JP2009173548A - 腸内細菌叢改善組成物、アレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】 腸内細菌叢の構成バランスを改善することができる腸内細菌叢改善組成物、および乳幼児期のアトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患の予防や治療にも効果を発揮し、その後のアレルギー疾患発症の予防にも有用であるアレルギー抑制組成物、アレルギー抑制剤を提供する。
【解決手段】 1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を発現、定着、増殖させることを特徴とする腸内細菌叢改善組成物、およびこれらとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有するアレルギー抑制組成物。
【選択図】 図8
【解決手段】 1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を発現、定着、増殖させることを特徴とする腸内細菌叢改善組成物、およびこれらとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有するアレルギー抑制組成物。
【選択図】 図8
Description
本発明は、1−ケストースを有効成分とする腸内細菌叢改善組成物に関し、特に、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum) を発現、定着、増強させる腸内細菌叢改善組成物、腸内細菌叢の改善によりインターロイキン10(IL−10)の産生を増加させてアレルギーの発症予防またはアレルギー疾患治療に好適なアレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤に関する。
アトピー性皮膚炎をはじめとする小児アレルギー疾患は、先進諸国で急激に増加しており、その原因として「衛生環境仮説」が広く支持されている。すなわち、小児時の感染等の外因性要因が正常な免疫形成に大きな影響を与えるというものである。中でも、ビフィズス菌等の腸内細菌の刺激による影響は大きく、腸内細菌は重要な役割を演じている。例えば、小児アレルギー疾患と発症前の腸内細菌叢の構成とが関連しているとされており、アレルギー疾患を発症した児童は、健康児に比べて新生児の時期に腸内細菌叢のビフィズス菌が少ない傾向があるとの報告がされている。そこで、アレルギー疾患予防策として腸内細菌叢の構成バランスを改善する方法が模索されている。
近年、腸内細菌叢の構成バランスを改善するため、オリゴ糖等の難消化性物質やプロピオン酸菌による乳清発酵物等のプレバイオティクス、あるいはビフィズス菌等のプロバイオティクスの経口摂取がなされている。近年では、プレバイオティクスとプロバイオティクスとを併せ持つシンバイオティクスによる治療や、これを用いた健康食品等の開発がなされている。
一方、抗炎症効果を有するサイトカインとして知られるIL−10が、生体防御機構に関与しているとの報告があり、アレルギーを抑制する機構に関与しているとの報告がされている(非特許文献1)。
また、従来、腸内細菌叢の構成バランスの改善によりアレルギー疾患を抑制させることを目的とした発明がいくつかなされている。例えば、特開平7−265064号公報には、腸内細菌の生菌体を抗アレルギー成分として含有する腸内細菌叢改善組成物が開示されている(特許文献1)。また、特開2000−6541号公報には、ビフィズス生菌とビフィズス菌増殖促進物質とを有効成分とするビフィズス菌製剤が開示されている(特許文献2)。
M. Kalliomaki and E. Isolauri, Role of intestinal flora in the development of allergy. Curr Opin Allergy Clin Immunol 2003; 3: 15-20 特開平7−265064号公報
特開2000−60541号公報
M. Kalliomaki and E. Isolauri, Role of intestinal flora in the development of allergy. Curr Opin Allergy Clin Immunol 2003; 3: 15-20
しかしながら、特許文献1に開示された発明については、腸内細菌叢の改善効果が示されておらず、また、抗アレルギー作用を有する複数の腸内細菌がオリゴ糖の添加によりヒトの腸管内において増殖するとされているものの、その増殖作用は明らかではない。さらに、添加に有効なオリゴ糖について特定がなされていない。
また、特許文献2に開示された発明では、ビフィズス菌増殖促進物質としてラフィノースやラクチュロースといったオリゴ糖が挙げられているが、ラフィノースについての効果のみが示されているにすぎず、他のオリゴ糖についての効果は示されていない。また、ビフィズス菌増殖促進物質とともに有効成分として配合されているビフィズス生菌は、種々のビフィドバクテリウム属に属する細菌の混合であるため、有効細菌の主体について特定がなされていない。
さらに、特許文献1および2に開示された発明については、IL−10に関して何ら示されておらず、また、ケストースに関しても何ら示されていない。
本発明は、前述した問題点を解決するためになされたものであって、1−ケストースが奏するビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの発現、定着、増殖作用を利用した腸内細菌叢改善組成物、およびこれを用いたIL−10の産生増加作用あるいは乳幼児のアトピー性皮膚炎改善作用を備えるアレルギー抑制組成物、アレルギー抑制剤を提供することを目的としている。
本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の特徴は、1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を発現させる点にある。
また、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の特徴は、1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを定着させる点にある。
さらに、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の特徴は、1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを増殖させる点にある。
一方、本発明に係るアレルギー抑制組成物の特徴は、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有する点にあり、インターロイキン10の産生増加作用を備えること、または乳幼児のアトピー性皮膚炎改善作用を備えることが好ましい。
また、本発明において、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムが1−ケストースの投与により発現したものであることが好ましい。
一方、本発明に係るアレルギー抑制剤の特徴は、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有する点にある。
本発明によれば、1−ケストースが奏するビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの発現、定着、増殖作用により、腸内細菌叢の構成バランスを改善することができ、アレルギー疾患の予防や治療に有用である。また、乳幼児期のアトピー性皮膚炎の予防や治療にも効果を発揮し、その後のアレルギー疾患発症の予防の効果も期待できる。さらに、このアレルギー抑制効果が、アレルギー抑制に関与するといわれるIL−10を介することが示されており、当該作用機序が明らかとされている。
本願発明者等は、特願2007−548636号において、1−ケストースを高純度で含有する組成物がビフィズス菌を増殖させ、その結果、アレルギー疾患が抑制されることを開示している。そして、今回、さらに1−ケストースの有用性について鋭意研究を行った結果、1−ケストースに特異性を示すビフィズス菌としてビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を同定し、1−ケストースの有するアレルギー疾患抑制効果がビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの発現、定着、増殖作用によるものであることを見出した。また、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを含有する組成物が腸内細菌叢の構成バランスを改善する効果を有することを見出し、さらに、1−ケストースにより発現されたビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムがアレルギー抑制作用の指標になるといわれるIL−10の産生を増加させることを見出した。
ここで、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物、アレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤について、本実施形態に基づき説明する。
本実施形態における1−ケストースは、図1に示すとおり、投与前と投与後とではビフィズス菌の占有率において増加傾向を示しており、特願2007−548636号においてはその増加に有意差が認められることから、腸内細菌叢の構成バランスを改善する効果を有していることが分かる。さらに、ビフィズス菌の菌種レベルでは図4(a)(b)や図5等に示すとおり、その腸内細菌叢の構成バランスの改善が、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの発現、定着増殖によるものであることが明らとなっている。すなわち、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物は、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを発現、定着ないし増殖を促進する作用を奏するために1−ケストースを含有していればよく、その含有率や含有量等は特に限定されないが、本実施形態における腸内細菌叢改善組成物は、1−ケストースを主成分として構成されている。
ここで、「発現」とは、一般には、現れ出ること、あるいは現し出すことをいう(岩波書店「広辞苑」第五版)が、本発明において「発現」という場合は、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与前において存在しなかった、または存在を確認することができなかったビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与後において存在を確認することができるようになることをも含む趣旨である。例えば、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与前において存在しなかったビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムが本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与によって現れる場合や、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与によって腸内細菌叢の構成バランスが変化し、劣勢であったビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムが優性になる場合が挙げられる。
また、「定着」とは、一般には、しっかりとつくこと、固着して容易に離れなくなること、あるいは一定の場所に落ち着くことをいう(岩波書店「広辞苑」第五版)が、本発明において「定着」という場合は、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与後、一定の期間においてビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの存在を確認することができることをも含む趣旨である。なお、本実施形態においては、図8および図9に示すとおり、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与と他のビフィズス菌との比較によって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの定着を明らかにしている。
また、「増殖」とは、一般には、増えて多くなること、増やして多くすること、あるいは生物の個体・細胞等が数を増す現象をいう(岩波書店「広辞苑」第五版)が、本発明において「増殖」という場合は、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物を資化することをも含む趣旨である。なお、本実施形態においては、図10および図11に示すとおり、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物の投与による生育や資化性によって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの増殖を明らかにしている。
なお、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムは、一般には、ヒトに常在が認められているビフィズス菌10種のうちの1種であり、日本人にその存在報告のあるビフィズス菌であり、ヒトの乳幼児や幼獣に発現するとされている(矢島智子等:「Bifidobacterium属の分類と生態」腸内フローラの分類と生態、理研腸内フローラシンポジュームII、学会出版センター,1992,P55)が、本発明に係るビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムは、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)に分類することができるものであれば特に限定されず、例えば、規格販売されているBifidobacterium pseudocatenulatum JM1200(独立行政法人理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター)や、本発明者等が臨床試験にてヒトから採取し、同定したビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムが含まれ、1−ケストースの投与により発現したビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムもこれに含まれる。なお、本実施形態においては、図13に示すとおり、当該臨床試験にてヒトから採取し、同定したビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを好ましい態様とし、1−ケストースの投与により発現したビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムをより好ましい態様としている。
一方、本実施形態における1−ケストースは、図2に示すとおり、投与前と投与後とではアトピースコアの変化において有意差が認められることから、アレルギー疾患を抑制する効果を有していることが分かり、図4(a)や、図6(a)(b)(c)、図7等に示すとおり、1−ケストースによる特異的なビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムの発現、定着、増殖が認められたことから、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとによりアレルギー疾患を抑制する効果が高くなることが分かる。すなわち、本発明に係るアレルギー抑制組成物は、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを含有していればよく、その含有率や含有量等は特に限定されないが、本実施形態におけるアレルギー抑制組成物は、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとから構成されている。
つまり、本発明に係るアレルギー抑制組成物は、腸内細菌叢改善組成物とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを合わせることによりアレルギー抑制組成物となる場合の他、腸内細菌叢改善組成物とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを、各々別に摂取、投与して体内でアレルギー抑制組成物となる場合等も含まれる。
また、本発明に係るアレルギー抑制剤は、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを含有していればよく、その含有率や含有量等は特に限定されないが、本実施形態におけるアレルギー抑制剤もまた、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとから構成されている。
つまり、本発明に係るアレルギー抑制剤は、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを合わせることによりアレルギー抑制剤となる場合の他、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを、各々別に摂取、投与して体内でアレルギー抑制剤となる場合等も含まれる。
なお、本発明における1−ケストースとしては、1−ケストースの純度が高いものが好ましく、少なくとも1−ケストースがニストースよりも組成比率で高く、好ましくは1−ケストースの純度が90%以上、より好ましくは純度95%以上のものである。なお、本実施形態における1−ケストースとしては、食品新素材有効利用技術シリーズNo.13「1−ケストース」(社団法人菓子総合技術センター発行)に記載されている1−ケストースが挙げられている。
また、本発明におけるIL−10とは、ヒトの場合、1型ヘルパーT細胞(Th1)や活性化したマクロファージ、NK細胞におけるサイトカイン合成をブロックするサイトカイン合成抑制因子(CSIF)として知られる、主に2型ヘルパーT細胞(Th2)より産生される分子量18kDaのサイトカインをいう。
次に、本発明におけるアレルギーとは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー疾患をいう。なお、一般にアトピー性皮膚炎とは、アトピー型気管支喘息、アレルギー性鼻炎、皮膚炎のじん麻疹を起こしやすいアレルギー体質(アトピー素因)の上に、様々な刺激が加わって生じる痒みを伴う慢性の皮膚疾患と考えられている。ここにいうアレルギー疾患の特徴としては、例えば、アトピー素因のある人が乳幼児期にアトピー性皮膚炎にかかっており、次いで幼児期に気管支喘息になり、成人になるとアレルギー性鼻炎が出現するといったアレルギーの中心症状が年齢によって変化するアレルギーの連鎖現象(アレルギーマーチ)があるが、このようなアレルギーマーチによる一連の症状をも含む趣旨である。なお、本発明に係るアレルギー抑制組成物およびアレルギー抑制剤はアレルギーマーチによる一連の症状をも抑制、改善することができる。
また、本実施形態におけるアレルギー抑制剤の剤型としては、粉末やその溶解物、打錠物、カプセル状等、任意の形態を選択することができる。例えば、1−ケストース50重量部、デキストリン30重量部、植物性油脂20重量部を用いて常法に従って抗アトピー性皮膚炎用錠等としてもよい。
以下、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物、アレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤に係る各種の実施例の結果について説明する。なお、本発明の範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
<ヒトによる臨床試験;1−ケストース投与によるビフィズス菌占有率の増加度とアトピー症状の皮膚スコア改善度との関係>
アトピー性皮膚炎の症状をもつ乳幼児を対象とした1−ケストースの臨床試験を行い、腸内ビフィズス菌占有率(%)とアトピー症状の皮膚スコアの測定を行った。
アトピー性皮膚炎の症状をもつ乳幼児を対象とした1−ケストースの臨床試験を行い、腸内ビフィズス菌占有率(%)とアトピー症状の皮膚スコアの測定を行った。
臨床試験の対象者は、0才から3才までの食物アレルギーを合併した乳幼児アトピー性皮膚炎疾患患者であって、重症度が中等症〜重症である6名とした。なお、試験実施に際しては、対象児の親の同意を得て行った。
試験方法は、2週間の観察期間の後、純度98%の1−ケストースを1日1回水またはジュース類に混ぜて摂取させ、これを12週間継続した。1歳以下の被験者には1日1gを摂取させ、2〜3歳の被験者には1日2gを摂取させた。なお、試験は被験者に摂取前1ヶ月以上ステロイド外用剤を使用していない状態で開始し、試験期間中には保湿剤を中心に使用させ、食物アレルゲン除去食を摂取させた。
臨床試験の評価は、摂取開始時、摂取開始6週目、摂取開始12週目の終了時、摂取終了8週目の各々について、診察による皮膚重症度判定と便検査とによって行った。摂取終了後8週目について評価を行ったのは、薬効の持続効果を確認するためである。腸内細菌分析については、まず光岡らの方法(Mitsuoka, T. et al (1965): Zentralbl. Bacteriol. Parasitenkd. Infektionskr. Hyg. Abt. I. Orig. A195; 455-469)により被験者の糞便より腸内細菌の総菌数とビフィズス菌数を求め、ビフィズス菌占有率(総菌数に占めるビフィズス菌の割合を%表示)を算出した。皮膚重症度判定は、日本皮膚科学会アトピー重症度検討委員会による部位別重症度判定{全身を頭部・体幹前部・体幹後部・上肢・下肢の5つの部分に区分し各部位のグローバルな評価(0〜4段階)の総和を算出することにより判定する方法(吉田彦太郎;日皮会誌、108(11)、1998、p1491−96)}を用いて、アトピー性皮膚炎重症度(以下、「アトピースコア」という。)とした。その結果を図1と図2にそれぞれ示す。1−ケストース投与前後における平均値についてT検定を行ってP値を算出し、P値が0.01以下を**と示した。
また、1−ケストース投与前後において、前記ビフィズス菌の占有率増加度(投与前のビフィズス菌占有率を投与6週目、投与12週目、投与終了後8週目の各々のビフィズス菌占有率から減じた値)とアトピー症状の皮膚スコア改善度(投与前のアトピースコアから投与6週目、投与12週目、投与終了後8週目の各々のアトピースコアを減じた値、以下、「皮膚スコア改善度」という。)とを算出し相関係数を求めた。その結果を図3にそれぞれ示す。
なお、得られたデータの検定は、以下の実施例全てにおいてT検定によりP値を算出し、P値が0.05以下を*、0.01以下を**と示した。
図1に示すように、糞便中のビフィズス菌占有率の平均値は、1−ケストースを12週間投与することによって、投与前の35.9%から46.4%に増加したものの、有意差は認められなかった。一方、図2に示すように、アトピースコアの平均値は、1−ケストースを12週間投与することによって、投与前の10.5から3.0へ低下し、1%有意水準で有意差が認められ、投与終了後8週経過後も改善状態を保っていることが示された。
また、図3に示すように、ビフィズス菌の占有率増加度と皮膚スコア改善度との相関係数は0.1111であり、相関関係は認められなかった。
<ヒトによる臨床試験;1−ケストース投与によるアトピー症状改善に関与するビフィズス菌の探索>
実施例1において、1−ケストース投与によりアトピー症状の皮膚スコアは改善したが、ビフィズス菌の占有率の増加との相関は認められなかった。この結果は、ヒトにおいて、ビフィズス菌として認められるものが10種類存在するため、そのビフィズス菌の全てがアトピー症状の軽快化に関与するのではなく、特定の菌種のみが関与する可能性を示唆している。そこで、1−ケストース投与によるアトピー症状改善に関与するビフィズス菌の菌種を特定した。
実施例1において、1−ケストース投与によりアトピー症状の皮膚スコアは改善したが、ビフィズス菌の占有率の増加との相関は認められなかった。この結果は、ヒトにおいて、ビフィズス菌として認められるものが10種類存在するため、そのビフィズス菌の全てがアトピー症状の軽快化に関与するのではなく、特定の菌種のみが関与する可能性を示唆している。そこで、1−ケストース投与によるアトピー症状改善に関与するビフィズス菌の菌種を特定した。
具体的には、実施例1において採取した糞便を用いて、糞便中の各ビフィズス菌の分布及びPCR法による同定を行った。方法の概要を以下に説明する。まず、通常の選択培地による菌の分布状況をコロニーの性状から判断し、次にビフィズス菌の各コロニーから単離した菌の種類をPCR法により特定した。最後にB. catenulatumとB. pseudcatenulatumとの区別に関してはDNA抽出を行いその配列(16S rDNAの部分塩基配列約500bp)を比較し特定した。以下(1)〜(3)において具体的方法について説明する。
(1)ビフィズス菌分布の測定方法
実施例1において採取した新鮮な糞便100mg(湿重)を計量し、嫌気的に10−1〜10−8に希釈し、これらを3種の非選択寒天培地と11種の選択寒天培地とに塗布した。3種類の非選択寒天培地はTS、BL、EGを使用し、11種類の選択寒天培地は、DHL、TATAC、PEES、P、NGBT、BS、ES、VS、LBS、NN、CCFAを使用した(参考文献:Suzuki N. et al, Bioscience Microflora 25(3), 109-116, 2006)。培養後、各培地上のコロニー数を定量し、コロニーの性状、グラム染色性、胞子形成、好気性および嫌気性での生育性、ならびに菌の形状を基にしてビフィズス菌種の同定を行った。ビフィズス菌種を決める前記手順に従い、BL培地において継体培養可能な菌種の同定を行った。本測定方法により各種ビフィズス菌の菌種のおおよその見当をつけ、その分布を求めた(参考文献:Hida M, at al. Nephron 1996; 74:349-55)。最終的には次に説明する定性PCR法にて各コロニーの菌種を確認した。
実施例1において採取した新鮮な糞便100mg(湿重)を計量し、嫌気的に10−1〜10−8に希釈し、これらを3種の非選択寒天培地と11種の選択寒天培地とに塗布した。3種類の非選択寒天培地はTS、BL、EGを使用し、11種類の選択寒天培地は、DHL、TATAC、PEES、P、NGBT、BS、ES、VS、LBS、NN、CCFAを使用した(参考文献:Suzuki N. et al, Bioscience Microflora 25(3), 109-116, 2006)。培養後、各培地上のコロニー数を定量し、コロニーの性状、グラム染色性、胞子形成、好気性および嫌気性での生育性、ならびに菌の形状を基にしてビフィズス菌種の同定を行った。ビフィズス菌種を決める前記手順に従い、BL培地において継体培養可能な菌種の同定を行った。本測定方法により各種ビフィズス菌の菌種のおおよその見当をつけ、その分布を求めた(参考文献:Hida M, at al. Nephron 1996; 74:349-55)。最終的には次に説明する定性PCR法にて各コロニーの菌種を確認した。
(2)ビフィズス菌種のPCR法による同定
B. adolescentis、B. angulatum、B. bifidum、B. breve、B. catenulatum group (G)、B. dentium、B. gallicum、B. infantis、B. longumの9種類のビフィズス菌種について同定を行った。同定法としては、各コロニーからWizard Genomic DNA purification Kit (Promega, Madison, WI, USA)を用いて抽出したDNAを用いマスターサイクラーep(Eppendorf Japan, 東京) によるPCR法を用いた。すなわち、94℃で5分の後、94℃で20秒、55℃で20秒、72℃で30秒を35回繰り返し、その後72℃で5分行った。PCR反応液は、GoTaq Flexi DNA Polymerase(Promega, Madison WI, USA)1.25uに、dATPとdCTPとdGTPとdTTPとを各々0.2 mmol/Lと、MgCl2を1.5mmol/Lと 、5倍希釈したGreen GoTaq Flexi Bufferを10μLと、プライマーを各々0.25mmol/Lとを加え、これに抽出したDNAを0.5μg添加し、最終量を50μLにして反応させた。PCRに用いたプライマーはBifidobacterium属特異的プライマーとして、(5’- CTCCTGGAAACGGGTGG- 3’(配列番号1)、5’-GGTGTTCTTCCCGATATCTACA-3’(配列番号2))を用いた。
B. adolescentis、B. angulatum、B. bifidum、B. breve、B. catenulatum group (G)、B. dentium、B. gallicum、B. infantis、B. longumの9種類のビフィズス菌種について同定を行った。同定法としては、各コロニーからWizard Genomic DNA purification Kit (Promega, Madison, WI, USA)を用いて抽出したDNAを用いマスターサイクラーep(Eppendorf Japan, 東京) によるPCR法を用いた。すなわち、94℃で5分の後、94℃で20秒、55℃で20秒、72℃で30秒を35回繰り返し、その後72℃で5分行った。PCR反応液は、GoTaq Flexi DNA Polymerase(Promega, Madison WI, USA)1.25uに、dATPとdCTPとdGTPとdTTPとを各々0.2 mmol/Lと、MgCl2を1.5mmol/Lと 、5倍希釈したGreen GoTaq Flexi Bufferを10μLと、プライマーを各々0.25mmol/Lとを加え、これに抽出したDNAを0.5μg添加し、最終量を50μLにして反応させた。PCRに用いたプライマーはBifidobacterium属特異的プライマーとして、(5’- CTCCTGGAAACGGGTGG- 3’(配列番号1)、5’-GGTGTTCTTCCCGATATCTACA-3’(配列番号2))を用いた。
また、種特異的プライマーとして、B. adolescentis特異的プライマー(5’-CTCCAGTTGGATGCATGTC-3’(配列番号3)、5’-CGAAGGCTTGCTCCCAGT-3’(配列番号4))、B. bifidum特異的プライマー(5’-CCACATGATCGCATGTGATTG-3’(配列番号5)、5’-CCGAAGGCTTGCTCCCAAA-3’(配列番号6))、B. breve特異的プライマー(5’-CCGGATGCTCCATCACAC-3’(配列番号7)、5’-ACAAAGTGCCTTGCTCCCT-3’(配列番号8))、B. catenulatum group特異的プライマー(5’-CGGATGCTCCGACTCCT-3’(配列番号9)、5’-CGAAGGCTTGCTCCCGAT-3’(配列番号10))、B. dentium特異的プライマー(5’-ATCCCGGGGGTTCGCCT-3’(配列番号11))、5’-GAAGGGCTTGCTCCCGA-3’(配列番号12)) 、B. infantis特異的プライマー(5’-TTCCAGTTGATCGCATGGTC-3’(配列番号13)、5’-GGAAACCCCATCTCTGGGAT-3’(配列番号14))、B. longum 特異的プライマー(5’-TTCCAGTTGATCGCATGGTC-3’(配列番号15)、5’-GGGAAGCCGTATCTCTACGA-3’(配列番号16)) を用いた。PCR産物について、1%アガロースゲル(CAMBREX, Rockland ME, USA)とMupid(登録商標)−2plus(ADVANCE・東京)とを用いてゲル電気泳動を行った後、EtBr(和光純薬工業・大阪)で染色しDNA7分子断片を観察した(参考文献:Matsuki T, et al. Appl Environ Microbiol 1999; 65:4506-12.)。その結果、各被験者の糞便に認められたビフィズス菌は、B. adolescentisとB. bifidumとB. breveとB. catenulatum group (G)とB. infantisとB. longumとであり、B. angulatumとB. dentiumとB. gallicumとは検出されなかった。
(3)DNA解析
上記(2)で用いたプライマーではB. catenulatumとB. pseudcatenulatumとの区別ができないため、B. catenulatum group (G)と同定された菌とを、プレートから増殖用のGAM培地(日水製薬社)に移し、増殖した細菌を用いてInstaGene Matrix(BIO RAD, CA, USA)にてDNA抽出し、MicroSeq 500 16S rDNA Bacterial Identification PCR Kit (Applied Biosystems, CA, USA)を用いて増幅した。増幅された16S rRNAの遺伝子の並びをABI PRISM 3100遺伝子解析システム(Applied Biosystems, CA, USA)により解析し、ホモロジー調査を遺伝子バンク/DDBL/EMBLデータベースにより行った。これらの結果、各被験者の糞便から検出された菌種はB. pseudcatenulatumであることが判った。
上記(2)で用いたプライマーではB. catenulatumとB. pseudcatenulatumとの区別ができないため、B. catenulatum group (G)と同定された菌とを、プレートから増殖用のGAM培地(日水製薬社)に移し、増殖した細菌を用いてInstaGene Matrix(BIO RAD, CA, USA)にてDNA抽出し、MicroSeq 500 16S rDNA Bacterial Identification PCR Kit (Applied Biosystems, CA, USA)を用いて増幅した。増幅された16S rRNAの遺伝子の並びをABI PRISM 3100遺伝子解析システム(Applied Biosystems, CA, USA)により解析し、ホモロジー調査を遺伝子バンク/DDBL/EMBLデータベースにより行った。これらの結果、各被験者の糞便から検出された菌種はB. pseudcatenulatumであることが判った。
以上(1)〜(3)において得られた結果を総合し、各ビフィズス菌の占有率(%;各種ビフィズス菌/総菌数)を求めた。その結果を各被験者別およびその平均として図4(a)、(b)に示した。また得られたデータを以後、様々な観点から解析を行った。
まず、各被験者における各ビフィズス菌の占有率(%;各種ビフィズス菌/総菌数)について解析した(図4(a))。また、全被験者の平均値についても同様の解析を行い、1−ケストース投与前後における各平均値をT検定によって統計解析した(図4(b))。なお、B. catenulatumについては、被験者全員において、試験期間全般にわたり同定されなかったため、図4(a)および図4(b)に示していない。
その結果、図4(b)に示すとおり、1−ケストース投与によりB. pseudocatenulatumとB. longumについて占有率の増加傾向が明らかとなり、B. breveについて占有率の減少傾向が明らかとなった。
次に、各菌種における各被験者の占有率(%;各種ビフィズス菌/総菌数)についての統計解析を、1−ケストース投与前後における各平均値についてT検定をすることにより行った。その結果、図5に示されるとおり、B. pseudocatenulatumが1−ケストース投与により有意に発現、定着、増殖していることが認められた。特に、No.4の被験者を除き、1−ケストース投与前には存在しなかったB. pseudocatenulatumが、1−ケストース投与後に発現し、定着、増殖していることが認められた。No.4の被験者には種になるB. pseudocatenulatumがなかったと推測される。なお、その他のビフィズス菌には特定の傾向は認められなかった。
次に、1−ケストース投与により有意差を示したB. pseudocatenulatumの、占有率の増加度と前記皮膚スコア改善度との相関について解析した。1−ケストース投与6週目、同12週目、投与終了後8週目における各相関図を図6(a)(b)(c)に各々示す。また、図6(a)(b)(c)の結果をまとめた結果を図7に示す。図6および図7に示されるとおり、1−ケストース投与6週目、同12週目、投与終了後8週目における相関係数は、各々0.346(P=0.22)、0.775(P=0.02)、0.620(P=0.06)と実施例1における総ビフィズス菌の相関係数0.111(P=0.50)に比べて高い値であり、B. pseudocatenulatumについては皮膚スコア改善度との相関が高いことが認められた。なお、前記括弧()内のP値はB. pseudocatenulatumの占有率の増加度と皮膚スコア改善度との相関の有意を検定したもので、1−ケストース投与12週目に有意な相関(P<0.05)を認めた。このことは1−ケストースを摂取するにつれB. pseudocatenulatumの占有率の増加とともに皮膚スコアの改善がみられるようになり、摂取終了後、相関は弱まるものの皮膚スコア改善効果が持続することを示している。
<無菌マウスによるビフィズス菌の定着試験1;1−ケストースと1種のビフィズス菌との同時投与によるビフィズス菌の定着試験>
ビフィズス菌を含まない糞便の投与によりヒト菌叢を再現したマウスを用いて、1−ケストースによるビフィズス菌の定着試験を行った。ビフィズス菌は、実施例2において皮膚スコア改善度との相関が高いB. pseudocatenulatumと、皮膚スコア改善度との相関が認められなかったB. adolesentisとを用いた。
ビフィズス菌を含まない糞便の投与によりヒト菌叢を再現したマウスを用いて、1−ケストースによるビフィズス菌の定着試験を行った。ビフィズス菌は、実施例2において皮膚スコア改善度との相関が高いB. pseudocatenulatumと、皮膚スコア改善度との相関が認められなかったB. adolesentisとを用いた。
具体的には、無菌マウス20匹をB. adolesentis摂取群、B. adolesentis+1−ケストース摂取群、B. pseudocatenulatum摂取群、B. pseudocatenulatum+1−ケストース摂取群の4群各5匹に分け、B. pseudocatenulatumとB. adolesentis各々について1−ケストースの有無による定着の程度を比較した。
つまり、B. adolesentis摂取群およびB. adolesentis+1−ケストース摂取群には、ビフィズス菌欠如乳幼児糞便(100倍希釈1ml/匹)とB. adolesentis(108CFU/匹)とを摂取させた。一方、B. pseudocatenulatum摂取群およびB. pseudocatenulatum摂取群+1−ケストース摂取群には、ビフィズス菌欠如乳幼児糞便(100倍希釈1ml/匹)とB. pseudocatenulatum(108CFU/匹)とを摂取させた。摂取2週間後、各マウスの糞を採取して、摂取した乳幼児菌叢とB. adolesentisまたはB. pseudocatenulatumとが腸内菌叢において定着していることを確認した。その後、B. adolesentis+1−ケストース摂取群とB. pseudocatenulatum摂取群+1−ケストース摂取群には、無菌生理食塩水で溶解した純度98%の1−ケストース5%溶液を0.5ml摂取させた。B. adolesentis摂取群とB. pseudocatenulatum摂取群には、無菌生理食塩水のみを0.5ml摂取させた。摂取は1週間の連続強制経口投与により行った。なお、実験に供した無菌マウスは、東海大学医学部基礎医学系感染症研究室保有系統無菌BALB/cの4週齢のオスを使用した。また、B. adolesentisは、実施例1および2における被験者No.3から同定された細菌を、B. pseudocatenulatumは、実施例1および2における被験者No.5から同定された細菌を使用した。
摂取1週間後に糞便100mg(湿重)を採取し、それを無菌生理食塩水にて嫌気的に10−1〜10−8に希釈した後、実施例2(1)の方法に従って菌叢解析を行い、各ビフィズス菌の定着度を解析するために各ビフィズス菌数を算出して対数表示し、1−ケストース摂取の有無によるT検定を行った。その結果を図8に示す。
図8に示されるとおり、B. adolesentis、B. pseudocatenulatumのいずれにおいても、1−ケストースとの併用投与により定着度が向上する傾向がみられ、そのうちB. pseudocatenulatumについては、有意な結果が認められた。
<無菌マウスによるビフィズス菌の定着試験2;1−ケストースと2種ビフィズス菌の同時投与によるビフィズス菌の定着試験>
次に、実施例3で使用したB. pseudocatenulatumとB. adolesentisとの2種混合細菌を投与し、1−ケストースによる各ビフィズス菌の定着試験を行った。
次に、実施例3で使用したB. pseudocatenulatumとB. adolesentisとの2種混合細菌を投与し、1−ケストースによる各ビフィズス菌の定着試験を行った。
具体的には、無菌マウス10匹をB. adolesentis+B. pseudocatenulatum摂取群とB. adolesentis+B. pseudocatenulatum+1−ケストース摂取群との2群各5匹に分け、B. pseudocatenulatumとB. adolesentis共存下における1−ケストースの影響を調べた。
つまり、無菌マウス10匹に、ビフィズス菌欠如乳幼児糞便(100倍希釈1ml/匹)とB. adolesentis(108CFU/匹)とB. pseudocatenulatum(108CFU/匹)とを同時に摂取させた。摂取2週間後、各マウスの糞を採取して、摂取した乳幼児菌叢とB. adolesentis、B. pseudocatenulatumとが腸内菌叢において定着していることを確認した。その後、そのうちの5匹をB. adolesentis+B. pseudocatenulatum摂取群とし、0.5mlの無菌生理食塩水を摂取させ、他の5匹をB. adolesentis+B. pseudocatenulatum+1−ケストース摂取群とし、無菌生理食塩水に溶解した純度98%の1−ケストース5%溶液を0.5ml摂取させた。摂取は1週間の連続強制経口投与により行った。なお、実験に供した無菌マウスは、東海大学医学部基礎医学系感染症研究室保有系統無菌BALB/cの4週齢のオスを、B. adolesentisは、実施例1における被験者No.3から同定された細菌を、B. pseudocatenulatumは、実施例1における被験者No.5から同定された細菌を各々使用した。
摂取1週間後に糞便100mg(湿重)を採取し、それを無菌生理食塩水にて嫌気的に10−1〜10−8に希釈した後、実施例2(1)の方法に従って総ビフィズス菌数を算出した。その後、ビフィズス菌の各コロニーを各種選択培地(Mitsuoka, T. (1969): Zentralbl. Bacteriol. Parasitenkd. Infektionskr. Hyg. Abt. I. Orig. 210; 52-64)により検定し、各ビフィズス菌の定着度を解析するために各ビフィズス菌数を算出して対数表示し、1−ケストース摂取の有無によるT検定を行った。その結果を図9に示す。
図9に示されるとおり、B. adolesentisとB. pseudocatenulatumとの2種混合細菌のうち、1−ケストースの投与により定着および有意な増加が認められたのはB.pseudocatenulatumのみであり、B.adolesentisについては定着は認められたものの増加は認められなかった。
以上の実施例2から、1−ケストースの投与によるアトピー性皮膚炎の改善効果は、B. pseudocatenulatumの増加に連れて特異的に認められることがヒトにおける臨床試験において明らかとなった。さらに実施例3、4では、ヒト臨床試験およびヒト菌叢を再現したマウスにおける試験において、1−ケストースの投与によるB. pseudocatenulatumの特異的な発現、定着、増殖が認められた。これにより、1−ケストースによるアトピー性皮膚炎等のアレルギー抑制効果は、B. pseudocatenulatumの発現、定着、増殖による腸内環境叢の改善に起因することが明らかとなった。
<1−ケストースを炭素源とする各ビフィズス菌の増殖試験>
1−ケストースを炭素源として各ビフィズス菌を培養し、増殖度を測定した。ビフィズス菌は、実施例2から4において観測されなかったB.infantisを除いたB. breve(JCM1192)、B. pseudocatenulatum(JCM1200)、B. adolesentis(JCM7046)、B. bifidum(JCM1255)、B. catenulatum(JCM1194)、B. longum(JCM1217)の6種(いずれも独立行政法人理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター)を用いた。
1−ケストースを炭素源として各ビフィズス菌を培養し、増殖度を測定した。ビフィズス菌は、実施例2から4において観測されなかったB.infantisを除いたB. breve(JCM1192)、B. pseudocatenulatum(JCM1200)、B. adolesentis(JCM7046)、B. bifidum(JCM1255)、B. catenulatum(JCM1194)、B. longum(JCM1217)の6種(いずれも独立行政法人理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター)を用いた。
具体的には、各ビフィズス菌(1×106個)を純度98%の1−ケストース1%(w/v)を添加した培養液100mlに懸濁し、pH7.0,37℃にて培養した。培養液はEG培地(Merck社)を用いた。6,9,12,24時間各々培養後、各培養液を採取し、分光光度計にて550nmにおける吸光度を測定した。その結果を図10に示す。
図10に示されるとおり、B. breve JCM1192と、B. pseudocatenulatum JCM1200と、B. catenulatum JCM1194とは1−ケストース資化性が高く、B. adolesentis JCM7046とB. longum JCM1217とは1−ケストースを資化するが資化に時間を要し、B. bifidum JCM1255は1−ケストース資化性を示さなかった。なお、山森等(A. Yamamori et al: Biosci Biotecnol Biochem 2002 Jun; 66 (6):1419-22)による別試験によりB. infantisは高い1−ケストースの資化性を有することが確認されてる。これにより、B. pseudocatenulatum JCM1200は、他のビフィズス菌に比べて1−ケストースを素早く資化し、増殖して、短時間で腸内環境叢における優勢菌になることが示唆された。
<B. pseudocatenulatumの糖資化性>
次に、B. pseudocatenulatum が様々な糖についてどの程度の資化をするかについて比較測定した。糖は、グルコース、1−ケストース、ニストース、ラフィノース(いずれも和光純薬社)を各々用いた。なお、グルコースは純度99%のものを、1−ケストースは純度98%のものを、ニストースは純度99%のものを、ラフィノースは純度98%のものを、各々使用した。
次に、B. pseudocatenulatum が様々な糖についてどの程度の資化をするかについて比較測定した。糖は、グルコース、1−ケストース、ニストース、ラフィノース(いずれも和光純薬社)を各々用いた。なお、グルコースは純度99%のものを、1−ケストースは純度98%のものを、ニストースは純度99%のものを、ラフィノースは純度98%のものを、各々使用した。
方法は、実施例5と同様に行い、B. pseudocatenulatum JCM1200の生育度を分光光度計にて550nmにおける吸光度を測定した。なお、培養液に糖質を添加しないものをコントロールとした。その結果を図11に示す。
図11に示されるとおり、B. pseudocatenulatum JCM1200の糖資化性は、ラフィノースが最も高く、次いで1−ケストースとニストース、最も低いのがグルコースであった。これより、1−ケストースは、ラフィノースより若干資化性が劣り、ニストースと同程度であるが、B. pseudocatenulatum JCM1200は1−ケストースを充分に資化することが確認された。
<ビフィズス菌によるIL−10の測定試験>
IL−10は抗炎症効果を有し、近年、アレルギーを抑制する機構に関与する報告がなされ始めている。そこで、白血球の一種である末梢血単核球において、各種ビフィズス菌によるIL−10の産生誘導効果を比較測定した。ビフィズス菌は、実施例5と同様、B. infantisを除いたB. breve JCM1192、B. pseudocatenulatum JCM1200、B. adolesentis JCM7046、B. bifidum JCM1255、B. catenulatum JCM1194、B. longum JCM1217の6種を用いた。
IL−10は抗炎症効果を有し、近年、アレルギーを抑制する機構に関与する報告がなされ始めている。そこで、白血球の一種である末梢血単核球において、各種ビフィズス菌によるIL−10の産生誘導効果を比較測定した。ビフィズス菌は、実施例5と同様、B. infantisを除いたB. breve JCM1192、B. pseudocatenulatum JCM1200、B. adolesentis JCM7046、B. bifidum JCM1255、B. catenulatum JCM1194、B. longum JCM1217の6種を用いた。
具体的には、ヒト由来の末梢血単核球(PBMC)の含有液(2×107個/ml)0.5mlと上記6種の各ビフィズス菌の含有液(5×109個/ml)0.5mlとを混合し、37℃で培養した。なお、前記PBMCの含有液は、健康なヒトの末梢血より白血球分離培地(ICN Biomedicals Inc. Ohio, USA)を用いて分離を行うことにより調製した。また、培養液はRPMI1640(Seromed-Biochem KG, Berlin, Germany)を用い、ヒト由来の末梢血単核球の培養液に各ビフィズス菌の培養液を添加しないものをコントロールとした。培養後1日、培養後2日、培養後3日の各培養液を2000×gにて2分間遠心分離を行い、上清を採取した。上清中のIL−10をELISA法(Quantikine Human IL-10, R&D Systems, Inc. MN)により測定した。その結果を図12に示す。
図12に示されるとおり、全てのビフィズス菌においてIL−10の産生が誘導された。この結果から、IL−10を介してアトピー性皮膚炎が軽快化することが示された。
<B. pseudocatenulatumによるIL−10の測定試験>
前述した実施例7では、B. pseudocatenulatum JCM1200だけでなく全てのビフィズス菌においてIL−10の産生が誘導された。実施例7においてではB. pseudocatenulatum に特有の結果が得られなかった一因として、1−ケストースが関与しない実験であったことが考えられた。つまり、B. pseudocatenulatumは、実施例7で使用したJCM1200のみならず、各固体で保有する細菌によっても微妙に性質が異なるのではないかと考えた。そこで、本実施例8では、B. pseudocatenulatumの菌種レベルでのIL−10の測定を行った。
前述した実施例7では、B. pseudocatenulatum JCM1200だけでなく全てのビフィズス菌においてIL−10の産生が誘導された。実施例7においてではB. pseudocatenulatum に特有の結果が得られなかった一因として、1−ケストースが関与しない実験であったことが考えられた。つまり、B. pseudocatenulatumは、実施例7で使用したJCM1200のみならず、各固体で保有する細菌によっても微妙に性質が異なるのではないかと考えた。そこで、本実施例8では、B. pseudocatenulatumの菌種レベルでのIL−10の測定を行った。
具体的には、各ビフィズス菌の培養液として、JCM1200または実施例1および2における被験者No.1、No.3、No.5から分離したB. pseudocatenulatumの各B. pseudocatenulatumを用いて、実施例6と同様にIL−10の産生測定を行った。その結果を図13に示す。
その結果、図13に示されるとおり、JCM1200に比べて被験者No.1、No.3、No.5から分離したB. pseudocatenulatumにおいてIL−10の高い産生誘導が認められた。つまり、この結果は、1−ケストースの投与により発現した、アトピー性皮膚炎改善効果と相関を示すB. pseudocatenulatumにおいてIL−10の産生が誘導されたことを示している。
以上のような本実施形態の腸内環境叢組成物、アレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤によれば、腸内ビフィズス菌のうち、B. pseudocatenulatumを特異的に増加させて腸内環境の改善に寄与することにより、アレルギーの予防や治療の効果を奏する。さらに、B. pseudocatenulatumは1−ケストースを効率良く資化することが可能であり、抗炎症効果を有するIL−10の産生増加作用も有している。
特に乳幼児のアトピー性皮膚炎の改善に対応したB. pseudocatenulatumの有意な発現および定着、増殖作用が認められ、アトピー性皮膚炎の改善効果をもつ。
なお、本発明に係る腸内細菌叢改善組成物、アレルギー抑制組成物、およびアレルギー抑制剤は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
例えば、本実施形態で使用した1−ケストースを主とするオリゴ糖には、他の組成としてニストースおよびショ糖が含有されているが、これに限られるものではなく、1−ケストース結晶そのものはもちろん、あらゆる素材と任意の比率で混合することができる。例えば、有用生菌素材やきのこ由来多糖類その他有用物質との組み合わせが可能である。特にビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとの組み合わせが有用である。また、ヨーグルトに代表される乳酸菌発酵食品に供用することもできる。また、アレルギー抑制組成物を含有する食品等にも応用することが可能である。例えば、1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを含む菓子等が挙げられる。
Claims (8)
- 1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を発現させることを特徴とする腸内細菌叢改善組成物。
- 1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを定着させることを特徴とする腸内細菌叢改善組成物。
- 1−ケストースを有効成分として含有する腸内細菌叢改善組成物であって、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムを増殖させることを特徴とする腸内細菌叢改善組成物。
- 請求項1から請求項3のいずれかの腸内細菌叢改善組成物とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有するアレルギー抑制組成物。
- 請求項4において、インターロイキン10の産生増加作用を備えることを特徴とするアレルギー抑制組成物。
- 請求項4または請求項5において、乳幼児のアトピー性皮膚炎改善作用を備えることを特徴とするアレルギー抑制組成物。
- 請求項4から請求項6のいずれかにおいて、前記ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムが1−ケストースの投与により発現したものであることを特徴とするアレルギー抑制組成物。
- 1−ケストースとビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタムとを有効成分として含有することを特徴するアレルギー抑制剤。
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