JP2009090441A - 炭化珪素の研磨剤、及びそれを用いた炭化珪素の研磨方法 - Google Patents
炭化珪素の研磨剤、及びそれを用いた炭化珪素の研磨方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】基材と、該基材上に設けられた炭素層とを備えた積層体からなる炭化珪素部材の研磨材であり、前記炭素層は、前記基材に設けられ衝撃を与えられて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、炭素粒子の成長を阻害する不純物の生成を抑制し及び又は炭素粒子の成長を抑制する生成・成長抑制材と、炭素粒子とから構成され、該生成・成長抑制材の量は、前記基材側の下部層から上部層に向かって減少してなり、かつ炭素層の表面粗さは、4nm〜6nm、であることを特徴とする炭化珪素部材の研磨材であり、さらに前記堆積した膜の表面に水素プラズマを暴露して前記炭素膜の表面粗さを4nm〜6nmに調整することもできる。
【選択図】図1
Description
(1)基材と、該基材上に設けられた炭素層とを備えた積層体からなる炭化珪素部材の研磨材であって、前記炭素層は、前記基材に設けられ衝撃を与えられて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、炭素粒子の成長を阻害する不純物の生成を抑制し及び又は炭素粒子の成長を抑制する生成・成長抑制材と、炭素粒子とから構成され、該生成・成長抑制材の量は、前記基材側の下部層から上部層に向かって減少してなり、かつ炭素層の表面粗さRaは、4nm〜6nm、であることを特徴とする炭化珪素部材の研磨材。
(2)前記基材は、シリコン、石英、ガラス、ステンレス、アルミニウムであることを特徴とする炭化珪素部材の研磨材。
(3)基材を用意する工程と、ダイヤモンド微粒子を粉砕して前記基材上に該ダイヤモンド微粒子を設ける工程と、内部にSiO2材又はAl2O3材の供給源及び前記工程で得られた基材を設置したマイクロ波プラズマCVD反応炉内に反応ガスを導入し、該反応炉内に表面波プラズマを発生させて、該基材上にSiO2材又はAl2O3材と炭素粒子からなる膜を該SiO2材又はAl2O3材の量が前記基材側の下部層から上部層に向かって減少させる工程と、前記堆積した膜の表面に水素プラズマを暴露して前記炭素膜の表面粗さを4nm〜6nmに調整する工程と、を備える炭化珪素部材の研磨材の形成方法。
本発明の積層体は、基材と、該基材上に設けられた炭素層とを備え、前記炭素層は、前記基材に設けられ衝撃を与えられて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、炭素粒子の成長を阻害する不純物の生成を抑制し及び又は炭素粒子の成長を抑制する生成・成長抑制材と、炭素粒子とを備え、該生成・成長抑制材の量(単位体積当りの量)は、前記基材側の下部層から上部層に向かって減少することを特徴とする積層体であり、図1に示すような積層構造を持っている。なお、本発明において、「炭素粒子の成長を阻害する不純物」とは、炭素粒子の粒界及び/又は炭素粒子間の空隙に炭素粒子の生成に伴って生じるアモルファスカーボンやグラファイトなどのことである。
具体的には、前記炭素層は、前記基材に設けられ衝撃を与えられて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、SiO2材又はAl2O3材と、炭素粒子とを備え、該SiO2材又はAl2O3材の量(単位体積当りの量)は前記基材側の下部層から上部層に向かって減少することを特徴とする。前記基材側の下部層から少なくとも80nm以上において該炭素粒子が70at%以上になることを特徴とする積層体であり、図2に示すような積層構造を持っている。
具体的には、前記炭素層は、前記密着強化層に設けられ衝撃を与えて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、SiO2材又はAl2O3材と、炭素粒子とを備え、該SiO2材又はAl2O3材の量(単位体積当りの量)は前記密着強化層側の下部層から上部層に向かって減少することを特長とし、前記密着強化層側の炭素層の下部層から少なくとも80nm以上において該炭素粒子が70at%以上になることを特徴とする積層体であり、図4に示すような積層構造を持っている。
ナノクリスタルダイヤモンドは,爆発合成によるナノクリスタルダイヤモンドを溶媒に分散させたコロイド溶液が有限会社ナノ炭素研究所等から、また粉砕により製造されたナノクリスタルダイヤモンド粉末、あるいはそれを溶媒に分散させたものがトーメイダイヤ株式会社等から、既に販売されている。本発明で用いるナノクリスタルダイヤモンド粒子は、その平均粒径が4〜100nm、好ましくは4〜10nmである。ナノクリスタルダイヤモンド粒子については、例えば文献で「牧田寛,New Diamond Vol.12 No. 3, pp. 8−13 (1996)」に詳述されている。
この分散液中のナノクリスタルダイヤモンド粒子の粒径分布を、動的光散乱法を用いて測定した。測定に用いた装置は、株式会社堀場製作所製、動的光散乱式粒子サイズ評価装置(DYNAMIC LIGHT SCATTERING PATRICLE SIZA ANALYZER)LB-500型機である。測定条件およびパラメータは次のとおりである。
分布形態:単分散
データ取り込み回数:100
反復回数:100
粒子径基準:体積
試料屈折率:1.600-0.000i
分散媒屈折率:1.333
分散媒粘度:0.8270mPa・s
サンプル粘度:0.141V
測定温度:28.5℃
算術平均径:0.0370μm
算術標準偏差:0.0070μm
この分散液中のナノクリスタルダイヤモンド粒子は、分散液の作成後、時間がたつにつれて分散液中で凝集が進行し、算術平均粒径が徐々に大きくなる。そして算術平均粒径が100nm(0.1μm)を超えると、本発明の積層体形成のための、ナノクリスタルダイヤモンド分散液による超音波処理に適さない。通常分散液作成後、およそ6ヶ月経過すると100nmを超える程度にナノクリスタルダイヤモンド粒子の凝集が進行する。したがって、およそ6ヶ月を目処として、ナノクリスタルダイヤモンド分散液を作製しなおし、新しいものを使用するのが、本積層体を形成するには適している。
上記超音波の衝撃力を有効に働かせるためには、超音波の出力が超音波洗浄器の容量1リットル当たり4W以上の超音波洗浄器を使用する必要がある。それ以下の出力の超音波洗浄器では、衝撃力が小さいため基材表面または密着強化層表面への高い保持力を得ることが困難である。
このように上述のナノクリスタルダイヤモンド分散液による超音波処理により、ガラス基材表面には高密度のナノクリスタルダイヤモンド粒子が付着あるいは食い込んでいることが分かる。この図でガラス基材表面に食い込んでいるか付着しているナノクリスタルダイヤモンド粒子の密度は5×1010個/cm2であった。ガラス基材と炭素層との積層体を後述する研磨材または研削材として利用可能な炭素層のガラス基材への密着強度を得るためには、ガラス基材表面に食い込んでいるか付着しているナノクリスタルダイヤモンド粒子の密度は、好ましくは109〜1012個/cm2、さらに好ましくは1010〜1011個である。
本発明においては、マイクロ波プラズマCVD反応炉内の内部に、SiO2材又はAl2O3材の供給源及び前記工程で得られた基材を設置し、CVD処理の際、基材は室温から500℃に保持しておく。
前記マイクロ波プラズマCVD反応炉内に、反応ガスとして、含炭素ガスと、アルゴンガス及び/又は水素ガスとの混合ガスを導入し、かつガス圧を1〜100パスカルにてプラズマを発生させるとともに、プラズマの電子温度が0.5〜3.0eVの位置に前記基板を配置して、プラズマ中のラジカル粒子を該基板の表面上にほぼ均一に到達するように該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させてなる炭素層堆積方法を採用することにより達成するものである。
例えば、ガラス、シリコン、鉄及び鉄系合金、ステンレス、アルミニウム、銅、プラスチック、などの材料に、必要に応じて密着強化層を設け、或いはさらにダイヤモンド微粒子の超音波処理による前処理を施した後、これを低温マイクロ波プラズマCVD装置にて、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した基材の表面上にほぼ均一に到達するように、該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させるダウンフローにて供給し、プラズマCVD処理を行う。
また、鉄及び鉄系合金、ステンレス、アルミニウム、銅、プラスチック、などの材料でも、これら基材表面に直接ナノクリスタルダイヤモンド分散液を用いた超音波処理を施すことにより、基材表面に食い込んでいるか付着しているナノクリスタルダイヤモンド粒子を形成し、その後これらの基材にマイクロ波プラズマCVD装置を用いて処理を施すことで、炭素層の形成が可能である。
本発明においては、プラズマCVD処理のガス圧力と、基材を配置する位置はたいへん重要であり、以下のようにして確認した。
図中、101はマイクロ波プラズマCVD反応炉(以下、単に「プラズマ発生室」という。)、102はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するためのスロット付き角型導波管、103はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するための石英部材、104は石英部材を支持する金属製支持部材、105は被成膜基材、106は被成膜基材を設置するための試料台であり、上下動機構と被成膜基材の冷却機構を備えており、107はその冷却水の給排水である。また108は排気であり、109はプラズマ発生用ガス導入手段である。110はプラズマCVD処理を行う反応炉である。
排気装置(図示せず)によりプラズマ発生室101を真空排気する。つづいてプラズマ発生室用ガス導入手段109を介して所定の流量でプラズマ発生室101にプラズマ発生用ガスを導入する。次に排気装置に設けられた圧力調節バルブ(図示せず)を調整し、プラズマ発生室101内を所定の圧力に保持する。2.45GHzのマイクロ波発生装置(図示せず)より所望の電力のマイクロ波を、スロット付き角型導波管102および石英部材103を介してプラズマ発生室101内に供給することにより、プラズマ発生室101内にプラズマが発生する。これにより、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した樹脂基板の表面上にほぼ均一に到達するように、該プラズマの発生起源となるマイクロ波導入用石英部材103の下面(CVD処理反応炉側)から該基板に向けて移動させ、ダウンフローにて供給することができる。
この図の測定に用いたガスは水素100%、圧力は10Paである。このようにプラズマ中の電子温度は、石英窓からの距離が大きくなるにしたがって減少するという特性を持っている。また図9は、プラズマ密度のマイクロ波導入用石英窓の下面(CVD反応炉側)からの距離依存性を示す。
上記測定の他、メタンガス0.5〜10モル%、炭酸ガス0〜10モル%、水素ガス0〜95.5モル%、アルゴンガス0〜95.5モル%の範囲で任意の割合で混合し、電子温度とプラズマ密度の測定を行った。その結果、測定したガス混合範囲では、プラズマの特性はほとんど変化しなかった。
その結果、電子温度が3eV以上となる基板の位置では成膜されないか、本発明の炭素層ではなく、煤状の膜がわずかに堆積するだけであることがわかった。たとえば図5に示した圧力10Paでは、石英窓からの距離が20mm以下の領域が、成膜されないか、煤状の膜がわずかに堆積するだけの領域であった。
一方電子温度が3eV以下となる領域では本発明の炭素層の形成が確認できた。たとえば圧力10Paでは、20mm〜200mmの領域で成膜されることを確認した。圧力10Paのとき、この領域では電子温度は3eV〜0.8eVであった。
本実験で使用した試料台の上下動可動範囲が最大で200mmであるため、これ以上の距離での実験は行うことができなかったが、試料台を工夫することにより、さらに大きな距離での実験が可能である。
このような、成膜に適する基材の位置を選定できるのは、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した基材の表面上にほぼ均一に到達するように該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させたことにより、図8に示すような、該プラズマの発生起源から該基板に向けて徐々に減少するような電子温度の分布を形成することができたことによる。
成膜に適する混合ガスの混合比は、基材に用いるそれぞれの基材によって異なり、また、基材の表面処理の状態によっても異なるが、その含炭素ガスの濃度は0.5〜10モル%、好ましくは1〜4モル%である。含炭素ガスが前記範囲より多くなると炭素層の基材への密着強度の低下等の問題が生じるので好ましくない。
また、前記混合ガスには、添加ガスとして、CO2やCOを添加することが好ましい。これらのガスは酸素源として作用し、プラズマCVD処理においては、不純物を除去する作用を示す。CO2及び/又はCOの添加量は、全混合ガス中、好ましくは0.5〜10モル%、さらに好ましくは1〜5モル%である。
アルゴンガス及び/又は水素の添加は、基材がプラスチック材料である場合に、表面のプラズマ損傷の防止に著しく有効である。特に樹脂の表面にプラズマ耐性膜を設けていない場合は、水素の割合に比べてアルゴンガスの割合を大きくすることが、プラズマ損傷の防止に有効である。水素ガスの割合は0〜95.5モル%、アルゴンガスの割合は0〜95.5モル%が適する。
すなわち、マイクロ波によってプラズマとなった原料ガスに石英管がさらされることにより、Siガスおよび酸素ガスが生成し、原料ガスとともにプラズマとなる。これらのプラズマは石英管に近いほど高密度であり、その拡散による広がりは、実質的に基板方向である。また拡散と同時にそれらが原料ガスとともにダウンフローにて、より効率的に基板に供給される。この供給量のコントロールはCVDチャンバー内のガス圧力を調節することによりプラズマの密度をコントロールし、Siガスおよび酸素ガスの生成率を調節することにより行う。メタンガスの濃度と同じ濃度となるようにSiガスの濃度の調整を行ったときに、炭素粒子の生成に伴って生じるアモルファスカーボンやグラファイト等の不純物の生成を抑制し、及び又は炭素粒子の成長を抑制する効果がもっとも高いことが、ガス濃度分析により明らかとなった。たとえば、メタンガスの濃度とCO2とSiガスの濃度は1〜5モル%の範囲でそれぞれ等しくなるように調整し、残りが水素ガスというガスの混合比が本発明の積層体の形成にたいへん適していた。
さらに該積層体の炭素層の場合,平坦性および密着性に優れており、その表面粗さRaは20nm以下であり,場合によっては3nm以下にも達する平坦なものである。
図10から、該炭素層断面は全面が埋め尽くされており、何もない隙間はないことが分かる。
また図11の電子線回折像は、ランダム配向の多結晶ダイヤモンドのリングパターンに近い。しかし、特にダイヤモンド(111)面に対応するリング中には、1つのリングに乗らない回折スポットが多数含まれ、これらは面間隔にしてダイヤモンド(111)面より2〜6%広い面による回折に対応する。この点において、該炭素層は通常のダイヤモンドと著しく異なる。さらに、該炭素層中には粒径5nm程度の結晶粒子が存在する。また,1個の粒子が1個または複数の結晶子から構成されているのが観察された。
図12のEELSスペクトルから、C-C sp2結合の存在を示すπ-π*遷移に対応するピークが殆ど無く、sp3結合成分の存在を示すσ-σ*遷移に対応するピークが支配的であることがわかる。すなわち該炭素層は、sp3結合した炭素原子から成る、結晶性の炭素粒子から構成されていることがわかる。
ここで、粒子が隙間なく詰まって炭素層が構成されていると見なせる場合、平均粒径を求めるためには、以下の手順に従って求めた。
すなわち平均粒径は、炭素層断面の透過型電子顕微鏡写真において、少なくとも100個以上の異なる粒子(結晶子)について粒径の平均をとって決定した。図10において、白い閉曲線で囲んだ部分が1つの粒子であるが、その閉曲線で囲まれた面積を求め、この値をSとすると、粒径Dは
また、粒子の面密度dsは、その粒子の平均粒径から
ds=単位面積/(π×(平均粒径/2)2)
によって決定した。
このようにして、本発明の積層体の炭素層の面密度を求めると、界面、膜中および最表面について変わりなく、8×1010/cm2から4×1012/cm2の範囲にあることが分かった。
まず膜内のいろいろな場所において、およそΦ100nmの領域でEELSスペクトルを観察したところ、すべての測定箇所でSiが観測された。また測定箇所によりSiの量に差があることが分かった。
さらに微小領域での元素分布を調べるため、詳細なEELS測定を行い、スペクトルの詳細な解析を行った。EELSスペクトルにおいて120eV近傍のSi(シリコン)によるピーク、300eV 近傍のC(カーボン)に、530eV 近傍のO(酸素)による信号が顕著であり、これらに特に着目した。図13は測定した試料の高分解能透過型電子顕微鏡写真を模式的に現したものである。測定点1は1個の炭素粒子の中、測定点2は炭素粒子の表面部分、測定点3は膜中にわずかに見られる炭素粒子ではない部分である。
EELSスペクトルのピークの形状から、測定点1はSiO2ではないSiとC、測定点2は、SiO2とC、測定点3はSiO2とCである。したがって本発明の積層体の炭素層では、SiO2が炭素層を形成する炭素粒子の表面に存在し、好ましくは炭素粒子を囲むように形成されていることがわかる。また、図11の回折像では、結晶性のSiO2の存在を示す回折リングは観測されなかった。したがって、これらSiO2は炭素層中で非晶質として存在することが分かった。本発明の積層体の炭素層では、非晶質SiO2が膜を形成する炭素粒子の表面に存在し、好ましくは炭素粒子を囲むように形成されている。このような特徴的な炭素層の構成は、本手法による積層体の炭素層で初めて実現されたものであり、従来のダイヤモンドやダイヤモンドライクカーボン膜などでは見られなかったものである。
この非晶質SiO2は炭素粒子の粒界及び又は炭素粒子間の空隙に炭素粒子の生成に伴って生じるアモルファスカーボンやグラファイト等の不純物の生成を抑制し、及び又は炭素粒子の成長を抑制するための物質として、非常に重要な働きをなすものである。
上記非晶質SiO2は、炭素層の最下層の10〜20nm程度の領域でたいへん多く存在し、およそ50at%以上であった。またこの非晶質SiO2の量は炭素層の基材側の下部層から上部層に向かって減少し、基材側の下部層から少なくとも80nm以上において炭素粒子が70at%以上であることが分かった。
本発明の積層体のこの構造において、基材表面に食い込んだナノクリスタルダイヤモンド粒子は炭素層の基材または密着強化層への密着を強化するアンカーとして機能し、また基材表面または密着強化層表面に付着するナノクリスタルダイヤモンド粒子は炭素層の成長寄与用炭素粒子として機能する。このように本発明の積層体において、これらナノクリスタルダイヤモンド粒子は、炭素膜の成長を促進し、さらに密着力を向上する大きな効果を発揮している。
さらに付着したナノクリスタルダイヤモンド粒子と、それら粒子の間隙を満たすように存在する非晶質SiO2は、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の粒界、炭素粒子の粒界及び又は炭素粒子間の空隙に炭素粒子の生成に伴って生じるアモルファスカーボンやグラファイト等の不純物の生成を抑制し、及び又は炭素粒子の成長を抑制するための物質として機能する。またさらにそれら非晶質SiO2は、基板と炭素層との密着力を高めるための補助的な機能も担っている。特に、本発明の手法を用いることによって、本来炭素層の密着力の高い堆積には密着強化層が有効であるような鉄や銅などの基材に対しても、密着強化層を設けずとも、ある程度の密着力で炭素層の堆積が可能である。これは、上記非晶質SiO2が、基板に食い込むナノクリスタル粒子のアンカー効果を補助し、基材への炭素層の密着力をより高める機能を担うことによる。
一方本発明の積層体の炭素層のシリコン基材側の最下層付近(積層体表面からの深さが0.7μm付近)では、酸素の分布がピークとなっている。そしてさらに深い部分で酸素の濃度は非常に小さくなり、その部分はシリコン基材中であることがわかる。上述のEELS測定から明らかなように、酸素はSiO2として炭素層中に存在する。したがってこのSIMS測定から、本発明の積層体において、炭素層のシリコン基材側の最下層付近では、SiO2の濃度(単位体積あたりの量)が炭素層の中央部よりもかなり大きいことが分かった。酸素の分布のピークの値、3.78×1022/cm3から見積もると、炭素層の最下層でのSiO2含有率はおよそ21%である。上述の高分解能透過型電子顕微鏡および電子エネルギー損失分光(EELS)による膜の構造と元素分布観察では、炭素層の最下層で非晶質SiO2は多く存在し、炭素層の基材側の下部層から上部層に向かって減少する分布を持っていることが明らかとなったが、このSIMS測定でもこのような特徴的な分布が確認された。
次にこのピークの構成の詳細(それぞれのピークの成分の位置や強度など)を見ることにする。
また、低温で合成しているため立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ高濃度の欠陥を含んでいるが、そのような低温合成のおかげで、鉄および鉄系合金、アルミニウム、銅、さらにはプラスチックなどの基材への積層も可能である。CVD処理の合成温度が高いと、基材と炭素層の熱膨張の差により、CVD処理後に室温に戻した際に、炭素層に比べて基材の収縮が大きく、炭素膜中の大きな残留応力による炭素層の基材からの剥離が生じる。本発明の手法では、低温での合成のため、この残留応力が小さいため、炭素膜の基材への密着力が大きくなっている。さらに本発明の積層体の炭素層では、炭素粒子の微小な粒径が揃っており、熱による歪が非常に小さい。すなわち立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ非常に高濃度の欠陥を含んだ構造により、熱歪が緩和され、基材への高い密着力が実現された。以上のような特徴により、本発明の積層体の、高い研磨、研削特性が得られている。
算術平均高さRaについては、例えば「JIS B 0601-2001」または「ISO4287-1997」に詳述されている。
図18に測定結果を示す。図中の直線は、これら測定点の近似直線であり、図中の数式は表面粗さ(x)と摩擦係数(y)との関係を表す近似式である。摩擦係数の測定には、新東科学株式会社製 荷重変動型摩擦摩耗試験機(HSS2000)を用いて、以下の条件で測定し、解析ソフト(TriboWare Rev. 1.8)を用いて解析した。
測定条件:往復動試験
荷重 2.0N
相手材 直径4.7mmのSUS440Cボール
油潤滑 室温、基油中
移動速度 20nm/s
したがって、実用の精密研磨が可能となる積層体の表面粗さRaは、図18より、摩擦係数が0.05以上0.10以下となる4nm〜11nmの範囲である。
本発明ではさらに鋭意努力の結果、CVD処理による積層体形成後、同装置を用いて、水素ガス100モル%、ガス圧力は1〜100Pa、好ましくは1〜50Paで水素プラズマを発生し、そのプラズマに積層体表面を30秒〜5分間、好ましくは1分〜3分間にわたって暴露することにより、積層体の表面粗さを低減する手法を見出した。
図21はCVD処理直後の積層体の表面形状を表す曲線であり、これから表面粗さRaは12.3 nmと評価された。この積層体表面を他の同様の積層体と約1分間、直線状に100往復およびそれと直角の方向にさらに100往復、振幅約10mmで擦り合わせた結果の表面形状が図22である。このとき潤滑材として純水を用いた。図22から求めた表面粗さRaは8.2nmであり、明らかに表面粗さが低減されていることがわかった。
図23もまたCVD処理直後の積層体表面形状を示し、この場合の表面粗さRaは10.3nmであった。図24は図23の積層体と同条件のCVD処理によって作製された積層体に、CVD処理に続けて約3分間水素プラズマに暴露させたときの表面形状である。水素プラズマ処理は水素ガス100モル%、ガス圧20Paで行った。図24より評価される表面粗さRaの値は5.0nmであり、この場合も明らかに表面粗さが低減されていることがわかった。
上記研磨および水素プラズマ処理、いずれの場合についても、表面粗さRaが11nmを超える、精密研磨に適さない積層体に対して適用することにより、精密研磨に十分使用することができる表面粗さである、Raが4〜11nmにまで表面粗さを低減できることがわかった。
研磨試験に使用した試料は、CREE社(株)製4H-SiC(0001)単結晶のオンアクシス(on-axis)Si面である。この表面の、(0001)面からのズレの角度、ミスオリエンテーション角は0.2度以下である。また研磨前の表面は、メーカーによる化学機械研磨が施されており、観察視野1μm角の原子間力顕微鏡観察で表面粗さRaは0.2nmであった。このSiC単結晶を10mm角に切り出し、研磨試料とした。
このシリコンを基材とする積層体の研磨盤を定盤に固定し、15℃の冷水をかけることで冷却し、さらに研磨助剤としてエタノールを滴下した。この研磨盤表面にSiC単結晶研磨試料を指で押さえつけ、ゆっくりと20mm程度の往復直線運動による擦り合わせを10回行い、研磨を行った。指で押さえつけた際SiC単結晶研磨試料に加えた荷重はおよそ20gである。
図19は上記研磨後のSiC研磨試料表面の、原子間力顕微鏡観察結果である。観察視野は1μm角である。研磨後の表面粗さRaは0.102nmであり、研磨前と比較して、表面平坦性を向上することができた。また図のように、原子間力顕微鏡像には明瞭な縞状のコントラストが観察された。図20は、図19の矢印-矢印間の凹凸を表すものである。このように図20の縞状コントラストに対応した山と谷が構成されていることがわかる。この山と谷の平均振幅は0.278nmであり、4H-SiC単結晶の(0001)面の原子層間隔0.251nmとよく一致する。したがって、図19の縞状コントラストは、4H-SiC(0001)単結晶表面の原子層ステップに対応する縞状コントラストであることが明らかとなった。
以上のような、本発明の積層体を用いた研磨盤によるSiC単結晶表面の原子層ステップが観察されるほどの平坦性は、従来の固定砥粒方式の研磨盤ではまったく実現できなかったものであり、本発明の積層体を用いた研磨盤の顕著な性能を示すものである。
102 スロット付き角型導波管
103 マイクロ波導入するための石英部材
104 石英部材を支持する金属製支持部材
105 被成膜基材
106 被成膜基材を設置するための試料台
107 冷却水の給排水
108 排気
109 プラズマ発生用ガス導入手段
110 反応炉
Claims (3)
- 基材と、該基材上に設けられた炭素層とを備えた積層体からなる炭化珪素部材の研磨材であって、前記炭素層は、前記基材に設けられ衝撃を与えられて粉砕されたダイヤモンド微粒子と、炭素粒子の成長を阻害する不純物の生成を抑制し及び又は炭素粒子の成長を抑制する生成・成長抑制材と、炭素粒子とから構成され、該生成・成長抑制材の量は、前記基材側の下部層から上部層に向かって減少してなり、かつ炭素層の表面粗さは、4nm〜6nm、であることを特徴とする炭化珪素部材の研磨材。
- 前記基材は、シリコン、石英、ガラス、ステンレス、アルミニウムであることを特徴とする炭化珪素部材の研磨材。
- 基材を用意する工程と、ダイヤモンド微粒子を粉砕して前記基材上に該ダイヤモンド微粒子を設ける工程と、内部にSiO2材又はAl2O3材の供給源及び前記工程で得られた基材を設置したマイクロ波プラズマCVD反応炉内に反応ガスを導入し、該反応炉内に表面波プラズマを発生させて、該基材上にSiO2材又はAl2O3材と炭素粒子からなる膜を該SiO2材又はAl2O3材の量が前記基材側の下部層から上部層に向かって減少させる工程と、前記堆積した膜の表面に水素プラズマを暴露して前記炭素膜の表面粗さを4nm〜6nmに調整する工程と、を備える炭化珪素部材の研磨材の形成方法。
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