JP2009113304A - 液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置 - Google Patents

液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置 Download PDF

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泰秀 松尾
Kenji Otsuka
賢治 大塚
Kazuhisa Higuchi
和央 樋口
Kosuke Wakamatsu
康介 若松
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Abstract

【課題】寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備えた信頼性の高い液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】インクジェット式記録ヘッド1は、吐出液貯留室21が形成された基板20と、基板20の下面に設けられたノズルプレート10と、基板20の上面に設けられた封止シート30および振動板40、圧電素子50と、振動板40の上面に設けられたケースヘッド60とを有し、振動板40とケースヘッド60とが接合膜45bを介して接合されており、この接合膜45bは、シロキサン結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含み、エネルギーを付与したことにより、接合膜45bの表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜45bに発現した接着性によって、振動板40とケースヘッド60とを接合している。
【選択図】図2

Description

本発明は、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
例えば、インクジェットプリンタのような液滴吐出装置には、液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドが備えられている。このような液滴吐出ヘッドとしては、例えば、インクを液滴として吐出するノズルに連通し、インクを収容するインク室(キャビティ)と、このインク室の壁面を変形させる駆動用の圧電素子とを備えるものが知られている。
このような液滴吐出ヘッドにあっては、駆動用の圧電素子を伸縮させることにより、インク室の一部(振動板)を変位させる。これにより、インク室の容積を変化させて、ノズルからインク液滴が吐出される。
ところで、このような液滴吐出ヘッドは、ノズルが形成されたノズルプレートと、インク室を画成する基板との間を、感光性接着剤または弾性接着剤で接着することによって組み立てられている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、ノズルプレートと基板との間に接着剤を供給する際に、接着剤の供給量を厳密に制御することは極めて困難である。このため、供給する接着剤の量を均一にすることができず、ノズルプレートと基板との距離が不均一になる。これにより、液滴吐出ヘッド内に複数個設けられたインク室のそれぞれの容積が不均一になったり、液滴吐出ヘッド毎でインク室の容積が不均一になってしまう。また、液滴吐出ヘッドと印刷用紙等の印字媒体との間の距離が不均一になる。さらに、接合箇所から接着剤がはみ出してしまうおそれがある。このような問題により、液滴吐出ヘッドの寸法精度が低下し、インクジェットプリンタの印字の品位が低下することとなる。
また、接着剤は、インク室に貯留されたインクに長期間曝される。このように接着剤がインクに曝されると、インク中の有機成分によって、接着剤に変質・劣化が生じる。このため、インク室の液密性が低下したり、接着剤中の成分がインクに溶出したりするおそれがある。
一方、液滴吐出ヘッドを構成する各部を、固体接合法によって接合する方法も知られている。
固体接合は、接着剤等の接着層を介在させることなく、部材同士を直接接合する方法であり、例えば、シリコン直接接合法、陽極接合法等の方法が知られている。
ところが、固体接合には、
・接合可能な部材の材質が限られる
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
・一部の領域を部分的に接合することができない
といった問題がある。
特開平5−155017号公報
本発明の目的は、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備えた信頼性の高い液滴吐出装置を提供することにある。
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出ヘッドは、吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする。
これにより、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%であることが好ましい。
これにより、接合膜は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体がより強固なものとなる。このため、接合膜は、封止板およびケースヘッドに対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、接合膜の安定性が高くなり、封止板とケースヘッドとをより強固に接合することができるようになる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、Si骨格の特性が顕在化し、接合膜の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基は、接合膜の接着性をより高度なものとすることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を含む接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものであることが好ましい。
これにより、接合膜は緻密で均質なものとなる。そして、封止板とケースヘッドとを特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、液滴吐出ヘッドの製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接合膜自体が優れた機械的特性を有するものとなる。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示す接合膜が得られる。したがって、この接合膜により、封止板とケースヘッドとをより強固に接合することができる。また、非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行える接合膜となる。さらに、接合膜が優れた撥液性を示すため、耐久性に優れた信頼性の高いヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れる接合膜が得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、封止板とケースヘッドとの間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
これにより、従来に比べて寸法精度が格段に高いヘッドが得られる。また、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記キャビティ部のうち、少なくとも前記接合膜と接している部分は、シリコン材料またはステンレス鋼を主材料として構成されていることが好ましい。
これらの材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたって吐出液に曝されたとしても、封止板が変質・劣化するのを確実に防止することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ケースヘッドは、樹脂材料またはステンレス鋼を主材料として構成されていることが好ましい。
これらの材料は、十分な剛性を備えていることから、ヘッドを支持するケースヘッドの構成材料として好適である。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記キャビティ部の前記接合膜と接している面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、封止板と接合膜との間の接合強度をより高めることができ、ひいては、封止板とケースヘッドとの接合強度を高めることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ケースヘッドの前記接合膜と接している面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、ケースヘッドと接合膜との間の接合強度をより高めることができ、ひいては、ケースヘッドと封止板との接合強度を高めることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記表面処理は、プラズマ処理であることが好ましい。
これにより、接合膜を形成するために、封止板またはケースヘッドの表面を特に最適化することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記キャビティ部と前記接合膜との間に、中間層を有することが好ましい。
これにより、前記キャビティ部と前記接合膜との間の接合強度を高め、信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ケースヘッドと前記接合膜との間に、中間層を有することが好ましい。
これにより、前記ケースヘッドと前記接合膜との間の接合強度を高め、信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、封止板と接合膜との間、および、ケースヘッドと接合膜との間において、それぞれ接合強度を高めることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および、前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、接合膜に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記エネルギー線は、波長150〜300nmの紫外線であることが好ましい。
これにより、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜中のSi骨格が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格と脱離基との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜に接着性を発現させることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記加熱の温度は、25〜100℃であることが好ましい。
これにより、封止板またはケースヘッド等が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜を確実に活性化させることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記圧縮力は、0.2〜10MPaであることが好ましい。
これにより、封止板またはケースヘッドに損傷等が生じるのを避けつつ、単に圧縮するのみで、接合膜に十分な接着性を発現させることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドは、吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする。
これにより、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドは、吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする。
これにより、寸法精度および耐薬品性に優れ、長期間にわたって高品位の印字が可能な信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出装置が得られる。
以下、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<インクジェット式記録ヘッド>
≪第1実施形態≫
まず、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態を示す分解斜視図、図2は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドの断面図、図3は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に「ヘッド1」という。)は、図3に示すようなインクジェットプリンタ(本発明の液滴吐出装置)9に搭載されている。
図3に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔11を備えるヘッド1と、ヘッド1にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド1およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド1から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
以下、ヘッド1について、図1および図2を参照しつつ詳述する。
図1および図2に示すように、ヘッド1は、ノズルプレート10と、吐出液貯留室形成基板(基板)20と、封止シート30と、封止シート30上に設けられた振動板40と、振動板40上に設けられた圧電素子(振動手段)50およびケースヘッド60とを有する。また、本実施形態では、封止シート30と振動板40との積層体により、封止板を構成している。なお、このヘッド1は、ピエゾジェット式ヘッドを構成する。
吐出液貯留室形成基板20(以下、省略して「基板20」と言う。)には、インクを貯留する複数の吐出液貯留室(圧力室)21と、各吐出液貯留室21に連通し、各吐出液貯留室21にインクを供給する吐出液供給室22とが形成されている。
図1および図2に示すように、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、それぞれ、平面視において、ほぼ長方形状をなし、各吐出液貯留室21の幅(短辺)は、吐出液供給室22の幅(短辺)より細幅となっている。
また、各吐出液貯留室21は、吐出液供給室22に対して、ほぼ垂直をなすように配置されており、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、平面視において全体として、櫛状をなしている。
なお、吐出液供給室22は、平面視において、本実施形態のように長方形状のものの他、例えば、台形状、三角形状または俵形状(カプセル形状)のものであってもよい。
基板20を構成する材料としては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン材料、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムのような金属材料、石英ガラス、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス材料、グラファイトのような炭素材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PBO)、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
また、上記のような材料に、酸化処理(酸化膜形成)、めっき処理、不働態化処理、窒化処理等の各処理を施した材料でもよい。
これらの中でも、基板20の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、基板20が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い基板20が得られる。このため、吐出液貯留室21や吐出液供給室22の容積の精度が高くなり、高品位の印字が可能なヘッド1が得られる。
また、吐出液供給室22は、後述するケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通して複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバ70の一部を構成する。
また、吐出液貯留室21と吐出液供給室22との内面に、あらかじめ、親水処理を施しておいてもよい。これにより、吐出液貯留室21および吐出液供給室22に貯留されたインク中に気泡が含まれるのを防止することができる。
また、基板20の下面(封止シート30と反対側の面)には、接合膜15を介して、ノズルプレート10が接合(接着)されている。
ノズルプレート10には、各吐出液貯留室21に対応するように、それぞれノズル孔11が形成(穿設)されている。このノズル孔11に、吐出液貯留室21に貯留されたインクを押し出させることにより、インクを液滴として吐出することができる。
また、ノズルプレート10は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の下面を構成している。すなわち、ノズルプレート10と、基板20および封止シート30とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。
このようなノズルプレート10を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ノズルプレート10の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、ノズルプレート10が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高いノズルプレート10が得られる。このため、信頼性の高いヘッド1が得られる。
なお、ノズルプレート10の構成材料は、線膨張係数が300℃以下で2.5〜4.5[×10-6/℃]程度であるものが好ましい。
また、ノズルプレート10の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1mm程度であるのが好ましい。
また、ノズルプレート10の下面には、必要に応じて、撥液膜(図示せず)が設けられる。これにより、ノズル孔から吐出されるインク滴が意図しない方向に吐出されるのを防止することができる。
このような撥液膜の構成材料としては、例えば、撥液性を示す官能基を有するカップリング剤や、撥液性の樹脂材料等が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、有機リン酸系カップリング剤、シリルパーオキサイド系カップリング剤等を用いることができる。
撥液性を示す官能基としては、例えば、フルオロアルキル基、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基等が挙げられる。
一方、撥液性の樹脂材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロエチレン−プロペン共重合体(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)のようなフッ素系樹脂等が挙げられる。
このような基板20とノズルプレート10とを接合する接合膜15は、基板20とノズルプレート10とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、基板20とノズルプレート10の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
また、接合膜15は必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、基板20とノズルプレート10との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
本実施形態では、接合膜15が後述する接合膜45bと同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
すなわち、接合膜15は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、接合膜15は、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜15の表面に発現した接着性によって、基板20とノズルプレート10とを接合している。
なお、接合膜15については、後に詳述する。
一方、基板20の上面には、接合膜25を介して、封止シート30が接合(接着)されている。
また、封止シート30は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の上面を構成している。すなわち、封止シート30と、基板20およびノズルプレート10とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。そして、封止シート30が基板20と確実に接合されていることにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を確保している。
封止シート30を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、封止シート30の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アラミド樹脂またはシリコン材料であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、封止シート30が変質・劣化するのを確実に防止することができる。このため、吐出液貯留室21内および吐出液供給室22内に、長期間にわたってインクを貯留することができる。
このような封止シート30と基板20とを接合する接合膜25は、基板20と封止シート30とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、基板20や封止シート30の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
また、接合膜25は必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、基板20と封止シート30との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
本実施形態では、接合膜25が後述の接合膜45bと同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
すなわち、接合膜25は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、接合膜25は、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜25の表面に発現した接着性によって、基板20と封止シート30とを接合している。
なお、接合膜25については、前述した接合膜15とともに、後に詳述する。
封止シート30の上面には、接合膜35を介して、振動板40が接合(接着)されている。
振動板40を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。そして、振動板40が封止シート30と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、封止シート30の変位、すなわち各吐出液貯留室21の容積変化に確実に変換している。
これらの中でも、振動板40の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、高速で弾性変形することが可能である。このため、圧電素子50が振動板40を変位させることによって、吐出液貯留室21の容積を高速に変化させることができる。その結果、インクを高精度に吐出することができる。
このような振動板40と封止シート30とを接合する接合膜35は、封止シート30と振動板40とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、封止シート30や振動板40の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
また、接合膜35は必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、封止シート30と振動板40との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
本実施形態では、接合膜35が後述の接合膜45bと同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
すなわち、接合膜35は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、接合膜35は、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜35の表面に発現した接着性によって、封止シート30と振動板40とを接合している。
なお、接合膜35については、前述した接合膜15および接合膜25とともに、後に詳述する。
また、本実施形態では、封止シート30と振動板40とを積層してなる積層体により封止板を構成しているが、この封止板は、1層であってもよく、3層以上の層が積層してなる積層体で構成されていてもよい。
なお、3層以上の層が積層してなる積層体によって封止板が構成されている場合、積層体中の層のうち、隣接する少なくとも1組の層間が接合膜35で接合されたものであれば、積層体の寸法精度が高くなり、ひいては、ヘッド1の寸法精度を高めることができる。
振動板40の上面の一部(図2では、振動板40の上面の中央部付近)に、接合膜45aを介して、圧電素子(振動手段)50が接合(接着)されている。
圧電素子50は、圧電材料で構成された圧電体層51と、この圧電体層51に電圧を印加する電極膜52との積層体で構成されている。このような圧電素子50では、電極膜52を介して圧電体層51に電圧を印加することにより、圧電体層51に電圧に応じた歪みが発生する(逆圧電効果)。この歪みが振動板40および封止シート30に撓み(振動)をもたらし、吐出液貯留室21の容積を変化させる。このように、圧電素子50が振動板40と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、振動板40および封止シート30の変位、ひいては、各吐出液貯留室21の容積変化へと確実に変換することができる。
また、圧電体層51と電極膜52との積層方向は、特に限定されず、振動板40に対して平行な方向であっても、直交する方向であってもよい。なお、圧電体層51と電極膜52との積層方向が、振動板40に対して直交する方向である場合、このように配置された圧電素子50を特にMLP(Multi Layer Piezo)と言う。圧電素子50がMLPであれば、振動板40の変位量を大きくとることができるので、インクの吐出量の調整幅が大きいという利点がある。
圧電素子50のうち、接合膜45aに隣接する(接触する)面は、圧電素子50の配置方法によって異なるが、圧電体層が露出した面、電極膜が露出した面、または圧電体層と電極膜の双方が露出した面のいずれかである。
圧電素子50のうち、圧電体層51を構成する材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等が挙げられる。
一方、電極膜52を構成する材料としては、例えば、Fe、Ni、Co、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、Mo、またはこれらを含む合金等の各種金属材料が挙げられる。
このような圧電素子50と振動板40とを接合する接合膜45aは、振動板40と圧電素子50とを接合または接着し得るものであれば、いかなる材料で構成されていてもよく、振動板40や圧電素子50の各構成材料によって適宜選択されるが、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤のような接着剤、半田、ろう材等が挙げられる。
また、接合膜45aは必ずしも設けられていなくてもよく、省略してもよい。この場合、振動板40と圧電素子50との間は、融着(溶接)、または、シリコン直接接合、陽極接合のような固体接合等の直接接合法によって接合(接着)することができる。
本実施形態では、接合膜45aが後述の接合膜45bと同じ接合機能(接着性)を有するものとする。
すなわち、接合膜45aは、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、接合膜45aは、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜45aの表面に発現した接着性によって、振動板40と圧電素子50とを接合している。
なお、接合膜45aについては、前述した接合膜15、接合膜25および接合膜35とともに、後に詳述する。
ここで、前述した振動板40は、圧電素子50に対応する位置を取り囲むように環状に形成された凹部53を有している。すなわち、圧電素子50に対応する位置では、振動板40の一部が、この環状の凹部53を隔てて島状に孤立している。
なお、接合膜45aは、環状の凹部53の内側に設けられている。
また、圧電素子50の電極膜52は、図示しない駆動ICと電気的に接続されている。これにより、駆動素子50の動作を駆動ICによって制御することができる。
また、振動板40の上面の一部には、接合膜45bを介して、ケースヘッド60が接合(接着)されている。このように、ケースヘッド60が振動板40と確実に接合されていることにより、ノズルプレート10、基板20、封止シート30および振動板40の積層体で構成された、いわゆるキャビティ部分を補強し、キャビティ部分のよじれや反り等を確実に抑制することができる。
ケースヘッド60を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ケースヘッド60の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ザイロンのような変性ポリフェニレンエーテル樹脂(「ザイロン」は登録商標)またはステンレス鋼であるのが好ましい。これらの材料は、十分な剛性を備えていることから、ヘッド1を支持するケースヘッド60の構成材料として好適である。
本発明の液滴吐出ヘッドは、この接合膜45b、および、接合膜45bを用いて振動板40とケースヘッド60とを接合する方法に特徴を有するものである。
この接合膜45bは、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、この接合膜45bは、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜45bの表面に発現した接着性によって、振動板40とケースヘッド60とを接合している。
なお、接合膜45bについては、前述した接合膜15、接合膜25、接合膜35および接合膜45aとともに、後に詳述する。
また、接合膜25、封止シート30、接合膜35、振動板40および接合膜45bは、吐出液供給室22に対応する位置に貫通孔23を有する。この貫通孔23により、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と吐出液供給室22とが連通している。なお、吐出液供給路61と吐出液供給室22とにより、複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバ70の一部を構成する。
このようなヘッド1では、図示しない外部吐出液供給手段からインクを取り込み、リザーバ70からノズル孔11に至るまで内部をインクで満たした後、駆動ICからの記録信号により、各吐出液貯留室21に対応するそれぞれの圧電素子50を動作させる。これにより、圧電素子50の逆圧電効果によって振動板40および封止シート30に撓み(振動)が生じる。その結果、例えば、各吐出液貯留室21内の容積が収縮すると、各吐出液貯留室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔11からインクが液滴として押し出される(吐出される)。
このようにして、ヘッド1において、印刷したい位置の圧電素子50に、駆動ICを介して電圧を印加すること、すなわち、吐出信号を順次入力することにより、任意の文字が図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド1は、前述したような構成のものに限らず、例えば、振動手段として圧電素子50をヒータで代替した構成(サーマル方式)のヘッドであってもよい。このようなヘッドは、ヒータでインクを加熱して沸騰させ、それによって吐出液貯留室内の圧力を高めることにより、インクをノズル孔11から液滴として吐出するよう構成されているものである。
さらに、振動手段のその他の例としては、静電アクチュエータ方式等が挙げられる。
次に、接合膜15、接合膜25、接合膜35、接合膜45aおよび接合膜45bに共通して用いられる接合膜について説明する。なお、以下では、振動板40上に形成された接合膜45bを代表に説明する。
接合膜45bのエネルギーを付与する前の状態は、図4に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを含むものである。
そして、この接合膜45bにエネルギーを付与すると、図5に示すように、一部の脱離基303がSi骨格301から脱離し、代わりに活性手304が生じる。これにより、接合膜45bの表面に接着性が発現する。このようにして接着性が発現した接合膜45bにより、振動板40とケースヘッド60とが接合されている。
このような接合膜45bは、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。このため、ケースヘッド60によって、振動板40を確実に支持し、これにより、振動板40、封止シート30、基板20およびノズルプレート10のよじれや反り等を確実に防止することができる。その結果、インクジェットプリンタ9による印字の品位を高めることができる。
また、接合膜45bを用いて振動板40とケースヘッド60とを接合したことにより、従来、接着剤を用いて接合した場合に、接着剤がはみ出すといった問題が生じることがない。したがって、はみ出した接着剤がヘッド1内のインクの流路を塞いでしまうのを避けることができる。また、はみ出した接着剤を除去する手間も省略できるという利点もある。
また、接合膜45bは、前述したような強固なSi骨格301の作用により、耐薬品性に優れる。このため、接合膜45bは長期にわたってインクに曝されたとしても、変質・劣化することが防止され、振動板40とケースヘッド60との接合(接着)を長期にわたって確保することができる。すなわち、接合膜45bによれば、ヘッド1の液密性を十分に確保することができるため、信頼性の高いヘッド1を提供することができる。
さらに、接合膜45bは、化学的に安定なSi骨格301の作用により、耐熱性に優れている。このため、ヘッド1が高温下に曝されたとしても、接合膜45bの変質・劣化を確実に防止することができる。
また、このような接合膜45bは、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来の流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜45b)の厚さや形状がほとんど変化しない。このため、接合膜45bを用いて製造されたヘッド1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合を可能にするものである。
このような接合膜45bとしては、特に、接合膜45bを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜45bは、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜45b自体がより強固なものとなる。また、かかる接合膜45bは、振動板40とケースヘッド60に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
また、接合膜45b中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜45bの安定性が高くなり、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができるようになる。
なお、接合膜45b中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜45bの寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜45bに活性手304を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜45bの接着性をより高度なものとすることができる。
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜45bは、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
このような特徴を有する接合膜45bの構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合を含む重合物等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜45bは、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜45bは、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたアルキル基による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜45bは、エネルギーを付与された領域に接着性が発現するとともに、エネルギーを付与しなかった領域においては、前述したアルキル基による優れた撥液性が得られるという利点も有する。したがって、エネルギーを付与する領域を制御することにより、接合膜45bの振動板40およびケースヘッド60に接触しない領域に、優れた撥液性を発現させることができる。その結果、接合膜45bは、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタのヘッド1を製造する際に、耐久性に優れた信頼性の高いヘッド1を提供することができる。
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜45bは、接着性に特に優れることから、本発明の液滴吐出ヘッドに対して特に好適に適用できるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
また、接合膜45bの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜45bの平均厚さを前記範囲内とすることにより、振動板40とケースヘッド60との間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜45bの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜45bの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、ヘッド1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
さらに、接合膜45bの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜45bにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、封止シート30の接合面(接合膜45bに隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜45bを被着させることができる。その結果、接合膜45bは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、接合膜45bを備える振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせた際に、接合膜45bのケースヘッド60に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜45bの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜45bの厚さをできるだけ厚くすればよい。
このような接合膜45bは、いかなる方法で作製されたものでもよく、プラズマ重合法、CVD法、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製した膜にエネルギーを付与することによって作製することができるが、これらの中でも、エネルギー付与前の膜として、プラズマ重合法により作製された膜を用いるのが好ましい。プラズマ重合法によれば、最終的に、緻密で均質な接合膜45bを効率よく作製することができる。これにより、プラズマ重合法で作製された接合膜45aは、振動板40とケースヘッド60とを特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製され、エネルギーが付与される前の接合膜45bは、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持することができる。このため、ヘッド1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
また、本実施形態では、基板20とノズルプレート10とが接合膜15を介して接合されているため、これらの間の密着性が高くなり、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を特に高めることができる。さらに、ノズルプレート10の固定角度を厳密に制御することができるため、インク滴の吐出方向を一定に維持することができる。
また、本実施形態では、基板20と封止シート30とが接合膜25を介して接合されているため、これらの間の密着性が高くなり、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を特に高めることができる。
また、本実施形態では、封止シート30と振動板40とが接合膜35を介して接合されているため、これらの間の密着性および歪みの伝搬性が高くなる。このため、圧電素子50の歪みを各吐出液貯留室21の圧力変化に確実に変換することができる。すなわち、封止シート30および振動板40の変位のレスポンスを高めることができる。
また、本実施形態では、振動板40と圧電素子50とが接合膜45aを介して接合されているため、これらの間の密着性および歪みの伝搬性が高くなる。従来、圧電素子と振動板とが接着剤で接着されていたため、圧電素子の歪みが振動板を変位させる前に減衰したりする問題があったが、接合膜45aによれば、圧電素子50の歪みを各吐出液貯留室21の圧力変化に確実に変換することができる。
以下、一例として、振動板40上に、プラズマ重合法により、エネルギーを付与する前の状態の接合膜45bを作製する方法、およびこの方法を含むヘッド1を作製する方法について説明する。
図6ないし図9は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6ないし図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態にかかるヘッド1の製造方法は、母材20’上に接合膜25を形成し、この接合膜25を介して母材20’と封止シート30とを接合する工程と、封止シート30上に接合膜35を形成し、この接合膜35を介して封止シート30と振動板40とを接合する工程と、接合膜35、封止シート30、接合膜35および振動板40の一部に貫通孔23を形成するとともに、振動板40の一部に凹部53を形成する工程と、振動板40上に接合膜45aを形成し、この接合膜45aを介して振動板40と圧電素子50とを接合する工程と、振動板40上に接合膜45bを形成し、この接合膜45bを介して振動板40とケースヘッド60とを接合する工程と、母材20’に対して加工を施し、基板20を形成する工程と、基板20の封止シート30と反対側の面上に接合膜15を形成し、この接合膜15を介して基板20とノズルプレート10とを接合する工程とを有する。
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、基板20を作製するための母材として、母材20’を用意する。母材20’は、後述する工程において加工を施すことにより、基板20になり得るものである。
次に、図6(a)に示すように、母材20’上に、エネルギーを付与する前の状態の接合膜25を形成する。この接合膜25の形成方法は、後述する接合膜45bの形成方法と同様である。
[2]次に、接合膜25に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜25に、封止シート30との接着性が発現する。なお、接合膜25に対するエネルギーの付与は、後述する接合膜45bに対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[3]次に、封止シート30を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜25と封止シート30とが密着するように、母材20’と封止シート30とを貼り合わせる。これにより、図6(b)に示すように、母材20’と封止シート30とが、接合膜25を介して接合(接着)される。
[4]次に、図6(c)に示すように、封止シート30上に、エネルギーを付与する前の状態の接合膜35を形成する。この接合膜35の形成方法は、後述する接合膜45bの形成方法と同様である。
[5]次に、接合膜35に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜35に、振動板40との接着性が発現する。なお、接合膜35に対するエネルギーの付与は、後述する接合膜45bに対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[6]次に、振動板40を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜35と振動板40とが密着するように、封止シート30を備えた母材20’と振動板40とを貼り合わせる。これにより、封止シート30と振動板40とが、接合膜35を介して接合(接着)される。その結果、図6(d)に示すように、母材20’、封止シート30および振動板40が接合される。
[7]次に、図6(e)に示すように、接合膜25、封止シート30、接合膜35および振動板40のうち、ヘッド1の吐出液供給室22に対応する位置に、貫通孔23を形成する。
また、振動板40のうち、圧電素子50が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、凹部53を形成する。
貫通孔23および凹部53の形成は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
[8]次に、図6(f)に示すように、振動板40上の圧電素子50が組み立てられる位置に、エネルギーを付与する前の状態の接合膜45aを形成する。この接合膜45aの形成方法は、後述する接合膜45bの形成方法と同様である。
なお、振動板40上の一部の領域に部分的に接合膜45aを形成する場合、例えば、接合膜45aを形成すべき領域に対応する形状の窓部を有するマスクを介して、接合膜45aを成膜するようにすればよい。
[9]次に、接合膜45aに対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜45aに、圧電素子50との接着性が発現する。なお、接合膜45aに対するエネルギーの付与は、後述する接合膜45bに対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[10]次に、圧電素子50を用意する。そして、接着性が発現してなる接合膜45aと圧電素子50とが密着するように、振動板40と圧電素子50とを貼り合わせる。これにより、振動板40と圧電素子50とが、接合膜45aを介して接合(接着)される。その結果、図7(g)に示すように、母材20’、封止シート30、振動板40および圧電素子50が接合される。
[11]次に、振動板40の上面うち、凹部35で囲まれた領域以外の領域にケースヘッド60を接合する。以下、振動板40とケースヘッド60とを接合する方法について詳述する。
まず、振動板40上に、プラズマ重合法により、エネルギーを付与する前の状態の接合膜45bを形成する。プラズマ重合法は、例えば、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を振動板40上に堆積させ、膜を得る方法である。
以下、接合膜45bをプラズマ重合法にて形成する方法について詳述するが、まず、接合膜45bの形成方法を説明するのに先立って、振動板40上にプラズマ重合法を行いて接合膜45bを作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明し、その後、接合膜45bの形成方法について説明する。
図10は、本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜の作製に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図10中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図10に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、振動板40を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図10に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
第1の電極130は、板状をなしており、振動板40を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図10に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
第1の電極130の振動板40を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図10に示すように、振動板40を鉛直方向に沿って支持することができる。また、振動板40に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で振動板40をプラズマ処理に供することができる。
第2の電極140は、振動板40を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
図10に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して振動板40の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による振動板40の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部160の動作状況に応じて、適宜設定される。
次に、振動板40上に、接合膜45bを形成する方法について説明する。
[11−1]まず、振動板40をプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される。
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が振動板40上に付着・堆積する。これにより、図7(h)に示すように、振動板40上にプラズマ重合膜で構成された接合膜45bが形成される。
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜45bは、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。なお、成膜される接合膜45bの厚さは、主に、この処理時間に比例する。したがって、この処理時間を調整することのみで、接合膜45bの厚さを容易に調整することができる。このため、従来は、接着剤を用いて振動板とケースヘッドとを接着した場合、接着剤の厚さを厳密に制御することができなかったが、接合膜45bによれば、接合膜45bの厚さを厳密に制御することができるので、最終的に、振動板40とケースヘッド60との距離を厳密に制御することができる。
また、振動板40の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜45bを得ることができる。
なお、振動板40の上面のうち、一部の領域に部分的に接合膜45bを形成する場合、例えば、この領域に対応する形状の窓部を有するマスクを用い、このマスク上から接合膜45bを成膜するようにすればよい。
[11−2]次に、振動板40上に形成した接合膜45bに対してエネルギーを付与する。
エネルギーが付与されると、接合膜45bでは、図4に示すように、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図5に示すように、接合膜45bの表面および内部に活性手304が生じる。これにより、接合膜45bの表面に、圧電素子50との接着性が発現する。
ここで、接合膜45bに付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、(I)接合膜45bにエネルギー線を照射する方法、(II)接合膜45bを加熱する方法、(III)接合膜45bに圧縮力を付与する(物理的エネルギーを付与する)方法が代表的に挙げられ、この他、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
このうち、接合膜45bにエネルギーを付与する方法として、特に、上記(I)、(II)、(III)の各方法のうち、少なくとも1つの方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜45bに対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
以下、上記(I)、(II)、(III)の各方法について詳述する。
(I)接合膜45bにエネルギー線を照射する場合、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図7(i)参照)。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜45b中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜45bの特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜45bに接着性を発現させることができる。
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜45bの面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜45bとの離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
また、紫外線を照射する時間は、接合膜45bの表面付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜45bの内部の脱離基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜45bの構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
一方、レーザー光としては、例えば、エキシマレーザー(フェムト秒レーザー)、Nd−YAGレーザー、Arレーザー、COレーザー、He−Neレーザー等が挙げられる。
また、接合膜45bに対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜45bに対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による封止シート30の変質・劣化を防止することができる。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜45bから脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。このように脱離基303の脱離量を調整することにより、接合膜45bとケースヘッド60との間の接合強度を容易に制御することができる。
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、接合膜45bの表面および内部に、より多くの活性手が生じるため、接合膜45bに発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、接合膜45bの表面および内部に生じる活性手を少なくし、接合膜45bに発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
(II)接合膜45bを加熱する場合(図示せず)、加熱温度を25〜100℃程度に設定するのが好ましく、50〜100℃程度に設定するのがより好ましい。かかる範囲の温度で加熱すれば、振動板40等が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜45bを確実に活性化させることができる。
また、加熱時間は、接合膜45bの分子結合を切断し得る程度の時間であればよく、具体的には、加熱温度が前記範囲内であれば、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、接合膜45bは、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、ヒータを用いる方法、赤外線を照射する方法、火炎に接触させる方法等の各種加熱方法で加熱することができる。
なお、振動板40とケースヘッド60の熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のような条件で接合膜45bを加熱すればよいが、振動板40とケースヘッド60の熱膨張率が互いに異なっている場合には、後に詳述するが、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
(III)本実施形態では、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせる前に、接合膜45bに対してエネルギーを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギーの付与は、振動板40とケースヘッド60とを重ね合わせた後に行われるようにしてもよい。すなわち、振動板40上に接合膜45bを形成した後、エネルギーを付与する前に、接合膜45bとケースヘッド60とが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを重ね合わせて、仮接合体とする。そして、この仮接合体中の接合膜45bに対してエネルギーを付与することにより、接合膜45bに接着性が発現し、接合膜45bを介して振動板40とケースヘッド60とが接合(接着)される。
この場合、仮接合体中の接合膜45bに対するエネルギーの付与は、前述した(I)、(II)の方法でもよいが、接合膜45bに圧縮力を付与する方法を用いてもよい。
この場合、振動板40とケースヘッド60とが互いに近づく方向に、0.2〜10MPa程度の圧力で圧縮するのが好ましく、1〜5MPa程度の圧力で圧縮するのがより好ましい。これにより、単に圧縮するのみで、接合膜45bに対して適度なエネルギーを簡単に付与することができ、接合膜45bに十分な接着性が発現する。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、振動板40とケースヘッド60の各構成材料によっては、振動板40とケースヘッド60に損傷等が生じるおそれがある。
また、圧縮力を付与する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、圧縮力を付与する時間は、圧縮力の大きさに応じて適宜変更すればよい。具体的には、圧縮力の大きさが大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くすることができる。
なお、仮接合体の状態では、振動板40とケースヘッド60との間が接合されていないので、これらの相対的な位置を容易に調整する(ずらす)ことができる。したがって、一旦、仮接合体を得た後、振動板40とケースヘッド60との相対位置を微調整することにより、最終的に得られるヘッド1の組み立て精度(寸法精度)を確実に高めることができる。
以上のような(I)、(II)、(III)の各方法により、接合膜45bにエネルギーを付与することができる。
なお、接合膜45bの全面にエネルギーを付与するようにしてもよいが、一部の領域のみに付与するようにしてもよい。このようにすれば、接合膜45bの接着性が発現する領域を制御することができ、この領域の面積・形状等を適宜調整することによって、接合界面に発生する応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、振動板40とケースヘッド60の熱膨張率差が大きい場合でも、これらを確実に接合することができる。
ここで、前述したように、エネルギーが付与される前の状態の接合膜45bは、図4に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜45bにエネルギーが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図5に示すように、接合膜45bの表面31に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜45bの表面に接着性が発現する。
ここで、接合膜45bを「活性化させる」とは、接合膜45bの表面31および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、ケースヘッド60に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜45bに対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成することができる。
[11−3]次に、ケースヘッド60を用意する。そして、図7(j)に示すように、接着性が発現してなる接合膜45bとケースヘッド60とが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせる。これにより、図8(k)に示すように、振動板40とケースヘッド60とが、接合膜45bを介して接合(接着)される。
ここで、上記のようにして接合される振動板40とケースヘッド60の各熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。振動板40とケースヘッド60の熱膨張率がほぼ等しければ、これらを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られるヘッド1において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
また、振動板40とケースヘッド60の各熱膨張率が互いに異なる場合でも、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせる際の条件を以下のように最適化することにより、振動板40とケースヘッド60とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
すなわち、振動板40とケースヘッド60の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、振動板40とケースヘッド60との熱膨張率差にもよるが、振動板40とケースヘッド60の温度が25〜50℃程度である状態下で、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、振動板40とケースヘッド60の熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、ヘッド1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
また、この場合、振動板40とケースヘッド60との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。なお、接合膜45bを用いることにより、上述したような低温下でも、振動板40とケースヘッド60とを強固に接合することができる。
また、振動板40とケースヘッド60は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができる。
なお、振動板40の接合膜45bを成膜する領域には、あらかじめ、接合膜45bとの密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、振動板40と接合膜45bとの間の接合強度をより高めることができ、最終的には、振動板40とケースヘッド60との接合強度を高めることができる。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、振動板40の接合膜45bを成膜する領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜45bを形成するために、振動板40の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す振動板40が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、振動板40の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜45bの接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる振動板40の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
このような材料で構成された振動板40は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された振動板40を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、振動板40と接合膜45bとを強固に密着させることができる。
なお、この場合、振動板40の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜45bを成膜する領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
さらに、振動板40の接合膜45bを成膜する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、振動板40と接合膜45bとの接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
また、表面処理に代えて、振動板40の少なくとも接合膜45bを成膜する領域には、あらかじめ、中間層を形成しておくのが好ましい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜45bとの密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して振動板40上に接合膜45bを成膜することにより、前記振動板40と接合膜45bとの接合強度を高め、信頼性の高い接合体、すなわちヘッド1を得ることができる。
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、振動板40と接合膜45bとの間の接合強度を特に高めることができる。
一方、ケースヘッド60の接合膜45bと接触する領域にも、あらかじめ、接合膜45bとの密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、ケースヘッド60と接合膜45bとの間の接合強度をより高めることができる。
なお、この表面処理には、振動板40に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
また、表面処理に代えて、ケースヘッド60の接合膜45bと接触する領域に、あらかじめ、接合膜45bとの密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、ケースヘッド60と接合膜45bとの間の接合強度をより高めることができる。
かかる中間層の構成材料には、前述の振動板40に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
なお、振動板40やケースヘッド60に対する前述の表面処理および中間層の形成は、言うまでもなく、ノズルプレート10、母材20’、封止シート30および圧電素子50に対して行うようにしてもよい。これにより、各部の接合強度をより高めることができる。
ここで、本工程において、接合膜45bを備える振動板40とケースヘッド60とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、ケースヘッド60の振動板40との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜45bとケースヘッド60とが接触するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせたとき、接合膜45bの表面31に存在する水酸基と、ケースヘッド60の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜45bを備える振動板40とケースヘッド60とが接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、接合膜45bとケースヘッド60との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、接合膜45bを介して振動板40とケースヘッド60とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[11−2]で活性化された接合膜45bの表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[11−2]の終了後、できるだけ早く本工程[11−3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[11−2]の終了後、60分以内に本工程[11−3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜45bの表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜45bを備える振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
このようにして接合された振動板40とケースヘッド60との間は、その接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、信頼性の高いヘッド1が得られる。
[12]次に、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合された母材20’の上下を反転させる。そして、母材20’の封止シート30と反対側の面に対して加工を施し、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を形成する。これにより、母材20’から基板20を得る(図8(L)参照)。また、吐出液供給室22は、接合膜25、封止シート30、接合膜35および振動板40に形成された貫通孔23、および、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通し、リザーバ70が形成される。
母材20’の加工方法には、例えば、前述したような各種エッチング法を用いることができる。
なお、ここでは、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合された母材20’に対して加工を施すことにより、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を形成する場合について説明したが、前記工程[1]の時点で、あらかじめ母材20’に各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を設けておいてもよい。
[13]次に、図8(m)に示すように、基板20の封止シート30と反対側の面上に、エネルギーを付与する前の状態の接合膜15を形成する。この接合膜15の形成方法は、前述した接合膜45bの形成方法と同様である。
[14]次に、接合膜15に対してエネルギーを付与する。これにより、接合膜15に、ノズルプレート10との接着性が発現する。なお、接合膜15に対するエネルギーの付与は、前述した接合膜45bに対するエネルギーの付与方法と同様の方法で行うことができる。
[15]次に、ノズルプレート10を用意する。そして、図9(n)に示すように、接着性が発現してなる接合膜15とノズルプレート10とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせる。これにより、基板20とノズルプレート10とが、接合膜15を介して接合(接着)される。その結果、図9(o)に示すように、ノズルプレート10、基板20、封止シート30、振動板40、圧電素子50およびケースヘッド60が接合される。
以上のような工程を経て、ヘッド1が製造される。
なお、上記では、振動板40上に成膜された接合膜45bとケースヘッド60とが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせる場合について説明しているが、ケースヘッド60の下面に成膜された接合膜45bと振動板40とが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせるようにしてもよい。
また、接合膜45bは、振動板40とケースヘッド60の双方に成膜されていてもよい。
図11は、本実施形態にかかるヘッドの他の構成例を示す図である。なお、以下の説明では、図11中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図11に示すヘッド1では、振動板40の上面に成膜された接合膜45bと、ケースヘッド60の下面に成膜された接合膜45bとが密着するように、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
また、これと同様に、図11に示すヘッド1では、基板20の下面に成膜された接合膜15と、ノズルプレート10の上面に成膜された接合膜15とが密着するように、基板20とノズルプレート10とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
さらに、基板20の上面に成膜された接合膜25と、封止シート30の下面に成膜された接合膜25とが密着するように、基板20と封止シート30とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
さらに、封止シート30の上面に成膜された接合膜35と、振動板40の下面に成膜された接合膜35とが密着するように、封止シート30と振動板40とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
また、振動板40の上面に成膜された接合膜45aと、圧電素子50の下面に成膜された接合膜45aとが密着するように、振動板40と圧電素子50とを貼り合わせることにより、これらが接合(接着)されている。
このような構成のヘッド1によれば、各部の界面をさらに強固に接合することができる。また、このようなヘッド1では、被着体(例えば、基板、ノズルプレート、封止シート、振動板、圧電素子,ケースヘッド等)の材質が接合強度に影響を及ぼし難いため、被着体の材質によらず、各部が強固に接合された信頼性の高いヘッド1が得られる。
なお、この場合、例えば、接合膜45bに対するエネルギーの付与は、振動板40の上面に成膜された接合膜45bと、ケースヘッド60の下面に成膜された接合膜45bのそれぞれに対して行うようにすればよい。
また、ヘッド1を得た後、このヘッド1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([16A]および[16B])のうちの少なくとも1つの工程(ヘッド1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、ヘッド1の各部の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
[16A]得られたヘッド1を圧縮するように、すなわちノズルプレート10、基板20、封止シート30、振動板40およびケースヘッド60が互いに近づく方向に加圧する。
これにより、上記各部の表面と隣接する接合膜の表面とがより近接し、ヘッド1における接合強度をより高めることができる。
また、ヘッド1を加圧することにより、ヘッド1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、ヘッド1における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、ヘッド1を加圧する際の圧力は、ヘッド1が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例してヘッド1における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、ヘッド1の各部の構成材料や形状、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、上記条件に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、ヘッド1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、ヘッド1の各部の構成材料によっては、ヘッド1に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、ヘッド1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
[16B]得られたヘッド1を加熱する。
これにより、ヘッド1における接合強度をより高めることができる。
このとき、ヘッド1を加熱する際の温度は、室温より高く、ヘッド1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、ヘッド1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
なお、前記工程[16A]、[16B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、ヘッド1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、ヘッド1の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、ヘッド1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
≪第2実施形態≫
次に、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態について説明する。
図12は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図13は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図12および図13中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、インクジェット式記録ヘッドの第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドは、各接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドは、各接合膜15、25、35、45a、45bがそれぞれエネルギー付与前の状態で、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子と、これら金属原子および酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基303とを含むものである。換言すれば、エネルギー付与前の各接合膜15、25、35、45a、45bは、それぞれ、金属酸化物で構成される金属酸化物膜に脱離基303を導入した膜であると言うことができる。
このような各接合膜15、25、35、45a、45bは、エネルギーが付与されると、脱離基303が金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離し、各接合膜15、25、35、45a、45bの少なくとも表面付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、各接合膜15、25、35、45a、45bの表面に、前記第1実施形態と同様の接着性が発現する。
以下、本実施形態にかかる各接合膜15、25、35、45a、45bについて説明するが、これらの構成は共通であるため、接合膜45bを代表に説明する。
接合膜45bは、金属原子と、この金属原子と結合する酸素原子とで構成されるもの、すなわち金属酸化物に脱離基303が結合したものであることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜45b自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られるヘッド1においても、寸法精度が高いものが得られる。
さらに、接合膜45bは、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜45b)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、接合膜45bを用いて得られたヘッド1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
また、本発明では、接合膜45bは、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述するヘッド1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。その結果、インクの吐出方向を確実に制御することができる。
また、接合膜45bが導電性を有する場合、接合膜45bの抵抗率は、構成材料の組成に応じて若干異なるものの、1×10−3Ω・cm以下であるのが好ましく、1×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましい。
なお、脱離基303は、少なくとも接合膜45bの表面31付近に存在していればよく、接合膜45bのほぼ全体に存在していてもよいし、接合膜45bの表面31付近に偏在していてもよい。なお、脱離基303が表面31付近に偏在する構成とすることにより、接合膜45bに金属酸化物膜としての機能を好適に発揮させることができる。すなわち、接合膜45bに、接合を担う機能の他に、導電性や透光性等の特性に優れた金属酸化物膜としての機能を好適に付与することができるという利点も得られる。換言すれば、脱離基303が、接合膜45bの導電性や透光性等の特性を阻害してしまうのを確実に防止することができる。
以上のような接合膜45bとしての機能が好適に発揮されるように、金属原子が選択される。
具体的には、金属原子としては、特に限定されないが、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、TiおよびPb等が挙げられる。中でも、In(インジウム)、Sn(スズ)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)およびSb(アンチモン)のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。接合膜45bを、これらの金属原子を含むもの、すなわちこれらの金属原子を含む金属酸化物に脱離基303を導入したものとすることにより、接合膜45bは、優れた導電性と透明性とを発揮するものとなる。
より具体的には、金属酸化物としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)および二酸化チタン(TiO)等が挙げられる。
なお、金属酸化物としてインジウム錫酸化物(ITO)を用いる場合には、インジウムとスズとの原子比(インジウム/スズ比)は、99/1〜80/20であるのが好ましく、97/3〜85/15であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
また、接合膜45b中の金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と酸素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜45bの安定性が高くなり、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができるようになる。
また、脱離基303は、前述したように、金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離することにより、接合膜45bに活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう接合膜45bに確実に結合しているものが好適に選択される。
かかる観点から、脱離基303には、水素原子、炭素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子、またはこれらの各原子で構成される原子団のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、振動板40とケースヘッド60との接着性をより高度なものとすることができる。
なお、上記の各原子で構成される原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびスルホン酸基等が挙げられる。
以上のような各原子および原子団の中でも、脱離基303は、特に、水素原子であるのが好ましい。水素原子で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303として水素原子を備える接合膜45bは、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
以上のことを考慮すると、接合膜45bとしては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)または二酸化チタン(TiO)の金属酸化物に、脱離基303として水素原子が導入されたものが好適に選択される。
かかる構成の接合膜45bは、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、このような接合膜45bは、振動板40に対して特に強固に接着するとともに、ケースヘッド60に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、振動板40とケースヘッド60とを強固に接合することができる。
また、接合膜45bの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜45bの平均厚さを前記範囲内とすることにより、ヘッド1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜45bの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜45bの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、ヘッド1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
さらに、接合膜45bの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜45bにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、振動板40の接合面(接合膜45bを成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜45bを被着させることができる。その結果、接合膜45bは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせた際に、接合膜45bのケースヘッド60に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜45bの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜45bの厚さをできるだけ厚くすればよい。
以上説明したような接合膜45bは、接合膜45bのほぼ全体に脱離基303を存在させる場合には、例えば、A:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成することができる。また、脱離基303を接合膜45bの表面31付近に偏在させる場合には、例えば、B:金属原子と前記酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成することができる。
以下、AおよびBの方法を用いて、振動板40上に接合膜45bを成膜する場合について、詳述する。
<A> Aの方法では、接合膜45bは、上記のように、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法(PVD法)により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成される。このようにPVD法を用いる構成とすれば、金属酸化物材料を振動板40に向かって飛来させる際に、比較的容易に金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することができる。このため、接合膜45bのほぼ全体にわたって脱離基303を導入することができる。
さらに、PVD法によれば、緻密で均質な接合膜45bを効率よく成膜することができる。これにより、PVD法で成膜された接合膜45bは、ケースヘッド60に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、PVD法で成膜された接合膜45bは、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、ヘッド1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気中に、金属酸化物の粒子を叩き出すことができる。そして、金属酸化物の粒子が叩き出された状態で、脱離基303を構成する原子成分を含むガスと接触させることができるため、金属酸化物(金属原子または酸素原子)への脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。
以下、PVD法により接合膜45bを成膜する方法として、スパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により、接合膜45bを成膜する場合を代表に説明する。
まず、接合膜45bの成膜方法を説明するのに先立って、振動板40上にイオンビームスパッタリング法により接合膜45bを成膜する際に用いられる成膜装置200について説明する。
図14は、本実施形態にかかる接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図、図15は、図14に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、図14中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図14に示す成膜装置200は、イオンビームスパッタリング法による接合膜45bの形成がチャンバー(装置)内で行えるように構成されている。
具体的には、成膜装置200は、チャンバー(真空チャンバー)211と、このチャンバー211内に設置され、振動板40(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)212と、チャンバー211内に設置され、チャンバー211内に向かってイオンビームBを照射するイオン源(イオン供給部)215と、イオンビームBの照射により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物(例えば、ITO)を発生させるターゲット(金属酸化物材料)216を保持するターゲットホルダー(ターゲット保持部)217とを有している。
また、チャンバー211には、チャンバー211内に、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を供給するガス供給手段260と、チャンバー211内の排気をして圧力を制御する排気手段230とを有している。
なお、本実施形態では、基板ホルダー212は、チャンバー211の天井部に取り付けられている。この基板ホルダー212は、回動可能となっている。これにより、振動板40上に接合膜45bを均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
イオン源(イオン銃)215は、図15に示すように、開口(照射口)250が形成されたイオン発生室256と、イオン発生室256内に設けられたフィラメント257と、グリッド253、254と、イオン発生室256の外側に設置された磁石255とを有している。
また、イオン発生室256には、図14に示すように、その内部にガス(スパッタリング用ガス)を供給するガス供給源219が接続されている。
このイオン源215では、イオン発生室256内に、ガス供給源219からガスを供給した状態で、フィラメント257を通電加熱すると、フィラメント257から電子が放出され、放出された電子が磁石255の磁場によって運動し、イオン発生室256内に供給されたガス分子と衝突する。これにより、ガス分子がイオン化する。このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254との間の電圧勾配により、イオン発生室256内から引き出されるとともに加速され、開口250を介してイオンビームBとしてイオン源215から放出(照射)される。
イオン源215から照射されたイオンビームBは、ターゲット216の表面に衝突し、ターゲット216からは粒子(スパッタ粒子)が叩き出される。このターゲット216は、前述したような金属酸化物材料で構成されている。
この成膜装置200では、イオン源215は、その開口250がチャンバー211内に位置するように、チャンバー211の側壁に固定(設置)されている。なお、イオン源215は、チャンバー211から離間した位置に配置し、接続部を介してチャンバー211に接続した構成とすることもできるが、本実施形態のような構成とすることにより、成膜装置200の小型化を図ることができる。
また、イオン源215は、その開口250が、基板ホルダー212と異なる方向、本実施形態では、チャンバー211の底部側を向くように設置されている。
なお、イオン源215の設置個数は、1つに限定されるものではなく、複数とすることもできる。イオン源215を複数設置することにより、接合膜45bの成膜速度をより速くすることができる。
また、ターゲットホルダー217および基板ホルダー212の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができる第1のシャッター220および第2のシャッター221が配設されている。
これらシャッター220、221は、それぞれ、ターゲット216、振動板40および接合膜45bが、不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
また、排気手段230は、ポンプ232と、ポンプ232とチャンバー211とを連通する排気ライン231と、排気ライン231の途中に設けられたバルブ233とで構成されており、チャンバー211内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
さらに、ガス供給手段260は、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を貯留するガスボンベ264と、ガスボンベ264からこのガスをチャンバー211に導くガス供給ライン261と、ガス供給ライン261の途中に設けられたポンプ262およびバルブ263とで構成されており、脱離基303を構成する原子成分を含むガスをチャンバー211内に供給し得るようになっている。
以上のような構成の成膜装置200を用いて、以下のようにして接合膜45bが形成される。
ここでは、振動板40上に接合膜45bを成膜する方法について説明する。
まず、振動板40を用意し、この振動板40を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
さらに、ガス供給手段260を動作させ、すなわちポンプ262を作動させた状態でバルブ263を開くことにより、チャンバー211内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
また、チャンバー211内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、金属原子または酸素原子と、前記原子成分を含むガスとの反応が効率良く行われ、金属原子および酸素原子に確実に、前記原子成分を含むガスを導入することができる。
次に、第2のシャッター221を開き、さらに第1のシャッター220を開いた状態にする。
この状態で、イオン源215のイオン発生室256内にガスを導入するとともに、フィラメント257に通電して加熱する。これにより、フィラメント257から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254とにより加速されて、イオン源215から放出され、陰極材料で構成されるターゲット216に衝突する。これにより、ターゲット216から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出される。このとき、チャンバー211内が脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)であることから、チャンバー211内に叩き出された粒子に含まれる金属原子および酸素原子に脱離基303が導入される。そして、この脱離基303が導入された金属酸化物が振動板40上に堆積することにより、接合膜45bが形成される。
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源215のイオン発生室256内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド253により遮蔽され、チャンバー211内への放出が防止される。
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源215の開口250)がターゲット216(チャンバー211の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室256内で発生した紫外線が、成膜された接合膜45bに照射されるのがより確実に防止されて、接合膜45bの成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
以上のようにして、ほぼ全体にわたって脱離基303が存在する接合膜45bを成膜することができる。
<B> 一方、Bの方法では、接合膜45bは、上記のように、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成される。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を偏在させた状態で導入することができ、接合膜および金属酸化物膜としての双方の特性に優れた接合膜45bを形成することができる。
ここで、金属酸化物膜は、いかなる方法で成膜されたものでもよく、例えば、PVD法(物理的気相成膜法)、CVD法(化学的気相成膜法)、プラズマ重合法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により成膜することができるが、中でも、特に、PVD法により成膜するのが好ましい。PVD法によれば、緻密で均質な金属酸化物膜を効率よく成膜することができる。
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法およびレーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、雰囲気中に金属酸化物の粒子を叩き出して、振動板40上に供給することができるため、特性に優れた金属酸化物膜を成膜することができる。
さらに、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を導入する方法としては、各種方法が用いられ、例えば、B1:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で金属酸化物膜を熱処理(アニーリング)する方法、B2:イオン・インプランテーション等が挙げられるが、中でも、特に、B1の方法を用いるのが好ましい。B1の方法によれば、比較的容易に、脱離基303を金属酸化物膜の表面付近に選択的に導入することができる。また、熱処理を施す際の、雰囲気温度や処理時間等の処理条件を適宜設定することにより、導入する脱離基303の量、さらには脱離基303が導入される金属酸化物膜の厚さの制御を的確に行うことができる。
以下、金属酸化物膜をスパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により成膜し、次に、得られた金属酸化物膜を、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で熱処理(アニーリング)することにより、接合膜45bを得る場合を代表に説明する。
なお、Bの方法を用いて接合膜45bの成膜する場合も、Aの方法を用いて接合膜45bを成膜する際に用いられる成膜装置200と同様の成膜装置が用いられるため、成膜装置に関する説明は省略する。
[i] まず、振動板40を用意する。そして、この振動板40を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
[ii] 次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、このとき、加熱手段を動作させ、チャンバー211内を加熱する。チャンバー211内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、膜密度の高い金属酸化物膜を成膜することができる。
[iii] 次に、第2のシャッター221を開き、さらに第1のシャッター220を開いた状態にする。
この状態で、イオン源215のイオン発生室256内にガスを導入するとともに、フィラメント257に通電して加熱する。これにより、フィラメント257から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254とにより加速されて、イオン源215から放出され、陰極材料で構成されるターゲット216に衝突する。これにより、ターゲット216から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出され、振動板40上に堆積して、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子とを含む金属酸化物膜が形成される。
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源215のイオン発生室256内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド253により遮蔽され、チャンバー211内への放出が防止される。
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源215の開口250)がターゲット216(チャンバー211の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室256内で発生した紫外線が、成膜された接合膜45bに照射されるのがより確実に防止されて、接合膜45bの成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
[iv] 次に、第2のシャッター221を開いた状態で、第1のシャッター220を閉じる。
この状態で、加熱手段を動作させ、チャンバー211内をさらに加熱する。チャンバー211内の温度は、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303が導入される温度に設定され、100〜600℃程度であるのが好ましく、150〜300℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、次工程[v]において、振動板40および金属酸化物膜を変質・劣化させることなく、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303を導入することができる。
[v] 次に、ガス供給手段260を動作させ、すなわちポンプ262を作動させた状態でバルブ263を開くことにより、チャンバー211内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー211内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
このように、前記工程[iv]でチャンバー211内が加熱された状態で、チャンバー211内を、脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)とすると、金属酸化物膜の表面付近に存在する金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303が導入されて、接合膜45bが形成される。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
なお、チャンバー211内は、前記工程[ii]において、排気手段230を動作させることにより調整された減圧状態を維持しているのが好ましい。これにより、金属酸化物膜の表面付近に対する脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。また、前記工程[ii]の減圧状態を維持したまま、本工程においてチャンバー211内を減圧する構成とすることにより、再度減圧する手間が省けることから、成膜時間および成膜コスト等の削減を図ることができるという利点も得られる。
この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、熱処理を施す時間は、15〜120分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
導入する脱離基303の種類等によっても異なるが、熱処理を施す際の条件(チャンバー211内の温度、真空度、ガス流量、処理時間)を上記範囲内に設定することにより、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を選択的に導入することができる。
以上のようにして、表面31付近に脱離基303が偏在する接合膜45bを成膜することができる。
以上のような第2実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
≪第3実施形態≫
次に、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第3実施形態について説明する。
以下、インクジェット式記録ヘッドの第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態および前記第2実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドは、各接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドは、各接合膜15、25、35、45a、45bがそれぞれエネルギー付与前の状態で、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような各接合膜15、25、35、45a、45bは、エネルギーが付与されると、脱離基303が各接合膜15、25、35、45a、45bから脱離し、各接合膜15、25、35、45a、45bの少なくとも表面付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、各接合膜15、25、35、45a、45bの表面に、前記第2実施形態と同様の接着性が発現する。
以下、本実施形態にかかる各接合膜15、25、35、45a、45bについて説明するが、これらの構成は共通であるため、接合膜45bを代表に説明する。
接合膜45bは、振動板40上に設けられ、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような接合膜45bは、エネルギーが付与されると、脱離基303の結合手が切れて接合膜45bの少なくとも表面31付近から脱離し、図13に示すように、接合膜45bの少なくとも表面31付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜45bの表面31に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜45bを備えた振動板40は、ケースヘッド60に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
また、接合膜45bは、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303とを含むもの、すなわち有機金属膜であることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜45b自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られるヘッド1においても、寸法精度が高いものが得られる。
このような接合膜45bは、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜45b)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、このような接合膜45bを用いて得られたヘッド1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
また、本発明では、接合膜45bは、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述するヘッド1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。その結果、インクの吐出方向を確実に制御することができる。
以上のような接合膜45bとしての機能が好適に発揮されるように、金属原子および脱離基303が選択される。
具体的には、金属原子としては、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pd、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる。
ここで、遷移金属元素は、各遷移金属元素間で、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、金属原子として遷移金属元素を用いた場合、接合膜45bに発現する接着性をより高めることができる。また、それとともに、接合膜45bの導電性をより高めることができる。
また、金属原子として、Cu、Al、ZnおよびFeのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いた場合、接合膜45bは、優れた導電性を発揮するものとなる。また、接合膜45bを後述する有機金属化学気相成長法を用いて成膜する場合には、これらの金属を含む金属錯体等を原材料として用いて、比較的容易かつ均一な膜厚の接合膜45bを成膜することができる。
また、脱離基303は、前述したように、接合膜45bから脱離することにより、接合膜45bに活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう接合膜45bに確実に結合しているものが好適に選択される。
具体的には、脱離基303としては、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団が好適に選択される。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜45bの接着性をより高度なものとすることができる。
より具体的には、原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基の他、前記アルキル基の末端がイソシアネート基、アミノ基およびスルホン酸基等で終端しているもの等が挙げられる。
以上のような原子団の中でも、脱離基303は、特に、アルキル基であるのが好ましい。アルキル基で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を備える接合膜45bは、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
また、かかる構成の接合膜45bにおいて、金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜45bの安定性が高くなり、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができるようになる。また、接合膜45bを優れた導電性を発揮するものとすることができる。
また、接合膜45bの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、50〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜45bの平均厚さを前記範囲内とすることにより、ヘッド1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、振動板40とケースヘッド60とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜45bの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜45bの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、ヘッド1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
さらに、接合膜45bの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜45bにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、基板20の接合面(接合膜45bを成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜45bを被着させることができる。その結果、接合膜45bは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、振動板40とケースヘッド60とを貼り合わせた際に、接合膜45bのケースヘッド60に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜45bの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜45bの厚さをできるだけ厚くすればよい。
以上説明したような接合膜45bは、いかなる方法で成膜してもよいが、例えば、IIa:金属原子で構成される金属膜に、脱離基(有機成分)303を含む有機物を、金属膜のほぼ全体または表面付近に選択的に付与(化学修飾)して接合膜45bを形成する方法、IIb:金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜45bを形成する方法(積層させる方法あるいは、単原子層からなる接合層を形成)、IIc:金属原子と脱離基303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として適切な溶媒に溶解させスピンコート法などを用いて接合膜を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、IIbの方法により接合膜45bを成膜するのが好ましい。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、かつ、均一な膜厚の接合膜45bを形成することができる。
以下、IIbの方法、すなわち金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜45bを形成する方法により、接合膜45bを得る場合を代表に説明する。
まず、接合膜45bの成膜方法を説明するのに先立って、接合膜45bを成膜する際に用いられる成膜装置400について説明する。
図16は、本実施形態において、接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図16中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図16に示す成膜装置400は、有機金属化学気相成長法(以下、「MOCVD法」と省略することもある。)による接合膜45bの形成をチャンバー411内で行えるように構成されている。
具体的には、成膜装置400は、チャンバー(真空チャンバー)411と、このチャンバー411内に設置され、振動板40(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)412と、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給する有機金属材料供給手段460と、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを供給するガス供給手段470と、チャンバー411内の排気をして圧力を制御する排気手段430と、基板ホルダー412を加熱する加熱手段(図示せず)とを有している。
基板ホルダー412は、本実施形態では、チャンバー411の底部に取り付けられている。この基板ホルダー412は、モータの作動により回動可能となっている。これにより、振動板40上に接合膜45bを均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
また、基板ホルダー412の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができるシャッター421が配設されている。このシャッター421は、振動板40および接合膜45bが不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
有機金属材料供給手段460は、チャンバー411に接続されている。この有機金属材料供給手段460は、固形状の有機金属材料を貯留する貯留槽462と、気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に送気するキャリアガスを貯留するガスボンベ465と、キャリアガスと気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に導くガス供給ライン461と、ガス供給ライン461の途中に設けられたポンプ464およびバルブ463とで構成されている。かかる構成の有機金属材料供給手段460では、貯留槽462は、加熱手段を有しており、この加熱手段の作動により固形状の有機金属材料を加熱して気化し得るようになっている。そのため、バルブ463を開放した状態で、ポンプ464を作動させて、キャリアガスをガスボンベ465から貯留槽462に供給すると、このキャリアガスとともに気化または霧化した有機金属材料が、供給ライン461内を通過してチャンバー411内に供給されるようになっている。
なお、キャリアガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガス等が好適に用いられる。
また、本実施形態では、ガス供給手段470がチャンバー411に接続されている。ガス供給手段470は、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを貯留するガスボンベ475と、前記低還元性雰囲気下とするためのガスをチャンバー411内に導くガス供給ライン471と、ガス供給ライン471の途中に設けられたポンプ474およびバルブ473とで構成されている。かかる構成のガス供給手段470では、バルブ473を開放した状態で、ポンプ474を作動させると、前記低還元性雰囲気下とするためのガスが、ガスボンベ475から、供給ライン471を介して、チャンバー411内に供給されるようになっている。ガス供給手段470をかかる構成とすることにより、チャンバー411内を有機金属材料に対して確実に低還元な雰囲気とすることができる。その結果、有機金属材料を原材料としてMOCVD法を用いて接合膜45bを成膜する際に、有機金属材料に含まれる有機成分の少なくとも一部を脱離基303として残存させた状態で接合膜45bが成膜される。
チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素ガスおよびヘリウム、アルゴン、キセノンのような希ガス、一酸化窒素、一酸化二窒素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、有機金属材料として、後述する2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、接合膜45bに過度の酸素原子が残存することなく、接合膜45bを成膜することができる。その結果、この接合膜45bは、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
また、キャリアガスとして前述した窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうちの少なくとも1種を用いる場合には、このキャリアガスに低還元性雰囲気下とするためのガスとしての機能をも発揮させることができる。
また、排気手段430は、ポンプ432と、ポンプ432とチャンバー411とを連通する排気ライン431と、排気ライン431の途中に設けられたバルブ433とで構成されており、チャンバー411内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
以上のような構成の成膜装置400を用いてMOCVD法により、以下のようにして振動板40上に接合膜45bが形成される。
[i] まず、振動板40を用意する。そして、この振動板40を成膜装置400のチャンバー411内に搬入し、基板ホルダー412に装着(セット)する。
[ii] 次に、排気手段430を動作させ、すなわちポンプ432を作動させた状態でバルブ433を開くことにより、チャンバー411内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、ガス供給手段470を動作させ、すなわちポンプ474を作動させた状態でバルブ473を開くことにより、チャンバー411内に、低還元性雰囲気下とするためのガスを供給して、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とする。ガス供給手段470による前記ガスの流量は、特に限定されないが、0.1〜10sccm程度であるのが好ましく、0.5〜5sccm程度であるのがより好ましい。
さらに、このとき、加熱手段を動作させ、基板ホルダー412を加熱する。基板ホルダー412の温度は、形成する接合膜45bの種類、すなわち、接合膜45bを形成する際に用いる原材料の種類によっても若干異なるが、80〜600℃程度であるのが好ましく、100〜450℃程度であるのがより好ましく、200〜300℃程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に設定することにより、後述する有機金属材料を用いて、優れた接着性を有する接合膜45bを成膜することができる。
[iii] 次に、シャッター421を開いた状態にする。
そして、固形状の有機金属材料を貯留された貯留槽462が備える加熱手段を動作させることにより、有機金属材料を気化させた状態で、ポンプ464を動作させるとともに、バルブ463を開くことにより、気化または霧化した有機金属材料をキャリアガスとともにチャンバー内に導入する。
このように、前記工程[ii]で基板ホルダー412が加熱された状態で、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給すると、振動板40上で有機金属材料が加熱されることにより、有機金属材料中に含まれる有機物の一部が残存した状態で、振動板40上に接合膜45bを形成することができる。
すなわち、MOCVD法によれば、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存するように金属原子を含む膜を形成すれば、この有機物の一部が脱離基303としての機能を発揮する接合膜45bを振動板40上に形成することができる。
このようなMOCVD法に用いられる、有機金属材料としては、特に限定されないが、例えば、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)、銅フタロシアニン、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]等、各種遷移金属元素を含んだアミド系、アセチルアセトネート系、アルコキシ系、シリコンを含むシリル系、カルボキシル基をもつカルボニル系のような金属錯体、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛のようなアルキル金属や、その誘導体等が挙げられる。これらの中でも、有機金属材料としては、金属錯体であるのが好ましい。金属錯体を用いることにより、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存した状態で、接合膜45bを確実に形成することができる。
また、本実施形態では、ガス供給手段470を動作させることにより、チャンバー411内を低還元性雰囲気下となっているが、このような雰囲気下とすることにより、振動板40上に純粋な金属膜が形成されることなく、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で成膜することができる。すなわち、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた接合膜45bを形成することができる。
気化または霧化した有機金属材料の流量は、0.1〜100ccm程度であるのが好ましく、0.5〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、均一な膜厚で、かつ、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、接合膜45bを成膜することができる。
以上のように、接合膜45bを成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基303として用いる構成とすることにより、形成した金属膜等に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で接合膜45bを成膜することができる。
なお、有機金属材料を用いて形成された接合膜45bに残存する前記有機物の一部は、その全てが脱離基303として機能するものであってもよいし、その一部が脱離基303として機能するものであってもよい。
以上のようにして、接合膜45bを成膜することができる。
以上のような第3実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1においても、前記第1実施形態および前記第2実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の液滴吐出ヘッドを製造する方法では、前記実施形態の構成に限定されず、工程の順序が前後してもよい。また、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよく、不要な工程を削除してもよい。
また、上述した接合膜を用いる接合方法を、液滴吐出ヘッドの上記以外の部材の接合に適用してもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.インクジェット式記録ヘッドの製造
(実施例1)
<1>まず、ステンレス鋼製のノズルプレート、単結晶シリコン製の板状の母材、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製の封止シート、ステンレス鋼製の振動板、ジルコン酸鉛の焼結体で構成された圧電体層とAgペーストを焼成した電極膜との積層体からなる圧電素子と、PPS製のケースヘッドとを用意した。
次いで、母材を図10に示すプラズマ重合装置のチャンバー内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、平均厚さ200nmのプラズマ重合膜(接合膜)を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :15分
・基板温度 :20℃
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものである。
次に、得られたプラズマ重合膜に以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :大気(空気)
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
一方、封止シートの片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、紫外線を照射してから1分後に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、封止シートの表面処理を施した面とが接触するように、母材と封止シートとを貼り合わせた。これにより、母材と封止シートとの接合体を得た。
<2>次に、母材と封止シートとの接合体の封止シート上に、前記工程<1>と同様にして、プラズマ重合膜を成膜した。
次に、得られたプラズマ重合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、振動板の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、振動板の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と振動板とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シートおよび振動板の接合体を得た。
<3>次に、封止シート、振動板およびこれらに隣接するプラズマ重合膜のうち、ヘッドの吐出液供給室を形成すべき位置に貫通孔を形成した。また、振動板のうち、圧電素子が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、貫通孔を形成した。なお、これらの貫通孔は、それぞれエッチング法により形成した。
<4>次に、母材、封止シートおよび振動板が接合された接合体の振動板上のうち、圧電素子が組み立てられる位置(環状の貫通孔の内側の領域)に、前記工程<1>と同様にして、プラズマ重合膜を成膜した。
次に、得られたプラズマ重合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、圧電素子の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、圧電素子の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と圧電素子とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板および圧電素子の接合体を得た。
<5>次に、母材、封止シート、振動板および圧電素子が接合された接合体のうち、ケースヘッドが組み立てられる位置に、前記工程<1>と同様にして、プラズマ重合膜を成膜した。
次に、得られたプラズマ重合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、ケースヘッドの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、ケースヘッドの表面処理を施した面とが接触するように、接合体とケースヘッドとを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体を得た。
<6>次に、得られた接合体の上下を反転させ、母材の封止シートが接合された面と反対側の面に対して、エッチング法により加工を施した。そして、母材に、吐出液貯留室と吐出液供給室とを形成し、これにより吐出液貯留室形成基板を得た。
<7>次に、吐出液貯留室形成基板上に、前記工程<1>と同様にして、プラズマ重合膜を成膜した。
次に、得られたプラズマ重合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、ノズルプレートの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、ノズルプレートの表面処理を施した面とが接触するように、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとを貼り合わせた。これにより、ノズルプレート、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体、すなわちインクジェット式記録ヘッドを得た。
<8>次に、得られたインクジェット式記録ヘッドを、3MPaで圧縮しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、インクジェット式記録ヘッドの接合強度の向上を図った。
(実施例2)
振動板とケースヘッドとの間の接合部以外の接合部、すなわち、母材と封止シートとの間、封止シートと振動板との間、振動板と圧電素子との間、ノズルプレートと吐出液貯留室形成基板との間の各接合部を、それぞれエポキシ接着剤で接着するようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを製造した。
(実施例3)
以下のようにして、プラズマ重合膜を、接合界面の両側に成膜し、各プラズマ重合膜同士を貼り合わせるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを製造した。
具体的には、まず、前記実施例1と同様にして、母材上にプラズマ重合膜を成膜した。
また、同様に、封止シート上にもプラズマ重合膜を成膜した。
次に、母材上のプラズマ重合膜と、封止シート上のプラズマ重合膜とに、それぞれ紫外線を照射した。
次に、各プラズマ重合膜同士が密着するように、母材と封止シートとを貼り合わせた。これにより、母材と封止シートとを接合した。
また、これと同様にして、封止シートと振動板との間、振動板と圧電素子との間、振動板とケースヘッドとの間、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとの間を、それぞれ接合した。
(実施例4)
<1>まず、ステンレス鋼製のノズルプレート、単結晶シリコン製の板状の母材、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製の封止シート、ステンレス鋼製の振動板、ジルコン酸鉛の焼結体で構成された圧電体層とAgペーストを焼成した電極膜との積層体からなる圧電素子と、PPS製のケースヘッドとを用意した。
次いで、母材を図14に示す成膜装置のチャンバー内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、イオンビームスパッタリング法を用いて、ITOに水素原子が導入された接合膜(平均厚さ100nm)を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
<イオンビームスパッタリングの成膜条件>
・ターゲット :ITO
・チャンバーの到達真空度 :2×10−6Torr
・成膜時のチャンバー内の圧力 :1×10−3Torr
・水素ガスの流量 :60sccm
・チャンバー内の温度 :20℃
・イオンビームの加速電圧 :600V
イオン発生室側のグリッドへの印加電圧 :+400V
チャンバー側のグリッドへの印加電圧 :−200V
・イオンビーム電流 :200mA
・イオン発生室に供給するガス種 :Krガス
・処理時間 :20分
このようにして成膜された接合膜は、ITOに水素原子が導入されたもので構成されており、金属原子(インジウムおよびスズ)と、この金属原子と結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基(水素原子)とを含むものである。
次に、得られた接合膜に以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :窒素ガス
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
一方、封止シートの片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、封止シートの表面処理を施した面とが接触するように、母材と封止シートとを貼り合わせた。これにより、母材と封止シートとの接合体を得た。
<2>次に、母材と封止シートとの接合体の封止シート上に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、振動板の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、振動板の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と振動板とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シートおよび振動板の接合体を得た。
<3>次に、封止シート、振動板およびこれらに隣接する接合膜のうち、ヘッドの吐出液供給室を形成すべき位置に貫通孔を形成した。また、振動板のうち、圧電素子が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、貫通孔を形成した。なお、これらの貫通孔は、それぞれエッチング法により形成した。
<4>次に、母材、封止シートおよび振動板が接合された接合体の振動板上のうち、圧電素子が組み立てられる位置(環状の貫通孔の内側の領域)に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、圧電素子の片面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、圧電素子の表面処理を施した面とが接触するように、接合体と圧電素子とを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板および圧電素子の接合体を得た。
<5>次に、母材、封止シート、振動板および圧電素子が接合された接合体のうち、ケースヘッドが組み立てられる位置に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、ケースヘッドの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、ケースヘッドの表面処理を施した面とが接触するように、接合体とケースヘッドとを貼り合わせた。これにより、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体を得た。
<6>次に、得られた接合体の上下を反転させ、母材の封止シートが接合された面と反対側の面に対して、エッチング法により加工を施した。そして、母材に、吐出液貯留室と吐出液供給室とを形成し、これにより吐出液貯留室形成基板を得た。
<7>次に、吐出液貯留室形成基板上に、前記工程<1>と同様にして、接合膜を成膜した。
次に、得られた接合膜に、前記工程<1>と同様にして、紫外線を照射した。一方、ノズルプレートの接合面に対して、酸素プラズマによる表面処理を行った。
そして、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、ノズルプレートの表面処理を施した面とが接触するように、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとを貼り合わせた。これにより、ノズルプレート、母材、封止シート、振動板、圧電素子およびケースヘッドの接合体、すなわちインクジェット式記録ヘッドを得た。
<8>次に、得られたインクジェット式記録ヘッドを、3MPaで圧縮しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、インクジェット式記録ヘッドの接合強度の向上を図った。
(実施例5)
接合膜を以下のようにして成膜した以外は、前記実施例4と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを得た。
母材を図16に示す成膜装置のチャンバー内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、原材料を2,4−ペンタジオネート−銅(II)とし、MOCVD法を用いて、平均厚さ100nmの接合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
<成膜条件>
・チャンバー内の雰囲気 :窒素ガス + 水素ガス
・有機金属材料(原材料) :2,4−ペンタジオネート−銅(II)
・有機金属材料の流量 :1sccm
・キャリアガス :窒素ガス
・水素ガスの流量 :0.2sccm
・チャンバーの到達真空度 :2×10−6Torr
・成膜時のチャンバー内の圧力 :1×10−3Torr
・基板ホルダーの温度 :275℃
・処理時間 :10分
以上のようにして成膜された接合膜は、金属原子として銅原子を含み、脱離基として、2,4−ペンタジオネート−銅(II)に含まれる有機物の一部が残存しているものである。
なお、以上のようにして得られたインクジェット式記録ヘッドを、10MPaで圧縮しつつ、120℃で加熱し、15分間維持した。これにより、インクジェット式記録ヘッドの接合強度の向上を図った。
(比較例)
全ての接合部、すなわち、ノズルプレートと吐出液貯留室形成基板との間、母材と封止シートとの間、封止シートと振動板との間、振動板と圧電素子との間、振動板とケースヘッドとの間の各接合部を、それぞれエポキシ接着剤で接合するようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット式記録ヘッドを製造した。
2.インクジェット式記録ヘッドの評価
2.1 寸法精度の評価
各実施例および比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドについて、それぞれ寸法精度を測定した。
その結果、各実施例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、いずれも、各比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドに比べて寸法精度が高かった。
また、各インクジェット式記録ヘッドをインクジェットプリンタに組み込み、印刷用紙に印字したところ、各実施例で得られたヘッドを組み込んだプリンタでは、各比較例で得られたヘッドを組み込んだプリンタに比べ、印字品位が優れていることが認められた。
2.2 耐薬品性の評価
各実施例および比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドに、80℃に維持したインクジェットプリンタ用インク(エプソン社製)を充填し、3週間保持した。その後、インクジェット式記録ヘッドの状態を評価した。
その結果、各実施例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、接合部へのインクの浸入がほとんど認められなかった。これに対し、比較例で得られたインクジェット式記録ヘッドでは、接合部へのインクの浸入が認められた。
本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第1実施形態を示す分解斜視図である。 図1に示すインクジェット式記録ヘッドの断面図である。 図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。 第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。 第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。 インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。 インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。 インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。 インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。 第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜の作製に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。 第1実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドの他の構成例を示す断面図である。 本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。 本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の第2実施形態が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。 第2実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。 図14に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。 第3実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドが備える接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
符号の説明
1……インクジェット式記録ヘッド 10……ノズルプレート 11……ノズル孔 15、25、35、45a、45b……接合膜 20……吐出液貯留室形成基板 20’……母材 21……吐出液貯留室 22……吐出液供給室 23……貫通孔 30……封止シート 40……振動板 50……圧電素子 51……圧電体層 52……電極膜 53……凹部 60……ケースヘッド 61……吐出液供給路 70……リザーバ 31……表面 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 200……成膜装置 211……チャンバー 212……基板ホルダー 215……イオン源 216……ターゲット 217……ターゲットホルダー 219……ガス供給源 220……第1のシャッター 221……第2のシャッター 230……排気手段 231……排気ライン 232……ポンプ 233……バルブ 250……開口 253……グリッド 254……グリッド 255……磁石 256……イオン発生室 257……フィラメント 260……ガス供給手段 261……ガス供給ライン 262……ポンプ 263……バルブ 264……ガスボンベ 400……成膜装置 411……チャンバー 412……基板ホルダー 421……シャッター 430……排気手段 431……排気ライン 432……ポンプ 433……バルブ 460……有機金属材料供給手段 461……ガス供給ライン 462……貯留槽 463……バルブ 464……ポンプ 465……ガスボンベ 470……ガス供給手段 471……ガス供給ライン 473……バルブ 474……ポンプ 475……ガスボンベ 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

Claims (26)

  1. 吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
    該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
    前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
    前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
    前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  2. 前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%である請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
  3. 前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3である請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッド。
  4. 前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  5. 前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  6. 前記脱離基は、アルキル基である請求項5に記載の液滴吐出ヘッド。
  7. 前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  8. 前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項7に記載の液滴吐出ヘッド。
  9. 前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項8に記載の液滴吐出ヘッド。
  10. 前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし9のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  11. 前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし10のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  12. 前記キャビティ部のうち、少なくとも前記接合膜と接している部分は、シリコン材料またはステンレス鋼を主材料として構成されている請求項1ないし11のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  13. 前記ケースヘッドは、樹脂材料またはステンレス鋼を主材料として構成されている請求項1ないし12のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  14. 前記キャビティ部の前記接合膜と接している面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし13のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  15. 前記ケースヘッドの前記接合膜と接している面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし14のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  16. 前記表面処理は、プラズマ処理である請求項14または15に記載の液滴吐出ヘッド。
  17. 前記キャビティ部と前記接合膜との間に、中間層を有する請求項1ないし16のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  18. 前記ケースヘッドと前記接合膜との間に、中間層を有する請求項1ないし17のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  19. 前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されている請求項17または18に記載の液滴吐出ヘッド。
  20. 前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および、前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項1ないし19のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  21. 前記エネルギー線は、波長150〜300nmの紫外線である請求項20に記載の液滴吐出ヘッド。
  22. 前記加熱の温度は、25〜100℃である請求項20または21に記載の液滴吐出ヘッド。
  23. 前記圧縮力は、0.2〜10MPaである請求項20ないし22のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
  24. 吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
    該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
    前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
    前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
    前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  25. 吐出液を貯留する吐出液貯留室と、前記吐出液貯留室内に貯留された前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔とを有するキャビティ部と、
    該キャビティ部上に設けられたケースヘッドとを有し、
    前記キャビティ部と前記ケースヘッドとが接合膜を介して接合されており、
    前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
    前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記キャビティ部と前記ケースヘッドとを接合していることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  26. 請求項1ないし25のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
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