以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば押出機の操作法のような押出成形に関する一般的な事項)は、いずれも従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面によって開示されている事項と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここに開示される技術により提供される装飾体は、被取付体に取り付けられる係合部(即ち、被取付体と係合して上記装飾体を該被取付体の所定位置に保持する機能を果たす部分)と、該係合部と一体的に形成された装飾部とを有しておればよく、その他のエレメント(付属部分)の有無に関して特に制限はない。また、装飾体の横断面形状ならびに該横断面に占める係合部と装飾部との面積比は、いずれも装飾体の用途や被取付体(取付部位)の形状によって適宜異なり得るものであり、特に限定されない。例えば、ここで開示される装飾体の好適例として、自動車等の車両用サンルーフトリム、ドアオープニングトリム、天井材トリムその他の車両用トリム、シートレールカバー等の車両内装用装飾部材(車両用内装部品)が挙げられるが、横断面形状、該横断面に占める係合部及び装飾部の形状ならびに面積比は、それら用途に応じて異なり得る。なお、上記装飾部は、上記装飾体の意匠面(即ち、該装飾体が被取付体に取り付けられた状態において外部から目視される面)を含む構造部分であって、係合部の一部が装飾部を兼ねていてもよく、あるいは逆に装飾部の一部が係合部を兼ねていてもよい。
上記装飾部(装飾体)のうち少なくとも意匠面を成す外表面部分は、熱可塑性エラストマーと熱膨張性カプセルとを含む外表面部分成形材料により構成されている。この外表面部分成形材料は、上記装飾部の外表面部分に加えて、上記装飾体の他の部分を構成する材料として用いられてもよい。例えば、装飾部のうち意匠面以外の部分(例えば、該意匠面の内側に位置する部分)や、装飾体のうち取付後において外部から目視されない表面部分(意匠面以外の外表面部分又は内表面部分、例えば係合部の外表面部分)、或いは装飾部及び係合部以外の付属部分もまた外表面部分成形材料により構成された形態の装飾体であってもよい。
外表面部分成形材料を構成する熱可塑性エラストマー(ベース材料)は、溶融張力が凡そ120mN〜300mN(好ましくは凡そ150mN〜250mN)の熱可塑性エラストマー(以下、「TPE」ともいう。)である。ここで「溶融張力」とは、所定の温度(典型的には、外表面部分成形材料を押出成形する際の押出ダイ温度)に加熱された溶融樹脂を所定の開口径を有する孔から所定の速度(押出量)で糸(ストランド)状に押し出し、その押し出された溶融樹脂を所定の速度で引き取る際に検出される張力をいう。本発明における溶融張力は、典型的には図8に示す概略構成を有する装置を用いて測定される。この溶融張力測定装置80は、円筒状の中空部を有し該中空部に収容された樹脂(TPE)を所定の温度で加熱溶融可能に構成されたシリンダ81と、該中空部の溶融樹脂をシリンダ81の先端に設けられたキャピラリ82から押出可能に構成されたピストン83と、キャピラリ82から押し出された溶融樹脂を所定の速度で引き取る引取機84と、キャピラリ82と引取機84との間に介在されたテンションプーリー(ロードセル、張力測定機)85とを備える。シリンダ81内において所定の溶融温度(測定温度)で溶融された樹脂をキャピラリ82から押し出し、テンションプーリー85を介して引取機84により所定の引取速度で引き取るときの張力を測定することにより、当該樹脂の上記所定温度における溶融張力を求めることができる。ここで、上記引取速度は、糸状に押し出された溶融樹脂が弛まず且つ千切れない程度の速度(換言すれば、溶融樹脂が千切れてしまう限界前の速度)に設定される。上記溶融張力は、例えば、株式会社東洋精機製作所から入手可能なキャピラリーレオメータ、商品名「キャピログラフ」(シリンダ内径d=9.55mm)を用いて、典型的にはキャピラリーサイズφ1mm×10mm(ダイ径D=1mm、ランド長L=10mm)、ピストン降下速度V=30mm/分の条件で測定することができる。
上記溶融張力を有する限り、外表面部分成形材料を構成するTPE(ベース材料)の種類は特に限定されない。例えば、従来公知のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等のなかから上記溶融張力を満たすものを適宜選択して使用することができる。好ましく使用されるTPOの一例として、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂をハードセグメントとし、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック(SEPS)等をエラストマー成分(ソフトセグメント)とするTPOが挙げられる。なかでも、スチレン系ゴム成分を含むTPOが好ましい。例えば、PP、PE等のオレフィン系マトリックス中に、水素添加されたTPS(SEBS又はSEPSタイプのTPS(水素添加SBC)等)が分散したタイプのTPO(TPS系コンパウンド)を好ましく使用することができる。また、溶融張力と他の特性(例えば耐摩耗性)とのバランスに優れることから、動的架橋タイプのTPEを好ましく使用することができる。上記動的架橋タイプのTPEは、ハードセグメント及びソフトセグメントの一方に架橋構造が導入されたTPEであって、例えば該TPEの構成材料を適当な架橋剤とともに混練することにより動的架橋されたものであり得る。
ここに開示される技術において外表面部分成形材料を構成するTPEとして好ましく使用し得る材料の一例として、リケンテクノス株式会社から入手可能な動的架橋オレフィン系エラストマー(水素添加SBC、パラフィンオイル及びPPを主構成成分とする、動的架橋された熱可塑性エラストマー)であって、押出成形温度(例えば200℃)において測定される溶融張力が120mN〜300mN(好ましくは凡そ150mN〜250mN)の範囲にあるものが挙げられる。
ここに開示される技術において熱膨張性カプセルとは、加熱により膨張する性質を備えたカプセルをいい、典型的には、加熱により占有体積を増す内包物質(通常は気体又は固体や液体であって加熱によってガス化するもの)を熱可塑性樹脂製の外殻内に封じ込めた粒子をいう。かかる熱膨張性カプセル(以下、単に「カプセル」と略記することもある。)を加熱すると、外殻を構成する熱可塑性樹脂が軟化し且つ該外殻の内部に収容された上記内包物質が体積膨張する(即ち、上記内包物質が膨張剤として機能する)ことによって、上記外殻(ひいては熱膨張性カプセル)が内圧により膨らむ。この膨張したカプセルが意匠面の外側に向けて突出することにより、該意匠面に複数(典型的には多数)の突起が形成される。該突起には、上記外表面部分の表面近くにあるカプセルが膨張することで該カプセルを囲むTPEが外側に押し出されて(盛り上がって)形成されたもの、該膨張したカプセルの外殻の一部が表面に露出して形成されたもの等が含まれ得る。かかる突起の形成により優れた意匠的効果(良好な布目調の外観)が発揮され得る。
上記熱膨張性カプセルの形状は特に限定されず、例えば紡錘形状、略球形状、不定形状、円筒状等の各種形態を取り得る。カプセルの分散性及び意匠的効果の点から略球形状であることが好ましい。膨張前における外径(最大外径寸法)がμmオーダーである熱膨張性カプセル(即ちマイクロカプセル)が好ましく、該外径が凡そ5μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは凡そ10μm以上50μm以下である。上記TPEに分散される熱膨張性カプセルの外径は、互いにほぼ同じであってもよく、二種以上の異なる外径を有してもよい。より実際の布に似た外観を実現し得るという観点から、二種以上の外径を有する(典型的には多様な外径を有する、即ち外径の値にバラツキのある)熱膨張性カプセルの使用が好ましい。この場合において、使用するカプセルの外径の平均値(平均外径)が上記範囲にあることが好ましい。平均外径の異なる二種以上のカプセルを任意の割合で併用してもよい。
熱膨張性カプセルの外殻を構成する材料は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル系共重合体、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂であり得る。該カプセルに内包される物質(膨張剤)は、特に限定しないが、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ブタン、イソブタン、イソペンタン等の低沸点炭化水素等とすることができる。また、空気、二酸化炭素の他、窒素、アルゴン等の不活性ガス(一部又は全部が液化した状態であり得る。)を内包物質とすることもできる。
外表面部分成形材料の押出成形温度(例えば160℃〜230℃、好ましくは170℃〜210℃)において外殻が軟化した状態となる(換言すれば、上記成形温度よりも軟化温度が低い材料からなる外殻を有する)熱膨張性カプセルが好ましい。例えば、軟化温度が70℃以上100℃以下の熱可塑性樹脂を外殻構成材料とする熱膨張カプセルが好ましい。該カプセルの最高発泡温度(最もよく膨張する温度)は凡そ170℃以上(典型的には170℃以上230℃以下)であることが好ましい。例えば、該最高発泡温度が凡そ180℃〜210℃の範囲にある熱膨張性カプセルを好ましく使用することができる。
なお、ここに開示される装飾体の外表面部分は、典型的には種々の程度に膨張したカプセルを含み、更に実質的に膨張してないカプセルを含み得る。従って、該外表面部分に含まれる熱膨張性カプセルの外径は、例えば、使用した熱膨張性カプセル(即ち、膨張前の熱膨張性カプセル)の外径以上であって且つ凡そ500μm以下(典型的には凡そ300μm以下、例えば凡そ200μm以下)の範囲にある種々の外径であり得る。膨張前の外径に対して凡そ2倍以上(より好ましくは凡そ4倍以上)の外径に膨張し得る性能を備えた熱膨張性カプセルの使用が好ましい。このように膨張性のよいカプセルは、より多様なサイズの突起を有する意匠面を形成するのに適している。かかる意匠面によると優れた意匠的効果が実現され得る。
好ましく使用可能な熱膨張性カプセルの市販品(後述するマスターバッチ化された状態で市販されているものを含む。)としては、日本フィライト株式会社から入手可能な商品名「エクスパンセル(EXPANCEL)マイクロスフィア」、松本油脂製薬株式会社から入手可能な商品名「マツモトマイクロスフェアー」、大日精化工業株式会社から入手可能な商品名「ダイフォーム」及び同「ファインセルマスター」、積水化学工業株式会社から入手可能な商品名「アドバンセル(ADVANCELL)」、Akzo Nobel社から入手可能な「アクゾノベル」等が挙げられる。
ここに開示される技術における外表面部分成形材料は、このような熱膨張性カプセルを、上述した溶融張力を有するTPE100質量部に対して凡そ2〜10質量部(例えば凡そ2〜7質量部)の割合で含有する。熱膨張性カプセルの含有量が少なすぎると、該カプセルの膨張や突出により形成され得る突起の数が少なくなるため、十分な意匠的効果が得られ難くなる。一方、上記含有量が多すぎると、外表面部分成形材料の押出成形性が低下して、上述したささくれ発生等の不具合が起こりやすくなる。また、押出成形温度における溶融張力が上記範囲よりも小さすぎるTPEを用いると、上記ささくれが発生したり、上記カプセルの膨張により意匠面にひび割れを生じたりして、外観上の不具合が起こりやすくなる。溶融張力が上記範囲よりも大きすぎるTPEを用いると、該溶融張力によって熱膨張性カプセルの膨張や突出(即ち、意匠面に突起を形成する作用)が抑制されるため、所望の意匠的効果が発現されにくくなる。上記範囲の溶融張力を有するTPEを選択するとともに熱膨張性カプセルの含有量を上記範囲とすることにより、高い意匠的効果(実際の布によく似た布目調の外観)と良好な成形性(例えば、ささくれやひび割れ等の不具合が生じにくいこと)とを高レベルで両立させることができる。
ここに開示される装飾体の装飾部は、全体を一つの(一種類の)成形材料で形成してもよく(後述する第3実施例参照。)、部分(具体的には横断面からみた部分)毎に異なる成形材料を用いて形成してもよい。例えば、熱可塑性樹脂材料(基材部分成形材料)により形成された基材部分の表面を層状に覆って上記外表面部分が形成された構成の装飾部であってもよい(後述する第1実施例及び第2実施例参照)。基材部分成形材料を構成する熱可塑性樹脂成分(マトリックス材)の種類は特に限定されず、例えば、従来公知のPP,PE,ABS等の熱可塑性樹脂(好適例としてPP,PE等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。)、TPO,TPS,TPU等の熱可塑性エラストマー(好適例としてTPO及びTPSが挙げられる。)等であり得る。基材部分成形材料の組成と係合部成形材料の組成とは同一であってもよく異なってもよい。基材部分成形材料と係合部成形材料との組成が異なる場合には、互いに相溶性のよい成形材料を用いることが好ましい。
前記係合部は、係合部成形材料としての熱可塑性樹脂材料を用いて形成された成形部を備える。即ち、該係合部の少なくとも一部は上記係合部成形材料により形成されている。この係合部成形材料は、上記係合部の少なくとも一部(該係合部の全体であり得る。)に加えて、上記装飾体の他の部分を構成する材料として用いられてもよい。例えば、装飾部のうち意匠面以外の部分(例えば、装飾部のうち上記意匠面の内側に位置する部分)や、装飾体のうち取付後において外部から目視されない表面部分(意匠面以外の外表面部分又は内表面部分、例えば係合部の外表面部分)、或いは装飾部及び係合部以外の付属部分もまた係合部成形材料により構成された形態の装飾体であってもよい。
ここで開示される装飾体の係合部は、被取付体側における装飾体取付部位の構造及び取り付け(係止)機構に応じて異なる形状及び物性(例えば弾性)をとり得るため、かかる係合部の成形に使用される材料(係合部成形材料)を構成する熱可塑性樹脂成分(マトリックス材)の種類は特に限定されず、例えば、従来公知のPP,PE,ABS等の熱可塑性樹脂(好適例としてPP,PE等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。)、TPO,TPS,TPU等の熱可塑性エラストマー(好適例としてTPO及びTPSが挙げられる。)等であり得る。この係合部成形材料は熱膨張性カプセルを必須成分としない。換言すれば、該係合部成形材料は熱膨張性カプセルを含有しても含有しなくてもよく、該カプセルを含有する場合における含有量も特に限定されない。通常は、熱膨張性カプセルを実質的に含有しない(例えば、該カプセルを少なくとも意図的には配合しない)係合部成形材料が好ましく用いられる。
かかる係合部は、その全体を一つの(一種類の)成形材料で形成してもよく、部分(具体的には横断面からみた部分)毎に異なる成形材料を用いて形成してもよい。また、後述する実施例のように、係合部の主要部分(幹部)とは別に、被取付体に係止させるための係合片(リップ)をより弾性力の高い軟質のTPO(例えばハードセグメントがポリプロピレン等のオレフィン系樹脂でありソフトセグメントがEPDMであるTPO)を主体とする成形材料から形成してもよい。
外表面部分成形材料及び係合部成形材料の各々には、必要に応じて種々の副成分を含有させることができる。そのような副成分の一例として、粉状及び/又は繊維状の固形充填材が挙げられる。かかる固形充填材の例としては、セラミック粉(タルク等の種々の無機化合物粉を包含する。以下同じ。)、カーボン粉(例えばカーボンブラック)、木粉、セラミックファイバー、カーボンファイバーが挙げられる。充填材を使用する場合における使用量(含有量)は、用いる充填材の種類及び装飾体の用途に応じて異なり得る。典型的には、成形材料全体の概ね1〜60質量%となる割合で充填材を混練することが好ましい。或いは、充填材を実質的に含有しない組成の成形材料であってもよい。
また、外表面部分成形材料及び係合部成形材料の各々には、任意成分としての上記固形充填材の他に、必要に応じて種々の補助成分(添加剤)を含有させることができる。かかる補助成分としては、酸化防止剤、光安定剤、UV吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、難燃剤、分散剤、抗菌剤、帯電防止剤等が挙げられる。
外表面部分成形材料は、従来公知の種々の方法によって所望する形態に調製することができる。例えば、上述した所定の溶融張力を有するTPE(ベース材料)と熱膨張性カプセルとを所定の比率で配合したものを混練押出機にて混練し、ストランドに押し出した後にペレット形状とすることができる。なお、ベース材料と熱膨張性カプセルとを混合するにあたり、該熱膨張性カプセルは、適当な樹脂材料に分散されたマスターバッチ(典型的には、該マスターバッチ全体の20〜60質量%程度の割合で熱膨張性カプセルを含む。例えばペレット化されたマスターバッチ)の形態で使用され得る。このことによってベース材料に対する熱膨張性カプセルの分散性を高めることができる。マスターバッチを構成する樹脂材料としては、ベース材料たるTPEと均一に混合しやすい(例えば相溶性のよい)樹脂が好ましい。ベース材料がTPOである場合には、例えばPE,PP,EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)等のTPOと相溶性のある樹脂材料に熱膨張性カプセルを分散させたマスターバッチを好ましく採用し得る。
なお、ここで開示される装飾体には、特に制限を設けることなく芯材を埋設(インサート)することができる。例えば、略円形の断面を有するワイヤ形状、平板形状、湾曲した板形状等の金属性芯材が例えば係合部に埋設された構成とすることは、装着作業性及び装着後の寸法形状安定性の観点から好ましい。
本発明の装飾体は、上述した種々の成形材料を用いて、好ましくは押出成形法により製造することができる。例えば、使用する成形材料の種類(数)に応じて押出機(典型的には少なくとも外表面部分成形材料用の押出機と係合部成形材料用の押出機とを含む。)を用意する。また、各押出機(一般的な単軸押出機、二軸押出機等でよい。)と連結し、加熱溶融した樹脂が流れる溶融樹脂流路(成形材料流路)と製造目的たる装飾体の横断面形状に対応する開口形状のオリフィスとを有する押出成形型とを備える押出成形装置を用意する。そして、各押出機にそれぞれ所定の成形材料を投入し、各押出機から溶融状態の成形材料をそれぞれ押出成形型に供給すると共に上記オリフィスから所定の断面形状で各成形材料を同時に押し出して(即ち共押出成形を行って)、前記装飾部のうち少なくとも意匠面を成す外表面部分が前記外表面部分成形材料から形成された装飾部と前記係合部成形材料から形成された係合部とが一体化された長尺成形体を得る。該長尺成形体を所定の長さに切断することにより、所望の形状(長さ)の装飾体を製造することができる。
かかる共押出成形を含む態様で行われる押出成形法によって本発明の装飾体を製造する押出成形装置の一構成例につき、図6及び図7を参照しつつ説明する。図6に示すように、この押出成形装置50は、大まかにいって、押出成形型51と、該押出成形型に連結された押出機52A,52Bと、押出成形型51から押し出された長尺成形体40を冷却する冷却槽55と、冷却された長尺成形体40を引き取る引取装置56と、長尺成形体40を目的とする装飾体の形状に応じた長さに切断するカッター(切断機)57とを備える。
図7に示すように、押出成形型51は、基本ダイ62とその下流側端面に一体に装着された押出ダイ66(エンドプレートとも称される。)とを備える。押出ダイ66の下流側端面には、押出ダイ66から押し出された長尺成形体40を下方から支持する支持具53が一体的に取り付けられている。押出成形型51には、該押出成形型に外表面部分成形材料M1を供給する第1押出機52Aと、該押出型に係合部成形材料M2を供給する第2押出機52Bとが、それぞれ押出成形型51の上方及び後方に連結されている。これらの押出機52A,52Bは図示しない温度調整機構を備え、各押出機52A,52Bのホッパー(図6参照)に投入されたペレットその他の形状の成形材料(外表面部分成形材料M1及び係合部成形材料M2)を溶融しつつ、押出成形型51の内部に設けられた第1成形材料流路64A及び第2成形材料流路64Bの上流端に溶融状態の成形材料M1,M2をそれぞれ押出可能に構成されている。第1成形材料流路64Aと第2成形材料流路64Bとは、基本ダイ62の内部では分離して形成されており、押出ダイ66の部分で溶融状態の両成形材料M1,M2が合流するように形成されている。その合流した成形材料M1,M2が共に、押出ダイ66のオリフィス(押出口)68から、外表面部分成形材料M1から形成された成形部P1と係合部成形材料M2から形成された成形部P2とが一体化された長尺成形体40となって押し出される。
オリフィス68は、製造しようとする装飾体の横断面形状にほぼ対応した開口形状に形成されている。ここで、例えばこのオリフィス68から押し出される長尺成形体40のうち成形部P1の外側表面(最終的に得られる装飾体において装飾部の意匠面を構成する部分)に押出方向Qに沿って延びる複数の凹溝及び/又は凸条を形成する(換言すれば、かかる凹溝及び/又は凸条を有する意匠面を有する装飾体を製造する)ことを意図する場合には、オリフィス68の相当する部分(成形部P1の外側表面を形成する成形材料M1と接する内面)に上記凹溝及び/又は凸条(例えば凹溝)に対応した形状の凸部及び/又は凹部(例えば凸部)が設けられていてもよい。或いは、押出方向Qに沿って延びる凸条及び/又は凹溝を有する意匠面の形成を特に意図しない場合には、かかる凹溝及び/又は凸条を付与する機能を特に有しない形状のオリフィス68を用いればよい。
押出成形型51の周囲には、成形材料流路64A,64Bを流れる成形材料M1,M2を加熱するためのバンドヒータ65が設けられている。このバンドヒータ65により(図示しない他のヒータを併用してもよい。)、成形材料流路64A,64Bの内表面が、成形材料M1,M2の溶融状態を維持し得る所定の温度に加熱されている。ここに示す例では、更に、押出ダイ66のうち成形材料流路64Aの直上部分に挿入型ヒータ67が組み込まれている。このヒータ67を作動させることにより、成形材料流路64Aの押出ダイ66における部分(最終的に得られる装飾体において装飾部の意匠面を構成する外表面部分成形材料M1が押出ダイ66に接して流れる部分)の表面温度を他の部分よりも高温とし、これにより当該部分に接して流れる外表面部分成形材料M1をその表面側から加熱して他の部分よりも高温とし、該材料M1に含まれる熱膨張性カプセルを軟化させると共に該カプセルの内圧を高めることができる。このように意匠面に相当する部分のみをヒータ67により集中的に加熱し、該ヒータ67による加熱が他の部分(例えば成形材料流路64B)には及ばないようにすると、意匠面以外の部分を構成する成形材料が不必要な高温まで加熱されることがないので該部分の押出成形性(形状精度等)を良好に維持することができ好ましい。かかる余分な加熱を回避することはエネルギーコストの点からも有意義である。但し、ヒータ67を作動させずに押し出しを行ってもよく、或いはヒータ67が組み込まれていない(省略した)態様の押出ダイ66を用いて押し出しを行ってもよい。
支持具53には、エンボスローラ(しぼローラ)54を配設するためのローラ配設溝54Aが形成されている。ローラ配設溝54Aの底面には、押出成形型51から押し出された直後の長尺成形体40を挿通案内して通過させるための挿通溝54Bが押出方向Qに沿って形成されている。エンボスローラ54は略円柱状の外形を有し、その外周面には該ローラの回転軸方向に沿って延びる複数の凸部(図示せず)が形成されている。エンボスローラ54は、その回転軸が押出方向Qと直交する向きで、支持具53のローラ配設溝54Aの両側壁に支持されており、上記押出直後の長尺成形体40に圧接して該成形体40の押出速度に合わせて回転するように構成されている。このエンボスローラ54の外表面形状が成形部P1の外側表面に押圧されることにより、該外側表面に押出方向Qと交差する方向(ここでは押出方向Qと直交する方向)に延びる複数の凹溝及び/又は凸条(ここでは凹溝)が形成される。なお、押出方向Qと交差する方向に延びる凸条及び/又は凹溝を有する意匠面の形成を特に意図しない場合には、エンボスローラ54を省略することができ、更に支持具53をも省略した構成の押出成形装置としてもよい。
次に、上記構成の押出成形装置50を使用して本発明に係る装飾体を製造する一つの好適な態様につき説明する。ここでは、外表面部分成形材料M1として後述する評価試験に使用した成形材料No.5(即ち、200℃における溶融張力が166mNのTPE100質量部に対して最高発泡温度190℃の熱膨張性カプセル6質量部を含む成形材料)を用い、係合部成形材料M2として硬度(即ちJIS K 7215によるデュロメータ硬さ)がHDA60〜80程度の軟質TPO(例えばハードセグメントがPP樹脂でありソフトセグメントとしてEPDMを含むTPO)を用い、上記凹溝及び/又は凸条の形成を意図しない場合を例として説明する。
図7に示すように、外表面部分成形材料M1及び係合部成形材料M2は、それぞれ押出機52A,52Bから押出成形型51の成形材料流路64A,64Bに溶融状態で供給される。基本ダイ62は、その内部に形成された成形材料流路64A,64Bの表面温度が160℃〜180℃となるように加熱されている。外表面部分成形材料M1と係合部成形材料M2とは押出ダイ66の部分で合流し、両成形材料M1,M2からそれぞれ形成された成形部P1,P2が融着一体化した長尺成形体40としてオリフィス68から連続的に押し出される。このときの押出速度は、成形性及び生産性のバランスを勘案して、例えば凡そ1〜20m/min程度とすることができ、凡そ1〜10m/min程度とすることが好ましい。
押出ダイ66は、その内部に形成された成形材料流路64A,64Bの表面温度が基本ダイ62内の成形材料流路64A,64Bの表面温度と略同等又はこれよりも高温(例えば160℃〜230℃)となるように加熱されている。このとき、外表面部分成形材料M1に含まれる熱膨張性カプセルは軟化するが溶融はせず、また溶融した成形材料(マトリックス材)による周囲からの圧縮力を受けるので、該カプセルの内圧に耐えて概ねそのままの形状(外形及びサイズ)を保っている。好ましい一つの態様では、上述した挿入型ヒータ67等を利用して、押出ダイ66内の成形材料流路64A,64Bのうち成形材料流路64Aの上側面を基本ダイ62内の成形材料流路64A,64Bの表面温度よりも高い温度(例えば180℃〜200℃)に加熱しておく。該上側面の加熱温度(押出ダイ温度)は、当該部分に接して流れる外表面部分成形材料M1を熱膨張性カプセルの最高発泡温度T(使用する熱膨張性カプセルの膨張度合いが最も大きくなる温度、ここではT=190℃)と略同等又はこれを超える温度に加熱可能な温度とすることができる。例えば、最高発泡温度Tから10℃〜20℃程度高い温度までの間(ここでは例えば190℃〜210℃)を目安として上記押出ダイ温度を設定することが好ましい。
なお、外表面部分成形材料M1を構成するTPE(ベース材料)としては、該成形材料M1が流れる成形材料流路64Aのうち押出ダイ66内に形成された部分の温度、より詳しくは押出ダイ66内に形成された成形材料流路64Aの上側面(最終的に得られる装飾体において装飾部の意匠面を構成することとなる成形材料M1が押出ダイ66に接して流れる部分)の温度(押出ダイ温度)における溶融張力が凡そ120mN〜300mNの範囲にあるTPEを使用することが好ましい。従って、使用する熱膨張性カプセルの最高発泡温度T[℃]からT+10〜T+20[℃]までの間の所定温度(好ましくは、予定される押出ダイ温度)において上記溶融張力を示すTPEを選択し、該TPEと所定量の上記熱膨張性カプセルとを混合して外表面部分成形材料M1を調製することが好ましい。
オリフィス68からの押し出し直後、外表面部分成形材料M1が押出成形型51(押出ダイ66)の成形圧力から開放されると、図1及び図2に示す模式図のように、外表面部分成形材料M1から形成された成形部P1の外側表面(意匠面)42付近に位置する多数の熱膨張性カプセル44のうち少なくとも一部(典型的には大部分)のカプセルが内圧により種々のサイズに膨張する。かかるカプセル44の膨張により、該カプセル44を囲むマトリックス材43が成形部P1の外方に押し出されて、意匠面42に複数の突起46が種々の形状及びサイズで形成される。また、一部のカプセル44の外殻が意匠面42から露出することによって突起が形成されることもある。更に、膨張したカプセル44の一部は、冷却(例えば、図6に示す冷却槽55を通過させること)に伴う内圧低下によって外殻(典型的には、意匠面42の外方に向いた部分)が凹み、これに追随して意匠面42に窪み47(図2に示すように、突起46の頂部に形成された窪みであり得る。)を生じさせることがある。場合によっては破裂したカプセル44が形成されることもある。このように多様な突起や窪みが形成されることによって、意匠面42に優れた意匠性(例えば、実際の布によく似た布目調の外観)が付与される。
オリフィス68から押し出された長尺成形体40は、上下一対の無端ベルトからなる引取装置56により所定の張力で引き取られ、押出成形型51と引取装置56との間に配置された冷却槽55を通過する際に冷却される。ここに示す例における冷却槽55は、押出後の長尺成形体40を冷却水中に通し、冷却水通過後の成形体40の表面にエアーを吹き付ける形態である。冷却された長尺成形体40は、引取装置56の下流に配置されたカッター57により所望の長さに切断されて、完成品である装飾体となる。
なお、本発明の装飾体は、上述したような共押出成形に代えて、複数の押出成形型を備える押出成形装置を用意して各成形材料から構成される成形部毎に段階的に押出成形することによっても製造され得る。例えば、第一の押出機と連結する第一の押出成形型により、係合部成形材料を用いて先ず係合部及び装飾部の基材部分を構成する本体部成形体を押出成形する。次いで、上記係合部成形材料を用いて得られた本体部成形体を第二の押出成形型に誘導するとともに、当該第二の押出成形型に連結する第二の押出機から溶融状態の外表面部分成形材料を当該第二の押出成形型に供給し、上記基材部分の表面を層状に覆う外表面部分を構成する装飾部成形体を当該本体部成形体と共に押し出すことができる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る装飾体の好適な実施例を説明する。
<第1実施例>
本実施例は、自動車のボディ(車両ボディ)を構成するルーフパネルに設けられたサンルーフ用開口部の周囲に装着されるサンルーフトリム(車両内装部品)に本発明を適用した一例である。図3は、本実施例に係るサンルーフトリム10の断面形状と装着位置を模式的に示す断面図である。
本実施例に係るサンルーフトリム10は、図3に示す横断面形状を有する長尺体であって、係合部30と装飾部20とを一体的に備える。係合部30は、全体として、頂部と両側壁部とを有する略U字状の横断面形状に成形されている。そのU字の内側部分により、被取付体たるルーフパネル4のフランジ重合部5(ルーフパネル4の端部とフランジ部6とが重ね合わされた構成を有する。)が差し込まれる差込溝32が構成されている。差込溝32の対向壁面(上記両側壁部の内壁面)には、差込溝32に挿入されたルーフパネル4(フランジ重合部5)に弾性的に圧接して係合する複数の保持リップ34が一体的に形成されている。この係合部30は、図3に示すように、上記形状に成形された熱可塑性エラストマーの内部に略U字状の補強用芯材36(例えばスチール又はステンレス製の薄板材を略U字状に曲げて成る金属製芯材)が埋設された構成とすることができる。或いは、該芯材を省略した構成としてもよい。
装飾部20は、略U字状に形成された係合部30の頂部から一方の側壁部(取付状態において車両内側に位置する側壁部)の外側に回りこむように湾曲して延びる弧状の横断面形状に形成されている。サンルーフトリム10の取付状態(図3)において意匠面12を成す部分、即ち装飾部20の外表面部分24及び係合部30のうち頂部の外表面部分31は、上述のように所定の溶融張力を有するTPEと所定量の熱膨張性カプセルとを含有する外表面部分成形材料を用いて、例えば厚さが凡そ0.1mm〜3mm(典型的には0.3mm〜1.5mm)の層状に形成された一つの成形部P1として形成されている。
一方、装飾部20のうち外表面部分24により層状に覆われた基材部分22は基材部分成形材料により形成され、係合部30の全体(但し、頂部の外表面部分31、芯材36及び後述する低摩擦材層38を除く。)は係合部成形材料により形成されている。本実施例に係るサンルーフトリム10では、装飾部20の基材部分22と係合部30とは、同じ成形材料(換言すれば、いずれも係合部成形材料)を用いて一つの成形部P2として形成されている。該係合部成形材料としては、硬度(即ちJIS K 7215によるデュロメータ硬さ)がHDA60〜80程度の成形体が押出成形によって得られるようなTPE材料を好ましく用いることができる。例えば、軟質のTPO(例えばPP樹脂+EPDM)を主体とし、他の微量成分(分散剤、酸化防止剤、UV吸収剤等)を混練して成る係合部成形材料が好ましい。
なお、係合部30のうち他方の側壁部(取付状態において車両外側に位置する側壁部)の外表面には、他の部材としてのサンルーフ用スライドパネル(サンシェードボード)3と接する部分に、滑り性のよい材料(典型的には樹脂材料)により構成された低摩擦材層38が設けられている。この低摩擦材層38は、該低摩擦材層を形成する成形材料を係合部成形材料と共に押し出して形成されたものであってもよく、別体として成形されたシートを熱プレス、段階的な押出又は接着等の手法により係合部30に積層したものであってもよい。
かかる構成のサンルーフトリム10は、例えば、図6に示す概略構成を有する押出成形装置50に芯材36の供給・成形機構を付加した構成の装置により、後述する評価試験に使用した成形材料No.5(即ち、溶融張力166mNのTPE100質量部に対して熱膨張性カプセル6質量部を含む成形材料)を外表面部分成形材料に用いて製造することができる。即ち、該成形材料No.5を所定の押出ダイ温度(例えば凡そ160℃〜230℃、好ましくは凡そ190℃〜210℃、典型的には凡そ200℃)で係合部成形材料と共に押出ダイのオリフィスから押し出すことにより装飾部20と係合部30とが図3に示す断面形状に一体化された長尺成形品を得、該成形品を所定の長さに切断することにより製造され得る。上記押出ダイ温度で外表面部分成形材料の押出成形を行うことにより、該成形材料に含まれる熱膨張性カプセルが膨張して、該成形材料から形成される成形部の表面(外表面部分24,31の表面、即ち意匠面12)に多数の突起が形成される。ここで、上記外表面部分成形材料は所定の溶融張力及び熱膨張性カプセル含有量を満たす組成であるので、図3に示すように薄い層状に成形された場合であっても端部のささくれや表面のひび割れ等の発生が回避され、良好な意匠的効果を発現する(例えば、実際の布によく似た布目調の外観を呈する)意匠面12を形成することができる。
<第2実施例>
本実施例は、自動車の車室床面に設けられたシートレールに取り付けられるシートレールカバー(車両内装部品)に本発明を適用した一例である。図4は、本実施例に係るシートレールカバー110の断面形状と装着位置を模式的に示す断面図である。
本実施例に係るシートレールカバー110は、図4に示す横断面形状を有する長尺体であって、シートレール104を覆って帯状に成形された装飾部(頭部)120と、装飾部120の幅方向の中央部から下方にほぼ垂直に延びる帯状の係合部(取付脚部)130とが一体的に形成された略T字状の横断面形状を有する。更に、装飾部120の幅方向の一端には帯状の遮蔽リップ140が一体的に形成されている。係合部130の下端は一方向に膨らんで(肉厚になって)おり、この膨らんだ部分をシートレール104と係合金具105との間に挿入して係合させることにより、遮蔽リップ140の先端(装飾部120から遠い側の端部)がステム103に弾性的に当接した状態でシートレールカバー110がシートレール104に取り付けられる。このようにして取り付けられたシートレールカバー110によって、ステム103とシートレール104との係合部、シートレール104及び係合金具105を上方からの視線に対して遮蔽することができる。
装飾部120のうち、図4に示す取付状態において上方から目視される意匠面112を成す外表面部分124は、上述のように所定の溶融張力を有するTPEと所定量の熱膨張性カプセルとを含有する外表面部分成形材料を用いて、例えば厚さが凡そ0.1mm〜3mm(典型的には0.3mm〜1.5mm)の層状に形成されている(成形部P1)。一方、装飾部120のうち外表面部分124により層状に覆われた基材部分122は基材部分成形材料により形成され、係合部130の全体は係合部成形材料により形成されている。本実施例に係るシートレールカバー110では、装飾部120の基材部分122と係合部130とは、同じ成形材料(換言すれば、いずれも係合部成形材料)を用いて一つの成形部P2として形成されている。該係合部成形材料としては、硬度(即ちJIS K 7215によるデュロメータ硬さ)がHDD40〜60程度の成形体が押出成形によって得られるようなPP系樹脂に20〜40質量%程度の充填材(例えばタルク)等を配合してなる成形材料を好ましく用いることができる。
装飾部120の意匠面112を成す外表面部分124には、シートレールカバー110の長手方向(押出方向)に延びる複数の凹溝(図示せず)が形成されている。該凹溝のピッチは例えば0.1mm〜5mm(典型的には0.3mm〜2mm)程度とすることが好ましく、各凹溝の深さは例えば0.1mm〜2mm(典型的には0.3mm〜1mm)程度とすることが好ましい。これらの凹溝の深さは、外表面部分124の厚さ方向でその深さ内に留まっている(凹溝の深さが下地の基材部分122にまで達していない)ことが好ましい。
遮蔽リップ140は、その全体がTPE材料(遮蔽リップ成形材料)により形成されている。例えば、硬度(即ちJIS K 7215によるデュロメータ硬さ)がHDA30〜60程度の成形体が押出成形によって得られるようなTPE材料(軟質のTPO等)を好ましく用いることができる。
かかる構成のシートレールカバー110は、例えば、図6に示す概略構成を有する押出成形装置50により、後述する評価試験に使用した成形材料No.5を外表面部分成形材料に用いて製造することができる。即ち、該成形材料No.5を所定の押出ダイ温度(例えば凡そ160℃〜230℃、好ましくは凡そ190℃〜210℃、典型的には凡そ200℃)で係合部成形材料及び遮蔽リップ成形材料と共に押出ダイのオリフィス(上記意匠面112を形成する成形材料が接して流れる部分の内面には、上記凹溝に対応した形状の凸部が設けられている。)から押し出すことにより装飾部120と係合部130と遮蔽リップ140とが図4に示す断面形状に一体化された長尺成形品を得、該成形品を所定の長さに切断することにより製造され得る。上記押出ダイ温度で押出成形を行うことにより、外表面部分成形材料に含まれる熱膨張性カプセルが膨張して、該外表面部分成形材料から形成される成形部の表面(意匠面112)に多数の突起が形成される。ここで、上記外表面部分成形材料は所定の溶融張力及び熱膨張性カプセル含有量を満たす組成であるので、図4に示すように薄い層状に成形された場合であっても端部のささくれや表面のひび割れ等の発生が回避され、良好な意匠的効果を発現する(例えば、実際の布によく似た布目調の外観を呈する)意匠面112を形成することができる。上記突起の形成は不規則位置で不規則形状に起こることから、意匠面112に形成された凹溝は、その連続性が部分的に乱れたり(例えば、長手方向の不規則位置で凹溝が途切れる等)、形状が部分的に乱れたり(例えば、該長手方向の不規則位置で凹溝の断面形状が変形する、凹溝の延びる方向が曲線状となる等)している。かかる不規則性の導入により、より実際の織布に近い外観を実現することができる。
<第3実施例>
本実施例は、自動車の車室天井材の外縁部に取り付けられるトリム(車両内装部品)に本発明を適用した一例である。図5は、本実施例に係る天井材トリム210の断面形状と装着位置を模式的に示す断面図である。
本実施例に係る天井材トリム210は、図5に示す横断面形状を有する長尺体であって、係合部230と装飾部220とを一体的に備える。係合部230は全体として略L字状の横断面形状に成形され、該L字の一端に続いて装飾部220が設けられている。これら係合部230及び装飾部220によって、天井材203が差し込まれる差込溝232が構成されている。なお、被取付体たる天井材203は、例えば、シート状の発泡体(発泡ポリプロピレンをシート状に成形したもの等)を基材204とし、該基材204の車室内側面に所望の意匠性を備えた表皮材205(織布、不織布、樹脂フィルム等)を熱プレス又は接着剤等により積層して所定形状に賦形したものであり得る。本実施例に係るトリム210では、トリム210の取付状態において下方(車室内)から目視される意匠面212を成す外表面部分を含めた装飾部220全体が外表面部分成形材料により一つの成形部P1として形成されており、基材部分はない。また、係合部230は、その全体が係合部成形材料により一つの成形部P2として形成されている。該係合部成形材料としては、硬度(即ちJIS K 7215によるデュロメータ硬さ)がHDA60〜80程度の成形体が押出成形によって得られるようなTPE材料を好ましく用いることができる。例えば、軟質のTPO(例えばPP樹脂+EPDM)を主体とし、他の微量成分(分散剤、酸化防止剤、UV吸収剤等)を混練して成る係合部成形材料が好ましい。
かかる構成の天井材トリム210は、例えば、図6に示す概略構成を有する押出成形装置50により、後述する評価試験に使用した成形材料No.5を外表面部分成形材料に用いて製造することができる。即ち、該成形材料No.5を所定の押出ダイ温度(例えば凡そ160℃〜230℃、好ましくは凡そ190℃〜210℃、典型的には凡そ200℃)で係合部成形材料と共に押出ダイのオリフィスから押し出すことにより装飾部220と係合部230とが図5に示す断面形状に一体化された長尺成形品を得、該成形品を所定の長さに切断することにより製造され得る。上記押出ダイ温度で外表面部分成形材料の押出成形を行うことにより、該成形材料に含まれる熱膨張性カプセルが膨張して、該成形材料から形成される成形部の表面(意匠面212)に多数の突起が形成される。上記外表面部分成形材料は所定の溶融張力及び熱膨張性カプセル含有量を満たす組成であるので、端部(装飾部220の幅方向の開放端や、装飾部220と係合部230との境界部)のささくれや表面のひび割れ等の発生が回避され、良好な意匠的効果を発現する(例えば、実際の布によく似た布目調の外観を呈する)意匠面212を形成することができる。
<評価試験>
本発明の効果を確認するため以下の評価試験を行った。即ち、溶融張力の異なる数種のTPEを用意し、これらのTPE(ベース材料)と熱膨張性カプセルとを種々の割合で含む外表面部分成形材料を用いて、係合部成形材料と共に図5に示す横断面形状を有する装飾体(天井材トリム)210を共押出成形により製造した。該装飾体210の横断面における各部のサイズは、図5に示すL1=12.5mmm、L2=1.5mm、L3=6.5mm、L4=19.3mmである。また、装飾部220の開放端の横断面形状はR=0.3mmである。
外表面部分成形材料を調製するためのベース材料としては、リケンテクノス株式会社から「アクティマー」として入手可能な動的架橋オレフィン系エラストマー(スチレン系ゴム成分を含んだ水素添加SBC、パラフィンオイル及びPPを主構成成分とし、充填材としてタルクを含む動的架橋TPO)であって、200℃における溶融張力が互いに異なる5種類のTPEを使用した。これらのTPEの溶融張力は以下のとおりであった。
ベース材料A:溶融張力115mN(引取速度 6.5m/min)
ベース材料B:溶融張力166mN(引取速度 4.5m/min)
ベース材料C:溶融張力226mN(引取速度 3.1m/min)
ベース材料D:溶融張力 46mN(引取速度12.2m/min)
ベース材料E:溶融張力 86mN(引取速度8〜10m/min)
上記溶融張力は、株式会社東洋精機製作所から入手可能な商品名「キャピログラフ」(シリンダ内径d=9.55mm)を用いて、測定温度200℃、キャピラリーサイズφ1mm×10mm(ダイ径D=1mm、ランド長L=10mm)、ピストン降下速度V=30mm/分の条件で、以下の測定手順により測定した。
(1)シリンダ81(図8参照)に測定試料を充填して200℃に加熱し、ピストン83の降下を開始する。
(2)引取機84を適当な低速(引取速度)で作動させる。
(3)キャピラリ82から試料が排出されてきたらゆっくりと引き取り、テンションプーリー85を介して引取機84のローラ間に挟む。
(4)引取機84の作動を調整して、排出された試料が弛まず且つ千切れない程度の引取速度(テスト速度)に合わせる。
(5)上記引取速度においてテンションプーリー85にかかる張力を測定する。
(6)溶融張力(上記測定中に観測された張力の平均値)を求める。
かかるベース材料100質量部に対して熱膨張性カプセルを表1,2に示す割合(質量部)で含む外表面部分成形材料(成形材料No.1〜No.13)を調製した。ここで、ベース材料と熱膨張性カプセルとの配合には、大日精化工業株式会社から入手可能な熱膨張性カプセルのマスターバッチ、商品名「ファインセルマスター」を使用した。これは、熱膨張性カプセル(平均粒子径=40μm、膨張剤=低沸点炭化水素、最高発泡温度=190℃)をPEに分散させてペレット状に成形したマスターバッチであって、該カプセルを40質量%の割合で含む。従って、例えば表1に示す成形材料No.5は、ベース材料100質量部に対して熱膨張性カプセル6質量部を含み、更にPE9質量部(使用したマスターバッチに由来する。)を含む。他の成形材料についても同様である。
また、係合部成形材料としては、PPをハードセグメントとし、EPDMをソフトセグメントとするTPO(HDA=80)を使用した。
図6に示す概略構成を有する押出成形装置50を用いて、各外表面部分成形材料と上記係合部成形材料とを3.5m/minの押出速度で図5に示す断面形状に共押出成形した。このとき、基本ダイ62内の成形材料流路64A,64Bの表面温度は170℃とし、押出ダイ66の上面部の表面温度は200℃とした。
得られた成形品を観察し、装飾部(外表面部分成形材料から形成された成形部)における端部のささくれの程度及び該装飾部の表面(意匠面)の外観品質を、○:良好、△;合格;×;不合格の3段階で評価した。また、常法により装飾部の比重を測定した。それらの結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2に示されるように、ベース材料として溶融張力が120mN〜300mNのTPE(ベース材料B,C)を使用し、該ベース材料100質量部に対して熱膨張性カプセル2〜10質量部を含有する外表面部分成形材料を用いて製造された成形品は、目立った装飾部端部のささくれや意匠面のひび割れは観察されず、該意匠面において良好な布目調の風合いを示すものであった。熱膨張性カプセルの含有量が2〜7質量部の成形材料を用いて製造された成形品では、ささくれの点において特に良好な結果が得られた。なお、ベース材料Cを用いた成形品に含まれる熱膨張カプセル(膨張後)のサイズは概ね40μm〜200μmの範囲にあった。
一方、熱膨張性カプセルの含有量が少なすぎる成形材料を用いて製造された成形品は意匠性の低い(布目調の風合いが足りない)ものであった。また、熱膨張性カプセルの含有量が多すぎる成形材料(No.11)を用いて製造された成形品では表面(意匠面)にひび割れが観察され、端部のささくれも増加する傾向にあった。溶融張力が低すぎるベース材料(A,D,E)を用いた成形材料から製造された成形品では、熱膨張性カプセルの膨張に意匠面が耐えられず、該表面にひび割れが観察された。特に溶融張力の低い成形材料ベース材料(D,E)を用いた成形品では装飾部の端部に多くのささくれが発生した。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。