JP2009132989A - 光学薄膜の形成方法およびその光学薄膜を備えた光学素子 - Google Patents

光学薄膜の形成方法およびその光学薄膜を備えた光学素子 Download PDF

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Abstract

【課題】アシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによる低屈折率層へのエッチングを阻止して、光学特性の劣化を防止した光学薄膜の形成方法、およびその光学薄膜を備えた光学素子を提供する。
【解決手段】光学基材上に、MgF2より成る低屈折率層とNb25より成る高屈折率層との間に、真空蒸着法を用いて形成された酸化物質のAl23層を有するNb25/MgF2/Al23構造の誘電体多層膜は、Al23層がイオンアシスト法を用いて成膜されるNb25層のプラズマによるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能する。そして、この誘電体多層膜が形成された光学素子は、例えば、光ピックアップの波長405nmの青色半導体レーザに対応した偏光ビームスプリッタとして用いられる。
【選択図】図3

Description

本発明は、光学薄膜の形成方法およびその光学薄膜を備えた光学素子に関する。
偏光ビームスプリッタ、各種フィルタなど光学素子の光学薄膜形成には、一般的に真空蒸着法が広く用いられている。しかし真空蒸着法を用いて形成された膜は、不純物が含まれにくい反面、密度や屈折率が低く膜強度が弱い傾向がある。また、成膜される多層膜の積層数が増えるに従って膜表面の平滑度が損なわれる特性を有している。したがって、高信頼性が求められる光学薄膜の形成には、イオンアシスト(IAD:Ion Assist Deposition)法やイオンプレーティング(IP:Ion Plating)法などに代表されるアシスト法による成膜法が用いられる。
一方、高屈折率材料層(高屈折率層)と低屈折率材料層(低屈折率層)とを交互に積層した多層膜で形成される光学薄膜は、高屈折率材料の屈折率が高いほど、又は/及び低屈折率材料の屈折率が低いほど層数が少なくて済むなどの特徴を有し、低屈折率材料としてSiO2またはMgF2が代表される。しかしMgF2は、SiO2に比べて屈折率が低く有利であるが、アシスト法での成膜が困難である。したがって低屈折率層を形成するMgF2は、真空蒸着法を用いて成膜されるが、高屈折率層を形成するTiO2(二酸化チタン)、Nb25(五酸化ニオブ)などアシスト法で成膜される蒸着物質と併用した場合、アシスト法のプラズマによりMgF2膜の表面が荒らされて、光学特性の劣化を引き起こすという問題を有している。
こうした問題に対応するために、フッ化物を含む基板やフッ化物薄膜上に高屈折率材料の前半は真空蒸着法、後半はアシスト法を適用することで、真空蒸着法を用いて形成された層がバリヤ層として機能することにより、光学的な吸収が発生することのない光学薄膜の製造方法および光学薄膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2003−114303号公報
しかしながら、特許文献1に示される光学薄膜は、フッ化物を含む基板やフッ化物薄膜上に、真空蒸着法で形成された高屈折率層(バリヤ層)とアシスト法で形成された高屈折率層が同一材質の高屈折率材料より成り、用いる高屈折率材料又は/及び使用する光の波長帯によっては、目的とする効果が得られない場合がある。例えば、ブルーレイディスクやHD−DVDなどの次世代DVDレコーダーの光ピックアップに使用される青色半導体レーザ(波長405nm)用の偏光ビームスプリッタ(PBS)などにおいて、MgF2とNb25とで構成される多層膜が最も有利な構造となるが、MgF2膜上に真空蒸着法を用いてNb25膜を成膜すると、吸収が発生して光学特性の劣化を引き起こす。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例に係る光学薄膜の形成方法は、光学基材上に低屈折率層と前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜の形成方法であって、前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、前記高屈折率層と異なる酸化物質層が真空蒸着法により成膜されていることを特徴とする。
これによれば、光学基材上に少なくともMgF2層を含む低屈折率層と低屈折率層よりも高い屈折率を有する高屈折率層とを交互に積層した多層膜が、MgF2層と高屈折率層との間に、高屈折率層と異なる酸化物質層が形成されていることにより、酸化物質層がアシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学薄膜を形成することができる。
[適用例2]
上記適用例に係る光学薄膜の形成方法において、前記酸化物質層がAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成るのが好ましい。
これによれば、MgF2層と高屈折率層との間に形成される酸化物質層が、Al23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成ることにより、耐プラズマ性が高く、しかも短波長の吸収が少ない層を形成し、酸化物質層上にアシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学薄膜を形成することができる。
[適用例3]
上記適用例に係る光学薄膜の形成方法において、前記酸化物質層がTa25より成るのが好ましい。
これによれば、MgF2層と高屈折率層との間に形成される酸化物質層が、Ta25より成ることにより、耐プラズマ性が高く、しかも短波長の吸収が少ない層を形成し、酸化物質層上にアシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学薄膜を形成することができる。
[適用例4]
上記適用例に係る光学薄膜の形成方法において、前記酸化物質層の膜厚が少なくとも5nmであるのが好ましい。
これによれば、MgF2層と高屈折率層との間に形成される酸化物質層の膜厚が少なくとも5nmであることにより、アシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによるMgF2層のエッチングを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学薄膜を形成することができる。
[適用例5]
本適用例に係る光学素子は、光学基材上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜を備えた光学素子であって、前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、真空蒸着法により形成されたAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成る酸化物質層を有することを特徴とする。
これによれば、光学基材上に少なくともMgF2層を含む低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜の内の、MgF2層と高屈折率層との間に、真空蒸着法を用いて形成されたAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成る酸化物質層を有することにより、酸化物質層は、アシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによって、MgF2層がエッチングされるのを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学素子が得られる。
[適用例6]
本適用例に係る光学素子は、光学基材上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜を備えた光学素子であって、前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、真空蒸着法により形成されたTa25より成る酸化物質層を有することを特徴とする。
これによれば、光学基材上に少なくともMgF2層を含む低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜の内の、MgF2層と高屈折率層との間に、真空蒸着法を用いて形成されたTa25より成る酸化物質層を有することにより、酸化物質層は、アシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによって、MgF2層がエッチングされるのを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学素子が得られる。
[適用例7]
上記適用例に係る光学素子は、光ピックアップに組み込まれて、レーザ光源より射出される中心波長が405nm、660nm、785nmの内の少なくともいずれか一つのレーザ光を、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光ビームスプリッタであるのが好ましい。
これによれば、光学基材上に、少なくともMgF2層を含む低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜が、MgF2層と高屈折率層との間に、真空蒸着法を用いて形成されたAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内のいずれか一つ、またはTa25より成る酸化物質層が形成された光学素子が、光ピックアップに組み込まれて、レーザ光源より射出される中心波長が405nm、660nm、785nmの内の少なくともいずれか一つのレーザ光を、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光ビームスプリッタであることにより、光学特性の劣化を防止した高効率の、青色半導体レーザ、赤色半導体レーザおよび赤外半導体レーザに対応した偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光ビームスプリッタを容易に得ることができる。よって、青色半導体レーザ、赤色半導体レーザまたは赤外半導体レーザに対応した、高効率の光ピックアップが得られる。
本実施形態の光学薄膜は、プリズム、ビームスプリッタ、各種フィルタなどを構成する光学基材上に、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜(以後、多層膜と表す)より成り、所定波長領域の光を反射および透過するなどの機能を有する光学素子として用いられる。
光学薄膜は、低屈折率層として少なくともMgF2より成る層を含む多層膜において、真空蒸着法を用いて成膜されたMgF2層と、アシスト法を用いて成膜される高屈折率層との間に、Al23、Ta25、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内から選ばれた酸化物質より成る層が真空蒸着法を用いて成膜される。この酸化物質層は、アシスト法におけるプラズマによるMgF2層のエッチングを防ぐバリヤ層として機能し、光学薄膜および光学素子の光学特性劣化を阻止することができる。
なお、本実施形態におけるアシスト法とは、イオンアシスト法、イオンビームアシスト法、イオンプレーティング法などを意味する。
この酸化物質層(以後、バリヤ層と表す場合がある)を設けることによる光学特性の効果について説明する。
先ず、バリヤ層として機能するAl23膜、ランタンチタネート膜およびTa25膜におけるアシスト照射前後の分光透過率特性の変化具合の確認を行った。また、参考例としてSiO2膜についても同様の確認を行った。
特性確認は、ガラス基板の一方の面上にそれぞれの単層膜を成膜した試料を作製し、その形成膜にイオンを照射するアシスト照射前後における分光透過率特性を分光光度計を用いて測定した。
Al23膜を形成した試料は、準備した光学ガラスのBK7より成るガラス基板を、真空蒸着法およびアシスト法の成膜が可能なイオンアシスト真空蒸着装置(シンクロン社製IAD成膜装置)のチャンバー内に配設された基板ドーム上に取り付けた。そして、電子ビームをチャンバー下部に配置されたるつぼ内に充填したAl23の蒸着物質を蒸発させる真空蒸着法により、膜厚が300nmのAl23膜を成膜した。Al23膜の成膜条件は、成膜温度:300℃、成膜速度:0.35nm/sec、O2ガス量:20sccmで行った。
その後、成膜されたAl23膜に対して、装置内に配設されたイオン銃からイオン化した酸素(O2)を加速照射するアシスト照射を行った。アシスト条件は、O2ガス量:80sccm、加速電圧:1000V、加速電流:1200mA、照射時間:180secで行った。
ランタンチタネート膜を形成した試料は、Al23膜を形成した試料の場合と同様に、イオンアシスト真空蒸着装置を用いた真空蒸着法により、膜厚が250nmのランタンチタネート膜を成膜した。成膜した試料の成膜条件は、成膜温度:300℃、成膜速度:0.35nm/sec、O2ガス量:20sccmで行った。その後、Al23膜の場合と同様のアシスト条件で、成膜されたランタンチタネート膜に対してアシスト照射を行った。
そして、イオンアシスト真空蒸着装置を用いた真空蒸着法により、膜厚が300nmのTa25膜およびSiO2膜を成膜した試料を作成し、成膜されたTa25膜およびSiO2膜に対して、Al23膜の場合と同様のアシスト条件で、アシスト照射を行った。
Al23膜を成膜した試料およびランタンチタネート膜を成膜した試料を含む、それぞれの成膜条件を「表1」に示す。なお、成膜温度はいずれの場合も300℃である。
Figure 2009132989
そして、分光光度計を用いて、それぞれの試料におけるアシスト照射前後の分光透過率特性の変化具合の確認を行った。
図1は、Al23単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフである。以下、図2はランタンチタネート単層膜、図3はTa25単層膜、図4はSiO2単層膜におけるアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフである。
各グラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)を示す。なお、実線で示す曲線はアシスト照射前における分光透過率を示し、破線で示す曲線はアシスト照射後における分光透過率を示す。また、各曲線は、波長領域350nm〜850nmにおける1nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
図1および図2において、Al23膜およびランタンチタネート膜は、アシスト照射前後の分光透過率特性に大きな変化は見られない。
また、図3において、Ta25膜の場合は、略750nm以下の波長域において、アシスト照射後の分光透過率特性が、アシスト照射前に対して高い透過率特性を示す。一般的に真空蒸着法を用いて形成したTa25膜は、吸収が多く、利用するのは困難であると言われているが、バリヤ層として機能することが可能である。
これは、アシスト照射することにより酸欠状態が改善され、吸収が低減するものと推測される。
一方、図4において、SiO2膜も、Ta25膜と同様にアシスト照射後の分光透過率特性が、アシスト照射前に対して高い透過率特性を示す。しかし真空蒸着法を用いて形成したSiO2膜の場合は、膜強度が不足し、さらにアシスト照射により膜密度が粗になってしまう不具合を有する。また、曲線のピークにおける透過率が大幅に上昇している。すなわち、屈折率が低下していることを示している。因みに、SiO2膜の波長600nmにおけるアシスト照射前の屈折率は1.464であり、アシスト照射後の屈折率は1.434であった。
したがって、真空蒸着法を用いて形成されたSiO2膜は、SiO2膜上に多層膜の次層となる蒸着物質が成膜される際、粗になった部位に蒸着物質が混入して、光の散乱や吸収の要因となり、透過率や反射率が低下することにより光の利用効率の低下を招く。よって、SiO2膜をバリヤ層として利用することは、適当でないと言える。
次にMgF2膜にアシスト照射した場合と、MgF2膜上に設けたバリヤ層にアシスト照射した場合の分光透過率特性の変化具合の確認を行った。なお、分光透過率特性の確認は、バリヤ層を形成する酸化物質層として、ランタンチタネート膜を成膜した場合を例示する。
先ず、MgF2膜にアシスト照射した場合の分光透過率特性の変化について確認した。
特性確認は、ガラス基板の一方の面上にMgF2の単層膜を成膜した試料を作製し、そのMgF2膜にイオンを照射する、アシスト照射前後における分光透過率特性を分光光度計を用いて測定した。
試料は、準備した光学ガラスのBK7より成るガラス基板を、真空蒸着法およびアシスト法の成膜が可能なイオンアシスト真空蒸着装置のチャンバー内に配設された基板ドーム上に取り付けた後、電子ビームでチャンバー下部に配置されたるつぼ内に充填したMgF2の蒸着物質を蒸発させて、膜厚が360nmのMgF2膜を成膜した。MgF2膜の成膜条件は、成膜温度:300℃、成膜速度:0.8nm/secで行った。
その後、MgF2膜に対して装置内に配設されたイオン銃からイオン化した酸素(O2)を加速照射するアシスト照射を行った。アシスト条件は、O2ガス量:80sccm、加速電圧:1000V、加速電流:1200mA、照射時間:180secで行った。
図5は、MgF2単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフである。
グラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)を示す。なお、曲線aは、アシスト照射後における分光透過率を示し、曲線bは、アシスト照射前における分光透過率を示す。また、各曲線は、波長領域300nm〜1100nmにおける1nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
図5において、曲線aで示すアシスト照射後におけるMgF2単層膜の分光透過率は、曲線bで示すアシスト照射前における分光透過率に対して、透過率の低下が顕著に発生する。特に、波長400nm前後における短波長帯における落ち込みが大きい。これは、アシスト照射によりMgF2膜中のフッ素が乖離し、しかも表面が荒らされたためと推測される。
次に、MgF2膜上にバリヤ層を設けた場合の分光透過率特性の変化の確認を行った。
特性確認は、ガラス基板の一方の面上に、MgF2膜のアシスト照射確認の場合と同様の成膜方法および成膜条件で、膜厚が240nmのMgF2の単層膜を成膜し、そのMgF2膜の表面に、膜厚が10nmのランタンチタネート膜より成るバリヤ層を成膜した試料を作製した。
ランタンチタネートより成るバリヤ層は、チャンバー内に酸素ガス(O2)を導入して、既に成膜されたMgF2膜上に、チャンバー下部に配置したるつぼ内に充填したランタンチタネートの蒸着物質を、電子ビームで蒸発させて成膜した。バリヤ層の成膜条件は、成膜温度:300℃、成膜速度:0.35nm/sec、O2ガス量:20sccmで行った。
その後、試料のバリヤ層に対してイオンアシスト真空蒸着装置内に配設されたイオン銃からイオン化したO2を加速照射するアシスト照射を行った。アシスト条件は、O2ガス量:80sccm、加速電圧:1000V、加速電流:1200mA、照射時間:180secで行った。
そして、アシスト照射前後における分光透過率特性を分光光度計を用いて測定した。
図6は、MgF2膜+バリヤ層のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフである。
グラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)を示す。なお、曲線cは、アシスト照射後における分光透過率を示し、曲線dは、アシスト照射前における分光透過率を示す。また、各曲線は、波長領域300nm〜1100nmにおける1nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
図6において、曲線cで示すアシスト照射後におけるMgF2膜+バリヤ層の分光透過率は、曲線dで示すアシスト照射前における分光透過率に対して低下することなく、むしろ高まる方向に変化している、すなわちバリヤ層はMgF2膜に対するバリヤ機能を発揮していると言える。また、図6中にα部で示す領域におけるアシスト照射前後の分光透過率の波長シフトの変化量およびピーク光量からランタンチタネートより成るバリヤ層の膜厚の変化量を逆算した。その結果、アシスト照射によりバリヤ層の表面が略3nm削れている(エッチングされている)との結果を得た。したがってバリヤ層は、蒸着装置の各種バラツキなどを考慮すると、少なくとも5nmの膜厚が成膜されていればバリヤ機能を発揮することができると言える。
こうしたMgF2膜を含む多層膜を備えた光学薄膜の膜構成および光学素子の具体例を、以下の実施形態1〜実施形態3に示す。
[実施形態1]
実施形態1は、青色波長領域、例えばブルーレイディスクやHD−DVDなどの次世代DVDレコーダーの光ピックアップに使用される青色半導体レーザ(波長405nm)に好適に用いられる偏光ビームスプリッタ(以後、PBSと表すことがある)に適用した例であり、実施例1と比較のための比較例1とで示す。
なお、PBSは、平板またはプリズムなどの透光性を有する光学基材上に、多層膜よりなる光学薄膜が形成されて用いられる。したがって、光学基材(PBS基材)上に形成される多層膜は、入射光(レーザ光)を、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光分離膜として機能する。すなわち、偏光ビームスプリッタは、入射光を偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な光学素子である。
(実施例1)
「表2」は、本適用例に係るPBSにおける波長405nmに対応した偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な光学薄膜の構成を示す。なお、この膜構成は、バリヤ層を形成する酸化物質としてAl23を用い、設計波長390nm、入射角度45°における設計値である。
「表2」には、多層膜を構成する層No.に対する蒸着物質、光学膜厚(nd)、物理膜厚(d(nm))を示す。また、層No.は成膜されるPBS基材の表面側から順に1層、2層、3層…と表す。これについては、後述する「表4」〜「表8」についても同様である。
Figure 2009132989
「表2」において、PBSにおける光学薄膜は、PBS基材上にNb25を1層目として、2層目にMgF2、3層目にAl23、以後4層目〜24層目の間にNb25、MgF2、Al23がこの順に繰り返し成膜され、25層目にNb25、そして最上層の26層目にMgF2より成る26層の誘電体多層膜で構成される。
それぞれの誘電体膜(光学薄膜)は、真空蒸着法およびアシスト法の成膜が可能なイオンアシスト真空蒸着装置を用いて成膜される。MgF2とAl23の層は真空蒸着法を用いて成膜し、Nb25の層はアシスト法(IAD)を用いて成膜される。すなわち、真空蒸着法を用いて成膜する低屈折率層のMgF2層と、アシスト法を用いて成膜する高屈折率層のNb25層との間に、酸化物質のAl23層が真空蒸着法により成膜される。成膜されたAl23層は、アシスト法のプラズマによるMgF2層へのエッチングなどを防ぐバリヤ層として機能する。
以後この多層膜構成を、Nb25/MgF2/Al23構造と呼称する。
PBS基材に成膜した各誘電体膜の成膜条件およびアシスト条件を「表3」に示す。なお、表中に示してないが、それぞれの光学薄膜の成膜における成膜温度は、いずれも300℃である。
Figure 2009132989
「表3」において、例えば、バリヤ層として機能するAl23層は、イオンアシスト真空蒸着装置のチャンバー内に20sccmの酸素(O2)ガスを導入して、成膜速度0.35nm/secの成膜条件で、真空蒸着法により成膜した。Nb25層、MgF2層については説明を省略する。
(比較例1)
「表4」は、比較例1における波長405nmに対応したPBSの膜構成を示す。このPBSの膜構成は、バリヤ層を形成しない場合のNb25層とMgF2層より成る多層膜である。多層膜の設計値は、実施例1と同様に、設計波長390nm、入射角度45°である。
Figure 2009132989
「表4」において、多層膜は、PBS基材上にNb25を1層目として、2層目にMgF2、以後3層目〜18層目の間にNb25とMgF2が繰り返し成膜された18層の誘電体膜で構成される。
MgF2の層は真空蒸着法により成膜し、Nb25の層はアシスト法により成膜される。なお、Nb25層およびMgF2層の成膜条件およびアシスト条件は、「表3」に示す実施例1の場合と同じ条件で行った。
以後この多層膜構成を、Nb25/MgF2構造と呼称する。
次に、実施例1において成膜されたNb25/MgF2/Al23構造、および比較例1において成膜されたNb25/MgF2構造を備えたPBSの分光特性を、分光光度計を用いて測定した。
図7は、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフであり、図8は、Nb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフである。それぞれのグラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)または反射率(%)を示す。
また、それぞれの図(グラフ)中に示す曲線TpはP波(TM波)の分光透過率、曲線RpはP波の分光反射率、曲線TsはS波(TE波)の分光透過率、曲線RsはS波の分光反射率を示し、いずれも波長領域350nm〜500nmにおける5nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
なお、P波またはS波の選択は、光ピックアップ用のPBSにおいて、光ディスクに向かう往光路または光検出器に向かう復光路用の光学設計に従って、適宜参照することができる。
図7において、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性は、波長405nmにおけるP波の分光透過率(以後、Tpと表す)が99.255%、P波の分光反射率(以後、Rpと表す)が0.021%である。また、略400nm〜420nmの青色波長域における平均分光透過率は99.354%であり、平均分光反射率は0.026%である。
一方、図8に示すNb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性は、波長405nmにおけるTpが82.483%、Rpが0%である。また、略400nm〜420nmの青色波長域における平均分光透過率は83.843%であり、平均分光反射率は0%である。
すなわち、実施例1に示したNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSは、比較例1に示したNb25/MgF2構造の多層膜に比べて優れた透過特性および反射特性を備えている。
なお、詳細な説明は省略するが、図7および図8に示すように、いずれの構造の多層膜も、S波の分光透過率(Ts)および分光反射率(Rs)は、P波に対して高波長側に移動した波長域に対応した分光特性を有するが、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜は、P波の場合と同様に、Nb25/MgF2構造の多層膜に比べて優れた透過特性および反射特性を備えている。
以上の実施形態1(実施例1)によれば、光学基材上に形成されたNb25/MgF2/Al23構造の多層膜は、MgF2層とNb25層との間に、真空蒸着法を用いて形成された酸化物質のAl23層を有することにより、イオンアシスト法を用いて成膜される高屈折率層のプラズマによるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能し、光学特性の劣化を防止した高効率の光学薄膜を形成することができる。
また、Al23層の膜厚が少なくとも5nm(実施例1における膜厚は10nm)であることにより、イオンアシスト法を用いて成膜されるNb25層のアシスト照射によるMgF2層へのエッチングを阻止するバリヤ層として機能することができる。さらに、Al23層が、真空蒸着法を用いて成膜されることにより、Al23層の成膜によるMgF2層の光学特性への影響を与えることはなく、しかもAl23層上にアシスト法を用いてNb25層が成膜される際のアシスト照射によるMgF2層のエッチングを阻止することができる。
さらにまた、こうしたNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えた偏光ビームスプリッタ(PBS)は、MgF2層とNb25層との間に、真空蒸着法を用いて形成された酸化物質のAl23層より成るバリヤ層を有することにより、波長405nmの青色半導体レーザに対応し、光学特性の劣化を防止した高効率の偏光ビームスプリッタを容易に得ることができる。このPBSは、ブルーレイディスクやHD−DVDなどの次世代DVDレコーダーの光ピックアップなどに好適に用いることができる。
図9は、実施例1におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜が形成されたPBSを用いた光学ピックアップの概略光学構造を示す模式図である。なお、図9は、グレーティング(回析格子)、コリメータレンズおよび集光レンズなどのレンズ類、レーザ光源のレーザ出力を制御するためのフロントモニターなどを図示せずに、主要の基本光学素子のみで示す。
図9において、光ピックアップ100は、レーザ光源10、偏光分離素子としての偏光ビームスプリッタ(以後、PBSと表す)20、1/4波長板30、反射ミラー40、信号検出用受光素子50を備えている。
また、レーザ光源10、PBS20、1/4波長板30、反射ミラー40は、光ディスク200に対してこの順序に配置されている。
この光ピックアップ100は、DVDレコーダーやDVDプレーヤーに組み込まれて、レーザ光源10より射出されたレーザ光のビームスポットを、光ディスク200の情報記録面に集光して情報データ(デジタルデータ信号)の読み出し、又は/及び情報記録面に情報データ(デジタルビット情報)の書き込みを行う電子機器装置である。
レーザ光源10は、中心波長405nmの青色レーザを射出するレーザダイオードである。
PBS20は、2つの直角二等辺三角柱プリズムの斜面間に入射光(レーザ光)をP偏光(直線偏光)とS偏光(直線偏光)とに分離する偏光分離膜20aが設けられている。偏光分離膜20aは、前記実施例1に示したNb25/MgF2/Al23構造の多層膜であり、P偏光光を透過し、S偏光光を反射する機能を有する。このように構成されたPBS20は、偏光分離膜20aにレーザ光が45°の角度で入射するように配置されている。
1/4波長板30は、入射するP偏光(直線偏光)を円偏光に変換する機能、および入射する円偏光を直線偏光に変換する機能を有する。
反射ミラー40は、1/4波長板30において円偏光に変換されて入射するレーザ光を、光ディスク200に向かって全反射する機能を有する。
信号検出用受光素子50は、光ディスク200の情報記録面において反射されたレーザ光(戻り光)を受光するセンサーであり、受光したレーザ光に対応したデジタルデータ信号(情報データ)を図示しない制御回路に出力する機能を備えている。
なお、レーザ光源10から光ディスク200へ向かうレーザ光L1の光路を、図中に実線で示し、光ディスク200の情報記録面において反射され、信号検出用受光素子50に向かうレーザ光(戻り光)L2の光路を、図中に破線で示す。
このように構成された光ピックアップ100の動作を簡単に説明する。
レーザ光源10から射出されたレーザ光L1は、先ず、PBS20に入射する。PBS20に入射したレーザ光L1は、偏光分離膜20aに45°の角度で入射して、P偏光光(直線偏光光)とS偏光光(直線偏光光)とに分離され、P偏光光が透過され、S偏光光が反射される。そして、偏光分離膜20aを透過したP偏光光は、1/4波長板30に入射する。一方、偏光分離膜20aにおいて反射されたS偏光光は、共に図示しないフロントモニターに入射した後、制御回路においてレーザ光源10のレーザ出力の制御に利用される。
1/4波長板30では、PBS20より入射したP偏光(直線偏光)のレーザ光L1が、円偏光に変換される。そして、反射ミラー40に入射する。
反射ミラー40では、1/4波長板30において円偏光に変換されて入射するレーザ光L1が、光ディスク200に向かって全反射される。
そして、反射ミラー40で反射された円偏光のレーザ光L1は、共に図示しないコリメータレンズで平行化され、さらに集光レンズで集光されて、光ピックアップ100から光ディスク200の情報記録面上に到達する。
そして、光ディスク200の情報記録面上に到達したレーザ光L1は、情報記録面で反射される。そして、光ディスク200で反射された円偏光のレーザ光は、戻り光のレーザ光L2として、再び光ピックアップ100に入射する。
光ピックアップ100に入射したレーザ光L2は、集光レンズ、コリメータレンズを介して、反射ミラー40に入射する。反射ミラー40では、入射したレーザ光L2が1/4波長板30に向かって全反射され、1/4波長板30に入射する。
1/4波長板30では、入射した円偏光のレーザ光L2が、S偏光(直線偏光)に変換されて、PBS20に向かって射出される。
そして、1/4波長板30においてS偏光に変換されたレーザ光L2は、PBS20に入射する。PBS20に入射したレーザ光L2は、偏光分離膜20aに45°の角度で入射して、信号検出用受光素子50に向かって反射される。
そして、偏光分離膜20aで反射されたS偏光のレーザ光L2は、信号検出用受光素子50に入射する。
信号検出用受光素子50では、入射したレーザ光L2が、各種信号や情報データに変換される。そして、その各種信号および情報データに基づいて、制御回路や各種アクチュエータにより、焦点位置調整やトラッキング調整などの自動制御が行われて、光ディスク200に記録されているデジタルデータ信号の読み出し(再生)が行われたり、デジタルビット情報の書き込みが行われたりする。
なお、光ピックアップ100は、レーザ光源10とPBS20との間に、レーザ光を平行化するコリメータレンズや3つのビームに分割するグレーティング(回析格子)を配置することができる。また、レーザ光源10から射出されるレーザ光をS偏光に変換して用いる場合には、1/2波長板を配置することができる。
以上のように、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜より成る偏光分離膜20aが設けられたPBS20を用いた光ピックアップ100は、優れた透過特性および反射特性を備えているので、レーザ光源10から射出されたレーザ光を、光ディスク200の情報記録面に集光して情報データ(デジタルデータ信号)の読み出し、および情報記録面に情報データ(デジタルビット情報)の書き込みを行う際に、情報の劣化を抑えた光ピックアップ100が得られる。
[実施形態2]
実施形態2は、青色、赤色および一部の赤外波長領域、例えばDVD/CDレコーダーの光ピックアップに使用される赤色半導体レーザ(波長660nm)および赤外半導体レーザ(波長785nm)に好適に用いられる偏光ビームスプリッタに適用した例であり、実施例2と比較のための比較例2とで示す。さらにこのレコーダに青色レーザを追加した光学製品の偏光ビームスプリッタに適用しても良い。なお、青色レーザを用いる場合の構成については前述の実施例1で詳述した内容に準ずる。したがって、光学基材(PBS基材)上に形成された多層膜は、入射光(レーザ光)毎に、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光分離膜として機能する。すなわち、本実施形態の偏光ビームスプリッタは、上記の各波長領域毎に、入射光を偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な光学素子である。
(実施例2)
「表5」は、本適用例に係るPBSにおける赤色・赤外波長領域に対応した光学薄膜の構成例を示す。なお、この膜構成は、バリヤ層を形成する酸化物質としてAl23を用い、設計波長395nm、入射角度45°における設計値である。
Figure 2009132989
「表5」において、PBSにおける光学薄膜は、PBS基材上にNb25を1層目として、2層目にMgF2、3層目にAl23、以後4層目〜27層目の間にNb25、MgF2、Al23がこの順に繰り返し成膜され、28層目にNb25、そして最上層の29層目にMgF2より成る29層の誘電体多層膜で構成される。
MgF2層およびAl23層は真空蒸着法により成膜し、Nb25層はアシスト法により成膜される。なお、MgF2層およびAl23層の成膜条件およびアシスト条件は、「表3」に示す実施例1の場合と同じに行った。すなわち、真空蒸着法を用いて成膜されたMgF2層と、アシスト法を用いて成膜されるNb25層との間に、酸化物質のAl23層が真空蒸着法により成膜される。成膜されたAl23層は、アシスト法のアシスト照射によるMgF2層へのエッチングなどを防ぐバリヤ層として機能する。
以後この多層膜構成を、上記実施例1と同様にNb25/MgF2/Al23構造と呼称する。
(比較例2)
「表6」は、比較例2における赤色・赤外波長領域に対応した対応したPBSの膜構成を示す。このPBSの膜構成は、バリヤ層を形成しない場合のNb25層とMgF2層より成る多層膜である。多層膜の設計値は、設計波長425nm、入射角度45°である。
Figure 2009132989
「表6」において、多層膜は、PBS基材上にNb25を1層目として、2層目にMgF2、以後3層目〜20層目の間にNb25とMgF2とがこの順に繰り返し成膜された20層の誘電体膜で構成される。
MgF2層は真空蒸着法により成膜し、Nb25の層はアシスト法により成膜される。なお、Nb25層およびMgF2層の成膜条件およびアシスト条件は、「表3」に示す実施例1の場合と同じに行った。以後この多層膜構成を、Nb25/MgF2構造と呼称する。
次に、実施例2および比較例2において成膜されたNb25/MgF2/Al23構造およびNb25/MgF2構造を備えたPBSの分光特性を、分光光度計を用いて測定した。
図10は、実施例2におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフであり、図11は、比較例2におけるNb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフである。それぞれのグラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)または反射率(%)を示す。
また、それぞれの図(グラフ)中に示す曲線TpはP波(TM波)の分光透過率、曲線RpはP波の分光反射率、曲線TsはS波(TE波)の分光透過率、曲線RsはS波の分光反射率を示し、いずれも波長領域350nm〜850nmにおける5nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
図10において、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性は、波長660nmにおけるS波の分光透過率(Ts)が99.453%、S波の分光反射率(Rs)が0.204%である。また、略640nm〜680nm範囲の赤色半導体レーザ波長域における平均分光透過率は99.458%であり、平均分光反射率は0.200%である。さらに、波長785nmにおけるTsが99.646%、Rsが0.137%であり、略770nm〜810nm範囲の赤外半導体レーザ波長域における平均Tsは99.632%、平均Rs0.166%である。
一方、図11に示すNb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性は、波長660nmにおけるTsが98.172%、Rsが0%である。また、略640nm〜680nm範囲の赤色半導体レーザ波長域における平均Tsは98.121%であり、平均Rsは0.136%である。さらに、波長785nmにおけるTsが98.369%、Rsが0.602%であり、略770nm〜810nm範囲の赤外半導体レーザ波長域における平均Tsは98.347%、平均Rs0.672%である。
すなわち、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜の赤色および一部の赤外波長領域における反射特性は、Nb25/MgF2構造の多層膜に比べて多少劣るものの、透過特性は優れた値を示している。
なお、詳細な説明は省略するが、図10および図11に示すように、いずれの構造の多層膜も、P波の分光透過率(Tp)および分光反射率(Rp)は、低波長側に拡大した波長域に対応した分光特性を有するが、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜は、S波の場合と同様に、Nb25/MgF2構造の多層膜に比べて優れた透過特性および反射特性を備えている。
以上の実施形態2(実施例2)によれば、光学基材上に形成されたNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えた偏光ビームスプリッタは、MgF2層とNb25層との間に、真空蒸着法を用いて形成されたAl23層を有することにより、光ピックアップの中心波長405nmの青色半導体レーザ、中心波長660nmの赤色半導体レーザおよび中心波長785nmの赤外半導体レーザに対応した、光学特性の劣化を防止した高効率の偏光ビームスプリッタを容易に得ることができる。なお、この偏光ビームスプリッタは、BD機器、DVD機器、CD機器の3つに対応した光ピックアップに好適に利用することができる。
[実施形態3]
実施形態3は、一例として、波長380nm付近以下の紫外光および波長範囲700nm〜900nm付近の赤外光をカットするIRカットフィルタ(以後、IRフィルタと示す)に適用した実施形態であり、実施例3と比較のための比較例3とで示す。したがって、光学基材(フィルタ基材)上に形成された誘電体多層膜は、赤外光をカットするIR膜として機能する。
(実施例3)
「表7」は、本適用例に係るIRフィルタの膜構成を示す。なお、この膜構成は、バリヤ層を形成する酸化物質としてAl23を用い、設計波長770nm、入射角度0°における設計値である。
Figure 2009132989
「表7」において、光学薄膜は、フィルタ基材上にSiO2を1層目として、2層目にTiO2、3層目にMgF2、4層目にAl23、以後5層目〜28層目の間にTiO2、MgF2、Al23がこの順に繰り返し成膜され、29層目にTiO2、そして最上層の30層目にSiO2より成る30層の誘電体多層膜で構成される。
多層膜の成膜は、SiO2層およびTiO2層が共にアシスト法により成膜され、MgF2層およびAl23層が真空蒸着法により成膜される。SiO2層およびTiO2層の成膜は、チャンバー内に40sccmの酸素(O2)ガスを導入して、成膜速度0.7nm/secの成膜条件で、O2ガス量:40sccm、加速電圧:1000V、加速電流:1200mAのアシスト条件で行った。MgF2層およびAl23層の成膜は、「表3」に示す実施例1の場合と同じ条件で行った。
すなわち、真空蒸着法を用いて成膜されるMgF2層と、アシスト法を用いて成膜されるTiO2層との間に、酸化物質のAl23層が真空蒸着法により成膜される。成膜されたAl23層は、TiO2層を成膜する際に、アシスト法のアシスト照射によるMgF2層へのエッチングなどを防ぐバリヤ層として機能する。以後この多層膜構成を、TiO2/MgF2/Al23構造と呼称する。
(比較例3)
「表8」は、比較例3におけるIRフィルタの膜構成を示す。この膜構成は、一般的に用いられているSiO2層とTiO2層とより成る多層膜である。多層膜の設計値は、実施例3と同様に、設計波長770nm、入射角度0°である。
Figure 2009132989
「表8」において、多層膜はフィルタ基材上にSiO2を1層目として、2層目にTiO2、以後3層目〜24層目の間にSiO2、TiO2がこの順に繰り返し成膜され、最上層の25層目にSiO2より成る25層の誘電体多層膜で構成される。SiO2層およびTiO2層はアシスト法により成膜される。なお、SiO2層およびTiO2層の成膜条件およびアシスト条件は、実施例3と同じ条件で行った。以後、この多層膜構成をSiO2/TiO2構造と呼称する。
次に、実施例3および比較例3で得られたTiO2/MgF2/Al23構造およびSiO2/TiO2構造を備えたIRフィルタの分光特性を分光光度計を用いて測定した。
図12は、実施例3におけるTiO2/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたIRフィルタの分光特性を示すグラフであり、曲線eで示す。図13は、比較例3におけるSiO2/TiO2構造の多層膜を備えたIRフィルタの分光特性を示すグラフであり、曲線fで示す。それぞれのグラフは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に透過率(%)を示す。
また、いずれのグラフも波長領域300nm〜1200nmにおける5nm毎の測定値のプロット点を結んだ線図である。
図12において、TiO2/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたIRフィルタは、波長700nm〜920nmの範囲において透過率1%以下の値を示す。一方、図13に示すSiO2/TiO2構造の多層膜を備えたIRフィルタは、波長700nm〜880nmの範囲において透過率1%以下の値を示す。なお、紫外光カット特性については、共に波長340nm以下の波長領域において略0%の値を示し、同じ程度の性能を有している。
実施形態3(実施例3)によれば、光学基材上に、TiO2/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたIRフィルタは、反射域が広波長、すなわち波長範囲700nm〜900nm付近の赤外光をカットするIRフィルタを容易に得ることができる。
なお、以上に説明した実施形態において、実施形態1に示す実施例1および実施形態2の実施例2におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜、あるいは実施形態3の実施例3におけるTiO2/MgF2/Al23構造の多層膜は、それぞれ上記したように、光学特性の劣化を防止した多層膜が得られるが、その他に応力レスの多層膜が得られる。すなわち、これらの多層膜を備えたPBSおよびIRフィルタは応力レスの光学素子を得ることができる。
それは、オプティカルフラットの円形基板上に、それぞれ、Nb25膜、MgF2膜、Al23膜、TiO2膜などを成膜した試料を作製し、成膜前後の基板反り量を、触針式測定器を用いて測定した。そして、下記に示すStoneyの式に基づく一般式(1)によりそれぞれの膜応力(S)を計算した。
S=(δ×Es×t2)/(L/2)2×3(1−V)×d …(1)
但し、式中、δは反り量、Esは基盤のヤング率、tは基板厚み、Lは基板の直径、Vは基板のポアソン比、dは膜の物理膜厚を表す。
その結果、アシスト蒸着されたNb25膜の応力は+2.2×108Pa、真空蒸着されたMgF2膜は−3.3×108Pa、真空蒸着されたAl23膜は−1.2×108Pa、アシスト蒸着されたTiO2膜は+2.3×108Paであった。なお、−(マイナス)の値は引張応力であることを示し、+(プラス)の値は圧縮応力であることを示している。
因みに、真空蒸着されたランタンアルミネート膜の応力は、−0.9×108Pa、真空蒸着されたランタンチタネート膜は−0.4×108Paである。また、一般的に用いられるアシスト蒸着されたSiO2膜の応力は、+3.3×108Paであった。
したがって、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜は、Nb25膜の圧縮応力、MgF2膜およびAl23膜の引張応力により、応力レスの多層膜が得られる。同様に、TiO2/MgF2/Al23構造の多層膜は、TiO2膜の圧縮応力、MgF2膜およびAl23膜の引張応力により、応力レスの多層膜が得られる。すなわち、応力レスの多層膜を備えたPBSおよびIRフィルタが得られる。
一方、一般的に用いられるNb25/SiO2構造の多層膜は、Nb25膜とSiO2膜とが、共に圧縮応力であることにより、多層膜が形成された光学素子は、内部応力が内在して、反りを伴った光学素子になり易い。
また、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えた光学素子の入射角依存性の許容範囲は、±7°程度であり、一般的なNb25/SiO2構造の多層膜における値は、±4°程度である。すなわち、Nb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えた実施例1および実施例2におけるPBSの入射角依存性の許容範囲は、45°±7°であり、広角度かつ高効率に対応することができる。
以上の実施形態1〜実施形態3において、MgF2層と高屈折率層との間に成膜される酸化物質より成るバリヤ層として、Al23より成る層を形成した場合で説明したが、Al23に代えてTa25層またはランタンチタネート層、さらにはランタンアルミネート層で構成される場合であっても同様の効果が得られる。但し、その場合には、層数、膜厚などの膜構成を、その酸化物質に対応した設計を行う必要がある。なお、バリヤ層としてランタンアルミネートを用いた場合の分光透過率特性は、Al23と略同じ特性を示す。
また、実施形態1〜実施形態3において、いずれの実施例の場合も、Nb25/MgF2/Al23構造およびTiO2/MgF2/Al23構造の多層膜における酸化物質層(バリヤ層)としてのAl23層の設計値に、10nmの物理膜厚を形成する場合で説明したが、前述したように5nm〜30nm範囲の内の所望の値を用いて、適宜設計することができる。
また、実施形態1〜実施形態3において、光学薄膜として、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光分離膜、および赤外光をカットするIRカット膜の場合で説明したが、本実施形態における技術思想は、少なくともMgF2層を含み構成された低屈折率層と、高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜で有れば、どのような光学機能膜にも適用することが可能である。
同様に、本実施形態の光学薄膜を、光学素子として、偏光ビームスプリッタ(PBS)およびIRカットフィルタに適用した場合で説明したが、各種波長板や各種フィルタなど、どのような光学素子の場合であっても良い。
Al23単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 ランタンチタネート単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 Ta25単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 SiO2単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 MgF2単層膜のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 MgF2膜+バリヤ層のアシスト照射前後における分光透過率特性を示すグラフ。 実施例1におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフ。 比較例1におけるNb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフ。 実施例1におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜が形成されたPBSを用いた光学ピックアップの概略光学構造を示す模式図。 実施例2におけるNb25/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフ。 比較例2におけるNb25/MgF2構造の多層膜を備えたPBSの分光特性を示すグラフ。 実施例3におけるTiO2/MgF2/Al23構造の多層膜を備えたIRフィルタの分光特性を示すグラフ。 比較例3におけるSiO2/TiO2構造の多層膜を備えたIRフィルタの分光特性を示すグラフ。
符号の説明
Tp…P波の分光透過率、Rp…P波の分光反射率、Ts…S波の分光透過率、Rs…S波の分光反射率。

Claims (7)

  1. 光学基材上に低屈折率層と前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜の形成方法であって、
    前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、
    前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、前記高屈折率層と異なる酸化物質層が真空蒸着法により成膜されていることを特徴とする光学薄膜の形成方法。
  2. 請求項1に記載の光学薄膜の形成方法であって、
    前記酸化物質層がAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成ることを特徴とする光学薄膜の形成方法。
  3. 請求項1に記載の光学薄膜の形成方法であって、
    前記酸化物質層がTa25より成ることを特徴とする光学薄膜の形成方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学薄膜の形成方法であって、
    前記酸化物質層の膜厚が少なくとも5nmであることを特徴とする光学薄膜の形成方法。
  5. 光学基材上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜を備えた光学素子であって、
    前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、
    前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、真空蒸着法により形成されたAl23、ランタンアルミネート、ランタンチタネートの内の、いずれか一つより成る酸化物質層を有することを特徴とする光学素子。
  6. 光学基材上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜で構成される光学薄膜を備えた光学素子であって、
    前記多層膜は前記低屈折率層として少なくともMgF2層を含み構成され、
    前記MgF2層と前記高屈折率層との間に、真空蒸着法により形成されたTa25より成る酸化物質層を有することを特徴とする光学素子。
  7. 請求項5または請求項6に記載の光学素子であって、
    前記光学素子が、光ピックアップに組み込まれて、レーザ光源より射出される中心波長が405nm、660nm、785nmの内の少なくともいずれか一つのレーザ光を、偏光成分毎の透過・反射の切り分けが可能な偏光ビームスプリッタであることを特徴とする光学素子。
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