JP2009186425A - ピオグリタゾンまたはその塩による動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制 - Google Patents

ピオグリタゾンまたはその塩による動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制 Download PDF

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Abstract

【解決課題】ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の有効性に関わる遺伝子多型をもとにして動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に有効に奏効する糖尿病患者を選別し決定する方法を提供する。また、動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に有効に奏効する薬剤を提供する。
【手段】本発明の方法は、糖尿病患者が(1)または(2)のいずれか少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有していることを指標とすることで実施できる:
(1)ACE(D/I):遺伝子型D/D+D/I、(2)MTHFR(C677T):遺伝子型T/T+C/T。また本発明の薬剤は、上記遺伝子型を有する糖尿病患者に対する薬剤であって、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とするものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、個々の糖尿病患者に対するピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する有効性を、当該糖尿病患者の遺伝子情報に基づいて検出し、または判定する方法、およびその方法の実施に使用する材料に関する。また、本発明は、固有の遺伝子多型を有する特定の糖尿病患者に対して用いられるピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制を効能効果として含む薬剤に関する。
本発明の方法は、動脈硬化が進展して心血管イベントを発症する可能性がある糖尿病患者を治療し改善するための有効且つ的確な治療指針を糖尿病患者並びに医療従事者に与えるものである。このため、個々の患者に適した治療薬を選択し投与することができる結果、当該患者に有効かつ的確な治療を行うことができるとともに、無効な治療による精神的、肉体的および経済的負担が回避できる点で有用なものである。
日本では糖尿病が急増し,高齢化,合併症,医療費増大など社会的問題として注目されている。またわが国は細小血管障害が多く、その一方で大血管障害が少ないとされているが、2004年のJDCSのデータでは、糖尿病患者1000人/年あたりの心血管イベント発症率は16.7%であることが示されている。それに伴って、糖尿病治療ターゲットは、いまや高血糖の是正だけでなく、動脈硬化とそれに続く心血管イベントの発症抑制が重要になりつつある。
頸動脈は粥状(アテローム性)動脈硬化の好発部位で、その内膜中膜複合体の厚さ(IMT:intima-media thickness of carotid artery)は頸動脈の動脈硬化の進行と比例して厚くなるとの報告から(非特許文献1) 、頸動脈のIMTの計測が動脈硬化の指標として注目されている。特に、頸動脈のIMTの年平均進展率が高い患者では冠動脈疾患や脳血管障害などの心血管イベントの発症率が高くなるという報告は多く(非特許文献2−4)、施設によっては、糖尿病患者の経過観察にIMT計測が定期的に実施されるとともに、生活習慣病予備軍の患者に対してもIMT計測が実施されている。
ところで、糖尿病の発症には食事を含む生活習慣等の非遺伝的因子のみならず、いくつかの遺伝的因子が関わっていることが報告されている。例えば、糖尿病と関連する遺伝子(糖尿病関連遺伝子)として、Adiponectin(G276T)(非特許文献5)、PGC-1(G1302A)(非特許文献6)、beta3-Adrenergic Receptor(Trp64Arg)(非特許文献7)、Resistin(C-420G)(非特許文献8)などが同定され、それらの遺伝子多型〔例えば、SNPs(single nucleotide polymorphisms:単一塩基多型)〕と糖尿病との関連が報告されている。また、特定の薬剤の作用機序に直接的に関与する遺伝子多型の違いによって、薬効発現と副作用に個人差があるということが報告されている(例えば非特許文献9−10)。しかしながら、これらで報告されている糖尿病関連遺伝子ならびにこれ以外の遺伝子の遺伝子多型が、糖尿病に伴って発症しえる心血管イベントに関係していること、ならびに各種の糖尿病治療薬について心血管イベントの発症抑制に対する有効性を評価する選別指標になることについては知られておらず、個々の糖尿病患者の遺伝子情報に基づいて、心血管イベントの発症抑制に有効な糖尿病治療薬を選択するという発想はまだない。
Pignoli P, et al: Intimal plus medial thickness of the arterial wall: a direct measurement with ultrasound imaging. Circulation. 1986 Dec;74(6):1399-406. Yamasaki Y, et al: Asymptomatic hyperglycaemia is associated with increased intimal plus medial thickness of the carotid artery. Diabetologia. 1995 May;38(5):585-91. Salonen JT, et al: Ultrasonographically assessed carotid morphology and the risk of coronary heart disease. Arterioscler Thromb. 1991 Sep-Oct;11(5):1245-9. Hodis HN, et al: The role of carotid arterial intima-media thickness in predicting clinical coronary events. Ann Intern Med. 1998 Feb 15;128(4):262-9. Hara K, et al: Genetic variation in the gene encoding adiponectin is associated with an increased risk of type 2 diabetes in the Japanese population. Diabetes. 2002 Feb;51(2):536-40. Hara K, et al: A genetic variation in the PGC-1 gene could confer insulin resistance and susceptibility to Type II diabetes. Diabetologia. 2002 May;45(5):740-3. Walston J, et al: Time of onset of non-insulin-dependent diabetes mellitus and genetic variation in the beta 3-adrenergic-receptor gene. N Engl J Med. 1995 Aug 10;333(6):343-7. Osawa H, et al: The G/G genotype of a resistin single-nucleotide polymorphism at -420 increases type 2 diabetes mellitus susceptibility by inducing promoter activity through specific binding of Sp1/3. Am J Hum Genet. 2004 Oct;75(4):678-86. Abe K, et al: Increase in the transcriptional activity of theendothelial nitric oxide synthase gene with fluvastatin: a relation with the -786T>C polymorphism. Pharmacogenet Genomics. 2005 May;15(5):329-36. Wolford JK, et al: Sequence variation in PPARG may underlie differential response to troglitazone. Diabetes. 2005 Nov;54(11):3319-25.
本発明は、チアゾリジン系薬物に属するピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する有効性に関わる遺伝子多型を提供し、この情報をもとにして当該ピオグリタゾンまたはその塩が有効に奏効する糖尿病患者を選別し決定する方法、言い換えれば、糖尿病患者を対象として上記のピオグリタゾンまたはその塩の投与有効性、特に動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する有効性を事前に検出しまた判定する方法を提供することを目的とする。
また本発明は、特定の遺伝子多型を有する糖尿病患者に対して適した薬剤、特に動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に用いるための薬剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を進めていたところ、糖尿病患者について薬剤応答性を規定している遺伝子多型、特にチアゾリジン系薬物に属するピオグリタゾンまたはその塩に対する応答性を規定する遺伝子多型を特定することに成功した。具体的には、本発明者らは、糖尿病患者のうち、(1) Angiotensin I Converting Enzyme(本発明では「ACE」という)遺伝子のイントロン16における287bpポリヌクレオチドが欠失(D:deletion)している患者(ACE D allele carrier, DD and DI genotype);および(2) Methylenetetrahydrofolate Reductase (本発明では「MTHFR」という)遺伝子の677位にT(チミン)をヘテロ接合体(CTまたはTC)またはホモ接合体(TT)として有する患者は、上記ピオグリタゾンまたはその塩による糖尿病改善効果のうち、特に動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制効果が有意に優れていることを見出した。
かかる知見から、個々の糖尿病患者について、上記(1)または(2)のいずれかの遺伝子の遺伝子型を調べることによって、事前にピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を判断することができ、当該患者の動脈硬化の進展を抑制し、動脈硬化の進展によって生じる心血管イベントの発症を抑制し得る有効な糖尿病治療剤として当該薬剤を選択決定することができること(言い換えれば、当該糖尿病患者が、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤によって、動脈硬化の進展が抑制されるかまたは心血管イベントの発症が抑制される投与有効者であるか否かを決定できること)、そして投与有効性が判断された患者(投与有効者)に対して選択的に当該薬剤を投与することによって、有効でしかも的確な糖尿病治療、特に動脈硬化の進展を抑制するか、心血管イベントの発症を抑制し得る糖尿病治療が可能になることを確信して、本発明を完成するにいたった。
すなわち、本発明は下記の態様を有するものである。
I.糖尿病患者についてピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法
I-1.糖尿病患者の遺伝子情報が、下記(1)または(2)の少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有することを指標とする、当該糖尿病患者に対するピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法:
遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
(1) ACE(D/I) : D/D+D/I
(2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
I-2.下記の工程を有する、I-1に記載する方法:
(a)糖尿病患者の生体試料を対象として、上記(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型を検出する工程、
(b)上記(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型が、上記I-1に記載する遺伝子型であるかを識別する工程。
I-3.さらに下記の工程(c)を有する、I-2に記載する方法:
(c)上記(b)の結果に基づいて、(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型が、上記I-1に記載する遺伝子型と一致する場合に、当該糖尿病患者の治療にはピオグリタゾンまたはその塩の投与が有効であると判定する工程。
II.ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤
II-1.(1)または(2)の少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有することが確認された糖尿病患者を対象として投与されることを特徴とする、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする、動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制を効能として含む薬剤:
遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
(1) ACE(D/I) : D/D+D/I
(2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
II-2.糖尿病患者に対する糖尿病治療剤または動脈硬化治療剤である、II-1に記載する薬剤。
本発明によれば、糖尿病患者について、(1)ACE(D/I)、または(2)MTHFR(C677T)のいずれか少なくとも1つの遺伝子の遺伝子型を調べることで、当該糖尿病患者のピオグリタゾンまたはその塩による動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する有効性を事前に検出することができる。そして、当該薬物が有効であると判断された患者に対しては、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤を投与することにより、個々の患者に応じた的確かつ有効な糖尿病治療、特に動脈硬化の進展を抑制し得、また動脈硬化の進展によって生じる心血管イベントの発症を抑制し得る糖尿病治療が可能となる。これは反面、その患者に適さない不必要(無効)な治療を行うことによって生じる治療の費用(医療費)の負担増を低減するとともに、無効な治療によって生じ得る副作用などによる肉体的・精神的苦痛を低減し、また治療の遅れによる糖尿病の進行や合併症(動脈硬化の進展を含む)による心血管イベントの発症を防止するという面においても有効である。
(1)用語の説明
本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
本明細書に記載する(1)ACE(D/I)遺伝子多型、および (2)MTHFR(C677T)遺伝子多型に関する遺伝子情報(塩基配列や染色体位置など)ならびに遺伝子多型に関する位置情報はおのおの下記に示す文献に基づく。
(1)Wong TY, et al. Am J Kidney Dis. 1999 Jun;33(6):1064-70.“Lack of association of angiotensin-converting enzyme (DD/II) and angiotensinogen M235T gene polymorphism with renal function among Chinese patients with type II diabetes.”
(2) Miyaki K, et al. J Hum Genet. 2005;50(5):241-8. “Assessment of tailor-made prevention of atherosclerosis with folic acid supplementation: randomized, double-blind, placebo-controlled trials in each MTHFR C677T genotype.”
本明細書において、(1)「ACE(D/I)」とは、Angiotensin I Converting Enzyme(ACE)遺伝子のイントロン16における287bpポリヌクレオチドが、欠失(D:deletion)しているか、または挿入(I:Insertion)されている遺伝子多型を有することを、また、(2)「MTHFR(C677T)」とは、methylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)遺伝子が、その塩基配列の677番目の塩基がCまたはTである遺伝子多型を有することを意味する。
「遺伝子多型」とは、同一集団内において、一つの遺伝子座に2種類以上の対立遺伝子(アレル)が存在する遺伝子の多様性を意味する。具体的には、ある集団において一定の頻度以上で存在する遺伝子の変異を示す。ここでいう遺伝子の変異は、RNAとして転写される領域に限定されるものではなく、プロモーター、エンハンサー等の制御領域などを含むヒトゲノム上で特定しうるすべてのDNAにおける変異を含むものである。ヒトゲノムDNAの99.9%は各個人間で共通しており、残る0.1%が多様性の原因となり、特定の疾患に対する感受性、薬物や環境因子に対する反応性の個人差として関与し得る。遺伝子多型があっても表現型に差が出るとは限らない。なお、一塩基多型も遺伝子多型の一種であるが、本発明が対象とする遺伝子多型はこれに限らない。
また、本明細書において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
また本発明でいう「心血管イベント」には、動脈硬化やその進展に起因して生じる冠動脈疾患、脳血管障害、および下肢閉塞性動脈硬化症などが含まれる。
(2)動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する薬剤の投与有効性の判定方法
本発明に係る動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性の検出方法は、糖尿病患者の遺伝子情報に応じて、その患者に対してピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法である。
当該方法は下記の方法によって実施することができる:
演算処理手段が、糖尿病患者の遺伝子情報が下記(1)または(2)の少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有するか否かを判断し、
下記の遺伝子型(genotype)を有すると判断した場合に、ピオグリタゾンまたはその塩が当該糖尿病患者の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に有効であることを表す情報を提示する、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性の判定方法:
遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
(1) ACE(D/I) : D/D+D/I
(2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
本発明の実施の形態に係る判定方法を図1に示したフローチャートに従って説明する。以下に説明する各処理は、演算処理手段(例えば、CPU)、メモリ、記録装置(例えばハードディスク)、入力装置(例えば、キーボード、マウス、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ)、表示装置(例えば、液晶ディスプレイ)、通信装置(例えば、ネットワークボード)などを備えたコンピュータを用いて行うこととして説明する。即ち、処理対象データは、入力装置、通信装置を介して入力されて記録装置に記録され、CPUが、メモリをワーク領域として使用して記録装置から読み出したデータに対して処理を実行する。処理の途中結果、最終結果は、必要に応じて記録部の所定領域に記録される。
まず、ステップS1において、糖尿病患者の遺伝子情報の入力を受け付けて、入力されたデータを記録装置に記録する。ここで、遺伝子情報は遺伝子型(genotype)の情報を含んでおり、例えば、遺伝子多型の名称を表すテキストデータと遺伝子型を表すテキストデータとの対である。また、遺伝子情報は、コードで入力されてもよい。例えば、遺伝子多型毎、遺伝子型毎に付与したコード(テキストデータ)で入力されてもよい。遺伝子情報は、キーボードを介して入力されても、記録媒体に記録された状態から読み出しドライブを介して入力されても、通信回線を介して入力されてもよい。さらに遺伝子情報は、表示装置に表示された複数の候補の中から選択されることで入力されてもよく、その他の公知の方法を用いて入力されてもよい。
ステップS2において、遺伝子多型情報のテーブルを記録部から読み出す。予め記録装置に記録されたテーブルの一例を、図2に示す。これは、後述するように、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の投与有効性を示す遺伝子多型情報のテーブルである。図2のテーブルでは、遺伝子多型がACE(angiotensin-converting enzyme)、遺伝子型(genotype)D/D+D/I、および遺伝子多型がMTHFR(Methylenetetrahydrofolate Reductase)、遺伝子型(genotype)T/T+C/Tが記載されている。この場合、遺伝子多型及び遺伝子型(genotype)が遺伝子多型情報に該当する。即ち、記録装置には、図2に示した各情報及びそれらの対応関係を表すデータが、例えばテキストデータとして記録されているとする。
ステップS3において、ステップS2で読み出したテーブル中の遺伝子多型情報が、ステップS1で入力された患者の遺伝子情報に含まれているか否かを判断し、その結果をメモリの所定領域に一時的に記録する。即ち、図2の第1行の“ACE”および“D/D+D/I”を読み出し、遺伝子多型が“ACE”であり遺伝子型が“D/D”または“D/I”である遺伝子多型情報が、患者の遺伝子情報に含まれている否かを判断する。含まれている場合、例えば、第1行の遺伝子多型情報に対応するフラグ(初期値を“0”としてメモリ上に設定されているとする)に“1”をセットする。含まれていない場合、同フラグに対しては何もせずに、第2行の“MTHFR(C677T)”および“T/T+C/T”を読み出し、同様にそれらが患者の遺伝子情報に含まれている否かを判断し、含まれていれば第2行の遺伝子多型情報に対応するフラグに“1”をセットする。このようにして、図2のテーブル中の遺伝子多型情報が患者の遺伝子情報に含まれているか否かを、例えばフラグに一時的に記録する。
ここで、テーブル中の全ての遺伝子多型情報について、患者の遺伝子情報に含まれているか否かを判断してもよいが、少なくとも1つの遺伝子多型情報が患者の遺伝子情報に含まれていれば、残りの遺伝子多型情報に関して処理することなく、ステップS4に移行してもよい。
ステップS4において、ステップS3での判断の結果に応じて、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤がその患者にとって有効であるか否かを提示(例えば表示装置に表示)する。例えば、上記したフラグの値の少なくとも1つが“1”であれば有効であることを提示し、全てのフラグの値が“0”であれば有効でないことを提示する。具体的には、種々の形態で提示され得る。直接的に有効、無効を文字や音声で提示することも可能であるが、間接的な提示、即ち有効、無効を意味する記号、図形、音響などを提示することも可能である。
以上の処理によって、特定の糖尿病患者が持つ遺伝子情報に応じて、その患者に対してピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤を投与する場合の有効性を決定することができる。従って、患者毎のオーダーメイド治療が可能となる。
また、本発明の実施の形態を、コンピュータが、図1に示したフローチャートに従って、図2に対応する電子データを用いて行なう処理として説明したが、これに限定されない。図2に示したテーブルと同等の遺伝子多型情報を含むテーブル(何れも電子データには限定されない)を用いさえすればよく、医師などが、糖尿病患者の遺伝子情報中に図2のテーブルに記載された遺伝子多型及び遺伝子型(genotype)が含まれているか否かを識別し、その患者に対してピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の有効性を決定することもできる。
(3)Genotypeに応じた投与有効性を有する薬剤
上記のように、図2に示したテーブルは、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の投与有効性の判断に利用する遺伝子多型情報を示すテーブルである。即ち、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤は、図2のテーブルに記載された遺伝子多型の少なくとも1つを有する糖尿病患者の治療剤として有効である。
より具体的に説明すれば、図2に示したテーブルは、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤が投与された糖尿病患者の集合を対象として、患者の頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(以下、IMTと記す)の最大値(以下、MaxIMTと記す)を統計処理して得られた。具体的には、塩酸ピオグリタゾンを有効成分とする薬剤15〜30mgを、1日1回、平均3〜4年間投与された糖尿病患者(成人)について、投与前後においてIMTを測定した。また、同期間、上記薬剤の投与を受けていない糖尿病患者(成人)についても、同様にIMTを測定した。IMTの測定には、超音波診断装置(SDU2200、株式会社島津製作所製)及びリニア型パルスエコープローブ(中心周波数7.5MHz)を使用し、前斜位、側面、後斜位の各縦断像で最大の内膜中膜肥厚度をMax−IMTとした。その結果、後記の実施例で述べるように、特定の遺伝子多型〔ACE(I/D)、MTHFR(C677T)〕において特定の遺伝子型(genotype)を有する患者が、それと異なる遺伝子型(genotype)を有する患者と比べて有意にMaxIMTを低下させていたことがわかり、このことから、図2のテーブルが得られた。
ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤は、図2に示す遺伝子多型の遺伝子型(genotype)を有する患者に対して、動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に有効である。
(4)糖尿病患者についてピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法
本発明は、糖尿病患者について、ピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法を提供する。
当該方法は、糖尿病患者の生体試料を対象として、下記の(1)または(2)のいずれか少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型を検出することによって実施することができる。
遺伝子(遺伝子多型)遺伝子型(genotype)
(1) ACE(D/I) : D/D+D/I
(2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
上記(1)〜(2)に示す遺伝子多型のうち、(2)MTHFR遺伝子を対象とする場合、本発明の方法は、糖尿病患者のMTHFR遺伝子の677位〔MTHFR(C677T)〕の遺伝子型を検出して、CCのホモ接合体、CTまたはTCのヘテロ接合体、またはTTのホモ接合体の別を同定する方法であり、上記の記載に基づいて、CT若しくはTCのヘテロ接合体またはTTのホモ接合体である場合に、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制した糖尿病治療または心血管イベント発症を抑制した糖尿病治療にはピオグリタゾンまたはその塩の投与が有効であると判定することができる。逆に、MTHFR(C677T)がCTまたはTCのヘテロ接合体でもTTのホモ接合体でもない場合〔すなわち、CCのホモ接合体である場合〕は、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制した糖尿病治療または心血管イベント発症を抑制した糖尿病治療にピオグリタゾンまたはその塩の投与は有効でないと判定することができる。
また(1) ACE遺伝子を対象とする場合、本発明の方法は、糖尿病患者のACE遺伝子のイントロン16の287bpのポリヌクレオチドの欠失/挿入(D/I)の有無を検出して、D/Dのホモ接合体、D/I若しくはI/Dのヘテロ接合体、またはI/Iのホモ接合体の別を同定する方法であり、上記の記載に基づいて、D/Dのホモ接合体またはD/I若しくはI/Dのヘテロ接合体である場合に、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制した糖尿病治療または心血管イベント発症を抑制した糖尿病治療にはピオグリタゾンまたはその塩の投与が有効であると判定することができる。逆に、ACE(D/I)がD/Dのホモ接合体でも、またD/I若しくはI/Dのヘテロ接合体でもない場合〔すなわち、I/Iのホモ接合体である場合〕は、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制した糖尿病治療または心血管イベント発症を抑制した糖尿病治療にピオグリタゾンまたはその塩の投与は有効でないと判定することができる。
本発明の方法は、より具体的には、以下の工程(a)及び(b)を行うことによって実施することができる:
(a)糖尿病患者の生体試料を対象として、(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型を検出する工程、
(b)上記(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型が、上記に記載する遺伝子型であるかを識別する工程。
なお、(a)の工程は、具体的には糖尿病患者の生体試料から抽出したゲノムDNAを対象として行うことができる。
これらの工程によって、上記(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型が、上記に記載する遺伝子型に一致した場合、当該ゲノムDNA試料を提供した糖尿病患者の糖尿病治療、特に動脈硬化の進展抑制または心血管イベント発症を抑制した糖尿病治療には、ピオグリタゾンまたはその塩の投与が特に有効であると判断することができる。
かかる判断工程は本発明の方法の必須工程ではないが、かかる判断工程を、下記工程(c)として任意に有することもできる:
(c)上記(b)の結果に基づいて、(1)または(2)に記載する少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型における遺伝子型が、上記に記載する遺伝子型と一致する場合に、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制するための、または心血管イベント発症を抑制するための糖尿病治療にはピオグリタゾンまたはその塩の投与が有効であると判断し、逆に上記に記載する遺伝子型と一致しない場合に、当該糖尿病患者の治療、特に動脈硬化の進展を抑制するための、または心血管イベント発症を抑制するための糖尿病治療にはピオグリタゾンまたはその塩の投与は有効でないと判断する工程。
すなわち、本発明の方法によれば、糖尿病患者に対するピオグリタゾンまたはその塩の投与有効性の有無を決定することができる。より正確には糖尿病患者に対する動脈硬化の進展を抑制するか、または心血管イベント発症を抑制する糖尿病治療にピオグリタゾンまたはその塩の投与が有効であるか否かを決定することができる。これらの決定は、糖尿病患者の上記(1)または(2)遺伝子の遺伝子多型が上記に示す遺伝子型であるか否かを判断基準(判断指標)とすることにより、投与前に専門医でも極めて困難な判断を自動的/機械的に行なうことができる。
なお、上記工程(a)と工程(b)は、公知の方法〔例えば、Bruce, et al., Genome Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999)など参照〕を用いて行うことができるが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
工程(a)で対象とする生体試料としては、前述するように具体的にはゲノムDNAを挙げることができる。かかるゲノムDNAは、糖尿病患者から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(培養組織を含む)、または体液(例えば、血液、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などの生体試料を材料として調製することができる。好ましくは血液または尿である。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al., “MolecularCloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行なうことができる。
工程(b)において、上記のようにして得られたヒトゲノムDNAを含む抽出物から、 (1)または(2)のいずれか少なくとも1つの遺伝子の遺伝子多型部位に位置する塩基を識別する。目的の塩基を識別する方法としては、該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を、温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などがある。
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR-SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、(c)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、(d)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、(e)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、(g)RNase A切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、(h)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、(i)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、(j)TaqMan-PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、(k)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J.Biol.Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、(l)MALDI-TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、(m)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、(n)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, p49-53 (1998);遺伝子医学、4, p46-48 (2000)〕、(o)ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat.Biotechnol.,1.p.87-88 (1999);遺伝子医学,4, 47-48 (2000)〕、(p)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3,p225-232 (1998) ;遺伝子医学,4, p50-51 (2000)〕、(q)UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(http://www.takara.co.jp)参照〕、(r)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、(s)ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明の方法には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
なお、(1)または(2)の遺伝子多型の違いに基づいてコードするアミノ酸に変異が生じる場合は、本発明の方法は、当該遺伝子の遺伝子型を直接検出し識別する方法に限らず、当該遺伝子の発現産物であるタンパク質のアミノ酸配列を検出し、アミノ酸の変異の有無を識別する方法を採用することもできる。
(5)ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤
本発明が提供する薬剤は、下記の(1)または(2)のいずれか少なくとも1つの遺伝子(遺伝子多型)が下記の遺伝子型(genotype)である糖尿病患者に対して有効に奏効する、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤である。当該薬剤は、糖尿病患者に対して動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に特に有効に奏効する。かかる薬剤は、下記の(1)または(2)のいずれか少なくとも1つの遺伝子が下記の遺伝子型(genotype)を有していることが確認された糖尿病患者に対して投与されることを特徴とする。
遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
(1) ACE(D/I) : D/D+D/I
(2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
本発明の薬剤が治療対象とする糖尿病患者は、上記(1)または(2)のうち少なくとも1つの遺伝子について上記の遺伝子型を有する者であればよいが、これら2つの遺伝子について上記の遺伝子型を有する者であってもよい。
本発明の薬剤が有効成分とするピオグリタゾンまたはその塩は、脂肪細胞の核内の転写調節因子であるPPARγのアゴニストで脂肪細胞の分化を促進する。ピオグリタゾンまたはその塩が作用すると脂肪細胞の分化が促進され、TNF−αの産生が抑制されてインスリン抵抗性がもたらされると考えられている。本発明の薬剤は、かかる作用機序に基づいてインスリン抵抗性を誘導するピオグリタゾンまたはその塩を有効成分として含むものであれば、特に制限されない。
なお、本発明でいうピオグリタゾンには、当該化合物の水和物も含まれる。また本発明においてピオグリタゾンの塩には、薬学的に許容される塩が含まれる。ここで塩としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、硫酸水素、臭化水素酸、ホウ酸またはリン酸塩などの無機酸との塩;酢酸、酒石酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、サリチル酸、安息香酸、シュウ酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、グルコヘプトン酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、またはアスコルビン酸等の有機酸との塩を挙げることができる。また、塩にはナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩;アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどの非毒性アンモニウム、第4級アンモニウムおよびアミンカチオンも含まれる。好ましくは上記無機酸または有機酸との塩であり、より好ましくは塩酸などの無機酸との塩である。
ピオグリタゾンの塩として好適な塩酸ピオグリタゾンを有効成分とする糖尿病治療薬は、商品名「アクトス」(武田薬品)等として商業的に入手することができる。
本発明の薬剤は、上記市販薬に限られず、ピオグリタゾンまたはその塩を糖尿病の治療効果を発揮する有効量含有するものであればよく、その限りにおいて他の成分、例えば薬学的に許容される担体や添加剤を含有していてもよい。本発明の薬剤は、通常経口的に投与することができ、それらの投与に適した形態〔例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤など〕をとることができる。
当該薬剤に配合できる薬学的に許容される担体としては、上記各種の投与形態に応じて、当業界で通常使用されるものを広く挙げることができる。例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、緩衝剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を挙げることができる。また、本発明の薬剤には、必要に応じて安定剤、殺菌剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味料等を配合することもできる。
なお、本発明の薬剤は、公知の方法に従ってピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする徐放性製剤または持続性製剤の形態として調製することもできる。
本発明の薬剤中に含有されるべきピオグリタゾンまたはその塩の量としては、特に限定されず広範囲から適宜選択されるが、通常約1〜70重量%とするのがよい。
本発明の薬剤の投与量および投与形態は特に制限はなく、例えば有効成分として配合するピオグリタゾンまたはその塩の種類、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度に応じた方法で投与される。例えば、塩酸ピオグリタゾンの場合、1日1回15〜45mg程度、好ましくは15〜30mg程度を朝食前または後に投与することが推奨される。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
実施例1
糖尿病患者(日本人)206例(平均年齢約60歳)を対象として、BMI(body mass index)、ヘモグロビンA1C値(HbA1C)、総コレステロール値(TCH)、HDLコレステロール値(HDL)、トリグリセライド(TG)、LDLコレステロール値(LDL)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、および頚動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT:Intima Media Thickness)を測定した。なお、これらの患者のうち57例は1日1回15〜30mgの塩酸ピオグリタゾンを平均3〜4年間投与され(薬物療法群)、また、149例は同期間、上記薬剤を投与されなかった(非薬物療法群)。両群とも投与前後においてIMTを測定した。
(1)頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の測定
リニア型パルスエコープローブ(中心周波数7.5MHz)を備えた超音波診断装置(SDU2200、株式会社島津製作所製、解析限界0.1mm)を使用し、頸部の頭蓋外総頸動脈、総頸動脈球、および内頸動脈のBモードイメージングを、前斜位、側面、および後斜位の3方向での縦軸投影および横軸投影を、左右相称に行った。
頸動脈のIMTは、第1エコーラインの先端から第2エコーラインの先端までの距離として求めた。IMTの測定は、最も厚みのある箇所(maxIMT)、および当該箇所から1cm下流部と1cm上流部の合計3箇所で行った。個々の患者について、左右のmaxIMTのうちいずれか大きい方を用いた。なお、IMTの測定には、コンピュータソフトウエア(特開2005-28123号公報、「エコーを用いた血管径測定方法およびその装置」)を利用した。
(2)他の臨床パラメーターの測定
BMI(body mass index)、ヘモグロビンA1C値(HbA1C)、総コレステロール値(TCH)、HDLコレステロール値(HDL)、トリグリセライド(TG)、LDLコレステロール値(LDL)、収縮期血圧(SBP)、および拡張期血圧(DBP)はいずれも定法に従って測定した。
(3)遺伝子多型の選択、および各患者の遺伝子型の測定
PubMedを用いて、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、または糖尿病性細小血管症に関係する106種類の候補遺伝子遺伝子多型を選択した。これらの106種類の遺伝子多型の中から、患者の母集団においてマイナーアレルの頻度が10%以上を示す40種類の遺伝子多型を選択した。
各患者の静脈血を採取し、DNA単離キット(Qiagen)を用いてDNAを単離した。次いで、蛍光または呈色性のアレル特異的なDNAプライマープローブアッセイシステム(Toyobo Gene Analysis)を用いて、山田等の方法(特開2002-209585号公報、「遺伝子多型の検定方法及びそのキット」)に従って、各患者の遺伝子多型の遺伝子型を測定した。
(4)結果
非薬物療法群と薬物療法群のおのおのについて、患者情報(平均年齢、性別)および当該患者について測定した臨床パラメーター(BMI、HbA1C、TCH、HDL、TG、LDL、SBP、DBP)を表1に示す。
Figure 2009186425
いずれの臨床パラメーターも、非薬物療法群と薬物療法群とで有意差は認められなかった(p<0.05)。
(5)40種類の遺伝子多型のうち、アンジオテンシノーゲン変換酵素(ACE)の遺伝子多型(D/D、D/I、I/D)について、maxIMTの値から、動脈硬化の進展抑制に対する影響を非薬物療法群と薬物療法群(ピオグリタゾンの投与の有無)とで比較した結果を表2に示す。
Figure 2009186425
表2に示すように、ACEの遺伝子型 D/D、または遺伝子型 D/I(またはI/D)を有する糖尿病患者のうち薬物療法群は、非薬物療法群に比して、有意にmaxIMTの低下が認められた。このことから、ピオグリタゾンの投与は、糖尿病患者のうちACE D アレル保有者(D/D,D/I)に対して、動脈硬化の進展を抑制したり、冠動脈疾患、脳血管障害、および下肢閉塞性動脈硬化症などの心血管イベントの発症を抑制するうえで有効な治療方法であると考えられる。
(6)また40種類の遺伝子多型のうち、Methylenetetrahydrofolate Reductase (MTHFR)の遺伝子多型(677位のヘテロ接合体(C/TまたはT/C)またはホモ接合体(T/T))について、maxIMTの値から、動脈硬化の進展抑制に対する影響を非薬物療法群と薬物療法群(ピオグリタゾンの投与の有無)とで比較した結果を表3に示す。
Figure 2009186425
表3に示すように、MTHFRの遺伝子型 T/T、または遺伝子型 C/T(またはT/C)を有する糖尿病患者のうち薬物療法群は、非薬物療法群に比して、有意にmaxIMTの低下が認められた。このことから、ピオグリタゾンの投与は、糖尿病患者のうちMTHFR T アレル保有者(T/T,C/T,T/C)に対して、動脈硬化の進展を抑制したり、冠動脈疾患、脳血管障害、および下肢閉塞性動脈硬化症などの心血管イベントの発症を抑制するうえで有効な治療方法であると考えられる。
本発明の実施の形態に係るピオグリタゾンまたはその塩の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する有効性の決定方法を示すフローチャートである。 ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の投与有効性の判断に利用する遺伝子多型情報を示すテーブルである。

Claims (2)

  1. 糖尿病患者の遺伝子情報が、下記(1)または(2)の少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有することを指標とする、当該糖尿病患者に対するピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする薬剤の動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制に対する投与有効性を検出する方法:
    遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
    (1) ACE(D/I) : D/D+D/I
    (2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
  2. (1)または(2)の少なくとも1つの遺伝子について下記の遺伝子型(genotype)を有することが確認された糖尿病患者を対象として投与されることを特徴とする、ピオグリタゾンまたはその塩を有効成分とする、動脈硬化の進展抑制または心血管イベントの発症抑制を効能効果として含む薬剤:
    遺伝子(遺伝子多型) 遺伝子型(genotype)
    (1) ACE(D/I) : D/D+D/I
    (2) MTHFR(C677T) : T/T+C/T
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2015080464A (ja) * 2013-10-24 2015-04-27 株式会社サインポスト 糖尿病治療薬の投与量を判定する方法、判定装置、プログラムおよび記録媒体
JP2016067323A (ja) * 2014-10-01 2016-05-09 株式会社サインポスト 糖尿病治療薬の有効性を判定する方法、判定装置、プログラムおよび記録媒体

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