JP2009180664A - 透光性部材および時計 - Google Patents

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Abstract

【課題】反射防止機能を備え、かつ耐傷性が確保された透光性部材、およびこれを備えた時計を提供すること。
【解決手段】本発明の透光性部材としてのカバーガラス1は、透光性を有する基材10を備え、基材10は、その体表面部10Aにおける少なくとも一部に、反射防止層11と、反射防止層11の表層に沿って設けられる潤滑層12とを有する。潤滑層12は、フッ素系界面活性剤により形成される。
【選択図】図2

Description

本発明は、カバーガラスなどの透光性部材、およびこれを備えた時計に関する。
従来、時刻表示などの視認性を高めるため、カバーガラス(風防)と呼ばれる透光性部材に反射防止層(減反射層)を形成することが知られている(特許文献1)。反射防止層は、無機膜が数層〜数十層積層されて構成されることが一般的であり、カバーガラスのように高い硬度が求められる場合には、光透過率が高いうえ低屈折率でかつ比較的硬度が高いSiOが反射防止層の最表層に形成されることが多い。特許文献1には、SiOを最表層および最下層とし、SiO層とSi層とが交互に積層された反射防止層が記載されている。
特開2004−271480号公報
ここで、カバーガラスに多用されるサファイア基板の硬度はISO14577準拠の測定値で約52234N/mm(5330kgf/mm2を換算した値。以下同様。)と高硬度であるが、SiO層の硬度はISO14577準拠の測定値で約13700N/mm〜約19600N/mm程度と、耐傷性を確保するのに十分な硬度とは言い難い(蒸着によるSiO2層は約13700N/mm2(1400kgf/mm2)、スパッタによるSiO2層は約19600N/mm2(2000kgf/mm2)))。このような反射防止層をカバーガラスの外側の面に形成すると、外部からの衝撃等で膜が剥離するなどして光透過率が低下し、時刻表示等の視認性が低下するおそれがあるため、反射防止層をカバーガラスの外側の面に形成することは難しい。このため、反射防止層が形成される箇所は、実質、カバーガラスの内側の面に限定されていた。すなわち、耐傷性が要求される部分への反射防止層の形成が難しかった。
以上に鑑みて、本発明の目的は、反射防止機能を備え、かつ耐傷性が確保された透光性部材、およびこれを備えた時計を提供することにある。
本発明の透光性部材は、透光性を有する基材を備え、前記基材は、その体表面部における少なくとも一部に、反射防止層と、前記反射防止層の表層に沿って設けられるフッ素系界面活性剤とを有することを特徴とする。
この発明では、フッ素系界面活性剤が有する表面平滑性に基づく滑り性が発揮されることにより、基材の体表面部における摩擦が低減されるので、反射防止層の剥離や損傷等が防止される。すなわち、反射防止層の硬度が耐傷性の確保に必要な硬度よりも低い場合であっても耐傷性を確保できるため、反射防止層の硬度に関わらず、反射防止機能と耐傷性とを両立させることが可能となる。
なお、耐傷性の確保により、本発明の透光性部材をカバー部材として使用する場合にそのカバー部材の外側の部分に反射防止機能を付与することが可能となる。本発明の透光性部材が機器の情報表示部のカバー部材として設けられる場合には、透光性部材の反射防止機能によって情報の視認性が向上する。この視認性は、透光性部材の耐傷性によって長期に亘り維持される。
また、フッ素系界面活性剤が有する滑り性により、塵埃の付着が防止されるため、防汚性が得られる。
透光性部材の材質としては、サファイア、石英ガラス、ソーダガラス、樹脂等が挙げられる。
反射防止層としては、基材の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する単一の無機層や有機層、または、屈折率が互いに異なる複数の層が積層された構造の反射防止層、あるいは、基材の体表面部に注入されたイオンを含んで基材の一部を構成する反射防止層などを例示できる。すなわち、本発明の反射防止層には、基材の体表面から内部に亘って形成された反射防止層、および基材の体表面を被覆する反射防止層のいずれも含まれる。
なお、フッ素系界面活性剤と反射防止層との間に中間層が設けられていてもよく、この場合には、この中間層が介在した状態でフッ素系界面活性剤が反射防止層の表層に沿って設けられる。
本発明の透光性部材において、前記フッ素系界面活性剤は、10nm以下の厚みの層を形成することが好ましい。
この発明によれば、フッ素系界面活性剤の厚みが適切であることにより、フッ素系界面活性剤の塗布ムラによる外観不良や、物が当たった際にフッ素系界面活性剤が削れて光透過率が低下するなどの問題が生じない。
本発明の透光性部材において、前記フッ素系界面活性剤は、フルオロアルキル基およびフルオロアルキレン基のいずれかを有することが好ましい。
この発明によれば、良好な滑り性が得られるので、耐傷性をより向上させることができる。
本発明の透光性部材において、前記透光性部材は、カバー部材とされ、前記反射防止層および前記フッ素系界面活性剤は、前記カバー部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に設けられることが好ましい。
本発明によれば、カバー部材の外側から入射する光の反射を入射側で防止できるため、カバー部材の内側である射出側の部分に反射防止層が形成された場合よりも良好な反射防止効果が得られる。
また、外部に露出するため高い耐傷性が要求されるカバーガラスの外側の部分に反射防止層およびフッ素系界面活性剤が設けられることで、耐傷性確保の意義を大きくできる。
本発明の時計は、前述の透光性部材を備え、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられることを特徴とする。
この発明によれば、前述の透光性部材を備えることにより、前述と同様の作用および効果を享受できる。ここで、透光性部材は、例えばカバーガラス(風防)としてケースに設けられる。
このような本発明によれば、反射防止機能と耐傷性とを併せ持つ透光性部材、およびこの透光性部材を備えた時計を提供できる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔1.カバーガラスの構成〕
図1は、本実施形態の透光性部材としてのカバーガラス1を備えた腕時計を示す。カバーガラス1は、時計体(ムーブメント)3を収容するケース4に設けられる。ケース4には裏蓋5が設けられる。
本実施形態のカバーガラス1は、サファイア製の基材10から形成される。本実施形態の基材10の体表面部は、前面部10A、後面部10B、および側面部10Cからなる。前面部10Aは、カバーガラス1の外側の部分に相当する。後面部10Bは、カバーガラス1の内側の部分に相当し、文字板6および指針7に対向する。
図2は、基材10の前面部10Aを示す。前面部10Aは、反射防止層11と、この反射防止層11を被覆する潤滑層12とを有する。
なお、本実施形態では、前面部10Aと同様に後面部10Bおよび側面部10Cも、反射防止層11と、この反射防止層11を被覆する潤滑層12とを有する。
〔2.反射防止層の構成〕
反射防止層11は、積層された複数の層を有する。すなわち、基材10の体表面A側から順に、Si層111、SiO層112、Si4層113、およびSiO層114が積層される。これらの層111〜114はそれぞれ、スパッタ、蒸着、イオンプレーティング等によって形成される。
スパッタで形成した反射防止層11の最表層であるSiO層114の表面硬度は、ISO14577準拠の測定値で約19613N/mm(2000kgf/mm2)である。この測定には、圧子と、圧子への荷重を制御する荷重制御機構と、圧子の変位を検出するセンサとを有するナノインデンターが使用される。
ここで、Si層111,113と、SiO層112,114との関係では、Si層111,113が高屈折率の層であり、SiO層112,114が低屈折率の層である。本実施形態では、反射防止層11の最表層が低屈折率のSiO層114であって、低屈折率の層と高屈折率の層とが交互に積層されることにより、光の干渉を利用した反射防止機構が形成される。
ここで、図3および図4を参照し、光の干渉を利用した反射防止機構について簡単に説明する。なお、図3および図4では、完全に反射を防止する仮想的な単層の反射防止層100が基材の体表面に設けられたものと想定した。
図3は、反射防止層100に垂直に近い入射角で入射した光Lが最表層部101と最下層部102とでそれぞれ反射される様子を示す。なお、最表層部101は空気/反射防止層100の境界部に相当し、最下層部102は反射防止層100/基材の境界部に相当する。これらの境界部でそれぞれ外部反射(屈折率の低い媒質が入射側である反射)が起こり、これらの境界部の光路差に基づいて、最表層部101における反射光Lの位相と最下層部102における反射光Lとの位相とが図4のように180°(半波長)逆転する。これにより、反射光Lと反射光Lとが相殺的に干渉して振幅が打ち消される。干渉した反射光は合成されて反射防止層100を透過するため、反射光の光強度が低下する。
なお、以上で述べた干渉の結果は、反射防止層100の光学的厚み、および入射光の波長等に依存する。反射光Lの位相と反射光Lの位相とを正確に逆転させるためには、反射防止層100の光学的厚みは、波長の1/4の奇数倍となるように設定される。
本実施形態の反射防止層11は、図3の反射防止層100のように単層ではなく、前述のように複数層からなるが、上記同様に媒質間の反射光同士の干渉によって反射が防止される。反射防止層11が有する層111〜114のそれぞれの層厚等を設定することで、光学設計シミュレーション等によって反射率を決められる。なお、積層される層の数、積層順序、層の材質等は、適宜設計可能である。
上述したような反射防止層11により、カバーガラス1の外側から基材10に入射する光の反射が防止されるので、カバーガラス1を通して文字板6および指針7がはっきりと視認可能となり、視認性が向上する。
〔3.潤滑層の構成〕
潤滑層12は、フルオロアルキル基およびフルオロアルキレン基のいずれかを有するフッ素系界面活性剤により、反射防止層11の最表層に沿って10nm以下の厚みで形成される。本実施形態の潤滑層12は、反射防止層11の最表層に浸漬、スピンコートなどの適宜な手段で塗布されたフッ素系界面活性剤を乾燥させることによって形成される。
なお、反射防止層11と潤滑層12との間に、フッ素有機基導入シラン化合物を介在させることが考えられる。このフッ素有機基導入シラン化合物によって、フッ素系界面活性剤により形成された潤滑層12と、SiO層114を最表層とする反射防止層11との密着性が改良される。フッ素有機基導入シラン化合物としては、例えば、信越化学工業社製の「KY−130」などを使用できる。このようなフッ素有機基導入シラン化合物は、フッ素系溶剤で適当な濃度に希釈される。フッ素系溶剤としては、例えば、3M社製「HFE−7200」や、信越化学工業社製「FRシンナー」などを使用できる。
この潤滑層12に使用されるフッ素系界面活性剤は、下記に例示する化合物により形成されることが好ましい。
すなわち、前記フッ素系界面活性剤は、フルオロアルキル(C2〜C20)カルボン酸、N-パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸ジナトリウム、3-〔フルオロアルキル(C6〜C11)オキシ〕-1-アルキル(C3〜C4)スルホン酸ナトリウム、3-〔w-フルオロアルカノイル(C6〜C8)-N-エチルアミノ〕−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N-〔3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル〕-N、N-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタイン、パーフルオロアルキルカルボン酸(C7〜C13)、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、パーフルオロアルキル(C4〜C12)スルホン酸塩(Li,Na,K)、N-プロピル-(2-ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、パーフルオロアルキル(C6〜C10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(C6〜C10)-N-エチルスルホニルグリシン塩(K)、リン酸ビス(N-パーフルオロオクチルスルホニル-N-エチルアミノエチル)、モノパーフルオロアルキル(C6〜C16)エチルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、1,2,2,2−テトラフルオロオクチル(1,1,2,2−テトラフルオロプロピル)エーテル、1,2,2,2−テトラフルオロヘキシルエーテル、オクタエチレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロブチル)エーテル、ヘキサエチレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロペンチル)エーテル、オクタプロピレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロブチル)エーテル、ヘキサプロピレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロペンチル)エーテル、1,1,2,2,8,8,9,9,10,10−デカフルオロドデカン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロデカン、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム類、フルオロアルキルオキシエチレンエーテル類、ジグリセリンテトラキスフルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル類、パーフルオロアルキルポリオキシエタノール類、パーフルオロアルキルアルコキシレート類、およびフッ素系アルキルエステル類から選択された少なくとも1種以上により形成されることが好ましい。
なお、上記において、括弧内のCに続く数字は、括弧より前に示された化合物の炭素数を示し、括弧内のLi,Na,Kは塩に係る。
上記に例示したようなフッ素系界面活性剤は、塗布乾燥後の表面平滑性および湿潤性に優れるため、良好な潤滑性を発揮し、これによって基材10の体表面部における摩擦が低減される。このため、反射防止層11の基材10からの剥離や損傷等が防止され、腕時計の実用に十分な耐傷性が確保される。
さらに、本実施形態の潤滑層12は無色透明に近い光透過率を有するため、カバーガラスに適する。
そのうえ、本実施形態の潤滑層12の屈折率は1.4以下と低く、反射防止層11の最表層のSiO層114の屈折率約1.46よりも低屈折率である。このため、反射防止層11の表層に潤滑層12が設けられても反射防止層11の光学特性に悪影響が出ることなく、前述した反射防止機能が発揮される。
〔4.本実施形態による効果〕
以上の本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)カバーガラス1の体表面部の最表層を構成する潤滑層12の潤滑性により、カバーガラス1の体表面部における摩擦が低減されるので、反射防止層11の硬度に関わらず耐傷性を確保できる。すなわち、反射防止機能と耐傷性とを両立させることが可能となる。
(2)カバーガラス1の反射防止機能により、時刻情報の視認性が向上する。この視認性は、カバーガラス1の耐傷性によって長期に亘り維持できる。
(3)潤滑層12の潤滑性によってカバーガラス1への塵埃の付着が防止されるため、防汚性が得られる。
(4)潤滑層12の層厚が適切であることにより、塗布ムラによる外観不良や、物が当たった際に潤滑層12が削れて光透過率が低下するなどの問題が生じない。
(5)カバーガラス1の前面部10Aに形成された反射防止層11によって、カバーガラス1の外側から基材10に入射する光の反射を入射側で防止できる。このため、良好な反射防止効果が得られる。
〔本発明の変形例〕
本発明は、以上述べた実施形態には限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で種々の改良および変形を行うことが可能である。
前記実施形態では、カバーガラス1の体表面部全体(前面部10A、後面部10B、および側面部10C)に反射防止層11および潤滑層12が設けられていたが、カバーガラス1の体表面部の一部にのみ、例えば前面部10Aのみに反射防止層および潤滑層が設けられてもよい。但し、前面部10Aと後面部10Bとの両方に反射防止層を形成することにより、カバーガラス1の反射防止性能をより一層高くできる。
また、本発明における反射防止層は、前記実施形態のような基材表面を被覆する反射防止層には限定されず、基材へのイオン注入によって基材自体に形成されたものでもよい。なお、イオン注入により基材表面が圧縮され、基材表面の硬度が大きくなる。このため、イオン注入により形成された反射防止層と、この反射防止層の表層(つまり基材表面)に沿って設けられるフッ素系界面活性剤とを有する構成により、耐傷性をより一層向上させることができる。
前記実施形態では風防としてのカバーガラス1に本発明が適用された例を示したが、本発明の透光性部材は、風防としてのカバーガラスに限定されない。機械式時計などでは、裏蓋5(図1)が設けられる位置にカバー部材としての透光性部材が設けられ、この透光性部材を介して時計体の内部の機構を視認可能なシースルーバック仕様とされていることがある。このような場合、この透光性部材に本発明を適用できる。
なお、透光性部材の基材としては、高硬度のサファイアが好適であるが、このほか、石英ガラス、ソーダガラス等の使用も検討してよい。
また、本発明の透光性部材は、時計に使用されるカバー部材に限らず、携帯電話、携帯情報機器、計測機器、ディジタルカメラ、プリンタ、ダイビングコンピュータ、脈拍計等の各種機器における情報表示部のカバー部材として好適に使用できる。
なお、本発明の透光性部材は、カバー部材には限定されない。本発明に係る反射防止層は、透光性部材の基材において耐傷性と反射防止機能とが要求される任意の箇所に形成される。
以下に説明する実施例1では、前記実施形態と同様にサファイア製の基材を使用し、基材に反射防止層と潤滑層とをそれぞれ設けることによってカバーガラスを製造した。
具体的に、基材の体表面部に対して、SiO層、Si層、SiO層、Si層を順次、スパッタにて積層した。ここで、各層の層厚は、基材の体表面側から反射防止層の最表層側に向かって順番に、37nm(Si層)、17nm(SiO層)、60nm(Si層)、110nm(SiO層)とした。
次に、反射防止層11が設けられた基材10にフッ素系界面活性剤を塗布することにより、潤滑層を設ける。以下、この潤滑層に使用可能なフッ素系界面活性剤の市販品を各社の製品シリーズ別に例示する。
〔BM Chemie社〕BM−1000、BM−1100
〔株式会社ジェムコ(旧新秋田化成)〕エフトップ(登録商標)EF−301、EF−303、EF−352
〔大日本インキ化学工業株式会社〕メガファック(登録商標)F−142D、F−171、F−172、F−173、F−183、F−178、F−191、F−471
〔3M社〕フロラードFC−430、FC−431、FC−170C、FC−171、FC−430、FC−431
〔3M社〕ノベックFC−4430、FC−4432
〔旭硝子株式会社〕アサヒガード(登録商標)AG710
〔旭硝子株式会社〕サーフロン(登録商標)S−382、SC−101、SC−102、SC−103、SC−104、SC−105、SC−106
以下、フッ素系界面活性剤として3M社のノベックFC−4432を使用した例を示す。ノベックFC−4432は、PFBS(パーフルオロブタンスルホン酸)基を有するノニオン性のフッ素系界面活性剤である。
本実施例ではフッ素系界面活性剤を含むメタノール溶液に基材を浸漬し、その後、溶液から基材を1cm/秒で引上げて乾燥させる。なお、常温で乾燥させてもよいが、本実施例では基材を80℃の雰囲気下で加熱乾燥させることによって潤滑層を形成した。
ここで、上記メタノール溶液中のノベックFC−4432の濃度として、以下の4つを試験した。濃度に応じて潤滑層の層厚が変わる。
試験No.1 0.0001質量%
試験No.2 0.001質量%
試験No.3 0.01質量%
試験No.4 0.1質量%
試験No.5 0.1質量%(浸漬2回)
なお、試験No.5では、溶液への浸漬および加熱乾燥を2回繰り返した。
以上により製造された試験No.1〜No.5のカバーガラスの体表面部をそれぞれ、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察し、潤滑層の層厚を測定した。また、反射防止層のみが設けられ潤滑層が設けられていないカバーガラス(試験No.0)、および試験No,1〜No.5のカバーガラスのそれぞれについて、ナノインデンターを使用してISO14577準拠の硬度を測定するとともに、外観検査および耐傷性試験を実施した。耐傷性試験としては、以下に示す耐傷性試験1および耐傷性試験2を行った。
〔耐傷性試験1〕
文具用カッターの刃を基材の表面に垂直に当て、当該カッターに10kgの荷重をかけながら、カッターの刃を基材の表面に沿って直線的に移動させる。このようなカッターの刃の移動動作を10回行った後、実体顕微鏡で基材表面の傷の有無を観察した。
その結果、傷がつかないものを「OK」と評価し、傷がついたものを「NG」と評価した。
〔耐傷性試験2〕
次のような落砂試験を行う。水平面に対してカバーガラスを45°の傾斜角度で配置する。この際、反射防止層が形成された側が上面側になるようにカバーガラスを配置する。このように配置したカバーガラスの反射防止層に向かって、水平面より1mの高さから砂を落下させる。その後、カバーガラスを洗浄し、試験前におけるカバーガラスの透過率と、試験後におけるカバーガラスの透過率との差△Tに基づいて、傷の付きづらさを評価した。
ここで、使用する砂の材質は、黒色炭化ケイ素インゴットおよび緑色炭化ケイ素インゴットを粉砕、分級して製造されたカーボランダムである。この試験では、中心粒径が600〜850μmのカーボランダム#24を800cm使用した。
その結果、△Tが0.01%以下であればOKと評価し、△Tが0.01%を超えればNGと評価した。
本試験では、落下させたカーボランダムが潤滑層の表面を滑り、カバーガラスには付着しないため、カバーガラスの洗浄前でも透明度が失われないことが確認できた。つまり防汚性が発揮されることがわかった。
上記試験No.1〜No.5のカバーガラスのそれぞれについての前記濃度、潤滑層の層厚、耐傷性試験結果、外観検査結果、および総合評価を下記の表に示す。
Figure 2009180664
なお、表中の試験No.0では、反射防止層のみが設けられ潤滑層が設けられていないカバーガラスを評価した。
また、表中の試験No.1の「1分子層」は、5nm未満であって、フッ素系界面活性剤を構成するフッ素含有化合物の1分子に相当する層厚を意味する。
上記表から、反射防止層のみが設けられたカバーガラスの表面硬度は19613N/mmに過ぎないため、ノベックFC−4432が塗布されない試験No.0の基材では、耐傷性試験1、2の結果が共にNGであった。これに対して、ノベックFC−4432が塗布された基材のうち試験No.1〜4の基材では、耐傷性試験1、2の結果が共にOKであった。ここで、試験No.5の基材は潤滑層の層厚が40nmと厚いため反射防止層に傷は付かないものの、潤滑層の削れが認められた。これによって光透過率が低下するため、耐傷性試験1、2の結果は共にNGであった。
また、潤滑層の層厚が20nm以上となる試験No.4およびNo.5の基材では、フッ素系界面活性剤の塗布ムラによる外観不良が生じるため、外観検査結果がNGであった。
以上のような耐傷性試験および外観検査の結果を総合すると、試験No.1〜3のように潤滑層の層厚が10nm以下の場合に、実用上十分な耐傷性および良好な外観性が得られ、総合評価がOKとなった。
なお、潤滑層の屈折率は1.36であり、潤滑層の層厚が10nm以下の場合、カバーガラスの反射防止光学特性に影響はなかった。
本件発明の一実施形態に係るカバーガラスを備えた時計を示す断面図。 前記実施形態に係るカバーガラスの前面部を示す模式図。 反射防止層における反射光を示す図。 反射光の位相の逆転を示す図。
符号の説明
1・・・カバーガラス(透光性部材)、10・・・基材、10A・・・前面部(体表面部)、11・・・反射防止層、12・・・潤滑層(フッ素系界面活性剤)、111・・・Si層、112・・・SiO層、113・・・Si層、114・・・SiO層、A・・・体表面。

Claims (5)

  1. 透光性を有する基材を備え、
    前記基材は、その体表面部における少なくとも一部に、反射防止層と、前記反射防止層の表層に沿って設けられるフッ素系界面活性剤とを有する
    ことを特徴とする透光性部材。
  2. 請求項1に記載の透光性部材において、
    前記フッ素系界面活性剤は、10nm以下の厚みの層を形成する
    ことを特徴とする透光性部材。
  3. 請求項1または2に記載の透光性部材において、
    前記フッ素系界面活性剤は、フルオロアルキル基およびフルオロアルキレン基のいずれかを有する
    ことを特徴とする透光性部材。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記透光性部材は、カバー部材とされ、
    前記反射防止層および前記フッ素系界面活性剤は、前記カバー部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に設けられる
    ことを特徴とする透光性部材。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の透光性部材を備え、
    前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
    ことを特徴とする時計。
JP2008021219A 2008-01-31 2008-01-31 透光性部材および時計 Withdrawn JP2009180664A (ja)

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