JP2009153395A - 微生物細胞の生理状態評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。
【選択図】なし
Description
本発明は、フローサイトメーターを用いた、微生物細胞のバイアビリティおよびバイタリティの両方を同時に測定して解析し得る、微生物細胞集団の生理状態の評価方法に関する。
酵母のような微生物を用いて発酵、醸造や物質生産をする場合に、生産にこれから用いようとする微生物細胞の生理状態を予め把握しておくことは、発酵の成否を予見し、高品質で安定した製品を得る観点から、極めて重要である。
本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、前記したように、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。ここで、微生物細胞の生理状態評価とは、微生物の細胞活性の良否と、細胞の生死の状態に基づく、評価のことを言う。
例えば、酵母であれば、測定した酵母細胞内pH値を当該酵母本来のもしくは固有の細胞内pH値(活性の低下のない本来の高い活性を有する酵母を活性測定に用いた場合に得られる細胞内pH値)と比較し、その差が小さいものほど活性が高いと判定することができる。この値は、微生物の種類および使用する低pH値により異なり得るが、通常は例えば酵母で4.8〜6.5程度であり、乳酸菌、ビフィズ菌で6〜8程度である。また、得られた細胞内pH値を所定値と比較して、例えば所定値を酵母で6.0、乳酸菌、ビフィズス菌で6.5と設定してこの所定値と比較してこれより高いものを活性が高いと判定することができる。このような判定法を用いれば、例えば微生物(特に食品用の酵母、細菌)を産業上の目的で発酵等に利用する場合において、本発明による微生物活性評価を実施し、例えば所定値より低いpH値が得られたとき、あるいは測定されたpH値と微生物本来の細胞内pH値ととの差がある一定値以上になった時はその細胞を使用しないことにより、常に活性の高い細胞のみを利用することができる。
具体的には、3種類の蛍光波長のうち660nmの蛍光強度をX軸に取り、その頻度を表すグラフを作成する。DNA染色色素の染色で陽性となる死細胞と表記したエリアに死滅細胞が示される。このグラフから、生死細胞分布がわかる。
ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)として、酵母1(新鮮酵母)と酵母2(劣化酵母)の2種類のサンプルを用意した。
メッシュ(サイズ:70μm)を通して大きなデッケ分を取り除いた酵母を2ml分取し、MESバッファ(pH6.2、50mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、NaCl 110mM、KCl 5mM、MgCl2 1mM)で洗浄した。その後、以下の条件で酵母へ各試験区の試薬(色素)を添加した。
試験区A: 終濃度1mM 5(6)カルボキシフルオレセインジアセテート
試験区B: 終濃度10μM TO−PRO 3
試験区C: 前記試験区AおよびB同時
この内、従来の蛍光光度計での測定は、具体的には、特公平3−24442号公報および特願平5−76393号公報に記載されている条件に従い、蛍光光度計(島津製作所性、分光蛍光光度計「RF−500」)で2波長の励起光(441および488nm)に対する518nmにおける蛍光強度を計測し、その蛍光強度の比をとり、予め作成した検量線より細胞内pHを求めた。
図3〜6は、酵母1(新鮮酵母)についての結果であり、図3および図4は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図5および図6はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
また、図7〜10は、酵母2(劣化酵母)についての結果であり、図7および8は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図9および図10はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
これらの結果から、試験区Aと試験区C、試験区Bと試験区Cのデータに差がないことがわかった。従って、カルボキシフルオレセインジアセテート単独、TO−PRO 3単独の染色と、同時染色とでは、細胞内pH並びに生死細胞分布の計測値に差がなく、同時に解析が可能であることが確認された。
実施例1と同様に、ビール酵母を用意して、メッシュを通して大きなデッケを取り除いた。酵母を蒸留水で2回洗浄し、遠心して上清を捨て3mlにした酵母に対し、SDS溶液(50mM Tris,5%SDS,pH9.0)を7ml加えて、振盪攪拌機(vortex)を用いて混合した。これを37℃で15分インキュベーションし、5%SDS溶液(pH9.0)で6日間(1回/日)洗浄して死滅酵母とした。
その後、メチレンブルー(MB)法、およびTO−PRO3染色により酵母死滅率を確認し、別途用意した新鮮酵母と混合することによって、死滅酵母率0%、25%、50%、75%、および90%の各酵母サンプルを調製した。
調製済みの酵母をそれぞれ、実施例1の要領で蛍光光度計での測定とメチレンブルー法による死滅率測定、フローサイトメーターにより細胞内pHと死滅率を同時測定・解析すると共に、発酵試験に供した。
発酵試験は、麦汁を用いて9℃で発酵させ、7日間サンプリングを行った。
表1では混合した酵母細胞の死滅率を各測定法について比較した結果を示す。
図11は、フローサイトメーターによる解析結果を示す。図11の左の列は細胞内pH、右の列は660nmの蛍光強度の分布であり、細胞生死判別の結果を示す。図の上から順に、上記の死滅酵母率を有するサンプルにそれぞれ対応する。
図12は、発酵試験の糖消費の経過を示す。従来のように細胞内pHのみの測定では、生細胞のみを対象としたため、細胞内pHがほぼ同じような分布を示してしまうため、図12のような糖消費経過の違いが予測できなかった。しかしながら、本発明によれば、同一細胞の細胞内pHと死滅率が同時に解析可能となるため、図12のように糖消費経過を予測できるようになった。
Claims (7)
- 微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる、微生物細胞の生理状態評価方法。
- 細胞膜非透過性のDNA染色色素が、4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(TO−PRO 3色素)である、請求項1に記載の方法。
- 細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体が、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートである、請求項1または2に記載の方法。
- 2種類の励起光の波長がそれぞれ、410nm〜510nmおよび540nm〜700nmから選択されるものであり、測定する3種類の蛍光波長が510nm〜640nmから2種、かつ、600nm〜800nmから1種選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 650nm〜680nmの蛍光強度を測定することによって微生物細胞の生死(バイアビリティ)を判定し、それに基づいて、全細胞群から死滅細胞を除いた生細胞群における、細胞活性(バイタリティ)を得ることを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 蛍光強度の測定によって得られた細胞内pH値が、所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を細胞活性が高いものと判定することを含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 微生物が食品用の酵母または細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
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