JP2009131728A - 気体捕集剤及び気体捕集方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】気体を捕集する性質を有する包接水和物を含む気体捕集剤であって、前記包接水和物が、二種以上の四級アンモニウム塩を含む水溶液を15℃以上の温度に冷却することで前記水溶液中に生成する包接水和物を含むことを特徴とする気体捕集剤。
【選択図】 図1
Description
(1) 「水和物」とは、包接水和物の略称である。ホストまたはホスト物質と呼ばれる分子又は化合物(即ち、ホスト分子)が構成する籠状、トンネル形、層状、網状などの構造(包接格子)内に、ゲスト物質と呼ばれる他の分子または化合物(即ち、ゲスト分子)が入り込む又は取り込まれることで形成され、生成される物質を包接化合物という。ゲスト化合物の例としては、テトラnブチルアンモニウム塩、トリnブチルnペンチルアンモニウム塩等に代表される第四級アンモニウム塩、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩などがある。本発明における「水和物」には、準包接水和物が含まれる。
(2) 包接水和物を生成するゲスト化合物の水溶液、より詳しくは一種又は二種以上のゲスト化合物を溶質とし、水を溶媒とする水溶液を、「ゲスト化合物の水溶液」と略称する場合がある。
(3) 「水和物のスラリー」とは、水和物がそのゲスト化合物の水溶液又は水溶媒の中に分散又は懸濁してスラリー状を呈するに至ったものをいう。水和物が少量であっても(換言すれば水和物の存在比率が低くても)当該水溶液又は水溶媒に分散又は懸濁しているのであれば、それは「水和物のスラリー」に該当する。なお、「水和物のスラリー」を、文脈上又は便宜上単に「スラリー」という場合がある。
(4) 「水和物生成温度」とは、包接水和物のゲスト化合物を溶質とする水溶液を冷却したとき、包接水和物が生成する平衡温度をいう。当該水溶液のゲスト化合物の濃度などにより包接水和物が生成する温度が変動する場合であっても、これを「水和物生成温度」という。ゲスト化合物が異なる複数種の包接水和物が含まれている場合には、「水和物生成温度」には温度幅がある場合が多いので、横軸を温度、縦軸を比熱としたグラフにおいて比熱のピーク値をもって「水和物生成温度」と定義する。簡便のため、「水和物生成温度」を水和物の「融点」又は「凝固点」という場合がある。
(5)「調和融点」とは原料溶液を冷却することにより水和物を生成させる際、水溶液(液相)から水和物(固相)に変相する前後の組成が変わらない場合(例えばもとの水溶液中のゲスト化合物濃度と同じゲスト化合物濃度の水和物が冷却されて生成するとき)の温度をいう。水溶液のゲスト化合物の濃度により包接水和物が生成する温度(融点)が変動するが、縦軸を融点温度、横軸を濃度とした状態図では極大点が調和融点となる。
(6)「調和濃度」とは、調和融点を与える原料溶液の濃度をいう。
特許文献1において、第4級アンモニウム塩(臭化テトラnブチルアンモニウム)の水和物を利用して硫化水素とメタンを分離するなどの実施例が開示されている。気体捕集操作温度は1℃である。
特許文献2と3において、第4級アンモニウム塩(臭化テトラnブチルアンモニウム)の水和物を利用して窒素と酸素、あるいはメタンと混合ガスを分離する方法が開示されている。ここで、気体捕集操作温度は臭化テトラnブチルアンモニウムの水和物の調和融点(12℃)以下である4〜9℃程度の温度が例示されている。
非特許文献1において、第4級アンモニウム塩(臭化テトラnブチルアンモニウム、フッ化テトラnブチルアンモニウム)の水和物を利用して水素を捕集する方法が開示されている。
非特許文献2において、第4級アンモニウム塩(臭化テトラnブチルアンモニウム)の水和物を利用して窒素と二酸化炭素を分離する方法が開示されている。ここで、気体捕集操作温度は臭化テトラnブチルアンモニウムの水和物の調和融点(12℃)以下である6〜12℃程度の温度が例示されている。
臭化テトラnブチルアンモニウムをゲスト分子とする包接水和物の水和物生成温度は、調和濃度の場合は調和融点の12℃であり、調和濃度未満の濃度の場合では12℃以下である。テトラヒドロフランの場合は調和融点が5℃である。このように臭化テトラnブチルアンモニウムやテトラヒドロフランをゲスト分子とする包接水和物の水和物生成温度は、0℃より高いが15℃より低い。このため、このような包接水和物を生成させるには、15℃未満の温度までゲスト分子の水溶液を冷却しなければならならず、そのために格別の熱エネルギーを用意する必要がある。
しかし、前述したように経済的な条件にて気体の捕集操作を行うためには温度や圧力が経済的に実現し易いレベルであることが必要であり、温度を15℃以上で行うことが好ましい。その理由は、15℃より低い温度にゲスト分子の水溶液を冷却するには、冷媒を冷却するために冷凍機の使用が必要となり、動力(電力)コストや設備費が非常に大きくなり冷却に必要な熱源のコストがかさむからである。
包接水和物を生成するゲスト化合物の水溶液を冷却して包接水和物を生成することによる気体捕集特性を調べるために気体捕集試験を行う。以下に気体捕集試験方法を説明する。
内容積50ccの密閉容器に、包接水和物を生成するゲスト化合物の水溶液(以下試験水溶液という)を30cc充填する。密閉容器に試験ガスを導入し0.5MPaに昇圧し、更に常圧に減圧する操作を5回繰り返し、容器内部のガスを試験ガスに置換する。30℃にて試験ガスで0.5MPaに昇圧した状態で、静置して平衡に達するまで保持した後、バルブを閉めて容器を密閉する。容器全体を熱媒体に浸け、容器内部の液相部を攪拌しながら30℃から試験温度(10℃、15℃、20℃)にまで冷却し、その冷却過程での内部温度と内部圧力を計測し、試験温度にまで冷却され内部圧力が変化しなくなったところで到達圧力を記録する。
試験開始時の内部圧力0.5MPaから到達圧力までの圧力低下量のうち、温度低下によるガスの体積減少による圧力低下量を除く低下量が、包接水和物生成によるガス捕集量にほぼ相当する。温度低下によるガス体積減少による圧力低下量は、20℃の場合0.017MPa程度、10℃の場合0.033MPa程度である。
以下、種々の気体について、包接水和物を生成する種々のゲスト化合物の水溶液から包接水和物を生成する際に気体を捕集する特性を調べた。包接水和物を生成する種々のゲスト化合物の調和融点と調和濃度を表1に示す。
・試験ガス アルゴン
試験ガスとしてアルゴンを用い、試験水溶液として臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)5wt%水溶液、フッ化テトラnブチルアンモニウム(TBAF)5wt%水溶液、テトラヒドロフラン(THF)5wt%水溶液、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)5wt%水溶液を用いて気体捕集試験を実施した。
各試験温度(10℃、15℃、20℃)にまで冷却した際の到達内部圧力の測定結果を図1に示す。図1において、横軸は試験温度(℃)を示し、縦軸は到達内部圧力(MPa、ゲージ圧)を示す。試験開始時の内部圧力0.5MPaからの内部圧力の低下量から温度低下によるガスの体積減少に伴う圧力低下量を除いた低下量がガス捕集量にほぼ相当する。
表1にも示したが、臭化テトラnブチルアンモニウムとテトラヒドロフランについては、それぞれの水和物の調和融点がそれぞれ12℃および5℃であり、5wt%水溶液では水和物生成温度は調和融点より低い温度となるため、各試験温度(10℃、15℃、20℃)における水和物生成による気体捕集効果は非常に小さい。これが気体捕集量が比較的小さい理由として考えられる。フッ化テトラnブチルアンモニウムの調和融点は臭化テトラisoペンチルアンモニウムと同じくほぼ30℃であり、臭化isoペンチルアンモニウムと同様に水和物が生成されると考えられるが、気体捕集量は臭化テトラisoペンチルアンモニウム5wt%水溶液に比べて少ない。
捕集試験中、試験水溶液及び水和物が生成した試験水溶液は流動性を保っていた。
以上のことより、臭化テトラisoペンチルアンモニウム水溶液は、従来技術に取り上げられてきた臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液、フッ化テトラnブチルアンモニウム水溶液、テトラヒドロフラン水溶液に比べ、同じ5wt%の濃度において、15℃以上の工業的に経済的な温度域で、格段に優れたアルゴンガス捕集性能を発揮することが分かる。
・試験ガス 二酸化炭素
試験ガスとして二酸化炭素を用い、試験水溶液として、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)5wt%水溶液、フッ化テトラnブチルアンモニウム(TBAF)5wt%水溶液、水酸化テトラnブチルアンモニウム(TBAOH)5wt%水溶液、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)5wt%水溶液、臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウム(TiPBAB)5wt%水溶液、臭化トリnブチルisoペンチルアンモニウム(TBiPAB)5wt%水溶液を用いて、実施例1と同様に気体捕集試験を実施した。
図2に示すように、臭化テトラisoペンチルアンモニウム5wt%水溶液、および臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウム5wt%水溶液を冷却して包接水和物を生成する場合にガス捕集量が著しく大きい。
臭化テトラnブチルアンモニウムと臭化トリnブチルisoペンチルアンモニウムについては、それぞれの水和物の調和融点がそれぞれ12℃および17℃であり、5wt%水溶液では水和物生成温度は調和融点より低い温度となるため、各試験温度(10℃、15℃、20℃)での水和物生成による気体捕集効果は非常に小さい。このことが気体捕集量が比較的小さい理由として考えられる。フッ化テトラnブチルアンモニウムと水酸化テトラnブチルアンモニウムの調和融点は臭化テトラisoペンチルアンモニウムと同じくほぼ30℃であり、臭化テトラisoペンチルアンモニウムと同様に水和物が生成されると考えられるが、気体捕集量は臭化テトラisoペンチルアンモニウムや臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウムの5wt%水溶液に比べて少ない。
包接水和物を生成するゲスト化合物の水溶液から包接水和物を生成する際に気体を捕集する操作が効率的に行われるためには、水溶液から包接水和物を生成する過程において気体と気体が捕集される水溶液及び包接水和物を含む水溶液との接触面積が大きいことが好ましい。そのためには、気体が水溶液及び包接水和物を含む水溶液内に気泡として分散する、あるいは気体の中に水溶液及び包接水和物を含む水溶液が分散していることが必要であり、すなわち水溶液及び包接水和物を含む水溶液の流動性が適切に保たれている必要がある。気体が捕集される水溶液及び包接水和物を含む水溶液中の水和物を生成するゲスト化合物の濃度が高いと、水和物生成量が多くなり、水溶液中の水和物固体の割合が増加するために粘度が増大し流動性が低くなる。ゲスト化合物の濃度が調和濃度である場合には、水和物が生成すると水溶液は固体になり流動性は失われる。したがって、ゲスト化合物の濃度は調和濃度より低いことが必要であり、水溶液の流動性が損なわれない適正な濃度とすることが気体を捕集する操作を効率的に行うために好ましい。
水溶液及び包接水和物を含む水溶液の流動性を適正に保持するためにゲスト化合物濃度の好ましい範囲を調べた。
試験ガスとして二酸化炭素を用い、試験水溶液として、フッ化テトラnブチルアンモニウムの5、10、20、30wt%水溶液、臭化テトラisoペンチルアンモニウム5、10、20、30wt%水溶液を用いて、実施例1と同様に気体捕集試験を実施した。
各試験温度(10℃、15℃、20℃)にまで冷却した際の到達内部圧力の測定結果を図3に示す。
フッ化テトラnブチルアンモニウムの20wt%水溶液と30wt%水溶液の場合、20℃以下となると固化して流動性を失った。また、臭化テトラisoペンチルアンモニウム水溶液の30wt%の場合、20℃以下になると固化して流動性を失った。
前記の流動性を失った3つの場合を除いて比較すると、図3に示すように、臭化テトラisoペンチルアンモニウム5、10、20wt%水溶液を冷却して包接水和物を生成する場合にガス捕集量が著しく大きい。
一方、フッ化テトラnブチルアンモニウムの場合には、5、10、20、30wt%のいずれの濃度でも、攪拌して過冷却を解除する操作をしても約30℃で包接水和物を生成して到達内部圧力が低下することは無い。
このように臭化テトラisoペンチルアンモニウムの20〜30wt%水溶液を用いることにより、30℃でも気体捕集が可能となることが分かる。
・捕集対象気体 二酸化炭素、アルゴン、空気、窒素
試験ガスとして二酸化炭素、アルゴン、空気、窒素を用い、試験水溶液として、臭化テトラisoペンチルアンモニウム5wt%水溶液を用いて、実施例1と同様に気体捕集試験を実施した。
各試験温度(10℃、15℃、20℃)にまで冷却した際の到達内部圧力の測定結果を図4に示す。各試験温度において、二酸化炭素の捕集量がアルゴン、空気、窒素に比べて大きく、この捕集量の差があることを利用して二酸化炭素を選択的に捕集してガス分離を行うことも可能であることが分かる。
・混合水溶液
・試験ガス 二酸化炭素
試験ガスとして二酸化炭素を用い、試験水溶液として、臭化テトラnブチルアンモニウム5wt%水溶液、フッ化テトラnブチルアンモニウム5wt%水溶液、水酸化テトラnブチルアンモニウム5wt%水溶液、臭化テトラisoペンチルアンモニウム2.5wt%と臭化テトラnブチルアンモニウム2.5wt%の混合水溶液を用いて、前記気体捕集試験方法で示したのと同様の気体捕集試験を実施した。
各試験温度(10℃、15℃、20℃)にまで冷却した際の到達内部圧力の測定結果を図5に示す。
図5に示すように、臭化テトラisoペンチルアンモニウム2.5wt%と臭化テトラnブチルアンモニウム2.5wt%の混合水溶液を冷却して包接水和物を生成する場合にガス捕集量が他の水溶液に比べて大きい。
本発明においては、気体捕集剤の成分としての包接水和物が、臭化テトラisoペンチルアンモニウムまたは臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウムを溶質とする水溶液を冷却することにより生成するものであるが、水溶液の冷却温度を15℃以上とすることにより、冷却を行う際(即ち水和物を生成させる際)、格段の冷却装置を必要とせず、エネルギーの節減に資することができ、効率的又は経済的である。
また、水溶液の冷却温度を15℃以上と特定せずに、10℃〜30℃の温度域で冷却して水和物を生成させるようにしても、従来技術に取り上げられてきた臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液、テトラヒドロフラン水溶液に比べ、格段に優れた気体捕集性能を発揮することができるため、効率よく気体捕集を行うことができる。
Claims (6)
- 気体を捕集する性質を有する包接水和物を含む気体捕集剤であって、
前記包接水和物が、二種以上の四級アンモニウム塩を含む水溶液を15℃以上の温度に冷却することで前記水溶液中に生成する包接水和物を含むことを特徴とする気体捕集剤。 - 気体を捕集する性質を有する包接水和物を含む気体捕集剤であって、
前記包接水和物が、臭化テトラisoペンチルアンモニウムまたは臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウムを溶質とする水溶液を冷却することで前記水溶液中に生成する包接水和物を含むことを特徴とする気体捕集剤。 - 水溶液中の四級アンモニウム塩の濃度が20重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の気体捕集剤。
- 二種以上の四級アンモニウム塩を溶質として含む水溶液を冷却し、気体を捕集する性質を有する包接水和物を生成させることにより、その包接水和物を用いて気体を捕集する方法であって、
前記二種以上の四級アンモニウム塩の一つが臭化テトラisoペンチルアンモニウムまたは臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウムであり、
前記包接水和物が、前記水溶液を冷却することで生成する包接水和物であることを特徴とする気体捕集方法。 - 四級アンモニウム塩を溶質として含む水溶液を冷却し、気体を捕集する性質を有する包接水和物を生成させることにより、その包接水和物を用いて気体を捕集する方法であって、
前記四級アンモニウム塩が臭化テトラisoペンチルアンモニウムまたは臭化トリisoペンチルnブチルアンモニウムであり、
前記包接水和物が、前記水溶液を冷却することで生成する包接水和物であることを特徴とする気体捕集方法。 - 水溶液中の四級アンモニウム塩の濃度が20重量%以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の気体捕集方法。
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