JP2009137888A - インプラント用材料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制し且つ大きな荷重が加えられた場合にも劣化が発生しにくいインプラント用材料を実現できるようにする。
【解決手段】インプラント用材料は、基材と、基材の表面に形成され、シリコンを含む炭素質薄膜とを備えている。炭素質薄膜は、炭素同士が結合したC−C成分及び炭素とシリコンとが結合したSiC成分を含み、SiC成分の比率は、0.06以上である。
【選択図】図4

Description

本発明は、インプラント用材料及びその製造方法に関し、特に、人工歯根及び義歯等の骨細胞との親和性が必要な歯科用材料及びその製造方法に関する。
現在、人工歯根等をはじめとする生体内に埋め込むインプラントの基材としてチタン及びチタン合金が生体適合性、耐食性及び機械的強度に優れているという理由から使用されている。しかし、チタン及びチタン合金からなる人工歯根を直接顎骨に固定した場合には、顎骨の骨組織再生の代謝バランスが崩れ、人工歯根のゆるみ及び顎骨破壊が生じてしまうおそれがあることが知られている。
このような人工歯根の埋め込みが失敗する原因として、人工歯根の周囲において破骨細胞が誘導され、骨破壊が生じるインプラント周囲炎がある。インプラント周囲炎は、細菌感染等の微生物刺激及び過度の咬合力等の機械的刺激に起因する場合もあるが、人工歯根自体による破骨細胞の活性化によっても生じる。
人工歯根による破骨細胞の活性化は、インプラント初期埋入時にも発生する。初期埋入時に出現した破骨細胞は、インプラントのオッセオインテグレーションを妨げ、インプラントが失敗に至る原因となる。
このような破骨細胞の活性化は、チタン及びチタン合金が骨細胞と十分な親和性を有していないことにより生じると考えられる。骨細胞との親和性が不十分な材料の表面では、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化が促進され、これにより骨破壊が生じてしまう。チタン及びチタン合金は比較的骨細胞との親和性が高い材料であることが知られている。しかし、親和性が十分とはいえず、埋め込み対象者の顎骨の状態及び口腔内の状態等によって人工歯根の埋め込みが失敗してしまう。
人工歯根等のインプラントの骨細胞との親和性を向上させる方法としてダイヤモンド様薄膜(DLC膜)による被覆が試みられている(例えば、特許文献1を参照。)。DLC膜は、炭素を主成分とし、表面が平滑で不活性であるため生体との適合性に優れている。このため、骨細胞との親和性にも優れていると考えられる。
特開2002−204825号公報 Muhbalt L. 他、"IntJ Oral Maxillofac Implants"、1989年、4巻、p.125〜130
しかしながら、DLC膜により被覆した人工歯根等には以下のような問題がある。まず、DLC膜は硬く剛直な材料であるため基材との密着性が十分でなく、基材からの剥離が生じたり、剥離しないまでもクラックが生じたりするという問題がある。DLC膜と基材との密着性を向上させるために、中間層を形成する方法も試みられている。しかし、人工歯根にかかる荷重は300Nとも言われている(例えば、非参考文献1を参照。)。このような大きな荷重がかかる人工歯根においては、中間層の形成だけではDLC膜の剥離及びクラックの発生を防止することができない。
DLC膜が剥離した場合はもちろん、微細なクラックが生じただけでも、口腔内の環境においては、DLC膜の内側に酸等が侵入する。これにより、基材の腐食が生じたり、DLC膜の剥離が促進されたりするため、耐久性が大きく低下する。このため、クラックの発生の防止はDLC膜により被覆した人工歯根を実現する上で非常に重要である。
また、DLC膜について、抗血栓性、細胞の付着性及び細胞毒性等について検討した結果はあっても、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化にどのような影響を与えるかという検討はなされていない。
以上のような問題は、人工歯根以外の、義歯及び歯冠修復物等の歯科用材料並びに人工骨及び人工関節等の大きな荷重がかかり且つ骨細胞との高い親和性が要求される他のインプラントにおいても同様に生じる。
本発明は、前記従来の問題を解決し、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制し且つ大きな荷重が加えられた場合にも劣化が発生しにくいインプラント用材料を実現できるようにすることを目的とする。
前記の目的を達成するため、本発明はインプラント用材料を基材の表面を覆う炭化硅素成分を含む炭素質薄膜を備えた構成とする。
具体的に、本発明に係るインプラント用材料は、基材と、基材の表面に形成され、シリコンを含む炭素質薄膜とを備え、炭素質薄膜は、炭素同士が結合したC−C成分及び炭素とシリコンとが結合したSiC成分を含み、SiC成分の比率は、0.06以上であることを特徴とする。
本発明のインプラント用材料は、基材の表面に形成された炭素質薄膜を備えている。このため、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制でき、優れた骨親和性が得られる。また、炭素質薄膜がSiC成分を含んでいるため、弾性率が通常の炭素質薄膜よりも小さくなる。従って、基材の表面から剥離しにくく、クラックも生じにくい。その結果、咬合力等による過大な応力が加わる場合においても、劣化が生じにくいインプラント用材料を実現できる。
本発明のインプラント用材料において、SiC成分の比率は、0.5以下であることが好ましい。
本発明の炭素質薄膜において、基材は金属であってもよい。また、人工歯根、義歯又は歯冠修復物であってもよい。
本発明に係るインプラント用材料の製造方法は、インプラント用の基材を準備する工程(a)と、基材を載置したチャンバ内の水分を除去する工程(b)と、工程(a)よりも後に、チャンバ内に炭素源及びシリコン源となる原料ガスを導入することにより、炭素同士が結合したC−C成分及び炭素とシリコンとが結合したSiC成分を含む炭素質薄膜を基材の表面にイオン化蒸着する工程(c)とを備えていることを特徴とする。
本発明の炭素質薄膜の製造方法は、チャンバ内の水分を除去する工程を備えている。このため、シリコンの導入量を多くした場合にも、酸化シリコン成分が少ない炭素質薄膜を形成することができる。従って、骨細胞との親和性に優れ且つ基材の表面から剥離したり、クラックが生じたりしにくいインプラント用材料が実現できる。
本発明に係る炭素質薄膜及びその製造方法によれば、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制し且つ大きな荷重が加えられた場合にも劣化が発生しにくいインプラント用材料を実現できる。
本発明の一実施形態に係るインプラントは、人工歯根である。本実施形態の人工歯根は、チタン等からなる基材と、基材の表面を覆う炭素質薄膜とを備えている。炭素質薄膜は、SP2結合した炭素とSP3結合した炭素とからなるアモルファス材料であるダイヤモンド用薄膜(DLC膜)に代表される材料である。ダイヤモンド様薄膜は、一般的には、炭素の他に水素(H)及び酸素(O)等を含んでいる。さらに、成膜の際に、シリコン(Si)及びフッ素(F)等を添加することにより、これらの元素を種々の割合で含む炭素質薄膜を形成することができる。
以下に、人工歯根の表面を覆う炭素質薄膜に要求される特性について検討した結果をまとめる。
人工歯根にかかる荷重は300Nと言われている。ネジ径が2.7mm、有効ネジ勘合長さが5mmの一般的な形状の人工歯根が300Nの荷重を受けた場合、ネジのスレッド部が支える荷重はおよそ7.1N/mmとなる。純チタンのヤング率は106GPaであるため、人工歯根のネジ部に生じる歪率は6.6×10-3%となる。従って、人工歯根の表面を覆う材料は、これよりも大きい歪みを受けた場合においても、クラックが発生しない材料である必要がある。
また、骨細胞との親和性を確保するために、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する材料である必要がある。さらに、口腔内の環境において、腐食を受けにくい材料である必要がある。
以上の、条件を満たす材料として、本願発明者らは、Siを添加した炭素質薄膜が非常に優れていることを見いだした。炭素質薄膜を形成する際にSiを添加することにより、炭素質薄膜は通所の炭素同士が結合した炭素−炭素(C−C)結合の他に、炭素とSiとが結合した炭化硅素(SiC)成分を含む炭素質薄膜が形成できる。また、SiC成分の含有量により炭素質薄膜のヤング率は大きく変化する。これにより、クラックが発生しにくい炭素質薄膜を実現できる。
一方、Siを添加した場合には、酸化シリコン(SiO2)成分が炭素質薄膜に導入されてしまう。SiO2成分が増加すると、炭素質薄膜の耐蝕性が低下してしまう。このため、クラック発生の防止と耐蝕性とを両立させるためには、炭素質薄膜にSiC成分を導入しつつ、SiO2成分の生成を防ぐ必要がある。
炭素質薄膜中のSiO2成分は、炭素質薄膜を成膜する際にSiと雰囲気から供給される酸素とが反応することにより生じる。また、酸素の最も大きな供給源は水分である。従って、水分を除去した条件においてSiを添加して形成した炭素質薄膜を基材の表面に形成することにより、骨細胞との親和性が高く且つ耐久性に優れた人工歯根等のインプラントが実現できる。具体的には、Siを含み且つSiO2成分が0.05以下である炭素質薄膜が好ましい。
以下に、発明のインプラントについて、実施例を用いてさらに具体的に説明する。
(一実施例)
−物理的特性の検討−
まず、基材の表面に種々の炭素質薄膜を形成し、その組成とヤング率等の物理的特性との関係を検討した。
物理的特性の検討には、直径0.5mmのステンレス(JIS規格SUS316)ワイヤを基材として用いた。まず、基材をイオン化蒸着装置のチャンバ内にセットし、ボンバードクリーニングを30分間行った。ボンバードクリーニングは、チャンバ内にアルゴンガス(Ar)を圧力が10-1Pa〜10-3Pa(10-3Torr〜10-5Torr)となるように導入した後、放電を行うことによりArイオン発生させ、発生したArイオンを基材の表面に衝突させることにより行った。
次に、チャンバにベンゼン及びテトラメチルシラン(Si(CH34)を導入しながら5分〜10分間放電を行うことにより硅素(Si)及び炭素(C)を主成分とする膜厚が100nmのアモルファス状のDLC膜である炭素質薄膜を形成した。テトラメチルシランの導入量を変化させることによりSi含有量が異なる炭素質薄膜を形成した。
炭素質薄膜の形成前に、チャンバを80℃に昇温し、2時間ベーキングを行った。これにより、炉内に残留する水分を除去し、成膜中にSiが酸化されることによるSiO2の生成を低減した。炭素質薄膜の表面におけるSiO2成分を低減する方法としては、表面だけ組成を代えてSiを含まない炭素質薄膜を積層する方法も考えられる。しかし、この場合には、成膜が複雑になる。また、炭素質薄膜同士の界面から剥がれが生じるおそれもある。
炭素質薄膜の組成はX線光電子分光分析法(XPS法)により行った。測定には、日本電子製のXPS装置JPS9010を用いた。X線源には、AlKα線(1486.3eV)を用い、加速電圧を12.5kV、エミッション電流を15mAとし、真空度が8×10-7Paの条件で測定を行った。測定範囲は、任意に選択した直径5mmの領域であり、検出器を鉛直方向に対し75度傾斜させることにより、深さが5nm程度の位置までの情報を得ている。
また、得られたスペクトルのバックグラウンドはShirley法により除去した。試料の測定においては、0.2eVのチャージシフトが解析精度に影響を与える。このため、金のナノ粒子を試料表面の一部に滴下して乾燥させ、金の結合エネルギ(Au4f7/2)からのシフト量をまず求め、チャージの補正を行った。
試料中の全カーボンに対するSiC成分の比率[SiC]/[C]はC1sのスペクトルをカーブフィッティングにより分割する事によって求めた。まず、C1sのスペクトルを、SP3炭素−炭素結合(SP3:C−C)と、グラファイト炭素−炭素結合(SP2:C−C)と、SP3炭素−水素結合(SP3:C−H)と、SP2炭素−水素結合(SP2:C−H)の4つの成分に分割した。各成分のピークの中心値はそれぞれ、283.7eV〜8eV、284.2eV〜3eV、284.7eV〜8eV及び2845.3eV〜4eVとした。さらに低エネルギー側に残されたピークを炭素−硅素結合(SiC)成分として分割し、高エネルギー側に残されたピークを炭素−酸素結合(C−Ox)成分として分割した。SiC成分のピークの中心値は283.1eV〜2eVとした。C1sのスペクトルから得られた全炭素の積分強度とSiC成分の積分強度との比をSiC成分の比率[SiC]/[C]とした。
試料表面におけるSiO2成分の比率は試料面に対する光電子の検出を75°傾け、表面敏感となる条件において測定した。得られたC1s及びSi2pスペクトルからSiとCとの濃度比([Si]/([Si]+[C]))を相対感度係数を用いて算出した。また、Si2pのスペクトルをカーブフィッテングすることによりSiO2成分の積分強度を求めた。Si2pスペクトルから得られた全Siの積分強度と、SiO2成分の積分強度との比に、SiとCとの濃度比を掛けることによりSiO2成分の比率[SiO2]/([Si]+[C])とした。
図1(a)〜(d)は、得られた試料をXPS法により測定して得られたC1sピーク及びそのカーブフィッティングの結果を示している。図1(a)〜(d)に示したサンプルのオージェ電子分光分析により求めたSiの含有量は、それぞれ0%、3%、19%及び27%であった。オージェ電子分光分析は、PHISICAL ELECTRONICS社製のPHI−660型走査型オージェ電子分光装置を用いて行った。電子銃の加速電圧は10kVとし、資料電流が500nAの条件で測定した。また、Arイオン銃の加速電圧は2kVとし、スパッタリングレートは8.2nm/minに設定した。
図1(a)〜(d)に示すように、Si含有量が増加するに従い、SiCのピークの割合が次第に大きくなった。カーブフィッティングから求めたSiC成分の比率[SiC]/[C]は、それぞれ0、0.004、0.064及び0.13であった。また、[SiO2]/([Si]+[C])の値は、いずれも0.015以下であった。
次に、得られた試料のヤング率を測定した。ヤング率の測定は、Hysitron社製の高感度(0.0004nm、3nN)センサーを搭載した90度三角錐のダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法により行った。圧痕状態の測定には試料表面を微小な探針で走査することによって三次元形状を高倍率で観察できる顕微鏡である株式会社島津製作所製の走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)を用いた。ナノインデンテーションによる測定条件は100μNの精度でダイヤモンド圧子を制御しながら試料に押し込み、荷重-変位曲線の解析から弾性率を定量した。圧子の押し込み時間は5秒間とし、また引き抜き時間も5秒間に設定して測定を行った。
図2は、得られた試料における、SiC成分の比率[SiC]/[C]と、ヤング率との関係を示している。[SiC]/[C]が大きくなるに従いヤング率は急激に低下し、[SiC]/[C]が0.06程度でほぼ一定となっている。
次に、歪みによるクラックの発生について評価を行った。得られた試料を半径50mmとなるように曲げた後、曲げた部位電子顕微鏡(日立TM−1000)の反射電子像を用いて観察することにより評価を行った。
図3(a)は、[SiC]/[C]が0.13の試料についてクラックの発生を測定した結果を示しているが、炭素質薄膜の剥がれ及びクラックの発生は認められていない。一方、図3(b)は、[SiC]/[C]が0の試料について測定した結果を示しているが、炭素質薄膜に微細なクラックが生じ、膜剥がれが生じていることがわかる。
先に説明したように、人工歯根に生じる歪み率は、6.6×10-3%である。一方、直径0.5mmのワイヤを半径50mmに屈曲した場合の外周側の歪率は0.25%となる。従って、[SiC]/[C]が0.13の炭素質薄膜は、人工歯根のネジスレッドが受ける歪を上回る歪みを受けても十分な耐クラック性及び耐剥離性を有していることが明らかである。炭素質薄膜のヤング率は、[SiC]/[C]が0.06以上でほぼ一定となる。従って、人工歯根の表面を覆う炭素質薄膜のクラックを防止するためには、[SiC]/[C]を0.06以上とすればよく、0.1以上とすることが好ましい。但し、[SiC]/[C]が増大すると炭素質薄膜としての特性が失われてしまうため、[SiC]/[C]の値は0.5以下とすることが好ましい。
−骨適合性の検討−
次に、基材の表面に形成した炭素質薄膜の骨適合性について評価を行った。骨適合性の検討においては、チタン板の表面に炭素質薄膜を形成した試料を用いた。評価に用いた炭素質膜の[SiC]/[C]の値は、0.013であった。
試料の骨適合性は、以下のようにして破骨細胞の分化を測定することにより評価した。まず、試料と破骨前駆細胞とを破骨細胞分化誘導因子(Receptor Activator of NF-kB Ligand:以下RANK)の存在下において接触させ、37℃で細胞培養した。破骨前駆細胞は、RANKの存在により破骨細胞へと分化することが確立されているセルラインRAW264.7細胞 (TIB-71, ATCC)を用いた。
次に、分化関連遺伝子であるTRAP(tartrate-resistant acid phosphatase)およびカテプシンK(cathepsin K)の発現をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて定量することにより、破骨細胞への分化を評価した。
図4は、破骨細胞のへの分化マーカーとして分化関連遺伝子の発現を定量した結果であり、(a)はTRAPの定量結果を示し、(b)はカテプシンKの定量結果を示す。
コントロールのチタン板及び炭素質薄膜を形成したチタン板のいずれにおいても、RANKLが存在していない場合には、TRAP及びカテプシンKの発現がほとんどなく、RAW264.7細胞の破骨細胞への分化がほとんど生じていない。しかし、RANKLの存在下においては、炭素質薄膜を形成していないチタン板においては、TRAP及びカテプシンKの発現が認められ、RAW264.7細胞が破骨細胞へ分化した。一方、チタン板を炭素質薄膜により覆った場合には、TRAP及びカテプシンKの発現はほとんど認められなかった。これは、基材を炭素質薄膜により覆うことにより骨細胞との親和性が向上し、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制できることを示している。
以上の説明において、人工歯根を例に説明を行ったが、義歯等においても同様の骨適合性及び耐久性が実現できる。また、金属の溶出を低減できることから、歯冠修復及び義歯修復の材料としても好適である。
また、歯科用材料だけでなく、生体内に埋め込まれる、人工骨及び人工関節等の骨細胞と親和性が必要とされるインプラントに適用することも可能である。
実施例において、炭素質薄膜をスパッタ法により形成したが他の方法であってもよい。例えば、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)、プラズマCVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法等を用いることができる。また、炭素質薄膜の厚さは特に限定されるものではないが、0.005μm〜3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01μm〜1μmの範囲である。
また、炭素質薄膜は基材の表面に直接形成することができるが、基材と炭素質薄膜とをより強固に密着させるために、基材と炭素質薄膜との間に中間層を設けてもよい。中間層の材質としては、基材の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。その厚みは特に限定されるものではないが、0.005μm〜0.3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01μm〜0.1μmの範囲である。
中間層は、公知の方法を用いて形成することができ、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いればよい。
本発明に係る炭素質薄膜及びその製造方法は、破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制し且つ大きな荷重が加えられた場合にも劣化が発生しにくいインプラント用材料を実現でき、特に、人工歯根及び義歯等の骨細胞との親和性が必要な歯科用材料及びその製造方法等として有用である。
(a)〜(d)はそれぞれ本発明の一実施例により得られた試料をXPS法により分析した結果得られたC1sスペクトルを示すチャートである。 本発明の一実施例により得られた試料のSiC成分の比率とヤング率との関係を示すグラフである。 (a)及び(b)はそれぞれ本発明の一実施例により得られた試料の曲げ試験の結果を示す電子顕微鏡写真である。 (a)及び(b)は本発明の一実施例により得られた試料の骨適合性の評価結果を示すグラフであり、(a)はTRAPの発現を評価した結果であり、(b)はカテプシンKの発現を評価した結果である。

Claims (5)

  1. 基材と、
    前記基材の表面に形成され、シリコンを含む炭素質薄膜とを備え、
    前記炭素質薄膜は、炭素同士が結合したC−C成分及び炭素とシリコンとが結合したSiC成分を含み、
    前記SiC成分の比率は、0.06以上であることを特徴とするインプラント用材料。
  2. 前記SiC成分の比率は、0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のインプラント用材料。
  3. 前記基材は、金属であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインプラント用材料。
  4. 前記基材は、人工歯根、義歯又は歯冠修復物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント用材料。
  5. インプラント用の基材を準備する工程(a)と、
    前記基材を載置したチャンバ内の水分を除去する工程(b)と、
    前記工程(a)よりも後に、前記チャンバ内に炭素源及びシリコン源となる原料ガスを導入することにより、炭素同士が結合したC−C成分及び炭素とシリコンとが結合したSiC成分を含む炭素質薄膜を基材の表面にイオン化蒸着する工程(c)とを備えていることを特徴とするインプラント用材料の製造方法。
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