本発明は、平行な複数の金属配線を基本構造として、同一または類似の複数の単位回路をその金属配線の方向に1列に配列して互いに接続することによって構成された、小型の複共振アンテナに関するもので、特に、ダイポールアンテナや逆L型アンテナに関する。
非特許文献6に示すように、左手系媒質が実現されて以来、その研究が盛んに行われており、アンテナに応用されている。ここで、左手系媒質とは、誘電率と透磁率がともに負となる材料のことで、この左手系媒質中を電磁波が伝搬すると、群速度と位相速度が逆向きとなる。また、左手系媒質中では、電磁波の周波数が低くなるほどその波長が短くなるという特性がある。
左手系で動作するアンテナとして、非特許文献1には漏れ波アンテナ、非特許文献2〜4にはグランド上に形成された小型のアンテナ、特許文献1にはダイポールアンテナが開示されている。
図21は、特許文献1に示された左手系で動作する直線状のダイポールアンテナA10である。平行な2本の金属配線p10、q10を基本構造とし、長さaの単位回路U10をx軸方向(金属配線p10、q10の方向)に6つ接続した構成である。単位回路U10は、金属配線p10の一部の線上に2個の直列に接続されたキャパシタCSE10と、金属配線p10と金属配線q10との間をインダクタLSH10を介して連絡する連絡部とで構成されている。2点FL、FRからなる給電点Fは、金属配線p10の中央に位置している。
このダイポールアンテナA10は、キャパシタCSE10とインダクタLSH10が周期的に配列された構成となるため、左手系で動作させることが可能である。左手系では、上記のように周波数が低くなるほどその波長を短くできる。そのため、キャパシタCSE10のキャパシタンス値とインダクタLSH10のインダクタンス値を制御することにより、ダイポールアンテナA10のアンテナ長L10を動作波長の1/10程度まで小さくすることができる。
また、非特許文献5には、右手系と左手系で動作させた、2共振アンテナが示されている。
特開2006−295873
L. Liu, C. Caloz, and T. Itoh, "Dominant mode leaky-wave antena with backfire-to-endfire scanning capability", Electron. Lett., vol.38, no.23, pp.1414-1416, Nov.2002
M. Schuessler, J. Freese, and R. Jakoby, "Design of compact planar antennas using LH-transmission lines", 2004 IEEE MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., vol.1, pp.209-212, Fort Worth, TX, jun. 2004
C. J. Lee, K. M. H. Leong, and T. Itoh, "Design of resonant small antenna using composite right/left-handed transmission line", IEEE Int. Antennas Propagat. Symp. Dig., vol.2B, pp.218-221, Washington DC, Jul.2005
F. Qureshi, M. A. Antoniades, and G. V. Eleftheriades, "A compact and low-profile metamaterial ring antenna with vertical polarization", IEEE Antennas and Wireless Propagat. Lett., vol.4, pp.333-336, 2005
S. Otto, A. Rennings, C. Caloz, P. Waldow, and T. Itoh, "Composite Right/Left-Handedλ-Resonator Ring Antenna for Dual-Frequency Operation", IEEE Int. Antennas Propagat. Symp. Dig., vol.1A, pp.684-687, Washington DC, Jul.2005
R. A. Shelby, D. R. Smith, and S. Schultz,"Experimental verification of a negative index of refraction," Science, vol.292, pp.77-79, Apr. 2001.
車載アプリケーションであるタイヤ空気圧警報システムやスマートエントリシステムでは、欧州は400MHz帯、北米や日本は300MHz帯が割り当てられている。これらに用いるアンテナは、その搭載場所が限られているので、小型で300MHz帯と400MHz帯の2周波数を共用できるアンテナが望まれる。
しかし、通常の右手系アンテナでは、たとえば、300MHzで第1の共振が生じた場合、その約3倍の900MHz付近で第2の共振が生じる。ダイポール長は、第1の共振においては動作波長の1/2倍、第2の共振においては動作波長の3/2倍に相当する。このように、右手系で動作するアンテナでは第1の共振と第2の共振との周波数間隔が広く、上記のような用途に用いることができない。
一方、左手系では、周波数が低くなるとともに波長が短くなり、かつ、その周波数間隔を短くすることができる。すなわち、第1の共振を400MHz付近(1/2波長)、第2の共振を300MHz付近(3/2波長)で生じさせることができる。しかしながら、アンテナ長が動作波長に比べて小さいときには、従来のダイポールアンテナA10では、第2の共振で電流が逆方向を向いて打ち消しあうため、アンテナとして動作しない。
また、非特許文献5のように左手系と右手系で動作させることにより2共振アンテナを実現する方法では、共振周波数の間隔を狭くすることができない。また、給電点におけるインピーダンス整合を図り、放射効率を向上することが必要となっている。
そこで本発明の目的は、小型で狭い周波数間隔で共振する複共振アンテナを実現することである。また、給電点でのインピーダンス整合を図ることが容易な構造を提供することである。
第1の発明は、平行な複数の金属配線を基本構造として、同一または類似の複数の単位回路を金属配線の方向に1列に配列して互いに接続することによって構成されたダイポールアンテナであって、単位回路は、金属配線同士を少なくとも1つの第1のインダクタを介して互いに接続する連絡部と、金属配線のうちの少なくともいずれか1本の金属配線上に挿入された少なくとも1つの第1のキャパシタと、を有し、各前記金属配線は、基部と、この基部に対して90度の方向に屈曲された延長部とを有することを特徴とするダイポールアンテナである。
基部は、放射源、受信源となる部分である。すなわち、送信アンテナであれば、送信電波の偏波方向、受信アンテナであれば、受信電波を最も効率良く受信できる偏波方向に形成された部分である。延長部は、この基部に対して、90度方向に屈曲して、基部に連続して形成されている部分である。
類似の単位回路には、線対称、点対称、回転対称等の対称変換によって得られる互いに対称的な回路を含む。また、給電部を含む単位回路や端に配置される単位回路では、他の単位回路に対して、入出力の境界条件が異なってくる場合がある。その境界条件の特異性を調整のために若干の変形や素子の容量調整などを施した回路もまた、類似の単位回路に含むものとする。基部と延長部とが成す角は、厳密に90度である必要はなく、励振に関して等価的に平行と見做せるものであれば良い。
第2の発明は、第1の発明において、延長部は、基部を構成する複数の金属配線の中央部を通り、それぞれに垂直な対称軸に対して線対称な一対で形成されていることを特徴とする。この場合には、基部の両端において、90度の方向に、相互に平行な延長部が形成される。この平行は、厳密に平行なものだけでなく、励振に関して等価的に平行と見做せるものであれば良い。
また、第3の発明は、第2の発明において、基部と延長部との連続体は、コの字型の形状を成すことを特徴とする。
また、第4の発明は、第2又は第3の発明において、対称軸は、基部を構成する複数の金属配線により構成される配設面に垂直であることを特徴とする。すなわち、複数の金属配線が構成する平面が、90度に折り曲げられた、基部と延長部とが構成されたものである。
また、第5の発明は、第2又は第3の発明において、対称軸は、基部を構成する複数の金属配線により構成される配設面内に位置することを特徴とする。この場合には、複数の金属配線が、それらの複数の金属配線が構成する平面上において、各金属配線が90度に屈曲されて、基部と延長部とが形成される。
これらの発明においても、本発明のダイポールアンテナが厳密に線対称な形状である必要はない。また、複数の金属配線は厳密に平行である必要もない。
第6の発明は、第1乃至第5の何れかの発明において、基部は、グランド導体の上に立設され、延長部は、該グランド導体に平行に配設されていることを特徴とする。グランド導体上に逆L型アンテナを立設したものとなる。このアンテナでは、グランド導体を鏡面として、グランド導体上に立設された基部と延長部と、それらの鏡像とにより、グランド導体に垂直な上下一対の基部と、グランド導体に平行な一対の平行な延長部とが形成されている。
第7の発明は、第1乃至第5の何れかの発明において、一つ又は複数の前記単位回路から成り、基部に平行に配設され、延長部に接続される接続線路を有することを特徴とする。すなわち、接続線路は、基部や延長部と同様な単位回路で構成されいる。そして、接続線路は、基部に平行に、基部に対して、延長部の端部がある側に設けられている。この接続線路と基部との間隔は、単位回路の長さ、又は、その1/2が望ましい。
また、第8の発明は、第7の発明において、基部及び接続線路は、グランド導体の上に立設され、延長部は、該グランド導体に平行に配設されていることを特徴とする。この発明は、接続線路を有するアンテナで、すなわち、グランド導体上に逆F型アンテナを立設したものとなる。このアンテナでは、グランド導体を鏡面として、グランド導体上に立設された基部、接続線路及び延長部と、それらの鏡像とにより、グランド導体に垂直な上下一対の基部及び接続線路、グランド導体に平行な一対の平行な延長部とが形成されている。
また、第9の発明は、第1乃至第8の発明において、給電点は、基部に設けられていることを特徴とする。また、第10の発明は、第7又は第8の発明において、給電点は、接続線路に設けられていることを特徴とする。
また、第11の発明は、第1乃至第10の何れかの発明において、基部と延長部との長さとの比が、1:n(nは正の整数)であることを特徴とする。
第12の発明は、第1乃至第11の何れかの発明において、各単位回路は同一回路からなり、各単位回路はそれぞれいずれも、金属配線の方向に周期的に配列されて互いに接続されていることを特徴とするダイポールアンテナである。
第13の発明は、第1乃至第12の何れかの発明において、各金属配線の両端が、それぞれ開放端となっていることを特徴とするダイポールアンテナである。
第14の発明は、第1乃至第13の何れかの発明において、単位回路は、第1のキャパシタが配設されている金属配線とは異なる他の金属配線上に直列に挿入された第2のインダクタを有することを特徴とするダイポールアンテナである。
第15の発明は、第1乃至第14の何れかの発明において、単位回路の連絡部は、第1のインダクタに対して並列に接続された第2のキャパシタを有することを特徴とするダイポールアンテナである。
第16の発明は、第1乃至第15の何れかの発明において、インダクタは、メアンダ状のインダクタパターンで構成されていることを特徴とするダイポールアンテナである。
第17の発明は、第1乃至第16の何れかの発明において、キャパシタは、櫛形状のインタデジタルキャパシタパターンで構成されていることを特徴とするダイポールアンテナである。
第18の発明は、第1乃至第17の何れかの発明において、キャパシタおよびインダクタは、集中定数素子から構成されていることを特徴とするダイポールアンテナである。
第19の発明は、第1乃至第17の何れかの発明において、導体パターンを積層したフレキシブル基板を有し、インダクタは、導体パターンからなるメアンダ状のインダクタパターンで構成されており、キャパシタは、導体パターンからなる櫛形状のインタデジタルキャパシタパターンで構成されている、ことを特徴とするダイポールアンテナである。
第1〜第6の本発明によるダイポールアンテナは、第1のキャパシタと第1のインダクタからなる単位回路を周期的に配列した構成のため、左手系の動作をさせることができる。また、屈曲部を設けて線対称な構造とすることで、対称軸方向の延長部の電流成分を互いに逆方向にして打ち消すことができ、対称軸と直交する方向の基部の電流成分には逆方向の成分が生じないようにすることができる。その結果、本発明のダイポールアンテナの構成によると、複共振特性を得ることができる。また、左手系で動作するため、共振の周波数間隔を狭くすることができ、かつ小型のアンテナを実現することができる。
また、第7及び第8の発明によると、基部に平行に、延長部に接続する接続線路が設けられているので、給電点からアンテナ側を見たインピーダンスを大きくすることができ、給電点でのインピーダンス整合を実現することができる。この結果、電力効率を向上させることができる。
また、第6又は第8の発明によると、対称に配置される部分を、グランド導体を鏡面とする鏡像により形成しているので、アンテナの寸法を他の発明のダイポールアンテナの約半分の大きさとすることができる。
第11の発明によると、n+1共振特性を有するダイポールアンテナを実現することができる。
また、第12の発明によると、アンテナの設計、構成、製造を簡単にすることができる。
また、第13の発明によると、アンテナの給電部付近の電流が強くなる、すなわち、中央の給電部付近に共振の腹が生成されるため、給電部における反射波の発生や増大を制御することができる。
また、第14、15の発明によると、左手系の回路を構成するにあたり、その設計が容易となる。
また、金属配線を導体パターンで形成し、第16の発明のようにその回路上のインダクタをメアンダ状のインダクタパターンで形成すれば、このような構成によっても、小型で複共振特性を有するアンテナを実現できる。なお、第16の発明は、次の第17の発明と組み合わせて用いることが望ましい。
また、金属配線を導体パターンで形成し、第17の発明のようにその回路上のキャパシタをインタデジタルキャパシタパターンで形成すれば、このような構成によっても、小型で複共振特性を有するアンテナを実現できる。
また、第16、17の発明によれば、安価な基板上に本発明のダイポールアンテナを形成することもできる。
また、第18の発明によると、金属配線と集中定数素子(チップ素子)でアンテナを構成することができるため、短期に所望の特性をもつダイポールアンテナを製造することができる。
また、第19の発明によると、導体パターンのみで本発明のダイポールアンテナを形成でき、また、フレキシブル基板を用いることで屈曲部を容易に設けることができる。
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
図1は、実施例1のダイポールアンテナA1の斜視図である。ダイポールアンテナA1は、平行な2本の金属配線p1、q1を基本構造とし、長さ(金属配線p1、q1の平行方向の長さ)a、幅(金属配線p1、q1の間隔)dの単位回路U1を、その長さ方向に6つ接続することによって構成されている。
単位回路U1は、金属配線p1の一部の線上に2個の直列に接続されたキャパシタCSE1(本発明の第1のキャパシタ)と、金属配線q1の一部の線上に2個の直列に接続されたインダクタLSE1(本発明の第2のインダクタ)と、金属配線p1と金属配線q1との間をインダクタLSH1(本発明の第1のインダクタ)を介して連絡する連絡部とで構成されている。インダクタLSE1は、2つの共振周波数とインピーダンスを調整するために設けられている。
ダイポールアンテナA1は、放射電波の偏波方向に形成された金属配線p1bとq1bとから成る基部10と、基部10に対して、屈曲部11、13で90度に曲げられた一対の金属配線p1aと屈曲部12、14で90度に曲げられた一対の金属配線q1aから成る一対の延長部30、31とを有している。基部10の中央部において、インダクタLSE1が直列に配線に挿入されている金属配線q1bの中点には、点FT、FBからなる給電点Fが設けられている。
金属配線p1、q1を含む平面、すなわち金属配線の中央部である基部10の配設面(図1のxz平面)に対して90度の屈曲部(11,12)と(13,14)を2ヶ所有し、金属配線q1は給電点Fを通るy軸方向の直線、すなわち対称軸L1に対して線対称で、金属配線p1は金属配線の中点を通るy軸方向の直線、すなわち対称軸L2に対して線対称な形状(コの字型の形状)である。コの字型の形状のうち、平行となっている金属配線p1、q1の2つの線分(つまり、図においてy軸方向に沿うp1、q1の線分)p1a、q1aから成る延長部30、31は、それぞれ2つの単位回路U1から成る。また、線分p1a、q1aに垂直に接続する金属配線p1、q1の線分(つまり、図においてz軸方向に沿うp1、q1の線分)p1b、q1bから成る基部10は、2つの単位回路U1から成る。そのため、延長部30、31の線分p1a、q1aの長さLと、基部10の線分p1b、q1bの長さ2hは、1:1となっている。なお、Lと2hは60mmに設定している。また、ダイポールアンテナA1の両端(金属配線p1、q1の両端)は開放端となっている。
このダイポールアンテナA1は、金属配線p1上に挿入されたキャパシタCSE1と、金属配線p1と金属配線q1の間に挿入されたインダクタLSH1が周期的に配列されていることにより左手系で動作させることができる。金属配線q1、p1に流れる電流I1とI2は逆相であり、振幅は異なる。したがって、|I1|−|I2|が放射に寄与する電流成分となる。
次に、ダイポールアンテナA1が2共振アンテナとして左手系で動作することを、電流分布と励振モードの関係を示す図2a〜eを参照に説明する。ここで、共振の次数n、励振電流波長λa、アンテナ長2(h+L)は、2(h+L)=|n|λa/2の関係を有している。
図2(a)〜(e)は、それぞれn=−1〜−5の時の電流(|I1|−|I2|)の分布を示している。この図2a〜eでは、電流|I1|−|I2|の分布図を示すので、ダイポールアンテナA1の形状を、金属配線p1とq1をまとめて1本で表したyz平面でのコの字型図形として表している。したがって、図1におけるz軸方向上側の延長部30の線分p1a、q1aは、図2における線分a、z軸方向下側の延長部31の線分p1a、q1aは、図2における線分b、図1における基部10の線分p1b、q1bは、図2における線分cに、それぞれ対応している。また、線分cの丸印は給電点Fの位置を示している。
図2(a)〜(e)のように、2つの平行な線分aと線分bの電流は互いに逆方向を向いている。したがって、線分cの長さ2hが自由空間波長に比べて十分に小さい場合は互いに打ち消しあい、放射に寄与しない。また、図2(b)、(d)に示すように、nが偶数では給電点Fの位置では電流が最小となり、入力インピーダンスはきわめて大きな値となってしまう。一方で、図2(a)、(c)、(e)のように、nが奇数の場合には、給電点Fの位置では電流が最大となり、インピーダンス整合をとることができる。また、n=−1、n=−3では基部10である線分cを流れる電流が放射波源となり、n=−5では基部10の線分cを流れる電流に逆方向の成分があり、放射量はきわめて小さくなる。以上のように、ダイポールアンテナA1はn=−1、n=−3の2つのモードで動作する2共振アンテナである。
図3(a)〜(c)は、n=−1、−3、−5の時の電流分布についてのシミュレーション結果を示している。線路上に示した円錐のマークは、その円錐の頂点方向が電流の向き、円錐の大きさが電流の強さを表している。それぞれ図2(a)、(c)、(e)に示すように電流が流れていることが確認できる。共振周波数は、n=−1のとき315MHz、n=−3のとき436MHz、n=−5のとき398MHzであった。一般に左手系では|n|が大きくなるとともに共振周波数は低くなるが、ダイポールアンテナA1ではn=−3、n=−5、n=−1の順に共振周波数が低くなった。これは、共振周波数とインピーダンスの調整を容易にするために設けたインダクタLSE1によるものである。
図4(a)、(b)は、反射振幅および反射位相と周波数の関係について示した図である。図4(a)より、n=−1(315MHz)、n=−3(436MHz)の2周波数で共振がとれていることが確認できる。一方図4(b)からは、n=−1、−3、−5で共振が現れていることが確認できる。しかし、上述のようにn=−5では基部10の線分cを流れる電流にも逆方向の成分があるため、放射がきわめて小さく、図4(a)にはn=−5の共振が現れていない。
図5(a)〜(d)は、n=−1(315MHz)、n=−3(436MHz)におけるxy平面、xz平面での指向性を示した図である。図5(a)、(c)はxy平面での指向性を示しており、n=−1、n=−3ともに無指向性となっていることがわかる。また、図5b、dはxz平面での指向性を示しており、n=−1、n=−3でともにx軸方向に最大放射方向をもつ8の字指向性となっていることがわかる。このことから、線分c(線分q1b、p1b)を流れる電流が放射波源となっていることが確認できる。
図6は、実施例2のダイポールアンテナA2の平面図である。ダイポールアンテナA2は、平行な2本の金属配線p2、q2を基本構造とし、金属配線p2、q2はxy平面内に配設されている。ダイポールアンテナA2は、金属配線p2、q2の放射電波の偏波方向(y軸方向)に伸びた基部20と、基部20の配設面上にあって、基部20に対して90度方向に屈曲して形成された延長部40、41とを有している。金属配線q2の基部2の中央には、点FT、FBからなる給電点Fが設けられている。金属配線q2は金属配線q1と同一の形状である。つまり、給電点Fを通るy軸に垂直な対称軸L3に対して対称となるように、90度の屈曲部(21,23)を2つ有した形状(コの字型の形状)である。金属配線p2は、金属配線q2の内側に間隔d隔てて配置され、90度の屈曲部(22、24)を2つ有した対称軸L3に対して対称なコの字型形状である。したがって、金属配線q2は、金属配線p2よりも長くなっている。
ダイポールアンテナA2は、略同形の単位回路を6つ接続することによって構成されている。単位回路は、ダイポールアンテナA1の場合と同様に、金属配線p2の一部の線上に2個の直列に接続されたキャパシタCSE1と、金属配線q2の一部の線上に2個の直列に接続されたインダクタLSE1と、金属配線p1と金属配線q1との間をインダクタLSH1を介して連絡する連絡部とで構成されている。
このダイポールアンテナA2も、金属配線p2上に挿入されたキャパシタCSE1と、金属配線p2と金属配線q2の間に挿入されたインダクタLSH1が周期的に配列されていることにより左手系で動作させることができる。また、金属配線p2、q2のコの字型形状によって、x軸方向の電流成分を打ち消し、y軸方向の電流成分に逆方向の成分が生じないようにすることができるため、複共振特性を得ることができる。
上記の実施例1、2において、ダイポールアンテナA1、A2では、共振周波数とインピーダンスの調整を容易にするためにインダクタLSE1を設けたが、インダクタLSE1がなくても左手系で2共振アンテナとして動作させることができる。
また、単位回路は実施例1、2の構成に限るものではなく、特許文献1などに示された構成を用いることができる。たとえば、図7に示す単位回路U2のように、金属配線p3上にキャパシタCSE2と直列に接続されたインダクタLSE2や、金属配線p3、q3の間にインダクタLSH2と並列に接続されたキャパシタCSH2(本発明の第2のキャパシタ)を有していてもよい。インダクタLSE2やキャパシタCSH2を設けることにより、左手系回路の回路設計が容易となる。
また、ダイポールアンテナA1、A2では、集中定数素子を用いてキャパシタCSE1、インダクタLSE1、LSH1を構成したが、金属配線p1、q1を導体パターン、キャパシタCSE1を図8に示す櫛形状のインタデジタルキャパシタパターンCp1、Cp2、インダクタLSE1、LSH1を図9に示すメアンダ状のインダクタパターンLpとし、フレキシブル基板上に積層することでダイポールアンテナを構成してもよい。フレキシブル基板のため90度の屈曲部を容易に形成でき、数GHz帯で利用する小型の2共振アンテナを低コストに実現することができる。
本実施例のダイポールアンテナA1は、多層プリント配線基板を用いて形成したものである。すなわち、図10のように、金属配線p1やキャパシタCSE1を厚さdの基板10の表面、金属配線q1やインダクタLSE1を基板の裏面に形成し、スルーホール11中にインダクタLSH1を形成することで、ダイポールアンテナA1を構成することができる。
図11のように、方形状の基板20の側面にダイポールアンテナA1を構成するようにしてもよい。
また、ダイポールアンテナA1を対称軸に対して2分したうちの半分をグランド上に形成した図12に示す逆L型アンテナA3とすれば、さらに小型の2共振アンテナとすることができる。これは、グランド面を鏡面とする鏡像アンテナをグランド中に仮想形成して上記ダイポールアンテナA1を得ることができるからである。
実施例1のダイポールアンテナA1では、2hとLの比を1:1として2共振特性を得たが、2h:L=1:2とすれば3共振特性が得られ、一般に2h:L=1:nとすれば、n+1共振特性が得られる。実施例2のダイポールアンテナA2についても同様である。
また、本発明は実施例1のようなコの字型に限るものではなく、各金属配線が、金属配線に垂直な対称軸に対して線対称となるように90度の屈曲部が形成されていればよい。そのような形状であれば、実施例1のようにz軸方向の電流以外は打ち消し、複共振特性を得ることが可能となる。たとえば、図13に示すダイポールアンテナA4では、コの字型形状で同じ長さの金属配線p4、q4が、互いに間隔d隔ててxy平面上に配設されている。金属配線p4と金属配線q4はB部で交差するが、絶縁されている。このダイポールアンテナA4の形状は、全体としては対称ではないが、金属配線p4、q4それぞれは線対称な形状となっている。このような形状でも、金属配線p4、q4を流れるx軸方向の電流成分は互いに打ち消しあい、y軸方向の電流成分に逆方向成分を生じないようにできるため、複共振特性を得ることができる。
また、実施例1、2において、金属配線の数を2本としているが、3本以上の金属配線により構成してもよい。
本発明の実施例7のダイポールアンテナA5の斜視図を図14に示す。本実施例は、実施例1のダイポールアンテナA1に対して、基部10に平行に、延長部30、31の側に、金属配線r1、s1から成る接続線路50を設けたことが特徴である。ただし、図1と異なり、接続線路50を構成する金属配線r1、s1のうち、キャパシタCSE1が直列に挿入されている金属配線r1の中点に点FT、FBからなる給電点Fが設けられている。
本ダイポールアンテナA5は、長さa、幅dの単位回路を8個使ってダイポールアンテナを構成している。単位回路は、金属配線p1の一部に2 個の直列キャパシタCSE1、金属配線q1の一部に2 個の直列インダクタLSE1、および金属配線p1と金属配線q1の間に1 個の並列インダクタLSH1を有している。同様に、接続線路50を構成する金属配線r1の一部に2個の直列キャパシタCSE1、接続線路50を構成する金属配線S1の一部に2個の直列インダクタLSE1、および金属配線r1と金属配線s1との間に1個の並列インダクタLSH1を有している。
2点FT、FBからなる給電点Fは、金属配線r1の略中央に位置している。全長6aの金属配線p1、q1は、90度の屈曲部(11,12)と(13,14)を2箇所もつ、“コ”の字の形をしている。“コ”の字型の金属配線p1,q1の両端から長さ2a(単位回路の2倍)の平行な一対の延長部30と延長部31の金属配線は、y軸方向に配置されている。また、延長部30と延長部31との間にある長さ2aの基部10の金属配線は、放射電波の偏波方向であるz軸方向に配置されている。長さ2aの接続線路50を構成する金属配線r1、s1は、基部10に平行に、z軸方向に配置されており、基部10との間隔は、a/2である。アンテナA5のx、y、z方向の長さについて、それぞれ、d=20mm、L=2a=60mm、2h=2a=60mmに設定した。
このアンテナは、実施例1と同様に、直列キャパシタCSE1と並列インダクタLSH1により、左手系で動作する。直列インダクタLSE1は、2 つの共振周波数とインピーダンスを調整するために設けられている。金属配線q1とp1に流れる電流I1とI2は逆位相であり、その振幅は異なる値をもつ。従って、電流の振幅差|I1|- |I2|が放射に寄与する電流成分となる。
図15(a)、(b)、(c)に、周波数335MHz、407MHz、および451MHzのときの電流分布を示す。金属配線上の矢印の向きは電流の向きを示し、大きさは電流の強さを表している。アンテナの高さ2hが自由空間波長に比べて十分小さい場合、x、およびy軸成分の電流は、お互いにキャンセルするため、放射に寄与しない。放射に寄与する電流は、z軸成分となる。基部10の金属配線q1とp1に流れる電流は逆方向を向く。同様に、接続線路50の金属配線s1とr1に流れる電流も逆方向を向く。図15では、さらに、z軸方向の基部10の金属配線q1と、接続線路50の金属配線s1に流れる電流を矢印で示している。335MHzと451MHzでは、金属配線q1とs1に流れる電流は同方向を向いている。従って強い放射が生じ、放射抵抗が高くなる。一方、407MHzでは、金属配線q1とs1に流れる電流は逆方向を向いている。従って放射は極めて小さくなる。
インピーダンスの振幅と位相を図16(a)、(b)にそれぞれ示す。図16(a)の20Ωで規格化した振幅分布より、335MHzと451MHzの2周波数で共振がとれていることが確認できる。放射抵抗は、それぞれ14Ωと25Ωである。一方、図16(b)の位相分布からは、周波数335MHz、407MHz、および451MHzで共振が現れていることが確認できる。407MHzで振幅分布に共振が現れないのは、前述したように、z方向の電流成分がキャンセルされて、放射が極めて小さくなるためである。
図17(a)−(d)に、周波数335MHzと451MHzにおける、xy面とyz面の指向性を示す。図17(a)、(c)により、xy面では、両周波数ともに無指向性となっていることがわかる。また、図17(b)、(d)により、yz面では、両周波数ともにy軸方向に最大放射方向をもつ8の字指向性となっていることがわかる。また、zx面での指向性は、図5(b)、(d)に示す特性と同様な特性が得られた。このことより、z 軸方向の金属配線(基部10と接続線路50)に流れる電流が放射波源となっていることが確認できる。
本発明の実施例8のダイポールアンテナA6の斜視図を図18に示す。実施例7のダイポールアンテナA5では、給電部Fは接続線路50のキャパシタCSE1が挿入されている側の金属配線r1の略中央に設けていた。実施例8のダイポールアンテナA6では、給電点Fを基部1の金属配線p1の略中央に設けている。その他の構成は、実施例7と同一である。
本発明の実施例9のダイポールアンテナA7の斜視図を図19に示す。実施例9のダイポールアンテナA7では、z軸方向に配置された基部10の金属配線r1、s1と、z 軸方向に配置された接続線路50の金属配線p1、q1との間隔は、それぞれ、距離aとなっている点が、実施例7と異なる。その他の構成は、実施例7と同一である。
上記の実施例7、8、9のように、基部10に対して平行に接続線路50を設けたので、給電部Fにおいてアンテナ側を見たインピーダンスを大きくすることができ、給電部Fでのインピーダンス整合を図ることができる。この結果、電力効率が向上する。
図20に示すように、また、ダイポールアンテナA5、A6およびA7を、図12に示す実施例5と、同様なに、片側半分をグランド導体上に構成して、グランド導体により電磁気的に鏡像を形成して、グランド導体に対して対称なモノポールアンテナA8としても良い。この構成によれば、さらに小型なアンテナが構成できる。すなわち、接続線路50も基部10と平行にグランド導体に立設することになる。
〔変形例〕
なお、ダイポールアンテナA5、A6およびA7では、共振周波数とインピーダンスの調整を容易にするために直列インダクタLSE1を装荷したが、それを装荷しなくても左手系で2共振アンテナとして動作させることができる。
また、ダイポールアンテナA5、A6およびA7では、金属配線に集中定数であるキャパシタCSE1とインダクタLSH1、LSE1を装荷したが、図8、9に示すように、金属配線を導体パターン、キャパシタCSE1を櫛形のインタデジタルキャパシタパターン、インダクタLSH1、LSE1をメアンダ状のインダクタパターンとして、フレキシブル基板等に積層してもよい。図7に示すように、金属配線p1と接続線路50の線路r1にキャパシタCSE2とインダクタLSE2との直列接続、金属線路q1、s1は導体線路だけとし、金属線路p1とq1との接続部と金属線路r1とs1との接続部には、キャパシタCSH2とインダクタLSH2との並列接続回路を設けても良い。
また、実施例1において、給電部Fは、インダクタLSE1が挿入されている側の金属配線q1に設けたが、キャパシタCSE1が挿入されている側の金属配線p1側に設けても良い。
また、ダイポールアンテナA5、A6およびA7では、2hとL の比を1:1として2共振特性を得たが、基部10の長さ2hに比べて延長部30、31の長さLの値を大きくすることにより、3 共振以上の特性を得ることができる。これを満たすためには、z方向の電流に逆位相成分がでないようにすれば良い。
なお、ダイポールアンテナA5、A6およびA7は2共振アンテナとして説明してきたが、1共振アンテナとして利用できることは言うまでもない。
さらに、実施例7、9のダイポールアンテナA5、A6およびA7について、図10に示す実施例3のよう基板10の表面に金属配線p1、金属配線r1やキャパシタCSE1を配設し、基板の裏面に金属配線q1、金属配線s1やインダクタLSE1を配設し、スルーホール11中にインダクタLSH1を形成することで、ダイポールアンテナを構成しても良い。
また、図6、図13の構成において、基部10に平行に接続線路50を設けたアンテナであっても良い。
本発明は、車載アプリケーションであるスマートエントリシステムなどに用いるアンテナに適用することができる。
実施例1のダイポールアンテナA1の構成を示す斜視図。
実施例1のダイポールアンテナA1の各共振次数における電流分布を示す図。
実施例1のダイポールアンテナA1のn=−1、−3、−5における電流分布を示す図。
実施例1のダイポールアンテナA1の反射振幅および反射位相と周波数の関係について示した図。
実施例1のダイポールアンテナA1のn=−1、−3における指向性を示す図。
実施例2のダイポールアンテナA2の構成を示す平面図。
単位回路U2の構成を示す図。
櫛形状のインタデジタルキャパシタパターンを示す図。
メアンダ状のインダクタパターンを示す図。
実施例3のダイポールアンテナを基板に形成した例を示す斜視図。
実施例4のダイポールアンテナを基板側面に形成した例を示す斜視図。
実施例5のダイポールアンテナA3に係る逆L型アンテナを示す図。
実施例6のダイポールアンテナA4の構成を示す平面図。
実施例7のダイポールアンテナA5の構成を示す斜視図。
実施例7のダイポールアンテナA5の各共振次数における電流分布を示す図。
実施例7のダイポールアンテナA5の反射振幅および反射位相と周波数の関係について示した図。
実施例7のダイポールアンテナA5のn=−1、−3における指向性を示す図。
実施例8のダイポールアンテナA6の構成を示す平面図。
実施例9のダイポールアンテナA7の構成を示す平面図。
実施例10のダイポールアンテナA7の構成を示す平面図。
従来の左手系で動作するダイポールアンテナA10の構成を示す平面図。
符号の説明
A1、A2、A3、A4:ダイポールアンテナ
p1、q1、p2、q2、r1、s1:金属配線
F:給電点
CSE1、CSH1:キャパシタ
LSH1:インダクタ
10:基部
30,31:延長部
50:接続線路