JP2009065900A - 標的rnaの解析方法及び保存方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】夾雑物が非常に多く、かつ、大量の核酸が存在する糞便試料中の標的RNAを解析する場合において、糞便試料からRNAを回収した後、得られたRNAの定量操作等を要することなく、標的RNAを解析し得る方法の提供。
【解決手段】糞便試料中に存在する標的RNAを解析する方法であって、(a)糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、(b)前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、(c)前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、(d)前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、(e)前記工程(d)の後、前記複合体を形成している標的RNAを検出又は定量する工程と、を有することを特徴とする標的RNAの解析方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、糞便試料中に存在する標的RNAの解析方法及び保存方法に関する。
食生活の欧米化に伴い、欧米と同様に日本においても、大腸がんの発症率が増加し、がん死亡率の上位を占めるようになってきており、より高精度でかつ簡便な大腸がんの診断方法が望まれている。近年、非侵襲的で簡便な検査方法として、糞便を用いた検査方法が注目されており、特に、糞便から核酸マーカーを検出する方法の研究・開発が盛んに行われている
例えば、DNAの突然変異によるがんの解析は、糞便中にがん細胞が存在しているか否かを、正常細胞には存在しない変異型DNAが、糞便試料中に存在しているか否かにより解析されるものであり、糞便試料から得られた一定量の核酸中に、僅かでも変異型DNAの存在が確認された場合には、大腸がんを発症している可能性があると診断される。このような変異型DNAの検査法として、例えば、APC遺伝子、p53遺伝子、K−ras遺伝子等の変異の有無を調べる方法や、マイクロサテライト不安定性(MSI、microsatellite instability)、LOH(loss of heterozygousity)、longDNA等を調べる方法がある。
血液等と異なり、糞便は、その半分は細菌から成り立っているといわれるほど大量の細菌を含有しているため、糞便試料から抽出された核酸は、通常、大量の細菌由来核酸に対して、微量のヒト由来核酸が含まれているものである。このため、糞便試料からの核酸回収工程が、核酸マーカーによるがん診断の結果に大きく影響する。
一般に、生物試料からDNAを回収する方法としては、フェノール/クロロホルム法や、生物試料溶解物をチオシアン酸グアニジンや塩酸グアニジン等のカオトロピック塩の存在下で処理することにより抽出した核酸を、シリカコーティングされた固相担体に吸着させ、非特異的に吸着した物質を洗浄液にて洗浄した後、溶出液で固相担体から核酸を溶出する核酸の回収方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
より変異型DNAの検出感度及び精度を改善し得る方法として、例えば、(1)(a)約8.0〜約9.0のpHで約10mM〜約200mMの濃度のキレート剤、約1mM〜約20mMの濃度の塩、及び少なくとも約500mMの濃度のバッファーを含む糞便溶解バッファー中で糞便試料から粒形物を除いて非粒子画分を生成させ、そして(b)該非粒子画分から核酸を分離することを含む糞便試料から哺乳動物の核酸を分離する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。このような糞便溶解バッファーを用いることにより、糞便試料中の細菌は溶解せず、哺乳細胞のみを溶解し得るため、糞便中に大量に存在する細菌DNAの影響を低減し、より高精度に大腸がんを検出することができる。また、(2)糞便試料を溶解させるために用いられる溶媒と糞便試料との比率や、溶媒の組成等の条件を適当にすることにより、糞便試料からDNAを安定的に回収する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。その他、生物試料から定量的にDNAを回収する方法として、例えば、(3)生物試料に適当なバッファーとカオトロピック塩を添加して抽出した核酸溶液に、解析に必要充分な一定量のDNAを可逆的に結合し得るシリカ含有固形支持体を添加することにより、該シリカ含有固形支持体に結合し得る一定量のDNAのみを単離して回収する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)
また、近年、糞便中のRNAをマーカーとして大腸がんを診断する方法が開示されている。RNAをマーカーとするがんの検出方法においては、生物試料中に含まれている標的RNA量の多寡により、がんの発症の有無が判断される場合が多い。このため、生物試料から回収するRNA量に対して、一般的に、DNAによる変異検査よりも高い定量性が求められる。このようなRNAをマーカーとするがんの検出方法として、例えば、(4)糞便試料をRNA分解酵素阻害剤の存在下で均質化して得られた懸濁物からRNAを抽出した後、cox−2 mRNAの有無をnested PCRで半定量的に検出することにより、がんの検出を行う方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。該方法は、RNAを定量的に検出するため、DNAの解析に比べて感度や特異度で非常によい結果を示している。
一般に、生物試料からRNAを回収する方法としては、上記(4)の方法においても行われているように、生物試料溶解物から、タンパク質等の夾雑物の分離をせず、酸性条件下でフェノールとカオトロピック塩を用いて、全RNAを回収する方法が、スタンダードな方法として広く利用されている(例えば、特許文献6参照。)。その他、生物試料から抽出された核酸からRNAを回収する方法として、例えば、(5)核酸を含む生物試料溶解物中の、塩及びアルコール基を含む物質の濃度を調整することにより、全核酸を同時に無機支持体に吸収させ、分別溶出により二本鎖核酸及び単鎖核酸に分離するか、二本鎖核酸又は単鎖核酸を無機支持体に選択的に吸収させることにより、二本鎖核酸と単鎖核酸を別個に回収し得る方法が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。その他、特に糞便試料からRNAを回収する方法として、例えば、(6)糞便試料からタンパク質等の夾雑物を除去した後、フェノールとカオトロピック塩を用いてRNAを抽出し、抽出されたRNAをさらにシリカ含有固形支持体に吸着させることにより回収する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
特許第2680462号公報 特許第3633932号公報 特表2002−539765号公報 特表2003−507049号公報 国際公開第2004/083856号パンフレット 特許第2679929号公報 特許第3256238号公報 Alexander et al.、1998年、Digestive Diseases and Sciences、 第43巻、p2652〜2658
上記(4)〜(6)の方法を用いた場合には、通常、一回の回収操作によって100〜200μg以上の核酸が回収される。一方で、標的RNAの検出はRT−PCR等の核酸増幅法を用いて行われる場合が多く、わずか1〜2μg程度のRNAが回収できれば充分である場合が多い。特に、検出に供されるRNAには、各検出方法に適した濃度範囲があるため、過剰量のRNAを用いて検出操作を行った場合には、検出限界を超え、検出不能となる場合がある。このため、上記(4)〜(6)の方法でRNAを回収した場合には、標的RNAの解析を行う前に、予め回収されたRNAを定量した後、一定の濃度にRNA溶液を調整する必要がある。
しかしながら、このような濃度測定や濃度調整の工程を経て調製されたRNAを用いることにより、標的RNAの検出感度や精度が低下し易く、信頼性が損なわれ易いという問題がある。RNAはDNAと異なり分解され易いという特徴があり、精製や定量の操作が煩雑になるほど分解の影響を受け易いためである。RNAは、定量等の操作において特に分解され易く、このため、回収されるRNA量にバラツキが生じ易く、安定した検出結果が得られ難い。
一方、上記(3)の方法により、ある一定量のDNAのみを定量的に回収することができるため、定量操作等を要することなく、PCR等のフラグメント解析等を続けて行うことができる。しかしながら、RNAを回収する試料が血液等の比較的夾雑物が少ない生物試料である場合には、上記(3)の方法によっても所望の量の核酸を回収することが可能であるが、糞便由来のタンパク質等の多種多様な夾雑物を大量に含む糞便試料である場合には、生物試料にカオトロピック塩を含有するバッファーを添加しただけでは、夾雑物により核酸の抽出や回収の効率が安定しないという問題がある。また、糞便試料は、大量の細菌を含むため、血液試料等と比べてRNAが分解され易いという問題もある。このため、上記(3)の方法のように、カオトロピック塩を含有するバッファーによる試料中の細胞の溶解と、シリカ含有固形支持体による吸着によって回収されたRNA量は、非常にバラツキが大きくなり、RNAの発現量解析等のより高い定量性が要求される検出方法に用いられ得る程、厳密に一定量のRNAを回収することは困難であった。
本発明は、夾雑物が非常に多く、かつ、大量の核酸が存在する糞便試料中の標的RNAを解析する場合において、糞便試料からRNAを回収した後、得られたRNAの定量操作等を要することなく、標的RNAを解析し得る方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、糞便試料中から、必要最小限量のRNAを正確に回収することにより、回収されたRNAの定量操作を要することなく、標的RNAを解析し得ること、及び、有機溶媒を含む溶液で処理することにより糞便試料からタンパク質等の夾雑物を除去した後、核酸結合能力が糞便試料中の総RNA量よりもはるかに少量である固形支持体に吸着させてRNAを回収することにより、糞便試料中から、必要最小限量のRNAを正確に回収し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、糞便試料中に存在する標的RNAを解析する方法であって、(a)糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、(b)前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、(c)前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、(d)前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、(e)前記工程(d)の後、前記複合体を形成している標的RNAを検出又は定量する工程と、を有することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(e)が、(e1)前記工程(d)後、前記複合体から、溶出用バッファーを供給することにより、前記複合体を形成しているRNAの一部を溶出して遊離させる工程と、(e2)前記工程(e1)により得られた遊離RNAを用いて核酸増幅を行う工程と、を有することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(e1)が、前記溶出用バッファーの組成、pH、又は温度を調節し、前記固形支持体の核酸結合能力を調整することにより、前記複合体から、前記複合体を形成しているRNAの一部を溶出して遊離させる工程であること、を特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(e)が、(e1’)前記工程(d)後、前記複合体から、溶出用バッファーを供給することにより、前記複合体を形成しているRNAを溶出して遊離させる工程と、(e2’)前記工程(e1’)により得られた遊離RNAを用いて核酸増幅を行う工程と、を有することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(e)が、(e1”)前記工程(d)後、前記複合体を形成しているRNAを用いて核酸増幅を行う工程と、を有することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において、フェノール又はフェノール/クロロホルムを用いて核酸を抽出することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において、さらにカオトロピック塩を用いて核酸を抽出することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記固形支持体が、シリカ質オキシド被覆磁性粒子であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において、0.1〜1gの糞便試料から核酸を抽出することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において得られたRNA溶液が含有する核酸量が、200μg以上であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において得られたRNA溶液が含有する核酸量が、10μg以上であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(b)において供給された前記固形支持体の核酸結合能力が、2μg以下であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(b)において供給された前記固形支持体の核酸結合能力が、1μg以下であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記核酸増幅が、増幅された核酸量を経時的に計測する方法を用いて行われることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記核酸増幅が、逆転写反応により得られたcDNAを鋳型として、リアルタイムPCRを行うことを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、前記糞便試料が、凍結乾燥処理済み糞便試料であることを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
また、本発明は、糞便試料中に存在する標的RNAを保存する方法であって、(a)糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、(b)前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、(c)前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、(d)前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、(f)前記工程(d)の後、前記複合体を乾燥させた後保存する工程と、を有することを特徴とする標的RNAの保存方法を提供するものである。
また、本発明は、前記記載の標的RNAの保存方法を用いて保存した標的RNAを解析することを特徴とする標的RNAの解析方法を提供するものである。
本発明の標的RNAの解析方法により、夾雑物が非常に多く、かつ、大量の核酸が存在する糞便試料中の標的RNAを、高感度かつ高精度に検出又は定量することができる。糞便試料から、必要最小限量のRNAを正確に回収することができるため、回収されたRNAを、定量操作を要することなく、標的RNAの解析に供することができるためである。このため、本発明の標的RNAの解析方法を用いることにより、RNAの発現量解析のように高い定量性を要求される解析を行う場合にも、安定した信頼性の高い結果を得ることができる。また、濃度測定・濃度調整工程を省略し得るため、従来法と比べて、操作が簡便となり、経済的にも好ましい。
さらに、本発明の標的RNAの保存方法により、一定量の核酸を安定して保存することができるため、保存後解析前に濃度測定・濃度調整工程を省略することができ、再検査等における省力化が期待できる。つまり、本発明の標的RNAの保存方法により、核酸の抽出・定量・保存を、一連の操作によって高精度に行うことが可能となる。
本発明における標的RNAとは、検出又は定量等の解析対象であるRNAであり、PCR等の通常核酸の解析に用いられる手法によって解析可能な程度に明らかになっている塩基配列を有するRNAであれば、特に限定されるものではない。例えば、動物や微生物由来のmRNA等がある。
本発明の標的RNAの解析方法の対象となる糞便試料は、採取直後のものであってもよく、採取後一定期間保存されたものであってもよい。また、採取されたままのものであってもよく、前処理がなされたものであってもよい。該前処理は、糞便試料等の生物試料に対して通常行われている処理であれば、特に限定されるものではない。該前処理として、例えば、乾燥処理、凍結処理、凍結乾燥処理等がある。糞便試料中の標的RNAを損なうおそれが小さいため、凍結処理や凍結乾燥処理がなされた糞便試料であることが好ましい。また、取り扱いが簡便であるため、特に凍結乾燥処理がなされた糞便試料であることが好ましい。凍結処理や凍結乾燥処理における凍結方法は、生物試料を凍結し得る方法であれば、特に限定されることはないが、液体窒素を用いる方法であることが好ましい。速やかに凍結することができるため、糞便処理中の標的RNAに対する影響を抑えることができるためである。
本発明の標的RNAの解析方法の対象となる糞便試料は、動物由来の糞便試料であれば、特に限定されるものではないが、哺乳類由来の糞便試料であることが好ましく、ヒト由来の糞便試料であることがより好ましい。
本発明の標的RNAの解析方法は、糞便試料中に存在する標的RNAを解析する方法であって、(a)糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、(b)前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、(c)前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、(d)前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、(e)前記工程(d)の後、前記複合体を形成している標的RNAを検出又は定量する工程と、を有することを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る。ここで、核酸を抽出するとは、糞便試料に溶解用バッファーを添加して溶解させ、得られた糞便試料溶解液からタンパク質等の夾雑物を除去することを意味する。このように、RNAを回収する前に試料中から夾雑物を除去することにより、RNAの分解や、抽出及び回収効率の低下等の夾雑物による影響を顕著に低減することができるため、糞便試料中の標的RNAを、高感度かつ高精度に検出又は定量することができる。
糞便試料に添加する溶解用溶液は、糞便試料中の細胞や微生物等を溶解させ、核酸を溶出し得るRNase−freeの溶液であれば、特に限定されるものではなく、生物試料を溶解するために通常使用される溶液を用いることができる。該溶解用溶液として、例えば、DEPC(Dietyl Pyrocarbonate)処理等の公知のRNase分解処理を施した精製水、トリスバッファー、シュウ酸ナトリウムバッファー、リン酸バッファー、MOPS(morpholinopropansulfonic acid)バッファー、酢酸塩バッファー等がある。
該溶解用溶液は、細胞や微生物等の溶解を促進させるために、カオトロピック塩を含有させた溶液であることが好ましい。該カオトロピック塩として、例えば、塩酸グアニジン、グアニジンイソチオシアネート、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びトリクロロ酢酸ナトリウム等がある。カオトロピック塩の種類や濃度は、糞便試料の溶解促進効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、糞便試料の前処理方法や濃度等を考慮して、適宜決定することができる。
また、該溶解用溶液は、CHAPS(3-[3-コラミドプロピルジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート)や、Triton X−100等の界面活性剤や、プロテアーゼ等のRNA以外の物質に対する分解酵素等を含有していてもよい。界面活性剤や分解酵素等を含有させることにより、糞便試料の溶解が促進され、核酸の抽出効率を向上させることができるためである。該溶解用溶液に含有させる界面活性剤や分解酵素の種類や濃度等は、カオトロピック塩と同様に、糞便試料の前処理方法や濃度等を考慮して、適宜決定することができる。
糞便試料の溶解は、生体試料の溶解に通常行われる手法を用いることができる。例えば、溶解用溶液を添加して混合攪拌してもよく、市販のホモジナイザーを用いてホモジナイズしてもよく、超音波処理をしてもよい。
得られた糞便試料溶解液からタンパク質等の夾雑物を除去し、核酸を抽出する方法は、通常、生体成分からタンパク質等を変性除去する場合に用いられる任意の方法で行うことができる。例えば、糞便試料溶解液に有機溶媒を添加して混合することにより、糞便試料中に含有されていた脂質等の有機溶媒に可溶な成分は有機溶媒に移行し、変性したタンパク質は糞便試料溶解液に不溶となるため、糞便試料溶解液からタンパク質等を除去することができる。該有機溶媒として、例えば、フェノール、フェノール/クロロホルム等がある。糞便試料溶解液に添加するフェノールは、中性であってもよく、酸性であってもよい。DNAよりもRNAを選択的に水層の糞便試料溶解液に抽出することができるため、酸性のフェノール又はフェノール/クロロホルムであることが好ましい。
糞便試料に対して、溶解用溶液を添加して溶解させた後、有機溶媒を添加してもよく、溶解用溶液と有機溶媒を同時に添加してもよい。核酸の抽出効率がより高くなり、かつ安定した結果を得られるため、溶解用溶液を添加して溶解させ後に有機溶媒を添加することが好ましい。また、フェノールとカオトロピック塩を用いて、RNA溶液を得るために、例えば、TRIZOL (トリゾール、Invitrogen社製)、Isogene(アイソジェン、和光純薬社製)等の市販のキットを用いることもできる。
工程(a)において、核酸の抽出に用いる糞便試料の量は、特に限定されるものではないが、操作性が良好であり、かつ解析に必要十分な量である10μg以上のRNAを得ることができるため、0.1〜1gの糞便試料から核酸を抽出することが好ましい。200μg以上のRNAを含有するRNA溶液を得ることができるため、0.5〜1gの糞便試料から核酸を抽出することがより好ましい。
このようにして得られたRNA溶液は、RNAとDNAの両方を含む溶液であってもよく、RNAのみを含む溶液であってもよい。RNAとDNAの両方を含む場合に、得られたRNA溶液にDNaseを添加する等により、DNAを分解してもよい。
次に、工程(b)として、工程(a)により得られたRNA溶液に、該RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を供給する。ここで、「RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体」とは、該固形支持体の核酸結合能力が、予め判明しているある一定の量であり、かつ、該RNA溶液が含有する核酸量よりも少量であることを意味する。このように、固形支持体の核酸結合能力を、RNA溶液が含有する核酸量よりも少量とすることにより、固形支持体と核酸の結合を飽和させ、常にほぼ一定量の核酸を固形支持体と結合させることができる。
固形支持体の核酸結合能力(結合できる最大核酸量)は、RNA溶液中の核酸量よりも少量であれば、特に限定されるものではないが、固形支持体が結合できる最大核酸量に対して、RNA溶液中の核酸量が過剰量であることが好ましい。例えば、固形支持体の核酸結合能力はRNA溶液中の核酸量の2分の1以下であることが好ましく、5分の1以下であることがより好ましく、10分の1以下であることがさらに好ましく、100分の1以下であることが特に好ましい。具体的には、該固形支持体の核酸結合能力は、2μg以下であることが好ましく、1μg以下であることがより好ましい。通常、1〜2μg程度のRNAを回収することができれば、以降の標的RNAの解析には必要充分であること、及び、0.1〜1gの糞便試料から得られるRNA溶液中の核酸量よりも充分に微量であるため、糞便試料ごとにRNA溶液の核酸量に差がある場合であっても、各糞便試料から安定して一定量の核酸を回収することができる。
固形支持体は、核酸と可逆的に結合し得るものであれば、特に限定されるものではなく、核酸の回収や精製に通常使用されている任意の固形支持体を用いることができる。該固形支持体として、例えば、シリカゲル、シリカ質オキシド、ガラス、珪藻土等のシリカ含有粒子(ビーズ)や、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ニトロセルロース等の多孔質膜等がある。また、固形支持体は、これらの核酸と可逆的に結合し得る化合物をコーティングした粒子や膜であってもよい。いずれの素材の固形支持体を用いるかは、所望の核酸結合能力等を考慮して、適宜決定することができる。
固形支持体が粒子である場合には、磁性粒子であることが好ましい。後述する工程(d)において、磁石等を用いて磁場をかけることにより、遠心分離することなく、簡便に固形支持体からRNA溶液を分離除去し得るためである。磁性粒子は、例えば、核酸と可逆的に結合し得る粒子に、フェリコロイドや鉄粉等の磁性体を含有させることにより、形成することができる。特に、磁性体を含有させた粒子の表面に、核酸と可逆的に結合し得る化合物をコーティングした粒子であることが好ましい。このような磁性粒子として、例えば、磁性粒子にシリカ質オキシドをコーティングしたシリカ質オキシド被覆磁性粒子等がある。
固形支持体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、膜状であってもよく、繊維状であってもよいが、重量又は容量あたりの表面積を一定に規定されたものであることが好ましい。通常、核酸結合能力は固形支持体の表面積に依存しており、固形支持体の核酸結合能力が、固形支持体の重量又は容量あたりで一定値に規定されている場合には、RNA溶液への添加量を調整することにより、簡便に固形支持体の核酸結合能力を調整することができるためである。固形支持体が多孔質である場合には、完全に均一化されている多孔質であってもよく、ランダムに均一化されている多孔質であってもよい。なお、該固形支持体の核酸結合能力は、予め測定等により、明らかにしておく必要がある。例えば、固形支持体が粒子である場合には、粒子の一定重量あたりの核酸結合能力を予め測定しておくことが好ましく、多孔質膜である場合には、膜の一定面積あたりの核酸結合能力を予め測定しておくことが好ましい。その他、市販の核酸結合能力が判明している固形支持体を用いてもよい。
固形支持体が粒子である場合には、該粒子をRNA溶液に添加し、混合することにより、RNA溶液に固形支持体を供給することができる。固形支持体が膜である場合には、RNA溶液を該膜に透過させることや、該膜をRNA溶液に浸漬させることにより、RNA溶液に固形支持体を供給することができる。
RNA溶液に添加する固形支持体の核酸結合能力は、用いる固形支持体の種類によっては、塩濃度等のバッファーの組成、pH、温度等により変動させ得る。このため、RNA溶液に添加する固形支持体に、所望の量の核酸を結合させるために、RNA溶液のバッファーの組成等を調整することもできる。その他、上記(5)の方法のように、バッファー中の組成を調整して、DNAよりもRNAと選択的に結合するようにしてもよい。例えば、固形支持体としてシリカ質オキシド等のシリカ含有固形支持体を用いる場合には、RNA溶液のバッファーとして、30%以上のエタノールを含有する1〜5Mグアニジン塩溶液を用いることができる。
工程(c)において、工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる。RNA溶液中の核酸量に比べて、固形支持体の核酸結合能力が充分に低いため、糞便試料ごとにRNA溶液の核酸量に差がある場合であっても、固形支持体の核酸結合能力いっぱいまで安定して核酸と結合することができる。例えば、糞便試料Aから得られたRNA溶液中のRNA量が100μgであり、糞便試料Bから得られたRNA溶液中のRNA量が200μgである場合に、核酸結合能力が1μgである固形支持体をそれぞれ添加することにより、いずれのRNA溶液からも、ほぼ1μgの核酸と複合体を形成することができる。
さらに、工程(d)として、固形支持体と複合体を形成していない核酸を、該複合体から分離除去する。これにより、RNA溶液中の核酸から、固形支持体と複合体を形成している一定量の核酸のみを分離して回収することができる。具体的には、固形支持体からRNA溶液を分離除去することにより、該複合体から固形支持体と複合体を形成していない核酸を除去することができる。例えば、固形支持体が粒子である場合には、遠心分離等により固形支持体のみを沈殿させ、上清のRNA溶液を除去することができる。
工程(b)〜(d)は、RNA溶液に供給される固形支持体の核酸結合能力を調整する以外は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、RNAPrep トータルRNA抽出キット(Beckman Coulter社製)、RNeasy Mini(QIAGEN社製)、RNA Extraction Kit(Pharmacia Biotech社製)等の市販のキットを用いることができる。
その他、工程(d)の後、工程(e)の前に、適当な洗浄バッファーを用いて、固形支持体と核酸の複合体を洗浄してもよい。該複合体を洗浄することにより、固形支持体と複合体を形成していない核酸を充分に除去することができる。該洗浄バッファーは、固形支持体と核酸の結合を損なわないバッファーであれば、特に限定されるものではない。該洗浄バッファーとして、例えば、工程(c)において複合体を形成する時点のRNA溶液と同様の組成のバッファーを用いることができる。
その後、工程(e)として、前記複合体を形成している標的RNAを検出又は定量することにより、標的RNAを解析することができる。このように、RNA溶液に供給される固形支持体の核酸結合能力を一定とすることにより、最終的に糞便試料から回収される核酸量を常に一定にすることができるため、回収された核酸を、濃度測定・濃度調整工程を経ることなく、その後の解析操作に供することができる。また、常に一定量の核酸を回収して解析することができるため、従来行われていたフェノール/クロロホルム抽出法とエタノール沈殿法の組み合わせにより回収された核酸を用いた解析に比べて、試料や解析操作ごとのバラツキを顕著に低減することができる。
標的RNAの検出又は定量は、RNAを検出・定量する場合に通常行われている任意の方法で行うことができるが、該複合体を形成しているRNAを用いて核酸増幅を行う工程を有する方法であることが好ましい。1〜2μgという微量の核酸量であっても高精度かつ高感度に標的RNAを検出等し得るためである。このような方法として、例えば、RT−PCR法やNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法等がある。また、このような核酸増幅法は、等温反応条件によるものであってもよく、耐熱性DNAポリメラーゼ等を用いた非等温反応条件によるものであってもよい。
標的核酸の検出等には、PCRが汎用されているが、本発明の標的核酸はRNAであるため、RT−PCRを行うことが好ましい。具体的には、まず、逆転写反応を行うことにより、工程(d)により得られた複合体を形成している標的RNAに相補的なDNA(cDNA)を得た後、該cDNAを鋳型としてPCRを行う。逆転写酵素(Reverse Transcriptase)、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド、反応バッファー等のRT−PCRに用いられる試薬は、特に限定されるものではなく、通常RT−PCRを行う場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。例えば、逆転写酵素としては、RAV(Rous associated virus)やAMV(Avian myeloblastosis virus)等のレトロウィルス由来の逆転写酵素や、MMLV(Moloney murine leukemia virus)等のマウスのレトロウィルス由来の逆転写酵素等を用いることができ、DNAポリメラーゼとしては、Taqポリメラーゼ等を用いることができる。また、RT−PCRの反応条件等は、標的RNAを検出するためのプライマーや、用いる酵素の種類等を考慮して、適宜決定することができる(例えば、関谷剛男等編、「PCR法最前線」、1997年、共立出版、第187〜196ページ参照。)。
NASBA法を用いて標的RNAを検出等する場合には、逆転写反応を要することなく、直接標的RNAを検出することができる。NASBAは、常法に基づき行うことができる。また、RNAポリメラーゼ、ヌクレオチド、反応バッファー等のNASBAに用いられる試薬は、特に限定されるものではなく、通常NASBAを行う場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。
また、増幅された核酸量を経時的に測定するリアルタイムRT−RCRやリアルタイムNASBAを行うことにより、標的RNAを定量することが可能である。その他、通常のRT−RCRやNASBAを行う場合であっても、エンドポイントにおける核酸増幅の有無から、半定量的に標的RNAを検出し、その含有量を推定することが可能である。
増幅された核酸は、通常核酸の定量や検出に用いられるいずれの方法を用いて検出又は定量してもよい。例えば、TaqMan PCR法等のFRETプローブを用いた方法や、SYBR Green等のインターカレーターを用いた方法のように、標的核酸を蛍光物質で標識して検出する方法であってもよい。また、最終的に得られたPCR産物を、アガロースゲル等を用いた電気泳動法により分離した後に半定量的に検出する方法であってもよい。増幅された核酸を、継時的に高感度に検出することができるため、蛍光物質を用いて標識する方法であることが好ましい。
該複合体を形成しているRNAを用いて核酸増幅を行う場合に、核酸と固相支持体との複合体に、直接核酸増幅のためのバッファー等の試薬を供給して核酸増幅反応を行っても良く、該複合体に溶出用バッファーを供給することにより、該複合体を形成しているRNAを溶出して遊離させ、該遊離RNAを用いて核酸増幅反応を行っても良い。
例えば、複合体から核酸を溶出させることなく、複合体のまま速やかに核酸増幅反応に用いることにより、操作が簡便となることに加え、溶出操作における核酸の損失を防止し得る。なお、RT−PCRにおける逆転写反応やNASBA法では、鋳型となるRNAが粒子等の固相支持体に結合した状態であっても、支障なく反応を行うことができる。一方で、複合体から溶出した遊離RNAを用いることにより、核酸増幅反応に対する固体支持体の影響を抑えることができる。なお、溶出用バッファーは、固相支持体に結合させた核酸を、分解等により核酸を損なうことなく、固相支持体から溶出し得るバッファーであれば、特に限定されるものではなく、固相支持体に結合させた核酸を溶出する場合に、通常使用されているバッファーを用いることができる。例えば、固形支持体として、シリカ質オキシドを用いた場合には、溶出用バッファーとして、グアニジン塩溶液等を用いることができる。
固形支持体の核酸結合能力は、塩濃度等のバッファーの組成や、pH、温度等に依存して変動する(例えば、特表2002−528093号公報参照。)。このため、溶出用バッファーの組成等を調整することにより、固形支持体に結合している核酸の全量ではなく、一部のみを溶出することができる。すなわち、規定量の核酸を結合させた後に、全ての核酸を溶出させるのではなく、溶出液の組成を調整することによって、次に行う反応に対して必要最低限量の核酸のみを得るように溶出させることができる。固形支持体に結合している核酸のうち、一定の割合の核酸量を溶出する操作を段階的に複数回行うことにより、一定量の核酸ずつ分注していくこともできる。例えば、固形支持体として、シリカ質オキシドを用いた場合には、溶出用バッファーとして、一般的に、グアニジン塩溶液が用いられる。ここで、シリカ含有化合物は、溶出用バッファーとして一定量のグアニジン塩溶液を用いた場合には、図1に示すように、エタノール濃度に依存してDNAやRNAに対する結合能力が変動する。例えば、1.75Mグアニジンチオシアネートに添加するエタノールの濃度を変化させると、核酸がRNAの場合、15%〜30%の間はほぼリニアに結合量が増加する。つまり、この場合、エタノール濃度が1%上昇すると、結合量が5%上昇することになる。この性質を利用して、適当な組成の溶出用バッファーを用いる等により、段階的に溶出することによって、全量を一度に遊離した後に必要量ずつ分取する操作を要することなく、一定量のRNAを所望の割合で分注することができる。その他、溶出用バッファー中の塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等の塩濃度を調整することによっても、固形支持体の核酸結合能力を調整することができる。例えば、塩化ナトリウムの場合、通常は、100mM〜5Mの濃度範囲において核酸結合能力が向上し、それよりも低濃度において核酸結合能力が低下する。
例えば、固形支持体として2μgの核酸結合能力を有するシリカ質オキシド粒子を、RNA溶液のバッファーとして30%エタノール1.75Mグアニジンチオシアネート溶液を用いて、糞便試料中から核酸を固形支持体に結合させて複合体を形成した場合に、溶出用バッファーとして、まず20%エタノール1.75Mグアニジンチオシアネート溶液を用いることにより、固形支持体に結合しているRNA量の50%である1μgを溶出させ、得られた遊離RNA含有溶液を別の容器に分取した後、10%エタノールグアニジン塩溶液を用いることにより、固形支持体に結合している残りのRNA1μgをほぼ全量溶出させることができる。このように、溶出用バッファーの組成を適宜調節することにより、全量を一度に遊離した後に必要量ずつ分取する操作を要することなく、一定量のRNAを所望の割合で分注することができる。
また、本発明の標的RNAの保存方法は、本発明の標的RNAの解析方法と同様に工程(a)〜(d)を行った後、工程(f)として、前記複合体を乾燥させた後保存することを特徴とする。RNA回収後直ちに解析が行うことができない場合や、解析結果が非合理的であった場合等に再解析を行う場合のために、回収したRNAはその全部又は一部が保存されることが一般的に行われている。本発明の標的RNAの保存方法においては、前述した工程(a)〜(d)により、RNA溶液に供給される固形支持体の核酸結合能力を一定とすることにより、糞便試料中から、必要最小限量の核酸を、該固形支持体との複合体として正確に回収し得る。このため、このようにして得られた複合体を乾燥させた後保存することにより、核酸回収後速やかに定量化された保存核酸検体を得ることができる。また、乾燥状態で保存するため、酵素による分解等により保存中に標的RNAを損失するおそれを顕著に低減することができる。つまり、予め規定されている一定量の核酸を安定して保存し得るため、本発明の標的RNAの保存方法により保存された標的RNAは、保存後解析前に、濃度測定・濃度調整工程を経ることなく、その後の解析操作に供することができる。
該複合体の乾燥方法は、複合体中の標的RNAを損なうことなく乾燥させることができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、該複合体を、エタノール等の揮発性が高くかつRNAの溶解性が低い溶媒で洗浄した後、該溶媒を除去することにより、該複合体を乾燥させることができる。その他、凍結乾燥法により乾燥させてもよい。特に、該複合体を50%以上のエタノールで洗浄することにより乾燥させることが好ましく、100%エタノールで洗浄することにより乾燥させることがより好ましい。エタノール濃度が高いほど、該複合体を乾燥しやすくなるためである。乾燥した複合体は、常温で保存してもよく、4℃程度において冷蔵保存してもよく、冷凍保存してもよい。
本発明の標的RNAの保存方法により保存された標的RNAと固形支持体との複合体は、一定量の溶媒に溶出することにより、解析に供することができる。該溶媒は、RNase−freeの溶液であれば特に限定されるものではなく、通常RNAの溶出に用いられているものを用いることができる。該溶媒として、例えば、RNase分解処理済みの純水、TEバッファー等がある。また、標的RNAの解析は、前述の工程(e)において記載した手法と同様に行うことができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
健常人の便にcox−2を発現している培養細胞であるMKN45細胞を混合した糞便試料から核酸を回収し、cox−2のmRNAを検出した。がん患者の糞便からcox−2などの遺伝子のmRNAの発現量を見ることによって大腸がんの診断が行われている。なお、MKN45細胞は常法により培養した。
まず、健常人由来の糞便試料を、15mLチューブに0.8gずつ分取し、MKN45細胞をそれぞれ0、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10cellsずつ混合したものを各3セットずつ調製した。また、健常人由来の糞便試料を、15mLチューブに1.6gずつ分取し、MKN45細胞をそれぞれ0、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10cellsずつ混合したものも各3本ずつ調製した。これらの糞便試料を、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。
その後、各試料を、4mLのグアニジン塩とフェノールを含む抽出液を用いてホモジナイザーでホモジナイズし、クロロホルムで全RNAを抽出し、2mLのRNA溶液を得た。
各3セットのうち1セットのRNA量を測定した。測定結果を表1に示す。この結果、RNA溶液に含まれる核酸量は、いずれも200μg以上であった。
Figure 2009065900
残りの2セット計24本のRNA溶液に対し、以下の操作を続けた。
まず、RNAPrep kit(Agencourt社製)のシリカコート磁性粒子を含むLysis Solutionをvortexで攪拌し、そこから5mLとり、1500rpmで10分間遠心することにより、シリカコート磁性粒子を含まない上清を得た。該上清1440μLに、vortexで攪拌した磁性粒子を含む160μLのLysis Solutionを混合し、通常の1/10の濃度になる磁性粒子を含む固形支持体溶液(核酸結合能力が約3μg)を作成した。
得られた固形支持体溶液を用いて、RNAPrep kitに添付のプロトコールに従い、RNA溶液から核酸を回収した。
具体的には、100μLの各RNA溶液(出発糞便量の1/20量)に、1.5mLの該固形支持体溶液を供給し、攪拌して3分間インキュベートした後、さらに攪拌した。なお、2mLの各RNA溶液のうち、100μL中に含有されているRNA量は、該固形支持体溶液の核酸結合能力に対して過剰量であると予想される。攪拌後、全量を2.0mLチューブに移し、磁性スタンドであるSPIRIstand(Beckman Coulter社製)に立て、5分間静置した。
チューブ中にそのまま、磁性粒子である固形支持体を残し、上清のみを吸引除去した。1.5mLの70%エタノールを固形支持体に添加し、1分間のインキュベート後、エタノールを吸引除去した。さらに、DNaseI溶液を300μL添加し、15分間インキュベートした。1.4mLのBind solutionを添加し、撹拌後、SPIRIstandに立て、10分間静置し後、溶液を完全に吸引除去した。Wash solutionを1.5mL添加し、撹拌後、SPIRIstand上で5分間静置し、上清を吸引除去した。1mLの70%エタノールを添加し、1分間インキュベートし、エタノールを吸引除去する工程を4度繰り返し、最後に、室温で風乾させた。30μLのRNase−free waterを添加し、撹拌後、5分間室温でインキュベートすることにより、固形支持体に結合させたRNAを溶出した。その後再びチューブをSIRISTAND上に置き、5分間静置し、遊離RNAが含有されている上清を得た。
このようにして得られた各遊離RNAのうち、1セットのRNA量をそれぞれ測定した。測定結果を表2に示す。この結果、いずれも3μg程度のRNAが回収されていた。つまり、これらの結果から、RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を用いて核酸を回収することにより、一定量の核酸を簡便に回収し得ることが明らかである。また、得られた3μgのRNAのうち1/3量である10μL以下のcox−2の解析に用いた。つまり、再現性を確認するために必要充分な1〜2回の反応分のみ残り、必要以上に核酸溶液のストックができなかった。
Figure 2009065900
残る1セット12本を、RT−PCRにかけて、cox−2のmRNAを検出した。
まず、各チューブに、リバースクリプトII(登録商標、和光純薬社製)を用いて、反応液量を20μLとして逆転写反応によりcDNAを合成した。このようにして得られたcDNAの一部を鋳型にcox−2のTaqMan assay(アプライドバイオシステムズ社製)を行い、cox−2を増幅して検出した。具体的には、30サイクルでの増幅シグナルの立ち上がりの有無を判定した。判定結果を表3に示す。なお、表3中、「cox−2」は、cox−2の検出の有無を示したものであり、各30サイクル時点において、増幅シグナルの立ち上がりが観測されたものを陽性、観測されなかったものを陰性とした。
Figure 2009065900
この結果、出発糞便量が0.8gと1.6gのいずれの場合であっても、糞便試料に最初に添加した細胞数が0.8gあたり1x10以上であった場合に、陽性となり、cox−2を検出することができた。この結果から、糞便試料中の標的RNAを、簡便かつ定量的に解析することが可能であることが明らかである。
[比較例1]
上記(3)の方法により、MKN45細胞を混合した糞便試料から核酸を回収し、cox−2のmRNAを検出した。すなわち、糞便中のRNAの抽出を、有機溶媒を使わず直接、Agencourt RNAPrep kitで抽出した。なお、実施例1との比較が行えるように、出発糞便量を、0.8gの1/20量である40mgとし、Agencourt RNAPrep kitのプロトコールを改変して行った。
実施例1と同様に調製することにより、通常の1/10の濃度になる磁性粒子を含む固形支持体溶液(核酸結合能力が約3μg)を作成した。
100μLのRNA溶液に代えて40mgのMKN45細胞含有糞便試料を用いることにより、実施例1と同様にしてRNAを回収した。回収されたRNA量の測定結果を表4に記載する。上記(3)の方法のように、タンパク質等を除去せずにRNAを回収する場合には、実施例1と同様の固形支持体溶液を用いた場合であっても、糞便試料からRNAを定量的に回収することは非常に困難であることが明らかである。
[実施例2]
健常人由来の糞便試料を、3本の15mLチューブに0.5gずつ分取した後、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。
その後、各試料を、3mLの3.5Mグアニジウムチオシアネートと40%フェノールを含む抽出液を用いてホモジナイザーでホモジナイズし、クロロホルムで全RNAを抽出し、3本の100μLのRNA溶液を得た。
得られた100μLのRNA溶液に、450μLの70%エタノールを添加した後、さらにそれぞれpHの異なる350μLの溶解用バッファー(4M イソチオシアン酸グアニジニウム、25mMクエン酸ナトリウム)を添加して混合した。該溶解用バッファーは、塩酸又は水酸化ナトリウム溶液によって、pH3、7、11にそれぞれ調整した。
pHを調整した各RNA溶液に、固形支持体である25mgのシリカ粒子(シグマ社製)を添加し、10分間室温にてVortexで攪拌した後、12,000×g、5秒間遠心分離することによりシリカ粒子を沈殿させ、上清を除去した。続いて洗浄バッファーRPE(キアゲン社製)を用いてシリカ粒子を2回洗浄した。その後、沈殿を100μLのTE バッファーに再度懸濁し、Vortexで攪拌後、12,000×g、5秒間遠心分離することによりシリカ粒子を沈殿させ、遊離RNAが含有されている上清を回収した。
このようにして得られた上清中のRNA量をそれぞれ測定した。測定結果を表4に示す。この結果、pHを変更することによって核酸結合量を調整することができることが確認された。
Figure 2009065900
[実施例3]
溶出用バッファーのエタノール濃度を調整することにより、溶出する遊離RNA量を調整した。具体的には、図1に基づき、シリカ粒子に結合している全RNAのうち25%を溶出させ得るエタノール濃度を有するバッファーAと、シリカ粒子に結合している全RNAのうち50%を溶出させ得るエタノール濃度を有するバッファーBを調整し、これらのバッファーを用いてRNAの溶出を試みた。
まず、健常人由来の糞便試料を、6本の15mLチューブに0.5gずつ分取した後、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。
その後、各試料を、3mLの3.5Mグアニジウムチオシアネートと40%フェノールを含む抽出液を用いてホモジナイザーでホモジナイズし、クロロホルムで全RNAを抽出し、6本の100μLのRNA溶液を得た。
得られた100μLのRNA溶液に、固形支持体である25mgのシリカ粒子(シグマ社製)を添加し、10分間室温にてVortexで攪拌した後、12,000×g、5秒間遠心分離することによりシリカ粒子を沈殿させ、上清を除去した。その後、沈殿を100μLのバッファーA(1.75M グアニジウムチオシアネート、12.5mM クエン酸ナトリウム、0.5% β-メルカプトエタノール、23% エタノール、pH7.5)に再度懸濁し、Vortexで十分に攪拌後、12,000×g、5秒間遠心分離し、上清Aを回収した。さらに、その後、沈殿を100μLのバッファーB(1.75M グアニジウムチオシアネート、12.5mM クエン酸ナトリウム、0.5% β-メルカプトエタノール、18% エタノール、pH7.5)に再度懸濁し、Vortexで十分に攪拌後、12,000×g、5秒間遠心分離し、上清Bを回収した。
このようにして得られた各試料における上清A及び上清Bの吸光度を測定し、含有されているRNA量を求めた。測定結果を表5に示す。この結果、上清A中のRNA量は、1.01〜1.12μgであり、各6試料において、ほぼ一定量であった。一方、上清B中のRNA量は、1.01〜1.07μgであり、上清Aと同様に各6試料において、ほぼ一定量であった。すなわち、これらの結果から、溶出用バッファー中のエタノール濃度を適宜調整することにより、一定量ずつ分注し得ることが明らかである。
Figure 2009065900
[実施例4]
実施例1と同様に、健常人由来の糞便試料を、15mLチューブに0.8gずつ分取し、MKN45細胞をそれぞれ0又は1×10cellsずつ混合したものを各2セットずつ調製した後、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。その後、各試料を、4mLのグアニジン塩とフェノールを含む抽出液を用いてホモジナイザーでホモジナイズし、クロロホルムで全RNAを抽出し、2mLのRNA溶液を得た。
得られた2種類4本のRNA溶液のうち、MKN45細胞の添加量が同じ糞便試料由来のRNA溶液同士を、一度混合して均一の試料とし、再度2mLずつ2本に分注した。この結果、MKN45細胞を添加しなかった糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、MKN45細胞を1×10cells添加した糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、からなるセットが2セット(セットAとB)得られた。
これら2セットの各RNA溶液に対して、実施例1と同様に、該固形支持体溶液(核酸結合能力が約3μg)に核酸を結合させた後、DNaseI溶液を添加してDNA分解処理をし、核酸を結合させた固形支持体をWash solutionで洗浄後、70%エタノールを添加して吸引除去する工程を4度繰り返した。
その後、セットAに対してのみ、実施例1と同様に、該固形支持体を室温で風乾させた後、30μLのRNase−free waterを添加して、該固形支持体からRNAを遊離させ、遊離RNAが含有されている上清を得た。該上清は、その後、−80℃で保存した。
一方、セットBに対しては、核酸を結合させた固形支持体をさらに1mLのアセトンで洗浄し、56℃にて乾燥させた後、4℃で2週間保存した。2週間経過後、保存後の固形支持体に、実施例1と同様に、30μLのRNase−free waterを添加して、該固形支持体からRNAを遊離させ、遊離RNAが含有されている上清を得た。
全セットの上清が揃った時点で、各上清中のRNA量をそれぞれ測定した。測定結果を表6に示す。この結果、セットAとセットBで、ほぼ同量のRNAが得られていること確認された。すなわち、これらの結果から、本発明の標的RNAの保存方法により、一定量のRNAを安定して保存し得ることが明らかである。
Figure 2009065900
[実施例5]
実施例4と同様にして、MKN45細胞を添加しなかった糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、MKN45細胞を1×10cells添加した糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、からなるセットを2セット(セットAとB)得た。
これら2セットの各RNA溶液に対して、実施例1と同様に、該固形支持体溶液(核酸結合能力が約3μg)に核酸を結合させた後、DNaseI溶液を添加してDNA分解処理をし、核酸を結合させた固形支持体をWash solutionで洗浄後、70%エタノールを添加して吸引除去する工程を4度繰り返した後、さらに1mLのアセトンで洗浄し、56℃にて乾燥させた。
その後、セットAに対してのみ、それぞれの乾燥済み固形支持体を、試料ごとに200μLのPCRチューブに入れ、最終容量が100μLとなるようにSuperScript III Platinum One−Step qRT−PCRキット(Invitrogen社製)の全試薬を適宜添加した。その後、Vortexを行い、10分間静置することにより固形支持体からRNAを遊離させ、標的RNAを溶出した。続いて遠心分離を行い、固形支持体を沈殿させ、遊離RNAを含有する上清を得た。該上清50μLを新しい200μLのPCRチューブに移し、SuperScript III Platinum One−Step qRT−PCRキットの手順に従って温度サイクルによる反応を行い、cox−2を増幅して検出した。具体的には、実施例1と同様に、30サイクルでの増幅シグナルの立ち上がりの有無を判定した。
一方、セットBは、乾燥後1週間保存した後、セットAと同様にしてcox−2を増幅して検出した。
表7は、各セットの判定結果を示したものである。なお、表7中、「cox−2」は、cox−2の検出の有無を示したものであり、各30サイクル時点において、増幅シグナルの立ち上がりが観測されたものを陽性、観測されなかったものを陰性とした。この結果、乾燥後速やかに検出に用いたセットAと乾燥後1週間保存した後に検出に用いたセットBのいずれにおいても、最初にMKN45細胞を添加した糞便試料由来の試料では陽性となり、添加しなかった糞便試料由来の試料では陰性となった。これらの結果から、本発明の標的RNAの保存方法により保存されたRNAを用いて、標的RNAを定量的に解析し得ることが明らかである。
Figure 2009065900
[実施例6]
実施例1と同様に、健常人由来の糞便試料を、15mLチューブに0.8gずつ分取し、MKN45細胞をそれぞれ0、1×10、0.5×10、1×10cellsずつ混合したものを各5セットずつ調製した後、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。その後、各試料を、4mLのグアニジン塩とフェノールを含む抽出液を用いてホモジナイザーでホモジナイズし、クロロホルムで全RNAを抽出し、2mLのRNA溶液を得た。
得られた4種類20本のRNA溶液のうち、MKN45細胞の添加量が同じ糞便試料由来のRNA溶液同士を、一度混合して均一の試料とし、再度2mLずつ5本に分注した。この結果、MKN45細胞を添加しなかった糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、1×10cells添加した糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、0.5×10cells添加した糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、1×10cells添加した糞便試料由来の2mLのRNA溶液と、からなるセットが5セット(セットA〜E)得られた。
これら5セットの各RNA溶液に対して、実施例1と同様に、該固形支持体溶液(核酸結合能力が約3μg)に核酸を結合させた後、DNaseI溶液を添加してDNA分解処理をし、核酸を結合させた固形支持体をWash solutionで洗浄後、70%エタノールを添加して吸引除去する工程を4度繰り返した後、さらに1mLのアセトンで洗浄し、56℃にて乾燥させ、乾燥済み固形支持体を得た。その後、セットC、D、Eは4℃で1週間保存した。
セットAとBの全8つの乾燥済み固形支持体のそれぞれを、試料ごとに200μLのPCRチューブに入れ、最終容量が100μLとなるようにSuperScript III Platinum One−Step qRT−PCRキット(Invitrogen社製)の全試薬を適宜添加した。その後、Vortexを行い、10分間静置した後、固形支持体からRNAを遊離させ、標的RNAを溶出した。続いて遠心分離を行い、固形支持体を沈殿させ、遊離RNAを含有する上清を得た。該上清50μLを新しい200μLのPCRチューブに移し、SuperScript III Platinum One−Step qRT−PCRキットの手順に従って温度サイクルによる反応を行い、cox−2を増幅して検出した。具体的には、実施例1と同様に、30サイクルでの増幅シグナルの立ち上がりの有無を判定した。
その結果、セットAとBのいずれにおいても、MKN45細胞を0又は1×10cellsずつ混合した糞便試料由来の乾燥済み固形支持体を用いた場合にはcox−2陰性であり、1×10cells添加した糞便試料由来の乾燥済み固形支持体を用いた場合にはcox−2陽性であった。これに対して、MKN45細胞を0.5×10cells添加した糞便試料由来の乾燥済み固形支持体を用いた場合には、セットAにおいて陰性であり、セットBにおいて陽性であり、判定がバラついた。
0.5×10cells添加した糞便試料由来のサンプルにおける判定のバラつきが、操作の過程で何らかのエラーが生じたせいであるのか、それともcox−2の濃度が検出限界値付近であるために、必然的にバラついた結果であるのかを判断するために、保存しておいたセットC、D、Eのうち、0.5×10cells添加した糞便試料由来の乾燥済み固形支持体についてのみ、再度検出を行った。
まず、4℃で1週間保存したセットC、D、Eの0.5×10cells添加した糞便試料由来の乾燥済み固形支持体のそれぞれを、試料ごとに200μLのPCRチューブに入れ、セットAとBの試料と同様にSuperScript III Platinum One−Step qRT−PCRキットを用いて標的RNAを溶出した後、cox−2を増幅して検出した。
その結果、セットCとEにおいて陽性であったが、セットDにおいて陰性であり、やはり判定がバラついた。3つの試料のうち2本が陽性であったことから、該試料は陽性であると判断した。
もともとセットA〜Eの試料はすべて均一の試料である。にもかかわらず、2度とも結果がバラついていることから、判定のバラツキは、操作上の問題ではなく、cox−2の濃度が検出限界値付近であるために生じたものであり、判定結果は適切であると考えられた。
このように、最初の判定結果に疑義が生じた場合であっても、本発明の標的RNAの保存方法を用いることにより、一定量の核酸を安定して保存することができるため、保存後解析前に濃度測定・濃度調整工程を要することなく、速やかに再検査を行うことができる。なお、このように定量的に核酸を回収したにもかかわらず、結果がバラついた場合に、3つの試料を同時に検査することによって誤判定を防ぐことができる。このため、3つ以上の試料を用いて検査を行うことが好ましいが、2つの試料であってもよい。2つの場合には、2つの結果が一致した場合にのみその結果を採用し、結果が異なった場合には再検査を行うことが好ましい。
本発明の標的RNAの解析方法を用いることにより、回収した核酸の濃度測定・濃度調整工程無しに、解析に必要最低限量の核酸をより高精度に安定して回収することができるため、がん検出等のための糞便中のRNAの定量的な解析を、簡便な操作と低コストで行うことが可能となり、臨床検査の分野において利用が可能である。
1.75Mグアニジンチオシアネート中の各エタノール濃度における、シリカ含有化合物のDNA及びRNAに対する結合能力を示した図である。

Claims (18)

  1. 糞便試料中に存在する標的RNAを解析する方法であって、
    (a) 糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、
    (b) 前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、
    (c) 前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、
    (d) 前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、
    (e) 前記工程(d)の後、前記複合体を形成している標的RNAを検出又は定量する工程と、
    を有することを特徴とする標的RNAの解析方法。
  2. 前記工程(e)が、
    (e1) 前記工程(d)後、前記複合体から、溶出用バッファーを供給することにより、前記複合体を形成しているRNAの一部を溶出して遊離させる工程と、
    (e2) 前記工程(e1)により得られた遊離RNAを用いて核酸増幅を行う工程と、
    を有することを特徴とする請求項1記載の標的RNAの解析方法。
  3. 前記工程(e1)が、前記溶出用バッファーの組成、pH、又は温度を調節し、前記固形支持体の核酸結合能力を調整することにより、前記複合体から、前記複合体を形成しているRNAの一部を溶出して遊離させる工程であること、を特徴とする請求項2記載の標的RNAの解析方法。
  4. 前記工程(e)が、
    (e1’) 前記工程(d)後、前記複合体から、溶出用バッファーを供給することにより、前記複合体を形成しているRNAを溶出して遊離させる工程と、
    (e2’) 前記工程(e1’)により得られた遊離RNAを用いて核酸増幅を行う工程と、
    を有することを特徴とする請求項1記載の標的RNAの解析方法。
  5. 前記工程(e)が、
    (e1”) 前記工程(d)後、前記複合体を形成しているRNAを用いて核酸増幅を行う工程と、
    を有することを特徴とする請求項1記載の標的RNAの解析方法。
  6. 前記工程(a)において、フェノール又はフェノール/クロロホルムを用いて核酸を抽出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  7. 前記工程(a)において、さらにカオトロピック塩を用いて核酸を抽出することを特徴とする請求項6記載の標的RNAの解析方法。
  8. 前記固形支持体が、シリカ質オキシド被覆磁性粒子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  9. 前記工程(a)において、0.1〜1gの糞便試料から核酸を抽出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  10. 前記工程(a)において得られたRNA溶液が含有する核酸量が、200μg以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  11. 前記工程(a)において得られたRNA溶液が含有する核酸量が、10μg以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  12. 前記工程(b)において供給された前記固形支持体の核酸結合能力が、2μg以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  13. 前記工程(b)において供給された前記固形支持体の核酸結合能力が、1μg以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  14. 前記核酸増幅が、増幅された核酸量を経時的に計測する方法を用いて行われることを特徴とする請求項2〜11のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  15. 前記核酸増幅が、逆転写反応により得られたcDNAを鋳型として、リアルタイムPCRを行うことを特徴とする請求項14記載の標的RNAの解析方法。
  16. 前記糞便試料が、凍結乾燥処理済み糞便試料であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の標的RNAの解析方法。
  17. 糞便試料中に存在する標的RNAを保存する方法であって、
    (a) 糞便試料から核酸を抽出し、RNA溶液を得る工程と、
    (b) 前記RNA溶液が含有する核酸量よりも少量である一定量の核酸と可逆的に結合可能な固形支持体を、前記RNA溶液に供給する工程と、
    (c) 前記工程(b)において供給された固形支持体と、前記RNA溶液が含有するRNAの一部とで複合体を形成させる工程と、
    (d) 前記複合体を形成していない核酸を、前記複合体から分離除去する工程と、
    (f) 前記工程(d)の後、前記複合体を乾燥させた後保存する工程と、
    を有することを特徴とする標的RNAの保存方法。
  18. 請求項17記載の標的RNAの保存方法を用いて保存した標的RNAを解析することを特徴とする標的RNAの解析方法。
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