JP2009185394A - セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維およびそれからなる布帛 - Google Patents

セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維およびそれからなる布帛 Download PDF

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Abstract

【課題】 良好な吸放湿特性および高い熱軟化特性を有し、かつ高温染色を行っても優れた強伸度特性を有しているセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維およびそれを用いた布帛を提供すること。
【解決手段】 アセチル基の平均置換度が0.1〜1.0であるセルロース脂肪酸混合エステルが芯部に配され、アセチル基の平均置換度が1.5〜2.5でありかつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であるセルロース脂肪酸混合エステルが鞘部に配されてなる芯鞘型複合繊維であって、鞘部を形成するセルロース脂肪酸混合エステルの被膜厚さが0.3〜10.0μmであることを特徴とするセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維。
【選択図】なし

Description

本発明は、アセチル基の平均置換度が異なる2種のセルロース脂肪酸混合エステルからなる芯鞘型複合繊維に関するものであり、良好な吸放湿特性および高い熱軟化特性を有し、かつ高温染色処理を行っても良好な強伸度特性を有しているセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維およびそれを用いた布帛に関するものである。
セルロースアセテート等のセルロースエステル繊維は、ポリエステルやポリアミドなどの合成繊維にはない優れた特徴を有する繊維である。すなわち優雅な光沢、深みのある色調、発色性、ドライ感、吸放湿性など衣料用繊維として多くの特性を有することから高級衣料用途として位置づけられてきた。
近年、衣料分野においては消費者ニーズの多様化、高級化の志向から、セルロースエステル繊維とポリエステル等の他合繊の特徴を利用し、両者を優性複合した高付加価値繊維の検討がなされている。
しかしながらセルロースエステルの一種であるセルロース脂肪酸混合エステル繊維は、ポリエステルの染色処理条件である100℃以上の高温染色処理を行うと、繊維強度が大きく低下し、また発色性の低下や風合いの変化が起こってしまう問題があった。そのためポリエステル繊維等と混用して衣料用複合素材とすることが困難であり、セルロース脂肪酸混合エステル繊維は、その単独使用にほとんど限られてしまい、利用展開には制限を受けていた。
特許文献1〜2では、セルロース脂肪酸混合エステルと可塑剤からなる組成物を溶融紡糸して得られる繊維が提案されている。該文献におけるセルロース脂肪酸混合エステル繊維は単独成分であり、良好な強伸度特性や吸放湿特性を有し、かつ実用上問題のない熱軟化特性を有する繊維である。しかしながら、ポリエステル等の高温染色処理を施すと、セルロース脂肪酸混合エステル繊維の機械的特性は大きく低下してしまい、もはや実用上に耐えうるものではなかった。
また特許文献3では、ポリエステル繊維の優れた力学強度とセルロースエステル繊維の優れた吸湿性を有する繊維を得ることを目的として、セルロースエステルとポリエステルからなるポリマーブレンド繊維が提案されている。該繊維ではポリエステルが海状であるため良好な熱軟化特性を有しており、また優れた力学強度を有しているが、セルロースエステル繊維の特徴である吸放湿特性(ΔMR)はたかだか0.9%であり、良好な吸放湿特性を有しているものではなかった。
このように良好な吸放湿特性および熱軟化特性を有し、しかもポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの高温染色条件を適用しても繊維の機械的特性の低下を抑制できるセルロース脂肪酸混合エステル繊維はこれまで得られていなかった。
特開2004−211278号公報(第2頁) 特開2005−273129号公報(第1、2、4頁) 特開平10−130957号公報(第1、2、5頁)
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、良好な吸放湿特性等のセルロース脂肪酸混合エステルの特徴を有し、また湿潤下における強度低下が少なく、高温染色処理を行っても優れた強伸度特性を維持し、かつ実用的にも耐えうる熱軟化特性を有するセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を提供することにある。
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アセチル基の平均置換度が異なる2種のセルロース脂肪酸混合エステルを用い、芯部に特定のアセチル基平均置換度を有するセルロース脂肪酸混合エステルを配し、鞘部を形成する特定温度以上のガラス転移温度を有するセルロース脂肪酸混合エステルを特定の被膜厚さとすることで、良好な吸放湿特性や熱軟化特性を有し、かつ高温染色処理を行っても良好な強伸度特性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
本発明の第1の発明は、アセチル基の平均置換度が0.1〜1.0であるセルロース脂肪酸混合エステルが芯部に配され、アセチル基の平均置換度が1.5〜2.5でありかつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であるセルロース脂肪酸混合エステルが鞘部に配されてなる芯鞘型複合繊維であって、鞘部を形成するセルロース脂肪酸混合エステルの被膜厚さが0.3〜10.0μmであることを特徴とするセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維である。
第2の発明は、芯部に配されるセルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであり、鞘部に配されるセルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする上記第1の発明に記載のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維である。
第3の発明は、上記第1または2の発明に記載のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いることを特徴とする布帛である。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維は、良好な吸放湿特性を有し、実用上に耐えうる熱軟化温度を有している。さらには湿潤時における強度低下も小さく、また100℃以上の高温染色を行った場合にも、機械的特性の低下が小さく、高温染色処理後も実用上に耐えうる良好な機械的特性を有するものである。
以下、本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維について詳細に説明する。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の芯部は、アセチル基の平均置換度が0.1〜1.0であるセルロース脂肪酸混合エステルであり、鞘部はアセチル基の平均置換度が1.5〜2.5でありかつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であるセルロース脂肪酸混合エステルである。ここでいう平均置換度とはセルロースのグルコース単位あたりに存在する3つの水酸基のうちアセチル基等のアシル基が化学的に結合した数であり、芯部は繊維軸方向に連続相を形成しているものである。
芯部に配されたセルロース脂肪酸混合エステルのアセチル基の平均置換度は0.1〜1.0であることが重要である。アセチル基の平均置換度を0.1〜1.0とすることで、セルロース脂肪酸混合エステルの疎水性が高くなるため、100℃以上の高温染色処理を行ってもセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の機械的特性の低下を抑制でき、実用上に耐えうる性能を保持することが可能となる。また芯部に配されたセルロース脂肪酸混合エステルのアセチル基とアシル基の平均置換度の和は下記式を満たすことが好ましい。
2.0≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦2.8
上記式を満たすセルロース脂肪酸混合エステルは、疎水性を一層高めることができ、高温染色処理を行ったときの機械的特性の低下抑制をより効果的にし、また可塑剤との相溶性が良好となり、可塑剤を少量添加することで良好な熱流動特性となるため、溶融紡糸による繊維化が可能となる。
一方、鞘部に配されたセルロース脂肪酸混合エステルは、アセチル基の平均置換度が1.5〜2.5であり、かつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であることが重要である。
アセチル基の平均置換度を1.5〜2.5とすることで、熱軟化温度を向上させることができ、アイロン等で加圧しても繊維の変形が生じることなく、製品品位の低下が発生しない。また吸放湿特性や湿潤時のおける強伸度特性の低下を抑制することが可能であり、さらには可塑剤の添加により熱流動特性を大きく向上できるため、生産効率の高い溶融紡糸の適用が可能となる。
鞘部に配されたセルロース脂肪酸混合エステルのTgは150℃以上であることが重要である。セルロース脂肪酸混合エステルは非晶性ポリマーであるため、Tg以上で加圧した場合、熱変形を起こしてしまう。すなわちTg以上の温度で、例えばアイロンでプレスした場合、繊維が軟化扁平化してしまい、「あたり」と呼ばれる光沢斑が発生したり、また部分溶融により穴があいたり、色調変化が発生したり、粗硬感の強い布帛となってしまい、もはや実用性のないものとなってしまう。Tgは160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることが更に好ましい。なおTgが高ければ、熱軟化温度が高くなるため非常に好ましいが、溶融紡糸性を考慮すると200℃以下であることが好ましい。なお熱軟化特性の評価については、実施例にて詳細に説明する。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の鞘部の被膜厚さは0.3μm以上であることが重要である。被膜厚さを0.3μm以上とすることで、セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維に高い熱軟化温度特性を付与することができ、吸放湿特性も維持することができる。
被膜厚さと熱軟化温度には明確な相関関係がみられ、被膜が厚くなるほど熱軟化温度が向上する。そのため、被膜厚さは0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上が更に好ましい。一方、被膜厚さの上限は10μmである。10μmより大きい場合、熱軟化温度を高く維持でき、また吸湿性能の低下も抑制できるが、高温染色処理を行うと鞘側の脆化が大きくなる。そのためセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の機械的特性の低下が大きくなり、実用上に耐えうる機械的特性を達成できなくなってしまう。
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものである。製糸操業性、コスト面、汎用性、湿潤時における繊維強度低下を抑制できる観点等から、セルロース脂肪酸混合エステルとしては、アセチル基とプロピオニル基を有するセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基を有するセルロースアセテートブチレートが好ましい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステルは可塑剤を含有していても良い。製糸操業性並びに得られる繊維の機械的特性の観点から、可塑剤の含有量は、セルロース脂肪酸混合エステル/可塑剤組成物に対して3〜25重量%であることが好ましく、5〜22重量%がより好ましい。
可塑剤としては、多価アルコール系化合物が好ましい。具体的にはセルロース脂肪酸混合エステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などがあげられ、なかでも繊維を液体処理することで可塑剤の溶出が可能なポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物が好ましい。ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるが、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステルにはリン系酸化防止剤を含有していることが好ましく、特にペンタエリスリトール系化合物が好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲および低吐出領域においてもセルロース脂肪酸混合エステルの熱分解防止効果が非常に顕著であり、繊維の機械的特性の悪化が抑制され、得られる繊維の色調が良好になる。リン系酸化防止剤の配合量は、セルロース脂肪酸混合エステル組成物に対して0.01重量%〜0.500重量%であることが好ましい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステルには、その物性を損なわない範囲で艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色防止剤、着色顔料、染料、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤等として、無機微粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステルの製造方法に関しては、2種の脂肪酸無水物の混酸でセルロースをエステル化してセルローストリエステルを作り、加水分解によって所定のエステル置換度にする方法など従来公知の方法にて行えばよい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維(紡出糸)の強度は0.5cN/dtex以上であることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好となり、また最終製品の強力も不足することがないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は高ければ高いほど好ましいが、0.6cN/dtex以上であることがより好ましく、0.7cN/dtex以上であることが更に好ましい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維(紡出糸)の伸度は10%以上であることが好ましい。伸度が10%以上である場合には、紡糸工程で毛羽が発生せず、また製織や製編時など高次加工工程において毛羽や糸切れが多発することがなく高次加工の工程通過性が良好となる。伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維(紡出糸)の繊度変動値(U%)は1.5%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値(U%)が1.5%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを指し、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生せず、また染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な織編物となる。また布帛にした際の繊維の収縮斑を抑制し、美しい布帛表面を得ることができる。繊度変動値(U%)は小さい程よく、より好ましくは1.3%以下、更に好ましくは1.1%以下である。なお繊度変動値(U%)の測定条件に関しては、実施例にて詳細に説明する。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維(紡出糸)の交絡度は5〜50であることが好ましい。交絡度を5以上とすることで、繊維の収束性が良好であるため、後工程における繊維の解舒不良や製織時に糸条が割れて単繊維に分かれることによる、単糸切れを誘発することがなくなり、得られる織物や編物も毛羽やフィブリルの発生がないため高品位のものとなる。また交絡度を50以下とすることで、芯鞘型複合繊維の良好な光沢感が失われない。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の繊維断面形状は、0.3μm以上の被膜厚さを有していれば、丸断面、多角断面、多葉断面、扁平断面、その他公知の断面形状のいずれでも良く、芯鞘構造も単芯の他に2芯以上の多芯構造であっても良い。また繊維の形態については、長繊維、短繊維など、長繊維の場合はモノフィラメントでもマルチフィラメントでも良い。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維は特定のポリマー要件、被膜厚さを満たすことで、例えば高温染色処理などの熱水処理を施しても、セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の強伸度特性の低下を抑制することができ、そのためポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維との混用が可能である。従来のセルロース脂肪酸混合エステル繊維は、例えば特開2004−169242号公報で見られるように、強伸度特性の低下を抑制するため、通常100℃以下で染色されている。そのためポリエステル繊維等の高温下で染色処理の実施は困難であり、高温染色処理を行うと、もはや実用上に耐えるものではなかった。
高温染色処理等の熱水処理後のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の強度は0.5cN/dtex以上、また伸度は5%以上であることが好ましい。強度および伸度が前記特性値を満たすことで、実用上に耐えうるものとなり、製品品位の悪化が起こらない。なおここでいう熱水処理とは、ポリエステル繊維の染色温度を想定した120℃で60分間の処理である。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の乾湿強度比は70%以上であることが好ましい。乾湿強度比が70%以上であれば、水存在下での強度低下に起因して染色工程で被る擦れにより著しくフィブリル化することや、洗濯時に被る擦れによってフィブリル化を避けることができる。乾湿強度比は75%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。なお乾湿強度比とは、下記式で算出した値をいい、この値が高いほど、湿潤時の強度低下が小さいことを意味する。
乾湿強度比={(湿潤状態での強度)/(乾燥状態での強度)}×100
なお乾燥状態での強度とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下において測定した値である。また湿潤状態での強度とは、繊維試料を別に設けた容器に入れ、水(20±2℃)中に10分間浸漬して十分に膨潤させた後、温度20℃、湿度65%RHの環境下において測定した値である。
次に本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の製造方法について説明する。本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の製造方法は、公知の溶融複合紡糸により、公知の芯鞘型複合口金を用いるものである。一例を示せば、芯部および鞘部に配される特定のセルロース脂肪酸混合エステル組成物をそれぞれ別々にエクストルーダーにて溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金で芯鞘型構造とした後、吐出して糸条を得る。紡出された糸条は冷却装置によって一旦冷却・固化された後、給油装置で油剤を付与され、第1ゴデットロールに引き取られ、第2ゴデットロールを介して、巻取機で巻き取られ、巻取糸(セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維)を得ることができる。なお製糸性、機械的特性を向上させるために必要に応じて紡糸口金下に2〜20cmの加熱筒や保温筒を設置しても良い。
また工程通過性を向上させるために、第1ゴデットロールの上方、第1ゴデットロールと第2ゴデットロールの間、第2ゴデットロールと巻取機の間で交絡装置を用い交絡を付与しても良い。さらには一旦巻き取った糸を延伸する2工程法によって製造しても良いし、第1ゴデットロールで引き取った後、そのまま延伸する直接紡糸延伸法によって製造しても良い。
紡糸して得られた繊維からは、セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維としての特徴をさらに高めるために、また熱軟化特性を向上させるために可塑剤を抽出することが好ましい。可塑剤はその全てを抽出しても良いが、一部でも抽出すればセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維の特徴を高めることができる。
可塑剤の抽出は製糸工程と連続して行っても良く、また一旦巻き取った後、パッケージの形態で抽出しても良く、さらに布帛や不織布とした繊維構造物状態で抽出しても良い。抽出方法としては可塑剤の溶剤を繊維に接触させることが工業的な簡便性の点から好ましい。溶剤は水を主成分とすることが環境負荷を低減させる観点から好ましい。抽出する温度および時間は可塑剤の種類や添加量によって変化するが、処理コストの観点から処理温度は20〜90℃、処理時間は1秒〜120分程度が好ましい。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を用いた布帛は、上記芯鞘型複合繊維を常法によって製織、あるいは製編することにより得られるが、布帛を形成する際には芯鞘型複合繊維を主要な構成成分として形成する必要がある。すなわち芯鞘型複合繊維のみを用いて布帛とするか、あるいは布帛が複数種の繊維より構成される場合は、布帛を構成する複数の繊維の中でも芯鞘型複合繊維の混率を1番目もしくは2番目に高くする必要がある。
複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合した織編物や、芯鞘型複合繊維を経糸または緯糸のみに用いた織物、さらには綿、絹、麻、羊毛等の天然繊維、レーヨンやセルロースアセテート等の再生繊維・化学繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン等の合成繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
編物の組織としては、平編、ゴム編、パール編、両面編等のよこ編やトリコット等のたて編が挙げられる。編物の場合には、製編、熱セットを施した後に、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また織物の組織としては、平織、斜文織、朱子織等が挙げられる。織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。またこれらの前工程として仮撚や流体噴射加工などを行い、繊維に嵩高性を持たせることも可能である。
染色方法は、チーズ染色、液流染色およびドラム染色などの手法を採用することができる。染料はアセテート用およびポリエステル用分散染料を好適に用いることができる。染色温度も80〜140℃の温度であれば、発色性と機械的特性に優れた繊維または布帛を得ることができる。染色加工に用いる装置としては、繊維の状態で染色するチーズ染色機、布帛の状態で染色する液流式染色機、ウインス、ジッカー、ビーム染色機、ガーメント染色を行うドラム染色機といった通常使用されている公知の染色機を用いても良い。
本発明のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いた布帛は適度な吸放湿特性を有している。吸湿特性を示す吸放湿パラメーター(ΔMR)は1.5%以上であることが好ましい。ここでΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るための指標であり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃・90%RHに代表される衣服内温度と20℃・65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率の差である。△MRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く、着用時の快適性が良好であることに対応し、ΔMRは1.8%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることが更に好ましい。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.セルロース脂肪酸混合エステルの平均置換度
80℃で8時間の乾燥したセルロース脂肪酸混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.ガラス転移点(Tg)
TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCを用いて測定した。
C.繊度
紡出糸の繊度は、温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC社製の検尺機を用いて測定した。測定回数は5回であり、その平均値を繊度(dtex)とした。また精練後および高温熱水処理後の繊度は、織物から繊維を抜き出し、1mの重量を測定した後、繊度を算出した。
D.強度および伸度
温度20℃、湿度65%の環境下(乾燥状態)において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を初期繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数は5回とし、その平均値を引張強度、伸度とした。
湿潤時の強伸度は、繊維試料を別に設けた容器に入れ、水(20±2℃)中に10分間浸漬して十分に膨潤させた後、上記条件にて測定を行った。また乾湿強度比は下式を用いて算出した。
乾湿強度比=湿潤強度/乾燥強度比(%)={(湿潤強度)/(乾燥強度)}×100
E.繊度変動値(U%)
U%測定(ハーフモード)は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。なお測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/m
F.交絡度(CF値)
ロッシールド社(Rothschild社、スイス)製のエンタングルメントテスター(Entanglement Tester Type R2072)を用い、以下のように行った。糸条に針を刺したままで初張力10gを掛けて一定速度5m/minで走行させ、交絡点で張力が規定値(トリップレベル)の15.5gまで達する長さ(開繊長)を30回測定し、30回分を平均した長さ(平均開繊長:mm)に基づいて、下記式を用い糸条1m当たりの交絡度(CF値)を求めた。
交絡度(CF値)=1000/平均開繊長
G.被膜厚さ測定
セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を用いて平織物を作成した。この織物を精練処理(50℃×30分)した後、風乾させた。その後、織物から緯糸を抜き出し、包埋材で固定して切片を切り出し、脱包埋後、光学顕微鏡で拡大して写真撮影し、同一倍率で撮影したスケールを用いて鞘部の厚みを計測した。なお鞘部の厚さが均一な場合は等間隔に測定した3ヶ所の値の平均を、不均一な場合は最も薄い部分をその試料の被膜の厚さとした。
H.熱軟化特性の評価
セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を用いて平織物を作成した。この織物を精練処理(50℃×30分)した後、風乾させ、以下の方法で評価した。
市販の家庭用アイロン(東芝社製スチームアイロンTA−727S)を用い、アイロン表面温度を150℃、170℃に安定化させた後、布帛にアイロン自重で10秒間プレスし、プレス後の外観変化により下記基準で評価した。なお表面温度150℃以上の条件で○のみを合格とした。
○:布帛表面形態に変化がない。
△:若干のあたりがある。
×:「明確なあたりがある」、「繊維間で部分的に融着が発生している」
I.吸放湿特性の評価(ΔMR)
織物約2gを用い、その絶乾時の重量(W0)を測定した。この織物を20℃×65%RHの状態に調湿された恒温恒湿器(ナガノ科学機械製LH−20−11M)中に24時間放置し、平衡状態となった織物の重量(W20)を測定し、その後、30℃×90%RHの状態に変更して24時間放置し、平衡状態となった織物の重量(W30)を測定した。下記式により求めた。
△MR(%)={(W30−W20)/W0}×100
製造例1
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたCAPのアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々2.0、0.7であり、Tgは180℃であった。
このCAP82重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて225℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAP組成物ペレットを得た。
製造例2
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20、アセチル基平均置換度0.2、プロピオニル基平均置換度2.5、Tg=146℃)93重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)6.95重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.05重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAP組成物ペレットを得た。
実施例1
製造例1で製造したCAP組成物を鞘成分に配し、製造例2で製造したCAP組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度260℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=40/60(CAPのみの重量比率)で吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。なお第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラー間で圧縮空気(圧力0.2MPa)を用いて交絡を付与した。
得られた芯鞘型複合繊維(126デシテックス−36フィラメント)の強度は1.00cN/dtex、伸度は27.4%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ3.3μmであった(精練後:113デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定した120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.61cN/dtex、伸度8.7%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価した。ΔMRは2.2%であり、極めて優れた吸放湿特性を有しており、また150℃および170℃のアイロンで加圧しても繊維表面に何ら変化がなく、熱軟化特性は非常に優れていた。
実施例2
芯/鞘複合比率を90/10とし、紡糸速度を2500m/分とし、紡糸して巻き取った繊維の品種が180デシテックス−36フィラメントと変更する以外は、実施例1と同様に実験を行った。
得られた芯鞘型複合繊維の強度は0.95cN/dtex、伸度は24.3%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ0.6μmであった(精練後:153デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定し120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.83cN/dtex、伸度10.2%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価した。ΔMRは1.6%であり、優れた吸放湿特性を有していた。一方、150℃および170℃のアイロンで熱軟化特性を評価したところ、150℃では加圧しても繊維表面に何ら変化がなく、170℃では若干のあたりが見られたものの、熱軟化特性は優れたものであった。
製造例3
製造例1において、エステル化剤の仕込み量のみを変更し、アセチル基平均置換度が2.4、プロピオニル基平均置換度が0.3、Tgが184℃のセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得た。このCAPに平均分子量600と400のポリエチレングリコール(PEG)を4:1で混合したPEG混合物20.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて235℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAP組成物ペレットを得た。
製造例4
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB381−20、アセチル基平均置換度1.0、ブチリル基平均置換度1.7、Tg=141℃)90重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)9.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAB組成物ペレットを得た。
実施例3
製造例3で製造したCAP組成物を鞘成分に配し、製造例4で製造したCAB組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度255℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=20/80(CAP、CABのみの重量比率)で吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1800m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。なお第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラー間で圧縮空気(圧力0.15MPa)を用いて交絡を付与した。
得られた芯鞘型複合繊維(162デシテックス−36フィラメント)の強度は1.04cN/dtex、伸度は25.5%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ5.5μmであった(精練後:144デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.56cN/dtex、伸度6.0%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価した。ΔMRは2.7%であり、極めて優れた吸放湿特性を有しており、また150℃および170℃のアイロンで加圧しても繊維表面に何ら変化がなく、非常に優れた熱軟化特性を有していた。
製造例5
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB171−15、アセチル基平均置換度2.0、ブチリル基平均置換度0.7、Tg=159℃)85重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)14.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAB組成物ペレットを得た。
実施例4
製造例5で製造したCAB組成物を鞘成分に配し、製造例4で製造したCAB組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度260℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=55/45(CABのみの重量比率)で吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1800m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。なお第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラー間で圧縮空気(圧力0.3MPa)を用いて交絡を付与した。
得られた芯鞘型複合繊維(72デシテックス−24フィラメント)の強度は1.03cN/dtex、伸度は25.4%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物の重量変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ2.1μmであった(精練後:64デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.86cN/dtex、伸度9.8%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化温度を評価した。ΔMRは1.7%であり、優れた吸放湿特性を有していた。また150℃および170℃のアイロンで加圧したところ、150℃では繊維表面に何ら変化がなく、170℃では明確なあたりがあり、繊維間で部分的に融着が発生していたが、熱軟化特性は優れていた。
製造例6
製造例1において、エステル化剤の仕込み量のみを変更し、アセチル基平均置換度が1.7、プロピオニル基平均置換度が0.8、Tgが186℃のセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得た。このCAPに平均分子量600と400のポリエチレングリコールを3:2で混合したPEG混合物23.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAP組成物ペレットを得た。
実施例5
製造例6で製造したCAP組成物を鞘成分に配し、製造例2で製造したCAP組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度265℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=65/35(CAPのみの重量比率)で吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。なお第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラー間で圧縮空気(圧力0.1MPa)を用いて交絡を付与した。
得られた芯鞘型複合繊維(144デシテックス−36フィラメント)の強度は0.85cN/dtex、伸度は23.4%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物の重量変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ1.7μmであった(精練後:120デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.62cN/dtex、伸度6.9%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価した。ΔMRは2.4%であり、極めて優れた吸放湿特性を有していた。また150℃および170℃のアイロンで加圧したところ、両温度ともに繊維表面に何ら変化がなく、熱軟化特性は非常に優れていた。
実施例6
芯/鞘複合比率を17/83とし、フィラメント数を24とし、紡糸して巻き取った繊維の品種が240デシテックス−24フィラメントと変更する以外は、実施例1と同様に実験を行った。
得られた芯鞘型複合繊維の強度は1.06cN/dtex、伸度は24.9%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物の重量変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ9.1μmであった(精練後:224デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.53cN/dtex、伸度5.2%であり、良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価した。ΔMRは2.6%であり、極めて優れた吸放湿特性を有していた。また150℃および170℃のアイロンで加圧したところ、両温度ともに繊維表面に何ら変化がなく、熱軟化特性は非常に優れていた。
比較例1
芯/鞘複合比率を95/5に変更する以外は、実施例2と同様に実験を行った。
得られた芯鞘型複合繊維(180デシテックス−36フィラメント)の強度は0.98cN/dtex、伸度は24.0%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ0.2μmであった(精練後:150デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.86cN/dtex、伸度10.7%であり良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価したところ、ΔMRは1.4%であり、吸放湿特性は劣っていた。また150℃のアイロンで加圧したところ、若干のあたりが発生していた。さらに170℃で加圧したところ、明確なあたりがあり、繊維間で部分的に融着が発生しており、熱軟化特性は劣ったものであった。
比較例2
製造例2で製造したCAP組成物を鞘成分に配し、製造例4で製造したCAB組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度250℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=38/62(CAP、CABの重量比率)で吐出させ、実施例1と同様の条件で巻取り、126デシテックス−36フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。強度は0.92cN/dtex、伸度は24.7%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物の重量変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ3.5μmであった(精練後:116デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.78cN/dtex、伸度11.%であり良好なものであった。
また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化特性を評価したところ、ΔMRは1.2%であり、吸放湿特性は劣っていた。また150℃のアイロンで加圧したところ、明確なあたりがあり、繊維間で部分的に融着が発生しており、熱軟化特性は非常に劣っていた。
比較例3
製造例5で製造したCAB組成物を鞘成分に配し、製造例1で製造したCAP組成物を芯成分に配し、別々に溶融し、紡糸温度260℃で芯鞘型構造を有する紡糸口金を用い、芯/鞘比率=25/75(CAB、CAPのみの重量比率)で吐出させ、比較例1と同様の条件で巻取り、180デシテックス−36フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。強度は0.97cN/dtex、伸度は26.0%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物の重量変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ5.2μmであった(精練後:152デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定した120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.30cN/dtex、伸度3.4%であり、強伸度値は著しく低下していた。
一方、精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化温度を評価したところ、ΔMRは2.5%であり、極めて優れた吸放湿特性を有していた。また150℃および170℃のアイロンで加圧したところ、150℃では繊維表面に何ら変化がなかったが、170℃では明確なあたりがあり、繊維間で部分的に融着が発生していたものの、熱軟化特性は優れていた。
比較例4
芯/鞘複合比率を8/92に変更する以外は、実施例1と同様に紡糸を行い、芯鞘型複合繊維(360デシテックス−36フィラメント)を得た。強度は1.00cN/dtex、伸度は26.8%であり良好なものであった。
この芯鞘型複合繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認し、被膜測定を行ったところ11.0μmであった(精練後:334デシテックス)。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行ったところ、強度0.44cN/dtex、伸度4.5%であり、強伸度値は非常に低下していた。また精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化温度を評価した。ΔMRは2.6%であり、極めて優れた吸放湿特性を有しており、また150℃および170℃のアイロンで加圧したところ、繊維表面に何ら変化は見られず、熱軟化特性は非常に優れていた。
比較例5〜6
比較例5では製造例1で製造したCAP組成物のみを用い、また比較例6では製造例2で製造したCAP組成物のみを用い、255℃で溶融させ、紡糸温度260℃で通常の丸孔紡糸口金を用いて吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。なお第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラー間で圧縮空気(圧力0.2MPa)を用いて交絡を付与し、100デシテックス−36フィラメントの繊維を得た。得られた繊維の強伸度は表2に示す通りであり、良好なものであった。
この繊維を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmの平織物を作成し、その後、この織物を常法で精練処理(温度50℃、時間30分)した。精練前後の織物重量の変化より、繊維中に含まれていたPEGは全量溶出されていることを確認した(精練後:比較例5、6の繊度は各々84デシテックス、94デシテックス)。なお単独糸のため、被膜は存在しない。
精練後の織物を、ポリエステルの染色温度を想定して120℃で60分間熱水処理を行い、乾燥後、織物の緯糸を抜き出し、強伸度測定を行った。
比較例5では、強度0.22cN/dtex、伸度2.2%であり、強伸度値は著しく低下していた。精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化温度を評価したところ、ΔMRは2.8%であり、極めて優れた吸放湿特性を有しており、また150℃および170℃のアイロンで加圧しても繊維表面に何ら変化がなく、熱軟化特性は非常に優れたものであった。
一方、比較例6では、強度1.10cN/dtex、伸度13.8%であり、強伸度値は良好なものであった。精練後の織物を用いて、吸放湿特性および熱軟化温度を評価したところ、ΔMRは1.4%であり、吸放湿特性は劣っていた。また150℃のアイロンで加圧したところ、明確なあたりがあり、繊維間で部分的に融着が発生しており、熱軟化特性は非常に劣っていた。
Figure 2009185394
Figure 2009185394
セルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維は、衣料用繊維、産業用繊維および不織布などとして用いることができる。また高温染色が可能であるため、特にポリエステル等との混繊、交織、交編した衣料用繊維として好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. アセチル基の平均置換度が0.1〜1.0であるセルロース脂肪酸混合エステルが芯部に配され、アセチル基の平均置換度が1.5〜2.5でありかつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であるセルロース脂肪酸混合エステルが鞘部に配されてなる芯鞘型複合繊維であって、鞘部を形成するセルロース脂肪酸混合エステルの被膜厚さが0.3〜10.0μmであることを特徴とするセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維。
  2. 芯部に配されるセルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであり、鞘部に配されるセルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1に記載のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維。
  3. 請求項1または2に記載のセルロース脂肪酸混合エステル芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いることを特徴とする布帛。
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