JP2009156405A - 等速自在継手 - Google Patents

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Abstract

【課題】サイドフランジのステム部の雄スプライン部での引張応力とせん断応力の双方の応力集中を緩和させて雄スプライン部の疲労強度を高める
【解決手段】サイドフランジのステム部の外周に雄スプライン部Smを形成する。雄スプライン部Smの谷部21のうち、反軸端側の部分に、外径寸法を反軸端側に向けて徐々に拡径させた拡径部21bを設ける。拡径部21bの円周方向両側に断面円弧状のアール部21b1を設け、このアール部21b1の曲率半径を反軸端側に向けて徐々に大きくする。
【選択図】図2

Description

本発明は、二軸間の角度変位を許容しながらトルクを等速伝達する等速自在継手に関する。
近年、環境問題に対する関心の高まりから、例えば自動車では排ガス規制の強化や燃費向上等が強く求められており、それらの対策の一環として、ドライブシャフト、プロペラシャフト等に使用される等速自在継手にもさらなる軽量化・強度向上が強く求められている。この種の等速自在継手に設けられたステム部の外周に雄側のスプラインが形成されると共に、雌側部材(例えばデファレンシャルギヤ)の内周に雌側のスプラインが形成され、このステム部の外周の雄スプライン部と雌側部材の内周の雌スプライン部とが嵌合することにより、等速自在継手と雌側部材とがトルク伝達可能に結合される。このステム部は、例えば、フランジ部及びステム部を有するサイドフランジを外側継手部材に固定することにより設けられる(例えば特許文献1参照)。
雄スプライン部を有するステム部には強度が要求されるため、通常は、素材として鋼を用い、雄スプライン部を転造加工やプレス加工などによって成形した後、少なくとも雄スプライン部を焼入れ硬化させて使用される。成形後の焼入れ硬化の方法としては、高周波焼入れによることが多いが、ずぶ焼入れや浸炭焼入れによる場合もある。
図8は、谷部100の反軸端側(図面左側)の端部を、外径寸法を徐々に拡径させた拡径部102を介して外周面(平滑部)101につなげた、いわゆる切上がりタイプの雄スプライン部を示す平面図である。この形態の雄スプライン部の疲労破壊は、通常、谷部100と拡径部102のつなぎ目付近もしくは拡径部102で生じる。その際のき裂発生モードは2つあり、1つはA部に集中する引張応力によるもの、もう一つはB部に集中するせん断応力によるものである。鋼の場合、目安としてビッカース硬さ700を境に、それ以下ではき裂発生が主としてせん断応力支配となり、それ以上でかつ片振り捩り疲労の場合は引張応力支配となる。
これまで、雄スプライン部の疲労強度を向上させるための手段として、いくつかの方法が提案されている。例えば特許文献2では、拡径部と歯面の境界を鈍化させて応力集中を緩和する技術が開示されている。また、特許文献3では、通常は一つの拡径部を軸方向に2つ以上並べて設けた高強度化技術が開示されている。
特開2007−56945号公報 特開2005−147367号公報 特表平11−514079号公報
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、引張応力集中の緩和には効果が認められるが、せん断応力集中の緩和効果は不充分である。また、特許文献3の技術では、せん断応力集中の緩和はできるが、引張応力集中の緩和効果は不充分である。このように、き裂発生を支配する2つの応力のどちらか一方を緩和できる技術は存在するが、双方を同時に緩和する技術は存在せず、さらなる疲労強度向上を実現するためには改良の余地があった。
そこで、本発明では、等速自在継手に設けられたサイドフランジのステム部の雄スプライン部での引張応力とせん断応力の双方の応力集中を緩和させて、雄スプライン部の疲労強度の向上させることを目的とする。
本発明者らは、平行部に切欠きを有する試験片を製作し、これを回転曲げ疲労試験と捩り疲労試験にそれぞれ供して、応力集中係数と疲労強度との関係を求めた。
試験片としては、図9に示す化学成分の同一ロットの中炭素鋼を用い、図10aおよび図11aに示す形状および寸法(単位mm)の試験片を製作した。図10aは回転曲げ疲労試験の試験片であり、図11aは捩り疲労試験の試験片である。回転曲げ疲労試験の試験片では、切欠き先端の曲率半径を0.10、0.15、0.25、0.50、1.40の5水準とし、それぞれの応力集中係数αを3.5、3.0、2.5、2.0、1.5に設定した(図10c参照)。捩り疲労試験の試験片では、切欠き先端の曲率半径を0.15、0.25、0.50、1.40の4水準とし、それぞれの応力集中係数αを3.0、2.5、2.0、1.5に設定した(図11c参照)。これら全ての試験片に対し、切欠きを含む平行部に高周波焼入れを施した後に低温焼戻しを施した。何れの試験片も熱処理後の表面硬度は約HV650であった。
先ず、回転曲げ疲労試験は、小野式回転曲げ疲労試験機により、常温大気中で負荷周波数50Hzにて行った。
回転曲げ疲労試験の結果、切欠きの水準によらず、切欠き底に沿ってき裂が発生して破断に至った。この場合のき裂発生モードは引張応力支配となる。破断に至るまでの負荷回数が105を越える辺りまでは、応力振幅の減少に伴って疲労曲線が降下し、応力振幅が一定値を下回ると破断しなくなる明瞭な疲労限現象を示した。なお、ここでの応力振幅は、切欠きの水準によらない公称応力振幅のことで、切欠き底直径(φ6.5mm)を有する平滑丸棒に疲労試験と同じ大きさの曲げモーメントを与えた時に表面に作用する最大引張応力振幅を意味する。
図12に、上記回転曲げ疲労試験で得られた応力集中係数ασと疲労限強度との関係を示す。図示のように、ασの減少に伴って疲労強度は向上したが、図中に破線で示すように、ασ≦2.7では疲労曲線の勾配が大きく、ασを減少させた時の疲労強度の向上がより顕著に現れることが判明した。
次に、捩り疲労試験は、電気式油圧サーボ疲労試験機により、トルク制御にて、常温大気中で負荷周波数2Hz、完全両振り(応力比R=−1)の条件で行った。
捩り疲労試験の結果、切欠きの水準によらず、切欠き底に沿ってき裂が発生して破断に至った。この場合のき裂発生モードはせん断応力支配となる。両振り捩り疲労試験は負荷回数が最大で106回近くになるまで行ったが、その範囲では応力振幅の減少に伴って、疲労曲線が降下した。なお、ここでの応力振幅は、切欠きの水準によらない公称応力振幅のことで、切欠き底直径(φ17mm)を有する平滑丸棒に疲労試験と同じ大きさの捩りトルクを与えた時に表面に作用する最大せん断応力振幅を意味する。
図13に、上記両振り捩り疲労試験で得られた応力集中係数ατと105回における疲労強度との関係を示す。図示のように、ατの減少に伴って疲労強度は向上したが、図中に破線で示すように、ατ≦2.1では疲労曲線の勾配が大きく、ατを減少させた時の疲労強度の向上がより顕著に現れることが判明した。
以上から、き裂発生が引張応力、せん断応力のどちらに支配される場合であっても応力集中緩和によって疲労強度が向上し、特に引張応力に対してはασ≦2.7で、また、せん断応力に対してはατ≦2.1でより応力集中の緩和効果が高まることが判明した。従って、双方の破損モードで疲労破壊する雄スプライン部の拡径部においては、そこに集中する第1主応力の最大値σ1maxを基準応力τ0の2.7倍以下(σ1max≦2.7τo)、軸方向のせん断応力の最大値τθzmaxを基準応力τ0の2.1倍以下(τθzmax≦2.1τ0)となるよう形状をチューニングすることが望ましい。ここで、基準応力τ0は、トルクTと、図6に示す雄スプライン部の谷部底の直径doと、雄スプライン部の内径di(雄スプライン部が中空の場合。中実の時はdi=0となる)とに対し、以下で与えられる値である。
τ0=16Tdo/[π(do 4−di 4)]
本発明者らが拡径部の形状を種々チューニングした結果、雄スプライン部の拡径部の円周方向両側にアール部を設け、アール部の曲率半径を反軸端側に向けて徐々に大きくすれば、σ1max≦2.7τo、およびτθzmax≦2.1τ0を満足できることが判明した。
次に、図10(a)および図11(a)の切欠き疲労試験片と同じ成分(図9参照)の素材を用いて、両軸端に雄スプライン部を有するシャフト形状試験片を製作し(図17a参照)、この試験片を用いて両振り捩り疲労試験および片振り捩り疲労試験を行った。試験片は、図17bに示すインボリュートスプライン諸元に準じ、拡径部の形状を本発明品相当と従来品相当とした2種類を製作した。これら試験片には、その全体に大気中の同一条件で高周波焼入れおよび焼戻しが施されている。両振り捩り疲労試験は850〜1300Nmの範囲の4水準の捩りトルク振幅で行い、片振り捩り疲労試験は1250〜2000Nmの範囲の4水準の最大捩りトルクを付与している。図18に両振り捩り疲労試験で得られたT/N線図、図19に片振り捩り疲労試験で得られたT/N線図を示す。両図からも明らかなように、本発明品では、従来品に対して両振り捩り疲労および片振り捩り疲労の双方で大幅な疲労強度の向上を達成することができる。
次に、図28に示すサイドフランジを模擬した試験片を製作し、片振り捩り疲労試験を行った。図28(a)は試験片の側面図を示し、図28(b)は試験片の正面図を示す。この試験片は、一端にフランジ部、他端にステム部を有し、ステム部の端部に雄スプライン部が転造成形されている。フランジ部にはピッチ円直径110mmで直径8mmの穴を6等配している。このような試験片の雄スプライン部の拡径部の形状や材料等を異ならせた実施品1〜3及び比較品を用意し、これらの試験片の水準を図29に示す。各試験片には高周波焼入れ焼き戻し処理が施されている。各試験片を、一端に設けたフランジ部をボルトで試験機に固定すると共に、他端に設けた雄スプライン部を円盤状の治具(図示省略)の中央に形成した雌スプライン部と嵌合させることにより試験機に取り付け、この状態で片振り捩り疲労試験を行った。この試験は、最大捩りトルクを1250〜2000Nmの範囲の4水準とし、トルク制御で行った。負荷波形はサイン波とし、負荷周波数は負荷トルク振幅に応じて0.5〜3.0Hzの範囲で設定した。
図30に上記のサイドフランジ模擬試験片の片振り捩り試験で得られたT/N線図を示す。この図より、雄スプライン部の切り上がり部を本発明相当形状とした実施品1〜3は全てスプライン部横の平滑部から破断したのに対し、比較品は全てスプライン部から破断した。この試験結果から、雄スプライン部の切り上がり部を本発明相当形状とすることで雄スプライン部における疲労強度が向上し、雄スプライン部からの破断を抑制できることが明らかとなった。
以上から、本発明は、以下の事項によって特徴付けられるものである。
(I)内側継手部材と、内周に内側継手部材を収容した外側継手部材と、フランジ部及びステム部を有し、フランジ部を外側継手部材に固定したサイドフランジとを備え、サイドフランジのステム部の外周に雄スプライン部が形成され、雄スプライン部の谷部の軸方向一端側にその外径寸法を徐々に拡径させた拡径部が設けられた等速自在継手において、前記雄スプライン部の拡径部の円周方向両側にアール部を設け、アール部の曲率半径を軸方向一端側に向けて徐々に大きくする。
(II)トルクTが負荷されたときに、雄スプライン部の拡径部に作用する第1主応力、および軸方向のせん断応力の最大値をそれぞれσ1max、τθzmaxとし、トルクT、雄スプライン部の谷部の直径do、雄スプライン部の内径diに対し、1)式で与えられる基準応力τ0とするとき、下記2)式と3)式を同時に満たすようにする。
τ0=16Tdo/[π(do 4−di 4)] …1)
σ1max≦2.7τo …2)
τθzmax≦2.1τ0 …3)
本発明者が検証したところ、以上の構成においては、アール部の曲率半径の増加率をdR/dL、拡径部の軸方向断面の小径端と大径端を結ぶ直線の角度をθとするとき、それぞれの値を0.05≦dR/dL≦0.60、および5°≦θ≦20°の範囲に設定すれば上記2)式と3)式を満たすことが判明した。
また、サイドフランジを形成する鋼のCの含有量は、以下の範囲内であることが望ましい。すなわち、Cは焼入性への影響が最も大きい元素であり、高周波焼入後の硬化層の硬さ及び深さを高めて強度向上に有効に寄与するため、従来はサイドフランジの疲労強度を確保するためにCの含有量が0.48%以上の素材を用いる場合が多かった。本発明では、雄スプライン部を上記の形状とすることにより雄スプライン部の疲労強度の向上が図られるため、従来よりも少ないCの含有量で要求される強度を維持することができる。しかしながら、Cの含有量が0.40%に満たないと、必要とされる強度を確保するために硬化層比(熱処理後の硬化層深さの軸半径に対する比)をかなり大きくしなければならず、焼き割れの発生が顕著となる等の不具合が生じるおそれがある。一方、Cを0.45%を超えて含有させると鍛造性が低下するため、鍛造温度を高温に設定しなければならない上、切削性や耐焼き割れ性も低下する。以上より、Cの含有量は0.40%〜0.45%の範囲内であることが望ましい。
従来品のようにCの含有量が0.48%以上の素材を用いてサイドフランジを形成する場合、高温の加熱温度(例えば約1100℃程度)による熱間鍛造で行われることが多い。この場合、鍛造後のフェライト粒度は粒度番号3〜5程度と大きくなり、中には粒度番号1や2のものが混在することがある。本発明では、雄スプライン部を所定の形状として雄スプライン部の強度を向上させることにより、上記のようにCの含有量を従来よりも少なくすることができるため、サイドフランジの鍛造性を向上させることができ、鍛造時の加熱温度を低く設定することができる。これにより、鍛造後のフェライト粒度を小さくすることができ、具体的には粒度番号7以上のものを得ることができる。このように、粒度の小さい素材が得られることにより、従来粒度を小さくして品質を安定化させるために行われていた焼準工程を廃止することができ、これにより網目状フェライト組織を得ることができる。
以上のように、本発明によれば、等速自在継手のサイドフランジに形成した雄スプライン部での引張応力とせん断応力の双方の応力集中を緩和させて雄スプライン部の疲労強度を高めることができる。
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1(a)に、本発明に係る等速自在継手としてのトリポード型等速自在継手1を示す。このトリポード型等速自在継手1は、例えば自動車のリアのデファレンシャルギヤ(図示省略)と動力伝達シャフト2との間に装着され、これらの角度変位及び軸方向変位を許容しながらトルクを等速伝達するものである。
トリポード型等速自在継手1は、動力伝達シャフト2に結合される内側継手部材3と、内側継手部材3の外径側に配置される外側継手部材4と、内側継手部材3と外側継手部材4との間でトルクを伝達する転動体としてのローラ5と、外側継手部材4に固定されたサイドフランジ6と、外側継手部材4の開口部を覆うブーツ7とを主要構成要素とする。内側継手部材3の円周方向三箇所には、脚軸3aが突設されている。外側継手部材4の内周の円周方向三等分位置には軸方向に延びるトラック溝4aが形成され、このトラック溝4aをローラ5が転動する。外側継手部材4の外周には、ボルト穴が形成されたフランジ部材4bが溶接等により取り付けられる。尚、等速自在継手1の転動体の数を、動力伝達シャフト2の反対側の端部に装着される等速自在継手(図示省略)の転動体の数と互いに素となるようにすると、自動車のNVH特性を向上させることができる。
サイドフランジ6は、一端にフランジ部6aを有し、他端にステム部6bを有する形状を成した鍛造成形品である。サイドフランジ6は、Cを0.40%〜0.45%含む鋼で形成され、鍛造後のフェライト粒度は粒度番号7以上であり、鍛造後の組織は網目状フェライト組織を成している。フランジ部6aは、図1(b)に示すように花冠状を成し、外側継手部材4のフランジ部材4bのボルト穴と対応する位置(図1(b)では円周方向等間隔の6箇所)にボルト穴が形成される。ステム部6bの先端には、雄スプライン部Smが形成される。サイドフランジ6のフランジ部6aと外側継手部材4のフランジ部材4bとがボルト締結されると共に、サイドフランジ6の雄スプライン部SmをデファレンシャルギヤDeの内周に形成した雌スプライン部Sfと嵌合させることにより、デファレンシャルギヤと外側継手部材4とがトルク伝達可能に結合される(図3参照)。
図2、図3、および図6に示すように、トリポード型等速自在継手1のサイドフランジ6のステム部6bに形成された雄スプライン部Smは、軸方向に延びる谷部21と山部22とを円周方向に交互に有する。この実施形態の雄スプライン部Smは、転造加工で形成されたいわゆる切上りタイプで、各谷部21は、軸方向で同径寸法のストレート部21aと、その反軸端側に形成された拡径部21bとで構成される。各山部22も同様に、軸方向で同径寸法のストレート部22aと、その反軸端側に形成された縮径部22bとで構成される。図4に示すように、拡径部21bと縮径部22bの始端は軸方向で同じ位置にあり、かつその終端も軸方向で同じ位置にある。この雄スプライン部Smは冷間鍛造で成形することもでき、この場合は、通常、山部22の縮径部22bは形成されず、山部22の反軸端側は全体が同一外径寸法となる。成形後の雄スプライン部Smには、高周波焼入れ等による熱処理が施される。
図3に示すように、雌スプライン部Sfの谷部31は、同径寸法で反軸端側の端部まで形成されている。一方、山部32は、小径部32a、大径部32b、小径部32aと大径部32bの間の立ち上り部32cを有する。大径部32bの内径寸法は、雄スプライン部Smの山部22の最大外径寸法(ストレート部22aの外径寸法)よりも小さく、雄スプライン部Smの反軸端側に形成されたステム部6bの平滑部25の外径寸法よりも大きい。
雄スプライン部Smと雌スプライン部Sfとを互いに嵌合させると、雄スプライン部Smの歯面23と、雌スプライン部Sfの歯面(図示省略)とが強く圧接する。この時の両歯面の嵌合部(散点模様で表す)は、図3に示すように、拡径部21bの外径側領域にも及んでいる。
なお、図3では、拡径部21bおよび縮径部22bの軸方向断面を何れも直線的なテーパ状に形成した場合を例示しているが、両者の軸方向断面を曲線状に形成することもできる。また、直線状と曲線状の複合形状とすることもできる。
図2に示すように、本発明において雄スプライン部Smの拡径部21bは、その円周方向両側に形成されたアール部21b1(散点模様で示す)と、アール部21b1の間に形成された平面状の平坦部21b2とで構成される。アール部21b1は半径方向断面が円弧状をなし、その円周方向両側は歯面23および平坦部21b2に滑らかにつながっている。
図4は、雄スプライン部Smのうち、拡径部21b付近を示す平面図、図5a〜図5dは、図4におけるA−A線、B−B線、C−C線、D−D線の各断面図である。図5aに示すように、谷部21のストレート部21aと歯面23とをつなぐアール部の曲率半径RAは、拡径部21bとの境界部に至るまで一定である。図5b〜図5dに示すように、拡径部21bでは、アール部21b1の曲率半径が、境界部の曲率半径RAよりも大きく、かつ反軸端側ほど徐々に大きくなっている(RA<RB<RC<RD)。また、図4に示すように、アール部21b1の境界線が山部の稜線と交わって歯面23が無くなる位置までは、アール部21b1の円周方向の幅寸法は反軸端側(図面上方)に向けて徐々に拡大し、これを超えると幅寸法は徐々に縮小している。平坦部21b2の円周方向の幅寸法も反軸端側に向けて徐々に拡大している。
図4中のLは、拡径部21bのアール部21b1において、その曲率半径の中心を通る線の方向にとった座標を示す。アール部21b1の曲率半径の増加率は、dR/dLで表され、本実施形態ではdR/dL=0.18に設定している。また、図4中のθは、拡径部21bの軸方向断面の小径端と大径端を結ぶ直線の傾斜角を表し、本実施形態ではθ=8.3°に設定している。
図14〜図16に、上記特許文献1(特開2005−147367号公報)に記載された雄スプライン部Sm’、すなわち、拡径部21b’と歯面23’の境界にアール部21b1’を形成し、かつアール部21b1’の曲率半径を軸方向全長にわたって一定とした雄スプライン部Sm’を示す(なお、図14〜図16では、図2〜図4に表された部位と対応する部位に(’)を加えた同一符号を付している)。
図2に示す雄スプライン部Sm(本発明品)と図14に示す雄スプライン部Sm’(従来品)のそれぞれについてFEM解析を行い、それぞれについて第1主応力の最大値σ1maxとせん断応力の最大値τθzmaxを求め、これらを上記基準応力τ0で除した値を算出した。
このFEM解析は、3次元線形弾性解析であり、解析ソフトとして “I-deas Ver.10"を使用した。解析モデルは、図20に示すように、雄スプライン部Sm、Sm'の1つの谷部21、21'を含む線形弾性体で、モデル長は100mmである。図21に、この解析モデルに付したメッシュを示す。各要素は4面体二次要素で、総要素数は約20万個、総接点数は約30万個である。要素長は、主要部分P(雄スプライン部Sm、Sm'を含む部分で)で0.2mm以下とし(最小要素長は0.05mm)、主要部分P以外で0.5mmとした。図22は、主要部分Pのメッシュを拡大して示す図であり、同図(a)が図2に対応した本発明品を表し、同図(b)が図14に対応した従来品を表す。図23に示すように、解析モデルの反軸端側端面MにRigid要素を作成し、この端面Mの中心軸O上にトルクTを負荷した。但し、モデルとして、1/歯数モデルを使用しているので、負荷トルクは、実際のトルクの1/歯数である。図24に示すように、解析モデルは、谷部21の中心を通る半径方向軸を対称軸とした形状で、円周方向の両側面Wの全節点を周期対称としている。なお、図25に示すように、解析モデルの相手部材との接触面(散点模様で示す)では、その法線方向の変位が拘束されている。
第1主応力σ1の解析結果を図26に示し、軸方向せん断応力τθzの解析結果を図27に示す。なお、図26および図27の何れでも、(a)図が本発明品モデルを表し、(b)図が従来品モデルを示す。なお、両図中の基準応力τ0は、トルクT、雄スプライン部Smの谷部の直径do、雄スプライン部の内径diに対し、τ0=16Tdo/[π(do 4−di 4)]なる式で与えられる。
以上の解析結果から、従来品では、σ1max/τ0=3.03であるのに対し、本発明品では、σ1max/τ0=2.48となり、従来品より引張応力に対する応力集中の緩和効果が高まることが判明した。これは、本発明品では、歯面23の終端近傍におけるアール部21b1の曲率半径が、従来品の対応部位での曲率半径よりも大きくなるためと考えられる。先に説明したように、引張応力に対する応力集中係数ασが2.7以下であれば、応力集中の緩和効果が顕著となるので、σ1max/τ0≦2.7の本発明品であれば、従来品に比べ、引張り応力に対する疲労強度を大幅に増大させることが可能である。
また、従来品では、τθzmax/τ0=2.28であるのに対し、本発明品ではτθzmax/τ0=1.74となり、従来品より軸方向のせん断応力に対する応力集中の緩和効果も高まることが判明した。上記のとおり、せん断応力に対する応力集中係数ατが2.1以下であれば、応力集中の緩和効果が顕著となるので、τθzmax/τ0≦2.1である本発明品は、従来品に比べ、せん断応力に対する疲労強度を大幅に向上させることができる。このように本発明によれば、雄スプライン部Smで引張応力およびせん断応力の双方に対して高い応力集中緩和効果を得ることができる。従って、サイドフランジ6のステム部6bの疲労強度を高めることができる。
本発明者がさらに解析したところ、図4に示すアール部21b1の曲率半径の増加率dR/dLが0.05≦dR/dL≦0.60であり、かつ拡径部21bの傾斜角θが5°≦θ≦20°の範囲であれば、σ1max/τ0≦2.7、τθzmax/τ0≦2.1を満足できることが判明した。
図14に示すように、従来品では、最大せん断応力τθzmaxが拡径部21b’の起点の中心線上で生じる。このように、中心線上で最大せん断応力が発生すると、ステム部6bが正逆両方向のトルクを伝達する際、正逆何れの回転時にも同じ部位に最大せん断応力が生じるため、それだけ疲労破壊が進展し易くなる。これに対し、本発明品では、最大せん断応力τθzmaxは、図2に示すように、拡径部21bの起点よりも反軸端側の双方のアール部21b1で生じる。そのため、正回転時と逆回転時で最大せん断応力の発生部位が異なり、従って、疲労破壊の進展速度も抑制することが可能となる。以上から、本発明品は、トルクの伝達方向が頻繁に切り替わる用途、例えば車両の前進・後退に応じてトルク伝達方向が反転するような用途に特に好適なものとなる。
以上に述べたアール部21b1を有する拡径部21bは、転造加工時に使用する転造ラックに、当該拡径部21bに対応した形状の成形部を形成することにより、雄スプライン部Smの歯と同時に形成することができる。雄スプライン部をプレス加工で冷間鍛造する場合も同様に、プレス加工用のダイスに拡径部21bの形状に対応した成形部を予め形成することにより、雄スプライン部Smの歯と同時にアール部21b1を成形することができる。
図7に本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、雄スプライン部Smもしくは雌スプライン部Sf(図面では雄スプライン部Sm)のうち、何れか一方の歯に軸心方向に対して捩れ角βを持たせた実施形態であり、嵌合後の両スプライン部Sm、Sf間のガタ詰めに有効な手法である。捩れ角βを設けた場合、トルク伝達側の歯面同士の接触圧力が高まり、これに伴って拡径部に集中する引張応力、せん断応力も高くなるため、疲労強度の低下を招く。この観点から、従来品では、捩れ角βは実質15°が限度とされてきた。これに対し、本発明品では、上記のとおり動力伝達スプラインの疲労強度を大幅に高めることができるので、15°以上の捩れ角βをとることができ、高いガタ詰め効果を得ることが可能である。
上述の実施形態では、雄スプライン部Smとして、拡径部21bの円周方向幅を反軸端側で徐々に拡大させたいわゆる「槍形タイプ」を例示しているが、これに限らず、拡径部21bの円周方向幅を一定にしたいわゆる「舟形タイプ」の雄スプライン部Smに本発明を適用することもできる。この場合も、拡径部21bの円周方向両側にアール部を設け、かつアール部の曲率半径を反軸端側ほど徐々に大きくすることにより、本発明と同様の効果が得られる。
また、上述の実施形態では、本発明がトリポード型等速自在継手に適用される場合を示しているが、これに限らず、例えばクロスグルーブ型、ダブルオフセット型等の摺動型等速自在継手や、ツェッパ型等の固定型等速自在継手に本発明を適用することもできる。
本発明にかかる等速自在継手の断面図である。 サイドフランジの正面図である。 サイドフランジのステム部に形成された雄スプライン部のうち、反軸端側部分(図1符号X部)を示す斜視図である。 図1の符号X部を拡大して示す断面図である。 (a)図は雄スプライン部の反軸端側部分を示す平面図であり、(b)図は(a)図中のY−Y線断面図である。 (a)図は、図4(a)中のA−A線断面図、(b)図は同B−B線断面図、(c)図は同C−C線断面図、(d)図は同D−D線断面図である。 雄スプライン部の周方向断面図である。 捩れ角を有する雄スプライン部の概略構成を示す平面図である。 雄スプライン部の平面図である。 疲労試験で使用する試験片の化学組成を示す表である。 回転曲げ疲労試験の試験片を示す側面図である。 上記試験片の切欠き部Aを拡大した側面図である。 切欠き部の寸法と応力集中係数の関係を示す表である。 捩り疲労試験の試験片を示す側面図である。 上記試験片の切欠き部Aを拡大した側面図である。 切欠き部の寸法と応力集中係数の関係を示す表である。 回転曲げ疲労試験で求めた疲労限強度の測定結果を示す図である。 捩り疲労試験で求めた105回における捩り疲労強度の測定結果を示す図である。 従来の雄スプライン部の反軸端側部分を示す斜視図である 従来の雄スプライン部の反軸端側部分を示す断面図である。 従来の雄スプライン部の反軸端側部分を示す平面図である。 試験片を示す側面図である。 試験片のインボリュートスプライン緒元を示す表である。 両振り捩り疲労試験で得られたT/N線図である。 片振り捩り疲労試験で得られたT/N線図である。 FEM解析モデルを示す斜視図である。 メッシュを付した解析モデルを示す斜視図である。 (a)図は、メッシュを付した本発明品の主要部分Pの斜視図であり、同図(b)が同じく従来品の主要部分Pの斜視図である。 解析モデルの反軸端側の端部の斜視図である。 図20の矢印方向から見た解析モデルの正面図である。 解析モデルの斜視図である。 第1主応力の解析結果を示す図である。 軸方向せん断応力の解析結果を示す図である。 試験片の正面図である。 試験片の側面図である。 試験片の仕様を示す表である。 片振り捩り疲労試験で得られたT/N線図である。
符号の説明
1 トリポード型等速自在継手
2 動力伝達シャフト
3 内側継手部材
4 外側継手部材
4a トラック溝
4b フランジ部材
5 ローラ
6 サイドフランジ
6a フランジ部
6b ステム部
7 ブーツ
21 谷部
21a ストレート部
21b 拡径部
21b1 アール部
21b2 平坦部
22 山部
22a ストレート部
22b 縮径部
23 歯面
25 平滑部
Sf 雌スプライン部
Sm 雄スプライン部

Claims (6)

  1. 内側継手部材と、内周に内側継手部材を収容した外側継手部材と、フランジ部及びステム部を有し、フランジ部を外側継手部材に固定したサイドフランジとを備え、サイドフランジのステム部の外周に雄スプライン部が形成され、雄スプライン部の谷部の軸方向一端側にその外径寸法を徐々に拡径させた拡径部が設けられた等速自在継手において、
    雄スプライン部の拡径部の円周方向両側にアール部を設け、アール部の曲率半径を軸方向一端側に向けて徐々に大きくしたことを特徴とする等速自在継手。
  2. トルクTが負荷されたときに、雄スプライン部の拡径部に作用する第1主応力、および軸方向のせん断応力の最大値をそれぞれσ1max、τθzmaxとし、トルクT、雄スプライン部の谷部の直径do、雄スプライン部の内径diに対し、1)式で与えられる基準応力τ0とするとき、下記2)式と3)式を同時に満たす請求項1記載の等速自在継手。
    τ0=16Tdo/[π(do 4−di 4)] …1)
    σ1max≦2.7τo …2)
    τθzmax≦2.1τ0 …3)
  3. アール部の曲率半径の増加率をdR/dL、拡径部の軸方向断面の小径端と大径端を結ぶ直線の角度をθとするとき、それぞれの値が
    0.05≦dR/dL≦0.60、
    5°≦θ≦20°
    の範囲にある請求項2記載の等速自在継手。
  4. サイドフランジを形成する鋼のCの含有量を0.40〜0.45%の範囲内とした請求項1記載の等速自在継手。
  5. サイドフランジを形成する鋼の鍛造後のフェライト粒度が粒度番号7以上である請求項4記載の等速自在継手。
  6. サイドフランジを形成する鋼の鍛造後の組織が網目状フェライト組織である請求項5記載の等速自在継手。
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