図1ないし図12は本発明のヘッド部材の一実施形態を示すものであり、図13ないし図16はこの実施形態のヘッド部材が装着された本発明のインサート着脱式切削工具の一実施形態を示すものである。本実施形態のインサート着脱式切削工具は、回転する被削材に対して溝入れ加工や突っ切り加工を行うインサート着脱式の旋削工具(バイト)であって、工作機械の刃物台に保持される概略四角柱状をなすホルダ10と、このホルダ10の先端に装着される上記実施形態のヘッド部材30と、このヘッド部材30にクランプされる切削インサート50とを備えている。
ホルダ10は鋼材等により形成されて、互いに対向する上面11および下面12と一対の側面13A、13Bとを有する概略正四角柱状をなしており、その後端側(図13、図15において右上側、図14、図16において左上側)が上記正四角柱の中心軸線Oに沿って延びるシャンク部14とされるとともに、ホルダ10の先端側(図13、図15において左下側、図14、図16において右下側)には、ホルダ10の上面11から上方に向けて突出した突出部15が形成され、この突出部15が形成されたホルダ10の先端部に上記ヘッド部材30を装着するための装着部16が設けられている。
この装着部16は、ホルダ10の先端面と先端部の一方の側面13A側の部分とを切り欠くように凹状に形成されたものであって、ホルダ10の一方の側面13Aと平行に延びる平面状をなす第1受け面17と、この第1受け面17と直交する方向に延びるとともに軸線Oと直交する平面状をなしてホルダ10の先端側を向く第2受け面18と、これら第1、第2受け面17、18と直交する方向に延びる上向きの平面状をなす第3受け面19とを備えている。
このうち第1受け面17は、一方の側面13Aから他方の側面13B側に凹んで上記突出部15の上端にまで延びるように形成されている。そして、この第1受け面17には、本実施形態では3つの第1固定ネジ孔20A〜20Cが、それぞれ当該第1受け面17に直交する方向に穿設されて、また互いには軸線O方向に並ぶように、すなわちホルダ10の前後方向に並ぶようにして、図13に示すように上下に扁平した上向きに凸となる不等辺三角形の各頂点の位置に開口するように形成されている。
また、第2受け面18は、第1受け面17の軸線O方向先端側に面取り部を介して直交する方向に配置されており、上記突出部15の先端面よりも後端側に凹むようにして、先端側から見てL字状をなすように形成されている。この第2受け面18には、やはり当該第2受け面18に直交する方向に穿設された2つの第2固定ネジ孔21A、21Bが、軸線Oと直交して第1受け面17と平行に延びる方向に並ぶように、すなわち、本実施形態ではホルダ10の上下方向に並んで開口している。
さらに、第3受け面19は、他方の側面13B側に凹んだ第1受け面17とホルダ10先端部の一方の側面13A側を向く側面との間に配置され、第1受け面17に直交して軸線Oと平行に延びるように形成されており、この第3受け面19はその先端側で上記第2受け面18と面取り部を介して直交する方向に延びている。なお、凹状をなす装着部16は、その後端側が上記一方の側面13Aに対向する方向から見て先端側に開口する「コ」字状に形成されており、第1、第3受け面17,19はこの後端側の部分にまで延設されていて、上記第1固定ネジ孔20A〜20Cのうち最も後端側の第1固定ネジ孔20Cはこの後端側の部分に穿設されている。
また、上記第1固定ネジ孔20A〜20Cのうち最も先端側の第1固定ネジ孔20Aと上記第2固定ネジ孔21A、21Bは、軸線Oに直交して第1受け面17と平行に延びる方向、すなわち本実施形態では上下方向において、それぞれ異なる位置となるように配置されている。本実施形態では、図13に示すように上下に配置された2つの第2固定ネジ孔21A、21Bの間に、先端側の上記第1固定ネジ孔20Aが配置されている。
さらに、突出部15には、その上端部から下方に向けて、軸線Oと直交する平面内において下方に向かうに従い上記第1受け面17に対して所定の角度で離間するように傾斜するクランプネジ孔22が穿設されている。このクランプネジ孔22の上端開口部の周りには、該クランプネジ孔22よりも大きく開口した段付の凹部23が形成されており、この凹部23の一方の側面13A側は第1受け面17の上端部と交差して該第1受け面17に開口されている。さらに、この凹部23の段付き面24は、クランプネジ孔22の中心線に垂直とされ、一方の側面13Aに向かうに従い漸次下方へと後退するように第1受け面17に対して鈍角をなして傾斜させられている。
このようなホルダ10の装着部16に装着される本実施形態のヘッド部材30は、やはり鋼材等から一体に形成されたヘッド部材本体31によって構成されている。このヘッド部材本体31は、図7および図8に示すように先端部(図6〜図9において左側の部分)に対して後端部(図6〜図9において右側の部分)が一段厚肉とされた多段の概略平板状とされている。
この後端部においては、ホルダ10に取り付けられた取付状態において該ホルダ10の上記一方の側面13A側を向くヘッド部材本体31の一方の側面(図7において下側の側面、図8においては上側の側面)31Aと、これとは反対の他方の側面(図7において上側の側面、図8においては下側の側面)31Bとが平行に配置されている。ただし、このヘッド部材本体31は、同図7および図8に示すように取付状態における上下面視において、上記一方の側面31Aは軸線O方向(前後方向)に亙って平面状とされていて、他方の側面31Bの後端部が先端部に対してホルダ10の他方の側面13B側に一段突出するようにされている。
また、この突出した他方の側面31Bの後端部の先端縁から同後端部の下端面31Cにかけては、図5および図11に示すようにL字形の平板状をなす突壁部31Dが、やはりヘッド部材本体31に一体に形成されており、この突壁部31Dの後端側を向く背面31Eは、上記取付状態において軸線Oに垂直な方向に延びるようにされている。なお、この突壁部31Cを除いたヘッド部材本体31の後端部における他方の側面31Bは、上記上下面視において平面状とされている。
一方、後端部よりも一段薄肉とされるこのヘッド部材本体31の先端部には、取付状態においてホルダ10の上記一方の側面13Aに沿うように先端側に向けて延びる一対の顎部(上顎部32、下顎部33)が形成されている。このうち、本実施形態における一方の顎部である上顎部32には、後述するインサート60を上方から押圧する押圧面34が設けられるとともに、他方の顎部である下顎部33には上記押圧面34と対向配置される台座面35が設けられており、本実施形態ではこれら押圧面34と台座面35とにより図6に示すような先端側に開口して後端側に延びる凹状をなすインサート取付座36が形成されている。なお、図10に示すように先端側から見て、台座面35は上方に向けて凸となる逆凸V字状をなし、押圧面34は下方に向けて凸となる凸V字状をなしている。
また、これら押圧面34と台座面35との間の後端側の、インサート取付座36の奥には、その台座面35側に上記取付状態において軸線Oに垂直に先端側を向く当接面37が形成されている。さらに、この当接面37と押圧面34との間からは、ヘッド部材本体31の上記後端部の側面31A、31B間を該側面31A、31Bに垂直に貫通して、インサート取付座36の後端からさらに後端側に向けて延びるスリット38が形成され、上顎部32は、このスリット38後端の下顎部33との接続部39を支点として下顎部33側に向けて撓むように弾性変形可能とされている。なお、このスリット38は、インサート取付座36に連通する先端側では軸線Oに平行に延びている。
さらに、上記下顎部33は、図6および図9に示すように上顎部32よりも先端側に突出するとともに、ヘッド部材本体31の上記後端部における下端面31Cよりも下方に突出して突壁部31Dと面一な下面を有するように該突壁部31Dに連続させられている。また、この後端部における下端面31Cは側面31A、31Bに垂直な平面状とされて、上記取付状態において軸線Oに平行に延設され、ただしその延設方向の略中央部には浅い凹部が形成されている。
このようなヘッド部材30は、そのヘッド部材本体31の上記後端部をホルダ10先端の凹状の装着部16に装入させ、この後端部の上記他方の側面31Bを装着部16の第1受け面17に、突壁部31Dの上記背面31Eを第2受け面18に、後端部の上記下端面31Cを第3受け面19にそれぞれ密着させるようにして着座させられる。ここで、このヘッド部材本体31の後端部と上記突壁部31Dとには、こうしてヘッド部材30が着座させられた状態で、上記第1固定ネジ孔20A〜20Cおよび第2固定ネジ孔21A、21Bに対応する位置に、それぞれ3つの第1挿通孔40A〜40Cと2つの第2挿通孔41A、41Bとが形成されている。
これら第1、第2挿通孔40A〜40C、41A、41Bは、それぞれ上記後端部および突壁部31Dを貫通するように形成された断面円形のものであって、ただしその孔底側は後述する固定ネジ42の頭部裏面が当接するように縮径させられている。また、上述のようにヘッド部材30が装着部16に着座させられた状態で、第1挿通孔40A〜40Cはその中心が第1固定ネジ孔20A〜20Cの中心に対し、第3受け面19から離間して第2受け面18側に接近するようにホルダ10の先端側かつ上方側に斜めに僅かに偏心させられ、第2挿通孔41A、41Bの中心は第2固定ネジ孔21A、21Bの中心に対し、ホルダ10の下面12から離間して第1受け面17に接近するように一方の側面13A側かつ上方側に斜めに僅かに偏心させられている。
従って、こうして着座した状態で、図13および図14に示すように第1、第2挿通孔40A〜40C、41A、41Bに固定ネジ42を挿通して、図15および図16に示すように第1、第2固定ネジ孔20A〜20C、21A、21Bにねじ込むことにより、ヘッド部材30は、そのヘッド部材本体31後端部の上記他方の側面31Bが第1受け面17に押し付けられるとともに、突壁部31Dの背面31Eが第2受け面18に押し付けられ、さらに後端部の下端面31Cが第3受け面19に押し付けられて固定され、上記取付状態のように装着部16に取り付けられる。
なお、ヘッド部材本体31の後端面31Fは側面31A、31Bに垂直とされて、上記一方の側面31Aに対向する側面視において図6に示すように後端側に向けて階段状をなしつつ下端面31C側に向かうように形成されており、このうち最も後端側の段部と下端面31Cとにより形成される方形状の凸部が、装着部16後端側の上述した先端側に開口する「コ」字状の部分に収容され、この凸部に第1挿通孔40A〜40Cのうち最後端の第1挿通孔40Cが形成されている。ただし、この後端面31Fは、上記取付状態において装着部16の先端側を向く壁面とは接触しないように間隔があけられている。また、最先端の第1挿通孔40Aは、3つの挿通孔40A〜40Cのうち最も下端面31C側にあって、突壁部31Dの上記背面31E寄りに開口させられている。
さらに、これらの第1挿通孔40A、40Cの間にあって3つの第1挿通孔40A〜40Cのうち最も上顎部32側に位置する第1挿通孔40Bは、上記側面視において上記凸部より1つ先端上側の段部の内側に形成されて、最先端の第1挿通孔40Aとの間隔が最後端の第1挿通孔40Cとの間隔よりも大きくされている。また、同側面視においてこの第1挿通孔40Bの一方の側面31A側の開口部は、その上縁部が、インサート取付座36の後端から軸線Oに平行に延びる部分のスリット38の下側面の延長線と接するか、または交差するように配置されている。
そして、このスリット38の後端部は、図6に示すように後端側に向かうに従い上方の上顎部32側に延びるように曲折する曲折部38Aとされており、さらにこの曲折部38Aは、スリット38の後端側に近接して位置する上記第1挿通孔40Bと同軸の円弧状をなすようにして、該第1挿通孔40Bの上記開口部と間隔をあけて形成されている。従って、本実施形態ではこの曲折部38A後端の先端側を向く後壁面38Bとヘッド部材本体31の後端面31Fとの間の部分が上記接続部39とされ、この曲折部38Aにおけるスリット38の延設方向は、該曲折部38Aがなす上記円弧の接線方向となる。なお、この後壁面38Bは、本実施形態では上記側面視において凹円弧等をなすような凹曲面とされている。
ここで、この接続部39は、上記第1挿通孔40Bが形成された段部の先端上側の角隅部近傍にあって、この第1挿通孔40Bの直上に近接して位置し、本実施形態では上顎部32の上記押圧面34の後端側への延長線上か、それよりもやや高い位置に配置されている。なお、この曲折部38Aにおける上記円弧の径方向の幅は軸線Oに平行に延びるスリット38の幅より僅かに大きくされている。
また、この曲折部38A奥の先端側を向くスリット38の上記後壁面38Bは、図12に示すようにヘッド部材本体31の一方の側面31A側から他方の側面31B側に向かうに従い先端側に向かうように傾斜して形成されており、これにより、この後壁面38と側面31A、31Bに垂直なヘッド部材本体31の後端面31Fとの間に形成される上記接続部39は、その上記延設方向の幅が、同図12に示すように一方の側面31A側から他方の側面31B側に向かうに従い漸次幅広となるように形成されている。
なお、本実施形態ではこの接続部39の上記延設方向の幅が、図6に示すようにスリット38後端の曲折部38Aでの上記後壁面38Bにおける延設方向(接線方向)に沿ったAA断面において、図12に示したように一定の割合で上記離間方向に向けて幅広となるような断面台形状に形成されている。ここで、この断面において後壁面38Bと後端面31Fとは、図12に示すように5°〜15°の範囲内の角度θで交差する方向に形成されている。
一方、上顎部32には、その上面と上記他方の側面31Bとに開口する座ぐり部43が上記接続部39よりも先端側に形成されており、この座ぐり部43は、上記取付状態においてホルダ10の突出部15上面に開口する凹部23と連通して、クランプネジ孔22の中心線を中心とした断面円形をなすように傾斜して形成されている。さらに、この座ぐり部43の底面43Aは、図7に示すように円弧状に形成され、ヘッド部材本体31の一方の側面31A側と後端側とに向かうに従い漸次下方へと後退するようにして他方の側面31Bに鋭角をなして傾斜させられて、上記取付状態においてクランプネジ孔22の中心線方向を向いて凹部23の段付き面24より一段突出するように配置される。
なお、本実施形態のヘッド部材30においては、そのヘッド部材本体31の側面31A、31Bに、上述のように上下面視に平面状とされた該側面31A、31Bから凹む凹所44が形成されている。この凹所44は、例えば図12に示すように側面31A、31Bに角度を持って交差して凹所44の内周回りに連続した内壁面45と、この内壁面45にその全周に亙ってやはり角度を持って交差して連なる側面31A、31Bに平行な底面46とを有するように形成されていて、該ヘッド部材本体31を貫通することなく、またヘッド部材本体31の先端面や後端面31F、上面、下端面31C、およびスリット38や第1挿通孔40A〜40Cに開口することもなく、さらには凹所44同士でも互いに連通することがないように形成されている。
ここで、ヘッド部材本体31には複数の凹所44が形成され、また上記取付状態において表側(ホルダ10の一方の側面13A側)を向く一方の側面31Aと、裏側(装着部16の第1受け面17)側を向く他方の側面31Bとの両方に凹所44は形成され、しかもこれらの側面31A、31Bそれぞれに複数ずつの凹所44が形成されている。ただし、これら表裏の側面31A、31Bにおいて、凹所44は本実施形態では一段厚肉とされた後端部だけに形成されており、上下顎部32、33が形成された先端部や突壁部31Cには形成されていない。
このうち、表側の上記一方の側面31Aには、図6に示すように5つの凹所44A〜44Eが形成されており、そのうち一部(本実施形態では1つ)の第1の凹所44Aはスリット38より上の上顎部32側に形成されている。この凹所44Aの内壁面45は、上記曲折部38Aを含めたスリット38とヘッド部材本体31の上面および後端面31Fとの間に略一定間隔をあけて延びるとともに、先端側では、上側部分が下方に向けて先端側に真っ直ぐ傾斜し、下側部分は上側部分の先端に連なり下方に向けて後端側に凸湾曲しつつ傾斜して後退するように延びて、周回りに連続している。
また、スリット38より下の下顎部33側に形成される残りの第2〜第5の凹所44B〜44Eは、先端側の第2の凹所44Bが第1挿通孔40Aとスリット38との間に形成されるとともに、第1、第2挿通孔40A、40Bの間には、上側に第3の凹所44Cが、また下側に第4の凹所44Dが形成され、さらに第2挿通孔40Bの下側で第3挿通孔40Cの先端側には第5の凹所44Eが形成されている。これら第2〜第5の凹所44B〜44Eも、スリット38や第1〜第3挿通孔40A〜40Cの開口部および下端面31Cとの間には略一定の間隔をあけるとともに、この間隔よりも隣接する凹所44B〜44E同士の間の間隔は僅かに大きく、ただしやはり一定間隔とされている。
なお、これら隣接する凹所44B〜44E同士の間の部分は、第2、第3の凹所44B、44C間の部分と第3、第4の凹所44C、44D間の部分とが第1挿通孔40Aから放射状に延びるとともに、同じく第3、第4の凹所44C、44D間の部分と第4、第5の凹所44D、44E間の部分とは第2挿通孔40Bから放射状に延びるように形成されている。ただし、第2〜第4の凹所44B〜44Dのそれぞれ間の部分は、上記取付状態におけるホルダ10の後端下方に僅かに凸曲する一方、第4、第5の凹所44D、44E間の部分は先端側に僅かに凸曲するように湾曲させられている。また、第2の凹所44Bの先端側の内壁面45は、第1の凹所44A先端側の下側部分がなす凸湾曲の延長線上に沿うように、上方に向けて後端側に凸湾曲しつつ傾斜して後退するように延びている。
一方、裏側の他方の側面31Bのスリット38より下側には、図9に示すように第1、第2挿通孔40A、40B間の上側の第6の凹所44Fと下側の第7の凹所44G、および第2挿通孔40Bの下側で第3挿通孔40Cの先端側の第8の凹所44Hの3つの凹所44F〜44Hが、やはりスリット38や第1〜第3挿通孔40A〜40Cの開口部および下端面31Cとの間に略一定の間隔をあけて形成されている。また、隣接する第6、第7の凹所44F、44G間の部分は第1挿通孔40Aから放射状に延びるとともに、この第6、第7の凹所44F、44G間の部分と第7、第8の凹所44G、44H間の部分とは第2挿通孔40Bから放射状に延びている。
ただし、このうち第6、第7の凹所44F、44G間の部分は第1、第2挿通孔40A、40B間を直線状に結ぶように一定幅で真っ直ぐ延びている一方、また第7、第8の凹所44G、44H間の部分は第2挿通孔40Bから下端面31Cに向かうに従い、第7の凹所44Gの内壁面45が先端側に向かうように傾斜して、その幅が漸次広くなるように形成されている。このように、本実施形態では表裏の側面31A、31Bで凹所44の形状や数が互いに異なるように形成されていて、特に側面31A、31B同士で該側面31A、31Bに対向する方向から見た場合に、いずれの凹所44も互いに一致することなく異なる形状とされている。
さらに、本実施形態では、これら複数の凹所44の側面31A、31Bからの凹み深さ、すなわち側面31A、31Bから凹所44の底面46までの深さが異なるものとされている。具体的には、図12に示すように、表側の一方の側面31Aに形成された第1〜第5の凹所44A〜44Eの側面31Aからの凹み深さは、裏側の他方の側面31Bに形成された第6〜第8の凹所44F〜44Hの側面31Bからの凹み深さよりも大幅に浅くされ、ただし各側面31A、31B側の凹所44A〜44E同士と凹所44F〜44H同士では、凹み深さはそれぞれ等しくされている。これにより、両側面31A、31Bの凹所44A〜44Eの底面46と凹所44F〜44Hの底面46との間の部分は、同図12に示すようにヘッド部材本体31先端部の薄肉とされた下顎部33の厚さの略中央に配置されるように形成される。
なお、このような凹所44を備えたヘッド部材30は、凹所44が形成されていないヘッド部材本体31を鋼材等から削り出して成形してからエンドミル等によって凹所44を形成するようにして製造してもよいが、例えばヘッド部材本体31となる鋼材の原料微粉末と樹脂等のバインダーを混練して流動性を持たせた素材を、ヘッド部材本体31の形状を反転させた分割金型内に射出成形した後、加熱によりバインダーを除去して原料微粉末を焼結する、MIM(Metal Injection Molding)法によって製造することもできる。このようなMIM法によって製造した場合、凹所44の内壁面45には、底面46から側面31A、31B側に向かうに従い外側に傾斜するような抜き勾配が与えられる。
また、こうしてMIM法によって製造された場合や、削り出しによって製造された場合でも、製造されたヘッド部材本体31には、その表面に硬質の小球粒子を噴射することにより表面硬化を促す、ショットピーニングが施されるのが望ましい。
このようなヘッド部材30のインサート取付座36に取り付けられる溝入れ・突っ切り加工用の切削インサート50は、超硬合金等の硬質材料により外形が断面略方形の角棒状に形成されたインサート本体51を備え、ただしその下面と上面中央部とは断面凹V字状に形成されて、断面凸V字状をなす押圧面34および台座面35に互いのV字の二等分線を一致させるようにして当接可能とされている。また、上面の両端部には、中央部よりも一段後退した位置にそれぞれすくい面が形成され、これらのすくい面の両端縁部に溝入れ加工や突っ切り加工に使用される切刃52が形成されている。
このような切削インサート50は、上記取付状態とされたヘッド部材30に対し、その1つの切刃52を先端側に向けるとともに凹V字状の下面と上面中央部とを台座面35と押圧面34とに対向させるようにして、先端側からインサート取付座36に挿入され、後端側を向くインサート本体51の端面が上記当接面37に当接したところで、軸線O方向に位置決めされる。
そして、さらに図13および図14に示すようにホルダ10の突出部15に穿設されたクランプネジ孔22にクランプネジ47をねじ込むことにより、このクランプネジ47の頭部がヘッド部材本体31の座ぐり部43の底面43Aに当接してクランプネジ47が上顎部32に係合し、次いで上顎部32が上記クランプネジ孔22の穿設された方向に押し付けられて、接続部39を支点として下顎部33側に撓むように弾性変形させられ、その押圧面34がインサート本体51を台座面35側に押圧して切削インサート50がクランプされて、本実施形態のインサート着脱式切削工具が構成される。
従って、このように構成されたヘッド部材30およびこれを装着したインサート着脱式切削工具では、まずインサート取付座36の後端からスリット38が、ヘッド部材本体31をホルダ10先端部に取り付けるための挿通孔(第1挿通孔40B)に向けて延びていても、このスリット38の後端部は、押圧面34が形成された上顎部32側に曲折する曲折部38Aとされているので、この第1挿通孔40Bとの干渉を避けつつスリット38をより後端側にまで延長することができる。このため、上顎部32の弾性変形の支点となる下顎部33側との上記接続部39の位置もヘッド部材本体31のより後端側に配置することができ、弾性変形の際に押圧面34が大きく傾斜したりするのを防ぐことができる。
さらに、この曲折部38Aは、上記第1挿通孔40Bと同軸の円弧状をなすように形成されており、従ってこの曲折部38Aの後端に位置する上記接続部39も、固定ネジ42が挿通されて第1固定ネジ孔20Bにねじ込まれることによりホルダ10の第1受け面17側に押圧されることになる第1挿通孔40Bの周りの、上記円弧の延長上に配設されることになる。そして、こうして第1挿通孔40Bの周りが固定ネジ42によって押圧されることにより、接続部39を支点として上顎部32が下顎部33側に撓むように弾性変形させる際に他の部分に変形が生じるのを抑えることができ、確実にこの接続部39を支点とした弾性変形を促すことが可能となる。
従って、上記構成のヘッド部材30およびインサート着脱式切削工具によれば、このように確実に接続部39を支点として押圧面34に大きな傾斜の変化を生じることなく上顎部32を弾性変形させることができるので、押圧面34をインサート本体51上面中央部に全面的に密着させつつ、安定的に切削インサート50を台座面35側に押圧してクランプすることができる。このため、切削時にインサート本体51にがたつきが生じたりするのを防いで、切刃52による溝入れや突っ切り加工の加工精度向上を図ることが可能となる。また、このように曲折部38Aを形成することにより、挿通孔の位置に関わらずにインサート取付座36後端からスリット38を延設することができるので、ヘッド部材30の設計の自由度が向上するとともに、ヘッド部材本体31のコンパクト化を図ることも可能となる。
さらに、こうして曲折部38Aが第1挿通孔40Bと同軸とされることにより、曲折部38Aと第1挿通孔40Bとの間には、その周方向に亙って均一な肉厚の円弧板状の部分が形成されることになり、直線状に延びるスリットを延長させた場合のように挿通孔との間に広狭が生じることがない。このため、たとえ上述のように第1挿通孔40Bに挿通した固定ネジ42をホルダ10の第1固定ネジ孔20Bに強くねじ込みすぎたとしても、スリット38との間でヘッド部材本体31に変形や損傷が生じたりするのを防ぐことができ、逆に場合によってはより強い押圧力でこの第1挿通孔40Bの周囲を押圧して固定することにより、さらに確実に接続部39を支点とした弾性変形を促すこともできる。
ただし、このようにスリット38の曲折部38Aと第1挿通孔40Bとの間に広狭のない均一な肉厚の円弧板状部分が形成されるとしても、曲折部38Aが周方向に長くなりすぎると、第1挿通孔40Bの周りでヘッド部材本体31に連続する部分が短くなり、強度不足となって破損を生じるおそれがある。その一方で、この曲折部38Aが短すぎると上述した効果を奏することができないので、第1挿通孔40Bと同軸の円弧状をなす曲折部38Aは、図6に示すようにこの第1挿通孔40Bの中心に対する中心角αが20°〜50°の範囲内とされるのが望ましい。
なお、本実施形態では上述のように後壁面38Bがヘッド部材本体31の一方の側面31A側から他方の側面31B側に向かうに従い先端側に向かうように傾斜して形成されているが、こうして後壁面38Bを傾斜させた場合において、上記中心角αは図6に示すように曲折部38Aの先端側の縁部から後壁面38Bが後端側に傾斜した側の縁部(本実施形態では後壁面38Bが一方の側面31Aと交差する縁部)までの中心角としている。
ところで、本実施形態では切削インサート50をクランプする際に、ホルダ10先端部の突出部15に第1受け面17に対して斜めに穿設されたクランプネジ孔22にクランプネジ47がねじ込まれ、このクランプネジ47の頭部がヘッド部材本体31の座ぐり部43の傾斜した底面43Aを押し付けることにより、上述のように上顎部32が接続部39を支点として弾性変形させられるようになされている。このため、上顎部32はその押圧面34が台座面35に撓むように押付力を受けるとともに、先端側から見て接続部39を中心に上顎部32がホルダ10の他方の側面13B側に倒れ込んで傾斜するような方向にも押付力を受けることになる。
しかるに、こうして上顎部32が倒れ込む側には装着部16の第1受け面17が配置されて該上顎部32におけるヘッド部材本体31の他方の側面31Bと密着させられ、実際には上顎部32が倒れ込んで傾斜するのが防がれているのであるが、本実施形態ではさらに上記スリット38の曲折部38A後端の先端側を向く後壁面38Bが上述のようにヘッド部材本体31の一方の側面31Aから他方の側面31Bに向かうに従い先端側に向かうように僅かに傾斜させられていて、これにより、側面31A、31Bに垂直な後端面31Fとの間の上記接続部39が、一方の側面31Aから上顎部32が倒れ込む側の他方の側面31Bに向けて漸次厚肉となるように形成されている。
従って、上顎部32は、この接続部39が厚肉とされた他方の側面31B側には変形し難くなるので、上述のようにホルダ10の他方の側面13B側に倒れ込むような力を受けても、上顎部32が傾斜して切削インサート50を押圧してしまうような事態を防ぐことができ、例えば本実施形態のように押圧面34と台座面35が断面凸V字状、インサート本体51の下面と上面中央部とが断面凹V字状に形成されている場合に、これらのV字の二等分線が正確に一致した状態で切削インサート50を押圧してクランプすることができる。このため、切削インサート50を確実かつ強固にクランプすることができ、切削負荷によりインサート本体51にがたつきが生じて加工精度が損なわれるような事態も防止することが可能となる。
なお、本実施形態ではこのようにヘッド部材本体31の後端面31Fが側面31A、31Bに垂直とされるとともに、スリット38後端の曲折部38Aの上記後壁面38Bが傾斜させられることにより、接続部39が上述のように上顎部32の倒れ込む側に向けて漸次厚肉となるようにされているが、これとは逆に後壁面38Bを側面31A、31Bに垂直として、後端面31Fを側面31A側から側面31B側に向かうに従い後端側に傾斜するようにしてもよく、また後壁面38Bと後端面31Fの双方を側面31A側から側面31B側に向かうに従い互いに離間するように傾斜させてもよい。
ただし、こうして後壁面38Bと後端面31Fとを傾斜させることにより、接続部39の肉厚を、ヘッド部材本体31の他方の側面31B側、すなわちクランプネジ47によって上顎部32に押付力が作用する側に漸次厚くなるようにする場合、図12に示すその傾斜角θが大きすぎると、これら後壁面38Bと後端面31Fとの間の接続部39の幅にもよるが、押圧面34が台座面35に向けて接近するように上顎部32を撓ませること自体が困難となるおそれが生じる。その一方で、この傾斜角θが小さすぎても上述の効果が確実に奏されないので、この傾斜角θは、図12に示すように後壁面38Bにおける曲折部38Aの延設方向、すなわち該曲折部38Aがなす円弧の接線方向に沿った断面において、5°〜15°に設定されるのが望ましい。
一方、本実施形態のヘッド部材30においては、その側面31A、31Bに上述のような凹所44が形成されており、この凹所44が、周回りに連続した内壁面45と、この内壁面45にその全周に亙って連なる底面46とを有するものであるので、凹所44とヘッド部材本体31の上面や後端面31F、下端面31Cとの間には、該凹所44の底面46に対して屹立、突出するリブ状部が、凹所44を挟んで両側に少なくとも2つは形成されることになる。特に、本実施形態では側面31A、31Bに複数の凹所44A〜44Hが形成されているので、隣接する凹所44B〜44Eの内壁面45同士の間にもこのようなリブ状部が形成される。
従って、上述の溝入れ・突っ切り加工の際に切削インサート50の先端側に向けられた切刃52からインサート本体51に振動が発生しても、この振動は、ヘッド部材30からホルダ10に伝播するときにこのような複数のリブ状部を介して分散させられることになって直接ホルダ10に伝播することがなくなるため、かかる振動が集中してホルダ10にビビリ振動等が発生したりするのを抑制することができる。また、この凹所44によってヘッド部材本体31の軽量化を図ることができるので、振動自体が減衰し易く、これによってもビビリ振動の発生を抑えることが可能となる。
このため、本実施形態によれば、溝入れ・突っ切り加工時の切刃52の突き出し量を大きくしても、このようなビビリ振動によって切削作業が妨げられたり加工精度の劣化を招いたりするのを防ぐことができ、より高精度で高品位の切削加工を安定的かつ円滑に行うことが可能となる。また、こうして凹所44が形成されることにより、ヘッド部材本体31の表面積が増大するので、切削時に切削インサート50に発生した切削熱もヘッド部材30を介して速やかに発散させることができ、たとえ乾式切削等においても切削インサート50に熱的損傷が生じたり切屑の溶着が発生したりするのを防ぐことも可能となる。
その一方で、このような凹所44が形成されることによりヘッド部材本体31の肉厚が削がれても、本実施形態のヘッド部材30では凹所44が、第1、第2挿通孔40A〜40C、41A、41Bのようにヘッド部材本体31を貫通するものではなく、またインサート取付座36やスリット38、あるいは座ぐり部43のようにヘッド部材本体31の側面31A、31B間に位置する周端面(先端面や後端面31F、上面、下端面31C)に開口することもなく、上述のようなリブ状部が凹所44の周りに形成されるものであるので、ヘッド部材本体31の強度や剛性が著しく損なわれたりすることはない。また、特に上述のようにヘッド部材本体31にショットピーニングを施すことにより、一層確実にヘッド部材30の強度や剛性を向上させてさらに安定した切削を図ることができる。
ただし、このようにリブ状部が形成されたりショットピーニングを施したりしても、凹所44の総容積があまりに大きくなりすぎると、ヘッド部材本体31の強度や剛性が低下することは避けられない。その一方で、この凹所44の総容積が小さすぎても、上述の振動防止や切削熱発散といった効果が不十分となるので、凹所44の総容積は、この凹所44が形成されていないヘッド部材本体31の体積の2%〜15%の範囲とされるのが望ましい。なお、本実施形態では凹所44が内壁面45に角度を持って交差する側面31A、31Bに平行な底面46を有しているが、これら内壁面45と底面46とが滑らかに連続する凹曲面をなすような、例えば凹球面状の凹所とされていてもよい。
また、本実施形態では上述のようにヘッド部材本体31の一方の側面31Aと他方の側面31Bとの表裏の側面31A、31Bに凹所44A〜44Eと凹所44F〜44Hとがそれぞれ形成されており、これらの凹所44は側面31A、31Bに対向する方向から見たとき、すなわち側面31A、31Bのいずれかの側から見た投影視において互いに異なる形状とされている。このため、該凹所44A〜44Eと凹所44F〜44Hの周りに形成される上記リブ状部も互いに異なった形状となるため、振動をさらに確実に分散させることができる上、振動同士が互いに打ち消し合うようにすることもでき、ホルダ10への振動の伝播をより効果的に抑制することが可能となる。
さらに、本実施形態ではこれら表裏の側面31A、31Bに形成された凹所44A〜44Eと凹所44F〜44Hの該側面31A、31Bからの凹み深さが互いに異なるものとされており、これにより上記リブ状部の高さも表裏で異なるものとなるため、分散した振動を一層確実に打ち消し合わせたりすることができる。なお、本実施形態では一方の側面31Aの凹所44A〜44E同士と他方の側面31Bの凹所44F〜44H同士では、それぞれ凹み深さが等しくされているが、凹所44がヘッド部材本体31を貫通しなければ、各側面31A、31Bの少なくとも一方において凹み深さが互いに異なる凹所44が形成されていてもよい。