JP2009219354A - TIMP−3による造血幹細胞または造血前駆細胞のExvivo/invivo増殖 - Google Patents

TIMP−3による造血幹細胞または造血前駆細胞のExvivo/invivo増殖 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、血球の数を増加させるための医薬組成物を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の方法は、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の培養上清中にTIMP−3タンパク質を添加することを含む。また、本発明の方法は、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞にTIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを導入することを含む。さらに、本発明の医薬組成物は、TIMP−3タンパク質、あるいはTIMP−3タンパク質をコードする核酸を含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法、該方法により作成された造血幹細胞および未分化造血前駆細胞、および血球の数を増加させるための医薬組成物に関する。
造血幹細胞は、骨髄中のニッチ(niche)と呼ばれる微小環境にごくわずかに存在し、自己複製能を有すると共に、赤血球、白血球、および巨核球(血小板)等全ての血液細胞に分化する能力を持った細胞である。血球系の細胞にはそれぞれ固有の寿命があるため、造血幹細胞はこれらの血球を供給し続けるために絶えず分裂・増殖を繰り返している。
このように、造血幹細胞は全ての血球系の細胞系列に分化する特性を有することから、造血幹細胞移植は、再生医療における切り札として期待されている。
造血幹細胞移植により改善することのできる疾患の1つに、急性骨髄性白血病が挙げられる。この疾患は、白血球が悪性腫瘍化して白血病細胞となり、血液または骨髄の中で増殖することにより引き起こされる疾患である。この疾患の治療方法としては、まず患者の主要組織適合性抗原(HLA)の型と同じHLAを有するドナーの骨髄および末梢血等から造血幹細胞を採取する。その後、患者は抗癌剤や放射線照射を受けることにより、体内の白血病細胞は全て死滅する。ここで、その副作用として造血幹細胞もまた死滅し、全身の造血が抑えられるが、先述のドナーから採取した採取液を患者に点滴等により導入するにより、患者の造血能力は回復される。即ち、抗癌剤や放射線照射により患者の有していた白血病細胞および造血幹細胞は死滅するが、その後導入されたドナー由来の造血幹細胞により患者の造血が回復し症状の改善が見られる。
このように、特定の疾患、特に白血病などの造血器腫瘍の治療のために造血幹細胞移植は有用であるが、造血幹細胞は数万細胞に1つ程度しか存在しないといわれており、この細胞をインビトロの系で未分化性、自己複製能および長期骨髄再建能などを保ったまま増殖させることができれば、造血幹細胞のドナーの負担軽減や臍帯血造血幹細胞の応用にも役立つと考えられている。
造血幹細胞の複製・維持および分化・増殖に関与する因子について、これまでにいくつかの知見が得られている。例えば、SCF(stem cell factor)は骨髄支持細胞等から産生され、造血幹細胞の生存・増殖・分化などに必須であることが、SCFに異常を有する変異マウスを用いた研究により明らかとなっている(非特許文献1)。また、TPO(トロンボポエチン)もまた造血幹細胞の増殖に深く関わることがこれまでに明らかとなっている(非特許文献2)。
このように造血幹細胞は骨髄移植などの再生医療の重要な細胞ソースであり、インビトロまたはインビボで造血幹細胞を増幅する試みが多数なされてきた。例えば、インビトロにおける造血幹細胞増殖としては、上記のサイトカインと、IL−6等の造血幹細胞の増殖に関わるサイトカインを組み合わせることによりインビトロで造血幹細胞を増殖させる方法や、フィーダー細胞としてマウスストローマ細胞のHESS−5と上記のようなサイトカインを用いる方法(非特許文献3)等により、造血幹細胞を数倍まで増幅できることが報告されている。
また、これまでに血球の数を増加させる医薬組成物がいくつか知られている。例えば、エリスロポエチン(EPO)は赤血球数を増加することが知られており、また顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は、好中球の増加促進のために用いられている。このように1つの特定の血球を特異的に分化させる医薬組成物はこれまでにも知られていたが、複数の血球系列を同時に増加させる因子を用いた医薬組成物はこれまでに知られていない。
Zsebo, K.M.ら Cell, 63 213−224 (1990) Ku, H.ら Blood,87 4544−4551 (1996) Ando, K.ら Exp.Hematol.,28 690−699 (2000) Gomis−Ruth F.X.ら Nature, 389, 77−81 (1997)
本発明は、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法を提供することを目的とする。また、本発明は該方法により作成された造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を提供することを目的とする。さらに、本発明は血球の数を増加させるための医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究に努めた結果、TIMP−3タンパク質またはこれをコードする核酸を使用して、生理学的性質の改善した造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を作成するに至り、本発明を想到した。
具体的には、本発明者はまず、5FU(5−フルオロウラシル)を投与し、骨髄抑制により血球数が減少したマウス骨髄の骨梁表面上に存在する骨芽細胞において、TIMP−3(Tissue inhibitor of Metalloproteinase−3)の発現量が増加していることを発見した。骨髄の骨梁表面上には造血幹細胞の存在するニッチがあることが知られており、この造血幹細胞ニッチにおけるTIMP−3タンパク質の濃度が上昇したことから、TIMP−3の造血幹細胞に対する作用が示唆された。
本発明者は上記発見に基づき、FACSによりソーティングした造血幹細胞に相当するマウスCD34KSL(c−Kit、Sca−1、Lineage)細胞に、精製したヒトTIMP−3タンパク質を培養上清中に添加して培養した実験を行った。これにより、TIMP−3タンパク質が、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の増殖能を有意に亢進する活性を有することが明らかとなった。また、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の自己複製能に関する実験では、TIMP−3タンパク質を添加した細胞では、自己複製能が維持または亢進されることが明らかとなった。
また、TIMP−3タンパク質と培養したマウスCD34KSL細胞を、致死量の放射線照射により造血系が破壊されたマウスに移植する実験により、当該細胞がTIMP−3と培養していない細胞と同程度またはそれ以上の生着率を有することが明らかとなった。
さらに、TIMP−3タンパク質を発現するプラスミドをマウスに投与することにより、白血球、赤血球および血小板数の増加が観察された。これはプラスミドにより発現したTIMP−3タンパク質が造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の増殖能および生存率の亢進を引き起こし、その結果として血球細胞の増加が観察されたものであると思われる。
本発明は、これらのようにTIMP−3により造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質が改善されるという知見により想到されたものである。本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
本発明は、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法であって、
(1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する培養上清中にTIMP−3タンパク質を添加する工程、および
(2)当該造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を(1)の培養上清中にて培養する工程、
を含む、前記方法を提供する。
本発明の好ましい態様において、前記TIMP−3タンパク質は、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質からなる:
(A)野生型TIMP−3タンパク質は、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質であり:
(a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
(c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
(d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
(e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
(f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
(g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
(B)変異型TIMP−3タンパク質が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質である、
(a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
(b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
さらに好ましい態様において、前記変異型TIMP−3タンパク質は、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質である:
(a)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基に欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
(c)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
(d)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
(e)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
(f)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基に欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
(g)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質
(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
本発明はまた、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法であって、
(1)TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを準備する工程、
(2)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に(1)のベクターを導入する工程、および
(3)(2)の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する工程、
を含む、前記方法を提供する。
好ましい態様において、前記TIMP−3タンパク質をコードする核酸は、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなる:
(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸は、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質をコードし:
(a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
(c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
(d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
(e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
(f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
(g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする:
(a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
(b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
さらに好ましい態様において、前記変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸は、以下の(a)−(g)からなる群より選択されるTIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質をコードする:
(a)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
(c)配列番号2のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
(d)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
(e)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
(f)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
(g)配列番号4の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質
(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
本発明の好ましい態様において、培養期間はおよそ1週間ないしおよそ2週間の間である。
また本発明は、上述の方法により生理学的性質が改善された、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を提供する。
好ましい態様において、上述の方法により生理学的性質が改善された造血幹細胞または未分化造血前駆細胞は、移植後の短期および長期骨髄再建能を維持若しくは亢進する、および/または生着率を維持若しくは亢進する能力を有する。
また本発明は、TIMP−3タンパク質を含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物を提供する。
本医薬組成物の好ましい態様において、前記TIMP−3タンパク質は、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質からなり、ここで(A)野生型TIMP−3タンパク質および(B)変異型TIMP−3タンパク質は上記に記載のものと同様とする。
さらに本発明は、TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物の好ましい態様において、前記TIMP−3タンパク質をコードする核酸は、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなり、ここで(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸は上記に記載のものと同様とする。
さらに、本発明の医薬組成物の好ましい態様において、前記血球は、赤血球、白血球および血小板からなる群のいずれかの血球、またはその組み合わせである。
1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法
(i)TIMP−3タンパク質を用いる方法。
本発明は、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法を提供する。本発明の方法は、
(1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する培養上清中にTIMP−3タンパク質を添加する工程、および
(2)当該造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を(1)の培養上清中にて培養する工程、
を含む。ここで、前記生理学的性質の改善は、増殖能の亢進、自己複製能の維持または亢進、生存率の亢進、多分化能の維持、短期および長期骨髄再建能の維持または亢進、からなる群より選択されるいずれかの性質の改善、あるいはこれらの組み合わせからなる。
Lin(Lineage)とはCD2,CD3,CD11b,CD14,CD15,CD16,CD19,CD56,およびCD235aなどをいい、Linとはこれら全ての抗原について陰性であることをいう。Lin細胞を選択するために、上記全ての抗原に対するビオチン標識した抗体カクテルを造血幹細胞あるいは未分化造血前駆細胞を含む骨髄・末梢血・臍帯血細胞の細胞表面に作用させ、洗浄後の当該細胞に抗ビオチン抗体を表面に有する磁性マイクロビーズを添加する。その後、マイクロビーズに付着した細胞を磁性に基づき、カラムを使用することにより取り除き、Lin細胞のみを得ることが可能である。このような方法に用いる抗体カクテルおよびマイクロビーズのキットは一般に市販されており、例えばMiltenyi Biotecから入手可能である。
本明細書において、「造血幹細胞」とは、自己複製能、および赤血球、白血球、および巨核球等全ての血液細胞に分化する多分化能を持ち、数ヶ月以上の長期間にわたり造血を再構築する能力をもった細胞をいう。これまでの研究により、造血幹細胞は、骨髄、末梢血、および臍帯血にごく微量含まれていることが明らかとなっており、これらから採取することが可能である。また、造血幹細胞の表面抗原は、マウスではCD34,c−Kit,Sca−1,Lin、ヒトではCD34あるいはCD34, CD38low/−, Linであるとされており、上記のような部位から採取した細胞群から、これらに対する抗体を用いてFACSを用いてソーティングすることが可能である。
また、「未分化造血前駆細胞」とは、造血幹細胞の分化が進み、造血幹細胞の自己複製能を失っているが、多分化能は依然として有している細胞をいう。未分化造血前駆細胞は、造血幹細胞から分化する細胞ではあるが、造血幹細胞とは別の種類の細胞であると考えられている。未分化造血前駆細胞の表面抗原はマウスではCD34,c−Kit,Sca−1,Linであるとされており、これらの抗原の発現量に基づきFACSによりソーティングすることが可能である。また同様に、ヒト未分化造血前駆細胞についても表面抗原に基づいてFACSによりソーティングすることが可能である。
FACSによるソーティングでは、マウス造血幹細胞の発現抗原はCD34,Lin(Lineage),c−Kit,Sca−1であることから、抗CD34抗体、抗c−Kit抗体および抗Sca−1抗体を使用し、CD34,c−Kit,Sca−1,Linの細胞分画をソーティングすることが可能である。また、上記のように、ヒト造血幹細胞、並びにヒトおよびマウス未分化造血前駆細胞の発現抗原は、マウス造血幹細胞のものと異なっているが、同様の方法によりFACSにてソーティングすることが可能である。このようなFACSに使用する機器は当該技術分野では公知であり、例えばBecton Dickinsonより入手可能である。
本明細書において、「生理学的性質を改善する」とは特に限定されないが、好ましくは造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の増殖能を亢進すること、自己複製能を維持または亢進すること、生存率を亢進すること、多分化能を維持すること、短期および長期骨髄再建能を維持または亢進すること、からなる群より選択されるいずれかの性質の改善、あるいはこれらの組み合わせをいう。したがって、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞がこれら1つ以上の性質の改善を有すれば、本発明においては生理学的性質の改善がされたということができる。
「増殖能」とは、細胞が元の性質を失わずに細胞分裂を繰り返すことにより、細胞数を増加する能力のことをいう。細胞の増殖能は、一定期間培養した後の細胞数を比較することにより容易に測定することができる。細胞数の計数は、例えば細胞懸濁液に血球計数盤を用いることによって目視により計数することができる。また、種々の細胞計数装置および血球計算機が市販されており、これを使用することにより細胞を計数してもよい。このような装置は、例えばBeckman Coulter等から入手可能である。
本発明の方法により、培養上清中に野生型TIMP−3タンパク質および/または変異型TIMP−3タンパク質を添加し培養した造血幹細胞および未分化造血前駆細胞は、このような処理をしない細胞に比べて、増殖能が亢進する。限定されるわけではないが、本発明の方法により作成された造血幹細胞または未分化造血前駆細胞は、未処理の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に比べて、好ましくは約1.5倍以上、より好ましくは約1.9倍以上、さらに好ましくは2倍以上、増殖能が亢進する。
「自己複製能」とは、細胞が分裂する際に元の細胞と同じ性質を有する娘細胞を生み出す能力をいう。造血幹細胞の自己複製能は、造血幹細胞の分裂により生じた2つの娘細胞が、自己複製能および全ての血球細胞に分化できる多分化能を有する、造血幹細胞の能力のことをいう。
自己複製能は、例えばコロニー形成アッセイにより測定可能である。コロニー形成アッセイの方法は実施例6に記載するようにして行われる。簡単に概説すると、96ウェルプレート等の各ウェルに造血幹細胞を1細胞ずつソーティングし、次いで1回分裂をさせる。生じた2個の娘細胞をマイクロマニピュレーター等を用いることにより1つずつに分離し、それぞれの細胞をメチルセルロース培地中に埋めこみ、1週間から10日程度培養し分化させる。培養に用いるメチルセルロース培地は、1%程度のメチルセルロースを含む、S−CloneまたはαMEMのような造血幹細胞の増殖に適した培地に、SCF、TPO、EPO、IL−3および/またはIL−6等のサイトカイン、並びにウシ血清アルブミンあるいはウシ胎児血清などを加えて調製する。培養後生じた細胞のコロニーを解析し、2つの娘細胞から生じたコロニーのうち少なくとも一方が白血球(好中球、マクロファージなど)、赤血球および巨核球等の全てを有するミックスコロニーであった場合には、これら娘細胞の分裂前の細胞は自己複製能を有していたことが示唆される。一方、2つの娘細胞のいずれもがミックスコロニーを形成しなかった場合は、これら娘細胞の分裂前の細胞は自己複製能を有していなかったことが示唆される。
本発明の方法により作成された生理学的活性の改善した造血幹細胞は、TIMP−3タンパク質または核酸を添加せずに培養した造血幹細胞に比べて自己複製能が維持または亢進されている。限定されるわけではないが、本発明の方法により作成された生理学的活性の改善した造血幹細胞は、好ましくは約1.2倍以上、より好ましくは約1.3倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上、自己複製能が亢進している。
「生存率」とは、一定期間の培養後に生存している細胞の比率をいう。細胞集団における細胞の生存率は、FACSを用いる方法、トリパンブルーを用いて染色する方法など、当該技術分野における通常の知識を用いることによって測定可能である。また、細胞の生存率は、実施例に記載するように目的の細胞を1細胞ずつに分離し、それぞれの細胞について一定期間の培養後に細胞の生死を判定することにより行ってよい。
「多分化能」とは、造血幹細胞においては全ての血球細胞に分化することができる細胞の分化能力をいう。多分化能は、以下のようなコロニー形成アッセイにより測定可能である。造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を細胞表面抗原に基づいて96ウェルプレートに1細胞ずつFACSにてソーティングする。次いで、ウェルごとに各種サイトカインを含むメチルセルロース等の半固形培地中で培養し形成されたコロニーの構成細胞を解析することにより行う。形成されたコロニーが好中球、赤血球(赤芽球)、マクロファージおよび巨核球からなるミックスコロニーであった場合には、元となった1つの細胞は多分化能を有していたということが判定できる。また、形成されたコロニーが好中球、赤血球(赤芽球)、マクロファージおよび巨核球からなる群より選択される3つ以下の細胞種からなる場合には、全ての血球細胞に分化する能力は失っており、元となった1つの細胞は多分化能を有していなかったということができる。
「骨髄再建能」とは、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を放射線照射などにより造血することができなくなった成体に移植したときに、移植したこれらの細胞が骨髄に生着し、失われていた造血を回復する能力をいう。ここで、「長期骨髄再建能」とは、移植後少なくとも6ヶ月程度の期間にわたり骨髄再建能を有することをいい、また「短期骨髄再建能」とは、移植後少なくとも3ヶ月程度の期間にわたり骨髄再建能を有することをいう。
骨髄再建能は、放射線照射または薬剤投与等により造血が失われた個体に、造血幹細胞を投与し、その個体の造血が回復し生存することによる、簡便には測定することが可能である。詳細な実験手順は実施例8に記載した。
本明細書でいう「添加」とは、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞等の細胞を培養している培養上清中にタンパク質および/または核酸等を加えることをいう。添加されるタンパク質および/または核酸等は無菌であることが望ましく、これらの物質を無菌状態にする技術は当該技術分野では公知の技術である。例えば、添加する物質が緩衝液等に溶解している場合には、0.22μmフィルターを通過させることにより無菌状態にすることができる。
「培養」とは、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞等の細胞を培養培地中において維持・増殖させることをいう。造血幹細胞および未分化造血前駆細胞等の細胞を培養する培地および添加物、並びに培養方法は当該技術分野で公知である。しかしながら、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を培養する場合、好ましくはこれらの細胞の未分化状態を維持したまま培養する。このような目的のために使用される添加物としては、SCF(stem cell factor)およびTPO(トロンボポエチン)等のサイトカインがある。また、所望によりFlt3リガンドおよび/またはIL−6等のサイトカインを添加してもよい。また、これらのサイトカインは、それらの生理的機能を有するならば容易に産生されるように改変された組換え体であってもよい。
好ましい態様において、TIMP−3タンパク質の培養上清中における濃度は、0.1−10μg/mlであり、より好ましくは1−3μg/mlである。しかしながら、これらの範囲内にない場合であっても、本発明の効果を有すれば本発明の範囲内である。
本発明における培養期間は、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞等の細胞の性質の変化が起こらない限り、どのような長さであってもよい。好ましい態様において、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞等の細胞の培養期間はおよそ1週間ないしおよそ2週間である。
「TIMP−3(Tissue inhibitor of Metalloproteinase−3)」とは、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の抑制分子であるTIMPファミリーに属する分子として発見され、効率よくMMPのメタロプロテアーゼ活性を阻害することが知られている。近年になって、TIMP−3はメタロプロテアーゼ阻害活性以外にも生理的活性を有することが明らかとなってきている。例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)のシグナルを抑制し血管新生を阻害し、この活性はTIMP−3の有するMMP抑制活性とは独立して起こることが報告されている。しかしながら、本発明前は、TIMP−3が造血関係の細胞、特に造血幹細胞および未分化造血前駆細胞に作用することは知られていなかった。これまでに、TIMP−3はヒト以外にも種々の生物においても知られており、例えば、マウス、ラット、アフリカツメガエル、アカゲザル、ニワトリ、カニクイザル、ウサギおよびウシなどである。これら種々の生物のTIMP−3タンパク質およびこれをコードする核酸の配列は、例えばNCBIのようなデータベースから入手することが可能である。本発明はTIMP−3タンパク質またはこれをコードする核酸を利用するものである。本発明で使用されるTIMP−3タンパク質またはこれをコードする核酸は、ヒトまたはマウス由来のものが好ましいがこれに限定されるものではない。
好ましい態様において、本発明のTIMP−3は、野生型TIMP−3および/または変異型TIMP−3を含む。これら野生型TIMP−3および変異型TIMP−3の定義については以下に詳述する。
公知のヒト野生型TIMP−3タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に示すような配列からなる。また公知のマウス野生型TIMP−3タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号5に示す配列からなる。いずれも211アミノ酸からなり、これらのアミノ酸配列のうち、N末端側は分泌のためのシグナルペプチドであり、実際にTIMP−3タンパク質の機能を有する部位はそれよりもC末端側の配列であると考えられる。
シグナルペプチドとは、分泌タンパク質のN末端領域に存在する疎水性アミノ酸領域である。シグナルペプチドを有するタンパク質は、シグナル認識粒子(SRP)との相互作用を介して小胞体に付着し、小胞体膜を通過する。その後、シグナルペプチドはシグナルペプチダーゼにより切断され、実際に細胞から分泌されるタンパク質はシグナルペプチド領域を有さない。
シグナルペプチドの厳密な長さを決めることは難しい場合があり、同じタンパク質についても報告によりその長さが異なることもある。本発明に係るヒトTIMP−3タンパク質は、例えば、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においては、全長タンパク質(配列番号1)のアミノ酸1−23がシグナルペプチドであると記載されている(accession number:NP_000353)。しかしながら、インターネット上で使用可能なタンパク質ドメイン検索プログラムであるSMARTプログラム(http://smart.embl−heidelberg.de/)によりタンパク質ドメインを検索したところ、ヒトTIMP−3タンパク質ではアミノ酸1−18がシグナルペプチドであると判定された。また、他のドメイン検索プログラムを使用した場合には、シグナルペプチド領域が異なって判定されることも予想される。このように、シグナルペプチド領域は使用するプログラム等によって変化しうることは、当業者が容易に理解するであろう。
以下に詳述するように、野生型ヒトおよびマウスTIMP−3タンパク質(配列番号1および配列番号5)のアミノ酸24−27は、TIMP−3タンパク質の有するメタロプロテアーゼ活性に重要であると考えられている。したがって、TIMP−3タンパク質のシグナルペプチドのC末端は、配列番号1または配列番号5のアミノ酸1−23より選択されるいずれかのアミノ酸であることが予測される。さらに、シグナルペプチドが除去されていない全長のTIMP−3タンパク質は、シグナルペプチドが除去されたTIMP−3タンパク質と同様の機能を有することも期待される。
以上から、本発明の一態様において、TIMP−3タンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号5または配列番号6のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質である(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)である)。好ましくは、xは、19−24から選択されるいずれか1つの整数(19および24を含む)である。より好ましくは、xは19または24である。
また、本発明において、野生型TIMP−3タンパク質という場合、上記のような配列番号1または配列番号5のアミノ酸x−211のアミノ酸配列(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)である)、を有するタンパク質だけを意図するものではなく、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有することにより定義される。したがって、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有すれば、上記アミノ酸配列に対し、1つまたは数個の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質、または80%以上の同一性を有するタンパク質もまた本発明においては、野生型TIMP−3タンパク質の範囲内である。
本発明においては、TIMP−3タンパク質のアミノ酸の1つまたは数個の置換は、好ましくは保存的置換により行われる。ここで保存的置換とは、あるアミノ酸残基が生物学的に類似した特性を持つアミノ酸残基に置換されることをいう。保存的置換の例は、1つの脂肪族残基(Ile、Val、Leu、またはAla)を別の脂肪族残基に置換すること、1つの極性残基を別の極性残基に置換すること(例えば、LysとArg;GluとAsp;またはGlnとAsn間で置換すること)、または1つの芳香族残基(Phe、Trp、またはTyr)を別の芳香族残基に置換することを含む。さらに、保存的置換の例は、活性ドメインの外側のアミノ酸の置換、およびTIMP−3タンパク質の二次および/または三次構造を変化させないアミノ酸の置換をも含む。当業者は、周知の遺伝子工学的手法により、Sambrookら, Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press,(2001)等に記載の、例えば部位特異的突然変異誘発法を使用して、所望の欠失、挿入または置換を施すことが可能である。
本発明の好ましい態様において、野生型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有し、配列番号1または配列番号5のアミノ酸x−211のアミノ酸配列(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)である)、に80%以上の同一性を有し、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
アミノ酸の同一性パーセントは、視覚的検査及び数学的計算により決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の同一性パーセントは、Needleman,S.B.及びWunsch,C.D.(J.Mol.Biol.,48:443−453,1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)Henikoff,SおよびHenikoff,J.G.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10915−10919,1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;及び(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。
当業者に用いられる配列比較の他のプログラムもまた、用いてもよい。同一性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl.Acids.Res.25.,p.3389−3402,1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。
さらに、本発明のTIMP−3タンパク質は、核酸配列により定義することも可能である。
公知のヒト野生型TIMP−3の核酸は、配列番号3に示す配列からなり、配列番号1のタンパク質をコードする。また公知のマウス野生型TIMP−3の核酸は、配列番号7に示す配列からなり、配列番号5のタンパク質をコードする。この核酸配列もまたシグナルペプチドをコードする部分を含む。配列番号3および配列番号7はいずれも636塩基からなり、5’末端付近の塩基がシグナルペプチドをコードし、それよりも3’側の塩基が生理的機能を有するTIMP−3タンパク質をコードし、そして634−636番目の塩基が終止コドンである。
ここで、上述したように、シグナルペプチドの境界はタンパク質によって曖昧な場合があることから、配列番号3および配列番号7の5’末端から、どの塩基までがシグナルペプチドをコードするのかを特定することは困難である。
以下に詳述するように、野生型ヒトおよびマウスTIMP−3タンパク質(配列番号1および配列番号5)のアミノ酸24−27は、TIMP−3タンパク質の有するメタロプロテアーゼ活性に重要であると考えられており、このアミノ酸をコードする塩基は配列番号および配列番号7では塩基70−81である。したがって、TIMP−3タンパク質のシグナルペプチドのC末端をコードする塩基は、配列番号3または配列番号7の塩基1−69より選択されるいずれかの塩基であることが予測される。さらに、シグナルペプチドが除去されていない全長のTIMP−3タンパク質も、シグナルペプチドが除去されたTIMP−3タンパク質と同様の機能を有することが期待される。
以上から、本発明の一態様において、TIMP−3タンパク質は、配列番号3、配列番号4、配列番号7または配列番号8の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされる(yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。上述のようにNCBIデータベースにおいては、シグナルペプチドは配列番号1のアミノ酸1−23(配列番号3の塩基1−69によりコードされる)であると記載され、SMARTプログラムによればアミノ酸1−18(配列番号3の塩基1−54によりコードされる)であると判定された。また、TIMP−3タンパク質は、シグナルペプチドを有していても、その正常な機能を有することも期待される。したがって、好ましくは、yは、1および55−70から選択されるいずれか1つの整数(55および70を含む)である。さらに好ましくは、yは1、55または70である。
本発明において、野生型TIMP−3タンパク質は、上記のような、配列番号3または配列番号7の塩基y−633を含む核酸配列(yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)、によりコードされる。ここで、上記の野生型TIMP−3タンパク質の定義にしたがい、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有すれば、上記核酸配列に対し、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、1つまたは数個の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列、および80%以上の同一性を有する核酸配列、によりコードされるタンパク質もまた本発明においては、野生型TIMP−3タンパク質の範囲内である。
本明細書において使用される、ストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者により、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら, Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press,(2001)に示されている。例えば、中程度にストリンジェントな条件は、ニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40℃ないし60℃、好ましくは約50℃での、1×SSCないし6×SSC、好ましくは2×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、例えばスターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。また、例えば、ハイブリダイゼーション溶液が約50%ホルムアミドを含む場合、上記ハイブリダイゼーション温度は約15℃ないし20℃低めとなる。高度にストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者により、容易に決定することが可能である。一般に、高度にストリンジェントな条件は、上記中程度にストリンジェントな条件よりも、より高い温度および/またはより低い塩濃度でのハイブリダイゼーション、および/または洗浄条件を含む、例えば、約60℃ないし65℃での0.1×SSCないし0.2×SSCのハイブリダイゼーション条件、および/または約65℃ないし68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄条件を含む。当業者は温度および洗浄溶液塩濃度は、プローブの長さなどの要因にしたがい、必要に応じ調整してもよいことを認識するであろう。
また、本発明における野生型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、上記核酸配列から1つまたは数個の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質を含む。好ましい態様において、1つまたは数個の欠失および/または付加によって、コドンの読み枠がずれフレームシフトすることにより、タンパク質の二次構造以上の高次構造は変化しない。しかしながら、フレームシフトの起こる部位がTIMP−3タンパク質コード配列の3’末端に近く、タンパク質全体の構造および/または機能に与える影響が小さければフレームシフトを起こす欠失および/または付加も許容されうる。
さらに、本発明における野生型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有し、上記核酸配列に80%以上、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質を含む。塩基の同一性は、視覚的検査及び数学的計算により決定してもよい。あるいは、アミノ酸の同一性パーセントについて上述したように、公知のコンピュータープログラムを使用することにより測定することが可能である。
メタロプロテアーゼ阻害活性の評価方法は、当該技術分野で周知のいずれの技術を使用してよい。例えば、メタロプロテアーゼ活性の評価方法が当該技術分野では公知であり、この評価系にTIMP−3を添加することにより、メタロプロテアーゼ阻害活性を測定してもよい。例えば、メタロプロテアーゼ活性を評価するザイモグラフィー法は、以下の手順により行われる。SDSPAGEに使用するゲルにあらかじめメタロプロテアーゼの基質となるコラーゲンまたはカゼインを溶解しておく。メタロプロテアーゼ活性を測定しようとする試料を電気泳動した後、試料に由来するメタロプロテアーゼがゲル中のコラーゲン等を分解させる。ゲルをクマシーブルー等で染色すると、メタロプロテアーゼ活性に依存して白く色の抜けたバンドを示す。TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性は、上記SDSPAGEに供する試料にTIMP−3タンパク質を添加し、電気泳動後の着色量により測定することが可能である。
本発明においては、変異型TIMP−3タンパク質もまた使用され得る。本明細書における変異型TIMP−3タンパク質とは、野生型TIMP−3タンパク質の有するメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しているが、本発明に関する造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性は欠失していないTIMP−3タンパク質をいう。これら変異型TIMP−3タンパク質の使用は、TIMP−3タンパク質の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性が、メタロプロテアーゼ阻害活性に依存しないという本発明の発見に基づく。このような変異型TIMP−3タンパク質は、特に後述する医薬組成物として使用する場合に、生体内の正常なMMPのメタロプロテアーゼ活性に影響を与えずに、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善することが可能であり、副作用が少ないことが期待されるために好ましい。本発明の変異型TIMP−3タンパク質には、野生型TIMP−3タンパク質と同じ配列を有するものであっても、例えば糖鎖修飾の有無等の原因によりメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しているタンパク質も含まれる。
これまでに、TIMP−3と同じTIMPファミリーのTIMP−1において、そのメタロプロテアーゼ阻害活性に重要なアミノ酸残基が研究されている。Gomis−Ruth F.X.らは、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)とTIMP−1タンパク質複合体の結晶構造解析によりTIMP−1においては、シグナルペプチドが切断された後の、Cys1−Thr2−Cys3−Val4部分およびSer68−Val69部分が、MMP−3の触媒活性のある亜鉛分子に結合することにより、TIMP−1がMMP−3のメタロプロテアーゼ活性を阻害することを示した(非特許文献4)。したがって、これらのアミノ酸残基に変異を有するTIMP−1タンパク質は、TIMP−1タンパク質の通常有するメタロプロテアーゼ活性を欠失している。
ヒトTIMP−3タンパク質においては、配列番号1のヒト野生型TIMP−3タンパク質のアミノ酸配列で、N末端付近のアミノ酸残基は分泌に関連するシグナルペプチドであるために、これらの部位はヒトTIMP−3タンパク質の機能に関することはないと思われる。上記TIMP−1タンパク質のCys1−Thr2−Cys3−Val4に対応する部分は、ヒトTIMP−3タンパク質ではCys−Thr−Cys−Ser(配列番号1の24−27に相当)であり、これは高度に保存されていると言える。また、TIMP−1タンパク質Ser68−Val69に対応する部分は、ヒトTIMP−3タンパク質ではSer−Leu(配列番号1の89−90に相当)であり、これも高度に保存されている。したがって、ヒトTIMP−3タンパク質においてこれらのアミノ酸残基の1つまたは複数に欠失、置換または付加等の変異がある場合には、これらはメタロプロテアーゼ阻害活性を有さず、本発明におけるヒト変異型TIMP−3タンパク質の範囲内である。好ましい態様において、ヒト変異型TIMP−3タンパク質は、シグナルペプチドが除去された後の1番目のCys(配列番号1の24番目のCys)がSerに置換している。また、マウスTIMP−3タンパク質においては、ヒトTIMP−3タンパク質の有するCys−Thr−Cys−Ser(配列番号1の24−27に相当)部分、およびSer−Leu(配列番号1の89−90に相当)部分は完全に保存されている。したがって、当該部分に変異を有するマウスTIMP−3タンパク質もまた、MMPに対する結合活性が欠損している。好ましい態様において、マウス変異型TIMP−3タンパク質は、シグナルペプチドが除去された後の1番目のCys(配列番号1の24番目のCys)がSerに置換している。
上記のようなアミノ酸部位は一例であり、本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、これらの部位に変異を有さなくとも、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しており、そして造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質であればどのような変異を有するものであってもよい。したがって、配列番号1の24−27または89−90のアミノ酸残基以外に変異を有するタンパク質であっても、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しており、そして造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質は、本発明の変異型TIMP−3タンパク質の範囲内である。
本発明の好ましい態様において、変異型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、配列番号1または配列番号5のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1または配列番号5のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分から選択されるいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質である(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)である)。置換は好ましくは、保存的置換により行われる。
本発明のさらに好ましい態様において、ヒト変異型TIMP−3タンパク質は、配列番号2により定義される。配列番号2は、配列番号1のアミノ酸配列の24番目のCysがSerに置換したものである。また、好ましい態様において、マウス変異型TIMP−3タンパク質は、配列番号6により定義される。配列番号6は、配列番号5のアミノ酸配列の24番目のCysがSerに置換したものである。これらのタンパク質は、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しているが、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有している。配列番号2および配列番号6のアミノ酸配列はシグナルペプチドを有するが、シグナルペプチドを有していても、有していなくても、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠失し、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有している限り、本発明の変異型TIMP−3タンパク質の範囲内である。
好ましい態様において、変異型TIMP−3タンパク質には、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、配列番号2または配列番号6のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号2または配列番号6のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基に欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質、あるいは、配列番号2または配列番号6のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質、が含まれる(xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)である)。
上記同一性%で規定されるタンパク質は、好ましくは80%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するタンパク質が含まれる。
さらに本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、核酸配列により定義することも可能である。即ち、好ましくは、本発明の変異型TIMP−3タンパク質には、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、上記のメタロプロテアーゼ阻害活性に重要なアミノ酸残基(配列番号1または配列番号5の24−27または89−90のいずれか)をコードする塩基部分が欠失、置換または付加している核酸配列、上記核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、上記核酸配列から1つまたは数個の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列、および上記核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列、によりコードされるタンパク質が含まれる。
好ましい態様において、本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、配列番号3または配列番号7の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3または配列番号7の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、あるいは配列番号3または配列番号7の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3または配列番号7の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分から選択されるいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質である(yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
この態様は、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性に重要なアミノ酸残基(配列番号1の24−27または89−90のいずれか)をコードする塩基が変異を起こしている。しかしながら、該塩基に変異を有していても、コドンの縮重により、コードされるアミノ酸が変化しなければ、TIMP−3タンパク質のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損しないと考えられる。
さらに好ましい態様において、本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、配列番号4によりコードされる。配列番号4は、野生型ヒトTIMP−3をコードする配列番号3の核酸配列のうち、24番目のシステインを指定するコドンTGC(配列番号3の塩基70−72)がTCCに変化している。このため、配列番号4によりコードされるTIMP−3タンパク質は、Cys(配列番号4によりコードされるタンパク質においては24番目のCys)がSerに変化している。また、本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、配列番号8によってもコードされる。配列番号8は、野生型マウスTIMP−3をコードする配列番号7の核酸配列のうち、24番目のシステインを指定するコドンTGC(配列番号7の塩基70−72)がTCCに変化している。このため、配列番号8によりコードされるTIMP−3タンパク質は、Cys(配列番号4によりコードされるタンパク質においては24番目のCys)がSerに変化している。
よって、さらに好ましい態様において、本発明の変異型TIMP−3タンパク質は、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する、配列番号4または配列番号8の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号4または配列番号8の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、あるいは配列番号4または配列番号8の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号4または配列番号8の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分から選択されるいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質である(yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
上記のような核酸の同一性%で規定される核酸は、好ましくは80%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する。
(ii)TIMP−3タンパク質をコードする核酸を用いる方法。
本発明はまた、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法を提供する。本発明の方法は、
(1)TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを準備する工程、
(2)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に(1)のベクターを導入する工程、および
(3)(2)の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する工程、
を含む。
ここで、前記生理学的性質の改善は、増殖能の亢進、自己複製能の維持または亢進、生存率の亢進、多分化能の維持、短期および長期骨髄再建能の維持または亢進からなる群より選択されるいずれかの性質の改善、あるいはこれらの組み合わせからなる。
好ましい態様において、TIMP−3タンパク質をコードする核酸は、(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなる。
本明細書において、「野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸」とは、上述のような「野生型TIMP−3タンパク質」をコードする核酸であればどのような塩基配列を有するものであってもよい。アミノ酸を指定するコドンは当該技術分野では広く知られており、これに基づき野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸は容易に同定可能である。
同様に、本明細書において、「変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸」とは、上述のような「変異型TIMP−3タンパク質」をコードする核酸であればどのような塩基配列を有するものであってもよい。
本発明における「ベクター」とは、TIMP−3タンパク質をコードする核酸等の所望の核酸を、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の細胞に導入し、その細胞に所望の遺伝子産物を発現させるものであればどのようなものであってもよい。
好ましい態様においては、ベクターは、プラスミド、ウイルスまたはファージ等であり、さらに好ましい態様においてはプラスミドである。プラスミドは、核酸によりコードされているTIMP−3タンパク質を発現できるものであればどのようなものでもよい。好ましい態様において、プラスミドは、構成的に発現するプロモーターまたは造血幹細胞若しくは未分化造血前駆細胞においてのみに発現するプロモーターを有する。
インビトロで、生理学的性質の改善した造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を作成する方法に適したプラスミドは、例えばpcDNA3、pMXs−IRES−GFPおよびpMYs−IRES−GFP等があり、また適したプロモーターとしては、例えばCMVおよびLTR等がある。このようなプラスミドを造血幹細胞または未分化造血前駆細胞にインビトロで導入する方法は広く知られており、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法またはエレクトロポレーション法などがある。リポフェクション法に使用される試薬は市販されており、例えば、Effectene(Qiagen)、LipofectAMINE(Invitrogen)等がある。
また、使用されるウイルスも特に限定されない。しかしながら、好ましい態様において、ウイルスはアデノウイルス、レトロウイルスまたはレンチウイルス等公知のウイルスが使用される。このようなウイルスの作成方法は公知である。
その他、特に明記しない限り、「造血幹細胞」等、他の用語の意義は『(i)TIMP−3タンパク質を用いる方法』の項目で前述した通りである。
2) 1)の方法により作成された、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞
本発明はまた、上記1)の方法により作成された、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を提供する。本発明の好ましい態様においては、本発明の造血幹細胞および未分化造血前駆細胞は、移植後の短期および長期骨髄再建能を維持若しくは亢進させる、および/または生着率を維持若しくは亢進する能力を有している。
ここで、「造血幹細胞」、「未分化造血前駆細胞」、「骨髄再建能」および「生着率」の用語は、上記の1)の項目におけるものと同義とする。また、「短期骨髄再建能」、「長期骨髄再建能」および「生着率」の測定方法もまた上記の1)の項目におけるものと同じである。
本発明の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞は、造血幹細胞移植を必要とする患者に移植することができる。そのような患者は、例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫または多発性骨髄腫などの治療のための放射線照射または化学療法後の、血球が減少した状態を有する。あるいは本発明の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞は、重症再生不良性貧血、先天性代謝異常症または先天性免疫不全症の患者に投与・移植することも可能である。
3)血球の数を増加させるための医薬組成物
本発明は、TIMP−3タンパク質を含んでなる血球の数を増加させるための医薬組成物、およびTIMP−3タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含んでなる血球の数を増加させるための医薬組成物を提供する。これは、TIMP−3タンパク質を発現するプラスミドをマウスに投与することにより、白血球、赤血球および血小板数の増加が観察された実験例に基づくものである。プラスミドにより発現したTIMP−3タンパク質は造血幹細胞の増殖能および生存率の亢進を引き起こし、その結果として血球細胞の増加が観察されたものであると思われる。
(i)TIMP−3タンパク質を使用する医薬組成物
本発明はまた、TIMP−3タンパク質を含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物を提供する。本発明のTIMP−3タンパク質を含む医薬組成物を成体に投与することにより、骨髄における造血幹細胞ニッチのTIMP−3タンパク質濃度が上昇する。上記のように野生型TIMP−3タンパク質および変異型TIMP−3タンパク質は、造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善することが本発明により明らかとなっている。これらのことから、本発明のTIMP−3タンパク質を有する医薬組成物もまた、インビボで造血幹細胞および未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善することが可能である。このような本発明の医薬組成物により、白血病の治療のための放射線照射後、またはその他の疾患に対する化学療法後における、血球の減少または造血の減少などに対処することが可能になる。また、本発明の医薬組成物は、例えば、造血器腫瘍などに対する化学療法・放射線治療後の血球(白血球、赤血球、血小板)減少状態、再生不良性貧血・骨髄異形成症候群などの造血不全症等の疾患に使用可能である。
好ましい態様において、本発明の医薬組成物に含まれるTIMP−3タンパク質は、(A)野生型TIMP−3タンパク質および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質からなる。本発明の医薬組成物に使用する、「TIMP−3タンパク質」、「野生型TIMP−3タンパク質」および「変異型TIMP−3タンパク質」の定義は、上記の「(1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法」中におけるものと同じである。
本発明の医薬組成物は、好ましくは1またはそれより多くの医薬的に許容できる担体と共に投与可能である。医薬的に許容できる担体は、投与の経路について医薬的に許容できる希釈剤、増量剤、アジュバント、賦形剤、およびビヒクル、ならびに適した分散剤、湿潤剤、および懸濁剤を使用して処方される、水性のまたは油性の懸濁液であってよい。
医薬的に許容できる担体は、一般的に無菌であり、そして発熱性剤がなく、そして水、油、溶媒、塩、糖、および他の炭水化物、乳化剤、緩衝剤、抗菌剤、およびキレート剤を含んでよい。特定の医薬的に許容できる担体および担体に対する活性化合物の比は、組成物の溶解度および化学特性、投与の方式、ならびに標準の医薬実務により決定される。
本発明における「血球」とは、血液中に存在する全ての血液細胞を含み、好ましい態様において、血球は赤血球、白血球および血小板(巨核球)を含む。ここで、白血球は、好中球、好酸球および好塩基球を含む顆粒球、単球、並びにT細胞およびB細胞を含むリンパ球を含む。
(ii)TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを使用する医薬組成物
本発明はさらに、TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物を提供する。好ましい態様において、本発明の医薬組成物に含まれるTIMP−3タンパク質は、(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなる。本発明の医薬組成物に使用する、「野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸」および「変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸」の定義は、上記の「(1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法」中におけるものと同じである。
当該医薬組成物を生体内に投与することにより、造血幹細胞ニッチにおけるTIMP−3タンパク質の発現が上昇し、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善することが可能である。
本発明のTIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを使用する医薬組成物は、「(i)TIMP−3タンパク質を使用する医薬組成物」の項目で記載したような1またはそれより多くの医薬的に許容できる担体と共に投与可能である。また、所望によりTIMP−3タンパク質をコードする核酸のプロモーターとしては、構成的に発現するCMVプロモーターのようなプロモーター、または造血幹細胞においてのみ特異的に発現するプロモーターを使用することが可能である。好ましい態様において、本発明の医薬組成物に使用可能なプロモーターとしては、CMV、β−actinおよびLTR等が挙げられる。
本発明の医薬組成物に使用する、「野生型TIMP−3タンパク質」および「変異型TIMP−3タンパク質」の定義は、上記の「(1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法」中におけるものと同じである。
また本発明の好ましい態様において、TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターはプラスミド、またはウイルスが挙げられる。好ましい態様において、ベクターは、pcDNA3,pMXs−IRES−GFP,およびpMYs−IRES−GFP等が挙げられる。
このようなベクターの投与方法は、骨髄の造血幹細胞ニッチにベクターが到達するような方法であればどのような投与方法によってもよい。好ましい態様において、静脈注射により投与される。
また、本発明の医薬組成物により造血幹細胞に対する遺伝子治療もまた可能になる。遺伝子治療とは、遺伝的素因が病気の発症原因となっている場合に、特定の遺伝子クローンを患者の体細胞に導入し、導入された遺伝子が機能を発揮することによって治療する方法である。造血幹細胞などをいったん体外に取り出して遺伝子クローンを導入した後、体内に導入するex vivo法と、生体内の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に遺伝子クローンを直接導入するin vivo法とがある。
ex vivo法は、上述したような、インビトロで、生理学的性質の改善した造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を作成する方法であって、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞が野生型TIMP−3タンパク質および/または変異型TIMP−3タンパク質を発現するように、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを導入し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養することを含む方法により作成された造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を生体内に、好ましくは骨髄に移植することにより行うことができる。
また、in vivo法は直接生体内にTIMP−3タンパク質をコードするベクターを投与することにより行われる。in vivo法においては、標的とする造血幹細胞または未分化造血前駆細胞が存在する造血幹細胞ニッチ以外の細胞に遺伝子が配送されないように留意すべきである。あるいは、TIMP−3タンパク質をコードする核酸のプロモーターを造血幹細胞または未分化造血前駆細胞あるいはその周辺に存在する細胞においてのみ活性を有するようなものを選択することにより、その他の部位での望まない発現を抑えることができる。
本発明の好ましい態様において、TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターはpcDNA3で、好ましくは体重1kgあたり100−2000μg/kg、より好ましくは500−1500μg/kg、さらに好ましくは800−1200μg/kg、最も好ましくはおよそ1000μg/kgの用量で投与される。
本発明により、増殖能の亢進、自己複製能の維持または亢進、生存率の亢進、多分化能の維持、短期および長期骨髄再建能の維持または亢進等、生理学的性質の改善した造血幹細胞および未分化造血前駆細胞を作成することが可能となった。本発明により作成された造血幹細胞は、造血幹細胞移植により治療が見込まれる、例えば白血病のような種々の疾患を治療するために使用可能である。
また、本発明の医薬組成物により、これまで種々のサイトカインを組み合わせても達成が困難であった、血球数を増加させることが可能となった。これにより、輸血による感染症などの合併症のリスクが軽減されるだけではなく、輸血量の減少(赤血球輸血・血小板輸血)にもつながると考えられ、社会問題にもなっている輸血感染症の減少や医療費の抑制に貢献することが考えられる。
実施例1 マウスにおける5FU処理後のTIMP−3の発現変化
5FUは抗癌剤として知られており、これを腹腔内投与することにより骨髄抑制が起こり、血球細胞が減少することが知られている。次いで、血球細胞の減少に応答して、造血幹細胞の分裂が盛んになることが明らかとなっている。本実施例では造血幹細胞の分裂が盛んな5FU投与後のマウス骨髄におけるTIMP−3の発現量を検討した。
C57BL/6マウスに150mg/kgの用量で5FUを腹腔内へ注射により投与した。次いで、それぞれ0,3,6および9日目において、5FU処理マウスから骨髄単核細胞(BMMNC)を、実施例4によるようなFACSによるソーティングにより単離した。
骨髄単核細胞からMicro−FastTrack 2.0 Kit(Invitrogen)を使用して、全ポリAmRNAを抽出した。得られたmRNAをSuperScript II逆転写酵素(Invitrogen)を使用し、製造業者の説明書にしたがって逆転写した。得られたcDNAのPCRは、TIMP−3特異的プライマー(Fr:配列番号9、Rev:配列番号10)およびGAPDHに特異的プライマー(Fr:配列番号11、Rev:配列番号12)を使用して、またDNAポリメラーゼとしてはExTaq−HS(Takara)を使用して実行した。
TIMP−3 Fr 5’−TACCATGACTCCCTGGCTTG−3’
TIMP−3 Rev 5’−TGCAATTGCAACCCAGGTGG−3’
GAPDH Fr 5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’
GAPDH Rev 5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’
PCR反応後、各試料を1%アガロースゲルを使用した電気泳動に供し、次いでエチジウムブロマイドを使用し染色した。
結果を図1に示す。5FUによる骨髄抑制後の3日目以降においてTIMP−3のmRNAの発現量が有意に増加していることが明らかとなった。これにより、造血幹細胞の増殖にTIMP−3が関与する可能性が示唆された。
実施例2 マウスにおける放射線照射後のTIMP−3の発現変化
C57BL/6マウスに致死量の放射線照射(950R)をし、それぞれ0,3および5日目において、放射線照射マウスから骨髄単核細胞(BMMNC)を単離した。次いで、実施例1と同様の方法により、TIMP−3およびGAPDHについて発現量を検討した。
結果を図2に示す。TIMP−3のmRNAの発現量は、放射線照射後3日目以降において増大していた。
実施例3 骨髄におけるTIMP−3タンパク質の発現部位
実施例3では、実施例1のように5FUで処理したマウスの骨髄中でのTIMP−3タンパク質の発現部位をより詳細に検討するために、マウス骨髄細胞を免疫染色により解析した。
実施例1と同様に5FUで処理した後3日後のマウスの大腿を解剖し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後に5%EDTA(pH6.0−6.5)を用いて脱灰した。次いで、試料をOCTコンパウンド(Tissue−Tek)中に包埋し、凍結し、そして5μm厚で切片を作成した。切片を5分間メタノール/アセトンで再固定し、ヤギ血清でブロッキングし、そしてヤギ抗TIMP−3(C−20)またはオステオポンチン(OPN)(P−18)ポリクローナル抗体を一次抗体として使用した。緩衝液による洗浄後、二次抗体としてビオチン標識抗ヤギIgG抗体を使用し染色、さらに緩衝液による洗浄後、3次抗体としてペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを使用し染色した。最後にジアミノベンチジンを反応させ発色を行った。
結果を図3に示す。オステオポンチン(OPN)は骨芽細胞特異的なマーカーとして知られている。上段の染色図により5FUの投与の有無に係わらず、骨の表面において発現していることがわかる。また下段右に示される染色図により、5FU投与後のマウスでTIMP−3タンパク質は骨の表面に沿って発現していることが明らかとなった。一方、5FUを投与しなかったマウス(下段左)においては、TIMP−3タンパク質の発現は見られなかった。これまでの研究により、骨の表面に造血幹細胞の存在する部位(造血幹細胞ニッチ)が存在することが示唆されている。TIMP−3タンパク質は当該部位で発現が上昇していることから、造血幹細胞に影響を与えていることが強く示唆される。
実施例4 CD34 KSL細胞の選択
マウス造血幹細胞として知られるCD34KSL細胞(c−Kit Sca−1 Lineage)を選択するためにマウス骨髄単核球からLineage Cell Depletion Kit(Miltenyi Biotec)を使用して、Lineage細胞を取り除いた。さらに、FACS Vantage(Becton Dickinson)等を使用してCD34KSL細胞をフローサイトメトリーによりソーティングした。使用した抗体はc−Kit(ACK2)、Sca−1(E13−161.7)、CD34(RAM34)であり、これら全てはBD Pharmingenより購入した。これにより、所望のCD34KSL細胞を得た。
実施例5 造血幹細胞の増殖に対するTIMP−3タンパク質の影響
実施例4のようにソーティングしたCD34KSL細胞を、100細胞ずつ丸底96ウェルプレートのウェルに加えた。本発明の実験系において、細胞培養培地はS−clone SF−03(三光純薬)であり、該培地に0.5%ウシ血清アルブミン、50ng/ml SCFおよび50ng/ml TPO、50μM 2−メルカプトエタノールを添加し使用した。これらのウェルに組換えヒトTIMP−3タンパク質(配列番号1の24−211)(R&D systems)を3μg/ml添加する群と、添加しない群に分け、その後6日間培養を続けた。その間、2日に1回の割合で培地を新たなものと交換した。
6日間の細胞数の変化および5日目における細胞の写真を図4に示す。丸は対照群を、三角はTIMP−3添加群を示す。6日目において、TIMP−3タンパク質を添加していない対照ウェルでは1200細胞程度までしか増殖していなかったのに対し、TIMP−3タンパク質を添加したウェルでは2300細胞程度まで増殖していた。本実験では、TIMP−3タンパク質により、2300/1200=1.92倍、増殖能が亢進していた。よって、TIMP−3タンパク質は、造血幹細胞の増殖能を有意に亢進する活性を有することが明らかとなった。
実施例6 造血幹細胞のコロニー形成(自己複製能)に対するTIMP−3タンパク質の影響
実施例6では、造血幹細胞の自己複製能を測定するために、コロニー形成アッセイを行った。具体的には、MethoCult M3434(Stem Cell Technology)を使用し、添付の説明書にしたがって行った。以下に概要を示す。
実施例4と同様の方法により採取したCD34KSL細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに1細胞ずつソーティングし、S−Clone SF−03に0.5%ウシ血清アルブミン、50ng/ml SCF、50ng/ml TPO、50μM 2−メルカプトエタノールを添加した培地で培養した。これにTIMP−3タンパク質(配列番号1の24−211)(R&D systems)を添加する群と添加しない群に分け、それぞれの細胞を1回分裂させた。生じた2個の娘細胞をマイクロマニピュレーターにより1つずつに分離し、それぞれの細胞をメチルセルロース培地(MethoCult M3434)中に埋めこみ、1週間から10日程度培養し分化させた。
2個の娘細胞の培養後、それぞれから生じた細胞を図5に示す。nmEM/nmEMは2個の娘細胞から生じたコロニーがいずれも白血球、赤血球および巨核球等の全てを有するミックスコロニーであることを示す。2個の娘細胞から生じたコロニーのうち少なくとも1つがミックスコロニーであることは、元となった1つのCD34KSL細胞が、自己複製能を有したまま分裂をしたことを示唆する。また、2つの娘細胞のうち1つの細胞もミックスコロニーを形成しなかった場合には、元となった1つのCD34KSL細胞は、自己複製能を有しなかったことを示唆する。
対照群の細胞では、70%程度の造血幹細胞しか自己複製能を有していなかったのに対し、TIMP−3タンパク質を添加した培地中で培養した群ではおよそ90%の造血幹細胞が自己複製能を有していた。本実験では、90/70=1.3倍程度、TIMP−3タンパク質により自己複製能が亢進した。これにより、TIMP−3タンパク質の存在下で培養することにより、造血幹細胞の自己複製能を維持したまま、あるいは亢進させて造血幹細胞を増殖させることができることが明らかとなった。
実施例7 造血幹細胞のコロニー形成に対するTIMP−3タンパク質の影響
実施例7では、造血幹細胞の自己複製能および生存率を測定するために、実施例5とは異なる系のコロニー形成アッセイを行った。以下に概要を示す。
実施例4と同様の方法により採取したCD34KSL細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに1細胞ずつソーティングし、TIMP−3タンパク質(配列番号1の24−211)(R&D systems)を添加する群および添加しない群(対照群)に分け、0.5%ウシ血清アルブミン、50ng/ml SCF、50ng/mlTPOおよび1%メチルセルロースを添加したS−clone培地で1週間培養した。次いで、培養した細胞に分化培地(10%ウシ胎児血清、20ng/ml IL−3、2U/ml Epo、20ng/ml SCF、50ng/ml TPOを添加したS−clone培地)を加えてコロニー形成能を観察した。
結果を図6に示す。GEMMは好中球、赤血球(赤芽球)、マクロファージおよび巨核球からなるミックスコロニーを示す。対照群では、およそ20%がミックスコロニーを形成し、また70%以上細胞は本アッセイを終了するまでに死滅していた。一方、TIMP−3タンパク質を添加した群では、ミックスコロニーの形成率はおよそ33%程度となり、対照群に比べて有意にミックスコロニー形成が増加していた。これは、TIMP−3タンパク質が、造血幹細胞の分化を抑えて、その多分化能を維持させているためであると考えられる。あるいは、TIMP−3タンパク質は、造血幹細胞のアポトーシスを抑えることにより、結果として、ミックスコロニーの形成を亢進していることも考えられる。後者の理由は、TIMP−3タンパク質を添加した群は、本アッセイ終了までに死滅する細胞の割合が56%程度であったことからも支持される。
実施例8 骨髄移植
実施例4と同様の方法により採取したC57BL/6−Ly5.1マウス由来のCD34KSL細胞を、およそ1週間またはおよそ2週間、ヒトTIMP−3タンパク質(配列番号1の24−211)(3μg/ml)を添加する群およびしない群(対照群)に分け、培養した。次いで、培養した細胞をLy5.2マウス由来の骨髄細胞2×10個ずつと混合して、致死量の放射線(950rads)照射したC57BL/6−Ly5.2レシピエントマウスに静脈注射により移植した。移植後4,8,12,23週目において、末梢血中のC57BL/6−Ly5.1マウス由来の血球細胞を、抗Ly5.1抗体を使用したFACSにより解析し、その割合を調べることにより、移植細胞の生着率を測定した。それぞれの実験条件について、5個体のマウスを使用して実験を行った。
結果を図7に示す。ヒトTIMP−3タンパク質と1週間培養した群および2週間培養した群で、移植後4,8,12,23週目のいずれにおいても対照群と比べて有意な差を示さなかった。このことから、TIMP−3タンパク質で処理した造血幹細胞は、前述のような増殖能の亢進等の生理学的性質の改善が見られるにもかかわらず、実際に移植をした場合でも、対照群と同程度の生着率および短期・長期骨髄再建能を有するということが明らかとなった。
また、さらに過酷な条件下での造血幹細胞の生着率および長期骨髄再建能を調べるために、二次移植実験を行った。上記のマウスから移植後24週に骨髄細胞を採取し、2x10個ずつレシピエントマウスに移植した。二次移植後4週目および8週目の結果を図8に示す。ヒトTIMP−3タンパク質と1週間培養した細胞群では、対照群に比べて生着率が亢進していた。これは、二次移植後4週目および8週目のいずれにおいても観察された。一方、ヒトTIMP−3タンパク質と2週間培養した細胞群では、対照群と同程度の生着率となった。これは、1週間培養系ではTIMP−3タンパク質は造血幹細胞機能を保つまたは増強することができ、一方、2週間培養系では培養期間が長く、そのために培養中に造血幹細胞の幹細胞機能が失われていったためであると考えられる。
実施例9 マウスへのTIMP−3を発現するプラスミドの投与
実施例1と同様にして、0日目に5FUをC57BL/6マウス(n=4)に150mg/kgの用量を腹腔内投与した。次いで、1日目にマウス野生型TIMP−3(pcDNA3/TIMP−3(配列番号7の塩基1−633を含む))、またはマウス変異型TIMP−3を発現するプラスミド(pcDNA3/TIMP−3(Cys1 to Ser:配列番号8の塩基1−633を含む))あるいはコントロールプラスミド(pcDNA3)20μgを2mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に希釈し、尾静脈から急速静注により投与した。
その後、2,4,6,8,10および12日目において白血球の細胞数を、血球計算機を使用して計数した。実験スケジュールと結果を図9に示す。コントロールプラスミドを投与した対照群では6日目以降で血球数の回復が見られ、一方、野生型TIMP−3および変異型TIMP−3ではいずれも対照群に比べて早い血球の回復が観察された。また白血球の最低値も野生型TIMP−3および変異型TIMP−3注射群で高値であった。このことにより、TIMP−3はインビトロで造血幹細胞の生理学的性質を改善するばかりではなく、インビボにおいても、造血幹細胞の生理学的性質を改善することにより、血球数の増加を促進することが明らかとなった。
また、同様にしてヘモグロビン値および血小板の細胞数についても計数した。結果を図10と11に示す。ヘモグロビン値は、赤血球のターンオーバーがその他の血球細胞に比べて100日程度と長いため、5FUによる骨髄抑制直後では差が見にくいようである。しかしながら、6日目以降において、野生型TIMP−3タンパク質または変異型TIMP−3タンパク質を発現するプラスミドを投与したマウスでは、ヘモグロビンの減少が遅くなり、8日目には対照群とTIMP−3群では2g/dl程度の差が生じている。この差は臨床的には大きなものであり、TIMP−3は赤血球の増殖についても作用することが明らかとなった。また、血小板については、TIMP−3群では対照群に比べて細胞数が増加したものの、変異型TIMP−3群ではあまり差は見られなかった。
これらの結果から、TIMP−3タンパク質を発現するプラスミドを投与することにより、造血幹細胞の分裂が盛んになり、造血の回復が早まることが明らかとなった。
これまでに、エリスロポエチンやG−CSFなどのように、ある特定の血球細胞系列のみを増加させる薬剤は知られていた。しかしながら、TIMP−3は少なくとも3系統の血球細胞を増殖させることが可能であり、臨床治療における有用性が期待される。
実施例10 マウスの生存延長実験
0日目にC57BL/6マウス(各群ごとにn=9)に致死量放射線照射(900R)を行った。次いで、1日目(放射線照射の24時間後)にマウス野生型TIMP−3(pcDNA3/TIMP−3(配列番号7の塩基1−633を含む))、またはコントロールプラスミド(pcDNA3)20μgを2mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に希釈し、尾静脈から急速静注により投与した。
その後の各群の生存率を図12に示す。コントロールプラスミドを投与した対照群では、放射線照射から10日目で生存率が50%となり、15日目には全てのマウスが死亡した。しかしながら、TIMP−3プラスミド投与群では放射線照射から14日目で生存率が50%となり、18日目に全てのマウスが死亡した。実験結果には、統計学的優位差が認められた(p<0.05)。このことから、TIMP−3はインビボにおいて造血幹細胞の生理学的性質を改善することにより、血球数の増加を促進し、マウスの生存を延長することが明らかとなった。
図1は、骨髄抑制によるTIMP−3の誘導を示す。マウス(C57BL/6)に150mg/kgの5FUを腹腔内に注射し、骨髄単核細胞(BMMNC)を各時点で回収した。RNAを抽出し、そして半定量的RT−PCRによりTIMP−3およびGAPDHの発現を調べた。また、下の図は5FU投与後の白血球数の減少を示す。 図2は、放射線照射によるTIMP−3の誘導を示す。マウスを致死量の放射線照射(950R)で処理し、そしてBMMNCを各時点で回収した。TIMP−3の発現を図1と同様に半定量的RT−PCRにより試験した。 図3は、骨髄造血幹細胞ニッチにおけるTIMP−3の誘導を示す。3日間5FUで処理したマウス由来の骨髄の組織染色。オステオポンチン(OPN)およびTIMP−3発現を茶色で示した。矢頭は骨髄の骨内膜表面でのTIMP−3発現を示す。また、青色はヘマトキシリンによる核染色である。 図4は、TIMP−3により増進された造血幹細胞の増殖を示す。96ウェルプレートのウェルごとに100個のCD34KSL細胞をソートし、そしてTIMP−3(3μg/ml)ありで、またはなしで、幹細胞因子(SCF,50ng/ml)およびトロンボポエチン(TPO,50ng/ml)の存在下において培養した。左パネル:増殖曲線;三角はTIMP−3タンパク質投与群、丸は対照群を示す。右パネル:5日間培養後の細胞の写真(倍率 x100)。 図5は、TIMP−3と培養した造血幹細胞の対娘細胞コロニーアッセイの結果(%)を示す。CD34KSL細胞を96ウェルプレート中へソートし、そしてTIMP−3存在下または非存在下で、SCFおよびTPOと共に培養した。細胞が分裂し、娘細胞対が生成した後、マイクロマニピュレーションにより細胞を分離し、コロニーアッセイに供した。n;好中球、m;マクロファージ、E;赤血球系細胞、M;巨核球。コロニー対のパーセンテージを示す。nmEMは多能性前駆細胞から生じたコロニーを示す。 図6は、TIMP−3と培養した造血幹細胞の増進したコロニー形成能を示す。CD34KSL細胞をTIMP−3存在下または非存在下で、SCFおよびTPOと1週間インビトロ培養した。次いで、細胞をコロニーアッセイに供した。灰色はGEMM、黒色はGEM、そして白色はMegを示す。Meg:巨核球のみ生じたコロニー、GEM:好中球、赤血球系細胞およびマクロファージを生じたコロニー、GEMM:好中球、赤血球系細胞、マクロファージおよび巨核球を生じたコロニー。 図7は、TIMP−3の存在下または非存在下で培養した造血幹細胞の長期骨髄再建能を示す。CD34KSL細胞をTIMP−3の存在下または非存在下で、SCFおよびTPOと1週間培養し、そして2x10の競合細胞と同系統の宿主マウスに移植した。末梢血におけるドナー細胞のパーセンテージを各時点で解析した。 図8は、TIMP−3の存在下または非存在下で培養した造血幹細胞の二次移植における長期骨髄再建能を示す。CD34KSL細胞をTIMP−3の存在下または非存在下で、SCFおよびTPOと1週間または2週間培養し、そして2x10の競合細胞と同系統の宿主マウスに移植した。その後、マウス骨髄から骨髄単核球を回収し、再び他のマウスに移植した。二次移植後4週間または8週間での生着率を解析した。 図9は、5FUで処理後のマウス(各群でn=4)に、流体力学配送法(hydrodynamic delivery method)により尾の静脈からTIMP−3または変異型TIMP−3(Cys 1 Ser)発現プラスミドを注射した後の白血球数の変化を示す。上:実験スケジュール。下:白血球の細胞数変化のグラフ;菱形は対照群、四角はTIMP−3を投与した群、三角は変異型TIMP−3を投与した群を示す。 図10は、5FUで処理後のマウス(各群でn=4)に、流体力学配送法(hydrodynamic delivery method)により尾の静脈からTIMP−3または変異型TIMP−3(Cys 1−Ser)発現プラスミドを注射した後のヘモグロビン値の変化を示す。菱形は対照群、四角はTIMP−3を投与した群、三角は変異型TIMP−3を投与した群を示す。 図11は、5FUで処理後のマウス(各群でn=4)に、流体力学配送法(hydrodynamic delivery method)により尾の静脈からコントロールプラスミド、TIMP−3発現プラスミドまたは変異型TIMP−3(Cys 1 Ser)発現プラスミドを注射した後の血小板数の変化を示す。菱形は対照群、四角はTIMP−3を投与した群、三角は変異型TIMP−3を投与した群を示す。 図12は、致死量放射線照射(900R)後のマウスに、流体力学配送法(hydrodynamic delivery method)により尾の静脈からコントロールプラスミドまたはTIMP−3発現プラスミドを注射した後のマウスの生存率の変化を示す。破線はTIMP−3投与群を、実線は対照群を示す。

Claims (12)

  1. 造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法であって、
    (1)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する培養上清中にTIMP−3タンパク質を添加する工程、および
    (2)当該造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を(1)の培養上清中にて培養する工程、
    を含む、前記方法。
  2. 前記TIMP−3タンパク質が、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質からなる、請求項1の方法:
    (A)野生型TIMP−3タンパク質が、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質であり:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
    (b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
    (c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
    (d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
    (e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
    (f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
    (g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
    (B)変異型TIMP−3タンパク質が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質である、
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
    (b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
    (xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
  3. TIMP−3タンパク質の培養上清中における濃度が、0.1−10μg/mlである、請求項1または2の方法。
  4. 造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する方法であって、
    (1)TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含むベクターを準備する工程、
    (2)造血幹細胞または未分化造血前駆細胞に(1)のベクターを導入する工程、および
    (3)(2)の造血幹細胞または未分化造血前駆細胞を培養する工程、
    を含む、前記方法。
  5. 前記TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなる、請求項4の方法:
    (A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質をコードし:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
    (b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
    (c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
    (d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
    (e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
    (f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
    (g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
    (B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
    (b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
    (xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
  6. 培養期間がおよそ1週間ないしおよそ2週間の間である、請求項1から5のいずれかの方法。
  7. 請求項1から6のいずれかの方法により生理学的性質が改善された、造血幹細胞または未分化造血前駆細胞。
  8. TIMP−3タンパク質を含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物。
  9. 前記TIMP−3タンパク質が、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質からなる、請求項8の医薬組成物:
    (A)野生型TIMP−3タンパク質が、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質であり:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
    (b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
    (c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
    (d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
    (e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
    (f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
    (g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
    (B)変異型TIMP−3タンパク質が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質である、
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
    (b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
    (xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
  10. TIMP−3タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含んでなる、血球の数を増加させるための医薬組成物。
  11. 前記TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、以下の(A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸および/または(B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸からなる、請求項10の医薬組成物:
    (A)野生型TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、以下の(a)−(g)からなる群より選択される、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性および造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有するタンパク質をコードし:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列を有するタンパク質;
    (b)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列から1つまたは数個のアミノ酸残基の欠失、置換、および/または付加を有するタンパク質;
    (c)配列番号1のアミノ酸x−211のアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するタンパク質;
    (d)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列によりコードされるタンパク質;
    (e)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるタンパク質;
    (f)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列から1つまたは数個の塩基の欠失、置換、および/または付加を有する核酸配列によりコードされるタンパク質;並びに、
    (g)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列によりコードされるタンパク質、
    (B)変異型TIMP−3タンパク質をコードする核酸が、TIMP−3のメタロプロテアーゼ阻害活性を欠損し、そして造血幹細胞または未分化造血前駆細胞の生理学的性質を改善する活性を有する以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする:
    (a)配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸x−211を含むアミノ酸配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸24−27および89−90に相当する部分のいずれか1つのまたは複数のアミノ酸残基に欠失、置換および/または付加を有するタンパク質、あるいは
    (b)配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列、配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列と高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、または配列番号3の塩基y−633を含む核酸配列に80%以上の同一性を有する核酸配列において、配列番号3の塩基70−81および塩基265−270に相当する部分のいずれか1つのまたは複数の塩基に欠失、置換および/または付加を有する核酸配列にコードされるタンパク質、
    (xは、1−24から選択されるいずれか1つの整数(1および24を含む)であり、そして、yは、1−70から選択されるいずれか1つの整数(1および70を含む)である)。
  12. 前記血球が、赤血球、白血球および血小板からなる群のいずれかの血球、またはその組み合わせである、請求項8から11のいずれかの医薬組成物。
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