JP2009072151A - 植物の養液栽培方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】植物の略閉鎖系養液栽培方法であって、植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を、前記養液の電気分解をすることにより低減するようにした。略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすることにより、前記植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を低減するようにしとしてもよい。このように構成し、略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすると、電気分解の効果すなわち抑制物質の分解効果が電極の近くだけでなく培養液全体に及ばせることができ、電解効果を均一に及ぼすことができる。
【選択図】図4
Description
ところが、閉鎖系の養液栽培にすると生育後半に原因不明の収量低下が発生した。原因を追求していくと、培養液を交換せずにイチゴの養液栽培を行うと、根から生成抑制物質(アレロパシー)が培養液中に滲出して蓄積していき、栄養生長及び生殖生長の阻害すなわち自家中毒が発生するものと推測された。すなわち、閉鎖系養液栽培において、生育後半の収量低下は根から滲出し培養液中に蓄積された生長抑制物質によって引き起こされるものと考えられた。
このような自家中毒による栄養生長や生殖生長の阻害は、培養液中に蓄積される生育抑制物質を除去することにより回避できるものと考えられ、その方法として活性炭による生育抑制物質の吸着等を発明者は提案した(特許文献1参照)。
しかし、前記のように活性炭を用いた場合、そのコストや使用後の回収・処理について実用上の問題があった。
(1) この発明の植物の養液栽培方法は、植物の略閉鎖系養液栽培方法であって、植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を、前記養液の電気分解をすることにより低減するようにしたことを特徴とする。
この植物の養液栽培方法では、植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を、前記養液の電気分解をすることにより低減するようにしたので、電気分解という比較的に扱い易い方法によって生育抑制物質を低減することができる。また、電気分解により次亜塩素酸が副成(食塩が共存すると生成する)すると植物の病原菌の防除ができると共に、電気分解により養液中の溶存酸素の濃度を向上させて果実の収量を増加させることができる。
ここで前記植物として、イチゴ、トマト、キュウリ、ナス,ピーマン,レタス,ホウレンソウ,コマツナ,ミツバ,シュンギク,サラダナ,ミズナ,セロリ,ネギ,パセリ(野菜)、トルコギキョウ,ユリ,ストック,スターチス,カーネーション,バラ,アスター,キク,ガーベラ(花)などを例示することができる。前記生育抑制物質として安息香酸を例示することができる。
(2) 略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすることにより、前記植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を低減するようにしとしてもよい。
このように構成し、略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすると、電気分解の効果すなわち抑制物質の分解効果が電極の近くだけでなく培養液全体に及ばせることができ、電解効果を均一に及ぼすことができる。また培養液を一括管理しやすくなり、大規模に安定した栽培を行うことが出来る。更に循環しない大きめの水槽を用いる場合、培養液の組成や水温などのバラツキが出て栽培植物であるイチゴの果実品質や収量が不安定になることがあり得、これは生産者にとってマイナスであるが、このような不具合を解消することができる。
(3) 前記電気分解する工程の後に鉄のキレート剤を含む養液成分の補充工程を設けるようにしてもよい。
栽培期間中常時電気分解するのではなく所定の時間に電気分解するようにし、前記のように構成すると、電気分解により養液成分中の鉄のキレート剤が分解することを防止して養液を補充することができる。前記鉄のキレート剤として、Fe-EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を例示することができる。
(4)前記生成抑制物質が所定の低濃度となるように電気分解を調整するようにしてもよい。このように構成すると、低濃度の生成抑制物質により逆に植物を刺激して生長を促進することが期待できる。この電気分解の調整は、電気分解の強さ(電流値等)や頻度などにより制御することができる。
この植物の養液栽培方法は、イチゴ、トマト、キュウリなどの水耕栽培、アクアリウム(水中盆栽)の水質維持装置、切花を入れる水槽の水質維持装置などの各種の用途に好適に適用することができる。
電気分解という比較的に扱い易い方法によって生育抑制物質を低減することができるので、自家中毒が発生し難く従来よりも実用的な植物の養液栽培方法を提供することができる。
この実施形態の植物の養液栽培方法はイチゴの略閉鎖系養液栽培方法(水耕栽培)であって、略閉鎖系で循環せしめる植物(イチゴ)の養液の電気分解をすることにより、前記植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質(安息香酸に着目)の濃度を低減するようにした。
また、前記電気分解を行う工程の後に鉄のキレート剤を含む養液成分の補充工程を設け、イチゴの生育期間中一定期間毎に養液を補充するようにした。前記鉄のキレート剤として、Fe-EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を例示することができる。
この植物(イチゴ)の養液栽培方法では、略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすることにより、前記植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質(安息香酸)の濃度を低減するようにしたので、電気分解という比較的に扱い易い方法によって生育抑制物質を低減することができ、自家中毒が発生し難く従来よりも実用的であるという利点がある。
また、電気分解により次亜塩素酸が副成(食塩が共存すると生成する)すると植物の病原菌の防除ができると共に、電気分解により養液中の溶存酸素の濃度を向上させて果実の収量を増加させることができるという利点がある。
さらに、栽培期間中常時電気分解するのではなく所定の時間に電気分解するようにし、電気分解を行う工程の後に鉄のキレート剤を含む養液成分の補充工程を設けるようにしており、電気分解により養液成分中の鉄のキレート剤が分解することを防止して養液を補充していくことができる。
ところで、前記生成抑制物質(安息香酸等)は全て分解するのではなく所定の低濃度となるように電気分解を調整するようにしてもよい。この電気分解の調整は、電気分解の強さ(電流値等)や頻度などにより制御することができる。このようにすると、低濃度の生成抑制物質により逆に植物を刺激して生長を促進することが期待できる。
培養液中に添加された安息香酸の電気分解処理による分解。
1Lの培養液をガラスビーカーに入れ,実験を行った.培養液は園試処方第一例標準液12)に準じ,希釈・調整し,EC 0.8dS m-1とした(以下,基準液とする).処理区は基準液のみをガラスビーカーに入れた区(対照区),基準液に安息香酸400μMを添加する区(安息香酸添加区)とし,安息香酸添加区には電気分解処理を行う区(電気分解区)を設け,計3処理区とした.
図1に示すように、電気分解区では,陰極1に表面積約180cm2のチタン,陽極2に同42cm2のフェライトを用いた電極をガラスビーカー(図示せず)内に設置し,24時間通電を行った.通電中の電圧および電流は,それぞれ10.0Vおよび0.6Aであった.実験中の室温は18℃,ガラスビーカーはウォーターバスで,内部の液温を20℃に維持した.実験開始時,2,6,12および24時間後にガラスビーカー内を攪拌するとともに,培養液のサンプリングを行った.シリンジフィルター(0.45μ)で濾過した25μlの培養液を分析型高速液体クロマトグラフィー(HPLC.カラムオーブン:L-2350,検出器:L-2400,ポンプ:L-2130;日立製作所およびデータ処理装置:クロマトパックC-R8A;島津製作所)に注入し,培養液中の安息香酸の測定を行った.分析条件は,溶媒10mMリン酸-アセトニトリル混合液(70%:30%),流速1.0ml min-1,分析温度30℃,検出波長254nm,カラム4.0×200mm(Wakosil 10C18,和光純薬工業)とした.
ここで,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有する水溶液中で電気分解処理を行った場合,EDTAが分解され,園試処方において鉄源として添加されるFe-EDTAが電気分解処理により分解される可能性が考えられた.そこで,同様の分析条件によりFe-EDTAの濃度推移を測定した.
図2(培養液に添加された安息香酸濃度の推移のグラフ)に示すように、安息香酸添加区の安息香酸濃度は2時間後380,6時間後352,12時間後347および24時間後322μMに推移し,24時間後,培養液中に安息香酸の残存量は実験開始時の81%であった.一方,電気分解区では2時間後259,6時間後223,12時間後185および24時間後67μMに推移し,24時間後の培養液中の安息香酸の残存量は実験開始時の17%であった.本実験において,培養液中での電気分解処理により,添加された安息香酸の大幅な減少がみられたことから,フェノール酸である安息香酸は電気分解処理により分解されたと考えられた.なお,電気分解処理を行わなかった安息香酸添加区においても,培養液中の安息香酸が81%まで減少した.培養液中に存在する微生物により,フェノール酸が分解されることが考えられ,本実験においても培養液中に存在した微生物により,添加した安息香酸が微生物によって分解された可能性が推察された.
図3(電気分解処理が培養液中のFe-EDTAの濃度に及ぼす影響のグラフ)に示すように、実験開始時25mgL-1であった培養液中のFe-EDTAの濃度は24時間後,安息香酸添加区では18.3mgL-1であった.一方,電気分解区では2.3mgL-1であった.電気分解区におけるFe-EDTAの減少は,電気分解処理による分解によるものと考えられた.また,電気分解処理を行わなかった安息香酸添加区においても,Fe-EDTAの減少がみられた.培養液中のFe-EDTAは通常,光線とくに紫外線により分解を受けるとされていることから,培養液中のFe-EDTAが室外や蛍光灯に由来する紫外線により分解を受けた可能性が考えられた.
以上より,電気分解処理により,イチゴの自家中毒における主な原因物質である安息香酸が分解され,生育抑制の回避につながる可能性が示唆された.しかし,イチゴの自家中毒を示す根からの滲出物質は安息香酸だけではない.そこで次に,イチゴの養液栽培で使用した培養残液を用い,電気分解処理による生育抑制物質の分解が可能かどうか,イチゴ苗によるバイオアッセイで検討した.
培養液に添加された安息香酸,および培養残液の電気分解処理がイチゴ幼苗の生育に及ぼす影響。
供試品種は‘とよのか(イチゴの品種名)’を用いた.本葉4枚展開期の苗をウレタンキューブで支持し,培養液を3L入れたプラスチックコンテナ(17cm× 29cm×9.5cm)に定植した.栽植本数は1コンテナあたり10株とした.処理区は基準液を用いる区(新液区,対照区),新液に400μM濃度の安息香酸を添加する区(安息香酸添加区)およびイチゴ‘とよのか’の養液栽培に約8ヶ月間使用した培養残液を用いる区(残液区)とし,安息香酸添加区および残液区には電気分解処理を行う区(それぞれ安息香酸電解区および残液電解区)を設け,計5処理区とした.安息香酸電解区および残液電解区では,実験開始前にそれぞれの培養液に電気分解処理を行った.電気分解条件は実験1に準じ,24時間行った.また,全ての処理区において,4〜5日毎に培養液を全量交換した.その際,各処理区とも実験開始時と同じ培養液を用いた.なお,安息香酸電解区,残液区および残液電解区ではイチゴ幼苗を定植する直前に,それぞれの培養液中のNO3 -,PO4 3-,K+,Ca2+,Mg2+およびFe3+の各イオン濃度が基準液とほぼ同じになるように調整を行った.その際,NO3 -イオンについては比色計(RQflex2,Merck),PO4 3-イオンについてはモリブデンブルー法14),K+,Ca2+,Mg2+およびFe3+の各イオン濃度については原子吸光光度計(Z-5010,日立製作所)を用いて分析した.また,培養液のpHおよびECを,pHメーター(F-52,堀場製作所)およびECメーター(ES-12,堀場製作所)で測定し,基準液(pH=7.0,EC=0.8 dS m-1.実測値)と同じになるように調整した.その際,pHについては0.4M NaOH,ECについては水道水を用いた.
蛍光灯付き培養装置を用いて,室温25℃,光量子束密度74〜81μmolm-2s-1,16時間日長条件で2週間培養を行った.実験終了時,株の葉数,最大葉長,最大葉幅,地上部生体重および最大根長を測定した.
表1に示すように、実験終了時の葉数について,処理区による有意な差はみられなかった.次に地上部生体重について,安息香酸添加区では,対照区の55%となり有意に減少した.残液区では対照区の61%となり,安息香酸添加区と同様に有意に減少した.安息香酸電解区および残液電解区では,有意差はみられなかった.なお最大葉長および最大葉幅について,安息香酸添加区では,それぞれ対照区の78%および72%となり、有意に減少した.残液区においても,それぞれ対照区の77%および69%となり有意に減少した.一方,安息香酸電解区および残液電解区では,対照区と比べて有意な差はみられなかった.最大根長については,処理区間に有意な差はなかった.
トマトやキュウリの水耕において,根から滲出した生育阻害物質が培養液中に蓄積する.したがって,本実験における,生育の減少は培養液中に蓄積した生育抑制物質によるものと考えられた.イチゴの培養液非交換における栄養生長および生殖生長阻害の主な原因物質として,根から滲出し培養液中に蓄積する安息香酸の存在がある.したがって,本実験においても培養残液中に存在する主な生育抑制物質は安息香酸であると考えられた.また実験1より,電気分解処理による培養液中の安息香酸の分解が示唆されたことから,残液電解区における生育抑制の軽減は電気分解による安息香酸などの生育抑制物質の分解によると考えられた.
以上より,培養残液中に蓄積したと考えられる生育抑制物質が電気分解により分解され,生育抑制が回避したことが示唆された.次に培養液の電気分解処理がイチゴの生殖成長,すなわち開花および収量に及ぼす影響について検討を行った.
培養液非交換および電気分解処理がイチゴの生育および収量に及ぼす影響。
供試品種は,‘とよのか’を用いた.実験は島根大学生物資源科学部附属生物資源教育研究センター(島根県松江市上本庄町)内のガラス温室で行った.実験は水耕法で行った.培養液は基準液とした.図4(ワグネルポットを利用した培養装置)に示すように、培養液の容量が3Lとなるように加工した1.0×5000-1aワグネルポット3,容量約50Lの培養液タンク4,水中ポンプ5(KP-101,工進),内径φ4mmの潅水チューブ6,内径φ15mmの塩化ビニール製給液管7および排水管8から成る栽培装置を用いた.本葉3〜4枚,クラウン径約10mmの苗をウレタンキューブ(縦23mm×横23mm×高さ27mm)4個を用いて支持し,栽培装置に移植した.培養液はプログラムタイマー(KS-1500,井内盛栄堂)を用いて5分間循環,30分間休止の繰り返しで行い,供給量は1Lmin-1とした.
処理区は培養液を2週毎に交換する区(以下,交換区とする.対照区)および培養液を交換しない区(以下,非交換区とする)とし,非交換区に第3花房収穫開始期以降,2週毎に培養液中で電気分解処理を行う区(以下,電解区)を設け,計3処理区とした.電解区における電気分解処理は培養液タンク内で行った.電極および通電時間は実験1に準じ,通電中の電圧および電流は,それぞれ18.0Vおよび0.2Aであった.
非交換区および電解区では,減少した培養液を2週毎に追加するとともにNO3 -,PO4 3-,K+,Ca2+,Mg2+およびFe3+の各イオン濃度を分析し,基準液と同じ濃度となるように調整した.なお,電気分解処理により培養液中のFe-EDTAが分解されることが考えられたので,これらの調整は電気分解処理終了後に行った.無機養分の調整方法は実験2に準じた.
栽植本数は1ポットあたり1株とし,10反復行った.実験中の日平均気温は13.1〜28.1℃,日平均水温は5.6〜25.4℃で推移した.いずれの処理区においても培養液のpHおよびECは,それぞれ5.8〜7.6,0.7〜1.2 dS m-1で推移した.授粉は絵筆を用いて行った.果実の収穫は果実全体が着色した際に行い,果実の収穫が終了した約6ヶ月後に実験を終了した.その際,株当たりの葉数,クラウン径,地上部生体重および乾物重,地下部乾物重,最大根長を調査した.また,実験期間中の株当たりの花房数,開花数,収穫果実数,および収量を記録した.
一方,電解区の開花数および収穫果実数は,対照区と同等であった.また収量は,対照区と比較して有意に減少したが,非交換区と比較し有意に増加したことから,培養液非交換による収量の減少は軽減されたと考えられた.実験1および実験2より,電気分解処理による培養液中の安息香酸の分解が示唆されたことから,電解区における開花数,収穫果実数の回復および収量低下の軽減は,イチゴの根から滲出し,培養液中に蓄積したと考えられる安息香酸が電気分解されたことによると考えられた.
以上より,イチゴの根から滲出し,培養液に蓄積される生育抑制物質による収量の低下,すなわち自家中毒は,培養液に電気分解処理を行うことにより軽減される可能性が考えられた.なお,培養液中のFe-EDTAは電気分解処理により分解されたと考えられたことから,今後イチゴの水耕において電気分解処理を行う場合,培養液の調整直前に処理を行うようにするなど,処理を行うタイミングを検討する必要があると考えられた.
2 陽極
Claims (3)
- 植物の略閉鎖系養液栽培方法であって、植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を、前記養液の電気分解をすることにより低減するようにしたことを特徴とする植物の養液栽培方法。
- 略閉鎖系で循環せしめる植物の養液の電気分解をすることにより、前記植物の根から養液中に滲出する生育抑制物質の濃度を低減するようにした請求項1記載の植物の養液栽培方法。
- 前記電気分解する工程の後に鉄のキレート剤を含む養液成分の補充工程を設けるようにした請求項1又は2記載の植物の養液栽培方法。
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