となった。すなわち、将来運転環境の変化を考慮に入れると、余寿命が5年ほど延びることが判る。
なお、図2における特性線P3は、将来の任意の時点(a年後)以降において想定される運転環境を考慮してステップS8により劣化指標を推定し、この劣化指標推定値を用いてステップS9により平均重合度推定値Dpaを求め、更にステップS10により余寿命を推定するための特性線である。
このように、現時点だけでなく将来の任意の時点以降において想定される運転環境を考慮して劣化指標及び平均重合度を推定し、余寿命の推定を行っても良い。
また、本実施形態により推定した余寿命をそのまま最終的な結論とするのではなく、複数の時点で本実施形態により推定した余寿命の平均値を求めたり、過去の時点における平均重合度の推定値を始点とした時の余寿命の傾向を考慮する等の方法により、余寿命推定値を補正して最終的な結論としても良い。
最後に、本実施形態を実現するためのシステム構成例について、図6を参照しつつ説明する。
このシステムは、データ入力手段10、データベース20、絶縁紙劣化指標推定手段30、絶縁紙劣化指標推定モデル31、平均重合度推定手段40、平均重合度推定モデル41、余寿命推定手段50、及びデータ出力手段60から構成されており、実際のシステム構成としては、パーソナルコンピュータ等の汎用電子計算機及びこの計算機に実装されたプログラムとして実現可能である。なお、図3における各推定手段30,40,50は、主としてプログラムにより実現される機能である。
データ入力手段10は、ネットワーク上の他の計算機と連携して種々のデータを入力したり、画面系からキーボードを用いて入力することもできる。また、リムーバブルな電子的記憶媒体を用いて入力することも可能である。このデータ入力手段10は、各推定モデル31,41を構築し、またはこれらの推定モデル31,41を用いて各推定手段30,40が絶縁紙劣化指標や平均重合度を推定するために必要な各種データを入力するものであり、油入電気機器の実績データ、測定データとしての各種劣化指標、当該電気機器の運転環境、当該電気機器の設計諸元、絶縁紙の平均重合度等を入力する。
データベース20には、データ入力手段10による入力データが、各推定モデル31,41の構築や各推定手段30,40による推定のために格納される。
絶縁紙劣化指標推定モデル31及び平均重合度推定モデル41は、前述したようにニューラルネットワークや重回帰式等により実現され、絶縁紙劣化指標推定手段30、平均重合度推定手段40は、上記推定モデル31,41を用いてそれぞれフルフラール量等の劣化指標と絶縁紙の平均重合度とを推定するものである。なお、絶縁紙劣化指標推定手段30では、前述した劣化指標推定値の補正値も演算可能である。
また、余寿命推定手段50は、現時点及び将来の運転環境における油入電気機器の余寿命を推定する。
データ出力手段60は、余寿命推定手段50による推定結果をCRTや液晶ディスプレイ上に表示したり、プリンタ装置等を用いて印字出力する。
なお、上記のシステム構成例はあくまでも例示的に示したものであり、他の形態のシステム構成によっても本発明は実現可能である。
本発明の実施形態を示すフローチャートである。 実施形態における、時間軸に対する平均重合度の推定値の変化を示す概念的なグラフである。 本実施形態を実現するためのシステム構成例を示す図である。 油入電気機器のフルフラール量と平均重合度残率との関係を示す図である。
符号の説明
10:データ入力手段
20:データベース
30:絶縁紙劣化指標推定手段
31:絶縁紙劣化指標推定モデル
40:平均重合度推定手段
41:平均重合度推定モデル
50:余寿命推定手段
60:データ出力手段

Claims (5)

  1. 油入電気機器の絶縁油に含まれる劣化指標成分量を用いて油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を推定し、この平均重合度推定値を用いて油入電気機器の余寿命を推定する方法において、
    実績データとして、少なくとも前記劣化指標成分量と電気機器の稼働年数、負荷率等の運転環境とが入力され、前記平均重合度推定値を出力する平均重合度推定モデルを作成する第1ステップと、
    実績データとして、少なくとも前記運転環境が入力され、前記劣化指標成分量を出力する絶縁紙劣化指標推定モデルを作成する第2ステップと、
    前記平均重合度推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記平均重合度推定モデルに入力して、現時点における平均重合度を推定する第3ステップと、
    前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の将来予測される運転環境データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、将来想定される運転環境における劣化指標成分量を推定する第4ステップと、
    第4ステップにより推定した劣化指標成分量を用いて、将来想定される運転環境における平均重合度を推定する第5ステップと、
    第5ステップにより推定した、将来想定される運転環境における平均重合度から寿命低下率を求め、この寿命低下率と現時点における平均重合度推定値とを用いて電気機器の余寿命を推定する第6ステップと、
    を備えたことを特徴とする油入電気機器の余寿命推定方法。
  2. 油入電気機器の絶縁油に含まれる劣化指標成分量を用いて油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を推定し、この平均重合度推定値を用いて油入電気機器の余寿命を推定する方法において、
    実績データとして、少なくとも前記劣化指標成分量と電気機器の稼働年数、負荷率等の運転環境とが入力され、前記平均重合度推定値を出力する平均重合度推定モデルを作成する第1ステップと、
    実績データとして、少なくとも前記運転環境が入力され、前記劣化指標成分量を出力する絶縁紙劣化指標推定モデルを作成する第2ステップと、
    前記平均重合度推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記平均重合度推定モデルに入力して、将来の任意時点における平均重合度を推定する第3ステップと、
    前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の将来予測される運転環境データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、将来の任意時点以降において想定される運転環境における劣化指標成分量を推定する第4ステップと、
    第4ステップにより推定した劣化指標成分量を用いて、将来の任意時点以降において想定される運転環境における平均重合度を推定する第5ステップと、
    第5ステップにより推定した、将来の任意時点以降において想定される運転環境における平均重合度から寿命低下率を求め、この寿命低下率と将来の任意時点における平均重合度推定値とを用いて電気機器の余寿命を推定する第6ステップと、
    を備えたことを特徴とする油入電気機器の余寿命推定方法。
  3. 請求項1または2に記載した油入機器の余寿命推定方法において、
    前記絶縁紙劣化指標推定モデルとして、前記電気機器の稼働年数及び負荷率を入力として前記劣化指標成分量を出力するニューラルネットワークを用いることを特徴とする油入電気機器の余寿命推定方法。
  4. 請求項1または2に記載した油入機器の余寿命推定方法において、
    前記絶縁紙劣化指標推定モデルとして、前記電気機器の稼働年数及び負荷率が類似した複数の事例データの平均値を用いて劣化指標成分量を推定することを特徴とする油入電気機器の余寿命推定方法。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載した油入電気機器の余寿命推定方法において、
    前記絶縁紙劣化指標推定モデルの構築に用いた入力データと同種の測定データを前記絶縁紙劣化指標推定モデルに入力して、現時点における劣化指標成分量を推定し、この推定値と現時点における劣化指標成分量の実測値とから求めた補正値を用いて、前記第4ステップにより推定した劣化指標成分量を補正することを特徴とする油入電気機器の余寿命推定方法。

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